説明

顕微鏡装置

【課題】マイクロレンズアレイを用いた技術を適用したうえで、解像力を向上させることができ、且つ解像力を任意に変更させることができる顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】標本Sからの観察光を集光する観察光学系OS2と、観察光をそれぞれ受ける位置に配列された複数のマイクロレンズMLを有するマイクロレンズアレイ26と、それぞれのマイクロレンズMLに対して複数の画素が割り当てられ、各マイクロレンズMLを介して複数の画素で受光した観察光に基づき撮像データを取得する撮像素子30と、マイクロレンズアレイ26に入射する前の観察光を受ける位置に配置され、観察光を偏向させて観察光が各マイクロレンズMLを介して撮像素子30に受光される位置を相対的に移動させる像シフト装置40と、撮像素子30で取得された撮像データに対して所定の処理を施す画像処理部31とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検物を対物レンズの光軸に沿って移動させながら焦点位置の異なる複数の画像を取得し、被検物上のそれぞれの点について、それら複数の画像より合焦度が最大となる画像を選択して、その画像での焦点位置をその点についての高さとし、これらの情報から被検物の形状測定を行う手法が知られている。ところが、このような手法では、対物レンズの光軸に沿って被検物を移動させながら画像を取得する必要があり、測定に時間がかかっていた。そこで、下記の特許文献1では、複数のマイクロレンズを2次元状に配列して構成されたマイクロレンズアレイを用いて、被検物を対物レンズの光軸に沿って移動させることなく、多視差画像や全焦点画像を取得し、被検物の形状を測定できるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−54320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなマイクロレンズアレイを用いる技術を、標本(観察対象物)を種々の倍率で観察する顕微鏡装置に適用しようとした場合、顕微鏡装置としては解像力が足りないという問題があった。また、解像力を任意に変えることができないという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、マイクロレンズアレイを用いた技術を適用したうえで、解像力を向上させることができ、且つ解像力を任意に変更させることができる顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するため、本発明に係る顕微鏡装置は、標本からの観察光を集光する観察光学系と、前記観察光学系により集光された前記観察光をそれぞれ受ける位置に配列された複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズアレイと、それぞれの前記マイクロレンズに対して複数の画素が割り当てられ、各マイクロレンズを介して前記複数の画素で受光した前記観察光に基づき撮像データを取得する撮像素子と、前記マイクロレンズアレイに入射する前の前記観察光を受ける位置に配置され、前記観察光を偏向させて前記観察光が各マイクロレンズを介して前記撮像素子に受光される位置を相対的に移動させる像シフト手段と、前記撮像素子で取得された撮像データに対して所定の処理を施す画像処理部とを備えて構成される。
【0007】
なお、上記構成の顕微鏡装置において、前記像シフト手段は、前記マイクロレンズアレイに入射する前の前記観察光を受ける位置に配置され、前記観察光を偏向させることにより前記撮像素子に受光される位置を移動させるように構成されることが好ましい。
【0008】
また、上記構成の顕微鏡装置において、前記像シフト手段は、前記観察光を受ける位置に配置された平行平板ガラスと、前記平行平板ガラスを前記観察光の光軸に対して複数の傾斜角で傾斜させるカム面を有するカムリングと、前記カムリングを前記観察光の光軸を回転中心として回転駆動させるカムリング駆動手段とを備えて構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る顕微鏡装置によれば、マイクロレンズアレイを用いた技術を適用したうえで、解像力を向上させることができ、且つ解像力を任意に変更させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る顕微鏡装置の構成を示す図である。
【図2】マイクロレンズアレイの構成について説明する図である。
【図3】(a)〜(b)は、ある一つのマイクロレンズから見た像について説明する図である。
【図4】マイクロレンズアレイを介して結像された撮像素子の撮像面における画素配列示す図である。
【図5】(a)〜(b)は、標本が光軸方向に移動された場合に、撮像素子の撮像面における観察光の受光位置について説明する図である。説明する
【図6】本実施形態に係る像シフト装置の構成を示す図である。
【図7】平行平板ガラスに形成された各突起の位置について説明する図である。
【図8】撮像素子の撮像面における画素ずらし位置と画像取得順を撮像面上のxy座標面で示した図である。
【図9】図8に示す画素ずらし位置で画素ずらしを行う場合の平行平板ガラスの傾斜角に対応する各突起の位置を示すグラフである。
【図10】像シフト装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本実施形態について説明する。本実施形態に係る顕微鏡装置1は、図1に示すように、標本S(観察対象物)を載置支持する載置ステージ10と、載置ステージ10の上方に設けられた観察装置20と、載置ステージ10および観察装置20の作動を制御する制御装置50とを有して構成される。
【0012】
載置ステージ10は、装置フレーム5の上面に沿った一方向(X方向)に移動可能なXステージ12、およびXステージ12の移動方向に対して装置フレーム5の上面内で直交する方向(Y方向)に移動可能なYステージ13からなるXYステージ11と、ステージ駆動機構15とを有して構成される。ステージ駆動機構15は、制御装置50からの制御信号に基づいてXステージ12およびYステージ13をそれぞれ独立して各方向に移動させ、XYステージ11(Yステージ13)上に載置された標本Sと観察装置20における対物レンズ25との相対位置関係を調整する。なお、XYステージ11には手動調整用のダイヤル(図示せず)が設けられており、このダイヤルにより各ステージを移動させて標本Sと対物レンズ25との相対位置関係を調整することも可能になっている。
【0013】
観察装置20は、XYステージ11の上方に設けられ、照明光学系OS1、観察光学系OS2および撮像素子30を内部に備える鏡筒部21と、画像処理部31と、モニター32とを有して構成される。鏡筒部21は、不図示の駆動機構によりXYステージ11に対して上下方向に(Z方向)に移動可能になっている。
【0014】
鏡筒部21内には、図1に示すように、光源22、コリメータレンズ23、ハーフミラー24、対物レンズ25、像シフト装置40およびマイクロレンズアレイ26を備えている。このうち、光源22、コリメータレンズ23、ハーフミラー24および対物レンズ25が照明光学系OS1を構成しており、対物レンズ25、ハーフミラー24、像シフト装置40およびマイクロレンズアレイ26が観察光学系OS2を構成している。なお、対物レンズ25は、説明の簡略化のために図1では単レンズで構成しているが、必要に応じて複数のレンズで構成することも可能である。
【0015】
マイクロレンズアレイ26は、複数のマイクロレンズMLを2次元状に並べてなる光学素子であり、標本Sの像を捕らえる対物レンズ25の焦点距離だけ離れた位置に配置されている。
【0016】
撮像素子30は、マイクロレンズアレイ26を介して結像した標本Sの像を撮像するものであり、マイクロレンズアレイ26の焦点距離だけ離れた位置に配置されている。撮像素子30は、制御装置50からの制御信号に基づいて駆動制御され、結像した標本Sの像を撮像し、その画像データが画像処理部31で処理されてモニター32に表示されるようになっている。また、不図示のメモリに画像データが記憶される。
【0017】
このように本実施形態では、対物レンズ25の焦点距離だけ離れた位置にマイクロレンズアレイ26を配置し、マイクロレンズアレイ26の焦点距離だけ離れた位置に撮像素子30を配置しており、撮像素子30の撮像面が標本Sの表面(物体面)と共役になっている。
【0018】
照明光学系OS1の光源22から射出された照明光は、コリメータレンズ23によって平行光となりハーフミラー24に入射する。ハーフミラー24で反射された照明光は、対物レンズ25により集光されてXYステージ11上に載置支持された標本Sに照射される。
【0019】
照明光学系OS1により標本Sに照明光が照射されると、標本Sの表面で反射された観察光が生じ、このうち対物レンズ25に再び入射した観察光がハーフミラー24に入射する。ハーフミラー24を透過した観察光は、像シフト装置40を透過した後、マイクロレンズアレイ26に入射し、マイクロレンズアレイ26を構成する複数のマイクロレンズMLのそれぞれによって撮像素子30の撮像面に結像される。このとき、撮像素子30の撮像面上には、各マイクロレンズMLによって標本Sの像がそれぞれ形成される。
【0020】
ここで、観察光学系OS2におけるマイクロレンズアレイ26のさらに詳細な構成について説明する。図2に示すように、標本Sの表面(物体面)上の点Pから射出する観察光には、対物レンズ25を透過屈折してマイクロレンズMLによって撮像素子30の撮像面上の点P3に結像される光(図中の実線)や、対物レンズ25の中心を透過後、マイクロレンズMLによって撮像面上の点P3に結像される光(図中の破線)などがある。このとき、撮像面上の点P3と点P3は、物体面上の同じ点Pから異なる角度で射出した観察光を受光する。
【0021】
同様に、標本Sの表面(物体面)上の点Pから射出する観察光には、対物レンズ25を透過屈折してマイクロレンズMLによって撮像素子30の撮像面上の点P2に結像される光(図中の一点鎖線)や、対物レンズ25を透過後、マイクロレンズMLによって撮像面上の点P2に結像される光(図中の実線)や、対物レンズ25を透過屈折してマイクロレンズMLによって撮像面上の点P2に結像される光(図中の破線)などがある。また、物体面上の点Pから射出する観察光には、対物レンズ25を透過屈折してマイクロレンズMLによって撮像面上の点P1に結像される光(図中の実線)や、対物レンズ25の中心を透過後、マイクロレンズMLによって撮像面上の点P1に結像される光(図中の一点鎖線)などがある。
【0022】
このように、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLによって、標本Sの表面(物体面)上の一点から射出した観察光を方向別に選別して捉えることができる。
【0023】
また、図3から分かるように、ある一つのマイクロレンズMLから見た像は、物体面から射出した同じ方向からの観察光で構成された物体面の像である。すなわち、物体面から射出した観察光のうち、同じ方向へ射出した観察光が対応するマイクロレンズアレイに入射して物体面の像を形成する、換言すれば、マイクロレンズMLの数だけ異なる視差の像が得られる。
【0024】
対物レンズ25の瞳面は、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLの口径の大きさに分割され、それぞれのマイクロレンズMLが同じ標本Sの像を結ぶ。このとき、端の方のマイクロレンズMLによる像は、周辺で物体の見えないところが生じて端の方の視野の一部は遮られるが、基本的には、各マイクロレンズMLによる像は、物体面と共役な位置で物体面を異なる角度から見た像となる。そして、各マイクロレンズMLによる像は、結像側からの見込み角度が小さく、光量は少なくなるが、被写界深度(焦点深度)が非常に深くなるため、物体側の奥行きに関係なく、ほとんど焦点の合った像、いわゆる全焦点画像となっている。
【0025】
ところで、マイクロレンズアレイ26の後側に配置される撮像素子30は、例えば、CCDやCMOS等により構成され、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLを透過した観察光を受光する所定の画素配列を、マイクロレンズMLに対応した配置パターンで配置されている。この画素配列の縦方向と横方向の画素数は、各マイクロレンズMLを透過した観察光(部分光束)を個別に受光するように適宜設定される。なお、以下では、撮像素子30として、CCDを用いた例について説明する。
【0026】
図4において、21×21個の四角は、撮像素子30を対物レンズ25の光軸方向から見た場合に撮像面上に配列された画素を示しており、そのうちの太線で囲まれた7×7個の四角からなる領域がそれぞれ、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLで結像した像のできる撮像面上の領域(以下、ML領域と称する)を示している。図4では、複数のML領域のうち、9個のML領域を代表して示しており、中央のML領域が、マイクロレンズアレイ26の中心のマイクロレンズML(図2のマイクロレンズMLに相当する)で結像されるML領域となる。
【0027】
図5(a)には、標本Sの表面(物体面)が対物レンズ25の焦点位置にある場合の光線図を示しており、このとき、物体面の対物レンズ25の光軸と一致する位置から射出した観察光は、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLによって、撮像素子30の撮像面上の各ML領域の中央の画素(図4の黒色の画素)に集光される。また、物体面の対物レンズ25の光軸から外れた位置から射出した観察光は、光軸からのずれ量に応じた角度で平行にマイクロレンズアレイ26に入射するので、これらの観察光は各ML領域で中央から同量、同方向へずれることになる。したがって、画像処理部31は、各ML領域で同じ位置の画素を選択して加算することで、対物レンズ25の焦点位置にある物体面の画像を再現することができる。
【0028】
図5(b)には、標本Sの表面(物体面)が対物レンズ25の焦点位置よりも対物レンズ25に近い位置にある場合の光線図を示しており、このとき、物体面の対物レンズ25の光軸と一致する位置から射出した観察光は、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLの光軸から少しずつ外側へずれる角度で各マイクロレンズMLに入射し、各マイクロレンズMLによって、撮像素子30の撮像面上の中心のML領域ではそのまま中央の画素(図4の黒色の画素)に集光(結像)され(完全には結像しないが、マイクロレンズMLの開口が小さいので、焦点深度が深い状態が実現されている)、それ以外のML領域では中央の画素から1画素ずつ外側にずれた画素(図4の左下がりの斜線の画素)に集光される。また、物体面の対物レンズ25の光軸から外れた位置から射出した観察光は、光軸からのずれ量に応じた角度で平行にマイクロレンズアレイ26に入射するので、これらの観察光は各ML領域で中央から同量、同方向へずれることになる。したがって、画像処理部31は、各ML領域で同じ位置の画素を選択して加算することで、対物レンズ25の焦点位置よりも対物レンズ25に近い位置にある物体面の画像を再現することができる。
【0029】
図5(c)には、標本Sの表面(物体面)が対物レンズ25の焦点位置よりも対物レンズ25から遠い位置にある場合の光線図を示しており、このとき、物体面の対物レンズ25の光軸と一致する位置から射出した観察光は、マイクロレンズアレイ26の各マイクロレンズMLの光軸から少しずつ内側へずれる角度で各マイクロレンズMLに入射し、各マイクロレンズMLによって、撮像素子30の撮像面上の中心のML領域ではそのまま中央の画素(図4の黒色の画素)に集光(結像)され(完全には結像しないが、マイクロレンズMLの開口が小さいので、焦点深度が深い状態が実現されている)、それ以外のML領域では中央の画素から1画素ずつ内側にずれた画素(図4の右下がりの斜線の画素)に集光される。また、物体面の対物レンズ25の光軸から外れた位置から射出した観察光は、光軸からのずれ量に応じた角度で平行にマイクロレンズアレイ26に入射するので、これらの観察光は各ML領域で中央から同量、同方向へずれることになる。したがって、画像処理部31は、各ML領域で同じ位置の画素を選択して加算することで、対物レンズ25の焦点位置よりも対物レンズ25から遠い位置にある物体面の画像を再現することができる。
【0030】
このように、標本Sの光軸方向の位置を移動させた場合でも、マイクロレンズアレイ26の中心のマイクロレンズML(図2のマイクロレンズMLに相当する)によって結像される像は、焦点もほぼ合ったまま像の位置がずれない。すなわち、中央のマイクロレンズMLによって結像される像は、対物レンズ25に対して垂直に入ってくる観察光からなり、標本Sを正面から捉えた像となる。よって、標本Sが光軸方向に移動しても、像はずれない。そして、分割された小さな瞳からの像なので、F値が大きく、被写界深度(焦点深度)は非常に深くなる。つまり、標本Sの光軸方向の位置が変わっても、像はほとんど変化しない。したがって、標本Sの奥行きに関係なく、ほとんど焦点の合った像、いわゆる全焦点画像となっている。
【0031】
以上のように構成される観察光学系OS2において、対物レンズ25とマイクロレンズアレイ26の間の光路上に像シフト装置40が設けられている。像シフト装置40は、図6に示すように、入射した光束をシフトさせるための平行平板ガラス41と、この平行平板ガラス41を光軸に対して傾斜させるためのカム面を有するカムリング45と、このカムリング45を回転させるためのカムリング駆動モータ48とを有して構成されている。
【0032】
平行平板ガラス41は、カムリング45と対向する面に3つの突起42a,42b,42cが形成されている。これらの突起42a,42b,42cはそれぞれ、図7に示すように、平行平板ガラス41の中心に対して120度間隔で距離rの位置に設けられている。
【0033】
カムリング45は、中心部に開口を有したリング状に形成され、この中心開口を標本Sから射出した観察光が透過するように配置されている。カムリング45の平行平板ガラス41と対向する面には、平行平板ガラス41に形成された突起42a,42b,42cとそれぞれ整合する位置に、カム溝46a,46b,46cが形成されている。図6では説明の簡略化のために、平行平板ガラス41とカムリング45を離して図示しているが、実際には、平行平板ガラス41とカムリング45は互いに近づく方向に所定の圧力を受けて接合し、突起42a,42b,42cの先端部がカム溝46a,46b,46cの底面(カム面)に当接した状態で保持されている。
【0034】
カムリング駆動モータ48は、制御装置50からの制御信号に基づいて駆動され、モータ48の回転軸に取り付けられた歯車49とカムリング45の外周面に設けられた歯車45aとを介してカムリング45を所定の位置に回動させることで、平行平板ガラス41に形成された突起42a,42b,42cとカムリング45に形成されたカム溝46a,46b,46cとの作用によって平行平板ガラス41を光軸に対して所定の角度に傾斜させる。平行平板ガラス41に入射した観察光は、平行平板ガラス41の傾斜角に応じて、光軸に対して所定の方向に所定量シフトされて射出し、上述したマイクロレンズアレイ26を介して撮像素子30の撮像面上に結像される。
【0035】
ここで、平行平板ガラス41に形成する突起、およびカムリング45に形成するカム溝(カム面)の設定方法について説明する。まず、平行平板ガラス41の表面に対する法線ベクトルを(a,b,c)とすると、平行平板ガラス41の表面の方程式は、aX+bY+cZ=0…(1)となる。そして、平行平板ガラス41に形成される突起が、図7に示すように平行平板ガラス41の中心に対して120度間隔で距離rの位置に設けられている場合に、各突起の座標は、平行平板ガラス41の中心を原点として、突起42aが(r,0,Z)、突起42bが(−r/2,√3・r/2,Z)、突起42cが(−r/2,−√3・r/2,Z)となり、上記式(1)より、Z=−a・r/c…(2)、Z=r・(a−√3・b)/2c…(3)、Z=r・(a+√3・b)/2c…(4)となる。
【0036】
ここで、図8に示すように、1/2画素ずらしを行う場合を考えると、各画素ずらし位置1〜9の法線ベクトルは以下のようになる。ただし、θは光軸に対する平行平板ガラス41の傾斜角である。
位置名 法線ベクトル
画素ずらし位置1 (0,0,1)
画素ずらし位置2 (sinθ,0,cosθ)
画素ずらし位置3 (sinθ/√2,sinθ/√2,cosθ)
画素ずらし位置4 (0,sinθ,cosθ)
画素ずらし位置5 (−sinθ/√2,sinθ/√2,cosθ)
画素ずらし位置6 (−sinθ,0,cosθ)
画素ずらし位置7 (−sinθ/√2,−sinθ/√2,cosθ)
画素ずらし位置8 (0,−sinθ,cosθ)
画素ずらし位置9 (sinθ/√2,−sinθ/√2,cosθ)
【0037】
この法線ベクトルおよび上記式(2)〜(4)より、各突起のZ座標であるZ〜Zは、図8に示す各画素ずらし位置1〜9において以下のようになる。
位置名 Z
画素ずらし位置1 0 0 0
画素ずらし位置2 −r・tanθ r・tanθ/2 r・tanθ/2
画素ずらし位置3 -r・tanθ/√2 (1-√3)r・tanθ/2√2 (1+√3)r・tanθ/2√2
画素ずらし位置4 0 −√3r・tanθ/2 √3r・tanθ/2
画素ずらし位置5 r・tanθ/√2 (-1-√3)r・tanθ/2√2 (-1+√3)r・tanθ/2√2
画素ずらし位置6 r・tanθ −r・tanθ/2 −r・tanθ/2
画素ずらし位置7 r・tanθ/√2 (-1+√3)r・tanθ/2√2 (-1-√3)r・tanθ/2√2
画素ずらし位置8 0 √3r・tanθ/2 −√3r・tanθ/2
画素ずらし位置9 -r・tanθ/√2 (1+√3)r・tanθ/2√2 (1-√3)r・tanθ/2√2
【0038】
ここで、1画素の大きさが0.014mm、平行平板ガラス41の厚みが3mm、光軸に対する平行平板ガラス41の傾斜角θが0.007rad、平行平板ガラス41の中心から各突起までの距離rが6mmとすると、各突起のZ座標であるZ〜Zは図9に示すようになる。図9の各グラフにおいて、横軸は、カムリング45を回動させたときに、平行平板ガラス41の突起がカムリング45のカム溝の底面(カム面)に沿って移動する距離(カム距離)であり、縦軸は、平行平板ガラス41を光軸に対して垂直に配置したとき(傾斜角θが零のとき)を基準面とし、この基準面からの高さである。なお、図9では、各画素ずらし位置におけるカム距離を0.3mmとし、画素ずらし位置1から画素ずらし位置9までに要するカムリング45の回動範囲を30度としている。
【0039】
したがって、図8に示すように1/2画素ずらしを行う場合には、カムリング45が回動されたときに、各突起のZ座標であるZ〜Zが図9に示す位置となるように、平行平板ガラス41の各突起およびカムリング45の各カム溝を設定する。例えば、平行平板ガラス41の各突起の高さを一定とし、カムリング45の各カム溝の底面(カム面)の形状を図9に示すように形成する。
【0040】
このように平行平板ガラス41の各突起およびカムリング45の各カム溝(カム面)を設定し、カムリング45を回動させることで、平行平板ガラス41を各画素ずらし位置に対応する傾斜角に順次傾斜させることができる。このとき、平行平板ガラス41に入射した観察光は、光軸に対する平行平板ガラス41の傾斜角に応じて、光軸に対して所定の方向に所定量シフトされて射出し、上述したマイクロレンズアレイ26を介して撮像素子30の撮像面上の各画素ずらし位置にそれぞれ結像される。撮像素子30から画像処理部31に出力される画素ずらし画像には、画素ずらし位置1〜9の情報がそれぞれ付加されているため、この画素ずらし位置情報に基づき順番に画像合成することで高解像度の画像を取得することができる。
【0041】
以上のように、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、標本Sを移動させることなく、マイクロレンズアレイ26によって標本Sを異なる角度から見た画像(多視差画像)や、標本Sの奥行き(高さ)に関係なく、ほとんど焦点の合った画像(全焦点画像)を取得することができるとともに、像シフト装置40によって標本Sからの観察光を所定の方向に所定量シフトさせて撮像素子30の撮像面上の各画素ずらし位置にそれぞれ結像させることができ、このようにして結像された画像信号を合成することで高解像度の画像を取得することができる。また、像シフト装置40を平行平板ガラスおよびカムリングにより構成することで、簡単な装置構成ですばやく像シフトを行うことができる。
【0042】
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、像シフト装置は、上記実施形態では、平行平板ガラスと、この平行平板ガラスを光軸に対して傾斜させるためのカムリングとを有して構成されているが、図10に示すように、2つのDMD(Digital Micromirror Device)40′を用いて構成してもよい。DMDを用いた構成によれば、カムリングを用いた構成よりもすばやく像シフトを行うことができる。
【0043】
また、上記実施形態では、1/2画素ずらしを行う場合について説明したが、例えば1/3画素ずらしや1画素ずらし等を行ってもよく、その場合にも、上記と同様の方法で、平行平板ガラス41の各突起およびカムリング45の各カム溝を設定することができる。また、カムリング45における1/2画素ずらし用のカム溝46が形成されていない位置に、1/3画素ずらし等のためのカム溝を形成してもよい。
【0044】
また、上記の実施形態では、対物レンズ25の焦点距離だけ離れた位置にマイクロレンズアレイ26を配置し、マイクロレンズアレイ26の焦点距離だけ離れた位置に撮像素子30を配置して、撮像素子30の撮像面が標本Sの表面(物体面)と共役になる構成について説明したが、観察対象物が対物レンズで結像する位置にマイクロレンズアレイを配置し、マイクロレンズアレイの焦点距離だけ離れた位置に撮像素子を配置して、撮像素子の撮像面が対物レンズの瞳面と共役になる構成としてもよい。このような構成を採用しても、多視差画像や全焦点画像を取得することができる。
【0045】
また、上記の実施形態では、標本Sからの観察光を平行平板ガラス41によって偏向させることにより、画素ずらしを行っているが、これに限られず、平行平板ガラス41に代えて撮像素子30を移動させることにより、画素ずらしを行ってよい。つまり、観察光の撮像素子における受光位置が相対的に変化する機構を設けておけばよい。
【符号の説明】
【0046】
OS2 観察光学系
ML マイクロレンズ
26 マイクロレンズアレイ
30 撮像素子
31 画像処理部
40 像シフト装置40(像シフト手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本からの観察光を集光する観察光学系と、
前記観察光学系により集光された前記観察光をそれぞれ受ける位置に配列された複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズアレイと、
それぞれの前記マイクロレンズに対して複数の画素が割り当てられ、各マイクロレンズを介して前記複数の画素で受光した前記観察光に基づき撮像データを取得する撮像素子と、
前記マイクロレンズアレイに入射する前の前記観察光を受ける位置に配置され、前記観察光を偏向させて前記観察光が各マイクロレンズを介して前記撮像素子に受光される位置を相対的に移動させる像シフト手段と、
前記撮像素子で取得された撮像データに対して所定の処理を施す画像処理部とを備えて構成されることを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記像シフト手段は、前記マイクロレンズアレイに入射する前の前記観察光を受ける位置に配置され、前記観察光を偏向させることにより前記撮像素子に受光される位置を移動させることを特徴とする請求項1記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記像シフト手段は、前記観察光を受ける位置に配置された平行平板ガラスと、前記平行平板ガラスを前記観察光の光軸に対して複数の傾斜角で傾斜させるカム面を有するカムリングと、前記カムリングを前記観察光の光軸を回転中心として回転駆動させるカムリング駆動手段とを備えて構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163910(P2012−163910A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26107(P2011−26107)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】