説明

車載器

【課題】車両に搭載される通信端末におけるオーバーリーチの影響を軽減し、基地局との通信の確実性を向上させること。
【解決手段】周辺の基地局40を検出したか否かを判断する(S125)。検出した場合には(S125:YES)、検出した基地局40をRAMが記憶するリストに登録し、検出した周辺の基地局の位置情報(位置座標)を収集する(S130)。ナビゲーションECU20から取得した車両の位置座標と収集した周辺の基地局の位置座標とを比較し、車両の所定距離内に基地局40が存在するか否かを判断する(S135)。存在する場合には(S135:存在する)、車両の所定距離内に存在する基地局40の中から受信感度の良い基地局40を選択して通信を試みる(S140)。このとき、検出した電波の受信レベルが大きい順に通信を試みる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話は、複数の基地局からの電波を受信し、これらのうち受信強度の強い電波を送信する基地局との間で通信を開始するようになっている。このとき、携帯電話が、稀に極めて遠方の基地局からの電波を受信することがある。例えば、山頂部など周囲に障害物が存在しない場所に設置されている基地局などである。このような場合、基地局側の送信電波が携帯電話に届くにも関わらず、携帯電話側の送信電波が基地局に届かないという現象が発生することがある(図3のS310およびS320参照)。この現象をオーバーリーチという。このように携帯電話からの電波が通信相手の基地局に届かない場合、携帯電話の画面上ではアンテナが立っていて通信可能であることを示しているにも拘わらず、実際には基地局との通信ができないという状態になってしまう。
【0003】
なお、特許文献1には、上述のようなオーバーリーチの発生を基地局側で防止するための技術が開示されている。具体的には、各無線基地局は、上り制御チャネル信号を受信すると、この信号の受信電界レベル(信号受信電界レベル)を常に測定する。上り制御チャネル信号の受信が完了すると、各無線基地局は上記信号受信電界レベルの測定値(以下測定値)と上記電界レベル閾値とを比較し、上記測定値が上記電界レベル閾値以上であれば受信した上り制御チャネル信号が自身の属するサービスエリア内に存在する移動体電話端末から受信したものであるとして、上記上り制御チャネルの信号を移動体電話交換局に中継する。一方、上記測定値が上記電界レベル閾値未満であると、上記各無線基地局は、自身の属するサービスエリア外に存在する移動体電話端末から上り制御チャネルの信号を受信した、つまり上り制御チャネルのオーバーリーチが発生したと判断して、受信した上り制御チャンネル信号を破棄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2731708号公報(第2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ITS(Intelligent Transport System)のために携帯電話技術を応用した通信端末が車両に搭載されている。このような車載の通信端末(いわゆる車載器)は、山間部や平野部など様々な場所で使われる可能性がある。そのため、通常の携帯電話よりもオーバーリーチに遭いやすい場所で通信を行う頻度が多いと考えられる。
【0006】
また、車載器は、用途として緊急通報システムの一部として使われる場合も多く、この観点からもオーバーリーチの影響を軽減することが望まれている。なお、こうした問題の解決には、オーバーリーチの発生を基地局側で防止する特許文献1の技術では不十分である。このような基地局側の対策は全ての基地局に実施する必要があり、現実問題として既に敷設されている基地局を変更していくことは莫大な費用が必要となり、実現が期待できないからである。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、車両に搭載される通信端末である車載器におけるオーバーリーチの影響を軽減し、基地局との通信の確実性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る車載器(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、車両に搭載され、基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行い、電波検出手段(14)と、位置座標特定手段(14)と、位置座標取得手段(14)と、通信手段(12)と、通信制御手段(14)と、を備える。
【0009】
まず、電波検出手段は、基地局からの電波を検出し、検出した電波の受信レベルを検出する。また、位置座標特定手段は、車両の位置座標を特定する。また、位置座標取得手段は、電波検出手段によって電波が検出された基地局の位置座標を取得する。
【0010】
また、通信手段は、電波検出手段によって電波が検出された基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う。
そして、通信制御手段は、位置座標特定手段が特定した車両の位置座標と位置座標取得手段が取得した基地局の位置座標とを比較することにより、電波検出手段によって電波が検出された基地局が車両の所定距離内に存在するか否かを基地局ごとに判定する。さらに、通信制御手段は、車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を選択し、通信手段を制御して、選択された基地局との通信を試みる。
【0011】
このように構成された本発明の車載器によれば、電波を受信した基地局のうち、車両の所定距離内に存在する基地局を選択し、車両の所定距離外に存在する基地局を排除する。このことにより、オーバーリーチの発生を車載器側で防止することができる。さらに、車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を選択して通信を試みる。このことにより、車両が移動しても、選択された基地局の通信可能圏から車両が外れにくくなるために通信状況が悪化しにくく、この点からもオーバーリーチが発生しにくくなる。
【0012】
さらに、このようにオーバーリーチが発生しにくくなると、カージャック発生時などに緊急通報を確実に行うことができる。
したがって、車載器におけるオーバーリーチの影響を軽減し、基地局との通信の確実性を向上させることができる。
【0013】
この場合、請求項3のように、通信制御手段が、車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を受信レベルが大きい順に選択し、通信手段を制御して、選択された基地局との通信を順に試みることが考えられる。このように構成すれば、通信状況がより良好な基地局との間で通信を確立することができる。
【0014】
また、本発明は、基地局との通信を行う必要性が生じたときにスリープ状態から起動状態となり、前記基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う車載器に適用可能である(請求項2)。
【0015】
なお、基地局との通信を行う必要性が生じたときとは、イグニッションがオンであり、且つエアバックが展開したときであることや、カージャックが発生したときであること、アクセサリースイッチがオンであり、且つイグニッションがオンであるときであること、ナビゲーションシステムなどの外部機器が接続された際に電圧を検出したこと、などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の車載器および基地局を示すブロック図
【図2】車載器が実行する通信確立処理を示すフローチャート
【図3】通信を行う必要性が発生した場合の各構成の処理内容を示すシーケンス図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、様々な態様にて実施することが可能である。
[1.車載器10の構成の説明]
車載器10は、例えば車両等に搭載されており、通常はスリープ状態にある。
【0018】
また、車載器10は、基地局40とCDMA2000による通信方式で通信する無線部12と、各種データを処理する制御部14と、を備える。また、車載器10は、ナビゲーションシステムなどの外部機器が接続される際に電圧を検知可能である。また、車載器10には、アクセサリースイッチ(ACC)がオンになったことを示すアクセサリースイッチからの出力信号、イグニッションスイッチ(IG)がオンになったことを示すイグニッションスイッチからの出力信号、エアバック装置が展開したことを示すエアバック装置からの出力信号が入力され、スリープ状態であるときに電源供給やこれら出力信号(電源信号)が入力されるとスリープ状態から起動状態となるようになっている。また、車載機10はナビゲーションECU20およびセキュリティECU30と接続され、各ECUとの間で各種データの送受信が可能である。また、車載機10には車載のバッテリから電力が提供され(+B)、供給される電力を用いて作動可能である。
【0019】
制御部14は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等から構成されている。制御部14は、ROMまたはフラッシュメモリに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することによって各種データを処理する。
【0020】
なお、無線部12は、通信手段に該当する。また、制御部14は、電波検出手段、位置座標特定手段、位置座標取得手段および通信制御手段に該当する。
ナビゲーションECU20は、GPS(Global Positioning System)の測位を実行するGPS受信機22を備え、車両の位置座標を特定するとともに、特定した位置座標を示す信号を車載器10に出力する機能を有する。
【0021】
セキュリティECU30は、図示しないショックセンサや傾斜センサ等からの信号を受け取り、これら信号に基づきカージャックが発生していると判断したときに、その旨を示すカージャック検出信号を車載器10に出力する機能を有する。
【0022】
このため、車載器10は、車両が盗難された場合にカージャック検出信号をセキュリティECU30から受信すると、スリープ状態から起動状態となる。
基地局40は、他の基地局40と時刻同期を行うためにGPSの測位を実行するGPS受信機42を備え、このGPSの測位機能によって自らの位置座標を特定する機能も有する。また、基地局40は、車載器10とCDMA2000による通信方式で通信するための無線部44を備える。
【0023】
このため、車載器10は、無線部12を介して基地局40の無線部44と無線通信することによって基地局40の位置を知ることができる。
なお、基地局40は、車載器10に対して、例えば、所定範囲として半径5kmの所定距離内に存在するように設置されている。したがって、車載器10と通信している基地局40が分かれば、基地局40の半径5km以内に車載器10が存在することになる。
【0024】
なお、図1では、基地局40を一つのみ図示している。
[2.車載器10の通信確立処理の説明]
次に、車載器10制御部14が実行する通信確立処理について図2のフローチャートおよび図3のシーケンス図を参照して説明する。
【0025】
本処理はスリープ状態であるときに実行される。
まず、S105では、セキュリティECU30からカージャック検出信号を受信したか否かを判断する。受信していない場合には(S105:NO)、S110に移行する。一方、受信した場合には(S105:YES)、S115に移行する。
【0026】
S110では、電源信号を受信したか否かを判断する。なお、電源信号としては、アクセサリースイッチ(ACC)がオンになったことを示す信号、イグニッションスイッチ(IG)がオンになったことを示す信号、エアバック装置が展開したことを示す信号が挙げられる。また、ナビゲーションシステムなどの外部機器が接続されて電圧を検知した場合にも電源信号を受信したとみなす。なお、これらのうちの一つを受信したときに肯定判定するようにしてもよいし、複数を受信したときに肯定判定するようにしてもよい。例えば、イグニッションがオンであり、且つエアバックが展開したときや、アクセサリースイッチがオンであり、且つイグニッションがオンであるときといった具合である。受信していない場合には(S110:NO)、S105に戻る。一方、受信した場合には(S110:YES)、基地局との通信を行う必要性が生じたと判断し、S115に移行する。
【0027】
S115では、車載器10を起動させるための端末起動処理を開始する(図3のS210参照)。
続くS120では、端末起動処理による車載器10の起動を完了する(図3のS220参照)。そして、S125からS160で構成される待ち受けループ処理に移行する。
【0028】
なお、待ち受けループ処理の実行中に車載器10がスリープ状態になったら、待ち受けループ処理を終了してS105に移行する。
待ち受けループ処理が開始されると、S125では、周辺の基地局40を検出したか否かを判断する(図3のS230〜S250参照)。検出した場合には(S125:検出有り)、検出した基地局40をRAMが記憶するリストに登録し、S130に移行する。一方、検出していない場合には(S125:検出無し)、S155に移行する。
【0029】
S130では、検出した周辺の基地局の位置情報(位置座標)を収集する。
続くS135では、ナビゲーションECU20から取得した車両の位置座標(図3のS260参照)と収集した周辺の基地局の位置座標とを比較し、車両の所定距離内に基地局40が存在するか否かを判断する。本実施形態では、所定距離が5kmに設定されている。存在する場合には(S135:存在する)、S140に移行する。一方、存在しない場合には(S135:存在しない)、S150に移行する。
【0030】
S140では、車両の所定距離内に存在する基地局40の中から受信感度の良い基地局40を選択して通信を試みる(図3のS270参照)。このとき、検出した電波の受信レベルが大きい順に通信を試みる。
【0031】
続くS145では、S140で選択されて通信を試みた基地局40との通信が成功したか否かを判断する。通信に失敗した場合には(S145:失敗)、S150に移行する。一方、通信に成功した場合には(S145:成功)、S160に移行する。
【0032】
S150では、車両の所定距離外に存在する基地局40の中から受信感度の良い基地局40を選択して通信を試みる。通信に失敗した場合には(S150:失敗)、S155に移行する。一方、通信に成功した場合には(S150:成功)、S160に移行する。
【0033】
S155では、圏外処理を実行する。具体的には、車両が基地局40の圏外に位置する旨を通知する。そして、S160に移行する。
S160では、一定時間待機する。このとき、通信に成功した基地局40以外の基地局40をリストから除外し(図3のS280参照)、通信に成功した基地局40とのデータの送受信を開始する(図3のS290参照)。そして、S125に戻る。
【0034】
[3.実施形態の効果]
このように本実施形態の車載器10によれば、電波を受信した基地局40のうち、車両の所定距離内に存在する基地局40を選択し、車両の所定距離外に存在する基地局40を排除する。このことにより、オーバーリーチの発生を車載器10側で防止することができる。さらに、車両の所定距離内に存在すると判定された基地局40のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局40を、受信レベルが大きい順に選択して通信を試みる。このことにより、車両が移動しても、選択された基地局40の通信可能圏から車両が外れにくくなるために通信状況が悪化しにくく、この点からもオーバーリーチが発生しにくくなる。また、通信状況がより良好な基地局40との間で通信を確立することができる。
【0035】
さらに、このようにオーバーリーチが発生しにくくなると、カージャック発生時などに緊急通報を確実に行うことができる。
したがって、車載器10におけるオーバーリーチの影響を軽減し、基地局40との通信の確実性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0036】
10…車載器、12…無線部、14…制御部、20…ナビゲーションECU、22…GPS受信機、30…セキュリティECU、40…基地局、42…GPS受信機、44…無線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う車載器であって、
前記基地局からの電波を検出し、検出した電波の受信レベルを検出する電波検出手段と、
前記車両の位置座標を特定する位置座標特定手段と、
前記電波検出手段によって電波が検出された基地局の位置座標を取得する位置座標取得手段と、
前記電波検出手段によって電波が検出された基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う通信手段と、
前記位置座標特定手段が特定した前記車両の位置座標と前記位置座標取得手段が取得した前記基地局の位置座標とを比較することにより、前記電波検出手段によって電波が検出された基地局が前記車両の所定距離内に存在するか否かを前記基地局ごとに判定し、前記車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を選択し、前記通信手段を制御して、選択された基地局との通信を試みる通信制御手段と、
を備えることを特徴とする車載器。
【請求項2】
車両に搭載され、基地局との通信を行う必要性が生じたときにスリープ状態から起動状態となり、前記基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う車載器であって、
起動状態となると、前記基地局からの電波を検出し、検出した電波の受信レベルを検出する電波検出手段と、
起動状態となると、前記車両の位置座標を特定する位置座標特定手段と、
前記電波検出手段によって電波が検出された基地局の位置座標を取得する位置座標取得手段と、
前記電波検出手段によって電波が検出された基地局との間でデータが載せられた電波を用いた通信を行う通信手段と、
前記位置座標特定手段が特定した前記車両の位置座標と前記位置座標取得手段が取得した前記基地局の位置座標とを比較することにより、前記電波検出手段によって電波が検出された基地局が前記車両の所定距離内に存在するか否かを前記基地局ごとに判定し、前記車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を選択し、前記通信手段を制御して、選択された基地局との通信を試みる通信制御手段と、
を備えることを特徴とする車載器。
【請求項3】
前記通信制御手段は、前記車両の所定距離内に存在すると判定された基地局のうち、検出した電波の受信レベルが所定値よりも大きい基地局を受信レベルが大きい順に選択し、前記通信手段を制御して、選択された基地局との通信を順に試みることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車載器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−288153(P2010−288153A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141445(P2009−141445)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】