説明

電気車制御装置

【課題】本発明は、単相交流を直流に変換し、この直流を交流に変換する電力変換器を有する電気車制御装置において、外部条件に左右されることなく、また安定的、かつ容易にコンデンサ容量の寿命予測を行うことを目的とする。
【解決手段】単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの充電時間に基づき、コンデンサの寿命予測を行う手段を備えたことを特徴する電気車制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車制御装置において、電力変換器の直流側に設置されている平滑用コンデンサと用いられるコンデンサは、経年劣化により容量が減少する性質を有する。従来の電気車制御装置ではコンデンサ容量を検出する手段を特に持っていないため、定期的な点検、検査で容量計を用いてコンデンサの容量の測定を行うことが必要で、その保守に手間がかかるという問題がある。このような問題を回避するために寿命予測を正確に行う試みが、種々提案されている(参考文献参照)。
【0003】
特許文献1ではコンデンサの容量測定は初期充電時の電流検出値と電圧検出値からコンデンサ容量を推定する技術が提案されている。
【0004】
上記従来技術では、電源電圧や充電用抵抗値の変化によりコンデンサへの充電時間が左右されるため、コンデンサ容量の高精度な検出には、回路の正確な検出が必要となる。
【0005】
特許文献2ではコンデンサの電圧変動の大きさからコンデンサ容量を推定する技術が提
案されている。
【0006】
上記従来技術においては、コンデンサの電圧変動の大きさ、及び変動周波数を正確に検出する必要があるため、やはり回路の正確な検出が必要なる。
【0007】
従来例を図8に示す。図8は参考文献1に記載された従来の交流電気車の制御装置である。図8において、1は単相交流電圧電源である架線、2は単相交流電源電圧を適した電圧に変圧する変圧器、3は単相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ、4はコンバータから出力される直流電圧を平滑する平滑コンデンサ、5は直流電圧を可変電圧可変周波数に変換するインバータ、6は負荷装置である主電動機である。
【0008】
また7はコンバータ及びインバータの制御回路であり制御回路はメイン制御部71、コンバータ制御部72、インバータ制御部73から構成される。メイン制御部71からコンバータ制御部72に直流電圧指令Ed*及びゲートスタート指令GS1*等を入力し、インバータ制御部73にインバータ周波数指令Fi*、出力電圧指令E*及びゲートスタート指令GS2*等を入力する。コンバータ制御部72とインバータ制御部73はゲート信号を出力する。
【0009】
尚、ここでは通常の制御に用いる電圧や電流の検出値は省略している。
【0010】
8は、コンデンサ容量判定回路であり、直流中間回路のコンデンサ電圧edからの交流成分を検出し、交流入力電流指令Is*と変調率aから容量推定部82にてコンデンサ容量
を推定する。第1の比較器83でコンデンサ容量推定値が基準値以下となったとき、コンデンサ容量が低下したと判断する。第2の比較器84ではメイン制御を停止するか否かを判定する。
【0011】
またコンデンサ容量推定値、交流入力電流指令値Is*、変調率aの履歴をメモリに保存する。
【0012】
次に動作を説明する。単相交流を電源とするコンバータでは、運転時に単相電源の2倍の周波数の交流変動が中間直流回路のコンデンサに発生する。
【0013】
コンバータ出力電流idは、コンバータ入力電圧ecが正弦波であるとすると交流成分ΔIdは
ΔId=a×Is/√2・・・式(1)
ここに、a:コンバータ変調率
Is:コンバータ入力電流(基本波実効値)
で近似的に求められる。一方、コンデンサ電圧edはコンバータのスイッチングの起因した高調波成分を無視すると電圧変動ΔEは
ΔE=(a×Is)/(2√2×ω×C)・・・式(2)
ここに、ω:電源角周波数
C:コンデンサ容量
で求められ、コンデンサ容量Cは
C=(a×Is)/(2√2×ΔE×ω)・・・式(3)
で演算することができる。
【特許文献1】特開平5−308701号公報
【特許文献2】特開平10−14097号公報
【特許文献3】特開平06−163084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記に述べたようなコンバータスイッチングに起因した高調波成分があり、コンデンサ電圧edの電圧変動Δedは高精度で検出するには、外部回路条件に左右され現実的には困難を要する。
【0015】
そこで、本発明は、単相交流を直流に変換し、この直流を交流に変換する電力変換器を有する電気車制御装置において、外部条件に左右されることなく、また安定的、かつ容易にコンデンサ容量の寿命予測を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの充電時間に基づき、コンデンサの寿命予測を行う手段を備えたことによって達成することが出来る。
【0017】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの寿命予測を行う手段はコンデンサの劣化度と算出することによって達成することが出来る。
【0018】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの劣化度が予め定めた劣化度を越えたときコンデンサの劣化度を表示器に表示する手段を備えることによって達成することが出来る。
【0019】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの劣化度が予め定めた劣化度を越えたとき電力変換器を停止することによって達成することが出来る。
【0020】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、劣化度をメモリに記憶することによって達成することが出来る。
【0021】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、劣化度の変化履歴と使用頻度から寿命予測を行うことによって達成することが出来る。
【0022】
上記課題は、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、メモリに記憶した劣化度から少なくとも3回分の履歴から寿命予測を行うことによって達成することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、単相交流を直流に変換し、この直流を交流に変換する電力変換器を有する電気車制御装置において、外部条件に左右されることなく、また安定的、かつ容易にコンデンサ容量の寿命予測を行うことが出来る電気車制御装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施例の概略構成を示すブロック図である。単相交流電源1から、コンバータ及びインバータの制御回路7は上述した従来装置のものと同様である。
【0026】
図1において、93は充電抵抗器を挿入するための充電抵抗スイッチ、94は充電抵抗器、95は充電抵抗器を短絡するための充電抵抗短絡スイッチである。82aはコンデンサの充電時間を測定する充電時間測定部、83aはコンデンサの充電時間からコンデンサの劣化度を算出する劣化度演算部である。85aは過去のコンデンサの充電時間やコンデンサ劣化度の履歴を記録しておくメモリ、84aは過去の履歴からコンデンサの予測交換時期を算出する予測交換時期算出部である。91はコンデンサ充電時間を乗務員に伝える表示器、92は過去のコンデンサ充電時間、劣化度、予測交換時期をモニタするモニタ装置である。
【0027】
次に動作について説明する。図2は充電時間測定部82における初期充電時の動作を示した図である。まず、交流電気車の制御装置の起動時コンデンサを初期充電する際、充電抵抗挿入スイッチ投入する。充電が完了すると充電抵抗挿入スイッチを開放するとともに充電抵抗短絡スイッチを投入する。T1はそのときコンデンサ充電時間である。これをメモリに記憶するとともに劣化度演算部83aに入力する。劣化度演算部83aでは、基準充電時間と使用限界充電時間及び充電時間測定値T1から劣化度を算出する。例えば、基準充電時間が1秒で、設計上の使用限界の充電時間が0.9秒とした場合において、充電時間測定値が0.97秒まで減少したとすると劣化度は
(1−0.97)/(1−0.9)=0.3・・・式(4)
と算出することができる。
【0028】
メモリ83aの内部イメージ図を図3に示す。メモリは測定日、装置稼動時間、充電時間、劣化度、使用頻度及びメイン制御からの信号等の測定履歴をデータベースとして記憶する。また比較器86aは劣化度が所定の予め定めた設計上の限界値を超えたとき、コンデンサが異常状態となっている判断し、停止信号をメイン制御部へ出力し電力変換器を停止する。予測交換時期算出部84aでは、測定履歴データベースから予測交換時期を算出する。図4はメモリ内の測定日と装置稼動時間、充電時間、及び、劣化度を一覧にしたものである。図5は図4をもとに装置稼動時間をX軸に劣化度をY軸とした座標軸にグラフプロットし、予測寿命時間を表したのものである。図5での予測寿命時間は過去3回の測定点と稼動時間から劣化度変化率の中間値を算出しその変化率で変化した場合の残りの予測寿命時間を算出している。
【0029】
例えば、2007/5/7、2007/06/20、2007/7/18の3回の測定では劣化度はそれぞれ、0、0.1、0.3である。また稼動時間はそれぞれ、0、500、950時間である。劣化度変化率の中間値Aは
A=(0.3−0)/(950−0)=0.00031579・・・式(5)
となる。
【0030】
劣化度変化率Aと稼動時間から残り予測寿命時間Taは
Ta=(1−0.3)/A・・・式(6)
=(1−0.3)/ 0.00031579
≒ 2217時間
と算出できる。
【0031】
図6は図5の予測寿命時間から平均稼動時間を考慮して予測交換日を推定算出した図である。予測交換日の算出方法を説明する。充電時間とは別に毎日の装置稼働時間を測定し、測定数日前の装置稼動時間の平均から1日当たりの平均稼動時間Tbを算出し、予測寿命時間Taを1日当たりの平均稼動時間Tbで除した日数を測定日に加算したものを予測交
換日として算出する。
【0032】
1日当たりの平均稼動時間を15時間とした場合の交換予測日は
交換予測日 = 2007年7月18日 + Ta/Tb・・・式(7)
= 2007年7月18日 + 2217/15
= 2007年7月18日 + 147.8日
= 2007年12月12日
となる。
【0033】
上述した方法で、測定日に応じた予測交換日を算出すると図6に示すとおり 2007/
6/20と2007/7/18及び2007/8/5からは、2007年9月11日となり、同様に測定日 2007/7/18と2007/8/5及び2007/9/10から
は、2008年5月29日となる。
【0034】
上述のように、充電時間と最近の装置稼動時間が分かれば、使用頻度に応じた予測交換日を算出することができる。また参考文献3では回帰分析による技術があるが、回帰式では定期的または非定期的な多くの測定データが必要となり、本実施例によれば少なくとも3点の充電時間測定点と時期に応じた稼動時間があれば極めて単純な計算により、使用頻度に応じた予測交換日を容易に算出することができる。
【0035】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる本実施の形態の電気車制御装置において、コンデンサの劣化度が予め定めた劣化度を越えたとき表示器に91にその旨を表示することが出来るので、乗務員にコンデンサの劣化を通知できる。
【0036】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施例の概略構成を示すブロック図である。
【0037】
図1の第1の実施例とは、架線が単相交流電源でなく直流電源になった点と単相交流を直流に変換する電力変換器及びコンバータ制御部を削除した点が異なる。本実施例においても第1の実施例と同様に初期充電電圧edの充電時間を測定することで予測交換日を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施例を示すブロック図
【図2】初期充電時の動作図
【図3】メモリ83aの内部イメージ図
【図4】測定日と装置稼動時間、測定充電時間、及び、劣化度の一覧
【図5】稼動時間をX軸に劣化度Y軸とした座標軸にグラフプロット
【図6】予測寿命時間から平均稼動時間を考慮して予測交換日を示した図
【図7】本発明の第2の実施例を示すブロック図
【図8】従来実施例
【符号の説明】
【0039】
1・・・架線
2・・・変圧器
3・・・コンバータ
4・・・平滑コンデンサ
5・・・インバータ
6・・・主電動機
7・・・コンバータ及びインバータの制御回路
71・・・メイン制御部
72・・・コンバータ制御部
73・・・インバータ制御部
8・・・コンデンサ容量判定回路
81・・・交流成分検出部
82・・・容量推定部
83・・・第1の比較器
84・・・第2の比較器
85・・・メモリ
91・・・表示器
92・・・モニタ装置
93・・・充電抵抗投入スイッチ
94・・・充電抵抗器
95・・・充電抵抗短絡スイッチ
82a・・・充電時間測定部
83a・・・劣化度演算部
84a・・・予測交換時期算出部
85a・・・メモリ
86a・・・比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの充電時間に基づき、コンデンサの寿命予測を行う手段を備えたことを特徴する電気車制御装置。
【請求項2】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの寿命予測を行う手段はコンデンサの劣化度と算出することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの劣化度が予め定めた劣化度を越えたとき、コンデンサの劣化度を表示器に表示する手段を備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項4】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、コンデンサの劣化度が予め定めた劣化度を越えたとき電力変換器を停止することを特徴する電気車制御装置。
【請求項5】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、劣化度をメモリに記憶することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項6】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、劣化度の変化履歴と使用頻度から寿命予測を行うことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項7】
単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と直流を任意の周波数の交流に変換する第2の電力変換器と第2の電力変換器の直流側に並列接続されるコンデンサからなる電気車制御装置において、メモリに記憶した劣化度から少なくとも3回分の履歴から寿命予測を行うことを特徴とする電気車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−131125(P2009−131125A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306531(P2007−306531)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】