説明

車輪用軸受装置

【課題】自動車の組立工場等での組立工数の削減が可能で、生産性に優れるとともに、コスト低減を図ることが可能な車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】転がり軸受2は、内周に複列の外側転走面26,27が形成された外輪25と、外周に外側転走面26,27に対向する内側転走面28,29が形成された一対の内輪24と、外輪の外側転走面26,27と内輪の内側転走面26,27との間に転動自在に収容された複列の転動体30とを備える。少なくとも外輪25が冷間ローリングにて成形されて、組立られた状態の転がり軸受2がハブ輪1に圧入により一体化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方に内側転走面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側転走面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
【0003】
このような車輪用軸受装置では、車体側のナックルに圧入する必要がある。このため、第1世代の車輪用軸受装置では組立や交換に工数が必要となる。しかしながら、第1世代の車輪用軸受装置は、第2世代や第3世代の車輪用軸受装置よりも安価に製造できるため、小型車用に使用される場合が多い。
【0004】
第1世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図6に示すように、外径方向に延びるフランジ101を有するハブ輪102と、このハブ輪102に外側継手部材103が固定される等速自在継手104と、ハブ輪102の外周側に配設される軸受100とを備える。
【0005】
等速自在継手104は、前記外側継手部材103と、外側継手部材103に配設される内側継手部材(図示省略)と、この内側継手部材と外側継手部材103との間に配設されるボール(図示省略)と、このボールを保持する保持器(図示省略)とを備える。外側継手部材103は、内側継手部材は収納される椀形のマウス部107と、このマウス部107から突設される軸部(ステム部)123とからなる。
【0006】
また、ハブ輪102は、筒部113と前記フランジ101とを有し、フランジ101の外端面114(反継手側の端面)には、大径の第1部115aと小径の第2部115bとが形成され、第1部115aにブレーキロータが外嵌され、第2部115bにホイールが外嵌される。
【0007】
軸受100は、内周に複列の外側転走面120、121が形成された外輪105と、外周に外側転走面120,121に対向する内側転走面118、119が形成された一対の内輪108,109と、外輪105の外側転走面120、121と内輪108,109の内側転走面118、119との間に転動自在に収容された複列の転動体122とを備える。ハブ輪102の筒部113の外周面に切欠部116が設けられ、この切欠部116に内輪108、109が嵌合されている。また、ハブ輪102のフランジ101にはボルト装着孔112が設けられて、ホイールおよびブレーキロータ140をこのフランジ101に固定するためのハブボルト141がこのボルト装着孔112に装着される。
【0008】
ハブ輪102の筒部113に外側継手部材103の軸部123が挿入される。軸部123は、その反マウス部の端部にねじ部124が形成され、このねじ部124とマウス部107との間にスプライン部125が形成されている。また、ハブ輪102の筒部113の内周面(内径面)にスプライン部126が形成され、この軸部123がハブ輪102の筒部113に挿入された際には、軸部123側のスプライン部125とハブ輪102側のスプライン部126とが係合する。
【0009】
そして、筒部113から突出した軸部123のねじ部124にナット部材127が螺着され、ハブ輪102と外側継手部材103とが連結される。この際、ナット部材127の内端面(裏面)128と筒部113の外端面129とが当接するとともに、マウス部107の軸部側の端面130と内輪109の端面131とが当接する。すなわち、ナット部材127を締付けることによって、ハブ輪102が内輪108,109を介してナット部材127とマウス部107とで挟持される。この際、ハブ輪102の切欠端面132と、内輪108の端面133とが当接するとともに、マウス部107の端面130と内輪109の端面131とが当接した状態で、内輪108,109の突合面135,136が突き合される。
【0010】
また、軸受100の外輪105の外径面が嵌合面105aとなって、車体側のナックル145の内径面145aに圧入される。
【0011】
図6に示すものでは、軸受100は外輪105と内輪108,109とも旋削等で成形されている。しかしながら、近年では、軽量・低コスト化を図るために、外輪と内輪とを、板材またはパイプ材からプレス成形する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−340311号公報
【特許文献2】実開平6−1835号公報
【特許文献3】アメリカ特許第5177869号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、図6に示すものであっても、特許文献1〜特許文献3等に示すものであっても、組立作業や交換作業に工数を必要とすることの改善がなされていないままである。すなわち、特許文献1〜特許文献3等に示すものでも、等速自在継手の外側継手部材の肩部(マウス部107の端面130)にて内輪に予圧を与えるものであるので、自動車の組立工場への出荷前に、軸受にハブ輪を嵌入する工程を行えず、この工程を組立工場で行う必要があった。このため、自動車の組立工場での組立工数が多く、生産性の向上を図ることができなかった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて、自動車の組立工場等での組立工数の削減が可能で、生産性に優れるとともに、コスト低減を図ることが可能な車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が形成された外輪と、外周に外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、少なくとも外輪が冷間ローリングにて成形されて、前記外輪、内輪、転動体が組立られた状態でハブ輪に圧入により一体化されるものである。ここで、冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。
【0015】
本発明の車輪用軸受装置は、組立られた状態の転がり軸受がハブ輪に圧入により一体化されるものであるので、客先(自動車の組立工場等)において、軸受にハブ輪を圧入する工程を省略することができる。
【0016】
また、外輪が冷間ローリング(冷間転造)にて成形されるので、外輪の材料の歩溜まりの向上等を図ることができる。すなわち、冷間ローリングは、素材の余計な部分を削り落としていく切削加工とは異なり、製品外径より細い素材を盛り上げて成形することができ、材料のムダが生じない。また、加工時間が短いことと、工具が長寿命であることなどから、切削加工と比べて生産性が高くなる。さらに、使用する工具(ダイス)は加工品に応じて取り替える必要があるが、安定した加工精度を得ることができる。さらには、切削加工とは異なり、ファイバーフロー(繊維状金属組織)が切断されず、塑性変形によって被加工面が組成硬化する。そのため、加工製品は強い強度を得ることができる。
【0017】
外輪の内径面の軸方向中央部に内径側に膨出する膨出部を設けることによって、外輪の外径面の軸方向中央部に周方向凹部を設けるのが好ましい。すなわち、外輪の内径面の軸方向中央部に内径側に膨出する膨出部を設けることによって、内径面に転走面を形成することができる。しかも、外輪の肉厚を軸方向に沿ってほぼ一定に維持できる。
【0018】
内輪が冷間ローリング成形製またはプレス板製とされるのが好ましい。内輪が冷間ローリング成形製であれば、外輪と同様、歩溜まり及び生産性の向上を図るととともに、安定した加工精度を得ることができ、しかも、強い強度を得ることができる。また、内輪がプレス板製であっても、歩溜まり及び生産性の向上を図るととともに、安定した加工精度を得ることができる。
【0019】
ハブ輪の端部が加締られてハブ輪に圧入された転がり軸受の内輪に対して予圧が付与されるものであってもよい。
【0020】
外輪は、冷間ローリング成形後に熱処理を行った後の切削加工による焼入鋼切削が施されていてもよい。この焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために、焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。焼入れを行うと、引張残留応力が残り易く、そのままでは疲労強度が低下する。このため、表面を切削すれば、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、これにより疲労強度が向上する。
【0021】
外輪の外径面に嵌合面が形成され、この嵌合面がナックルに圧入されるようにするのが好ましい。
【0022】
前記車輪用軸受装置としては、駆動輪用であっても、従動輪用であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の車輪用軸受装置では、客先で軸受にハブ輪を圧入する工程を省略でき、客先での組立工数の削減を図ることができて、組立作業性の向上を図ることができる。また、少なくとも外輪の歩溜まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪は安定した加工精度及び強い強度を得ることができ、軸受の品質向上を達成できる。
【0024】
外輪の内径面の軸方向中央部に内径側に膨出する膨出部を設けることによって、内径面に転走面を形成することができ、外輪の成形の容易化を図ることができる。しかも、外輪の肉厚を軸方向に沿ってほぼ一定に維持でき、軽量化およびコスト低減を図ることができる。すなわち、外径面の軸方向中央部の周方向凹部を設けることによって、機能的に無駄な部位の肉部を省略することができ、軽量化を達成できる。
【0025】
内輪が冷間ローリング成形製やプレス板製であれば、外輪と同様、内輪の歩溜まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、内輪は安定した加工精度及び強い強度を得ることができ、軸受の全体としての品質向上を達成できる。
【0026】
ハブ輪の端部が加締られてハブ輪に圧入された転がり軸受の内輪に対して予圧が付与されるものでは、高品質の回転を得ることができる。
【0027】
焼入鋼切削が施されている外輪では、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、疲労強度が向上し、長期にわたって安定した機能を発揮することができる。
【0028】
外輪に外径面に嵌合面が形成されてこの嵌合面がナックルに圧入されるものでは、組立作業の簡素化を一層図ることができる。
【0029】
車輪用軸受装置としては、駆動輪用であっても、従動輪用であってもよく、それぞれの機能を有効に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。図2に第1実施形態の車輪用軸受装置(駆動車輪用軸受装置)を示し、この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と、複列の転がり軸受2と、等速自在継手3とが一体化されてなる。
【0031】
等速自在継手3は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその軸孔内径6aに図示省略のシャフトの端部を圧入することによりスプライン嵌合してシャフトとトルク伝達可能に結合されている。
【0032】
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0033】
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、各トラック溝の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
【0034】
等速自在継手3の外輪5及び内輪6は、例えば、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼からなり、トラック溝14、16及び外輪5のマウス部11の肩部(底壁外面11a)から軸部12の外周面(外径面)に高周波焼入れ等によって硬さが58〜64HRC程度となる硬化処理が施されている。
【0035】
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。また、ハブ輪1の筒部20の孔部22に外輪5の軸部12が挿入される。軸部12は、その反マウス部11の端部にねじ部40が形成され、このねじ部40とマウス部11との間にスプライン部41が形成されている。また、ハブ輪1の筒部20の内周面(内径面)にスプライン部42が形成され、この軸部12がハブ輪1の筒部20に挿入された際には、軸部12側のスプライン部41とハブ輪1側のスプライン部42とが係合する。
【0036】
そして、筒部20から突出した軸部12のねじ部40にナット部材43が螺着され、ハブ輪1と外輪5とが連結される。この際、ハブ輪1の反マウス部側の端面45には、孔部22の開口部に沿って凹窪部46が設けられ、この凹窪部46にナット部材43の座部が嵌合している。ハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータ90をこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。なお、ハブ輪1は、例えば、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼からなり、少なくとも切欠部の底面乃至端面70に高周波焼入れ等によって硬さが58〜64HRC程度となる硬化処理が施されている。
【0037】
転がり軸受2は、図1に示すように、内周に複列の外側転走面26,27が形成された外輪25と、外周に外輪25の外側転走面26,27に対向する内側転走面28,29が形成された一対の内輪24A、24Bと、外輪25の外側転走面26,27と内輪24A、24Bの内側転走面28,29との間に転動自在に収容された複列の転動体30とを備える。転動体30は外輪25と内輪24A、24Bとの間に介在される保持器31に保持される。この転がり軸受2の両開口部(外輪25と内輪24A、24Bとの間の開口部)にはシール部材Sが装着されている。
【0038】
外輪25は、図3に示すように、外径面50の軸方向中央部に周方向凹部51が形成され、これに対応して内径面の軸方向中央部に周方向凸部(膨出部)53が設けられている。そして、この周方向凸部53の両側に外側転走面26,27が形成され、さらに、外側転走面26,27の外側にシール溝54,55が形成されている。外輪25の外径面50のうち周方向凹部51を省いた部位が、後述するように、ナックルNに圧入される嵌合面50a,50aとなる。
【0039】
外輪25は、パイプ材のブランク(素材)に冷間ローリング加工によって成形される。ここで、冷間ローリング(冷間転造)とは、熱を加えずに冷たいまま(常温)で素材(ブランク)を回転させながら圧延していく加工方法である。すなわち、内外径がワーク(加工後の完成品)より小さな、基本的に内外径ストレートなブランク(素材)を、加工したい形状に設計された2つの治具(内径用と外径用)にはさんで回転させながら圧延(転造)し、ワークを形成する加工方法である。
【0040】
具体的には、ほぼ外輪25の形状となった素形状の外輪素材を、冷間ローリングにより成形する。この素材を、加熱炉等で焼入して表面硬化させた後、切削加工を行う。この場合、図3の破線で示したように、内径面52の軸方向端部のシール溝54,55、転走面26,27、両端面56,57、及び外径面の嵌合面50a,50aの切削を行う。このため、これらの切削を焼入鋼切削と呼ぶことができる。すなわち、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。焼入れを行うと、引張残留応力が残り易く、そのままでは疲労強度が低下する。このため、表面を切削すれば、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、これにより疲労強度が向上する。
【0041】
外輪25の材質としては、SCr420やSCM415等の浸炭鋼、SCM440や冷間圧延鋼やS53C等の炭素鋼やSUJ2等の軸受鋼等を使用することができる。また、浸炭鋼の場合、浸炭焼入れによって硬化処理(熱処理)を行い、冷間圧延鋼や炭素鋼等の場合、高周波焼入れあるいは、ズブ焼きによって硬化処理(熱処理)を行う。
【0042】
アウトボード側の内輪24Aと、インボード側の内輪24Bとは共通の部品にて構成できる。なお、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りをインボード側(図面右側)と呼ぶ。
【0043】
内輪24(24A,24B)は、大径部60と、小径部61と、大径部60と小径部61との間のテーパ状部62とからなる。この場合、大径部60の外径面がシール装着面63となり、テーパ状部62の外径面が転走面28(29)となる。また、小径部61の内径面がハブ輪嵌合面64となる。
【0044】
内輪24も、外輪25と同様、ほぼ内輪24の形状となった素形状の内輪素材を、冷間ローリングにより成形する。この素材を、加熱炉等で焼入して表面硬化させた後、切削加工を行う。すなわち、焼入鋼切削を行う。この場合、図4の破線で示すように、ハブ輪嵌合面64、両端面65,66、シール装着面63、及び転走面28(29)が焼入鋼切削される。内輪24の材質も、外輪25と同様のものが使用される。内輪24としては、冷間ローリング以外のプレス加工にて成形してもよい。
【0045】
次に、前記のように構成される車輪用軸受装置の組立方法を説明する。まず、図1に示すように、ハブ輪1に軸受2が組み込まれたユニット体を構成する。すなわち、組立てられた状態の軸受2の内輪24A,24Bの嵌合面64,64をハブ輪1の筒部20の外径面20aに圧入する。この際、内輪24Aの端面65がハブ輪1のボス部端面70に当接する。
【0046】
このように組立てられたユニット体と、等速自在継手3の外輪5とを連結する。この際、外輪5のステム軸部12をハブ輪1の孔部22に挿入し、孔部22からアウトボード側に突出したねじ部40にナット部材43を螺着する。これによって、図2に示すように、マウス部11の底壁外面11aがインボード側の内輪24Bの端面65に当接する。
【0047】
このため、一対の内輪24A、24Bが、その小径側の端面66、66である突合面が突合わされた状態で、ボス部端面70とマウス部11の底壁外面11aとの間に挟まれ、内輪24A、24Bに予圧を付与することができる。
【0048】
このように構成された車輪用軸受装置は、転がり軸受2の外輪25のナックル嵌合面50aを、ナックルNの内径面80に圧入することになる。この場合、ナックル嵌合面50aの外径寸法D11を、ナックルNの内径面80の内径寸法D10よりも僅かに大きく設定する。すなわち、ナックル嵌合面50aとナックル内径面80との締代によって、ナックルNと外輪25との相対的な軸方向及び周方向のずれを規制するように設定する。
【0049】
この場合、例えば、外輪25とナックルNとの間のハメアイ面圧/ハメアイ面積をハメアイ荷重としたときに、このハメアイ荷重をこの転がり軸受の等価ラジアル荷重で割った値をクリープ発生限界係数とし、このクリープ発生限界係数を予め考慮して、外輪25の設計仕様が設定される。
【0050】
このため、ナックル嵌合面50aとナックル内径面80との締代によって、外輪25の軸方向の抜け及び周方向のクリープを防止できる。ここで、クリープとは、嵌合締代の不足や嵌合面の加工精度不良等により軸受が周方向に微動して嵌合面が鏡面化し、場合によってはかじりを伴い潤滑不良や溶着することをいう。
【0051】
また、ナックル内径面80に、内径側に突出する膨出部81が設けられ、アウトボード側から軸受2を圧入することによって、外輪25のインボード側の端面25aが膨出部81に当接している。
【0052】
図2に示すように、ハブ輪1にはブレーキロータ90が装着される。ブレーキロータ90は、軸心孔91を有する短円筒状の中心装着部92を備え、この中心装着部92がハブ輪1のフランジ部21に嵌合する。
【0053】
中心装着部92は、貫孔を有する円盤部92aと、この円盤部92aの外径部からインボード側へ延びる短円筒状部92bとを有する。円盤部92aの貫孔の周縁部には、アウトボード側へ延びる外鍔部93が設けられ、この外鍔部93の内径孔と円盤部92aの貫孔でもって、前記軸心孔91が構成される。
【0054】
この場合、ハブ輪1のアウトボード側の端面(筒部20のアウトボード側の端面45と、これに連続して同一平面上に配設されるフランジ部21のアウトボード側の端面とで構成されるハブ輪端面)に円盤部92aが当接するとともに、ハブ輪1のフランジ部21の外径部21aに短円筒状部92bの円盤部92a側の内径面が当接する。すなわち、ハブ輪1のフランジ部21の外径部21aが、このブレーキロータ90を案内するブレーキパイロット部95を構成する。なお、円盤部92aには、ハブボルト33が挿通される貫通孔96が設けられている。
【0055】
このように、ブレーキロータ90が装着されることによって、外鍔部93の外径面が、図示省略のホイールの内周に嵌合するホイールパイロット部97を構成することになる。
【0056】
本発明の車輪用軸受装置は、組立られた状態の転がり軸受2がハブ輪1に圧入により一体化されるものであるので、客先(自動車の組立工場等)において、軸受2にハブ輪1を圧入する工程を省略することができる。このため、客先での組立工数の削減を図ることができて、組立作業性の向上を図ることができる。
【0057】
外輪25が冷間ローリング(冷間転造)にて成形されるので、外輪25の歩溜まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、外輪25は安定した加工精度及び強い強度を得ることができ、軸受2の品質向上を達成できる。本発明では、内輪24も冷間ローリング成形製やプレス板製であるので、外輪25と同様、内輪の歩溜まり及び生産性の向上を図ることができて、コスト低減を達成できる。しかも、内輪24は安定した加工精度及び強い強度を得ることができ、軸受の全体としての品質向上を達成できる。
【0058】
外輪25の内径面の軸方向中央部に内径側に膨出する膨出部53を設けることによって、内径面に転走面26,27を形成することができ、外輪25の成形の容易化を図ることができる。しかも、外輪25の肉厚を軸方向に沿ってほぼ一定に維持でき、軽量化およびコスト低減を図ることができる。すなわち、外輪25の外径面の軸方向中央部の周方向凹部51を設けることによって、機能的に無駄な部位の肉部を省略することができ、軽量化を達成できる。
【0059】
ハブ輪1の端部が加締られてハブ輪1に圧入された転がり軸受2の内輪24に対して予圧が付与されるものでは、高品質の回転を得ることができる。本発明の外輪25は、焼入鋼切削が施されているので、最表面部に圧縮残留応力を付与させることができ、疲労強度が向上し、長期にわたって安定した機能を発揮することができる。外輪25の外径面に嵌合面50aが形成されてこの嵌合面50aがナックルNに圧入されるものでは、組立作業の簡素化を一層図ることができる。
【0060】
ハブ輪1とは別部材をハブ輪1に取り付けることによって、ハブ輪1にホイールパイロット部97を構成することができる。このため、ハブ輪1にはホイールの内周に嵌合するホイールパイロット部97を一体に設ける必要がなく、ハブ輪全体の形状の簡素化を図ることができる。これによって、製造性の向上を図ってコスト低減を達成できる。しかも、ハブ輪1に取り付けられたホイールパイロット部97が損傷した場合には、ハブ輪全体を交換することなく、別部材のホイールパイロット部97のみを交換すればよく、コスト低減を図ることができる。
【0061】
次に図5は他の実施形態を示し、この場合、内輪24(24C、24D)がパイプ材から冷間ローリングにて成形するものではなく、図6に示す従来と同様のものを使用している。
【0062】
この図5に示す車輪用軸受装置は従動用であって、ハブ輪1が、中実の軸部20Aと、この軸部20Aから突設されるフランジ部21Aとを有する。また、内輪24C、24Dは、厚肉部85と薄肉部86とを有する短円筒体からなり、厚肉部85と薄肉部86との間の外径面に転走面28(29)が形成される。そしてその薄肉部86の端面(突合端面)86a、86aが突合された状態で、ハブ輪1の軸部20Aの外径面20Aaに圧入されている。
【0063】
この場合、フランジ部21Aと軸部20Aとの間には、軸方向と直交する方向に延びる端面87aと、凹曲面87bとが形成されたボス部87が設けられている。このため、アウトボード側の内輪24Cの厚肉部85の内径面は、この凹曲面87bに対応した凸曲面88とされている。これに対して、インボード側の内輪24Dの内径面には、このような凸曲面が形成されていない。
【0064】
ハブ輪1のインボード側の端部は筒状部89とされ、この筒状部89のインボード側の端部が外径側へ加締られて、その加締部89aにて、インボード側の内輪24Dの端面85aを介して、内輪24に対して予圧が付与される。また、ハブ輪1のアウトボード側の端面にはパイロット部84が設けられている。
【0065】
図5の車輪用軸受装置の他の構成は、前記図1に示す車輪用軸受装置と同様であるので、図1に示す車輪用軸受装置と同一部材は同一符号を付してそれらの説明を省略する。このため、内輪24が冷間ローリングにて成形していない点を省いて前記図1に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0066】
このように、本発明の車輪用軸受装置は、駆動輪用であっても、従動輪用であってもよく、それぞれの機能を有効に発揮することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、内輪24を冷間ローリング等にて成形する場合、大径側の端部が外径方向へ屈曲したものであってもよい。また、図1に示す車輪用軸受装置では、ハブ輪1に図6に示すようなパイロット部(大径の第1部115aと小径の第2部115b)が形成されていないが、このようなパイロット部を形成したものであってもよい。前記実施形態では、軸受2のトルク伝達手段としての転動体をボール30にて構成したが、円錐ころを使用するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
【図2】前記車輪用軸受装置の軸受がナックルに圧入された状態の縦断面図である。
【図3】前記車輪用軸受装置の軸受の外輪の成形方法の説明図である。
【図4】前記車輪用軸受装置の軸受の内輪の成形方法の説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
【図6】従来の車輪用軸受装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0069】
N ナックル
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
24 内輪
25 外輪
26,27 外側転走面
28,29 内側転走面
30 転動体
50a ナックル嵌合面
53 膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が形成された外輪と、外周に外輪の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、外輪の外側転走面と内輪の内側転走面との間に転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置であって、少なくとも外輪が冷間ローリングにて成形されて、前記外輪、内輪、転動体が組立られた状態でハブ輪に圧入により一体化されることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記外輪の内径面の軸方向中央部に内径側に膨出する膨出部を設けることによって、外輪の外径面の軸方向中央部に周方向凹部を設けたことを特徴とする請求項1に記載された車輪用軸受装置。
【請求項3】
内輪が冷間ローリング成形製またはプレス板製とされたことを特徴とする請求項1に記載された車輪用軸受装置。
【請求項4】
ハブ輪の端部が加締られてハブ輪に圧入された転がり軸受の内輪に対して予圧が付与されることを特徴とする請求項1に記載された車輪用軸受装置。
【請求項5】
外輪は、冷間ローリング成形後に熱処理を行った後の切削加工による焼入鋼切削が施されていることを特徴とする請求項1に記載された車輪用軸受装置。
【請求項6】
外輪の外径面に嵌合面が形成され、この嵌合面がナックルに圧入されることを特徴とする請求項1に記載された車輪用軸受装置。
【請求項7】
駆動輪用とされた請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
従動輪用とされた請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−197901(P2009−197901A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40120(P2008−40120)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】