遠心式ポンプ装置
【課題】インペラをスムーズに回転起動させることが可能な小型の遠心式ポンプ装置を提供する。
【解決手段】この遠心式血液ポンプ装置は、血液室7内に設けられたインペラ10と、インペラ10の一方面に設けられた永久磁石15と、血液室7の内壁に設けられた永久磁石16と、インペラ10の他方面に設けられた永久磁石17と、モータ室8内に設けられ、隔壁6を介してインペラ10を回転駆動させる磁性体18およびコイル20と、コイル電圧とコイル電流とインペラ10の回転数を示す情報とに基づいてインペラ10の位置を求める比較演算部31を備える。インペラ10に対向する隔壁6および血液室7の内壁にそれぞれ動圧溝21,22を形成する。したがって、コイル電流を制御することにより、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【解決手段】この遠心式血液ポンプ装置は、血液室7内に設けられたインペラ10と、インペラ10の一方面に設けられた永久磁石15と、血液室7の内壁に設けられた永久磁石16と、インペラ10の他方面に設けられた永久磁石17と、モータ室8内に設けられ、隔壁6を介してインペラ10を回転駆動させる磁性体18およびコイル20と、コイル電圧とコイル電流とインペラ10の回転数を示す情報とに基づいてインペラ10の位置を求める比較演算部31を備える。インペラ10に対向する隔壁6および血液室7の内壁にそれぞれ動圧溝21,22を形成する。したがって、コイル電流を制御することにより、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は遠心式ポンプ装置に関し、特に、回転時の遠心力によって液体を送るインペラを備えた遠心式ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工心肺装置の血液循環装置として、外部モータの駆動トルクを磁気結合を用いて血液室内のインペラに伝達する遠心式血液ポンプ装置を使用する例が増加している。この遠心式血液ポンプ装置によれば、外部と血液室との物理的な連通を排除することができ、細菌などの血液への侵入を防止することができる。
【0003】
特許文献1の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた電磁石と、インペラの他方面に設けられた永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた永久磁石とを備える。インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には、動圧溝が形成されている。電磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0004】
また、特許文献2の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた第1の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第2の永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた第3の永久磁石とを備える。インペラの一方面に対向する第1の隔壁の表面には第1の動圧軸が形成され、インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には第2の動圧溝が形成されている。第1の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの第3の永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0005】
また、特許文献3の図8および図9のターボ形ポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第3の永久磁石と、インペラの他方面に対向してハウジングに設けられた磁性体とを備えている。また、インペラの一方面には第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面には第2の動圧溝が形成されている。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ハウジングの磁性体からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0006】
さらに、特許文献4のクリーンポンプは、ケーシングと、ケーシング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ケーシングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた磁性体と、インペラの他方面に対向してハウジング外に設けられた電磁石とを備えている。また、インペラの一方面には動圧溝が形成されている。
【0007】
インペラの回転数が所定の回転数よりも低い場合は電磁石を作動させ、インペラの回転数が所定の回転数を超えた場合は電磁石への通電を停止する。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【特許文献1】特開平2004−209240号公報
【特許文献2】特開平2006−167173号公報
【特許文献3】特開平4−91396号公報
【特許文献4】実開平6−53790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4のポンプは、インペラとハウジングの対向部に形成された動圧溝によってインペラのアキシアル方向の支持を行ない、インペラに設けられた永久磁石とハウジング外に設けられた永久磁石との吸引力によってインペラのラジアル方向の支持を行なっている点で共通する。
【0009】
動圧溝の支持剛性は、インペラの回転数に比例する。したがって、ポンプに外乱が印加された状態でも、インペラがハウジングに接触することなく安定して回転するためには、ポンプの常用回転数域を上げてインペラのアキシアル方向の剛性を高める必要がある。しかし、上記特許文献1〜4のポンプでは、ラジアル方向を永久磁石の吸引力を利用して支持しているので、その支持剛性は低く、インペラを高速に回転させることができないと言う問題がある。
【0010】
このラジアル方向の剛性を高める方法としては、インペラ内の永久磁石とハウジングの外部に配した永久磁石もしくは固定子との吸引力を強める方法がある。しかし、その吸引力を強めると、インペラのアキシアル方向への負の剛性値が大きくなり(すなわち、インペラがアキシアル方向に動けば、その動いただけその吸引力が大きくなり)、動圧によるインペラの支持性能およびインペラ−ハウジング間に作用する吸引力が大きくなり、インペラのスムーズな回転駆動が難しくなると言う問題がある。
【0011】
特に、特許文献2の図39で示されるように、インペラを外部のモータコイルとインペラに配した永久磁石の磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示されるようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて起動トルクが小さいので、インペラのスムーズな回転駆動が難しい。
【0012】
これに対処するため、特許文献2では、インペラを所定の方向に付勢させるための電磁石や、永久磁石の磁力を変化させるための磁力調整用コイルを設け、それらをインペラの回転起動時に作動させてインペラの起動をスムーズにする方法も提案がされている。しかし、このような対処法では、電磁石やコイルといった新たに専用の部材を必要とすることからポンプサイズが大きくなり、構成部品が増えることから信頼性が低下すると言う問題があった。これらの問題は、人工心臓などで使用する血液ポンプにとっては重要な問題である。また、動圧軸受はインペラの位置制御を能動的に行なうものでないので、インペラの回転数とポンプ流体の粘度によってインペラの位置が変化する可能性がある。インペラの位置を計測するために新たなセンサを追加すると、構成部品が増えて信頼性が低下してしまう。これらの問題は、人工心臓などで使用する血液ポンプにとっては重要な問題である。
【0013】
それゆえに、この発明の主たる目的は、インペラを高速で回転させることができ、インペラをスムーズに回転起動させることでき、構成部品を増やすことなくインペラの位置を検出することが可能な小型の遠心式ポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動手段とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、隣接する磁極が互いに異なるように同一の円に沿って配置された複数の第3の磁性体とを備えたものである。駆動手段は、複数の第3の磁性体に対向して配置された複数の第4の磁性体と、それぞれ複数の第4の磁性体に対応して設けられて各々が対応の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイルとを含む。インペラの回転中において、第1および第2の磁性体間の第1の吸引力と複数の第3の磁性体および複数の第4の磁性体間の第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。この遠心式ポンプ装置は、さらに、各コイルに印加される電圧を検出する第1の検出手段と、各コイルに流れる電流を検出する第2の検出手段と、第1および第2の検出手段の検出結果とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、第1の室内におけるインペラのアキシアル方向の位置を求める演算手段とを備える。
【0015】
したがって、駆動手段の各コイル内に第4の磁性体を設け、この第4の磁性体とインペラの第3の磁性体とを磁気的に結合するので、コイル電流を調整することにより、インペラを高速で回転させることができ、また、ポンプサイズを小型に維持しながら、インペラの回転起動力を大きくすることができる。
【0016】
また、コイル電圧とコイル電流とインペラの回転数を示す情報とに基づいてインペラのアキシアル方向の位置を求めるので、ハウジング内の部品点数を増やすことなく、ハウジングの寸法を維持した状態で、インペラの浮上状態を監視することができ、装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0017】
好ましくは、演算手段は、第1の検出手段によって検出された電圧と第2の検出手段によって検出された電流との比を求め、その比とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、第1の室内におけるインペラのアキシアル方向の位置を求める。
【0018】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0019】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0020】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置とインペラの回転数を示す情報と液体の粘度情報とに基づいて、インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0021】
また好ましくは、液体は血液であり、遠心式ポンプ装置は、血液を循環させるために使用される。この場合は、インペラがスムーズに回転起動し、インペラとハウジング間の距離が確保されるので、溶血の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、この発明によれば、インペラを高速で回転させることができ、ポンプサイズを小型に維持しながら、インペラの回転起動力を大きくすることができる。また、インペラをスムーズに回転起動させることができる。また、ハウジング内の部品点数を増やすことなく、ハウジングの寸法を維持した状態で、インペラの浮上状態を監視することができ、装置の信頼性の向上を図ることができる。また、血液を循環させる場合には、溶血を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1の外観を示す正面図であり、図2はその側面図である。図3は図2のIII−III線断面図であり、図4は図3のIV−IV線断面図であり、図5は図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。図6は図3のVI−VI線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図であり、図7は図3のVII−VII線断面図である。
【0024】
図1〜図7において、この遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
【0025】
ハウジング2内には、図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、図3および図4に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
【0026】
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態1では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
【0027】
インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、血液流出ポート5から流出する。
【0028】
また、シュラウド11には永久磁石15が埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、永久磁石15を吸引する永久磁石16が埋設されている。永久磁石15,16は、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
【0029】
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15,16を設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、シュラウド11自体を永久磁石15または磁性体で形成してもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
【0030】
また、永久磁石16は、1つでもよいし、複数でもよい。永久磁石16が1つの場合は、永久磁石16はリング状に形成される。また、永久磁石16が複数の場合は、複数の永久磁石16は等角度間隔で同一の円に沿って配置される。永久磁石15も、永久磁石16と同様であり、1つでもよいし、複数でもよい。
【0031】
また、図4に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0032】
また、図7に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
【0033】
ここで、複数の磁性体18は、同じ寸法の3角柱状に形成されている。また、複数の磁性体18の周囲にはコイル20を巻回するためのスペースが均等に確保され、各隣接する2つの磁性体18の互いに対向する面は略平行に設けられている。このため、コイル20用の大きなスペースを確保することができ、コイル20の巻数を大きくすることができる。したがって、インペラ10を回転駆動させるための大きなトルクを発生することができる。また、コイル20で発生する銅損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0034】
なお、複数の磁性体18を囲む外形面(図7では、複数の磁性体18の外周を囲む円)は、複数の永久磁石17を囲む外形面(図4では、複数の磁性体18の外周を囲む円)に一致していてもよいし、複数の磁性体18を囲む外形面が複数の永久磁石17を囲む外形面よりも大きくてもよい。また、磁性体18は、ポンプ1の最大定格(インペラ10の回転駆動トルクが最大の条件)において、磁気的な飽和がないように設計することが好ましい。
【0035】
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、図8に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。
【0036】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15,16間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血・血栓が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
【0037】
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0038】
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、図5に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
【0039】
図5では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
【0040】
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
【0041】
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
【0042】
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0043】
また、複数の動圧溝22は、図6に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。図6では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
【0044】
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0045】
このように、インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
【0046】
インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
【0047】
なお、図5および図6では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
【0048】
図9は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0049】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
【0050】
図9の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
【0051】
図9から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
【0052】
これに対して図10は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0053】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、図9の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
【0054】
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。図3および図4に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
【0055】
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
【0056】
なお、図9および図10の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくこととにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
【0057】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
【0058】
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
【0059】
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
【0060】
特に、動圧溝21,22は、図3および図5で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
【0061】
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
【0062】
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)0.5の関係を満たすことが好ましい。
【0063】
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
【0064】
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
【0065】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、永久磁石16のサイズを永久磁石15よりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0066】
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
【0067】
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
【0068】
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【0069】
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
【0070】
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
【0071】
図11は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。図11において、コントローラ25は、モータ制御回路26、パワーアンプ27、電流検出部28、電圧検出部29、記憶部30、および比較演算部31を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、電流検出部28および電圧検出部19を介して、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0072】
電流検出部28は、コイル20に流れる電流Iを検出する。電圧検出部29は、コイル20に印加される電圧Vを検出する。電流検出部28は、たとえば、パワーアンプ27の出力端子とコイル20との間に挿入された抵抗素子と、その抵抗素子の電圧降下を検出する電圧計と、電圧計の検出結果に基づいて電流Iを求める演算部とを含む。また、電流検出部28は、電流プローブを用いて電流Iを検出するものでもよい。また、電圧検出部29は、たとえば、コイル20の入力端子と接地電圧のラインとの間の電圧を検出するオペアンプを含む。
【0073】
図12は、永久磁石17および磁性体18間のアキシアルギャップとI/Vとの関係を示す図である。図12において、アキシアルギャップはインペラ10の血液室7内での浮上位置によって変化し、アキシアルギャップが変化するとコイル20のインダクタンスが変化し、コイル20に印加される電圧Vが変化する。インペラ10が可動範囲の中央に位置している場合はI/Vは所定値であり、インペラ10の浮上位置が磁性体18側に移動するとI/Vの値が減少し、インペラ10の浮上位置が永久磁石16側に移動するとI/Vの値が増大する。したがって、I/Vの検出値と図12に示す曲線からアキシアルギャップを求めることができる。
【0074】
図11に戻って、記憶部30には、図12に示す曲線が記憶されている。曲線は、I/Vとアキシアルギャップの関係を示すテーブルとして記憶されていてもよいし、I/Vとアキシアルギャップの関係を示す関数として記憶されていてもよい。比較演算部31は、電流検出部28で検出された電流Iと電圧検出部29で検出された電圧VとからI/Vを求め、さらに、そのI/Vと記憶部30に記憶された図12の曲線とに基づいてアキシアルギャップすなわちインペラ10の位置を示す信号φPを出力する。したがって、ハウジング2が光透過性の低いプラスチックや金属で形成されていてインペラ10の挙動を目視できない場合でも、信号φPに基づいてインペラ10の位置が正常か否かを容易に判別することができる。
【0075】
なお、I/Vとアキシアルギャップの関係は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷によって変化する。したがって、I/Vとアキシアルギャップの関係を示す曲線を、インペラ10の回転数毎、液体の粘度毎、負荷毎、あるいはそれらの組合せ毎に記憶部30に格納してもよい。この場合は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷、あるいはそれらの組合せを示す情報が比較演算部31に別途与えられる。また、遠心式血液ポンプ装置の使用条件が固定されている場合は、その条件における曲線のみを記憶部30に格納すればよい。
【0076】
図13(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。図13(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15,16の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
【0077】
時刻t0において、図8で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15,16間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
【0078】
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
【0079】
次に、図8で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
【0080】
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
【0081】
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
【0082】
また、図14は、この実施の形態の変更例を示すブロック図である。この変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち図14において、この変更例では、図11のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。図13の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0083】
また、図15(a)〜(c)は、この実施の形態の他の変更例を示すタイムチャートである。図15(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
【0084】
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、図12の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
【0085】
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラをスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
【0086】
また、図16は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図16において、この変更例では、対向する永久磁石15,16の対向面のサイズが異なる。図3では、永久磁石15,16の対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0087】
また、図17は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図16と対比される図である。図17において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は磁性体18の先端面の面積よりも大きい。この変更例では、永久磁石17に対する磁性体18,35の吸引力を大きくすることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0088】
また、図18は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図16と対比される図である。図18において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0089】
また、図19に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、図20に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、図18の変更例と同じ効果が得られる。
【0090】
また、図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0091】
[実施の形態2]
図21は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部41の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。また、図22は、図21のXXII−XXII線断面図であって、図7と対比される図である。
【0092】
図21および図22を参照して、このポンプ部41が実施の形態1のポンプ部1と異なる点は、9個の磁性体18のうちの隣接する4個の磁性体18の3つの間に3つの磁気センサSが設けられている点である。3つの磁気センサSは、インペラ10の複数の永久磁石17の通過経路に対向して配置されている。インペラ10が回転して複数の永久磁石17のS極とN極が交互に磁気センサSの近傍を通過すると、磁気センサSの出力信号のレベルは、たとえば正弦波状(あるいはパルス状)に変化する。したがって、磁気センサSの出力信号の時間変化を検出することにより、複数の永久磁石17と複数の磁性体18との位置関係を検出することができ、複数のコイル20に電流を流すタイミングと、インペラ10の回転数を求めることができる。
【0093】
図23は、ポンプ部41を制御するコントローラ42の構成を示すブロック図であって、図11と対比される図である。図23において、コントローラ42が図11のコントローラ25と異なる点は、モータ制御回路25がモータ制御回路43で置換されている点である。モータ制御回路43は、3つの磁気センサSの出力信号に基づいて、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路43からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0094】
この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
また、図24は、この実施の形態2の変更例を示すブロック図である。図24において、この変更例では、図23のパワーアンプ27がパワーアンプ32,33および切換スイッチ34で置換される。図13の時刻t0〜t1では、モータ制御回路43の出力信号がパワーアンプ32に与えられ、パワーアンプ32の出力電圧が切換スイッチ34および検出部28,29を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路43の出力信号がパワーアンプ33に与えられ、パワーアンプ33の出力電圧が切換スイッチ34および検出部28,29を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0095】
また、図25は、この実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図であって、図23と対比される図である。この変更例では、図23のコントローラ42内に位置判定部44が追加される。位置判定部44は、比較演算部31で生成されたインペラ10の位置を示す信号φPに基づき、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する。
【0096】
また、図26は、この実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図であって、図25と対比される図である。この変更例では、図25のコントローラ42内に回転数演算部45が追加される。回転数演算部45は、3つの磁気センサSの出力信号に基づいてインペラ10の回転数を求め、その回転数を示す信号φRを出力する。位置判定部44は、位置演算部31で生成されたインペラ10の位置を示す信号φPと、回転数演算部45で生成されたインペラ10の回転数を示す信号φRとに基づき、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する。判定時にインペラ10の回転数を参照するのは、インペラ10の回転数によって動圧溝21,22の動圧軸受効果が変化し、インペラ10の位置が変化するからである。
【0097】
また、図27の変更例では、コントローラ42の外部から位置判定部44に液体の粘度情報を与える粘度情報入力部46が追加される。位置判定部44は、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定する際に、インペラ10の回転数に加え、液体(この場合は血液)の粘度情報を参照する。これは、液体の粘度によって動圧溝21,22の動圧軸受効果が変化し、インペラ10の位置が変化するからである。
【0098】
[実施の形態3]
図28は、この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置の構成を示すブロック図である。図28において、この遠心式血液ポンプ装置は、ポンプ部1とコントローラ50を備える。ポンプ部1の構成は、実施の形態1で説明した通りである。コントローラ50は、モータ制御回路51、パワーアンプ52、電圧検出部53、記憶部54、および演算比較部55を含む。
【0099】
インペラ10が回転すると、インペラ10の永久磁石17によって回転磁界が発生し、各コイル20に逆起電圧が発生する。また、図8で示したように、120度通電方式では、各60度の期間では、第1〜第3のコイル20のうちの2つのコイル20に正または負の電圧が印加され、残りの1つのコイル20には電圧は印加されない。したがって、電圧が印加されないコイル20の逆起電圧VRを検出することにより、インペラ10の永久磁石17の回転状態を検知することができる。電圧検出部53は、電圧が印加されない相のコイル20の逆起電圧VRを検出する。
【0100】
モータ制御回路51は、電圧検出部53の検出結果に基づいて、120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ52は、モータ制御回路51からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、電圧検出部53を介して、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0101】
また、コイル20に発生する逆起電圧VRと、永久磁石17および磁性体18間のアキシアルギャップとの間には相関関係がある。すなわち、アキシアルギャップはインペラ10の血液室7内での浮上位置によって変化し、アキシアルギャップが変化すると逆起電圧VRが変化する。インペラ10が可動範囲の中央に位置している場合は逆起電圧VRは所定値であり、インペラ10の浮上位置が磁性体18側に移動すると逆起電圧VRが上昇し、インペラ10の浮上位置が永久磁石16側に移動すると逆起電圧VRが低下する。逆起電圧VRとアキシアルギャップとの関係は予め実験によって求めておく。
【0102】
図11に戻って、記憶部50には、逆起電圧VRとアキシアルギャップとの関係を示すテーブルが記憶されている。比較演算部55は、電圧検出部53で検出された逆起電圧VRと記憶部54に記憶されたテーブルとに基づいてアキシアルギャップすなわちインペラ10の位置を求め、その位置を示す信号φPを出力する。したがって、ハウジング2が光透過性の低いプラスチックや金属で形成されていてインペラ10の挙動を目視できない場合でも、信号φPに基づいてインペラ10の位置が正常か否かを容易に判別することができる。
【0103】
なお、逆起電圧VRとアキシアルギャップの関係は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷によって変化する。したがって、逆起電圧VRとアキシアルギャップの関係を示す曲線を、インペラ10の回転数毎、液体の粘度毎、負荷毎、あるいはそれらの組合せ毎に記憶部54に格納してもよい。この場合は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷毎、あるいはそれらの組合せを示す情報が比較演算部55に別途与えられる。また、遠心式血液ポンプ装置の使用条件が固定されている場合は、その条件における曲線のみを記憶部54に格納すればよい。
【0104】
また、インペラ10の位置を示す信号φPに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図25参照)。また、電圧検出部53の検出結果に基づいてインペラ10の回転数を演算する回転数演算部と、演算されたインペラ10の回転数とインペラ10の位置を示す信号φPとに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図26参照)。また、回転数演算部によって演算されたインペラ10の回転数と、液体の粘度を示す情報と、インペラ10の位置を示す信号φPとに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図27参照)。
【0105】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の外観を示す正面図である。
【図2】図1に示したポンプ部の側面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図6】図3のVI−VI線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図7】図3のVII−VII線断面図である。
【図8】図7で示した複数のコイルに印加する電圧を例示するタイムチャートである。
【図9】本願発明の効果を説明するための図である。
【図10】本願発明の効果を説明するための他の図である。
【図11】図1〜図7で示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図12】図11に示したI/Vとアキシアルギャップとの関係を示す図である。
【図13】図11に示したコントローラの動作を示すタイムチャートである。
【図14】実施の形態1の変更例を示すブロック図である。
【図15】実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。
【図16】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図17】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図18】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図19】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図20】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図21】この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図22】図20のXXII−XXII線断面図である。
【図23】図20および図21に示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図24】実施の形態2の変更例を示すブロック図である。
【図25】実施の形態2の他の変更例を示すブロック図である。
【図26】実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図である。
【図27】実施の形態2のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図28】この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0107】
1,41 ポンプ部、2 ハウジング、3 本体部、4 血液流入ポート、5 血液流出ポート、6 隔壁、7 血液室、8 モータ室、10 インペラ、10a 貫通孔、11,12 シュラウド、13 ベーン、14 血液通路、15〜17 永久磁石、18,35,37〜39 磁性体、19,36 継鉄、20 コイル、21,22 動圧溝、25,42,50 コントローラ、26,43,51 モータ制御回路、27,32,33,52 パワーアンプ、28 電流検出部、29,53 電圧検出部、30,54 記憶部、31,55 比較演算部、34 切換スイッチ、44 位置判定部、45 回転数演算部、46 粘度情報入力部、S 磁気センサ。
【技術分野】
【0001】
この発明は遠心式ポンプ装置に関し、特に、回転時の遠心力によって液体を送るインペラを備えた遠心式ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工心肺装置の血液循環装置として、外部モータの駆動トルクを磁気結合を用いて血液室内のインペラに伝達する遠心式血液ポンプ装置を使用する例が増加している。この遠心式血液ポンプ装置によれば、外部と血液室との物理的な連通を排除することができ、細菌などの血液への侵入を防止することができる。
【0003】
特許文献1の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた電磁石と、インペラの他方面に設けられた永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた永久磁石とを備える。インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には、動圧溝が形成されている。電磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0004】
また、特許文献2の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた第1の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第2の永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた第3の永久磁石とを備える。インペラの一方面に対向する第1の隔壁の表面には第1の動圧軸が形成され、インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には第2の動圧溝が形成されている。第1の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの第3の永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0005】
また、特許文献3の図8および図9のターボ形ポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第3の永久磁石と、インペラの他方面に対向してハウジングに設けられた磁性体とを備えている。また、インペラの一方面には第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面には第2の動圧溝が形成されている。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ハウジングの磁性体からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0006】
さらに、特許文献4のクリーンポンプは、ケーシングと、ケーシング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ケーシングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた磁性体と、インペラの他方面に対向してハウジング外に設けられた電磁石とを備えている。また、インペラの一方面には動圧溝が形成されている。
【0007】
インペラの回転数が所定の回転数よりも低い場合は電磁石を作動させ、インペラの回転数が所定の回転数を超えた場合は電磁石への通電を停止する。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【特許文献1】特開平2004−209240号公報
【特許文献2】特開平2006−167173号公報
【特許文献3】特開平4−91396号公報
【特許文献4】実開平6−53790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4のポンプは、インペラとハウジングの対向部に形成された動圧溝によってインペラのアキシアル方向の支持を行ない、インペラに設けられた永久磁石とハウジング外に設けられた永久磁石との吸引力によってインペラのラジアル方向の支持を行なっている点で共通する。
【0009】
動圧溝の支持剛性は、インペラの回転数に比例する。したがって、ポンプに外乱が印加された状態でも、インペラがハウジングに接触することなく安定して回転するためには、ポンプの常用回転数域を上げてインペラのアキシアル方向の剛性を高める必要がある。しかし、上記特許文献1〜4のポンプでは、ラジアル方向を永久磁石の吸引力を利用して支持しているので、その支持剛性は低く、インペラを高速に回転させることができないと言う問題がある。
【0010】
このラジアル方向の剛性を高める方法としては、インペラ内の永久磁石とハウジングの外部に配した永久磁石もしくは固定子との吸引力を強める方法がある。しかし、その吸引力を強めると、インペラのアキシアル方向への負の剛性値が大きくなり(すなわち、インペラがアキシアル方向に動けば、その動いただけその吸引力が大きくなり)、動圧によるインペラの支持性能およびインペラ−ハウジング間に作用する吸引力が大きくなり、インペラのスムーズな回転駆動が難しくなると言う問題がある。
【0011】
特に、特許文献2の図39で示されるように、インペラを外部のモータコイルとインペラに配した永久磁石の磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示されるようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて起動トルクが小さいので、インペラのスムーズな回転駆動が難しい。
【0012】
これに対処するため、特許文献2では、インペラを所定の方向に付勢させるための電磁石や、永久磁石の磁力を変化させるための磁力調整用コイルを設け、それらをインペラの回転起動時に作動させてインペラの起動をスムーズにする方法も提案がされている。しかし、このような対処法では、電磁石やコイルといった新たに専用の部材を必要とすることからポンプサイズが大きくなり、構成部品が増えることから信頼性が低下すると言う問題があった。これらの問題は、人工心臓などで使用する血液ポンプにとっては重要な問題である。また、動圧軸受はインペラの位置制御を能動的に行なうものでないので、インペラの回転数とポンプ流体の粘度によってインペラの位置が変化する可能性がある。インペラの位置を計測するために新たなセンサを追加すると、構成部品が増えて信頼性が低下してしまう。これらの問題は、人工心臓などで使用する血液ポンプにとっては重要な問題である。
【0013】
それゆえに、この発明の主たる目的は、インペラを高速で回転させることができ、インペラをスムーズに回転起動させることでき、構成部品を増やすことなくインペラの位置を検出することが可能な小型の遠心式ポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動手段とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、隣接する磁極が互いに異なるように同一の円に沿って配置された複数の第3の磁性体とを備えたものである。駆動手段は、複数の第3の磁性体に対向して配置された複数の第4の磁性体と、それぞれ複数の第4の磁性体に対応して設けられて各々が対応の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイルとを含む。インペラの回転中において、第1および第2の磁性体間の第1の吸引力と複数の第3の磁性体および複数の第4の磁性体間の第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。この遠心式ポンプ装置は、さらに、各コイルに印加される電圧を検出する第1の検出手段と、各コイルに流れる電流を検出する第2の検出手段と、第1および第2の検出手段の検出結果とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、第1の室内におけるインペラのアキシアル方向の位置を求める演算手段とを備える。
【0015】
したがって、駆動手段の各コイル内に第4の磁性体を設け、この第4の磁性体とインペラの第3の磁性体とを磁気的に結合するので、コイル電流を調整することにより、インペラを高速で回転させることができ、また、ポンプサイズを小型に維持しながら、インペラの回転起動力を大きくすることができる。
【0016】
また、コイル電圧とコイル電流とインペラの回転数を示す情報とに基づいてインペラのアキシアル方向の位置を求めるので、ハウジング内の部品点数を増やすことなく、ハウジングの寸法を維持した状態で、インペラの浮上状態を監視することができ、装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0017】
好ましくは、演算手段は、第1の検出手段によって検出された電圧と第2の検出手段によって検出された電流との比を求め、その比とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、第1の室内におけるインペラのアキシアル方向の位置を求める。
【0018】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0019】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置とインペラの回転数を示す情報とに基づいて、インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0020】
また好ましくは、さらに、演算手段によって求められたインペラのアキシアル方向の位置とインペラの回転数を示す情報と液体の粘度情報とに基づいて、インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備える。
【0021】
また好ましくは、液体は血液であり、遠心式ポンプ装置は、血液を循環させるために使用される。この場合は、インペラがスムーズに回転起動し、インペラとハウジング間の距離が確保されるので、溶血の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、この発明によれば、インペラを高速で回転させることができ、ポンプサイズを小型に維持しながら、インペラの回転起動力を大きくすることができる。また、インペラをスムーズに回転起動させることができる。また、ハウジング内の部品点数を増やすことなく、ハウジングの寸法を維持した状態で、インペラの浮上状態を監視することができ、装置の信頼性の向上を図ることができる。また、血液を循環させる場合には、溶血を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1の外観を示す正面図であり、図2はその側面図である。図3は図2のIII−III線断面図であり、図4は図3のIV−IV線断面図であり、図5は図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。図6は図3のVI−VI線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図であり、図7は図3のVII−VII線断面図である。
【0024】
図1〜図7において、この遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
【0025】
ハウジング2内には、図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、図3および図4に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
【0026】
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態1では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
【0027】
インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、血液流出ポート5から流出する。
【0028】
また、シュラウド11には永久磁石15が埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、永久磁石15を吸引する永久磁石16が埋設されている。永久磁石15,16は、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
【0029】
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15,16を設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、シュラウド11自体を永久磁石15または磁性体で形成してもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
【0030】
また、永久磁石16は、1つでもよいし、複数でもよい。永久磁石16が1つの場合は、永久磁石16はリング状に形成される。また、永久磁石16が複数の場合は、複数の永久磁石16は等角度間隔で同一の円に沿って配置される。永久磁石15も、永久磁石16と同様であり、1つでもよいし、複数でもよい。
【0031】
また、図4に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0032】
また、図7に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
【0033】
ここで、複数の磁性体18は、同じ寸法の3角柱状に形成されている。また、複数の磁性体18の周囲にはコイル20を巻回するためのスペースが均等に確保され、各隣接する2つの磁性体18の互いに対向する面は略平行に設けられている。このため、コイル20用の大きなスペースを確保することができ、コイル20の巻数を大きくすることができる。したがって、インペラ10を回転駆動させるための大きなトルクを発生することができる。また、コイル20で発生する銅損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0034】
なお、複数の磁性体18を囲む外形面(図7では、複数の磁性体18の外周を囲む円)は、複数の永久磁石17を囲む外形面(図4では、複数の磁性体18の外周を囲む円)に一致していてもよいし、複数の磁性体18を囲む外形面が複数の永久磁石17を囲む外形面よりも大きくてもよい。また、磁性体18は、ポンプ1の最大定格(インペラ10の回転駆動トルクが最大の条件)において、磁気的な飽和がないように設計することが好ましい。
【0035】
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、図8に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。
【0036】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15,16間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血・血栓が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
【0037】
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0038】
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、図5に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
【0039】
図5では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
【0040】
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
【0041】
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
【0042】
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0043】
また、複数の動圧溝22は、図6に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。図6では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
【0044】
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0045】
このように、インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
【0046】
インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
【0047】
なお、図5および図6では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
【0048】
図9は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0049】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
【0050】
図9の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
【0051】
図9から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
【0052】
これに対して図10は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0053】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、図9の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
【0054】
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。図3および図4に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
【0055】
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
【0056】
なお、図9および図10の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくこととにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
【0057】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
【0058】
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
【0059】
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
【0060】
特に、動圧溝21,22は、図3および図5で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
【0061】
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
【0062】
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)0.5の関係を満たすことが好ましい。
【0063】
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
【0064】
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
【0065】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、永久磁石16のサイズを永久磁石15よりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0066】
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
【0067】
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
【0068】
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【0069】
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
【0070】
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
【0071】
図11は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。図11において、コントローラ25は、モータ制御回路26、パワーアンプ27、電流検出部28、電圧検出部29、記憶部30、および比較演算部31を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、電流検出部28および電圧検出部19を介して、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0072】
電流検出部28は、コイル20に流れる電流Iを検出する。電圧検出部29は、コイル20に印加される電圧Vを検出する。電流検出部28は、たとえば、パワーアンプ27の出力端子とコイル20との間に挿入された抵抗素子と、その抵抗素子の電圧降下を検出する電圧計と、電圧計の検出結果に基づいて電流Iを求める演算部とを含む。また、電流検出部28は、電流プローブを用いて電流Iを検出するものでもよい。また、電圧検出部29は、たとえば、コイル20の入力端子と接地電圧のラインとの間の電圧を検出するオペアンプを含む。
【0073】
図12は、永久磁石17および磁性体18間のアキシアルギャップとI/Vとの関係を示す図である。図12において、アキシアルギャップはインペラ10の血液室7内での浮上位置によって変化し、アキシアルギャップが変化するとコイル20のインダクタンスが変化し、コイル20に印加される電圧Vが変化する。インペラ10が可動範囲の中央に位置している場合はI/Vは所定値であり、インペラ10の浮上位置が磁性体18側に移動するとI/Vの値が減少し、インペラ10の浮上位置が永久磁石16側に移動するとI/Vの値が増大する。したがって、I/Vの検出値と図12に示す曲線からアキシアルギャップを求めることができる。
【0074】
図11に戻って、記憶部30には、図12に示す曲線が記憶されている。曲線は、I/Vとアキシアルギャップの関係を示すテーブルとして記憶されていてもよいし、I/Vとアキシアルギャップの関係を示す関数として記憶されていてもよい。比較演算部31は、電流検出部28で検出された電流Iと電圧検出部29で検出された電圧VとからI/Vを求め、さらに、そのI/Vと記憶部30に記憶された図12の曲線とに基づいてアキシアルギャップすなわちインペラ10の位置を示す信号φPを出力する。したがって、ハウジング2が光透過性の低いプラスチックや金属で形成されていてインペラ10の挙動を目視できない場合でも、信号φPに基づいてインペラ10の位置が正常か否かを容易に判別することができる。
【0075】
なお、I/Vとアキシアルギャップの関係は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷によって変化する。したがって、I/Vとアキシアルギャップの関係を示す曲線を、インペラ10の回転数毎、液体の粘度毎、負荷毎、あるいはそれらの組合せ毎に記憶部30に格納してもよい。この場合は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷、あるいはそれらの組合せを示す情報が比較演算部31に別途与えられる。また、遠心式血液ポンプ装置の使用条件が固定されている場合は、その条件における曲線のみを記憶部30に格納すればよい。
【0076】
図13(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。図13(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15,16の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
【0077】
時刻t0において、図8で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15,16間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
【0078】
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
【0079】
次に、図8で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
【0080】
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
【0081】
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
【0082】
また、図14は、この実施の形態の変更例を示すブロック図である。この変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち図14において、この変更例では、図11のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。図13の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0083】
また、図15(a)〜(c)は、この実施の形態の他の変更例を示すタイムチャートである。図15(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
【0084】
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、図12の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
【0085】
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラをスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
【0086】
また、図16は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図16において、この変更例では、対向する永久磁石15,16の対向面のサイズが異なる。図3では、永久磁石15,16の対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0087】
また、図17は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図16と対比される図である。図17において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は磁性体18の先端面の面積よりも大きい。この変更例では、永久磁石17に対する磁性体18,35の吸引力を大きくすることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0088】
また、図18は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図16と対比される図である。図18において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0089】
また、図19に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、図20に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、図18の変更例と同じ効果が得られる。
【0090】
また、図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0091】
[実施の形態2]
図21は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部41の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。また、図22は、図21のXXII−XXII線断面図であって、図7と対比される図である。
【0092】
図21および図22を参照して、このポンプ部41が実施の形態1のポンプ部1と異なる点は、9個の磁性体18のうちの隣接する4個の磁性体18の3つの間に3つの磁気センサSが設けられている点である。3つの磁気センサSは、インペラ10の複数の永久磁石17の通過経路に対向して配置されている。インペラ10が回転して複数の永久磁石17のS極とN極が交互に磁気センサSの近傍を通過すると、磁気センサSの出力信号のレベルは、たとえば正弦波状(あるいはパルス状)に変化する。したがって、磁気センサSの出力信号の時間変化を検出することにより、複数の永久磁石17と複数の磁性体18との位置関係を検出することができ、複数のコイル20に電流を流すタイミングと、インペラ10の回転数を求めることができる。
【0093】
図23は、ポンプ部41を制御するコントローラ42の構成を示すブロック図であって、図11と対比される図である。図23において、コントローラ42が図11のコントローラ25と異なる点は、モータ制御回路25がモータ制御回路43で置換されている点である。モータ制御回路43は、3つの磁気センサSの出力信号に基づいて、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路43からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0094】
この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
また、図24は、この実施の形態2の変更例を示すブロック図である。図24において、この変更例では、図23のパワーアンプ27がパワーアンプ32,33および切換スイッチ34で置換される。図13の時刻t0〜t1では、モータ制御回路43の出力信号がパワーアンプ32に与えられ、パワーアンプ32の出力電圧が切換スイッチ34および検出部28,29を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路43の出力信号がパワーアンプ33に与えられ、パワーアンプ33の出力電圧が切換スイッチ34および検出部28,29を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0095】
また、図25は、この実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図であって、図23と対比される図である。この変更例では、図23のコントローラ42内に位置判定部44が追加される。位置判定部44は、比較演算部31で生成されたインペラ10の位置を示す信号φPに基づき、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する。
【0096】
また、図26は、この実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図であって、図25と対比される図である。この変更例では、図25のコントローラ42内に回転数演算部45が追加される。回転数演算部45は、3つの磁気センサSの出力信号に基づいてインペラ10の回転数を求め、その回転数を示す信号φRを出力する。位置判定部44は、位置演算部31で生成されたインペラ10の位置を示す信号φPと、回転数演算部45で生成されたインペラ10の回転数を示す信号φRとに基づき、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する。判定時にインペラ10の回転数を参照するのは、インペラ10の回転数によって動圧溝21,22の動圧軸受効果が変化し、インペラ10の位置が変化するからである。
【0097】
また、図27の変更例では、コントローラ42の外部から位置判定部44に液体の粘度情報を与える粘度情報入力部46が追加される。位置判定部44は、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定する際に、インペラ10の回転数に加え、液体(この場合は血液)の粘度情報を参照する。これは、液体の粘度によって動圧溝21,22の動圧軸受効果が変化し、インペラ10の位置が変化するからである。
【0098】
[実施の形態3]
図28は、この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置の構成を示すブロック図である。図28において、この遠心式血液ポンプ装置は、ポンプ部1とコントローラ50を備える。ポンプ部1の構成は、実施の形態1で説明した通りである。コントローラ50は、モータ制御回路51、パワーアンプ52、電圧検出部53、記憶部54、および演算比較部55を含む。
【0099】
インペラ10が回転すると、インペラ10の永久磁石17によって回転磁界が発生し、各コイル20に逆起電圧が発生する。また、図8で示したように、120度通電方式では、各60度の期間では、第1〜第3のコイル20のうちの2つのコイル20に正または負の電圧が印加され、残りの1つのコイル20には電圧は印加されない。したがって、電圧が印加されないコイル20の逆起電圧VRを検出することにより、インペラ10の永久磁石17の回転状態を検知することができる。電圧検出部53は、電圧が印加されない相のコイル20の逆起電圧VRを検出する。
【0100】
モータ制御回路51は、電圧検出部53の検出結果に基づいて、120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ52は、モータ制御回路51からの3相の制御信号を増幅して、図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、電圧検出部53を介して、図7および図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0101】
また、コイル20に発生する逆起電圧VRと、永久磁石17および磁性体18間のアキシアルギャップとの間には相関関係がある。すなわち、アキシアルギャップはインペラ10の血液室7内での浮上位置によって変化し、アキシアルギャップが変化すると逆起電圧VRが変化する。インペラ10が可動範囲の中央に位置している場合は逆起電圧VRは所定値であり、インペラ10の浮上位置が磁性体18側に移動すると逆起電圧VRが上昇し、インペラ10の浮上位置が永久磁石16側に移動すると逆起電圧VRが低下する。逆起電圧VRとアキシアルギャップとの関係は予め実験によって求めておく。
【0102】
図11に戻って、記憶部50には、逆起電圧VRとアキシアルギャップとの関係を示すテーブルが記憶されている。比較演算部55は、電圧検出部53で検出された逆起電圧VRと記憶部54に記憶されたテーブルとに基づいてアキシアルギャップすなわちインペラ10の位置を求め、その位置を示す信号φPを出力する。したがって、ハウジング2が光透過性の低いプラスチックや金属で形成されていてインペラ10の挙動を目視できない場合でも、信号φPに基づいてインペラ10の位置が正常か否かを容易に判別することができる。
【0103】
なお、逆起電圧VRとアキシアルギャップの関係は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷によって変化する。したがって、逆起電圧VRとアキシアルギャップの関係を示す曲線を、インペラ10の回転数毎、液体の粘度毎、負荷毎、あるいはそれらの組合せ毎に記憶部54に格納してもよい。この場合は、インペラ10の回転数、液体の粘度、負荷毎、あるいはそれらの組合せを示す情報が比較演算部55に別途与えられる。また、遠心式血液ポンプ装置の使用条件が固定されている場合は、その条件における曲線のみを記憶部54に格納すればよい。
【0104】
また、インペラ10の位置を示す信号φPに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図25参照)。また、電圧検出部53の検出結果に基づいてインペラ10の回転数を演算する回転数演算部と、演算されたインペラ10の回転数とインペラ10の位置を示す信号φPとに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図26参照)。また、回転数演算部によって演算されたインペラ10の回転数と、液体の粘度を示す情報と、インペラ10の位置を示す信号φPとに基づいて、インペラ10の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号φDを出力する位置判定部を設けてもよい(図27参照)。
【0105】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の外観を示す正面図である。
【図2】図1に示したポンプ部の側面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図6】図3のVI−VI線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図7】図3のVII−VII線断面図である。
【図8】図7で示した複数のコイルに印加する電圧を例示するタイムチャートである。
【図9】本願発明の効果を説明するための図である。
【図10】本願発明の効果を説明するための他の図である。
【図11】図1〜図7で示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図12】図11に示したI/Vとアキシアルギャップとの関係を示す図である。
【図13】図11に示したコントローラの動作を示すタイムチャートである。
【図14】実施の形態1の変更例を示すブロック図である。
【図15】実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。
【図16】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図17】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図18】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図19】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図20】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図21】この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図22】図20のXXII−XXII線断面図である。
【図23】図20および図21に示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図24】実施の形態2の変更例を示すブロック図である。
【図25】実施の形態2の他の変更例を示すブロック図である。
【図26】実施の形態2のさらに他の変更例を示すブロック図である。
【図27】実施の形態2のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図28】この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0107】
1,41 ポンプ部、2 ハウジング、3 本体部、4 血液流入ポート、5 血液流出ポート、6 隔壁、7 血液室、8 モータ室、10 インペラ、10a 貫通孔、11,12 シュラウド、13 ベーン、14 血液通路、15〜17 永久磁石、18,35,37〜39 磁性体、19,36 継鉄、20 コイル、21,22 動圧溝、25,42,50 コントローラ、26,43,51 モータ制御回路、27,32,33,52 パワーアンプ、28 電流検出部、29,53 電圧検出部、30,54 記憶部、31,55 比較演算部、34 切換スイッチ、44 位置判定部、45 回転数演算部、46 粘度情報入力部、S 磁気センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動手段とを備えた遠心ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、隣接する磁極が互いに異なるように同一の円に沿って配置された複数の第3の磁性体とを備え、
前記駆動手段は、
前記複数の第3の磁性体に対向して配置された複数の第4の磁性体と、
それぞれ前記複数の第4の磁性体に対応して設けられて各々が対応の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイルとを含み、
前記インペラの回転中において、前記第1および第2の磁性体間の第1の吸引力と前記複数の第3の磁性体および前記複数の第4の磁性体間の第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
さらに、各コイルに印加される電圧を検出する第1の検出手段と、
各コイルに流れる電流を検出する第2の検出手段と、
前記第1および第2の検出手段の検出結果と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記第1の室内における前記インペラのアキシアル方向の位置を求める演算手段とを備えることを特徴とする、遠心式ポンプ装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記第1の検出手段によって検出された電圧と前記第2の検出手段によって検出された電流との比を求め、その比と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記第1の室内における前記インペラのアキシアル方向の位置を求めることを特徴とする、請求項1に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項3】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項4】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項5】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置と前記インペラの回転数を示す情報と前記液体の粘度情報とに基づいて、前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項6】
前記液体は血液であり、
前記遠心式ポンプ装置は、前記血液を循環させるために使用されることを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項1】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動手段とを備えた遠心ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、隣接する磁極が互いに異なるように同一の円に沿って配置された複数の第3の磁性体とを備え、
前記駆動手段は、
前記複数の第3の磁性体に対向して配置された複数の第4の磁性体と、
それぞれ前記複数の第4の磁性体に対応して設けられて各々が対応の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイルとを含み、
前記インペラの回転中において、前記第1および第2の磁性体間の第1の吸引力と前記複数の第3の磁性体および前記複数の第4の磁性体間の第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
さらに、各コイルに印加される電圧を検出する第1の検出手段と、
各コイルに流れる電流を検出する第2の検出手段と、
前記第1および第2の検出手段の検出結果と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記第1の室内における前記インペラのアキシアル方向の位置を求める演算手段とを備えることを特徴とする、遠心式ポンプ装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記第1の検出手段によって検出された電圧と前記第2の検出手段によって検出された電流との比を求め、その比と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記第1の室内における前記インペラのアキシアル方向の位置を求めることを特徴とする、請求項1に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項3】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項4】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置と前記インペラの回転数を示す情報とに基づいて、前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項5】
さらに、前記演算手段によって求められた前記インペラのアキシアル方向の位置と前記インペラの回転数を示す情報と前記液体の粘度情報とに基づいて、前記インペラのアキシアル方向の位置が正常範囲内か否かを判定し、判定結果を示す信号を出力する判定手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項6】
前記液体は血液であり、
前記遠心式ポンプ装置は、前記血液を循環させるために使用されることを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2010−136863(P2010−136863A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315540(P2008−315540)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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