説明

音発生システム

【課題】新規な入力方式に基づく音発生システムを提供する。
【解決手段】固有の音源を識別する音源固有情報を記録した記録部1が物体に配置されている。ユーザの演奏操作により検出器2を記録部1に対して接近すると、該記録部1に記録されている音源固有情報を検出器2が読み取る。処理部4は、検出器2で読み取った音源固有D情報に応じて、固有の音源に対応する音の発生を指示する音発生指示を生成する。音源装置5は、生成された音発生指示に基づき、該固有の音源に対応する音の音響信号を電気的又は電子的に発生する。更に、外力が加えられることで物理的に振動して音響音を発生する発音体6が設けられており、これによりアコースティック音も発生できる。発音体6に記録部1を配置し、ユーザの操作により検出器2で発音体6を振動させたとき、該検出器2で記録部1の音源固有情報を読み取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な入力方式に基づく音発生システムに関し、新しいタイプの電子楽器として応用することに適したものである。
【背景技術】
【0002】
自然楽器においては、弦などの物理的発音体(物理的音源)に対して、演奏操作に応じた外力を加えることで該発音体を物理的に振動させ、音を発生する。一方、電子楽器は、演奏操作入力を行うための装置として、鍵盤のような、自然楽器における演奏操作手段と同様の形態の入力装置を具備し、該入力装置による入力操作に基づき電子的音源(楽音発生装置)により楽音信号を発生する(例えば、特許文献1,2)。入力装置は、典型的には、各音階音(ノート)に対応付けられたキースイッチを具備し、オンされたキースイッチに対応するキーデータを音階音(ノート)発生指示信号として電子的音源(楽音発生装置)に入力する。
【特許文献1】特許第2600455号
【特許文献2】特許第3900089号
【0003】
入力装置におけるキースイッチは、典型的には、自然楽器における演奏操作手段と同様の形態からなる(それを模した)操作手段の操作に連動してそのオン・オフを検出するように構成されている。従って、従来の電子楽器の入力装置においては、人手によって操作される操作手段(鍵や模擬弦など)とそれに対応するキースイッチとを組み合わせて内蔵しなければならない、という構造的制約があった。そのような入力装置の構造的制約は、電子楽器の形態を限界づけるものとなり、自由な発想に基づく形態からなる楽器を生み出すことができなかった。
【0004】
一方、自動演奏のための楽譜をバーコードの形式で記録してなるバーコード楽譜の存在は公知である。このようなバーコード楽譜の実施形態は、演奏開始前にバーコード読取器によりバーコード楽譜から一楽曲の圧縮された記録データを一括して読み取り、これを解釈(圧縮解除)して演奏シーケンスデータに変換した後、電子楽器内のメモリに転送記憶し、その後、自動演奏をスタートし、該メモリから演奏シーケンスデータを順次読み出して自動演奏を行うことからなる。このような従来のバーコード楽譜は、単なる楽譜でしかなく、ユーザ自らがリアルタイム演奏することができる楽器とは言えないものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、新規な入力方式に基づく音発生システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る音発生システムは、固有の音源を識別する音源固有情報を記録した記録部と、ユーザによって前記記録部に対して接近するよう操作される検出器であって、前記記録部に対する接近に応じて該記録部に記録されている前記音源固有情報を読み取る前記検出器と、前記検出器で読み取った前記音源固有情報に応じて、前記固有の音源に対応する音の発生を指示する音発生指示を生成する処理手段とを備える。
【0007】
本発明によれば、ユーザによる検出器の記録部への接近操作に応じて、該記録部に記録されている音源固有情報が読み取られ、読み取られた該音源固有情報がアイデンティファイしている固有の音源に対応する音の発生を指示する音発生指示が生成される。こうして生成された音発生指示は、音響音を電気的又は電子的に発生する音源装置に送信されることで、該音源装置から前記固有の音源に対応する音響音を発生させることができる。なお、本発明において、「接近」とは、近接のみならず、接触、当接を含む。
【0008】
すなわち、本発明に係る音発生システムは、前記処理手段で生成された前記音発生指示に基づき、前記固有の音源に対応する音の音響信号を電気的又は電子的に発生する音源装置、を更に備える。この音源装置は、記録部を具備した本体の中に内蔵されていてもよいし、又は、記録部を具備した本体とは分離されていてもよい。なお、この場合、音源固有情報が識別する固有の音源が物理的振動体若しくはアコースティック音源であれば、該電子的又は電気的な音源装置から発生される該固有の音源に対応する音響音は、該固有の音源が実際に発する音を模擬するものである。
【0009】
なお、ユーザによるリアルタイムの演奏操作(検出器の記録部への接近操作)に基づき生成された音発生指示は、必ずしもリアルタイムに前記音源装置に送信される必要はなく、演奏データとして記憶装置内に順次記憶しておき、その後、記憶装置から演奏データ(音発生指示)を順次読み出すことで、非リアルタイムに前記音源装置に送信されるようになっていてもよい。
【0010】
なお、1つの音源固有情報は、必ずしも1つの特定の音又は音階音(ノート)のみに対応するとは限らず、有る音域又は複数音からなるグループに対応していてもよいし、あるいは効果音や鳴き声のような時間的に音高が変動する音に対応していてもよい。該1つの音源固有情報は、要するに1つの固有の音源を識別するものであればよく、その固有の音源が持つ音高又は音域あるいは発音態様に依存するように、その情報に意味合いを持たせることができる。例えば、1つの固有の音源がギター弦であれば、1つの弦(音源)としてのアイデンティティを持つ一方で、演奏者が押さえるフレット位置に従って、任意の音高(ノート)に対応付けることができる。一方、1つの固有の音源がハープ弦であれば、1つの弦(音源)としてのアイデンティティを持つことは、1つの特定の音高(ノート)のみに対応付けられる。
【0011】
また、音源固有情報が識別する固有の音源とは、音の発生源となりうるものでありさえすれば、通念上の楽器に限らず、何でもよい。例えば、人、動物等の声帯又は発声器官であってもよい。すなわち、音階音(ノート)に限らず、効果音あるいは任意の種類の特定の音(例えば猫の鳴き声など)であってもよく、音源固有情報によって固有に特定される何らかの音源に基づく音である。典型例としては、記録部には、複数の固有の音源の各々につき、それぞれを識別する音源固有情報を記録する。その場合、各音源固有毎に別々の記録部が設けられていてもよいし、共通の記録部における異なる箇所(位置)にそれぞれ音源固有情報を記録されていてもよい。なお、音源固有情報が識別する固有の音源そのものを、本発明の音発生システムが必ずしも具備している必要はない。また、本発明の音発生システムが具備する電子的又は電気的音源装置とは、そのような固有の音源そのものである必要はなく、該固有の音源が発生する音を模擬的に発生しうるものであれはばよい。
【0012】
記録部における音源固有情報の記録方式は、磁気式、光学式、RFID(Radio Frequency Identification)読み取り方式と組み合わせた電子メモリ式など、どのような記録方式を用いてよい。また、記録する音源固有情報のコード化形式も、2進コード、磁気パターン、QRコードなど、どのような形式でもよい。記録部は、それが採用した記録方式によっては制限があるにしても、概ね、任意の箇所に設ける又は配置することができる。
【0013】
従って、本発明に係る音発生システムを応用して楽器を構成した場合、自由な発想に基づく形態からなる楽器を生み出すことができる。すなわち、既存の楽器の形態/外観を取ることなく、任意の形態/外観をとってよい。例えば、楽器以外の任意の「物」に対して、本発明に従う記録部を設けた場合、「宿借り楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器が生まれる。あるいは、どこにでも本発明に従う記録部を設け、それを読み取るための手段を用意しさえすれば、そこ(それ)が楽器となるので、「どこでも楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器が生まれる。あるいは、特定の外観・形態を持たない、任意の外観・形態からなる楽器を創造できるので、「アメーバ楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器が生まれる。
【0014】
勿論、本発明に従う音発生システムは、既存の楽器と同じ又は似せた形態/外観を持たせた楽器として構成(応用)することもできる。更には、既存の自然楽器(アコースティック楽器)に対して本発明を適用する、若しくは本発明に従って構成した楽器にアコースティック音源を搭載する、ことも可能である。
【0015】
すなわち、本発明に係る音発生システムは、外力が加えられることで物理的に振動して音響音を発生する発音体、を更に備えるようにしてよい。これにより、アコースティック音源(発音体)と、本発明に従う電気的又は電子的音源の双方を備えた「ハイブリッド楽器」若しくは「ハイブリッド音源」を提供することができる。この場合、前記記録部は前記発音体の少なくとも一部分に形成されるようにしてもよいし、あるいは、発音体以外の箇所に設けるようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0017】
[基本構成]
図1は、本発明に従う音発生システムの基本構成を示すブロック図である。記録部1は、固有の音源を識別する音源固有情報(以下、ID情報という)を記録している。検出器2は、ユーザによって記録部1に対して接近するよう操作され、記録部1に対する接近に応じて該記録部1に記録されているID情報を読み取る。検出器2は送信器3を内蔵しており、読み取ったID情報を無線又は有線で処理部4に送信する。処理部4は、検出器1で読み取ったID情報に応じて、該ID情報が識別する前記固有の音の発生を指示する音発生指示を生成する。音源装置5は、処理部4で生成された音発生指示に基づき、前記固有の音の音響信号を電気的又は電子的に発生する。これにより、ユーザによる検出器2の記録部1に対する接近操作に応じて、前記固有の音の音響信号が発生されることなり、リアルタイムの音演奏操作を行うことができる。すなわち、後述するピッキング操作又は打撃操作等のユーザ演奏操作により上記検出器2を記録部1に接触又は近接させること(以下、「検出器をオン操作する」という)がトリガ(演奏行為)となって、楽器の演奏を進行することを可能にしている。
【0018】
記録部1、処理部4及び音源装置5の物理的帰属場所は、どこであってもよい。例えば、本発明に従って構成した1つの楽器本体側にこれらが帰属していてもよい。あるいは、記録部1と処理部4が楽器本体側に帰属し、処理部4が生成した音発生指示を外部の音源装置5に対して無線又は有線で送信するようにしてもよい。あるいは、処理部4が生成した音発生指示を記憶装置に一旦記憶し、ユーザによる検出器2の記録部1に対する接近操作とは異なる時点で、非リアルタイムに演奏を再生するようにしてもよい。
【0019】
記録部1におけるID情報の記録方式は、磁気式、光学式、RFID読み取り方式と組み合わせた電子メモリ式など、どのような記録方式を用いてよい。また、記録するID情報のコード化形式も、2進コード、磁気パターン、QRコードなど、どのような形式でもよい。検出器2は、記録部1におけるID情報の記録方式に応じて、該ID情報を読み取るのに適した構成のセンサ(磁気センサ、光学センサなど)からなる。
【0020】
発音体6は、外力が加えられることで物理的に振動して音響音を発生するもので、弦などのアコースティック音源からなる。記録部1は、該発音体6の少なくとも一部分に形成されるようにしてもよいし、あるいは、発音体6以外の箇所に設けるようにしてもよい。また、このような発音体6(アコースティック音源)を具備していなくてもよい。しかし、発音体6(アコースティック音源)を設ければ、本発明に従って構成した楽器として、アコースティック音源(発音体6)と、本発明に従う電気的又は電子的音源の双方を備えた「ハイブリッド楽器」若しくは「ハイブリッド音源」を提供することができる。すなわち、検出器2が発音トリガ手段としての機能を実質的に備えているので、「検出器をオン操作する」ことで電子的音源装置から楽音が発音され、これと同時に該「オン操作」に基づくアコースティック音源からの音響発生がなされる、という理由により、ハイブリッド楽器であるということができるのである。
【0021】
[具体例1]
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
図2は、本発明に従う音発生システムをハープ型楽器の形態で「ハイブリッド楽器」として実現した例を示す外観図である。
【0022】
このハープ型楽器10は、共鳴体であるホローボディ11と、該ボディ11上にて駒10a,10b間に張設された複数の弦12とを含んで構成される。ホローボディ11には、サウンドホール10c,10d,10eが設けられている。このハープ型楽器10は、ホローボディ11と弦12とからなる構成によってアコースティック楽器として機能する。すなわち、弦12に対して爪弾きによる外力が加えられることで、弦12が物理的に振動し、ホローボディ11が共鳴して音響音を発生する。この場合の音高は、通常知られるように、弦12の太さ及び長さと張り具合によって決まる。また、音色、音量等の楽音特性は、弦12とホローボディ11の材質・構造など及び奏者による弾き具合などによって決まる。
【0023】
本発明に従う音発生システムとしての機能から見ると、弦12は、固有の音を識別するID情報を記録した記録部としての機能を受け持つ。また、弦12を爪弾くための専用のピック13(図2、図4)を用意し、このピック13を上記検出器2として機能するように構成するものとする。すなわち、弦12は、通常の単純なハープ弦ではなく、予め固有の音(例えば固有のピッチ)を識別するID情報が所定の記録方式で記録されているものである。例えば、スティール製の弦12に対して、各弦毎に当該弦が受け持つ楽音固有情報(例えば楽音ピッチ)を示すコード(ID情報)を所定パターンでそれぞれ磁化してなるものである。これにより、ピック13で弦12を弾いたとき、上記のようにアコースティック楽器としての発音がなされるのみならず、本発明に従って、該ピック13で弦12からID情報を検出し、検出したID情報に基づき電子的に楽音信号を生成し、発音させることができる。こうして、自然楽器と電子楽器とが一体化されたハイブリッド楽器を提供することができる。
【0024】
図3(a)は、弦12の着磁パターンを例示する図である。ID情報は所定ビット数(例えば6ビット)からなり、1つの弦12において長さ方向に同じID情報が繰り返し記録(着磁)されている。繰り返し記録(着磁)されているID情報の1単位を区別できるようにするために、1単位が6ビットからなるID情報のコードは、所定ビット数(例えば2ビット)の区切りコードPをその最下位ビット側(又は最上位ビット側でもよい)に付随している。図示例では、区切りコードPは弦張設方向に関してS−N方向に着磁された2ビットで構成される。これに対してID情報のコードは1ビットが区切りコードPとは逆にN−S方向に着磁されるようになっており、当該ビットの論理値が「1」のときN−S方向に着磁され、「0」のとき非着磁とされる。このように、区切りコードPとID情報のコードとの着磁方向が異なることにより、容易に区切りコードPを検出することができ、該区切りコードPの位置から所定ビット数(例えば6ビット)からなるID情報の1単位を容易に抽出することができる。磁化パターンにおける1ビットの幅Bは、どのビットも均等に所定の長さに統一されているものとする。なお、各ビットの区別を明確にするために、各ビットの境界には磁化されていない部分を設けるのがよい。
【0025】
図4(a)は、弦12に記録されたID情報を読み取るための上記検出器2として機能するように構成したピック13の一例の平面図であり、(b)はその側面図である。ピック13は、平面的外観形状は従来公知のピックと同様に、その上部(手持ち部分)が指で掴みやすいように拡がりを持っており、その先端部(弾き部分)が弦を滑らかに弾くことができるように丸みを帯びた形状からなっており、また、適宜の弾性を有している。ピック13の表面及び内部には、上記検出器2として機能させるために必要なセンサ及び電気/電子回路が設けられている。ピック13の表面には、弦12に記録されたID情報を読み取るためのセンサとして、所定の配置で設けられた複数の磁気抵抗効果素子からなるMRセンサ13aが設けられている。また、該ピック13が弦12を弾いたことを検出するトリガセンサとして、歪センサ13bが設けられている。なお、この歪センサ13bは、トリガセンサとしての機能のみならず、演奏タッチを検出するためのタッチセンサとしても機能させることができる。更に、これらのセンサ13a,13bの出力信号を、システムの処理装置に送信するための送信器13c及びそれに関連する電気/電子回路がピック13の内部に設けられている。これらの送信器13c及び回路等を内蔵するために、図4(b)に示すように、ピック13の上部(手持ち部分)の厚みが幾分厚くなっていてもよい。
【0026】
図5は、ピック13の先端部におけるMRセンサ13aの配置パターン例を拡大して示す図である。ピック13がどのような相対的位置関係で弦12を弾いたとしても該弦12に記録されたID情報を読み取ることができるようにするために、適切な配置で多数のMRセンサ13aを設けるものとする。図5に示す配置例では、横方向に16列のMRセンサ列13a−1乃至13a−16が設けられ、各列の幅は磁化パターンにおける1ビットの幅Bに対応している。また、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16は、最大で3段(3個)、最小1段(1個)のMRセンサで構成されており、同じ列のMRセンサ13aの出力はオア合成されて1つの出力信号とされる。この構成により、弦12に記録されたID情報の各ビットが、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16に1対1で対応付けられたとき、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16からは、対応付けられたビットの値(S−N着磁又はN−S着磁(つまり1)若しくは非着磁(つまり0))を示す出力信号を得ることができる。なお、センサ配列を多段構成とすることにより、ピック13の弦12に対する接近位置・角度等に多少のずれがあっても検出精度を確保することができる。図5に示した構成はピック13の弦12に対する当接角度に工夫されており、図3(b)に示した構成はピック13の弦12に対する弦長手方向の接触位置にずれがあっても検出可能なように工夫されている。なお、各MRセンサ13aは、S−N着磁検出出力とN−S着磁検出出力とを有する双極2出力タイプのMRセンサで構成するものとする。その場合、「オア合成」とは、S−N着磁検出出力とN−S着磁検出出力とを別々にオア合成するものとする。また、各MRセンサ13aの出力1ビットとは、S−N着磁検出出力とN−S着磁検出出力の対を1ビットと称するものとする。すなわち、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16から出力される16ビットの出力信号には、区切りコードPを検出するためのS−N着磁検出出力の16ビットとID情報を検出するためのN−S着磁検出出力の16ビットがそれぞれ対を成しており、16対の検出信号からなっている。
【0027】
そして、図5に示すような多数のMRセンサ13aの配置パターンが、ピック13の両面において設けられる。ピック13の両面における配置パターンは、同位相ではなく、横方向に幾分位相ずれして配置するのがよい。図3(b)は、そのようなピック13の両面における配置パターンの位相ずれを示す断面略図である。これによって、弦12における磁化パターンの配置に対するピック13の弦長手方向の当接位置が多少ずれたとしても、どちらかのピック面のMRセンサ配置パターンがより適切に弦12における磁化パターンの配置に対応付けられるようにすることができ、不感帯のない検出を行うことができる。すなわち、一方の面の配置パターンでは各センサの略中央が弦12の磁気パターンの各ビットの境界に位置してしまうようなことがあり得るが、そのような場合、他方の面の配置パターンでは各センサの略中央が弦12の磁気パターンの各ビットの略中央に位置するようになるので、こちらの検出出力に基づいて正確な検出を行うことができる。なお、便宜上、ピック13の一方の面をA面といい、他方の面をB面という。
【0028】
図5において、ピック13によって接触される弦12の位置関係の一例を一点鎖線で示している。各MRセンサ列13a−1乃至13a−16内のたて方向の2センサ素子の間に弦12の当接位置が来たとしても、両センサ素子で弦12の磁気パターンのビットを検知できるし、また、ピック13は図5でたて方向にずらすように撥弦されるので、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16内のたて方向の複数センサ素子のいずれかによって確実に弦12の磁気パターンのビットを検知できる。
【0029】
図6は、ピック13に内蔵される送信器13c及びそれに関連する電気/電子回路の一例及び受信側の回路の一例を示す。送信器13cには、アンプ13dを介してA面の16個のMRセンサ列13a−1乃至13a−16の出力信号(A)及びB面の16個のMRセンサ列13a−1乃至13a−16の出力信号(B)が並列入力される。歪センサ13bの出力はアンプ13eを介して送信器13cの送信制御入力に与えられる。歪センサ13bの出力に基づきピック13が弦12を弾いたことを検出し(演奏トリガ検出)、そのときに各面の各MRセンサ列13a−1乃至13a−16から得られるセンサ出力信号を送信器13cから外部に送信する。この送信は無線送信方式を用いるものとするが、その他の非接触式通信方式を用いてもよい。
【0030】
なお、歪センサ13bを設けずに、センサ出力信号の各ビットがオールゼロに立ち下がったときを検出してそれをセンサ出力信号の送信タイミングとしてもよい。その場合は、オールゼロに立ち下がる前のセンサ出力信号をバッファ記憶しておき、このバッファ記憶されたセンサ出力信号を送信するものとする。このように、ピック13による弦12の接触の後に生じるセンサ出力信号のオールゼロ検出タイミングを、発音タイミングとして規定すれば、アコースティック撥弦楽器の発音形態と合致する。
【0031】
なお、歪センサ13bは演奏タッチセンサとしても機能するものであり、送信器13cは、歪センサ13bの出力信号をリアルタイムで送信するようにする。
【0032】
図2に示すハープ型楽器10の適宜部位には、図1に示すシステムにおける処理部4及び音源装置5に相当する電子装置(電子楽器実現装置)が搭載され、更に、該音源装置5で生成された楽音信号を音響的に発音するスピーカが搭載される。これらの電気・電子的処理部4及び音源装置5並びに関連するスピーカ等の部分は、楽器10の外、即ち、楽器10とは別体に設けてもよく、その場合は、概ね図1で一点鎖線で囲んだ部分が別体構成となる。すなわち、楽器10は、既存の又は特注したハープ楽器に磁気記録処理を施した弦12が張設されている自然楽器であってもよい。その場合、信号の送受は、例えばピック13に備わった送信器を介して別体構成の処理部4に送信するスタイルで実現できる。
【0033】
図6に示すように、ハープ型楽器10に搭載される(又は外部に別体で構成される)処理部4及び音源装置5の機能を実現するために関与するCPU14が設けられ、それに関連して、ピック13側の送信器13cから送信された信号を受信するための受信器15が設けられる。
【0034】
受信器15が受信したセンサ出力信号は、パターン認識部16に入力され、このセンサ出力信号のどの部分から6ビットのID情報を抽出すべきかが判定される。典型的には、2ビットの区切りコードPで両側が挟まれた6ビットがID情報である。よって、1つの面の16ビットの区切りコード検出用センサ出力信号(S−N着磁検出出力)から2つの区切りコードPを検出し、この2つの区切りコードPで両側が挟まれた6ビットをID情報の候補として特定する。パターン認識部16では、ピック13の両面のID情報検出用センサ出力信号(N−S着磁検出出力)から上記のように特定された6ビットのID情報の候補を抽出する。この場合、区切りコードPが1ビットしか検出されない、あるいは片側しか検出されない場合であっても、それによって挟まれた又は隣の6ビットをID情報候補として特定・抽出するようにしてよい。
【0035】
判定部17は、パターン認識部16が抽出したID情報候補に基づき6ビットのID情報を特定するための判定処理を行う。例えば、ピック13の両面のセンサ出力信号からそれぞれ抽出された6ビットのID情報候補が一致していれば、それを演奏音のID情報として特定する。あるいは、片面でしか6ビットのID情報候補が抽出されなければ、それを演奏音のID情報として特定する。あるいは、両面のセンサ出力信号からそれぞれ抽出された6ビットのID情報候補が一致していないならば、適宜の推定基準に従って1つを演奏音のID情報として特定する。また、ID情報候補が、実際には存在していない値を示していたら、適宜の推定基準に従って該ID情報候補の値を変更し、実際に存在している値からなるID情報を演奏音のID情報として特定する。もしくは、ID情報候補が実際には存在しない値を示したなら、「ID情報無し」として特定するようにしてもよい。その場合は、発音せずとして処理するか、あるいは、音高情報を持たないノイズ発生音として発音処理する。このノイズ発生音は、例えば、アコースティック撥弦楽器でも明確な音高を持たない音がビリツキ音として発生される場合があるので、それに似せることができる。こうして特定された演奏音のID情報が、ピッキング操作がなされたことを示すピックトリガ信号と共に、CPU14に入力される。また、歪センサ13bを演奏タッチセンサとしても機能させる場合は、受信器15で受信した歪センサ13bの出力信号もCPU14に入力される。なお、図6には、フレットセンサ18と該フレットセンサ18に対する押圧操作を検出する押圧操作検出回路19が示されているが、ハープ型楽器10においては、これらは使用されない。
【0036】
送信方法の別の例として、上記のように演奏トリガ検出に応じてセンサ出力信号の送信を行うのではなく、常時、センサ出力信号を送信すると共に歪センサ13bの出力信号も送信するようにするやり方であってもよい。その場合は、受信側で、センサ13bの出力信号に基づき演奏トリガを検出し、そのときのセンサ出力信号をバッファに取り込み、バッファに取り込んだデータに基づきID情報を判定するようにすればよい。
【0037】
なお、ピック13に設けるMRセンサ13aの配置は図5に示したものに限らず、弦12に記録した複数ビットからなるID情報を効果的に検出しうるものであれば、どのようなものでもよい。例えば、図7に示すように、1個のMRセンサ13aがたて長の形状からなっていてもよい。この場合も、図5と同様に、横方向に16列程度で、各MRセンサ13aを配列する。図7(a)は、たて長の各MRセンサ13aを略平行に配列した例を示し、(b)は、たて長の各MRセンサ13aをやや放射状に配列した例を示す。
【0038】
図8は、図6に関連して、ハープ型楽器10に搭載される前記処理部4及び音源装置5に相当する電子装置(電子楽器実現装置)のハードウェア構成の全体例を示すブロック図である。このような電子楽器実現装置は、公知の構成を使用してよい。CPU14に関連してROM20,RAM21が設けられ、マイクロコンピュータが構成されている。このマイクロコンピュータのバス22に各装置・回路が接続されている。設定操作子23は、ハープ型楽器10を電子楽器として機能させる場合における音色、音量、音高、効果等についての各種の設定操作を行う操作子からなっており、検出回路24でその操作を検出し、操作検出信号がバス22を介してCPU14に取り込まれる。表示器25は、ハープ型楽器10を電子楽器として機能させる場合において、各種の表示を行うためのものであり、CPU14の制御の下で各種の表示データがバス22を介して表示回路26に与えられ、該表示データに基づく表示が表示器25でなされる。音源部27は、前述の音源装置5に相当するものであり、CPU14の制御の下で発生すべき楽音を指示する発音指示データがバス22を介して音源部27に与えられ、該発音指示データで指示されたデジタル楽音信号を生成する。DSP28は、音源部27で生成したデジタル楽音信号に対して楽音効果付与処理あるいはフィルタ処理などの信号処理を行う。信号処理の施された楽音信号はサウンドシステム29から音響的に発音される。公知のように、外部のMIDI機器31との間でMIDIデータを授受できるようにするために、MIDIインタフェース30を備えていてよい。
【0039】
図9は、図8のCPU14によって実行される処理の一例を示すフロー図であり、(a)はメインルーチンを示し、(b)はメインルーチン中で実行される「演奏操作検出」処理の詳細を示す。メインルーチンにおいては、所定の初期設定処理S1を行った後、パネル処理S2、演奏操作検出処理S3、発音処理S4を繰り返し実行する。パネル処理S2では、設定操作子23の操作検出信号に基づき必要な処理を行い、また、表示器25に対して必要な表示データを与えて表示を行わせる処理などを実行する。演奏操作検出処理S3では、判定部17が判定したID情報に基づきどのような演奏操作がなされたかを検出する。発音処理S4では、検出した演奏操作に応じた楽音信号を発生する。
【0040】
図9(b)において、ステップS31ではピックトリガ信号を受信したか否かを判定する。前述のように、ピック13で弾かれた弦12に記録されたID情報と共にピックトリガ信号がCPU14で受信されると、YESと判定され、次のステップS32に進む。ステップS32では、判定部17で特定されたID情報に基づき、MIDI変換テーブルを参照して、該ID情報によって特定される楽音の音高コードを生成する。次のステップS33では、前記歪センサ13bの出力信号に基づき楽音制御情報(ベロシティ)をMIDIフォーマットで生成する。こうして生成された音高コードとベロシティデータとをセットにしてMIDIフォーマットのキーオンイベントデータとして出力する。このMIDIフォーマットのキーオンイベントデータに基づき発音処理S4において楽音信号を発生する。従って、ピック13で弦12を弾く操作に応じてリアルタイムで電子的楽音を発生することができる。なお、このハープ型電子楽器10で楽音を発生することなく、MIDIフォーマットのキーオンイベントデータをMIDIインタフェース30を介して外部のMIDID機器31に出力するようにしてもよい。あるいは、該MIDIフォーマットのキーオンイベントデータをメモリに記憶することにより、演奏シーケンスデータを作成するようにしてもよい。
【0041】
ハープ型楽器10の変形例として、ハープ形状の楽器に限らず、弦を爪弾くタイプの如何なる弦楽器に対しても本発明を適用することができる。また、複数の弦を備える楽器に限らず、1つの弦のみからなる楽器であってもよい。また、1本の弦を複数の領域又は位置に区分けし、区分けされた各領域又は位置毎に異なるID情報を記録するようにしてもよい。その場合は、ピック13で弾かれた弦の領域又は位置に応じたID情報が読み取られ、該読み取られたID情報に応じた楽音信号を発生することができる。例えば、弾かれた弦の領域又は位置に応じて異なるピッチの楽音信号を電子的に発生するようにすることができ、そうすると、ピック13で弾かれた弦によって発生されるアコースティック音とは異なるピッチを持つ電子的楽音を弾かれた弦の領域又は位置に応じたピッチで発生することができ、アコースティック音と電子音のハーモニー演奏を容易に行うことができる。
【0042】
この場合、弦の基音周波数に対して所定の音程関係にある複数のピッチ(音高)のID情報をそれぞれ所定の箇所(弦の所定位置)に例えば着磁パターンコード情報として記録しておくものとする。具体的には、図10(a)のように、2つの駒BS1,BS2の間に張設されたスティール製の弦121の全長Lを等間隔で12分割した各区切りの位置P1〜P12を基準にした「Pn−Pn-1」(ただし、nは1〜12)の長さの各区間では、Pnに相当するピッチ(音高)を示すID情報をそれぞれ記録するようにする。図10(a)において、P0とP12は弦を張設するための両端の駒BS1,BS2の位置であり、P0位置が当該弦の基音周波数に対応する位置(開放弦位置)とする。例えば、P0位置とP1位置との間の区間はP1に相当するピッチ(音高)を示すID情報を記録し、P1位置とP2位置との間の区間はP2に相当するピッチ(音高)を示すID情報を記録し、...P11位置とP12位置との間の区間はP12に相当するピッチ(音高)を示すID情報を記録する。上記実施例と同様に、各区間に記録するID情報は複数ビットからなるコードの着磁パターンからなっている。この場合、1区間につき少なくとも1つのコードの着磁パターンを記録する態様でもよいが、1区間につき複数の同じコードの着磁パターンを弦の長さ方向に沿って繰り返し記録するのが、検出性能を上げる意味で、好ましい。着磁パターンからなるID情報を検出するための検出器は、上記実施例に示されたピック13と同様の構成であってよい。
【0043】
ここで、例えば、各区間に記録すべきピッチPnを、
n=P0 × 2n/2 (ただし、nは1〜12)
なる音程関係で設定するようにすれば、1オクターブを12分割した半音音階を1弦で設定することができる。すなわち、当該弦の任意の区間をピック13で弾くと、当該弦そのものの物理的振動数であるピッチP0の基音周波数のアコースティック音が発生されると同時に、当該区間に記録されたID情報が示す上記ピッチPn(ただし、nは1〜12)の楽音を電子的に発生させることができる。
【0044】
これにより、新しいタイプの楽器として、例えば1弦のみからなる1弦楽器を提供することができる。この1弦楽器は、基音周波数のアコースティック音を発生することができるのみならず、1オクターブの音階音を発生することもできるものである。また、1弦楽器に限らず、3弦楽器等として構成することもできる。上記と同様に区間分割とピッチ割り当てを行ったとすると、3弦楽器では3オクターブの音階音を電子的に発生させることができる。この場合、任意の音階音を電子的に発生させる一方で、弾かれた弦の基音周波数のアコースティック音が同時発生されることにより、一種の通奏低音演奏効果を自然に醸し出すことができる。
【0045】
尚、1弦の区間分割数は上記のような12に限らず、また、各区間に割り当てるピッチも上記のような半音音階を構成するものに限らず、それぞれ適宜に設計してよい。
【0046】
図10(b)はそのような一例を示すものであり、ギターで言うところのハーモニック奏法に好適なハイブリッド楽器を本発明に従って提供する実施例を示す。図10(b)においては、2つの駒BS1,BS2の間に適切なチューニングで張設されたスティール製アコースティック弦122の全長Lを、純正律音階の弦振動モードの節に相当する1又は複数の箇所で区切り、各区切り位置に対応して当該位置を指で軽く触れた(添え指する)状態で弦122を物理的に振動させたときに実現されるハーモニック音の倍音ピッチ(倍音周波数)を示すID情報を各区切り位置に割り当ててそれぞれ記録するようにする。この記録パターンは図3(a)と同様であってよく、弦の長さ方向に1コードの複数ビットが順次並ぶようにし、1つの位置に対応して記録するコードは1つだけであってもよいし、同じコードを複数繰り返して記録するようにしてもよい。図10(b)においても、P0とP01は弦を張設するための両端の駒BS1,BS2の位置であり、P0位置が当該弦の基音周波数f0に対応する位置(開放弦位置)とする。全長Lの1/2の位置がP13の位置であり、P1位置からP13位置までが下記表のように、純正律音階の弦振動モードの複数の節に対応して定められる。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表中で、各位置の下に記載された分数は、P01から対応する各位置までの長さをLに対する比率で示す。例えば、P13位置を節とする倍音のピッチ周波数f13は、
13 =2f0
であり、当該弦の基音周波数f0の1オクターブ上の音程を示すピッチである。また、P8位置を節とする倍音のピッチ周波数f8は、
8 =3f0
であり、当該弦の基音周波数f0に対して1オクターブ上の5度音程を示すピッチである。なお、上記表には示していないが、P13位置からP01位置までの間にも、P1位置からP13位置までの間と同様の、純正律音階の弦振動モードの節があるから、それらの節の位置に対応して対応する倍音ピッチを示すID情報を記録するようにしてよい。例えば、P14位置はP01から1/3の比率の長さの節であり、そのピッチ周波数f14は、
14 =3f0
であり、当該弦の基音周波数f0の1オクターブ上の5度音程を示すピッチである。
【0049】
なお、上記のようなハーモニック奏法に好適なハイブリッド楽器を演奏する場合、添え指に本発明に従うID情報検出用の検出器を装着する。添え指に装着するID情報検出用の検出器は、例えば、図10(c)に示すような指61に嵌め込むタイプの指輪式ピックPCとして構成するとよい。図10(d)は(c)の側面図である。この指輪式ピックPCは、指輪状のホルダー部FHにMRセンサ13aaを備える。指輪式ピックPCを指61に装着したとき、このMRセンサ13aaが指の腹側に来るように装着する。MRセンサ13aaは、図3,図4,図5,図7を参照して説明したピック13におけるMRセンサ13aの配置構造と略同様のものからなっていてよいが、センサ素子の配列スペースを、ピック先端に設けるタイプのMRセンサ13aよりも余分に確保できるので、その分だけ多くのセンサ素子を配置して検出精度を上げることができる。弦に添え指してID情報を検出するときは、指61の腹側で弦に添え指して、ホルダー部FHのMRセンサ13aaが弦に接してID情報を読み取れるようにする。なお、指輪式ピックPCには、前記ピック13と同様に送信器が装着される。また、MRセンサ13aaが弦に接したことを検出するための接触センサを指輪式ピックPCに設けてもよい。あるいは、MRセンサ13aaの出力を送信器を介して処理部4に送り、処理部4内で新たなID情報が検出されたと判定したときに、MRセンサ13aaが弦に接したと検出するようになっていいてもよい。
【0050】
上記ハーモニック奏法に好適なハイブリッド楽器の演奏法について説明する。一つの演奏法にあっては、一方の手のいずれか又は複数の指61に指輪式ピックPCを嵌め、このピックPCのMRセンサ13aaを弦の所望の節に対応する位置に軽く接触させつつ(添え指しつつ)、他方の手の指又は他方の手に持ったピックで弦を弾くようにする。これにより、一方の手で弦の所望の節の位置に接触させたMRセンサ13aaで検出したID情報に基づく電子音と、他方の手の指で弦を直接弾くことに基づくアコースティック音と、を一緒に発生させることができる。なお、電子音を発生させるための発音トリガタイミングは、MRセンサ13aaを弦に接触させたタイミング(つまり、新たにID情報が検出されたタイミング)としてよい。あるいは、他方の手に持ったピック内に歪センサと送信器を収納しておき、該ピックで弦が弾かれたときに歪センサから出力される歪検出信号に基づき発音トリガタイミングを決定してもよい。例えば、所定レベル以上の歪検出信号が得られたとき(つまり、弦がピックで或る程度強く弾かれて、明確なアコースティック音が発生されるとき)、該所定レベル以上の歪検出信号に基づき電子音を発音トリガする。
【0051】
もう一つの演奏法にあっては、一方の手のいずれか又は複数の指61(例えば人指し指)に指輪式ピックPCを嵌め、このピックPCのMRセンサ13aaを弦の所望の節に対応する位置に軽く接触させる(添え指する)と同時に、同じ手の別の指(例えば中指)で弦を弾くようにする。これによっても、いずれかの指で弦の所望の節の位置に接触させたMRセンサ13aaで検出したID情報に基づく電子音と、他の指で弦を直接弾くことに基づくアコースティック音と、を一緒に発生させることができる。
【0052】
このように、ハーモニック奏法による演奏を容易に行うことができる。特に、節位置が駒に近いハーモニック音をアコースティックギターで出すには高度なテクニックが要求されるが、本発明によれば、指で触れた節に対応する純正律の倍音を電子音で発生するため、そのような高度なテクニックが要求されるハーモニック音も容易に出すことができる。
【0053】
勿論、弦を直接弾くことをしなければ、いずれかの指で弦の所望の節の位置に接触させたMRセンサ13aaで検出したID情報に基づく電子音(純正律音階の音)を発生させることができ、これにより、純正律音階に基づく澄んだ音色の演奏を行うことができる。
【0054】
なお、前記表1に示した各節位置に対応するハーモニック音の理論上の倍音ピッチにはそのオクターブが異なるものがある。本発明によれば、ハーモニック音を電子音で発生するため、各節の音がすべて共通のオクターブとなるようにピッチ変換して純正律音階のハーモニック音を発生することもできる。そうすれば、純正律音階に基づくメロディ演奏等を行う場合に好都合である。
【0055】
なお、指輪式ピックPCにおいて、MRセンサ13aaとは略180度反対側に、ホルダー部FHから突出してピッキング用先端部PPが設けられていてもよく、また、このピッキング用先端部PPにID情報検出用の第2のMRセンサ13aが設けられていてもよい。この第2のMRセンサ13aは、ピック先端に設けられるタイプであるから、図3,図4,図5,図7に示されたものと同様の構成であってよい。第2のMRセンサ13aは、ハープの両手弾きを行うときに弦に記録されたID情報を検出するために役立つ。つまり、この指輪式ピックPCを奏者の両手の指先に適宜数嵌めて、ピック先端のMRセンサ13aで弦に記録されているID情報を読み取るように該弦を弾くことでハープの両手弾き演奏を模擬した演奏を行うことができ、それに基づく電子音を発生することができる。
【0056】
なお、本発明におけるいずれの実施例においても、ID情報に基づき発生される電子的楽音の音色は、ハイブリッド楽器が発生するアコースティック音の音色と同様又は類似のものである必要はなく、任意の音色とすることができる。そうすれば、ID情報に基づき発生される電子的楽音とアコースティック音とをそれぞれ異なる音色で同時発生することでアンサンブル演奏を行うことができる。また、ID情報に基づき発生される電子的楽音の音色は、通常の楽音音色に限らず、ホイッスル音やハンドクラップ音などの効果音であってもよい。また、いずれの実施例においても、ID情報に基づき発生される電子的楽音のエンベロープ特性は、オルガン音のようなサステイン音つまりキーオフトリガを必要とする特性ではなく、キーオントリガのみでエンベロープ形成できる特性(例えば減衰系又はパーカッション系のエンベロープ特性)であるのが好ましい。そうすれば、キーオフ処理が不要であるため、制御が簡単化されるからである。しかし、これに限らず、キーオフトリガを必要とするエンベロープ特性(持続系のエンベロープ特性)で電子的楽音を発生するようにしてもよい。その場合は、例えば、持続系のエンベロープ特性が選択されたモードにおいては、最初のピッキングをキーオントリガとして扱い、2番目のピッキングをキーオフトリガとして扱うような工夫をすればよい。
【0057】
[具体例2]
上述したハープ型楽器10の応用形態として、図11に示すように、本発明に従って電子ギター型楽器50を構成することもできる。電子ギター型楽器50における各弦51〜56に対するID情報の記録のさせ方は、ハープ型楽器10における上記弦12に対するID情報の記録のさせ方と同様である。また、ピックの構成も上記ピック13と同様である。電子ギター型楽器50のハードウェア構成も図6、図8と同様の構成を採用してよい。電子ギター型楽器がハープ型楽器10と異なる点は、電子ギター型楽器50においては、公知のように、ネック部57において複数のフレットが設けられており、所望のフレットの位置を押え付けるようになっている点である。すなわち、電子ギター型楽器50に対する本発明の適用にあたっては、1つの弦は、1つの音高又はノートに対応しているのではなく、或る音域あるいは複数音(ノート)からなるグループに対応しており、押されたフレットの位置から該音域あるいはグループ内の1つの音高又はノートを特定する。各弦に記録されるID情報は、開放弦に対応する特定の音高(ノート)又は周波数を示していてもよいし、あるいは第1弦、第2弦というように弦の番号を示すものであってもよい。
【0058】
どのフレットが押え付けられたかを検出するために、電子ギター型楽器においては、公知のように、各弦の位置に対応づけて各フレットを押圧可能に構成し、各フレット毎にフレットセンサを設けて、押さえつけられたフレットの位置を検出するようになっている。本発明に従って電子ギター型楽器を構成する場合も、そのように各弦の位置に対応して各フレット毎にフレットセンサを設けるものとする。
【0059】
図6、図8において示されたフレットセンサ18は、そのような電子ギター型楽器において設けられるフレットセンサを示している。押圧操作検出回路19は、電子ギター型楽器に設けられた各フレットのフレットセンサ18の出力に基づきどの位置のフレットが押されたかを検出する。
【0060】
電子ギター型楽器50のソフトウェア構成も図9と略同様の構成を採用してよい。ただし、図9(b)において、音高コードを生成するためのステップS32の処理は、前述したハープ型楽器10の場合とは異なり、ピックで弾かれた弦のみならず、押圧操作検出回路19の出力に基づき押されたフレットの位置をも考慮して音高を決定し、決定した音高を示す音高コードを生成する。つまり、読み取ったID情報のみで音発生指示(発音イベントデータ)が生成されるのではなく、別途に演奏者が指定した位置情報(フレット情報)との組み合わせで、音発生指示(発音イベントデータ)が生成される。なお、このような電子ギター型楽器50においては、各フレットを押圧可能に構成する都合上、アコースティックギターとしての発音機能をもたせることは困難である。従って、本発明に従う電子ギター型楽器50は、ハイブリッド楽器ではなく、本発明に従う電子楽器として構成される。なお、この変形例として、各弦の位置に対応して各フレット毎にフレットセンサを設ける代わりに、疑似弦を設け、各疑似弦においては各フレットに対応する区間毎に異なるID情報を記録するようにしてもよい。その場合は、所望の疑似弦の所望のフレットに対応する位置に検出器(ピック12)を接触又は近接させることで、該フレット位置に固有のID情報を読み取り、リアルタイム演奏することができる。
【0061】
なお、上述のようなフレットセンサ18を用いる電子ギター型楽器50に限らず、通常のアコースティックギターと同様にボディ部からネック部にかけて複数弦を張設した構成からなるハイブリッド楽器としての電子ギター型楽器を、本発明に従って構成することもできる。その場合は、通常のアコースティックギターにおいて、図10(b)に示したようなハーモニック奏法が可能なように各節位置に対応してID情報が記録された弦を各ギター弦として使用すると共に、演奏時において指輪式ピックPCを使用して所望の節位置に触れるようにするものとする。これにより、ハーモニック奏法が容易に行えるギター型ハイブリッド楽器を提供することができる。
【0062】
[具体例3]
本発明に従う音発生システムは、図12に示すように、ビブラフォン型楽器60の形態で「ハイブリッド楽器」として実現することもできる。その場合、ビブラフォンの各鍵の音板32のそれぞれに対して当該音板が発音する固有の音を識別するID情報を記録するものとする。1枚の音板32においては、その表面に当該音板(鍵)が受け持つ楽音固有情報(例えば楽音ピッチ)を示すコード(ID情報)を所定パターンで磁化する。例えば、図3(a)の例と同様に、ID情報の着磁パターンの1単位は、2ビットの区切りコードPと6ビットのID情報との組み合わせからなっているものとする。このようなID情報を音板の全体にわたって、あるいは少なくともマレットが当たる部位に複数単位繰り返し設ける。図13(a)は、1枚の音板32におけるID情報の着磁パターンを模式的に示す平面図である。横に延びた1つの線は1ビットの着磁状態を示しており、たて方向に各ビットの着磁パターンが形成される。つまり、音板32のたて方向にID情報の着磁パターンが繰り返されている。
【0063】
上記のような着磁パターンからなるID情報を検出しうるようにするために、音板32を叩くための専用のマレットを用意し、このマレットを上記検出器2として機能するように構成するものとする。マレットの頭部は、硬質ゴムのようなある程度の硬さと弾性とを備えた材質からなり、該頭部の表面には、前記ピック13と同様に、音板32に記録されたID情報を読み取るためのセンサとして、所定の配置で設けられた複数の磁気抵抗効果素子からなるMRセンサが設けられる。図13(b)は、マレットの頭部に設けるMRセンサの基本ユニット(これを「クラスタ」ということにする)33の配置例を拡大して示す。図5と同様のコンセプトに基づき、図13(b)の配置例では、横方向に16列のMRセンサ列33a−1乃至33a−16が設けられ、各列の幅は音板32におけるID情報の着磁パターンにおける1ビットの幅に対応している。また、各MRセンサ列33a−1乃至33a−16は、最大で3段(3個)、最小1段(1個)のMRセンサで構成されており、同じ列のMRセンサ33aの出力はオア合成されて1つの出力信号とされる。このようなクラスタ33におけるMRセンサ列33a−1乃至33a−16の配列から理解できるように、1つのクラスタ33によるID情報の検出性能には指向性がある。つまり、図13(b)で矢印Xで示す方向(これを指向方向Xということにする)にID情報の各ビットの着磁パターンが並んだとき、ID情報の各ビットが各MRセンサ列33a−1乃至33a−16に1対1で対応付けられ、各MRセンサ列13a−1乃至13a−16から、対応付けられた各ビットの値(S−N着磁又はN−S着磁(つまり1)若しくは0)を示す出力信号を得ることができる。
【0064】
図13(c)に示すように、マレット34の頭部34aにおける打撃部位において、上記のような構成からなるMRセンサ33aのクラスタ33を、そのMRセンサ列33a−1乃至33a−16の指向方向Xを様々に異ならせた態様で、多数配置する。一例として、マレット34の柄34bが音板32のたて長方向に平行を成すように打撃する姿勢を基本姿勢とすると、頭部34aの赤道に沿って指向方向Xが柄34bに平行を成すような配置で適当な間隔で複数のクラスタ33を配置する。なお、頭部34aの赤道とは、頭部34aに対する柄34bの付け根を南極と見立てた場合の赤道に相当する部位であり、柄34bを手に持ってマレット34を打撃した場合、頭部34aの赤道帯(赤道及びその周囲)が打撃部位(打撃のスイートスポット)となる。基本姿勢にてマレット34で音板32を打撃したとすると、頭部34aの赤道帯の何れかの部位で音板32に当接し、その当接部位に配置された1つのクラスタ33の指向方向Xが音板32に記録されたID情報の各ビットの配列方向に対応付けられることになり、当該1つのクラスタ33の各MRセンサ列33a−1乃至33a−16にID情報の各ビットが1対1で対応付けられることになる。マレット34の打撃時において柄34bが音板32のたて長方向に対して角度を成した場合でも、適切にID情報を読み取ることができるようにするために、頭部34aの赤道周辺(例えば緯度にして+15乃至20度〜−15乃至20度程度の帯域)には、指向方向Xの成す角度を様々に変えたクラスタ33が多数配置される。これにより、基本姿勢とは異なる姿勢でマレット34が打撃された場合でも、いずれかのクラスタ33におけるMRセンサ列33a−1乃至33a−16がID情報の各ビットに1対1で対応付けられるようになることが期待され、検出ミスが起こらないようにすることができる。
【0065】
図14は、マレット34の側(頭部34a又は柄34b)に設けられる電子回路35の一例を示す。オア合成部35a1〜35anは、各クラスタ33毎に設けられており、1つのオア合成部35a1は、対応するクラスタ33における同じ列のMRセンサ13aの出力をそれぞれオア合成して1つの出力信号とし、こうして、当該クラスタ33における各MRセンサ列33a−1乃至33a−16に対応する16ビットの出力信号を生成する。これらの各クラスタ33からの16ビットの出力信号はオア合成部35bで更にオア合成され、16ビットのセンサ出力信号が送信器35cに入力される。マレット34の打撃時に音板32にフルに接するのは略1つのクラスタ33だけであるように、クラスタ33のサイズが決定され、かつ、音板32における着磁パターンのサイズも決定されている。よって、複数のクラスタ33のうち、マレット34の打撃時に実質のある検出出力を生じているのは1つのクラスタ33だけであると見なすことができるため、オア合成部35a1〜35anから出力される各クラスタ33毎の16ビットの出力信号を、オア合成部35bで1組の16ビットの出力信号にまとめるようにして差し支えない。マレット34の適宜の箇所(例えば柄34b)に配置された歪センサ35dは、図4に示された歪センサ13bと同様に、マレット34が打撃されたこと、つまり演奏操作がなされたことを検出するためのものであり、その出力が送信器35cに入力される。
【0066】
本実施例におけるビブラフォン型楽器60においても、送信器35cから送信された信号を受信し、受信した信号に基づきID情報を判定し、該判定したID情報に応じた楽音を発生するための構成は、図6、図8等を参照して前述したのと同様の構成を用いることができる。すなわち、送信器35cから送信された16ビットの出力信号において区切りコードPで挟まれた6ビットの信号をID情報として抽出し、これに基づき楽音信号を電子的に発生する。なお、マレット34による打撃に応じて音板32が物理的に振動してアコースティック音も同時に発音させることができる。一方、アコースティック音の同時発音を望まない場合は、適宜のダンパー機構を付設しておき、該ダンパー機構を作動させたとき音板32の物理的振動が抑制されるようにするとよい。こうすれば、アコースティックなビブラフォンを演奏しながらアコースティック音を消音してその代わりに電子的楽音を発生することのできる、サイレントビブラフォンを提供することができる。
【0067】
なお、上記のビブラフォン型楽器60の実施例に準じて、本発明に従い、その他の鍵盤打楽器(例えばマリンバ)のハイブリッド楽器を構成することもできる。その場合、マリンバの音板は木製であるため、ID情報の着磁パターンは木製音板に直接施すのではなく、例えばID情報の着磁パターンを有する磁気シートを各音板に貼り付けるようにすればよい。
【0068】
なお、本発明に従うハイブリッド楽器は、上述したような弦楽器あるいはビブラフォン型若しくはマリンバ型楽器に限らず、どのようなタイプの楽器に対しても応用できる。また、通常の楽器に限らず、ホイッスルのような効果音発生体、あるいはカウベル、カスタネット、トライアングルのような簡易打楽器などに対して、ID情報の着磁パターンを施して、本発明に従う楽音発生システムを構成してもよい。また、楽器に限らず、任意の物体にID情報の着磁パターンを施して、本発明に従う楽音発生システムを構成してもよい。例えば、鐘のような立体物の任意の部位にID情報の着磁パターンを施して、本発明に従う楽音発生システムを構成することもできる。
【0069】
[具体例4]
本発明に従う音発生システムを、従来通念の楽器の外観に囚われない、任意の外観からなる楽器(いわば「アメーバ楽器」と命名することができる)として構成することもできる。図15は、そのような「アメーバ楽器」として構成された本発明に従う音発生システムの一例の外観図であり、ID情報の記録形式として、光学的な二次元コード(QRコード)を使用している。
【0070】
図15において、テーブル40には複数の演奏コーナー又はサイド40a〜40eが設けられており、各演奏コーナー又はサイド40a〜40e毎に本発明に従う音発生システム(アメーバ楽器)が任意の外観・形態で設けられている。各演奏サイド40a〜40eには、固有の音を識別するID情報を光学的な二次元コード(QRコード)で記録した記録部を複数具備したシート状の演奏インタフェース41〜45が、それぞれ配置されている。各シート状の演奏インタフェース41〜45は、テーブル40の上に恒久的に(つまり取り外し不可能に)貼り付けられている必要はなく、いつでも取り除けるように、単に置かれているだけか、あるいは容易にはスライド移動しないように部分的に両面粘着テープなどでテーブル上に仮固定されるようになっていてもよい。あるいはテーブル40の表面を鉄製とし、演奏インタフェース41〜45のシート背面を磁石シートで構成するようにしてもよい。テーブル40の中央には、演奏インタフェース41〜45に記録された光学的な二次元コード(QRコード)を読み取るためのQRコードリーダー61〜65が置かれている。ユーザは、このリーダー61〜65を片手又は両手に持って,演奏インタフェース41〜45に記録された複数の光学的な二次元コード(QRコード)のうち任意のものに接触又は近接する操作を行うことで、当該アメーバ楽器に対する演奏操作を行う。
【0071】
テーブル40上の演奏サイド40aには、図16に示すような鍵盤シート状の演奏インタフェース41が配置されており、これが第1の「アメーバ楽器」の演奏インタフェースとなっている。鍵盤シート状の演奏インタフェース41には、鍵盤のイメージがプリントされており、かつ、各鍵毎のイメージには当該鍵に割り当てられたID情報をそれぞれ示す光学的な二次元コード(QRコード)QR1〜QR31がプリントされている。いずれかのリーダー61〜65を手に持ったユーザーが該リーダー61〜65を所望の鍵の二次元コード(QRコード)に近接させて該ID情報を読み取らせることで、鍵盤演奏が行われる。なお、図16では、1鍵につき1つの二次元コード(QRコード)を割り当てたが、これに限らず、1鍵につき2又はそれ以上の二次元コード(QRコード)を割り当ててそれぞれプリントしておくようにしてもよい。例えば、1鍵に割り当てた2又はそれ以上の二次元コード(QRコード)が、音高は同じであるが音色はそれぞれ異なる楽音を表わすID情報を示すものとすれば、多様性に富んだ鍵盤演奏が容易に行える。
【0072】
テーブル40上の演奏サイド40bには、図17に示すような楽譜シート状の演奏インタフェース42が配置されており、これが第2の「アメーバ楽器」の演奏インタフェースとなっている。楽譜シート状の演奏インタフェース42には、五線譜のイメージがプリントされており、かつ、当該五線譜上に記譜されるべき特定の楽曲の音符シーケンスに合わせて、所定の音符の位置毎に該音符の音高と音長の情報を少なくとも含むID情報をそれぞれ示す光学的な二次元コード(QRコード)QR41〜QR43がプリントされている。この場合は、いずれかのリーダー61〜65を手に持ったユーザーが該リーダー61〜65を五線譜上の音符シーケンスに従って各音符の二次元コード(QRコード)に近接させて該ID情報を読み取らせることで、当該楽曲の演奏が行える。
【0073】
テーブル40上の演奏サイド40cには、複数個(図では2個)の光学的な二次元コード(QRコード)QR44,QR45がプリントされた打楽器用の演奏インタフェース43が配置されており、これが第3の「アメーバ楽器」の演奏インタフェースとなっている。この各二次元コード(QRコード)QR44,QR45は、それぞれ所定の打楽器を示すID情報を表わす。この場合は、いずれかのリーダー61〜65を手に持ったユーザーが該リーダー61〜65を所望の二次元コード(QRコード)QR44,QR45に近接させて該ID情報を読み取らせることで、打楽器演奏が行える。
【0074】
テーブル40上の演奏サイド40dには、図16に示すような鍵盤シート状の演奏インタフェース44が配置されており、これが第4の「アメーバ楽器」の演奏インタフェースとなっている。これは、前述の演奏インタフェース41と同様であり、同様に演奏される。
【0075】
テーブル40上の演奏サイド40eには、複数個(図では2個)の光学的な二次元コード(QRコード)QR46,QR47がプリントされた打楽器用の演奏インタフェース44が配置されており、これが第5の「アメーバ楽器」の演奏インタフェースとなっている。これは、前述の演奏インタフェース43と同様であり、同様に演奏される。
【0076】
図18は、光学的な二次元コード(QRコード)の一例を示し、(a)は切り出しシンボルを3つ持つ公知のQRコード、(b)は切り出しシンボルを1つ持つ公知のマイクロQRコードである。本実施例では、いずれのタイプのQRコードを使用してもよい。
【0077】
各リーダー61〜65は、光学的な二次元コード(QRコード)の読み取り機能を持つのみならず、シート状の演奏インタフェースに対する演奏操作が行われたことを検知するための接触又は接近センサをも具備し、また、二次元コード(QRコード)の読み取り信号と接触又は接近検知信号とを送信するための送信器も具備する。図1に示された処理部4と音源装置5に相当する回路については図示を省略するが、図15の実施例においても当然設けられており、これらは、適当な制御ボックス内に収納され、各リーダー61〜65から送信された二次元コード(QRコード)の読み取り信号と接触又は接近検知信号を受信し、これを処理してID情報を判定し、判定したID情報に応じた楽音信号を生成する。なお、この例では、ID情報として、数字からなる音高又はノートデータ、文字コードからなる音色データ、文字コードからなる音源その他の楽音設定・制御データ等の複数種類のデータが含まれているものとする。なお、この制御ボックスは、テーブル40の適当な箇所(例えば、各リーダー61〜65の置き場となっている中央の位置、あるいはテーブル40の下面、あるいは脚の部分)に固定的に配置するようにしてもよいし、若しくは、テーブル40の下や、テーブル40から離れたその他適宜の場所に任意に置けるように、ディスクリートタイプとしてもよい。
【0078】
図19は、前記制御ボックス内に収納された処理部4が行う処理の一例を示すフロー図である。ステップS41では、リーダー61〜65から受信した信号中に前記接触又は接近センサからの接触又は接近検知信号が含まれているか否かを判定する。YESであれば、リーダー61〜65から受信した二次元コード(QRコード)の読み取り信号から切り出しシンボルを検出する(ステップS42)。すなわち、リーダー61〜65をシート状の演奏インタフェース41〜45に近接又は接触する、という演奏操作が行われたときステップS42の処理を行う。切り出しシンボルの検出に成功したら、二次元コード(QRコード)の読み取り信号からデータ領域に記録されているコードを判定し、ID情報を抽出する(ステップS43)。なお、ステップS42とS43で行われる二次元コード(QRコード)の読み取り・判定処理の詳細は、例えば特許第2938338号で公知であるから、本明細書での詳細説明は省略する。ステップS44では、抽出したID情報に含まれるデータを種類別に振り分け、数字からなる音高データはMIDIフォーマットの音高データに変換し、文字コードは意味を確認して音色データあるいはその他の楽音設定・制御データに変換する。変換された各データは音源装置5に与えられ、それらのデータに基づき、ID情報に応じた楽音信号が発生される。
【0079】
なお、制御ボックス内の音源装置5から発生された楽音信号を音響的に発音するためのスピーカは、テーブル40の適宜箇所(テーブル板の上面又は下面若しくは脚部)に設けてもよいし、あるいは、テーブル40の下や、テーブル40から離れたその他適宜の場所に任意に置けるように、ディスクリートタイプとしてもよい。
【0080】
なお、ID情報を記録するための光学的コードの形態は上記のような二次元コード(QRコード)に限らない。また、このようにID情報を光学的コードによって記録したシート状の演奏インタフェースの形状、サイズ、大きさなどは、種々にデザインすることができる。また、そのように種々にデザインしたシート状の演奏インタフェースは、テーブル40に限らず、任意の物体(一次元的物体、二次元的物体、三次元的物体を問わず)に配置する(固定的に貼り付ける、あるいは任意に取り外せるように半固定又は仮固定する)ようにしてよい。このことは、ID情報の光学的コードからなる演奏インタフェースに限らず、前述のID情報を着磁パターンで記録するタイプの実施例も同様であり、ID情報を着磁したシートを任意の物体(一次元的物体、二次元的物体、三次元的物体を問わず)に配置する(固定的に貼り付ける、あるいは任意に取り外せるように半固定又は仮固定する)ようにしてよいし、あるいは任意の磁性物体(一次元的物体、二次元的物体、三次元的物体を問わず)にID情報を着磁するようにしてもよい。
【0081】
このようにして、本発明によれば、自らの特有の外観を持たない「宿借り楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器を提供することができる。換言すれば、どこにでも本発明に従う記録部を設けて、それを読み取るための手段を用意しさえすれば、そこ(それ)が楽器となるので、「どこでも楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器を提供することができる。換言すれば、特定の外観・形態を持たない、任意の外観・形態からなる楽器を創造できるので、「アメーバ楽器」とも言うべき、新規なコンセプトの楽器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に従う音発生システムの基本構成を示すブロック図。
【図2】本発明に従う音発生システムをハープ型楽器の形態でハイブリッド楽器として実現した例を示す外観図。
【図3】(a)は弦の着磁パターンを例示する図、(b)はピックの両面における配置パターンの位相ずれを示す断面略図。
【図4】(a)は弦に記録されたID情報を読み取るための検出器として機能するように構成したピックの一例の平面図であり、(b)はその側面図。
【図5】ピックの先端部におけるMRセンサの配置パターン例を拡大して示す図。
【図6】ピックに内蔵される送信器及びそれに関連する電気/電子回路の一例及び受信側の回路の一例を示す図。
【図7】ピックの先端部におけるMRセンサの別の配置パターン例を拡大して示す図。
【図8】図6に関連して、ハープ型楽器に搭載される処理部及び音源装置に相当する電子装置のハードウェア構成の全体例を示すブロック図。
【図9】図8のCPUによって実行される処理の一例を示すフロー図であり、(a)はメインルーチンを示し、(b)はメインルーチン中で実行される「演奏操作検出」処理の詳細を示す。
【図10】1本の弦を複数の領域又は位置に区分けし、区分けされた各領域又は位置毎に異なるID情報を記録するようにした弦の構成を概念的に示す図。
【図11】本発明に従う音発生システムを電子ギター型楽器の形態で実現した実施例の外観図。
【図12】本発明に従う音発生システムをビブラフォン型楽器の形態でハイブリッド楽器として実現した実施例の外観図。
【図13】本発明に従う音発生システムをビブラフォン型楽器の形態でハイブリッド楽器として実現した実施例における細部の具体例を示し、(a)は1枚の音板におけるID情報の着磁パターンを模式的に示す平面図、(b)はマレットの頭部に設けるMRセンサの基本ユニットであるクラスタの配置例を拡大して示し、(c)はマレットの頭部における多数のクラスタの配置例を示す図。
【図14】マレットの側に設けられる電子回路の一例を示す図。
【図15】本発明に従う音発生システムを「アメーバ楽器」として構成した一例の外観図。
【図16】「アメーバ楽器」における鍵盤シート状の演奏インタフェースを示す図。
【図17】「アメーバ楽器」における楽譜シート状の演奏インタフェースを示す図。
【図18】「アメーバ楽器」で採用する公知のQRコード及びマイクロQRコードを例示する図。
【図19】「アメーバ楽器」で行われる処理の一例を示すフロー図。
【符号の説明】
【0083】
1 記録部
2 検出器
3 送信器
4 処理部
5 音源装置
6 発音体
12 弦
13 ピック
13a−1〜13a−16 MRセンサ列
13c 送信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有の音源を識別する音源固有情報を記録した記録部と、
ユーザによって前記記録部に対して接近するよう操作される検出器であって、前記記録部に対する接近に応じて該記録部に記録されている前記音源固有情報を読み取る前記検出器と、
前記検出器で読み取った前記音源固有情報に応じて、前記固有の音源に対応する音の発生を指示する音発生指示を生成する処理手段と
を備える音発生システム。
【請求項2】
前記処理手段で生成された前記音発生指示に基づき、前記固有の音源に対応する音の音響信号を電気的又は電子的に発生する音源装置、
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の音発生システム。
【請求項3】
外力が加えられることで物理的に振動して音響音を発生する発音体、
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の音発生システム。
【請求項4】
前記発音体は前記固有の音源であり、前記記録媒体は、該発音体の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の音発生システム。
【請求項5】
前記記録部は、前記音源固有情報を電磁的又は光学的にに読み取り可能なように記録していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項6】
前記音源固有情報はQRコードの形式で記録されている請求項5に記載の音発生システム。
【請求項7】
前記記録部は、複数の固有の音源にそれぞれ個別に対応して前記音源固有情報をそれぞれ記録しており、前記検出器でいずれかの固有の音源に対応する前記音源固有情報を読み取ることにより、該読み取った音源固有情報に対応する音発生指示をリアルタイムで生成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項8】
前記記録部はシート状を成しており、該シートを任意の場所に配置し、該任意の場所に配置されたシート状の前記記録部に対して前記検出器を近接させて前記音源固有情報を読み取ることにより、該読み取った音源固有情報に対応する音発生指示を任意の場所にてリアルタイムで生成することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項9】
前記音源固有情報が識別する前記固有の音源は、特定の音高に対応しており、
前記処理手段は、前記検出器で読み取った前記音源固有情報に応じて、前記特定の音高の音の前記音発生指示を生成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項10】
前記音源固有情報が識別する前記固有の音源は、複数の音のグループに対応しており、
該グループにおける任意の音の位置をユーザ操作によって指定する位置指定手段を更に具備し、
前記処理手段は、前記検出器で読み取った前記音源固有情報と前記位置指定手段によって指定された位置とに応じて定まる1つの音の前記音発生指示を生成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項11】
前記音発生指示は、MIDIイベントデータからなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項12】
前記記録部は、弦楽器の各弦に対応して設けられており、前記音源固有情報は、対応する弦を前記固有の音源として識別する情報からなる請求項1乃至8及び11のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項13】
前記検出器は、前記弦を弾くためのピックに配置されてなる請求項12に記載の音発生システム。
【請求項14】
前記記録部は、鍵盤打楽器の各鍵の音板に対応して設けられており、前記音源固有情報は、対応する音板を前記固有の音源として識別する情報からなる請求項1乃至8及び11のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項15】
前記検出器は、前記音板を打撃するためのマレットの頭部に配置されてなる請求項14に記載の音発生システム。
【請求項16】
前記記録部は、シートに描かれた鍵盤の絵における各鍵の画像に対応して設けられており、前記音源固有情報は、対応する鍵を前記固有の音源として識別する情報からなる請求項1乃至8及び11のいずれかに記載の音発生システム。
【請求項17】
固有の音源を識別する音源固有情報を記録した記録部と、
ユーザによって前記記録部に対して接触するよう操作される検出器であって、前記記録部に対する接触に応じて該記録部に記録されている前記音源固有情報を読み取る前記検出器と、
前記検出器で読み取った前記音源固有情報に応じて前記固有の音源に対応する音の発生を準備する準備手段と、
発音タイミングを規定して演奏を進行させる発音トリガ手段と
を備えた音発生システム。
【請求項18】
固有の音源を識別する音源固有情報を記録した記録部と、
ユーザによって前記記録部に対して接触するよう操作される検出器であって、前記記録部に対する接触に応じて該記録部に記録されている前記音源固有情報を読み取る前記検出器と、
前記検出器で読み取った前記音源固有情報に応じて前記固有の音源に対応する音の発生を準備する準備手段と、
発音タイミングを規定して演奏を進行させる発音トリガ手段と
を備え、前記記録部はアコースティック弦の振動節に施され、前記準備手段は該振動節を前記検出器が接触することで前記音の発音を準備するものであって、前記発音トリガ手段は前記振動節以外の弦位置を操作することで発音トリガさせるものであることを特徴とする音発生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−229680(P2009−229680A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73446(P2008−73446)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】