説明

食品の処理方法

【課題】栄養成分を損なうことなく食品を短時間で簡単に軟化または粉体化させることが可能な食品の処理方法を提供する。
【解決手段】衝撃波発生源2において発生した衝撃波SWを茶葉等の食品1に与えることにより、その食品1を粉体化させる。大きな機械的負荷が不要であるため、その食品1が簡単に粉体化される。また、食品1の加熱も不要であるため、加熱時の熱に起因して食品1中の栄養成分が損なわれるようなことがなく、短時間で粉体化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物または野菜を含む食品を軟化または粉体化させる食品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、果物または野菜を含む多様な食品に関して、さまざまな処理方法(加工方法)が実施されている。具体的には、(1)食感を軟らかくするために、野菜などの食品を加熱したり、(2)果汁などの液体成分を抽出するために、果物などの食品を切断して細片化したり、(3)漬物などを作るために、塩の浸透圧を利用して食品を脱水することにより調味料を浸透させたり、(4)抹茶を作るために、茶葉を磨り潰して粉体化させている。なお、サトウキビなどの著しく硬い食品から液体成分を抽出する場合には、上記したように細片化したのちに極めて高い圧力で食品を圧搾する場合もある。
【0003】
この食品の処理方法に関しては、既にいくつかの技術が提案されている。具体的には、食品に液体または気体を短時間で簡便に含浸させるために、減圧環境中において食品を液体または気体と接触させたり、あるいは減圧処理が施された食品を液体または気体と接触させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−174850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、食品を軟化または粉体化させる場合には、その食品の処理効率を考慮して、食品を可能な限り短時間で簡単に軟化または粉体化させる必要がある。しかも、食品を軟化または粉体化させた場合には、その食品中の栄養成分が損なわれたのでは意味がない。
【0006】
しかしながら、従来の食品の処理方法では、食品を切断、圧搾または磨り潰すために大きな機械的負荷(動力)を要するため、その食品を簡単に軟化または粉体化させることが困難であるという問題があった。しかも、食品を加熱または磨り潰すと、その加熱時の熱または磨り潰し時に生じる摩擦熱に起因して食品中の栄養成分が熱分解等することにより損なわれると共に、食品を軟化または粉体化させるために時間がかかりすぎるという問題もあった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、栄養成分を損なうことなく食品を短時間で簡単に粉体化させることが可能な食品の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る食品の処理方法は、穀物、豆類あるいは茶葉からなる食品に、液体中で発生させた1MPa以上1GPa以下の圧力を伴う衝撃波を与えてその食品中の細胞壁を破壊して粉体化させるようにしたものである。
【0009】
本発明に係る食品の処理方法では、食品に衝撃波が与えられることにより、その食品中の細胞壁が破壊されて粉体化する。これにより、大きな機械的負荷を利用せずに食品を粉体化させることが可能であるため、処理の容易化、時間の短縮化につながる。また、食品を磨り潰さずに粉体化させることが可能であるため、磨り潰し時に生じる摩擦熱に起因して食品中の栄養成分が損なわれることがない。
【0010】
なお、「食品」とは、果物または野菜などに代表される食品、すなわち人間が実際に食する態様(台所や食卓において目にする態様)のものに限らず、穀物や農作物などに代表される食品、すなわち人間が実際に食する態様以前の態様(生産者等が収穫する際の態様)の食品も含む意味である。
【0011】
また、「衝撃波」とは、化学的エネルギー、電気的エネルギー、機械的エネルギー等を利用して発生させるものであり、化学的エネルギーとしては、例えば爆薬の爆発を利用したエネルギー等、電気的エネルギーとしては、例えば電気パルスを利用したエネルギー等、機械的エネルギーとしては、例えば液体中への金属球の打ち込みを利用したエネルギー等が挙げられる。
【0012】
本発明に係る食品の処理方法では、食品として、例えば茶葉、小豆、コーヒー豆、クルミ、五穀米あるいはシイタケ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る食品の処理方法によれば、食品に衝撃波を与えることによりその食品中の細胞壁を破壊して粉体化させるようにしたので、食品が短時間で簡単に処理されると共に、その食品中の栄養成分が熱に起因して損なわれない。すなわち、栄養成分を損なうことなく食品を短時間で簡単に粉体化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法の概要を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法の具体的な一態様を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法の処理手順の流れを説明するための流れ図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法の処理手順に関する変形例の流れを説明するための流れ図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法の他の具体的な一態様を説明するための図である。
【図6】図5に示した食品の処理方法の処理手順の流れを説明するための流れ図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る食品の処理方法の処理手順の流れを説明するための流れ図である。
【図8】実施例1の食品および比較例1の食品に関する果汁の抽出状態を表す写真である。
【図9】実施例2の食品および比較例2の食品に関する食紅の浸透状態を表す写真である。
【図10】実施例2の食品および比較例2の食品に関する表面状態の顕微鏡写真である。
【図11】実施例3−1の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図12】実施例3−2の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図13】実施例3−3の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図14】実施例3−4の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図15】実施例4−1の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図16】実施例4−2の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図17】実施例4−3の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図18】実施例4−4の食品に関する、圧力に対する硬度の関係を表す特性図である。
【図19】実施例5に関する、衝撃波処理前後の栄養成分の変化を表す図である。
【図20】衝撃波を負荷した後ストローを差し込んだリンゴの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る食品の処理方法について説明する。図1は、食品の処理方法の概要を説明するためのものである。
【0017】
本実施の形態に係る食品の処理方法は、食品を軟化させるために使用されるものである。この食品の処理方法では、図1に示したように、食品1と共に衝撃波発生源2を準備したのち、伝達媒体M中において衝撃波発生源2から衝撃波SWを発生させて食品1に与えることにより、その食品1を軟化させる。
【0018】
食品1は、衝撃波発生源2から衝撃波SWが与えられる対象物である。この食品1は、果物または野菜を含むものであり、より具体的には食感の面から一般に硬いと感じられるものである。この「硬い」とは、例えばサトウキビやリンゴなどに代表される食品の硬さ、すなわち日常において生じる程度の外力を加えても変形しにくい(一定の外形を維持し得る)性質を意味しており、例えば豆腐や寒天などに代表される食物の軟らかさ、すなわち日常において生じる程度の外力を加えると変形しやすい(一定の外形を維持し得ない)性質に対する対極の意味である。この食品1としては、例えば、リンゴ、パイナップル、柿などに代表される果物や、大根、大根の葉、冬瓜、キュウリなどに代表される野菜や、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビ、ショウガ、ニンニク、茶葉、香辛料、豆(一連の豆類を含む)または乾燥キノコなどに代表される穀物および農作物などが挙げられる。もちろん、食品1は、上記した一連の食物(リンゴ、大根またはサツマイモ等)以外の他の果物、野菜、穀物または農作物であってもよいし、上記した果物、野菜、穀物または農作物以外の他の食品(例えば魚等)であってもよい。
【0019】
衝撃波発生源2は、食品1に衝撃波SWを与えるために、その衝撃波SWを発生させるものである。この衝撃波発生源2としては、例えば、化学的エネルギーを利用するものとして、爆発を利用して衝撃波SWを発生させる爆薬などが挙げられ、電気的エネルギーを利用するものとして、電気パルスを利用して衝撃波SWを発生させる電気パルス発生装置などが挙げられ、機械的エネルギーを利用するものとして、液体中への金属球の打ち込みを利用して衝撃波SWを発生させる手法などが挙げられる。もちろん、衝撃波発生源2は、上記した化学的、電気的または機械的エネルギー以外の他のエネルギーを利用して衝撃波SWを発生させるものであってもよい。
【0020】
伝達媒体Mは、衝撃波SWを伝達させるためのもの(衝撃波伝達媒体)であり、すなわち衝撃波SWに伴う圧力を伝達させるためのもの(圧力伝達媒体)である。この伝達媒体Mは、例えば、気体または液体などの圧縮性流体や、ゴムなどの弾性体である。
【0021】
なお、衝撃波SWは、伝達媒体M中において高速(音速を超える速度)で伝播する強い圧力変化の波であり、圧力、温度および密度などの物理的因子を瞬間的に急激に変化させる性質を有するものである。この衝撃波SWに伴う圧力、すなわち衝撃波SWを利用して食品1に与える圧力は、その食品1の本来(衝撃波SWを与える前)の硬さや軟化状態(衝撃波SWを与えた際の食品1の軟化傾向)等に応じて自由に設定可能であり、具体的には約1MPa〜500MPaである。もちろん、衝撃波SWに伴う圧力は、必ずしも上記した圧力範囲内の値に限定されず、その圧力範囲を外れる値であってもよい。
【0022】
次に、図2および図3を参照して、図1に示した食品の処理方法の詳細について説明する。図2は、食品の処理方法の具体的な一態様を説明するためのものであり、図3は、図2に示した食品の処理手順の流れを説明するためのものである。なお、以下では、食品1の種類や衝撃波発生源2の機能および種類などについては既に詳細に説明したので、それらの説明を随時省略する。
【0023】
食品1を処理する際には、例えば、図2に示したように、以下の手順を経る。具体的には、まず、食品1と共に、その食品1を保護するための保護材3を併せて準備したのち、その保護材3で食品1を包装する(図3;ステップS101)。ここでは、例えば、食品1として、リンゴなどの果物を使用する。また、保護材3としては、例えば、ラップ、すなわちポリエチレンなどの高分子材料により構成された食品包装用の薄い透明なフィルムを使用する。
【0024】
続いて、保護材3により包装された食品1の保護作用を高めるために、真空パック装置を使用して保護材3の内部を減圧することにより、その保護材3を真空パックする(図3;ステップS102)。
【0025】
続いて、衝撃波発生源2を準備したのち、その衝撃波発生源2から発生した衝撃波SWが食品1に与えられるように、食品1および衝撃波発生源2を設置する。ここでは、例えば、伝達媒体Mとして液体(例えば水W)が満たされた水槽4を準備したのち、保護材3により包装された食品1を衝撃波発生源2と共に伝達媒体M(水槽4の水W)中に設置する(図3;ステップS103)。この場合には、上記したように、衝撃波発生源2から発生した衝撃波SWが食品1に与えられ得る所定の距離を隔てて、食品1および衝撃波発生源2を互いに離間配置させる。ここでは、例えば、衝撃波発生源2として、爆発を利用して衝撃波SWを発生させることが可能な爆薬である導爆線および電気雷管を使用する。
【0026】
最後に、衝撃波発生源2から衝撃波SWを発生させることにより(図3;ステップS104)、食品1に衝撃波SWを与える(図3;ステップS105)。ここでは、例えば、電気雷管を使用して導爆線を起爆させることにより、その爆発のエネルギーを利用して衝撃波SWを発生させる。これにより、衝撃波発生源2から発生した衝撃波SWが水Wを媒体として伝播し、その衝撃波SWが保護材3を介して食品1に与えられるため、衝撃波SWを与える前後において食品1の硬さが変化し、すなわち食品1が軟化する。この食品1が軟化する理由としては、例えば、衝撃波SWに伴う急激な圧力変化に応じて食品1中の細胞または組織において気泡が圧縮されたのちに膨張されるため、その食品1中の細胞膜または細胞壁が破壊されるものと想定される。
【0027】
この食品1を軟化させるために必要な圧力(衝撃波SWに伴う圧力)は、1MPa以上500MPa以下であるが、食品1としてリンゴを使用する場合には、好ましくは12.6MPa以上、さらに好ましくは12.6MPa以上182MPa以下である。あるいは、パイナップルを使用する場合には、好ましくは12.6MPa以上、さらに好ましくは12.6MPa以上102MPa以下である。また、冬瓜を使用する場合には、好ましくは20MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上184MPa以下である。加えて、リンゴ等の果物・野菜類を所定の形状を維持しつつ軟化させる場合には、圧力を37MPa以上53MPa以下とすることが好ましい。もちろん、ここに説明した圧力の値はあくまで一例であり、その圧力の値が上記した圧力範囲に限定されるわけではない。これにより、食品1の処理が完了する。
【0028】
なお、食品1を処理したのちには、さらに、必要に応じて処理後の食品1を追加処理してもよい。ここでは、例えば、処理後の食品1(必要に応じて細片化された食品1)を圧搾する(図3;ステップS106)。これにより、例えば、食品1から果汁などの液体成分が抽出される。
【0029】
また、食品1としては、上記リンゴ、パイナップル、冬瓜以外にも、他の食品を使用してもよい。例えば、食品1として乾燥キノコを使用した場合には、処理後の食品1を圧搾することにより、その食品1からキノコ中のエキスなどの液体成分が抽出される。
【0030】
本実施の形態に係る食品の処理方法では、食品1に衝撃波SWを与えて軟化させるようにしたので、以下の理由により、栄養成分を損なうことなく食品1を短時間で簡単に軟化させることができる。
【0031】
すなわち、食品1に衝撃波SWが与えられると、上記したように、衝撃波SWに伴う急激な圧力変化を利用した軟化現象が生じるため、その食品1が軟化する。この場合には、食品を軟化させるために大きな機械的負荷(動力)を利用して食品を切断または圧搾する従来の食品の処理方法とは異なり、その大きな機械的負荷を利用せずに食品1を軟化させることが可能であるため、その食品1が簡単に軟化される。
【0032】
しかも、食品を軟化させるために加熱する従来の食品の処理方法とは異なり、食品1を加熱せずに軟化させることが可能であるため、食品1中の栄養成分が損なわれず、かつ食品1が短時間で軟化される。なお、食品1に衝撃波SWを与えた場合には、その食品1が全く加熱されないわけではなく、上記したように、衝撃波SWに伴って圧力だけでなく温度も併せて急激に変化するため、その食品1は少なからず加熱される。しかしながら、この場合には、衝撃波SWに伴って食品1が瞬間的に加熱されるにすぎず、すなわち加熱時の熱に起因して栄養成分が損なわれる程度まで長期間に渡って食品1が加熱されるわけではないため、衝撃波SWを与える方法では、その食品1中の栄養成分が損なわれないのである。
【0033】
このように、本実施の形態では、栄養成分を損なうことなく食品1を短時間で簡単に軟化させることができる。
【0034】
特に、本実施の形態では、上記したように食品1が長期間に渡って加熱されないため、栄養成分と共に風味も損なわれないように食品1を軟化させることができる。この風味が損なわれない利点は、例えば、茶葉や香辛料などの風味(香り等)が重視される食品1を軟化させる際に極めて重要である。
【0035】
また、本実施の形態では、食品1に衝撃波SWを与える際に、その食品1を保護材3で保護するようにしたので、食品1が伝達媒体M(例えば水Wなどの液体)に濡れたり、衝撃波SWの発生時に生じた異物(例えば爆薬の破片等)が食品1に付着したり、あるいは衝撃波SWを与えた際に食品1から内部の液体(例えば果汁など)が流出することを防止することができる。以上のことにより、図20に示したように、例えば食品1としてリンゴ等の果物を用いて衝撃波処理を行った場合、リンゴを切ったり絞ったりすることなく、原形を維持しているリンゴにストローを差し込むことによって、容易に内部の果汁を飲むことも可能となる。この場合には、衝撃波の圧力を37MPa以上53MPa以下とすることが望ましい。リンゴの果肉部分が軟化されて液状(ストローで飲める程度)になっても、皮部分は壊れにくい状態を保持できるからである。このような形態の食品は、お年寄り向けの加工食品等に利用可能である。
【0036】
また、本実施の形態では、食品1に衝撃波SWを与えて軟化させたのち、その食品1を圧搾すれば、食品(必要に応じて細片化された食品)を軟化させずに圧搾する(本来の硬さを有する食品をそのまま圧搾する)場合と比較して、食品1を圧搾するために要する圧力が小さくて済むと共に、その食品1の圧搾効率が向上する。したがって、食品1を圧搾することにより果汁などの液体成分を抽出する場合に、その食品1から果汁などの液体成分を簡単に効率よく抽出することができる。これにより、圧搾用の機械設備を使用して食品1を圧搾する場合に、その機械設備の稼働時間(食品1の処理時間)を短縮し、かつ消費燃料(食品1の処理に要する燃料)の消費量を低減させることができると共に、食品1を圧搾した際に生じる廃棄物(例えば圧搾されずに残存した食品1やその残存果汁等)の量を減少させることができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、図2に示したように、伝達媒体Mとして水W中に食品1および衝撃波発生源2を設置し、その衝撃波発生源2から発生した衝撃波Wを水Wを媒体として伝播させることにより食品1に与えるようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、伝達媒体Mとして水W以外の他の液体中において食品1に衝撃波SWを与えるようにしてもよいし、あるいは伝達媒体Mとして気体(例えば空気)中に食品1および衝撃波発生源2を設置し、その衝撃波発生源2から発生した衝撃波Wを気体を媒体として伝播させることにより食品1に与えるようにしてもよい。この場合においても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、図3に示したように、食品1に衝撃波SWを与えて軟化させたのち、追加処理として処理済みの食品1を圧搾するようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、図3に対応する図4に示したように、処理済みの食品1(例えば大根など)に液体を注入するようにしてもよい(図4;ステップS206)。これにより、食品1に液体が浸透される。この液体としては、例えば、食品1を着色させるための色素や、食品1に浸透させる(味付けする)ための調味料などが挙げられる。なお、図4に示した他の手順(ステップS201〜S205)の内容は、上記実施の形態において図3を参照して説明した手順(ステップS101〜S105)の内容とそれぞれ同様である。この場合には、衝撃波を負荷せずに液体を注入する(本来の硬さを有する食品に液体を注入する)場合と比較して、食品1に液体を注入するために要する圧力が小さくて済むと共に、その食品1に対する液体の浸透効率が向上する。したがって、食品1に液体を注入する場合に、その食品1に液体を簡単に効率よく浸透させることができる。
【0039】
なお、図4に示した場合には、食品1に液体を浸透させるために、食品1に衝撃波SWを与えて軟化させたのち、その食品1に液体を注入するようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手順を使用しても食品1に液体を浸透させることが可能である。具体的には、例えば、図2に対応する図5および図4に対応する図6に示したように、(1)伝達媒体Mとして食品1に浸透させたい液体(例えば調味料S)を使用し、(2)保護材3で食品1を包装せず、その食品1を伝達媒体M(調味料S)にそのまま投入することにより接触させ、(3)食品1に衝撃波SWを与えたのち、その食品1をあらためて追加処理しない点を除いて図4に示した場合と同様の手順を経るようにし(図6;ステップS301〜S303)、すなわち伝達媒体Mとしての液体(調味料S)に接触させながら食品1に衝撃波SWを与えることにより、軟化させながら食品1に液体を浸透させるようにしてもよい。この場合においても、食品1が軟化すると共に、その食品1に液体が浸透される。この場合には、特に、食品1の軟化および食品1に対する調味料Sの浸透が一工程において実現されるため、食品1に液体を極めて簡単に効率よく浸透させることができる。もちろん、この場合の伝達媒体Mとしては、必ずしも調味料Sに限らず、調味料S以外の他の液体であってもよい。一例として、食品1として豆を使用し、伝達媒体Mとして水を使用した場合には、その豆に水が浸透され、すなわち豆が水分を吸収する。
【0040】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0041】
図7は、本実施の形態に係る食品の処理方法の処理手順の流れを説明するためのものである。この食品の処理方法は、食品を粉体化させるために使用されるものであり、上記第1の実施の形態において図1に示したように、食品1と共に衝撃波発生源2を準備したのち、伝達媒体M中において衝撃波発生源2から衝撃波SWを発生させて食品1に与えることにより、その食品1を粉体化させる。
【0042】
本実施の形態において食品1を処理する際には、例えば、図7に示したように、食品1として茶葉などの農作物を使用して、1MPa以上1GPa以下の圧力の衝撃波を発生させることを除き、上記第1の実施の形態において図3を参照して説明した手順(図3;ステップS101〜S105)と同様の手順(図7;ステップS401〜S405)を経ることにより、食品1に衝撃波SWを与える。これにより、食品1が粉体化する。
【0043】
上記では食品1として茶葉を使用する場合について説明したが、茶葉以外の他の食品1を使用してもよい。この「他の食品1」としては、例えば、小豆、コーヒー豆、香辛料などが挙げられる。
【0044】
本実施の形態に係る食品の処理方法では、食品1に衝撃波SWを与えて粉体化させるようにしたので、大きな機械的負荷を利用せずに食品1が簡単に粉体化される。しかも、食品1を磨り潰さずに粉体化させることが可能であるため、磨り潰し時に生じる摩擦熱に起因して食品1中の栄養成分が損なわれず、かつ食品1が短時間で粉体化される。したがって、栄養成分を損なうことなく食品1を短時間で簡単に粉体化させることができる。
【0045】
特に、本実施の形態では、上記したように食品1に摩擦熱が及ばないため、栄養成分と共に風味も損なわれないように食品1を粉体化させることができる。この風味が損なわれない利点は、例えば、上記した茶葉や香辛料などの風味(香り等)が重視される食品1を粉体化させる際に極めて重要である。
【0046】
なお、本実施の形態に係る食品の処理方法に関する上記以外の手順、作用、効果および変形は、上記第1の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明に関する実施例について説明する。
【0048】
(実施例1)
上記実施の形態(図2および図3参照)において説明した食品の処理方法を使用して、以下の処理手順を経ることにより食品を処理した。まず、実施例1として、食品にリンゴを準備すると共に、保護材としてポリエチレン製のラップを準備したのち、そのリンゴをラップで包装し、引き続きリンゴを包装したラップを真空パックした。この場合には、リンゴを半分(165.23g)に切断して使用した。続いて、衝撃波の付与対象であるリンゴを固定するために、金属製の固定用部材を使用して、ラップで包装済みのリンゴを金属製の檻に固定した。続いて、衝撃波発生源として導爆線および電気雷管を準備すると共に、伝達媒体として水が満たされた水槽を併せて準備したのち、ラップで包装済みのリンゴが固定された檻を衝撃波発生源と共に水槽(水)中に設置した。この場合には、リンゴと導爆線との間の間隔を27cmとした。続いて、電気雷管を使用して導爆線を起爆させることにより、導爆線から衝撃波を発生させた。これにより、衝撃波が水を媒体として伝播することによりラップを介してリンゴに与えられた。この場合には、衝撃波に伴う圧力を44MPaとした。最後に、ボタン型の重りを使用して、衝撃波が与えられたリンゴを加圧することにより圧搾した。この場合には、重りの荷重を1947.7gとした。
【0049】
(実施例2)
上記実施の形態において変形例(図2および図4参照)として説明した食品の処理方法を使用して、以下の処理手順を経ることにより食品を処理した。まず、実施例2として、食品として大根を準備したのち、実施例1の処理手順と同様の手順を経ることにより大根に衝撃波を与えた。この場合には、大根を板状(2.5cm厚)にスライスして使用すると共に、衝撃波に伴う圧力を50MPaとした。最後に、ポリカーボネイト製の瓶に満たした水に食紅を溶解させたのち、その食紅が溶解された水中に大根を浸漬させた。この場合には、浸漬時間を3時間とした。また、実施例2−2として、食品に大豆を用いて、実施例2と同様にして処理を行った。
【0050】
(比較例1)
衝撃波を与えなかった点を除き、実施例1の処理手順と同様の手順を経ることによりリンゴを準備した。この場合には、実施例1において切断されたリンゴのうちの残り半分(171.20g)を使用すると共に、重りの荷重を1915.3gとした。
【0051】
(比較例2)
衝撃波を与えなかった点を除き、実施例2の処理手順と同様の手順を経ることにより大根を準備した。
【0052】
上記した実施例1および実施例2の処理手順を経ることにより得られた食品および比較例1,2の処理手順を経ることにより得られた食品の諸特性を調べたところ、以下の結果が得られた。
【0053】
まず、実施例1の食品および比較例1の食品の状態を調べた。この場合には、食品の外観を観察すると共に、その食品の触感を調べることにより、食品の硬さおよび食感を調べた。
【0054】
比較例1の食品では、当然ながら、リンゴ本来の硬さが維持されており、そのリンゴの食感に変化が生じていなかった。これに対して、実施例1の食品では、リンゴが軟化しており、そのリンゴの食感に変化が生じていた。このことから、本発明の食品の処理方法では、衝撃波を与えることにより食品を軟化させることが可能であることが確認された。
【0055】
続いて、実施例1の食品および比較例1の食品を圧搾することにより果汁の抽出状態を調べたところ、図8に示した結果が得られた。図8は、実施例1の食品および比較例1の食品に関する果汁の抽出状態を表しており、(A)は比較例1の食品を示し、(B)は実施例1の食品を示している。
【0056】
図8に示した結果から判るように、比較例1の食品(A)では、加圧したにもかかわらずにリンゴから果汁が抽出されなかった。これに対して、実施例1の食品(B)では、加圧したことによりリンゴが押し潰されたため、そのリンゴから112.81gの果汁が抽出された。このことは、比較例1の食品では、リンゴ本来の硬さが維持されているため、重りの荷重(1915.3g)で加圧しただけでは果汁が抽出されないのに対して、実施例1の食品では、リンゴが軟化されているため、重りの荷重(1947.7g)で加圧しただけで果汁が抽出されることを表している。このことから、本発明の食品の処理方法では、より小さな荷重で加圧することにより食品から果汁などの液体成分を抽出することが可能な程度に、その食品を軟化させることが可能であることが確認された。
【0057】
続いて、実施例2の食品および比較例2の食品の状態を調べたところ、図9に示した結果が得られた。図9は、実施例2の食品および比較例2の食品に関する食紅の浸透状態を表しており、(A)は比較例2の食品を示し、(B)は実施例2の食品を示している。この場合には、食品の外観を観察することにより、その食品に対する食紅の浸透具合を調べた。
【0058】
図9に示した結果から判るように、比較例2の食品(A)では、大根の端縁近傍のみが僅かに赤く着色されている程度であり、すなわち食紅が大根に十分に浸透しなかった。これに対して、実施例2の食品(B)では、大根の端縁近傍のみならず、その端縁の内側まで広い範囲に渡って赤く着色されており、すなわち食紅が大根に十分に浸透した。このことは、比較例1の食品では、大根本来の硬さが維持されているため、設定した浸漬時間(3時間)だけでは食紅が大根に浸透しにくいのに対して、実施例2の食品では、大根が軟化されているため、設定した浸漬時間(3時間)だけで食紅が大根に浸透しやすいことを表している。なお、ポリカーボネイト製の瓶から取り出した食品を大気圧下に放置しながら観察したところ、比較例2の食品では、放置中の食品の状態が変化せず、すなわち放置中において食品の外形が維持されていたのに対して、実施例2の食品では、放置中の食品の状態が変化し、具体的には大根が自重で変形することにより、その大根から水分が次第に染み出した。この際、食品を指先で軽く押したところ、比較例2の食品では、指先の圧力だけでは大根が変形せず、その大根からほとんど食紅(水に溶解された食紅)が染み出さなかったのに対して、実施例2の食品では、指先の圧力だけで大根がスポンジのように簡単に変形し、その大根から食紅(水に溶解された食紅)が大量に染み出した。また、実施例2−2の大豆においても、同様に食品の軟化と注水性が確認された。このことから、本発明の食品の処理方法では、より短い時間で食品に食紅(水に溶解された食紅)などの液体を注入することが可能な程度に、その食品を軟化させることが可能であることが確認された。
【0059】
特に、実施例2の食品および比較例2の食品の表面状態を調べたところ、図10に示した結果が得られた。図10は、実施例2の食品および比較例2の食品の表面状態を表しており、(A)は比較例2の食品を示し、(B)は実施例2の食品を示している。この場合には、双眼実態顕微鏡を使用して食品の表面状態を観察した。
【0060】
図10に示した結果から判るように、比較例2の食品(A)では、大根の表面に気泡が観察されなかったのに対して、実施例2の食品(B)では、大根の表面に多数の気泡が観察された。これは、衝撃波の影響を受けて大根の内部で気泡が膨張した結果生じたものであり、その大根を軟化させる要因となっているものである。このことから、本発明の食品の処理方法では、衝撃波を与えることにより食品の内部に多数の気泡が生じるため、その気泡の存在に基づいて食品が軟化することが確認された。
【0061】
(実施例3−1〜3−4)
次に、実施例3−1〜3−4として、負荷する衝撃波の圧力を段階的に変化させた場合の食品の硬度について、硬度測定器(ASTM D 2240準拠)を用いて測定した。食品としては、実施例3−1ではリンゴ、実施例3−2ではパイナップルの果肉部分、実施例3−3ではパイナップルの芯部分、および実施例3−4ではトウガン(皮側)を用いた。衝撃波の発生および負荷方法については、実施例1と同様の方法により行った。衝撃波の圧力に関しては、導爆線と食品との距離を調節することにより変化させた。各圧力下の衝撃波負荷後の硬度を、衝撃波負荷前の硬度に対する割合(%)として求め、結果を表1〜4および図11〜図14に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
表1および図11に示したように、実施例3−1のリンゴについては、圧力を大きくするに従って、硬度が低くなり軟化が進んでいることがわかる。これにより、例えば、所望の硬度が50%以下であれば26MPa以上、硬度30%以下であれば40MPa以上の圧力の衝撃波を負荷することによって、容易にリンゴを軟化させることが可能であることがわかった。
【0067】
表2および図12に示したように、実施例3−2のパイナップルの果肉部分については、圧力を大きくするに従って徐々に硬度が低くなる傾向はみられるものの、リンゴのように顕著な結果は得られなかった。また、表3および図13に示したように、実施例3−3のパイナップルの芯部分については、100MPaよりも小さい圧力下では、ほとんど軟化の傾向を示さなかったため、少なくとも100MPa以上の圧力が必要であることがわかった。
【0068】
表4および図14に示したように、実施例3−4のトウガンについては、圧力を大きくするに従って、緩やかに硬度が低下する傾向がみられ、例えば硬度60%以下を所望する場合には、180MPa程度以上の圧力の衝撃波が必要であることがわかった。
【0069】
実施例3−1〜3−4の結果から、衝撃波の圧力を調整することにより、食品を所望の硬度で軟化させることが可能であることが示され、特にリンゴについては、この傾向が顕著であることがわかった。また、実施例1の軟化された大根において観察された内部気泡(図10)が、実施例3−1〜3−4の食品についても同様に確認された。
【0070】
(実施例4−1〜4−4)
次に、実施例4−1〜4−4として、衝撃波の負荷により食品を粉体化させ、処理前後の食品の粒度分析を行った。食品としては、実施例4−1では茶葉、実施例4−2では小豆、実施例4−3では小麦、実施例4−4ではコーヒー豆を用いた。衝撃波の発生および負荷方法は、実施例1と同様の方法により行った。あるいは、食品を水槽中に設置する際、食品をポリカーボネイト瓶(耐圧瓶)に封入するようにしてもよい。また、衝撃波の圧力は、導爆線と食品との距離を調節することにより変化させた。
【0071】
粒度分析については、衝撃波処理後、孔径が0.15mm、0.3mm、0.6mm、1.19mm、2.38mm、4.76mmの篩いを用いて、各食品の衝撃波処理後の粒度(mm)を測定し、粒度別に重量(g)および重量比(%)を求めた。結果を、表5〜表8および図15〜図18に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
表5および図15に示したように、実施例4−1の茶葉については、衝撃波処理前の状態では粒度が1.19〜2.38のものが全体の50%以上を占めているが、圧力を伴った衝撃波を負荷することにより粒度が小さくなり、さらに圧力を増すにしたがって徐々に粒度の小さいものの重量が増加していることがわかる。これにより、例えば、50MPaの圧力の衝撃波を負荷することで、粒度0.15〜0.3程度にまで粉体化された食品を全体の3.4%得ることができる。あるいは、184MPaの圧力の衝撃波を負荷することにより、0.15以下という非常に微細な粒度にまで粉体化した食品を全体の2.73%得ることが可能となる。
【0077】
表6および図16に示したように、実施例4−2の小豆については、衝撃波処理前の状態では粒度が4.76以上であるが、圧力5MPaの衝撃波を負荷することにより、全体の約半数が粒度2.38〜4.76にまで粉体化され、その後圧力を増す毎に、微量ではあるが粒度が小さくなることがわかった。
【0078】
表7および図17に示したように、実施例4−3の小麦については、圧力が0MPa〜184MPa程度の衝撃波処理の前後においては、粒度に大きな差はみられなかったので、小麦を粉体化させるためには、さらに大きな圧力が必要と予測される。但し、小麦表面の籾殻の剥離が確認された。
【0079】
表8および図18に示したように、実施例4−4のコーヒー豆については、衝撃波処理前の状態では粒度が4.76以上であるが、圧力12.6MPaの衝撃波を負荷することにより、全体の約20%程度が粉体化された。圧力が増すにつれて、徐々に粉体化が進み、31.2MPa以上で、全体の約半数が粉体化されることがわかった。また、衝撃波を与えたコーヒー豆のうち豆の原形を保っているものを選んで、水中に投入した後1時間程静置させると、水の色の変化が確認された。これは、表面上は大きな変化がなくても、コーヒー豆の内部で微細な粉体化が発生し、抽出性が向上しているためと考えられる。
【0080】
実施例4−1〜4−4の結果から、食品に衝撃波を負荷し、また衝撃波の圧力を調整することにより、食品を所望の粒度で粉体化させることが可能であることが示され、特に茶葉、小豆およびコーヒー豆については、効果的に粉体化されることがわかった。
【0081】
(実施例5)
次に、実施例5として、衝撃波処理前と処理後において、食品に含有される栄養成分に変化があるかどうかについて、以下のような実験を行った。
【0082】
まず、食品としてリンゴを用いて、実施例1と同様の方法により衝撃波処理を行った。この後、処理後のリンゴから果汁を得て、この果汁について栄養成分を測定した。このとき、衝撃波の圧力は50MPaに設定し、糖度(%)、酸度(%)、pH、全ペクチン(%)、水溶性ペクチン(%)、ポリフェノール(mg%、標準物質;カテキン)、ナトリウム(mg%)、カリウム(mg%)およびカルシウム(mg%)の含有量について、それぞれ測定を行った。
【0083】
一方で、衝撃波処理前のサンプルとして、リンゴに衝撃波を負荷せずに果汁を抽出し、栄養成分を測定した。これらの測定結果を、表9および図19に示した。なお、図19は処理前の各成分値を100%とした場合の、処理前に対する処理後の成分値(%)を表している。
【0084】
【表9】

【0085】
表9および図19に示したように、ナトリウムおよびカルシウムにおいては、若干の減少があったものの、糖度、酸度、pHについては衝撃波処理の前後で大きな変化は見られなかった。逆に、全ペクチン、水溶性ペクチン、ポリフェノールおよびカリウムにおいては、処理前に比べて処理後の成分が増加しており、特に、ポリフェノールに関しては大幅に増加していた。これは、衝撃波によって、リンゴ内部の個々の細胞壁が破壊され、ポリフェノールが細胞外に排出されることに起因すると推測される。以上のことにより、圧力を伴う衝撃波処理を行ったとしても、食品中の栄養成分が特段減少することはないことがわかった。また、リンゴから果汁を得るような場合には、衝撃波処理を用いることにより、特にポリフェノール等の栄養成分の取り出し効率が向上することがわかり、衝撃波処理が食品の栄養面からみても有効な手段であることが示された。
【0086】
(実施例6−1〜6−3)
上記実施例5では、食品にリンゴ用いた場合、衝撃波処理により栄養成分中のポリフェノールの含有量が大幅に増加することが示されたが、このような効果がリンゴの種類に依存するかどうかについて、実施例6−1〜6−3として、以下のような実験を行った。
【0087】
まず、リンゴサンプルとして、実施例6−1ではサンフジ、実施例6−2ではジョナゴールド、実施例6−3では王林を用いて、各リンゴについて、実施例5と同様にして、衝撃波処理および衝撃波非処理の果汁を得た。この果汁10mlに蒸留水を加えて2倍に希釈した後、105℃の温度下で1時間熱水抽出を行い、ろ過した。このとき、各リンゴについて、果汁抽出前と抽出後における重量を測定し、果汁収量(果汁収量(%)=((果汁抽出前重量−果汁抽出後重量)/果汁抽出前重量)×100)を求めた。この結果を表10に示した。
【0088】
【表10】

【0089】
次に、作成した果汁希釈液に、20%炭酸ナトリウム水溶液を10ml、蒸留水50ml、フェノール試薬5mlを加え、よく混合して15時間静置させる。フェノール試薬としては、タングステン酸ソーダ(Na2WO4・2H2O)、リンモリブデン酸(H3PO4・12MoO2)、リン酸(H3PO4)および水(H2O)から成る試薬を用いる。この試薬を用いる方法は、アルカリ性でのフェノール性水酸基の還元力を利用して、モリブデン酸の還元で生ずる青色(波長;725〜760nm)を比色測定するもので、微量の全ポリフェノールの定量に適している。
【0090】
次いで、15時間静置させた各混合液を写真撮影し、1cm四方の画像として切り出して画像処理を行った。このとき、画像の解像度を200pixel/cmに変換し、スポイト機能により、シアン、マゼンダ、イエローおよびブラックの4色の色の拾い上げを行い、その比率を求めた。これら4色のうち、シアンがポリフェノールの含有量の指標となるため、シアンについての比率の増減を測定した。
【0091】
表10に示したように、衝撃波処理を行ったリンゴから得られた果汁量は、実施例6−1〜6−3のいずれのリンゴについても、衝撃波非処理に比べて2倍以上となった。この結果から、衝撃波処理を行うことにより、食品から果汁を効率良く取り出すことが可能となることが示された。
【0092】
また、画像処理により測定したシアンの比率は、実施例6−1のサンフジおよび実施例6−3の王林では、衝撃波処理前よりも処理後の方が高く、果汁に含有されるポリフェノールの量が増加していることがわかった。
【0093】
(実施例7−1〜7−18)
次に、上記以外の食品に対し、実施例1と同様の手順を用いて、食品が軟化あるいは粉体化するかどうかについて調べた。食品としては、実施例7−1ではショウガ、実施例7−2ではジャガイモ、実施例7−3ではナガイモ、実施例7−4ではサツマイモ、実施例7−5ではニンニク、実施例7−6ではトマト、実施例7−7ではゆず、実施例7−8ではパッションフルーツ、実施例7−9ではドラゴンフルーツ、実施例7−10ではシイタケ、実施例7−11では大豆、実施例7−12では麦茶用麦、実施例7−13ではゴボウ、実施例7−14ではタケノコ、実施例7−15では五穀米、実施例7−16ではプルーン、実施例7−17ではサトウキビおよび実施例7−18ではクルミを用いた。このとき、衝撃波の圧力は、実施例7−1〜7−12では37MPa、実施例7−13〜7−15では120MPa、実施例7−16および7−17では180MPa、実施例7−18では55.1MPa,68MPaおよび120MPa、と設定した。
【0094】
この結果、実施例7−1〜7−9、7−13、7−14および7−16では、各設定圧力下で軟化され、実施例7−10、7−15および7−18では、各設定圧力下で粉体化された。実施例7−11の大豆では、軟化と同時に注水性が確認された。実施例7−12の麦茶様麦では、上記実施例4−3と同様に抽出性が確認された。実施例7−17のサトウキビでは、軟化と同時に搾取性が確認された。
【0095】
(実施例8)
次に、食品として甜菜を用いて、衝撃波処理を行わなかった場合と、上記実施例1と同様の手順で衝撃波処理を行った場合において、その搾取性を調べた。具体的には、ハンドジューサーを使用して、その液収量(果汁量)を測定した。このとき、衝撃波の圧力は、50MPa、120MPaと設定した。
【0096】
この結果、衝撃波処理を行わなかった場合については、収量は0gであった。これに対し、圧力50MPaの衝撃波を与えた場合には22.71g、圧力120MPaの衝撃波を与えた場合には31.20gの液収量が確認された。これにより、衝撃波処理によって、甜菜の果汁の取り出し効率が向上することがわかった。
【0097】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記各実施の形態および実施例において説明した食品の処理手順は、上記したように、衝撃波を与えることにより食品を軟化または粉体化させることが可能な限り、自由に変更可能である。
【0098】
特に、上記各実施の形態および実施例では、食品としてリンゴ、大根、パイナップル、トウガン、茶葉、小豆およびコーヒー豆に衝撃波を与える場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0099】
また、上記第1の実施の形態および実施例では、追加処理として食品を圧搾したり、あるいは食品に液体を注入する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、追加処理として食品に圧搾および液体注入外の他の処理を施すようにしてもよい。この場合においても、食品の軟化に伴って追加処理の処理効率が向上するため、上記第1の実施の形態および実施例と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る食品の処理方法は、果物や野菜などに代表される食品に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物、豆類、茶葉からなる食品に、液体中で発生させた1MPa以上1GPa以下の圧力を伴う衝撃波を与えることにより前記食品中の細胞壁を破壊して粉体化させる
ことを特徴とする食品の処理方法。
【請求項2】
前記食品は、茶葉、小豆、コーヒー豆、クルミ、五穀米あるいはシイタケである
ことを特徴とする請求項1記載の食品の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−147800(P2012−147800A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111476(P2012−111476)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2007−508237(P2007−508237)の分割
【原出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】