説明

鋼帯の連続焼鈍方法、溶融亜鉛めっき方法

【課題】焼鈍時に鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素が鋼帯表面に濃化して易酸化性元素の酸化物が形成するのを防止する。
【解決手段】加熱帯、均熱帯及び冷却帯を備え、炉内ガスの一部を炉外に設けたリファイナに導入して露点を低下し、露点を低下したガスを炉内に戻す縦型焼鈍炉を用い、均熱帯と冷却帯の連結部を炉上部に配置し、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯及び均熱帯上部にリファイナに導入する炉内ガスの吸引口を設け、均熱帯と冷却帯の連結部及び均熱帯下部にリファイナから戻るがスの吐出口を設け、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1、均熱帯上部の吸引ガス量Qo2、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1、均熱帯下部の吐出ガス量Qi2、冷却帯以降の雰囲気ガスの供給量Qf1、均熱帯の雰囲気ガスの供給量Qf2、均熱帯内容積Vs、均熱帯平均炉温Tsが0.3×Qf1<Qo1等の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の連続焼鈍方法、溶融亜鉛めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼帯を焼鈍する連続焼鈍炉においては、炉の大気開放後の立ち上げ時や炉内雰囲気に大気が侵入した場合等に炉内の水分や酸素濃度を低減させるには、炉内温度を上昇させて炉内の水分を気化させ、これと相前後して不活性ガス等の無酸化性ガスを炉内雰囲気の置換ガスとして炉内に供給し、同時に炉内のガスを排気することで炉内雰囲気を無酸化性ガスに置換する方法が広く行われている。
【0003】
しかし、このような従来の方法は、炉内雰囲気中の水分や酸素濃度を定常操業に適した所定のレベルまで低下させるのに長時間を要し、その間操業できないため、生産性を著しく低下させる問題がある。
【0004】
また近年、自動車、家電、建材等の分野において、構造物の軽量化等に寄与可能な高張力鋼(ハイテン材)の需要が高まっている。このハイテン技術では、鋼中にSiを添加すると穴広げ性の良好な高張力鋼帯が製造出来る可能性があり、またSiやAlを含有すると残留γが形成しやすく延性の良好な鋼帯が提供出来る可能性が示されている。
【0005】
しかし、高強度冷延鋼帯において、Si、Mn等の易酸化性元素を含有していると、焼鈍中にこれらの易酸化性元素が鋼帯表面に濃化してSi、Mn等の酸化物が形成され、外観不良やリン酸塩処理等の化成処理性不良となる問題がある。
【0006】
溶融亜鉛めっき鋼帯の場合、鋼帯がSi、Mn等の易酸化性元素を含有していると、焼鈍中にこれらの易酸化性元素が鋼帯表面に濃化してSi、Mn等の酸化物が形成され、めっき性を阻害して不めっき欠陥を発生させたり、めっき後の合金化処理の際に合金化速度を低下させたりする問題がある。中でもSiは、鋼帯表面にSiO2の酸化膜が形成されると、鋼帯と溶融めっき金属との濡れ性を著しく低下させ、また、合金化処理の際にSiO2酸化膜が地鉄とめっき金属との拡散の障壁となることから、めっき性、合金化処理性阻害の問題が特に発生しやすい。
【0007】
この問題を避ける方法として、焼鈍雰囲気中の酸素ポテンシャルを制御する方法が考えられる。
【0008】
酸素ポテンシャルを上げる方法として、例えば特許文献1に加熱帯後段から均熱帯の露点を-30℃以上の高露点に制御する方法が開示されている。この手法は、ある程度効果が期待でき、また高露点への制御も工業的にたやすいという利点があるが、高露点下で操業することが望ましくない鋼種(例えばTi系-IF鋼)の製造を簡易に行うことができないという欠点がある。これは、一旦高露点にした焼鈍雰囲気を低露点にするには非常に長時間かかるためである。またこの手法は、炉内雰囲気を酸化性にするため、制御を誤ると炉内ロールに酸化物が付着してピックアップ欠陥が発生する問題や、炉壁損傷の問題がある。
【0009】
別の手法として、低酸素ポテンシャルとする手法が考えられる。しかしSi、Mn等は非常に酸化しやすいため、CGL(連続溶融亜鉛めっきライン)・CAL(連続焼鈍ライン)に配置されるような大型の連続焼鈍炉においては、Si、Mn等の酸化を抑制する作用が優れる-40℃以下の低露点の雰囲気を安定的に得ることは非常に困難であると考えられてきた。
【0010】
低露点の焼鈍雰囲気を効率的に得る技術が、例えば特許文献2、特許文献3に開示されている。これらの技術は、1パス縦型炉の比較的小規模な炉についての技術であり、CGL・CALのような多パス縦型炉への適用を考えていないため、効率的に露点を低下できない危険性が非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2007/043273号公報
【特許文献2】特許第2567140号公報
【特許文献3】特許第2567130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気の露点を定常操業に適したレベルまで速やかに低減させることができる鋼帯の連続焼鈍方法を提供することを課題とする。また、本発明は、ピックアップ欠陥の発生、炉壁損傷の問題の少ない低露点の雰囲気を安定して得ることができ、焼鈍時に鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素が鋼帯表面に濃化して、Si、Mn等の易酸化性元素の酸化物の形成を防止し、Si等の易酸化性元素を含有する鋼帯の焼鈍に適した鋼帯の連続焼鈍方法を提供することを課題とする。また、本発明は鋼帯を連続焼鈍した後、溶融亜鉛めっきを施す、または溶融亜鉛めっきを施した後さらに亜鉛めっきの合金化処理を施す、鋼帯の溶融亜鉛めっき方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは多パスを有する大型縦型炉内の露点分布の測定やそれを元にした流動解析等を行った。その結果、雰囲気の大部分を占めるN2ガスに比べて、水蒸気(H2O)は比重が軽いため、多パスを有する竪型焼鈍炉では、炉上部が高露点になりやすいこと、そして、炉内の上部から炉内ガスを吸引して脱酸素器と除湿器を備えるリファイナに導入して酸素及び水分を除去して露点を低下し、露点を低下したガスを炉内の特定部に戻すことで、炉上部が高露点になるのを防止して、炉内雰囲気の露点を定常操業に適した所定のレベルまで短時間で減少させることができること、また、炉内雰囲気をピックアップ欠陥の発生、炉壁損傷の問題が少なく、焼鈍時に鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素が鋼帯表面に濃化してSi、Mn等の易酸化性元素の酸化物が形成されるのを防止できる低露点の雰囲気を安定して得ることができることを見出した。
【0014】
上記課題を解決する本発明の手段は下記の通りである。
【0015】
[1]鋼帯を上下方向に搬送する加熱帯、均熱帯及び冷却帯をこの順に配置してなり、炉外より雰囲気ガスを炉内に供給し、炉内ガスを加熱帯下部の鋼帯導入部から排出するとともに、炉内ガスの一部を吸引して炉外に設けた脱酸素装置と除湿装置を有するリファイナに導入してガス中の酸素と水分を除去して露点を低下し、露点を低下したガスを炉内に戻すようにしてなる縦型焼鈍炉を用いて鋼帯を焼鈍する際に、
加熱帯と均熱帯を炉上部で連通させ、炉上部の連通部以外は隔壁を設けて加熱帯と均熱帯の雰囲気を遮断し、均熱帯と冷却帯の連結部を炉上部に配置し、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯及び均熱帯上部に、リファイナに導入する炉内ガスの吸引口を設けるとともに、少なくとも均熱帯と冷却帯の連結部及び均熱帯下部に、リファイナで露点を低下したガスを炉内に吐出するガスの吐出口を設け、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、均熱帯上部の吸引ガス量Qo2(Nm3/hr)、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1(Nm3/hr)、均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、炉外より均熱帯に供給する雰囲気ガスの供給量Qf2(Nm3/hr)、均熱帯内容積Vs(m3)、均熱帯平均炉温Ts(℃)が、下式(1)〜(4)の関係を満たすようにすることを特徴とする鋼帯の連続焼鈍方法。
0.3×Qf1 < Qo1 …(1)
0.5×(Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1) < Qo2 < Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1 …(2)
Qi1 > Qo1−0.8×Qf1 …(3)
Qi2 > 5×Vs×273÷(273+Ts) …(4)
【0016】
[2]前記均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、前記均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1(Nm3/hr)、前記均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、前記炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、前記均熱帯内容積Vs(m3)、前記均熱帯平均炉温Ts(℃)が、前記式(1)、(3)、(4)に代えて、下式(5)、(6)、(7)の関係を満たすようにすることを特徴とする[1]に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
0.5×Qf1 < Qo1 …(5)
Qi1 > Qo1−0.5×Qf1 …(6)
Qi2 > 6×Vs×273÷(273+Ts) ・・・(7)
【0017】
[3]さらに加熱帯上部にリファイナで露点を低下したガスを炉内に吐出するガスの吐出口を設け、加熱帯上部の吐出ガス量Qi3(Nm3/hr)、加熱帯内容積Vh(m3)および加熱帯平均炉温Th(℃)が下式(8)の関係を満たすようにすることを特徴とする[2]に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
Qi3 > 0.35×Vh×273÷(273+Th) …(8)
【0018】
[4]前記均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、前記均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、前記炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、前記均熱帯内容積Vs(m3)、前記均熱帯平均炉温Ts(℃)が、前記式(5)、(7)に代えて、下式(9)、(10)の関係を満たすようにすることを特徴とする[2]または[3]に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
0.7×Qf1 < Qo1 …(9)
Qi2 > 7×Vs×273÷(273+Ts) …(10)
【0019】
[5]前記冷却帯は、鋼帯を搬送するパスは1パスからなることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの項に鋼帯の連続焼鈍方法。
【0020】
[6] [1]〜[5]のいずれかの項に記載の方法で連続焼鈍を行った後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする鋼帯の溶融亜鉛めっき方法。
【0021】
[7] [6]に記載の方法で溶融亜鉛めっきを行った後、亜鉛めっきの合金化処理を行うことを特徴とする鋼帯の溶融亜鉛めっき方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度を減少して、炉内雰囲気の露点を、安定的に鋼帯製造が可能となる-30℃以下まで低下する時間を短縮し、生産性の低下を防止できる。
【0023】
また、本発明によれば、ピックアップ欠陥の発生、炉壁損傷の問題が少なく、また焼鈍時に鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素が鋼帯表面に濃化してSi、Mn等の易酸化性元素の酸化物が形成されるのを防止できる露点が-40℃以下の低露点の炉内雰囲気を安定して得ることができる。また、本発明によれば、Ti系-IF鋼のような高露点下で操業することが望ましくない鋼種の製造を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施に使用する鋼帯の連続溶融亜鉛めっきラインの一構成例を示す図である。
【図2】リファイナの一構成例を示す図である。
【図3】焼鈍炉の露点低下のトレンドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
鋼帯の連続溶融亜鉛めっきラインは、めっき浴の上流に焼鈍炉を備える。通常、焼鈍炉は、炉の上流から下流に向かって加熱帯、均熱帯、冷却帯がこの順で配置されている。焼鈍炉とめっき浴はスナウトを介して接続され、加熱帯からスナウトに至るまでの炉内は、還元性雰囲気ガスまたは非酸化性雰囲気に保持され、加熱帯、均熱帯は、加熱手段としてラジアントチューブを用い、鋼帯を間接加熱する。還元性雰囲気ガスは、通常H2-N2ガスが用いられ、加熱帯からスナウトまでの炉内の適宜場所に導入される。このラインにおいて、鋼帯を加熱帯、均熱帯で所定温度に加熱焼鈍した後、冷却帯で冷却し、スナウトを介してめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきし、またはさらに亜鉛めっきの合金化処理を行う。
【0026】
連続溶融亜鉛めっきラインは、炉がスナウトを介してめっき浴に接続されているため、炉内に導入したガスは、炉体リーク等の不可避のものを除くと、炉の入側から排出され、炉内ガスの流れは、鋼帯進行方向とは逆方向に、炉の下流から上流に向かう。そして、雰囲気の大部分を占めるN2ガスに比べて、水蒸気(H2O)は比重が軽いため、多パスを有する竪型焼鈍炉では、炉上部が高露点となりやすい。
【0027】
露点を効率良く露点を下げるには、露点を下げる必要のある領域を絞ること、具体的には、炉内の雰囲気ガスの淀み(炉の上部、中間部、下部での雰囲気ガスの淀み)を発生させることなく、炉上部が高露点になるのを防止することが重要である。また、露点を上昇させる水の発生源を知ることが重要である。水の発生源としては、炉壁、鋼帯、炉入り口からの外気流入、冷却帯やスナウトからの流入等が挙げられる。
【0028】
めっき性に及ぼす露点の影響は鋼帯温度が高ければ高いほど大きく、酸素との反応性が高まる鋼帯温度700℃以上の領域で特に影響が大きくなる。露点上昇の最大要因は、炉壁からの水放出であり、これは炉温が高い領域で特に顕著である。加熱帯後半部、均熱帯は、鋼帯温度が700℃以上となるため、炉内雰囲気の露点がめっき性に影響を与えるが、このうち、均熱帯は鋼帯温度がより高くなるため、炉内雰囲気の露点がめっき性に与える影響がより顕著に現れる。従って、均熱帯で、雰囲気ガスの淀みを防止して雰囲気の露点を低下することが必要であり、さらに加熱帯後半部でも雰囲気ガスの淀みを防止して雰囲気の露点を低下できることが好ましい。
【0029】
具体的には、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度を減少して、炉内雰囲気の露点を、安定的に鋼帯製造が可能となる-30℃以下まで低下する時間を短縮できることが必要である。また、均熱帯で、雰囲気ガスの淀みを防止して雰囲気の露点をSi、Mn等の酸化を抑制する作用が優れる-40℃以下まで低下できることが必要である。めっき性の点から露点は低い方が有利であり、均熱帯の露点は-45℃以下に低下できることが好ましい。さらに、加熱帯後半部、均熱帯の露点を-45℃以下に低下できることがより好ましく、-50℃以下に低下できることが更に好ましい。
【0030】
なお、加熱帯で高温になった鋼帯は冷却帯に導入されるが、短時間で700℃以下に冷却され、700℃以上の温度域にあるのは比較的短時間であり、冷却帯における鋼帯の酸化は少ない。そのため、冷却帯前半部の露点を低下する必要性は、均熱帯や加熱帯後半部に比べて小さい。
【0031】
そして、本発明は、雰囲気ガスの露点を低下するために、炉内の雰囲気ガスの一部を炉外に設けた脱酸素装置と除湿装置を有するリファイナに導入してガス中の酸素と水分を除去して露点を低下し、露点を低下したガスを炉内に戻すものであるが、その際、リファイナに導入する炉内ガスの吸引口、リファイナから戻る露点が低下したガスの炉内への吐出口を下記1)〜4)のように配置するものである。
【0032】
1)均熱帯下部は特に均熱帯のガス出口から遠いため、雰囲気ガスが淀み易い。均熱帯下部で雰囲気ガスが淀むのを防止するため、均熱帯下部にリファイナから戻るガスの吐出口を配置する。
【0033】
2)冷却帯上部はめっきポット側からの高露点のガスが混入してくるため、また冷却帯・スナウトからの外気流入を防止するため、当該箇所で雰囲気ガスの淀みを防止する必要があり、当該箇所にリファイナに導入するガスの吸引口を配置する。このガス吸引によって当該箇所でのガスの淀みを防止できるが、当該箇所近傍の炉圧が負圧になるおそれがあるので、均熱帯と冷却帯の連結部にリファイナから戻るガスの吐出口を配置する。
【0034】
3)均熱帯上部は、炉温が高く、炉ガス供給部、均熱帯のガス出口から遠いため、高露点になりやすく、さらに、鋼帯温度および鋼帯滞留時間の関係上、低露点化の必要性が最も高い。この問題に対しては、均熱帯上部から雰囲気ガスを吸引するのが最も効果的であるため、均熱帯上部にリファイナに導入するガスの吸引口を配置する。なお、均熱帯は他地点より露点が高くなる場合が多く、流れも淀みやすい領域であるので、積極的な対策が必要であり、リファイナに導入するガス流量、リファイナから戻すガス流量は他より大きくする必要がある。
【0035】
4)加熱帯上部は、その構造上、炉内ガスの流れがほとんど無いため、最も雰囲気ガスが淀み易い箇所である。この箇所の滞留ガスは高露点化しやすいため、加熱帯上部にリファイナから戻るガスの吐出口を配置する。
【0036】
本発明は、このような視点に基づくものである。
【0037】
以下、図1及び図2を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0038】
図1は、本発明の実施に使用する竪型焼鈍炉を備える鋼帯の連続溶融亜鉛めっきラインの一構成例を示す。図1において、1は鋼帯、2は焼鈍炉で、鋼帯進行方向に加熱帯3、均熱帯4、冷却帯5をこの順に備える。加熱帯3、均熱帯4では、上下に複数のハースロール11が配置され、鋼帯1を上下方向に複数回搬送する複数パスを形成し、加熱手段としてラジアントチューブを用い、鋼帯1を間接加熱する。6はスナウト、7はめっき浴である。8は炉内から吸引した雰囲気ガスの脱酸素と除湿を行うリファイナである。
【0039】
図2は、リファイナ8の一構成例を示す。図2において、30は熱交換器、31はクーラ、32はフィルタ、33はブロワ、34は脱酸素装置、35、36は除湿装置、46、51は切替弁、40〜45、47〜50、52、53は弁である。脱酸素装置34はパラジウム触媒を用いた脱酸素装置である。除湿装置35、36は、合成ゼオライト触媒を用いた除湿装置である。連続操業できるように2基の除湿装置35、36が並列に配置されている。
【0040】
加熱帯3と均熱帯4は炉の上部で連通している。炉の上部の連通部以外は、加熱帯3と均熱帯4の雰囲気ガスを遮断する隔壁12が設置されている。隔壁12は、加熱帯3出口のハースロールと均熱帯4入口のハースロール間の炉長手方向中間位置に設置され、上端は鋼帯1に近接し、下端及び鋼帯幅方向端部は炉壁部に接するようにして鉛直に配置されている。
【0041】
均熱帯4と冷却帯5の連結部13は、冷却帯5上側の炉上部に配置され、該連結部13内には、均熱帯4から導出された鋼帯1の走行方向を下方に変向するロールが配置されている。均熱帯4の雰囲気が冷却帯5内に流入するのを防止し、また連結部炉壁の輻射熱が冷却帯5内に入るのを防止するため、該連結部の冷却帯5側出口はスロート(鋼帯通板部断面積が小さくなった構造)14になっている。
【0042】
冷却帯5は、第1冷却帯5aと第2冷却帯5bで構成され、第1冷却帯5aは、鋼帯パスは1パスである。
【0043】
15は炉外より炉内に雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給系統、16はリファイナ8へのガス導入管、17は、リファイナ8からのガス導出管である。
【0044】
雰囲気ガス供給系統15の途中に設置された弁15a〜15d及び流量計18a〜18cにより、加熱帯3、均熱帯4及び冷却帯5以降の炉内各部への雰囲気ガスの供給量の調整、停止を個別に行うことができる。通常、炉内に供給する雰囲気ガスは、鋼帯表面に存在する酸化物を還元し、雰囲気ガスのコストが過大にならないように、H2:1〜10vol%、残部がN2及び不可避的不純物からなる組成を有するガスが用いられる。露点は-60℃程度である。
【0045】
22a、22bは雰囲気ガス吸引口、23a〜23cは雰囲気ガス吐出口、16a〜16c、17a〜17dは弁、19a、19b、20a〜20cは流量計である。雰囲気ガス吸引口22aは均熱帯4の上部、22bは冷却帯5の上部(均熱帯と冷却帯の連結部13の近傍)に設置され、雰囲気ガス吐出口23aは加熱帯3の上部、23bは均熱帯4の下部、23cは均熱帯と冷却帯の連結部13に設置されている。
【0046】
雰囲気ガス吸引口22a、22bから吸引された雰囲気ガスは、ガス導入管16を経てリファイナ8に導入される。ガス導入管16の途中に設けた弁16a〜16c及び流量計19a、19bにより、雰囲気ガス吸引口22a、22bからの炉内の雰囲気ガスの吸引量の調整、停止を個別に制御できる。
【0047】
リファイナ8から導出されたガスは、ガス導出管17を経て雰囲気ガス吐出口23a〜23cから炉内に吐出可能である。ガス導出管17の途中に設けた弁17a〜17d及び流量計20a〜20cにより、雰囲気ガス吐出口23a〜23cから炉内へ吐出する雰囲気ガスの吐出量、停止を個別に制御できる。
【0048】
この連続溶融亜鉛めっきラインで鋼帯を焼鈍した後溶融亜鉛めっきするときは、鋼帯1を、加熱帯3、均熱帯4内を搬送し、所定温度(例えば800℃程度)に加熱して焼鈍した後、冷却帯5で所定温度に冷却する。冷却後、スナウト6を介してめっき浴7に浸漬して溶融亜鉛めっきし、めっき浴から引き上げた後めっき浴上に設置したガスワイピングノズル(図示なし)でめっき付着量を所望付着量に調整する。必要に応じてめっき付着量調整後、ガスワイピングノズル上方に配置された加熱設備(図示なし)を用いて亜鉛めっきの合金化処理を行う。
【0049】
その際、雰囲気ガス供給系統15から炉内に雰囲気ガスを供給する。雰囲気ガス種、組成、ガス供給方法は通常の方法でよい。通常H2-N2ガスを用い、加熱帯3、均熱帯4及び冷却帯5以降の炉内各部に供給する。
【0050】
また、雰囲気ガス吸引口22a、22bから均熱帯4上部、冷却帯5上部の雰囲気ガスをブロワ33で吸引し、吸引したガスを、熱交換器30、クーラ31を順次通過させ雰囲気ガスを40℃程度以下に冷却し、フィルタ32でガスを清浄化した後、脱酸素装置34により雰囲気ガスの脱酸素、除湿装置35又は36による雰囲気ガスの除湿を行い、露点を-60℃程度まで低下させる。除湿装置35と36の切り替えは、切替弁46、51を操作して行う。
【0051】
露点を低下させたガスを、熱交換器30を通過させた後、雰囲気ガス吐出口23a〜23cから、加熱帯3上部、均熱帯4下部、均熱帯4と冷却帯5の連結部13に戻す。露点を低下させたガスを、熱交換器30を通過させることで、炉内に吐出するガス温度を高めることができる。
【0052】
そして、雰囲気ガス吸引口、雰囲気ガス吐出口を上記のように配置し、各雰囲気ガス吸引口からの吸引ガス量、各雰囲気ガス吐出口からの吐出ガス量を適切に調整することで、均熱帯および冷却帯前半部における炉の上部、中間部、下部での雰囲気ガスの淀みを防止し、炉上部が高露点になるのを防止できる。その結果、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度を減少して、炉内雰囲気の露点を、安定的に鋼帯製造が可能となる-30℃以下まで低下する時間を短縮し、生産性の低下を防止できる。また、均熱帯および均熱帯と冷却帯の連結部の雰囲気の露点を-40℃以下、又はさらに-45℃以下に低下できる。またさらに加熱帯後半部における炉の上部、中間部、下部での雰囲気ガスの淀みを防止して、加熱帯後半部、均熱帯および均熱帯と冷却帯の連結部の雰囲気の露点を-45℃以下、又はさらに-50℃以下に低下することもできる。
【0053】
以下、本発明の限定理由を説明する。
【0054】
前記したように、CGLでは、炉内のガスは、炉の下流から上流に流れる。限定理由の説明は、ガス流れの上流側から説明する方が分かりやすいので、以下、ガス流れの上流にあたる冷却帯から限定理由を説明する。
【0055】
[1]冷却帯前半部に関係するガス流れ
冷却帯前半部に関係するガス流れは、冷却帯以降の帯域で炉外より炉内に供給される雰囲気ガス供給量Qf1(Nm3/hr、流入)、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr、流出)によるガス流れである。
【0056】
冷却帯前半部で、雰囲気ガスの淀みを防止して雰囲気の露点を低下するには、均熱帯と冷却帯の連結部を炉上部に配置し、冷却帯上部にリファイナに導入するガスのガス吸引口を設け、冷却帯以降で投入された雰囲気ガスの多くを冷却帯上部のガス吸引口から吸引する必要がある。均熱帯と冷却帯の連結部の雰囲気の露点を-40℃以下まで低下させるには、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1と冷却帯以降の帯域で炉外より炉内に供給される雰囲気ガス供給量Qf1が式(1)の関係を満たすようにする必要がある。
0.3×Qf1 < Qo1 …(1)
【0057】
均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1が、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qf1の0.3倍以下になると、冷却帯前半部の高露点ガスを吸引しきれず、均熱帯と冷却帯の連結部の露点を-40℃以下にできなくなるためである。
【0058】
式(1)を満足すると、冷却帯以降のガスは、冷却帯の下流側から均熱帯と冷却帯の連結部側の均熱帯上部へ流れ、さらに雰囲気ガス吸引口からリファイナへ導入され、また冷却帯の上部には、均熱帯と冷却帯の連結部に吐出されたリファイナによって低露点になったガスが流入するため、均熱帯と冷却帯の連結部を低露点とすることができる。
【0059】
均熱帯と冷却帯の連結部の露点をさらに低下するには、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1は冷却帯以降の帯域で炉外より炉内に供給される雰囲気ガス供給量Qf1に対して式(5)を満たすようにすることが好ましく、式(9)の関係を満たすようにすることがさらに好ましい。
0.5×Qf1 < Qo1 …(5)
0.7×Qf1 < Qo1 …(9)
【0060】
[2]均熱帯に関係するガス流れ
均熱帯に関係するガス流れは、冷却帯側から流入してくるガス量Qf1+Qi1−Qo1、炉外より均熱帯に供給する雰囲気ガス供給量Qf2(流入)、均熱帯上部の吸引ガス量Qo2(流出)、均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(流入)である。前記[1]の冷却帯と同様の考えにより、Qf1(Nm3/hr)+Qi1(Nm3/hr)−Qo1(Nm3/hr)、Qf2(Nm3/hr)、Qo2(Nm3/hr)、Qi2(Nm3/hr)は式(2)の関係を満たす必要がある。Qi1は、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量である(後記)。
0.5×(Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1) < Qo2 < Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1 …(2)
【0061】
均熱帯上部の吸引ガス量Qo2が当該箇所に流入するガス量Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1の0.5倍以下になると、均熱帯の高露点ガスを吸引しきれず、露点低減効果が限定される。均熱帯上部の吸引ガス量Qo2が当該箇所に流入するガス量Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1以上になると、当該箇所が負圧となり、外部からエアを吸引するおそれが増大するため好ましくない。式(2)を満足すると、均熱帯内では、脱酸素と除湿されたリファイナからの低露点のガスが均熱帯下部に吐出され、ガスは下部から上部へ流れ、さらに炉上部の連通部から加熱帯に流れることで、均熱帯の炉上部が高露点となる問題が解消され、均熱帯内は-40℃以下の低露点の雰囲気となる。
【0062】
[3]均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1
均熱帯の露点を-40℃以下にするには、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1は、式(3)の関係を満たすようにする必要がある。
Qi1 > Qo1−0.8×Qf1 …(3)
【0063】
式(3)は、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出量の下限を規定する。この式は変形すると、Qf1−Qo1+Qi1>0.2×Qf1となる。左辺のQf1−Qo1+Qi1は均熱帯と冷却帯の連結部から均熱帯へ流入する正味のガス流量を表している。式(3)を満足しないと、均熱帯と冷却帯の連結部から均熱帯に流入するガス流れが弱くなり、均熱帯から冷却帯に向かうガス流れが相対的に強くなるため、流れが一方向にスムーズに流れなくなり、淀みが発生した時と同様、当該箇所近傍で露点が高くなり、安定して均熱帯の露点を-40℃以下にできなくなる。均熱帯の露点を低下するには、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出口の吐出ガス量Qi1は、式(6)の関係を満たすようにすることがより好ましい。
Qi1 > Qo1−0.5×Qf1 …(6)
【0064】
[4] 均熱帯下部の吐出ガス量Qi2
均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、均熱帯内容積Vs(m3)、均熱帯平均炉温Ts(℃)は式(4)の関係を満たす必要がある。(4)式は、均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)の下限値を規定する。273/(273+T)は標準状態での体積を実炉温での体積に換算するための換算式である。Qi2が(4)式の関係を満たさないと均熱帯の下部から上部へのガス流れが弱くなり、炉の下部〜上部に淀んだ高露点ガスを追い出す作用が不十分となり、均熱帯の露点を-40℃以下にできなくなる。均熱帯の露点をさらに低下するには、Qi2は式(7)の関係を満たすようにすることが好ましく、式(10)の関係を満たすようにすることがさらに好ましい。
Qi2 > 5×Vs×273÷(273+Ts) …(4)
Qi2 > 6×Vs×273÷(273+Ts) ・・・(7)
Qi2 > 7×Vs×273÷(273+Ts) …(10)
【0065】
[5] 加熱帯上部の吐出口の吐出ガス量Qi3
加熱帯の露点を低下するには、加熱帯上部の吐出口の吐出ガス量Qi3(Nm3/hr)、加熱帯内容積Vh(m3)および加熱帯平均炉温Th(℃)が式(8)の関係を満たすようにすることが好ましく、式(10)の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0066】
式(8)は、加熱帯上部の吐出流量Qi3の下限値を規定する。Qi3の役割は、加熱帯上部に淀んでいる高露点ガスをパージすることである。加熱帯上部でリファイナからのガスを吐出しても、吐出式(8)式を満足しないと加熱帯内に滞留する高露点のガスを効率良くパージすることが出来なくなる。
Qi3 > 0.35×Vh×273÷(273+Th) …(8)
【0067】
そして、式(1)〜(4)の関係を満たすようにすると均熱帯と冷却帯の連結部・均熱帯の雰囲気の露点を-40℃以下に低下でき、式(5)、(2)、(6)、(7)の関係を満たすようにすると均熱帯と冷却帯の連結部・均熱帯の雰囲気の露点を-45℃以下に低下できる。式(5)、(2)、(6)、(7)の関係を満たし、さらに式(8)の関係を満たすようにすると均熱帯と冷却帯の連結部〜加熱帯後半部の雰囲気の露点を-45℃以下に低下でき、式(9)、(2)、(6)、(10)の関係を満たし、さらに式(8)の関係を満たすようにすると均熱帯と冷却帯の連結部〜加熱帯後半部の雰囲気の露点を-50℃以下に低下できる。
【0068】
露点を下げるには、リファイナに導入するガスの流量が多い方が有利であるのは当然である。しかし、流量を増やすと、配管径や除湿・脱酸設備が大型化するため、建設コストも増大することになる。したがって出来るだけ少ない流量で目標とする露点を得ることが重要となる。
【0069】
上記各式を満足する各ガス流量を決定する方法の一例を以下に記載する。但し、上記式を満足すればこの方法に限定されない。
【0070】
先ず、炉内に供給するガス流量Qf1、Qf2、Qf3を決める。Qf1、Qf2、Qf3は特に限定されないが、例えば従来の焼鈍炉で採用されているガス流量Qf1、Qf2、Qf3を採用すればよい。ガス流量Qf1、Qf2、Qf3を決定すると、式(1)又はさらに式(5)、(9)を満足するようにガス流量Qf1を決定でき、さらに式(3)又はさらに式(6)を満足するようにガス流量Qi1を決定できる。さらに、式(2)を満足するようにガス流量Qo2とQi2を決定する。また、均熱帯内容積Vs、均熱帯平均炉温Tsに基づいて、ガス流量Qi2がさらに式(4)又は式(7)、(10)を満足するように決定することができる。また、加熱帯内容積Vhおよび加熱帯平均炉温Thに基づいて、ガス流量Qi3を式(8)を満足するように決定することができる。また、上記条件で操業したときの炉内各部の露点を測定し、その測定結果に基づいて、前記で決定した各部のガス流量を適宜再決定することで、より少ない流量で目標とする露点を得ることができる。
【0071】
冷却帯上部のガス吸入口はスロート部等のガス流れが集中する箇所に設置するのが好ましく、均熱帯上部のガス吸入口は隔壁上端より上の位置に設置するのが好ましい。均熱帯と冷却帯の連結部のガス吐出口は、各吸引口による吸引影響の小さい場所に設置するのが好ましい。これは、吸引影響の大きい場所に配置すると、低露点化されたガスが有効に使われること無く、すぐに吸引口から吸引されて系外に排出されるためである。加熱帯上部のガス吐出口は鋼帯導入部直上またはその近傍で隔壁上端より高い位置に設置するのが好ましい。
【0072】
なお、リファイナへの吸引ガス量(Qo1+Qo2)≒リファイナからの排出流量(Qi1+Qi2+Qi3)となるのが通常であるが、リファイナのガス循環系統低露点ガス(露点が−60℃程度)を投入しても良い。焼鈍炉は、加熱帯入側に予熱炉備えるものであってもよい。
【0073】
以上、CGLについて本発明の実施形態を説明したが、本発明は、鋼帯を連続焼鈍する連続焼鈍ライン(CAL)にも適用できる。CALの場合、冷却帯以降に供給された雰囲気ガスの一部は、焼鈍炉出側から炉外に流出し、残りが炉入側に流れる。供給ガス量の内、炉入側に流れるものの割合Rを求め、この割合R考慮することで本発明を適用可能である。すなわち、前記実施形態で説明した各式のQf1をQf1×Rに置き換えることで本発明を適用できる。
【0074】
以上説明した作用によって、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度を減少して、炉内雰囲気の露点を、安定的に鋼帯製造が可能となる-30℃以下まで低下する時間を短縮し、生産性の低下を防止できる。また、ピックアップ欠陥の発生、炉壁損傷の問題が少なく、また焼鈍時に鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素が鋼帯表面に濃化してSi、Mn等の易酸化性元素の酸化物の形成を抑制する効果に優れる-40℃以下の低露点の炉内雰囲気を安定して得ることができる。
【実施例1】
【0075】
図1に示すART型(オールラジアント型)CGL(焼鈍炉長400m、加熱帯、均熱帯の炉高23m)で、露点測定試験を行った。炉内容積は加熱帯が571m3、均熱帯が296m3である。
【0076】
炉外よりの雰囲気ガスの供給箇所は、均熱帯はドライブ側の炉床から高さ1m、10mの位置の炉長手方向に各々3箇所で合計6箇所、加熱帯はドライブ側の炉床から高さ1m、10mの位置の炉長手方向に各々8箇所で合計16箇所である。供給する雰囲気ガスの露点は-60℃である。
【0077】
ガスの吐出口は、均熱帯と冷却帯の連結部は、炉頂から1m下、左側炉壁から0.5mの位置の炉側壁に2箇所(両側に各々1箇所)、均熱帯は、炉長手方向の均熱帯中心位置を中心に炉底から2m上の炉側壁に6箇所(両側に各々3箇所、間隔0.8m)、加熱帯は、炉頂から2m下、右側炉壁から2mの位置を中心に4箇所(両側に各々2箇所、間隔1m)設置した。
【0078】
吸引口は、均熱帯と冷却帯の連結部と冷却帯間のスロート部の下0.1m、パスラインから左右0.2mの位置に2箇所(片側のみ)、均熱帯は炉頂から3m下で炉長手方向の均熱帯中心位置を中心に4箇所(両側に各々2箇所)設置した。
【0079】
リファイナは、除湿装置は合成ゼオライト、脱酸素装置はパラジウム触媒を使用した。
【0080】
板厚0.8〜1.2mm、板巾950〜1000mmの範囲の鋼帯を用い、焼鈍温度800℃、通板速度100〜120mpmで出来る限り条件を統一した試験を行った。
【0081】
炉外よりの雰囲気ガスとして、H2-N2ガス(H2濃度10vol%、露点-60℃)を供給し、リファイナを使用していないときの雰囲気の露点(初期露点)をベース(-34℃〜-36℃)とし、リファイナ使用1hr後の露点を調査した。鋼帯の合金成分を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
上記条件下でのリファイナ条件等と露点の関係を表2に示す。ただし露点はそれぞれ冷却帯と均熱帯の連結部(露点1)、均熱帯上部(露点2)、加熱帯上部(露点3)(いずれも、炉頂下2m、炉長手方向の各帯の中間位置)で測定している。
【0084】
【表2】

【0085】
式(1)〜(4)の関係を満足するものは、リファイナ使用1hr後に、均熱帯と冷却帯の連結部及び均熱帯は-40℃以下の露点が得られている。Qo1、Qi1、Qi2がさらに式(5)、(6)、(7)の関係を満足するものは、リファイナ使用1hr後に均熱帯と冷却帯の連結部及び均熱帯は-45℃以下の露点が得られている。式(2)、(5)、(6)、(7)の関係を満足し、さらに式(8)の関係を満足するものは、リファイナ使用1hr後に均熱帯と冷却帯の連結部、均熱帯、加熱帯上部は-45℃以下の露点がえられている。式(2)、(6)、(7)、(9)の関係を満足し、さらに式(8)の関係を満足するものは、リファイナ使用1hr後に均熱帯と冷却帯の連結部、均熱帯、加熱帯上部が-45℃以下の露点が得られている。
【0086】
ガスの吐出口、ガスの吸引口の位置は、炉内の設置物等の点から、前記した位置を変更しても良いが、大幅に変更すると効果が低下する。それぞれの高さ方向の位置変更は、前記した位置から炉高の1/6を超えない範囲とすることが流動解析結果から望ましい範囲と言える。例えば均熱帯高さ方向で言えば23/6=3.8m以下の範囲で設定することが望ましい。
【実施例2】
【0087】
実施例1で使用した図1に示すART型(オールラジアント型)CGLで露点低下のトレンドを調査した。
【0088】
従来法(リファイナ不使用)の条件は、炉内に供給した雰囲気ガスは、組成がH2:8%、残部がN2及び不可避的不純物からなり(露点-60℃)で、流量がQf1:300Nm3/hr、Qf2:100Nm3/hr、Qf3:450Nm3/hrで、板厚0.8〜1.2mm、板巾950〜1000mmの範囲の鋼帯(鋼の合金成分は表1と同じ。)で、焼鈍温度は800℃、通板速度は100〜120mpmである。
【0089】
本発明法の条件は、上記と同様の条件で、さらにリファイナを使用し、流量Qf1:300Nm3/hr、Qf2:100Nm3/hr、Qf3:450Nm3/hr、Qi1:300Nm3/hr、Qi2:1000Nm3/hr、Qi3:200Nm3/hrとした場合である。
【0090】
調査結果を図3に示す。露点は、均熱帯上部の露点である。
【0091】
従来法は、露点を-30℃以下に低下するのに40時間程度を要しており、70時間後も-35℃まで低下できない。これに対して本発明法では、6時間で露点を-30℃以下に低下でき、8時間で-40℃以下に低下でき、12時間で-50℃以下に低下できている。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、鋼帯を連続的に熱処理する定常操業を行うに先立ち、又は定常操業中に炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度が上昇した際に、炉内雰囲気中の水分濃度及び/または酸素濃度を減少して、炉内雰囲気の露点を、安定的に鋼帯製造が可能となる-30℃以下まで短時間で低下できる鋼帯の焼鈍方法として利用できる。
【0093】
本発明は、ピックアップ欠陥の発生、炉壁損傷の問題が少なく、Si、Mn等の易酸化性元素を含有する高強度鋼帯の焼鈍方法として利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 鋼帯
2 焼鈍炉
3 加熱帯
4 均熱帯
5 冷却帯
5a 第1冷却帯
5b 第2冷却帯
6 スナウト
7 めっき浴
8 リファイナ
11 ハースロール
12 隔壁
13 連結部
14 スロート
15 雰囲気ガス供給系統
16 ガス導入管
17 ガス導出管
15a〜15c、16a〜16c、17a〜17d 弁
18a〜18c、19a、19b、20a〜20c 流量計
22a、22b 雰囲気ガス吸引口
23a〜23c 雰囲気ガス吐出口
30 熱交換器
31 クーラ
32 フィルタ
33 ブロワ
34 脱酸素装置
35、36 除湿装置
46、51 切替弁
40〜45、47〜50、52、53 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を上下方向に搬送する加熱帯、均熱帯及び冷却帯をこの順に配置してなり、炉外より雰囲気ガスを炉内に供給し、炉内ガスを加熱帯下部の鋼帯導入部から排出するとともに、炉内ガスの一部を吸引して炉外に設けた脱酸素装置と除湿装置を有するリファイナに導入してガス中の酸素と水分を除去して露点を低下し、露点を低下したガスを炉内に戻すようにしてなる縦型焼鈍炉を用いて鋼帯を焼鈍する際に、
加熱帯と均熱帯を炉上部で連通させ、炉上部の連通部以外は隔壁を設けて加熱帯と均熱帯の雰囲気を遮断し、均熱帯と冷却帯の連結部を炉上部に配置し、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯及び均熱帯上部に、リファイナに導入する炉内ガスの吸引口を設けるとともに、少なくとも均熱帯と冷却帯の連結部及び均熱帯下部に、リファイナで露点を低下したガスを炉内に吐出するガスの吐出口を設け、均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、均熱帯上部の吸引ガス量Qo2(Nm3/hr)、均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1(Nm3/hr)、均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、炉外より均熱帯に供給する雰囲気ガスの供給量Qf2(Nm3/hr)、均熱帯内容積Vs(m3)、均熱帯平均炉温Ts(℃)が、下式(1)〜(4)の関係を満たすようにすることを特徴とする鋼帯の連続焼鈍方法。
0.3×Qf1 < Qo1 …(1)
0.5×(Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1) < Qo2 < Qf2+Qi2+Qf1+Qi1−Qo1 …(2)
Qi1 > Qo1−0.8×Qf1 …(3)
Qi2 > 5×Vs×273÷(273+Ts) …(4)
【請求項2】
前記均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、前記均熱帯と冷却帯の連結部の吐出ガス量Qi1(Nm3/hr)、前記均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、前記炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、前記均熱帯内容積Vs(m3)、前記均熱帯平均炉温Ts(℃)が、前記式(1)、(3)、(4)に代えて、下式(5)、(6)、(7)の関係を満たすようにすることを特徴とする請求項1に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
0.5×Qf1 < Qo1 …(5)
Qi1 > Qo1−0.5×Qf1 …(6)
Qi2 > 6×Vs×273÷(273+Ts) ・・・(7)
【請求項3】
さらに加熱帯上部にリファイナで露点を低下したガスを炉内に吐出するガスの吐出口を設け、加熱帯上部の吐出ガス量Qi3(Nm3/hr)、加熱帯内容積Vh(m3)および加熱帯平均炉温Th(℃)が下式(8)の関係を満たすようにすることを特徴とする請求項2に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
Qi3 > 0.35×Vh×273÷(273+Th) …(8)
【請求項4】
前記均熱帯と冷却帯の連結部近傍の冷却帯の吸引ガス量Qo1(Nm3/hr)、前記均熱帯下部の吐出ガス量Qi2(Nm3/hr)、前記炉外より冷却帯以降に供給する雰囲気ガスの供給量Qf1(Nm3/hr)、前記均熱帯内容積Vs(m3)、前記均熱帯平均炉温Ts(℃)が、前記式(5)、(7)に代えて、下式(9)、(10)の関係を満たすようにすることを特徴とする請求項2または3に記載の鋼帯の連続焼鈍方法。
0.7×Qf1 < Qo1 …(9)
Qi2 > 7×Vs×273÷(273+Ts) …(10)
【請求項5】
前記冷却帯は、鋼帯を搬送するパスは1パスからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に鋼帯の連続焼鈍方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の方法で連続焼鈍を行った後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする鋼帯の溶融亜鉛めっき方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で溶融亜鉛めっきを行った後、亜鉛めっきの合金化処理を行うことを特徴とする鋼帯の溶融亜鉛めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126983(P2012−126983A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281406(P2010−281406)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】