説明

金属品を調整された濡れ性を有する表面で被覆する方法

第1金属を含有する少なくとも部分的な金属表面を有する金属品を、所定の濡れ性を有する表面で被覆する方法であって、以下のステップ:(a)金属品の少なくとも一部を、第2金属の層で被覆して、金属−金属接合面を提供すること、該表面はステップ(a)の前に、またはステップ(a)のために、粗であり;および、(b)ステップ(a)の金属−金属接合面を材料に接触させて、所定の濡れ性を有する表面を提供すること、を少なくとも含む、前記方法。第1金属は例えば、鉄、亜鉛、銅、スズ、ニッケルおよびアルミニウム、ならびにスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金からなる群の1種または2種以上であってよい。好ましくは、第2金属を、第1金属の上に、無電解ガルバニック析出を用いて被覆する。被覆金属品の性質は限定されず、これは、本発明の能力が、超疎水性および超親水性の濡れ性を含む所定の濡れ性の、調整された表面を提供することだからである。これにより、本発明は、異なる分野で用いられる広範囲の金属種類に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属品をある表面で被覆して、水および水溶液に対しては超疎水性から超親水性までの、および他の液体に対しては完全に非濡れ性から完全に濡れ性までの範囲を取りうる、調整された濡れ性を提供する方法に関する。本発明はまた、このようにして形成された金属品およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
液体が表面を濡らす程度は、一般に1滴の液体が表面と作る角度である「接触角」によって規定される。
多くの研究が、その特別な重要性のため液体としての水に集中しており、これにより水について150°より大きい接触角を与える表面に対し、「超疎水性」の用語が用いられている。完全に疎水性の表面については、接触角は180°である。かかる表面に適用された水滴は、明らかに摩擦無しで、自由に転がる。
超疎水性表面の合成には広い範囲のアプローチがあり、これらには以下を使用することが含まれる:高分子電解質多層、ゾルゲル、自己組織化(self assembly)、プラズマ処理、ナノ粒子リソグラフィ、カーボンナノチューブフォレスト、ラズベリー様粒子、シリカベースの表面ならびにガラスおよび金属の化学エッチング。
【0003】
液体と表面の間の接触を正確に視覚化することが困難であるため、接触角測定は容易ではなく、特に、接触角のスケールの限界において、すなわち0°および180°においてそうである。しかし、完全疎水性(θ=180°)表面の1つの調製方法が提唱されている(L. Gao and T.J. McCarthy, Journal of the American Chemical Society, 2006, vol. 128, 9052-53)。しかしこの方法は、シリコンに限定され、試料の70%のみにしか適用できず、また酸素プラズマ洗浄ステップ用の高価な装置の使用を伴うために、一般にまたは工業的に実用的ではない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの目的は、1つの金属品上に、水および他の液体に対して調整された濡れ性を有する表面を提供するための、簡単な方法を提供することである。
本発明の他の目的は、一定範囲の金属表面上に、水および他の液体に対して調整された濡れ性を有する表面を提供するための、方法を提供することである。
本発明の他の目的は、一定範囲の金属品上に、水および他の液体に対して調整された濡れ性を有する表面を提供するための、方法を提供することである。
本発明の他の目的は、金属で被覆された一定範囲の非金属基板上に、水および他の液体に対して調整された濡れ性を有する表面を提供するための、方法を提供することである。
本発明は、金属品上に所望レベルの濡れ性を与える表面を提供する方法を提供する。
【0005】
本発明の1つの側面によれば、第1金属を含有する少なくとも部分的な金属表面を有する金属品を、所定の濡れ性を有する表面で被覆する方法であって、少なくとも以下のステップ:
(a)金属品の少なくとも一部を第2金属の層で被覆して、金属−金属接合面を提供すること、該表面はステップ(a)の前に、またはステップ(a)のために、粗であり;および
(b)ステップ(a)の金属−金属接合面を材料に接触させて、所定の濡れ性を有する表面を提供すること、
を含む、前記方法が提供される。
【0006】
第1金属は、鉄、亜鉛、銅、スズ、ニッケルおよびアルミニウム、ならびに例えばスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金からなる群の1種または2種以上であってよい。
【0007】
金属品の少なくとも一部を第2金属で被覆することは、任意の既知の方法を用いて、例えばスパッタリング、電気化学析出などの任意の電気化学法、自発的酸化還元反応、または浸漬を用いて行うことができる。
実質的に全ての金属、特に金および銀などの金属を、金属品の第1金属の表面上に、特に金属品が最初に塩酸などの酸でエッチングされている場合に、スパッタリングすることができる。したがって、本発明は第2金属の性質によって限定されない。
【0008】
自発的電気化学析出法は通常、金属品の第1金属の還元電位が、該金属品表面に析出されこれを被覆する第2金属イオンの還元電位よりも負であることが必要とされる。自発的であるか否に関わらず、かかる方法においては、被覆される金属品の一部が第2金属イオンの溶液と接触し、次にこのイオンが表面において第2金属に還元されることが必要である。
当分野で知られているように、いくつかの電気化学法は自発的であり、いくつかは駆動される必要がある。
【0009】
例えば、金または銀を自発的酸化還元反応において析出させる場合、被覆される金属品に好適な第1金属は、鉄、亜鉛、銅、スズ、ニッケルおよびアルミニウム、ならびにスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金からなる群の1種または2種以上であってよい。他の例において、プラチナをスカンジウムまたは亜鉛上に析出してもよい。
金属品は、少なくとも部分的な金属表面を有する、任意の好適な製品、材料、単位品または基板などであることができる。金属品は、物品それ自体であっても、または表面もしくは構成部品であってもよく、随意に、より大きい製品もしくは基板から分離可能であるか、またはこれと一体化されていてもよい。
【0010】
本発明の1つの態様において、金属品の表面は完全にまたは実質的に(一般に>50質量%)金属である。例えば、金属品は完全に金属であるか、または少なくとも連続した金属面を有することができる。例としては、金属シートまたは成形された金属品であり、例えば釘、バケツ、フォーク、ロッドなどであり、金属梁、金属ケーブルまたはレールなどのより大きな製品に、またはより広い平面、例えば船の船体などに拡張される。他の例は、熱交換器の1または2以上の伝熱シートである。例えば、水蒸気が関連するものなど水ベースの熱交換器用の伝熱シート上に、超疎水性表面を有することは、水蒸気から他の媒体への連続した伝熱を阻害する、伝熱シート上の水蒸気の連続濃縮層の生成を、減少させるかまたは防ぐ。
【0011】
好適な金属品の他の例は、一般に1つの材料の通過を許容し、第2材料の通過を妨げることを意図したセパレータまたはフィルターであり、これによりこれは種特異的バリア材料である。例えば、超疎水性ガス透過フィルターは、空気などのガスがこれを通過することを許容し、一方水がこれを通過するのは妨げることができる。他の例において、極性および非極性液体の混合物、例えば水と油またはヘキサンなどの有機溶媒は、少なくとも部分的に超疎水性表面を有するフィルターを、水が妨害され、有機溶媒はこれを通るような様式で通過することができ、したがって有機溶媒が水から分離される。
【0012】
本発明は、金属品の使用、形状、寸法または目的により制限されない。本発明は、かかる金属品が任意の液体(水に限定されない)に対して所定の濡れ性の表面を有すること可能にする。
好適な金属品は、剛性または可撓性であってよく、または、可撓性の1または2以上の部分と、1または2以上の他の部分よりも剛性また比較的より剛性である、1または2以上の部分とを含んでもよい。
【0013】
本発明の他の態様において、金属品は粉末である。すなわち、任意の寸法または寸法範囲の金属粒子の集合であり、この例には、mm、サブmm、およびμm寸法の粒子を含み、本発明によって同様に被覆することができる。
粉末は、固体金属粉末であってよく、この表面はしたがって完全に金属であるか、または、ガラスもしくはセラミックもしくはケイ酸塩などの他の物質の、少なくとも部分的な、随意には完全な、金属被覆粉末であってよい。金属被覆ガラスビーズの粉末形態は当分野で知られており、本発明とともに用いることができる。
【0014】
本発明の他の態様において、金属品は非金属品に混合されるかまたは埋め込まれる。例としては、金属粉末などの金属品を、随意にプラスチック形状を形成する前に、モノマーまたはポリマープラスチック組成物に混合すること、または、金属品を、限定はしないが特に金属粉末を、プラスチックなどの非金属品の表面に、例えばローリングまたはプレスにより埋め込むことを含む。1つの方法において、プラスチックは金属品で「ドーピング」されている。粉末としての金属品はまた、1種または2種以上の粉末、顆粒状材料の微粒子と、例えばセメントなどのセメント状材料などと、混合することもできる。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、金属品は基板であって、これは少なくとも部分的に、随意には完全に、第3金属により前被覆されて、本発明の方法に好適な金属品の少なくとも部分的金属表面を提供する。1つの例は表面の銅めっきであり、本明細書に記載のようにして被覆が可能な、好適な銅品を提供する。銅は、金属、非金属またはこれらの組合せを問わず、多くの種類、デザインまたは処置による表面および基板上にめっきすることができる。これには、セラミック、シリコンおよび、第2金属の層(ステップ(a)の金属−金属接合面を提供するためのもの)による直接被覆が困難である他の金属面も含む。
【0016】
基板が非金属である場合、第3金属は、本明細書に記載の第1金属となり、第1金属を含有する少なくとも部分的な金属表面を提供する。
したがって第3金属は、被覆される基板の特性に基づき、任意の好適な金属であってよい。好ましくは第3金属は、鉄、亜鉛、銅、スズ、タングステン、チタン、ニッケルおよびアルミニウム、ならびにスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金からなる群の1種または2種以上である。
【0017】
金属品の第3金属による前被覆は、任意の既知の方法を用いて、例えばスパッタリング、電気化学析出などの任意の電気化学法、自発的酸化還元反応、または浸漬を用いて行うことができる。
浸漬は、周囲温度または高い温度での任意の形態の浸漬を含む。例えば、一般に亜鉛で材料をめっきすることは、一般に金属品を、通常400℃〜500℃の温度の亜鉛バスに浸漬することにより行う。
【0018】
限定はしないが銅めっきを含む、前被覆できる他の基板には、ステンレス鋼などのスチール;タングステン、アルミニウム、チタンなどの金属;および例えばニトロノール、セラミック、シリコーンなどの他の合金または基板を含む。
ステップ(a)の被覆のためのいくつかの方法は、ステップ(b)に好適な、例えば、電気化学析出などの多くの電気化学法に好適な、粗い金属−金属接合面を生成する。
【0019】
スパッタリングまたは蒸発コーティング(evaporative coating)などの方法は、一般に、第2金属の均一な層を、被覆される金属品上に置く。したがって、ステップ(a)の被覆プロセスが本質的に粗面を生成しない場合、被覆すべき金属品の表面の関連する部分を粗にして、ステップ(b)のために粗面を提供することが、ステップ(a)の前に、すなわちこれに先立って必要とされる。金属品表面を粗にするプロセスも当分野に知られており、エッチングなどの化学的方法、およびサンドブラスチングまたはレーザーアブレーションなどの物理的方法を含む。
【0020】
本明細書で用いる用語「粗い」とは、金属−金属接合面(および金属品の元の表面であって、これがステップ(a)に先立ち粗にする必要がある場合)の微細構造に関する。固体表面の液体に対する濡れ性は、該表面の化学特性および微細構造により制御され、表面の微細構造の「粗さ」は、表面の濡れ特性を増強することが知られており、本発明の、目的液体に対する所望の濡れ性を調整する、または予め決定する能力を強化する。
【0021】
好ましくは、金属−金属接合面(および必要に応じて元の表面)は、「二重の粗さ(double roughness)」を次のような意味において有する:すなわち、マイクロスケールの第1粗さ構造を、例えば「クラスター」、「ステム」、「ノード」または「フラワー(flower)」などの、通常は100nm〜100μmの間、例えば0.15μm〜1μmのサイズで有し、この上に第2粗さ構造を有し、これはより細かい構造であって、例えば、第1粗さ構造のサイズの30%、20%、10%、5%、2%未満または1%以下のナノスケールの伸張または突起であり、これを例えば、典型的には階層的なハスの葉様の構造におけるようにして有する。第2粗さ構造の突起の伸張は、10nm〜500nmの範囲、例えば50nm〜200nmである。このように、好ましくはステップ(a)の金属−金属接合面に二重の粗さが存在する。
【0022】
ハスの葉の階層的二重粗さ構造は例示目的のみであり、本発明は第1および第2粗さ構造の実際の形状またはデザインに限定されない。本明細書の添付の図2a〜d、5および6は、第1および第2粗さ構造の3種類の異なる例を示す。この関係において、第2粗さ構造は第1より小さく、通常は顕著に小さく、これが増強効果を提供する。
【0023】
本明細書に述べたように、ステップ(a)の被覆のためのいくつかの方法は、ステップ(b)に好適な粗い金属−金属接合面を生成し、これは例えば電気化学析出または無電解ガルバニック析出などの方法である。当業者は、この方法で用いる化学物質の濃度およびタイミングが、生成される粗さに影響し、したがって本発明により提供される最終表面の濡れ性に影響することを認識している。
本明細書で用いる用語「所定の濡れ性」は、液体に対して最小または最大の接触角を有する表面を、金属品上に提供することに関する。液体が水の場合、超疎水性および超親水性の用語を用いることができる。超疎水性表面は、150°より大きい接触角を、好ましくは160°、170°または175°より大きい接触角を有し得る。超親水性の表面については、接触角は5°未満であることができる。
【0024】
同じ接触角の数値を、溶媒を含む有機材料などの他の液体を用いる濡れ性に対しても使用可能である。かかる液体は、例えば油、ガソリン、ベンゼンなどの炭化水素、およびDMSOなどの既知の化学溶媒を含む。ある表面についてのこれらの接触角を、同じ試験を用いて決定する。
本発明のステップ(b)は、好ましくは周囲圧力および温度において行う。ステップ(a)もまた、周囲条件において、または周囲条件よりやや高い条件において行うことができる。周囲温度よりやや高い温度は、500℃未満であることができ、好ましくは200℃未満、および好ましくは100℃付近またはこれ未満である。
【0025】
本発明はまた、同じかまたは異なる濡れ性の、2または3以上の異なる表面および/または被覆物を有する被覆金属品および、該被覆金属品を提供するための方法を提供することができる。例えば本発明は、超疎水性表面の第1領域と、超親水性表面のための、第1領域外の、第1領域内の、または例えばこれと平行する第2領域とを有する、被覆金属品を提供することができ、これにより水を、例えば導くなどして、金属品にわたり所定の経路に沿って方向付けることができる。異なる溶媒に対する疎水性または親水性の領域を用いた他の処置は、金属品上に、異なる液体を方向付けるか導くように適合された、別のパターンを提供することができる。
【0026】
被覆金属品の性質は、本発明の機能が所定の濡れ性を有する調整された表面をその上に提供するものであるために、特に限定されない。これにより、本発明は、異なる分野で用いられる広範囲の金属の種類に適用可能である。例をあげると、前記分野には下記が含まれる:
建築被覆や屋根材料において用いる自己洗浄式表面、自動車および航空機、船舶を含む他の形態の輸送機関、庭園家具、金属塀および門などの外面の被覆;
【0027】
船などの水環境中で用いるための表面であって、例えば抗付着性などのように他の成分が付着しないことが望ましい場合、または水中での腐食成分、例えば海水中の塩などとの接触の低減が望ましい場合;
船などの水環境中で用いるための表面であって、水中での運動に対する抵抗を最小化することが望ましい場合;
海洋または沿岸区域などの湿潤環境中で用いるための表面であって、空中の腐食成分、例えば海水のしぶき中の塩や空中浮遊海水などとの接触の低減が望ましい場合;
【0028】
生物医学的用途のための表面の調製、例えば、ステント、カテーテルおよび創傷被覆材などであって、細菌感染および生物膜形成を低減するかまたはこれに抵抗可能なもの;
中空のチューブまたは管を被覆して、マイクロ流体システムまたは従来の工業用および家庭用配管工事のどちらかにおいて、流体抵抗を最小化すること;および
中空のチューブまたは管を被覆して、可視光線およびUV光線を通過させ、光の透過のために、または分光法のためのサンプリングシステムとして用いることができる、光学導波路を調製すること。
【0029】
一般に、本発明は金属品の金属表面の少なくとも一部の濡れ性を調整して、液体との所望の相互反応に適合させるための方法を提供する。1つの液体は水であるが、本発明は他の全ての液体にも関し、これには、例えば炭化水素および他の有機化合物、特に溶媒を含む。したがって、本発明はまた、例えば疎油性および親油性表面にも拡張される。
【0030】
本発明は、接触を、例えば液滴または小液滴についての液体と金属品の被覆面との間の接触角などを、精緻化および/または増幅する方法を提供する。水などの液体に対しては超疎水性と超親水性の両極端があり、本発明はまた、接触角を0°〜180°の間の任意の角度に変更する方法を提供し、したがって表面の濡れ性を所望の要求に調整する。
【0031】
金属品は、調整された表面により部分的に、実質的に、または完全に被覆することができる。当分野において、物品の被覆を意図しない部分をマスクするかまたは隠す方法は知られている。マスクまたはワックスなどの他の材料であって、被覆しない金属品の部分に第2金属が接触することを防ぐものは、当分野に知られている。部分的被覆は、被覆金属品用のパターンを作製するために用いてもよく、例えば単一金属品の上に、調整された表面の列を作製するためである。代替的に、「完全な」部分またはユニットまたはアイテムとしてみることのできる金属品の部分を被覆し、残りを被覆しないこともできる。
【0032】
全ての部分被覆処置またはパターンは、本発明により予想される。
好ましくは、方法は、金属品の上に超疎水性または超親水性表面を提供し、ここでステップ(b)において、ステップ(a)の金属−金属接合面を疎水性材料に接触させて、超疎水性表面を調製するか、または親水性材料に接触させて、超親水性表面を提供する。
超疎水性表面を提供するために、ステップ(b)の材料は、チオール、ニトリル、アルキルアミン、アリールアミン、ホスフィン、ピリジン、ピロールおよびチオフェンからなる群の1種または2種以上であることができる。
【0033】
ステップ(b)に特に好適な疎水性材料は、以下を含む:アルキルチオール;ポリフルオロアルキルチオール;ペルフルオロアルキルチオール;アリールチオール;ポリフルオロアリールチオール;ペルフルオロアリールチオール;
アルキルニトリル;ポリフルオロアルキルニトリル;ペルフルオロアルキルニトリル
アリールニトリル;ポリフルオロアリールニトリル;ペルフルオロアリールニトリル;アルキルアミン
ポリフルオロアルキルアミン;ジアルキルアミン;ポリフルオロジアルキルアミン;トリアルキルアミン
ポリフルオロトリアルキルアミン;アリールアミン;ポリフルオロアリールアミン;ペルフルオロアリールアミン
ジアリールアミン;ポリフルオロジアリールアミン;ペルフルオロジアリールアミン;トリアリールアミン
【0034】
ポリフルオロトリアリールアミン;混合アルキル/アリールアミン;混合ポリフルオロアルキル/アリールアミン;ピリジンおよびピリジン誘導体;ピロールおよびピロール誘導体;チオフェンおよびチオフェン誘導体;アルキルホスフィン;ポリフルオロアルキルホスフィン;ジアルキルホスフィン;ポリフルオロジアルキルホスフィン
トリアルキルホスフィン;ポリフルオロトリアルキルホスフィン;アリールホスフィン;ポリフルオロアリールホスフィン;ペルフルオロアリールホスフィン;ジアリールホスフィン;
ポリフルオロジアリールホスフィン;ペルフルオロジアリールホスフィン;
トリアリールホスフィン;ポリフルオロトリアリールホスフィン;混合アルキル/アリールホスフィン;および混合ポリフルオロアルキル/アリールホスフィン。
【0035】
ステップ(b)に好適な親水性材料は、以下を含む:
メルカプトアルコール;メルカプトフェノール
アミノアルコール;アミノフェノール
ニトリロアルコール;ニトリロフェノール
ニトリロアミン;アミノホスフィン
ヒドロキシアルキルピリジン;ヒドロキシアリールピリジン
ピリジンおよびピリジン誘導体;ピロールおよびピロール誘導体;ならびに
チオフェンおよびチオフェン誘導体。
【0036】
表面の濡れ性を変化させるある能力を有する化学物質および化合物は、一般に当業者に知られている。例えば、化学物質または化合物であって、そこから伸びる荷電基を有するものは、一般に親水性傾向を有するか、有することが予想される。同様に、化学物質または化合物であって、そこから伸びる無荷電の炭化水素基を有するものは、多くの場合疎水性であり、また疎水性であることが予想できる。このようにして、同じ骨格または塩基性構造を有する化学物質または化合物、例えばチオフェンは、親水性の誘導体および、疎水性の別の誘導体を提供することができる。本発明が、所定の濡れ性を有する表面で金属品を被覆する方法を提供できるのは、ステップ(a)の粗な金属接合面上の材料の性質の組合せによる。
【0037】
現在、「超親水性」表面に対する合意された定義は存在せず、これは特に、かかる表面の接触角を測定することが困難なためである。<10°または<5°の接触角が、当分野では示唆されている。
本発明の1つの態様において、方法は、第1金属を含有する少なくとも部分的な金属表面を有する金属品の上に、超疎水性表面を提供し、前記第1金属は第1還元電位を有し、ここで前記方法は、以下のステップを含む:
【0038】
(a)第1金属を、イオン性金属溶液であってその金属が第1還元電位より高い還元電位(すなわち、より正の、または負の値のより小さい、還元電位)を有するものに接触させて、金属被覆表面を提供すること;
(b)該被覆表面を、チオール材料に接触させて、金属品上に疎水性表面を提供すること。
チオール材料の硫黄原子と、金属品上に析出した金属との間の強い結合が、緊密にパックされた自己組織化単分子層を作り出し、これが表面にその疎水性の性質を与え、この性質を超疎水性として特徴付けることができる。
【0039】
イオン性金属溶液の金属は、金属品の第1金属の還元電位よりも高い、還元電位を有する。かかる金属は当分野で知られており、2つの一般的な例は銀および金であり、より特には銀(I)および金(III)イオンである。これらのイオン溶液は、任意の数の既知の化合物により、例えば硝酸銀、硫酸銀、および塩化金酸などの種々のハロゲン−金物質により提供することができる。
実際、銀を亜鉛および銅などのベース金属上に被覆することは、当分野で公知の手順であり、亜鉛または銅を硝酸銀溶液中に浸すことにより実施できる。
【0040】
金属品を第2金属に接触させることは任意の既知の方法により実施でき、これは限定することなく、浸漬、ブラッシング、吹付けなどを含む。浸漬は単純で容易な方法であり、ここで金属品は単純にイオン性金属溶液中に浸される。
金属品の第1金属とイオン性金属溶液の金属との間に還元電位の差があるため、当分野で知られているように、一般に金属間に酸化還元反応が起こる。
【0041】
チオール材料は好ましくはチオール溶液である:すなわち、末端SH基を有する化合物を含む任意の溶液である。例としてはアルカンチオールであり、例えば好ましくはC1〜30+直鎖または分枝アルカンチオール、好ましくはC10〜30+アルカンチオールであり、ただし、多くの好適な脂肪族および芳香族チオール材料もまた知られている。
前被覆された表面をステップ(b)の材料と接触させることは、金属品を第2金属と接触させるのと同じ様式で実施することができる。
【0042】
本発明の他の態様において、被覆すべき金属品は、ステップ(a)の前に洗浄することができる。金属品をアセトン等のケトン、無水エタノール等のアルコールなどで洗浄することは、当分野で公知であり、一般に、望ましくない材料を金属品の表面から取り除くために行う。
本発明の更なる態様において、被覆すべき金属品の洗浄は、ステップ(a)での前被覆が非均一であるとして実施することができる。かかる前被覆はステップ(a)の間に均一になることもあるが、しかし、金属品表面のグリースなどの汚染物質の存在により、前被覆は当初は阻害または遅延される。
【0043】
本発明の他の態様において、被覆すべき金属品はステップ(a)に先立ってエッチングされる。エッチングは公知の方法であり、エッチング表面を生成するために、通常酸を用いて実施される。
好ましくは、第2金属の金属は、金属品の対応する表面上に均一な様式で析出されるが、ただし、非均一な析出もある状況においては望ましく、これもなお本発明の範囲内である。金属品の表面上の第2金属の容積、深さ、程度または均一性は、多数の方法により変更可能であり、例えば、ステップ(a)に先立つ洗浄またはエッチングの程度、第2金属と金属品表面の接触のパラメータ、または環境因子などである。
【0044】
表面への金属の析出の変数は当分野で知られている。例えば、亜鉛または銅などの金属品を硝酸銀溶液中に浸漬により接触させることは、多数分の時間の間実施でき、この数値は通常、前記溶液の濃度に依存する。溶液濃度が高いほど、同じ被覆に必要な接触時間は短くなる。
【0045】
本発明の他の態様において、ステップ(a)と(b)の間で、金属品の金属表面を、好ましくは、次の材料に接触させる前に洗浄し、乾燥させる。乾燥は当分野に知られた多くの方法により実施でき、これには熱の提供を含む。好ましくは、乾燥は、圧縮空気などの圧縮ガスの使用により実施し、これは、物理的な接触を最小化することができ(例えば、第2金属上に形成されるきょう雑物残渣を最小化する)、第2金属のより均一な析出層を確実にする。被覆表面を、他の材料との物理的接触により乾燥させる場合、かかる接触は被覆表面に影響する可能性があり、したがってステップ(b)の後の最終表面に影響する。これは、一定の状況において望ましい場合がある。
【0046】
本発明の他の好ましい態様において、ステップ(b)の後に金属品上の調整された表面を洗浄する。再度、洗浄は任意の好適な材料により行ってよく、これには、ジクロロメタンなどの有機溶媒を含む。
本発明のさらに他の態様において、金属品は、プラスチックである基板の中にあるか、またはこの一部であり、プラスチック基板の表面は、埋め込まれた金属品を暴露するように処理される。例えば、プラスチック材料はその表面を粗にされるか、または加工されてもよく、こうして元の表面の下にあるプラスチック中の金属粉末である金属品が、暴露される。
【0047】
本発明の第2に側面により、本明細書に規定された方法により調製された場合に、所定の濡れ性の表面を有する、被覆金属品が提供される。
本発明により提供される被覆金属品は、粉末などのそれ自体が物品であるもの、例えば銅粉末であってよい。したがって本発明は、1または2以上の用途において続いて用いることのできる、被覆金属粉末を提供する。
【0048】
かかる用途には、例えば、粉末を用いて1種または2種以上の他の材料または基板を被覆し、かかる材料または基板上に所望の表面を提供することが含まれる。一例として、粉末は表面に適用もしくは接着するか、またはプラスチック材料中に熱混合して、この表面または材料の表面特性を変化させることができる。
本発明のさらなる態様において、粉末である被覆金属品は、1種または2種以上の繊維および/またはプラスチック材料と混合して、繊維および/またはプラスチック複合材料を形成することができる。例えば、粉末をPVA材料と混合して、次に所望の形状、パターンまたはデザインの複合材料を形成することができ、これは本質的に、本明細書に記載の調整された表面を有する。他の例において、粉末は繊維と混合することができ、超疎水性などの所定の濡れ性の、随意に可撓性の材料を作り出す。このようにして、本発明は雨に対して改善された耐水性を提供することができる。
【0049】
本発明による被覆金属品はまた、水中または他の海洋環境、例えば海水の周りまたはその他の湿潤空気において用いることもできる。被覆金属品が超疎水性である場合、水中または湿潤空気に運ばれる腐食性物質の、金属品と接触する力を減少でき、腐食を低減させるか、または腐食の速度を低下することができる。例えば、水中にあるかまたは水の上にある橋の部分は、本発明により、または本発明が提供する粉末により被覆することができて、腐食が低減される。
【0050】
本発明の他の例は、本明細書に記載の被覆金属品を有する、平面マイクロ流体デバイスであり、これは、表面被覆部分を機械的除去によりパターン化できて、異なる濡れ性の領域またはチャネルを提供するものである。これはまた、スタンピングによりパターン化することができ、超疎水性などのような、周囲の部分と同じ濡れ性を有する物理的チャネルを作り出す。
本発明の使用のさらなる例は、内部被覆金属品の超疎水性表面を有する管路またはパイプであって、流れる水または水ベースの流体が、空気層のために容器壁面と最小の接触を有するようになっており、乱流における摩擦を低減させるものである。
【0051】
本発明の他の態様において、被覆物上の面、パターンまたは他のデザインを、金属品の表面から第2金属被覆物の一部を除去することにより提供することができる。すなわち、引っ掻き(スクラッチング)または他の除去法もしくは手段の使用により、完全な被覆を有する表面を、特定の使用または配置に適合するようパターン化された被覆に、変形させることができる。
【0052】
本発明の他の態様において、調整された表面で被覆されていない、金属品表面の1または2以上の領域を、本明細書に記載の本発明の方法を適用して、再度被覆することが可能である。ステップ(a)のイオン性金属溶液の金属はそれ自体、ステップ(b)の材料によって既に被覆されている表面の任意の部分よりも、利用可能とされた金属品の表面に適用される。したがって、金属品が損傷されていたり、修復が必要である場合、またはそれ以外で再度被覆が必要な場合に、本発明を用いて被覆可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明の例および態様を、例を用い、添付の図を参照してここに記載する。
【0054】
【図1】図1aおよび図1bは、銀とHDFT被覆を有する銅シートの、それぞれ正面図および側面図である。
【図2a】図2aは、エッチングされた亜鉛上の銀のSEM画像である。
【図2b】図2bは、エッチングされた亜鉛上の金のSEM画像である。
【図2c】図2cは、銅上の銀のSEM画像である。
【図2d】図2dは、銅上の金のSEM画像である。
【図3】図3a〜dは、水滴と本発明の表面の間での、接触角測定を示す4枚の写真である。
【図4】図4は、蒸発した水滴からの塩の析出のSEM画像である。
【図5】図5は、ステップ(a)における、より長い析出時間によるCu−Ag−HDFT表面のSEM画像である。
【図6】図6は、被覆されていない粉末と、本発明の他の態様による被覆粉末の、2種類の比較のSEM画像である。
【0055】
図を参照すると、図1aおよび1bは、銅の上の、銀および本明細書に記載の例1により提供されるHDFTポリフルオロアルキル単層の被覆を示す。表面を調製した後、これらはつや消しの黒の外観を有するが、しかしゆっくりと垂直に水中に入れ、臨界角を越えて観察すると、完全な銀鏡が現れる。絶対反射率を平行方向から27.5°の入射角で測定すると、96%±4%であった。臨界角は垂直方向から48.6°±0.9°と測定され、表面と液体の間に形成される完全空気層に対して推定される角度は、48.626°である。高い絶対反射率および測定臨界角と推定臨界角の良好な一致の両方は、鏡様の外観が水と疎水性表面の間の空気層によるものであり、これは該表面の完全な非濡れ性、すなわち、〜180°の接触角のためであることを示す。
【0056】
この光学特性は、完全疎水性表面の容易な同定を可能とするだけでなく、かかる表面に対する任意の損傷、例えば、操作中の鉗子等の使用によりつけられた傷などを強調する。表面の損傷はまた、これの上に置かれた水滴の振舞いによっても検出可能である。表面が超疎水性であるため、用いる任意の針先は表面よりも親水性であり、水滴を表面に接触させるだけでは、これを簡単に分配することができない。事実、水は表面上に滴下されねばならないが、水が滴下されるにしたがって、これらの表面は一般に自然にロールオフし(特に、ロールオフ角が<1°の場合)、次に水滴が止まると、これは表面における小さな不完全な部分にもっとも集まりやすい。
【0057】
図2a〜dに示すSEM画像は、亜鉛上に析出された銀および金、ならびに銅上に析出された銀および金の、4種類それぞれの変化を示す。これらのSEM画像を考慮すると、エッチングされた亜鉛上に調製された表面は、より高さのある構造を示す。図2aの亜鉛上の銀析出構造は、直径が0.75〜2μmの範囲の「柄(stalk)」からなっている。これらの「柄」の各々にはより小さい粒子がのっており、これらは約100〜200nmである;このように、この粗さの二重スキームが、超疎水性を与える。
【0058】
図2bのエッチングされた亜鉛上の金は、より角のある部分からなり、これが組み合わさって花弁を有する花の様な構造を与える。これらの花弁は幅60〜200nmで、花は200〜700nmの大きさである。
銅上の銀(図2c)は、亜鉛上の銀と類似の構造であるが、構造全体の成長がより少ないように見える。この構造において、柄の直径は200〜300nmであり、柄上の粒子は50〜100nmの範囲である。銅上の金(図2d)は異なっており、いくつかの粒子が1つの構造に融合した、滑らかな溶岩様金属からなる構造である。エッチングされた亜鉛上の金に見られる、鋭い縁の花のような構造は存在しない。溶岩様の流れは表面の大部分を形成する。
【0059】
表面形態の正確な性質は重要ではないが、これは、HDFTによる処理後に、図2a〜dに示す全ての表面が超疎水性であることが見出され、本明細書に記載の臨界角を越えると「銀鏡」を示すからである。
別の例として、図5は、銀およびHDFTで被覆された銅表面であって、図2aおよび2cに示す表面に対する銀の析出時間より長い、銀析出の処理時間を有したものを示す。図5は、「シダの葉」型構造に基づく二重の粗さを有する表面構造を示す。この構造は、拡散律速凝集法により実現された、別の二重粗さ構造を示す。
【0060】
水性表面と疎水性表面の間の界面の高い反射率の1つの使用は、小さな管またはパイプの内側を被覆して、導波管を形成することである。このパイプの中に希釈溶液を入れることができ、これはエアシース(air sheath)内に入れられた液体コアを有する光ファイバーケーブルとして、効率的に作用する。こうして光線を直接、導波管に送り、弱い溶液の分光法を実施することができる。
【0061】
これらの表面はまた、センサー用途において、広範囲の機能性を導入するための簡単な経路を提供する、自己組織化単分子膜にも用いることができる。機能性と完全疎水性の組合せは、ラブオンチップ用途に組み込むことができる。現在までのフローセルは一般にプラスチックで作られているが、これらを金属ベースに変更することで、これらの完全疎水性表面をこの用途に利用することができ、たとえば、部分被覆表面または特徴表面を用いて、疎水性壁により境界付けられた親水チャネルに液体を導くことができる。
【0062】
さらに、空隙増感ラマン分光法は、球形の液滴に依存して内部反射を生じさせ、これにより任意の弱いラマン信号を増加させる。これらの表面上の液滴は、十分小さくて重力効果がない場合、この特定のラマン技術をさらに発展させることを可能にする。
液滴の乾燥も興味深く、その理由は、これらの表面が乾燥するに従って、複雑な液体の機械的振舞いの研究、例えばコロイド−ポリマー懸濁物の研究を可能とするからである。今日までこの研究は、凹面ホットプレートを使用して液滴をそれら自身の蒸気の薄い層の上に浮遊させること、すなわちライデンフロスト現象に依存していた。
【0063】
さらに、表面が完全に疎水性であるため、溶液の乾燥は、他の媒体において見られるような、乾燥するにつれて液滴の端が留められて析出材料の輪を残すという「コーヒーリング効果」をもたらすことはない。図4は、1×10−3の塩溶液の液滴から乾燥した、150μmのNaCl単一の中央析出物のSEM画像を示す。図4は、液滴が中心方向に向かって乾燥し、塩の析出物を、輪ではなく、中央の析出物として残しているところを明白に示す。次に顕微鏡分析、ラマンまたは赤外分光分析をこれらの乾燥析出物に対して行って、混合物全体についての洞察を得ることができ、したがって特に生体試料の乾燥において起こり得る分離を防ぐことができる。
【0064】
例1
99.95+%の亜鉛フォイル、厚さ0.25mm(Goodfellow)を所望の寸法にカットした。この金属をpurissグレードのアセトン(Riedel-de-Haen)およびabsolute ACSグレードのエタノール(J.T. Baker)で洗浄し、乾燥した。次にこれを4Mの塩酸溶液に入れ、8.21mlの37〜38%(最大5ppbHg)HCl(J.T. Baker)を16.79mlの脱イオン水に加えて25ml溶液とした。60秒後に金属を酸溶液から取り出し、脱イオン水で洗浄して乾燥した。0.01Mの硝酸銀溶液を調製した:10mlの脱イオン水中、0.0169g硝酸銀−AnalaR(99.8%)(BDH Chemicals Ltd.)。亜鉛をこの溶液に入れ、その表面上に均一な黒の被覆が析出するまで約30秒間、これを溶液中垂直に保持した。正確なタイミングは、例えば正確な濃度や温度などの局所条件に依存し、これは、10mlの溶液が1つより多くの表面を処理するからである。取り出して、表面を圧縮空気の流れ中で乾燥して点検することができ、まだ表面の見える裸の金属の領域がある場合には、表面を硝酸銀溶液中に再度入れて、次に取り出して乾燥し、表面が完全につや消し黒色になるようにする。
【0065】
乾燥した表面を、1×10−3Mの3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール(HDFT)、≧99.0%(Fluka)の溶液に入れた。14.5μlのヘプタデカフルオロ−1−デカンチオールを、50mlのジクロロメタン、GPR(BIOS Europe)に加えた。表面をこの溶液に1分以上入れたままにした(自己組織化チオール単分子層は2回の浸漬内で非常に迅速に形成されるが、表面種を完全に安定化させるのが好ましい)。取り出して清浄なジクロロメタンで洗浄し、清浄なジクロロメタン溶媒から取り出して直ちに、圧縮空気の流れのもとに置いた。
【0066】
この表面は超疎水性である;すなわち、この表面上に置いた水滴は、それらが>1°で傾いている場合には転がる。写真により測定した接触角は一般に、置かれた水滴の画像への曲線の適合により決定すると、173°±2°(図3b参照)である。非常に高い接触角の測定に付随する問題はよく知られており、用いる試験法は、Gao and McCarthy (Journal of the American Chemical Society, 2006, vol. 128, 9052-53)のものであり、これは、処理された表面を液滴から引き離す場合に、付着の兆候を求めることを含む。表面はまた、「180°」の接触角材料についてのこの試験にも合格した。
【0067】
上記は、亜鉛表面上に銀を製造する1方法である。用いる濃度は多くの表面の処理に対して容易に変更できるような、「標準」のものである(例えば、10mlの0.01M硝酸銀溶液は、1.5×2cmの金属約7片を処理でき、一方、ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール溶液は>10の表面を処理できる)。濃度は下げることもできるが、析出層の形成に要する時間が影響を受ける。
【0068】
例2
厚さ0.25mmの99.9%銅フォイル(Goodfellow)をベース金属として用いた。銀の代わりに金を析出させた。3.83×10−3M溶液を調製し、5μlのテトラクロロ金(III)酸水和物、p.a.(Acros Organics)を15mlの脱イオン水に溶解した。96%の1−デカンチオール(Alfa Aesar)を単分子層種として用い、1×10−3M溶液を調製し、10.5μlの1−デカンチオールを50mlのジクロロメタンGPR(BIOS Europe)に溶解した。これにより、図3aに示す「180°」接触角材料についてのGao試験に合格した、別の超疎水性表面が製造された。
【0069】
例3
超親水性活性については、6−メルカプト−1−ヘキサノール(6MH1)、purum≧97%(Fluka)の溶液を用いることができる。1×10−3M溶液を調製し、6.8μlを50mlの脱イオン水に溶解した。この方法の乾燥段階の間、圧縮空気の代わりに圧縮窒素を用いることができる。
上記例における材料は、上記の方法において置き換えることができる。試薬を変えると、金属析出に要する時間は変化し得る。例えば、銅の上の4MのHClは、任意の表面不純物を洗浄除去でき、一方同じ強度の酸は、亜鉛などの他の金属をエッチングする。
【0070】
例4
3種類の異なる銅粉末40g(一般の粒径475μm、<75μm、および<10μmを有し、全てAldrichより入手可能)を計量し、0.5%HNOで洗浄し、ろ過し、脱イオン水で洗浄した。70mlの0.02MのAgNOをフラスコに加え、粉末を数分間振盪した。粉末をろ過し、洗浄し、70℃のオーブンに置いて乾燥させた。次にエタノール中0.1Mデカンチオール溶液100mlを粉末の上に加え、全体を振盪した。これを一晩放置し、ろ過し、清浄なエタノールで洗浄した。次にこれをオーブンに戻して乾燥させた。
平らな表面上に接着した<75μm粉末を使用した場合の接触角を図3cに示し、これは157°±3°である。平らな表面上に接着した<10μm粉末を使用した場合の接触角を図3dに示し、これは153°±2°である。
【0071】
図6は2セットの40メッシュ粉末の異なる倍率でのSEM画像の比較を示す。粉末は最初に「そのまま」、すなわち「被覆なし」で示し、次に本明細書の例4のようにして被覆した後のものを示す。被覆されたSEM画像は、本発明の方法による粉末粒子の表面上に生成された粗さを示す。
当業者は、正確な濃度、粉末の重量、粉末のサイズ、および処理回数は、広い範囲の組合せにより変化し得ることを認識している。
【0072】
例5:銅めっき
金属品を銅めっきとして提供するために、基板を0.05MのCuSO溶液に入れ、これを1片の銅を他の電極とする電力パッケージに取り付ける。チタンなどの基板に対して、2Vを90分間適用し、電源を切ってチタンを除去する;これで銅被覆が行われる。
次にこの表面を4MのHClで洗浄してすすぐことができ、続いて0.02MのAgNO溶液中に数分間入れ、洗浄し、乾燥させ、最後に0.001MのHDFT(ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール)溶液に1時間入れる。
【0073】
当業者は、めっき溶液の正確な濃度、続く無電解析出プロセスの電圧、時間および実験パラメータは、ほとんど無限範囲の組合せで変化し得ることを理解する。したがって、本発明により調製された、調整されたかまたは所定の濡れ性の表面を有する金属品の例は、以下を用いるものを含む:
【0074】
1.亜鉛、銀および3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール(フルオロ−チオール)
2.亜鉛、金およびフルオロ−チオール
3.銅、銀およびフルオロ−チオール
4.銅、金およびフルオロ−チオール
5.亜鉛、銀および1−デカンチオール
6.亜鉛、金および1−デカンチオール
7.銅、銀および1−デカンチオール
8.銅、金および1−デカンチオール
9.亜鉛、銀および6−メルカプト−1−ヘキサノール
10.亜鉛、銀およびペンタンチオール
11.亜鉛、銀およびヘキサンチオール
12.亜鉛、銀およびオクタンチオール
13.亜鉛、銀およびヘキサデカンチオール
14.亜鉛、銀およびシクロヘキサンチオール
15.亜鉛、銀およびシクロペンタンチオール
【0075】
16.亜鉛、銀および16−メルカプトヘキサデカン酸
17.亜鉛、銀および3−メルカプトプロピオン酸
18.亜鉛、銀および4−トリフルオロメチルチオフェノール
19.黄銅、銀およびフルオロ−チオール
20.亜鉛、銀および2−プロピルアミン
21.亜鉛、銀および2−メルカプトピリジン
22.亜鉛、銀およびベンゾニトリル
23.亜鉛、銀およびシクロヘキシルイソシアニド
24.亜鉛、銀およびジイソプロピルアミン
25.亜鉛、銀およびチオフェン
26.亜鉛、銀および2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾニトリル
27.亜鉛、銀および2,3,4,5,6−ペンタフルオロアニリン
28.亜鉛、銀および3,4,5−トリフルオロベンゾニトリル
29.亜鉛、銀および2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニルジフェニルホスフィン
30.亜鉛、銀およびトリス(4−フルオロフェニル)ホスフィン
31.亜鉛、銀およびトリス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)ホスフィン。
【0076】
上記の組合せのいくつかの、さらなる詳細を以下の表2に示す。
これらの化合物の金属イオンの源は、銀=硝酸銀;および金=テトラクロロ金(III)酸水和物であった。
【0077】
さらなる例は以下の金属を含み、これらは硝酸銀中に浸漬して、本発明の方法のステップ(a)で析出が起こることを確認した。
1.ニッケル
2.スズ
3.鉄
4.アルミニウム
【0078】
亜鉛、銀およびフルオロ−チオールの表面も、硫酸銀(AgSO)から出発して製造し、本発明が種々の銀の源を用いて実施できることを確認した。
上記の表面1、5および9を、いくつかの溶媒で試験した。表面9については、全ての溶媒は表面を濡らせた。表面1および5についての詳細を、次の表1に示す。
【0079】
【表1】

SH=超疎水性/完全に非濡れ性、すなわち、完全に水に浸し臨界角を越えて観察した場合に銀鏡が見られる。接触角>150°;
H=疎水性、すなわち、表面に半球が観察される。接触角約90°;
W=超親水性/完全に濡れ性。接触角<5°。
【0080】
表1から、濡れ性は修飾層の性質および金属により決定されることが明らかである。例えばトリエチレングリコールジメチルエーテルは、アルキルチオールで処理された表面を完全に濡らすが、ペルフルオロチオールを代わりに用いた場合、完全に非濡れ性である。
【0081】
添付の表2は、種々の表面の接触角の値であって、特定の金属表面それ自体に対する値、および次に本発明により、成分および/またはタイミングおよび/または濃度の種々の組合せを用いた、同じ表面に対する値を示す。表中の接触角の値の範囲は、超疎水性と超親水性の間の濡れ性、すなわち2つの限界の間の調整された濡れ性を備えた表面を示す。この表はまた、湿潤酸エッチングにより予め粗にした金属面、および、粗にした表面を次にチオール処理の前に金で被覆したものの例を示す。これらは再度、調整された濡れ性を示し、それは、濡れ性が調整法に依存して変化し得るからである。
【0082】
表2の初めの6つの項は、6種類の例示の金属についての接触角を示す。その後は、金属、エッチング、第2金属およびその上の材料の種々の変更により提供される、対応する最終表面またはトップ面を、これらの接触角とともに示す。例えば、銅とともに、第2金属として銀および6−メルカプト−1−ヘキサノール(6MH1)材料により、超親水性表面が提供され、一方、銅に、塩酸による前エッチング、および第2金属として銀およびHDFT材料により、超疎水性と定義することができる接触角が提供される。
【0083】
同様に、<75umの銅粉末は接触角129°を有し、一方同じ粉末を硝酸で前エッチングし、第2金属の銀およびデカンチオール層をこの上に加えたものは、接触角152°の表面を提供する。チオールベースの材料、例えばアルキルチオール、アリールチオールおよびメルカプト酸も、種々の接触角を提供する。表2は次に、種々の酸および金属面に、同じ第2金属およびトップ材料層を有するものについて、エッチング時間における変化に基づく接触角の変化を示す。
【0084】
したがって、本発明により、所望の接触角を考慮し、第1材料から出発して、好適なエッチング時間および酸(必要に応じ)、第2金属およびトップ材料層を提供して、所定の、または調整された濡れ性の表面を提供することが可能である。表2は水との接触角に関するが、しかし当業者は同じ基準を他の液体について用いることも認識している。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属を含有する少なくとも部分的な金属表面を有する金属品を、所定の濡れ性を有する表面で被覆する方法であって、以下のステップ:
(a)金属品の少なくとも一部を第2金属の層で被覆して、金属−金属接合面を提供すること、該表面はステップ(a)の前に、またはステップ(a)のために、粗であり;および
(b)ステップ(a)の金属−金属接合面を材料に接触させて、所定の濡れ性を有する表面を提供すること、
を少なくとも含む、前記方法。
【請求項2】
第1金属が、鉄、亜鉛、銅、スズ、タングステン、チタン、ニッケルおよびアルミニウム、ならびにスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金を含む群の1種または2種以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2金属を第1金属上に、自発的酸化還元反応またはスパッタリングにより被覆する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属品の表面が、完全にまたは実質的に金属である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
金属品が粉末である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
金属品が非金属品に混合されるかまたは埋め込まれている、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
非金属品がプラスチックである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
金属品が、ステップ(a)の前に第3金属により少なくとも部分的に前被覆された基板である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第3金属が、鉄、亜鉛、銅、スズ、タングステン、チタン、ニッケルおよびアルミニウム、ならびにスチール、黄銅、青銅およびニチノールを含むこれらの合金を含む群の1種または2種以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第3金属が銅である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第3金属を金属品上に、自発的酸化還元反応、電気化学析出、浸漬またはスパッタリングにより前被覆する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
基板が、完全にまたは実質的に金属である、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
基板が、完全にまたは実質的に非金属であって、セラミックまたはシリコンであることを含む、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第2金属が、銀および金を含む群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
金属品の少なくとも部分的な金属表面を、ステップ(a)の前に粗にする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
超疎水性表面または超親水性表面のどちらかを金属品上に提供するための、請求項1〜15のいずれかに記載の方法であって、ステップ(b)において、ステップ(a)の金属−金属接合面を、疎水材料に接触させて超疎水性表面を調製するか、または親水材料に接触させて超親水性表面を提供する、前記方法。
【請求項17】
超疎水性表面を提供するための、請求項16に記載の方法であって、ステップ(b)の材料が、チオール、ニトリル、アルキルアミン、アリールアミン、ホスフィン、ピリジン、ピロールおよびチオフェンからなる群の1種または2種以上である、前記方法。
【請求項18】
第2金属が銀または金であり、材料がチオールである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
超親水性表面を提供するための請求項16に記載の方法であって、ステップ(b)の材料が、フェノール、アルコール、アミン、ホスフィン、ピリジン、ピロールおよびチオフェンからなる群の1種または2種以上である、前記方法。
【請求項20】
ステップ(b)が、周囲温度および圧力において実施される、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに規定の方法により調製された場合は常に、所定の濡れ性の表面を有する、被覆金属品。
【請求項22】
水中で用いるための、請求項21に記載の被覆金属品。
【請求項23】
粉末である、請求項21または22に記載の被覆金属品。
【請求項24】
請求項23に記載の粉末である被覆金属品の、第2表面を被覆するための使用。
【請求項25】
第2表面が少なくとも部分的に金属であり、水中の表面または水接触面を含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
第2表面が少なくとも部分的に非金属であり、1種または2種以上の繊維およびプラスチックを含む、請求項24に記載の使用。
【請求項27】
請求項23に記載の粉末である被覆金属品の、1種または2種以上の材料と混合して複合材料を形成するための使用。
【請求項28】
請求項23に記載の粉末である被覆金属品の、1種または2種以上のプラスチック材料と混合してプラスチック複合材料を形成するための使用。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−504428(P2010−504428A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528778(P2009−528778)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003508
【国際公開番号】WO2008/035045
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(502194159)ザ クイーンズ ユニバーシティ オブ ベルファスト (7)
【Fターム(参考)】