説明

防振装置

【課題】ポリアミド樹脂成形体が、水分や塩化カルシウム等と接触しないようにすることができる防振装置を提供する。
【解決手段】エンジン等の振動体の振動を減衰するゴム弾性体3と、それを支持するポリアミド樹脂ブラケット2とが一体化された防振装置であって、ポリアミド樹脂ブラケット2において、ゴム弾性体3と非接触の部分の表面が、めっき膜1により被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンマウント等として用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に用いられるエンジンマウント等の防振装置には、通常、ゴムブッシュと、それを支持する金属ブラケットとからなるものが用いられてきている。しかしながら、近年、軽量化および製造コストの低減等を目的とし、上記金属ブラケットの樹脂化が進んでいる。
【0003】
そして、最近では、その樹脂ブラケットとして、耐熱性,耐久性,耐薬品性,ガラス繊維等の補強材による補強性,加工時の射出成形性等に優れており、しかも生産コストを低く抑えることができる等の観点から、ポリアミド樹脂からなるものが有効とされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−214494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記ポリアミド樹脂は、強度や耐久性等に優れるものの、吸水すると、それら強度等が低下する。しかも、吸水した状態で熱に晒されると、吸水した水分が可塑剤として作用して、弾性率の低下やガラス転移点の低下をまねき、より強度が低下する。また、凍結防止剤(塩化カルシウム等)がかかっても、クラック等が生じ強度が低下する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ポリアミド樹脂成形体(樹脂ブラケット等)が、水分や塩化カルシウム等と接触しないようにすることができる防振装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の防振装置は、加硫ゴム成形体と、それを支持するポリアミド樹脂成形体とが一体化された防振装置であって、上記ポリアミド樹脂成形体において、加硫ゴム成形体と非接触の部分の表面が、めっき膜により被覆されているという構成をとる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防振装置は、加硫ゴム成形体と接していないポリアミド樹脂成形体の部分の表面が、めっき膜により被覆されている。このため、ポリアミド樹脂成形体は、水分や塩化カルシウム等から保護され、その水分等による強度や耐久性等の低下が抑制される。そして、その充分な強度や耐久性等により、ポリアミド樹脂成形体の剛性を長期にわたって維持することができるようになるため、共振周波数も長期にわたって不変となり、防振効果を長期にわたって維持することができる。
【0008】
特に、上記めっき膜が、無電解めっき膜と、この無電解めっき膜を介して形成されるニッケル電気めっき膜とからなり、そのニッケル電気めっき膜のビッカース硬さが210以下、平均結晶粒径が2.5μm以上、X線回折により求められる(111)面のピーク強度〔A〕と(200)面のピーク強度〔B〕の比〔A/B〕が3以上であり、伸び率が8%以上になる場合には、このニッケル電気めっき膜は、ポリアミド樹脂成形体の変形に対する追従性に優れ、大きな変形に対しても割れが発生しない。このため、ポリアミド樹脂成形体が水分等に接触するおそれがない。
【0009】
また、上記ポリアミド樹脂成形体が、補強材(ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維,ボロン繊維,アルミナ繊維,金属繊維,炭化珪素繊維,ウイスカー,カオリナイト,タルク,マイカおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも一つ)を含有している場合には、ポリアミド樹脂成形体の強度がより向上する。これにより、ポリアミド樹脂成形体が変形し難くなり、めっき膜の割れが防止される。このため、ポリアミド樹脂成形体が水分等に接触するおそれがない。
【0010】
そして、上記ポリアミド樹脂成形体が、酸,アルカリ,水または有機溶剤に溶解する溶解性成分を含有しており、上記ポリアミド樹脂成形体において、加硫ゴム成形体と非接触の部分の表面が、上記溶解性成分の溶解跡の穴部の存在により粗面に形成され、その粗面が上記めっき膜により被覆されている場合には、上記めっき膜が、上記穴部によるアンカー効果により、樹脂ブラケットの表面により強力に密着する。これにより、めっき膜の剥がれが防止される。このため、ポリアミド樹脂成形体が水分等に接触するおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0012】
図1および図2は、本発明の防振装置の一実施の形態を示している。この実施の形態の防振装置は、エンジンマウントであり、円筒状金具4と、この円筒状金具4の外周面に密着接合した略円筒状のゴム弾性体(加硫ゴム成形体)3と、このゴム弾性体3の外周面に密着接合してゴム弾性体3を支持する樹脂ブラケット(ポリアミド樹脂成形体)2と、この樹脂ブラケット2の底部(図2では、下部)の4隅部に埋設されているナット5とを備えている。そして、上記樹脂ブラケット2のうち、ゴム弾性体3およびナット5と接していない部分の表面(露呈面)は、図3に示すように、めっき膜1が被覆されている。このめっき膜1は、樹脂ブラケット2の表面に形成される無電解めっき膜1aと、この無電解めっき膜1aの表面に形成される電気めっき膜1bとからなっている。
【0013】
なお、この実施の形態では、図1および図2に示すように、上記樹脂ブラケット2の左右両側の斜面部には、薄肉化のために、凹部2aが形成されている。また、上記ゴム弾性体3は、円筒状金具4に密着接合する内側筒部3aと、樹脂ブラケット2に密着接合する外側筒部3bと、これらを2ヶ所で連結する連結部3cとからなっており、それらで囲まれている部分は、中空部3dとなっている。
【0014】
上記エンジンマウントは、車体とエンジン(振動体)との間に介装される。すなわち、上記樹脂ブラケット2の一部(図2では、底部)が車体に固定(上記ナット5にボルトを螺合させることにより固定)され、上記円筒状金具4がエンジンに固定される(エンジンに形成されたブラケットの貫通孔と上記円筒状金具4の中空部にボルトを貫通させ、そのボルトにナットを螺合させて共締めする)ことにより介装される。そして、エンジンの振動が、上記円筒状金具4に密着接合したゴム弾性体3により減衰され、車体に伝達され難くなっている。
【0015】
そして、上記エンジンマウントのめっき膜1は、雨水や空気中の水蒸気等の水分,バッテリー液,路面凍結防止剤(塩化カルシウム)等から、樹脂ブラケット2を保護している。これにより、樹脂ブラケット2は、強度や耐久性の低下が抑制され、剛性が長期にわたって維持されるようになる。このため、共振周波数も長期にわたって不変となり、エンジンマウントの防振効果を長期にわたって維持することができる。また、樹脂ブラケット2に耐候剤または黒着色剤等を添加し、樹脂ブラケット2の耐候性を向上させることがあるが、この場合、樹脂ブラケット2の強度が低下する。しかし、本発明では、上記めっき膜1により耐候性が向上しているため、上記耐候剤等の添加を不要とすることができる。ただし、上記耐候剤等を添加してもよい。
【0016】
このようなエンジンマウントは、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、上記円筒状金具4の外周面(ゴム弾性体3と密着する部分に対応する部分)に接着剤を塗布した後、その円筒状金具4をゴム弾性体3用の成形金型内の所定位置にセットする。そして、その成形金型内に未加硫ゴムを注入した後、加硫する。これにより、円筒状金具4と一体化したゴム弾性体3を得る。つぎに、そのゴム弾性体3の外周面(樹脂ブラケット2と密着する部分に対応する部分)に接着剤を塗布した後、ゴム弾性体3およびナット5を樹脂ブラケット2用の成形金型内の所定位置にそれぞれセットする。そして、その成形金型内にポリアミド樹脂を注入し、射出成形する。これにより、上記ゴム弾性体3と一体化した樹脂ブラケット2を得る。つぎに、樹脂ブラケット2のうち、ゴム弾性体3およびナット5と接していない部分の表面に、上記無電解めっき膜1aを形成した後、その無電解めっき膜1aの表面に電気めっき膜1bを形成する。このようにして、上記エンジンマウントが製造される。
【0017】
なお、上記製造において、めっき膜1,樹脂ブラケット2およびゴム弾性体3の作製順序は、他でもよい。例えば、樹脂ブラケット2を成形した後、無電解めっき膜1aを形成する。そして、樹脂ブラケット2の内周面(ゴム弾性体3と密着する部分に対応する部分)に接着剤を塗布する。ついで、ゴム弾性体3用の成形金型内の所定位置に上記樹脂ブラケット2および円筒状金具4をセットした後、ゴム弾性体3を加硫成形する。その後、無電解めっき膜1aのうちゴム弾性体3と接していない部分の表面に、電気めっき膜1bを形成する。このようにして、上記エンジンマウントを製造してもよい。この場合、樹脂ブラケット2とゴム弾性体3との間には、無電解めっき膜1aおよび接着剤が介装されている。さらに他の作製順序としては、樹脂ブラケット2を成形した後、無電解めっき膜1aおよび電気めっき膜1bを形成する。そして、樹脂ブラケット2の内周面(ゴム弾性体3と密着する部分に対応する部分)に接着剤を塗布する。ついで、ゴム弾性体3用の成形金型内の所定位置に上記樹脂ブラケット2および円筒状金具4をセットした後、ゴム弾性体3を加硫成形する。このようにして、上記エンジンマウントを製造してもよい。この場合、樹脂ブラケット2とゴム弾性体3との間には、無電解めっき膜1a,電気めっき膜1bおよび接着剤が介装されている。
【0018】
つぎに、上記エンジンマウントの形成材料等について説明する。
【0019】
上記ゴム弾性体3の形成材料としては、例えば、天然ゴム(NR),ブタジエンゴム(BR),スチレンブタジエンゴム(SBR),イソプレンゴム(IR),アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR),カルボキシル変性NBR,水添アクリロニトリルブタジエンゴム(H−NBR),クロロプレンゴム(CR),エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM),マレイン酸変性EPM,ブチルゴム(IIR),ハロゲン化IIR,クロロスルホン化ポリエチレン(CSM),フッ素ゴム(FKM),アクリルゴム,エピクロロヒドリンゴム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、必要に応じて、カーボンブラック等の補強剤,加硫剤,加硫促進剤,滑剤,助剤,可塑剤,老化防止剤等を適宜に添加してもよい。
【0020】
上記樹脂ブラケット2の形成材料としては、ポリアミド樹脂が用いられる。このポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン46,ナイロン610,ナイロン612,ナイロン11,ナイロン12,芳香族ナイロン,非晶質ナイロン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、必要に応じて、老化防止剤等を適宜に添加してもよい。
【0021】
また、上記ポリアミド樹脂には、補強材を含有させてもよく、その補強材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維,ボロン繊維,アルミナ繊維,金属繊維,炭化珪素繊維等の繊維や、ウイスカー,カオリナイト,タルク,マイカ,カーボンナノチューブ等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられ、その配合量は、10〜70重量%程度とされる。
【0022】
また、上記ポリアミド樹脂には、酸,アルカリ,水または有機溶剤等に溶解する溶解性成分を含有させてもよい。酸に溶解する溶解性成分としては、ワラストナイト,アルミニウム,カルシウム,炭酸カルシウム,マグネシウム,酸化マグネシウム,亜鉛,酸化亜鉛等があげられ、その溶解に用いられる酸としては、塩酸,硫酸,硝酸等があげられる。また、アルカリに溶解する溶解性成分としては、アルミニウム,マグネシウム,酸化マグネシウム,亜鉛,酸化亜鉛等があげられ、その溶解に用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム,炭酸ナトリウム,珪酸ナトリウム等があげられる。また、水に溶解する溶解性成分としては、酸化カルシウム,塩化マグネシウム,塩化ナトリウム等があげられる。さらに、有機溶剤に溶解する溶解性成分としては、ポリスチレン(PS),アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS),アクリロニトリルスチレン共重合体(AS),スチレンブタジエンゴム(SBR),スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS),スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS),スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS),エチレンプロピレン共重合体(EPM),エチレンプロピレンジエン3元共重合体(EPDM),エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA),エチレンメチルアクリレート共重合体(EMA),エチレングリシジルメタクリレート共重合体(EGMA),エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA),クロロプレンゴム(CR),クロロスルホン化ポリエチレン(CSM),アクリルゴム,エピクロロヒドリンゴム等があげられ、その有機溶剤としては、トルエン,ベンゼン,キシレン等があげられる。そして、上記溶解性成分の配合量は、特に限定されないが、通常、1〜20重量%程度とされる。
【0023】
上記酸に溶解する溶解性成分をポリアミド樹脂に含有させた場合は、上記エンジンマウントの製造方法において、無電解めっき膜1aの形成に先立って、樹脂ブラケット2を酸に浸漬する等し、その表面を酸に晒すことが好ましい。このようにすると、樹脂ブラケット2の表面に形成されているスキン層が酸で溶解し、この溶解により表面に露呈した溶解性成分も酸で溶解する。そして、その溶解性成分の溶解跡が穴部に形成され、樹脂ブラケット2の表面が粗面に形成される。その後、上記と同様にして、無電解めっき膜1aおよび電気めっき膜1bを形成する。このようにすると、めっき膜1(無電解めっき膜1aおよび電気めっき膜1b)は、上記穴部によるアンカー効果により、樹脂ブラケット2の表面により強力に密着する。
【0024】
上記アルカリ,水または有機溶剤等に溶解する溶解性成分をポリアミド樹脂に含有させた場合は、上記エンジンマウントの製造方法において、無電解めっき膜1aの形成に先立って、樹脂ブラケット2の表面をブラスト処理等することにより、樹脂ブラケット2の表面に形成されているスキン層(スキン層はアルカリ,水または有機溶剤等に溶解しない)を除去し、溶解性成分を表面に露呈させた後、樹脂ブラケット2をアルカリ,水または有機溶剤等に浸漬する等し、その表面をアルカリ,水または有機溶剤等に晒すことが好ましい。これにより、表面に露呈した溶解性成分がアルカリ,水または有機溶剤等で溶解する。そして、上記と同様、その溶解性成分の溶解跡が穴部に形成され、その後に形成されるめっき膜1は、上記穴部によるアンカー効果により、樹脂ブラケット2の表面により強力に密着する。
【0025】
上記めっき膜1(無電解めっき膜1aおよび電気めっき膜1b)の金属材料としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル,銅,銀,金,クロム,アルミニウム,亜鉛,錫,コバルト,タングステン,白金,パラジウムおよびこれらの2種以上の元素を含む合金材料等があげられる。これらのなかでも、耐振動性,耐腐食性の観点から、ニッケル,ニッケル合金が好ましい。そして、無電解めっき膜1aの厚みは、通常、0.1〜0.5μm程度に設定され、電気めっき膜1bの厚みは、通常、0.3〜1000μm程度に設定される。
【0026】
特に、上記電気めっき膜1bは、樹脂ブラケット2を水分等から確実に保護する観点から、エンジンマウントの変形に対する追従性に優れ、割れが発生しないことが好ましい。このような電気めっき膜1bとしては、伸び率が8%以上に設定された特定のニッケル電気めっき膜1bがあげられる。
【0027】
この伸び率8%以上は、通常のニッケル電気めっき膜1bの伸び率(7%以下)よりも大きい値となっており、その伸び率が8%以上のニッケル電気めっき膜1bは、つぎに説明する特定の製法により形成することができる。すなわち、めっき浴として硫酸ニッケル(六水和物)と塩化ニッケル(六水和物)の混合液を主成分とするめっき浴が用いられ、その混合比〔硫酸ニッケル(六水和物)/塩化ニッケル(六水和物)〕は、g/L基準で250/50〜190/110程度に設定される。このめっき浴には、必要に応じて、ホウ酸,ピット防止剤等の添加剤を適宜に添加してもよい。ここで、上記主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合も含める趣旨である。そして、特に限定されないが、上記ニッケル電気めっき膜1bの形成性が良好になる観点から、上記めっき浴の温度は、30〜70℃の範囲内に設定され、電流密度は、1〜10A/dm2 の範囲内に設定され、処理時間は、1〜300分間の範囲内に設定されることが好ましい。
【0028】
このようにして上記ニッケル電気めっき膜1bを形成することにより、ニッケルの結晶(面心立法格子)のすべり面〔(111)面(斜め方向の面)〕が成長し〔(111)配向が増加し〕、伸び率を8%以上にすることができる。すなわち、ニッケル電気めっき膜1bの伸びは、図4(a)に示す結晶の(111)面(斜線部分)11がすべり面となって、図4(b)に示すように、結晶が斜め方向に相対的にずれることにより生じる。そして、伸び率が8%以上になっているとき、ニッケル電気めっき膜1bの特性は、ビッカース硬さが210以下、平均結晶粒径が2.5μm以上、X線回折により求められる(111)面11のピーク強度〔A〕と(200)面12〔図4(c)の斜線部分参照〕のピーク強度〔B〕の比〔A/B〕が3以上となっている。
【0029】
ここで、上記比〔A/B〕について説明する。金属の結晶は、必ずしも一定の方向に成長するわけではなく、成長の過程で様々な方向に配向する。そのうち、析出過程における内部歪みが小さく、最も理想的な結晶成長するときは(111)配向を示す。また、析出過程で内部歪みを受け、成長を抑制された場合には別の配向で成長し、なかでも、最も内部歪みが高く、成長を抑制された配向が(200)配向である。すなわち、上記比〔A/B〕は、「理想的な結晶配向の量」と「成長を抑制された結晶配向の量」の比をとったものであり、その比の値が大きいということは、「理想的な結晶配向の量が多く、内部歪みが小さい」ことを意味し、材料として高い伸びを得られる可能性があると考えられる。そこで、本発明者らが、実際、上記比〔A/B〕とニッケル電気めっき膜1bの伸びとの関係について研究すると、その両者の間に相関性がある(伸び率が大きいほど、上記比〔A/B〕が大きくなっている)ことを確認することができた。
【0030】
また、上記ビッカース硬さとニッケル電気めっき膜1bの伸びとの関係についても、相関性があり(伸び率が大きいほど、ビッカース硬さが小さくなっている)、伸び率が8%以上になるニッケル電気めっき膜1bのビッカース硬さは210以下であることを確認することができた。さらに、平均結晶粒径とニッケル電気めっき膜1bの伸びとの関係についても、相関性があり(伸び率が大きいほど、平均結晶粒径が大きくなっている)、伸び率が8%以上になるニッケル電気めっき膜1bの平均結晶粒径は2.5μm以上であることを確認することができた。
【0031】
なお、上記めっき膜1は、樹脂ブラケット2のうち外部に露呈した全面を被覆することが好ましいが、樹脂ブラケット2の一部が劣化しても防振装置として影響しない場合等には、被覆されない部分があってもよい。
【0032】
また、上記実施の形態では、防振装置としてエンジンマウントについて説明したが、それ以外の用途で用いられてもよく、例えば、ミッションマウント,ボディマウント,キャブマウント,メンバーマウント,デフマウント,コンロッド,トルクロッド,ストラットバークッション,センタベアリングサポート,トーショナルダンパー,ステアリングラバーカップリング,テンションロッドブッシュ,ブッシュ,バウンドストッパー,FFエンジンロールストッパー,マフラーハンガー等に用いてもよい。また、自動車以外のものにおける防振装置として用いられてもよく、例えば、航空宇宙業界,電気・電子機器業界,建築業界,産業機器業界,造船業界,ロボット業界等において用いられる防振装置でもよい。そして、それに伴って、防振装置の形状も、適宜変えてもよい。また、必ずしも、水分や塩化カルシウム等に晒される場所で使用する必要はない。
【0033】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるわけではない。
【実施例1】
【0034】
〔樹脂ブラケットの形成材料〕
ポリアミド樹脂として、PA66(ビーエーエスエフジャパン社製、A3W)を準備した。
【0035】
〔ゴム弾性体の形成材料〕
天然ゴム100重量部に対して、HAFカーボンブラック(東海カーボン社製、シースト3)35重量部,酸化亜鉛(堺化学工業社製、酸化亜鉛1種)5重量部,ステアリン酸(花王社製、ルーナックS−30)2重量部,加硫促進剤(住友化学社製、ソクシノールCZ)0.7重量部,硫黄(鶴見化学工業社製、サルファックス200S)2重量部をニーダーおよび練りロール機を用いて混練することにより、ゴム弾性体の形成材料を調製した。
【0036】
〔樹脂ブラケットの作製〕
まず、ナットを成形金型内にセットした。その後、上記樹脂ブラケットの形成材料を注入し、射出成形した(射出成形機のシリンダー温度:290℃,金型温度:80℃)。これにより、図1に示す樹脂ブラケット(縦50mm×横120mm×高さ100mm)を得た。
【0037】
〔無電解めっき膜の形成〕
まず、上記樹脂ブラケットを、TNエッチャント(奥野製薬工業社製):200mL/Lと35%塩酸:200mL/Lとの混合液(40℃)に浸漬(8分間)することによりエッチングを行った。ついで、35%塩酸:200mL/Lに浸漬(2分間)することによりポストエッチングを行った後、水洗した(1分間)。つぎに、キャタリストC(奥野製薬工業社製):20mL/Lと35%塩酸:30mL/Lと塩化ナトリウム水溶液:200g/Lとを混合した混合液(25℃)に浸漬(3分間)することによりキャタリストを行った後、水洗した(1分間)。そして、98%硫酸(40℃):50mL/Lに浸漬(2分間)することによりアクセレータを行った後、水洗した(1分間)。さらに、水酸化ナトリウム水溶液(40℃):20g/Lに浸漬(2分間)することによりポストアクセレータを行った後、水洗した(1分間)。そして、TMP化学ニッケル(35℃、奥野製薬工業社製:A剤160mL/L、B剤120mL/L)に浸漬(6分間)することにより上記樹脂ブラケットの表面に無電解ニッケルめっき膜(厚み0.3μm)を形成した後、水洗した(1分間)。その後、オーブンにて乾燥した(80℃×60分間)。
【0038】
〔電気めっき膜の形成〕
この無電解ニッケルめっき膜が形成された樹脂ブラケットを、銅置換剤ANCアクチ(奥野製薬工業社製):20g/L(25℃)に浸漬(1分間)することにより無電解ニッケルめっき膜の活性化を行った。そして、硫酸ニッケル(六水和物):250g/Lと塩化ニッケル:45g/Lとホウ酸:40g/Lとセリーナ73X(光沢剤、奥野製薬工業社製):5mL/LとMU−2(光沢剤、奥野製薬工業社製):5mL/LとアクナH(ピット防止剤、奥野製薬工業社製):5mL/Lとからなるめっき浴(50℃)に浸漬し、電流密度5A/dm2 で60分間電気めっきを行い、上記無電解ニッケルめっき膜の表面にニッケル電気めっき膜(厚み50μm)を形成した後、水洗した(1分間)。その後、オーブンにて乾燥した(80℃×60分間)。
【0039】
〔エンジンマウントの作製〕
このニッケル電気めっき膜が形成された樹脂ブラケットの、ゴム弾性体と接する部分と、準備した鉄製の円筒状金具(外径24mm,内径12mm,長さ60mm)の外周面とに接着剤を塗布した後、成形金型内にセットした。その後、上記ゴム弾性体の形成材料を加硫成形(150℃×30分間)することにより、図1に示すエンジンマウントを得た。
【実施例2】
【0040】
上記実施例1において、樹脂ブラケットの形成材料として、PA66:50重量%とガラス繊維(日東紡績社製、CSX3J−451):50重量%とからなるものを用いた。これは、PA66を二軸押出し機のホッパーに投入して、サイドフィード口からガラス繊維を仕込み、溶融混練して調製した。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【実施例3】
【0041】
上記実施例2において、樹脂ブラケットの形成材料として、PA66:45重量%とガラス繊維:50重量%とワラストナイト(キンセイマテック社製、FPW♯800):5重量%とからなるものを用いた。これは、PA66を二軸押出し機のホッパーに投入して、サイドフィード口からガラス繊維とワラストナイトとを仕込み、溶融混練して調製した。それ以外は、上記実施例2と同様にした。なお、樹脂ブラケットに無電解めっき膜を形成する際のエッチング工程で酸に浸漬されることにより、上記ワラストナイトは溶解されており、そのエッチング後、樹脂ブラケットの表面を電子顕微鏡で見ると、多数の穴部が点在していた。また、樹脂ブラケットの厚み方向の断面を電子顕微鏡で見ると、樹脂ブラケットの表面部分に多数の細長い穴部が形成されていた。
【実施例4】
【0042】
上記実施例3において、樹脂ブラケットの形成材料として、PA66:40重量%とガラス繊維:50重量%とワラストナイト:10重量%とからなるものを用いた。それ以外は、上記実施例3と同様にした。
【実施例5】
【0043】
上記実施例3において、樹脂ブラケットの形成材料として、PA66:30重量%とガラス繊維:50重量%とワラストナイト:20重量%とからなるものを用いた。それ以外は、上記実施例3と同様にした。
【実施例6】
【0044】
上記実施例2において、無電解めっき膜の形成に先立って、樹脂ブラケットの表面をブラスト処理(投射材:多角形のアルミナ粒子♯60,投射圧:0.25MPa,処理時間:10分間)した。それ以外は、上記実施例2と同様にした。
【実施例7】
【0045】
上記実施例4において、ニッケル電気めっき膜形成用めっき浴として、硫酸ニッケル(六水和物):195g/Lと塩化ニッケル(六水和物):105g/Lとホウ酸:40g/LとアクナH:5mL/Lとからなるものを用いた。また、電気めっきは、電流密度5A/dm2 で60分間行った。これにより形成されたニッケル電気めっき膜は、伸び率23.0%、ビッカース硬さ191.6、平均結晶粒径3.36μm、(111)面のピーク強度〔A〕と(200)面のピーク強度〔B〕の比〔A/B〕が7.1〔(111)面のピーク強度〔A〕100に対して(200)面のピーク強度〔B〕が14.1〕となっていた。それ以外は、上記実施例4と同様にした。
【0046】
なお、上記伸び率は、スーパーダンベル成型機(ダンベル社製)を用い、上記ニッケル電気めっき膜をJIS7号試験片形状(測定部の幅2mm、標点間距離12mm)に成型した後、その試験片をストログラフ(東洋精機社製、M1)にかけ、引張試験(引張速度5mm/分)を行うことにより、伸びを測定し、その伸びから算出した。また、ビッカース硬さは、マイクロビッカース硬さ計(AKASHI社製、MVK−E)を用いて測定した。また、平均結晶粒径は、ニッケル電気めっき膜の厚み方向の断面を電子顕微鏡(HITACHI社製、S−4800)用いて4000倍に拡大して写真を撮り、その拡大写真から算出した。また、ピーク強度の比〔A/B〕は、X線回折装置(理学電機社製、RINT−1500)を用いたX線回折によりピーク指数として表示されるピーク強度から算出した。
【実施例8】
【0047】
上記実施例4において、エンジンマウントの作製順序を変えた。すなわち、まず、円筒状金具の外周面に接着剤を塗布した後、上記ゴム弾性体の形成材料を加硫成形することにより、円筒状金具が一体化したゴム弾性体を得た。つぎに、そのゴム弾性体の外周面に接着剤を塗布した後、成形金型内にセットし、上記樹脂ブラケットの形成材料を注入し、射出成形した。そして、ゴム弾性体をマスキングした後、上記得られた樹脂ブラケットのうち外部に露呈した表面に、無電解ニッケルめっき膜およびニッケル電気めっき膜をこの順に形成した。それ以外は、上記実施例4と同様にした。
【実施例9】
【0048】
上記実施例4において、樹脂ブラケットの形成材料のうちのポリアミド樹脂をPA6T(三井化学社製、AE4200)に変えた。それ以外は、上記実施例4と同様にした。
【実施例10】
【0049】
上記実施例1において、樹脂ブラケットの形成材料として、PA66:80重量%とワラストナイト:20重量%とからなるものを用いた。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0050】
〔比較例1〕
上記実施例1において、めっき膜を形成しないものを比較例1とした。それ以外は、上記実施例1と同様とした。
【0051】
〔比較例2〕
上記実施例2において、めっき膜を形成しないものを比較例2とした。それ以外は、上記実施例2と同様とした。
【0052】
〔剥離強度〕
上記実施例1〜10のエンジンマウントの樹脂ブラケットとめっき膜との剥離強度をつぎのようにして測定した。すなわち、上記めっき膜を形成した樹脂ブラケットから幅10mmで切り出した評価サンプルを、卓上引張試験機(ORIENTEC社製、STA−1225)にセットし、引張速度50mm/minにて上記剥離強度を測定した。この測定を各実施例で10個の評価サンプルに対して行い、その平均値を算出した。そして、その結果を下記の表1に表記した。この結果は、いずれも、通常の使用の際には、めっき膜が剥離することがない強度であることを示している。
【0053】
〔水中浸漬後の破壊強度〕
上記実施例1〜10および比較例1,2の各エンジンマウントを40℃の温水に1000時間浸漬した後、取り出し、常温(25℃)まで自然冷却した。そして、各エンジンマウントを治具に固定し、金属の丸棒を、円筒状金具内に挿入し、その丸棒を、図2において上方向に、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−IS)を用い、20mm/minの速度にて、エンジンマウントが破壊するまで引っ張り、その破壊時の荷重を測定した。そして、その結果を下記の表1,2に表記した。なお、破壊強度の測定は、常温(25℃)の環境下にて行なった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
上記結果のうち、樹脂ブラケットの材料や処理が同じである実施例1と比較例1との比較および実施例2と比較例2との比較から、樹脂ブラケットの表面がめっき膜で被覆されている実施例1,2のエンジンマウントは、めっき膜で被覆されていない比較例1,2のエンジンマウントよりも、破壊強度に優れていることがわかる。このことは、めっき膜が水を遮断し、樹脂ブラケットの吸水を防止していることを示している。また、実施例3〜10のエンジンマウントは、めっき膜が充分な剥離強度を有し、破壊強度に優れていることから、樹脂ブラケットの吸水が防止されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の防振装置の一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】上記防振装置を示す正面図である。
【図3】上記防振装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】ニッケル電気めっき膜の結晶を模式的に示し、(a)は(111)面を示す説明図、(b)はその(111)面でずれた状態を示す説明図、(c)は(200)面を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 めっき膜
2 樹脂ブラケット
3 ゴム弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴム成形体と、それを支持するポリアミド樹脂成形体とが一体化された防振装置であって、上記ポリアミド樹脂成形体において、加硫ゴム成形体と非接触の部分の表面が、めっき膜により被覆されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
上記めっき膜が、無電解めっき膜と、この無電解めっき膜を介して形成されるニッケル電気めっき膜とからなり、そのニッケル電気めっき膜のビッカース硬さが210以下、平均結晶粒径が2.5μm以上、X線回折により求められる(111)面のピーク強度〔A〕と(200)面のピーク強度〔B〕の比〔A/B〕が3以上であり、伸び率が8%以上である請求項1記載の防振装置。
【請求項3】
上記ポリアミド樹脂成形体が、下記の(a)を補強材として含有している請求項1または2記載の防振装置。
(a)ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維,ボロン繊維,アルミナ繊維,金属繊維,炭化珪素繊維,ウイスカー,カオリナイト,タルク,マイカおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも一つ。
【請求項4】
上記ポリアミド樹脂成形体が、酸,アルカリ,水または有機溶剤に溶解する溶解性成分を含有しており、上記ポリアミド樹脂成形体において、加硫ゴム成形体と非接触の部分の表面が、上記溶解性成分の溶解跡の穴部の存在により粗面に形成され、その粗面が上記めっき膜により被覆されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の防振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−157410(P2008−157410A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349867(P2006−349867)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】