説明

鞍乗型車両

【課題】選択された運転モードに関係なく、簡単な操作で急加速することができる鞍乗型車両を提供することである。
【解決手段】制御装置10は、複数の運転モード(A、B)を相互に切り替える第1制御と、複数の運転モード(A、B)のうちの少なくとも2つの運転モードの各々において、シフトダウン操作子30の操作に応じて、当該運転モード(A、B)の変速比をLow側にシフトするキックダウン状態(A1、B1)に移行させる第2制御とを実行することを特徴とする、鞍乗型車両100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両(例えば、自動二輪車)、特に、電子制御された無段変速機が搭載された鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
スクータ型の自動二輪車等の鞍乗型車両には、広くVベルト式無段変速機が使われている。このVベルト式無段変速機は、エンジン等の動力源の出力が入力されるプライマリ軸と、駆動輪への出力を取り出すセカンダリ軸とにそれぞれ配された溝幅可変の一対のプライマリシーブ及びセカンダリシーブで構成され、両シーブにVベルトを巻掛し、溝幅調節機構により各シーブの溝幅を変えることで、Vベルトの各シーブに対する巻掛け径を調節し、それにより両シーブ間での変速比を無段階的に調節するというものである。
【0003】
通常、前記プライマリシーブ及びセカンダリシーブは、相互間にV溝を形成する固定フランジ及び可動フランジとから構成され、各可動フランジがプライマリ軸又はセカンダリ軸の軸線方向に移動自在に設けられている。そして、溝幅調節機構により可動フランジを移動することによって、変速比を無段階に調節できるようになっている。
【0004】
従来、この種のVベルト式無段変速機として、溝幅調節のためのプライマリシーブの可動フランジの移動を電動モータで行うようにしたものがある。電動モータの移動推力により、プライマリシーブの溝幅を狭める方向(Top側)、及び溝幅を広げる方向(Low側)のいずれの方向にも可動フランジを移動することができるので、溝幅を自由に調節することができる(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特許第3043061号公報
【特許文献2】特許第2950957号公報
【特許文献3】特開平7ー119804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Vベルト式の自動無段変速機を電子制御する機構を備えたスクータ型の自動二輪車では、ライダーの操作を必要とすることなく、車速とエンジン回転数(アクセル開度)に対して予め入力されたプログラム(マップ)に基づいて変速比を自動的に変更する。このため、ライダーによる運転操作が容易であり、現在では様々な車種にこの自動無段変速機を適用することが試みられている。
【0006】
この種の電子制御を行う自動無段変速機を備えた自動二輪車の中には、上述したプログラム(マップ)を複数用意して、変速特性の異なる複数の運転モードを備えたものがある。例えば、特許文献3には、複数の運転モードを規定するプログラム(マップ)として、通常走行用のノーマルモードのマップの他に、軽快で機敏な走行用のスポーツモード及び下り坂用のエンブレモード等の複数のマップが格納された車両が開示されている。ここで開示された車両では、各運転モードを規定する複数のマップは、車両の運転状況(アクセル開度、ブレーキの有無等)を判断して自動的に選定されるので、ライダーは何らスイッチ操作を行うことなく、運転状況に応じた的確な走行を行うことができる。
【0007】
しかしながら、特許文献3の上記構成では、各運転モードを規定する複数のマップは自動的に選定されるので、ライダーの意思に基づく各マップの切替を実行することができず、例えば、追い越し時や登坂時等に急加速したくてもライダーの思うように加速ができず、あるいは、カーブ進入時に減速したくてもライダーの思惑どおりにエンジンブレーキを効かせられない等の問題が生じ得る。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、選択された運転モードにかかわらず、簡単な操作で加速/減速することができる鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鞍乗型車両は、無段変速機を制御する制御装置を備えた鞍乗型車両である。かかる鞍乗型車両はシフトダウン操作子を備えている。上記制御装置には複数の運転モードが設定されている。そして、上記制御装置は、複数の運転モードを相互に切り替える第1制御と、上記複数の運転モードのうちの少なくとも2つの運転モードにおいて、上記シフトダウン操作子に応じて、当該運転モードの変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させる第2制御とを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無段変速機の変速を電子的に制御する制御装置を備えた鞍乗型車両において、複数の運転モードを相互に切り替えることができる。さらに、複数の運転モードのうちの少なくとも2つの運転モードにおいて、シフトダウン操作子の操作に応じて、当該運転モードの変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させることができる。これにより、走行状況にあわせて最適な運転モードを選択しつつ、シフトダウン制御による一時的な加速/減速を実現することができ、その結果、ライダーの乗り心地を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。なお、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る鞍乗型車両100の側面構成を示している。図2および図7は、本実施形態の鞍乗型車両100に搭載される制御装置10およびその周辺構成を説明するためのブロック図である。
【0013】
本実施形態の鞍乗型車両100は、図2および図7に示すように、ライダーが操作するアクセル操作子20に応じて出力が制御される駆動源(エンジン)80と、そのエンジン80に接続された無段変速機60と、その無段変速機を電子的に制御する制御装置10とを備えている。また、鞍乗型車両100は、シフトダウン操作子40を備えている。制御装置10には、複数の運転モード(A、B)が設定されている。制御装置10は、複数の運転モード(A、B)を相互に切り替える第1制御11を行なう。さらに、制御装置10は、複数の運転モード(A、B)のうちの少なくとも2つの運転モード(A、B)において、シフトダウン操作子40の操作に応じて、運転モード(A、B)の変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させる第2制御12を行なう。制御装置10は、予め設定されたプログラムに従って種々の制御を実行する。
【0014】
以下、この鞍乗型車両100を詳述する。図1に示した例の鞍乗型車両100は、スクータ型の自動二輪車であり、エンジン80によって発生した駆動力は、無段変速機60を介して後輪(駆動輪)82へと伝わる。自動二輪車100の場合、ライダーが操作するアクセル操作子20は、ハンドル84に取り付けられたアクセル又はアクセルグリップである。
【0015】
本実施形態の無段変速機60は、電子的に制御されるVベルト式の自動無段変速機である。図2に示すように、Vベルト式無段変速機60におけるプライマリシーブの可動シーブ(不図示)の位置は、シーブ位置移動装置(この例では、電動モータ)67によって調節される。電動モータ67によって位置調節されるプライマリシーブは、エンジン80によって回転されるプライマリ軸102(例えばクランク軸)に連接されている。
【0016】
また、無段変速機60は、相互に切換可能な複数の運転モードにて動作させることができる。ここでいう「運転モード」とは、例えば車両を運転する際の変速モードのことである。本実施形態では、無段変速機60の変速特性が異なる複数の変速モードが採用されている。具体的には、無段変速機60は、低燃費や低騒音等を考慮して経済性を優先したノーマルモード(A)(所謂エコモード)と、エンジン等の出力性能を優先したアシストIモード(B)(所謂パワーモード)の2つのモードにて動作している。これらの複数の運転モードは、鞍乗型車両100に乗るライダーの意思に基づく操作により手動で切り替えることができる。
次に、図3も加えて、本実施形態の制御装置10が行う制御方法について説明する。
【0017】
制御装置10は、複数の運転モード(A、B)を相互に切り替える第1制御11を行なう。本実施形態では、制御装置10は、アクセル操作子20とは別に設けられたライダーが操作するモード切替操作子30に応じて、複数の運転モードを相互に切り替えるように制御を実行することができる。図2および図3に示す例では、制御装置10の制御により、ノーマルモード(A)とアシストIモード(B)との間で運転モードが随時切り替えられる(矢印「S50」)。
【0018】
なお、本実施形態では、制御装置10には、モード切替操作子30として、モード切替スイッチ(モード切替SW)30が電気的に接続されており、複数の運転モードの切り替えは、ライダーがモード切替スイッチ30をオンにすることによって実行することができる。モード切替スイッチ30は、例えば、ボタン形態であるモード切替ボタンからなる。
【0019】
そして、制御装置10は、複数の運転モード(A、B)のうちの少なくとも2つの運転モード(A、B)において、シフトダウン操作子40の操作に応じて、運転モード(A、B)の変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させる第2制御12を行なう。本実施形態では、当該第2制御12は、制御装置10に設定された全ての運転モード(A、B)において実行できる。すなわち、制御装置10は、2つの運転モード(ノーマルモード(A)及びアシストIモード(B))の各々において、アクセル操作子20とは別に設けられたライダーが操作するシフトダウン操作子40に応じて、当該各運転モードの変速比よりも変速比をLow側にシフトさせるシフトダウン状態に移行させる制御を実行することができる。つまり、制御装置10は、ノーマルモード(A)からシフトダウン状態(A1)へと移行した場合(矢印「S51」)には、ノーマルモード(A)の変速比よりも変速比をLow側にシフトさせることができ、アシストIモード(B)からシフトダウン状態(B1)へと移行した場合(矢印「S52」)には、アシストIモード(B)の変速比よりも変速比をLow側にシフトさせることができる。
【0020】
なお、本実施形態では、制御装置10には、シフトダウン操作子40として、シフトダウン状態に移行するためのトリガーとなるシフトダウンスイッチ(シフトダウンSW)40が電気的に接続されており、シフトダウン操作は、ライダーがシフトダウンスイッチ40をオンにすることによって実行することができる。シフトダウンスイッチ40は、例えば、ボタン形態であるシフトダウンボタン(SDボタン)からなる。
【0021】
本発明の実施形態によれば、無段変速機60の変速を電子的に制御する制御装置10を備えた鞍乗型車両100において、制御装置10が、2つの運転モード(ノーマルモード(A)及びアシストIモード(B))を相互に切り替える制御を行い、しかも、各運転モード(A又はB)において、当該運転モード(A又はB)の変速比をLow側にシフトさせるシフトダウン状態(A1又はB1)に移行させる制御を行うことができる。したがって、本発明では、2つの運転モード(A又はB)の中から走行状況にあわせて最適な運転モードを選択しつつ、どの運動モードからでもシフトダウン制御による一時的な加速を実現することができる。その結果、ライダーの乗り心地を向上させることができる。なお、シフトダウン制御により一時的な減速(即ちエンジンブレーキによる減速)を実現することも可能である。
【0022】
上記構成では、例えば、ノーマルモード(A)(即ちエンジン等の出力性能を抑制したモード)で走行する場合であっても簡単なスイッチ操作一つで急加速することができるので、追い越し時や登坂時等にわざわざアシストIモード(B)(即ちエンジン等の出力性能を優先したモード)に切り替えなくてもよく、ライダーは快適な走行を楽しむことができる。
【0023】
また、上述した運転モードの切り替えは、ライダーのスイッチ操作によって実行されるので、ライダーの意思に応じて最適な運転モードを選択することができる。加えて、シフトダウン状態への移行も、ライダーのスイッチ操作で実行されるので、ライダーの意思に応じた的確な加速/減速効果を得ることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、モード切替操作子30とシフトダウン操作子40とは、別々のスイッチで構成されているが、モード切替操作子30は、シフトダウン操作子40と兼用してもよい。一例を挙げると、モード切替操作子とシフトダウン操作子とを共通のボタンで構成し、運転モードの切替は該ボタンの長押しによって実行され、シフトダウンへの移行は該ボタンの短押しによって実行されるように構成することもできる。
【0025】
また、本実施形態では、ノーマルモード(A)とアシストIモード(B)の切り替えは、ライダーの手動(スイッチ操作)により実行されるが、これだけに限らず、各運転モードが自動的に切り替わるように構成してもよい。例えば、車両の走行状態に応じて各運転モードが切り替わる自動運転モードを備えた鞍乗型車両を用いることもできる。各運転モードが自動で選択される場合であっても、各運転モードからそれぞれシフトダウン状態へ移行することはできるので、各運転モードを維持した状態にてシフトダウン制御による一時的な加速/減速を実現することができる。
【0026】
以下、図4(a)及び(b)を参照しながら、さらに本発明の実施形態の構成、特に、無段変速機の制御装置の制御について詳細に説明する。
【0027】
本実施形態の制御装置10は、電子制御装置(ECU;Electronic Control Unit)から構成されている。電子制御装置(ECU)は、例えば、マイクロコンピュータ(MPU)からなる。制御装置10は、車両の走行条件(車速やスロットル開度など)に応じた変速比を、予め登録された制御マップ(プログラム)から算出して、その変速比を実現するための変速指令を無段変速機60に与えて、最終的にその変速比を実現させる制御を行う。
【0028】
実際の制御は、車速やスロットル開度の情報を基に制御マップから変速比の目標値(目標変速比)を算出し、目標変速比となるように電動モータ67を駆動してプライマリシーブの可動シーブの位置を制御する。なお、制御マップは、制御装置10の内部に設置された記憶部に格納されている。あるいは、制御装置10の外部に該制御装置10と電気的に接続する記憶部を設け、この記憶部に制御マップを格納することもできる。
【0029】
本実施形態の制御マップの一例を示すと図4(a)及び(b)の通りである。図4(a)は、ノーマルモード(A)時に制御装置10に設定される制御マップR(A)を示す図であり、図4(b)は、アシストIモード(B)時に制御装置10に設定される制御マップR(B)を示す図である。各図は、各運転モードにおける車速とエンジン回転数との関係を表し、図4中において、車速が同じであればエンジン回転数が高い程、無段変速機の変速比がLow側に設定されていることを意味する。なお、各運転モードにおける制御マップ(R(A)及びR(B))は、制御マップによって規定される領域(制御領域)を表しており、この制御領域は、スロットル全閉時における車速とエンジン回転数の目標値の関係を表すラインL1と、スロットル全開時における車速とエンジン回転数の目標値の関係を表すラインL2とに囲まれた領域である。
【0030】
図4(a)に示したノーマルモードの例では、ノーマルモードに基づいて制御が実行されると、車速とスロットル開度の情報に基づく演算によって、エンジン回転数の目標値が算出される。具体的には、車速の情報に基づいて図4(a)中の横軸の位置を決める。そして、スロットル開度に応じて、マップR(A)の範囲内でエンジン回転数の目標値を定める。この場合、車速やスロットル開度が大きくなるほどエンジン回転数の目標値を小さくし(変速比が小さくなるようにTop側に制御)、車速やスロットル開度が小さくなるほどエンジン回転数の目標値を大きく(変速比が大きくなるようにLow側に制御)することにより、スムーズな加速や減速を実現するように構成されている。
【0031】
制御装置10は、そして、刻々と変化する車速とスロットル開度の情報に基づいて、上述した演算を繰り返しながらエンジン回転数の目標値を算出し、無段変速機60の変速比を制御している。
【0032】
ここで、図4(a)のノーマルモード(A)の制御マップR(A)と、図4(b)のアシストIモード(B)の制御マップR(B)とを比較すると、同じ車速のときには、アシストIモード(B)時の方がノーマルモード(A)の時よりもエンジン回転数が高くなるように設定されていることが分かる。すなわち、アシストIモード(B)では、ノーマルモード(A)に比べて変速比がLow側になるように設定されている。このようにアシストIモード(B)の変速比をLow側に設定することにより、アシストIモード(B)では、ノーマルモード(A)よりもパワフルな加速を実現することができる。
【0033】
続いて、本実施形態の制御装置10の制御について説明する。まず、制御装置10は、ライダーがモード切替操作子30を操作すること(例えばモード切替ボタン30を押すこと)により、図4(a)及び(b)に示した各運転モードの制御マップを随時切り替えることができる(矢印「S50」)。
【0034】
例えば、街中で騒音を出さずに走行したい場合には、ライダーはノーマルモード(A)を選択することにより、大人しくのんびりと車両を走行させることができ、あるいは山道等でエンジン出力を高めたい場合には、アシストIモード(B)を選択することにより、レスポンス良くきびきびと車両を走行させることができる。
【0035】
次に、制御装置10は、ライダーがシフトダウン操作子40を操作すること(例えばSDボタンを押すこと)により、各運転モード(A又はB)の変速比よりも変速比をLow側にシフトさせるシフトダウン状態(A1又はB1)に移行させることができる。図示した例では、図4(a)のノーマルモード(A)で走行中の場合には、ノーマルモード(A)の制御マップR(A)は、元の位置よりもLow側の領域R(A1)へとシフトする(矢印「S51」)。また、図4(b)のアシストIモード(B)で走行中の場合には、アシストIモード(B)の制御マップR(B)は、元の位置よりもLow側の領域R(B1)へとシフトする(矢印「S52」)。このように、各運転モード時の変速比よりも一時的にシフトダウンさせることにより、エンジンブレーキをドライビングに活用しながら走行したり、追い越し時や登坂時における加速のもたつきを解消したりすることができる。
【0036】
上記構成では、ノーマルモード(A)からでもシフトダウン状態(A1)で加速することができるので、例えばノーマルモード(A)で走行中に前方の車両に追い抜きをかける場合に、わざわざアシストIモード(B)に切り替えた上で加速を行わなくてもよく、KDボタンを押すだけで一時的に急加速して目標の車両を追い抜くことができ、ライダーは快適な走行を楽しむことができる。
【0037】
なお、本実施形態では、各運転モードからのシフトダウン状態への移行は制御マップを切り替えることなく実行される。すなわち、各運転モードの制御マップから算出された目標変速比に所定の換算係数を乗算することにより実行される。具体的には、シフトダウン状態時のエンジン回転数の目標値は、各運転モードの制御マップから算出されたエンジン回転数の目標値に、所定の換算係数(例えば、1.35)を乗算することにより設定される。乗算される所定の換算係数が大きいほど、シフトダウン状態時の変速比はLow側にシフトするので、さらに大きなエンジン出力を得ることができる。なお、所定の換算係数は、制御装置の内部又は外部に設けられた記憶部に係数マップ形式で格納される。
【0038】
また、各運転モードからのシフトダウン状態への移行は、制御マップを切り替えて実行することも可能である。具体的には、シフトダウン状態を規定する制御マップとして、各運転モードの制御マップに比較して変速比がLow側に設定されたものを予めマップ形式で記憶部に格納しておき、シフトダウン状態への移行後はシフトダウン状態を規定する制御マップを用いて目標変速比を算出するように構成することもできる。この場合において、シフトダウン状態から各運転モードへの復帰は、所定の条件が満足されることにより、自動で行なうものとなっている。シフトダウン状態から各運転モードへの自動的な復帰については、後ほど詳細に説明する。
【0039】
なお、乗算される所定の換算係数は、各運転モードでそれぞれ異なっていてもよいし、各運転モードで同じ換算係数を乗算してもよいが、各運転モードにて異なる換算係数を乗算することにより、キックダウン制御の効果を確実に得ることができる。例えば、アシストIモード(B)の制御マップは、ノーマルモード(A)の制御マップよりも予めLow側に設定されているが、このように制御マップがLow側に設定された場合であってもシフトダウン効果(シフトダウンによる加速/減速効果)を十分得られるように、アシストIモード(B)における換算係数をノーマルモード(A)における換算係数よりも小さな値とすることも可能である。
【0040】
また、図4(a)に示すように、各運転モードにおいて複数段のシフトダウン状態を設定することもできる。この場合には、各運転モードの変速比よりも順次Low側にシフトした位置に複数段のシフトダウン状態が設定される。図4(a)には、ノーマルモード(A)のシフトダウン状態(A1)よりもさらにLow側にシフトダウン状態(A2)が設定された一例を示している。制御装置10は、シフトダウン操作子40の操作に応じて、複数段のシフトダウン状態のうち、順次にLow側に設定されたシフトダウン状態へと移行(図4(a)の例では、ノーマルモード(A)→シフトダウン状態(A1)→シフトダウン状態(A2))する制御を実行することができる。
【0041】
本実施形態におけるシフトダウン状態を解除する方法について説明する。
【0042】
制御装置10は、図2および図7に示すように、シフトダウン状態を解除する解除条件を設定する第1設定部16を備えている。制御装置10は、当該第1設定部16で設定された解除条件に基づいて、シフトダウン状態を解除して当該シフトダウン状態へ移行する前の運転モードに復帰させる第3制御13を行う。制御装置10の第1設定部16には、シフトダウン状態を解除する解除条件を任意に設定することができる。
【0043】
本実施形態では、第1設定部16には、シフトダウン状態を解除する解除条件として、アクセル操作子20の所定の操作が設定されている。この場合、第3制御13は、第1設定部16に設定されたアクセル操作子20の操作に応じて実行されることを特徴とする。具体的には、本実施形態では、第1設定部16には、シフトダウン状態を解除する解除条件として、アクセル開度を減少させるアクセル操作子20の所定の操作が設定されており、制御装置10は、当該アクセル開度を減少させるアクセル操作子20の操作に応じて第3制御13を実行する。なお、第3制御13は、制御装置10に予め設定されたプログラムに従って実行される。
【0044】
換言すると、本実施形態の制御装置10は、鞍乗型車両100の状態に応じてシフトダウン解除指令を発し、それにより、シフトダウン状態を解除して、シフトダウン状態から各運転モードのそれぞれに復帰させる制御を行うことができる(矢印「S53」及び矢印「S54」)。鞍乗型車両100の状態は、制御装置10に電気的に接続されたセンサ25によって得ることができる。ここで、鞍乗型車両100の状態というのは、シフトダウンスイッチ40以外の状態のことであり、鞍乗型車両100の状態を得るためのセンサ25は、例えば、アクセル操作子20の状態を検出するアクセル位置センサ22(APS;アクセル・ポジション・センサ)である。この場合、シフトダウン解除指令は、アクセル位置センサから出力されるアクセル位置信号に基づいて発するように構成することができる。
【0045】
本実施形態では、シフトダウン解除指令が、アクセル操作子20のアクセル開度が減少したことを示すアクセル位置信号に基づいて発せされるように設定することができる。この構成では、例えば前方の車両に追い抜きをかける場合に、シフトダウン状態に移行してアクセルを開いて加速し、目標の車両を追い抜いてからアクセルを戻して(即ちアクセル開度が減少することにより)、シフトダウン状態から自動的に各運転モードに復帰させることができる。このようにシフトダウン状態からの復帰をライダーの意思を反映しやすいアクセル操作子20と連動させることにより、別途スイッチを操作しなくてもよく、装備も簡素に済ませられるというメリットもある。なお、ここでのアクセル開度の減少量は、適宜好ましいものを設定しておけばよい。
【0046】
なお、上述した例以外にも、車両走行時の種々の情報に応じてシフトダウン解除指令を発するように構成することもできる。例えば、鞍乗型車両100の状態を得るためのセンサ25がスロットル開度センサの場合、鞍乗型車両100の状態に応じて発せられるシフトダウン解除指令は、スロットル開度センサから出力されるスロットル開度信号に基づいて発せられることになる。あるいは、センサ25が鞍乗型車両100の車速を検出する車速センサの場合、鞍乗型車両100の状態(または走行状態)に応じて発せられるシフトダウン解除指令は、例えば、車速が所定値以下の場合に発せられるようにすることもできる。
【0047】
この場合、第1設定部16において、シフトダウン状態を解除する解除条件として、所定のスロットル開度信号の検知や、シフトダウン状態を解除する所定の車速よりも遅くなった場合を設定するとよい。
【0048】
図2に示すように、シフトダウン解除操作子としてのシフトダウン解除スイッチ(シフトダウン解除SW)41を設け、第1設定部16には、シフトダウン状態を解除する解除条件として、シフトダウン解除スイッチ41の所定の操作が設定してもよい。この場合、第3制御13は、第1設定部16に設定されたシフトダウン解除スイッチ41の操作に応じて実行される。
【0049】
すなわち、かかる構成によれば、上述した車両走行時の種々の情報と連動した自動的な各運転モードへの復帰と併用して、解除ボタンを押した時には、ライダーの意思による各運転モードへの復帰方法を採用することができる(矢印「S55」及び矢印「S56」)。すなわち、シフトダウン解除指令を発するシフトダウン解除操作子41としてシフトダウン解除スイッチ(例えば、シフトダウン解除ボタン)を設けて各運転モードへ復帰させるような制御を行うことも可能である。
【0050】
アクセル操作子20による自動的な各運転モードへの復帰だけでなく、解除ボタンを押した時にも各運転モードへ復帰させることにより、簡単な操作で明確に各運転モードに復帰させることができて、運転者の意思を容易に反映させることができる。
【0051】
また、本実施形態のシフトダウン解除スイッチは、モード切替操作子(例えば、モード切替SW30)と共通のボタンから構成してもよい。つまり、モード切替SW30とシフトダウン解除スイッチ(例えば、シフトダウン解除ボタン)とを兼用して、シフトダウン状態でないときには各運転モード間を相互に切り替え、シフトダウン状態のときは各運転モードへ復帰する制御を行うことができる。すなわち、当該共通のボタンは、鞍乗型車両100がシフトダウン状態に移行されている時にはシフトダウン解除スイッチ41として機能し、シフトダウン状態でない場合にはモード切替スイッチ30として機能するように構成することができる。
【0052】
シフトダウン解除スイッチとモード切替SW30とを併用することにより、各運転モードの切替とシフトダウン状態からの解除を一つのスイッチで行えるようにしている。これにより、スイッチ周りの構成をシンプルにでき、スイッチ操作が煩雑となるのを防止できる。また、装備も簡素に済ませられるので、スイッチに費やすコストを低減できるメリットもある。
【0053】
なお、上述した例だけでなく、シフトダウン解除スイッチ41をシフトダウン操作子40と兼用することも可能である。例えば、シフトダウン操作子40の初回の押圧はシフトダウン状態への移行、次いで、2回目は各運転モードへの復帰との制御を行えるように構成することができる。あるいは、ボタン40の押し方の相違(例えば、長押し、又は、2回以上の連続押し)によって、シフトダウン操作子41とシフトダウン解除操作子40との機能の差をつけてもよい。
【0054】
次に本発明の別の実施形態を説明する。なお、かかる別の実施形態は、上述した実施形態に係る鞍乗型車両の制御装置の構成を一部変更したものである。
【0055】
本実施形態では、制御装置10には、図8および図9に示すように、複数の運転モード(A、B、C)と、擬似マニュアルモードDとが設定されている。制御装置10は、複数の運転モード(A、B、C)を相互に切り替える第1制御11を行なう。また、制御装置10は、複数の運転モード(A、B、C)の全ての運転モード(A、B、C)においてシフトダウン状態に移行させる第2制御12を行なう。さらに、この制御装置10は、擬似マニュアルモードDに移行する条件を設定する第2設定部17を備えている。そして、制御装置10は、複数の運転モード(A、B、C)のうちの少なくとも1つの運転モードCにおいて、第2設定部17で設定された所定の条件に応じて、擬似マニュアルモードDに移行する第4制御14を行う。本実施形態では、制御装置10は、アクセル開度を瞬時に増大させるアクセル操作子20の操作に応じて、第4制御を行なうように構成されている。
【0056】
本実施形態では、鞍乗型車両200は、ノーマルモード(A)とアシストIモード(B)だけでなく、さらにアシストIIモード(C)を備える点において上述の鞍乗型車両100とは異なる。
【0057】
鞍乗型車両200の無段変速機は、3つの運転モード(ノーマルモード(A)とアシストIモード(B)とアシストIIモード(C))を備えている。追加されたアシストIIモード(C)は、基本的にはアシストIモード(B)と同じ変速特性を有するが、所定の条件のときに、車両のエンジン等の出力性能を最大限に優先した擬似マニュアルモード(D)へと移行させることができるモードである。つまり、アシストIIモード(C)とアシストIモード(B)とは、擬似マニュアルモード(D)への移行が許容されているか否かで相違している。なお、擬似マニュアルとは、AT(オートマティック)変速機でありながらMT(マニュアル)変速機のような該固定変速比での段階的な加速感を得ることができる変速のことをいう。
【0058】
鞍乗型車両200の制御装置10は、アシストIIモード(C)において、アクセル操作子20のアクセル開度が瞬時に増大したことを示すアクセル位置信号に基づいて、エンジン出力が最大付近となるように変速比をシフトさせる擬似マニュアルモード(D)に移行させる制御を行う(矢印「S74」)。換言すると、制御装置10は、ライダーがアクセル操作子20を急開した時に擬似マニュアルモード(D)に移行させる制御を行うことができる。
【0059】
さらに図6も加えて、擬似マニュアルモード(D)に移行させる制御について説明する。図6には、アシストIIモード(C)の時に設定される制御マップR(C)を示す図である。
【0060】
上述したように、アシストIIモード(C)では、基本的にはアシストIモード(B)と同じ変速特性を有する。即ち、アシストIIモードの制御マップR(C)は、アシストIIモード(B)と同じ制御マップから構成されている。
【0061】
そして、アシストIIモードでの走行時に、ライダーがアクセルを急開した時(例えばアクセルグリップを素早く捻った時)には、制御装置10は、アクセル操作子20のアクセル開度が瞬時に増大したことを示すアクセル位置信号に基づいて、アシストIIモード(C)の変速比をエンジン回転数の上限値P付近のラインR(擬似マニュアルモードD)まで該固定変速比でシフトさせる(矢印「S74」)。なお、本実施形態では、ラインR(擬似マニュアルモードD)は、横軸の車速の変化に伴って複数段の該固定変速比を切り替えて加速を進める為、結果的に上下動する(ジグザグとなる)ように設定されている。擬似マニュアルモードDは、車速に応じて段階的に変速比を変化するような運転モードであるが、本実施形態では、制御装置10に設定された上述したラインRに従って無段変速機60を制御することによって実現されている。
【0062】
エンジン回転数の上限値Pはエンジン最大出力近傍に設定されており、このようにエンジン回転数の上限値P付近までエンジン回転数を上昇させることにより、エンジン出力を一気に増大して急加速することができる。加えて、ラインR(D)を車速の変化に伴って複数段の該固定変速比を切り替えて加速を進める為、AT変速機でありながらMT変速機のような加速を実現することができるので、ライダーは心地良い加速感を得ることができる。また、擬似マニュアルモード(D)への移行をライダーの意思を反映しやすいアクセル操作子20と連動させることにより、別途スイッチを操作しなくてもよく、装備も簡素に済ませられるというメリットもある。
【0063】
なお、アクセル開度の瞬間的な増減量は、例えばアクセル開度の変化率から求めることができる。アクセル操作子20がアクセルグリップの場合には、アクセル開度の変化率は、例えばアクセルグリップの回転角速度である。ここでのアクセル開度の瞬間的な増大量は適宜好ましいものを設定しておけばよい。
【0064】
なお、本実施形態では、擬似マニュアルモード(D)への移行は、シフトダウン状態(C1)からも許容される。即ち、ライダーは、SDボタンを押圧してシフトダウン状態(C1)へと移行した後(矢印「S70」)、さらにアクセルを急開することにより、擬似マニュアルモード(D)へと移行することができる(矢印「S72」)。この構成では、例えば車両がカーブに差し掛かる場合に、SDボタン40を押してシフトダウン状態(C1)に移行し、エンジンブレーキを効かせてゆっくり曲がった後、アクセル急開により擬似マニュアルモード(D)で一気に加速するといった走行を実現することができる。
【0065】
なお、擬似マニュアルモード(D)への移行は、アクセル操作子20の状態によらず、ライダーの意思に応じて(例えば、擬似マニュアル操作子31を別途設けて、あるいは他の操作子と併用して)実行することも可能である。
【0066】
また、擬似マニュアルモード(D)の解除は、例えば、制御装置10に、擬似マニュアルモード(D)が解除される条件を予め設定する第3設定部18を設け、当該第3設定部18に設定された条件に応じて擬似マニュアルモード(D)が解除されるように構成するとよい。また、擬似マニュアルモード(D)が解除される条件としては、例えば、上述したシフトダウン状態の解除方法と同一のものとすることができる。つまり、制御装置10は、第1設定部16で予め設定された解除条件に基づいて、擬似マニュアルモード(D)を解除することができる。擬似マニュアルモード(D)を解除する場合は、例えば、制御装置10は、鞍乗型車両100の状態に応じて擬似マニュアル解除指令を発し、それにより、擬似マニュアルモード(D)を解除してアシストIIモード(C)に復帰させる制御を行うとよい(矢印「S75」)。
【0067】
擬似マニュアルモード(D)を解除する解除条件としては、他の一例を挙げると、ライダーがアクセル操作子20を閉じたときである。この場合、擬似マニュアル解除指令は、アクセル操作子20のアクセル開度が減少したことを示すアクセル位置信号に基づいて発せされる。ここでのアクセル開度の減少量は、適宜好ましいものを設定しておけばよい。
【0068】
また、擬似マニュアルモード(D)を解除する擬似マニュアル解除操作子32を別途設けてもよい。この場合、ライダーが擬似マニュアル解除ボタンを押した時に擬似マニュアルモード(D)が解除されるように構成するとよい。擬似マニュアルモードDが解除された場合には、例えば、図5で矢印「S76」で示すように、アシストIIモード(C)へ復帰するように構成するとよい。また、擬似マニュアルモード(D)を解除する解除条件としては、アクセル操作子20の所定の操作に基づく自動解除と擬似マニュアル解除操作子32による任意解除とを併用することもできる。
【0069】
なお、本実施形態では、アシストIIモード(C)から擬似マニュアルモード(D)へと移行する例を示したが、これに限らず、複数の運転モードのうちの少なくとも1つの運転モードから、擬似マニュアルモード(D)へと移行できればよい。したがって、例えばノーマルモード(A)から擬似マニュアルモード(D)へと移行させるような制御も可能である。
【0070】
また、本実施形態では、3つの運転モード(A、B、C)が設定されており、モード切替操スイッチ30を操作することにより、順次各運転モード(A、B、C)を切り替えることができる(矢印「S50(1)」〜矢印「S50(3)」)。また、シフトダウン操作子40の操作に応じて、アシストIIモード(C)からシフトダウン状態(C1)に移行させることもでき(矢印「S70」)、アクセル操作子20の状態及び/又はシフトダウン解除スイッチの押圧に応じて、シフトダウン状態(C1)を解除することもできる(矢印「S77」及び矢印「S78」)。つまり、ここでは、3つの運転モードの全てのモードから、シフトダウン状態へと移行させることができる。
【0071】
この例に示したように、複数の運転モードのうちの全ての運転モードからシフトダウン操作子に移行できるように構成することにより、選択された運転モードに関係なくいつでも急加速できるようになるので、走行中のライダーの快適性を一層向上させることができる。ただし、本発明では、複数の運転モードうちの少なくとも2つのモードからシフトダウン状態に移行できればよく、シフトダウン状態へと移行できない運転モードを含むことも許容される。例えば、5つの運転モードのうちの4つのモードからシフトダウン状態へと移行できるように構成することも可能である。
【0072】
以下、図7を参照しながら、さらに本発明の実施形態の構成、特に、無段変速機60の構成について説明する。
【0073】
図7に示すように、本実施形態の鞍乗型車両100は、エンジン80から動力を伝達する伝達機構の一つとしてVベルト式無段変速機60を備えている。
【0074】
このVベルト式無段変速機60は、エンジン80によって回転されるプライマリ軸102(例えばクランク軸)にプライマリシーブ62を連接すると共に、遠心クラッチ65や減速機構66を介して後輪82(駆動輪)に動力を出力するセカンダリ軸103にセカンダリシーブ63を連接し、これらプライマリシーブ62とセカンダリシーブ63間にVベルト64が架け渡された構成となっている。
【0075】
プライマリシーブ62及びセカンダリシーブ63は、それぞれ固定シーブ62A、63Aと可動シーブ62B、63Bを有し、固定シーブ62Aと可動シーブ62B間及び固定シーブ63Aと可動シーブ63B間にVベルト64が巻回されるV溝が形成されている。エンジン80の駆動力は、プライマリシーブ62によってVベルト64の回転力に変換され、そしてVベルト64の回転力がセカンダリシーブ63を介して後輪82に伝達される。
【0076】
本実施形態のVベルト式変速機60では、プライマリシーブ62の可動シーブ62Bを電気的に軸方向に移動させてV溝の幅を調節することにより、Vベルト64の各プーリ62、63に対する巻回径が変化し、これにより両プーリ62、63間で変速比が無段階的に調節される。
【0077】
無段変速機60には、プライマリシーブ62の可動シーブ62Bの位置を調節するためのシーブ位置移動装置(電動モータを主にして構成されている)67と、可動シーブ62Bの位置を検出するためのシーブ位置検出装置(実際の変速比を検出する機構に相当)68が設けられている。本実施形態では、シーブ位置検出装置68により検出されたシーブ位置を基にシーブ移動装置67を介して可動シーブ62Bを移動させてプライマリシーブ62に巻回されるVベルト64の巻回径が変化する。
【0078】
本実施形態では、鞍乗型車両100の車両速度を検出する検出装置として、遠心クラッチ65の上流でセカンダリシーブ63の回転を検出するセカンダリ(2nd)シーブ回転速度センサ69と、遠心クラッチ65の下流であって後輪82の近傍には、後輪82の回転速度を直接検出する回転速度センサ86とが設けられている。これらのシーブ回転速度センサ69と後輪回転速度センサ86は、それぞれ車速に比例した回転速度信号を検出する。なお、これらのセンサは、何れか一方のみが設けられた構成であってもよい。
【0079】
本実施形態の鞍乗型車両100には、制御系の中心的な要素として、無段変速機60の変速比を制御するための変速比制御装置(制御装置)10が設けられている。
【0080】
この変速比制御装置10は、マイクロコンピュータを主要素として構成されており、アクセル位置センサ22から出力されるアクセル位置信号、シーブ回転速度センサ69または後輪回転速度センサ86から出力される回転速度信号、エンジン80の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ81から出力されるエンジン回転速度信号、スロットル開度センサ(図示せず)から出力されるスロットル開度信号、シーブ位置検出装置68から出力されるシーブ位置信号、車両全般の電源系のON/OFFを司るメインスイッチのメインスイッチ信号等が入力される。
【0081】
制御装置10は、上述した各種信号を基にエンジン80や無段変速機60の全般の制御を行うものである。具体的には、スロットル開度信号、セカンダリシーブ回転速度、駆動輪回転速度信号、シーブ位置信号等を基に車速や加速度を演算しつつ目標変速比を求める。そして、制御装置10は、目標変速比となるようにシーブ位置移動装置67を駆動してプライマリシーブ62の可動シーブ62Bの位置を制御する、いわゆる変速制御を実行することにより、鞍乗型車両100の実際の変速比を制御している。
【0082】
また、無段変速機の構造は、上述した実施形態に限定されず、プライマリシーブとセカンダリシーブにVベルトが巻き掛けられた形態を有し、シーブ位置移動装置及び制御装置によって、プライマリシーブの溝幅が調整される種々の無段変速機に適用可能である。
【0083】
かかる無段変速機には、例えば、図10に示すように、Vベルトが金属製のベルトで構成された無段変速機を採用することができる。なお、図10において、図7に記載された実施形態の無段変速機と、同じ作用を奏する部材又は部位には、同じ符号を付している。
【0084】
この実施形態では、Vベルトが金属製のベルトで構成された無段変速機260(以下、適宜「金属ベルトCVT」という。)は、図10に示すように、Vベルトを金属製のベルト264で構成した以外にも、種々の変更を行なっている。
【0085】
この金属ベルトCVT264は、クラッチ265と、プライマリ回転センサ268と、油圧シリンダ267A、267Bと、油圧制御弁267Cとを備えている。
【0086】
クラッチ265は、エンジン80の出力軸と金属ベルトCVT260の入力軸との間に配設されている。エンジン80の出力軸と金属ベルトCVT260の入力軸との間で、動力の伝達を断接する。
【0087】
次に、プライマリ回転センサ268は、プライマリシーブ262の回転速度を検出している。この実施形態では、制御装置10は、無段変速機260の変速比を、プライマリ回転センサ268で検出されたプライマリシーブ262の回転速度と、車速センサ(図では後輪回転速度センサ)86によって検出される鞍乗型車両の車速との比で算出している。なお、無段変速機260の変速比は、プライマリ回転センサ268で検出されたプライマリシーブ262の回転速度と、セカンダリシーブ回転速度センサ69によって検出されるセカンダリシーブ263の回転速度との比で算出してもよい。
【0088】
次に、油圧シリンダ267Aは、プライマリシーブ262の溝幅を調整する。この実施形態では、油圧シリンダ267Aは、プライマリシーブ262を構成する可動フランジ262Bに押圧力を付与して、プライマリシーブ262の溝幅を調整する。また、油圧シリンダ267Bは、セカンダリシーブ263の溝幅を調整する。この実施形態では、油圧シリンダ267Bは、セカンダリシーブ263を構成する可動フランジ263Bに押圧力を付与して、セカンダリシーブ263の溝幅を調整する。油圧制御弁267Cは、油圧シリンダ267A、267Bに付与する油圧を調整する弁である。油圧制御弁267Cは、油圧シリンダ267A、267Bのうち、一方の油圧シリンダ267A(267B)に油圧を高くするときには、他方の油圧シリンダ267B(267A)の油圧が低くなるように、油圧を制御する。油圧制御弁267Cは、制御装置10によって制御される。
【0089】
この金属ベルトCVT260は、制御装置10で油圧制御弁267Cを操作することによって、金属ベルトCVT260の変速比が変更される。制御装置10の制御については、無段変速機60と同様の制御が行なわれる。なお、この実施形態にかかる金属ベルトCVT260では、制御装置10は、エンジンの回転数を制御目標値とすることに代えて、プライマリシーブ262の回転数を制御目標値にしている。
【0090】
なお、図1に示した自動二輪車100は、スクータ型の自動二輪車であるが、これに限らず、無段変速機の変速を電子的に制御する制御装置を備えた自動二輪車であれば適用することができる。なお、本願明細書における「自動二輪車」とは、原動機付自転車(モーターバイク)、スクータを含むモーターサイクルの意味である。具体的には、車体を傾動させて旋回可能な車両のことをいう。したがって、前輪および後輪の少なくとも一方を2輪以上にして、タイヤの数のカウントで三輪車・四輪車(またはそれ以上)としても、それは「自動二輪車」に含まれ得る。また、自動二輪車に限らず、本発明の効果を利用できる他の車両にも適用でき、例えば、自動二輪車以外に、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))や、スノーモービルを含む、いわゆる鞍乗型車両に適用することができる。なお、四輪バギー等の場合には、アクセル操作子は、アクセルグリップの形態の他に、レバー形態のものもあり得る。加えて、駆動源80として内燃機関のエンジンを用いたが、駆動源80としてモータを用いた鞍乗型車両にすることも可能である。
【0091】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、選択された運転モードに関係なく、簡単な操作で急加速することができる鞍乗型車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係る鞍乗型車両100の側面構成を示す図。
【図2】本実施形態の鞍乗型車両100に搭載される制御装置10およびその周辺構成を説明するためのブロック図。
【図3】鞍乗型車両100の制御装置の制御を説明するための図。
【図4】(a)はノーマルモード(A)時における制御マップR(A)を説明する図、(b)はアシストIモード(B)時における制御マップR(B)を説明する図。
【図5】鞍乗型車両200の制御装置の制御を説明するための図。
【図6】アシストIIモード(C)時における制御マップR(C)を説明する図。
【図7】本実施形態の無段変速装置の構成を示すブロック図。
【図8】別の実施形態に係る制御装置およびその周辺構成を説明するためのブロック図。
【図9】別の実施形態に係る無段変速機の構成を示すブロック図。
【図10】別の実施形態に係る無段変速機の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0094】
10 制御装置
11 第1制御
12 第2制御
13 第3制御
14 第4制御
16 第1設定部
17 第2設定部
18 第3設定部
20 アクセル操作子
22 アクセル位置センサ
25 センサ
30 モード切替操作子(モード切替SW)
31 擬似マニュアル操作子
32 擬似マニュアル解除操作子
40 シフトダウン操作子(シフトダウンSW)
41 シフトダウン解除操作子(シフトダウン解除SW)
60 無段変速機
62 プライマリシーブ
62A 固定シーブ
62B 可動シーブ
63 セカンダリシーブ
63A 固定シーブ
63B 可動シーブ
64 ベルト
65 遠心クラッチ
66 減速機構
67 シーブ位置移動装置(電動モータ)
68 シーブ位置検出装置
69 シーブ回転数センサ
80 エンジン
82 後輪
84 ハンドル
86 後輪回転数センサ
100 鞍乗型車両
102 プライマリ軸
103 セカンダリ軸
120 変速比制御装置
200 鞍乗型車両
A ノーマルモード
B アシストIモード
C アシストIIモード
D 擬似マニュアルモード
A1 シフトダウン状態(ノーマルモード)
B1 シフトダウン状態(アシストIモード)
C1 シフトダウン状態(アシストIIモード)
P エンジン回転数の上限値
R(A) 制御マップ(ノーマルモード)
R(B) 制御マップ(アシストIモード)
R(C) 制御マップ(アシストIIモード)
R(D) 制御マップ(擬似マニュアルモード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作子に応じて出力が制御される駆動源と、当該駆動源に接続された無段変速機と、当該無段変速機を制御する制御装置とを備えた鞍乗型車両であって、
シフトダウン操作子を備え、
前記制御装置には、複数の運転モードが設定されており、
前記制御装置は、複数の運転モードを相互に切り替える第1制御と、
前記複数の運転モードのうちの少なくとも2つの運転モードにおいて、前記シフトダウン操作子の操作に応じて、当該運転モードの変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させる第2制御と
を実行することを特徴とする、鞍乗型車両。
【請求項2】
前記複数の運転モードを相互に切り替えるモード切替操作子を備え、
前記第1制御は、前記モード切替操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記シフトダウン状態を解除する解除条件を設定する第1設定部を備え、当該第1設定部で設定された解除条件に基づいて、前記シフトダウン状態を解除して当該シフトダウン状態へ移行する前の運転モードに復帰させる第3制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記第1設定部には、前記シフトダウン状態を解除する解除条件として、前記アクセル操作子の所定の操作が設定されており、
前記第3制御は、前記第1設定部に設定された前記アクセル操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記第3制御は、アクセル開度を減少させる前記アクセル操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項4に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
シフトダウン解除操作子を備え、
前記第1設定部には、前記シフトダウン状態を解除する解除条件として、前記シフトダウン解除操作子の所定の操作が設定されており、
前記第3制御は、前記第1設定部に設定された前記シフトダウン解除操作子の操作に応じて実行されるにことを特徴とする、請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
前記複数の運転モードを相互に切り替えるモード切替操作子を備え、
前記第1制御は、前記モード切替操作子の操作に応じて実行され、
前記シフトダウン解除操作子と、前記モード切替操作子とが共通のボタンで構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記第2制御は、前記制御装置に設定された全ての運転モードにおいて実行可能である、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項9】
前記制御装置は、前記無段変速機の変速比を車速に応じて段階的に変化させる擬似マニュアルモードが設定されており、
前記擬似マニュアルモードに移行する条件を設定する第2設定部を備え、
前記複数の運転モードのうちの少なくとも1つの運転モードにおいて、前記第2設定部で設定された所定の条件に応じて、前記擬似マニュアルモードに移行する第4制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項10】
前記第2設定部には、擬似マニュアルモードに移行する条件として、アクセル開度を瞬時に増大させる所定の操作が設定されている、請求項9に記載の鞍乗型車両。
【請求項11】
制御装置によって制御された無段変速機であって、
前記制御装置には、複数の運転モードが設定されており、
前記制御装置は、
前記複数の運転モードを相互に切り替える第1制御と、
前記複数の運転モードのうちの少なくとも2つの運転モードにおいて、シフトダウン操作子の操作に応じて、当該運転モードの変速比をLow側にするシフトダウン状態に移行させる第2制御と
を実行することを特徴とする、無段変速機。
【請求項12】
前記第1制御は、複数の運転モードを相互に切り替えるモード切替操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項11に記載の無段変速機。
【請求項13】
前記制御装置は、前記シフトダウン状態を解除する解除条件を設定する第1設定部を備え、当該第1設定部で設定された解除条件に基づいて、前記シフトダウン状態を解除して当該シフトダウン状態へ移行する前の運転モードに復帰させる第3制御を行うことを特徴とする、請求項11に記載の無段変速機。
【請求項14】
前記第1設定部には、前記シフトダウン状態を解除する解除条件として、アクセル操作子の所定の操作が設定されており、
前記第3制御は、前記第1設定部に設定された前記アクセル操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項13に記載の無段変速機。
【請求項15】
前記第3制御は、アクセル開度を減少させる前記アクセル操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項14に記載の無段変速機。
【請求項16】
前記第1設定部には、前記シフトダウン状態を解除する解除条件として、シフトダウン解除操作子の所定の操作が設定されており、
前記第3制御は、前記第1設定部に設定された前記シフトダウン解除操作子の操作に応じて実行されることを特徴とする、請求項13に記載の無段変速機。
【請求項17】
前記第2制御は、前記制御装置に設定された全ての運転モードにおいて実行可能である、請求項11に記載の無段変速機。
【請求項18】
前記制御装置は、前記無段変速機の変速比を車速に応じて段階的に変化させる擬似マニュアルモードが設定されており、
前記擬似マニュアルモードに移行する条件を設定する第2設定部を備え、
前記複数の運転モードのうちの少なくとも1つの運転モードにおいて、前記第2設定部で設定された所定の条件に応じて、前記擬似マニュアルモードに移行する第4制御を行うことを特徴とする、請求項11に記載の無段変速機。
【請求項19】
前記第2設定部には、擬似マニュアルモードに移行する条件として、アクセル開度を瞬時に増大させる所定の操作が設定されている、請求項18に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−132963(P2008−132963A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243035(P2007−243035)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】