駆動装置
【課題】エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を低減することが可能な駆動装置を提供する。
【解決手段】ロータ20と一体回転してオイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材30を備え、掻き上げ部材30が、ステータ10に対して軸方向一方側であってステータコア11の内周対向面より径方向外側に位置する本体部31を備える。
【解決手段】ロータ20と一体回転してオイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材30を備え、掻き上げ部材30が、ステータ10に対して軸方向一方側であってステータコア11の内周対向面より径方向外側に位置する本体部31を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような駆動装置の従来例として、例えば、下記の特許文献1に開示された技術がある。特許文献1に記載された構成では、ロータの回転を利用してケースの下部に貯留されたオイルを掻き上げ、回転電機の冷却や、ギヤやベアリングの潤滑を行う。具体的には、当該文献の段落〔0041〕に記載のように、ロータ15が回転した状態で、ロータ積層板15aや外周側鍔部19b等によりオイル溜りB(オイル貯留部)に貯留されたオイルが掻き上げられる構成となっている。これにより、オイルポンプによりオイルを循環させる構成に比べ、駆動装置の小型化、単純化、及び低コスト化が可能となっている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の構成では、当該文献の図2に示されるように、外周側鍔部19bの径方向外側端面より径方向外側に、ロータ積層板15aの径方向外側端面が位置する。そして、オイル溜りBのオイルレベルは、当該文献の〔0035〕に記載のように、ロータ15の外周面が僅かに浸る位置L1と、外周側鍔部19bが浸る位置L2との間で変化する。なお、このような構成では、必要な量のオイルがロータ積層板15a等により確実に掻き上げられるようにすべく、ロータ15が高速回転している状態でもオイル溜りBのオイルレベルが上記位置L1より下がらないように、ケース内を循環させるオイルの量を設定するのが一般的であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−173762号公報(段落〔0035〕、〔0041〕、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オイル溜りBのオイルレベルが上記位置L1以上である場合には、ロータ15の外周面とステータ13の内周面との間の空隙であるエアギャップの少なくとも一部にはオイルが浸入している状態となる。すなわち、上記特許文献1に記載の構成では、基本的にエアギャップ内にオイルが存在する状態となり、当該エアギャップにおいてオイルの粘性に起因するせん断損失が発生する。そして、特許文献1に記載の構成では、そのオイル掻き上げ機構の構造上、せん断損失を低減することは容易ではなかった。
【0006】
そこで、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を低減することが可能な駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置の特徴構成は、前記ロータと一体回転して前記オイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材を備え、前記掻き上げ部材が、前記ステータに対して軸方向一方側であって前記ステータコアの前記内周対向面より径方向外側に位置する本体部を備える点にある。
【0008】
上記の特徴構成によれば、ロータと一体回転する掻き上げ部材の本体部が、ステータに対して軸方向一方側であってステータコアの内周対向面より径方向外側に位置するため、オイル貯留部のオイルレベルがステータコアの内周対向面の最下部より低い場合でも、掻き上げ部材によりオイル貯留部のオイルを掻き上げることが容易になる。すなわち、オイル貯留部のオイルレベルが、ステータコアの内周対向面とロータの外周対向面との間の空隙であるエアギャップにオイルが浸入しないような低いレベルであっても、掻き上げ部材の本体部の少なくとも一部がオイルに浸るようなレベルであれば、適切にオイルを掻き上げることができる。従って、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部のオイルレベルを低くすることができ、エアギャップ内に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を低減することができる。また、オイル貯留部のオイルレベルはロータの回転速度に応じて変化する。そこで、少なくとも一部の回転速度域でオイルレベルがステータの内周対向面の最下部より低くなる構成とすれば、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を更に低減することができる。
【0009】
ここで、前記ステータは前記ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を備え、前記掻き上げ部材は、前記ロータの軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視で前記コイルエンド部と重なるように形成されている接続部を備え、前記本体部は、前記接続部を介して前記ロータに固定されていると好適である。
【0010】
本願では、部材の形状に関して「ある方向(以下、「対象方向」という。)に向かって延びる」、或いは、「対象方向に延びる」とは、延在方向を向くベクトルが、対象方向の成分を少しでも有する形状を含む概念として用いている。すなわち、延在方向が対象方向に平行な形状だけでなく、延在方向が対象方向に交差する方向であって交差角が直角でない方向である形状も含む。また、延在部分の各部位における延在方向は一様でなくても良く、上記の要件を満たす各部位が、延在方向が連続するように組み合わせられた形状(例えば、円弧状等の、対象方向に向かうに従って延在方向が当該対象方向とは異なる方向に向かう形状等)も含む。
【0011】
この構成によれば、ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を迂回するように掻き上げ部材を構成することができ、本体部をステータに対して軸方向一方側であってステータコアの内周対向面より径方向外側に位置させるという上記の特徴構成を適切に実現することができる。
【0012】
また、前記本体部は、前記ロータと同軸の円環状とされ、前記本体部が軸方向視で前記ステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されていると好適である。
【0013】
この構成によれば、本体部が円環状であるため、掻き上げ部材の周方向の全域でオイルを効率良く掻き上げることができる。また、本体部が軸方向視でステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されているため、回転電機の外径を拡大することなく掻き上げ部材を設けることができる。
【0014】
また、前記本体部にはオイルを掻き上げるための凹凸部が形成され、前記凹凸部は、法線ベクトルが前記ロータの主回転方向の成分を有する掻き上げ面を備えると好適である。
【0015】
本願では、「主回転方向」とは、ロータが回転可能な方向の一方を指し、好ましくは、2つの回転方向の内、使用頻度の高い方の回転方向を指す。なお、使用頻度が同一の場合には、何れの回転方向としても好適である。
【0016】
この構成によれば、ロータが主回転方向に回転する際に、凹凸部によりオイルを確実に掻き上げることができる。さらに、凹凸部が、法線ベクトルが主回転方向とは逆の方向(以下、「従回転方向」という。)の成分を有する掻き上げ面も備える場合には、ロータが従回転方向に回転する際にも、凹凸部によりオイルを確実に掻き上げることができる。なお、凹凸部が、法線ベクトルがロータの従回転方向の成分を有する掻き上げ面を備えない構成としても、オイルは本体部の凹凸部等に連れまわされる形態で掻き上げられるため大きな問題は生じない。
【0017】
また、掻き上げ面を備える凹凸部が本体部に形成されている構成において、前記掻き上げ面は、径方向に延びると共にその径方向外側端部が前記本体部の径方向外側端縁に一致していると好適である。
【0018】
この構成によれば、掻き上げ面により掻き上げたオイルを、本体部の径方向外側端縁から遠心力により径方向外側に飛ばすことができ、オイルを効率良く周囲に供給することができる。また、凹凸部にオイルが溜まり難くなることで掻き上げ部材とともに回転するオイルの量が少なく抑えられ、掻き上げ部材を回転させるために必要なエネルギを軽減することができる。よって、掻き上げ部材を設けることによる回転電機のエネルギ効率の低下を抑制することができる。
【0019】
また、前記本体部の径方向外側端縁と前記ケースの内壁面との間隙を掻き上げ隙間とし、前記オイル貯留部の最深部から前記ロータの主回転方向へ向かうに従って前記掻き上げ隙間が小さくなるように前記ケースの内壁面が形成されていると好適である。
【0020】
この構成によれば、オイル貯留部の最深部からロータの主回転方向へ向かうに従って、空気が流れる流路幅が狭くなり、空気の流速が高くなる。よって、ロータが主回転方向に回転している状態では、オイル貯留部の最深部からロータの主回転方向へ向かうに従って空気の圧力が低くなる圧力分布が得られ、オイル貯留部のオイルレベルが本体部の最下部より低い場合であっても、オイルを当該圧力分布を利用して吸引することにより掻き上げることが可能になる。よって、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部のオイルレベルを低くすることがより容易になり、エアギャップにおけるオイルのせん断損失を更に抑制することが可能となる。
【0021】
また、前記本体部が軸方向に直交する面に平行な円環板状とされ、当該本体部の軸方向一方側の面を第一面とし、軸方向他方側の面を第二面とし、前記本体部が、前記第一面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面と、前記第二面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面と、の一方又は双方を備えると好適である。
【0022】
この構成によれば、掻き上げ部材により掻き上げられたオイルが本体部から飛び出す方向を積極的に制御することができる。具体的には、第一傾斜面を設けた場合には、本体部に対して軸方向一方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができる。よって、ギヤや軸受等にオイルを供給するためのオイルを捕集するオイル捕集部が本体部に対して軸方向一方側に設けられている場合には、オイルを適切に当該オイル捕集部に供給することができる。また、第二傾斜面を設けた場合には、本体部に対して軸方向他方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができる。ここで、本体部に対して軸方向他方側にはコイルエンド部があることから、オイルを適切にコイルエンド部に供給することができ、コイルエンド部延いてはステータの冷却効果を高めることができる。
【0023】
また、前記回転電機の回転速度域の少なくとも一部において、前記オイル貯留部におけるオイルの液面高さが、前記ステータコアの前記内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように、前記ケース内に収容されるオイルの量が設定されていると好適である。
【0024】
この構成によれば、上記の状態において、エアギャップ内にオイルがほとんど存在しなくなるので、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を更に低減することができる。なお、少なくとも常用回転速度域において、オイルの液面高さが、ステータコアの内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように構成すると更に好適である。
【0025】
また、前記掻き上げ部材は、絶縁材料で形成されていると好適である。
【0026】
この構成によれば、ケースとコイルエンド部との間を絶縁するために設けられている既存の空間を有効に利用して掻き上げ部材を配置することができる。よって、掻き上げ部材を配置することによりケースが大型化するのを抑制することができる。
【0027】
また、前記掻き上げ部材は、非磁性材料で形成されていると好適である。
【0028】
この構成によれば、磁気回路に与える影響を抑制しつつ、掻き上げ部材をステータに近接して配置することができる。よって、掻き上げ部材を配置することによりケースが大型化するのを抑制することができる。
【0029】
また、前記ロータは、前記ロータコアの軸方向一方側端面に取り付けられるリテーナを備え、前記掻き上げ部材は、前記リテーナと一体的に形成されていると好適である。
【0030】
この構成によれば、部品点数の増加を抑制することができるとともに、組み付け作業を簡素なものとすることができる。なお、リテーナが樹脂等の鋳造部品である場合には、掻き上げ部材を容易にリテーナと一体的に形成することができ、掻き上げ部材を製造する工程を簡素なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る駆動装置の断面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係る第二ケース部を軸方向他方側から見た図である。
【図5】本発明の実施形態に係る掻き上げ部材を軸方向一方側から見た図である。
【図6】本発明の実施形態に係る掻き上げ部材とケースの内壁面との位置関係を説明するための説明図である。
【図7】本発明の試験例に係る試験結果を示す図である。
【図8】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図である。
【図9】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図、及び径方向外側から見た図である。
【図10】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図、及び径方向外側から見た図である。
【図11】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【図12】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【図13】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明を、電動車両やハイブリッド車両等の車両用のインホイールタイプの駆動装置(ドライブユニット)に適用した場合を例として説明する。本実施形態に係る駆動装置1は、図1に示すような回転電機2をケース3(図2参照)の内部に収容している。そして、本実施形態に係る駆動装置1は、ケース3の下部に形成されているオイル貯留部40(図2参照)に貯留されたオイルの掻き上げを行うための部材として、図1に示すような掻き上げ部材30を備えている点に特徴を有する。以下、本実施形態に係る駆動装置1の構成について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向」、「周方向」、「径方向」は、ロータ20(回転軸51)の軸心を基準として定義している。また、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向一方側」は、図2における右側を表し、「軸方向他方側」は、図2における左側を表すものとする。さらに、以下の説明では、「上」は、図1及び図2における上側を表し、「下」は、図1及び図2における下側を表すものとする。なお、図1及び図2における上下方向は、駆動装置1を車両(図示せず)に搭載した状態(以下、「車両搭載状態」という。)における上下方向(鉛直方向)と一致する。
また、以下ではいくつかの実施形態を説明するが、各々の実施形態で開示される特徴は、その実施形態のみで利用できるものではなく、矛盾が生じない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0033】
1.駆動装置の全体構成
図1は、本実施形態に係る駆動装置1が備える回転電機2の斜視図である。この回転電機2は、本実施形態では、ブラシレスDCモータからなる電気モータとされている。回転電機2は、ステータ10と、ステータ10の径方向内側に配置されるロータ20と、を備えた、インナーロータ型の回転電機とされている。なお、本発明に係る回転電機2は、ブラシレスDCモータに限らず、他の同期式又は誘導式の交流モータ、さらには直流モータを適応することができる。また、本願では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0034】
回転電機2は、ロータ20と一体回転する部材である掻き上げ部材30を備えている。詳細は後述するが、回転電機2を収容するケース3の下部にはオイルを貯留するオイル貯留部40(図2参照)が形成されている。図1には、オイル貯留部40に貯留されているオイルの液面レベルL(以下、単に「オイルレベルL」という。)の一例を概念的に示している。そして、この掻き上げ部材30が、オイル貯留部40に貯留されているオイルを掻き上げることで、オイルが駆動装置1の各部に冷却や潤滑のために供給されるように構成されている。なお、この掻き上げ部材30の詳細な構成については後述する。
【0035】
図2は、本実施形態に係る駆動装置1の断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る駆動装置1は、車両の駆動輪のホイールリム4の径方向内側に、当該ホイールリム4と軸方向に重複するように配置されたドライブユニットである。なお、本願において、2つの部材の配置に関して、ある方向に「重複」とは、2つの部材のそれぞれが、当該方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有することを指す。
【0036】
図2に示すように、駆動装置1は、回転電機2を内部に収容するためのケース3を備えている。ケース3は、懸架装置(図示せず)を介して車両の車体(図示せず)に懸架されている。また、ケース3は、第一ケース部3aと第二ケース部3bとを備えており、第一ケース部3aと第二ケース3bとは、液密状態で接合されている。第一ケース部3a及び第二ケース部3bの双方は、有底の筒状に形成されており、筒状部の軸方向視での形状は、周方向における一部の領域(後述する径方向膨出部42の形成箇所)を除いて円形状となっている(図4、図6参照)。このような第一ケース部3aや第二ケース部3bは、例えば、鋳造部品とすることができる。
【0037】
回転電機2の大部分は、第二ケース部3bの径方向内側に、当該第二ケース部3bの周壁部に径方向外側から覆われるように収容されている。具体的には、ステータ10のステータコア11が第二ケース部3bに固定されている。また、ロータ20は、回転軸51及び軸受62を介して第二ケース部3bに回転自在に支持されている。
【0038】
ステータ10は、ステータコア11とコイルエンド部13とを備えている。ステータコア11は、本例では、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とされている。詳細な説明は省くが、それぞれの電磁鋼板の外形側には、径方向外側に突出する突部が、外周を均等に3分割する位置に形成されている。そして、突部のそれぞれには円形の孔が形成されており、電磁鋼板を積層した状態では、それぞれの電磁鋼板に形成された上記突部が積層方向(軸方向に同じ)に連なり、内部に挿通孔14を有する3つの固定用突条部15が形成される。そして、ステータ10は、固定用突条部15に形成された挿通孔14に挿入されるボルト91により、第二ケース部3bに対して締結固定されている。
【0039】
図示は省略するが、ステータコア11には、軸方向及び径方向に延びる複数のスロットが、周方向に沿って所定間隔で設けられている。各スロットは互いに同じ断面形状であって、所定の幅及び深さを有して径方向内側に開口している。そして、互いに隣接するスロット間には、ティース(図示せず)が設けられている。本例では、このティースの径方向内側端面により、ステータコア11の内周対向面12(図3参照)が形成されている。また、スロットのそれぞれに巻装されたコイルにより、ステータコア11から軸方向一方側及び軸方向他方側の双方において、ステータコア11から軸方向に突出するコイルエンド部13が形成されている。
【0040】
ロータ20は、ロータコア21と、リテーナ23と、ロータハブ24とを備えている。ロータコア21は、本例では、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とされており、内部に希土類磁石等の永久磁石が埋め込まれている。そして、上記積層構造体の円筒状の外周面により、ロータコア21の外周対向面22(図3参照)が形成されている。そして、ロータ20は、図3に示すように、ステータコア11の内周対向面12がロータコア21の外周対向面22に対向するように、ステータ10の径方向内側に回転可能に配置されている。すなわち、本実施形態では、この内周対向面12と外周対向面22との間に形成される空間によりエアギャップ16が形成されている。
【0041】
リテーナ23は、本例では、ロータコア21の軸方向一方側端面及び軸方向他方側端面の双方に取り付けられている。一対のリテーナ23は、ロータコア21を構成する電磁鋼板を軸方向両側から挟持している。そして、リテーナ23により軸方向に挟持されたロータコア21は、ロータハブ24の外周面に固定支持されている。
【0042】
ロータハブ24は、ロータコア21の支持部から径方向内側に延びるフランジ部24aを有している。そして、フランジ部24aの径方向内側の端部が、回転軸51に固定されている。なお、回転軸51は、軸方向一方側の端部が軸受62を介して第二ケース部3bに回転自在に支持されているとともに、軸方向他方側の端部が軸受61を介して後述する出力軸50に回転自在に支持されている。
【0043】
ロータハブ24のフランジ部24aと第二ケース部3bとの間には、ロータ20の回転位置を検出する回転位置センサ5が設けられている。回転位置センサ5は、ロータハブ24に備えられた第一検出体5aと、第二ケース部3bに固定されるとともにコイルを備えた第二検出体5bと、を有するレゾルバにて構成されている。具体的には、第一検出体5aは、ロータハブ24のフランジ部24aに設けられた鍔部24bに備えられている。そして、回転位置センサ5は、例えば、第2検出体5bに備えたコイルに交流を流したときの第二検出体5bに対する第一検出体5aの相対角度に応じた交流電圧の位相を検出して、ロータ20の回転位置を検出する。なお、回転位置センサ5は、レゾルバに限らず、例えば、ホール素子センサ、エンコーダ、磁気式回転センサ等の各種のセンサにより構成することができる。
【0044】
ところで、第二ケース部3bには、多穴形シールコネクタ6を装着するための開口7が穿設されている。そして、回転電機2は、開口7に装着された多穴形シールコネクタ6を介して、車両(車体)内のコントローラ及びバッテリ(共に図示せず)と電気的に接続されている。具体的には、多穴形シールコネクタ6の端子とステータコア11に巻装されたコイルとが電気的に接続されている。
【0045】
回転電機2は、上記バッテリから電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能を果たすことが可能に構成されている。この際、回転電機2が発生した動力は、差動歯車装置52(詳細は後述する)と出力軸50とハブ70とを介して、ホイールリム4に伝達される。なお、出力軸50は、軸受60を介して第一ケース部3aに回転自在に支持されるとともに、第一ケース部3a側からケース3の外部に突出するように設けられている。そして、出力軸50には、ホイールリム4の固定用のハブ70がスプライン係合しており、ハブ70はナット90により出力軸50に対して抜け止め固定されている。
【0046】
また、回転電機2は、回生ブレーキとしても機能するように構成されている。この際、ハブ70と出力軸50と差動歯車装置52とを介して回転電機2に伝達された動力により、ジェネレータ(発電機)として機能する回転電機2が電力を発生し、回転電機2が発生した電力は多穴形シールコネクタ6を介して上記バッテリに供給される。
【0047】
差動歯車装置52は、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。差動歯車装置52は、ロータハブ24のフランジ部24aよりも軸方向他方側に配置されている。また、差動歯車装置52は、回転軸51の径方向外側であって、ロータコア21の径方向内側に配置されている。本例では、差動歯車装置52は、回転軸51の回転速度を減速するとともにトルクを増幅して出力軸50に伝達する減速機構であり、差動歯車装置52を構成する遊星歯車機構のサンギヤ53が入力要素、キャリヤ54が出力要素、リングギヤ55が固定要素となっている。具体的には、サンギヤ53は、回転電機2のロータ20と一体回転する回転軸51に一体的に設けられている。キャリヤ54は、出力軸50に一体的に設けられている。リングギヤ55は、第一ケース部3aに固定されている。
【0048】
キャリヤ54は、出力軸50の軸方向一方側の端部から膨出して出力軸50と一体的に形成されているキャリヤ本体54aと、キャリヤ本体54aに一体的に固定されているキャリヤカバー54bとを有する。そして、キャリヤ本体54aとキャリヤカバー54bとに亘って複数のピニオン軸54cが配設されており、複数のピニオン軸54cの夫々にニードルベアリングを介してピニオン54dが回転自在に支持されている。
【0049】
第一ケース部3aの内壁面には、外周面にスプライン歯を有するリング状部材71がボルト72により締結固定されている。リングギヤ55は、リング状部材71のスプライン歯に係合する段付き部を有している。そして、リングギヤ55は、リングギヤ55の段付き部がリング状部材71のスプライン歯に係合した状態でスナップリング73にて抜け止め係止されることで、第一ケース部3aに固定されている。
【0050】
第一ケース部3aに配設されている軸受60の軸方向他方側には、第一ケース部3aとホイールリム4固定用のハブ70とを、互いに相対回転可能な形態で液密状態で接合するためのオイルシール74が装着されている。また、多穴形シールコネクタ6の外周面と開口7の内周面との間には、シール部材としてのOリング75が配置されている。そして、上記のように、第一ケース部3aと第二ケース部3bとは、液密状態で接合されている。これにより、ケース3の内部空間は密閉状の空間になっており、ケース3下部の内部空間が、ケース3の内部に封入されているオイル(潤滑油)を貯留するオイル貯留部40を形成している。そして、オイル貯留部40のオイルレベルLに応じて、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材(以下、これらをまとめて「掻き上げ部材30等」という場合がある。)が、オイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行い、回転電機2の冷却や、ギヤ(例えば、差動歯車装置52を構成するギヤ)や軸受(例えば、軸受60〜62)の潤滑を行う。
【0051】
ところで、本実施形態では、差動歯車装置52に適切にオイルを供給すべく、オイル捕集部45が第二ケース部3bに形成されているととともに、板状部材47がボルトにより第二ケース部3bに締結固定されている。具体的には、図2及び図4に示すように、第二ケース部3bの内壁面には、軸受62を支持するボス部48が形成されている。そして、ボス部48は、その一部が切り欠かれてオイル導入口48aが形成されており、当該オイル導入口48aから図4において左右方向に延びるようにオイル捕集部45が形成されている。オイル捕集部45は、リブ状に形成されており、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルをオイル導入口48aに供給する機能を果たす。そして、オイル導入口48aに供給されたオイルは、軸受62に供給されるとともに、軸内油路49に供給される。そして、軸内油路49に供給されたオイルは、回転軸51の回転に伴う遠心力により、差動歯車装置52や軸受61に対して径方向内側から供給される。
【0052】
板状部材47は、図2に示すように第二ケース部3bに締結固定されており、ロータ20の回転に伴い掻き上げられたオイルを効率的にオイル導入口48aに導入するためのガイドとして機能する。
【0053】
また、第二ケース部3bの内壁面には、図4に示すように、掻き上げ部材30等により掻き上げたオイルをオイル捕集部45に滴下させるための滴下用リブ46が形成されている。図4には、回転電機2のロータ20が主回転方向C1に回転している場合のオイルの流れを矢印で示している。この図に示すように、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルは、矢印に示すように主回転方向C1に沿って移動し、当該オイルの少なくとも一部は、滴下用リブ46に衝突する。そして、滴下用リブ46に衝突したオイルは、オイル捕集部45へ向かって滴下する。これにより、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルを効率良くオイル捕集部45に供給することが可能となっている。
【0054】
2.掻き上げ部材の構成
次に、掻き上げ部材30の構成について詳細に説明する。掻き上げ部材30は、ロータ20と一体回転してオイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行う部材である。上記のように、ロータコア21の軸方向一方側端面及び軸方向他方側端面の双方にはリテーナ23が取り付けられている。そして、本実施形態では、図3に示すように、掻き上げ部材30は、ロータコア21の軸方向一方側端面に取り付けられたリテーナ23と一体的に形成されている。これにより、部品点数の増加を抑制することができるとともに、組み付け作業を簡素なものとすることが可能となっている。また、リテーナ23が樹脂や金属等の鋳造部品である場合には、掻き上げ部材30を容易にリテーナ23と一体的に形成することができ、掻き上げ部材30を製造する工程を簡素なものとすることができる。
【0055】
図3に示すように、本実施形態では、掻き上げ部材30は、本体部31と、当該本体部31とロータ20とを接続するための接続部32と、を備えている。言い換えれば、本体部31は、接続部32を介してロータ20に固定されている。接続部32は、ロータ20の軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視でコイルエンド部13と重なるように形成されている。このような接続部32を備えることで、ステータコア11から軸方向一方側に突出するコイルエンド部13を迂回するように、掻き上げ部材30を配置することが可能となっている。なお、本実施形態では、図3に示すように、接続部32の軸方向一方側に向かって延びる部分は、軸方向に沿って、すなわち、延在方向が軸方向と略一致するように形成されている。なお、本明細書では、部材の形状に関して「略」とは、製造誤差の範囲のずれを含む概念として用いている。
【0056】
本体部31は、ステータ10に対して軸方向一方側であって、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に配置されている。なお、上記のような接続部32を備えることで、本体部31を、ステータ10に対して軸方向一方側であって、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に適切に配置することが可能となっている。そして、このような本体部31を備えることで、オイル貯留部40のオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部より低い場合でも、掻き上げ部材30によりオイル貯留部40のオイルを掻き上げることが容易になる。すなわち、オイル貯留部40のオイルレベルが、エアギャップ16にオイルが浸入しないような低いレベルであっても、掻き上げ部材30の本体部31の少なくとも一部がオイルに浸るようなレベルであれば、適切にオイルを掻き上げることができる。これにより、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを低くすることができ、エアギャップ16の内部に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することが可能となっている。なお、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失は、エアギャップ16にオイルが存在する状態でロータ20が回転することによるエアギャップ16内のオイルのせん断に起因する損失である。
【0057】
本実施形態では、本体部31は、図1及び図5に示すように、ロータ20と同軸の円環状とされている。具体的には、図1及び図2に示すように、本体部31は、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされており、後述する凹溝34を除いて、本体部31の軸方向厚さが一定となるように構成されている。以下の説明では、図3に示すように、当該円環板状の本体部31の軸方向一方側(図3における右側)の面を第一面31aとし、軸方向他方側(図3における左側)の面を第二面31bとする。このように本体部31を円環状の部材とすることで、掻き上げ部材30の周方向の全域でオイルを効率良く掻き上げることが可能となっている。また、図2及び図3に示すように、本体部31は、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向内側に配置されている。これにより、回転電機2の外径を拡大することなく掻き上げ部材30を設けることが可能となっている。
【0058】
さらに、本実施形態では、オイルの掻き上げ効率を向上させるべく、本体部31にはオイルを掻き上げるための凹凸部33が形成されている。具体的には、凹凸部33は、図1に示すように、第一面31a及び第二面31bのそれぞれに形成された凹溝34により形成されている。本例では、凹溝34は、径方向に沿って、すなわち、延在方向が径方向と略一致するように形成されているとともに、凹溝34の径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。そして、複数の凹溝34が放射状に形成されている。なお、図1に示すように、本例では、第一面31aに形成される凹溝34と、第二面31bに形成される凹溝34とは、周方向に互いに重ならない位置に形成されている。
【0059】
図1に示すように、凹凸部33は、法線ベクトルがロータ20の主回転方向C1の成分を有する第一掻き上げ面35を備えている。本例では、第一掻き上げ面35は、法線ベクトルが主回転方向C1に略一致する。本実施形態では、この主回転方向C1は、駆動装置1が備えられる車両が前進する方向に対応する回転方向とされている。これにより、車両が前進する際に、凹凸部33の第一掻き上げ面35によりオイルを確実に掻き上げることが可能となっている。本実施形態では、第一掻き上げ面35が、本発明における「掻き上げ面」に相当する。
【0060】
また、図1に示すように、本実施形態では、凹凸部33は、法線ベクトルが主回転方向C1とは逆の方向である従回転方向C2の成分を有する第二掻き上げ面36も備えている。本例では、第二掻き上げ面36は、法線ベクトルが従回転方向C2に略一致する。これにより、車両が後進する際にも、すなわち、ロータ20が従回転方向C2に回転する際にも、凹凸部33の第二掻き上げ面36によりオイルを確実に掻き上げることが可能となっている。
【0061】
さらに、本実施形態では、上記のように、凹溝34は、径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。これにより、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方は、径方向に沿って延びるとともに、径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。言い換えると、凹溝34は、本体部31の径方向外側端縁に開口している。これにより、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36により掻き上げられたオイルを、本体部31の径方向外側端縁から遠心力により径方向外側に飛ばすことができ、オイルを効率良く周囲に供給することが可能となっている。また、凹凸部33にオイルが溜まり難くなることで掻き上げ部材30とともに回転するオイルの量が少なく抑えられ、掻き上げ部材30を回転させるために必要なエネルギを軽減することが可能となっている。これにより、掻き上げ部材30を設けることによる回転電機2のエネルギ効率の低下が抑制されている。
【0062】
ところで、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化を抑制するには、掻き上げ部材30を、ケース3とコイルエンド部13との間を絶縁するために設けられている既存の空間を有効に利用して配置できることが望ましい。この観点から、掻き上げ部材30は、絶縁材料で形成されていることが好ましい。また、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化を抑制するには、掻き上げ部材30を、磁気回路に与える影響を抑制しつつ、ステータ10に近接して配置できることが望ましい。この観点から、掻き上げ部材30は、非磁性材料で形成されていることが好ましい。本実施形態では、掻き上げ部材30は絶縁材料であるとともに非磁性材料である樹脂で形成されている。これにより、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化が抑制されている。
【0063】
3.オイルの循環機構
次に、本実施形態に係るオイルの循環機構について説明する。上記のように、駆動装置1には、ロータ20と一体回転してオイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材30が備えられている。よって、ロータ20が回転している状態では、掻き上げ部材30もロータ20とともに回転し、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材により、オイル貯留部40のオイルが掻き上げられる。そして、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルの一部はステータ10に供給され、ステータコア11やコイルエンド部13を冷却する。また、掻き上げ部材30により掻き上げられたオイルの一部は、ギヤ(例えば、差動歯車装置52を構成するギヤ)や軸受(例えば、軸受60〜62)に供給され、当該ギヤや軸受を潤滑する。
【0064】
ところで、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルは、各部の冷却や潤滑を行った後にオイル貯留部40に戻される。また、掻き上げ部材30等によるロータ20の回転に伴うオイルの掻き上げ量は、ロータ20の回転速度が高いほど多くなる。そのため、オイル貯留部40のオイルレベルLは、ロータ20の回転速度に応じて変化し、一般に、ロータ20の回転速度が高いほど低くなる。そして、オイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態では、エアギャップ16の内部にオイルがほとんど存在しなくなるので、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を大きく低減することができる。よって、回転電機2の回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置するように構成されていると好適である。
【0065】
上記の点に鑑みて、本実施形態では、ケース3の内部に収容するオイルの量を、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように設定している。ここで、少なくとも常用回転速度域において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3の内部に収容するオイルの量が設定されていると好適である。なお、掻き上げ部材30により掻き上げられたオイルが、各部の冷却や潤滑を行った後にオイル貯留部40に戻るまでの時間は、ケース3の内壁面の形状、冷却対象部材の形状、潤滑対象部材の形状、オイルの経路等に依存する。また、凹凸部33の形状によって、各回転速度域での掻き上げ量が異なる。よって、ケース3の内部に収容されるオイルの量は、これらのものを考慮した上で、オイルレベルLの設定の対象となる回転電機2の回転速度で、所望のオイルレベルLが実現される量に設定される。
【0066】
また、本実施形態では、更に、オイル貯留部40のオイルを掻き上げ部材30が掻き上げることによる損失も低減すべく、回転電機2の回転速度が高い領域で、オイルレベルLが掻き上げ部材30の本体部31の最下部より低くなるように構成されている。そして、このようにオイルレベルLが本体部31の最下部より低くなった状態でもオイルの掻き上げ量を適切に確保すべく、以下に述べるようにオイルを吸引するための構成を備えている。
【0067】
図6は、本実施形態に係る駆動装置1を軸方向一方側から見た図である。なお、図6においては、理解を容易にするため、第二ケース部3bの軸方向一方側の端壁は示さず、説明に必要な部材のみ示している。また、以下の説明では、第一ケース部3aと第二ケース部3bとを特に区別する必要がないため、これらの総称である「ケース3」を用いて説明する。
【0068】
図6に示すように、ケース3は、周方向の一部の領域において、周壁が径方向外側に膨出された径方向膨出部42を備えている。これにより、径方向膨出部42の形成箇所においては、ケース3の内壁面41も径方向外側に膨出されている。なお、径方向膨出部42は、ケース3の下部に形成されており、径方向膨出部42におけるケース3の内壁面41の一部が、オイル貯留部40の最深部43となっている。
【0069】
そして、ケース3の内壁面41は、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って、掻き上げ隙間44が小さくなるように形成されている。具体的には、オイル貯留部40の最深部43から、当該最深部43から主回転方向C1に所定の周方向距離だけ離間した周方向位置までは、掻き上げ隙間44が一様に減少し、当該周方向位置より主回転方向C1側では、掻き上げ隙間44が一様になっている。なお、掻き上げ隙間44の大きさは、本体部31の径方向外側端縁とケース3の内壁面41との径方向に沿った離間距離で表される。本例では、図6に示すように、最深部43に対応する周方向位置における掻き上げ隙間44の大きさはD1であり、掻き上げ隙間44が一様になっている周方向位置における掻き上げ隙間44の大きさはD2(<D1)となっている。
【0070】
上記のように掻き上げ隙間44が形成されているため、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って、空気が流れる流路幅が狭くなり、空気の流速が高くなる。よって、ロータ20が主回転方向C1に回転している状態では、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って空気の圧力が低くなる圧力分布が得られ、図6に示すように、オイル貯留部40のオイルレベルLが本体部31の最下部より低い場合であっても、オイルを当該圧力分布を利用して吸引することにより掻き上げることが可能となっている。これにより、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを低くすることがより容易になり、エアギャップ16におけるオイルのせん断損失を更に抑制することが可能となっている。
【0071】
4.試験例
本実施形態に係る駆動装置1におけるオイルを循環させることに伴う損失の抑制効果を確かめるため、上記実施形態の構成を有する駆動装置1を用いて試験を実施した。試験内容を以下に試験例として説明する。
【0072】
本試験では、駆動装置1の機械損失トルクの測定を行った。ここで、「機械損失トルク」とは、出力軸50を所定の回転速度で回転させる際に発生する損失をトルクで表したものであり、オイルを循環させることに伴う損失と、差動歯車装置52を構成するギヤの噛み合いに伴う損失(摩擦損失等)と、軸受60〜62における損失(摩擦損失等)と、オイルシール74における損失(摩擦損失等)とが含まれる。なお、オイルを循環させることに伴う損失には、エアギャップ16の内部に存在するオイルによるせん断損失(以下、単に「せん断損失」という。)と、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材によるオイルの掻き上げに伴う掻き上げ損失(以下、単に「掻き上げ損失」という。)とが含まれる。
【0073】
そして、本試験では、出力軸50を所定の回転速度範囲で変化させながら、機械損失トルクの測定を行った。また、比較例として、上記の掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対しても、同様の試験を行った。さらに、オイルを循環させることに伴う損失を含まない機械損失トルクを見積もるべく、上記の掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対して、ケース内にオイルを収容しない状態で、同様の試験を行った。
【0074】
なお、上記実施形態の構成を有する駆動装置1に対する試験では、ケース3の内部に収容するオイルの量を、車速が零の状態ではオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも高く、車速が所定の第一速度以上となるとオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも低くなり、車速が第一速度より大きい所定の第二速度以上となるとオイルレベルLが本体部31の最下部よりも低くなるような量に設定した。また、掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対する試験では、ケースの内部に収容するオイルの量を、車速が高い状態でもオイルレベルがステータコアの内周対向面の最下部よりも高い状態となるような量に設定した。
【0075】
図7は、上記の機械損失トルクの測定の試験結果を示す図である。図7における横軸は、出力軸50の回転速度に対応する「車速」であり、右に行くほど車速が高くなっている。なお、詳細は省略するが、試験を行った車速の範囲は、車両の通常の使用状態で想定される車速の範囲と概ね一致させた。また、図7における縦軸は「機械損失トルク」であり、上に行くほど機械損失トルクが大きくなっている。また、図7における「本発明」は、上記実施形態の構成を有する駆動装置1に対する試験結果を表し、「比較例」は、上記掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対する試験結果を表し、「オイルなし」は、上記掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対して、ケース内にオイルを収容しない状態で行った試験結果を表す。
【0076】
図7より明らかなように、「本発明」は、試験を行った車速の全範囲で、「比較例」に比べ機械損失トルクが大きく低減されていることがわかる。これは、「本発明」に対応する試験では、車速が上記所定の第一速度以上となるとオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも低くなり、せん断損失が低減されることを示している。なお、車速が高くなるにつれて機械損失トルクが全体として増加していくのは、車速の増加とともに、掻き上げ損失、差動歯車装置52を構成するギヤの噛み合いに伴う損失(摩擦損失等)、軸受60〜62における損失(摩擦損失等)、オイルシール74における損失(摩擦損失等)、及び、掻き上げ部材30の回転時の空気抵抗等が増大するためだと考えられる。
【0077】
一方、「本発明」は、「オイルなし」に比べ機械損失トルクが大きくなっている。これは、せん断損失、掻き上げ損失、及び、掻き上げ部材30の重量や空気抵抗に起因する掻き上げ部材30をロータ20と一体回転させることによる損失の分だけ機械損失トルクが大きくなっているものと考えられる。しかし、上記のように、「本発明」は、「比較例」に比べ機械損失トルクが大きく低減されており、本実施形態に係る駆動装置1によれば、せん断損失が抑制され、掻き上げ部材30を備えない従来の構成に比べ、回転電機2のエネルギ効率を向上できることが示された。
【0078】
5.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、図5に示すように、凹凸部33が、延在方向が径方向と略一致する複数の凹溝34により形成されており、これにより、径方向に延びるように形成される第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方が、延在方向が径方向と略一致するように形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、図8に示すように、凹凸部33が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向外側に向かうに従って主回転方向C1に向かうように形成された凹溝34により形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方も、延在方向が径方向外側に向かうに従って主回転方向C1に向かうように形成される。このように凹凸部33を形成することで、回転電機2が主回転方向C1に回転している状態での第一掻き上げ面35によるオイルの掻き上げ効率の向上を図ることができる。なお、図8では、本体部31の第一面31aのみを示しているが、第二面31bにも同様の凹凸部33が形成されている構成としても良いし、第一面31a及び第二面31bの何れか一方にのみ、上記のような凹溝34が形成されている構成としても良い。また、凹凸部33が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向外側に向かうに従って従回転方向C2に向かうように形成された凹溝34により形成されている構成としても好適である。さらに、凹溝34が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向に交差する方向であって直線状となるように形成されている構成としても好適である。
【0079】
(2)上記の実施形態では、凹凸部33が、本体部31の第一面31a及び第二面31bの双方に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、本体部31の第一面31a及び第二面31bの少なくとも一方に、凹凸部33が形成されていない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、何れの場合においても、図9に示すように、本体部31の径方向外側端部に凹溝38により凹凸部33が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、図9では、凹溝38を除いて、本体部31の第一面31aにも第二面31bにも凹凸部33が形成されていない場合を例として示している。このように、本体部31の径方向外側端部に凹溝38を形成することで、凹溝38の主回転方向C1側を向く側壁により第一掻き上げ面35が形成され、凹溝38の従回転方向C2側を向く側壁により第二掻き上げ面36が形成される。
【0080】
(3)上記の実施形態では、図5に示すように、凹凸部33が、延在方向が径方向と略一致する複数の凹溝34により形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、本体部31の第一面31a及び第二面31bの双方に複数の円形凹部39が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、円形凹部39の主回転方向C1側を向く内壁により第一掻き上げ面35が形成され、円形凹部39の従回転方向C2側を向く内壁により第二掻き上げ面36が形成される。なお、この場合において、本体部31の第一面31a及び第二面31bの何れか一方にのみ、円形凹部39が形成されている構成としても好適である。
【0081】
(4)上記の実施形態では、本体部31は、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされており、凹溝34を除いて、本体部31の軸方向厚さが一定となるように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、本体部31が、第一面31aの径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面37aと、第二面31bの径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面37bとの双方を備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような第一傾斜面37aを備えることで、本体部31に対して軸方向一方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができ、オイルを適切にオイル捕集部45に供給することができる。また、このような第二傾斜面37bを備えることで、本体部31に対して軸方向他方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができ、オイルを適切にコイルエンド部13に供給することができる。図示は省略するが、当然ながら、第一傾斜面37aと第二傾斜面37bとのいずれか一方のみを備える構成としても好適である。なお、図11は、掻き上げ部材30の本体部31の一部の径方向に沿って切断した断面における形状を説明するための図であり、凹凸部33は省略している。よって、この図11に示す本体部31の第一面31a及び第二面31bの少なくとも何れか一方に凹凸部33を形成した構成とすることも当然に可能である。後述する図12、図13についても同様である。
【0082】
(5)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図12に示すように、本体部31の一部の径方向に沿って切断した断面における形状が、径方向外側に向かうに従って軸方向一方側に向かうような円環状に形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0083】
(6)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図13に示すように、本体部31が、当該本体部31の径方向外側端部から軸方向一方側に突出する鍔状部82を備え、当該鍔状部82の径方向外側及び径方向内側に、それぞれ、径方向内側突部80及び径方向外側突部81が形成された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、径方向内側突部80や径方向外側突部81の主回転方向C1や従回転方向C2を向く側面を、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36とすることができる。
【0084】
(7)上記の実施形態では、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36が、径方向に延びると共にその径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁に一致している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の少なくとも一方の径方向外側端部が、本体部31の径方向外側端縁よりも径方向内側に位置する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、上記の図10に示す構成のように、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36が、径方向に延びるように形成されていない構成とすることもできる。
【0085】
(8)上記の実施形態では、本体部31の径方向外側端縁とケース3の内壁面41との間隙を掻き上げ隙間44とし、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って掻き上げ隙間44が小さくなるようにケース3の内壁面41が形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、掻き上げ隙間44の大きさが少なくともケース3の下部において周方向に一様になるようにケース3の内壁面41が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0086】
(9)上記の実施形態では、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の全域において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、回転電機2の回転速度域の全域において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも上側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている構成とすることもできる。このような構成としても、オイル掻き上げ部材30を備えない従来の構成に比べ、同じオイルレベルLにおけるオイルの掻き上げ量は多くなる。よって、必要とされるオイルの掻き上げ量が同じであれば、従来の構成よりオイルレベルLを低くすることができ、エアギャップ16に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することができる。
【0087】
(10)上記の実施形態では、本体部31が、ロータ20と同軸の円環状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、本体部20が、周方向の全域に亘って周方向に連続するように形成されておらず、周方向の少なくとも一部において、周方向に連続する部分がないように形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、軸方向視で略Cの字状になるように周方向の一部が切り欠かれている形状としたり、周方向に連続する部分を有さない複数の部材が、周方向に分散配置されるように、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材、或いはロータ20と一体回転する部材に固定されている構成とすると好適である。
【0088】
(11)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、ロータコア21の軸方向一方側端面に取り付けられているリテーナ23と一体的に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、掻き上げ部材30が、リテーナ23とは別体で形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この際、掻き上げ部材30は、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材、或いは、ロータ20と一体回転する部材に、接続構造(ボルトによる締結固定や、嵌合による固定等)を介して接続されることで、ロータ20と一体回転するように構成されていると好適である。
【0089】
(12)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、ロータ20の軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視でコイルエンド部13と重なるように形成されている接続部32を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ロータ20を構成するリテーナ23やロータハブ24、或いは、ロータ20と一体回転する部材が、径方向視でコイルエンド部13と重なる重複部分を有する場合には、接続部32を、径方向視でコイルエンド部13と重ならない形態で、当該重複部分を有する部材と本体部31とを接続するように形成する構成とすることができる。また、ロータ20を構成するリテーナ23やロータハブ24、或いは、ロータ20と一体回転する部材が、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に位置する突出部分を有する場合には、本体部31を、接続部32を介さず当該突出部分に直接固定する構成としても好適である。
【0090】
(13)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、絶縁材料であるとともに非磁性材料である樹脂で形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、掻き上げ部材30が、絶縁材料ではあるが非磁性材料ではない材料、絶縁材料ではないが非磁性材料である材料、或いは、絶縁材料でも非磁性材料でもない材料により形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成は、ケース3内に掻き上げ部材30を配置するための空間を十分に確保できる場合に、好適に実施することができる。
【0091】
(14)上記の実施形態では、掻き上げ部材30の接続部32の軸方向一方側に向かって延びる部分の延在方向が軸方向と略一致する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、軸方向一方側に向かって延びる部分の延在方向が軸方向に交差する方向となるように接続部32が構成されていても好適である。
【0092】
(15)上記の実施形態では、本体部31にオイルを掻き上げるための凹凸部33が形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本体部31に凹凸部33が形成されていない構成とすることもできる。このよな構成においても、オイルは粘性を有することから、オイルを本体部31に連れまわさせることでオイルを掻き上げることができる。
【0093】
(16)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向内側に配置されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本体部31の少なくとも一部が、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向外側に配置されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを更に低くすることができ、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することが容易となる。
【0094】
(17)上記の実施形態では、差動歯車装置52が、シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、差動歯車装置52が、ダブルピニオン型の遊星歯車機構や、互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構等のように、他の差動歯車機構を有して構成されていても好適である。また、差動歯車装置52は、3つの回転要素を有するものに限定されるものではなく、4つ以上の回転要素を有する構成としても好適である。なお、4つ以上の回転要素を有する差動歯車装置としては、例えば、2組以上の遊星歯車機構の一部の回転要素間を互いに連結した構成等を用いることができる。さらに、差動歯車装置52は、減速機構として構成されているものに限定されず、増速機構として構成されていても良い。
【0095】
(18)上記の実施形態では、ステータコア11やロータコア21が、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ステータコア11やロータコア21の少なくとも一方が、磁性材料の粉体である磁性粉体を加圧成形してなる圧粉材を主な構成要素として形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0096】
(19)上記の実施形態では、駆動装置1が車両用のインホイールタイプの駆動装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明はインホイールタイプ以外の駆動装置(ドライブユニット)にも適用可能である。すなわち、ケースの下部に形成されたオイル貯留部のオイルを、回転電機のロータの回転を利用して掻き上げる構成を有する駆動装置であれば、駆動装置が備えられる場所によらず適用可能である。また、当然ながら、本発明は、車両用以外の駆動装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともにステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、ステータコアの内周対向面がロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:駆動装置
2:回転電機
3:ケース
10:ステータ
11:ステータコア
12:内周対向面
13:コイルエンド部
20:ロータ
21:ロータコア
22:外周対向面
23:リテーナ
30:掻き上げ部材
31:本体部
31a:第一面
31b:第二面
32:接続部
33:凹凸部
35:第一掻き上げ面(掻き上げ面)
37a:第一傾斜面
37b:第二傾斜面
40:オイル貯留部
41:内壁面
43:最深部
44:掻き上げ隙間
C1:主回転方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような駆動装置の従来例として、例えば、下記の特許文献1に開示された技術がある。特許文献1に記載された構成では、ロータの回転を利用してケースの下部に貯留されたオイルを掻き上げ、回転電機の冷却や、ギヤやベアリングの潤滑を行う。具体的には、当該文献の段落〔0041〕に記載のように、ロータ15が回転した状態で、ロータ積層板15aや外周側鍔部19b等によりオイル溜りB(オイル貯留部)に貯留されたオイルが掻き上げられる構成となっている。これにより、オイルポンプによりオイルを循環させる構成に比べ、駆動装置の小型化、単純化、及び低コスト化が可能となっている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の構成では、当該文献の図2に示されるように、外周側鍔部19bの径方向外側端面より径方向外側に、ロータ積層板15aの径方向外側端面が位置する。そして、オイル溜りBのオイルレベルは、当該文献の〔0035〕に記載のように、ロータ15の外周面が僅かに浸る位置L1と、外周側鍔部19bが浸る位置L2との間で変化する。なお、このような構成では、必要な量のオイルがロータ積層板15a等により確実に掻き上げられるようにすべく、ロータ15が高速回転している状態でもオイル溜りBのオイルレベルが上記位置L1より下がらないように、ケース内を循環させるオイルの量を設定するのが一般的であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−173762号公報(段落〔0035〕、〔0041〕、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オイル溜りBのオイルレベルが上記位置L1以上である場合には、ロータ15の外周面とステータ13の内周面との間の空隙であるエアギャップの少なくとも一部にはオイルが浸入している状態となる。すなわち、上記特許文献1に記載の構成では、基本的にエアギャップ内にオイルが存在する状態となり、当該エアギャップにおいてオイルの粘性に起因するせん断損失が発生する。そして、特許文献1に記載の構成では、そのオイル掻き上げ機構の構造上、せん断損失を低減することは容易ではなかった。
【0006】
そこで、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を低減することが可能な駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置の特徴構成は、前記ロータと一体回転して前記オイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材を備え、前記掻き上げ部材が、前記ステータに対して軸方向一方側であって前記ステータコアの前記内周対向面より径方向外側に位置する本体部を備える点にある。
【0008】
上記の特徴構成によれば、ロータと一体回転する掻き上げ部材の本体部が、ステータに対して軸方向一方側であってステータコアの内周対向面より径方向外側に位置するため、オイル貯留部のオイルレベルがステータコアの内周対向面の最下部より低い場合でも、掻き上げ部材によりオイル貯留部のオイルを掻き上げることが容易になる。すなわち、オイル貯留部のオイルレベルが、ステータコアの内周対向面とロータの外周対向面との間の空隙であるエアギャップにオイルが浸入しないような低いレベルであっても、掻き上げ部材の本体部の少なくとも一部がオイルに浸るようなレベルであれば、適切にオイルを掻き上げることができる。従って、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部のオイルレベルを低くすることができ、エアギャップ内に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を低減することができる。また、オイル貯留部のオイルレベルはロータの回転速度に応じて変化する。そこで、少なくとも一部の回転速度域でオイルレベルがステータの内周対向面の最下部より低くなる構成とすれば、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を更に低減することができる。
【0009】
ここで、前記ステータは前記ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を備え、前記掻き上げ部材は、前記ロータの軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視で前記コイルエンド部と重なるように形成されている接続部を備え、前記本体部は、前記接続部を介して前記ロータに固定されていると好適である。
【0010】
本願では、部材の形状に関して「ある方向(以下、「対象方向」という。)に向かって延びる」、或いは、「対象方向に延びる」とは、延在方向を向くベクトルが、対象方向の成分を少しでも有する形状を含む概念として用いている。すなわち、延在方向が対象方向に平行な形状だけでなく、延在方向が対象方向に交差する方向であって交差角が直角でない方向である形状も含む。また、延在部分の各部位における延在方向は一様でなくても良く、上記の要件を満たす各部位が、延在方向が連続するように組み合わせられた形状(例えば、円弧状等の、対象方向に向かうに従って延在方向が当該対象方向とは異なる方向に向かう形状等)も含む。
【0011】
この構成によれば、ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を迂回するように掻き上げ部材を構成することができ、本体部をステータに対して軸方向一方側であってステータコアの内周対向面より径方向外側に位置させるという上記の特徴構成を適切に実現することができる。
【0012】
また、前記本体部は、前記ロータと同軸の円環状とされ、前記本体部が軸方向視で前記ステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されていると好適である。
【0013】
この構成によれば、本体部が円環状であるため、掻き上げ部材の周方向の全域でオイルを効率良く掻き上げることができる。また、本体部が軸方向視でステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されているため、回転電機の外径を拡大することなく掻き上げ部材を設けることができる。
【0014】
また、前記本体部にはオイルを掻き上げるための凹凸部が形成され、前記凹凸部は、法線ベクトルが前記ロータの主回転方向の成分を有する掻き上げ面を備えると好適である。
【0015】
本願では、「主回転方向」とは、ロータが回転可能な方向の一方を指し、好ましくは、2つの回転方向の内、使用頻度の高い方の回転方向を指す。なお、使用頻度が同一の場合には、何れの回転方向としても好適である。
【0016】
この構成によれば、ロータが主回転方向に回転する際に、凹凸部によりオイルを確実に掻き上げることができる。さらに、凹凸部が、法線ベクトルが主回転方向とは逆の方向(以下、「従回転方向」という。)の成分を有する掻き上げ面も備える場合には、ロータが従回転方向に回転する際にも、凹凸部によりオイルを確実に掻き上げることができる。なお、凹凸部が、法線ベクトルがロータの従回転方向の成分を有する掻き上げ面を備えない構成としても、オイルは本体部の凹凸部等に連れまわされる形態で掻き上げられるため大きな問題は生じない。
【0017】
また、掻き上げ面を備える凹凸部が本体部に形成されている構成において、前記掻き上げ面は、径方向に延びると共にその径方向外側端部が前記本体部の径方向外側端縁に一致していると好適である。
【0018】
この構成によれば、掻き上げ面により掻き上げたオイルを、本体部の径方向外側端縁から遠心力により径方向外側に飛ばすことができ、オイルを効率良く周囲に供給することができる。また、凹凸部にオイルが溜まり難くなることで掻き上げ部材とともに回転するオイルの量が少なく抑えられ、掻き上げ部材を回転させるために必要なエネルギを軽減することができる。よって、掻き上げ部材を設けることによる回転電機のエネルギ効率の低下を抑制することができる。
【0019】
また、前記本体部の径方向外側端縁と前記ケースの内壁面との間隙を掻き上げ隙間とし、前記オイル貯留部の最深部から前記ロータの主回転方向へ向かうに従って前記掻き上げ隙間が小さくなるように前記ケースの内壁面が形成されていると好適である。
【0020】
この構成によれば、オイル貯留部の最深部からロータの主回転方向へ向かうに従って、空気が流れる流路幅が狭くなり、空気の流速が高くなる。よって、ロータが主回転方向に回転している状態では、オイル貯留部の最深部からロータの主回転方向へ向かうに従って空気の圧力が低くなる圧力分布が得られ、オイル貯留部のオイルレベルが本体部の最下部より低い場合であっても、オイルを当該圧力分布を利用して吸引することにより掻き上げることが可能になる。よって、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部のオイルレベルを低くすることがより容易になり、エアギャップにおけるオイルのせん断損失を更に抑制することが可能となる。
【0021】
また、前記本体部が軸方向に直交する面に平行な円環板状とされ、当該本体部の軸方向一方側の面を第一面とし、軸方向他方側の面を第二面とし、前記本体部が、前記第一面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面と、前記第二面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面と、の一方又は双方を備えると好適である。
【0022】
この構成によれば、掻き上げ部材により掻き上げられたオイルが本体部から飛び出す方向を積極的に制御することができる。具体的には、第一傾斜面を設けた場合には、本体部に対して軸方向一方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができる。よって、ギヤや軸受等にオイルを供給するためのオイルを捕集するオイル捕集部が本体部に対して軸方向一方側に設けられている場合には、オイルを適切に当該オイル捕集部に供給することができる。また、第二傾斜面を設けた場合には、本体部に対して軸方向他方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができる。ここで、本体部に対して軸方向他方側にはコイルエンド部があることから、オイルを適切にコイルエンド部に供給することができ、コイルエンド部延いてはステータの冷却効果を高めることができる。
【0023】
また、前記回転電機の回転速度域の少なくとも一部において、前記オイル貯留部におけるオイルの液面高さが、前記ステータコアの前記内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように、前記ケース内に収容されるオイルの量が設定されていると好適である。
【0024】
この構成によれば、上記の状態において、エアギャップ内にオイルがほとんど存在しなくなるので、エアギャップに存在するオイルによるせん断損失を更に低減することができる。なお、少なくとも常用回転速度域において、オイルの液面高さが、ステータコアの内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように構成すると更に好適である。
【0025】
また、前記掻き上げ部材は、絶縁材料で形成されていると好適である。
【0026】
この構成によれば、ケースとコイルエンド部との間を絶縁するために設けられている既存の空間を有効に利用して掻き上げ部材を配置することができる。よって、掻き上げ部材を配置することによりケースが大型化するのを抑制することができる。
【0027】
また、前記掻き上げ部材は、非磁性材料で形成されていると好適である。
【0028】
この構成によれば、磁気回路に与える影響を抑制しつつ、掻き上げ部材をステータに近接して配置することができる。よって、掻き上げ部材を配置することによりケースが大型化するのを抑制することができる。
【0029】
また、前記ロータは、前記ロータコアの軸方向一方側端面に取り付けられるリテーナを備え、前記掻き上げ部材は、前記リテーナと一体的に形成されていると好適である。
【0030】
この構成によれば、部品点数の増加を抑制することができるとともに、組み付け作業を簡素なものとすることができる。なお、リテーナが樹脂等の鋳造部品である場合には、掻き上げ部材を容易にリテーナと一体的に形成することができ、掻き上げ部材を製造する工程を簡素なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る駆動装置の断面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係る第二ケース部を軸方向他方側から見た図である。
【図5】本発明の実施形態に係る掻き上げ部材を軸方向一方側から見た図である。
【図6】本発明の実施形態に係る掻き上げ部材とケースの内壁面との位置関係を説明するための説明図である。
【図7】本発明の試験例に係る試験結果を示す図である。
【図8】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図である。
【図9】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図、及び径方向外側から見た図である。
【図10】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の本体部の一部を軸方向一方側から見た図、及び径方向外側から見た図である。
【図11】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【図12】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【図13】本発明の別実施形態に係る掻き上げ部材の一部の径方向に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明を、電動車両やハイブリッド車両等の車両用のインホイールタイプの駆動装置(ドライブユニット)に適用した場合を例として説明する。本実施形態に係る駆動装置1は、図1に示すような回転電機2をケース3(図2参照)の内部に収容している。そして、本実施形態に係る駆動装置1は、ケース3の下部に形成されているオイル貯留部40(図2参照)に貯留されたオイルの掻き上げを行うための部材として、図1に示すような掻き上げ部材30を備えている点に特徴を有する。以下、本実施形態に係る駆動装置1の構成について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向」、「周方向」、「径方向」は、ロータ20(回転軸51)の軸心を基準として定義している。また、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向一方側」は、図2における右側を表し、「軸方向他方側」は、図2における左側を表すものとする。さらに、以下の説明では、「上」は、図1及び図2における上側を表し、「下」は、図1及び図2における下側を表すものとする。なお、図1及び図2における上下方向は、駆動装置1を車両(図示せず)に搭載した状態(以下、「車両搭載状態」という。)における上下方向(鉛直方向)と一致する。
また、以下ではいくつかの実施形態を説明するが、各々の実施形態で開示される特徴は、その実施形態のみで利用できるものではなく、矛盾が生じない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0033】
1.駆動装置の全体構成
図1は、本実施形態に係る駆動装置1が備える回転電機2の斜視図である。この回転電機2は、本実施形態では、ブラシレスDCモータからなる電気モータとされている。回転電機2は、ステータ10と、ステータ10の径方向内側に配置されるロータ20と、を備えた、インナーロータ型の回転電機とされている。なお、本発明に係る回転電機2は、ブラシレスDCモータに限らず、他の同期式又は誘導式の交流モータ、さらには直流モータを適応することができる。また、本願では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0034】
回転電機2は、ロータ20と一体回転する部材である掻き上げ部材30を備えている。詳細は後述するが、回転電機2を収容するケース3の下部にはオイルを貯留するオイル貯留部40(図2参照)が形成されている。図1には、オイル貯留部40に貯留されているオイルの液面レベルL(以下、単に「オイルレベルL」という。)の一例を概念的に示している。そして、この掻き上げ部材30が、オイル貯留部40に貯留されているオイルを掻き上げることで、オイルが駆動装置1の各部に冷却や潤滑のために供給されるように構成されている。なお、この掻き上げ部材30の詳細な構成については後述する。
【0035】
図2は、本実施形態に係る駆動装置1の断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る駆動装置1は、車両の駆動輪のホイールリム4の径方向内側に、当該ホイールリム4と軸方向に重複するように配置されたドライブユニットである。なお、本願において、2つの部材の配置に関して、ある方向に「重複」とは、2つの部材のそれぞれが、当該方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有することを指す。
【0036】
図2に示すように、駆動装置1は、回転電機2を内部に収容するためのケース3を備えている。ケース3は、懸架装置(図示せず)を介して車両の車体(図示せず)に懸架されている。また、ケース3は、第一ケース部3aと第二ケース部3bとを備えており、第一ケース部3aと第二ケース3bとは、液密状態で接合されている。第一ケース部3a及び第二ケース部3bの双方は、有底の筒状に形成されており、筒状部の軸方向視での形状は、周方向における一部の領域(後述する径方向膨出部42の形成箇所)を除いて円形状となっている(図4、図6参照)。このような第一ケース部3aや第二ケース部3bは、例えば、鋳造部品とすることができる。
【0037】
回転電機2の大部分は、第二ケース部3bの径方向内側に、当該第二ケース部3bの周壁部に径方向外側から覆われるように収容されている。具体的には、ステータ10のステータコア11が第二ケース部3bに固定されている。また、ロータ20は、回転軸51及び軸受62を介して第二ケース部3bに回転自在に支持されている。
【0038】
ステータ10は、ステータコア11とコイルエンド部13とを備えている。ステータコア11は、本例では、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とされている。詳細な説明は省くが、それぞれの電磁鋼板の外形側には、径方向外側に突出する突部が、外周を均等に3分割する位置に形成されている。そして、突部のそれぞれには円形の孔が形成されており、電磁鋼板を積層した状態では、それぞれの電磁鋼板に形成された上記突部が積層方向(軸方向に同じ)に連なり、内部に挿通孔14を有する3つの固定用突条部15が形成される。そして、ステータ10は、固定用突条部15に形成された挿通孔14に挿入されるボルト91により、第二ケース部3bに対して締結固定されている。
【0039】
図示は省略するが、ステータコア11には、軸方向及び径方向に延びる複数のスロットが、周方向に沿って所定間隔で設けられている。各スロットは互いに同じ断面形状であって、所定の幅及び深さを有して径方向内側に開口している。そして、互いに隣接するスロット間には、ティース(図示せず)が設けられている。本例では、このティースの径方向内側端面により、ステータコア11の内周対向面12(図3参照)が形成されている。また、スロットのそれぞれに巻装されたコイルにより、ステータコア11から軸方向一方側及び軸方向他方側の双方において、ステータコア11から軸方向に突出するコイルエンド部13が形成されている。
【0040】
ロータ20は、ロータコア21と、リテーナ23と、ロータハブ24とを備えている。ロータコア21は、本例では、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とされており、内部に希土類磁石等の永久磁石が埋め込まれている。そして、上記積層構造体の円筒状の外周面により、ロータコア21の外周対向面22(図3参照)が形成されている。そして、ロータ20は、図3に示すように、ステータコア11の内周対向面12がロータコア21の外周対向面22に対向するように、ステータ10の径方向内側に回転可能に配置されている。すなわち、本実施形態では、この内周対向面12と外周対向面22との間に形成される空間によりエアギャップ16が形成されている。
【0041】
リテーナ23は、本例では、ロータコア21の軸方向一方側端面及び軸方向他方側端面の双方に取り付けられている。一対のリテーナ23は、ロータコア21を構成する電磁鋼板を軸方向両側から挟持している。そして、リテーナ23により軸方向に挟持されたロータコア21は、ロータハブ24の外周面に固定支持されている。
【0042】
ロータハブ24は、ロータコア21の支持部から径方向内側に延びるフランジ部24aを有している。そして、フランジ部24aの径方向内側の端部が、回転軸51に固定されている。なお、回転軸51は、軸方向一方側の端部が軸受62を介して第二ケース部3bに回転自在に支持されているとともに、軸方向他方側の端部が軸受61を介して後述する出力軸50に回転自在に支持されている。
【0043】
ロータハブ24のフランジ部24aと第二ケース部3bとの間には、ロータ20の回転位置を検出する回転位置センサ5が設けられている。回転位置センサ5は、ロータハブ24に備えられた第一検出体5aと、第二ケース部3bに固定されるとともにコイルを備えた第二検出体5bと、を有するレゾルバにて構成されている。具体的には、第一検出体5aは、ロータハブ24のフランジ部24aに設けられた鍔部24bに備えられている。そして、回転位置センサ5は、例えば、第2検出体5bに備えたコイルに交流を流したときの第二検出体5bに対する第一検出体5aの相対角度に応じた交流電圧の位相を検出して、ロータ20の回転位置を検出する。なお、回転位置センサ5は、レゾルバに限らず、例えば、ホール素子センサ、エンコーダ、磁気式回転センサ等の各種のセンサにより構成することができる。
【0044】
ところで、第二ケース部3bには、多穴形シールコネクタ6を装着するための開口7が穿設されている。そして、回転電機2は、開口7に装着された多穴形シールコネクタ6を介して、車両(車体)内のコントローラ及びバッテリ(共に図示せず)と電気的に接続されている。具体的には、多穴形シールコネクタ6の端子とステータコア11に巻装されたコイルとが電気的に接続されている。
【0045】
回転電機2は、上記バッテリから電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能を果たすことが可能に構成されている。この際、回転電機2が発生した動力は、差動歯車装置52(詳細は後述する)と出力軸50とハブ70とを介して、ホイールリム4に伝達される。なお、出力軸50は、軸受60を介して第一ケース部3aに回転自在に支持されるとともに、第一ケース部3a側からケース3の外部に突出するように設けられている。そして、出力軸50には、ホイールリム4の固定用のハブ70がスプライン係合しており、ハブ70はナット90により出力軸50に対して抜け止め固定されている。
【0046】
また、回転電機2は、回生ブレーキとしても機能するように構成されている。この際、ハブ70と出力軸50と差動歯車装置52とを介して回転電機2に伝達された動力により、ジェネレータ(発電機)として機能する回転電機2が電力を発生し、回転電機2が発生した電力は多穴形シールコネクタ6を介して上記バッテリに供給される。
【0047】
差動歯車装置52は、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。差動歯車装置52は、ロータハブ24のフランジ部24aよりも軸方向他方側に配置されている。また、差動歯車装置52は、回転軸51の径方向外側であって、ロータコア21の径方向内側に配置されている。本例では、差動歯車装置52は、回転軸51の回転速度を減速するとともにトルクを増幅して出力軸50に伝達する減速機構であり、差動歯車装置52を構成する遊星歯車機構のサンギヤ53が入力要素、キャリヤ54が出力要素、リングギヤ55が固定要素となっている。具体的には、サンギヤ53は、回転電機2のロータ20と一体回転する回転軸51に一体的に設けられている。キャリヤ54は、出力軸50に一体的に設けられている。リングギヤ55は、第一ケース部3aに固定されている。
【0048】
キャリヤ54は、出力軸50の軸方向一方側の端部から膨出して出力軸50と一体的に形成されているキャリヤ本体54aと、キャリヤ本体54aに一体的に固定されているキャリヤカバー54bとを有する。そして、キャリヤ本体54aとキャリヤカバー54bとに亘って複数のピニオン軸54cが配設されており、複数のピニオン軸54cの夫々にニードルベアリングを介してピニオン54dが回転自在に支持されている。
【0049】
第一ケース部3aの内壁面には、外周面にスプライン歯を有するリング状部材71がボルト72により締結固定されている。リングギヤ55は、リング状部材71のスプライン歯に係合する段付き部を有している。そして、リングギヤ55は、リングギヤ55の段付き部がリング状部材71のスプライン歯に係合した状態でスナップリング73にて抜け止め係止されることで、第一ケース部3aに固定されている。
【0050】
第一ケース部3aに配設されている軸受60の軸方向他方側には、第一ケース部3aとホイールリム4固定用のハブ70とを、互いに相対回転可能な形態で液密状態で接合するためのオイルシール74が装着されている。また、多穴形シールコネクタ6の外周面と開口7の内周面との間には、シール部材としてのOリング75が配置されている。そして、上記のように、第一ケース部3aと第二ケース部3bとは、液密状態で接合されている。これにより、ケース3の内部空間は密閉状の空間になっており、ケース3下部の内部空間が、ケース3の内部に封入されているオイル(潤滑油)を貯留するオイル貯留部40を形成している。そして、オイル貯留部40のオイルレベルLに応じて、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材(以下、これらをまとめて「掻き上げ部材30等」という場合がある。)が、オイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行い、回転電機2の冷却や、ギヤ(例えば、差動歯車装置52を構成するギヤ)や軸受(例えば、軸受60〜62)の潤滑を行う。
【0051】
ところで、本実施形態では、差動歯車装置52に適切にオイルを供給すべく、オイル捕集部45が第二ケース部3bに形成されているととともに、板状部材47がボルトにより第二ケース部3bに締結固定されている。具体的には、図2及び図4に示すように、第二ケース部3bの内壁面には、軸受62を支持するボス部48が形成されている。そして、ボス部48は、その一部が切り欠かれてオイル導入口48aが形成されており、当該オイル導入口48aから図4において左右方向に延びるようにオイル捕集部45が形成されている。オイル捕集部45は、リブ状に形成されており、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルをオイル導入口48aに供給する機能を果たす。そして、オイル導入口48aに供給されたオイルは、軸受62に供給されるとともに、軸内油路49に供給される。そして、軸内油路49に供給されたオイルは、回転軸51の回転に伴う遠心力により、差動歯車装置52や軸受61に対して径方向内側から供給される。
【0052】
板状部材47は、図2に示すように第二ケース部3bに締結固定されており、ロータ20の回転に伴い掻き上げられたオイルを効率的にオイル導入口48aに導入するためのガイドとして機能する。
【0053】
また、第二ケース部3bの内壁面には、図4に示すように、掻き上げ部材30等により掻き上げたオイルをオイル捕集部45に滴下させるための滴下用リブ46が形成されている。図4には、回転電機2のロータ20が主回転方向C1に回転している場合のオイルの流れを矢印で示している。この図に示すように、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルは、矢印に示すように主回転方向C1に沿って移動し、当該オイルの少なくとも一部は、滴下用リブ46に衝突する。そして、滴下用リブ46に衝突したオイルは、オイル捕集部45へ向かって滴下する。これにより、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルを効率良くオイル捕集部45に供給することが可能となっている。
【0054】
2.掻き上げ部材の構成
次に、掻き上げ部材30の構成について詳細に説明する。掻き上げ部材30は、ロータ20と一体回転してオイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行う部材である。上記のように、ロータコア21の軸方向一方側端面及び軸方向他方側端面の双方にはリテーナ23が取り付けられている。そして、本実施形態では、図3に示すように、掻き上げ部材30は、ロータコア21の軸方向一方側端面に取り付けられたリテーナ23と一体的に形成されている。これにより、部品点数の増加を抑制することができるとともに、組み付け作業を簡素なものとすることが可能となっている。また、リテーナ23が樹脂や金属等の鋳造部品である場合には、掻き上げ部材30を容易にリテーナ23と一体的に形成することができ、掻き上げ部材30を製造する工程を簡素なものとすることができる。
【0055】
図3に示すように、本実施形態では、掻き上げ部材30は、本体部31と、当該本体部31とロータ20とを接続するための接続部32と、を備えている。言い換えれば、本体部31は、接続部32を介してロータ20に固定されている。接続部32は、ロータ20の軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視でコイルエンド部13と重なるように形成されている。このような接続部32を備えることで、ステータコア11から軸方向一方側に突出するコイルエンド部13を迂回するように、掻き上げ部材30を配置することが可能となっている。なお、本実施形態では、図3に示すように、接続部32の軸方向一方側に向かって延びる部分は、軸方向に沿って、すなわち、延在方向が軸方向と略一致するように形成されている。なお、本明細書では、部材の形状に関して「略」とは、製造誤差の範囲のずれを含む概念として用いている。
【0056】
本体部31は、ステータ10に対して軸方向一方側であって、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に配置されている。なお、上記のような接続部32を備えることで、本体部31を、ステータ10に対して軸方向一方側であって、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に適切に配置することが可能となっている。そして、このような本体部31を備えることで、オイル貯留部40のオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部より低い場合でも、掻き上げ部材30によりオイル貯留部40のオイルを掻き上げることが容易になる。すなわち、オイル貯留部40のオイルレベルが、エアギャップ16にオイルが浸入しないような低いレベルであっても、掻き上げ部材30の本体部31の少なくとも一部がオイルに浸るようなレベルであれば、適切にオイルを掻き上げることができる。これにより、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを低くすることができ、エアギャップ16の内部に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することが可能となっている。なお、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失は、エアギャップ16にオイルが存在する状態でロータ20が回転することによるエアギャップ16内のオイルのせん断に起因する損失である。
【0057】
本実施形態では、本体部31は、図1及び図5に示すように、ロータ20と同軸の円環状とされている。具体的には、図1及び図2に示すように、本体部31は、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされており、後述する凹溝34を除いて、本体部31の軸方向厚さが一定となるように構成されている。以下の説明では、図3に示すように、当該円環板状の本体部31の軸方向一方側(図3における右側)の面を第一面31aとし、軸方向他方側(図3における左側)の面を第二面31bとする。このように本体部31を円環状の部材とすることで、掻き上げ部材30の周方向の全域でオイルを効率良く掻き上げることが可能となっている。また、図2及び図3に示すように、本体部31は、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向内側に配置されている。これにより、回転電機2の外径を拡大することなく掻き上げ部材30を設けることが可能となっている。
【0058】
さらに、本実施形態では、オイルの掻き上げ効率を向上させるべく、本体部31にはオイルを掻き上げるための凹凸部33が形成されている。具体的には、凹凸部33は、図1に示すように、第一面31a及び第二面31bのそれぞれに形成された凹溝34により形成されている。本例では、凹溝34は、径方向に沿って、すなわち、延在方向が径方向と略一致するように形成されているとともに、凹溝34の径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。そして、複数の凹溝34が放射状に形成されている。なお、図1に示すように、本例では、第一面31aに形成される凹溝34と、第二面31bに形成される凹溝34とは、周方向に互いに重ならない位置に形成されている。
【0059】
図1に示すように、凹凸部33は、法線ベクトルがロータ20の主回転方向C1の成分を有する第一掻き上げ面35を備えている。本例では、第一掻き上げ面35は、法線ベクトルが主回転方向C1に略一致する。本実施形態では、この主回転方向C1は、駆動装置1が備えられる車両が前進する方向に対応する回転方向とされている。これにより、車両が前進する際に、凹凸部33の第一掻き上げ面35によりオイルを確実に掻き上げることが可能となっている。本実施形態では、第一掻き上げ面35が、本発明における「掻き上げ面」に相当する。
【0060】
また、図1に示すように、本実施形態では、凹凸部33は、法線ベクトルが主回転方向C1とは逆の方向である従回転方向C2の成分を有する第二掻き上げ面36も備えている。本例では、第二掻き上げ面36は、法線ベクトルが従回転方向C2に略一致する。これにより、車両が後進する際にも、すなわち、ロータ20が従回転方向C2に回転する際にも、凹凸部33の第二掻き上げ面36によりオイルを確実に掻き上げることが可能となっている。
【0061】
さらに、本実施形態では、上記のように、凹溝34は、径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。これにより、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方は、径方向に沿って延びるとともに、径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁と一致するように形成されている。言い換えると、凹溝34は、本体部31の径方向外側端縁に開口している。これにより、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36により掻き上げられたオイルを、本体部31の径方向外側端縁から遠心力により径方向外側に飛ばすことができ、オイルを効率良く周囲に供給することが可能となっている。また、凹凸部33にオイルが溜まり難くなることで掻き上げ部材30とともに回転するオイルの量が少なく抑えられ、掻き上げ部材30を回転させるために必要なエネルギを軽減することが可能となっている。これにより、掻き上げ部材30を設けることによる回転電機2のエネルギ効率の低下が抑制されている。
【0062】
ところで、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化を抑制するには、掻き上げ部材30を、ケース3とコイルエンド部13との間を絶縁するために設けられている既存の空間を有効に利用して配置できることが望ましい。この観点から、掻き上げ部材30は、絶縁材料で形成されていることが好ましい。また、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化を抑制するには、掻き上げ部材30を、磁気回路に与える影響を抑制しつつ、ステータ10に近接して配置できることが望ましい。この観点から、掻き上げ部材30は、非磁性材料で形成されていることが好ましい。本実施形態では、掻き上げ部材30は絶縁材料であるとともに非磁性材料である樹脂で形成されている。これにより、掻き上げ部材30を配置することによるケース3の大型化が抑制されている。
【0063】
3.オイルの循環機構
次に、本実施形態に係るオイルの循環機構について説明する。上記のように、駆動装置1には、ロータ20と一体回転してオイル貯留部40に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材30が備えられている。よって、ロータ20が回転している状態では、掻き上げ部材30もロータ20とともに回転し、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材により、オイル貯留部40のオイルが掻き上げられる。そして、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルの一部はステータ10に供給され、ステータコア11やコイルエンド部13を冷却する。また、掻き上げ部材30により掻き上げられたオイルの一部は、ギヤ(例えば、差動歯車装置52を構成するギヤ)や軸受(例えば、軸受60〜62)に供給され、当該ギヤや軸受を潤滑する。
【0064】
ところで、掻き上げ部材30等により掻き上げられたオイルは、各部の冷却や潤滑を行った後にオイル貯留部40に戻される。また、掻き上げ部材30等によるロータ20の回転に伴うオイルの掻き上げ量は、ロータ20の回転速度が高いほど多くなる。そのため、オイル貯留部40のオイルレベルLは、ロータ20の回転速度に応じて変化し、一般に、ロータ20の回転速度が高いほど低くなる。そして、オイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態では、エアギャップ16の内部にオイルがほとんど存在しなくなるので、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を大きく低減することができる。よって、回転電機2の回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置するように構成されていると好適である。
【0065】
上記の点に鑑みて、本実施形態では、ケース3の内部に収容するオイルの量を、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように設定している。ここで、少なくとも常用回転速度域において、オイル貯留部40におけるオイルレベルLが、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3の内部に収容するオイルの量が設定されていると好適である。なお、掻き上げ部材30により掻き上げられたオイルが、各部の冷却や潤滑を行った後にオイル貯留部40に戻るまでの時間は、ケース3の内壁面の形状、冷却対象部材の形状、潤滑対象部材の形状、オイルの経路等に依存する。また、凹凸部33の形状によって、各回転速度域での掻き上げ量が異なる。よって、ケース3の内部に収容されるオイルの量は、これらのものを考慮した上で、オイルレベルLの設定の対象となる回転電機2の回転速度で、所望のオイルレベルLが実現される量に設定される。
【0066】
また、本実施形態では、更に、オイル貯留部40のオイルを掻き上げ部材30が掻き上げることによる損失も低減すべく、回転電機2の回転速度が高い領域で、オイルレベルLが掻き上げ部材30の本体部31の最下部より低くなるように構成されている。そして、このようにオイルレベルLが本体部31の最下部より低くなった状態でもオイルの掻き上げ量を適切に確保すべく、以下に述べるようにオイルを吸引するための構成を備えている。
【0067】
図6は、本実施形態に係る駆動装置1を軸方向一方側から見た図である。なお、図6においては、理解を容易にするため、第二ケース部3bの軸方向一方側の端壁は示さず、説明に必要な部材のみ示している。また、以下の説明では、第一ケース部3aと第二ケース部3bとを特に区別する必要がないため、これらの総称である「ケース3」を用いて説明する。
【0068】
図6に示すように、ケース3は、周方向の一部の領域において、周壁が径方向外側に膨出された径方向膨出部42を備えている。これにより、径方向膨出部42の形成箇所においては、ケース3の内壁面41も径方向外側に膨出されている。なお、径方向膨出部42は、ケース3の下部に形成されており、径方向膨出部42におけるケース3の内壁面41の一部が、オイル貯留部40の最深部43となっている。
【0069】
そして、ケース3の内壁面41は、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って、掻き上げ隙間44が小さくなるように形成されている。具体的には、オイル貯留部40の最深部43から、当該最深部43から主回転方向C1に所定の周方向距離だけ離間した周方向位置までは、掻き上げ隙間44が一様に減少し、当該周方向位置より主回転方向C1側では、掻き上げ隙間44が一様になっている。なお、掻き上げ隙間44の大きさは、本体部31の径方向外側端縁とケース3の内壁面41との径方向に沿った離間距離で表される。本例では、図6に示すように、最深部43に対応する周方向位置における掻き上げ隙間44の大きさはD1であり、掻き上げ隙間44が一様になっている周方向位置における掻き上げ隙間44の大きさはD2(<D1)となっている。
【0070】
上記のように掻き上げ隙間44が形成されているため、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って、空気が流れる流路幅が狭くなり、空気の流速が高くなる。よって、ロータ20が主回転方向C1に回転している状態では、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って空気の圧力が低くなる圧力分布が得られ、図6に示すように、オイル貯留部40のオイルレベルLが本体部31の最下部より低い場合であっても、オイルを当該圧力分布を利用して吸引することにより掻き上げることが可能となっている。これにより、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを低くすることがより容易になり、エアギャップ16におけるオイルのせん断損失を更に抑制することが可能となっている。
【0071】
4.試験例
本実施形態に係る駆動装置1におけるオイルを循環させることに伴う損失の抑制効果を確かめるため、上記実施形態の構成を有する駆動装置1を用いて試験を実施した。試験内容を以下に試験例として説明する。
【0072】
本試験では、駆動装置1の機械損失トルクの測定を行った。ここで、「機械損失トルク」とは、出力軸50を所定の回転速度で回転させる際に発生する損失をトルクで表したものであり、オイルを循環させることに伴う損失と、差動歯車装置52を構成するギヤの噛み合いに伴う損失(摩擦損失等)と、軸受60〜62における損失(摩擦損失等)と、オイルシール74における損失(摩擦損失等)とが含まれる。なお、オイルを循環させることに伴う損失には、エアギャップ16の内部に存在するオイルによるせん断損失(以下、単に「せん断損失」という。)と、ロータ20と一体回転する掻き上げ部材30や、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材によるオイルの掻き上げに伴う掻き上げ損失(以下、単に「掻き上げ損失」という。)とが含まれる。
【0073】
そして、本試験では、出力軸50を所定の回転速度範囲で変化させながら、機械損失トルクの測定を行った。また、比較例として、上記の掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対しても、同様の試験を行った。さらに、オイルを循環させることに伴う損失を含まない機械損失トルクを見積もるべく、上記の掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対して、ケース内にオイルを収容しない状態で、同様の試験を行った。
【0074】
なお、上記実施形態の構成を有する駆動装置1に対する試験では、ケース3の内部に収容するオイルの量を、車速が零の状態ではオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも高く、車速が所定の第一速度以上となるとオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも低くなり、車速が第一速度より大きい所定の第二速度以上となるとオイルレベルLが本体部31の最下部よりも低くなるような量に設定した。また、掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対する試験では、ケースの内部に収容するオイルの量を、車速が高い状態でもオイルレベルがステータコアの内周対向面の最下部よりも高い状態となるような量に設定した。
【0075】
図7は、上記の機械損失トルクの測定の試験結果を示す図である。図7における横軸は、出力軸50の回転速度に対応する「車速」であり、右に行くほど車速が高くなっている。なお、詳細は省略するが、試験を行った車速の範囲は、車両の通常の使用状態で想定される車速の範囲と概ね一致させた。また、図7における縦軸は「機械損失トルク」であり、上に行くほど機械損失トルクが大きくなっている。また、図7における「本発明」は、上記実施形態の構成を有する駆動装置1に対する試験結果を表し、「比較例」は、上記掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対する試験結果を表し、「オイルなし」は、上記掻き上げ部材30を備えない従来の構成の駆動装置に対して、ケース内にオイルを収容しない状態で行った試験結果を表す。
【0076】
図7より明らかなように、「本発明」は、試験を行った車速の全範囲で、「比較例」に比べ機械損失トルクが大きく低減されていることがわかる。これは、「本発明」に対応する試験では、車速が上記所定の第一速度以上となるとオイルレベルLがステータコア11の内周対向面12の最下部よりも低くなり、せん断損失が低減されることを示している。なお、車速が高くなるにつれて機械損失トルクが全体として増加していくのは、車速の増加とともに、掻き上げ損失、差動歯車装置52を構成するギヤの噛み合いに伴う損失(摩擦損失等)、軸受60〜62における損失(摩擦損失等)、オイルシール74における損失(摩擦損失等)、及び、掻き上げ部材30の回転時の空気抵抗等が増大するためだと考えられる。
【0077】
一方、「本発明」は、「オイルなし」に比べ機械損失トルクが大きくなっている。これは、せん断損失、掻き上げ損失、及び、掻き上げ部材30の重量や空気抵抗に起因する掻き上げ部材30をロータ20と一体回転させることによる損失の分だけ機械損失トルクが大きくなっているものと考えられる。しかし、上記のように、「本発明」は、「比較例」に比べ機械損失トルクが大きく低減されており、本実施形態に係る駆動装置1によれば、せん断損失が抑制され、掻き上げ部材30を備えない従来の構成に比べ、回転電機2のエネルギ効率を向上できることが示された。
【0078】
5.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、図5に示すように、凹凸部33が、延在方向が径方向と略一致する複数の凹溝34により形成されており、これにより、径方向に延びるように形成される第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方が、延在方向が径方向と略一致するように形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、図8に示すように、凹凸部33が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向外側に向かうに従って主回転方向C1に向かうように形成された凹溝34により形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の双方も、延在方向が径方向外側に向かうに従って主回転方向C1に向かうように形成される。このように凹凸部33を形成することで、回転電機2が主回転方向C1に回転している状態での第一掻き上げ面35によるオイルの掻き上げ効率の向上を図ることができる。なお、図8では、本体部31の第一面31aのみを示しているが、第二面31bにも同様の凹凸部33が形成されている構成としても良いし、第一面31a及び第二面31bの何れか一方にのみ、上記のような凹溝34が形成されている構成としても良い。また、凹凸部33が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向外側に向かうに従って従回転方向C2に向かうように形成された凹溝34により形成されている構成としても好適である。さらに、凹溝34が、径方向外側に向かって延びるとともに、延在方向が径方向に交差する方向であって直線状となるように形成されている構成としても好適である。
【0079】
(2)上記の実施形態では、凹凸部33が、本体部31の第一面31a及び第二面31bの双方に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、本体部31の第一面31a及び第二面31bの少なくとも一方に、凹凸部33が形成されていない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、何れの場合においても、図9に示すように、本体部31の径方向外側端部に凹溝38により凹凸部33が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。なお、図9では、凹溝38を除いて、本体部31の第一面31aにも第二面31bにも凹凸部33が形成されていない場合を例として示している。このように、本体部31の径方向外側端部に凹溝38を形成することで、凹溝38の主回転方向C1側を向く側壁により第一掻き上げ面35が形成され、凹溝38の従回転方向C2側を向く側壁により第二掻き上げ面36が形成される。
【0080】
(3)上記の実施形態では、図5に示すように、凹凸部33が、延在方向が径方向と略一致する複数の凹溝34により形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、本体部31の第一面31a及び第二面31bの双方に複数の円形凹部39が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、円形凹部39の主回転方向C1側を向く内壁により第一掻き上げ面35が形成され、円形凹部39の従回転方向C2側を向く内壁により第二掻き上げ面36が形成される。なお、この場合において、本体部31の第一面31a及び第二面31bの何れか一方にのみ、円形凹部39が形成されている構成としても好適である。
【0081】
(4)上記の実施形態では、本体部31は、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされており、凹溝34を除いて、本体部31の軸方向厚さが一定となるように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、本体部31が、第一面31aの径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面37aと、第二面31bの径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面37bとの双方を備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような第一傾斜面37aを備えることで、本体部31に対して軸方向一方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができ、オイルを適切にオイル捕集部45に供給することができる。また、このような第二傾斜面37bを備えることで、本体部31に対して軸方向他方側に向かってオイルが飛び出すように、オイルの流れを積極的に制御することができ、オイルを適切にコイルエンド部13に供給することができる。図示は省略するが、当然ながら、第一傾斜面37aと第二傾斜面37bとのいずれか一方のみを備える構成としても好適である。なお、図11は、掻き上げ部材30の本体部31の一部の径方向に沿って切断した断面における形状を説明するための図であり、凹凸部33は省略している。よって、この図11に示す本体部31の第一面31a及び第二面31bの少なくとも何れか一方に凹凸部33を形成した構成とすることも当然に可能である。後述する図12、図13についても同様である。
【0082】
(5)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図12に示すように、本体部31の一部の径方向に沿って切断した断面における形状が、径方向外側に向かうに従って軸方向一方側に向かうような円環状に形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0083】
(6)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向に直交する面に平行な円環板状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、図13に示すように、本体部31が、当該本体部31の径方向外側端部から軸方向一方側に突出する鍔状部82を備え、当該鍔状部82の径方向外側及び径方向内側に、それぞれ、径方向内側突部80及び径方向外側突部81が形成された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、径方向内側突部80や径方向外側突部81の主回転方向C1や従回転方向C2を向く側面を、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36とすることができる。
【0084】
(7)上記の実施形態では、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36が、径方向に延びると共にその径方向外側端部が本体部31の径方向外側端縁に一致している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第一掻き上げ面35及び第二掻き上げ面36の少なくとも一方の径方向外側端部が、本体部31の径方向外側端縁よりも径方向内側に位置する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、上記の図10に示す構成のように、第一掻き上げ面35や第二掻き上げ面36が、径方向に延びるように形成されていない構成とすることもできる。
【0085】
(8)上記の実施形態では、本体部31の径方向外側端縁とケース3の内壁面41との間隙を掻き上げ隙間44とし、オイル貯留部40の最深部43からロータ20の主回転方向C1へ向かうに従って掻き上げ隙間44が小さくなるようにケース3の内壁面41が形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、掻き上げ隙間44の大きさが少なくともケース3の下部において周方向に一様になるようにケース3の内壁面41が形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0086】
(9)上記の実施形態では、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の少なくとも一部において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、回転電機2の運転可能(動作可能)な回転速度域の全域において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも下側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、回転電機2の回転速度域の全域において、オイル貯留部40におけるオイルの液面高さ(オイルレベルL)が、ステータコア11の内周対向面12の最下部よりも上側に位置する状態となるように、ケース3内に収容されるオイルの量が設定されている構成とすることもできる。このような構成としても、オイル掻き上げ部材30を備えない従来の構成に比べ、同じオイルレベルLにおけるオイルの掻き上げ量は多くなる。よって、必要とされるオイルの掻き上げ量が同じであれば、従来の構成よりオイルレベルLを低くすることができ、エアギャップ16に存在するオイルの量を減らすことで、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することができる。
【0087】
(10)上記の実施形態では、本体部31が、ロータ20と同軸の円環状とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、本体部20が、周方向の全域に亘って周方向に連続するように形成されておらず、周方向の少なくとも一部において、周方向に連続する部分がないように形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、軸方向視で略Cの字状になるように周方向の一部が切り欠かれている形状としたり、周方向に連続する部分を有さない複数の部材が、周方向に分散配置されるように、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材、或いはロータ20と一体回転する部材に固定されている構成とすると好適である。
【0088】
(11)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、ロータコア21の軸方向一方側端面に取り付けられているリテーナ23と一体的に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、掻き上げ部材30が、リテーナ23とは別体で形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この際、掻き上げ部材30は、ロータ20を構成するロータコア21、リテーナ23、ロータハブ24等の部材、或いは、ロータ20と一体回転する部材に、接続構造(ボルトによる締結固定や、嵌合による固定等)を介して接続されることで、ロータ20と一体回転するように構成されていると好適である。
【0089】
(12)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、ロータ20の軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視でコイルエンド部13と重なるように形成されている接続部32を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ロータ20を構成するリテーナ23やロータハブ24、或いは、ロータ20と一体回転する部材が、径方向視でコイルエンド部13と重なる重複部分を有する場合には、接続部32を、径方向視でコイルエンド部13と重ならない形態で、当該重複部分を有する部材と本体部31とを接続するように形成する構成とすることができる。また、ロータ20を構成するリテーナ23やロータハブ24、或いは、ロータ20と一体回転する部材が、ステータコア11の内周対向面12より径方向外側に位置する突出部分を有する場合には、本体部31を、接続部32を介さず当該突出部分に直接固定する構成としても好適である。
【0090】
(13)上記の実施形態では、掻き上げ部材30が、絶縁材料であるとともに非磁性材料である樹脂で形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、掻き上げ部材30が、絶縁材料ではあるが非磁性材料ではない材料、絶縁材料ではないが非磁性材料である材料、或いは、絶縁材料でも非磁性材料でもない材料により形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成は、ケース3内に掻き上げ部材30を配置するための空間を十分に確保できる場合に、好適に実施することができる。
【0091】
(14)上記の実施形態では、掻き上げ部材30の接続部32の軸方向一方側に向かって延びる部分の延在方向が軸方向と略一致する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、軸方向一方側に向かって延びる部分の延在方向が軸方向に交差する方向となるように接続部32が構成されていても好適である。
【0092】
(15)上記の実施形態では、本体部31にオイルを掻き上げるための凹凸部33が形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本体部31に凹凸部33が形成されていない構成とすることもできる。このよな構成においても、オイルは粘性を有することから、オイルを本体部31に連れまわさせることでオイルを掻き上げることができる。
【0093】
(16)上記の実施形態では、本体部31が、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向内側に配置されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本体部31の少なくとも一部が、軸方向視でステータコア11の外周面よりも径方向外側に配置されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、必要とされるオイルの掻き上げ量を確保しつつオイル貯留部40のオイルレベルLを更に低くすることができ、エアギャップ16に存在するオイルによるせん断損失を低減することが容易となる。
【0094】
(17)上記の実施形態では、差動歯車装置52が、シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、差動歯車装置52が、ダブルピニオン型の遊星歯車機構や、互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構等のように、他の差動歯車機構を有して構成されていても好適である。また、差動歯車装置52は、3つの回転要素を有するものに限定されるものではなく、4つ以上の回転要素を有する構成としても好適である。なお、4つ以上の回転要素を有する差動歯車装置としては、例えば、2組以上の遊星歯車機構の一部の回転要素間を互いに連結した構成等を用いることができる。さらに、差動歯車装置52は、減速機構として構成されているものに限定されず、増速機構として構成されていても良い。
【0095】
(18)上記の実施形態では、ステータコア11やロータコア21が、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、ステータコア11やロータコア21の少なくとも一方が、磁性材料の粉体である磁性粉体を加圧成形してなる圧粉材を主な構成要素として形成されている構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0096】
(19)上記の実施形態では、駆動装置1が車両用のインホイールタイプの駆動装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明はインホイールタイプ以外の駆動装置(ドライブユニット)にも適用可能である。すなわち、ケースの下部に形成されたオイル貯留部のオイルを、回転電機のロータの回転を利用して掻き上げる構成を有する駆動装置であれば、駆動装置が備えられる場所によらず適用可能である。また、当然ながら、本発明は、車両用以外の駆動装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともにステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、ステータコアの内周対向面がロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:駆動装置
2:回転電機
3:ケース
10:ステータ
11:ステータコア
12:内周対向面
13:コイルエンド部
20:ロータ
21:ロータコア
22:外周対向面
23:リテーナ
30:掻き上げ部材
31:本体部
31a:第一面
31b:第二面
32:接続部
33:凹凸部
35:第一掻き上げ面(掻き上げ面)
37a:第一傾斜面
37b:第二傾斜面
40:オイル貯留部
41:内壁面
43:最深部
44:掻き上げ隙間
C1:主回転方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置であって、
前記ロータと一体回転して前記オイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材を備え、
前記掻き上げ部材が、前記ステータに対して軸方向一方側であって前記ステータコアの前記内周対向面より径方向外側に位置する本体部を備える駆動装置。
【請求項2】
前記ステータは前記ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を備え、
前記掻き上げ部材は、前記ロータの軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視で前記コイルエンド部と重なるように形成されている接続部を備え、
前記本体部は、前記接続部を介して前記ロータに固定されている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記本体部は、前記ロータと同軸の円環状とされ、前記本体部が軸方向視で前記ステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されている請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記本体部にはオイルを掻き上げるための凹凸部が形成され、
前記凹凸部は、法線ベクトルが前記ロータの主回転方向の成分を有する掻き上げ面を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記掻き上げ面は、径方向に延びると共にその径方向外側端部が前記本体部の径方向外側端縁に一致している請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記本体部の径方向外側端縁と前記ケースの内壁面との間隙を掻き上げ隙間とし、
前記オイル貯留部の最深部から前記ロータの主回転方向へ向かうに従って前記掻き上げ隙間が小さくなるように前記ケースの内壁面が形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記本体部が軸方向に直交する面に平行な円環板状とされ、当該本体部の軸方向一方側の面を第一面とし、軸方向他方側の面を第二面とし、
前記本体部が、前記第一面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面と、前記第二面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面と、の一方又は双方を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記回転電機の回転速度域の少なくとも一部において、前記オイル貯留部におけるオイルの液面高さが、前記ステータコアの前記内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように、前記ケース内に収容されるオイルの量が設定されている請求項1から7のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記掻き上げ部材は、絶縁材料で形成されている請求項1から8のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記掻き上げ部材は、非磁性材料で形成されている請求項1から9のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記ロータは、前記ロータコアの軸方向一方側端面に取り付けられるリテーナを備え、
前記掻き上げ部材は、前記リテーナと一体的に形成されている請求項1から10のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項1】
ステータコアを備えたステータと、ロータコアを備えるとともに前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されたロータと、を有し、前記ステータコアの内周対向面が前記ロータコアの外周対向面に対向するように配置された回転電機をケースの内部に収容し、前記ケースの下部にオイルを貯留するオイル貯留部が形成されている駆動装置であって、
前記ロータと一体回転して前記オイル貯留部に貯留されたオイルの掻き上げを行う掻き上げ部材を備え、
前記掻き上げ部材が、前記ステータに対して軸方向一方側であって前記ステータコアの前記内周対向面より径方向外側に位置する本体部を備える駆動装置。
【請求項2】
前記ステータは前記ステータコアから軸方向一方側に突出するコイルエンド部を備え、
前記掻き上げ部材は、前記ロータの軸方向一方側端部から軸方向一方側に向かって延び、径方向視で前記コイルエンド部と重なるように形成されている接続部を備え、
前記本体部は、前記接続部を介して前記ロータに固定されている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記本体部は、前記ロータと同軸の円環状とされ、前記本体部が軸方向視で前記ステータコアの外周面よりも径方向内側に配置されている請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記本体部にはオイルを掻き上げるための凹凸部が形成され、
前記凹凸部は、法線ベクトルが前記ロータの主回転方向の成分を有する掻き上げ面を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記掻き上げ面は、径方向に延びると共にその径方向外側端部が前記本体部の径方向外側端縁に一致している請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記本体部の径方向外側端縁と前記ケースの内壁面との間隙を掻き上げ隙間とし、
前記オイル貯留部の最深部から前記ロータの主回転方向へ向かうに従って前記掻き上げ隙間が小さくなるように前記ケースの内壁面が形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記本体部が軸方向に直交する面に平行な円環板状とされ、当該本体部の軸方向一方側の面を第一面とし、軸方向他方側の面を第二面とし、
前記本体部が、前記第一面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向一方側へ向かう第一傾斜面と、前記第二面の径方向外側端部に形成され、径方向外側へ向かうに従って軸方向他方側へ向かう第二傾斜面と、の一方又は双方を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記回転電機の回転速度域の少なくとも一部において、前記オイル貯留部におけるオイルの液面高さが、前記ステータコアの前記内周対向面の最下部よりも下側に位置する状態となるように、前記ケース内に収容されるオイルの量が設定されている請求項1から7のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記掻き上げ部材は、絶縁材料で形成されている請求項1から8のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記掻き上げ部材は、非磁性材料で形成されている請求項1から9のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記ロータは、前記ロータコアの軸方向一方側端面に取り付けられるリテーナを備え、
前記掻き上げ部材は、前記リテーナと一体的に形成されている請求項1から10のいずれか一項に記載の駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−120417(P2011−120417A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277514(P2009−277514)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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