説明

電気絶縁性シートの表面処理装置、表面処理方法、および、電気絶縁性シートの製造方法

【課題】電気絶縁性フィルムの放電処理による表面改質方法に関する。光学フィルム等のコーティング塗膜では、フィルムのぬれ性が不均一であると、ぬれが低い部分で塗布ムラが発生しやすく、光学欠点を抑制できないでいた。
【解決手段】フィルム表面に、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、処理時間0.04[秒]以上0.2[秒]以下で処理を行った後、フィルムに塗液をコーティングする。フィルム表面のぬれがばらつきなく均一であるので、コーティング塗液がはじきにくく塗布欠点を発生しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性シートの表面処理装置、表面処理方法、および、電気絶縁性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁性シートはプラスチックフィルムや単にフィルムと呼ばれている。以下は、電気絶縁性シートをフィルムと呼ぶ。ポリエステルからなるフィルムは優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性から各種光学用フィルムとして多く利用されている。特に、液晶表示装置に用いられるプリズムレンズ用のベースフィルムやタッチパネル用ベースフィルム、バックライト用ベースフィルム、反射防止フィルム用(ARフィルムと呼ばれる)ベースフィルムなどの用途では、優れた強度、寸法安定性が要求されるため、50μm以上の比較的厚手のポリエステルフィルムが好適に用いられている。
【0003】
これらの各種光学用フィルムは、プリズムレンズ加工やハードコート加工やAR加工などの後加工処理を容易にし、加工した薄膜とフィルムとの密着性を確保するため、ベースフィルム表面には易接着コーティングを実施している。このコーティングは、溶融樹脂を冷却媒体に密着冷却固化させシート状に加工し、この冷却されたフィルムを未延伸、あるいは、1軸方向に延伸した後、フィルム表面にコーティングしている。続いて、コーティングされたフィルムは、幅方向延伸機のテンター内の予熱ゾーンにて水などの溶剤を乾燥させた後に幅方向に延伸する方法がとられていた。これをインラインコートと呼ぶ。
【0004】
インラインコーティングされたフィルムを光学用途に使用する場合、コーティング層の塗布抜けや塗布ムラがあると大きな問題となる。これは、ベースフィルムのコーティング層の上に後加工するので、ベースフィルムの塗布抜けや塗布ムラが光学的欠点の原因となるためである。ベースフィルムの塗布抜けや塗布ムラを防止するためには、塗液と基材であるフィルムのぬれやすさが重要である。
【0005】
特許文献1によると、コーティングされる塗液に含まれる樹脂の種類を選び、溶媒として50重量%以下のイソプロピルアルコールを含んだ水系塗液を用いて塗液を改良し、フィルムへのぬれ性を向上している。イソプロピルアルコールの表面張力はおよそ20mN/mと低く、水の表面張力72mN/Nより小さく、フィルムに対する塗液のぬれ性が向上する。
【0006】
一方、基材であるフィルムの方のぬれ性を向上し、塗布抜けや塗布ムラを防止する技術が従来から知られている。フィルム表面のぬれ性を向上する方法のひとつとして、コロナ処理がある。コロナ処理は、被処理体であるフィルムに対し、放電を利用して非接触で処理を行うのでフィルムにキズ等の発生が少ないといった利点があり、また、同じような非接触で処理を行う大気圧プラズマ処理と比較して高速で移動するフィルムの処理が可能であるという利点がある。図4は、従来技術のコロナ処理装置の概略構成図である。コロナ処理装置は、高周波電源10、対極ロール34、放電電極31から構成されている。フィルムは対極ロール34上を密着した状態で走行し、対極ロールに対向した放電電極31と対極ロール34の隙間を図を左から右に走行している。放電電極31には、高周波電源10が高圧ケーブル11で接続されている。放電電極31と対極ロール34の電位差によって放電電極31先端ではコロナ放電が発生し、フィルム表面が処理され、フィルムのぬれ性が向上する。放電電極31はコロナ処理の処理効率や処理の均一性に大きな影響を与える。
【0007】
放電電極31は、放電電極の先端は対極ロールに対向し、フィルム幅方向に連続した形状であって、フィルム走行方向と垂直な方向から見た放電電極の先端はナイフ状になっている。ナイフ状の放電電極31は、先端が鋭利なことから、放電電極31の先端に電界が集中しすぎて不安定な放電が発生しやすくなる。特に、放電電極31への印加電圧を高くし供給電力を増加させると、赤紫色のコロナ放電の中に、対極ロール34の周面を這うようにスパーク状の放電が間欠的に混じった状態となる。スパーク状の放電は、局部的に大きな電流が流れ、持続するエネルギーが得られにくいため、間欠的に発生する。このため、放電が安定せず、正負のイオンやラジカルの濃度が不均一で表面処理の均一性が不十分となりやすく、十分なぬれ性向上が得られないため、これを防止する必要があった。
【0008】
そこで、表面処理効果が良いとともに、ムラなく均質にコロナ放電処理するために、図5に示される金属製の放電部43と表面に誘電体を被覆した回転可能なアースロール46から構成されたコロナ処理装置が特許文献2に開示されている。放電電極43の形状は、フィルム走行方向と垂直な方向から見た放電電極の断面において放電電極の先端が滑らかな曲率をもった形状で、取付装置44から一体に逆U状に分岐する2つの平行な放電電極43を有し、各放電電極の先端42を、断面が半円以上の丸みをもった膨らみ形状として互いに外側へ突出させている。この放電電極43を複数個併設した構成が開示されている。
【0009】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、特許文献2の放電電極43を用いた場合には、先端42が半円以上の丸みをもった膨らみ形状となって互いに外側に突出しているので、放電電極の先端42からアースロール46の周面に向かって一斉に生じたコロナ放電は、各先端42からアースロール46周面上に広がった状態となりやすい。そのため、処理の効果を高めるために供給電力を大きくしたときに、やはりアースロール46の周面を這うようなスパーク状の放電が間欠的に混じった状態となることがあった。従来、コロナ処理はフィルム表面の接着性や印刷性を高めるために実施されており、多少のぬれ性のばらつきがあっても接着性や印刷性に影響はなかった。しかしながら、光学用途のフィルムへのコーティングにおいては、十分なぬれ性とその均一性が従来以上に重要であり、ぬれ性のばらつきによる塗布ムラが問題となる場合がある。特に、放電電極43を複数個併設したときには、それぞれの放電電極43から拡がった不均一な放電が重なり合い、全体として均一な放電状態が得られにくいため、結果、フィルムのぬれ性を均一に向上することができない場合があった。
【0010】
特許文献2には、供給する電力についての記述はないが、コロナ処理にかける供給電力については特許文献3に開示されている。特許文献3によると、供給電力の単位面積あたりに供給される電力である、 放電密度[W/m]=供給電力[W]/放電電極の面積[m]の適正値が開示されている。この中で、フィルムのぬれ性を向上させるためには、例えば、放電密度が9×10[W/m]以上の強いコロナ放電処理を行うことが必要であると記載されている。一方、放電密度が4×10[W/m]と小さい場合には表面のぬれ性向上が十分ではないとも記載されている。すなわち、放電密度4×10[W/m]以下では、フィルム表面のぬれを向上させにくく、十分なコロナ処理効果が得られないでいた。
【0011】
以上のように、従来技術では、フィルム表面の十分なぬれ性の向上を、フィルム全面に高い均一性で得ることが困難であった。このため、光学フィルム等のコーティング塗膜では、ぬれ性が不均一なため、ぬれが低い部分で塗布ムラが発生しやすく、目で確認できる光学的な塗布ムラ欠点を抑制できないでいた。
【特許文献1】特開2002−205365号公報
【特許文献2】特許2799698号公報
【特許文献3】特開2001−59033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
フィルム表面の十分なぬれ性の向上を、フィルム全面に高い均一性で得るための課題は次の通りである。
【0013】
すなわち、コロナ処理によって表面ぬれ性が良くなり、たとえば、特性値の1つであるぬれ張力の向上効果を得るためには、フィルムを処理する供給電力が大きくなければならないが、電力を増加させると、スパーク状の足の長い放電が間欠的に混じった状態となり、放電が不均一となる。このため、フィルム表面のぬれの均一性が得にくい。この不均一な放電を発生しにくくし、複数の放電電極を併設しても安定なコロナ放電によってフィルムが処理できることである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、小さい供給電力でもコロナ処理効果が高く、複数の放電電極を用いてもフィルム表面が高い均一性で処理されることにある。また、本発明の目的は、従来技術の課題を解消し、安定した品質のフィルムからなる電気絶縁性シートの表面処理装置、表面処理方法、および、電気絶縁性シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の構成は以下の通りである。
【0015】
すなわち、本発明によれば、放電電極先端部と対極ロール間に高周波電界をかけ放電領域を形成し、該放電領域に電気絶縁性シートを移動させて前記電気絶縁性シートの表面を処理する方法であって、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが前記放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下である電気絶縁性シートの表面処理方法が提供される。
【0016】
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの製造方法であって、放電電極先端部と対極ロール間に高周波電界をかけ放電領域を形成し、該放電領域に前記電気絶縁性シートを移動させて前記電気絶縁性シートの表面を処理する方法において、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが前記放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下の表面処理方法を用い、続いて前記電気絶縁性シートに塗液をコーティングする電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの製造方法であって、溶融樹脂シートを冷却媒体に密着させて冷却固化させて電気絶縁性シートとし、該電気絶縁性シートの表面に、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下の放電処理を行い、続いて前記電気絶縁性シートに塗液を3[μm]以上30[μm]以下の厚みでコーティング後、少なくとも前記電気絶縁性シートを幅方向に延伸する電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の好ましい形態によれば、電気絶縁性シートとして、光学用途シートを用いる電気絶縁性シートの製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の別の形態によれば、電気絶縁性シートの片方の面側に設けられた放電電極と他方の面側に前記放電電極と対向するように設けられた対極ロールとを有する電気絶縁性シートの表面処理装置であって、前記電気絶縁性シートの走行方向に並べた複数個の前記放電電極が、それぞれ前記対極ロールに対向した放電電極先端部を有し、各放電電極先端部は前記電気絶縁性シート幅方向に延在した円筒の一部であり、隣り合う前記放電電極先端部の円筒の断面が直径Rn−1[mm]と直径Rn[mm](nは自然数)を有する円の一部であって、隣り合う放電電極先端部の中心間距離d[mm]において、0.25≦[(Rn−1+Rn)/2]/d≦0.5が成り立ち、かつ、前記複数個の放電電極先端部の隣り合う円筒の断面における各円中心間距離の合計D[mm]が35[mm]以上100[mm]以下である電気絶縁性シートの表面処理装置が提供される。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記対向する放電電極の先端部の最外部位と前記対極ロールの最外部位とのギャップが1.5[mm]以上4[mm]以下である電気絶縁性シートの表面処理装置が提供される。
【0021】
また、本発明の好ましい形態によれば、隣り合う放電電極先端部の円筒の断面において各直径Rn−1とRn(nは自然数)が、ともに2[mm]以上5[mm]以下である電気絶縁性シートの表面処理装置が提供される。
【0022】
本発明における「放電密度」とは、コロナ処理を行う放電の強さに関係するものであって、放電にかかる供給電力[W]を、放電電極を対極ロール方向に投影したときの放電電極の面積[m]で割った、単位面積あたりの放電の強さである。放電にかかる供給電力[W]は、高周波電源1次側の電力である。放電電極の面積とは、電極表面のうち放電している部分の面積を指す。ただし、フィルムに相対する電極面のほとんど全面で放電光が観測される場合には、電極をフィルム面に投影したときの投影面の面積として計算する。複数の放電電極からなる場合には、各放電電極の投影面積の総和である。
【0023】
本発明における「放電領域を通過する時間」とは、電気絶縁性シートであるフィルムがコロナ放電処理に晒される時間であって、コロナ処理雰囲気を通過するためにかかる時間である。コロナ処理雰囲気を通過するためにかかる時間とは、各放電電極先端部のフィルム幅方向に延在した円筒の一部において円筒の断面にあたる円の中心間距離の合計を、移動するフィルムの移動速度[m/秒]で割ったときの時間[秒]である。「コロナ放電処理雰囲気」とは、コロナ放電によって作成されたラジカルや正負のイオンが多数存在する状態の気体空間である。本発明においては、「コロナ放電処理雰囲気」のフィルム移動方向の長さは、各放電電極先端部の中心間距離の合計とほぼ一致する。
【0024】
本発明が適用される電気絶縁性シートの代表的なものは、プラスチックフィルム、布帛、紙である。フィルムの形態には、通常、ロール状に巻かれた状態で取り扱われる長尺フィルムと、通常、多数枚積層された状態で取り扱われる枚葉フィルムがある。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ナイロンフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンフィルム等がある。一般に、フィルムは、他の材料からなるフィルムに比べ、電気絶縁性が高い。電気絶縁性シートとしては、あらかじめ片面に金属などの導電性薄膜がコーティングされたものも含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来技術の課題を解消し、低い供給電力でも処理効果が良好なコロナ処理装置が得られる。本発明のコロナ処理装置を用いると、フィルム表面は、高い均一性で十分にぬれ性が向上する。本発明により表面処理したフィルムに塗液をコーティングすると、塗布欠点を発生しにくい。このため安定した品質のフィルムからなるロール体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の電気絶縁性シートのコロナ処理装置の好ましい実施形態例を図面を参照しながら説明する。電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルム(以下、単に、フィルムと呼ぶ)を用いる場合を例にとって説明する。本発明は、これらの例に限られるものではない。
【0027】
図1は本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理装置の概略図である。
【0028】
図1において、コロナ放電処理装置1は放電電極2と対極ロール6から構成される。フィルム片側に設けられた放電電極2は、複数個で構成され、各放電電極2は放電電極先端部3を有する。放電電極先端部3は、対極ロール6に対向した状態で配置され、各放電電極先端部はフィルム幅方向に延在した円筒の一部である。よって、フィルムSの走行方向から見ると、放電電極2の放電電極先端部3は、連続した形状となっている。また、放電電極先端部3をフィルムSの走行方向と垂直な方向から見ると、その断面が円筒の一部になっており、円筒の上部で放電電極2と繋がっている。放電電極先端部3の最外部位は、1.5mmから4mmの間隔を隔てて対極ロール6の最外部位と対向している。各放電電極2と放電電極先端部3は金属製の導体からなるが、必要に応じて金属製の導体の表層に誘電体などを被覆しても良い。被覆材は誘電体が好ましく、また耐熱性、耐久性の優れたものが好ましく、一般には“テフロン(登録商標)”やセラミックスが使用される。複数の放電電極においては、対向する放電電極の先端部の最外部位と前記対極ロールの最外部位とのギャップは、それぞれの形態においてほぼ一致させておくことが好ましい。
【0029】
図1において8個の放電電極2は、絶縁性の電極ホルダ9で対極ロール6に対向した状態で併設されている。各放電電極2は高圧ケーブル11で高周波電源10に電気的に接続されている。高周波電源10と放電電極2との間には、高圧トランスを設置してある(図示せず)。電極ホルダ9と複数の放電電極2は、排気フード8で囲われている。コロナ放電により発生するオゾンは排気口7から強制的に排気される(排気設備は図示せず)。対極ロール6は、金属製の芯金5の最表層に誘電体層4を形成したロールで、回転可能になっている。
【0030】
放電電極2と対極ロール6は対向する放電電極の先端部の最外部位と前記対極ロールの最外部位とのギャップを保って対向しており、被処理フィルムが放電電極2と対極ロール6の間を走行することができるようになっている。対向する放電電極2または対極ロール6の一方をアース電位:0Vにするが、図1では対極ロール6の芯金5をアース電位としている。コロナ処理は、放電電極2側のフィルム面のみが処理されるので、フィルムの両面を処理するために、コロナ放電処理装置1がフィルムSの走行方向に、同一の構成で2セット設けられている。
【0031】
図2は、本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理装置の概略図で、図1のコロナ放電処理装置1を、フィルム走行方向から示した概略図である。図2では、紙面を手前から奥にフィルムSが走行する。放電電極先端部3の最外部位と対極ロール6の誘電体層4の最外部位に挟まれた間隙が放電ギャップ20である。放電ギャップ20は、対向する放電電極先端部3の最外部位と前記対極ロール6の最外部位との距離である。放電ギャップ20は、各放電電極先端部3はフィルム幅方向に延在した円筒の一部であるので、フィルム走行方向から見た、フィルムSの幅方向においては一定距離になるように調整されている。放電ギャップ20は、放電電極先端部3のもっとも対極ロール6に近い部位から、対極ロールの最表層までの最短距離である。
【0032】
図3は、図1のコロナ放電処理装置1の放電電極2部の拡大図である。放電電極2はフィルム走行方向に、距離を離して複数併設されている。各放電電極2の放電電極先端部3の断面形状は円状、または、円の一部である。円筒はフィルム走行方向に垂直な方向に連続しており、円筒断面における円の直径はフィルム幅方向に一定値である。各放電電極先端部3の断面形状において円の直径をRn[mm](nは自然数)とする。隣接する放電電極先端部3の断面における円の直径を、Rn−1[mm]、Rn[mm]とし、放電電極先端部3の断面における円の中心間距離をdとする。n個の放電電極2が併設されている場合は、フィルム移動方向の上流から、各放電電極2の放電で極先端部3の断面における円の直径を、R1、R2、R3・・・・Rnとし、各放電電極先端部3の中心間距離をd1、d2・・・dn−1とする。各放電電極先端部3の中心間距離の合計Dは、D=d1+d2+・・・+dn−1で表され、フィルム移動方向における「コロナ放電処理雰囲気」の長さとほぼ同じとなる。本発明の効果を発現する、各放電電極先端部3の直径Rn−1、Rn2、各放電電極先端部3の中心間距離d、各放電電極先端部3の中心間距離の総和Dの構成については、後述する。
【0033】
高周波電源10は、放電電極2と対極ロール6の間で放電を起こすために必要な電圧と電流を供給する。高周波電源10から供給する周波数は、10kHz以上の交流周波数であるが、交流周波数に直流電圧を重畳してもよい。また、電圧波形は正弦波、もしくは高調波を含むものであってもよい。
【0034】
次に、動作について説明する。フィルムSは、図1左上から走行し、図1上部の対極ロール6に巻き付きながら走行し、コロナ放電処理装置1を通過する。対極ロールは時計回りにフィルムSとともに回転している。フィルムSはコロナ放電処理装置1を通過したのち、対極ロール6から引き剥がされる。続いて、図1下部の反時計回りに回転する別の対極ロール6に巻き付きながら走行し、別のコロナ放電処理装置1を通過し、対極ロール6から引き剥がされる。コロナ放電処理装置の下流には、図示しないが、除電器や除塵器を配置しコロナ処理済みフィルムを除電や除塵することも好ましい。図1において、上部のコロナ放電処理装置1と下部の別のコロナ放電処理装置でフィルムSの両面に実施しているが、必要に応じて片面のみ処理を実施しても良い。必要に応じてとは、たとえば、コーティングを行うフィルム面にのみ処理を行えばよく、片面のみコーティングを行う場合にはその片面の処理を、両面にコーティングを行う場合には両面の処理を行うなど、使い分ければよい。
【0035】
コロナ放電処理装置1の放電電極2には、高周波電源10から高圧トランスを経て所定の周波数で高電圧の信号が印加され、放電電極2と対極ロール6の電位差で放電光を伴ってコロナ放電を発生する。従って、コロナ放電が発生するために、放電電極2と対極ロール6との間隔は通常4mm以下と狭い。被処理フィルムは、放電電極2の最外部位と対極ロール6の最外部位の隙間ギャップに形成された「コロナ放電処理雰囲気」を走行する。
【0036】
コロナ放電処理雰囲気とは、放電電極2と対極ロール6間の空間が、コロナ放電によって作成されたラジカルや正負のイオンが多数存在しており気体で活性かした空間の状態をいう。コロナ処理が大気中の空気で実施される場合は、空気中の酸素分子を活性化し、酸素ラジカルまたは酸化性の強いオゾンが多数存在する。酸素ラジカルやオゾンは、フィルムSの表面に衝突し、炭化水素結合を切断し、炭素に酸素ラジカルが付加して酸化反応を起こす。これにより、フィルムSの表面には、親水性の高いヒドロキシル基やカルボキシル基等が形成される。親水性の高い極性基がフィルム表面に付与されることで、フィルム表面のぬれ性が向上する。
【0037】
なお、コロナ放電を利用する静電気除去装置は、発光する放電領域にフィルムを晒すことはせず、原理的には、針状あるいは細線状の放電電極等の先端でのみコロナ放電によりイオンを発生させ、そのイオンでフィルムの帯電を中和するというものが一般に使用される。つまり、静電気除去装置や除電器は、前述のコロナ放電処理雰囲気とは異なるものである。
【0038】
フィルムSへのコロナ放電処理は次の二つのコーティング向けに行われる。ひとつは、樹脂を溶融し成形したのち、縦方向と横方向に延伸する製膜工程において、製膜工程の途中で「インラインコーティング向け」として行われる。もうひとつは、製膜工程で一旦ロール上に巻き上げた後、再びフィルムを巻出す、「オフラインコーティング向け」として行われる。
【0039】
本実施形態のコロナ処理方法が、光学フィルムの製膜工程のインラインコーティング向けに行われる場合を以下に説明する。フィルムSは、透明性が高いポリエステルフィルムなどが好ましく用いられる。光線透過率が高く、光学欠点が少ない光学用フィルム向けには、フィルムの原料樹脂中に含まれている異物を除去するために、溶融押出しの際に高精度濾過を行う。
【0040】
溶融したPET樹脂を回転する冷却ドラム上にダイからシート状に押し出し、冷却ドラムに密着させ、急速に冷却しフィルムに成型したあと、冷却ロールから引き離す。得られた未延伸フィルムを、80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸延伸フィルムを得る。
【0041】
図7は、コロナ処理装置とコーティング装置からなる工程の概略図である。図7では、2つのコロナ処理装置1のフィルム走行方向の下流に、コーティング装置47が設けてある。図7では、フィルムの両面をコロナ処理した後、搬送ロール50でフィルム走行方向を反転しながらフィルムが移動し、コーティング装置47に送られる。コーティング装置47には、塗液48が供給されており(供給装置は図示せず)、塗液をフィルムSの表面に薄く付着させる。
【0042】
一軸延伸したフィルムに、本実施形態のコロナ処理を実施したあと、引き続きコーティング工程へ走行し、コロナ処理を実施したフィルムSの各面に塗液がコーティングされ、コーティング済みフィルムとなる。この場合のコーティングは、フィルムに易接着性を付与し客先後工程での接着性を向上させるためや、フィルムの走行性をよくするために易滑性を向上するなどの目的で行われる。コーティング厚さ(ウェット厚さ)は3〜30μmが好ましい。
【0043】
さらに、フィルムSは、端部をクリップで把持され、70〜140℃に加熱された熱風ゾーンに導びかれ、幅方向に2.5〜5.0倍延伸される。インライン方式の場合、コーティング塗液の乾燥工程は、幅方向への延伸加熱と同時に処理してもよい。
【0044】
コーティング塗液は、特に溶媒系を限定するものではないが、作業環境及び環境保護の面から水系塗液であることが好ましい。塗液には、複数の樹脂等を添加してもよい。塗液には、ハンドリング性、帯電防止性、抗菌性など、他の機能性をフィルムに付与するために、無機及び/または有機粒子、帯電防止剤、紫外線吸収剤、有機潤滑剤、抗菌剤、光酸化触媒などの添加剤を含有させることができる。また、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のなどの界面活性剤を10重量%以下添加してもよい。コーティング塗液に界面活性材を添加するとフィルムとのぬれ性がよくなるが、一方で、塗液に発生した気泡が消滅しにくいという懸念点がある。
【0045】
光学フィルムとして使用されるフィルムの光学欠点とは、目で見えるか見えないかのレベルであり、要求が厳しい場合にはおよそ20〜100μmの大きさが欠点となる。このため、コーティングされた被覆膜には、非常に高い均質性が求められる。コーティング被覆膜の均質性を達成するには、フィルムSの表面のぬれ性が非常に均一な状態であって、ぬれ性にムラや欠陥がないことが重要である。
【0046】
本発明者らの知見によれば、上述したような対極ロール6を這うような足の長いスパーク状の放電は、以下の場合に発生しやすい。
(1)放電電極2の最外部位と対極ロール6の最外部位の間隙、つまり放電ギャップ20が大きいとき。
(2)放電電極2がナイフ型やブレード型のようなシャープな場合で、放電電極先端部に電界が極度に集中したとき。
(3)放電密度が大きいとき。
(4)複数の放電電極を併設し供給電力を大きくしたとき。
【0047】
このような放電が発生しにくい本実施形態の放電電極2の面積と放電電極2の形状について次に説明する。
【0048】
まず、(1)については、対極ロール6を這うような足の長いスパーク状の放電は、放電電極2の最外部位と対極ロール6の最外部位との放電ギャップ20が4[mm]以下のときには発生しにくい。放電電極2の最外部位と対極ロール6の最外部位との放電ギャップ20が4mmを超えると、電界が弱く放電が発生しにくくなるため、供給電力を上げて放電電極の電位を高くして電界を集中させてコロナ放電を発生させる。このため、スパーク状の放電が間欠的に発生するようになり、ぬれのばらつきが発生し均一性が十分ではない。一方、放電ギャップ20が小さすぎると、熱膨張やロールの偏心により放電電極2とフィルムSが接触し、フィルムの破れやすりキズなどが発生し、フィルムの品位を低下させてしまう。一般に、光学フィルムの厚みは0.1〜1mmであるが、少なくとも1.5[mm]以上の間隙が必要である。よって、放電電極2と対極ロール6との間隙は、1.5[mm]以上4[mm]以下が好ましい。
【0049】
次に、(2)のついては、放電電極2の先端形状は、尖った形状より、曲率をもった丸みを有するものが有効である。先端形状3は、フィルム長手方向と垂直な方向から見た、放電電極先端部の形状において、円あるいはその一部としたときの円の直径が2[mm]以上から5[mm]以下が有効である。より好ましくは、3[mm]から4[mm]が有効である。2mm未満となると、上述のように放電電極先端部3に電界が集中しやすくフィルムのぬれ性にばらつきが発生しやすい。5mmを超えると、電界の集中が弱まりコロナ放電が不安定になり、フィルムのぬれ性にばらつきが発生しやすい。なお、各放電電極先端部はフィルム幅方向に延在した円筒の一部であって、フィルム幅方向には円筒が連続しているほうが好ましい。
【0050】
次に、(3)(4)について説明する。光学向けポリエステルフィルムにおいては、コーティング時のフィルム表面のぬれ張力が55[mN/m]以上であることが好ましい。表面のぬれ張力が55[mN/m]未満だと、コーティング工程において微小なコーティングムラが発生し、光学的な欠点となる不具合が生じる場合がある。フィルムのぬれ張力は塗液の種類やコーティング方法にもよるが、概ね、55[mN/m]以上で均一性が高ければよい。
【0051】
従来、低い放電密度でコロナ処理を行っても十分なぬれ性が得られないので、大きい放電密度でコロナ処理を行ってフィルムSのぬれ性を向上していた。すなわち、55[mN/m]以上のぬれ張力を得るため、放電密度は数10×10[W/m]以上としていた。しかしながら、放電密度が10×10[W/m]では、電界が強すぎて、フィルムを這うような足の長いスパーク状の放電が発生し、ぬれの均一性が損なわれていた。本発明者らは、たとえば、放電密度4×10[W/cm]以下の小さい放電密度でも、フィルムのぬれ性が向上できる電極形状と電極配置と、コロナ放電雰囲気にさらされる時間の関係を見出した。
【0052】
放電密度は、放電電極の単位面積あたりに供給される電力を表し、式(1)で表される。
【0053】
放電密度[W/m]=供給電力[W]/放電電極の面積[m] ・・・式(1)
式(1)によると、放電電極面積が大きくなれば放電密度が小さくなることが分かる。よって、放電面積を大きくして、放電密度を小さくすればぬれ張力のばらつきが抑えられる。上述のように、放電電極先端部を円あるいはその一部としたとき、直径が2[mm]から5[mm]が有効であるので、放電電極を複数併設して放電面積を大きくとることが好ましい。
【0054】
本実施形態を達成するためには、複数の放電電極を併設する際、各放電電極先端部3のコロナ放電の広がりを制御する。放電電極2と対極ロール6との間隙が、1.5[mm]以上4[mm]以下で、各放電電極先端部3の形状が円あるいはその一部としたときの円の直径が2[mm]から5[mm]の場合、コロナ放電の広がりは放電電極先端部3の直径Rの2倍から4倍が好ましい。コロナ放電の広がりは、放電電極2にかける供給電力により異なる。放電電極2にかける供給電力が大きいほど対極ロール上でコロナ放電が広がり、次第に足の長いフィルムを這うスパーク状のコロナ放電が発生しやすくなる。コロナ放電の広がりが、放電電極先端部3の直径Rの2倍から4倍の範囲であれば、ぬれを不均一にする足の長いスパーク状の放電がほとんど回避できるため好ましい。コロナ放電の広がりが直径Rの4倍を超えると、ぬれを不均一にする足の長いスパーク状の放電が発生してしまう。
【0055】
一方、供給電力が小さいほどコロナ放電の広がりが小さくなるが、隣接する放電電極先端部3同士の間に「コロナ放電処理雰囲気」が形成されず、コロナ処理の均一性が悪くぬれ性が十分に上がらない。また、さらに、供給電力が小さくなりすぎると、放電電極先端部3の全領域が安定に放電しなくなって、コロナ処理の均一性が悪くフィルム表面のぬれ性が上がらない。
また、隣接する放電電極先端部3が近すぎると、すなわち、放電電極先端部の直径Rの2倍未満であると、放電電極先端部3の間隔が狭すぎて異常放電が発生しやすくなる。このため、各放電電極先端部3からのコロナ放電の広がりは放電電極先端部3の直径Rの2倍から4倍が適している。
【0056】
放電電極が複数併設されている場合、隣り合う放電電極の放電の重なりがコロナ処理を不均一にする原因となる。隣り合う放電電極先端部の中心間距離dは、各放電電極において2Rから4R(Rは直径。隣接する放電電極の直径は同一とする)の片側の広がりであるRから2Rを両側分足したものであるので、2R≦d≦4Rとなり、2≦d/Rn≦4が得られる。放電電極の直径と隣り合う放電電極2との間隔において、隣り合う放電電極先端部3の直径Rn−1[mm]と直径Rn[mm]の平均値が、隣り合う放電電極先端部の中心間距離d[mm]、0.25≦[(Rn−1+Rn)/2]/d≦0.5が成り立つときに、隣接する放電電極間の放電の重なりが強くなく、ぬれを不均一にする足の長いスパーク状の放電が回避でき、フィルムSの表面張力のムラがなく均一性の高い処理が可能となることを見出した。
【0057】
フィルムSのぬれを十分上げるには、放電密度は小さいままでも、コロナ放電を行う処理時間を長くとることで解決される。放電電極2が大きくなれば、フィルムSが放電電極下を通過するために必要な時間が長くなり、コロナ処理雰囲気に長く晒されることになる。しかしながら、単に放電電極を大きくしても、機械的に寸法が大きくなって対極ロールに対向させて放電ギャップ20を調整することが困難である。本実施形態において、複数の放電電極を、隣り合う放電電極先端部の中心間距離d[mm]、0.25≦[(Rn−1+Rn)/2]/d≦0.5で配置すると、実際には、フィルムSがコロナ放電に晒されるのは、放電電極を投影した実長さではなく、各放電電極間の中心間の距離を合計したものと一致するので、同じ放電電極面積で処理時間を実長さの倍程度に効率よく稼ぐことができる。このため、コロナ処理雰囲気にフィルムSが長く晒され、十分なぬれ張力を得ることができることを見出した。この条件では上述のようにぬれ張力の均一性は高いままである。
【0058】
図6は、本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理方法において、処理時間とフィルムSのぬれ性を示す特性図である。横軸の処理時間は、各放電電極先端部3の中心間距離の合計長さ[mm]を、フィルムSの移動速度[mm/秒]で割ることで求めた。縦軸は、フィルムSのぬれ張力をぬれ試薬を用いて測定した値である。放電密度が4×10[W/m]を超えるとフィルムを這うような強い放電が発生しフィルムのぬれ性が不均一になってしまうので、放電密度は、□は1.5×10[W/m]、○は3×10[W/m]、△は4×10[W/m]で行った。図6より、放電密度4×10[W/m]以下で55[mN/m]以上のぬれ張力が得られるのは、処理時間が0.04[秒]以上に長いときである。フィルムSは、工程にもよるが、およそ20[m/分]から50[m/分]で走行するので、0.04[秒]以上の処理時間を稼ぐには、複数個の放電電極先端部の隣り合う円筒の各中心間距離の合計D[mm]が35[mm]以上が好ましい。
【0059】
処理時間の上限値は、処理時間に比例して、放電電極からの熱を輻射されるので、0.2[秒]以下が好ましい。0.2秒を超えて処理時間を長くすると、品種によってはフィルム表面にオリゴマーが析出しやすくなるので、フィルムの品位を落としてしまう。また、複数個の放電電極先端部の隣り合う円筒の各中心間距離の合計Dが大きくなりすぎると、放電電極の最外部位と対極ロールの最外部位との放電ギャップが一定値となりにくくなるので、100[mm]以下が好ましい。
【0060】
放電密度の下限は、放電電極と対極ロール間にコロナ放電が発生しない状態から、放電電極への供給電力を徐々に上げていったときに、放電電極全幅に亘りコロナ放電が開始し始めるときの最小の放電密度である。電極形状や対向する放電電極の先端部の最外部位と前記対極ロールの最外部位とのギャップ、対極ロール、フィルム特性などの条件によって異なるが、概ね1×10[W/m]未満では放電が観測されないので、この値を下限値とする。
【0061】
つまり、均一性が高くぬれ性のよいフィルムSは、放電密度1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下で、0.04[秒]以上0.2[秒]以下のコロナ放電処理を行うことで達成される。このフィルムSにコーティングを行うと、塗布ムラがでにくく、良好なコーティング塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
以下に、実施例を挙げて本実施形態を具体的に説明する。フィルムはポリエステルフィルムを用い、製膜工程のインラインコーティング向けにフィルムのぬれ性を向上させた。
【0063】
実質的に粒子を含まないポリエチレンテレフタレートを180℃の温度で5時間減圧乾燥した後、押し出し機に供給したあと、溶融したPET樹脂を回転する冷却ドラム上にダイからシート状に押し出し、冷却ドラムに密着させ、急速に冷却しフィルムに成形したあと、冷却ロールから引き離した。得られた未延伸フィルムを、95℃に加熱したロールで長手方向に3.3倍延伸して、一軸延伸フィルムを得た。このときの膜厚は450μmであった。フィルムの移動速度は42m/分であった。
【0064】
一軸延伸したフィルムに、コロナ放電処理を実施し、引き続きコーティング工程へ移動させ、コロナ放電処理を実施したフィルム面に塗液をコーティングした。
【0065】
コーティング塗液は、水系塗液で、ポリスチレンスルホン酸アンモニウムと、酸成分とグリコール成分からなる重量比で15/85に混合したポリエステル樹脂を含めた。コーティングは、メタリングバーを使用し、ウエット厚みを10μmとした。さらに、フィルムSの端部をクリップで把持して、70〜140℃に加熱された熱風ゾーンに導き、幅方向に3.3倍延伸し、最後に巻き取った。
【0066】
コロナ放電処理はフィルム片面のみ行った。コロナ処理装置としては、図1上部の概略構成図で示すコロナ放電処理装置1で行った。高周波電源として、AGI−030(春日電機製)を用い、高圧トランスを介して、放電電極と高圧ケーブルで電気的に接続した。対極ロール6の誘電体被覆は材質がハイパロンゴムで、ゴム厚5mmとした。対極ロール6の芯がねはSUS製とし、アース(0V)に電気的に接続した。放電電極2は、それぞれ対極ロールに対向した放電電極先端部3を有し、各放電電極先端部はフィルム幅方向に延在した円筒の一部であり、隣り合う前記放電電極先端部の円筒の断面が円の一部を含む形状とした。放電電極2は、絶縁性のホルダ9で固定した。放電電極2は材質がSUSからなり、同じものを8個併設した。すべての放電電極先端部3の直径は同じで、隣り合う放電電極先端部3の断面の円の直径R1〜直径R8[mm]はすべて3mmであった。隣り合う放電電極先端部3の円筒の中心と中心とを結んだときの隙間d1〜d7(中心間距離と呼ぶ)は、すべて9mmとした。隣り合う円筒の各中心間距離の合計は63[mm]とした。[(Rn−1+Rn)/2]/dの値(n=1〜8)は1/3であった。処理時間は0.09[秒]であった。また、対向する放電電極先端部3の最外部位と対極ロールの最外部位との間隙である放電ギャップ20は2.0[mm]とした。放電電極2の長さ方向の長さは、1.2m、対極ロールの長さ方向の長さは1.4mであった。
【0067】
コロナ放電処理条件は、高周波電源から周波数11kHzで、供給電力が4×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。
【0068】
評価は次の項目を実施した。
(1)コーティング塗膜のはじき状態
蛍光灯の光をコーティング液膜に反射させ、目視にて、コーティング直後の未乾燥状態の塗布はじきを観察し、次の2水準で判定した。はじきとは、コーティング塗布面が平滑ではなく、局所的に凸凹が生じていることをいう。
【0069】
良好:コーティング直後にはじき発生なし。
【0070】
不良:コーティング直後にはじきが発生し、ムラが見える。
(2)コーティング済みフィルムの塗布ムラ発生状況
乾燥後のコーティング済みフィルムを光学的欠点検査装置で観察し、次の2水準で判定した。
【0071】
良好:コーティング膜に塗布ムラが、1×10−2あたり1個以下。
【0072】
不良:コーティング膜に塗布ムラが、1×10−2あたり1個超える。
(3)フィルムのぬれ張力
コーティングを実施しないで、コロナ放電処理したフィルムを採取し、ぬれ試薬(ナカライテスク社製)を用いて、ぬれ張力を測定した。測定温度は23℃、湿度50−55%RHで実施した。
(4)フィルムのぬれ張力の均一性
(3)と同様にコーティングを実施しないで、コロナ放電処理したフィルムを採取し、90℃の蒸留水をためたパンから、100mm離してフィルム(サイズA4)を置き、湯気の付着状況を目視で観察し、ぬれ張力の均一性を次の2水準で評価した。
【0073】
良好:A4サイズで付着ムラがないか、2個以下の状態
不良:A4サイズで付着ムラが3個以上多発する状態
結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
実施例1において、放電電極2を6個とし、すべての放電電極先端部3の直径は同じで、3mmとした。放電電極2の隣り合う円筒の各中心間距離は、すべて7mmとした。隣り合う円筒の各中心間距離の合計は35[mm]とした。[(Rn−1+Rn)/2]/dの値は3/7、およそ0.43であった。処理時間は0.05[秒]であった。供給電力が3×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。他は同様とした。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、放電電極2を8個とし、すべての放電電極先端部3の直径は同じで3mmとした。放電電極2の隣り合う円筒の各中心間距離は、すべて5mmとした。隣り合う円筒の各中心間距離の合計は35[mm]とした。[(Rn−1+Rn)/2]/dの値は0.6であった。供給電力が4×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。他は同様とした。結果を表1に示す。放電電極2の隣り合う円筒の各中心間距離が近すぎるため、各放電電極先端部3からの放電が不安定になり、処理効果の均一性が得られなかった。処理時間は0.05[秒]であった。
[比較例2]
実施例1において、放電電極2を3個とし、すべての放電電極先端部3の直径は同じで3mmとした。放電電極2の隣り合う円筒の各中心間距離は、すべて9mmとした。隣り合う円筒の各中心間距離の合計は18[mm]とした。[(Rn−1+Rn)/2]/dの値は1/3、およそ0.33であった。処理時間は0.026[秒]であった。供給電力が4×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。他は同様とした。結果を表1に示す。コロナ放電処理雰囲気に晒される時間が短く、高いぬれ性が得られなかった。
[比較例3]
比較例2において、供給電力が10×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。他は比較例2と同様とした。結果を表1に示す。放電電極先端部に電界が集中し、フィルム表面を這うような足の長い放電が発生し、フィルムのぬれ性にばらつきが発生した。
[比較例4]
図4の構成からなる従来技術のコロナ処理装置を用いた。放電電極は材質がSUSからなり、ナイフ型の放電電極で先端の幅は1mmとした。放電電極の個数は1個とした。コロナ処理条件は、供給電力が3×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。他は実施例1と同様に行った。放電密度が小さく処理時間も短いのでフィルムのぬれ性の向上が十分でなかった。
[比較例5]
比較例2において、供給電力が40×10[W/m]になるように電圧、電流を調整した。放電電極先端部に電界が集中し、フィルム表面を這うような足の長い放電が発生し、ぬれ性にばらつきが発生した。また、ぬれ性の向上も不十分であった。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、電気絶縁性シートであるフィルムのコーティングに対し、フィルムのぬれ性がばらつきなく高い均一性で向上させることができる。基材としては、ガラス等の枚様基板、回路材基板へ応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理装置の概略縦断面図である。
【図3】本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理装置の放電電極部の拡大図である。
【図4】従来技術のコロナ処理装置の概略構成図である。
【図5】従来技術のコロナ処理装置の概略構成図である。
【図6】本発明の一実施態様を示すコロナ放電処理方法において、処理時間とフィルムSのぬれ性を示す特性図である。
【図7】コロナ処理装置とコーティング装置からなる工程の概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1: コロナ放電処理装置
2:放電電極
3:放電電極 の先端部
4:対極ロールの誘電体層
5:対極ロールの芯金
6:対極ロール
7:排気口(排気装置の一部)
8:排気フード
9:絶縁性のホルダ
10:高周波電源
11:高圧ケーブル
20:放電ギャップ
30:従来技術のコロナ処理装置
31:ナイフ型放電電極
33:ニップロール
34:対極ロール層
40:従来技術の別のコロナ処理装置
42:放電電極の先端
43:放電電極
44:取付装置
45:碍子
46:アースロール
47:コーティング装置
48:塗液
50:搬送ロール
S:電気絶縁性シート
R1:放電電極先端部の直径
R2:隣接する放電電極先端部の直径
d:隣接する放電電極先端部の中心間距離
D:各放電電極中心間距離の合計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極先端部と対極ロール間に高周波電界をかけ放電領域を形成し、該放電領域に電気絶縁性シートを移動させて前記電気絶縁性シートの表面を処理する方法であって、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが前記放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下であることを特徴とする電気絶縁性シートの表面処理方法。
【請求項2】
電気絶縁性シートの製造方法であって、放電電極先端部と対極ロール間に高周波電界をかけ放電領域を形成し、該放電領域に前記電気絶縁性シートを移動させて前記電気絶縁性シートの表面を処理する方法において、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが前記放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下の表面処理方法を用い、続いて前記電気絶縁性シートに塗液をコーティングすることを特徴とする電気絶縁性シートの製造方法。
【請求項3】
電気絶縁性シートの製造方法であって、溶融樹脂シートを冷却媒体に密着させて冷却固化させて電気絶縁性シートとし、該電気絶縁性シートの表面に、放電密度が1×10[W/m]以上4×10[W/m]以下、かつ、前記電気絶縁性シートが放電領域を通過する時間が0.04[秒]以上0.2[秒]以下の放電処理を行い、続いて前記電気絶縁性シートに塗液を3[μm]以上30[μm]以下の厚みでコーティング後、少なくとも前記電気絶縁性シートを幅方向に延伸することを特徴とする電気絶縁性シートの製造方法。
【請求項4】
電気絶縁性シートとして、光学用途シートを用いることを特徴とする請求項2または3に記載の電気絶縁性シートの製造方法。
【請求項5】
電気絶縁性シートの片方の面側に設けられた放電電極と他方の面側に前記放電電極と対向するように設けられた対極ロールとを有する電気絶縁性シートの表面処理装置であって、前記電気絶縁性シートの走行方向に並べた複数個の前記放電電極が、それぞれ前記対極ロールに対向した放電電極先端部を有し、各放電電極先端部は前記電気絶縁性シート幅方向に延在した円筒の一部であり、隣り合う前記放電電極先端部の円筒の断面が直径Rn−1[mm]と直径Rn[mm](nは自然数)を有する円の一部であって、隣り合う放電電極先端部の中心間距離d[mm]において、0.25≦[(Rn−1+Rn)/2]/d≦0.5が成り立ち、かつ、前記複数個の放電電極先端部の隣り合う円筒の断面における各円中心間距離の合計D[mm]が35[mm]以上100[mm]以下であることを特徴とする電気絶縁性シートの表面処理装置。
【請求項6】
前記対向する放電電極の先端部の最外部位と前記対極ロールの最外部位とのギャップが1.5[mm]以上4[mm]以下であることを特徴とする請求項5に記載の電気絶縁性シートの表面処理装置。
【請求項7】
隣り合う放電電極先端部の円筒の断面において各直径Rn−1とRn(nは自然数)が、ともに2[mm]以上5[mm]以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の電気絶縁性シートの表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−43215(P2010−43215A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209539(P2008−209539)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】