車載内燃機関の制御装置
【課題】誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制し、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することのできる車載内燃機関の制御装置を提供することにある。
【解決手段】本発明にかかる車載内燃機関の制御装置である電子制御装置100は、カムシャフト60,70が停止しているときであってもその回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサ106,107を備えている。電子制御装置100は、クランクシャフト50が停止したあと、出力されているカム角信号から推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランクカウンタの値とを比較し、記憶されているクランクカウンタの値が推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、記憶されているクランクカウンタの値を利用せずに、通常の始動態様による始動を実行する。
【解決手段】本発明にかかる車載内燃機関の制御装置である電子制御装置100は、カムシャフト60,70が停止しているときであってもその回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサ106,107を備えている。電子制御装置100は、クランクシャフト50が停止したあと、出力されているカム角信号から推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランクカウンタの値とを比較し、記憶されているクランクカウンタの値が推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、記憶されているクランクカウンタの値を利用せずに、通常の始動態様による始動を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転休止条件が成立したときに運転者の操作によらずに自動的に機関運転を休止し、その後に運転休止条件が成立しなくなるとそれに基づいて自動的に内燃機関を起動するいわゆるアイドリングストップ機能を備える車両が知られている。
【0003】
一般的に、内燃機関の始動時には、スタータモータによってクランクシャフトを回転させるクランキングが行われ、クランキングによってクランクシャフトが回転している間に、クランクポジションセンサによる欠け歯検出が行われる。そして、欠け歯検出による気筒判別が完了してから、クランクシャフトの回転角であるクランク角に応じて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行される。
【0004】
これに対してアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関にあっては、自動休止に伴ってクランクシャフトが停止したときのクランク角の情報を記憶しておき、自動起動の際に、その記憶されているクランク角の情報を参照して起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行するようにしたものがある。
【0005】
このように起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、燃焼による駆動力を発生させれば、内燃機関の再起動を速やかに完了させることができるようになる。したがって、交差点における一時停止状態からの再発進等の際に、素早く内燃機関を起動させて車両を速やかに発進させることができるようになる。
【0006】
ところで、クランク角を検出するクランクポジションセンサに異常が発生し、クランクポジションセンサによって検出されるクランク角に基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまった場合には、自動休止に伴うクランクシャフト停止時に誤ったクランク角の情報が記憶されてしまうこととなる。
【0007】
記憶されているクランク角の情報が誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。その結果、各気筒に適切なタイミングで燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなり、自動起動に伴う排気性状が悪化したり、正常に内燃機関の再起動を完了させることができなくなってしまったりするおそれがある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、クランク角のみならず、クランクシャフトの回転方向を検出することのできるクランクポジションセンサを設けた制御装置が記載されている。この制御装置にあっては、クランクポジションセンサによって検出されているクランクシャフトの回転方向と実際のクランクシャフトの回転方向とが一致しているか否かに基づいてクランクポジションセンサに異常が生じているか否かを判定する。そして、クランクポジションセンサに異常が発生している旨の判定がなされた場合には、アイドリングストップ機能による自動休止及び自動起動の実行を中止して、クランキングを行い、気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動態様によって内燃機関を始動させるようにしている。
【0009】
こうした構成を採用すれば、クランクポジションセンサに異常が発生しており、クランクポジションセンサによって検出されたクランク角の情報が誤ったものである可能性が高いときには、その誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されなくなる。そのため、誤った情報に基づく自動起動の実行による排気性状の悪化や、自動起動の失敗を抑制することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009‐24548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、特許文献1に記載された内燃機関の制御装置にあっては、回転方向を検出することができる程度の回転速度でクランクシャフトが回転している状態でなければ、異常を判定することができない。したがって、クランクシャフトが回転し続けている状態でなければ異常を検知することができず、機関停止直前にセンサに異常が発生した場合等には、その異常を検知することができない。
【0012】
また、クランクポジションセンサによって検出されるクランクシャフトの回転方向と実際のクランクシャフトの回転方向とが一致している場合には、異常が発生している旨の判定がなされない。そのため、ノイズ等の影響によりクランクポジションセンサによって検出されるクランク角の情報と実際のクランク角との間にずれが生じた場合には、その異常を検知することができない。
【0013】
すなわち、クランクシャフトの回転方向を監視する方法では検知することのできない異常が発生した場合には、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置であっても、誤ったクランク角の情報に基づいて自動起動が実行されてしまい、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりするおそれがある。
【0014】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズ等の影響により、センサによって検出されるクランク角の情報にずれが生じた場合や、クランクシャフトの回転が停止する直前にセンサに異常が発生した場合であっても、そのことを検知することができる車載内燃機関の制御装置を提供することにある。そして、ひいては誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制し、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランク角の情報とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置である。
【0016】
上記構成にあっては、クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて出力されるカム角信号を参照してクランク角の取り得る範囲を推定するようにしている。そして、記憶されているクランク角の情報がその推定されたクランク角の範囲から外れている場合には、その情報を利用せずに気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行するようにしている。
【0017】
クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて出力されるカム角信号の値と、クランク角とは互いに一定の相関関係を有している。そのため、記憶されているクランク角の情報が、クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、記憶されているクランク角の情報が誤ったものであることが推定される。
【0018】
そのため、上記請求項1に記載されているように記憶されているクランク角の情報が、カム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、その記憶されているクランク角の情報を利用せずに通常の始動態様による始動を実行する構成を採用すれば、誤った情報に基づいて自動起動が実行されてしまうことを抑制することができる。
【0019】
また、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを設け、クランクシャフトが停止したあとに、そのカムポジションセンサによって出力されているカム角信号に基づいてクランク角の範囲を推定し、クランク角の情報がその範囲に含まれるか否かを判定するようにしている。そのため、クランクシャフトが停止する直前にクランク角を検知するためのセンサに異常が発生した場合や、ノイズ等の影響によりクランク角にずれが生じた場合等、クランクシャフトの回転方向を監視することにより異常の発生を判定するようにしている場合には検知できないような異常が発生したときであっても、クランク角の情報にずれが生じていることを検知することができる。
【0020】
したがって、上記請求項1に記載の発明によれば、ノイズ等の影響により、センサによって検出されるクランク角の情報にずれが生じた場合や、クランクシャフトの回転が停止する直前にセンサに異常が発生した場合であっても、そのことを検知することができる。そして、ひいては誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶された直後に、記憶されたクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶されたあと、前記休止条件が成立しなくなったときに、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0023】
請求項2に記載されているように、クランクシャフトが停止してクランク角の情報が記憶された直後にクランク角の情報がカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動制御を実行する構成を採用した場合には、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れたものであるときに、通常の始動制御により機関運転が再開され、機関運転が継続されるようになる。
【0024】
そのため、その後に再発進をする際に、速やかに車両を発進させることができる。すなわち、休止条件が成立しなくなったときに正常に機関運転を再開させることができず、車両を速やかに再発進させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができるようになる。
【0025】
一方、請求項3に記載されているように、休止条件が成立しなくなったときにクランク角の情報がカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動態様による始動を実行する構成を採用した場合には、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されずに、通常の始動態様による始動が実行されるため、正しいクランク角の情報に基づく正常な自動起動により内燃機関が起動される場合よりも再起動にかかる時間は長くなるものの、的確に内燃機関を再起動することができるようになる。
【0026】
したがって、アイドリングストップにより燃料消費量の低減を図りつつ、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動を禁止することができ、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0027】
また、アイドリングストップ機能による運転休止中にクランクシャフトが動いてしまい、実際のクランク角と記憶されているクランク角の情報とが対応しなくなってしまった場合等にも記憶されているクランク角の情報を利用せずに、通常の始動制御を通じて再起動が行われるようになる。そのため、運転休止中にクランク角の情報にずれが生じた場合にも、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置であって、前記カムポジションセンサが、カムシャフトに固定されてその周縁部に複数の被検出体が設けられているセンサプレートの周囲における前記被検出体と対向可能な位置に配設されて前記被検出体が近接した状態のときには第1の信号を出力する一方、前記被検出体が離間した状態のときには第2の信号を出力するものであり、同カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいて前記クランク角の範囲を推定する車載内燃機関の制御装置である。
【0029】
上記構成によれば、カムポジションセンサから第1の信号が出力されている場合にはそれに基づいて被検出体が同カムポジションセンサに近接している状態であることを検知することができる。一方で、カムポジションセンサから第2の信号が出力されている場合にはそれに基づいて被検出体が同カムポジションセンサから離間している状態であることを検知することができる。そのため、カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいてカムシャフトの回転位相を検知することができ、それに基づいてクランク角の取り得る範囲を推定することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記センサプレートは、前記複数の被検出体として、同センサプレートの周方向における占有範囲の大きさがそれぞれに異なる被検出体を備えていることをその要旨とする。
【0031】
機関回転速度が一定の場合、すなわちクランクシャフトとともに回転するカムシャフトに固定されたセンサプレートの回転速度が一定の場合には、占有範囲が広い被検出体がカムポジションセンサに近接しているときほど第1の信号の検出期間が長くなる。一方で、占有範囲が狭い被検出体がカムポジションセンサに近接しているときほど第1の信号の検出期間が短くなる。
【0032】
そのため、上記請求項5に記載の発明のようにセンサプレートの周方向における占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレートを具備する構成であれば、センサプレートの回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンがカムポジションセンサの前を通過する被検出体の占有範囲の大きさに応じて変化するようになる。したがって、出力されるカム角信号の変化のパターンを認識することにより、どの被検出体がカムポジションセンサに対向する回転位相であるかを判別し、より速やかに且つ的確にカムシャフトの回転位相を検知することができるようになる。したがって、カム角信号に基づいてより速やかに且つ的確にクランク角の範囲を推定することができるようになる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、前記カムポジションセンサを複数備え、各カムポジションセンサから位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する請求項4又は請求項5に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0034】
上記構成のように、位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じてカムシャフトの回転位相を検知し、クランク角の範囲を推定するようにすれば、回転位相の変化に応じて各カムポジションセンサから出力されるカム角信号の組合せのパターンが増えるため、その分だけ、推定することのできるクランク角の範囲の分解能が高くなる。
【0035】
すなわち、1つのカムポジションセンサから出力されるカム角信号の種類に応じて回転位相を検知する場合よりも高い精度でカムシャフトの回転位相を検知することができるようになり、より高い精度でクランク角の値が取り得る範囲を推定することができるようになる。
【0036】
尚、具体的には、請求項7に記載されているように、吸気カムシャフトに固定された第1のセンサプレートと、前記第1のセンサプレートと位相をずらした状態で排気カムシャフトに固定された第2のセンサプレートと、第1のセンサプレートの周囲に配設される第1のカムポジションセンサと、前記第2のセンサプレートの周囲に配設される第2のカムポジションセンサとを設け、前記第1のカムポジションセンサから出力されているカム角信号と前記第2のカムポジションセンサから出力されているカム角信号との組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定するようにすればよい。
【0037】
請求項8に記載の発明は、クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角とを比較することによって記憶されているクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、正しいものではない旨の判定がなされたときには、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置である。
【0038】
カム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と記憶されているクランク角とを比較する方法に限らず、上記構成のように、カム角信号を参照してクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、クランク角の情報が誤ったものである旨の判定がなされた場合に記憶されている情報を利用せずに、通常の始動態様による始動を実行する構成を採用することもできる。こうした構成を採用した場合にも、上記請求項1と同様に、誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施形態にかかる電子制御装置と機関各部の状態を検出する各種センサとの関係、並びに同電子制御装置とその制御対象である機関各部との関係を示す模式図。
【図2】(a)はクランクポジションセンサとタイミングロータとの関係を示す模式図、(b)はクランクポジションセンサから出力される信号の出力波形。
【図3】(a)はカムポジションセンサとセンサプレートとの関係を示す模式図、(b)はカムポジションセンサから出力されるカム角信号の出力波形。
【図4】クランクポジションセンサから出力される信号に基づくパルス信号とクランクカウンタとの関係、並びに同クランクカウンタとカム角信号との関係を示すタイミングチャート。
【図5】運転休止時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】再起動時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図7】クランクカウンタにずれが生じていない場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図8】機関停止直前にクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図9】運転休止中にクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図10】変更例としての異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図11】変更例としての異常判定ルーチンを実行した場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、この発明にかかる車載内燃機関の制御装置を、車載内燃機関を統括的に制御する電子制御装置として具体化した一実施形態について、図1〜9を参照して説明する。
図1は本実施形態にかかる電子制御装置100と機関各部の状態を検出する各種センサとの関係、並びに電子制御装置100とその制御対象である機関各部との関係を示す模式図である。
【0041】
電子制御装置100は、内燃機関を制御するための各種演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)、演算プログラムや演算マップ、各種データが記憶された読み出し専用メモリ(ROM)、演算の結果等を一時的に記憶しておくランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えて構成されている。
【0042】
図1に示されるように電子制御装置100には、下記のような各種のセンサが接続されている。
アクセルポジションセンサ101は運転者によるアクセルペダルの踏み込み量を検出する。スロットルポジションセンサ102は電子制御スロットル30の開度であるスロットル開度を検出する。エアフロメータ103は内燃機関に導入される空気の温度及びその量である吸入空気量を検出する。水温センサ104は内燃機関を冷却する冷却水の温度である機関冷却水温を検出する。クランクポジションセンサ105は内燃機関の出力軸であるクランクシャフト50の回転角の変化に応じた信号を出力する。そして、電子制御装置100はこのクランクポジションセンサ105から出力された信号に基づいて得られるパルス信号に基づき、単位時間当りのクランクシャフト50の回転速度を示す機関回転速度とクランクシャフト50の回転角であるクランク角を示すクランクカウンタとを算出する。吸気カムポジションセンサ106は内燃機関の吸気カムシャフト60の回転角の変化に応じた吸気側カム角信号を出力する。排気カムポジションセンサ107は内燃機関の排気カムシャフト70の回転角の変化に応じた排気側カム角信号を出力する。ブレーキスイッチ108はブレーキペダルが踏み込まれているか否かを検知する。車速センサ109は車両の速度を検出する。
【0043】
図1に示されるように電子制御装置100には、燃料噴射弁10と、点火プラグ20と、内燃機関の吸気通路に設けられた電子制御スロットル30とが接続されている。
燃料噴射弁10は、内燃機関の各気筒に対して1つずつ設けられている。そして、それぞれの燃料噴射弁10は電子制御装置100から出力される駆動指令に基づいて開弁し、各気筒内に向かって燃料を噴射する。
【0044】
点火プラグ20は、各気筒に1つずつ設けられ、電子制御装置100から出力される点火指令に基づいて燃焼室内の混合気に点火する。そして、電子制御スロットル30は電子制御装置100から出力される駆動指令に基づいて開閉駆動され、内燃機関の吸入空気量を調量する。
【0045】
また、図1の右側下方に示されるように電子制御装置100には、機関始動時にクランクシャフト50を駆動するスタータモータ40が接続されている。
電子制御装置100は、上記各種のセンサ101〜109等から出力される信号に基づいて機関各部の状態を把握し、燃料噴射弁10の開弁時期や開弁期間を調整して各気筒に供給する燃料の量や燃料の供給時期を制御する。また、良好な燃焼による効率的な機関運転を実現するために点火プラグ20に出力する点火指令のタイミングを調整し、各気筒における点火時期を調整する。更に電子制御装置100は、各気筒に供給される燃料の量に見合った量の空気を燃焼室内に導入して理想的な空燃比の混合気を形成するために、電子制御スロットル30を制御して吸入空気量を調量する。
【0046】
尚、電子制御装置100はクランクポジションセンサ105によって出力される信号に基づいて生成されるパルス信号を計数することによって算出するクランクカウンタを参照して各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御する。
【0047】
また、本実施形態にかかる車載内燃機関は、交差点における信号待ち等により停車したときに、運転者の操作によらずに自動的に機関運転を休止するいわゆるアイドリングストップ機能を備えている。
【0048】
電子制御装置100は信号待ち等による停車を判定するための休止条件が成立したときに、アイドリングストップ制御を通じて内燃機関の運転を休止させる。そして、その後に休止条件が成立しなくなったときに、内燃機関を自動的に起動させる。
【0049】
尚、休止条件は信号待ち等による停車を判定するために設定されるものであるため、例えば、車両が停止している(車速が「0」である)こと、アクセル操作量が「0」であること、ブレーキペダルが踏み込まれていること等の各要件がすべて成立していることがその成立要件とされている。
【0050】
一般的に、内燃機関の始動時には、スタータモータ40によってクランクシャフト50を回転させるクランキングが行われ、クランキングによってクランクシャフト50が回転している間に、クランクポジションセンサ105による欠け歯検出が行われる。そして、欠け歯検出による気筒判別が完了してから、クランク角に応じて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行される。
【0051】
これに対して、本実施形態の電子制御装置100にあっては、アイドリングストップ制御による運転休止の際に、クランクシャフト50が停止したときのクランクカウンタの値を記憶しておくようにしている。そして、自動起動の際に、その記憶したクランクカウンタの値を参照して各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御し、起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0052】
このように起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、燃焼による駆動力を発生させるようにすれば、内燃機関の再起動を速やかに完了させることができるようになる。そのため、交差点における一時停止状態からの再発進等の際に、素早く内燃機関を起動させて車両を速やかに発進させることができるようになる。
【0053】
ところで、クランクポジションセンサ105に異常が発生したり、出力される信号にノイズが重なったりするとクランクカウンタにずれが生じてしまうことがある。このようにクランクカウンタにずれが生じると、クランクカウンタに基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまい、自動休止に伴ってクランクシャフト50が停止したときに誤ったクランクカウンタが電子制御装置100に記憶されてしまうこととなる。
【0054】
そして、記憶されているクランクカウンタが正しいクランク角を示していない誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランクカウンタに基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。その結果、各気筒に適切なタイミングで燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなり、自動起動に伴う排気性状が悪化したり、正常に内燃機関の再起動を完了させることができなくなってしまったりするおそれがある。
【0055】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、吸気カムポジションセンサ106から出力される吸気側カム角信号と排気カムポジションセンサ107から出力される排気側カム角信号とを参照することにより、クランクカウンタの取り得る値を推定し、記憶されているクランクカウンタの値がその推定された範囲内に含まれるか否かに応じて起動態様を変更するようにしている。
【0056】
以下、クランクポジションセンサ105や、カムポジションセンサ106,107の構成を詳しく説明し、クランクカウンタを算出する方法や、クランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する方法について説明する。
【0057】
まず、図2を参照してクランクポジションセンサ105について説明する。図2(a)はクランクポジションセンサ105とクランクシャフト50に取り付けられたタイミングロータ150との関係を示しており、図2(b)はクランクポジションセンサ105によって出力される信号の波形を示している。
【0058】
図2(a)に示されるように、クランクシャフト50には円盤状のタイミングロータ150が取り付けられている。タイミングロータ150の周縁部には34個の突起151が10°毎に間隔を空けて配設されている。そのため、図2(a)の右側に示されるようにタイミングロータ150には、隣り合う突起151同士の間隔が角度にして30°になっている欠け歯部152が1箇所形成されている。
【0059】
クランクポジションセンサ105は、図2(a)に示されるようにこのタイミングロータ150の突起151と対向するようにタイミングロータ150の周縁部に向かって配設されている。
【0060】
クランクポジションセンサ105は、その内部にコイルを備えた電磁ピックアップタイプのセンサである。クランクシャフト50の回転に伴ってタイミングロータ150が回転すると、それに伴ってタイミングロータ150の突起151とクランクポジションセンサ105との間のエアギャップが変化する。クランクポジションセンサ105は、このときに内部のコイルを通過する磁束が増減することによって生じる起電力を信号として出力する。
【0061】
この起電力はタイミングロータ150の突起151がクランクポジションセンサ105に近づくときと離れるときとではその向きが逆向きになる。そのため、クランクポジションセンサ105からは、クランクシャフト50の回転に伴って図2(b)に示されるような交流電圧が信号として出力されるようになる。
【0062】
電子制御装置100は、この信号に基づいてクランク角が10°CA変化する度に出力されるパルス信号を生成し、このパルス信号を計数することによりクランクカウンタを算出する。尚、クランクシャフト50の回転に伴って欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、図2(b)の中央に示されるようにクランク角にして30°CAに相当する周期で電圧が変化するようになる。そのため、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、パルス信号が30°CAの間隔で生成されるようになり、パルス信号を監視することによりクランクシャフト50が欠け歯部152に対応する回転位相に到達したことを検知することができる。
【0063】
通常の始動制御にあっては、欠け歯部152の通過が電子制御装置100によって検知されるこの欠け歯検出により、クランク角と内燃機関緒各気筒における運転行程(各気筒が吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程のいずれの状態であるか)を判別する気筒判別が行われる。
【0064】
次に、図3を参照してカムポジションセンサ106,107について説明する。尚、吸気カムポジションセンサ106と排気カムポジションセンサ107は、センサプレート160,170が互いに角度をずらして取り付けられていること以外は同様の構成を具備している。そのため、ここでは吸気カムポジションセンサ106について、その構成を詳しく説明し、排気カムポジションセンサ107の構成についての詳しい説明は割愛する。
【0065】
図3(a)は吸気カムポジションセンサ106と吸気カムシャフト60に取り付けられている吸気側センサプレート160との関係を示しており、図3(b)は吸気カムポジションセンサ106から出力される吸気側カム角信号の波形を示している。
【0066】
図3(a)に示されるように、吸気カムシャフト60には吸気側センサプレート160が取り付けられている。図3(a)に示されるように吸気側センサプレート160には、同センサプレート160の周方向における占有範囲の広さが互いに異なる3つの被検出体161,162,163が設けられている。
【0067】
最も大きな第1の被検出体161はセンサプレート160の周方向において角度にして90°に亘って広がるように形成されている。これに対して、最も小さな第3の被検出体163は角度にして30°に亘って広がるように形成されており、第2の被検出体162は60°に亘って広がるように形成されている。
【0068】
そして、吸気側センサプレート160にあっては、図3(a)に示されるように各被検出体161,162,163がそれぞれ所定の間隔を隔てて配設されている。具体的には、第1の被検出体161と第2の被検出体162とは角度にして60°の間隔を隔てて配設されており、第2の被検出体162と第3の被検出体163とは角度にして90°の間隔を隔てて配設されている。そして、第1の被検出体161と第3の被検出体163とは角度にして30°の間隔を隔てて配設されている。
【0069】
吸気カムポジションセンサ106は、図3(a)に示されるようにこの吸気側センサプレート160の各被検出体161,162,163と対向可能な位置に同吸気側センサプレート160の周縁部に向かって配設されている。
【0070】
吸気カムポジションセンサ106は、磁石と磁気抵抗素子を内蔵したセンサ回路からなる磁気抵抗素子タイプのセンサである。吸気カムシャフト60の回転に伴って吸気側センサプレート160が回転すると、それに伴って被検出体161,162,163が順に吸気カムポジションセンサ106に近接、離間するようになる。これにより、吸気カムポジションセンサ106内の磁気抵抗素子にかかる磁界の方向が変化し、磁気抵抗素子の内部抵抗が変化する。センサ回路はこの抵抗値変化を電圧に変換した波形と閾値との大小関係を比較してその波形を第1の信号であるLo信号と第2の信号であるHi信号とによる矩形波に整形し、電子制御装置100に出力する。
【0071】
そのため、吸気カムポジションセンサ106からは、吸気カムシャフト60の回転に伴って図3(b)に示されるような吸気側カム角信号が出力されるようになる。尚、各被検出体161,162,163が吸気カムポジションセンサ106に近接している状態のときには第1の信号であるLo信号が出力される一方、各被検出体161,162,163が吸気カムポジションセンサ106から離間している状態のときには第2の信号であるHi信号が出力される。
【0072】
吸気カムシャフト60は、クランクシャフト50が2回転する間に1回転する。そのため、吸気側カム角信号の変化は図3(b)に示されるようにクランク角にして720°CAの周期で一定の変化を繰り返す。
【0073】
具体的には、180°CAに亘って継続する第1の被検出体161に対応する第1のLo信号が出力されたあとに、60°CAに亘って継続する第1のHi信号が出力され、そのあとに60°CAに亘って継続する第3の被検出体163に対応する第3のLo信号が出力される。そして、そのあとに、180°CAに亘って継続する第2のHi信号が出力され、それに続いて120°CAに亘って継続する第2の被検出体162に対応する第2のLo信号が出力される。そして、最後に120°CAに亘って継続する第3のHi信号が出力されたあと、再び第1のLo信号が出力されるようになる。
【0074】
このようにカム角信号は一定の変化パターンで周期的に変化するため、このカム角信号の変化パターンを認識することにより、吸気カムシャフト60がどのような回転位相にあるのかを検知することができる。例えば、Lo信号が60°CAに亘って出力されたあとHi信号に切り替わったときには、それに基づいて第3の被検出体163が吸気カムポジションセンサ106の前を通過した直後の回転位相であることを検知することができる。
【0075】
排気側センサプレート170にも、同様に第1の被検出体171と第2の被検出体172と第3の被検出体173とが設けられているため、排気カムポジションセンサ107から出力される排気側カム角信号の変化パターンを認識することにより、排気カムシャフト70がどのような回転位相にあるのかを検知することができる。
【0076】
尚、カム角信号は、上記のように一定の変化パターンで周期的に変化するため、その変化パターンを認識することにより、カムシャフト60,70の回転方向を検知することも可能である。
【0077】
排気カムシャフト70に取り付けられている排気側センサプレート170は、吸気カムシャフト60に取り付けられる吸気側センサプレート160に対して位相をずらして取り付けられている。具体的には、図1の右側に示されるように排気側センサプレート170は、吸気カムシャフト60に取り付けられている吸気側センサプレート160よりも30°だけ進角側に位相をずらして取り付けられている。
【0078】
これにより、吸気側カム角信号の変化パターンは、図4に示されるように排気側カム角信号の変化パターンに対してクランク角にして60°CAだけ遅れて変化するものになる。
【0079】
尚、図4は、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号とクランクカウンタとの関係、並びに同クランクカウンタとカム角信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0080】
電子制御装置100は機関運転に伴ってクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づいて出力されるパルス信号を計数し、クランクカウンタを算出するとともに、このクランク角カウンタとこれら吸気側カム角信号及び排気側カム角信号とを比較して気筒判別を行う。
【0081】
具体的には、電子制御装置100は、図4に示されるように10°CA毎に出力されるパルス信号を計数して3つのパルス信号が計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせることにより算出される。すなわち、クランクカウンタは30°CA毎にカウントアップされる。そして、電子制御装置100は、このクランクカウンタの値に基づいて現在のクランク角を認識し、各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御する。
【0082】
尚、ここでは、3つのパルス信号が計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせ、クランクカウンタを30°CA毎にカウントアップさせる構成を採用しているが、パルス信号が1つ計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせ、10°CA毎にクランクカウンタをカウントアップさせる構成を採用することもできる。すなわち、パルス信号に基づいてクランクカウンタを算出する方法は適宜変更することができる。
【0083】
また、クランクカウンタは、720°CA毎に周期的にリセットされるようになっている。すなわち図4の中央に示されるように「690」までカウントアップしたあとは、次のカウントアップのタイミングでクランクカウンタが「0」にリセットされ、そこから再び30°CA毎にクランクカウンタがカウントアップされるようになっている。
【0084】
また、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、上述したようにパルス信号の間隔が30°CAになる。そこで、電子制御装置100はパルス信号の間隔が広くなったときには、それに基づいて欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過したことを検知する。この欠け歯検出は、360°CA毎になされるため、クランクカウンタが1周期分カウントアップされる720°CAの間に欠け歯検出は2回行われることになる。
【0085】
また、クランクシャフト50と吸気カムシャフト60と排気カムシャフト70は、互いにタイミングチェーンを介して連結されているため、クランクカウンタの変化とカム角信号の変化とは一定の相関を有している。すなわち、クランクシャフト50が2回転する間にカムシャフト60,70は1回転するため、クランク角が分かればそのときの各カムシャフト60,70の回転位相を推定することができ、各カムシャフト60,70の回転位相が分かればクランク角を推定することができる。
【0086】
本実施形態の車載内燃機関にあっては、図4に示されるように吸気カム角信号が180°CAに亘って継続する第1のLo信号から60°CAに亘って継続する第1のHi信号に切り替わるときのクランク角を「0°CA」に設定している。そのため、図4に破線で示されるように吸気カム角信号が第1のHi信号からLo信号に切り替わった直後になされる欠け歯検出はクランク角が90°CAであることを示すものになる。一方で、吸気カム角信号が120°CAに亘って継続する第2のLo信号からHi信号に切り替わった直後になされる欠け歯検出はクランク角が450°CAであることを示すものになる。
【0087】
このようにカム角信号の変化とクランク角とは互いに相関を有しているため、吸気側カム角信号と排気側カム角信号との組合せのパターンに応じてその組合せに対応するクランク角を推定することができる。
【0088】
具体的には、下記の表1に示されるように、吸気側カム角信号がHi信号であり且つ排気側カム角信号がHi信号である場合にはこれに基づいてクランクカウンタの値が「120〜230」又は「420〜470」の範囲の値であることが推定される。そして、吸気側カム角信号がHi信号であり且つ排気側カム角信号がLo信号である場合にはそのことに基づいてクランクカウンタの値が「0〜50」、「240〜290」、「480〜530」のいずれか範囲の値であることが推定される。また、吸気側カム角信号がLo信号であり且つ排気側カム角信号がHi信号である場合にはクランクカウンタの値が「60〜110」、「360〜410」、「660〜710」のいずれか範囲の値であることが推定される。そして、吸気側カム角信号がLo信号であり且つ排気側カム角信号がLo信号である場合にはクランクカウンタの値が「300〜350」又は「540〜650」の範囲の値であることが推定される。
【0089】
【表1】
上述したように本実施形態の車載内燃機関にあっては、アイドリングストップ制御による機関運転の休止の際に、クランクシャフト50が停止したときのクランクカウンタを記憶し、自動起動の際に、その記憶したクランクカウンタの値を参照して起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行するようにしている。
【0090】
クランクポジションセンサ105の異常やノイズの影響によりクランクカウンタにずれが生じると、クランクカウンタに基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまい、自動休止に伴ってクランクシャフト50が停止したときに誤ったクランクカウンタが電子制御装置100に記憶されてしまうこととなる。そして、記憶されているクランクカウンタが正しいクランク角を示していない誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランクカウンタに基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。
【0091】
クランクポジションセンサ105のような、電磁ピックアップタイプのセンサは、センサと被検出体との間のエアギャップの変化に伴って生じる磁束の増減によって生じる起電力を信号として出力するため、被検出体が停止しているときには信号を出力することができない。これに対して、カムポジションセンサ106,107のような磁気抵抗素子タイプのセンサは被検出体が停止しているときでもHi信号とLo信号のデジタル信号として信号を出力することができる。そのため、磁気抵抗素子タイプのカムポジションセンサ106,107によれば、カムシャフト60,70が停止しているとき、すなわち機関停止中であっても信号を検出することができる。
【0092】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、アイドリングストップ制御による運転休止時に、上記の表1に示した関係を利用してクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定し、把握しているクランクカウンタの値がこの推定された範囲内に含まれるか否を判定する。そして、その判定結果に基づいて内燃機関の始動態様を切り替えるようにしている。
【0093】
以下、クランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定して始動態様を切り替える異常判定ルーチンの処理の内容と、その異常判定ルーチンによる作用について図5〜9を参照して説明する。
【0094】
図5は、アイドリングストップ制御による運転休止時にクランクカウンタの値が推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定する運転休止時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
この運転休止時異常判定ルーチンは、休止条件が成立し、アイドリングストップ制御を通じて機関運転が休止されるときに実行される。
図5に示されるように電子制御装置100はこの運転休止時異常判定ルーチンを開始すると、まずステップS100においてにおいて機関停止判定がなされたか否かを判定する。機関停止判定は、機関運転の休止に伴ってクランクシャフト50が停止したか否かを判定するものである。具体的には、一定期間の間、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号の出力が検出されていない場合に、それに基づいてクランクシャフト50が停止したことが判定され、このステップS100において機関停止判定が成立した旨の判定がなされるようになる。
【0096】
ステップS100において機関停止判定がなされていない旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)には、ステップS140へと進む。そして、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続し、このルーチンを一旦終了する。
【0097】
一方、ステップS100において機関停止判定がなされた旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、ステップS110へと進む。そして、ステップS110において電子制御装置100は、上記の表1に示される関係を利用して吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲を算出し、クランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する。
【0098】
そして、ステップS120へと進み、電子制御装置100はクランクカウンタの値が推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
ステップS120において、クランクカウンタが推定範囲内に含まれる旨の判定がなされた場合(ステップS120:YES)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS140へと進む。
【0099】
そして、電子制御装置100はステップS140においてそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続し、このルーチンを終了する。
一方、ステップS120において、クランクカウンタが推定範囲から外れている旨の判定がなされた場合(ステップS120:NO)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS130へと進む。
【0100】
そして、電子制御装置100は、ステップS130においてアイドリングストップ制御を中止してスタータモータ40を駆動し、通常の始動制御を開始する。
このようにクランクカウンタの値が推定範囲から外れたものであり、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動される。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、内燃機関を再起動させる。
【0101】
このように本実施形態の車載内燃機関にあっては、機関休止時に、クランクカウンタの値が推定範囲から外れたものであり、クランクカウンタの値が誤ったものであると判定された場合には、通常の始動制御によって再起動が行われ、休止条件が成立している間も機関運転が継続されるようになる。
【0102】
また、本実施形態にかかる電子制御装置100にあっては、こうした機関休止時の異常判定に加えて、休止条件が成立しなくなったことに基づいて内燃機関を再起動させる再起動時にも異常判定を行うようにしている。
【0103】
図6は休止条件が成立しなくなったときに実行される再起動時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。
この再起動時異常判定ルーチンは、休止条件が成立しなくなり、アイドリングストップ制御を通じて内燃機関の自動起動が開始されたときに実行される。
【0104】
図6に示されるように電子制御装置100はこの再起動時異常判定ルーチンを開始すると、まずステップS200において特定位相におけるクランクカウンタの算出が完了したか否かを判定する。
【0105】
本実施形態にあっては、クランク角が「0°CA」になる回転位相を特定位相として設定しており、ここでは、吸気側カム角信号及び排気側カム角信号の変化パターンに基づいて吸気側カム角信号の第1のHi信号(60°CAに亘って継続するHi信号)の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されたときに特定位相にあることを判定するようにしている。そして、本実施形態にあっては、吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知され、特定位相にあることが判定されたときに、そのときに算出されているクランクカウンタの値を判定用の値として取得するようにしている。
【0106】
このステップS200では、この特定位相におけるクランクカウンタの値の算出が完了しているか否かを判定し、判定用の値が既に取得されているか否かを判定する。
ステップS200において自動起動が開始されてから特定位相におけるクランクカウンタの算出が未だに完了していない旨の判定がなされた場合(ステップS200:NO)には、ステップS240へと進む。そして、電子制御装置100はそのまま自動起動制御を継続し、このルーチンを一旦終了する。
【0107】
一方、ステップS200において特定位相におけるクランクカウンタの算出が完了した旨の判定がなされた場合(ステップS200:YES)には、ステップS210へと進む。そして、ステップS210において電子制御装置100は、判定値として取得した特定位相において算出したクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値とのずれの大きさを算出する。
【0108】
尚、この基準値は、特定位相におけるクランクカウンタの値の正しい値の基準として予め電子制御装置100に記憶されている値であり、本実施形態にあっては、「0」に設定されている。
【0109】
ステップS210において、判定値として取得した特定位相において算出したクランクカウンタの値と、基準値とのずれの大きさを算出するとステップS220へと進む。
そして、電子制御装置100は、算出されたずれの大きさが規定値未満であるか否かを判定する。尚、ここでは、規定値が「60°CA」に設定されている。すなわち、このステップS220では、特定位相において実際に算出されたクランクカウンタの値と基準値とが「60°CA」以上乖離しているか否かを判定する。
【0110】
ステップS220において、算出されたずれの大きさが規定値未満である旨の判定がなされた場合(ステップS220:YES)、すなわちクランクカウンタの値と基準値との乖離が60°CA未満である場合には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS240へと進む。
【0111】
そして、電子制御装置100はステップS240においてそのままアイドリングストップ制御による自動起動制御を継続し、このルーチンを終了する。
一方、ステップS220において、算出されたずれの大きさが規定値以上である旨の判定がなされた場合(ステップS220:NO)、すなわちクランクカウンタの値と基準値との乖離が60°CA以上である場合には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS230へと進む。
【0112】
そして、電子制御装置100は、ステップS230において自動起動制御を中止し、欠け歯検出による気筒判別が完了してから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御を開始する。
【0113】
このようにクランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には、誤ったクランクカウンタに基づく自動起動制御の実行が中止され、通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、内燃機関を再起動させる。
【0114】
このような、異常判定ルーチンを実行することによる作用を図7〜9を参照して説明する。
尚、図7はクランクカウンタにずれが生じていない場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7にあっては説明の便宜上、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を図7の上部に示されるように帯状に図示している。尚、図7の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0115】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図7に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
そして、時刻t10において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「510」が電子制御装置100に記憶される。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。尚、カムポジションセンサ106,107はカムシャフト60,70が停止している場合であっても信号を出力することのできる磁気抵抗素子タイプのセンサであるため、図7に示されるように機関停止中であってもカムシャフト60,70の回転位相に応じたカム角信号が出力され続ける。
【0116】
図7に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0117】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じておらず、記憶されたクランクカウンタの値「510°」が推定された「480〜530」の範囲内に含まれるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断される。そのため、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続する。
【0118】
時刻t11において休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされると、それに基づいて自動起動制御が開始され、時刻t12においてスタータモータ40が駆動されて機関回転速度が上昇し始める。この自動起動制御のとき、電子制御装置100は、記憶されているクランクカウンタの値「510°」を参照して自動起動制御を開始した時点から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0119】
尚、時刻t13においてクランク角が720°CAに達するとクランクカウンタはリセットされ、図7に示されるように再び「0」からカウントが再開される。
また、休止条件が成立しなくなると上述したように再起動時異常判定ルーチンが実行されるため、時刻t13において吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されると、特定位相にあることが判定され、リセットされたクランクカウンタの値「0」が判定用の値として取得される。そして、判定値として取得したこのクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値「0」とのずれの大きさが規定値である「60°CA」未満であるか否かが判定される。
【0120】
ここでは、ずれの大きさが「60°CA」未満であるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断されそのままアイドリングストップ制御による自動起動制御が継続される。
【0121】
また、吸気側カム角信号において第1のHi信号が検出されたあとに時刻t14において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定されるが、このときのクランクカウンタは図7の右側下方に示されるように「90」になっている。
【0122】
このようにクランクカウンタにずれが生じていない場合には、自動起動制御による再起動がなされ、停止時に記憶されたクランクカウンタの値に基づいて再起動開始時から各気筒に対して個別の燃料噴射や点火が実行され、内燃機関の再起動が早期に完了するようになる。
【0123】
次に図8を参照して機関休止に伴うクランクシャフト50の停止直前にクランクカウンタにずれが生じた場合の作用を説明する。尚、図8は機関休止に伴うクランクシャフト50の停止直前に、ノイズの影響によってクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7と同様に、図8にあってもクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を帯状に図示している。また、図8の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0124】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図8に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
このとき、時刻t20においてノイズが発生し、このノイズがパルス信号に重なると、その影響によってクランクカウンタが変化し、クランクカウンタの値が、破線で示される正常な場合のクランクカウンタの値からずれてしまう。
【0125】
時刻t21において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値が電子制御装置100に記憶される。尚、上記のようにこのときのクランクカウンタの値はノイズの影響によって正常なクランクカウンタの値(510)からずれた値(600)になっている。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
【0126】
図8に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0127】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じており、記憶されたクランクカウンタの値「600」が推定された範囲から外れているため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0128】
そして、電子制御装置100は、時刻t22において記憶されているクランクカウンタの値を消去し、アイドリングストップ制御を中止して通常の始動制御を開始する。すなわち、休止条件が成立している状態であっても、スタータモータ40を駆動して欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0129】
時刻t22において通常の始動制御による起動指令がなされると、スタータモータ40が駆動されて時刻t23から機関回転速度が上昇し始める。尚、このときには気筒判別が完了していないため、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火は実行されていない。また、クランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされたままになっている。
【0130】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t24において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、クランクカウンタが「90」に設定される。
【0131】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このようにクランクシャフト50が停止したときに、クランクカウンタにずれが生じていることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、機関休止時に記憶されているクランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであることが判定され、記憶されているクランクカウンタの値が誤ったものであると判定された場合には、通常の始動制御によって再起動が行われ、休止条件が成立している間も機関運転が継続されるようになる。
【0132】
最後に、図9を参照してアイドリングストップ制御による運転休止中にクランクシャフト50が動き、クランクカウンタにずれが生じた場合の作用を説明する。尚、図9は運転休止中にクランクシャフト50が動き、クランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7及び図8と同様に、図9にあってもクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を帯状に図示している。また、図9の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0133】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図9に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
そして、時刻t30において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「510」が電子制御装置100に記憶される。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
【0134】
図9に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0135】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じておらず、記憶されたクランクカウンタの値「510」が推定された「480〜530」の範囲内に含まれるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断される。そして、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続する。
【0136】
この運転休止中に、クランクシャフト50が何らかの理由により動いてしまった場合には、クランク角や、カムシャフト60,70の回転位相が変化してしまう。しかし、電子制御装置100は、アイドリングストップ制御における自動起動制御において機関停止時に記憶されたクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0137】
図9に示されるように時刻t31において休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされると、それに基づいて時刻t32において自動起動制御が開始され、スタータモータ40が駆動されて機関回転速度が上昇し始める。この自動起動制御のとき、電子制御装置100は、上述したように記憶されているクランクカウンタの値「510」を参照して自動起動制御を開始した時点から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。その結果、誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになるため、適切なタイミングで各気筒に燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなってしまう。
【0138】
しかし、その後、時刻t33において吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されると、特定位相にあることが判定され、このときのクランクカウンタの値「570」が判定用の値として取得される。そして、判定値として取得したこのクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値「0」とのずれの大きさが規定値である「60°CA」未満であるか否かが判定される。
【0139】
ここでは、「0」、すなわち720°CAに到達してリセットされているはずのクランクカウンタの値が「570」になっている。そのため、ずれの大きさは「150°CA」であり、ずれの大きさが「60°CA」以上であるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0140】
そして、電子制御装置100はこの結果に基づいて、クランクカウンタの値を消去し、アイドリングストップ制御を中止して通常の始動制御を開始する。すなわち、クランクカウンタの値に基づく自動起動制御を中止して、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0141】
時刻t33において通常の始動制御が開始されると、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が停止された状態で、スタータモータ40によるクランクシャフト50の駆動が実行される。尚、このときにはクランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされたままになっている。
【0142】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t34において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、このときにクランクカウンタが「90」に設定される。
【0143】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このように自動起動制御実行中に、クランクカウンタにずれが生じていることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には自動起動制御が中止され、通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。
【0144】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)クランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70の回転位相に基づいて出力されるカム角信号を参照してクランクカウンタの取り得る範囲を推定するようにしている。そして、記憶されているクランクカウンタの値がその推定された範囲から外れている場合には、そのクランクカウンタの値を利用せずに気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行するようにしている。
【0145】
クランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70の回転位相に基づいて出力されるカム角信号の値と、クランク角とは互いに一定の相関関係を有している。そのため、記憶されているクランクカウンタの情報が、クランクシャフト50とともに回転するカム角信号に基づいて推定される範囲から外れている場合には、記憶されているクランクカウンタの値が誤ったものであることが推定される。
【0146】
そのため、上記実施形態のように記憶されているクランクカウンタの値が、カム角信号に基づいて推定される範囲から外れている場合に、その記憶されているクランクカウンタの値を利用せずに通常の始動制御を実行する構成によれば、誤ったクランク角の情報に基づいて自動起動が実行されてしまうことを抑制することができる。
【0147】
また、カムシャフト60,70が停止しているときであってもカムシャフト60,70の回転位相に基づくカム角信号を出力することのできる磁気抵抗素子タイプのカムポジションセンサ106,107を設けるようにしている。そして、クランクシャフト50が停止したあとに、そのカムポジションセンサ106,107によって出力されているカム角信号に基づいてクランクカウンタの範囲を推定し、クランクカウンタの値がその範囲に含まれるか否かを判定するようにしている。そのため、クランクシャフト50が停止する直前にクランクポジションセンサ105に異常が発生した場合や、ノイズ等の影響によりクランクカウンタにずれが生じた場合等、クランクシャフト50の回転方向を監視することにより異常の発生を判定するようにしている場合には検知できないような異常が発生した場合であっても、クランクカウンタにずれが生じていることを検知することができる。
【0148】
したがって、クランクカウンタにずれが生じた場合や、クランクシャフト50の回転が停止する直前にクランクポジションセンサ105に異常が発生した場合であっても、その異常を検知することができる。そして、誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0149】
(2)クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶された直後にクランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動制御を実行するようにしている。そのため、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであるときに、通常の始動制御により機関運転が再開され、休止条件が成立している場合であっても機関運転が継続されるようになる。
【0150】
したがって、その後に再発進をする場合に速やかに車両を発進させることができる。すなわち、休止条件が成立しなくなったときに正常に機関運転を再開させることができず、車両を速やかに再発進させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができる。
【0151】
(3)機関回転速度が一定の場合、すなわちクランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70に固定されたセンサプレート160,170の回転速度が一定の場合には、占有範囲が広い被検出体がカムポジションセンサ106,107に近接しているときほどLo信号の検出期間が長くなる。一方で、占有範囲が狭い被検出体がカムポジションセンサ106,107に近接しているときほどLo信号の検出期間が短くなる。
【0152】
そのため、上記実施形態のようにセンサプレート160,170の周方向における占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレート160,170を具備する構成であれば、センサプレート160,170の回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンがカムポジションセンサ106,107の前を通過する被検出体の占有範囲の大きさに応じて変化するようになる。
【0153】
したがって、出力されるカム角信号の変化のパターンを認識することにより、どの被検出体がカムポジションセンサ106,107に対向する回転位相であるかを判別し、より速やかに且つ的確にカムシャフト60,70の回転位相を検知することができるようになる。したがって、カム角信号に基づいてより速やかに且つ的確にクランクカウンタの取り得る範囲を推定することができる。
【0154】
これに対して、被検出体の占有範囲の大きさがすべて等しく設定されている場合には、センサプレートの回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンに基づいてどの被検出体に対応する回転位相であるかを判別することはできない。
【0155】
すなわち、上記実施形態のように占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレート160,170を具備する構成によれば、被検出体の占有範囲の大きさがすべて等しく設定されている場合と比較して、より速やかに且つ的確にクランクカウンタの範囲を推定することができる。
【0156】
(4)上記実施形態のように位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じてクランクカウンタの範囲を推定するようにすれば、各カムポジションセンサから出力されるカム角信号の組合せのパターンが増えるため、その分だけ、推定することのできる範囲の分解能が高くなる。
【0157】
すなわち、1つのカムポジションセンサから出力されるカム角信号の種類に応じてクランクカウンタの取り得る範囲を推定する場合よりも高い精度でクランクカウンタの取り得る範囲を推定することができるようになる。
【0158】
(5)自動起動時にカム角信号に基づいて特定位相に到達したことを判定し、そのときのクランクカウンタと基準値とを比較することにより、クランクカウンタが正しいものであるか否かを判定するようにしているため、休止中にクランクカウンタにずれが生じた場合にもその後の起動時にそれを検知して対応することができる。
【0159】
そして、クランクカウンタが正しいものではない旨の判定がなされた場合には自動起動を停止して、通常の始動制御による再起動を行うようにしている。そのため、誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火が継続されることを抑制することができ、誤った情報に基づく燃料噴射や点火が継続されて排気性状の悪化してしまうといった事態や、内燃機関を正常に起動させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができる。
【0160】
尚、上記の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態によって実施することもできる。
・上記実施形態にあっては、吸気カムシャフト60にセンサプレート160を設ける一方で、排気カムシャフト70にセンサプレート170を設け、位相をずらして出力されるカム角信号に基づいてクランクカウンタの範囲を推定する構成を示した。
【0161】
これに対して複数のカム角信号が、位相をずらして出力される構成であれば、その出力される信号の変化のパターンを認識することにより、そのときに取り得るクランクカウンタの範囲を推定することができる。
【0162】
そのため、上記実施形態のように吸気カムシャフト60と排気カムシャフト70にそれぞれセンサプレート160,170を設ける構成に限らず、吸気カムシャフト60又は排気カムシャフト70のいずれか一方に2つのセンサプレートを設け、そこから位相のずれた2つのカム角信号を検出する構成を採用することもできる。
【0163】
・また、1つのセンサプレートに対して位相をずらして2つのカムポジションセンサを設け、各カムポジションセンサから出力される2つの信号の変化のパターンに基づいてカムシャフトの回転位相を検知し、クランクカウンタの値を推定する構成を採用することもできる。
【0164】
・更にカムポジションセンサを3つ以上設け、3つ以上のカム角信号の組合せのパターンに基づいてクランク角の範囲を推定する構成を採用することもできる。
・また、複数のカム角信号の組合せのパターンに基づいてクランクカウンタの範囲を推定する構成に比べて推定することのできる範囲の分解能は劣るものの、1つのカム角信号に基づいてクランクカウンタの取り得る範囲を推定する構成を採用することもできる。
【0165】
・また、上記実施形態にあっては、センサプレート160,170にそれぞれ占有範囲の大きさの異なる3つの被検出体を設ける構成を示したが、被検出体の数は2つであってもよい。また、4つ以上の被検出体を設けるようにしてもよい。尚、被検出体の数が多いほど、カム角信号に基づいて推定することのできる回転位相の分解能は、高くなる。そのため、カム角信号に基づいて推定する回転位相の分解能を高くして精度の高い判定を行うためには、センサプレートに設ける被検出体の数を極力多く設定することが望ましい。
【0166】
・また、必ずしも吸気側センサプレート160と排気側センサプレート170の形状を同一にしなくてもよい。すなわち、各カム角信号に基づいてクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定することができるのであれば、吸気側センサプレート160と排気側センサプレート170の形状は異なっていてもよい。例えば、吸気側センサプレート160が4つの被検出体を備える一方で、排気側センサプレート170が3つの被検出体を備える構成を採用することもできる。
【0167】
・上記実施形態にあっては、クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶された直後に、記憶されたその値が、カム角信号に基づいて推定されるクランクカウンタの範囲内に含まれるか否かを判定するようにしていた。
【0168】
これに対して、クランクシャフト50が停止したあとであれば、クランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲内に含まれるものであるか否かを判定するタイミングは適宜変更することができる。
【0169】
例えば、クランクカウンタが記憶された直後に判定する構成に替えて、クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶されたあと休止条件が成立しなくなったときに、判定する構成を採用することもできる。
【0170】
こうした構成を採用する場合には、アイドリングストップ制御による機関運転休止中に図10に示されるような異常判定ルーチンを実行するようにすればよい。
電子制御装置100は、この異常判定ルーチンを開始すると、図10に示されるようにまず、ステップS10において、休止条件が成立しなくなったか否かを判定する。
【0171】
そして、ステップ10において、休止条件が成立している旨の判定がなされた場合(ステップS10:NO)には、この処理を一旦終了する。
一方、ステップS10において、休止条件が成立しなくなった旨の判定がなされた場合(ステップS10:YES)には、ステップS300へと進み、上記実施形態と同様に上記の表1に示されるように吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲を算出してクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する。
【0172】
こうしてクランクカウンタの推定範囲を算出すると、ステップS310へと進み、電子制御装置100はクランクカウンタの値が推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
ステップS310において、クランクカウンタが推定範囲内に含まれる旨の判定がなされた場合(ステップS310:YES)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS330へと進む。
【0173】
そして、電子制御装置100はステップS330において、記憶されているクランクカウンタの値に基づいて起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する自動起動制御を実行し、このルーチンを終了する。
【0174】
一方、ステップS310において、クランクカウンタが推定範囲から外れている旨の判定がなされた場合(ステップS310:NO)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS320へと進む。
【0175】
そして、電子制御装置100は、ステップS320において自動起動制御の実行を禁止してスタータモータ40を駆動し、欠け歯検出による気筒判別が完了してから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御を実行する。
【0176】
こうした構成を採用した場合には、図11に示されるように休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされた直後から通常の始動制御による再起動が行われるようになる。
具体的には、休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図11に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
【0177】
このとき、時刻t40においてノイズが発生し、このノイズがパルス信号に重なると、その影響によってクランクカウンタが変化し、クランクカウンタの値が、破線で示される正常な場合のクランクカウンタの値からずれてしまう。
【0178】
時刻t41において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「600」が電子制御装置100に記憶される。尚、上記のようにこのときのクランクカウンタの値はノイズの影響によって正常なクランクカウンタの値「510」からずれた値「600」になっている。
【0179】
そして、時刻t42において休止条件が成立しなくなると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
図11に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0180】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じており、記憶されたクランクカウンタの値「600」が推定された範囲から外れているため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0181】
この結果に基づいて、電子制御装置100は、記憶されているクランクカウンタの値を消去し、自動起動制御の実行を禁止して通常の始動制御を開始する。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0182】
時刻t42において起動指令がなされると、スタータモータ40が駆動されて時刻t43から機関回転速度が上昇し始める。尚、このときにはクランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされている。また気筒判別が完了していないため、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火は実行されていない。
【0183】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t44において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、クランクカウンタが「90」に設定される。
【0184】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このように休止条件が成立しなくなったときに、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されずに、通常の始動態様による始動が実行されるため、正しいクランク角の情報に基づく正常な自動起動により内燃機関が起動される場合よりも再起動にかかる時間は長くなるものの、的確に内燃機関を再起動することができるようになる。
【0185】
したがって、アイドリングストップにより燃料消費量の低減を図りつつ、誤ったクランク角に基づく自動起動を禁止することができ、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0186】
また、アイドリングストップ機能による運転休止中にクランクシャフト50が動いてしまい、実際のクランクシャフト50の回転角と記憶されているクランク角の情報とが対応しなくなってしまった場合等にも記憶されているクランク角の情報を利用せずに、通常の始動制御を通じて再起動が行われるようになる。そのため、運転休止中にクランク角の情報にずれが生じた場合にも、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0187】
・尚、こうした異常判定ルーチンと上記実施形態における運転休止時異常判定ルーチンとの双方を実行するようにしてもよい。すなわち、休止条件が成立してクランクカウンタが記憶されるときに運転休止時異常判定ルーチンを実行する一方、アイドリングストップ制御による機関運転休止中には図10に示される異常判定ルーチンを実行するようにしてもよい。
【0188】
・尚、上記図10に示されるようにクランクカウンタが推定範囲内に含まれるか否かを判定する異常判定処理ルーチンを、クランクシャフト50が停止したあとに実行する構成であれば、誤ったクランクカウンタに基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができる。そのため、上記のように休止条件が成立しなくなったときのみならず、クランクシャフト50が停止したときよりもあとであり、且つ休止条件が成立しなくなるよりも前の時点、すなわち休止条件が成立している運転休止中にクランクカウンタが推定範囲内に含まれるか否かを判定する異常判定ルーチンを実行する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0189】
10…燃料噴射弁、20…点火プラグ、30…電子制御スロットル、40…スタータモータ、50…クランクシャフト、60…吸気カムシャフト、70…排気カムシャフト、100…電子制御装置、101…アクセルポジションセンサ、102…スロットルポジションセンサ、103…エアフロメータ、104…水温センサ、105…クランクポジションセンサ、106…吸気カムポジションセンサ、107…排気カムポジションセンサ、108…ブレーキスイッチ、109…車速センサ、150…タイミングロータ、151…突起、152…欠け歯部、160…吸気側センサプレート、161…第1の被検出体、162…第2の被検出体、163…第3の被検出体、170…排気側センサプレート、171…第1の被検出体、172…第2の被検出体、173…第3の被検出体。
【技術分野】
【0001】
この発明は、アイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転休止条件が成立したときに運転者の操作によらずに自動的に機関運転を休止し、その後に運転休止条件が成立しなくなるとそれに基づいて自動的に内燃機関を起動するいわゆるアイドリングストップ機能を備える車両が知られている。
【0003】
一般的に、内燃機関の始動時には、スタータモータによってクランクシャフトを回転させるクランキングが行われ、クランキングによってクランクシャフトが回転している間に、クランクポジションセンサによる欠け歯検出が行われる。そして、欠け歯検出による気筒判別が完了してから、クランクシャフトの回転角であるクランク角に応じて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行される。
【0004】
これに対してアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関にあっては、自動休止に伴ってクランクシャフトが停止したときのクランク角の情報を記憶しておき、自動起動の際に、その記憶されているクランク角の情報を参照して起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行するようにしたものがある。
【0005】
このように起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、燃焼による駆動力を発生させれば、内燃機関の再起動を速やかに完了させることができるようになる。したがって、交差点における一時停止状態からの再発進等の際に、素早く内燃機関を起動させて車両を速やかに発進させることができるようになる。
【0006】
ところで、クランク角を検出するクランクポジションセンサに異常が発生し、クランクポジションセンサによって検出されるクランク角に基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまった場合には、自動休止に伴うクランクシャフト停止時に誤ったクランク角の情報が記憶されてしまうこととなる。
【0007】
記憶されているクランク角の情報が誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。その結果、各気筒に適切なタイミングで燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなり、自動起動に伴う排気性状が悪化したり、正常に内燃機関の再起動を完了させることができなくなってしまったりするおそれがある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、クランク角のみならず、クランクシャフトの回転方向を検出することのできるクランクポジションセンサを設けた制御装置が記載されている。この制御装置にあっては、クランクポジションセンサによって検出されているクランクシャフトの回転方向と実際のクランクシャフトの回転方向とが一致しているか否かに基づいてクランクポジションセンサに異常が生じているか否かを判定する。そして、クランクポジションセンサに異常が発生している旨の判定がなされた場合には、アイドリングストップ機能による自動休止及び自動起動の実行を中止して、クランキングを行い、気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動態様によって内燃機関を始動させるようにしている。
【0009】
こうした構成を採用すれば、クランクポジションセンサに異常が発生しており、クランクポジションセンサによって検出されたクランク角の情報が誤ったものである可能性が高いときには、その誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されなくなる。そのため、誤った情報に基づく自動起動の実行による排気性状の悪化や、自動起動の失敗を抑制することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009‐24548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、特許文献1に記載された内燃機関の制御装置にあっては、回転方向を検出することができる程度の回転速度でクランクシャフトが回転している状態でなければ、異常を判定することができない。したがって、クランクシャフトが回転し続けている状態でなければ異常を検知することができず、機関停止直前にセンサに異常が発生した場合等には、その異常を検知することができない。
【0012】
また、クランクポジションセンサによって検出されるクランクシャフトの回転方向と実際のクランクシャフトの回転方向とが一致している場合には、異常が発生している旨の判定がなされない。そのため、ノイズ等の影響によりクランクポジションセンサによって検出されるクランク角の情報と実際のクランク角との間にずれが生じた場合には、その異常を検知することができない。
【0013】
すなわち、クランクシャフトの回転方向を監視する方法では検知することのできない異常が発生した場合には、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置であっても、誤ったクランク角の情報に基づいて自動起動が実行されてしまい、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりするおそれがある。
【0014】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズ等の影響により、センサによって検出されるクランク角の情報にずれが生じた場合や、クランクシャフトの回転が停止する直前にセンサに異常が発生した場合であっても、そのことを検知することができる車載内燃機関の制御装置を提供することにある。そして、ひいては誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制し、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランク角の情報とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置である。
【0016】
上記構成にあっては、クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて出力されるカム角信号を参照してクランク角の取り得る範囲を推定するようにしている。そして、記憶されているクランク角の情報がその推定されたクランク角の範囲から外れている場合には、その情報を利用せずに気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行するようにしている。
【0017】
クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて出力されるカム角信号の値と、クランク角とは互いに一定の相関関係を有している。そのため、記憶されているクランク角の情報が、クランクシャフトとともに回転するカムシャフトの回転位相に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、記憶されているクランク角の情報が誤ったものであることが推定される。
【0018】
そのため、上記請求項1に記載されているように記憶されているクランク角の情報が、カム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、その記憶されているクランク角の情報を利用せずに通常の始動態様による始動を実行する構成を採用すれば、誤った情報に基づいて自動起動が実行されてしまうことを抑制することができる。
【0019】
また、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを設け、クランクシャフトが停止したあとに、そのカムポジションセンサによって出力されているカム角信号に基づいてクランク角の範囲を推定し、クランク角の情報がその範囲に含まれるか否かを判定するようにしている。そのため、クランクシャフトが停止する直前にクランク角を検知するためのセンサに異常が発生した場合や、ノイズ等の影響によりクランク角にずれが生じた場合等、クランクシャフトの回転方向を監視することにより異常の発生を判定するようにしている場合には検知できないような異常が発生したときであっても、クランク角の情報にずれが生じていることを検知することができる。
【0020】
したがって、上記請求項1に記載の発明によれば、ノイズ等の影響により、センサによって検出されるクランク角の情報にずれが生じた場合や、クランクシャフトの回転が停止する直前にセンサに異常が発生した場合であっても、そのことを検知することができる。そして、ひいては誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶された直後に、記憶されたクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶されたあと、前記休止条件が成立しなくなったときに、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0023】
請求項2に記載されているように、クランクシャフトが停止してクランク角の情報が記憶された直後にクランク角の情報がカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動制御を実行する構成を採用した場合には、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れたものであるときに、通常の始動制御により機関運転が再開され、機関運転が継続されるようになる。
【0024】
そのため、その後に再発進をする際に、速やかに車両を発進させることができる。すなわち、休止条件が成立しなくなったときに正常に機関運転を再開させることができず、車両を速やかに再発進させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができるようになる。
【0025】
一方、請求項3に記載されているように、休止条件が成立しなくなったときにクランク角の情報がカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランク角の情報が推定されるクランク角の範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動態様による始動を実行する構成を採用した場合には、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されずに、通常の始動態様による始動が実行されるため、正しいクランク角の情報に基づく正常な自動起動により内燃機関が起動される場合よりも再起動にかかる時間は長くなるものの、的確に内燃機関を再起動することができるようになる。
【0026】
したがって、アイドリングストップにより燃料消費量の低減を図りつつ、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動を禁止することができ、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0027】
また、アイドリングストップ機能による運転休止中にクランクシャフトが動いてしまい、実際のクランク角と記憶されているクランク角の情報とが対応しなくなってしまった場合等にも記憶されているクランク角の情報を利用せずに、通常の始動制御を通じて再起動が行われるようになる。そのため、運転休止中にクランク角の情報にずれが生じた場合にも、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置であって、前記カムポジションセンサが、カムシャフトに固定されてその周縁部に複数の被検出体が設けられているセンサプレートの周囲における前記被検出体と対向可能な位置に配設されて前記被検出体が近接した状態のときには第1の信号を出力する一方、前記被検出体が離間した状態のときには第2の信号を出力するものであり、同カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいて前記クランク角の範囲を推定する車載内燃機関の制御装置である。
【0029】
上記構成によれば、カムポジションセンサから第1の信号が出力されている場合にはそれに基づいて被検出体が同カムポジションセンサに近接している状態であることを検知することができる。一方で、カムポジションセンサから第2の信号が出力されている場合にはそれに基づいて被検出体が同カムポジションセンサから離間している状態であることを検知することができる。そのため、カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいてカムシャフトの回転位相を検知することができ、それに基づいてクランク角の取り得る範囲を推定することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記センサプレートは、前記複数の被検出体として、同センサプレートの周方向における占有範囲の大きさがそれぞれに異なる被検出体を備えていることをその要旨とする。
【0031】
機関回転速度が一定の場合、すなわちクランクシャフトとともに回転するカムシャフトに固定されたセンサプレートの回転速度が一定の場合には、占有範囲が広い被検出体がカムポジションセンサに近接しているときほど第1の信号の検出期間が長くなる。一方で、占有範囲が狭い被検出体がカムポジションセンサに近接しているときほど第1の信号の検出期間が短くなる。
【0032】
そのため、上記請求項5に記載の発明のようにセンサプレートの周方向における占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレートを具備する構成であれば、センサプレートの回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンがカムポジションセンサの前を通過する被検出体の占有範囲の大きさに応じて変化するようになる。したがって、出力されるカム角信号の変化のパターンを認識することにより、どの被検出体がカムポジションセンサに対向する回転位相であるかを判別し、より速やかに且つ的確にカムシャフトの回転位相を検知することができるようになる。したがって、カム角信号に基づいてより速やかに且つ的確にクランク角の範囲を推定することができるようになる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、前記カムポジションセンサを複数備え、各カムポジションセンサから位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する請求項4又は請求項5に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0034】
上記構成のように、位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じてカムシャフトの回転位相を検知し、クランク角の範囲を推定するようにすれば、回転位相の変化に応じて各カムポジションセンサから出力されるカム角信号の組合せのパターンが増えるため、その分だけ、推定することのできるクランク角の範囲の分解能が高くなる。
【0035】
すなわち、1つのカムポジションセンサから出力されるカム角信号の種類に応じて回転位相を検知する場合よりも高い精度でカムシャフトの回転位相を検知することができるようになり、より高い精度でクランク角の値が取り得る範囲を推定することができるようになる。
【0036】
尚、具体的には、請求項7に記載されているように、吸気カムシャフトに固定された第1のセンサプレートと、前記第1のセンサプレートと位相をずらした状態で排気カムシャフトに固定された第2のセンサプレートと、第1のセンサプレートの周囲に配設される第1のカムポジションセンサと、前記第2のセンサプレートの周囲に配設される第2のカムポジションセンサとを設け、前記第1のカムポジションセンサから出力されているカム角信号と前記第2のカムポジションセンサから出力されているカム角信号との組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定するようにすればよい。
【0037】
請求項8に記載の発明は、クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角とを比較することによって記憶されているクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、正しいものではない旨の判定がなされたときには、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置である。
【0038】
カム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と記憶されているクランク角とを比較する方法に限らず、上記構成のように、カム角信号を参照してクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、クランク角の情報が誤ったものである旨の判定がなされた場合に記憶されている情報を利用せずに、通常の始動態様による始動を実行する構成を採用することもできる。こうした構成を採用した場合にも、上記請求項1と同様に、誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施形態にかかる電子制御装置と機関各部の状態を検出する各種センサとの関係、並びに同電子制御装置とその制御対象である機関各部との関係を示す模式図。
【図2】(a)はクランクポジションセンサとタイミングロータとの関係を示す模式図、(b)はクランクポジションセンサから出力される信号の出力波形。
【図3】(a)はカムポジションセンサとセンサプレートとの関係を示す模式図、(b)はカムポジションセンサから出力されるカム角信号の出力波形。
【図4】クランクポジションセンサから出力される信号に基づくパルス信号とクランクカウンタとの関係、並びに同クランクカウンタとカム角信号との関係を示すタイミングチャート。
【図5】運転休止時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】再起動時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図7】クランクカウンタにずれが生じていない場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図8】機関停止直前にクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図9】運転休止中にクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【図10】変更例としての異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図11】変更例としての異常判定ルーチンを実行した場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、この発明にかかる車載内燃機関の制御装置を、車載内燃機関を統括的に制御する電子制御装置として具体化した一実施形態について、図1〜9を参照して説明する。
図1は本実施形態にかかる電子制御装置100と機関各部の状態を検出する各種センサとの関係、並びに電子制御装置100とその制御対象である機関各部との関係を示す模式図である。
【0041】
電子制御装置100は、内燃機関を制御するための各種演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)、演算プログラムや演算マップ、各種データが記憶された読み出し専用メモリ(ROM)、演算の結果等を一時的に記憶しておくランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えて構成されている。
【0042】
図1に示されるように電子制御装置100には、下記のような各種のセンサが接続されている。
アクセルポジションセンサ101は運転者によるアクセルペダルの踏み込み量を検出する。スロットルポジションセンサ102は電子制御スロットル30の開度であるスロットル開度を検出する。エアフロメータ103は内燃機関に導入される空気の温度及びその量である吸入空気量を検出する。水温センサ104は内燃機関を冷却する冷却水の温度である機関冷却水温を検出する。クランクポジションセンサ105は内燃機関の出力軸であるクランクシャフト50の回転角の変化に応じた信号を出力する。そして、電子制御装置100はこのクランクポジションセンサ105から出力された信号に基づいて得られるパルス信号に基づき、単位時間当りのクランクシャフト50の回転速度を示す機関回転速度とクランクシャフト50の回転角であるクランク角を示すクランクカウンタとを算出する。吸気カムポジションセンサ106は内燃機関の吸気カムシャフト60の回転角の変化に応じた吸気側カム角信号を出力する。排気カムポジションセンサ107は内燃機関の排気カムシャフト70の回転角の変化に応じた排気側カム角信号を出力する。ブレーキスイッチ108はブレーキペダルが踏み込まれているか否かを検知する。車速センサ109は車両の速度を検出する。
【0043】
図1に示されるように電子制御装置100には、燃料噴射弁10と、点火プラグ20と、内燃機関の吸気通路に設けられた電子制御スロットル30とが接続されている。
燃料噴射弁10は、内燃機関の各気筒に対して1つずつ設けられている。そして、それぞれの燃料噴射弁10は電子制御装置100から出力される駆動指令に基づいて開弁し、各気筒内に向かって燃料を噴射する。
【0044】
点火プラグ20は、各気筒に1つずつ設けられ、電子制御装置100から出力される点火指令に基づいて燃焼室内の混合気に点火する。そして、電子制御スロットル30は電子制御装置100から出力される駆動指令に基づいて開閉駆動され、内燃機関の吸入空気量を調量する。
【0045】
また、図1の右側下方に示されるように電子制御装置100には、機関始動時にクランクシャフト50を駆動するスタータモータ40が接続されている。
電子制御装置100は、上記各種のセンサ101〜109等から出力される信号に基づいて機関各部の状態を把握し、燃料噴射弁10の開弁時期や開弁期間を調整して各気筒に供給する燃料の量や燃料の供給時期を制御する。また、良好な燃焼による効率的な機関運転を実現するために点火プラグ20に出力する点火指令のタイミングを調整し、各気筒における点火時期を調整する。更に電子制御装置100は、各気筒に供給される燃料の量に見合った量の空気を燃焼室内に導入して理想的な空燃比の混合気を形成するために、電子制御スロットル30を制御して吸入空気量を調量する。
【0046】
尚、電子制御装置100はクランクポジションセンサ105によって出力される信号に基づいて生成されるパルス信号を計数することによって算出するクランクカウンタを参照して各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御する。
【0047】
また、本実施形態にかかる車載内燃機関は、交差点における信号待ち等により停車したときに、運転者の操作によらずに自動的に機関運転を休止するいわゆるアイドリングストップ機能を備えている。
【0048】
電子制御装置100は信号待ち等による停車を判定するための休止条件が成立したときに、アイドリングストップ制御を通じて内燃機関の運転を休止させる。そして、その後に休止条件が成立しなくなったときに、内燃機関を自動的に起動させる。
【0049】
尚、休止条件は信号待ち等による停車を判定するために設定されるものであるため、例えば、車両が停止している(車速が「0」である)こと、アクセル操作量が「0」であること、ブレーキペダルが踏み込まれていること等の各要件がすべて成立していることがその成立要件とされている。
【0050】
一般的に、内燃機関の始動時には、スタータモータ40によってクランクシャフト50を回転させるクランキングが行われ、クランキングによってクランクシャフト50が回転している間に、クランクポジションセンサ105による欠け歯検出が行われる。そして、欠け歯検出による気筒判別が完了してから、クランク角に応じて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行される。
【0051】
これに対して、本実施形態の電子制御装置100にあっては、アイドリングストップ制御による運転休止の際に、クランクシャフト50が停止したときのクランクカウンタの値を記憶しておくようにしている。そして、自動起動の際に、その記憶したクランクカウンタの値を参照して各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御し、起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0052】
このように起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、燃焼による駆動力を発生させるようにすれば、内燃機関の再起動を速やかに完了させることができるようになる。そのため、交差点における一時停止状態からの再発進等の際に、素早く内燃機関を起動させて車両を速やかに発進させることができるようになる。
【0053】
ところで、クランクポジションセンサ105に異常が発生したり、出力される信号にノイズが重なったりするとクランクカウンタにずれが生じてしまうことがある。このようにクランクカウンタにずれが生じると、クランクカウンタに基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまい、自動休止に伴ってクランクシャフト50が停止したときに誤ったクランクカウンタが電子制御装置100に記憶されてしまうこととなる。
【0054】
そして、記憶されているクランクカウンタが正しいクランク角を示していない誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランクカウンタに基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。その結果、各気筒に適切なタイミングで燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなり、自動起動に伴う排気性状が悪化したり、正常に内燃機関の再起動を完了させることができなくなってしまったりするおそれがある。
【0055】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、吸気カムポジションセンサ106から出力される吸気側カム角信号と排気カムポジションセンサ107から出力される排気側カム角信号とを参照することにより、クランクカウンタの取り得る値を推定し、記憶されているクランクカウンタの値がその推定された範囲内に含まれるか否かに応じて起動態様を変更するようにしている。
【0056】
以下、クランクポジションセンサ105や、カムポジションセンサ106,107の構成を詳しく説明し、クランクカウンタを算出する方法や、クランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する方法について説明する。
【0057】
まず、図2を参照してクランクポジションセンサ105について説明する。図2(a)はクランクポジションセンサ105とクランクシャフト50に取り付けられたタイミングロータ150との関係を示しており、図2(b)はクランクポジションセンサ105によって出力される信号の波形を示している。
【0058】
図2(a)に示されるように、クランクシャフト50には円盤状のタイミングロータ150が取り付けられている。タイミングロータ150の周縁部には34個の突起151が10°毎に間隔を空けて配設されている。そのため、図2(a)の右側に示されるようにタイミングロータ150には、隣り合う突起151同士の間隔が角度にして30°になっている欠け歯部152が1箇所形成されている。
【0059】
クランクポジションセンサ105は、図2(a)に示されるようにこのタイミングロータ150の突起151と対向するようにタイミングロータ150の周縁部に向かって配設されている。
【0060】
クランクポジションセンサ105は、その内部にコイルを備えた電磁ピックアップタイプのセンサである。クランクシャフト50の回転に伴ってタイミングロータ150が回転すると、それに伴ってタイミングロータ150の突起151とクランクポジションセンサ105との間のエアギャップが変化する。クランクポジションセンサ105は、このときに内部のコイルを通過する磁束が増減することによって生じる起電力を信号として出力する。
【0061】
この起電力はタイミングロータ150の突起151がクランクポジションセンサ105に近づくときと離れるときとではその向きが逆向きになる。そのため、クランクポジションセンサ105からは、クランクシャフト50の回転に伴って図2(b)に示されるような交流電圧が信号として出力されるようになる。
【0062】
電子制御装置100は、この信号に基づいてクランク角が10°CA変化する度に出力されるパルス信号を生成し、このパルス信号を計数することによりクランクカウンタを算出する。尚、クランクシャフト50の回転に伴って欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、図2(b)の中央に示されるようにクランク角にして30°CAに相当する周期で電圧が変化するようになる。そのため、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、パルス信号が30°CAの間隔で生成されるようになり、パルス信号を監視することによりクランクシャフト50が欠け歯部152に対応する回転位相に到達したことを検知することができる。
【0063】
通常の始動制御にあっては、欠け歯部152の通過が電子制御装置100によって検知されるこの欠け歯検出により、クランク角と内燃機関緒各気筒における運転行程(各気筒が吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程のいずれの状態であるか)を判別する気筒判別が行われる。
【0064】
次に、図3を参照してカムポジションセンサ106,107について説明する。尚、吸気カムポジションセンサ106と排気カムポジションセンサ107は、センサプレート160,170が互いに角度をずらして取り付けられていること以外は同様の構成を具備している。そのため、ここでは吸気カムポジションセンサ106について、その構成を詳しく説明し、排気カムポジションセンサ107の構成についての詳しい説明は割愛する。
【0065】
図3(a)は吸気カムポジションセンサ106と吸気カムシャフト60に取り付けられている吸気側センサプレート160との関係を示しており、図3(b)は吸気カムポジションセンサ106から出力される吸気側カム角信号の波形を示している。
【0066】
図3(a)に示されるように、吸気カムシャフト60には吸気側センサプレート160が取り付けられている。図3(a)に示されるように吸気側センサプレート160には、同センサプレート160の周方向における占有範囲の広さが互いに異なる3つの被検出体161,162,163が設けられている。
【0067】
最も大きな第1の被検出体161はセンサプレート160の周方向において角度にして90°に亘って広がるように形成されている。これに対して、最も小さな第3の被検出体163は角度にして30°に亘って広がるように形成されており、第2の被検出体162は60°に亘って広がるように形成されている。
【0068】
そして、吸気側センサプレート160にあっては、図3(a)に示されるように各被検出体161,162,163がそれぞれ所定の間隔を隔てて配設されている。具体的には、第1の被検出体161と第2の被検出体162とは角度にして60°の間隔を隔てて配設されており、第2の被検出体162と第3の被検出体163とは角度にして90°の間隔を隔てて配設されている。そして、第1の被検出体161と第3の被検出体163とは角度にして30°の間隔を隔てて配設されている。
【0069】
吸気カムポジションセンサ106は、図3(a)に示されるようにこの吸気側センサプレート160の各被検出体161,162,163と対向可能な位置に同吸気側センサプレート160の周縁部に向かって配設されている。
【0070】
吸気カムポジションセンサ106は、磁石と磁気抵抗素子を内蔵したセンサ回路からなる磁気抵抗素子タイプのセンサである。吸気カムシャフト60の回転に伴って吸気側センサプレート160が回転すると、それに伴って被検出体161,162,163が順に吸気カムポジションセンサ106に近接、離間するようになる。これにより、吸気カムポジションセンサ106内の磁気抵抗素子にかかる磁界の方向が変化し、磁気抵抗素子の内部抵抗が変化する。センサ回路はこの抵抗値変化を電圧に変換した波形と閾値との大小関係を比較してその波形を第1の信号であるLo信号と第2の信号であるHi信号とによる矩形波に整形し、電子制御装置100に出力する。
【0071】
そのため、吸気カムポジションセンサ106からは、吸気カムシャフト60の回転に伴って図3(b)に示されるような吸気側カム角信号が出力されるようになる。尚、各被検出体161,162,163が吸気カムポジションセンサ106に近接している状態のときには第1の信号であるLo信号が出力される一方、各被検出体161,162,163が吸気カムポジションセンサ106から離間している状態のときには第2の信号であるHi信号が出力される。
【0072】
吸気カムシャフト60は、クランクシャフト50が2回転する間に1回転する。そのため、吸気側カム角信号の変化は図3(b)に示されるようにクランク角にして720°CAの周期で一定の変化を繰り返す。
【0073】
具体的には、180°CAに亘って継続する第1の被検出体161に対応する第1のLo信号が出力されたあとに、60°CAに亘って継続する第1のHi信号が出力され、そのあとに60°CAに亘って継続する第3の被検出体163に対応する第3のLo信号が出力される。そして、そのあとに、180°CAに亘って継続する第2のHi信号が出力され、それに続いて120°CAに亘って継続する第2の被検出体162に対応する第2のLo信号が出力される。そして、最後に120°CAに亘って継続する第3のHi信号が出力されたあと、再び第1のLo信号が出力されるようになる。
【0074】
このようにカム角信号は一定の変化パターンで周期的に変化するため、このカム角信号の変化パターンを認識することにより、吸気カムシャフト60がどのような回転位相にあるのかを検知することができる。例えば、Lo信号が60°CAに亘って出力されたあとHi信号に切り替わったときには、それに基づいて第3の被検出体163が吸気カムポジションセンサ106の前を通過した直後の回転位相であることを検知することができる。
【0075】
排気側センサプレート170にも、同様に第1の被検出体171と第2の被検出体172と第3の被検出体173とが設けられているため、排気カムポジションセンサ107から出力される排気側カム角信号の変化パターンを認識することにより、排気カムシャフト70がどのような回転位相にあるのかを検知することができる。
【0076】
尚、カム角信号は、上記のように一定の変化パターンで周期的に変化するため、その変化パターンを認識することにより、カムシャフト60,70の回転方向を検知することも可能である。
【0077】
排気カムシャフト70に取り付けられている排気側センサプレート170は、吸気カムシャフト60に取り付けられる吸気側センサプレート160に対して位相をずらして取り付けられている。具体的には、図1の右側に示されるように排気側センサプレート170は、吸気カムシャフト60に取り付けられている吸気側センサプレート160よりも30°だけ進角側に位相をずらして取り付けられている。
【0078】
これにより、吸気側カム角信号の変化パターンは、図4に示されるように排気側カム角信号の変化パターンに対してクランク角にして60°CAだけ遅れて変化するものになる。
【0079】
尚、図4は、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号とクランクカウンタとの関係、並びに同クランクカウンタとカム角信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0080】
電子制御装置100は機関運転に伴ってクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づいて出力されるパルス信号を計数し、クランクカウンタを算出するとともに、このクランク角カウンタとこれら吸気側カム角信号及び排気側カム角信号とを比較して気筒判別を行う。
【0081】
具体的には、電子制御装置100は、図4に示されるように10°CA毎に出力されるパルス信号を計数して3つのパルス信号が計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせることにより算出される。すなわち、クランクカウンタは30°CA毎にカウントアップされる。そして、電子制御装置100は、このクランクカウンタの値に基づいて現在のクランク角を認識し、各気筒に対する燃料噴射や点火のタイミングを制御する。
【0082】
尚、ここでは、3つのパルス信号が計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせ、クランクカウンタを30°CA毎にカウントアップさせる構成を採用しているが、パルス信号が1つ計数される度にクランクカウンタをカウントアップさせ、10°CA毎にクランクカウンタをカウントアップさせる構成を採用することもできる。すなわち、パルス信号に基づいてクランクカウンタを算出する方法は適宜変更することができる。
【0083】
また、クランクカウンタは、720°CA毎に周期的にリセットされるようになっている。すなわち図4の中央に示されるように「690」までカウントアップしたあとは、次のカウントアップのタイミングでクランクカウンタが「0」にリセットされ、そこから再び30°CA毎にクランクカウンタがカウントアップされるようになっている。
【0084】
また、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過するときには、上述したようにパルス信号の間隔が30°CAになる。そこで、電子制御装置100はパルス信号の間隔が広くなったときには、それに基づいて欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過したことを検知する。この欠け歯検出は、360°CA毎になされるため、クランクカウンタが1周期分カウントアップされる720°CAの間に欠け歯検出は2回行われることになる。
【0085】
また、クランクシャフト50と吸気カムシャフト60と排気カムシャフト70は、互いにタイミングチェーンを介して連結されているため、クランクカウンタの変化とカム角信号の変化とは一定の相関を有している。すなわち、クランクシャフト50が2回転する間にカムシャフト60,70は1回転するため、クランク角が分かればそのときの各カムシャフト60,70の回転位相を推定することができ、各カムシャフト60,70の回転位相が分かればクランク角を推定することができる。
【0086】
本実施形態の車載内燃機関にあっては、図4に示されるように吸気カム角信号が180°CAに亘って継続する第1のLo信号から60°CAに亘って継続する第1のHi信号に切り替わるときのクランク角を「0°CA」に設定している。そのため、図4に破線で示されるように吸気カム角信号が第1のHi信号からLo信号に切り替わった直後になされる欠け歯検出はクランク角が90°CAであることを示すものになる。一方で、吸気カム角信号が120°CAに亘って継続する第2のLo信号からHi信号に切り替わった直後になされる欠け歯検出はクランク角が450°CAであることを示すものになる。
【0087】
このようにカム角信号の変化とクランク角とは互いに相関を有しているため、吸気側カム角信号と排気側カム角信号との組合せのパターンに応じてその組合せに対応するクランク角を推定することができる。
【0088】
具体的には、下記の表1に示されるように、吸気側カム角信号がHi信号であり且つ排気側カム角信号がHi信号である場合にはこれに基づいてクランクカウンタの値が「120〜230」又は「420〜470」の範囲の値であることが推定される。そして、吸気側カム角信号がHi信号であり且つ排気側カム角信号がLo信号である場合にはそのことに基づいてクランクカウンタの値が「0〜50」、「240〜290」、「480〜530」のいずれか範囲の値であることが推定される。また、吸気側カム角信号がLo信号であり且つ排気側カム角信号がHi信号である場合にはクランクカウンタの値が「60〜110」、「360〜410」、「660〜710」のいずれか範囲の値であることが推定される。そして、吸気側カム角信号がLo信号であり且つ排気側カム角信号がLo信号である場合にはクランクカウンタの値が「300〜350」又は「540〜650」の範囲の値であることが推定される。
【0089】
【表1】
上述したように本実施形態の車載内燃機関にあっては、アイドリングストップ制御による機関運転の休止の際に、クランクシャフト50が停止したときのクランクカウンタを記憶し、自動起動の際に、その記憶したクランクカウンタの値を参照して起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行するようにしている。
【0090】
クランクポジションセンサ105の異常やノイズの影響によりクランクカウンタにずれが生じると、クランクカウンタに基づいて実際のクランク角を的確に把握することができなくなってしまい、自動休止に伴ってクランクシャフト50が停止したときに誤ったクランクカウンタが電子制御装置100に記憶されてしまうこととなる。そして、記憶されているクランクカウンタが正しいクランク角を示していない誤ったものである場合には、自動起動の際にその誤ったクランクカウンタに基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになる。
【0091】
クランクポジションセンサ105のような、電磁ピックアップタイプのセンサは、センサと被検出体との間のエアギャップの変化に伴って生じる磁束の増減によって生じる起電力を信号として出力するため、被検出体が停止しているときには信号を出力することができない。これに対して、カムポジションセンサ106,107のような磁気抵抗素子タイプのセンサは被検出体が停止しているときでもHi信号とLo信号のデジタル信号として信号を出力することができる。そのため、磁気抵抗素子タイプのカムポジションセンサ106,107によれば、カムシャフト60,70が停止しているとき、すなわち機関停止中であっても信号を検出することができる。
【0092】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、アイドリングストップ制御による運転休止時に、上記の表1に示した関係を利用してクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定し、把握しているクランクカウンタの値がこの推定された範囲内に含まれるか否を判定する。そして、その判定結果に基づいて内燃機関の始動態様を切り替えるようにしている。
【0093】
以下、クランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定して始動態様を切り替える異常判定ルーチンの処理の内容と、その異常判定ルーチンによる作用について図5〜9を参照して説明する。
【0094】
図5は、アイドリングストップ制御による運転休止時にクランクカウンタの値が推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定する運転休止時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
この運転休止時異常判定ルーチンは、休止条件が成立し、アイドリングストップ制御を通じて機関運転が休止されるときに実行される。
図5に示されるように電子制御装置100はこの運転休止時異常判定ルーチンを開始すると、まずステップS100においてにおいて機関停止判定がなされたか否かを判定する。機関停止判定は、機関運転の休止に伴ってクランクシャフト50が停止したか否かを判定するものである。具体的には、一定期間の間、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号の出力が検出されていない場合に、それに基づいてクランクシャフト50が停止したことが判定され、このステップS100において機関停止判定が成立した旨の判定がなされるようになる。
【0096】
ステップS100において機関停止判定がなされていない旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)には、ステップS140へと進む。そして、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続し、このルーチンを一旦終了する。
【0097】
一方、ステップS100において機関停止判定がなされた旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、ステップS110へと進む。そして、ステップS110において電子制御装置100は、上記の表1に示される関係を利用して吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲を算出し、クランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する。
【0098】
そして、ステップS120へと進み、電子制御装置100はクランクカウンタの値が推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
ステップS120において、クランクカウンタが推定範囲内に含まれる旨の判定がなされた場合(ステップS120:YES)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS140へと進む。
【0099】
そして、電子制御装置100はステップS140においてそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続し、このルーチンを終了する。
一方、ステップS120において、クランクカウンタが推定範囲から外れている旨の判定がなされた場合(ステップS120:NO)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS130へと進む。
【0100】
そして、電子制御装置100は、ステップS130においてアイドリングストップ制御を中止してスタータモータ40を駆動し、通常の始動制御を開始する。
このようにクランクカウンタの値が推定範囲から外れたものであり、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動される。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、内燃機関を再起動させる。
【0101】
このように本実施形態の車載内燃機関にあっては、機関休止時に、クランクカウンタの値が推定範囲から外れたものであり、クランクカウンタの値が誤ったものであると判定された場合には、通常の始動制御によって再起動が行われ、休止条件が成立している間も機関運転が継続されるようになる。
【0102】
また、本実施形態にかかる電子制御装置100にあっては、こうした機関休止時の異常判定に加えて、休止条件が成立しなくなったことに基づいて内燃機関を再起動させる再起動時にも異常判定を行うようにしている。
【0103】
図6は休止条件が成立しなくなったときに実行される再起動時異常判定ルーチンにかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。
この再起動時異常判定ルーチンは、休止条件が成立しなくなり、アイドリングストップ制御を通じて内燃機関の自動起動が開始されたときに実行される。
【0104】
図6に示されるように電子制御装置100はこの再起動時異常判定ルーチンを開始すると、まずステップS200において特定位相におけるクランクカウンタの算出が完了したか否かを判定する。
【0105】
本実施形態にあっては、クランク角が「0°CA」になる回転位相を特定位相として設定しており、ここでは、吸気側カム角信号及び排気側カム角信号の変化パターンに基づいて吸気側カム角信号の第1のHi信号(60°CAに亘って継続するHi信号)の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されたときに特定位相にあることを判定するようにしている。そして、本実施形態にあっては、吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知され、特定位相にあることが判定されたときに、そのときに算出されているクランクカウンタの値を判定用の値として取得するようにしている。
【0106】
このステップS200では、この特定位相におけるクランクカウンタの値の算出が完了しているか否かを判定し、判定用の値が既に取得されているか否かを判定する。
ステップS200において自動起動が開始されてから特定位相におけるクランクカウンタの算出が未だに完了していない旨の判定がなされた場合(ステップS200:NO)には、ステップS240へと進む。そして、電子制御装置100はそのまま自動起動制御を継続し、このルーチンを一旦終了する。
【0107】
一方、ステップS200において特定位相におけるクランクカウンタの算出が完了した旨の判定がなされた場合(ステップS200:YES)には、ステップS210へと進む。そして、ステップS210において電子制御装置100は、判定値として取得した特定位相において算出したクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値とのずれの大きさを算出する。
【0108】
尚、この基準値は、特定位相におけるクランクカウンタの値の正しい値の基準として予め電子制御装置100に記憶されている値であり、本実施形態にあっては、「0」に設定されている。
【0109】
ステップS210において、判定値として取得した特定位相において算出したクランクカウンタの値と、基準値とのずれの大きさを算出するとステップS220へと進む。
そして、電子制御装置100は、算出されたずれの大きさが規定値未満であるか否かを判定する。尚、ここでは、規定値が「60°CA」に設定されている。すなわち、このステップS220では、特定位相において実際に算出されたクランクカウンタの値と基準値とが「60°CA」以上乖離しているか否かを判定する。
【0110】
ステップS220において、算出されたずれの大きさが規定値未満である旨の判定がなされた場合(ステップS220:YES)、すなわちクランクカウンタの値と基準値との乖離が60°CA未満である場合には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS240へと進む。
【0111】
そして、電子制御装置100はステップS240においてそのままアイドリングストップ制御による自動起動制御を継続し、このルーチンを終了する。
一方、ステップS220において、算出されたずれの大きさが規定値以上である旨の判定がなされた場合(ステップS220:NO)、すなわちクランクカウンタの値と基準値との乖離が60°CA以上である場合には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS230へと進む。
【0112】
そして、電子制御装置100は、ステップS230において自動起動制御を中止し、欠け歯検出による気筒判別が完了してから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御を開始する。
【0113】
このようにクランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には、誤ったクランクカウンタに基づく自動起動制御の実行が中止され、通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行し、内燃機関を再起動させる。
【0114】
このような、異常判定ルーチンを実行することによる作用を図7〜9を参照して説明する。
尚、図7はクランクカウンタにずれが生じていない場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7にあっては説明の便宜上、クランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を図7の上部に示されるように帯状に図示している。尚、図7の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0115】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図7に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
そして、時刻t10において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「510」が電子制御装置100に記憶される。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。尚、カムポジションセンサ106,107はカムシャフト60,70が停止している場合であっても信号を出力することのできる磁気抵抗素子タイプのセンサであるため、図7に示されるように機関停止中であってもカムシャフト60,70の回転位相に応じたカム角信号が出力され続ける。
【0116】
図7に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0117】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じておらず、記憶されたクランクカウンタの値「510°」が推定された「480〜530」の範囲内に含まれるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断される。そのため、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続する。
【0118】
時刻t11において休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされると、それに基づいて自動起動制御が開始され、時刻t12においてスタータモータ40が駆動されて機関回転速度が上昇し始める。この自動起動制御のとき、電子制御装置100は、記憶されているクランクカウンタの値「510°」を参照して自動起動制御を開始した時点から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0119】
尚、時刻t13においてクランク角が720°CAに達するとクランクカウンタはリセットされ、図7に示されるように再び「0」からカウントが再開される。
また、休止条件が成立しなくなると上述したように再起動時異常判定ルーチンが実行されるため、時刻t13において吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されると、特定位相にあることが判定され、リセットされたクランクカウンタの値「0」が判定用の値として取得される。そして、判定値として取得したこのクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値「0」とのずれの大きさが規定値である「60°CA」未満であるか否かが判定される。
【0120】
ここでは、ずれの大きさが「60°CA」未満であるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断されそのままアイドリングストップ制御による自動起動制御が継続される。
【0121】
また、吸気側カム角信号において第1のHi信号が検出されたあとに時刻t14において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定されるが、このときのクランクカウンタは図7の右側下方に示されるように「90」になっている。
【0122】
このようにクランクカウンタにずれが生じていない場合には、自動起動制御による再起動がなされ、停止時に記憶されたクランクカウンタの値に基づいて再起動開始時から各気筒に対して個別の燃料噴射や点火が実行され、内燃機関の再起動が早期に完了するようになる。
【0123】
次に図8を参照して機関休止に伴うクランクシャフト50の停止直前にクランクカウンタにずれが生じた場合の作用を説明する。尚、図8は機関休止に伴うクランクシャフト50の停止直前に、ノイズの影響によってクランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7と同様に、図8にあってもクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を帯状に図示している。また、図8の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0124】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図8に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
このとき、時刻t20においてノイズが発生し、このノイズがパルス信号に重なると、その影響によってクランクカウンタが変化し、クランクカウンタの値が、破線で示される正常な場合のクランクカウンタの値からずれてしまう。
【0125】
時刻t21において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値が電子制御装置100に記憶される。尚、上記のようにこのときのクランクカウンタの値はノイズの影響によって正常なクランクカウンタの値(510)からずれた値(600)になっている。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
【0126】
図8に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0127】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じており、記憶されたクランクカウンタの値「600」が推定された範囲から外れているため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0128】
そして、電子制御装置100は、時刻t22において記憶されているクランクカウンタの値を消去し、アイドリングストップ制御を中止して通常の始動制御を開始する。すなわち、休止条件が成立している状態であっても、スタータモータ40を駆動して欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0129】
時刻t22において通常の始動制御による起動指令がなされると、スタータモータ40が駆動されて時刻t23から機関回転速度が上昇し始める。尚、このときには気筒判別が完了していないため、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火は実行されていない。また、クランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされたままになっている。
【0130】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t24において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、クランクカウンタが「90」に設定される。
【0131】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このようにクランクシャフト50が停止したときに、クランクカウンタにずれが生じていることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、機関休止時に記憶されているクランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであることが判定され、記憶されているクランクカウンタの値が誤ったものであると判定された場合には、通常の始動制御によって再起動が行われ、休止条件が成立している間も機関運転が継続されるようになる。
【0132】
最後に、図9を参照してアイドリングストップ制御による運転休止中にクランクシャフト50が動き、クランクカウンタにずれが生じた場合の作用を説明する。尚、図9は運転休止中にクランクシャフト50が動き、クランクカウンタにずれが生じた場合の運転状態の変化態様を示すタイムチャートである。図7及び図8と同様に、図9にあってもクランクポジションセンサ105から出力される信号に基づくパルス信号が極めて短い間隔で出力されているときの状態を帯状に図示している。また、図9の上部に矢印で示されている帯状に図示されている部分が途切れている箇所は、欠け歯部152がクランクポジションセンサ105の前を通過する欠け歯検出のタイミングを示している。
【0133】
休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図9に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
そして、時刻t30において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「510」が電子制御装置100に記憶される。クランクカウンタの値が記憶されると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
【0134】
図9に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0135】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じておらず、記憶されたクランクカウンタの値「510」が推定された「480〜530」の範囲内に含まれるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断される。そして、電子制御装置100はそのままアイドリングストップ制御による運転休止を継続する。
【0136】
この運転休止中に、クランクシャフト50が何らかの理由により動いてしまった場合には、クランク角や、カムシャフト60,70の回転位相が変化してしまう。しかし、電子制御装置100は、アイドリングストップ制御における自動起動制御において機関停止時に記憶されたクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。
【0137】
図9に示されるように時刻t31において休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされると、それに基づいて時刻t32において自動起動制御が開始され、スタータモータ40が駆動されて機関回転速度が上昇し始める。この自動起動制御のとき、電子制御装置100は、上述したように記憶されているクランクカウンタの値「510」を参照して自動起動制御を開始した時点から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する。その結果、誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火の制御がなされることになるため、適切なタイミングで各気筒に燃料を噴射することや、適切なタイミングで点火を行うことができなくなってしまう。
【0138】
しかし、その後、時刻t33において吸気側カム角信号の第1のHi信号の立ち上がりタイミングが到来したことが検知されると、特定位相にあることが判定され、このときのクランクカウンタの値「570」が判定用の値として取得される。そして、判定値として取得したこのクランクカウンタの値と、特定位相におけるクランクカウンタの値の基準値「0」とのずれの大きさが規定値である「60°CA」未満であるか否かが判定される。
【0139】
ここでは、「0」、すなわち720°CAに到達してリセットされているはずのクランクカウンタの値が「570」になっている。そのため、ずれの大きさは「150°CA」であり、ずれの大きさが「60°CA」以上であるため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0140】
そして、電子制御装置100はこの結果に基づいて、クランクカウンタの値を消去し、アイドリングストップ制御を中止して通常の始動制御を開始する。すなわち、クランクカウンタの値に基づく自動起動制御を中止して、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0141】
時刻t33において通常の始動制御が開始されると、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が停止された状態で、スタータモータ40によるクランクシャフト50の駆動が実行される。尚、このときにはクランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされたままになっている。
【0142】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t34において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、このときにクランクカウンタが「90」に設定される。
【0143】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このように自動起動制御実行中に、クランクカウンタにずれが生じていることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には自動起動制御が中止され、通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。
【0144】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)クランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70の回転位相に基づいて出力されるカム角信号を参照してクランクカウンタの取り得る範囲を推定するようにしている。そして、記憶されているクランクカウンタの値がその推定された範囲から外れている場合には、そのクランクカウンタの値を利用せずに気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行するようにしている。
【0145】
クランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70の回転位相に基づいて出力されるカム角信号の値と、クランク角とは互いに一定の相関関係を有している。そのため、記憶されているクランクカウンタの情報が、クランクシャフト50とともに回転するカム角信号に基づいて推定される範囲から外れている場合には、記憶されているクランクカウンタの値が誤ったものであることが推定される。
【0146】
そのため、上記実施形態のように記憶されているクランクカウンタの値が、カム角信号に基づいて推定される範囲から外れている場合に、その記憶されているクランクカウンタの値を利用せずに通常の始動制御を実行する構成によれば、誤ったクランク角の情報に基づいて自動起動が実行されてしまうことを抑制することができる。
【0147】
また、カムシャフト60,70が停止しているときであってもカムシャフト60,70の回転位相に基づくカム角信号を出力することのできる磁気抵抗素子タイプのカムポジションセンサ106,107を設けるようにしている。そして、クランクシャフト50が停止したあとに、そのカムポジションセンサ106,107によって出力されているカム角信号に基づいてクランクカウンタの範囲を推定し、クランクカウンタの値がその範囲に含まれるか否かを判定するようにしている。そのため、クランクシャフト50が停止する直前にクランクポジションセンサ105に異常が発生した場合や、ノイズ等の影響によりクランクカウンタにずれが生じた場合等、クランクシャフト50の回転方向を監視することにより異常の発生を判定するようにしている場合には検知できないような異常が発生した場合であっても、クランクカウンタにずれが生じていることを検知することができる。
【0148】
したがって、クランクカウンタにずれが生じた場合や、クランクシャフト50の回転が停止する直前にクランクポジションセンサ105に異常が発生した場合であっても、その異常を検知することができる。そして、誤ったクランク角の情報に基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができ、排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0149】
(2)クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶された直後にクランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲に含まれるものであるか否かを判定し、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れていることが判定された場合にそれに基づいて通常の始動制御を実行するようにしている。そのため、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであるときに、通常の始動制御により機関運転が再開され、休止条件が成立している場合であっても機関運転が継続されるようになる。
【0150】
したがって、その後に再発進をする場合に速やかに車両を発進させることができる。すなわち、休止条件が成立しなくなったときに正常に機関運転を再開させることができず、車両を速やかに再発進させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができる。
【0151】
(3)機関回転速度が一定の場合、すなわちクランクシャフト50とともに回転するカムシャフト60,70に固定されたセンサプレート160,170の回転速度が一定の場合には、占有範囲が広い被検出体がカムポジションセンサ106,107に近接しているときほどLo信号の検出期間が長くなる。一方で、占有範囲が狭い被検出体がカムポジションセンサ106,107に近接しているときほどLo信号の検出期間が短くなる。
【0152】
そのため、上記実施形態のようにセンサプレート160,170の周方向における占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレート160,170を具備する構成であれば、センサプレート160,170の回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンがカムポジションセンサ106,107の前を通過する被検出体の占有範囲の大きさに応じて変化するようになる。
【0153】
したがって、出力されるカム角信号の変化のパターンを認識することにより、どの被検出体がカムポジションセンサ106,107に対向する回転位相であるかを判別し、より速やかに且つ的確にカムシャフト60,70の回転位相を検知することができるようになる。したがって、カム角信号に基づいてより速やかに且つ的確にクランクカウンタの取り得る範囲を推定することができる。
【0154】
これに対して、被検出体の占有範囲の大きさがすべて等しく設定されている場合には、センサプレートの回転に伴って検出されるカム角信号の変化パターンに基づいてどの被検出体に対応する回転位相であるかを判別することはできない。
【0155】
すなわち、上記実施形態のように占有範囲の大きさが、それぞれに異なる複数の被検出体を備えるセンサプレート160,170を具備する構成によれば、被検出体の占有範囲の大きさがすべて等しく設定されている場合と比較して、より速やかに且つ的確にクランクカウンタの範囲を推定することができる。
【0156】
(4)上記実施形態のように位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じてクランクカウンタの範囲を推定するようにすれば、各カムポジションセンサから出力されるカム角信号の組合せのパターンが増えるため、その分だけ、推定することのできる範囲の分解能が高くなる。
【0157】
すなわち、1つのカムポジションセンサから出力されるカム角信号の種類に応じてクランクカウンタの取り得る範囲を推定する場合よりも高い精度でクランクカウンタの取り得る範囲を推定することができるようになる。
【0158】
(5)自動起動時にカム角信号に基づいて特定位相に到達したことを判定し、そのときのクランクカウンタと基準値とを比較することにより、クランクカウンタが正しいものであるか否かを判定するようにしているため、休止中にクランクカウンタにずれが生じた場合にもその後の起動時にそれを検知して対応することができる。
【0159】
そして、クランクカウンタが正しいものではない旨の判定がなされた場合には自動起動を停止して、通常の始動制御による再起動を行うようにしている。そのため、誤ったクランク角の情報に基づいて燃料噴射や点火が継続されることを抑制することができ、誤った情報に基づく燃料噴射や点火が継続されて排気性状の悪化してしまうといった事態や、内燃機関を正常に起動させることができなくなってしまうといった事態を的確に回避することができる。
【0160】
尚、上記の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態によって実施することもできる。
・上記実施形態にあっては、吸気カムシャフト60にセンサプレート160を設ける一方で、排気カムシャフト70にセンサプレート170を設け、位相をずらして出力されるカム角信号に基づいてクランクカウンタの範囲を推定する構成を示した。
【0161】
これに対して複数のカム角信号が、位相をずらして出力される構成であれば、その出力される信号の変化のパターンを認識することにより、そのときに取り得るクランクカウンタの範囲を推定することができる。
【0162】
そのため、上記実施形態のように吸気カムシャフト60と排気カムシャフト70にそれぞれセンサプレート160,170を設ける構成に限らず、吸気カムシャフト60又は排気カムシャフト70のいずれか一方に2つのセンサプレートを設け、そこから位相のずれた2つのカム角信号を検出する構成を採用することもできる。
【0163】
・また、1つのセンサプレートに対して位相をずらして2つのカムポジションセンサを設け、各カムポジションセンサから出力される2つの信号の変化のパターンに基づいてカムシャフトの回転位相を検知し、クランクカウンタの値を推定する構成を採用することもできる。
【0164】
・更にカムポジションセンサを3つ以上設け、3つ以上のカム角信号の組合せのパターンに基づいてクランク角の範囲を推定する構成を採用することもできる。
・また、複数のカム角信号の組合せのパターンに基づいてクランクカウンタの範囲を推定する構成に比べて推定することのできる範囲の分解能は劣るものの、1つのカム角信号に基づいてクランクカウンタの取り得る範囲を推定する構成を採用することもできる。
【0165】
・また、上記実施形態にあっては、センサプレート160,170にそれぞれ占有範囲の大きさの異なる3つの被検出体を設ける構成を示したが、被検出体の数は2つであってもよい。また、4つ以上の被検出体を設けるようにしてもよい。尚、被検出体の数が多いほど、カム角信号に基づいて推定することのできる回転位相の分解能は、高くなる。そのため、カム角信号に基づいて推定する回転位相の分解能を高くして精度の高い判定を行うためには、センサプレートに設ける被検出体の数を極力多く設定することが望ましい。
【0166】
・また、必ずしも吸気側センサプレート160と排気側センサプレート170の形状を同一にしなくてもよい。すなわち、各カム角信号に基づいてクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定することができるのであれば、吸気側センサプレート160と排気側センサプレート170の形状は異なっていてもよい。例えば、吸気側センサプレート160が4つの被検出体を備える一方で、排気側センサプレート170が3つの被検出体を備える構成を採用することもできる。
【0167】
・上記実施形態にあっては、クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶された直後に、記憶されたその値が、カム角信号に基づいて推定されるクランクカウンタの範囲内に含まれるか否かを判定するようにしていた。
【0168】
これに対して、クランクシャフト50が停止したあとであれば、クランクカウンタの値がカム角信号に基づいて推定される範囲内に含まれるものであるか否かを判定するタイミングは適宜変更することができる。
【0169】
例えば、クランクカウンタが記憶された直後に判定する構成に替えて、クランクシャフト50が停止してクランクカウンタの値が記憶されたあと休止条件が成立しなくなったときに、判定する構成を採用することもできる。
【0170】
こうした構成を採用する場合には、アイドリングストップ制御による機関運転休止中に図10に示されるような異常判定ルーチンを実行するようにすればよい。
電子制御装置100は、この異常判定ルーチンを開始すると、図10に示されるようにまず、ステップS10において、休止条件が成立しなくなったか否かを判定する。
【0171】
そして、ステップ10において、休止条件が成立している旨の判定がなされた場合(ステップS10:NO)には、この処理を一旦終了する。
一方、ステップS10において、休止条件が成立しなくなった旨の判定がなされた場合(ステップS10:YES)には、ステップS300へと進み、上記実施形態と同様に上記の表1に示されるように吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲を算出してクランクカウンタの値が取り得る範囲を推定する。
【0172】
こうしてクランクカウンタの推定範囲を算出すると、ステップS310へと進み、電子制御装置100はクランクカウンタの値が推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
ステップS310において、クランクカウンタが推定範囲内に含まれる旨の判定がなされた場合(ステップS310:YES)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即した正しいものであると判断し、ステップS330へと進む。
【0173】
そして、電子制御装置100はステップS330において、記憶されているクランクカウンタの値に基づいて起動開始時から各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する自動起動制御を実行し、このルーチンを終了する。
【0174】
一方、ステップS310において、クランクカウンタが推定範囲から外れている旨の判定がなされた場合(ステップS310:NO)には、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断し、ステップS320へと進む。
【0175】
そして、電子制御装置100は、ステップS320において自動起動制御の実行を禁止してスタータモータ40を駆動し、欠け歯検出による気筒判別が完了してから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御を実行する。
【0176】
こうした構成を採用した場合には、図11に示されるように休止条件が成立しなくなり、起動指令がなされた直後から通常の始動制御による再起動が行われるようになる。
具体的には、休止条件の成立に伴い、機関運転が休止されると、図11に示されるように機関回転速度が低下し、パルス信号の出力される間隔が長くなる。
【0177】
このとき、時刻t40においてノイズが発生し、このノイズがパルス信号に重なると、その影響によってクランクカウンタが変化し、クランクカウンタの値が、破線で示される正常な場合のクランクカウンタの値からずれてしまう。
【0178】
時刻t41において機関回転速度が「0」になり、クランクシャフト50の回転が停止すると、機関停止判定がなされ、このときのクランクカウンタの値「600」が電子制御装置100に記憶される。尚、上記のようにこのときのクランクカウンタの値はノイズの影響によって正常なクランクカウンタの値「510」からずれた値「600」になっている。
【0179】
そして、時刻t42において休止条件が成立しなくなると、このときの吸気側カム角信号と排気側カム角信号の組合せに基づいてクランクカウンタの推定範囲が算出される。
図11に示されるように、このときの吸気側カム角信号はHi信号であり、排気側カム角信号はLo信号であるため、上記の表1に示される関係に基づいてクランクカウンタの推定範囲として「0〜50」、「240〜290」及び「480〜530」が算出される。
【0180】
そして、電子制御装置100は記憶されたクランクカウンタの値が、これらの推定範囲のうち、いずれかの推定範囲内に含まれるか否かを判定する。
この場合には、クランクカウンタの値にずれが生じており、記憶されたクランクカウンタの値「600」が推定された範囲から外れているため、これに基づいてクランクカウンタの値が実際のクランク角に即していない誤ったものであると判断される。
【0181】
この結果に基づいて、電子制御装置100は、記憶されているクランクカウンタの値を消去し、自動起動制御の実行を禁止して通常の始動制御を開始する。すなわち、欠け歯検出による気筒判別を行ってから各気筒に対する個別の燃料噴射や点火を実行する通常の始動制御によって内燃機関を再起動させる。
【0182】
時刻t42において起動指令がなされると、スタータモータ40が駆動されて時刻t43から機関回転速度が上昇し始める。尚、このときにはクランクカウンタの値は初期値である「0」にリセットされている。また気筒判別が完了していないため、各気筒に対する個別の燃料噴射や点火は実行されていない。
【0183】
吸気側カム角信号における第1のHi信号が検出されたあとに時刻t44において欠け歯検出がなされると、クランク角が「90°CA」であることが推定され、気筒判別が完了する。そして、クランクカウンタが「90」に設定される。
【0184】
こうして気筒判別が完了し、クランクカウンタ「90」に設定されるとクランクカウンタの値に基づいて各気筒に対する個別の燃料噴射や点火が実行されるようになる。
このように休止条件が成立しなくなったときに、クランクカウンタの値が推定される範囲から外れたものであることが判定され、クランクカウンタの値が誤ったものであると判断された場合には通常の始動制御によって内燃機関が再起動されるようになる。すなわち、誤ったクランク角の情報に基づく自動起動が実行されずに、通常の始動態様による始動が実行されるため、正しいクランク角の情報に基づく正常な自動起動により内燃機関が起動される場合よりも再起動にかかる時間は長くなるものの、的確に内燃機関を再起動することができるようになる。
【0185】
したがって、アイドリングストップにより燃料消費量の低減を図りつつ、誤ったクランク角に基づく自動起動を禁止することができ、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができる。
【0186】
また、アイドリングストップ機能による運転休止中にクランクシャフト50が動いてしまい、実際のクランクシャフト50の回転角と記憶されているクランク角の情報とが対応しなくなってしまった場合等にも記憶されているクランク角の情報を利用せずに、通常の始動制御を通じて再起動が行われるようになる。そのため、運転休止中にクランク角の情報にずれが生じた場合にも、誤ったクランク角に基づく自動起動によって排気性状が悪化したり、自動起動を正常に完了させることができなくなったりすることを抑制することができるようになる。
【0187】
・尚、こうした異常判定ルーチンと上記実施形態における運転休止時異常判定ルーチンとの双方を実行するようにしてもよい。すなわち、休止条件が成立してクランクカウンタが記憶されるときに運転休止時異常判定ルーチンを実行する一方、アイドリングストップ制御による機関運転休止中には図10に示される異常判定ルーチンを実行するようにしてもよい。
【0188】
・尚、上記図10に示されるようにクランクカウンタが推定範囲内に含まれるか否かを判定する異常判定処理ルーチンを、クランクシャフト50が停止したあとに実行する構成であれば、誤ったクランクカウンタに基づいて内燃機関が自動起動されてしまうことを抑制することができる。そのため、上記のように休止条件が成立しなくなったときのみならず、クランクシャフト50が停止したときよりもあとであり、且つ休止条件が成立しなくなるよりも前の時点、すなわち休止条件が成立している運転休止中にクランクカウンタが推定範囲内に含まれるか否かを判定する異常判定ルーチンを実行する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0189】
10…燃料噴射弁、20…点火プラグ、30…電子制御スロットル、40…スタータモータ、50…クランクシャフト、60…吸気カムシャフト、70…排気カムシャフト、100…電子制御装置、101…アクセルポジションセンサ、102…スロットルポジションセンサ、103…エアフロメータ、104…水温センサ、105…クランクポジションセンサ、106…吸気カムポジションセンサ、107…排気カムポジションセンサ、108…ブレーキスイッチ、109…車速センサ、150…タイミングロータ、151…突起、152…欠け歯部、160…吸気側センサプレート、161…第1の被検出体、162…第2の被検出体、163…第3の被検出体、170…排気側センサプレート、171…第1の被検出体、172…第2の被検出体、173…第3の被検出体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、
カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランク角の情報とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶された直後に、
記憶されたクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、
記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶されたあと、前記休止条件が成立しなくなったときに、
記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、
記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記カムポジションセンサが、カムシャフトに固定されてその周縁部に複数の被検出体が設けられているセンサプレートの周囲における前記被検出体と対向可能な位置に配設されて前記被検出体が近接した状態のときには第1の信号を出力する一方、前記被検出体が離間した状態のときには第2の信号を出力するものであり、
同カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいて前記クランク角の範囲を推定する請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記センサプレートは、前記複数の被検出体として、同センサプレートの周方向における占有範囲の大きさがそれぞれに異なる被検出体を備えている
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記カムポジションセンサを複数備え、各カムポジションセンサから位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する
請求項4又は請求項5に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項7】
吸気カムシャフトに固定された第1のセンサプレートと、前記第1のセンサプレートと位相をずらした状態で排気カムシャフトに固定された第2のセンサプレートと、第1のセンサプレートの周囲に配設される第1のカムポジションセンサと、前記第2のセンサプレートの周囲に配設される第2のカムポジションセンサとを備え、
前記第1のカムポジションセンサから出力されているカム角信号と前記第2のカムポジションセンサから出力されているカム角信号との組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する
請求項6に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項8】
クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、
カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角とを比較することによって記憶されているクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、正しいものではない旨の判定がなされたときには、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置。
【請求項1】
クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、
カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲と、記憶されているクランク角の情報とを比較し、記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合に、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶された直後に、
記憶されたクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、
記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記クランクシャフトが停止して前記クランク角の情報が記憶されたあと、前記休止条件が成立しなくなったときに、
記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲とを比較し、
記憶されているクランク角の情報が、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角の範囲から外れている場合には、その判定に基づいて前記通常の始動態様による始動を開始する
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記カムポジションセンサが、カムシャフトに固定されてその周縁部に複数の被検出体が設けられているセンサプレートの周囲における前記被検出体と対向可能な位置に配設されて前記被検出体が近接した状態のときには第1の信号を出力する一方、前記被検出体が離間した状態のときには第2の信号を出力するものであり、
同カムポジションセンサから出力されているカム角信号の種類に基づいて前記クランク角の範囲を推定する請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記センサプレートは、前記複数の被検出体として、同センサプレートの周方向における占有範囲の大きさがそれぞれに異なる被検出体を備えている
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記カムポジションセンサを複数備え、各カムポジションセンサから位相をずらして出力されるカム角信号の組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する
請求項4又は請求項5に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項7】
吸気カムシャフトに固定された第1のセンサプレートと、前記第1のセンサプレートと位相をずらした状態で排気カムシャフトに固定された第2のセンサプレートと、第1のセンサプレートの周囲に配設される第1のカムポジションセンサと、前記第2のセンサプレートの周囲に配設される第2のカムポジションセンサとを備え、
前記第1のカムポジションセンサから出力されているカム角信号と前記第2のカムポジションセンサから出力されているカム角信号との組合せのパターンに応じて前記クランク角の範囲を推定する
請求項6に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項8】
クランクシャフトが一定角度回転する度に出力されるパルス信号を計数することによってクランク角を検知する一方、休止条件が成立したときに自動的に機関運転を休止するとともに、運転休止に伴ってクランクシャフトが停止したときに検知されているクランク角の情報を記憶し、休止条件が成立しなくなったときに、記憶されている前記クランク角の情報を利用して各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行いながら内燃機関を自動起動するアイドリングストップ機能を備える車載内燃機関の制御装置であって、
カムシャフトが停止しているときであってもカムシャフトの回転位相に基づくカム角信号を出力することのできるカムポジションセンサを備え、クランクシャフトが停止したあと、記憶されているクランク角の情報と、前記カムポジションセンサから出力されているカム角信号に基づいて推定されるクランク角とを比較することによって記憶されているクランク角の情報が正しいものであるか否かを判定し、正しいものではない旨の判定がなされたときには、記憶されているクランク角の情報を利用せずに、気筒判別がなされてから各気筒に対する個別の燃料噴射及び点火を行う通常の始動態様による始動を実行する車載内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−62802(P2012−62802A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206826(P2010−206826)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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