説明

電界効果型トランジスター

【課題】ダイヤモンドFETにおいて、ドレイン電流特性を改善すること。
【解決手段】ダイヤモンド結晶層1の上に、高濃度ホウ素ドープダイヤモンド薄膜層102を成長する(図1(a))。次に、ソース電極およびドレイン電極として、Ti層131A、131B、Au層132A、132Bを順に蒸着する(図1(b))。次に、400℃でアニールを行いTiをダイヤモンドと反応させて、TiC層133A、133Bを形成する(図1(c))。最後に、ゲート部にAl23膜141を形成し、その上にAlゲート電極42を蒸着する(図1(d))。作製したダイヤモンドFETのドレイン電流特性は、ゲート電圧−3Vにおける最大ドレイン電流密度が600mA/mmとなり、従来技術による場合の約6倍に増加した。温度依存性に関しては、従来技術では室温から150℃付近でドレイン電流密度は急激に減少したが、本発明では900℃まで安定して動作した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果型トランジスターに関し、より詳細には、ダイヤモンド薄膜層を備える電界効果型トランジスターに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド半導体は、半導体最大の絶縁耐圧、熱伝導性を有するばかりでなく、電子や正孔の移動度やドリフト速度も高く、もしダイヤモンド薄膜を用いた電界効果トランジスター(以下「ダイヤモンドFET」という。)が実用化できれば、既存の半導体の性能を遥かに越える、最高の性能を持つ高周波電力トランジスターが実用可能になる。
【0003】
図2を用いて、従来の水素終端されたダイヤモンドFETの作製工程を説明する。
【0004】
まず、ダイヤモンド結晶層201を用意し、その結晶層201をCVDリアクター内で水素プラズマに曝して、ダイヤモンド表面を水素ラジカル(「H」で表す。)で終端する(図2(a))。そのようにして水素終端された表面層202を形成する。次に、表面層202上の一部の領域に、空間的に分離された2つの金薄膜203A、203Bを蒸着する(図2(b))。それが各々ソース電極203A、ドレイン電極203Bになる。次に、ソース電極203Aとドレイン電極203Bとの間に、空間的に分離して、Al薄膜204を蒸着する。これがゲート電極204になる(図2(c))。このように作製されたFETを動作させる場合の配線を図2(d)に示す。
【0005】
このような従来技術によって作製した、ゲート長1μmのFETのドレイン電流特性を図3に示す。この従来技術によるFETのゲート電圧−3Vにおける最大ドレイン電流密度は、30℃で100mA/mmであった。さらに、図3に示すように、試料温度を上げて行ったところ、150℃付近でドレイン電流密度は急激に減少し、再び室温に戻してもドレイン電流密度は元に戻らなかった(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Kubovic, Y. Yamauchi, M. Kasu, “Improvements in Thermal Stability of Hydrogen-terminated Diamond FETs”, Extended Abstract of the 2008 International Conference on Solid State Devices and Materials, Tsukuba, 2008, pp. 1036-1037.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術によるダイヤモンドFETでは、(1)室温における最大ドレイン電流密度が低いことと、(2)試料を昇温すると、ある温度以上でドレイン電流が劇的に減少し、劣化してしまうことが問題であり、実用に供することができない。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダイヤモンドFETにおいて、ドレイン電流特性を改善することにある。また、本発明の別の目的は、そのようなFETに用いることのできるダイヤモンド薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、ホウ素濃度が2×1020cm-3以上3×1021cm-3以下であり、膜厚が1nm以上5nm以下であることを特徴とするダイヤモンド薄膜である。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、ダイヤモンド結晶層と、前記ダイヤモンド結晶層上のチャネル層と、前記チャネル層上のソース電極、ドレイン電極およびゲート電極とを備え、前記チャネル層は、第1の態様のダイヤモンド薄膜で構成されていることを特徴とする電界効果トランジスターである。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記ソース電極および前記ドレイン電極と前記チャネル層との間に、TiC層をそれぞれ備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様において、前記ゲート電極と前記チャネル層との間にAl23層を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ホウ素濃度が2×1020cm-3以上3×1021cm-3以下であり、膜厚が1nm以上5nm以下であることを特徴とするダイヤモンド薄膜をチャネル層に用いることにより、ダイヤモンドFETにおいて、ドレイン電流特性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるダイヤモンドFETの作製工程を説明するための図である。
【図2】従来の水素終端されたダイヤモンドFETの作製工程を説明するための図である。
【図3】従来技術および本発明によるダイヤモンドFETのドレイン電流電圧特性を示す図である。
【図4】高濃度ホウ素ドープダイヤモンド薄膜層のシートキャリア濃度の膜厚依存性を示す図である。
【図5】高濃度ホウ素ドープダイヤモンド薄膜層のホウ素原子濃度に対するシート正孔濃度を示す図である。
【図6】本発明に係るダイヤモンド薄膜層の温度依存性を示す図である。
【図7】TiC層とTi層がなく、Au層のみがある従来技術に相当する場合((a))と、Au層に加えてTiC層及びTi層がある本発明の場合((b))のソース・ドレイン電極間の電流電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。具体的な材料や数値に言及して説明を行うが、これらの材料や数値に本発明の範囲を限定する意図ではない。
【0016】
本発明に係るダイヤモンドFETの構造をその作製工程に沿って説明する。
【0017】
まず、ダイヤモンド結晶層1の表面上に、マイクロ波CVD装置でトリメチルボロン(TMB)とメタンを水素で希釈した原料ガスを供給し、ホウ素が高濃度にドープされたダイヤモンド薄膜層102を結晶成長する(図1(a))。結晶成長時のマイクロ波電力を500W、基板温度を600℃、B/C原子濃度比を6000ppmとした。
【0018】
次に、ソース電極およびドレイン電極として、Ti層131A、131B、Au層132A、132Bを順に蒸着する(図1(b))。
【0019】
次に、試料を400℃でアニールを行い、Tiをダイヤモンドと反応させて、TiC層133A、133Bを形成する(図1(c))。最後に、ソース電極およびドレイン電極から空間的に離れたゲート部にAl23膜141を形成し、その上にAl層42をゲート電極として蒸着する(図1(d))。このように作製したダイヤモンドFETを動作させる場合の配線を図1(e)に示す。
【0020】
図3に、作製したダイヤモンドFETのドレイン電流特性を示す。本発明によるFETの特性は、ゲート電圧−3Vにおける最大ドレイン電流密度が600mA/mmとなり、従来技術による場合の約6倍に増加した。また、温度依存性に関しては、従来技術では室温から150℃付近でドレイン電流密度は急激に減少したが、本発明では900℃まで安定して動作した。
【0021】
図4に、ダイヤモンド薄膜層102の厚さを変えた時のシートキャリア濃度を示す。膜厚が1〜5nmの範囲にあるとき、シートキャリア濃度は1×1014cm-2以上あり、良好な特性を示すことが分かった。図5に、ホウ素原子濃度に対するシート正孔濃度を示す。2×1020から3×1021cm-3のときに、シート正孔濃度は1×1014cm-2以上を示し、良好であることが分かった。また、図6に、ダイヤモンド薄膜層の温度依存性を示す。従来技術では温度上昇に従いシート正孔濃度が急激に減少するが、本発明ではほぼ1×1014cm-2で安定している。
【0022】
以上、説明してきたように、ホウ素濃度が2×1020cm-3以上3×1021cm-3以下であり、膜厚が1nm以上5nm以下であるダイヤモンド薄膜は、シートキャリア濃度および移動度が良好な値をとる。そして、このようなダイヤモンド薄膜をFETのチャネル層として用いることにより、図3を参照して説明したように、ドレイン電流特性に大幅な改善が見られる。最大ドレイン電流密度が大幅に増大する上、温度特性も安定するため、実用化可能なダイヤモンドFETを作製することができる。
【0023】
図7に、TiC層133A、133BとTi層131A、131Bがなく、Au層132A、132Bのみがある従来技術に相当する場合((a))と、Au層132A、132Bに加えてTiC層133A、133B及びTi層131A、131Bがある本発明の場合((b))のソース・ドレイン電極間の電流電圧特性を示す。本発明の場合の方が明らかに電流値が高く、抵抗が低いことが分かった。
【符号の説明】
【0024】
101 ダイヤモンド結晶層
102 ダイヤモンド薄膜層
131A、131B Ti層
132A、132B Au層
133A、133B TiC層
141 Al23
142 Al層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素濃度が2×1020cm-3以上3×1021cm-3以下であり、膜厚が1nm以上5nm以下であることを特徴とするダイヤモンド薄膜。
【請求項2】
ダイヤモンド結晶層と、
前記ダイヤモンド結晶層上のチャネル層と、
前記チャネル層上のソース電極、ドレイン電極およびゲート電極と
を備え、
前記チャネル層は、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜で構成されていることを特徴とする電界効果トランジスター。
【請求項3】
前記ソース電極および前記ドレイン電極と前記チャネル層との間に、TiC層をそれぞれ備えることを特徴とする請求項2に記載の電界効果トランジスター。
【請求項4】
前記ゲート電極と前記チャネル層との間にAl23層を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の電界効果トランジスター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−134392(P2012−134392A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286477(P2010−286477)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】