説明

電動台車

【課題】積載荷重による走行性能の変動が少なく、転回・斜行・横行の機能を備え舵取りも容易で未熟練者であっても容易に操作することができるパワーアシスト付きの電動台車を提供する。
【解決手段】台車底部の四隅に前輪2と後輪3とを配設し、操作部6を備えた運転制御部5を設け、該運転制御部5により旋回方向及び駆動力を制御される電動駆動輪4を配設した電動台車であって、運転制御部5は電動駆動輪4をパワーアシストするパワーアシスト制御部55と、操作部6に加えられる前後進の操作力を検出するセンサ7と、操作部6による電動駆動輪4の旋回角度を検出する角度センサ8とを備え、前輪2にはこの角度センサ8から出力された信号により前輪2を操舵する操舵機構部10を設け、電動駆動輪4に対し前輪2の同位相及び逆位相への操舵と、前輪2の中立固定の機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を容易に運搬することができる電動台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、重量物の運搬には電動台車が用いられており、例えば特許文献1には、操作部に加えられる前後方向の操作力を検出し、前進・後退・停止を行うとともに、操作部に加えられる左右方向の操作力を検出し、右左旋回や横行を行なえるようにした電動台車が記載されている。またこの特許文献1の電動台車は、操作部に加えられる操作力を検出して駆動輪を回転させるパワーアシスト機能も備えている。
【0003】
しかし上記のような従来の電動台車は、台車にかかる荷重を2個の操舵輪と2個の駆動輪ユニットにより受ける構造であるため、台車の積載重量により駆動輪にかかる荷重が変動する。このため積載重量により走行性能が大幅に変動する。しかも左右旋回は操作部を左右にスライドさせて行う構造である。このために電動台車を自由に操作できるようになるまでにかなりの経験が必要であり、誰でも容易に操作できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−74875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、積載荷重による走行性能の変動が少なく、転回・斜行・横行の機能を備え舵取りも容易で未熟練者であっても容易に操作することができるパワーアシスト付きの電動台車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、台車底部の四隅に前輪と後輪とを配設するとともに、操作部を備えた運転制御部を設け、該運転制御部により旋回方向及び駆動力を制御される電動駆動輪を配設した電動台車であって、運転制御部は電動駆動輪をパワーアシストするパワーアシスト制御部と、操作部に加えられる前後進の操作力を検出するセンサと、操作部による電動駆動輪の旋回角度を検出する角度センサとを備え、前輪にはこの角度センサから出力された信号により前輪を操舵する操舵機構部を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
なお請求項2のように、電動駆動輪が接地圧調整機構を備えたものであることが好ましい。また、請求項3のように、運転制御部に前輪を中立固定または電動駆動輪と同位相または逆位相に切換える走行モード切換スイッチを設けたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電動台車は、台車底部の四隅に配設された前輪と後輪とによって積載荷重を支持するものであり、電動駆動輪の接地圧は積載荷重にかかわらずほぼ一定とすることができるので、積載重量の増減により走行性能の変動がない。また、電動駆動輪をパワーアシストするので、力の弱い女性であっても重量物の運搬が可能である。しかも電動台車は転回・斜行・横行走行が可能であるため、旋回する余裕のない隘路に進入したり、前後に余裕のない空間に駐車したり、前後に余裕のない空間から通路に移動したり、斜路への進入や、横付けも容易で熟練を要することもなく誰でもが容易に扱うことができる。
【0009】
なお、請求項3のように、運転制御部に前輪を中立固定または電動駆動輪と同位相または逆位相に切換える走行モード切換スイッチを設けたものとしておけば、前輪を中立固定させた状態での方向転換を行う通常走行や、前輪を電動駆動輪に対して同位相や逆位相に切換えて斜行・横行走行及び転回走行を容易に行うことができるので、通路に応じて適宜走行モードを切換えて走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好ましい実施形態を示す斜視図である。
【図2】同じく側面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】前輪を示す斜視図である。
【図5】同じく側面図である。
【図6】同じく底面図である。
【図7】電動駆動輪の接地圧調整機構を示す正面図である。
【図8】電動駆動輪の取付け構造を示す側面図である。
【図9】走行動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1において1は台車であり、その底部の四隅に荷重を受けるための2個の前輪2と2個の後輪3とが配設されている。また、台車1の中心線上の後方位置にはハンドルよりなる操作部6を備えた運転制御部5が、図7に示される軸5bを中心として左右に回転できるように設けられており、その下面に電動駆動輪4が固定されている。このため操作部6により運転制御部5を回動させれば、電動駆動輪4は直接左右に旋回されるものとしているが、ジョイステック状の操作部6による操舵角度を例えば後記する角度センサ8により検出して電動駆動輪4をモータで旋回させるパワーアシスト機能を持たせてもよい。
【0012】
この実施形態では、運転制御部5は台車1の後方位置に図7に示されるブラケット5aを介して取付けられ、電動駆動輪4は運転制御部5の下面に台車1の中心線上に配置させているが、前輪2より後方に配置されていればよく、台車1の中心線上に配置させる必要はない。
【0013】
電動駆動輪4には操作部6の操作に基づいてトルクが制御される駆動用モータ4aが取付けられている。左右の前輪2は角度センサ8により検出された角度に基づいて制御されるモータ9を設けた操舵機構部10を介して台車1に取付けられている。また、左右の後輪3は独立の自在車輪よりなるもので、該後輪3の垂直取付軸の中心線と車輪中心の垂直軸線とをずらすことにより常に進行方向に後輪3が向くようになっている。
【0014】
運転制御部5は操作部6の操作に基づいて台車1の前後進を行うとともに操舵を行うものであり、運転制御部5には操作部6の前後動を検出するとともに操作部6の中立位置を検出するセンサ7と、該センサ7により検出された操作力の信号に基づいて駆動用モータ4aのトルクを制御するパワーアシスト制御部55とを備えている。センサ7は変位センサまたは歪センサ等により操作部6の前後移動量を検出するもので、操作部6の前方への移動量に基づいてパワーアシスト制御部55は電動駆動輪4の前進とトルクを制御し、操作部6の後方への移動量に基づいて電動駆動輪4の後進とトルクを制御し、操作部6の中立位置において駆動用モータ4aの停止制御が行われる。
【0015】
操作部6の操舵角度を検出する角度センサ8は運転制御部5に設けられる。また図4〜図6に示すように、前輪2にはこの角度センサ8から出力された信号により前輪を操舵する操舵機構部10が設けられている。図7に示すように、角度センサ8は運転制御部5に取付けられたポテンションメータ8aと、ポテンションメータ8aの回転軸に固定されたタイミングプーリ8cと、運転制御部5の軸5bに固定されたタイミングプーリ13aと、これらのタイミングプーリ間に掛けられたタイミングベルト8dとからなる。
【0016】
操舵のためにハンドルよりなる操作部6を左右に旋回すれば、運転制御部5は軸5bを中心として回転する。このため軸5bに固定されたタイミングプーリ13aの回りをタイミングプーリ8cが円軌道を描いて移動することとなり、両者はタイミングベルト8dにより連結されているため、運転制御部5に設けられたポテンションメータ8aは運転制御部5に対して相対的に回転する。このようにして、ポテンションメータ8aは操作部6の回転角度をパルスとして取り出すことができる。
【0017】
操舵機構部10は図4、5、6に示されるように、操舵角検出用のポテンションメータ9aと、操舵用モータ9と、該操舵用モータ9による操舵角を各前輪2に伝達する連繋機構20とよりなる。連繋機構20は左右の前輪2の垂直取付軸に軸支されるチェンホイル20aと、該各チェンホイル20a間に巻装されるチェン20bと、操舵用モータ9のチェンホイル9cと、該チェンホイル9cと前記一方のチェンホイル20aに並設されたチェンホイル20c間に巻装されるチェン20dとからなる。また、ポテンションメータ9aのタイミングプーリ9aaと操舵用モータ9bのタイミングプーリ9bbはタイミングベルト9ccにより巻き掛けられて、操舵用モータ9を制御している。
【0018】
前記環状のチェン20bの中間部には一対の長さ調整部材11が取り付けられてテンションを調整できるようになっている。該長さ調整部材11はチェン20bの中間両端部に取り付けられる雌ねじ部11a、11bと、該雌ねじ部11a、11bに螺挿される雄ねじを両端に形成した角杆11cとよりなり、角杆11cを正逆いずれかに回動させることによりテンションを調整できるようになっている。また、前輪2は垂直取付軸線と車輪中心の垂直軸線とを一致させて、操舵用モータ9による操舵角が前輪2の操舵角と一致するようになっている。このような機構により、ポテンションメータ8aから出力される電動駆動輪4の操舵角に応じて前輪2を操舵することができる。
【0019】
また、運転制御部5の上面に設けられた図3に示した走行モード切換スイッチ19を切換えることにより、電動駆動輪4に対して前輪2を同位相あるいは逆位相または中立固定することができるようになっている。同位相に操舵すれば斜行・横行走行を行うことができ、逆位相とすれば転回走行が可能となり、前輪2を中立固定すれば、前輪2を固定した状態で方向転換を行う通常走行が可能となる。
【0020】
図7に示すように、電動駆動輪4には接地圧調整機構12が設けられている。接地圧調整機構12は、運転制御部5の下端に旋回軸5bを介して水平回動自在に取付けられる鉤形の取付フレーム13と、該取付フレーム13の側板に取付けられる軸受14と、該軸受14に揺動自在に枢着される電動駆動輪取付板15と、電動駆動輪取付板15に取付けられて揺動自在とされる電動駆動輪4を常時一定圧で下方に付勢するスプリング16とよりなり、台車1の積載重量により接地圧が変動しないようにするとともに、地面の凹凸に追従して駆動力が確実に伝達されて円滑な走行が得られる。さらに、ハンドルよりなる操作部6の操作感も積載荷重により重くなることがない。
【0021】
なお、図1に示す17は各モータ等に電源を供給するバッテリ、図3に示す18は運転制御部5に設けられる非常停止用スイッチである。
【0022】
このような電動台車の通常走行は、作業者が操作部6を前方に移動させれば、センサ7は操作部6の前方移動を検知し、その検知信号はパワーアシスト制御部55を介して電動駆動輪4の駆動用モータ4aを正回転させ、電動駆動輪4を正転させるので台車1は前進することとなる。台車1の前進時、トルクを増したい場合は、操作部6をさらに前方に移動させればセンサ7はその移動を検知し、その検知信号に基づいてパワーアシスト制御部55は駆動用モータ4aのトルクを上昇させる。このようなパワーアシスト機能により、重量物を楽に運搬することができる。
【0023】
また、台車1を後進させる場合は、作業者は操作部6を後方に移動させれば、センサ7は操作部6の移動を検知し、その検知信号はパワーアシスト制御部55を介して電動駆動輪4の駆動用モータ4aを逆回転させて電動駆動輪4を逆転させるので台車1は後進することとなる。後進時にトルクを増したい場合は、操作部6をさらに後方に移動させれば、センサ7はその移動を検知し、その検知信号に基づいてパワーアシスト制御部55は駆動用モータ4aの逆転トルクを上昇させる。
【0024】
台車1を左右に方向転換させたい場合は、ハンドルとしての操作部6を左右に水平回動させる操舵を行えば、運転制御部5は左右に回動されることとなり、この回動操舵角は直接電動駆動輪4に伝達される。通常走行の場合、前輪2は中立位置に固定されているので、台車1は電動駆動輪4の操舵角に基づいて中立固定された前輪2をドリフトさせながら方向転換を行うこととなる。このとき荷重を受ける自在車輪の後輪3は台車1の走行方向に従って自由に向きを変えることとなる。
【0025】
また、台車1に斜行、横行等の走行をさせたい場合は、運転制御部5に上面に設けられている走行モード切換スイッチ19を斜行・横行走行モードに切換え、前輪2と電動駆動輪4とが同位相に操舵されるようにする。この走行モードの切換えにより、前輪2を電動駆動輪4と同位相に操舵制御することとなる。このように前輪2と電動駆動輪4とが同位相に操舵されることにより、操作部6の操舵角度に基づいて台車1は斜行走行または横行走行を行うので、旋回する余裕のない隘路に進入したり、前後に余裕のない空間に駐車したり、前後に余裕のない空間から通路に移動したり、斜路への進入や、横付けも等も簡単にできることとなる。また、斜行・横行走行の際、このとき荷重を受ける自在車輪の後輪3は台車1の走行方向に自由に向きを変えるので円滑に走行できる。
【0026】
台車1を左右に転回させる場合は、操作部6を左右に水平回動させる操舵を行えば、運転制御部5は左右に回動されることとなり、この回動操舵角は直接電動駆動輪4に伝達される。また操作部6の操舵角は操舵機構部10のポテンションメータ9aに入力され、前輪2は電動駆動輪4とは逆位相に操舵制御されるので、台車1は3輪全輪が操舵されコーナーを円滑に転回することができる。このとき荷重を受ける自在車輪の後輪3は台車1の走行方向に従って自由に向きを変えるので走行に支障は生じない。
【0027】
図9に以上に述べた通常走行、転回走行、斜行・横行走行におけるタイムチャートを示した。
【符号の説明】
【0028】
1 台車
2 前輪
3 後輪
4 電動駆動輪
4a 駆動用モータ
5 運転制御部
5a ブラケット
5b 旋回軸
5d 軸受
6 操作部
7 センサ
8 角度センサ
8a ポテンションメータ
9 操舵用モータ
9a ポテンションメータ
9c チェンホイル
9aa タイミングプーリ
9bb タイミングプーリ
9cc タイミングベルト
10 操舵機構部
11 長さ調整部材
11a 雌ねじ部
11b 雌ねじ部
11c 角杆
12 接地圧調整機構
13 支持フレーム
14 軸受
15 電動駆動輪取付板
16 スプリング
17 バッテリ
18 非常停止スイッチ
19 走行モード切換スイッチ
20 連繋機構
20a チェンホイル
20b チェン
20c チェンホイル
20d チェン
55 パワーアシスト制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車底部の四隅に前輪と後輪とを配設するとともに、台車に操作部を備えた運転制御部を設け、該運転制御部により旋回方向及び駆動力を制御される電動駆動輪を配設した電動台車であって、運転制御部は電動駆動輪をパワーアシストするパワーアシスト制御部と、操作部に加えられる前後進の操作力を検出するセンサと、操作部による電動駆動輪の旋回角度を検出する角度センサとを備え、前輪にはこの角度センサから出力された信号により前輪を操舵する操舵機構部を設けたことを特徴とする電動台車。
【請求項2】
電動駆動輪が、接地圧調整機構を備えたものであることを特徴とする請求項1記載の電動台車。
【請求項3】
運転制御部に前輪を中立固定または電動駆動輪と同位相または逆位相に切換える走行モード切換スイッチを設けたことを特徴とする請求項1記載の電動台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−148330(P2011−148330A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9123(P2010−9123)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(594133456)株式会社アラキ製作所 (8)
【Fターム(参考)】