説明

電気自動車用変速装置

【課題】小型で、動力損失が少なく、安全性が高い電気自動車用変速装置を提供すること。
【解決手段】変速装置10は、モータ12、入力軸14、出力軸16、そして、入力軸14から出力軸16に向けて順に、シンクロ機構20、クラッチ機構30、遊星歯車機構40が配設されている2段変速の変速装置である。入力軸14と出力軸16が同一線上に配置されているため、変速装置10は、二軸式の変速機に比べ小型である。第1速(低速)時は、シンクロ機構20が締結状態、クラッチ機構30が解放状態となり、モータのトルクが遊星歯車機構40を介して減速されて出力軸16に伝わる。第2速(高速)時は、シンクロ機構20が解放状態、クラッチ機構30が締結状態となり、入力軸14と出力軸16が直結状態となるため、ギアの噛合い伝達による動力損失が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを利用して走行する電気自動車の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、バッテリーに蓄えられた電力を使用し、モータを駆動させ走行する。モータは回転数がゼロの時に大きなトルクを発生させることができ、回転数域が広いため、電気自動車に変速装置は必ずしも必要とならない。モータの出力特性は図12に示す通りであり、モータの最高回転速度の1/2程度までが一定の出力トルクである。この一定の出力トルクを増大させるためにはモータを大型化させる必要があるが、2段変速程度の変速装置を設けることにより、モータを大型化させることなく、出力トルクの増大を実現することができる。ここで、電気自動車用の変速装置の例として、特許文献1、2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−49765号公報
【特許文献2】特開2005−30430号公報
【0004】
特許文献1には、内燃機関搭載車に用いられている手動変速装置を転用し、パーキングロック機構を付加した電気自動車用のパーキングロック機構付変速装置が開示されている。
特許文献2には、入力軸に連結されるサンギアと、サンギアの外側に配置されるリングギアと、出力軸に連結されるプラネットキャリアに回転自在に装着されサンギアとリングギアに噛合うピニオンギアを具えた遊星歯車機構と、入力軸とリングギアの間に設けられ、入力軸とリングギアを締結する締結状態と、締結を解放する解放状態に切換える変速クラッチと、入力軸に連結され、入力軸と一体で回転する摩擦要素と、リングギアとケース体の間に組込まれ、摩擦要素の回転と同一方向へのリングギアの回転を許容し、摩擦要素の回転と回転方向へのリングギアの回転を阻止する2方向クラッチを有する変速装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に挙げられる、内燃機関搭載車に用いられている手動変速装置を転用した電気自動車用変速装置には、内燃機関搭載車用の平行二軸式手動変速装置のギアを間引きして2段又は3段変速としたものや、クラッチを省略したものが多く存在する。このような変速装置は、常に、ギアの噛合いによって動力を伝達するため、動力損失が発生することは避けられず、しかも、二軸式であるため、変速装置の構造が大型化、複雑化する。
【0006】
また、特許文献2のように、内燃機関搭載車用の変速装置を転用した電気自動車用変速装置に比べ小型の、入力軸と出力軸とを同一線上に配置した、2段変速の電気自動車用変速装置が提案されている。この変速装置はクラッチと遊星歯車機構を利用し、リングギアの正逆回転を許容又は阻止する2方向クラッチを遊星歯車機構に組込むことによって、モータの正転による前進と逆転による後退とを可能としたものである。しかし、第1速で下り坂を走行する場合は、2方向クラッチが解放されてニュートラルの状態となるため、電気自動車が暴走する危険性がある。同様に、第1速で制動する場合には、強制的に第2速に変速しなければ、モータによるエネルギー回生ができないという問題がある。
【0007】
本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑み、小型で、動力損失が少なく、制動時に強制的に第2速に変速せずともエネルギー回生を可能とする電気自動車用変速装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、変速を操作するフォークロッド、シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構を具え、モータに連結される入力軸と、車輪に連結される出力軸が同一線上に配置され、ハウジングに収容される、2段変速の電気自動車用変速装置であって、
前記ハウジング内部において、前記入力軸から出力軸に向けて順に、前記シンクロ機構、クラッチ機構、及び遊星歯車機構が配設されており、
前記シンクロ機構のスリーブが前記フォークロッドと連結され、該スリーブとスプライン嵌合するハブが、前記入力軸上に回転不能に固定され、コーン部が前記クラッチ機構のクラッチドラムに連結されており、
前記クラッチ機構は、前記入力軸とクラッチドラムを締結する締結状態と、解放する解放状態に切換えられ、
前記遊星歯車機構は、シングルピニオン式であって、前記入力軸とサンギアが連結され、リングギアが前記クラッチドラムと連結され、プラネットキャリアが前記出力軸と連結されており、
前記シンクロ機構の締結時は、前記クラッチ機構は解放され、前記シンクロ機構の解放時に、前記クラッチ機構が締結されることを特徴とする電気自動車用変速装置によって前記課題を解決した。
【0009】
また、請求項2のように、遊星歯車機構がダブルピニオン式であって、プラネットキャリアがクラッチドラムと連結され、リングギアが出力軸と連結される構成とすることが、一つの代表的実施形態である。
【0010】
また、請求項3のように、請求項1又は2の発明において、フォークロッドとスリーブがシフトフォークによって連結され、フォークロッドとシフトフォークの間にコイルばねが配設され、フォークロッドの操作時に、コイルばねが圧縮され、コイルばねの弾性反発力によってシフトフォークが押進される構成とすることが好ましい。
【0011】
また、請求項4のように、請求項1から3のいずれかの発明において、潤滑油掻揚げギアが、ハウジング内部に注入された潤滑油に浸るように、出力軸に設けられ、出力軸の回転時、潤滑油掻揚げギアによって潤滑油が掻揚げられる構成とすることが好適である。
【0012】
また、請求項5のように、請求項1から4のいずれかの発明において、パーキングロックギアがフォークロッドに回転不能に固定され、駐車時、パーキングロックギアが出力軸に設けられたパーキングギアと噛合う構成とすることが好適な実施形態である。
さらに、請求項6のように、パーキングギアが潤滑油掻揚げギアを兼ねる構成とするとよい。
【0013】
また、請求項7のように、請求項5、6の発明において、フォークロッドとパーキングロックギアの間にコイルばねが配設され、パーキングロックギアとパーキングギアの歯面に面取加工がされた構成とすることが好ましい。
【0014】
また、請求項8のように、請求項4から7のいずれかの発明において、ハウジング上部の内壁が出力軸側から入力軸側へ傾斜する斜面を有し、入力軸及び出力軸が挿通する挿通孔のあるハウジング側面の内壁に、挿通孔を底部としたV字状のリブが設けられ、シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構に潤滑油が浸入できるように、孔が、ハウジング、シンクロ機構のハブ及び遊星歯車機構のリングギアに設けられた構成とすることが好適である。
【0015】
また、請求項9のように、請求項1から8のいずれかの発明において、第1速のときのみ、モータの逆転が可能となるよう電子制御される構成とすることが、好ましい実施形態である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、入力軸と出力軸が同一線上に配置されるため、内燃式機関の変速装置を転用した変速装置に比べ、変速装置を小型化することができる。また、第1速ではシンクロ機構が締結状態、クラッチ機構が解放状態となるため、クラッチドラム及びリングギアが回転不能に固定される。このため、入力軸から伝わるトルクは、サンギアからピニオンギア、そしてプラネットキャリアを通じて減速されて出力軸に伝わる。この時、遊星歯車機構を利用してトルクを減速し伝達しているため、ギアの噛合い伝達による動力損失が発生する。一方、第2速ではシンクロ機構が解放状態、クラッチ機構が締結状態となり、入力軸の回転が同速度で、同方向に、サンギア及びリングギアへ伝達される。よって、サンギアとリングギアに挟持されるピニオンギア及びプラネットキャリアに連結される出力軸が、入力軸の回転と同速度で、同方向に回転する。すなわち、入力軸と出力軸は直結状態となり、ギアの噛合い伝達による動力損失を避けることができる。また、第1速で制動する際も、シンクロ機構によって遊星歯車機構のリングギアが回転不能に固定されているため、出力軸の回転はピニオンギアから入力軸のサンギアに伝達される。よって、第1速で制動する際も、第2速に強制的に変速することなくエネルギー回生が可能である。
【0017】
請求項2によっても、請求項1の発明と同一の作用、効果が得られる。
【0018】
請求項3によれば、フォークロッドとスリーブがシフトフォークによって連結され、フォークロッドとシフトフォークの間にコイルばねが配設されているため、第2速から第1速への変速時、フォークロッドを操作すると、コイルばねが圧縮され、圧縮されたコイルばねの弾性反発力によりシンクロ機構のスリーブ、ハブ及びキーが押進される。このため、シンクロナイザリングとコーン部の摩擦によってクラッチドラムが制動した際、スリーブのスプライン部がシンクロナイザリング及びクラッチドラムに設けられたスプライン部と自動的に嵌合し、シンクロ機構が締結状態となる。このような構成とすれば、サーボモータ等で変速を自動化した、オートマチックトランスミッションの場合でも本発明は適用可能となる。
【0019】
請求項4によれば、潤滑油掻揚げギアが、ハウジング内部に注入された潤滑油に浸るように、出力軸に設けられているため、出力軸の回転時、潤滑油掻揚げギアによって潤滑油が掻揚げられ、飛散した潤滑油によってシンクロ機構、クラッチ機構、及び遊星歯車機構が潤滑される。よって、潤滑油を供給するためのポンプを設けずに、潤滑性能の向上を図ることができる。すなわち、ポンプの設置による動力損失及び装置の大型化を避けることができる。
【0020】
そして、請求項5によれば、回転不能に固定されたパーキングロックギアが、駐車時、出力軸に設けられたパーキングギアと噛合うため、出力軸の回転を確実に固定することができる。
また、パーキングギアが潤滑油掻揚げギアを兼ねる構成とすることにより、さらなる小型化が可能となる。
【0021】
また、請求項7によれば、フォークロッドとパーキングロックギアの間にコイルばねが配設されることによって、走行時、誤ってフォークロッドをパーキングロックをする方向に操作しても、ばねが収縮する分、パーキングロックギアが急に移動することがない。また、パーキングロックギアとパーキングギアの歯面に面取加工を施すことによって、パーキングロックギアが移動し、パーキングギアに接触した場合であっても、回転するパーキングギアにパーキングロックギアが跳ね返される。このことにより、急なパーキングギアの噛込みによる急停車や、変速装置の故障を防止することができる。
【0022】
請求項8によれば、ハウジング上部の内壁が出力軸側から入力軸側へ傾斜する斜面を有しており、入力軸及び出力軸が挿通する挿通孔のあるハウジング側面の内壁に、挿通孔を底部としたV字状のリブが設けられているため、潤滑油掻揚げギアによって掻揚げられた潤滑油を底部に集めることができ、さらに、集められた潤滑油は、ハウジング、シンクロ機構、ハブ及び遊星歯車機構のリングギアに設けられた潤滑油が浸入できる孔を通じて、各種機構の内部に浸入するため、各種機構を確実に潤滑することができる。
【0023】
請求項9によれば、第1速のときのみ、モータの逆転が可能となるように電子制御されるため、後退時の速度超過による事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態の駆動系のスケルトン図。
【図2】本発明の第2実施形態の駆動系のスケルトン図。
【図3】本発明の第1実施形態の駐車時の縦断面図。
【図4】本発明の第1実施形態の第1速時の縦断面図。
【図5】本発明の第1実施形態の第2速時の縦断面図。
【図6】図3の6−6線方向断面図。
【図7】図3の7−7線方向断面図。
【図8】図3の8−8線方向断面図。
【図9】本発明の第2実施形態の駐車時の縦断面図。
【図10】本発明の第2実施形態の第1速時の縦断面図。
【図11】本発明の第2実施形態の第2速時の縦断面図。
【図12】モータの出力特性を表すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態を図1〜9を参照して説明する。但し、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。なお、電気自動車用変速装置を以下、単に「変速装置」ということがある。
【0026】
図1は、本発明の第1実施形態の駆動系のスケルトン図である。図1に示すように、変速装置10は、モータ12、モータ12と連結される入力軸14、図示しない車輪に連結される出力軸16、そして、入力軸14から出力軸16に向けて順に、シンクロ機構20、クラッチ機構30、遊星歯車機構40が配設されている。なお、変速装置10の遊星歯車機構40は、シングルピニオン式遊星歯車機構である。また、クラッチ機構30は湿式多板クラッチであるが、プレートクラッチであればこれに限られない。シンクロ機構20のハブ28は入力軸14上に回転不能に固定されており、クラッチドラム36にコーン部36bが連結されている。また、クラッチドラム36は、遊星歯車機構40のリングギア46と連結されており、プラネットキャリア48は出力軸16と連結されている。
【0027】
変速装置10の、入力軸、出力軸、シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構の、駐車時、低速時、高速時及び後退時の相互の関係を以下の表1に示す。
【表1】

【0028】
図3は、駐車時の変速装置10の状態を表した縦断面図である。シンクロ機構20は締結状態、クラッチ機構30は解放状態となっている。図8に示すように、出力軸16に潤滑油掻揚げギアを兼ねるパーキングギア53が具えられており、駐車時、フォークロッド62に回転不能に固定されているパーキングロックギア68aと噛合うことにより、出力軸16は確実に回転不能に固定される。また、フォークロッド62とパーキングロックギア68aのフレーム68との間にコイルばね66が設けられ、パーキングロックギア68aとパーキングギア53の歯面に面取加工が施されている。このため、走行中に誤ってフォークロッドをパーキングロックをする方向へと操作した場合であっても、コイルばね66が収縮する分、パーキングロックギア68aの急な移動を防ぐことができる。また、パーキングロックギア68aがパーキングギア53の方向に移動し、接触した場合でも、面取加工されていることにより、パーキングロックギア68aが回転しているパーキングギア53に跳ね返され、急なギアの噛込みを防ぐことができる。よって、急停車や、変速装置の故障を防止することができる。
【0029】
次に、図4は、第1速(低速)時の変速装置10の状態を表した縦断面図である。シンクロ機構20は締結、クラッチ機構30は解放となっている。この時、スリーブ23に配設された皿ばね29によって、ハブ28にクラッチ機構30方向への弾性反発力が加えられている。皿ばね29の弾性反発力がプレッシャプレート35を介し、ピストン34に伝えられるため、クラッチ機構30の解放状態が維持される。なお、皿ばね29の弾性反発力は、クラッチ機構30に配設された皿ばね38にも伝わり、皿ばね38は圧縮された状態となっている。
第1速では、モータ12のトルクは入力軸14へ伝わり、入力軸14の回転速度と同じ速度で、遊星歯車機構40のサンギア42が回転する。この時、クラッチ機構30は解放状態であるため、クラッチドラム36にモータ12からのトルクは伝わらない。また、シンクロ機構20が締結状態であるため、クラッチドラム36及びクラッチドラムと締結されているリングギア46は回転不能に固定される。よって、サンギア42の正転方向の回転に対し、ピニオンギア44が逆転方向に回転しながらサンギア42の周りを公転する。出力軸16はプラネットキャリア48と締結されているため、ピニオンギア44の公転のトルクが出力軸16に伝わることとなる。結果、モータのトルクは減速されて出力軸に伝わることとなる。また、リングギア46がシンクロ機構20によって回転不能に固定されているため、制動時においても出力軸16の回転はプラネットキャリア48、ピニオンギア44を通じてサンギア42へ伝わる。よって、制動時に、強制的に第2速へ変速しなくとも、エネルギー回生が可能である。
【0030】
また、変速装置10において、パーキングギア53は、潤滑油を掻揚げるギアの役割を果たす。すなわち、出力軸16が回転することによって、パーキングギア53も同速度で、同方向へ回転する。ハウジング52内部には、図示しない潤滑油が、ハウジング52の容積の1/4程度注入されており、パーキングギア53が回転することによって、ハウジング52の底部に溜まる潤滑油が掻揚げられ、上方に拡がる。掻揚げられた潤滑油は、ハウジング52の内壁に付着する。出力軸側の側壁に付着した潤滑油は、重力によってハウジング52の底方向に流れ落ち、図7に示すV字状の出力軸側潤滑油案内用リブ56によって、出力軸16の底部に向けて案内される。このようにして案内された潤滑油は、図4に示す、出力軸16に設けられた潤滑油浸入孔56aを通じて遊星歯車機構40の内部へ浸入し、遊星歯車機構40を潤滑する。また、ハウジング52の内壁の上部52a及び内壁の上部に設けられる、パーキングロックギア68aを回転不能に固定するためのリブ54が、入力軸側に向けて緩やかに傾斜しているため、内壁の上部52aやリブ54に付着した潤滑油は、前記傾斜面を伝って入力軸側の側壁に付着する。その後、入力軸側の側壁に付着した潤滑油は、重力によってハウジング52の底方向に流れ落ち、図6に示すV字状の入力軸側潤滑油案内用リブ58によって、入力軸上部に向けて案内される。入力軸上部に案内された潤滑油は、潤滑油浸入孔58aを通って入力軸14方向へ浸透し、潤滑油浸入孔58b、58c、及び58dを通じてシンクロ機構20及びクラッチ機構30内部へ浸入し、これらを潤滑する。
【0031】
次に、図5は、第2速(高速)時の変速装置10の状態を表した縦断面図である。シンクロ機構20は解放、クラッチ機構30は締結となっている。第1速と異なり、皿ばね29の弾性反発力がハブ28に加わらないため、皿ばね38の弾性反発力によってクラッチ機構30の締結状態が維持される。
第1速時と同様、モータ12のトルクは入力軸14へ伝わり、入力軸14の回転速度と同じ速度で、遊星歯車機構40のサンギア42が回転する。しかし、シンクロ機構20が解放状態であるため、クラッチドラム36は回転可能の状態である。さらに、クラッチ機構30が締結状態であるため、クラッチドラム36は入力軸14の回転速度と同じ速度で回転する。すなわち、クラッチドラム36と締結されているリングギア46も入力軸14の回転速度と同じ速度で回転することとなる。サンギア42と、リングギア46が正転方向へ同一の速度で回転しているため、ピニオンギア44はサンギア42とリングギア46によって挟持され、サンギア42とリングギア46と同じ正転方向へ同速度で回転する。すなわち、入力軸14と出力軸16が直結状態となるため、モータ12のトルクが減速されることなく、ギアの噛合い伝達による動力損失を生じることなく、出力軸16へ伝わることとなる。
【0032】
次に、第1速、第2速の変速動作について説明する。
第1速から第2速に変速(増速)するためにフォークロッドを操作すると、シンクロ機構のスプライン嵌合が解放されるとともに、皿ばね29がハブ28から離れ、皿ばね38の弾性反発力によってピストン34が移動し、ドリブンプレート33がドライブプレート32に圧接される。このようにして第1速から第2速への変速が完了する。クラッチ機構30は、いきなり係合状態になるのではなく、滑りを伴いながら係合するため、この変速は衝撃なく行われる。
【0033】
逆に、第2速から第1速に変速するためにフォークロッドを操作すると、まず、ばね64が収縮し、ばね64の弾性反発力によってシフトフォーク22及びシフトフォークと連結されているスリーブ23がクラッチ機構30方向に移動する。ばね64の弾性反発力は、スリーブのスプライン部に設けられた凹部に嵌合しているボール21にも加わり、シンクロナイザリング25がキー24によってクラッチ機構30方向へ押進される。シンクロナイザリング25とクラッチドラム36に連結されたコーン部36bが摩擦係合することによってクラッチドラム36の回転は徐々に制動される。変速装置10は、トリプルコーン式のシンクロ機構を有しているが、これに限らず、他のシンクロ機構でもよい。シフトフォーク22及びスリーブ23はさらに移動を続け、皿ばね29がハブ28に接触し、圧縮される。このため、皿ばね29の弾性反発力によって、前述した通り、クラッチ機構30が解放状態にされる。同時に、シンクロナイザリング25がキー24によってクラッチ機構30方向へさらに押進されるため、シンクロナイザリング25とコーン部36bの摩擦力は大きくなり、クラッチドラムが制動される。クラッチドラムが完全に制動した段階で、スリーブ23、シンクロナイザリング25、クラッチドラム36のスプライン部23a、25a、36aが嵌合し、クラッチドラム36は回転不能に固定される。このようにして第2速から第1速への変速が完了する。
【0034】
なお、電気自動車はモータを逆転させることによって後退が可能である。そこで、図示しない電子制御によって、第1速のときのみ、モータの逆転を可能とする構成とすることにより、後退時の速度超過及びこれによる事故を防止することができる。
【0035】
最後に、図9〜11は、遊星歯車機構にダブルピニオン式を採用した場合の変速装置の縦断面図である。変速装置10aの基本的構造はシングルピニオン式と同じであるが、クラッチドラム36がプラネットキャリア48と連結されており、リングギア46の外周上に、潤滑油拡散ギアを兼ねたパーキングギア53が設けられている。また、リングギア46が出力軸16と連結されている。
【0036】
この変速装置10aの、入力軸、出力軸、シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構の、駐車時、低速時、高速時及び後退時の相互の関係を以下の表2に示す。
【表2】

【0037】
この変速装置10aは、変速装置10と基本的に同一の作用、効果が得られるが、トルク伝達経路が異なるため、トルク伝達経路について説明する。
【0038】
図10は、第1速の変速装置10aの状態を表している。この時、シンクロ機構20は締結状態、クラッチ機構30は解放状態である。モータ12のトルクは入力軸14を通じて、サンギア42へ伝えられ、ショートピニオンギア44a、そしてロングピニオンギア44bへ伝えられる。プラネットキャリア48がシンクロ機構20によって回転不能に固定されているため、各ピニオンギアが定位置で回転し、モータ12からのトルクは減速されリングギア46及び出力軸16に伝えられる。
【0039】
また、図11は、第2速の変速装置10aの状態を表している。この時、シンクロ機構20は解放状態、クラッチ機構30は締結状態である。モータ12のトルクは入力軸14を通じて、サンギア42、そして、クラッチ機構30を通じて、プラネットキャリア48へ同速度で、同方向に伝えられる。よって、リングギア46及び出力軸16も入力軸14と同速度で、同方向に回転することとなる。すなわち、入力軸と出力軸が直結状態となるため、モータ12からのトルクを、ギアの噛合い伝達による動力損失を生じることなく、出力軸16へ伝えることができる。
【0040】
遊星歯車機構40をダブルピニオン式とした場合、シングルピニオン式と比べて、ギアの噛合い伝達による動力損失が多く発生することとなるが、出力軸16に連結されるリングギア46及び潤滑油掻揚げギアを兼ねたパーキングギア53を一体として成型できるため、強度が増すという利点がある。
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、入力軸と出力軸を同一線上に配置し、シンクロ機構、クラッチ機構、遊星歯車機構を組合せることによって、従来の内燃機関搭載車用の変速装置を転用した変速装置に比べて、より小型で、動力損失が少なく、また、制動時に第2速に強制的に変速しなくともエネルギー回生が可能な変速装置を提供することが可能である。
また、パーキングギア、潤滑油掻揚げギア、潤滑油案内用リブを具えることによって、パーキングロック機能を具えた、潤滑性能の高い変速装置を提供することができる。
そして、第1速のときのみ、モータの逆転を可能とする電子制御を組込む構成とすれば、後退時の速度超過及びこれによる事故を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0042】
10 第1実施形態の変速装置
10a 第2実施形態の変速装置
12 モータ
14 入力軸
16 出力軸
20 シンクロ機構
22 シフトフォーク
23 スリーブ
28 ハブ
30 クラッチ機構
36 クラッチドラム
40 遊星歯車機構
42 サンギア
46 リングギア
48 プラネットキャリア
52 ハウジング
53 パーキングギア(潤滑油拡散ギア)
56 出力軸側潤滑油案内用リブ
58 入力軸側潤滑油案内用リブ
62 フォークロッド
64 コイルばね
66 コイルばね
68 パーキングロックギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速を操作するフォークロッド、シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構を具え、モータに連結される入力軸と、車輪に連結される出力軸が同一線上に配置され、ハウジングに収容される、2段変速の電気自動車用変速装置であって、
前記ハウジング内部において、前記入力軸から出力軸に向けて順に、前記シンクロ機構、クラッチ機構、及び遊星歯車機構が配設されており、
前記シンクロ機構のスリーブが前記フォークロッドと連結され、該スリーブとスプライン嵌合するハブが、前記入力軸上に回転不能に固定され、コーン部が前記クラッチ機構のクラッチドラムに連結されており、
前記クラッチ機構は、前記入力軸とクラッチドラムを締結する締結状態と、解放する解放状態に切換えられ、
前記遊星歯車機構は、シングルピニオン式であって、前記入力軸とサンギアが連結され、リングギアが前記クラッチドラムと連結され、プラネットキャリアが前記出力軸と連結されており、
前記シンクロ機構の締結時は、前記クラッチ機構は解放され、前記シンクロ機構の解放時に、前記クラッチ機構が締結されることを特徴とする、
電気自動車用変速装置。
【請求項2】
前記遊星歯車機構がダブルピニオン式であって、前記プラネットキャリアが前記クラッチドラムと連結され、前記リングギアが前記出力軸と連結される、請求項1の電気自動車用変速装置。
【請求項3】
前記フォークロッドとスリーブがシフトフォークによって連結され、該フォークロッドとシフトフォークの間にコイルばねが配設され、該フォークロッドの操作時に前記コイルばねが圧縮され、該コイルばねの弾性反発力によって前記シフトフォークが押進される、請求項1又は2の電気自動車用変速装置。
【請求項4】
潤滑油掻揚げギアが、前記ハウジング内部に注入された潤滑油に浸るように、前記出力軸に設けられ、該出力軸の回転時、前記潤滑油掻揚げギアによって潤滑油が掻揚げられる、請求項1から3のいずれかの電気自動車用変速装置。
【請求項5】
パーキングロックギアが、前記フォークロッドに回転不能に固定され、駐車時、前記パーキングロックギアが前記出力軸に設けられたパーキングギアと噛合わされる、請求項1から4のいずれかの電気自動車用変速装置。
【請求項6】
前記パーキングギアが前記潤滑油掻揚げギアを兼ねる、請求項1から5のいずれかの電気自動車用変速装置。
【請求項7】
前記フォークロッドとパーキングロックギアの間にコイルばねが配設され、前記パーキングロックギアとパーキングギアの歯面に面取加工がされた、請求項5又は6の電気自動車用変速装置。
【請求項8】
前記ハウジング上部の内壁が前記出力軸側から入力軸側へ傾斜する斜面を有し、前記入力軸及び出力軸が挿通する挿通孔のある前記ハウジング側面の内壁に、前記挿通孔を底部としたV字状のリブが設けられ、前記シンクロ機構、クラッチ機構及び遊星歯車機構に潤滑油が浸入できるように、孔が、前記ハウジング、シンクロ機構のハブ及び遊星歯車機構のリングギアに設けられた、請求項4から7のいずれかの電気自動車用変速装置。
【請求項9】
第1速のときのみモータの逆転が可能となるよう電子制御される、請求項1から8のいずれかの電気自動車用変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−117602(P2012−117602A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267342(P2010−267342)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(511247138)上海達耐時汽車配件有限公司 (1)
【Fターム(参考)】