説明

電極又は配線パターンの形成方法

【課題】従来の金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等とはその成膜原理が異なるエアロゾルデポジション法を用い、溶液や樹脂成分を含まない溶液,樹脂フリーの原料から、均一かつ密着性の高い金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成することができる方法を提供する。
【解決手段】金属粒子16をエアロゾル化し、このエアロゾル化した金属粒子を基板11上に吹き付けることにより、基板11上に金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成する方法であって、上記金属粒子16が、平均粒子径0.08〜10μmの範囲であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積粒径を微粒側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、(D90−D10)/D50が0.1〜2.5の範囲にある粒度分布を持つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の電極又は配線パターンを形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化を目的として電子デバイスの小型化と高密度化が要請されており、電極や配線のファインパターン化が進んでいる。
【0003】
一般的には金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等が量産ベースで使用されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
上記特許文献1では、平均粒径0.5μm〜2μmのAg細粉末と、Ag細粉末とは粒度分布が異なるAg粗粉末、或いは略球状のシリカ粉末やアルミナ粉末などの無機フィラーを用いた粗化材とをビヒクルに添加混合してなるAg系導体ペーストが開示されている。そして上記導体ペーストを用いてスクリーン印刷法、スピンコート法等の方法によって、基板全面に塗布し、フォトリソグラフィー技術を適用してパタニングを行い、所定パターンの未焼成膜を形成し、この未焼成膜を焼成することにより電極を形成する、或いは、広範囲に塗布した導体ペーストをパタニングする代わりに、形成しようとする電極に対応する所定のパターンに導体ペーストをスクリーン印刷法等により塗布することで未焼成膜を形成し、この未焼成膜を焼成することにより電極を形成することが開示されている。
【0005】
また上記特許文献2では、前面ガラス基板上に、感光性の黒銀ペーストがべた印刷され、乾燥されることによって黒銀層が形成され、この黒銀層上に、感光性の白銀ペーストがべた印刷され、乾燥されることによって、白銀層が形成され、黒銀層及び白銀層が積層して形成された前面ガラス基板は、露光チェンバ及び現像チェンバ、洗浄チェンバ内に順次搬入され、所定のパターンに成形され、焼成されることで二層構造のバス電極が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−104949号公報(請求項6〜11、段落[0035])
【特許文献2】特開2006−32268号公報(請求項1、段落[0031]〜[0046])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の特許文献1,2に示された金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等による電極又は配線パターンの形成方法では、原料となる金属ペースト組成物の調製において、フィラーや溶剤、樹脂、分散剤の合せ込みにノウハウが必要であること、原料となる金属ペースト組成物には溶剤が含まれるため、その使用にあたっては溶剤について特別の対策が必要であること、原料となる金属ペースト組成物には経時変化が生じるため、使用期限内に使い切らなければならないこと、形成した塗膜を焼成する際には有機系のガスが発生するため、排ガス処理設備を準備しなければならないこと、などの課題があった。
【0008】
本発明の目的は、従来の金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等とはその成膜原理が異なるエアロゾルデポジション法を用い、溶液や樹脂成分を含まない溶液,樹脂フリーの原料から、均一かつ密着性の高い金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、金属粒子16をエアロゾル化し、このエアロゾル化した金属粒子16aを基板11上に吹き付けることにより、基板11上に金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成する方法であって、金属粒子16が、平均粒子径0.08〜10μmの範囲であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積粒径を微粒側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、(D90−D10)/D50が0.1〜2.5の範囲にある粒度分布を持つことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に金属粒子が、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、錫或いはこれらの元素を含む合金であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、図2に示すように、更に金属粒子が、球状の結晶子集合体である中心部31と、この中心部31の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部32とを有する球状銀粒子30であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更に球状銀粒子の平均粒子径が0.08〜1.0μmであり、断面組織観察における中心部の直径が球状銀粒子の直径の0.75〜0.99倍であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の観点は、第3又は第4の観点に基づく発明であって、更に550℃の温度で10分間加熱した時の収縮率が2〜5%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電極又は配線パターンの形成方法では、従来の金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等とはその成膜原理が異なるエアロゾルデポジション法を用い、かつ原料として使用する金属粒子として、特定範囲の平均粒子径で、かつ特定範囲の粒度分布を持つ金属粒子を選択的に用いることにより、均一かつ密着性の高い金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成することができる。また、上記粒径の金属粒子を選択的に用いることで、エアロゾルデポジション装置に解砕器や分級装置を導入する必要が無くなるため、装置が簡素となり、高品位の金属薄膜を継続して形成し易くなる。
【0015】
また、原料として金属粒子を用いるため、各成分の合せ込みにノウハウが必要な金属ペースト組成物の調製をする必要がなく、また溶剤を使用しないため、溶剤について特別の対策を施す必要もない。また、原料として使用する金属粒子には経時変化を生じることがないため、金属ペースト組成物のような使用期限を管理する必要もない。更に、金属ペースト組成物を使用しないため、形成する金属薄膜に有機物由来の不純物による影響がなく、焼成時に排ガス処理設備を準備する必要もない。従って、従来の金属ペースト組成物を用いた印刷法と比べ、大幅なプロセス削減に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の方法に用いるエアロゾルデポジション装置の概略図である。
【図2】本発明の方法に用いる金属粒子の一形態である2層構造の球状銀粒子の断面構造を表した模式図である。
【図3】2層構造の球状銀粒子の製造装置における主要部を示す模式図である。
【図4】2層構造の球状銀粒子の製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明は、金属粒子をエアロゾル化し、このエアロゾル化した金属粒子を基板上に吹き付けることにより、基板上に金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成する方法である。上記金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成するためにエアロゾルデポジション法を用いる。
【0019】
エアロゾルデポジション法は、従来の金属ペースト組成物を用いたスクリーン印刷法、フォトリソグラフィー法等とは異なる成膜原理であり、原料となる金属粒子をガスと混合してエアロゾル状態にし、このエアロゾル状態とした金属粒子を減圧下の雰囲気内でノズルを通して基板に吹き付けることにより、加熱することなく機械的な衝撃力だけで、基板上に緻密な金属薄膜を形成することができる技術である。
【0020】
エアロゾルデポジション法は、原料として金属粒子を用いるため、各成分の合せ込みにノウハウが必要な金属ペースト組成物の調製をする必要がなく、また溶剤を使用しないため、溶剤について特別の対策を施す必要もない。また、原料として使用する金属粒子には経時変化を生じることがないため、金属ペースト組成物のような使用期限を管理する必要もない。更に、金属ペースト組成物を使用しないため、形成する金属薄膜に有機物由来の不純物による影響がなく、焼成時に排ガス処理設備を準備する必要もない。従って、従来の金属ペースト組成物を用いた印刷法と比べ、大幅なプロセス削減に繋がる。
【0021】
本発明の特徴ある構成は、原料となる金属粒子が、平均粒子径0.08〜10μmの範囲であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積粒径を微粒側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、(D90−D10)/D50が0.1〜2.5の範囲にある粒度分布を持つところにある。
【0022】
上記範囲の平均粒子径で、かつ上記範囲の粒度分布を持つ金属粒子を選択的に用いることにより、エアロゾルデポジション法において、均一かつ密着性の高い金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成することができる。また、上記粒径の金属粒子を選択的に用いることで、エアロゾルデポジション装置に解砕器や分級装置を導入する必要が無くなるため、装置が簡素となり、高品位の金属薄膜を継続して形成し易くなる。
【0023】
原料となる金属粒子の平均粒子径を上記範囲に規定したのは、上記範囲から外れると、基板への密着性に劣り、エアロゾルデポジション法によってエアロゾル化した金属粒子を基板に吹き付けても、粒子が基板へ付着し難くなるためである。このうち、平均粒子径は0.1〜5μmの範囲が基板に対する歩留まりの観点から特に好ましい。
【0024】
また、金属粒子の粒度分布(D90−D10)/D50を上記範囲に規定したのは、下限値未満でも上記平均粒子径範囲に含まれていれば、均一かつ密着性の高い金属薄膜を形成することができ、不具合は生じないが、金属粒子の分布幅が狭すぎて制御するのが難しいためであり、上限値を越えると基板に対する歩留まりが悪くなるためである。このうち、粒度分布(D90−D10)/D50は0.5〜2.5の範囲が基板に対する歩留まりの観点から特に好ましい。
【0025】
なお、本発明において原料となる金属粒子の平均粒子径は、レーザ散乱/回折法により固数基準で演算して求められる値である。また、原料となる金属粒子の粒度分布(D90−D10)/D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって累積粒径を求め、微粒側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90と規定し、これらの割合から算出した値である。
【0026】
使用可能な金属粒子としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、錫或いはこれらの元素を含む合金が挙げられる。
【0027】
このうち、図2に示すような、球状の結晶子集合体である中心部31と、この中心部31の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部32とを有する2層構造の球状銀粒子30が好ましい。通常の球状銀粒子は、図示しないが、その断面を透過電子顕微鏡(以下、TEMという。)により観察すると、全領域で球状の結晶子の集合体のような構造になっているのが一般的である。一方、上記2層構造の球状銀粒子30は、球状の結晶子集合体からなる中心部31と、この中心部を構成する結晶子よりも大きい棒状の結晶子が、中心部31の外周に放射状に配置された構造になっている。このように球状の結晶子集合体からなる中心部31を覆うように、棒状の結晶子が放射状に配置された構造になることで、上記2層構造の球状銀粒子30では、その外周に結晶性の高い組織が配置される。これにより、一般的な構造の球状銀粒子に比べて加熱による収縮率を低下させることができる。
【0028】
一般的な球状銀粒子の収縮率は、例えば550℃で10分加熱した場合、6〜15%である。一方、上記2層構造の球状銀粒子30の場合、同条件で加熱した際の収縮率は2〜5%程度である。そのため、上記2層構造の球状銀粒子30を原料として用いて微細な配線や電極等を形成すれば、配線や電極等の製造工程における加熱処理時の断線や高抵抗化を抑制できる。
【0029】
上記2層構造の球状銀粒子30の平均粒子径は、好ましくは0.08〜1.0μmであり、更に好ましくは0.1〜0.6μmである。また、断面組織観察における中心部31の直径は、好ましくは、2層構造の球状銀粒子30の直径の0.75〜0.99倍、更に好ましくは0.80〜0.95倍である。断面組織観察における中心部31の直径が、0.75倍未満では、球状銀粒子として性能上、特に問題はないが、球状銀粒子の生成時に還元剤が不足して全量の銀を回収できず、製造コストが高くなるため好ましくない。一方、0.99倍を越えると、球状銀粒子30は、その殆どが中心部31により構成されることになり、上記効果が得られ難いからである。なお、2層構造の球状銀粒子30の中心部31の直径は、2層構造の球状銀粒子30を収束イオンビーム装置(以下、FIB装置という。)等により切断し、その断面径をTEMによる観察によって測定した直径をいう。また、加熱収縮率は、加熱ステージを備えたSEMにて観察し、得られた顕微鏡画像において、加熱前後の粒子径を比較することにより算出した粒子径の収縮率をいう。
【0030】
次に、上記2層構造の球状銀粒子の製造装置について説明する。図4に示すように、この製造装置40は、噴射口が互いに斜め下方に向かって相対する第1ノズル41及び第2ノズル42を備える。また、貯槽43,44と、貯槽43,44から第1ノズル41又は第2ノズル42に溶液を供給する管路45,46と、管路45,46に設けた送液ポンプ47,48と、送液ポンプ47,48と第1ノズル41又は第2ノズル42の間に設けられた調整部49,50と、第1ノズル41及び第2ノズル42の下方に設置され、その上部が開口した受槽70とを備える。なお、製造開始時には貯槽43には第1溶液が、貯槽44には第2溶液が、受槽70には10℃以下に冷却した液体が予め貯えられる。また、第1ノズル41及び第2ノズル42は、図3に示すように、各ノズルの噴射軌跡を結んで得られるノズル角θとノズル間距離hが、自由に調整できるように配置される。受槽70は、予め貯留された液体や混合液を10℃以下に保つ冷却機構を備える。冷却機構は、特に限定されるものではないが、例えば、受槽70の壁内部に冷却管72が配置されたジャケット構造をとり、冷媒を冷却管72内に導入する導入口71と、これを導出する導出口73とを備えた構成が好ましい。また、受槽70底部には、内部に予め貯留された冷却した液体や反応後の混合液を速やかに取り出し可能な吐出口74を備える。
【0031】
続いて、この製造装置40を用いて2層構造の球状銀粒子を製造する方法について説明する。図2に示す2層構造の球状銀粒子は、銀アンミン錯体を還元して銀粒子を析出させることにより得られる。
【0032】
第1溶液として好適な溶液としては、硝酸銀溶液にアンモニア水溶液を混合することで調製された銀アンミン錯体水溶液が挙げられる。この銀アンミン錯体水溶液の銀濃度は20〜180g/Lの範囲内であることが好ましい。この銀アンミン錯体水溶液は、例えば銀濃度が34〜200g/Lの硝酸銀溶液にアンモニア水溶液を混合することにより調製することができる。一方、第2溶液として好適な溶液としては、還元剤であるヒドロキノンをイオン交換水で溶解させることにより調製された還元剤溶液が挙げられる。
【0033】
第1溶液は、図4に示す貯槽43に貯えられ、送液ポンプ47により、管路45を通って第1ノズル41まで送り出される。同様に、第2溶液は、貯槽44に貯えられ、送液ポンプ48により、管路46を通って第2ノズル42まで送り出される。第1ノズル41から噴射する第1溶液61並びに第2ノズル42から噴射する第2溶液62の流量は各々調整部49,50によって適宜調整され得る。そして、第1ノズル41から第1溶液61が、第2ノズル42から第2溶液62がそれぞれ別々に噴射され、これらは空中で衝突混合される。
【0034】
この製造方法において、還元剤であるヒドロキノンの使用量は、還元する銀1molに対して0.25〜0.45molである。通常、銀1molに対し、これを還元するために必要と考えられているヒドロキノンの量は0.5molとされているが、ここでの製造方法では、この0.5molよりも少ない量で、補助還元剤等を加えることなく反応させることができる。これは、ヒドロキノンの酸化体であるベンゾキノン、即ちヒドロキノンが銀アンミン錯体を還元し、自身が酸化されて発生するベンゾキノンが、更に銀を還元するからである。ベンゾキノンの還元力はさほど強くはないが、銀は酸化還元電位が貴な金属であり、金属銀に還元され易いため、銀アンミン錯体はベンゾキノンによっても容易に銀に還元され得る。これにより、この製造方法では、ヒドロキノンの使用量を低減させることができ、製造コストを削減できる。この製造方法において、銀1molに対して還元剤を0.25〜0.45molとしているのは、0.25molを下回ると還元剤が不足し全量の銀を還元できず回収率が低下してしまう不具合があるためであり、0.45molを越えると粒子が中心部31と外周部32との2層構造にならず、加熱収縮率が大きくなってしまうためである。
【0035】
第1ノズル41からの第1溶液61の流量、第2ノズル42からの第2溶液62の流量は、製造される球状銀粒子の粒度分布を考慮し、また、銀1molに対するヒドロキノンの使用量が上述した範囲内となるように適宜調整され得る。具体的には、第1溶液と第2溶液を同じ流量でそれぞれのノズルから噴射して混合する場合には、例えば第1溶液中の銀濃度が20g/Lのとき、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を5.1〜9.2g/Lとすれば良い。また、第1溶液中の銀濃度が180g/Lのときは、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を45.9〜82.7g/Lにする。また、第1溶液と第2溶液は、同じ流量で噴射して混合する必要はなく、第1溶液に対して第2溶液を3倍の流量で噴射して混合する場合には、例えば第1溶液中の銀濃度が180g/Lのとき、第2溶液中のヒドロキノンの濃度を15.3〜27.6g/Lとすれば良い。
【0036】
また、図3に示す、ノズル角θを小さくしてノズル間距離hを大きくし、流圧を調整して流量を減少することによって、粒径が大きくなり、粒度分布は広がる傾向になる。一方、ノズル角θを大きくしてノズル間距離hを小さくし、流量を増加すると、粒径が小さくなり、粒度分布は狭くなる傾向になる。そのため、ノズル角θは45〜150度、ノズル間距離hは0.5〜20mmの範囲とすることが好ましい。第1溶液61、第2溶液62の流圧は、それぞれ0.5〜20kPa、0.5〜60kPaの範囲とするのが好ましい。また、第1溶液61、第2溶液62の流量は、それぞれ0.5〜15L/分、0.5〜45L/分とするのが好ましい。
【0037】
このような条件で、第1ノズル41、第2ノズル42からそれぞれ別々に噴射された第1溶液61及び第2溶液62は、空中で衝突混合させることにより混合液63を生じ、この混合液63は、自然落下により、その下方に設けられた受槽70の10℃以下に冷却した液体中に落下する。受槽70に予め貯留された液体並びに落下した混合液の液温を10℃以下とすることにより、図2に示すような、中心部31の結晶子集合体を構成する球状の結晶子と異なる、この結晶子よりも大きい棒状の結晶子が、中心部31の外周に、球の中心から放射状に成長する構造の球状銀粒子30を得ることができる。
【0038】
その技術的な理由は、ベンゾキノンによる銀イオンの還元速度は温度による影響を強く受け、液温が10℃を上回ると、ヒドロキノンによる銀イオンの還元速度と同等になり、球状銀粒子の全領域において同じ結晶子が成長する。しかし、10℃以下になると、ベンゾキノンによる還元速度が極端に低下してゆっくりと結晶子が成長し、この結晶性の高い結晶子が、中心部の外周に成長するからであると推定される。
【0039】
このため、予め貯留された液体の液温並びに落下して受槽70に貯留された混合液63の液温は10℃以下とする。液温が10℃を越えると、製造される球状銀粒子が上記2層構造にならず、所望の効果が得られない。一方、液温の下限値については、特に限定する必要はないが、冷却コストの問題や、受槽70の底部からポンプによって反応後の混合液等を吐出させることを考慮すると、0℃程度までが妥当である。
【0040】
受槽70に予め貯えられた液体としては、水の他、水とメタノール又はエタノールとの混合物や、後述する固液分離によって生じる排液等も使用できる。混合液63を直接受槽70に落下させずに、予め貯えられた液体中に落下させる理由は、落下中の混合液63中では還元反応が完了しておらず、直接受槽70に落下させると、受槽70壁面に銀が析出し、これが剥がれると粗大な扁平状の銀が混入する不具合が生じるためである。
【0041】
受槽70における銀粒子が析出した反応後の混合液は、図3に示す受槽70の底部に備えた吐出口74から容易に取り出され、これを固液分離することにより、球状銀粒子を回収することができる。回収した球状銀粒子は、その後、アルカリ洗浄、アミド系溶剤洗浄又は強還元剤水溶液洗浄等の洗浄工程を経ることにより、粒子表面の有機物が除去される。以上の工程により2層構造の球状銀粒子が得られる。なお、上記製造方法では、還元反応により生成するベンゾキン又はベンゾキノンの酸化生成物が球状銀粒子の表面に付着し、球状銀粒子同士の凝集を妨げるため、何れの工程においても分散剤を用いる必要はない。
【0042】
図1に示すように、本発明の形成方法に用いるエアロゾルデポジション装置10は、内部を減圧雰囲気に保ち、かつその内部に基板11を設置するステージ12とエアロゾル化した金属粒子を噴射するノズル13が設けられた反応器14と、内部に投入した金属粒子16をエアロゾル状態とするエアロゾル発生器17と、その内部に搬送ガス18aが貯留された搬送ガス容器18を備える。エアロゾル発生器17のガス導入口17aと搬送ガス容器18とは管路19で接続され、エアロゾル発生器17のエアロゾル排出口17bと反応器14内のノズル13とは管路21で接続される。反応器14には、その内部を減圧雰囲気に保つ真空ポンプ22が設置される。また反応器14内部に設けられたステージ12は、その水平状態を維持しながら前後左右に移動可能な構成をとる。反応器14内部に設けられたノズル13は、その先端に所定幅及びスリットの開口部を有する。エアロゾル発生器17のガス導入口17aと搬送ガス容器18とを接続する管路19には、流量計23が設けられる。
【0043】
続いて、上記構成のエアロゾルデポジション装置を用い、基板上に金属薄膜を形成する方法を説明する。
【0044】
先ず、図1に示すエアロゾルデポジション装置10の反応器14内のステージ12上に基板11を配置し、エアロゾル発生器17内に上記範囲の平均粒子径で、かつ上記範囲の粒度分布を持つ金属粒子16を投入する。なお、ステージ12上に設置した基板11とノズル13先端は10〜20mmの間隔を有することが好ましい。また、ノズル13先端の開口部は幅10〜20mm及びスリット0.2〜0.6mmの形状が好ましい。使用する搬送ガス18aとしては窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガスなどが好ましい。
【0045】
次いで、真空ポンプ22を稼働させて反応器14内部を減圧する。反応器14内部の圧力が100〜600Paの範囲内となるように真空ポンプ22を稼働することが好ましい。
【0046】
次に、搬送ガス容器18を開き、流量計23でガス搬送流量を制御することにより、搬送ガス容器18内の搬送ガス18aが管路19を通じてガス導入口17aからエアロゾル発生器17内に一定流量で送り込まれる。ここでガス搬送流量が5〜10L/分となるように流量計23を制御することが好ましい。エアロゾル発生器17内に送り込まれた搬送ガス18aによって金属粒子16はエアロゾル化される。エアロゾル化された金属粒子16aは搬送ガス18a並びに反応器14内の減圧によって、エアロゾル排出口17bから管路21を通じて反応器14内部に設けられたノズル13に送られ、ノズル13先端の開口部から噴射される。噴射されたエアロゾル化した金属粒子16aは、基板11上に吹き付けられ、加熱することなく機械的な衝撃力だけで、基板11上に緻密な金属薄膜が成膜される。
【0047】
なお、成膜時にはステージ12上の基板11を一定速度で動かすことで、所定範囲に均一な膜厚の金属薄膜を形成することができる。基板11の移動速度は0.1〜1mm/秒が好ましい。また、基板11とノズル13との間には、所望のパターンを有するマスク(図示せず)を設けることで、所望のパターンの金属薄膜からなる電極又は配線パターンを容易に形成することができる。
【実施例】
【0048】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0049】
<実施例1>
先ず、金属粒子として平均粒子径が1.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が0.7の粒度分布を持つ銀粒子を、基板として縦横5cm角のアルミナ基板をそれぞれ用意した。
【0050】
次いで、図1に示すエアロゾルデポジション装置10の反応器14内のステージ12上に基板11を配置し、エアロゾル発生器17内に銀粒子16を投入した。なお、ノズル13には先端の開口部が幅20mm及びスリット0.4mmのものを、搬送ガス18aとしては窒素ガスを用いた。
【0051】
次に、真空ポンプ22を稼働させて反応器14内部の圧力を200Paにまで減圧した。そして、搬送ガス容器18を開き、流量計23でガス搬送流量を5L/分に制御することで、搬送ガス容器18内の搬送ガス18aを管路19を通じてガス導入口17aからエアロゾル発生器17内に送り込んだ。エアロゾル発生器17内に送り込まれた搬送ガス18aによって金属粒子16はエアロゾル化され、このエアロゾル化された金属粒子16aはエアロゾル排出口17bから管路21を通じて反応器14内に設けられたノズル13先端の開口部から噴射され、基板11上に吹き付けられることにより、基板11上に金属薄膜を成膜した。なお、成膜時にはステージ12上の基板11を1mm/秒の速度で動かした。スキャンの回数は1回であった。
【0052】
<実施例2>
金属粒子として平均粒子径が1.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0053】
<実施例3>
金属粒子として平均粒子径が0.4μmであり、かつ(D90−D10)/D50が0.1の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を400Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0054】
<実施例4>
金属粒子として平均粒子径が0.4μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を400Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0055】
<実施例5>
金属粒子として平均粒子径が0.1μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0056】
<実施例6>
金属粒子として平均粒子径が10.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0057】
<実施例7>
金属粒子として平均粒子径が0.2μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.0の粒度分布を持つ金粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0058】
<実施例8>
金属粒子として平均粒子径が0.4μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.0の粒度分布を持つ銅粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を400Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0059】
<実施例9>
金属粒子として平均粒子径が0.2μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.0の粒度分布を持つ白金粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0060】
<実施例10>
金属粒子として平均粒子径が5.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つアルミニウム粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0061】
<実施例11>
金属粒子として平均粒子径が5.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つニッケル粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0062】
<実施例12>
金属粒子として平均粒子径が5.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ錫粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0063】
<実施例13>
金属粒子として平均粒子径が0.08μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0064】
<比較例1>
金属粒子として平均粒子径が12.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0065】
<比較例2>
金属粒子として平均粒子径が0.05μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を15L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0066】
<比較例3>
先ず、平均粒子径が1.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.5の粒度分布を持つ銀粒子を用意し、この銀粒子を85質量%、ガラスフリット(ビスマス−ボレート−シリカ系、軟化点550℃、比表面積2m2/g)を3質量%、ビヒクル(溶剤70質量%、樹脂17質量%、分散剤13質量%)を12質量%の割合でそれぞれ添加混合し、混合物を3本ロールを用いて混練することにより、金属ペースト組成物を調製した。
【0067】
次いで、上記調製した金属ペースト組成物を用いスクリーン印刷法により縦横5cm角のアルミナ基板上に1cm×3cmのパターンを形成し、乾燥することで未焼成膜を得た。乾燥後の未焼成膜の膜厚は10μmであった。次に、150℃にて30分間乾燥した。更に、室温から10℃/分の速度で580℃まで昇温し、この温度で10分間保持した後、20℃/分の速度で室温まで降温する焼成プロファイルにより焼成を行い、基板上に金属薄膜を得た。焼成後の金属薄膜の膜厚は6μmであった。なお、金属ペースト組成物の調製から焼成までにかかった時間は、約4時間であった。
【0068】
<比較例4>
金属粒子として平均粒子径が0.06μmであり、かつ(D90−D10)/D50が0.08の粒度分布を持つ銀粒子を用い、ガス搬送流量を10L/分、反応器内部の圧力を600Paの成膜条件とした以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0069】
<比較例5>
金属粒子として平均粒子径が12.0μmであり、かつ(D90−D10)/D50が2.6の粒度分布を持つ銀粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に金属薄膜を成膜した。
【0070】
<評価>
実施例1〜13及び比較例1〜5で使用した原料金属粒子及び成膜条件を表1に示す。実施例1〜13及び比較例1〜5の膜形成を終えた基板上の金属薄膜をレーザー顕微鏡を用い、金属薄膜の膜厚平均値を求めた。また、この金属薄膜に対して、テープ剥離テストを施した。その結果を次の表1に示す。
【0071】
【表1】

表1より明らかなように、原料として平均粒子径が12μmと大きい粒子を用いた比較例1では、基板上に金属薄膜が部分的に付いているのが確認されたが、成膜領域の全てには成膜できておらず、またテープ剥離テストでは付着物が基板から全て剥離してしまい、密着性に劣る結果となった。また、原料として平均粒子径が0.05μmと小さい粒子を用いた比較例2では、全く成膜することができなかった。また、原料として平均粒子径が0.06μmと小さく、かつ(D90−D10)/D50が0.08と粒度分布が狭い粒子を用いた比較例4では、全く成膜することができなかった。更に、原料として平均粒子径が12μmと大きく、かつ(D90−D10)/D50が2.6と粒度分布が広い粒子を用いた比較例5では、基板上に金属薄膜が部分的に付いているのが確認されたが、成膜領域の全てには成膜できておらず、またテープ剥離テストでは付着物が基板から全て剥離してしまい、密着性に劣る結果となった。
【0072】
一方、実施例1〜12では、基板上に所望の膜厚の金属薄膜が成膜領域の全てにかつ均一に成膜されており、またセロハンテープ剥離テストでは金属薄膜は全く剥れず、密着性が高いことが確認された。この結果から、エアロゾルデポジション法を用いる際には、平均粒子径及び(D90−D10)/D50の粒度分布を適切に制御した金属粒子を原料として選択的に用いることで、均一かつ密着性の高い金属薄膜を形成することができることが判った。
【0073】
なお、金属ペースト組成物をスクリーン印刷法により塗布及び焼成した比較例3では、所望の膜厚で密着性も高い金属薄膜が得られたが、金属ペースト組成物の調製から焼成までに時間がかかりすぎていた。また金属ペースト組成物の調製において溶剤について特別の対策が必要であった。更に、焼成段階において、排ガス処理設備が必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の電極又は配線パターンの形成方法は、従来のようなスクリーン印刷法やフォトリソグラフィー法での金属ペースト組成物を用いることがなく直接基材へ電極又は配線パターンを形成することが可能となるため、電子部品、ディスプレイ、太陽電池等の電極又は配線形成に大いに利用できる。
【符号の説明】
【0075】
11 基板
16 金属粒子
16a エアロゾル化した金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子をエアロゾル化し、前記エアロゾル化した金属粒子を基板上に吹き付けることにより、前記基板上に金属薄膜からなる電極又は配線パターンを形成する方法であって、
前記金属粒子が、平均粒子径0.08〜10μmの範囲であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積粒径を微粒側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、(D90−D10)/D50が0.1〜2.5の範囲にある粒度分布を持つことを特徴とする電極又は配線パターンの形成方法。
【請求項2】
前記金属粒子が、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、錫或いはこれらの元素を含む合金である請求項1記載の電極又は配線パターンの形成方法。
【請求項3】
前記金属粒子が、球状の結晶子集合体である中心部と、前記中心部の外周に棒状の結晶子が放射状に形成された外周部とを有する球状銀粒子である請求項1又は2記載の電極又は配線パターンの形成方法。
【請求項4】
前記球状銀粒子の平均粒子径が0.08〜1.0μmであり、断面組織観察における前記中心部の直径が前記球状銀粒子の直径の0.75〜0.99倍である請求項3記載の電極又は配線パターンの形成方法。
【請求項5】
550℃の温度で10分間加熱した時の収縮率が2〜5%である請求項3又は4記載の電極又は配線パターンの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153329(P2011−153329A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13979(P2010−13979)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】