説明

送受信回路

【課題】受信回路に漏れこむ送信リーク信号による受信感度の劣化を緩和する。
【解決手段】直交復調を行うIchミキサ11およびQchミキサ12を備えた送受信回路において、送信リーク信号と同じ信号生成源の信号をIchミキサ11およびQchミキサ12の受信ローカル信号として使用し、送信リーク信号と受信ローカル信号との位相を45°の奇数倍の関係にすることで、送信リーク信号が持つ振幅ノイズ成分をIchミキサ11およびQchミキサ12に均一に分配する。これにより、Ichミキサ11およびQchミキサ12のうちデータ復調用に選択した側に極端に振幅ノイズが偏って現れることを防ぎ、受信感度の劣化を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送受信回路に関し、より詳細には送信と受信を同時に同じキャリア周波数で行なう通信機、例えばRFID(Radio Frequency Identification)システムにおけるリーダ・ライタなどにおいて、送信機が出す送信波の受信機へのまわり込みが存在する送受信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDと呼ばれる通信システムがある。これは、一般にタグと呼ばれる小型の子機に対し、親機となるリーダ・ライタ装置が、RF(Radio Frequency)、即ち高周波無線を使って通信を行うシステムである。特に、RF周波数に830MHz〜960MHzあたりの周波数帯を用いるRFIDシステムをUHF帯RFIDと呼ばれる。
図14は、ダイレクトコンバージョン方式を用いたUHF帯RFIDのリーダ・ライタ用送受信機の一例を示す図である。同図の送受信機は、一般的なASK(Amplitude shift keying)変調方式の送受信機の構成である。
【0003】
同図において、送受信機は、ローカル信号を生成するローカル周波数信号生成部1と、送信信号と送信ローカル信号TXLOとを掛け合わせる(乗算する)TXミキサ2と、このTXミキサ2の出力信号を増幅するパワーアンプ3と、カプラやサーキュレータ等の送受分離器4と、アンテナ5と、このアンテナ5による受信信号を増幅する低雑音増幅器(以下、LNAと記す)6と、このLNA6によって増幅された受信信号RFINをIchローカル信号IchRXLOとを掛け合わせる(乗算する)Ichミキサ11と、LNA6によって増幅された受信信号RFINをQchローカル信号QchRXLOとを掛け合わせる(乗算する)Qchミキサ12とを備えている。
【0004】
このような構成において、送信信号はアナログ乗算回路であるTXミキサ2によりローカル周波数信号生成部1で生成した送信ローカル信号TXLOと乗算することでRF周波数にアップコンバートされ、パワーアンプ3により増幅され、高周波信号の送信信号TXRFとなる。送信信号TXRFは送受分離器4を介してアンテナ5において空中に出力される。
【0005】
一方、高周波の受信信号RXRFは、空中からアンテナ5によって受信され、送受分離器4を介して送受信機の受信側に入力される。受信信号RXRFはLNA6により増幅され、直交復調器(Ichミキサ11およびQchミキサ12)によりベースバンド周波数に周波数変換されて、後段のベースバンド信号処理部(図示せず)へ渡され、データが取出される。直交復調器に用いられるローカル信号は、位相が互いに90度異なるIchローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOである。これらIchローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOは、ローカル周波数信号生成部1で生成される。
【0006】
ここで、振幅変調された高周波信号として受信信号RXRFをPAM(t)・sin(2πft+θ)と表し、Ichローカル信号IchRXLOをsin(2πft+φ)と表し、Qchローカル信号QchRXLOをcos(2πft+φ)とする。ただし、fはRF信号の周波数、tは時間、θは受信RF信号の位相、PAM(t)はRXRFに乗せられた振幅変調データ成分、φはLO信号の位相である。
このとき、Ichミキサの出力に現れる受信信号PIch、および、Qchミキサの出力に現れる受信信号PQchは、式(1)で表せる。
【0007】
【数1】

【0008】
式(1)が示すように、IchミキサおよびQchミキサへの入力(受信信号RFIN)とローカル信号との位相関係によって、Ich、Qchに現れる受信信号のパワーが異なる。このため、高周波の受信信号RXRFの位相が予測不可能なシステムにおいては、Ichミキサ、Qchミキサのどちらかしか持たない受信回路では受信できない場合が生じるので、IchミキサおよびQchミキサを有するIQ受信機を用いる必要がある。
【0009】
このようなRF送受信機において、例えばRFIDのような送信RFキャリア周波数と受信RFキャリア周波数とが同じ周波数を使用し、受信中に同時に送信キャリアが出力されるようなシステムにおいては、図14に示すように送信信号TXRFが送受分離器で十分に分離されずに、あるいはアンテナで反射して、受信回路に漏れこむ。ここで、受信回路に漏れこむ送信リーク信号をTXRFリークと呼ぶ。RFIDシステムにおいてはこのTXRFリークがノイズ(すなわち妨害波信号)となり、受信感度に影響を及ぼす。
【0010】
TXRFリークを受信側へのノイズと考えた時、これは主に位相および周波数の時間的な変動による位相ノイズ成分と、RF信号の振幅が時間的に変動する振幅ノイズ成分とに分けられる。位相ノイズ成分の大部分は送信のローカル周波数信号生成部で発生し、また振幅ノイズ成分は送信のベースバンド信号の生成部やパワーアンプ等の増幅段で発生することが多い。
【0011】
位相ノイズは、受信ミキサ(IchミキサおよびQchミキサ)のダウンコンバートに、送信側と同じローカル周波数信号生成部で生成した信号をローカルとして使用することで、相関関係によりキャンセルできる。このことは、例えば特許文献1に記載されている。この事実は以下のようにも表される。
受信信号RFINに含まれるTXRFリークの位相ノイズ成分をNRF(t)、IchRXLOの位相ノイズ成分をNLO(t)として、TXRFリークの位相ノイズ成分のみを考慮した場合、TXRFリークは式(2)で表せ、IchRXLOは式(3)で表せる。
【0012】
【数2】

【0013】
【数3】

【0014】
このときIchに現れる周波数変換後のTXRFリーク成分PIch-TXは、式(4)となる。
【0015】
【数4】

【0016】
TXRFリークとローカル信号とは同一の回路で生成された信号であるため、TXRFリークとローカル信号との時間差、すなわち、ローカル周波数信号生成部で生成されてからミキサに入力されるまでの経路時間差が極めて小さい場合はNRF(t)=NLO(t)と近似できるので、TXRFリーク成分PIch-TXは式(5)のようになり、位相ノイズ成分はキャンセルされる。
【0017】
【数5】

【0018】
以上はIchを例に式を使って説明したが、Qchに対しても同様である。
一方で、TXRFリークのもつノイズが振幅ノイズである場合は、受信ミキサ(IchミキサおよびQchミキサ)のダウンコンバートに、送信側と同じローカル周波数信号生成部で生成した信号をローカル信号として使用した場合でもダウンコンバート時にキャンセルされることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2003−174388公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前述のように、例えばRFIDのように送信と受信に同じキャリア周波数を用いるシステムの場合、受信機に漏れこんだTXRFリークの位相ノイズ成分は、上述したキャンセル(以下、単にキャンセルと記す)により除くことが可能である。しかしながら、振幅ノイズ成分については、この方法ではキャンセルされずに受信信号に重畳されてしまうため、受信感度に影響を与える。そのため、受信感度を改善するためにはTXRFリークが持つ振幅ノイズ成分、すなわち送信信号TXRFがもつ振幅ノイズ成分を低減する必要がある。一般に、送信機のノイズを低減するためには電力の増加が必要であり、また当然ながらその改善には限界がある。
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、その目的は受信機側での工夫によりTXRFリークがもつ振幅ノイズ成分による感度劣化を緩和し、受信機の感度を向上させることのできる送受信回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明による送受信回路は、受信信号に掛け合わせるローカル信号の位相が90°異なるIミキサおよびQミキサを備えた受信回路を有する送受信回路において、前記受信回路には前記ローカル信号と同じ周波数の妨害波信号が入力され、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該妨害波信号と前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該ローカル信号とのいずれか一方の位相を調整する位相調整手段を含み、前記妨害波信号を前記Iミキサおよび前記Qミキサに均一に分配するようにしたことを特徴とする。これにより、IミキサおよびQミキサのうちデータ復調用に選択した側に極端に振幅ノイズが偏って現れることを防ぎ、受信感度の劣化を防ぐことができる。
【0022】
また、前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該妨害波信号と前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該ローカル信号との位相差が45°の奇数倍となるように、前記妨害波信号と前記ローカル信号とのいずれか一方の位相を90°以上の範囲で調整することを特徴とする。位相差が45°の奇数倍となるように調整することにより、妨害波信号をIミキサおよびQミキサに均一に分配し、TXRFリークのもつ振幅ノイズについて、その影響を最小にし、受信感度を向上させることができる。
【0023】
そして、前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される前記妨害波信号の位相と前記ローカル信号の位相との差が45°の奇数倍となるように、前記Iミキサおよび前記Qミキサにそれぞれ入力されるローカル信号の位相を同時に調整してもよい。IミキサおよびQミキサにそれぞれ入力されるローカル信号の位相を同時に調整することにより、妨害波信号とIミキサおよびQミキサに入力されるローカル信号との位相差が45°の奇数倍となるように、位相を調整することができる。
【0024】
また、前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される前記妨害波信号の位相と前記ローカル信号の位相との差が45°の奇数倍となるように、該妨害波信号の位相を調整してもよい。妨害波信号の位相を調整することにより、妨害波信号とIミキサおよびQミキサに入力されるローカル信号との位相差が45°の奇数倍となるように、位相を調整することができる。
【0025】
ところで、前記Iミキサおよび前記Qミキサによってダウンコンバートされた信号のDC成分を検出するDC検出部と、前記DC検出部において検出されたDC成分に対応する位相調整制御信号を生成する位相調整制御信号生成部とをさらに備え、前記位相調整手段が、前記位相調整制御信号生成部によって生成された前記位相調整制御信号によって前記ローカル信号の位相を調整するようにしてもよい。このように構成すれば、上記の位相状態を実現するための位相調整制御信号の生成を容易に行うことができる。
【0026】
また、前記Iミキサおよび前記Qミキサによってダウンコンバートされた信号のDC成分を検出するDC検出部と、前記DC検出部において検出されたDC成分に対応する位相調整制御信号を生成する位相調整制御信号生成部とをさらに備え、前記位相調整手段が、前記位相調整制御信号生成部によって生成された前記位相調整制御信号によって前記妨害波信号の位相を調整するようにしてもよい。このように構成すれば、上記の位相状態を実現するための位相調整制御信号の生成を容易に行うことができる。
【0027】
前記DC検出部は、前記Iミキサの出力を入力とする第1のローパスフィルタと、前記Qミキサの出力を入力とする第2のローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタおよび前記第2のローパスフィルタを通した2つの信号を加算する加算器と、前記第1ローパスフィルタおよび第2のローパスフィルタを通した2つの信号を減算する減算器と、前記加算器の加算結果および前記減算器の減算結果の正負をそれぞれ判定する第1および第2のコンパレータとを備え、前記位相調整制御信号生成部は、前記第1および第2のコンパレータの判定結果に応じて前記位相調整制御信号を生成するようにしてもよい。このように構成すれば、位相調整量をスイープしてどちらかの判定結果が反転したときの位相調整量を最適な調整量として選択でき、Ichミキサ出力とQchミキサ出力とのDC値の絶対値がほぼ一致する位相を容易に設定することができる。
【0028】
前記DC検出部は、前記Iミキサの出力を入力とする第1のローパスフィルタと、前記Qミキサの出力を入力とする第2のローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタおよび前記第2のローパスフィルタを通した2つの信号のアナログ電圧値を、それぞれデジタル値に変換する第1および第2のアナログデジタル変換器とを備え、前記位相調整制御信号生成部は、前記第1および第2のアナログデジタル変換器によってそれぞれ変換されたデジタル値に応じて前記位相調整制御信号を生成するようにしてもよい。このように構成すれば、位相調整量をスイープしてどちらかの判定結果が反転したときの位相調整量を最適な調整量として選択でき、Ichミキサ出力とQchミキサ出力とのDC値の絶対値がほぼ一致する位相を容易に設定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来技術においてキャンセルできなかった、TXRFリークのもつ振幅ノイズについて、その影響を最小にし、受信感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例に係る送受信機の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る受信回路の一例を示す図である。
【図3】受信RF信号の位相とダウンコンバート後の振幅ノイズパワーの関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係る受信回路の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施例3に係る受信回路の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例4に係る受信回路の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例4および実施例5に係る位相調整回路の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る受信RF信号の位相とDC検出部に入力されるDC値の関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例5に係る受信回路の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例6に係る受信回路の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施例6に係る受信回路の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施例6に係るDC検出部の一例を示す図である。
【図13】本発明の実施例7に係るDC検出部の一例を示す図である。
【図14】一般的なASK変調方式の送受信機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、受信回路の実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。
(送受信回路全体の構成)
まず、図1に本発明の実施例における送受信機全体の構成例を示す。同図において、本例の送受信機は、図14の構成と異なり、分配器7を設けてパワーアンプ3の出力信号(すなわち送信信号)を受信回路100への受信ローカル信号RXLOINとして用いる。受信回路100の構成については、後述する各実施例において説明する。
【0032】
図1の構成において、受信信号はアンテナ5により空中から受信され、カプラやサーキュレータ等の送受分離器4を介して受信回路に入力される。また、送信信号はミキサ2、パワーアンプ3、送受分離器4を介してアンテナ5により空中に出力され、同時に送受分離器4を介して受信信号RFINとして受信回路に入力される。また同時に送信信号は、分配器を介して受信ローカル信号RXLOINとして受信回路100に入力される。この構成によれば、TXRFリーク中の位相ノイズ成分はキャンセルによって、十分低く抑えることができる。ここでは例として、TXRFリークと受信ローカル信号RXLOINとの経路時間差を小さくするために、送信信号から分配器7を介して受信ローカル信号RXLOINとしているが、受信回路100内の受信ミキサのダウンコンバートに、送信側と同じローカル周波数信号生成部1で生成した信号をローカル信号として使用してさえいれば、別の構成であっても同様の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0033】
図2は本発明の実施例1の構成を示す図である。図2の受信ローカル信号RXLOINは、図1に示された受信ローカル信号RXLOINと同一のものである。また、図2の受信信号RFINは、図1に示された受信信号RFINと同一のものである。受信ローカル信号RXLOINは、例えばポリフェーズフィルタ等の信号を0°と90°との異なる位相状態の信号に分配する位相シフト回路により、互いに90°位相の異なる2つのローカル信号IchRXLOおよびQchRXLOに変換される。送信リーク信号が含まれている受信信号RXINは、IミキサおよびQミキサに入力され、それぞれ上記ローカル信号IchRXLOおよびQchRXLOとそれぞれ掛け合わされることで周波数変換され、Iミキサから信号RXBBIが出力され、Qミキサから信号RXBBQが出力される。
【0034】
ここで、TXRFリークのもつ振幅ノイズは、受信ミキサのダウンコンバートに送信と同じローカル周波数信号生成部で生成した信号をローカルとして使用した場合でもダウンコンバート時にキャンセルされることはない。この事情は以下の各式で理解される。
受信信号RFINに含まれるTXRFリークの振幅ノイズ成分をPRF(t)、IchRXLOの振幅ノイズ成分をPLO(t)とすると、受信信号RFINに含まれるTXRFリークは、式(6)で表せる。
【0035】
【数6】

【0036】
また、Ichローカル信号IchRXLOは、式(7)で表せる。
【0037】
【数7】

【0038】
このとき、Ichに現れる周波数変換後のTXRFリーク成分PIch-TXは、式(8)となる。
【0039】
【数8】

【0040】
RF(t)=PLO(t)となる場合でも、式(9)となり、振幅ノイズ成分はTXRFリークとローカル信号との時間差が極めて小さい場合でも消えない。
【0041】
【数9】

【0042】
しかし、TXRFリークがもつ振幅ノイズ成分は、ローカル信号との位相関係により式(8)に従ってダウンコンバート後のノイズレベルが決められる。図3にIch信号とQch信号の位相とノイズパワーとの関係について示す。同図中の横軸はTXRFリークとIchローカル信号IchRXLOとの位相差であり、同図中の縦軸はTXRFリークがもつ振幅ノイズ成分を「0dB」に規格化したときの、IQ受信信号に現れるノイズパワーである。直交復調器に使用するIchローカル信号IchRXLOとQchローカル信号QchRXLOとは位相が90°異なるため、例えばTXRFリークの位相がQchローカル信号QchRXLOに一致する場合、図3中の「A」に示すようにIch受信信号すなわち信号RXBBIに全てのノイズパワーが現れ、同時にQch受信信号にはノイズは全く現れない。逆に、TXRFリークの位相がIchローカル信号IchRXLOに一致する場合は、図3中の「C」に示すようにノイズは全てQch受信信号すなわち信号RXBBQに現れる。ここで、送信RFリーク信号の位相がIchローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOに対して45°の奇数倍ずつ異なる位相で入力された場合を考える。例えば、図3中の「B」に示すように、45°×3=135°異なる位相で入力された場合、Ich、Qchそれぞれに現れるノイズは位相がどちらかに一致した場合に比べ、半分のレベルすなわち3dB小さいレベルでIch、Qch両方に現れる。
【0043】
この位相状態とパワーとの関係は、ノイズに関する場合と同様に、実は、受信信号にも同様に当てはめることができる。しかし、受信RF信号の方は通信距離によって位相状態が変わるので、どのような位相状態で受信されるか予測できないため、受信信号RXBBIと受信信号RXBBQに現れる受信信号成分のパワー配分は受信毎に異なる。
受信信号RXBBIと受信信号RXBBQとに現れる信号は同一のデータをもつため、受信機の機能としてはどちらか一方のみの情報を得られれば十分である。しかし、上述のように受信信号RXBBIと受信信号RXBBQとに現れる受信信号成分のパワー配分は受信毎に異なるため、受信機としては受信信号RXBBIおよび受信信号RXBBQの両方の信号パワーを比較し、受信信号成分がより多く配分された方を選択し、ベースバンド信号処理部でデータ復調を行う必要がある。
【0044】
このような状況において、例えば受信信号がIch、Qchで同レベルの図3中の「B」の位相状態で受信され、同時にTXRFリークがIchのみに偏った図3中の「A」の位相状態で受信されると、受信信号+ノイズと考えてよりパワーの大きいIchがデータ復調用に選択されることになる。このときノイズパワーはIchに偏った最大レベルで受信されてしまうため、SN比(以下、S/Nと記す)は最低レベルとなる。
【0045】
ここで、例えばTXRFリークの位相を図3中の「B」の位相状態にした場合、受信信号が最も小さくなる図3中の「B」の場合でも、上述の最低レベルのS/Nよりも3dB良い。そのため受信システムとして受信感度が3dB向上すると言える。つまり本発明の実施例1において、上記2つのローカル信号IchRXLOおよびQchRXLOと受信信号RXINとの位相差が45°の奇数倍の関係となるようにすることで、前述のようにIch、Qchそれぞれに現れる送信リーク信号の振幅ノイズパワーの配分は、IchとQchとで同程度に分配され、ノイズが偏った状態よりも受信感度を向上させることができる。
【実施例2】
【0046】
図4は本発明の実施例2の構成を示す図である。実施例2においては、図4に示すように受信ローカル信号RXLOINを位相調整回路30に入力し、その位相を調整する。この位相調整回路30は、90°以上の位相調整幅を持っている。位相調整回路30によって位相が調整されたローカル信号RXLOは位相シフト回路20に入力され、互いに90°位相の異なる2つのローカル信号IchRXLO、QchRXLOが生成される。これらをIchミキサ11へのIchローカル信号IchRXLO、Qchミキサ12へのQchローカル信号QchRXLOとして用いることで、Ichローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOと受信信号RXINの位相差を、容易に、45°の奇数倍の関係となるようにすることができる。
【実施例3】
【0047】
図5は本発明の実施例3の構成を示す図である。上述した実施例2は、RXLOINが位相調整回路30に入力され、その位相を調整する構成である。これに対し、実施例3は受信信号RXINが位相調整回路30に入力され、その位相を調整する構成である。位相調整回路30によって位相が調整された受信信号RXIN2がIchミキサ11、Qchミキサ12に入力されることによって、Ichローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOと受信信号RXIN2との位相差を、容易に、45°の奇数倍の関係となるようにすることができる。なお、本例において用いられる位相調整回路30も、90°以上の位相調整幅を持っている。
【実施例4】
【0048】
図6は本発明の実施例4の構成を示す図である。実施例4においては、実施例2の位相調整回路30の有効な調整手段を提供する。Iミキサ11の出力である信号RXBBIおよびQミキサ12の出力である信号RXBBQは、DC検出部40に入力され、DC検出部40において信号RXBBIおよび信号RXBBQがもつDC成分が検出される。DC成分の検出結果は、位相調整制御信号生成部50に入力され、位相調整制御信号生成部50はDC成分の検出結果を元に、次の位相状態に変更するための位相調整制御信号を位相調整回路30に出力する。
【0049】
図7に、位相調整回路30の回路構成例を示す。同図において、位相調整回路30は、入力ポートAおよび入力ポートBと、入力ポートAに一端が接続された抵抗R1と、入力ポートAに一端が接続された可変容量VCと、入力ポートBに一端が接続された抵抗R2と、入力ポートBに一端が接続された抵抗R3と、抵抗R1の他端および可変容量VCの他端に正側入力が接続され抵抗R2の他端および抵抗R3の他端に負側入力が接続された差動バッファ31とを備えている。可変容量VCは位相調整制御信号(図示せず)によって容量を変えることができるようになっている。
【0050】
入力信号が差動入力の場合には、入力ポートAおよび入力ポートBに差動信号を入力する。入力信号がシングル入力の場合には、ポートAに入力信号を入力し、ポートBには電源電圧などの一定電圧バイアスを印加する。
ポートAは、抵抗R1の一端と可変容量VCの一端に接続されている。また、入力ポートBは、抵抗R2および抵抗R3のそれぞれの一端に接続されている。そして、抵抗R1およびR2の他端に現れる電圧は、差動信号Pとして差動バッファ31の正側入力に印加される。また、可変容量VCの他端および抵抗R3の他端に現れる電圧は、差動信号Nとして差動バッファ31の負側入力に印加される。この差動バッファ31の出力を差動信号として使用することで、可変容量VCの容量の調整量に対応した位相の変化を伴う信号を得ることができる。
【0051】
以下、本発明における位相調整の具体的動作について説明する。ある位相状態において、TXRFリークを含む受信信号RXINとして受信回路に入力されているとする。このとき、TXRFリークは、受信ローカル信号RXLOINと同じ信号生成源を使用しており同じ周波数になるため、信号RXBBIおよび信号RXBBQにはDC成分および振幅ノイズ成分のみが残ることになる。
図8は、ローカル信号の位相状態に対するIch受信信号(図中の実線)およびQch受信信号(図中の破線)に現れるDC値の相対値の図である。同図中の横軸は、Ichローカル信号の位相を0°とした時の、受信信号RFINに含まれるTXRFリークの位相であり、式(4)におけるθ−φの値に相当する。
【0052】
また、同図中の縦軸は最大のDC値を「1」に規格化したときの、DC値である。式(4)より、このDC値すなわち式(4)でのPAM・cos(θ−φ)と、TXRFリークの振幅ノイズ量すなわち式(4)でのPRF(t)・cos(θ−φ)とは比例関係にある。このため、このDC値の絶対値がIchとQchとで等しくなるようにローカル信号の位相を調整すれば、ノイズ量もIchとQchとで等しくなる。すなわち、DC検出部40により信号RXBBIおよび信号RXBBQがそれぞれ持つDC成分同士が等しくなるように位相調整回路30の位相調整量を適宜調整することにより、Ichローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOと受信信号RXINとの位相差を、容易に、45°の奇数倍の関係となるようにすることができる。
【実施例5】
【0053】
図9は本発明の実施例5の構成を示す図である。実施例4においてはRXLOINを位相調整回路に入力して位相の調整を行ったが、実施例5においては、図9に示すようにRXINを位相調整回路に入力し、実施例4の場合と同様に、信号RXBBIおよび信号RXBBQがもつDC成分が等しくなるように位相調整回路30の位相調整量を適宜調整することで、Ichローカル信号IchRXLOおよびQchローカル信号QchRXLOと受信信号RXIN2との位相差を、容易に、45°の奇数倍の関係となるようにすることができる。
【実施例6】
【0054】
図10および図11は、実施例6の構成を示す図である。実施例6においては、実施例4もしくは実施例5における位相調整制御信号を生成する具体的な回路構成を提供する。
図10において、実施例4におけるDC検出部40が同図中の破線部で示されている。このDC検出部40は、Ichローパスフィルタ41およびQchローパスフィルタ42と、DC判定回路43とを備えている。
【0055】
また、図11において、実施例5におけるDC検出部40が同図中の破線部で示されている。このDC検出部40は、Ichローパスフィルタ41およびQchローパスフィルタ42と、DC判定回路43とを備えている。信号RXBBIおよび信号RXBBQは、Ichローパスフィルタ41およびQchローパスフィルタ42によって、高調波成分が除去され、TXRFリークに起因したDC成分が残った信号RXDCIおよび信号RXDCQとして、DC判定回路43に入力される。
【0056】
図12は、DC判定回路43の構成例を示す図である。同図に示されているように、DC判定回路43は、信号RXDCIと信号RXDCQとの加算を行う加算器431と、信号RXDCIと信号RXDCQとの減算を行う減算器432と、加算器431の加算結果について正負判定を行うためのコンパレータ433と、減算器432の減算結果について正負判定を行うためのコンパレータ434とを備えている。
【0057】
この構成において、信号RXDCIおよび信号RXDCQの各DC値について、加算器431によって生成した信号(I+Q)と、減算器432によって生成した信号(I−Q)とを用意する。そして、信号(I+Q)、信号(I−Q)のそれぞれについて、2値コンパレータ433、434において正負判定を行う。
位相調整制御信号生成部50により位相調整回路30の位相調整量をスイープしていくと、位相状態が変化し、2値コンパレータ433、434のどちらかの判定結果が反転する。すなわち、信号RXDCIおよび信号RXDCQのDC値が一致する場合、2値コンパレータ433、434のどちらかの判定結果が反転する。このため、位相調整制御信号生成部50により位相調整回路30の位相調整量をスイープしてどちらかの判定結果が反転したときの位相調整量を最適な調整量として選択する。これにより、Ichミキサ出力とQchミキサ出力とのDC値の絶対値がほぼ一致する位相を容易に設定することができる。
【実施例7】
【0058】
実施例6においては、図12中のDC判定回路43を用いている。これに対し、実施例7においては、図12中のDC判定回路43の代わりにIch用とQch用の2つのアナログデジタル変換器(以下、ADCと記す)を用いる。すなわち、図13のように、加算器431の出力を入力とするADC435と、減算器432の出力を入力とするADC436とによって、信号RXDCIのDC値および信号RXDCQのDC値をそれぞれ測定することによって、実施例6の場合と同等に、Ichミキサ出力とQchミキサ出力との各DC値の絶対値がほぼ一致する位相を容易に設定することができる。
【0059】
(まとめ)
本発明では、直交復調を行うIミキサおよびQミキサを備えた送受信回路において、送信リーク信号と同じ信号生成源の信号をIミキサおよびQミキサ受信ローカル信号として使用し、送信リーク信号と受信ローカル信号との位相を45°の奇数倍の関係にすることで、送信リーク信号が持つ振幅ノイズ成分をIミキサおよびQミキサに均一に分配する。これにより、IミキサおよびQミキサのうちデータ復調用に選択した側に極端に振幅ノイズが偏って現れることを防ぎ、受信感度の劣化を防ぐことができる。
なお本発明によれば、温度や外的要因の時間変化などによりローカルもしくは送信リーク信号の位相が変化した場合であっても、常に位相状態を監視できるため、常に最適な位相状態を保つ機構を実現することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ローカル周波数信号生成部
2 ミキサ
3 パワーアンプ
4 送受分離器
5 アンテナ
6 LNA
7 分配器
11 Ichミキサ
12 Qchミキサ
20 位相シフト回路
30 位相調整回路
31 差動バッファ
40 DC検出部
41、42 ローパスフィルタ
43 DC判定回路
50 位相調整制御信号生成部
100 受信回路
431 加算器
432 減算器
433、434 コンパレータ
A、B 入力ポート
R1〜R3 抵抗
VC 可変容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号に掛け合わせるローカル信号の位相が90°異なるIミキサおよびQミキサを備えた受信回路を有する送受信回路において、前記受信回路には前記ローカル信号と同じ周波数の妨害波信号が入力され、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該妨害波信号と前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該ローカル信号とのいずれか一方の位相を調整する位相調整手段を含み、前記妨害波信号を前記Iミキサおよび前記Qミキサに均一に分配するようにしたことを特徴とする送受信回路。
【請求項2】
前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該妨害波信号と前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される該ローカル信号との位相差が45°の奇数倍となるように、前記妨害波信号と前記ローカル信号とのいずれか一方の位相を90°以上の範囲で調整することを特徴とする請求項1に記載の送受信回路。
【請求項3】
前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される前記妨害波信号の位相と前記ローカル信号の位相との差が45°の奇数倍となるように、前記Iミキサおよび前記Qミキサにそれぞれ入力されるローカル信号の位相を同時に調整することを特徴とする請求項1または2に記載の送受信回路。
【請求項4】
前記位相調整手段は、前記Iミキサおよび前記Qミキサに入力される前記妨害波信号の位相と前記ローカル信号の位相との差が45°の奇数倍となるように、該妨害波信号の位相を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の送受信回路。
【請求項5】
前記Iミキサおよび前記Qミキサによってダウンコンバートされた信号のDC成分を検出するDC検出部と、前記DC検出部において検出されたDC成分に対応する位相調整制御信号を生成する位相調整制御信号生成部とをさらに備え、前記位相調整手段は、前記位相調整制御信号生成部によって生成された前記位相調整制御信号によって前記ローカル信号の位相を調整することを特徴とする請求項3に記載の送受信回路。
【請求項6】
前記Iミキサおよび前記Qミキサによってダウンコンバートされた信号のDC成分を検出するDC検出部と、前記DC検出部において検出されたDC成分に対応する位相調整制御信号を生成する位相調整制御信号生成部とをさらに備え、前記位相調整手段は、前記位相調整制御信号生成部によって生成された前記位相調整制御信号によって前記妨害波信号の位相を調整することを特徴とする請求項4に記載の送受信回路。
【請求項7】
前記DC検出部は、前記Iミキサの出力を入力とする第1のローパスフィルタと、前記Qミキサの出力を入力とする第2のローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタおよび前記第2のローパスフィルタを通した2つの信号を加算する加算器と、前記第1ローパスフィルタおよび第2のローパスフィルタを通した2つの信号を減算する減算器と、前記加算器の加算結果および前記減算器の減算結果の正負をそれぞれ判定する第1および第2のコンパレータとを備え、前記位相調整制御信号生成部は、前記第1および第2のコンパレータの判定結果に応じて前記位相調整制御信号を生成することを特徴とする請求項5または6に記載の送受信回路。
【請求項8】
前記DC検出部は、前記Iミキサの出力を入力とする第1のローパスフィルタと、前記Qミキサの出力を入力とする第2のローパスフィルタと、前記第1ローパスフィルタおよび前記第2のローパスフィルタを通した2つの信号のアナログ電圧値を、それぞれデジタル値に変換する第1および第2のアナログデジタル変換器とを備え、前記位相調整制御信号生成部は、前記第1および第2のアナログデジタル変換器によってそれぞれ変換されたデジタル値に応じて前記位相調整制御信号を生成することを特徴とする請求項5または6に記載の送受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−188428(P2011−188428A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54397(P2010−54397)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】