説明

防振マウントの固定具

【課題】防振マウントの固定具に関し、簡素な構成で、防振マウントを保護可能であって、キャブの機体本体からの脱離を防止する。
【解決手段】防振マウント10が、上端にその外周から外側方向へ延設されてスイングフレーム3aに当接し且つ固定される鍔部11aを有するとともに、下端11bが閉塞されて内部に減衰液が注入される、容器状に形成されたマウント本体11と、プラットホーム7aに上部が固定されてスイングフレーム3aへ向かって延設されるとともに、マウント本体11の内部に挿入された軸部12と、軸部12の周面に弾性的に巻装されるとともにマウント本体11の上端を閉塞して減衰液を封入する弾性体13とを備え、防振マウントの固定具20として、鍔部11aを覆ってスイングフレーム3aに固定される覆設部材21と、覆設部材21及び鍔部11a間に挟装される弾性部材22とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に配設される防振マウントの固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械には、オペレータの居住空間の保護及び操作環境の向上を図るためのキャブが配設されたものがある。
このキャブは、例えば油圧ショベルにおいては、一般に、その床板(以下、プラットホームという)が上部旋回体(機体本体)の架台であるスイングフレームに防振マウントを介して取り付けられるようになっている。防振マウントは、キャブを機体本体に取り付ける機能のほか、作業時や走行時に発生する振動のキャブへの伝達を低減する機能を有している。そして、キャブは、防振マウントによってその全体を支えられているため、防振マウントには定常的にキャブの荷重(鉛直下向きの力)が作用している。
【0003】
しかしながら、作業姿勢や作業状況によっては、万一機体が転倒したり、岩石や樹木等が衝突したりして、その衝撃力により、防振マウントへスイングフレームから脱離する方向の引張り力(鉛直上向きの力)が作用することがある。そしてこの引張り力がある許容値を超えて大きくなると、プラットホームとスイングフレームとの取付部に亀裂が発生したり、亀裂が進んで防振マウントがプラットホームから剥離したりするおそれがある。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1には、キャブとスイングフレームとの間に緩衝手段を介在させて、キャブのスイングフレームから脱離する方向への変位が防振マウントの作用範囲を超えたときに、緩衝手段が作用してその作用範囲を超えた変位を弾性的に吸収する技術が開示されている。
具体的には、円盤状のストッパが固設された引張バーを防振マウントの上面に螺合固定するとともに、スプリングを介して係止プレートを取り付けてストッパの上面を覆うことで緩衝手段を構成している。これにより、防振マウントに対し上方への過大な引張り力が作用すると、ストッパ及び係止プレートがスプリングごと上方へ押されるが、スプリングの弾性力によってストッパ及び係止プレートは下方へ押し戻されて、変位が吸収されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−330808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術は、衝撃荷重等によるエネルギーを吸収することによって、キャブの変形を抑制することを目的とした技術である。つまり、防振マウントの作用範囲を超える力が作用した場合に、その力を吸収することができるものの、防振マウント自体を保護することは難しい。
また、特許文献1記載の技術は、構成が複雑であり、一般的な防振マウントを装備した作業機械に適用することが困難である。つまり、この技術を適用するには、ストッパ付きの引張バーを上面に螺合固定しうる形状の防振マウントを用いなければならず、例えば既存の作業機械に適用する場合には、防振マウントごと交換する必要が生じ、汎用性に乏しい。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成で、防振マウントを保護可能であって、キャブの機体本体からの脱離を防止することができる、防振マウントの固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明の防振マウントの固定具は、作業機械のスイングフレームに固定されて、該作業機械のキャブの下面をなすプラットホームを下方から支持するとともに該キャブを制振する防振マウントの、上記スイングフレームからの浮き上がりを防止するための固定具であって、上記防振マウントが、上端にその外周から外側方向へ延設されて上記スイングフレームに当接し且つ固定される鍔部を有するとともに、下端が閉塞されて内部に減衰液が注入される、容器状に形成されたマウント本体と、上記プラットホームに上部が固定されて上記スイングフレームへ向かって延設されるとともに、上記マウント本体の内部に挿入された軸部と、上記軸部の周面に弾性的に巻装されるとともに上記マウント本体の上端を閉塞して上記減衰液を封入する弾性体とを備え、上記鍔部を覆って上記スイングフレームに固定される覆設部材と、上記覆設部材及び上記鍔部間に挟装される弾性部材とを備えたことを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の本発明の防振マウントの固定具は、請求項1記載の防振マウントの固定具において、上記覆設部材は、平面状の板材であって、上記鍔部及び上記弾性部材の厚みと同一の高さに形成され、上記覆設部材及び上記スイングフレーム間に介装されるボス部材を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の本発明の防振マウントの固定具によれば、防振マウントの鍔部を覆設部材が弾性部材を介して押さえ込むので、防振マウントのスイングフレームに対する取り付け力を高めることができる。
そして、これによりキャブを浮き上がらせるために必要な力が大きくなるので、キャブのスイングフレームからの脱離を防止することができる。
【0010】
また、構成が簡素であり、既存の多様な防振マウントに対して容易に適用することができる。
請求項2記載の本発明の防振マウントの固定具によれば、覆設部材として屈曲加工のない平面状の板材を使用でき、構成をより簡素にすることができる。また、覆設部材の強度を確保することができ、より確実に鍔部を覆設部材で押さえ込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図4は本発明の一実施形態に係る防振マウントの固定具を説明するためのもので、図1はその防振マウントの固定具と防振マウントの固定具周辺とを示す断面図、図2はその防振マウントの固定具と防振マウントの固定具周辺とを示す、図1とは別の面で切断した断面図、図3はその防振マウントの固定具と防振マウントとを分解して示す斜視図、図4はその防振マウントの固定具を備えた油圧ショベルの斜視図である。
【0012】
図4に示すように、作業機械の代表的な例である油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に回転自在に結合された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部に設けられた作業装置4とから構成されている。上部旋回体3は、架台となるスイングフレーム(旋回フレーム)3aを有し、スイングフレーム3a上の後端部にはカウンタウエイト5が備えられ、カウンタウエイト5の前方には、エンジンや各種冷却装置等を内部に収めるエンジンルーム6が備えられ、左前部には、オペレータが搭乗するキャブ7が備えられている。
【0013】
キャブ7は、床面をなすプラットホーム(キャブフロア)7a(図1参照)と、側面及び天上面をなすキャブ本体とを備えて箱形状に構成されている。そして、キャブ7は、図1に示すように、プラットホーム7aとスイングフレーム3aとの間に装着されたキャブマウント(防振マウント)10を介してスイングフレーム3aに弾性支持されて取り付けられている。
【0014】
キャブマウント10は、スイングフレーム3aに固定されて、プラットホーム7aを下方から支持するとともにキャブ7を制振している。つまり、キャブマウント10は、キャブ7を機体本体3に取り付ける機能のほか、作業時や走行時に下部走行体2や作業装置4等で発生する振動のキャブ7への伝達を低減する(キャブ7を制振する)機能を有している。
【0015】
さらに詳述すると、キャブマウント10は、図1及び図2に示すように、ビスカスマウント等の流体封入式防振マウントであって、上端にその外周から外側方向へ延設されて該スイングフレームに当接し且つ固定される鍔部11aを有するとともに、下端が閉塞されて内部に減衰液が注入される、円筒容器状に形成されたマウント本体11と、上部がプラットホーム7aに固定されてスイングフレーム3aへ向かって(即ち、上下方向に)延設されるとともに、マウント本体11の内部に挿入された軸部12と、軸部12の周面に弾性的に巻装されるとともにマウント本体11の上端を閉塞して減衰液を封入する弾性体13とを備えている。
【0016】
なお、図3を用いて鍔部11aについて詳述すると、鍔部11aは上方から見ると四角プレート状をしており、その四隅にはそれぞれ、ボルト30を挿入するためのボルト孔14が穿設されている。そして、キャブマウント10は、ボルト30により鍔部11aでスイングフレーム3aに取り付けられるようになっている。
ここで、本発明の特徴として、キャブマウント10に対して、上から押さえ込むようにマウント固定具(防振マウントの固定具)20が配設されている。
【0017】
マウント固定具20は、図1〜図3に示すように、スイングフレーム3aに固定されて鍔部11aを覆うプレート(覆設部材)21と、プレート21及び鍔部11a間に挟装された弾性部材22と、鍔部11a及び弾性部材22の厚みdと同一の高さに形成され、プレート21及びスイングフレーム3a間に介装されたボス部材23とを備えている。
プレート21は、リング状に形成されており、周方向に等間隔で複数(ここでは8つ)のボルト30,31を挿入するためのボルト孔21a,21bが開けられている。なお、ボルト孔21aの大きさは、図1に示すように、ボルト30のボルト頭より大径に形成されている。そして、プレート21のリング内径は、マウント本体11の大きさに対応して、略等しい大きさに設定されている。また、そのリング外径は、プレート21の外周端が鍔部11aの先端(角部)よりも外側に位置するような大きさに設定されている。
【0018】
弾性部材22は、例えばラバー等の弾性体で形成されたリング状の部材であって、その内径はプレート21の内径と略同一である。そして、プレート21の下方に配置されるようになっている。
ボス部材23は、円筒状に形成されるとともに、内部にボルト31を取り付けるためのボルト溝が形成されている。そして、ボス部材23は各鍔部11aの角部の間に配置されて、プレート21がボス部材23を介してボルト31によりスイングフレーム3aに取り付けられるようになっている。
【0019】
本発明の一実施形態にかかるマウント固定具20は上述のように構成されており、次のような工程で組み立てられる。
まず、スイングフレーム3aへのキャブマウント10の装着時において、キャブマウント10がスイングフレーム3aのマウント孔に挿入される。続いて、ボルト30が鍔部11aのボルト孔14に挿通されて、キャブマウント10がスイングフレーム3aに固定される。
【0020】
次に、キャブマウント10の鍔部11aの上に弾性部材22を介してプレート21が載置され、ボルト31がプレート21のボルト孔21b及びボス部材23に挿通されて、プレート21がキャブマウント10上に固定される。つまり、この工程で、プレート21とキャブマウント10とスイングフレーム3aとが固定される。
なお、このとき、ボス部材23の高さが鍔部11a及び弾性部材22の厚みdに設定されているので、プレート21は、スイングフレーム3aに水平な状態で固定される。また、プレート21は、ボルト孔21aがボルト30のボルト頭に一致するように載置され、ボルト孔21aがボルト30のボルト頭より大径なので、ボルト孔21aとボルト30とが互いに干渉することはない。
【0021】
以上のような工程を経て組み立てられた本発明のマウント固定具20は、以下のような効果を奏する。
すなわち、本キャブマウント10の鍔部11aをプレート21が弾性部材22を介して押さえ込むので、キャブマウント10のスイングフレーム3aに対する取り付け力を高めることができる。
【0022】
そして、これによりキャブ7を浮き上がらせるために必要な力が大きくなるので、キャブ7のスイングフレーム3a(機体本体3)からの脱離を防止することができる。つまり、マウント固定具20は、プレート21によって、キャブマウント10の取付部位の強度を高めるように作用する。この結果、例えば、キャブマウント10に過大な引張り力が作用したような場合であっても、その引張り力がキャブマウント10の取付部位へ集中することがない。引張り力はスイングフレーム3aへと伝達,分散されることになり、キャブマウント10まわりの局所的な破断や亀裂の発生を抑制することができる。
【0023】
また、マウント固定具20はキャブマウント10に接近して配設されているので、省スペースで設置することができる。
また、マウント固定具20は、プレート21や弾性部材22により構成されるので簡素であるとともに、ボルト31により取り付けられるので、既存の多様な防振マウントに対して容易に適用することができる。
【0024】
また、プレート21とスイングフレーム3aとの間にボス部材23が介装されるので、プレート21は、屈曲加工のない平面状の板材とすることができ、構成をより簡素にすることができる。また、プレート21の強度を確保することができ、より確実に鍔部11aを押さえ込むことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0025】
例えば、上記実施形態では、プレート21は屈曲加工のない平面状の板材を使用し、ボス部材23を配置したが、図5に示すように、端部で階段状に屈曲加工されたプレート40を使用しても良い。これによれば、中央部のプレート本体40aが弾性部材22を介して鍔部11aを押さえ込むとともに、プレート40の段部40bでスイングフレーム3aに固定されるので、ボス部材23が不要となり、マウント固定具20の部品点数を上記一実施形態に比べて減らすことができるとともに、取り付け工程を簡素にすることができる。
【0026】
また、上記実施形態では、本発明のマウント固定具20を油圧ショベル1に適用した場合を説明したが、油圧ショベル1以外の作業機械に適用しても良い。
また、キャブマウント10には、ビスカスマウント等の液体封入式防振マウント以外のマウントが用いられても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る防振マウントの固定具と防振マウントの固定具周辺とを示す断面図(図3のA−A矢視断面図の組み立て完成図)である。
【図2】本発明の一実施形態に係る防振マウントの固定具と防振マウントの固定具周辺とを示す、図1とは別の面で切断した断面図(図3のB−B矢視断面図の組み立て完成図)である。
【図3】本発明の一実施形態に係る防振マウントの固定具と防振マウントとを分解して示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る防振マウントの固定具を備えた油圧ショベルを示す斜視図である。
【図5】本発明のその他の実施形態に係る防振マウントの固定具と防振マウントの固定具周辺とを示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
3a スイングフレーム(旋回フレーム)
4 作業装置
5 カウンタウエイト
6 エンジンルーム
7 キャブ
7a プラットホーム(キャブフロア)
10 キャブマウント(防振マウント)
11 マウント本体
11a 鍔部
12 軸部
13 弾性体
14 ボルト孔
20 マウント固定具(防振マウントの固定具)
21 プレート(覆設部材)
21a,21b ボルト孔
22 弾性部材
23 ボス部材
30,31 ボルト
40 プレート(覆設部材)
40a プレート本体
40b 段部
d 鍔部及び弾性部材の厚み,ボス部材の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械のスイングフレームに固定されて、該作業機械のキャブの下面をなすプラットホームを下方から支持するとともに該キャブを制振する防振マウントの、上記スイングフレームからの浮き上がりを防止するための固定具であって、
上記防振マウントが、上端にその外周から外側方向へ延設されて上記スイングフレームに当接し且つ固定される鍔部を有するとともに、下端が閉塞されて内部に減衰液が注入される、容器状に形成されたマウント本体と、上記プラットホームに上部が固定されて上記スイングフレームへ向かって延設されるとともに、上記マウント本体の内部に挿入された軸部と、上記軸部の周面に弾性的に巻装されるとともに上記マウント本体の上端を閉塞して上記減衰液を封入する弾性体とを備え、
上記鍔部を覆って上記スイングフレームに固定される覆設部材と、
上記覆設部材及び上記鍔部間に挟装される弾性部材とを備えた
ことを特徴とする、防振マウントの固定具。
【請求項2】
上記覆設部材は、平面状の板材であって、
上記鍔部及び上記弾性部材の厚みと同一の高さに形成され、上記覆設部材及び上記スイングフレーム間に介装されるボス部材を備えた
ことを特徴とする、請求項1記載の防振マウントの固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−176401(P2007−176401A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378995(P2005−378995)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】