説明

電動車両

【課題】電動車両の降坂走行時において、降坂走行に引き続く平坦路走行あるいは登坂走行で十分な動力性能が発揮できるように考慮した電動発電機の回生発電制御を行なう。
【解決手段】回生制御部110は、回生制動時のモータジェネレータのトルク指令値Tqcom(一般的には負値)を設定する。制動協調制御部150は、運転者のブレーキ踏力BKに基づき車両全体で必要とされるトータル制動力(パワー)を算出するとともに、このトータル制動力の出力についての油圧ブレーキ90およびモータジェネレータ間での分担を制御する。MG−ECU50は、トルク指令値Tqcomに従った回生トルクが発生されるようにモータジェネレータを駆動制御する。回生制御部110は、同一のブレーキ操作に対して、降坂路走行時には平坦路走行時よりも回生トルクの絶対値が小さくなるように制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両に関し、より特定的には、車両駆動力の発生および回生制動時の回生発電を行なうモータジェネレータを搭載した電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境に配慮した自動車としてハイブリッド車両が注目されている。ハイブリッド車両は、従来のエンジンに加え車両駆動用電動機によって車両走行パワーを発生することが可能な自動車である。特に、車両の回生制動時に回生発電によりエネルギ回収するように、車両用電動機としては電動機および発電機の機能を併せ持つモータジェネレータ(電動発電機)が一般に採用される。
【0003】
電動車両の回生制御について、特開2002−262411号公報(特許文献1)には、電動ゴルフカー等の電動車について、降坂走行の際には傾斜角度が大きくなるほど回生制動の制動力が大きくなり、電気的制動力と機械的制動力とを合わせた全体の制動力の駆動輪にかかる割合が増大し、駆動輪がロックしてスリップするおそれを回避するための速度制御装置の構成が開示されている。具体的には、特許文献1に開示された電動車の速度制御装置は、走行路の勾配が予め設定されたしきい値より大きい場合には、メインモータの回生制動による車輪制動力を制限して、ロックによる車輪のスリップを防止して走行安定性の向上を図るものである。
【0004】
また、国際公開第97/10966号パンフレット(特許文献2)にも、降坂走行時の車輪ロックを回避して車両の走行安定性を保持するために、勾配状態に応じて電動機の回生制動力を制御するように構成された電気式車両の回生制動制御装置が開示されている。特に、特許文献2では、下り勾配の場合には回生制動力を平坦路と同様な状態に保持することにより、車輪ロックを回避して走行安定性を保持し得ることが開示されている。
【0005】
また、特開2000−32602号公報(特許文献3)、特開2002−369578号公報(特許文献4)、および特開2005−263061号(特許文献5)には、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両において、電動機の温度上昇時には回生発電を制限する制御構成が開示されている。
【特許文献1】特開2002−262411号公報
【特許文献2】国際公開第97/10966号パンフレット
【特許文献3】特開2000−32602号公報
【特許文献4】特開2002−369578号公報
【特許文献5】特開2005−263061号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動車両では、降坂走行時には、運転者のブレーキ操作に応答して電動発電機による回生発電を行なって、回生制動力を発生させることが一般に行なわれている。しかしながら、車両駆動力を発生する力行時のみならず、回生時の回生発電によっても電動発電機の温度(以下、モータ温度とも称する)は、主にコイル巻線での発熱により上昇する。モータ温度が上昇すると、電流量すなわち出力トルクの制限が必要となるため、電動発電機により発生できる車両駆動力が制限されることとなる。
【0007】
したがって、特許文献1,2に開示されるような回生制限を行なっても、比較的勾配が緩い下り坂が連続する場合には、継続的な回生発電によりモータ温度が上昇し、降坂走行
後の登坂走行や平坦路走行時に電動発電機の出力(力行)トルクが制限されて、動力性能を十分に発揮できない可能性がある。特に、山岳路のように、降坂走行および登坂走行を交互に行なうような走行パターンにおいて、この問題が懸念される。
【0008】
また、特許文献3〜5に開示された、車両駆動力を発生する電動機(モータジェネレータ)の温度上昇時に回生発電を制限する制御構成では、モータ温度の過度の上昇は防止できるものの、上記問題に対処して、降坂走行後の平坦路走行や登坂走行に十分な車両駆動力を確保可能とする回生制御としては不十分である。
【0009】
また、上記問題に仕様設計面から対処すると、電動発電機の温度上昇抑制のためには熱容量増加や冷却構造強化が必要となるため電動発電機の寸法増大化を招いてしまい、また、温度上昇時の走行性能確保のためには車両全体のローギヤ化によるトルク確保が必要となるため、高速走行時の燃費悪化を招いてしまう。
【0010】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、降坂走行に引き続く平坦路走行あるいは登坂走行で十分な動力性能が発揮できるように考慮した、電車車両の降坂走行時における電動発電機の回生発電制御を行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による電動車両は、電動発電機と、電力変換装置と、走行路の勾配を検知する勾配検知部と、少なくとも運転者によるブレーキ操作に応じて回生制動動作時における電動発電機のトルク指令値を生成するための回生制御部とを備える。電動発電機は、車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成される。電力変換装置は、電動発電機がトルク指令値に従ったトルクを出力するように、充電可能な電源および電動発電機の間で双方向の電力変換を行なうように構成される。回生制御部は、勾配検知部により検知された路面勾配に基づき、同一のブレーキ操作に対応する降坂路走行時および平坦路走行時での回生制動動作時のトルク指令値について、降坂路走行時には平坦路走行時よりもトルク指令値の絶対値が小さくなるように継続的に制限する。
【0012】
上記電動車両によれば、降坂走行時には平坦路走行時と比較して回生発電を制限して電動発電機の発熱を抑制することができる。この結果、降坂走行終了後の平坦路走行や登坂走行の際における電動発電機の出力トルクを確保して、十分な動力性能を発揮することが可能となる。特に、運転者のブレーキ操作による要求制動力が大きくなる降坂走行時における回生発電に伴う大きな温度上昇を回避できるので、電動発電機の冷却構造の簡略化による電動発電機体格の小型化、あるいは、温度上昇時の走行性能確保のための車両全体のローギヤ化を回避したハイギヤ化による高速走行時の燃費向上を図ることができ、電動発電機に関連した仕様設計を効率的にすることについても可能となる。
【0013】
好ましくは、回生制御部は、制動協調制御部と、回生トルク設定部とを含む。制動協調制御部は電動車両の状態およびブレーキ操作に応じて、車両全体での要求制動パワーを算出するとともに該要求制動パワーのうちの電動発電機が分担する回生制動パワーを設定する。回生トルク設定部は、制動強調制御部によって設定された回生制動パワーに従って回生制動動作時のトルク指令値を生成する。そして、制動協調制御部は、路面勾配に基づき、同一のブレーキ操作に対応して設定される回生制動パワーを、降坂路走行時には平坦路走行時よりも低く制限する。
【0014】
さらに好ましくは、回生制御部は、電源の充電状態に応じて電源の充電要求電力を設定する充電制御部をさらに含む。制動協調制御部は、充電要求電力以下の範囲内で回生制動パワーを設定する。そして、充電制御部は、路面勾配に基づき、同一の充電状態に対応し
て設定される充電要求電力を、降坂路走行時には平坦路走行時よりも低く制限する。
【0015】
このような構成とすることにより、降坂走行時における制動協調制御、あるいは、充電要求制御の調整によって、降坂走行時における電動発電機の温度上昇を抑制することができる。
【0016】
好ましくは、電動車両は、電動発電機の温度を取得する温度取得手段をさらに備える。そして、回生制御部は、平坦路走行時に対する降坂路走行時における回生制動動作時のトルク指令値の制限度合を電動発電機の温度に応じて設定する。
【0017】
また好ましくは、回生制御部は、平坦路走行時に対する降坂路走行時における回生制動動作時のトルク指令値の制限度合を路面勾配に応じて設定する。あるいは好ましくは、回生制御部は、平坦路走行時に対する降坂路走行時における回生制動動作時のトルク指令値の制限度合をブレーキ操作に応じて設定する。
【0018】
このような構成とすることにより、電動発電機の温度状態や、走行路の勾配あるいは運転者のブレーキ操作に対応させて電動発電機による回生発電を適切な度合により制限することができる。この結果、可能な範囲内で回生発電によるエネルギ回収を図った上で、電動発電機の温度上昇を防止することが可能となる。
【0019】
好ましくは、この発明による電動車両では、回生制御部は、降坂路走行時には、電動発電機のトルク指令値をほぼ零に設定する。
【0020】
このような構成とすることにより、降坂路走行時には電動発電機による回生発電を停止することにより、電動発電機の温度上昇を確実に防止することが可能となる。
【0021】
この発明の他の局面に従う電動車両は、電動発電機と、電力変換装置と、走行路の勾配を検知する勾配検知部と、電動発電機の温度を取得する温度取得手段と、少なくとも運転者によるブレーキ操作に応じて回生制動動作時における電動発電機のトルク指令値を生成するための回生制御部とを備える。電動発電機は、車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成される。電力変換装置は、電動発電機がトルク指令値に従ったトルクを出力するように、充電可能な電源および電動発電機の間で双方向の電力変換を行なうように構成される。そして、回生制御部は、勾配検知部により検知された路面勾配に基づき、同一のブレーキ操作に対応する降坂路走行時および平坦路走行時での回生制動動作時のトルク指令値について、電動発電機の温度および路面勾配に応じた制限度合に従って、降坂路走行時には平坦路走行時よりもトルク指令値の絶対値が小さくなるように制限する。
【0022】
上記電動車両によれば、電動発電機の温度および走行路の勾配に応じた制限度合に従って、降坂路走行時における回生発電を適切な度合で制限することができる。したがって、可能な範囲内で回生発電によるエネルギ回収を図った上で、降坂路走行時における電動発電機の温度上昇を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明による電動車両によれば、降坂走行に引き続く平坦路走行あるいは登坂走行で十分な動力性能が発揮できるように考慮して、降坂走行時における電動発電機の回生発電制御を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下では図中における同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰返さ
ないものとする。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に従う電動車両の車両駆動用電動機に関連する概略構成図である。
【0026】
図1を参照して、本発明の実施の形態に従う電動車両100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ20と、代表的にはECU(Electronic Control
Unit)により構成される制御回路50および制御装置80と、モータジェネレータMGと、駆動軸62と、駆動軸62の回転に伴って回転駆動される車輪65とを含む。駆動軸62は、一般的には図示しない減速機等の変速機構を介して、モータジェネレータMGの出力軸との間で回転力を相互に伝達可能に構成される。また、車輪65には、制動機構、代表的には油圧供給により機械的に制動力を発揮する油圧ブレーキ90が設けられる。このような制動機構は、一般的には各車輪に設けられる。
【0027】
モータジェネレータMGは、ハイブリッド自動車または電気自動車等の電動車両に搭載されて、力行時に車輪の駆動トルクを発生するとともに、回生時には、駆動輪65の回転方向と反対方向の回生トルクを発生することにより、電気的な制動力(回生制動力)の発生による回生発電を行なう。すなわち、モータジェネレータMGは、電動機および発電機への機能を併せ持つ車両駆動用の「電動発電機」として構成される。ハイブリッド自動車では、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成された、別のモータジェネレータがさらに設けられてもよい。なお、電動車両100がハイブリッド自動車である場合には、エンジン(図示せず)の出力によっても駆動軸62を回転可能なように車両駆動系が構成される。
【0028】
直流電圧発生部10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、昇降圧コンバータ12とを含む。直流電源Bとしては、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池、あるいは、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置を適用可能である。直流電源Bが出力する直流電圧Vbは、電圧センサ10によって検知される。電圧センサ10は、検出した直流電圧Vbを制御回路50へ出力する。
【0029】
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電源ライン6の間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源Bの負極端子および接地ライン5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御回路50からの信号SEによりオン/オフされる。より具体的には、システムリレーSR1,SR2は、制御回路50からのH(論理ハイ)レベルの信号SEによりオンされ、制御回路50からのL(論理ロー)レベルの信号SEによりオフされる。平滑コンデンサC1は、電源ライン6および接地ライン5の間に接続される。
【0030】
昇降圧コンバータ12は、リアクトルL1と、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2とを含む。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、電源ライン7および接地ライン5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオン・オフは、制御回路50からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
【0031】
本発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。
【0032】
リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電源ライン6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電源ライン7および接地ライン5の間に接続される。
【0033】
インバータ20は、電源ライン7および接地ライン5の間に並列に設けられる、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とから成る。各相アームは、電源ライン7および接地ライン5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相アーム22は、スイッチング素子Q11,Q12から成り、V相アーム24は、スイッチング素子Q13,Q14から成り、W相アーム26は、スイッチング素子Q15,Q16から成る。また、スイッチング素子Q11〜Q16に対して、逆並列ダイオードD11〜D16がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q11〜Q16のオン・オフは、制御回路50からのスイッチング制御信号S11〜S16によって制御される。
【0034】
各相アームの中間点は、モータジェネレータMGの各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMGは、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の各相コイル巻線の一端が中性点Nに共通接続されて構成される。さらに、各相コイル巻線の他端は、各相アーム22,24,26のスイッチング素子の中間点と接続されている。
【0035】
昇降圧コンバータ12は、昇圧動作時には、直流電源Bから供給された直流電圧Vbを昇圧した直流電圧VH(インバータ20への入力電圧に相当)をインバータ20へ供給する。より具体的には、制御回路50からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比(オン期間比率)が設定され、昇圧比は、デューティ比に応じたものとなる。
【0036】
また、昇降圧コンバータ12は、降圧動作時には、平滑コンデンサC0を介してインバータ20から供給された直流電圧を降圧して直流電源Bを充電する。より具体的には、制御回路50からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のみがオンする期間と、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間とが交互に設けられ、降圧比は上記オン期間のデューティ比に応じたものとなる。
【0037】
平滑コンデンサC0は、昇降圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ20へ供給する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧(すなわち、インバータ入力電圧)を検出し、その検出値VHを制御回路50へ出力する。
【0038】
インバータ20は、モータジェネレータMGのトルク指令値が正(Tqcom>0)の場合には、制御回路50からのスイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング素子Q11〜Q16のスイッチング動作により、平滑コンデンサC0から供給される直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するようにモータジェネレータMGを駆動する。また、インバータ20は、モータジェネレータMGのトルク指令値が零の場合(Tqcom=0)には、スイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるようにモータジェネレータMGを駆動する。これにより、モータジェネレータMGは、トルク指令値Tqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
【0039】
さらに、電動車両100の回生制動時には、モータジェネレータMGのトルク指令値Tqcomは負に設定される(Tqcom<0)。この場合には、インバータ20は、スイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング動作により、モータジェネレータMGが発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧)
を平滑コンデンサC0を介して昇降圧コンバータ12へ供給する。
【0040】
なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車または電気自動車の運転者によるフットブレーキ(ブレーキペダル)操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。すなわち、本発明における電動車両の「回生制動動作時」は、少なくとも運転者によるブレーキペダル操作時を含み、あるいは、ブレーキペダル操作時およびアクセルペダルのオフ時の両方を含むように定義される。
【0041】
電流センサ27は、モータジェネレータMGに流れるモータ電流MCRTを検出し、その検出したモータ電流を制御回路50へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ27は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
【0042】
回転角センサ(レゾルバ)28は、モータジェネレータMGの図示しない回転子の回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御回路50へ送出する。制御回路50では、回転角θに基づきモータジェネレータMGの回転数Nmt(回転角速度ω)を算出することができる。
【0043】
さらに、モータジェネレータMGには、温度センサ29がさらに設けられる。一般に、温度センサ29は、温度上昇による絶縁被覆の破壊等が懸念されるコイル巻線部位の温度を測定して、少なくとも制御装置80へ出力するように設けられる。以下では、温度センサ29により測定された温度をモータ温度Tmgと称する。
【0044】
制御装置80には、直流電源(バッテリ)Bの充電状態や入出力電力制限を示すバッテリ情報や、各種車両センサ信号(たとえば、車速や路面状況等の車両状態を示すセンサ検出値や、車両内の各種機器の動作状態を示すセンサ検出値)が入力される。代表的には、運転者によって操作されるブレーキペダル70には踏力センサ75が設けられ、踏力センサ75は、運転者によるブレーキ操作を示すブレーキ踏力BKを検知して、制御装置80へ伝達する。
【0045】
また、Gセンサ等で構成される勾配センサ95からは、電動車両100の走行路の勾配GRを示す信号が制御装置80へ入力される。あるいは、制御装置80は、ナビゲーションシステム98から地図上の各点(現在地および進行方向)の標高データを受けることにより、走行路の勾配を検知または予測することも可能である。すなわち、勾配センサ95および/またはナビゲーションシステム98は、本発明での「勾配検知部」に対応する。
【0046】
制御装置80は、車両状態および運転者によるアクセル/ブレーキ操作等に基づき、モータジェネレータMGのトルク指令値Tqcomおよび回生指示信号RGEを発生する。なお、制御装置80は、直流電源Bに関する、満充電時を100%とした充電率(SOC:State of Charge)や充電制限を示す入力可能電力Pin、放電制限を示す出力可能電力Pout等の情報に基づき、直流電源Bの過充電あるいは過放電が発生しない範囲内で、トルク指令値Tqcomおよび回生指示信号RGEを生成する。
【0047】
電動機制御用の制御回路(MG−ECU)50は、制御装置80から入力されたトルク指令値Tqcom、電圧センサ10によって検出されたバッテリ電圧Vb、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧VHおよび電流センサ27からのモータ電流MCRT、回転角センサ28からの回転角θに基づいて、モータジェネレータMGがトルク指令値Tqcomに従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ12およびインバータ2
0の動作を制御するスイッチング制御信号S1,S2,S11〜S16を生成する。すなわち、制御装置80は、制御回路(MG−ECU)50の上位ECUに相当する。なお、図1の例では、制御回路50および制御装置80を別個のECUで構成したが、両者の機能を単一のECUに一体化する構成とすることも可能である。
【0048】
このように、図1に示した構成では、昇降圧コンバータ12、インバータ20および制御回路50により、モータジェネレータMGがトルク指令値Tqcomに従ったトルク(正トルク、負トルクまたは零トルク)を出力するように、直流電源BおよびモータジェネレータMG間での双方向の電力変換を行なう「電力変換装置(PCU)」が構成される。
【0049】
昇降圧コンバータ12の昇圧動作時には、制御回路50は、モータジェネレータMGの運転状態に応じてシステム電圧VHの指令値を算出し、この指令値および電圧センサ13によるシステム電圧VHの検出値に基づいて、出力電圧VHが電圧指令値となるようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
【0050】
また、制御回路50は、電動車両100が回生制動モードに入ったことを示す制御信号RGEを制御装置80から受けると、トルク指令値Tqcomに従った回生トルクの出力によりモータジェネレータMGで発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S11〜S16を生成してインバータ20へ出力する。これにより、インバータ20は、モータジェネレータMGからの回生電力を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ12へ供給する。
【0051】
さらに、制御回路50は、制御信号RGEに応答して、インバータ20から供給された直流電圧を必要に応じて直流電源Bの充電電圧に降圧するように、スイッチング制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ12へ出力する。このようにして、モータジェネレータMGからの回生電力は、直流電源Bの充電に用いられる。
【0052】
さらに、制御回路50は、電動車両100の駆動システム起動/停止時に、システムリレーSR1,SR2をオン/オフするための信号SEを生成してシステムリレーSR1,SR2へ出力する。
【0053】
図2は、本発明の実施の形態に従う電動車両における回生制動時におけるモータジェネレータMGの回生トルク設定を説明する概略ブロック図である。
【0054】
図2を参照して、ハイブリッド車両の回生制動時に回生トルクのトルク指令値を設定する回生制御部110は、制動協調制御部150と、充電制御部200とを有する。
【0055】
充電制御部200は、バッテリ情報(SOC,Pin等)に基づき、直流電源Bによる受入電力を示す充電要求電力Pchを設定する。制動協調制御部150は、運転者のブレーキ踏力BKに基づき車両全体で必要とされるトータル制動力(パワー)を算出するとともに、このトータル制動力の出力についての油圧ブレーキ90およびモータジェネレータMGの間での分担を制御する。
【0056】
ここで、図3および図4により、電動車両100がハイブリッド車両である場合における制動協調制御の例について説明する。
【0057】
図3に示すように、電動車両(ハイブリッド車両)100では、油圧ブレーキ90によって発生される機械的制動力と、モータジェネレータMGによる回生トルクにより発生される電気的制動力(回生制動力)との組合せにより、トータル制動力が協調的に確保される。これにより、減速時の車両エネルギを回収した直流電源Bの充電電力の発生および制
動力の確保が車両運転性を損なわないように設定される。
【0058】
図4には、ハイブリッド車両における各車速領域での油圧制動および回生制動の協調制御例の例が示される。図4(a)〜(d)に共通に示されるように、基本的には、車両全体で要求されるトータル制動パワーPtは、ブレーキ踏力BKの増加に従って比例的に増加する。
【0059】
図4(a),(b)に示したエンジン駆動を伴う高速時および低・中速時には、エンジンブレーキによる制動パワーPeg、モータジェネレータMGによる回生制動パワーPmgおよび油圧ブレーキによって発生される油圧制動パワーPolの和によって、トータル制動パワーPtが確保される。具体的には、エンジンブレーキによる制動パワーPegが一定的に確保された上で、回生制動パワーPmgは、ブレーキ踏力の増加に応じて所定レベルまで増加される。そして、エンジンブレーキおよび回生制動によるトータル制動パワーの不足分については、油圧ブレーキ90によって確保される。
【0060】
また、図4(c)に示したエンジン停止の低・中速時には、図4(b)と同様に回生制動パワーPmgを設定するとともに、回生制動によるトータル制動パワーの不足分については、油圧ブレーキ90によって確保される。さらに、図4(d)に示した、モータジェネレータMGのみにより車両駆動力が発生される極低速時には、基本的には、回生制動のみによりトータル制動パワーが確保される。
【0061】
なお、図4(a)〜(d)では、ブレーキ踏力=0のとき回生制動パワーPmg=0としているが、アクセルペダルのオフに伴い、ブレーキ踏力=0であってもエンジンブレーキ的に所定量の回生制動パワーを発生させて、車両を減速あるいは加速を中止させることとしてもよい。
【0062】
再び、図2を参照して、回生制御部110は、回生制動時のモータジェネレータMGによる回生発電(回生制動)を適切に制御するように回生トルクの指令値Tqcom(一般的には負値)を設定する。特に、制動協調制御部150は、回生制動に伴う回生電力を充電制御部200によって設定された充電要求電力Pch以下の範囲内に制限して、モータジェネレータMGによる制動パワー(回生制動パワー)の分担を決定する。回生制御部110は、この回生制動パワーの出力に必要な回生トルクに従い、回生制動時におけるトルク指令値Tqcomを設定する。トルク指令値Tqcomは制御回路(MG−ECU)50へ伝達され、MG−ECU50は、図1で説明したような制御構成に従い、トルク指令値Tqcomに従った回生トルクをモータジェネレータMGが発生するように、コンバータ12およびインバータ20のスイッチング動作を制御する。
【0063】
さらに、回生制御部110は、トータル制動パワーが電動車両100全体で確保されるように、トータル制動パワーと回生制動パワーとの差分に相当する、油圧ブレーキ90に要求する油圧制動パワーを油圧制御部120へ指示する。油圧制御部120は、要求された油圧制動パワーを油圧ブレーキ90が発生するように、各油圧ブレーキ90への供給油圧を制御する。そして各油圧ブレーキ90は、油圧制御部120に設定された油圧に従った制動力を出力する。なお、各車輪に設けられた油圧ブレーキ90の制動力は減速時における車両走行性が快適に維持されるように適宜独立に制御され得る。
【0064】
図5は、この発明の実施の形態による回生制動部の構成をさらに詳細に説明するブロック図である。図5に示される各ブロックは、制御装置80によりソフトウェアあるいはハードウェア的に実現される。
【0065】
図5を参照して、回生制御部110は、制動協調制御部150と、充電制御部200と
、降坂判定部250と、回生トルク設定部260とを含む。
【0066】
降坂判定部250は、勾配センサ95によって検知された走行路の勾配GRおよび/またはナビゲーションシステム98からのマップ情報に基づいて、電動車両100が降坂中であるかどうかを判定する。降坂判定部250による判定結果を示す降坂走行フラグFdsは、電動車両100の降坂走行中には継続的にオンされ、それ以外のときにはオフされる。
【0067】
充電制御部200は、バッテリ情報(SOC,Pin)に応じて、直流電源Bの受入れ可能な充電電力に応じて充電要求電力Pchを設定する。なお、直流電源Bが十分に充電され、あるいは高温状態となって、充電が禁止される場合にはPch=0に設定される。
【0068】
制動協調制御部150は、必要制動パワー算出部160と、制動パワー分配部170とを含む。必要制動パワー算出部160は、ブレーキ踏力BKおよび車速等を示す各種センサ出力に基づき、電動車両100全体で必要とされるトータル制動パワーPtを算出する。制動パワー分配部170は、たとえば、図4に例示した車速に応じた協調制御方式に従い、充電制御部200によって設定された充電要求電力Pch以下の範囲内で回生制動パワーPmgを設定するとともに、残りの制動パワー(Pt−Pmg−Peg)に従い油圧制動パワーPolを設定する。図2に示したように、油圧制御部120により油圧制動パワーPolに従って各油圧ブレーキ90への供給油圧が制御される。
【0069】
この際に、制動パワー分配部170は、降坂走行フラグFdsのオン時には、平坦路走行時を含む降坂走行フラグFdsのオフ時と比較して回生制動パワーを制限する。すなわち、同一のトータル制動パワーPtおよび車両状況(車速等)等において、降坂走行フラグFdsのオン時に設定される回生制動パワーPmg♯は、降坂走行フラグFdsのオフ時に設定される回生制動パワーPmgよりも低い値とされる(すなわち、Pmg♯<Pmg)。
【0070】
なお、充電制御部200により、降坂走行フラグFdsのオン時には、平坦路走行時と比較して充電要求電力を制限することによっても、降坂走行時における回生制動パワーPmgを制限することが可能である。すなわち、充電制御部200が、直流電源Bの同様の状態(同一のSOCまたはPin)に対応して、降坂走行時に設定される充電要求電力Pch♯を、平坦路走行時を含むその他の場合における充電要求電力Pchと比較して低い値に設定するように(すなわち、Pch♯<Pch)構成すれば、制動パワー分配部170によりPmg♯=Pch♯に設定される。これにより、降坂走行フラグFdsのオン時に設定される回生制動パワーPmg♯を、降坂走行フラグFdsのオフ時に設定される回生制動パワーPmgよりも低い値(Pmg♯<Pmg)に制限することができる。
【0071】
回生トルク設定部260は、制動パワー分配部170により設定された回生制動パワーPmgまたはPmg♯に従い、モータジェネレータMGのトルク指令値Tqcomを設定する。これにより、回生制動パワーPmgまたはPmg♯に見合った回生制動力が得られるようにモータジェネレータMGの回生トルクが発生される。すなわち、降坂走行フラグFdsのオン時には回生制動パワーPmg♯に従って回生トルクが設定される一方で、降坂走行フラグFdsのオフ時には回生制動パワーPmgに従って回生トルクTqcomが設定される。
【0072】
なお、降坂走行時には回生トルクの発生を継続的に禁止するように、すなわち回生制動パワーPmg♯=0となるように設定すれば、降坂走行時におけるモータジェネレータMGの発熱を確実に抑制できる。
【0073】
あるいは、図6〜図8に示すように、降坂走行時の諸条件に基づき、回生制動パワーの制限度合(Pmg−Pmg♯の制限量、あるいは、(Pmg−Pmg♯)/Pmgで示される制限率)、すなわち降坂走行時における回生トルクの制限度合を可変に設定してもよい。
【0074】
図6には、モータ温度Tmgの上昇に応じて回生トルクの制限度合を高める制御例が示される。この場合には、少なくともモータ温度Tmg=限界温度Tlmtにおいて、好ましくは、限界温度Tlmtより低い温度範囲から、制限度合を最大にして、回生禁止、すなわちTqcom=0へ制限する。
【0075】
また、図7に示すようにブレーキ踏力BKの増大に従って、あるいは、図8に示すように路面勾配(降坂)が大きくなるのに従って、回生トルクの制限度合を高めることにより、回生制動パワーの要求が高く、回生トルクを制限しなければ大きな回生トルクが発生されてモータジェネレータMGの温度上昇が懸念される状況において、モータジェネレータMGの温度上昇を抑制することが可能となる。
【0076】
図9は、本発明の実施の形態に従う電動車両におけるモータジェネレータMGの回生トルク設定の手順を説明するフローチャートである。図9に示した制御処理手順は、たとえば制御装置(ECU)80に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することにより実現できる。
【0077】
図9を参照して、制御装置80は、ステップS100により、ブレーキ踏力、車両状況等より電動車両100全体で必要とされるトータル制動パワーPtを算出する。すなわちステップS100での処理は、図5における必要制動パワー算出部160の機能に相当する。
【0078】
さらに制御装置80は、ステップS120により、勾配センサ95の出力および/またはナビゲーションシステム98からのマップ情報に基づいて、電動車両100が降坂走行中であるかどうかを判定する。すなわち、ステップS120での処理は、図5に示した降坂判定部250の機能に相当する。
【0079】
制御装置80は、降坂走行中でない場合(S120のNO判定時)には、ステップS140によりバッテリ情報等に応じて通常時の充電要求電力Pchを設定し、さらに、ステップS160により車速、充電要求電力Pch等に応じて、トータル制動パワーPtのうちの、モータジェネレータMGによる分担分である回生制動パワーPmgを設定する。このとき、回生制動パワーPmgは、Pmg≦Pchの範囲内で設定される。そして制御装置80は、ステップS180により、ステップS160で設定された回生制動パワーPmgに従ってトルク指令値Tqcom(すなわち回生トルク指令)を設定する。
【0080】
一方、降坂走行中(ステップS120のYES判定時)には、制御装置80は、ステップS200により、バッテリ情報等に応じて降坂制限時の充電要求電力Pch♯を設定する。すなわち、同一のバッテリ状態に対応して、ステップS200により設定される充電要求電力Pch♯は、ステップS140により設定される充電要求電力Pchよりも低くなる(Pch♯<Pch)。
【0081】
さらに、制御装置80は、ステップS220により、車速、充電要求電力等に応じて降坂制限時における回生制動パワーPmg♯を設定する。すなわち、同一条件下で設定される回生制動パワーは、ステップS220により設定される回生制動パワーPmg♯の方が、ステップS160により設定される回生制動パワーPmgよりも低くなる(Pmg♯<Pmg)。
【0082】
ここで、図6〜図8で説明したように、充電要求電力および回生制動パワーの制限度合(制限量あるいは制限率)は、モータ温度、降坂勾配およびブレーキ踏力に応じて可変設定される。あるいは、回生トルクの発生を禁止して確実にモータ温度の上昇を回避するために、Pch♯=0と設定してもよい。
【0083】
さらに、制御装置80は、ステップS240により、ステップS220で設定された回生制動パワーPmg♯に従いトルク指令値Tqcom(回生トルク指令)を設定する。
【0084】
すなわち、ステップS140およびS200による処理は図5に示した充電制御部200の機能に相当し、ステップS160およびステップS220による処理は図5に示す制動パワー分配部170の機能に相当し、ステップS180およびS240による処理は図5に示した回生トルク設定部260の機能に相当する。なお、ステップS200による充電要求電力の制限(Pchに代えてPch♯を設定)については非実行としても、ステップS200により降坂走行時の回生制動パワーを制限(Pmgに代えてPmg♯を設定)することが可能である。
【0085】
図10には、本発明の実施の形態に従う電動車両におけるトルク指令値設定の一例を示す波形図が示される。
【0086】
図10を参照して、平坦路走行−登坂走行−平坦路走行−降坂走行−平坦路走行が順次実行される走行パターンRPTに従って、トルク指令値Tqcomが適時設定される。図10の例では、説明を簡略化するため平坦路走行時におけるモータジェネレータMGのトルク指令値=0としている。
【0087】
トルク指令値Tqcomは、登坂走行時には正方向に上昇し、車両駆動力を発生する。これに伴いモータジェネレータMGの温度Tmgが上昇する。そして、降坂走行中には、特段の制限を設けることなく、平坦路走行時と同様にブレーキ操作に応じて回生トルク設定する通常設定によれば、回生制動力発生のための回生トルクを出力するように負方向にトルク指令値Tqcomが増大する。これに伴う回生トルクの発生により、モータ温度Tmgが上昇する。降坂走行が終了すると、再びトルク指令値Tqcom=0に設定される。
【0088】
降坂走行後、さらに登坂走行のためにトルク出力(正方向)が要求される場面を想定すると、降坂走行時のモータ温度Tmg上昇により、このような場面でモータ温度Tmgがトルク制限の必要な領域に達することにより力行トルクを十分に発生することができなくなって、モータジェネレータMGによる車両駆動力の確保が困難となる可能性がある。このような状況が発生すると、ハイブリッド自動車では低効率の領域でのエンジン駆動が必要となって燃費が悪化する他、電気自動車では、車両駆動力の確保が困難となる。
【0089】
これに対して、本発明の実施の形態による回生トルクの設定によれば、降坂走行中におけるトルク指令値Tqcom♯は、運転者によるブレーキ操作に対して、通常時よりも回生トルクの絶対値が小さくなるように継続的に制限されるので、モータ温度Tmg♯の上昇も緩やかとなる。この結果、降坂走行終了時でのモータ温度上昇を防止でき、その後の走行において、モータジェネレータMGのトルク制限によりモータジェネレータMGによる車両駆動力の確保が困難となるような状況を防止することが可能となる。
【0090】
このように本発明の実施の形態による電動車両では、降坂走行時における回生トルクの出力を制限あるいは禁止(Tqcom♯=0)することにより、降坂走行時におけるモータ温度の上昇を抑制することができる。この結果、降坂走行終了後の平坦路走行や登坂走
行の際におけるモータジェネレータMGの出力トルクを確保して、十分な動力性能を発揮することが可能となる。
【0091】
また、降坂走行時における回生トルクの制限について、モータ温度、降坂勾配、あるいはブレーキ操作に応じて制限度合を可変に設定することにより、降坂路走行時における回生発電を適切な度合で制限することができる。この結果、可能な範囲内で回生発電によるエネルギ回収を図った上で、降坂路走行時におけるモータジェネレータMGの温度上昇を防止することができる。
【0092】
特に、運転者のブレーキ操作による要求制動力が大きくなる傾向にあり、回生電力が高くすなわちモータ温度上昇が顕著となる降坂走行時における回生発電を抑制あるいは中止して、回生発電については平坦路走行時の減速エネルギ回収に焦点を当てる設計とすることにより、モータジェネレータMGの温度上昇抑制のための仕様が緩和される。この結果、モータジェネレータMGの冷却構造の簡略化による体格の小型化を図ることが可能となり、さらには、温度上昇下での走行性能確保のための車両全体のローギヤ化を回避できるので、ハイギヤ化によって高速走行時の燃費向上を図ることも可能となる。このように、本発明の実施の形態による電動車両ではモータジェネレータMGに関連した仕様設計を効率的なものとすることが可能となる。
【0093】
なお、本発明の適用はハイブリッド車両および電気自動車のみに限定されるものではなく、力行トルクの発生により車両駆動力を発生し、かつ回生トルクの発生により回生発電を実行するように構成された電動発電機(モータジェネレータ)を搭載した電動車両であれば、本発明を共通に適用することが可能である点について、確認的に記載しておく。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施の形態に従う電動車両の車両駆動用電動機に関連する概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う電動車両における回生制動時におけるモータジェネレータの回生トルク設定を説明する概略ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に従う電動車両の一例であるハイブリッド車両における制動協調制御の例を示す概念図である。
【図4】ハイブリッド車両における各車速での油圧制動および回生制動の協調制御例の例を示す概念図である。
【図5】図2に示した回生制動部の構成をさらに詳細に説明するブロック図である。
【図6】モータ温度に対する回生トルクの制限度合の設定例を説明する概念図である。
【図7】ブレーキ踏力に対する回生トルクの制限度合の設定例を説明する概念図である。
【図8】降坂勾配に対する回生トルクの制限度合の設定例を説明する概念図である。
【図9】本発明の実施の形態に従う電動車両におけるモータジェネレータMGの回生トルク設定の手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に従う電動車両におけるトルク指令値設定の一例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0096】
5 接地ライン、6,7 電源ライン、10,13 電圧センサ、10♯ 直流電圧発生部、12 コンバータ、20 インバータ、22,24,26 各相アーム、27 電流センサ、28 回転角センサ、29 温度センサ、50 制御回路(MG−ECU)、62 駆動軸、65 車輪(駆動輪)、70 ブレーキペダル、75 踏力センサ、80
制御装置(上位ECU)、90 油圧ブレーキ、95 勾配センサ、98 ナビゲーションシステム、100 電動車両、110 回生制御部、120 油圧制御部、150 制動協調制御部、160 必要制動パワー算出部、170 制動パワー分配部、200 充電制御部、250 降坂判定部、260 回生トルク設定部、B 直流電源、BK ブレーキ踏力、C0,C1 平滑コンデンサ、D1,D2,D11〜D16 逆並列ダイオード、Fds 降坂走行フラグ、GR 勾配、L1 リアクトル、MCRT モータ電流、MG モータジェネレータ、N 中性点、Pch 充電要求電力、Peg 制動パワー、Pin 入力(充電)可能電力、Pmg 回生制動パワー、Pol 油圧制動パワー、Pt トータル制動パワー、Q1,Q2,Q11〜Q16 電力用半導体スイッチング素子、RGE 回生指示信号、RPT 走行パターン、S1,S2,S11〜S16 スイッチング制御信号、SR1,SR2 システムリレー、Tlmt 限界温度、Tmg モータ温度、Tqcom トルク指令値、Vb,VH 直流電圧、θ 回転角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成された電動発電機と、
前記電動発電機がトルク指令値に従ったトルクを出力するように、充電可能な電源および前記電動発電機の間で双方向の電力変換を行なうための電力変換装置と、
走行路の勾配を検知する勾配検知部と、
少なくとも運転者によるブレーキ操作に応じて、回生制動動作時における前記電動発電機のトルク指令値を生成するための回生制御部とを備え、
前記回生制御部は、前記勾配検知部により検知された路面勾配に基づき、同一の前記ブレーキ操作に対応する降坂路走行時および平坦路走行時での前記回生制動動作時のトルク指令値について、前記降坂路走行時には前記平坦路走行時よりも前記トルク指令値の絶対値が小さくなるように継続的に制限する、電動車両。
【請求項2】
前記回生制御部は、
前記電動車両の状態および前記ブレーキ操作に応じて、車両全体での要求制動パワーを算出するとともに該要求制動パワーのうちの前記電動発電機が分担する回生制動パワーを設定する制動協調制御部と、
前記制動強調制御部によって設定された前記回生制動パワーに従って前記回生制動動作時のトルク指令値を生成する回生トルク設定部とを含み、
前記制動協調制御部は、前記路面勾配に基づき、同一の前記ブレーキ操作に対応して設定される前記回生制動パワーを、前記降坂路走行時には前記平坦路走行時よりも低く制限する、請求項1記載の電動車両。
【請求項3】
前記回生制御部は、前記電源の充電状態に応じて前記電源の充電要求電力を設定する充電制御部をさらに含み、
前記制動協調制御部は、前記充電要求電力以下の範囲内で前記回生制動パワーを設定し、
前記充電制御部は、前記路面勾配に基づき、同一の前記充電状態に対応して設定される前記充電要求電力を、前記降坂路走行時には前記平坦路走行時よりも低く制限する、請求項2記載の電動車両。
【請求項4】
前記電動発電機の温度を取得する温度取得手段をさらに備え、
前記回生制御部は、前記平坦路走行時に対する前記降坂路走行時における前記回生制動動作時のトルク指令値の制限度合を前記電動発電機の温度に応じて設定する、請求項1記載の電動車両。
【請求項5】
前記回生制御部は、前記平坦路走行時に対する前記降坂路走行時における前記回生制動動作時のトルク指令値の制限度合を前記路面勾配に応じて設定する、請求項1記載の電動車両。
【請求項6】
前記回生制御部は、前記平坦路走行時に対する前記降坂路走行時における前記回生制動動作時のトルク指令値の制限度合を前記ブレーキ操作に応じて設定する、請求項1記載の電動車両。
【請求項7】
前記回生制御部は、前記降坂路走行時には、前記電動発電機の前記トルク指令値をほぼ零に設定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項8】
車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成された電動発電機と、
前記電動発電機がトルク指令値に従ったトルクを出力するように、充電可能な電源および前記電動発電機の間で双方向の電力変換を行なうための電力変換装置と、
走行路の勾配を検知する勾配検知部と、
前記電動発電機の温度を取得する温度取得手段と、
少なくとも運転者によるブレーキ操作に応じて、回生制動動作時における前記電動発電機のトルク指令値を生成するための回生制御部とを備え、
前記回生制御部は、前記勾配検知部により検知された路面勾配に基づき、同一の前記ブレーキ操作に対応する降坂路走行時および平坦路走行時での前記回生制動動作時のトルク指令値について、前記電動発電機の温度および前記路面勾配に応じた制限度合に従って、前記降坂路走行時には前記平坦路走行時よりも前記トルク指令値の絶対値が小さくなるように制限する、電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−167613(P2008−167613A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356816(P2006−356816)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】