説明

電気抵抗膜を備えた金属箔及び同金属箔を用いたプリント回路用基板

【課題】銅箔に更に電気抵抗膜を形成することにより、電気抵抗材の基板内蔵化を可能とし、且つその接着性を向上させ、抵抗値のばらつきが小さい金属箔及びプリント回路用基板を提供する。
【解決手段】光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに調整した金属箔表面に形成した銅−亜鉛合金膜、この銅−亜鉛合金層の上に形成した酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる安定化膜、さらにこの安定化層の上に形成したニッケルクロム合金からなる電気抵抗膜を備え、さらにこの電気抵抗膜上にテトラエトキシシランを吸着・乾燥させた金属箔であって、前記電気抵抗膜の抵抗値のばらつきを±10%以内にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜の密着性に優れ、ピール強度が高く、抵抗値のばらつきが小さい電気抵抗膜層を備えた金属箔及び同金属箔を用いたプリント回路用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板の配線材料として、一般に銅箔が使用されている。この銅箔は、その製造法により電解銅箔と圧延銅箔に分けられる。この銅箔は、厚さは5μmの非常に薄い銅箔から140μm程度の厚い銅箔まで、その範囲を任意に調整することができる。
【0003】
これら銅箔は、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の樹脂からなる基板に接合され、プリント回路用基板として使用される。銅箔には基板となる樹脂との接着強度を十分確保することが求められるが、その為に、電解銅箔は一般に製箔時に形成されるマット面と呼ばれる粗面を利用し、更にその上に表面粗化処理を施して使用する。又、圧延銅箔も同様にその表面に粗化処理を施して使用される。
【0004】
最近、配線材料である銅箔に、更に電気抵抗材料からなる薄膜層を形成することが提案されている(特許文献1、2参照)。電子回路基板には、電気抵抗素子が不可欠であるが、抵抗層を備えた銅箔を使用すれば、銅箔に形成された電気抵抗膜層を、塩化第二銅等のエッチング溶液を用いて、抵抗素子を露出させるだけでよい。
したがって、抵抗の基板内蔵化により、従来のようにチップ抵抗素子を、半田接合法を用いて基板上に表面実装する手法しかなかったものに比べ、限られた基板の表面積を有効に利用することが可能となる。
【0005】
また、多層基板内部に抵抗素子を形成することによる設計上の制約が少なくなり、回路長の短縮が可能となることにより電気的特性の改善も図れる。したがって、抵抗層を備えた銅箔を使用すれば、半田接合が不要となるか又は大きく軽減され、軽量化・信頼性向上が図れる。このように、電気抵抗膜を内蔵した基板は多くの利点を持っている。
これらの抵抗材料に用いるベースとなる銅箔は、その上に更に抵抗層を形成することを前提に表面処理を施されており、一般のプリント基板配線用とは通常異なるが、粗化により樹脂との接着強度を確保している点は同様である。
【0006】
抵抗膜の上には、さらに樹脂が接着されるが、抵抗材料の接着強度を評価する場合、銅箔と抵抗膜間の強度及び抵抗膜と樹脂間の強度の双方を検討する必要があり、ピール(Peel)強度試験等では、どちらか弱い方の界面から剥離が起こる。
何れの場合でも表面粗さが大きいほど、その接着強度は高い。接着強度は、表面粗さと、それ以外の表面化学種(元素種)等の要素により影響されると考えられる。
【0007】
一方、高性能化し続けるプリント回路基板として、更に微細抵抗回路の形成や、高周波特性の改善の要求により、抵抗材料の表面粗さを抑えることが求められている。その実現の為には、表面粗さに頼らない接着強度の向上が不可欠となる。
【0008】
しかしながら、銅箔の表面粗さが電気抵抗膜に影響を与えるのか否か、また表面粗さはどの程度ならば、その電気抵抗膜の特性を維持できるのか、さらに表面粗さを小さくした場合には当然接着強度は低下するが、電気抵抗膜と樹脂との剥離強度(ピール強度)を維持するためには、どのような手段が採用できるのかということは、厳密には分かっていなかった。
したがって、従来の電気抵抗膜付金属箔では、剥離強度を高めるために、銅箔表面の粗さを大きくするという漠然としたプロセスを採用しており、上記の問題を解決しているとは言えなかった。
なお、本願発明は、本出願人が先に提出した特許文献3を、さらに改良するものであるが、特許文献3に記載する発明については全て有効であり、本願発明に適用できることは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3311338号公報
【特許文献2】特許第3452557号公報
【特許文献3】特願2007−295117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、銅箔に更に電気抵抗膜を形成することにより、電気抵抗材の基板内蔵化を可能とし、且つ膜の密着性に優れ、ピール強度が高く、抵抗値のばらつきが小さい電気抵抗膜層を備えた金属箔及び同金属箔を用いたプリント回路用基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電気抵抗膜としての特性を維持するためには、電気抵抗膜の抵抗値のばらつきを抑制することが必要であり、抵抗値のばらつきを抑制するためには金属箔の表面粗さを調整することが重要であり、かつこの表面粗さは、電気抵抗膜と金属箔、電気抵抗膜と樹脂との間の接着力を高めるために、適度に調節することが必要であるとの知見を得た。
【0012】
この知見に基づき、本発明は、
光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに調整した金属箔表面に形成した銅−亜鉛合金層、この銅−亜鉛合金層の上に形成した酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる安定化層、さらにこの安定化層の上に形成したニッケルクロム合金からなる電気抵抗膜層を備え、さらにこの電気抵抗膜層上にテトラエトキシシラン(Si(OC:通称TEOS)を吸着・乾燥させた金属箔であって、前記電気抵抗膜の抵抗値のばらつきが±10%以内であることを特徴とする電気抵抗膜を備えた金属箔を提供する。
【0013】
電気抵抗膜層を備えた金属箔、特に銅又は銅合金を回路基板用の膜として利用する場合には、金属箔に酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる安定化層を形成し、さらにその上に電気抵抗膜層を形成すれば、金属箔との充分な接着強度が得られると考えられてきた。
なお、以下の説明においては、金属箔を、代表的に「銅箔」と置き換えて説明するが、必要に応じて「金属箔」を用いることとする。
【0014】
上記について、ベースとなる銅箔に粗化レベルを下げた粗さの小さい銅箔を用いた場合には、接着力と耐熱性が十分ではない場合がある。これを改善するために、前記安定化層を形成する前に、単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである銅−亜鉛合金層を形成することが有効である。
銅箔及び銅−亜鉛合金層と安定化層との間、そして電気抵抗膜との接着力の改善は、ピール強度をもって評価できる。
【0015】
単位面積当りの亜鉛含有量が1000μg/dm未満の銅−亜鉛合金層では接着強度の向上が小さく、また単位面積当りの亜鉛含有量が9000μg/dmを超える銅−亜鉛合金層では、耐薬品性(エッチング液による腐食)が劣るようになるので、上記の範囲が望ましいと言える。
【0016】
この銅−亜鉛合金層は、電気めっきにより形成することができる。電気めっきにおける銅−亜鉛合金の亜鉛含有量は任意である。すなわち、電気めっき後、亜鉛が銅箔へ拡散した層を含むものである。単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである銅−亜鉛合金層となるものであれば良い。この結果、銅−亜鉛合金層の厚さは約100〜1200Åの範囲に相当する。
【0017】
このようにして形成した銅−亜鉛合金層の上に、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる5Å〜100Åの間の厚さを有する安定化層を形成することが好ましい。
この安定化層は、上記に述べた通り、その効果に限界はあるが銅箔との密着性も向上させる効果も備えている。
【0018】
酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルは安定化層としていずれも有効であり、またこれらを複合して使用することもできる。この安定化層は、銅箔の酸化腐食を防ぎ、また銅による誘電体基材の分解を防ぐとともに、安定したピール強度を維持する機能を有するものである。
通常5Å〜100Åの間の厚さとするのが良いが、必要に応じて100Å以上の厚さ、すなわち200〜300Åの厚さとすることもできる。但し、5Å未満では、安定化層としての役割が低下し、また接着力も低下する。また、100Åを超えると回路パターンをエッチングにより形成する際に溶け残る可能性があるので、上記の範囲とするのが望ましい。
【0019】
このようにして形成した安定化層の上に、ニッケルクロム合金(通常は、Cr:5〜30wt%−残部Niからなる合金を使用するが、この範囲外であっても構わない)の電気抵抗膜を形成する。
この電気抵抗膜層の形成に際しては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビームめっき法などの物理的表面処理方法、熱分解法、気相反応法などの化学的表面処理法、又は電気めっき法、無電解めっき法などの湿式表面処理法を用いて形成することができる。
【0020】
一般には、電気めっき法が低コストで製造できる利点がある。また、スパッタリング法は、均一な厚みの膜であり、かつ等方性を備えているので、品質の高い抵抗素子を得ることができるという利点がある。
この電気抵抗膜の形成は、膜の用途に応じて形成されるものであり、その場合の付着方法又はめっき方法は、その電気抵抗膜の性質に応じて、適宜選択することが望ましいと言える。
【0021】
上記については、主として膜の接着力(ピール強度)を中心に説明してきた。しかし、さらに重要なことは、電気抵抗膜としての特性を維持すること、すなわち電気抵抗膜の抵抗値のばらつきを抑制することである。
この電気抵抗膜は0.05μm(0.01〜0.1μm)程度の非常に薄い膜として形成され、粗面又は粗化処理により形成される表面の凹凸によって単位面積当たりの電気抵抗値(シート抵抗)が変動する。一般に、銅箔と抵抗膜の接着力(ピール強度)を向上させるために、銅箔の表面を粗化処理するが、この粗化処理により凹凸を大きくした場合、その粗化面の凹凸は電気抵抗膜の起伏に転写され、電気抵抗膜は同等の粗面を有するようになる。
【0022】
このような粗面をもつ電気抵抗膜は、銅箔の表面粗さが大きいほど、また回路が微細になるほど、抵抗値のばらつきが大きくなり、回路として形成された抵抗素子としての機能を大きく損なうことになる。この銅箔の表面の粗化処理面が、その上に形成される抵抗膜の機能に影響するという現象の知見は、本願発明の電気抵抗膜の単位面積当たりの抵抗値(シート抵抗)のばらつきを±10%以内とする強い動機になっている。そして、本願発明は、このシート抵抗のばらつきを±10%以内を達成し、抵抗膜の機能を向上させるものである。
【0023】
前記電気抵抗膜のシート抵抗のばらつきを±10%以内とするためには、まず、銅箔の表面を垂直走査型干渉方式などの光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに調整する。電解銅箔の場合、光沢面(シャイニング面:S面)と粗面(マット面:M面)を有するが、この粗面を使用することができる。
しかしながら、この粗面は一律に上記条件を達成するものではないので、上記Rz4.0〜6.0μmの表面粗さが実現できる電解銅箔の製造が必要になる。これは、従来の電解銅箔の製造工程で、電解条件を調整することにより達成できる。いずれにしても、銅箔の表面を光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmとする明確な規格化が必要である。
【0024】
従来は、膜の接着力(ピール強度)を向上させるために、銅箔の粗面にさらに粗化処理を施していたが、この場合には、さらに粗い粗化面となり、Rzで4.0〜6.0μmを達成することは殆ど困難となる。
電解銅箔の光沢面及び圧延銅箔(両面が光沢面)については、さらに粗化処理することが必要となるが、通常は、節(ふし)こぶ状の粒子を付着させる粗化処理を行われる。この場合の粗化処理は、当然ながら光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmとなる範囲となるように行うことが必要であり、過度な粗化処理を行うと電気抵抗膜のシート抵抗のばらつきが±10%を超え、機能を損なうことになるので、注意が必要である。
いずれにしても、銅箔の表面を上記の表面粗さを維持できるように、厳密にコントロールすることが必要である。
【0025】
一方、銅箔の表面の粗さが小さくなるために、銅箔と電気抵抗膜との接着力の低下は否めない。この対策として、本願発明は、銅箔の粗面または粗化処理した表面に銅−亜鉛合金層を形成し、その上に酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる安定化層を形成し、この安定化層の上に電気抵抗膜層としてニッケルクロム合金層を形成するものである。
これによって、実製品として支障がない程度に、銅箔と電気抵抗膜との接着強度を高めることが可能となる。
【0026】
他方、電気抵抗膜(ニッケルクロム合金)と樹脂基板との接着力の問題であるが、これも少なからず問題となる。上記の通り、銅箔と電気抵抗膜との間に銅−亜鉛合金膜及び安定化膜が介在するが、これらはいずれも極めて薄い膜なので、銅箔の粗面の表面粗さは電気抵抗膜にも反映される。したがって、電気抵抗膜と樹脂基板との間の接着力は、ある程度保持できる。しかしながら、十分ではない。
【0027】
このことから、電気抵抗膜であるニッケルクロム合金膜にシラン処理を施し、接着力の向上を図った。この処理は、どのようなシランでも良いという訳ではなく、後述する実施例に示すように、テトラエトキシシラン(Si(OC:通称TEOS)のみが有効であることが分かった。これによって、電気抵抗膜のシート抵抗のばらつきを±10%以内に抑制すると共に、電気抵抗膜(ニッケルクロム合金)と樹脂基板との接着力を向上させ、電気抵抗膜と樹脂基板とのピール強度が0.60kN/m以上とすることが可能となった。
【0028】
また、箔厚が5〜70μmの銅箔、特に5〜35μm銅箔を使用することができる。この銅箔の厚みは、用途に応じて任意に選択できるが、製造条件からくる制約もあり、上記の範囲で製造するのが効率的である。
さらに、本願発明は、金属箔を樹脂基板に接合したプリント回路用基板としたとき、電気抵抗膜と樹脂基板とのピール強度が0.60kN/m以上であるプリント回路用基板を提供することができる。
【0029】
上記の説明では、代表的に銅箔の表面を用いて説明したが、これらの現象は使用する金属箔の表面形状に起因する課題であり、銅箔以外の他の金属箔を基板に用い、その表面にニッケルクロム合金からなる電気抵抗膜層を形成した場合も、同様な現象になることは、当然理解されるべきことであり、銅箔以外の金属箔においても同様に適用できることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0030】
電気抵抗膜層を内蔵した銅箔を使用することにより、回路設計の際に、新たに電気抵抗素子を別途付与する必要がなく、本銅箔に予め形成した電気抵抗膜層を、塩化第二銅溶液等のエッチング液を用いて、抵抗素子を露出させるだけでよいので、半田接合が不要となる、あるいは大きく軽減され、実装工程が著しく簡素化されるという効果を有することに加えて、本発明によって、特に電気抵抗膜の抵抗値のばらつきを一定の範囲に抑制できるという著しい効果を有する。
【0031】
また、電気抵抗膜層を内蔵した銅箔を使用し、抵抗素子の内層化することにより実装部品や半田数が低減される結果、基板最表面に抵抗素子以外の素子を実装するスペースができ小型軽量になるという利点もある。これによって回路設計の自由度を向上させることができる。また、部品内蔵化によって素子間の配線長の短縮、および信号配線中の抵抗素子電極や半田等、異種金属接合部の減少などにより、高周波領域での信号特性が改善される効果がある。
さらに、本発明によれば、良好な耐熱性及び耐酸性を備える優れた効果を有する銅箔上に電気抵抗膜層を形成することで同様の耐熱性と耐酸性を具備することに加え、このような電気抵抗膜層を内蔵した銅箔で課題となる基板との接着力確保と抵抗値バラツキ低減の両立を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
電解銅箔については、従来の電解装置を用いて製造することができる。この装置は、電解液を収容する電解槽の中に、陰極ドラムを設置する。この陰極ドラムは、電解液中に部分的(ほぼ下半分)に浸漬された状態で回転するようになっている。
この陰極ドラムの外周下半分を取り囲むように、不溶性アノード(陽極)を設ける。この陰極ドラムとアノードの間は一定の間隙があり、この間を電解液が流動するようになっている。
【0033】
通常、下方から電解液を供給し、この電解液は陰極ドラムとアノードの間隙を通過させる。そして、電解液はアノード2の上縁から溢流するようになっており、この電解液はさらに循環するように構成されている。
陰極ドラムとアノードの間には整流器を介して、両者の間に所定の電圧が維持できるようになっている。
陰極ドラムが回転するにつれ、電解液から電着した銅は厚みを増大し、ある厚み以上になったところで、この生箔(電解銅箔)を剥離し、連続的に巻き取っていく。
【0034】
このようにして製造された生箔は、陰極ドラムとアノードの間の距離、供給される電解液の流速あるいは供給する電気量により厚みを調整する。また、電解液組成や電解条件により、電解銅箔の粗面状態を調節することが可能である。
このような銅箔製造装置によって製造される銅箔は、陰極ドラムと接触する面は鏡面(光沢面)となるが、反対側の面は凸凹のある粗面(マット面)となる。この電解銅箔の厚さは任意に選択できる。通常、5μm〜35μmの厚さの銅箔を使用することができる。
【0035】
このようにして製造した銅箔は、次に表面の酸化物皮膜を取り除く清浄化工程を経、さらに水による洗浄工程を行う。清浄化工程では、通常、10〜80g/Lの硫酸水溶液を使用する。
上記においては、電解銅箔の製造について説明したが、圧延銅箔については、溶解及び鋳造したインゴットを、焼鈍及び熱間圧延、さらには冷間圧延を施して必要な厚みの銅箔として製造することができる。圧延銅箔は、圧延ロールに接触した面がいずれも光沢面となっているので、必要に応じて、粗化処理を施す。この粗化処理は、すでに公知の粗化処理を用いることができる。
【0036】
粗化処理の一例を示すと、下記の通りである。また、この粗化処理は電解銅箔の光沢面にも適用できる。しかし、いずれも過度な粗化処理は禁物であり、光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに、厳密かつ恒常的に調節することが必要である。この測定には、例えば光干渉式光学的表面形状測定機器、具体的には非接触3次元表面形状粗さ測定システム、品番NT1100(WYKOオプティカルプロファイラ(分解能:0.2μm×0.2μm以下):Veeco社製)を用いることができる。
Cuイオン濃度:10〜30g/L
硫酸濃度:20〜100g/L
電解液温:20〜60°C
電流密度:5〜80A/dm
処理時間:0.5〜30秒
【0037】
このようにして製造した電解銅箔又は圧延銅箔に、亜鉛−銅合金めっき処理を行う。この亜鉛−銅合金めっき処理の浴組成と電気めっき条件は、次の通りである。
(亜鉛−銅合金めっき浴組成と処理条件)
浴組成
CuCN:60〜120g/L
Zn(CN):1〜10g/L
NaOH:40〜100g/L
Na(CN):10〜30g/L
pH:10〜13
浴温:60〜80°C
電流密度:100〜10000A/dm
処理時間:2〜60秒
【0038】
これによって、単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである銅−亜鉛合金層を形成することができる。上記電気めっきは、好適な亜鉛−銅合金めっき条件である。単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである銅−亜鉛合金層を形成することができれば、上記に制限される必要はない。
したがって、銅上に亜鉛めっきを行って、それを加熱拡散させて銅−亜鉛合金層を形成しても良い。また、一般にプレス工程で熱がかかるので、亜鉛めっきが形成されていれば、加熱拡散により銅−亜鉛合金層が形成されるので、それを利用しても良い。好適な亜鉛めっきの例を下記に示す。
【0039】
(亜鉛めっき浴組成とめっき条件)
浴組成
ZnSO・7HO:50〜350g/L
pH:2.5〜4.5
浴温:40〜60°C
電流密度:5〜40A/m
処理時間:1〜30秒
【0040】
次に、亜鉛−銅合金層の上に、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる5Å〜100Åの間の厚さを有する安定化層を形成する。
一つの実施形態として、亜鉛イオンとクロムイオンとを含む電解溶液を用いて被覆層を形成することができる。電解溶液中の亜鉛イオン源としては、例えば、ZnSO,ZnCO,ZnCrO などを用いることができる。電解溶液中のクロムイオン源としては、6価クロムの塩または化合物、例えば、ZnCrO,CrOなどを用いることができる。
【0041】
電解溶液中の亜鉛イオンの濃度は、0.1〜2g/L、好ましくは0.3〜0.6g/L、さらに好ましくは0.45〜0.55g/Lの範囲とするのが良い。また、電解溶液中のクロムイオンの濃度は、0.5〜5g/L、好ましくは0.5〜3g/L、さらに好ましくは1.0〜3g/Lの範囲とするのが良い。なお、これらの条件は、あくまで効率的なめっきを行うための条件であり、必要に応じて、この条件の範囲外とすることも可能である。
【0042】
別の実施形態として、前記安定化層を形成するために、酸化ニッケルとニッケル金属、又は酸化亜鉛あるいは酸化クロム、あるいはこれらを共に被覆することができる。電解溶液のニッケルイオン源としては、NiSO,NiCO などのいずれか、またはこれらを組み合わせることもきる。
ニッケルイオンの電解溶液中の濃度は、0.2g/L〜1.2g/Lとするのが好適である。さらに米国特許5、908、544号に記載されているリンを含むような安定化層を使用することもできる。なお、これらの条件は、あくまで酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる5Å〜100Åの間の厚さを有する安定化層を効率的に形成するための条件であり、必要に応じて、上記の条件の範囲外とすることも可能である。
【0043】
電解溶液にはNaSOのような他の従来の添加物を、1〜50g/L、好ましくは10〜20g/L、さらに好ましくは12〜18g/Lの範囲の濃度で含むことができる。電解溶液のpHは一般に3〜6、好ましくは4〜5とするのが望ましい。
電解溶液の温度は、20°C〜100°C、好ましくは25°C〜45°Cとするのが好適である。
【0044】
安定化層を形成する場合、例えば銅箔に電流密度を付与するため、銅箔の各側に隣接して陽極を配置する。この陽極に電圧を加えると、例えば酸化亜鉛と酸化クロムからなる安定化層が銅箔の露出した面側の上に堆積する。
電流密度は、1から100A/ft(約10.8から約1080A/m)、好ましくは5〜25A/ft(約55から約270A/m)までの範囲、さらに好ましくは7〜15A/ft(約85から約160A/m)である。多数の陽極を設けるときは、電流密度は陽極同士の間で変えることができる。
好適なめっき時間は、1から〜30秒、好ましくは5〜20秒である。
【0045】
また、好適な例として、電解溶液中の亜鉛イオンに対するクロムイオンのモル比は0.2〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは約1.4とするのが良い。本発明によれば、銅箔に適用される安定化層の厚さは5Å〜100Åとするのが良い。好ましくは20Å〜50Åである。
以上述べてきた実施形態においては、安定化層は酸化クロムと酸化亜鉛で構成しているが、安定化層を酸化クロムのみで構成しても良く、この場合は上記に示した条件とは異なる。
【0046】
酸化クロム安定化層を適用するための浴としては、例えば次の通りである。
CrO:1−10g/L 水溶液
pH:2
浴温度:25°C
電流密度:10−30A/ft(108−320A/m
処理時間:5−10秒
【0047】
安定化層を形成するプロセスに続き、洗浄を行う。洗浄工程では、例えば銅箔の上下に配置された噴霧装置銅箔(安定化層を有する)の面上に、水噴霧をして、これをすすいで清浄にし、残留する電解溶液をそこから除去する。噴霧ノズルの下に配置した容器で洗浄した溶液を回収することができる。
上面に安定化層を有する銅箔は、さらに乾燥を行う。実施形態に示すように、強制空気乾燥器を銅箔の上下に配置して、そこから空気を噴出させて銅箔の面を乾燥させる。
【0048】
安定化層を形成した銅箔に、さらにニッケル(Ni)、クロム(Cr)又はニッケルクロム合金(NiCr合金)からなる電気抵抗膜を形成する。代表的な電気抵抗膜はNiCr合金である。この膜は、回路基板の電気抵抗素子となる。さらに、樹脂基板と電気抵抗膜(下地材)との密着性を向上させるために、テトラエトキシシラン(Si(OC:通称TEOS)を塗布・乾燥させて、目的とする銅箔を得る。このテトラエトキシシランは水溶液として使用するが、その水溶液の最適な濃度は0.1〜0.6%である。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を説明する。なお、以下の実施例は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
【0050】
(実施例1)
本実施例1においては、光学的方法で測定した十点平均粗さRzで5.1μmに調整した粗面を持つ厚さ18μm電着銅箔を使用した。この電解銅箔の粗面側に、銅−亜鉛合金層を形成した。
この銅−亜鉛合金層は、次の処理条件で実施し、単位面積当りの亜鉛含有量が約3500μg/dm(下2桁は四捨五入した)である銅−亜鉛合金層を形成した。被覆量は、処理時間により調節した。
【0051】
(銅−亜鉛合金めっきの浴組成とめっき条件)
浴組成
CuCN:90g/L
Zn(CN):5g/L
NaOH:70g/L
Na(CN):20g/L
浴温:70°C
電流密度:500A/dm
処理時間:5〜20秒
【0052】
次に、銅−亜鉛合金層上に、次の処理条件で、約50Åの酸化亜鉛−酸化クロムからなる安定化層を形成した。
(安定化処理の浴組成と処理条件)
浴組成:
ZnSO:亜鉛として0.53g/L
CrO:クロムとして0.6g/L
NaSO:11g/L
浴のpH:5.0
浴の温度:42°C
電流密度:85−160A/m
めっき時間:3−4秒
【0053】
次に、80%ニッケル(Ni)と20%クロム(Cr)よりなる合金の電気抵抗材料をスパッタリングにより、下記の条件で、前記安定化層上に付着させた。14インチのスパッタリング装置を使用した。
電力:3kW
線速度:0.4m/min
ニッケルクロム合金の厚さ:約1000Å
この抵抗材料のシート抵抗は23Ω/sq(□)であった。また、このニッケルクロム合金電気抵抗膜のシート抵抗のばらつきは7.5%であった。
【0054】
この電気抵抗膜の上にさらに、テトラエトキシシラン(Si(OC、通称TEOS)を0.5%水溶液として塗布し、乾燥させた。
さらに、この電気抵抗膜上にテトラエトキシシラン処理した銅箔と1.4mm厚のガラスクロス樹脂含浸材(エポキシ系プリプレグ)とを熱圧着(熱間プレス)して接着させた。
【0055】
(テトラエトキシシラン処理の有効性について)
上記実施例1について、電気抵抗値(シート抵抗)測定、および樹脂とのピール試験を実施した。ピール試験は、室温(常態)ピール値と半田処理後のピール値(耐熱性)で実施した。なお、半田処理後のピール値については、260°Cの溶融半田浴中に20秒間、浸漬した(すなわち加熱処理を受けた状態)後にピール値を測定したもの、すなわち熱影響を受けた後のピール値を示すものである。これは、耐熱性を評価するためのものである。以下、同様である。
【0056】
この結果を、表1に示す。なお、表1には、光学的方法(WYKOオプティカルプロファイラ、Veeco社製を使用)で測定した十点平均粗さRz(μm)、ニッケルクロム合金抵抗膜の厚さ(μm)、シラン処理の種類と有無、常態ピール強度(kN/m)と半田浴処理後のピール強度(kN/m)を示す。
この表1に示すように、実施例1において、室温のピール値が0.90kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.81kN/mとなり、他のシラン処理に比べて、最もピール値が高かった。
これは、ニッケルクロム合金抵抗膜においては、テトラエトキシシラン処理が有効であることを示すものである。
【0057】
(比較例1)
上記実施例1の効果を確認するため、実施例1の電気抵抗膜の上にテトラエトキシシラン(Si(OC:通称TEOS)を吸着・乾燥させる工程を省き、電気抵抗膜層を形成した銅箔と1.4mm厚のガラスクロス樹脂含浸材(エポキシ系プリプレグ)とを、直接熱圧着(熱間プレス)により接着させた。すなわち、実施例1との相違は、テトラエトキシシラン(TEOS)を吸着・乾燥させなかったのみである。
この結果、常態ピール値は0.57kN/m、半田浴処理後のピール強度(耐熱性)は0.53kN/mとなり、半田浴処理後のピール強度の劣化は少ないものの、ピール強度はいずれも低かった。この結果を、同様に表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
[シラン処理の種類による影響]
(比較例2−比較例9)
次に、実施例1のテトラエトキシシラン(TEOS)以外のシランについて、ニッケルクロム合金抵抗膜における、各種シラン処理(比較例2−9)を施した。他の条件は、実施例1と同様である。
上記比較例1−9について、電気抵抗値測定と樹脂とのピール試験を実施した。ピール試験は、実施例1と同様に、室温(常態)ピール強度と半田浴処理後のピール強度を測定した。この結果を、表2に示す。
【0060】
この表2に示すように、比較例2は、エポキシシランを0.4%水溶液として塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、この比較例2では、室温(常態)ピール強度が0.77kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.74kN/mとなった。
比較例3は、水溶液としてTEOS0.2%、エポキシシラン0.2%を溶解して塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、この比較例3では、室温(常態)ピール強度が0.77kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.73kN/mとなった。
【0061】
比較例4は、ビニルシランを0.4%水溶液として塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、この比較例4では、室温(常態)ピール強度が0.54kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.51kN/mとなった。
比較例5は、水溶液としてTEOS0.2%、ビニルシラン0.2%を溶解して塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、この比較例5では、室温(常態)ピール強度が0.67kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.62kN/mとなった。
比較例6は、イミダゾールシラン0.4%水溶液として塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、この比較例6では、室温(常態)ピール強度が0.53kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.41kN/mとなった。
【0062】
比較例7は、水溶液としてTEOS0.2%、イミダゾールシラン0.2%を溶解して塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、室温(常態)ピール強度が0.57kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.62kN/mとなった。
比較例8は、ジアミノシラン0.4%水溶液として塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、室温(常態)ピール強度が0.65kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.64kN/mとなった。
比較例9は、水溶液としてTEOS0.2%、ジアミノシラン0.4%を溶解して塗布し、吸着・乾燥させた場合であるが、室温(常態)ピール強度が0.58kN/m、半田浴処理後のピール強度が0.43kN/mとなった。
これらの比較例1−9については、実施例1のシラン処理(TEOS)に比べて、いずれもピール値は低下した。これらから、実施例1に示すシラン処理(TEOS)が有効であり、それ以外のシランが混合した場合でも効果が劣ることが分かる。
【0063】
【表2】

【0064】
[表面粗さ(十点平均粗さRz)による影響]
(比較例10−比較例13)
次に、良好な特性を示した実施例1の条件を基礎とし、光学的方法で測定した十点平均粗さRzを変化させた場合の特性を調べた。この場合、シラン処理をしなかった場合で、その意味では、表面粗さRzを除き、比較例1と同等である。
比較例10ではRzを4.0μm、比較例11ではRzを6.0、比較例12としてRzを7.2μm、比較例13としてRzを3.0μmとした。
他の条件は、比較例1と同様である。この結果を同様に、表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3から明らかなように、比較例10の室温(常態)ピール強度は0.52kN/mとなり、充分なピール強度が得られなかった。なお、比較例10〜比較例13までは半田浴処理後のピール強度は測定しなかった。この比較例10では、抵抗値と抵抗値のバラツキに変化があり、抵抗値は20Ω/sq(□)、抵抗値のバラツキは7.2%となった。
【0067】
表3から明らかなように、比較例11の室温(常態)ピール強度は0.70kN/mとなり、同様に充分なピール強度が得られなかった。この比較例11では、抵抗値と抵抗値のバラツキに変化があり、抵抗値は28Ω/sq(□)、抵抗値のバラツキは7.9%となった。
【0068】
表3から明らかなように、比較例12の室温(常態)ピール強度は0.92kN/mとなり、充分なピール強度は得られたが、抵抗膜の抵抗値は38Ω/sq(□)と良好な結果が得られたが、抵抗膜の抵抗値のばらつきは18%であり、ばらつきが大きくなった。
【0069】
表3から明らかなように、比較例13では抵抗値バラツキは5.8%と良好であったものの、室温(常態)ピール強度は0.38kN/mと著しく低くなった。また、抵抗膜の抵抗値は17Ω/sq(□)と低くなった。
【0070】
[テトラエトキシシラン処理の有効性と表面の粗さについて]
(実施例2−実施例3)
電気抵抗膜の上にさらに、テトラエトキシシラン(Si(OC:通称TEOS)0.5%水溶液として塗布し、吸着・乾燥させ、さらにこの電気抵抗膜上にテトラエトキシシラン処理した銅箔と1.4mm厚のガラスクロス樹脂含浸材(エポキシ系プリプレグ)と熱圧着(熱間プレス)して接着させ、電気抵抗およびピール強度測定を実施した場合であり、次に、良好な特性を示した実施例1の条件を基礎とし、光学的方法で測定した十点平均粗さRzを変化させた場合の特性を調べた。他の条件は、実施例1と同様である。
【0071】
この結果を、同様に表4に示す。この表4に示すように、実施例2及び実施例3において、室温(常態)ピール強度がそれぞれ0.81、1.02kN/m、また半田浴処理後のピール強度がそれぞれ0.76、0.90kN/mとなり、ピール値が高く、さらに抵抗値は、20Ω/sq(□)、28Ω/sq(□)となり、抵抗値バラツキは、それぞれ7.1%及び8.0%となった。
光学的方法で測定した十点平均粗さRzを変化させた場合の特性は、抵抗値と抵抗値バラツキに影響を与えるが、上記と同様に、ニッケルクロム合金抵抗膜において、テトラエトキシシラン処理が有効であることを示すものである。
【0072】
【表4】

【0073】
[Ni−Cr抵抗膜の厚さを変えた場合]
(実施例4−実施例6)
上記実施例1の条件下で、安定化層上に、各種(3種)のNi−Cr抵抗膜の抵抗膜をスパッタリングにより形成した試験を実施した。他の条件は、実施例1と同様である。
ニッケルクロム(Ni−Cr)スパッタリングの条件は、次の通りである。
14インチのスパッタリング装置を使用した。
電力:3kW
線速度:0.4−4.0m/min
ニッケルクロムの厚さ:約100Å、250Å、500Åの3種
【0074】
本実施例4−実施例6について、常態ピール強度、耐熱性を調べたが、実施例1と同様であり、いずれも良好な性質を示した。この結果を表5に示す。以上から、抵抗層の厚さに無関係に、テトラエトキシシラン処理が有効であることが分かった。
【0075】
【表5】

【0076】
[Ni−Cr抵抗膜の組成を変えた場合]
(実施例7−実施例10)
抵抗膜の厚さは、約1000Åと一定にした。Ni−Crの組成(Ni:0%、Ni:40%、Ni:60%、Ni:100%)の4種で実施した。
他の条件は、実施例1と同様であり、スパッタリングの条件は、14インチのスパッタリング装置を使用し、次の通りである。
電力:3kW
線速度:0.4m/min
【0077】
本実施例7−実施例10について、常態ピール強度、耐熱性を調べたが、実施例1と同様であり、いずれも良好な性質を示した。この結果を表6に示す。以上から、抵抗層中のNi−Cr組成とは無関係に、テトラエトキシシラン処理が有効であることが分かった。
【0078】
【表6】

【0079】
[TEOS濃度を変えた場合]
(実施例11、比較例14、比較例15)
抵抗膜の厚さは、約1000Åと一定にした。TEOS濃度(0.01、0.1、0.5、0.6%)の4種で実施した。
前記実施例1の条件下で、抵抗層上に、濃度を変えたTEOS溶液を塗布・乾燥した。他の条件は、実施例1と同様である。これを表7に示す。
対比の便宜上、実施例1及び比較例を、表7に再掲する。
【0080】
本実施例11、比較例14、比較例15について、常態ピール強度等を調べた。その結果、TEOS濃度が高くなるほどピール強度が高くなった。またTEOS濃度が0.6%になると、TEOSが水溶液中で飽和し、白濁した。このため、その後の処理は中止した。
この結果を表7に示す。以上から、TEOS溶液の濃度は0.1%から適用できるが、特に0.5%が最適であることが分かった。
【0081】
【表7】

【0082】
[圧延銅箔の使用]
(実施例12−実施例15)
本実施例では、9μm、12μm、18μm、35μmの圧延銅箔を使用した。この圧延銅箔に次の条件で、粗化処理を施した。粗化処理後の表面は、いずれも光学的方法で測定した十点平均粗さRzで5.0μmに調整した。
Cuイオン濃度:20g/L
硫酸濃度:60g/L
電解液温:40°C
電流密度:30A/dm
処理時間:5秒
【0083】
次に、この粗化処理を施した圧延銅箔に下記の条件で3500μg/dmのZnめっき層を形成した。亜鉛めっきの厚さは処理時間で調節した。
亜鉛めっき浴組成:
ZnSO・7HO:50〜350g/L
pH:3
浴温:50°C
電流密度:20A/m
処理時間:2〜3秒
この処理層を形成した銅箔を300°Cで加熱処理し、銅−亜鉛の合金層を形成した。このようにして形成された銅−亜鉛合金層の単位面積当りの亜鉛含有量は、約3500μg/dm(下2桁は四捨五入した)となった。
【0084】
次に、銅−亜鉛合金層上に、次の処理条件で、約50Åの酸化亜鉛−酸化クロムからなる安定化層を形成した。
浴組成:
ZnSO:亜鉛として0.53g/L
CrO:クロムとして0.6g/L
NaSO:11g/L
浴のpH:5.0
浴の温度:42°C
電流密度:85−160A/m
めっき時間:3−4秒
【0085】
次に、80%ニッケル(Ni)と20%クロム(Cr)よりなる合金の電気抵抗材料をスパッタリングにより、下記の条件で、前記安定化層上に付着させた。
電力:5−8kW
線速度:1.4−2.2ft/min(0.43−0.67m/min)
ニッケルクロム合金抵抗膜層の厚さ:約100Å、
なお、この抵抗材料のシート抵抗率は、22Ω/sq(□)であった。
【0086】
上記の通り、実施例1とは、粗化処理、抵抗膜の組成、抵抗膜の厚み、シラン処理の条件は、全て同一である。以上の銅箔への被覆層について、常態ピール強度、耐熱性(半田処理後のピール強度)を調べた。
この結果を、表8に示す。この表8に示すように、常態ピール強度は、0.65〜1.22kg/cmとなり、また半田浸漬後のピール強度は、0.60〜1.13kg/cmとなり、いずれも良好な性質を示した。
以上については、圧延銅箔を使用した例について説明したが、電解銅箔の光沢面(S面)においても同様の結果となった。いずれも銅箔の表面(光沢面)が共通の課題となる。本実施例は、これらを包含するものである。
【0087】
また、上記実施例と同様にCu−Zn合金層の厚さを替えた場合の試験を行ったが、同じ結果となった。したがって、電解銅箔及び圧延銅箔は、いずれも単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである銅−亜鉛合金層を形成することが接着力の向上(常態ピール強度の増加)と、耐熱性及び耐酸性に有効であることが分かった。
【0088】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、電気抵抗膜層を内蔵した銅箔を使用することにより、回路設計の際に、新たに電気抵抗素子を単独に形成する必要がなく、銅箔に形成された電気抵抗膜層を、塩化第二銅等のエッチング溶液を用いて、抵抗素子を露出させるだけでよいので、半田接合が不要となるか又は大きく軽減され、実装工程が著しく簡素化されるという効果を有する。本発明においては、特に電気抵抗膜の抵抗値のばらつきを一定の範囲に抑制できるという著しい効果を有する。さらに常態ピール強度及び半田後のピール強度を高く維持できる効果がある。
回路設計及び製作工程を著しく軽減し、銅箔に抵抗体が内蔵されることにより、高周波領域での信号特性が改善される効果を備えている。さらに、本願発明は、このような電気抵抗膜層を内蔵した銅箔に伴う欠点である接着力の低下を改善することができ、良好な耐熱性及び耐酸性を備えているという優れた効果を有するので、プリント回路基板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに調整した金属箔表面に形成した銅−亜鉛合金膜、この銅−亜鉛合金層の上に形成した酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ニッケルから選択した少なくとも1成分からなる安定化膜、さらにこの安定化層の上に形成したニッケルクロム合金からなる電気抵抗膜を備え、さらにこの電気抵抗膜上にテトラエトキシシランを吸着・乾燥させた金属箔であって、前記電気抵抗膜の抵抗値のばらつきが±10%以内であることを特徴とする電気抵抗膜を備えた金属箔。
【請求項2】
銅−亜鉛合金層は、単位面積当りの亜鉛含有量が1000〜9000μg/dmである層であり、安定化層は5Å〜100Åの間の厚さを有することを特徴とする請求項1記載の電気抵抗膜層を備えた金属箔。
【請求項3】
前記金属箔は、箔厚が5〜35μmである銅又は銅合金箔であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気抵抗膜を備えた金属箔。
【請求項4】
前記銅又は銅合金箔である圧延銅箔の表面又は電解銅箔の光沢面に粗化処理を施して、表面を光学的方法で測定した十点平均粗さRzで4.0〜6.0μmに調整した面側に、電気抵抗層を形成することを特徴とする請求項3記載の電気抵抗膜を備えた金属箔。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の金属箔を樹脂基板に接合したプリント回路用基板であって、電気抵抗膜と樹脂基板とのピール強度が0.60kN/m以上であることを特徴とするプリント回路用基板。

【公開番号】特開2011−116074(P2011−116074A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277483(P2009−277483)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】