説明

電磁波センサ、撮像素子及び撮像装置

【課題】本発明は、所定周波数のミリ波・サブミリ波のみを選択的かつ高感度に検出できる、簡便で安価な電磁波センサ、撮像素子及び撮像装置を提供する。
【解決手段】複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さくなるように形成され、かつ複数のアンテナ要素間の間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、電気抵抗部とは、アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、アンテナ部と並列回路とのインピーダンス整合が取れ、所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、インピーダンス整合が取れなくなるように、複数のアンテナ要素が形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブミリ波やミリ波等の電磁波の特定周波数帯を選択的かつ高感度に検出する電磁波センサ、撮像素子及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長が数μm〜十数μmである赤外光に対して、それよりも長波長であるミリ波(波長1mm〜10mm)やサブミリ波(波長1mm〜30μm程度)は近年、テラヘルツ光とも呼ばれ、物質に対する高い透過性や非侵襲性、また材質や状態による分光特性の違いといった特徴から、センシングやイメージングの新たなモードを提供するものとして注目され、最近のレーザーやオプトエレクトロニクスの発展によって技術的にも成熟してきた。
【0003】
この帯域の電磁波を検出する手段には、超短パルスレーザーと非線形結晶または光スイッチ等を組み合わせることによって間接的に所望の電磁波を検出する方法、超高周波ダイオード等半導体デバイスによって電気的に検出する方法、超伝導素子や量子ドット素子など量子型検出素子による方法、ボロメータや焦電型素子など熱型検出素子による方法がある。
【0004】
超短パルスレーザーによる方法は測定対象のスペクトル情報が容易に得られ、分光法としては大変優れているが、これはレーザーや光学系・測定対象等システム全体をよく制御された雰囲気下に置くことが必要であり、また装置全体が高価である等、産業応用にあたっては制限が多い。
【0005】
また超高周波ダイオードによる検出は、現在はまだ数百GHz程度までしか実現されておらず、さらに高周波側への拡張には技術的な困難さが伴う。
【0006】
量子型検出素子は、特定の準位間遷移に相当する周波数の電磁波のみを検出する優れた方法であり、高速・高感度な検出が可能だが、ミリ波やサブミリ波といった1光子エネルギーがごく小さい電磁波を高感度に検出するにはキャリアの熱励起を抑える必要があり、素子を極低温に冷却しなければならない。そのため量子型検出素子では液体ヘリウムなどの液体冷媒が必要になり、実用的なシステムにするのは難しい。
【0007】
熱型検出素子は、電磁波を何らかの手段によって熱に変換し、その温度変化を素子の電気特性変化として検出するものである。熱型検出素子は量子型検出素子に比べると低速・低感度ではあるが、一般的に幅広い帯域に渡って平坦な感度特性をもち、また素子を中空で支持する断熱構造等を導入することによりセンサの温度環境を安定させて冷却を簡略化できるといった利点があり、赤外波長帯では赤外イメージセンサとして、ミリ波帯では電波望遠鏡として実用化されている。この熱型検出素子の検出波長帯域は、電磁波を光学的に吸収する発熱体の材質を最適化したり、またアンテナや導波管等特定波長に共鳴する構造を発熱体に付加したりすることによって設計されている。熱型検出素子を赤外イメージセンサに応用した例では、発熱体の材質としては、酸化バナジウムやポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、チタン等が用いられている。
【0008】
以下、ボロメータに関する文献名を記載する。
【特許文献1】US6,441,368
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
赤外光よりも長波長であるサブミリ波やミリ波の帯域では、特定の周波数のみを効率的に吸収する材料を設計するのは困難である。熱型検出素子は、結果的に発熱体の温度が変化すればそれを信号として検出してしまうため、検出したい周波数帯域以外の電磁波の影響を受けやすいという問題がある。
【0010】
常温では測定対象物および周囲から、10μm帯の赤外光をピークとする自然輻射が放出されており、この自然輻射光の分光強度分布を見ると赤外帯域に対してサブミリ波帯は3桁程度強度が低い。従って、本来波長選択性が高くない熱型検出素子を用いてミリ波やサブミリ波を選択的に検出するには、自然輻射光に含まれる赤外光の影響を低減することが重要な技術的課題である。ミリ波やサブミリ波を検出するため、例えば検出波長λに対してサイズがλ/2であるダイポールアンテナを発熱体に結合した熱型検出素子がある。この素子に常温の自然輻射光が入射した場合、自然輻射光の主要成分である赤外光が発熱体に直接的にまたは周囲からの反射等によって間接的に入射することによって、発熱体の温度が上昇してしまうという問題がある。またこのアンテナでは波長λの電磁波だけではなく、その整数分の1の波長をもつ高調波もある効率で受信されてしまい、サブミリ波の高調波は赤外光領域になるため、自然輻射光の主要成分である赤外光がアンテナを経由して発熱体を熱するという影響も懸念され、ミリ波・サブミリ波の特定周波数帯域のみを選択的・高感度に検出することは困難である。
【0011】
この自然輻射に含まれる赤外光の影響を低減するには、一つにはミリ波・サブミリ波の強い単色光源を対象物に照射し、その反射・散乱または透過光を検出する方法がある。しかしながら現在この帯域では、自然輻射の影響を無視できるほどの高出力な光源はメタノールレーザーや自由電子レーザーなど大型研究設備しかなく、実用的なシステムに適用するのは困難である。また、他の方法には、赤外光をカットし、ミリ波・サブミリ波を透過する光学フィルタを検出素子の前に設ける方法がある。例えば電波望遠鏡の場合、アンテナや導波管等の波長選択構造に加え、素子そのものを極低温に冷却し、かつ外部からの自然輻射光をカットするために光学フィルタを用いる等することにより、宇宙空間から飛来する微弱なミリ波・サブミリ波を検出している。しかしながら、このような大掛かりな装置構成では簡便で安価なミリ波・サブミリ波の検出装置は提供できない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされるもので、素子を極低温に冷却することなく、外部から自然輻射光が入射した場合であっても、その中から特定周波数のミリ波・サブミリ波を選択的かつ高感度に検出できる簡便で安価な電磁波センサ、撮像素子及び撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様による電磁波センサは、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい。
【0014】
また本発明の一態様による電磁波センサは、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された。
【0015】
また本発明の一態様による電磁波センサは、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さく、
かつ前記複数のアンテナ要素間の前記間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された。
【0016】
また本発明の一態様による撮像素子は、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
前記半導体基板に画素アレイとしてマトリクス状に配置された複数の電磁波センサと、
前記各電磁波センサによって検出された電磁波に応じた電気信号を映像信号として読み出す読出し回路とを備え、
前記電磁波センサは、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい。
【0017】
また本発明の一態様による撮像装置は、
撮像素子と、
前記撮像素子が封入され、内部が真空に吸引されたパッケージと、
前記パッケージのうち電磁波の入射面側に配置され、入射された電磁波のうち、特定周波数の電磁波を透過する光学窓と、
入射される電磁波を、前記光学窓を介して、前記パッケージ内の前記撮像素子に集光及び結像させる光学素子と、
前記撮像素子と接続され、前記撮像素子から出力される映像信号を処理する映像信号処理部とを備え、
前記撮像素子は、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
前記半導体基板に画素アレイとしてマトリクス状に配置された複数の電磁波センサと、
前記各電磁波センサによって検出された電磁波に応じた電気信号を映像信号として読み出す読出し回路とを備え、
前記電磁波センサは、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記アンテナ部を形成する前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外部から自然輻射光が入射した場合であっても、その中の主要成分である赤外光の影響を小さく留め、特定周波数のミリ波・サブミリ波を選択的かつ高感度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係わる電磁波センサおよび撮像素子、さらに撮像装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
(電磁波センサの構造)
図1に、本発明の実施の形態による電磁波センサ100の構成を示す。この電磁波センサ100は、半導体基板101と、半導体基板101上に形成された配線部102と、半導体基板101の表面部分に形成された凹部103と、凹部103内又は凹部103上に配置され、配線部102を支持する支持部104と、凹部103内又は凹部103上に配置され、支持部104によって支持されるセル部110とを有する。
【0021】
このセル部110は、アンテナ部120と電気抵抗部111と熱電変換素子113とを有する。アンテナ部120は、複数のアンテナ要素121によって形成され、入射された電磁波を検出しこれを電気信号に変換する。電気抵抗部111は、アンテナ部120の下方に配置され、アンテナ部120を形成する複数のアンテナ要素121とそれぞれ電気的に接続され、電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、セル部110の温度を変化させる。熱電変換素子113は、配線部102と電気的に接続され、かつアンテナ部及120及び電気抵抗部111とは電気的に絶縁され、かつ電気抵抗部111とは熱的に接続され、セル部110の温度変化を逐次検出しこれを電気信号に変換する。以上の構造を実現するため、例えば図1に示すように、アンテナ部120と電気抵抗部111との間にアンテナコンタクト123を設けたり、また熱電変換素子113と電気抵抗部111との間に絶縁膜112を設けたりすることができる。
【0022】
さらに、本実施の形態の場合、複数のアンテナ要素121間の間隙122における間隔dは、赤外光の波長より小さくなるように形成されている。
【0023】
また、複数のアンテナ要素121間の間隙122によって電気的に形成されるコンデンサと、電気抵抗部111とは、アンテナ部120に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、アンテナ部120と並列回路とのインピーダンス整合が取れ、所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、インピーダンス整合が取れなくなるように、複数のアンテナ要素121は形成されている。
【0024】
アンテナ部120の材質としては、例えばアルミニウムや銅など導電性が高く赤外光をよく反射する金属を用いることが望ましい。また、電気抵抗部111としては、半導体および金属酸化物などを用いることができ、これは製造手段に合わせ、またアンテナ部120とのインピーダンス整合を考慮して適当な抵抗率をもつ材料を用いることが望ましい。さらに熱電変換素子113としてはボロメータ、焦電型素子、サーモパイル型素子、あるいはダイオードなど、温度変化によって電気特性が変化する素子を用いることが望ましい。この場合、複数のアンテナ要素相互間の間隙における間隔は赤外光の波長より小さくすればよい。また、上述したようにインピーダンスの調整を行うことが望ましい。
【0025】
(センサの動作)
続いて、この電磁波センサ100に自然輻射等の電磁波が入射した場合の動作を以下に説明する。電磁波センサ100では、電気抵抗部111はアンテナ要素121の下に配置されており、アンテナ部120として十分な厚さ(例えば200nm以上)を持つ金属を形成することにより、入射した赤外光の大半はアンテナ要素121によって反射される。
【0026】
また、電気抵抗部111の一部がアンテナ要素121間の間隙122で露出することがあっても、その間隙122の間隔dは赤外光の波長よりも十分小さくなるように形成されているため(例えば0.5μm)、自然輻射の主要成分である赤外光(例えば波長が50μm〜3μm)がこの間隙122を通って電気抵抗部111に照射され、電気抵抗部111が発熱する比率は、無視できる程度に小さくすることができる。
【0027】
一方、この電磁波センサ100のアンテナ部120は、検出したいミリ波・サブミリ波の波長λに対してλ/2の長さをもつような、例えばダイポールアンテナにすることができる。このアンテナ部120の特性インピーダンスZaは、ミリ波・サブミリ波のような超高周波数帯域では、アンテナ部120のインダクタンスとアンテナ部120と基板等との間の電気容量等を用いて表すことができ、これが電磁波に対する真空のインピーダンスと整合するように、例えばZa = 100Ω のように設計することができる。
【0028】
これに対して、アンテナ要素121間の間隙122によって形成されるコンデンサと電気抵抗部111とが形成する並列回路は、間隙122のサイズが設計波長λや赤外光の波長よりも十分小さいため、集中定数回路として取扱うことができ、そのインピーダンスZgは、電気抵抗部111の抵抗値Rと間隙122によって形成されるコンデンサの電気容量Cg、角周波数ωを用いて
Zg = R/(1+jωCgR)
と表せる。例えばR = 100Ω、間隙122の間隔 d = 0.5μm、間隙122に面したアンテナ要素121の面積 S = 2×2μmとし、間隙122は真空になっているものとすると、Cgは真空の誘電率ε0を用いて Cg = ε0・S/d = 7×10-17Fとなる。なお、図1に示したようにアンテナ要素121の下にアンテナコンタクト123を設けた場合は、アンテナ要素121の面積Sとしては間隙122に面するアンテナコンタクト123の面積も含める必要がある。
【0029】
この場合、Zgの大きさは図2のように100μm程度よりも長波長側(低周波数側)ではほぼZaに一致するが、短波長側(高周波数側)ではZaの値からずれて小さくなることがわかる。従って、この電磁波センサ100で検出したいサブミリ波の波長を例えば100μm(周波数3THz)として、ダイポールアンテナの長さを1/2波長である50μmとすると、この電磁波センサ100は波長100μmの電磁波に対してはアンテナ部120と並列回路とのインピーダンス整合が取れており、効率よく検出できることが期待できる。
【0030】
一方、100μmの高調波である50μm(6THz)、33μm(9THz)、25μm(12THz)、...は、アンテナ部120で受信されたとしても並列回路のインピーダンスZgがアンテナ部120のインピーダンスZaと整合しないため大半が反射され、電気抵抗部111で熱に変換される比率はごく小さくなることがわかる。この効果は高調波の波長が短くなるほど大きい。
【0031】
一方、検出したい電磁波の波長よりも長波長側の電磁波は、半波長の長さがこのアンテナ部120の長さよりも大きいため、このアンテナ部120には共鳴しない。従って長波長側の電磁波が本実施の形態に係る電磁波センサ100に与える影響は無視できる。
【0032】
このように本実施の形態によれば、自然輻射の主要成分である赤外光が複数のアンテナ要素121の間隙122を通って電気抵抗部111に照射され、電気抵抗部111が熱せられる比率を無視できる程度に小さくすることができ、かつ検出したい波長よりも短波長側(高周波数側)では並列回路とアンテナ部120とのインピーダンスが整合しないため大半が反射され、電気抵抗部111で熱に変換される比率はごく小さくなるという2つの効果が相乗的に作用することによって、所定の波長帯域の電磁波を選択的かつ高感度に検出することが実現できる。
【0033】
なお、アンテナ要素121間の間隙122のサイズは0.1μmから10μmの範囲である。また、アンテナ要素121間の間隙122の一部または全部は誘電体材料で満たされている。アンテナ要素121間の間隙122は、実質的に真空または空気等で満たされていることが望ましいが、間隙122の一部または全部を絶縁体材料または誘電体材料で満たすことによって、間隙122によって電気的に形成されるコンデンサの容量値を適切に設計し、このコンデンサと電気抵抗部111で形成される並列回路をアンテナ部120と適切にインピーダンス整合するようにすることが可能になる。この際、この誘電体材料は間隙122の下方に配置することによって赤外光を吸収しないようにすることができる。
【0034】
以上の動作により、本実施の形態に係る電磁波センサ100を用いることによって、自然輻射の影響を低減し所定の波長帯域の電磁波のみを選択的かつ高感度に検出することが実現できる。以上では説明の例としてアンテナ部120にはダイポールアンテナを挙げたが、本実施の形態の効果はそれのみに限定されるものではなく、ボウタイアンテナ、対数周期アンテナなど他の構造をもつアンテナに対しても有効である。
【0035】
また、特定の偏光をもつ電磁波を検出するためには、例えば2つのアンテナ要素が間隙を挟んで対向したダイポールアンテナを用い、特に偏光面を指定せずに検出感度を稼ぐには十字型にクロスしたダイポールアンテナやボウタイアンテナを用いるなど、目的に合わせてアンテナ形状を設計することができる。
【0036】
(電磁波センサ100の製造方法)
本実施の形態に係る電磁波センサ100は、例えば以下のような方法によって製造できる。まず、SOI(Silicon on Insulator)基板を用意し、該SOI基板のSOI層に熱電変換素子113を形成する。SOI層より上層には配線部および絶縁膜112を形成する。次に絶縁膜112にパターニングを行ってエッチングホールをRIE(Reaction Ion Etching)によって形成することにより、支持部保護膜を形成する。
【0037】
次にアンテナ形成のために、エッチングホールを埋め込むように、SOI基板上に犠牲層を成膜する。該犠牲層にエッチングを行って熱電変換素子113の上方に配された絶縁膜112の表面を露出させることによりコンタクトホールを形成し、このコンタクトホール内の絶縁膜112上に電気抵抗部111を成膜してパターニングを行う。
【0038】
次に犠牲層、絶縁膜112及び電気抵抗部111上に、アンテナ下層保護膜、アンテナコンタクト123、アンテナ部120とする金属膜及びアンテナ上層保護膜を順次形成する。アンテナ部120には例えばAlのような低抵抗の金属を用いることが望ましい。アンテナ部120の形状および各アンテナ要素121の間隙122は、アンテナ上層保護膜、金属膜及びアンテナ下層保護膜に対してRIEによってパターニングを行って形成し、またこの工程によって犠牲層の表面を露出させる。
【0039】
この後、犠牲層と半導体基板101とにエッチングを行って半導体基板101の一部を除去することにより、熱電変換素子113、層間絶縁膜112、電気抵抗部111等から成るセル部110の下方に凹部103を形成する。次にアンテナ上層保護膜にエッチングを行うことにより、アンテナ部120を露出させる。アンテナ下層保護膜は除去しても良いし残しておいても良い。以上の工程によって、本実施形態の電磁波センサ100を形成することができる。
【0040】
(撮像素子の構造)
ここで、図3に、上述の電磁波センサ100をマトリクス状に配置することにより形成された撮像素子200の構成を示す。この撮像素子200は、電磁波センサ100が半導体基板上に縦横に列設され、各電磁波センサ100が検出した信号は、読み出し回路によって順次映像信号として読み出される。
【0041】
すなわち図3のように、撮像素子200は、かかる電磁波センサ100を縦横に列設してなる画素アレイ205と、読み出し回路とからなり、当該読み出し回路は、画素アレイ205に対し順次に各行にバイアス電圧を印加する垂直スキャナ204と、選択された行に位置する電磁波センサ100からの出力信号を並列で処理するノイズ減算・積分回路201と、A/D変換回路202と、並列に読み出された信号をシリアルで読み出す水平スキャナ203とからなる。
【0042】
(撮像装置の構造)
ここで、図4に、上述の撮像素子200を有する撮像装置300の構成を示す。撮像装置300は、撮像素子200がパッケージ302に封入されることにより形成される。このパッケージ302内部は真空に吸引され、パッケージ302の撮像素子200が面する側には特定周波数の電磁波を透過する光学窓303が配置されている。入射してきた該特定周波数の電磁波は光学素子301によって光学窓303を通してパッケージ302内の撮像素子200に集光・結像され、撮像素子200は映像信号処理部304と接続されて撮像素子200の電気信号は該映像信号処理部304によって処理される。
【0043】
本実施の形態に係る撮像装置300を構成する光学窓303の材質としては、検出したいミリ波・サブミリ波を実質的に透過するものであることが望ましく、具体的には例えばシリコン、ゲルマニウム、石英、サファイアガラス等の無機材料やポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、テフロン(登録商標)等の有機材料を用いることができる。また、光学素子301としては、電磁波を集光するためレンズや凹面鏡などを用いることができ、レンズの材質としては光学窓303の材質に準じたものを用いることができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る電磁波センサの構造の例である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電磁波センサの動作を説明するための、並列回路のインピーダンス変化の図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る撮像素子の構造の例である。
【図4】本発明の実施の形態に係る撮像装置の構造の例である。
【符号の説明】
【0046】
100 電磁波センサ
101 半導体基板
102 配線部
103 凹部
104 支持部
110 セル部
111 電気抵抗部
112 絶縁膜
113 熱電変換素子
120 アンテナ部
121 アンテナ要素
122 アンテナ要素間の間隙
123 アンテナコンタクト
d アンテナ要素間の間隙の間隔
200 撮像素子
201 ノイズ減算・積分回路
202 A/D変換回路
203 水平スキャナ
204 垂直スキャナ
205 画素アレイ
300 撮像装置
301 光学素子
302 パッケージ
303 光学窓
304 映像信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい
ことを特徴とする電磁波センサ。
【請求項2】
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された
ことを特徴とする電磁波センサ。
【請求項3】
表面に凹部が形成された半導体基板と、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さく、
かつ前記複数のアンテナ要素間の前記間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された
ことを特徴とする電磁波センサ。
【請求項4】
前記アンテナ要素間の前記間隙における間隔は、0.1μmから10μmの範囲である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁波センサ。
【請求項5】
前記アンテナ要素間の前記間隙の一部または全部が誘電体材料で満たされている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁波センサ。
【請求項6】
表面に凹部が形成された半導体基板と、
前記半導体基板に画素アレイとしてマトリクス状に配置された複数の電磁波センサと、
前記各電磁波センサによって検出された電磁波に応じた電気信号を映像信号として読み出す読出し回路とを備え、
前記電磁波センサは、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい
ことを特徴とする撮像素子。
【請求項7】
前記複数のアンテナ要素間の前記間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された
ことを特徴とする請求項6に記載の撮像素子。
【請求項8】
撮像素子と、
前記撮像素子が封入され、内部が真空に吸引されたパッケージと、
前記パッケージのうち電磁波の入射面側に配置され、入射された電磁波のうち、特定周波数の電磁波を透過する光学窓と、
入射される電磁波を、前記光学窓を介して、前記パッケージ内の前記撮像素子に集光及び結像させる光学素子と、
前記撮像素子と接続され、前記撮像素子から出力される映像信号を処理する映像信号処理部とを備え、
前記撮像素子は、
表面に凹部が形成された半導体基板と、
前記半導体基板に画素アレイとしてマトリクス状に配置された複数の電磁波センサと、
前記各電磁波センサによって検出された電磁波に応じた電気信号を映像信号として読み出す読出し回路とを備え、
前記電磁波センサは、
セル部と、
前記セル部に電気的に接続された配線を備え前記セル部を前記凹部内又は前記凹部上に支持する支持部とを備え、
前記セル部は、
複数のアンテナ要素を備え入射された電磁波を検出し当該電磁波を電気信号に変換するアンテナ部と、
前記アンテナ部の下方に配置され、前記アンテナ部を形成する前記複数のアンテナ要素とそれぞれ電気的に接続され、前記電気信号に応じた電気エネルギーをジュール熱に変換することにより、前記セル部の温度を変化させる電気抵抗部と、
前記配線部と電気的に接続され、かつ前記アンテナ部及び前記電気抵抗部とは電気的に絶縁され、かつ前記電気抵抗部とは熱的に接続され、前記セル部の温度変化を検出し当該温度変化を電気信号に変換する熱電変換素子とを備え、
前記複数のアンテナ要素間の間隙における間隔は、赤外光の波長より小さい
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
前記複数のアンテナ要素間の前記間隙によって電気的に形成されるコンデンサと、前記電気抵抗部とは、前記アンテナ部に電気的に結合される並列回路を形成し、所定の周波数を有する電磁波に対しては、前記アンテナ部と前記並列回路とのインピーダンス整合が取れ、前記所定の周波数を有する電磁波の高調波に対しては、前記インピーダンス整合が取れなくなるように、前記複数のアンテナ要素が形成された
ことを特徴とする請求項8に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145289(P2008−145289A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333226(P2006−333226)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人情報通信研究機構「ICTによる安全・安心を実現するためのテラヘルツ波技術の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】