説明

鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置および方法

【課題】検査員の主観に依らずして客観的な基準により鏡面球体のショット玉を検出し、安定した検査精度を実現でき、検査の自動化によりインラインで全数検査を実施できる鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置および方法を提供する。
【解決手段】鋳物穴加工品11の加工穴12の内部を照らす照明部と、加工穴内を撮像可能なCCDカメラ21と、ボアスコープ22を撮像対象加工穴12に挿入するXYステージ30と、CCDカメラ21で撮像した画像を画像処理する画像処理装置52を備え、画像処理装置52は、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、鏡面球体像の候補領域として選択し、候補領域におけるハイライト領域の輝度値が上位閾値より高く、かつ暗領域の輝度値が下位閾値より低い場合に候補領域が真の鏡面球体像であると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置および方法に関し、加工穴内の鏡面球体物の有無を検査する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図6に示すような、鋳物穴加工品1は、加工穴2の部分にバリが発生するので、このバリを除去するために図7に示すような鏡面球体のショット玉(投射材)3を使用しており、ショット玉3を貯留したケース内に鋳物穴加工品1を配置し、ケースを振動させてショット玉3をバリに衝突させることでバリ除去処理を行ない、その後にエア等を用いて鋳物穴加工品1の各加工穴2からショット玉3を取り除いている。
【0003】
しかしながら、取りきれないショット玉3が加工穴内に残留する場合があり、ショット玉3が鋳物穴加工品1の加工穴2の内部に残った状態で鋳物穴加工品1を製品に組み立てると、鋳物穴加工品1の内部でショット玉が移動して作動不良の原因となる場合がある。
【0004】
そのため、ショット玉を用いたバリ除去処理後に行う検査工程において、図8に示すように、検査員4が内視鏡5によって加工穴2の内部を目視検査し、ショット玉の残留の有無を確認している。
【0005】
先行技術文献としては特許文献1があり、鏡面球体の位置を測定する技術が記載されている。これは、2つのライン照明A、Bを双方の光跡が直交するように配置し、垂直カメラの画像において2つのライン照明A,Bの反射光の交点位置を求め、2つのライン照明A,Cを双方の光跡が直交するように配置し、斜めカメラの画像において2つのライン照明A,Cの反射光の交点位置を求め、その視差から半田ボールの中心3次元座標を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−145072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、検査員による内視鏡を用いた目視検査では、以下の問題がある。ショット玉はその色が暗い色であるために、加工穴の底面や内壁面の黒っぽい部分とショット玉とを見分け難く、見間違い、見落とし等により残留ショット玉を検出できないことがある。また、鋳物の加工穴の口径や深さが異なる場合には、内視鏡とショット玉までの距離を一定に設定することが難しく、ショット玉の大きさが異なって見えるために見落としが生じ易くなる。
【0008】
さらに、内視鏡を検査員の人手で取り扱って鋳物穴加工品の各加工穴に挿入するので、たとえば外径1.7mmの内視鏡に対して鋳物穴加工品の加工穴の口径が4mmである場合には、内視鏡の先端を鋳物に衝突させて内視鏡を破損させることがある。
【0009】
また、同一形状の複数の加工穴を検査する場合には、検査員の錯誤により未検査の加工穴が残る場合があり、検査時間や検査精度に検査員の主観による個人差が生じる。
本発明は上記した課題を解決するものであり、検査員の主観に依らずして客観的な基準によりショット玉を検出し、安定した検査精度を実現でき、検査の自動化によりインラインで全数検査を実施できる鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置は、鋳物穴加工品の加工穴の内部を照らす照明部と、加工穴内を撮像可能な撮像部と、照明部および撮像部を撮像対象加工穴に挿入する保持部と、撮像部で撮像した画像を画像処理する画像処理部を備え、画像処理部は、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、鏡面球体像の候補領域として選択し、候補領域におけるハイライト領域の輝度値が上位閾値より高く、かつ暗領域の輝度値が下位閾値より低い場合に候補領域が真の鏡面球体像であると判断することを特徴とする。
【0011】
本発明の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置において、保持部は、照明部および撮像部を上下方向および水平方向に移動させるXYステージであることを特徴とする。
本発明の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置において、保持部は、予め各加工穴毎にその口径に応じて定めた距離を加工穴の底面から撮像位置までの離間距離として照明部および撮像部を位置決めすることを特徴とする。
【0012】
本発明の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査方法は、保持部で照明部および撮像部を撮像対象加工穴に挿入して位置決めする位置決め工程と、照明部により鋳物穴加工品の加工穴の内部を照らしつつ、撮像部で加工穴内を撮像する撮像工程と、撮像部で撮像した画像を画像処理部で画像処理する画像処理工程を有し、画像処理工程では、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、鏡面球体像の候補領域として選択し、候補領域におけるハイライト領域の輝度値が上位閾値より高く、かつ暗領域の輝度値が下位閾値より低い場合に候補領域が真の鏡面球体像であると判断することを特徴とする。
【0013】
本発明の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査方法において、位置決め工程では、予め各加工穴毎にその口径に応じて定めた距離を加工穴の底面から撮像位置までの離間距離として照明部および撮像部を位置決めすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、検査員の主観に依らずして輝度値を客観的な基準として鏡面球体を検出することで安定した検査精度を実現でき、検査の自動化によりインラインで全数検査を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における鋳物穴加工品のショット玉残留検査装置を示すブロック図
【図2】同実施の形態における検査方法を示す模式図
【図3】同実施の形態において撮像した画像処理工程を示し、(a)は取得画像、(b)は二値化処理後の二値画像、(c)は膨張、収縮処理後の粒子解析用画像
【図4】同実施の形態におけるショット玉判定処理方法を示す模式図
【図5】同実施の形態におけるショット玉残留検査方法を示すフロー図
【図6】鋳物穴加工品を示す斜視図
【図7】ショット玉を示す図
【図8】検査員による内視鏡を用いた検査方法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2において、鋳物穴加工品11は、加工穴12の部分にバリが発生するので、このバリを除去するために鏡面球体のショット玉13を使用してバリ除去処理を行なったもので、図1は加工穴12の内部にショット玉13が残留している状態を示している。
【0017】
図1に示すように、ショット玉残留検査装置100は、内視鏡本体20がCCDカメラ21およびボアスコープ22を有しており、CCDカメラ21が加工穴12に挿入するボアスコープ22を通して鋳物穴加工品11の加工穴12の内部を撮像する撮像部をなし、ボアスコープ22に鋳物穴加工品11の加工穴12の内部を照らす照明部(図示省略)を有し、光源23から光ファイバー24を通してボアスコープ22の照明部に光を送る。
【0018】
内視鏡本体20は保持部をなすXYステージ30に装着しており、XYステージ30は、内視鏡本体20を支持して水平方向に出退するアーム部31と、アーム部31を上下に昇降する昇降部32と、昇降部32を垂直軸回りに回転させる回転部33からなる。鋳物穴加工品11は、回転ステージ40の上にケース固定台41を介して載置してある。
【0019】
画像処理部50は、カメラコントロールユニット51と、画像処理装置52を備えており、ステージ制御部60は、XYステージ30を制御するXYステージコントローラ61と、回転ステージ40を制御する回転ステージコントローラ62と、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)63からなり、表示操作部71がPLC63および画像処理装置52のI/Oボード521に接続している。
【0020】
以下、上記した構成における作用を図5を参照して説明する。
ステップ1
暖機運転を行なう。光源23の照明安定化を図るもので、目安として15分程度行なう。
ステップ2
基準ケースを測定して機器の動作をチェックする。
ステップ3
ケース固定台41に鋳物穴加工品11を収めたケースを設置して固定する。
ステップ4
上面の測定開始。
ステップ5
回転ステージコントローラ62により回転ステージ40を制御して鋳物穴加工品11を回転させて撮像対象の加工穴12を所定位置に配置する。
ステップ6
XYステージコントローラ61でXYステージ30を制御し、アーム部31、昇降部32、回転部33を駆動させて内視鏡本体20を撮像対象の加工穴12の上方に配置する。
ステップ7
昇降部32を駆動させてボアスコープ22を加工穴12に挿入し、図2に示すように、一定距離を挿入する度に内視鏡本体20を位置決めし、カメラコントロールユニット51よりCCDカメラ21を操作して加工穴12の内部を撮像する。この段階的な撮像により、加工穴12の側面に付着したショット玉13も撮像できる。
【0021】
加工穴12の底部を撮像する撮像位置は、予め各加工穴毎にその口径に応じて距離を加工穴の底面から撮像位置までの離間距離として定めてあり、この撮像位置に内視鏡本体20を位置決めして加工穴12の内部をCCDカメラ21で撮像する。
【0022】
このように、加工穴毎にその口径に応じて撮像位置を設定することにより、加工穴12の底面画像が同じ大きさになり、検査に不要な領域を撮像することなく、検査箇所のみを撮像することが可能となる。
【0023】
画像処理装置52は、ショット玉13が球面を有することに着目した検出を行なう。すなわち、ボアスコープ22の照明部から照射する光がショット玉の球面で正反射することにより、ボアスコープ22の照明部に対向するショット玉13の球面の中央部にハイライト部分が発生する。このため、照明部はCCDカメラ21を中心とする同心円状に照明することが好ましい。
【0024】
このため、画像処理装置52は、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、ショット玉像の候補領域として選択する。
【0025】
例えば、図3の(a)に示す取得画像600(実際はカラー画像)では、画像の中心付近にハイライト領域601が存在し、ハイライト領域601を囲む周辺部位に暗領域602が存在し、その外側が輝度値の異なる領域603、604、605、606となっている。領域603、604、605は加工穴12の底面を映す画像領域である。
【0026】
この取得画像をモノクロ画像に変換した後に、予め設定する輝度値の閾値Aで二値化処理して図3の(b)に示す二値化処理後の二値画像を得る。この二値画像ではショット玉像の周囲の暗部も黒色として映る。このため、二値化処理後の二値画像に膨張、収縮処理を施して暗部の小さい塊(画像領域)を取り除いた後、明部の連結成分の形状特徴(重心、画素数、長辺、短辺等)を数値化する粒子解析を行なう。その後に、粒子フィルタ処理を行ない、明部の連続成分が所定範囲内の画素数であり、円形に近い形状の塊(画像領域)を抽出し、図3(c)に示す明部抽出画像を得る。そして、抽出した複数の明部領域607の周囲の暗領域を含めた領域をショット玉像の候補領域として選択する。
【0027】
このように、1枚の取得画像の中から抽出した複数の明部領域607に対し、その形やサイズからショット玉像の候補領域を選択することで、短時間にショット玉像の候補領域を絞り込むことができ、ショット玉検出処理の演算時間を短縮できる。
【0028】
そして、図4に示すように、取得画像のモノクロ変換画像で選択したショット玉像の候補領域(610)において、閾値Aより輝度値が高い領域をハイライト領域601とし、ハイライト領域601の重心を求める。この重心から予め定めた内径R1と外径R2の間の領域の輝度値平均を算出し、この輝度値平均が閾値B以下であるなら選択したショット玉像の候補領域が真のショット玉像であると判断する。
ステップ8
XYステージコントローラ61でXYステージ30を制御し、アーム部31、昇降部32、回転部33を駆動させて内視鏡本体20を次の撮像対象の加工穴12の上方に配置する。
ステップ9
上述した操作を繰り返し、鋳物穴加工品11の上面の測定を終了する。
ステップ10
上面の各加工穴12の判定結果を出力する。必要に応じてケースを反転させて、上述動作を繰り返す。
【0029】
このように、ショット玉を撮像した取得画像の特徴を用いて判定することで、加工穴12の壁面の輝度値の低い部位をショット玉13と誤判定することがなくなって判定精度が向上し、検査員の主観に依らずして輝度値を客観的な基準としてショット玉を検出することで安定した検査精度を実現でき、検査の自動化によりインラインで全数検査を実施できる。
【0030】
上述した実施の形態では、鋳物穴加工品の加工穴に残留するショット玉を検出する残留検査の例を示したが、これに限らず、加工穴の切り粉(ドリル加工するので丸い球体状の切り粉が出来る)や、その他の球体状の残留物の検査にも使用できる。
【符号の説明】
【0031】
11 鋳物穴加工品
12 加工穴
13 ショット玉
100 ショット玉残留検査装置
20 内視鏡本体
21 CCDカメラ
22 ボアスコープ
23 光源
24 光ファイバー
30 XYステージ
31 アーム部
32 昇降部
33 回転部
40 回転ステージ
41 ケース固定台
50 画像処理部
51 カメラコントロールユニット
52 画像処理装置
60 ステージ制御部
61 XYステージコントローラ
62 回転ステージコントローラ
63 PLC
71 表示操作部
521 I/Oボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物穴加工品の加工穴の内部を照らす照明部と、加工穴内を撮像可能な撮像部と、照明部および撮像部を撮像対象加工穴に挿入する保持部と、撮像部で撮像した画像を画像処理する画像処理部を備え、
画像処理部は、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、鏡面球体像の候補領域として選択し、候補領域におけるハイライト領域の輝度値が上位閾値より高く、かつ暗領域の輝度値が下位閾値より低い場合に候補領域が真の鏡面球体像であると判断することを特徴とする鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置。
【請求項2】
保持部は、照明部および撮像部を上下方向および水平方向に移動させるXYステージであることを特徴とする請求項1に記載の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置。
【請求項3】
保持部は、予め各加工穴毎にその口径に応じて定めた距離を加工穴の底面から撮像位置までの離間距離として照明部および撮像部を位置決めすることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査装置。
【請求項4】
保持部で照明部および撮像部を撮像対象加工穴に挿入して位置決めする位置決め工程と、照明部により鋳物穴加工品の加工穴の内部を照らしつつ、撮像部で加工穴内を撮像する撮像工程と、撮像部で撮像した画像を画像処理部で画像処理する画像処理工程を有し、画像処理工程では、撮像した取得画像において、ハイライト領域を有し、かつハイライト領域を囲む周辺部位にハイライト領域よりも輝度値の低い環状の暗領域を有する画像領域を、鏡面球体像の候補領域として選択し、候補領域におけるハイライト領域の輝度値が上位閾値より高く、かつ暗領域の輝度値が下位閾値より低い場合に候補領域が真の鏡面球体像であると判断することを特徴とする鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査方法。
【請求項5】
位置決め工程では、予め各加工穴毎にその口径に応じて定めた距離を加工穴の底面から撮像位置までの離間距離として照明部および撮像部を位置決めすることを特徴とする請求項4に記載の鋳物穴加工品の鏡面球体残留検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211796(P2012−211796A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76941(P2011−76941)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(000104858)クボタ精機株式会社 (7)
【Fターム(参考)】