説明

電子部品の製造方法

【課題】 デラミネーションがなく、かつセラミックグリーンシートが金型や周辺部材へ貼り付いてしまうのを抑制された電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、セラミック粉末と積層時の加熱により溶融する溶融成分とを含む接着用セラミックグリーンシート層4の上面に、平均粒径の大きい第1のセラミック粉末を主成分とする第1のセラミックグリーンシート層1と、第1のセラミック粉末よりも小さい平均粒径0.05〜1μmの第2のセラミック粉末を主成分とする第2のセラミックグリーンシート層2とを、第1のセラミックグリーンシート層1が最上層に位置するようにしてセラミックグリーンシートを作製する工程を有する電子部品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コンデンサや積層セラミック配線基板等の電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層コンデンサや積層セラミック配線基板のような電子部品は、例えば、セラミック粉末に有機バインダー、可塑剤、溶剤等を加えてスラリーとし、ドクターブレード等によりセラミックグリーンシートを成形した後、導体粉末を含有する導体ペーストを印刷するなどして前記セラミックグリーンシート上に導体層を形成し、ついで複数枚の導体層が形成されたセラミックグリーンシートを積層して加圧することにより圧着して積層体を得て、この積層体を焼成することで得られる。
【0003】
近年、電子機器の小型化に伴い、このような電子部品の小型化および高性能化が望まれている。例えば、積層コンデンサにおいては小型化および高容量化のためにより薄い誘電体層および導体層を多層化したものが求められている。また、積層セラミック配線基板においては小型化および配線導体の高密度化のためにより薄い絶縁層および導体層を多層に形成し、配線導体層の幅および間隔もより微細なものが求められている。
【0004】
ここで、電子部品に対する要求に対応して導体層が形成されたセラミックグリーンシートを多数積層すると、導体層が形成された領域が重なる部分とそうでない部分とでは、その厚み差が大きくなる。このため積層されたセラミックグリーンシートを厚み方向に加圧した場合、導体層が形成された領域が重なる部分においては加圧力が十分に加わるものの、そうでない部分においては加圧力が十分に加わりにくくなるので、不十分な圧着となってしまいやすい。その結果、そのような積層体を焼成すると、圧着が不十分な部分でデラミネーション(層間剥離)が発生し、容量値の変化や絶縁破壊が起りやすくなって電気的な特性が確保できないという問題があった。
【0005】
この問題に対して、セラミックグリーンシート積層体の積層時の加熱により溶融状態となる溶融成分を含むセラミックグリーンシート層と溶融成分を含まないセラミックグリーンシート層との2層構造のセラミックグリーンシートを用意し、これを加熱しながら積層することで、溶融成分を含むセラミックグリーンシート層を軟化させて、その上または下に位置する導体層の表面形状に追従させる方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法により、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート同士が密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
【0006】
なお、上記の溶融成分を含むセラミックグリーンシート層は、加熱しない常温においては軟化せず接着性を持たない為、加熱しない加工においてハンドリングが容易である利点を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−121016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、溶融成分を含まないセラミックグリーンシート層の上に導体ペーストを
印刷した際に、導体ペースト中の有機溶剤がこのセラミックグリーンシート層中の有機バインダー等を一部溶解しながら浸透し、溶融成分を含むセラミックグリーンシート層まで到達して、本来の溶融温度よりも低い常温程度においてこの溶融成分を含むセラミックグリーンシート層が軟化してしまうという問題があった。
【0009】
これにより、溶融成分を含むセラミックグリーンシート層の粘着性が増加する為に、所望の形状に打ち抜き加工する等の工程において、溶融成分を含むセラミックグリーンシート層が金型や周辺部材へ貼り付いてしまい、これを引き剥がす際にセラミックグリーンシートが破れるもしくは変形してしまうというおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、デラミネーションがなく、かつセラミックグリーンシートが金型や周辺部材へ貼り付いてしまうのを抑制された電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セラミック粉末と積層時の加熱により溶融する溶融成分とを含む接着用セラミックグリーンシート層の上面に、平均粒径の大きい第1のセラミック粉末を主成分とする第1のセラミックグリーンシート層と、前記第1のセラミック粉末よりも小さい平均粒径0.05〜1μmの第2のセラミック粉末を主成分とする第2のセラミックグリーンシート層とを、前記第1のセラミックグリーンシート層が最上層に位置するようにしてセラミックグリーンシートを作製する工程と、該セラミックグリーンシートの最上層となる前記第1のセラミックグリーンシート層の上に導体粉末と有機溶剤とを含む配線導体用ペーストによる配線パターンを形成する工程と、該配線パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを複数積層してセラミックグリーンシート積層体を作製する工程と、該セラミックグリーンシート積層体を焼成する工程とを有することを特徴とする電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、第1のセラミックグリーンシート層に含まれる第1のセラミック粉末同士の間隔よりも第2のセラミックグリーンシート層に含まれる第2のセラミック粉末同士の間隔のほうが狭くなるため、第2のセラミックグリーンシート層が有機溶剤の浸透を抑制する遮断層として働き、溶融成分を含む接着用セラミックグリーンシート層まで有機溶剤が到達することを抑制し、接着用セラミックグリーンシート層が金型や周辺部材へ貼り付いてしまうのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子部品の製造方法の一例を示す工程フローの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電子部品の製造方法の一例について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
本発明の電子部品の製造方法は、まず、セラミック粉末と積層時の加熱により溶融する溶融成分とを含む接着用セラミックグリーンシート層4の上面に、平均粒径の大きい第1のセラミック粉末を主成分とする第1のセラミックグリーンシート層1と、第1のセラミック粉末よりも小さい平均粒径0.05〜1.0μmの第2のセラミック粉末を主成分とする第2のセラミックグリーンシート層2とを、第1のセラミックグリーンシート層1が最上層に位置するようにしてセラミックグリーンシート6を作製する。
【0016】
具体的には、図1(a)に示すように、第1の支持フィルム3の上に、先にセラミック粉末粒径の小さい方の第2のセラミック粉末を主成分とする第2のセラミックグリーンシ
ート層2を例えば厚み10〜50μm程度に形成後、セラミック粉末粒径の大きい方の第1のセラミック粉末を主成分とする第1のセラミックグリーンシート層1を例えば厚み50〜1000μm程度に形成する。
【0017】
ここで、第1の支持フィルム3は、支持フィルム本体と支持フィルム本体の上面に形成された離型性を持たせた層とで構成されている(図示せず)。支持フィルム本体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリフッ化エチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を用いた樹脂成形物を用いることができる。また、離型層としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられるが、シリコーン系樹脂を好ましく用いることができる。
【0018】
第1の支持フィルム3の上に形成される第1のセラミックグリーンシート層1及び第2のセラミックグリーンシート層2は、セラミック粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したセラミックスラリーを第1の支持フィルム3の上に塗布し、乾燥して得られたものである。第1の支持フィルム3の上にセラミックスラリーを塗布する方法としては、ドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等が挙げられる。
【0019】
セラミックスラリーに用いられるセラミック粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
【0020】
なお、ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO−B系、SiO−B−Al系,SiO−B−Al−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−Al−MO−MO系(ただし、MおよびMは同じまたは異なっていて、それぞれCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO−B−Al−MO−MO系(ただし、MおよびMは上記と同じである),SiO−B−MO系(ただし、MはLi、NaまたはKを示す),SiO−B−Al−MO系(ただし、Mは上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl,SiO,ZrOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiOとアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,AlおよびSiOから選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
【0021】
そして、有機バインダーとしては、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダーがより好ましい。また、有機バインダーの添加量としては、有機バインダーの分解性に問題なく、セラミック粉末を分散できる量であってセラミック粉末同士の間隔が大きくなりすぎない程度に、第1のセラミックグリーンシート層1を形成するセラミックスラリーについては、例えばセラミック粉末100質量部に対して20〜50質量部添加するのがよく、第2のセラミックグリーンシート層2を形成するセラミックスラリーについては、例えばセラミック粉末100質量部に対して20〜50質量部添加するのがよい。
【0022】
溶剤としては、上記のセラミック粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、トルエン,ケトン類,アルコール類の有機溶媒や水等が挙げられる。これらの中で、トルエン,メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール等の蒸発係数の高い溶剤はセラミックスラリー塗布後の乾燥工程が短時間で実施できるので好ましい。
【0023】
なお、セラミックスラリーには、セラミック粉末の分散性やセラミックグリーンシートの硬度や強度を調整するために分散剤や可塑剤を添加してしてもよい。
【0024】
ここで、第1のセラミックグリーンシート層1に含まれる第1のセラミック粉末の平均粒径よりも第2のセラミックグリーンシート層2に含まれる第2のセラミック粉末の平均粒径は小さくなっている。例えば第1のセラミック粉末の平均粒径が1.2μm以上であるのに対して、第2のセラミック粉末の平均粒径を0.05〜1μmとする。
【0025】
第2のセラミックグリーンシート層2に含まれる第2のセラミック粉末の平均粒径が0.05μm未満となると、スラリー中での粉末分散性が低下し、スラリー化が困難となる。一方、1μmを超えると、十分な溶剤浸透防止効果が得られず、接着用セラミックグリーンシート層4まで溶剤が浸透してしまい、接着層がタック性を持ち、金型打抜き時に金型張り付きが発生してしまう。
【0026】
第1のセラミック粉末の平均粒径が第2のセラミック粉末の平均粒径より大きく、例えばその値が1.2μm以上であるのが好ましいのは、第1のセラミックグリーンシート層1に含まれる第1のセラミック粉末の平均粒径が第2のセラミック粉末の平均粒径と同程度の大きさであると、配線導体用ペーストに含まれる有機溶剤の浸透を妨げる為、印刷された配線導体用ペースト中の溶剤が弾かれて、配線パターンが浮いた状態となり、生強度が弱くなるおそれがあるからである。また、脱バイ性にも悪影響を与えることになり、第1のセラミックグリーンシート層の乾燥が遅くなるおそれがあるからである。一方、第1のセラミック粉末の平均粒径は10μm以下であるのが好ましく、10μmを超えると、十分な焼結性が得られなくなる、ボイド率が高くなって製品特性が得られなくなる等の問題が生じるおそれがあるからである。
【0027】
一方、図1(b)に示すように、第2の支持フィルム5の上に接着用セラミックグリーンシート層4を形成する。
【0028】
第2の支持フィルム5は、上述の第1の支持フィルム3と同様の構成になっている。そして、第2の支持フィルム5の上に形成される接着用セラミックグリーンシート層4は、第1のセラミックグリーンシート層1及び第2のセラミックグリーンシート層2と同様にセラミック粉末、有機バインダー、溶剤等を混合し、さらに積層時の加熱により溶融する溶融成分を含むセラミックスラリーを第2の支持フィルム5の上に塗布し、乾燥して得られたものである。第2の支持フィルム5の上にセラミックスラリーを塗布する方法としては、ドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等が挙げられる。
【0029】
ここで、積層時の加熱により溶融する溶融成分は、融点が35乃至100℃であるものが好ましい。これは、この範囲の融点のものを用いると、常温で軟化して変形することはないので積層工程までのハンドリングが容易となり、また加熱時にセラミックグリーンシート中の有機バインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがなく、分解ガスによるデラミネーションの発生を抑制することができる。融点が35乃至100℃である溶融成分としては、具体的には、ヘキサデカノール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロール,ステアリルアミド,オレイルアミド,エチレングリコールモノステアレート,パラフィ
ン,ステアリン酸,シリコーン等が挙げられる。
【0030】
接着用セラミックグリーンシート層4に含まれる溶融成分の含有量は、使用する有機バインダー成分及びその量や、使用する溶融成分により異なるが、溶融成分が溶融した状態で接着用セラミックグリーンシート層4が軟化し、後述するセラミックグリーンシート積層体8を作製するときに接着用セラミックグリーンシート層4の下に位置する第1のセラミックグリーンシート層1及びその中に埋め込まれて形成された後述する配線パターン7と隙間無く接触するような量であればよい。
【0031】
次に、図1(c)に示すように、一体化された第1のセラミックグリーンシート層1及び第2のセラミックグリーンシート層2を第1の支持フィルム3より剥離し、更に、接着用セラミックグリーンシート層4を第2の支持フィルム5より剥離し、これらを熱圧着させてセラミックグリーンシート6を作製する。このときの加熱加圧の条件は用いる有機バインダー等の種類や量により異なるが、概ね30〜100℃、2〜20MPaである。
【0032】
図1(c)では、接着用セラミックグリーンシート層4の上に、第2のセラミックグリーンシート層2を形成し、さらにその上に第1のセラミックグリーンシート層1を形成した構成を示しているが、第1のセラミックグリーンシート層1が最上層に位置するのであれば、接着用セラミックグリーンシート層4の上に、例えば、第1のセラミックグリーンシート層1、第2のセラミックグリーンシート2、第1のセラミックグリーンシート層1の順にように形成した構成としてもよい。
【0033】
また、図1(a)および図1(b)に示すような別々の支持フィルム(第1の支持フィルム3、第2の支持フィルム5)を用いる方法ではなく、図1(b)に示す第2の支持フィルム5のみを用いる方法でもよい。すなわち、第2の支持フィルム5の上に形成された接着用セラミックグリーンシート層4の上に、直接第2のセラミックグリーンシート層2となるセラミックスラリーを塗布して第2のセラミックグリーンシート層2を形成した後、第1のセラミックグリーンシート層1となるセラミックスラリーを塗布して第1のセラミックグリーンシート層1を形成するようにしてもよい。
【0034】
なお、第1のセラミックグリーンシート層1を最上層に配置するのは、上述の理由による。
【0035】
なお、図示しないが、セラミックグリーンシート6には、上下の配線パターンを電気的に接続するために貫通孔が形成されるとともに、貫通孔に貫通導体用ペーストが充填される。
【0036】
次に、図1(d)に示すように、熱圧着させてなるセラミックグリーンシート6の最上層となる第1のセラミックグリーンシート層1の上に導体粉末と有機溶剤とを含む配線導体用ペーストによる配線パターン7を形成する。
【0037】
配線導体用ペーストとしては、導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上のなどの導体粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したペースト状のものが用いられ、導体粉末の分散性や配線層(配線パターンの焼成後)の硬度や強度を調整するために分散剤や可塑剤を添加してもよい。配線導体用ペーストによる配線パターン7を形成する方法としては、例えば導体粉末をペースト化したものをスクリーン印刷法やグラビア印刷法、またはインクジェットなどの方法が適用できる。
【0038】
配線導体用ペーストに含まれる有機バインダーとしては、一般に配線導体用ペーストに
使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダーがより好ましい。また、有機バインダーの添加量としては、導体粉末により異なるが、有機バインダーの分解性に問題なく、かつ導体粉末を分散できる量であればよい。
【0039】
配線導体用ペーストに含まれる有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、炭化水素類、エステル類およびグリコールエーテル類の群から選ばれる少なくとも一種からなる有機溶剤が挙げられる。具体的には、テルピネオール、ジメチルフタレート、ブチルカルビトールアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ジブチルフタレート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、3,5,5−トリメチルシクロヘキセノン、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコール、メトキシブチルアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール、酢酸ノルマルプロピル、乳酸ブチル、メチルメトキシブタノール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、二塩基酸エステル、テトラメチレンスルホン、3−エトキシプロピオネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシ
ド等が挙げられる。
【0040】
なお、有機溶剤に関しては、第1のセラミックグリーンシート層に含まれる有機バインダーのSP値と配線導体用ぺーストに含まれる有機溶剤のSP値との絶対値の差が大きくなり過ぎると、すなわち、第1のセラミックグリーンシート層1に含まれる有機バインダーに対して溶解性の低い溶剤や第1のセラミックグリーンシート層1に浸透し難い溶剤や濡れ性の低い溶剤を選定すると、接着用セラミックグリーンシート4の溶解性(軟化)は抑えることが可能だが、第1のセラミックグリーンシート層1と配線導体用ペーストとの界面が十分に密着せず、生密着強度が低下する。よって、第1のセラミックグリーンシート層1に含まれる有機バインダーに対して、ある程度溶解性を持った有機溶剤であることが望ましく、有機バインダーのSP値と配線導体用ぺーストに含まれる有機溶剤のSP値との絶対値の差が2未満であることが望ましい。このような関係を満たすものとして、例えば、アクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)の第1のセラミックグリーンシート層1に含まれる有機バインダーに対して、ジブチルフタレート、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶剤が挙げられる。
【0041】
次に、図1(e)に示すように、配線パターン7が形成されたセラミックグリーンシート6を複数積層してセラミックグリーンシート積層体8を作製する。
【0042】
セラミックグリーンシート積層体8の作製に際しては、加熱及び加圧による圧着がなさ
れる。このときの加熱加圧の条件は用いる有機バインダー等の種類や量により異なるが、概ね30〜100℃、2〜20MPaである。
【0043】
最後に、セラミックグリーンシート積層体8を焼成する。
【0044】
焼成する工程は、有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は、100〜800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体8を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させるものである。また、焼成温度は、セラミック組成により異なり、約800〜1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気は、セラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
【実施例】
【0045】
次に実験データにて、本発明に係る電子部品の製造方法の効果を説明する。
【0046】
本発明の製造方法にしたがい、リップコーター法により形成した表1に示すように平均粒径をふったアルミナ粉末100質量部に、アクリル系バインダーを28質量部、トルエンを40質量部含むセラミックスラリーで形成した厚み30μmの第2のセラミックグリーンシート層の上に、同様にして形成した表1に示すように平均粒径をふったアルミナ粉末100質量部に、アクリル系バインダーを30質量部、トルエンを40質量部含むセラミックスラリーで厚み120μmの第1のセラミックグリーンシート層を形成し、更にアルミナ粉末100質量部、アクリル系バインダーを20質量部、トルエンを40質量部、積層時の加熱により溶融する溶融成分としてヘキサデカノールを10質量部含むセラミックスラリーで形成した接着用セラミックグリーンシート層を加熱積層機にて70℃で第2のセラミックグリーンシート層の側に熱圧着させてセラミックグリーンシートを作製した。
【0047】
これに対して、Mo導体粉末(平均粒径2.5μm)100質量部に、有機バインダー
としてセルロース系バインダー8質量部、有機溶剤(可塑剤)としてDBP(ジブチルフタレート)12質量部を含む導体ペーストをスクリーン印刷法にて印刷して配線パターンを形成した。
【0048】
上述の方法で作製した試料について、10時間放置して乾燥後、キャビティ打抜き機の金型による打ち抜き評価を行った。
【0049】
具体的には、接着用セラミックグリーンシート層のタック性評価として、接着用セラミックグリーンシート層が金型に貼り付いているかいないかを目視により確認した。貼り付きの発生していないものは○、貼り付きの発生しているものは×とした。打ち抜き時の条件は、打抜き速度10mm/s、金型停滞時間3s、金型引き剥がし速度7mm/sにて実施した。なお、実験に供されたそれぞれの試料のN数は35個である。その結果を表1に示す。
【0050】
また、第2のセラミックグリーンシート層を作製するセラミックスラリーの分散性も確認した。スラリーの分散性に問題ないものは○、分散性に問題のある(分離している)ものは×とした。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、第2のセラミックグリーンシート層に含まれるセラミック粉末の平均粒径が0.03μmである試料No.1では、十分なスラリー分散性が得られず、セラミックグリーンシートの形成ができなかった。
【0053】
また、第2のセラミックグリーンシート層に含まれるセラミック粉末の平均粒径が1μmを超える試料No.5,6,10,14,15では、第2のセラミックグリーンシート層の溶剤遮断層としての効果が十分に得られず、接着用セラミックグリーンシート層を溶解してしまい、タック性が増し、金型への貼り付きが発生した。
【0054】
これに対して、本発明の範囲内である試料No.2〜4,7〜9,11〜13では、第2のセラミックグリーンシート層の溶剤遮断層としての効果が発揮され、接着用セラミックグリーンシート層の溶解が抑制され、タック性が発現せず、金型への貼り付きを抑制することができた。
【符号の説明】
【0055】
1:第1のセラミックグリーンシート層
2:第2のセラミックグリーンシート層
3:第1の支持フィルム
4:接着用セラミックグリーンシート層
5:第2の支持フィルム
6:セラミックグリーンシート
7:配線パターン
8:セラミックグリーンシート積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末と積層時の加熱により溶融する溶融成分とを含む接着用セラミックグリーンシート層の上面に、
平均粒径の大きい第1のセラミック粉末を主成分とする第1のセラミックグリーンシート層と、前記第1のセラミック粉末よりも小さい平均粒径0.05〜1μmの第2のセラミック粉末を主成分とする第2のセラミックグリーンシート層とを、前記第1のセラミックグリーンシート層が最上層に位置するようにしてセラミックグリーンシートを作製する工程と、
該セラミックグリーンシートの最上層となる前記第1のセラミックグリーンシート層の上に導体粉末と有機溶剤とを含む配線導体用ペーストによる配線パターンを形成する工程と、
該配線パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを複数積層してセラミックグリーンシート積層体を作製する工程と、
該セラミックグリーンシート積層体を焼成する工程とを有することを特徴とする電子部品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−129447(P2012−129447A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281567(P2010−281567)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】