説明

銅系摺動材料及びその製造方法

【課題】 不働態酸化膜形成元素を含有しても銅合金の強度が高く、動荷重負荷を支持する軸受に好適な銅系摺動材料およびその製造方法を提供する。
【解決方法】 銅合金の粉末を鋼裏金上に散布後焼結して摺動層を形成した銅系摺動材料において、前記銅合金は、Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成を有し、その組成のアトマイズした粉末に100〜200℃で窒化処理して得られる銅合金粉末を摺動層として焼結することにより、銅成分そのものは窒化されることはなく、粉末表面に存在する不働体酸化膜形成元素のみを窒化物とし安定化する。このため、焼結での昇温中に粉末表面が添加元素の不働体酸化膜に覆われることを防ぐことができ銅合金同士を強固に焼結させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、銅合金の粉末を鋼裏金上に散布後焼結して摺動層を形成した銅系摺動材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用軸受には、鉛青銅やりん青銅などの銅合金層と鋼裏金との複層摺動材料からなる摺動材料が使用されてきた。さらに、特開2003−269456号公報(以下、「特許文献1」という。)に開示されるように、内燃機関用潤滑油に対する銅合金の耐食性を高めるために、青銅のSn含有量を多くしたり、Niを添加する方法等が用いられている。また、鋼裏金付の銅系摺動材料の製造方法として、大量生産に好適で軸受材料を安価に製造できる連帯焼結方法が用いられてきた。
【特許文献1】特開2003−269456号公報(段落0007、0018、請求項3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、Ni,Sn含有銅合金では、Cuに比べれば硫化や酸化が起こりにくいNiやSn成分を単にCuに固溶させ耐食性を高めるものであるので、これら銅合金では内燃機関用軸受使用にて銅硫化膜や酸化膜が形成される。この銅硫化膜、酸化膜は疎で脆く肥厚するために軸との摺動で容易に破壊され取り去られ、肥厚した銅硫化膜、酸化膜形成が繰り返しおきるので、耐食性は不十分である。
【0004】
そこで、Al,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nb等の元素を銅に添加して耐食性を向上させることが考えられるが、連帯焼結法にてAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nb等の不働態酸化膜形成元素添加したプレアロイ銅合金粉末を用いたり銅合金と不働態酸化膜形成元素粉との混合粉末を原材料として鋼裏金上に散布し焼結すると、十分な強度を有する銅系摺動材料が得られないという問題がある。これは、連帯焼結法にて鋼上に散布された青銅等の粉末は水素等の還元性を有する雰囲気を有する焼結炉にて焼結した場合、銅合金表面の酸化膜が還元性ガスで還元され、粉末同士が接触している部分で金属原子の拡散がおこり焼結が進行するものであるところ、不働態酸化膜形成元素を含有する銅合金粉末は還元性ガスによる還元よりも不働態酸化膜形成のほうが促進されるために、逆に粉末表面が緻密で強固な不働態酸化膜に覆われてしまうので、鋼上に銅合金粉末を散布し、粉末同士の接触面積が狭い状態で焼結加熱する連帯焼結法では焼結現象が十分に進行しないため、強度の強い焼結材料が得られないからである。
【0005】
本願発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、不働態酸化膜形成元素を含有しても銅合金の強度が高く、動荷重負荷を支持する軸受に好適な銅系摺動材料およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために採用された解決手段として、請求項1に係る発明は、銅合金の粉末を鋼裏金上に散布後焼結して摺動層を形成した銅系摺動材料において、前記銅合金は、Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成を有し、その組成のアトマイズした粉末に100〜200℃で窒化処理して得られる銅合金粉末を摺動層として焼結したことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1記載の銅系摺動材料であって、前記銅合金は、さらにSn、Ni、Ag、Zn、Mn、Fe、Coのいずれか1種以上を0.1〜20質量%含有した組成を有していることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料であって、前記銅合金は、さらにPを0.1〜0.2質量%含有した組成を有していることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかの銅系摺動材料であって、前記銅合金は、さらにBi、Pbの1種以上を1〜25質量%含有した組成を有していることを特徴とする。
【0010】
更に、請求項5に係る発明は、Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成の銅合金をアトマイズした粉末を100〜200℃で窒化処理する窒化工程と、該窒化工程を経た銅合金粉末を鋼裏金上に散布して摺動層を焼結する第1の焼結工程と、該第1の焼結工程で焼結した摺動層をロール圧延で圧延する圧延工程と、該圧延工程で圧延された摺動層を再度焼結する第2の焼結工程と、から製造される銅系摺動材料の製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明においては、アトマイズ法で製造した後に窒化処理を行うので、銅成分そのものは窒化されることはなく、粉末表面に存在する不働体酸化膜形成元素のみを窒化物とすることにより安定化する。このため、焼結での昇温中に粉末表面が不働態酸化膜に覆われることを防ぐことができ銅合金同士を強固に焼結させることが可能となる。この銅系合金摺動材料を軸受として使用すると軸受表面にAl、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbからなる不働態酸化膜で覆われるため極めて耐食性が高い。そして、これら不働態酸化膜は厚く成長しないため、耐久性も高い。更に、軸との接触により、不働態酸化膜が除去されたとしても、これら不働体酸化膜形成元素は極活性であり、急速に不働態酸化膜が形成される。なお、Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbは、0.1質量%添加しても銅合金の耐食性向上に効果があり、10質量%を超えて添加すると、窒化処理による銅合金粉末表面の窒化物が多くなりすぎて、銅合金の焼結強度が弱くなりはじめる。また、粉末の極表面に存在する不働体酸化膜形成元素のみを窒化させるために窒化処理温度は100℃〜200℃が好ましい。
【0012】
請求項2に係る発明又は請求項3に係る発明のように、アトマイズ粉末用の銅合金として、Sn、Ni、Ag、Zn、Mn、Fe、Coのいずれか1種以上を0.1〜20質量%含有した組成、および/またはPを0.1〜0.2質量%含有した組成とすることにより、本願発明の効果を損なうことなく材料強度を高めることができる。
【0013】
請求項4に係る発明のように、アトマイズ粉末用の銅合金として、さらにBi、Pbの1種以上を1〜25質量%含有した組成とすることにより、本願発明の効果を損なうことなく潤滑性を高めることができる。
【0014】
請求項5に係る発明の製造方法によって、請求項1に記載される銅系摺動部材を連帯焼結方法で製造することができる。これは、一般的に散布した状態の銅合金粉末の焼結では昇温初期は粉末の表面でのみ元素の拡散が起こり、粉末の接触部で焼結結合部が形成される。その後、温度が高くなると焼結結合部を介して体積拡散が起こるようになると焼結結合部が太く成長し強固な焼結状態となる。しかし、不働態酸化膜を形成するような極活性な元素を含む銅合金粉では、水素等の還元性雰囲気で焼結しても、焼結炉内雰囲気中に残る酸素と反応し粉末表面には不働態酸化物被膜が形成してしまう。昇温初期で銅元素の粉末表面での拡散速度が遅く焼結結合部が形成される前に粉末表面の広範囲に緻密な不働態酸化膜が形成され、焼結結合部の形成、成長が妨げられるので強固な焼結状態が得られない。これに対し、本発明の製造方法に使用される銅合金組成の粉末は、アトマイズ法で製造した後に窒化処理を行うので、銅成分そのものは窒化されることはなく、粉末表面に存在する不働体酸化膜形成元素のみを窒化物とすることにより安定化する。このため、焼結での昇温中に粉末表面が不働態酸化膜に覆われることを防ぐことができ銅合金同士を強固に焼結させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明に係る銅系摺動材料を製造するための製造方法を説明するための工程図であり、図2は、図1に示す製造方法で製造した銅系摺動材料の断面の模式図である。
【0016】
図1において、本実施形態に係る銅系摺動材料を製造するための製造方法は、Al,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成の銅合金をアトマイズした銅合金粉末を100〜200℃で所定時間窒化処理し、その窒化処理した銅合金粉末を鋼裏金上(例えば、帯鋼)に散布し、所定条件で一次焼結炉にて焼結後、冷却してロール圧延にて銅合金焼結層を緻密化した後、再び二次焼結炉で焼結(例えば、一次焼結炉における焼結条件と同じ条件の焼結)後、冷却して銅系摺動材料を製造する。
【0017】
ここで、Al,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbは、0.1質量%添加しても銅合金の耐食性向上に効果があり、10質量%を超えて添加すると、窒化処理による銅合金粉末表面の窒化物が多くなりすぎて、銅合金の焼結強度が弱くなりはじめる。また、粉末の極表面に存在する不働体酸化膜形成元素のみを窒化させるために窒化処理温度は100℃〜200℃が好ましい。
【0018】
また、アトマイズするための銅合金は、Sn、Ni、Ag、Zn、Mn、Fe、Coのいずれか1種以上を0.1〜20質量%含有した組成、および/またはPを0.1〜0.2質量%含有した組成とすることにより、材料強度を高めることができ、また、Bi,Pbの1種以上を1〜25質量%含有した組成とすることにより、潤滑性を高めることができる。さらに、耐摩耗性を高めるため、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物、珪化物等の硬質粒子を添加することができる。これら化合物は窒化処理にて変化が起こるような物質ではないため本実施形態の耐食性の向上や焼結強度の向上という効果には影響しない。
【0019】
上記した製造方法で製造した銅系摺動材料は、図2に示すように、鋼裏金2の上に摺動層として銅合金層3が積層された二層構造の銅系摺動材料1として製作される。
【実施例】
【0020】
次に、本発明に係る製造方法により製造した銅系摺動材料について表1を参照して説明する。表1の実施例No.1〜13に示す組成の銅合金粉末(−60メッシュ)をアトマイズ法で作製し、次に窒素雰囲気中で表1に示す窒化処理温度に加熱し3分間保持する窒化処理を施した(窒化処理工程)。この粉末を厚さ1.5mmの帯鋼上に0.8mmの厚さに散布し、水素ガス雰囲気、800℃〜950℃の焼結炉に連続的に通し焼結(第1次焼結工程)後、冷却しロール圧延(圧延工程)を行って焼結層の緻密化を行った後に再度、同条件で焼結(第2次焼結工程)し、実施例No.1〜13の銅系摺動材料を作製した。
【0021】
【表1】

【0022】
一方、実施例No.1〜13の組成にそれぞれ対応する比較例No.14〜26の銅合金粉末をアトマイズ法で作製し、窒化処理を施さずに実施例No.1〜13と同条件で焼結し比較例No.14〜26の銅系摺動材料を作製した。
【0023】
実施例No.1〜13、比較例No.14〜26の銅系焼結材料をJIS6号引張試験片(ただし、引張試験片の両端は、試験機でチャックするために帯鋼が摺動層に接着されている。)に加工し、銅合金の引張試験を行い、それぞれの引張強さおよび伸び値を求めた。その結果も表1に示す。
【0024】
比較例No.14〜26に対し、それぞれ同一組成の実施例No.1〜13は何れも、引張強度、伸び共に2倍以上高い値となる。引張試験を行った試験片の破断面を電子プローブマイクロアナライザーで分析すると、比較例品の破断面には広範囲にAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbの酸化物が分析された。これは焼結時に粉末表面にAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbの不働体酸化膜が形成され、そのために焼結が阻害されたことが考えられる。この不働体酸化膜が破壊の基点となるために、引張強さも伸び値も低い値になる。
【0025】
これに対し、実施例品の破断面にも、わずかにAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbの酸化物は分析されたが、破断の基点となるような広範囲の酸化物膜の形成はおきていない。これは原材料銅合金粉末の表面のAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbを窒化処理により窒化物とし安定化した後に焼結する事により、焼結時にこれら元素の不働態酸化膜が粉末表面に形成されることが抑制されたことによるものと考えられる。
【0026】
本発明の銅系摺動材料は不働態酸化膜形成元素を含有しても引張強度と伸びが共に高いため、動荷重負荷を支持する軸受に好適である。なお、鋼との接合強度を高める等のための銅合金焼結材料と鋼の間に中間層としてAl,Si,Cr,Ti,V,Ta,Zr,Nbを含まない銅または銅合金(例えば、Cu−Sn−Ni合金等)のメッキや焼結による中間層を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る銅系摺動材料を製造するための製造方法を説明するための工程図である。
【図2】図1の製造方法で製造した銅系摺動材料の断面の模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 銅系摺動材料
2 鋼裏金
3 摺動層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金の粉末を鋼裏金上に散布後焼結して摺動層を形成した銅系摺動材料において、
前記銅合金は、Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成を有し、
その組成のアトマイズした粉末に100〜200℃で窒化処理して得られる銅合金粉末を摺動層として焼結したことを特徴とする銅系摺動材料。
【請求項2】
前記銅合金は、さらにSn、Ni、Ag、Zn、Mn、Fe、Coのいずれか1種以上を0.1〜20質量%含有した組成を有していることを特徴とする請求項1記載の銅系摺動材料。
【請求項3】
前記銅合金は、さらにPを0.1〜0.2質量%含有した組成を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料。
【請求項4】
前記銅合金は、さらにBi、Pbの1種以上を1〜25質量%含有した組成を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動材料。
【請求項5】
Al、Si、Cr、Ti、V、Ta、Zr、Nbのいずれか1種以上を0.1〜10質量%含有した組成の銅合金をアトマイズした粉末を100〜200℃で窒化処理する窒化工程と、
該窒化工程を経た銅合金粉末を鋼裏金上に散布して摺動層を焼結する第1の焼結工程と、
該第1の焼結工程で焼結した摺動層をロール圧延で圧延する圧延工程と、
該圧延工程で圧延された摺動層を再度焼結する第2の焼結工程と、
から製造される銅系摺動材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−144253(P2008−144253A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336191(P2006−336191)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】