説明

高温リフロースパッタリング装置及び高温リフロースパッタリング方法

【課題】 より低い温度で基板を加熱した場合でも金属材料を十分にホールに埋め込むことができる高温リフロースパッタリングの技術を提供する。
【解決手段】 不図示の制御部は、二段階成膜の第一の工程では、静電吸着機構49を動作させずに基板9と基板ホルダー44との間の熱伝達効率が悪い状態とし、第二の工程では静電吸着機構49を動作させて基板9と基板ホルダー44との間の熱伝達効率を向上させ、ヒータにより効率良く基板9を加熱する。第一の工程でホール90の内面に厚いベース薄膜93が作成されるため、第二の工程で比較的低い温度でリフローさせても充分にホール90内に金属材料が埋め込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、基板の表面に形成されたホールに金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリングの技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターゲットをスパッタして基板の表面に所定の薄膜を作成するスパッタリングの技術は、半導体集積回路の製作の際などに盛んに利用されている。このスパッタリングによって薄膜作成が行われる半導体ウェーハ等の基板は、多くの場合、微細なホールを有しており、微細なホール内に薄膜を作成することが必要になってきている。例えば、256メガビット〜1ギガビットDRAM(Dynamic Random Access Memory)では、デザインルールで幅又は直径が0.25μm〜0.18μm程度の溝又は穴(本明細書ではホールと総称する)に対して成膜することが必要になってきている。
【0003】
このようなホール内への成膜にスパッタリングを利用するものとして、ホール内に金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリングの技術が従来から知られている。図6は、このような高温リフロースパッタリングを行う従来の高温リフロースパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。
図6に示す高温リフロースパッタリング装置は、排気系41を備えたスパッタチャンバー4と、スパッタチャンバー4内に被スパッタ面を露出させるようにして設けられたターゲット42と、ターゲット42をスパッタするためのスパッタ電源43と、スパッタによって放出されたターゲット42の材料が到達するスパッタチャンバー4内の所定位置に基板9を配置するための基板ホルダー44と、スパッタチャンバー4内に所定のスパッタ放電用ガスを導入する放電用ガス導入系45と、基板9を所定温度に加熱するよう基板ホルダー44内に設けられたヒータ441を備えている。
【0004】
ターゲット42はアルミニウム等の金属製であり、絶縁材421を介してスパッタチャンバー4に取り付けられている。スパッタ電源43は、ターゲット42に負の高電圧を印加するよう構成されている。アルゴン等のスパッタ放電用ガスが放電用ガス導入系45によってスパッタチャンバー4に導入され、ターゲット42に負の高電圧が印加されると、接地電位である基板ホルダー44やスパッタチャンバー4の器壁との間に直流電界が設定され、この直流電界によってスパッタ放電が生ずる。このスパッタ放電によってターゲット42から放出された金属材料の粒子(通常は原子の状態、以下、スパッタ粒子と呼ぶ)は、基板9に到達して所定の金属材料の薄膜を堆積する。尚、この装置でのターゲット42と基板9の距離は60mmである。
一方、ヒータ441からの熱は基板ホルダー44を経由して基板9に与えられ、基板9は所定の温度に加熱される。基板9の表面に堆積した薄膜は、基板9の熱によってリフロー(流動化)し、微細なホール内に流れ込む。この結果、ホールに金属材料が埋め込まれ、基板9の表面が平坦化される。
【特許文献1】特開平08−107069号公報
【特許文献2】特開平09−228040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の高温リフロースパッタリングにおいて、基板は400℃から500℃程度まで加熱される。成膜時の基板の温度(以下、成膜温度)が高いほど金属材料の流動性が高まり、容易にホールに金属材料を埋め込むことができる。
しかしながら、このような高い温度で処理を行うことにより、金属材料の結晶成長が速くなり、グレインサイズが大きくなる。グレインサイズが大きくなると、作成した薄膜の表面に凹凸ができ、後工程のフォトリソグラフィの際のアライメントがしづらくなる問題がある。また、グレインサイズが大きくなると、エレクトロマイグレーションの問題も顕在化してくる。
【0006】
また、多層配線構造を採るデバイスの製造では、シリコン基板上に第一層の配線としてアルミニウム膜がすでに作成されている場合がある。この場合、第二層の配線のためにアルミニウムの高温リフロースパッタリングを行うと、すでに作成されている第一層のアルミニウム膜とシリコンとの界面において400℃から500℃程度の温度でこれらが溶け合う。そして冷却されることによりアルミニウムとシリコンは共晶し、アルミニウム−ケイ素合金となる「アルミの消失」が生じる。このようなアルミの消失により、回路の断線や配線抵抗の増加等の欠陥や不良がもたらされることになる。
【0007】
このような、問題が生じないようにするには、400℃以下で高温リフロースパッタリングをすることが考えられる。しかしながらこのような400℃以下の低い温度例えば200℃程度で高温リフロースパッタリングを行った場合、金属材料を十分にリフローさせることができないため、ホール内にボイドと呼ばれる空洞が発生してしまう。ホール内にボイドが生じると、回路は断線したり、配線抵抗が増加してしまう等の欠陥や不良を招いてしまう。
【0008】
本願の発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、より低い温度で基板を加熱した場合でも金属材料を十分にホールに埋め込むことができる高温リフロースパッタリングの技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本願の請求項1記載の発明は、表面に微細なホールが形成された基板の表面にスパッタリングによって金属材料の薄膜を形成し、ヒータにより基板を加熱して薄膜をリフローさせてホールに金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリング装置であって、
排気系を備えたスパッタチャンバーと、スパッタチャンバー内に設けられたターゲットと、ターゲットをスパッタするためのスパッタ電源と、スパッタによって放出されたターゲットの材料が到達する位置に基板を保持するための基板ホルダーと、基板ホルダー内に設けられた前記ヒータと、基板を基板ホルダーに静電吸着させる静電吸着機構と、静電吸着機構を制御する制御部とを備えており、
制御部は、ホールの側面及び底面に前記金属材料の薄膜を作成する第一の工程においては、静電吸着機構を動作させずに基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率が悪い状態とし、第一の工程の後、前記金属材料の薄膜をさらに堆積させてリフローさせることでホールに金属材料を埋め込む第二の工程においては、静電吸着機構を動作させて基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率を向上させる制御を行うものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、前記ヒータを制御する制御部が設けられており、この制御部は、前記第一の工程において、基板の温度が摂氏100度以上150度以下の範囲の温度になるよう前記ヒータを制御するものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の構成において、中央に設けられたセパレーションチャンバーと、セパレーションチャンバーの周囲に気密に接続されたロードロックチャンバー及び複数の処理チャンバーとを備えており、
ロードロックチャンバーは大気側との間で基板の出し入れが行われる際に基板が一時的に滞留するチャンバーであって、複数の処理チャンバーのうちの一つは前記スパッタチャンバーであり、また、セパレーションチャンバー内には、チャンバー間で基板を搬送する搬送機構が設けられており、
さらに、セパレーションチャンバーは、表面がセパレーションチャンバーの内部空間に露出するようにして設けられたパネルと、パネルを130K〜50Kに冷却してセパレーションチャンバー内の不純ガスをパネルの表面に凝縮させる冷凍機とを有している。
また、上記課題を解決するため請求項4記載の発明は、微細なホールが形成された基板の表面に、金属製のターゲットをスパッタすることで金属材料の薄膜を形成し、基板を加熱して薄膜をリフローさせてホールに金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリング方法であって、
前記加熱は、基板を保持する基板ホルダー内に設けられたヒータにより行われる方法であり、
前記ホールの側面及び底面に前記金属材料の薄膜を作成する第一の工程と、第一の工程の後、前記金属材料の薄膜をさらに堆積させてリフローさせることで前記ホールに金属材料を埋め込む第二の工程とを有しており、
前記基板ホルダーには、基板を静電吸着する静電吸着機構が設けられていて、前記第一の工程では、静電吸着機構を動作させずに基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率が悪い状態とし、前記第二の工程においては、静電吸着機構を動作させて基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率を向上させるという構成を有する。
【発明の効果】
【0010】
以下に説明する通り、本願の請求項1の発明によれば、より低い温度で基板を加熱した場合でも金属材料を十分にホールに埋め込むことができる。このため、高温処理を行う際に発生するグレインサイズの増大等の問題を回避しつつ、ホール内への金属材料の埋め込みを効果的に行うことができる。
また、請求項2の発明によれば、上記請求項1の効果に加え、第一の工程における基板の温度が摂氏100度以上150度以下の範囲なので、堆積した薄膜がリフローしないようにすることができ、ボイドの発生をより防止することができる。
また、請求項3の発明によれば、上記請求項1又は2の効果に加え、セパレーションチャンバー内の残留不純ガスが効果的に除去されるので、スパッタチャンバーにおける高温リフロースパッタリングの品質をさらに高めることができる。また、プロセスガスまでも除去してしまうことが抑制されるので、処理チャンバー内での処理が不安定になることもない。
また、請求項4の発明によれば、より低い温度で基板を加熱した場合でも金属材料を十分にホールに埋め込むことができる。このため、高温処理を行う際に発生するグレインサイズの増大等の問題を回避しつつ、ホール内への金属材料の埋め込みを効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
図1は、本願発明の実施の形態である高温リフロースパッタリング装置の構成を説明する平面概略図である。
図1に示す高温リフロースパッタリング装置はマルチチャンバータイプの装置であり、中央に配置されたセパレーションチャンバー1と、セパレーションチャンバー1の周囲に気密に接続された複数の処理チャンバー2,3,4,8,81及び二つのロードロックチャンバー5からなるチャンバー配置になっている。各チャンバー1,2,3,4,5,8,81は専用又は兼用の不図示の排気系を備えており、所定の圧力まで排気されるようになっている。各チャンバー同士の接続箇所には、ゲートバルブ6が設けられている。
【0012】
セパレーションチャンバー1内には、チャンバー間で基板9の搬送を行うための搬送機構として搬送ロボット11が設けられている。搬送ロボット11は、多関節ロボットが使用されている。この搬送ロボット11はいずれか一方のロードロックチャンバー5から基板9を一枚ずつ取り出し各処理チャンバー2,3,4,8,81に送って順次処理を行い、最後の処理を終了した後、いずれか一方のロードロックチャンバー5に戻すようになっている。
そして、ロードロックチャンバー5の外側にはオートローダ7が設けられている。オートローダ7は大気側にある外部カセット62から基板9を一枚ずつ取り出し、ロードロックチャンバー5内のロック内カセット51に収容するようになっている。
複数の処理チャンバー2,3,4,8,81のうち一つは、基板9の表面のホールを高温リフロースパッタリングによって埋め込むスパッタチャンバー4である。この他は、スパッタリングの前に基板9を予備加熱するプリヒートチャンバー2、スパッタリングの前に基板9の表面の自然酸化膜又は保護膜を除去するための前処理エッチングを行う前処理エッチングチャンバー3、高温リフロースパッタリングによる成膜の前に下地膜を作成する下地膜作成チャンバー8である。
【0013】
図2は、図1に示す高温リフロースパッタリング装置におけるスパッタチャンバー4の正面断面概略図である。図2を用いてスパッタリング装置の主要部をなすスパッタチャンバー4の説明を行う。
スパッタチャンバー4は、ゲートバルブ6を備えた気密な容器で、電気的には接地されている。そして、スパッタチャンバー4内は、排気系41により、10-8〜10-9Torr程度に排気されるよう構成されている。排気系41は、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の複数段の真空ポンプを備え、バリアブルオリフィス等の不図示の排気速度調整器が設けられている。
スパッタチャンバー4には、所定のスパッタ放電用ガスを導入する放電用ガス導入系45が設けられており、アルゴン等のスパッタ率の高いガスをチャンバー内に所定の流量で導入できるようになっている。具体的には、放電用ガス導入系45は、アルゴン等のスパッタ放電用のガスを溜めたガスボンベ451と、スパッタチャンバー4とガスボンベ451をつなぐ配管452と、配管452に設けたバルブ453や流量調整器454とから主に構成されている。
【0014】
スパッタチャンバー4内には、被スパッタ面を露出させるようにして、ターゲット42が設けられている。ターゲット42は、基板9の表面のホール内に埋め込む金属材料、例えばアルミニウムで形成されている。ターゲット42はターゲットホルダー421及び絶縁体422を介してスパッタチャンバー4の上部の開口を気密に塞ぐようスパッタチャンバー4に取り付けられている。
ターゲット42をスパッタするためのスパッタ電源43が、ターゲット42に接続されている。スパッタ電源43は、400〜600V程度の負の直流電圧をターゲット42に印加するよう構成されている。放電用ガス導入系45によってガスが導入された状態でこのスパッタ電源43が動作すると、ガスに放電が生じターゲット42がスパッタされるようになっている。尚、ターゲット42から放出されるスパッタ粒子のイオン化のみでスパッタ放電が維持される場合、ガスが導入されない場合もある。
【0015】
ターゲット42の背後には、磁石機構48が設けられている。磁石機構48は、マグネトロン放電を達成させるものである。具体的には、磁石機構48は、中心磁石481と、中心磁石481を取り囲む周状の周辺磁石482と、中心磁石481及び周辺磁石482を固定した板状のヨーク483とから構成されている。中心磁石481と周辺磁石482との間には、ターゲット42を貫通するアーチ状の磁力線484が設定される。この磁力線484とターゲット42の被スパッタ面とで囲まれた領域に電子が閉じこめられ、中性ガス分子が高い効率でイオン化する。このため、スパッタ放電が効率よく維持され、多くのスパッタ粒子が放出されて高い成膜速度が得られる。
また、スパッタ電源43によって設定される直流電界の向きはターゲット42の被スパッタ面に垂直である。従って、アーチ状の磁力線484の頂上付近で磁界と電界が直交し、マグネトロン放電が達成される。即ち、電子がマグネトロン運動し、ターゲット42の中心軸の回りに周回してスパッタ放電の効率をさらに向上させる。
【0016】
また、スパッタチャンバー4内には、スパッタによって放出されたターゲット42の材料が到達する位置に基板9を載置するための基板ホルダー44が設けられている。基板ホルダー44の内部には、抵抗加熱方式等のヒータ441が埋設されている。ヒータ441としては、輻射加熱方式のヒータを基板ホルダー44内に設けることも可能である。
基板ホルダー44には、基板9を熱接触性よく接触させるための静電吸着機構49が設けられている。静電吸着機構49は、基板ホルダー44の一部として設けられた誘電体ブロック491内に埋設された吸着電極492と、吸着電極492の間に直流電圧を印加する吸着用電源493とから主に構成されている。
【0017】
誘電体ブロック491は、基板ホルダー44に対して密着性よく接合されている。この誘電体ブロック491の表面は、基板9が載置される載置面であり、この表面には複数の凹部494が形成されている。そして、この凹部494に昇圧用ガスを導入する昇圧用ガス導入系495が接続されている。
吸着用電源493は、例えば200〜800V程度の電圧を一対の吸着電極492の間に与えるよう構成されている。この電圧によって誘電体ブロック491に誘電分極が生じ表面に静電気が誘起される。この静電気によって基板9が誘電体ブロック491に静電吸着される。この結果、基板ホルダー44に対する基板9の密着性が向上し、ヒータ441による熱が効率よく基板9に伝わる。
また、昇圧用ガス導入系495により凹部494にガスが導入される結果、凹部494の圧力が上昇する。このため、基板ホルダー44と基板9との間の熱伝達効率が向上し、基板9の加熱効率が高められる。昇圧用ガス導入系495は、熱伝達効率の良いヘリウム等のガスを導入するようになっている。
さて、本実施形態の装置の大きな特徴点は、基板ホルダー44に、ターゲット42と基板9との距離を変えるための距離変更機構46が備えられている点である。具体的に説明すると、基板ホルダー44は支柱442によって支えられている。距離変更機構46は、この支柱442の下端を保持した保持板463と、保持板463を固定した被駆動体464と、被駆動体464を駆動するボールネジ461と、このボールネジ461を回転させるモータ462とから主に構成されている。
【0018】
被駆動体464は、ボールネジ461の外径に適合した内径を有する筒状の部材である。被駆動体464の内面は、精度よくねじ切りされており、ボールネジ461にかみ合っている。また、被駆動体464は、不図示の回転止めによって回転しないようになっている。
モータ462によってボールネジ461が回転すると、この回転の力は被駆動体464に伝えられる。被駆動体464は、不図示の回転止めにより回転しないようになっているため上下動のみ行う。この結果、被駆動体464に固定された保持板463を介して支柱442が上下動し、これに伴い基板ホルダー44も上下動するようになっている。また、ターゲット42はスパッタチャンバー4内に固定されているため、上記のような距離変更機構46の動作により基板ホルダー44に載置された基板9とターゲット42との距離を変えることができるようになっている。
【0019】
本実施形態の装置では、装置全体を制御する不図示の制御部が設けられている。そして、この制御部は、距離変更機構46やスパッタ電源43などの各構成部分を制御するよう構成されている。
本実施形態における距離変更機構46及びこれを制御する不図示の制御部は、本実施形態の装置が二段階成膜を行うことに関連して設けられている。二段階成膜は、高温リフロースパッタリングを行う際の基板の温度(以下、成膜温度)を下げる試みの中で本願の発明者が見出した手法である。この点を図3及び図4を使用して説明する。図3は二段階成膜を行わずに成膜温度を下げた場合の問題点を示した図、図4は二段階成膜を行った場合の成膜状況を示す図である。
【0020】
まず、図3を用いて二段階成膜を行わない場合について説明する。高温リフロースパッタリングは、前述したように、ホール90が形成された基板9の表面にスパッタリングによって薄膜を堆積させ、基板9を加熱して薄膜をリフローさせてホール内に埋め込む手法である。この際、リフローした薄膜(以下、リフロー薄膜)91は、界面張力等の影響でホール90の開口の縁に留まる傾向がある。この場合、図3(A)に示すように、リフロー薄膜91が、図3(A)に示すように、開口の縁にリフロー薄膜91が盛り上がるようにして滞留する。また、ホール90の内面にも当初薄膜が堆積するが、基板9が高温に晒される結果、この薄膜はホール90の側面の部分で途切れてしまう。
そして、スパッタリングを続けて薄膜の堆積量を増加させても、開口の縁に盛り上がって滞留するリフロー薄膜91が増えるのみで、ホール90内には流れ込まない。この結果、開口がリフロー薄膜91によって塞がれ、外見的にはホール90内への金属材料の埋め込みが完了したように見えても、図3(C)に示すように、ホール90内にボイドと呼ばれる空洞92が生じてしまう。ボイド92が形成されると、金属材料が配線として埋め込まれる場合、配線は断線され、致命的な素子欠陥を招いてしまう。
【0021】
成膜温度をある程度まで高くすると、リフロー薄膜91の流動性が高められるので、ホール90の開口の縁に滞留するリフロー薄膜91をホール90内に流し込むことができ、これによって、上記ボイドの形成をある程度抑制することができる。しかしながら、成膜温度を高くすることは、グレインサイズの増大等の上述した問題を招く。
ボイド92の発生を防止するには、ホール90の開口の縁の部分におけるリフロー薄膜91の滞留を防止すればよい。リフロー薄膜91の滞留は、リフロー薄膜91自体の界面張力に起因するものであるが、下地表面との親和性(濡れ性)の影響も大きいと考えられる。即ち、リフロー薄膜91は例えばアルミニウム等の金属であり、ホール90の表面はシリコンや酸化シリコン等の異なる材料である。異なる材料の表面に対しては一般的に親和性が低く、表面に沿って流れにくい。リフロー薄膜91が同じ材料の表面を流れるのであれば、親和性が高いので、ホール90の開口の縁の部分での滞留も少なくできる筈である。
【0022】
リフロー薄膜91が同じ材料の表面を流れるようにするには、ホール90内の表面にそれと同じ材料の薄膜を予め形成しておけばよい。このような考え方から、本願の発明者は、高温リフロースパッタリングの二つの工程に分け、図4(A)に示すように、最初にホール90の内面に金属材料の薄膜93を薄く作成する第一の工程(以下、この工程で作成された膜を「ベース薄膜」と呼ぶ)を行い、第一の工程の後、図4(B)(C)に示すように、金属材料の薄膜をさらに堆積させ、基板9の温度を上げリフローさせることでホール90内に金属材料を埋め込む第二の工程を行う二段階成膜の手法を完成させた。
上記第一の工程では、成膜温度を低くし、堆積したベース薄膜93がリフローしないようにすることが肝要である。もしベース薄膜93がリフローする程度に成膜温度を高くしてしまうと、図3(A)に示すのと同様に、ホール90の側面でベース薄膜93に途切れが生じてしまう。途切れが生ずると、リフロー薄膜91がホール90の下地表面の上を流れなければならなくなるので、流動性が低下し、ボイド発生の原因となり易い。
【0023】
本実施形態の装置の大きな特徴は、上記二段階成膜の第一の工程において、ターゲット42と基板9の距離(以下、TS距離と呼ぶ)を従来の距離よりも長くしている点である。具体的には、制御部は、距離変更機構46のモータ462を動作させて、第一の工程では基板ホルダー44とターゲット42との距離が長い第一の距離となるよう制御し、第二の工程では基板ホルダー44とターゲット42の距離が第一の距離より短い第二の距離になるよう制御するものになっている。
【0024】
図5を用いて、TS距離を変化させたときの状況について説明する。図5は、TS距離を変化させたときの概略図である。
ターゲット42と基板9の距離をL1からL2へと長くした場合、ホール90内の一点Pから見ることのできるターゲット42の被スパッタ面の面積は、L1に比べてL2の場合の方が大きくなる(S1<S2)。ターゲット42の被スパッタ面の面積(S1,S2)は、ホール内の一点Pに到達することが可能なスパッタ粒子の放出部分の面積であるから、L1に比べてL2の場合の方が点Pに到達するスパッタ粒子の量が多くなり、成膜速度が高くなる。ホール90内の他の点でも同じであり、TS距離が長くなるとその点へのスパッタ粒子の到達量が多くなり、その点の成膜速度が高くなる。つまり、TS距離を長くすることによってホール90の内面への成膜速度を高くすることができる。
【0025】
本実施形態では、上記観点から、第一の工程においてTS距離を長くしてホール90の内面への成膜速度を高くしている。成膜速度を高くすると、第一の工程においてベース薄膜93を厚く作成することができる。発明者の研究によると、ベース薄膜93の厚さを厚くすると、第二の工程でより低い温度で処理してもボイドの発生のない埋め込みが可能であることが判明した。例えば、アスペクト比3のホール内にアルミニウムを埋め込む場合、第一の工程において、ベース薄膜93をホール90の内面(側面及び底面)に300オングストローム程度の厚さで作成しておくと、第二の工程で薄膜を堆積させながら基板9を380℃の比較的低い温度で加熱しながらリフローさせた場合でも、ボイドの発生は観察されなかった。
【0026】
上記のように成膜温度を低くできる原因については、一概に言えないが、第二の工程におけるリフロー薄膜91の流動性がベース薄膜93の膜厚に依存しているものと推察される。即ち、下地であるベース薄膜93が厚い方がその上でリフロー薄膜91が流動し易いと推察される。また、ベース薄膜93が薄い場合、第二の工程で基板9が加熱された際、リフロー薄膜91が流動してくる前にベース薄膜93が流動してしまい、図3(A)に示すような途切れが生じてしまうことがあるとも推察される。
【0027】
いずれにしても、本実施形態の装置では、第一の工程においてTS距離を長くしてホール90の内面に厚いベース薄膜93を作成するので、第二の工程で比較的低い温度で高温リフロースパッタリングを行うことができる。尚、第二の工程でTS距離を長くすることはあまり好ましくない。というのは、TS距離を長くすると、ターゲット42から放出されるスパッタ粒子のうち基板9に到達するスパッタ粒子の量が少なくなってしまうので、全体の成膜の効率が低下する問題がある。第二の工程では、薄膜をリフローさせてホール90内に埋め込むようにしているのであるから、ホール90内への成膜速度を第一の工程のように高める必要はない。不必要にTS距離を長くして成膜の効率を低下させることは、好ましいとはいえない。
【0028】
また、第一の工程では、成膜時のスパッタチャンバー4内の圧力(以下、成膜圧力)を通常のスパッタより低くすることが好ましい。圧力が高い場合、ターゲット42から基板9へのスパッタ粒子飛行空間に存在するガス分子の数が多いので、ターゲット42から放出されるスパッタ粒子の多くがガス分子に散乱される。基板9のホール90以外の面には散乱されても多くのスパッタ粒子が到達できるが、スパッタ粒子の散乱が多いと、ホール90内に到達できるスパッタ粒子の量が少なくなる。この結果、ホール90の内面への成膜速度が相対的に低下してしまう。そこで、第一の工程では、通常より成膜圧力を低くし、ホール90めがけて飛行するスパッタ粒子が散乱されないようにする。これにより、ホール90の内面への成膜速度が相対的に高くなり、ホール90の内面に厚いベース薄膜93を作成することができる。具体的には、第一の工程では、1mTorr以下の成膜圧力にすると好適である。
【0029】
上述した二段階成膜の点も含め、スパッタチャンバー4内での動作について説明する。基板9はスパッタチャンバー4内に搬入され、基板ホルダー44の上に載置される。スパッタチャンバー4内は予め10-8〜10-9Torr程度まで排気されており、この状態で放電用ガス導入系45によってスパッタチャンバー4内にスパッタ放電用ガスが導入される。排気系41の不図示の排気速度調整器及び放電用ガス導入系45の流量調整器454を制御して、スパッタチャンバー4内を第一の工程の成膜圧力である0.8〜1.5mTorr程度の圧力に保つ。
【0030】
そして、スパッタ電源43が動作し、第一の工程のスパッタリングが行われる。この際、前述した通り、不図示の制御部は距離変更機構46を動作させて基板ホルダー44を所定の下降位置に予め位置させており、TS距離を長くしている。また、基板ホルダー44内のヒータ441が常時動作しているものの、静電吸着機構49及び昇圧用ガス導入系495は動作させないでおく。従って、ヒータ441から基板9への熱伝達効率は悪く、基板9の温度は100〜150℃程度の低い温度に維持される。第一の工程のスパッタリングによって、前述した通りベース薄膜93が作成される。ベース薄膜93の厚さは200〜400オングストローム程度である。尚、第一の工程においては、スパッタ電源43によるターゲット42への投入電力は18〜20kW程度と通常より高い。これは、TS距離を長くすることによる全体の成膜効率の低下を補償するためと、基板9がヒータ441によってあまり加熱されないうちに短時間に成膜を終了するためにである。
【0031】
次に、第二の工程を行う。即ち、不図示の制御部は距離変更機構46を動作させて基板ホルダー44を所定の上昇位置に位置させTS距離を短くする。ほぼ同時に、静電吸着機構49及び昇圧用ガス導入系495を動作させて基板ホルダー44から基板9への熱伝達効率を向上させて基板9の温度を高くする。そして、スパッタ電源43を動作させてスパッタリングを継続し、ベース薄膜93の上にさらに薄膜を堆積させる。堆積した又は堆積しつつある薄膜は、基板9の熱によってリフローしてリフロー薄膜91となり、ホール90の内面に流れ込む。この結果、ホール90内に金属材料が埋め込まれる。
尚、この第二の工程の際、スパッタ電源43によるターゲット42への投入電力は第一の工程より低く2〜4kW程度である。これは、成膜速度をあまり高くすることなく、少しずつ薄膜を堆積させてリフローさせた方がホール90内の埋め込み特性が良いという事情に基づく。また、第一の工程から第二の工程に移る際、スパッタ電源43の動作をいったん止めてから電力を低下させてもよいが、動作を止めずに電力を低下させてもよい。
【0032】
次に、図1に戻り、本実施形態の高温リフロースパッタリング装置の他の構成について説明する。
図1に示す前処理エッチングチャンバー3は、成膜に先だって基板9をエッチングして基板9の表面の自然酸化膜や保護膜を除去するよう構成されている。前処理エッチングチャンバー3は、内部にプラズマを形成し、プラズマ中のイオンを基板9の表面に衝突させて自然酸化膜や保護膜をエッチング除去するようになっている。
また、プリヒートチャンバー2は、成膜に先だって基板9を加熱して、基板9の吸蔵ガスを放出させるよう構成されている。この吸蔵ガスの放出を行わない場合、成膜時の熱により吸蔵ガスが急激に放出され、発泡によって膜の表面が粗くなる問題がある。プリヒートチャンバー2内には、所定の温度に加熱維持される不図示のヒートステージが設けられている。基板9はこのヒートステージに載置され、所定の温度に加熱されることによりプリヒートされる。
下地膜作成チャンバー8は、高温リフロースパッタリングの前に下地膜としてチタン薄膜を作成するようになっている。下地膜作成チャンバー8は、スパッタリングによってこの下地膜を作成するようになっており、チタン製のターゲットを備えている他は、図2に示すスパッタチャンバー4とほぼ同様の構成である。 尚、スパッタチャンバー4での作成された高温リフロースパッタリング膜の上に反射防止膜を作成する場合があり、この場合は、他の処理チャンバー81のうちの一つは反射防止膜作成チャンバーとされる。反射防止膜作成チャンバーは、窒化チタン薄膜を反射防止膜としてスパッタリングにより作成するよう構成される。
【0033】
また、セパレーションチャンバー1には、前述したように不図示の排気系が設けられている。この排気系は、クライオポンプ等を備えた排気系であり、セパレーションチャンバー1内はこの排気系によって10-8〜10-9Torr程度まで排気できるよう構成されている。このような排気によって、セパレーションチャンバー1内の雰囲気は清浄に保たれるようになっている。しかしながら、高温リフロースパッタリングの品質を十分高く維持するため、本実施形態の装置は、セパレーションチャンバー1にさらに別の排気系を設けている。
【0034】
上述した本実施形態の装置において、基板9はセパレーションチャンバー1を経由して各処理チャンバー2,3,4,8,81へ搬送される。この際、セパレーションチャンバー1内に不純ガスがあると、基板9の表面にこの不純物は付着する。そして、付着した不純物により、スパッタチャンバー4における高温リフロースパッタリングが十分出来なくなる問題が生じる。
より具体的に説明すると、基板9の表面に水分子が付着すると、スパッタチャンバー4における成膜の際に、薄膜の密着性を阻害したり、薄膜を酸化させるなどの変性を生じたりする問題がある。さらに、スパッタチャンバー4での成膜の際に基板9に与えられた熱によって水分子が急激に蒸発し、発泡等によってベース薄膜93の表面に凹凸を形成したり、ベース薄膜93に孔を開けたりすることがある。このような凹凸や孔が形成されると、リフロー薄膜91がうまく流れなくなり、ボイド発生の原因となる場合がある。
【0035】
上記問題を未然に防止するため、本実施形態の装置は、セパレーションチャンバー1の内部空間に露出するようにして設けられたパネル12と、パネル12を冷却してセパレーションチャンバー1内の不純ガスをパネル12の表面に凝縮させる冷凍機13とを備えている。
【0036】
パネル12は、銅等の熱伝導性の高い材料からなる部材であり、図1に示すように、帯状の部材を円弧状に曲げたような形状である。図2から分かるように、パネル12は水平な姿勢であり、その表面はセパレーションチャンバー1内に露出している。また、パネルが銅製である場合、表面の腐蝕防止のためNi等のメッキ処理が行われたものが使用される。また、図1から分かるように、パネル12は、二つのロードロックチャンバー5とプリヒートチャンバー2との境界部分の付近に位置している。
【0037】
冷凍機13は、セパレーションチャンバー1の外に設けられている。冷凍機13には、例えばアネルバ(株)製のCRC420等が使用できる。冷凍機13とパネル12とは、セパレーションチャンバー1の壁を貫通させて設けた導熱ブロック14によって接続されている。導熱ブロック14は、銅等の熱伝導性の高い材料で形成されており、冷凍機13が作る寒冷が効率よくパネル12に伝わるようになっている。また、導熱ブロック14とセパレーションチャンバー1の壁との間には不図示の断熱材が設けられており、冷凍機13が作る寒冷がセパレーションチャンバー1の壁には伝わらないようになっている。
【0038】
セパレーションチャンバー1内は前述した不図示の排気系によって排気されるが、それでもある程度の不純ガスが残留するのが避けられない。冷凍機13が作る寒冷によってパネル12が所定温度に冷却されると、セパレーションチャンバー1内の残留不純ガスがこのパネル12に凝縮する。このため、基板9の表面への不純ガスの付着が抑えられる。
尚、パネル12への不純ガスの凝縮量が多くなると、パネル12の表面の温度低下が十分でなくなり不純ガスの凝縮効率が低下するので、所定時間パネル12を使用したら、パネル12の再生動作を行う。再生動作は、装置の運転を休止して行う。具体的には、不図示の排気系によってセパレーションチャンバー1内を高速排気しながら、パネル12を加熱する。パネル12の温度がある程度まで上昇すると、凝縮していた不純ガスはセパレーションチャンバー1内に放出され、不図示の排気系によってセパレーションチャンバー1から排出される。そして、パネル12の表面は不純ガスのない元の清浄な表面となる。そして、セパレーションチャンバー1内を再度高真空排気した後、装置の運転を再開する。
【0039】
パネル12をどの程度まで冷却するかは、どの残留ガスを凝縮するかに直結するため、重要である。本実施形態では、冷凍機13は、パネル12を130K〜50K程度に冷却するようになっている。この冷却温度は、セパレーションチャンバー1内の主に水分子を不純ガスとして凝縮させるために設定されている。これは、前述したように、高温リフロースパッタリングでは水分子の存在が特に問題となるからである。この水分子を吸着するために、130K以下に設定するのが望ましい。
【0040】
また、パネル12の冷却温度は、各処理チャンバー2,3,4,8,81に導入されている処理用のガス(プロセスガス)までも凝縮しないように設定すべきである。各処理チャンバー2,3,4,8,81内の圧力は、プロセスガスの流量と、排気系による実効的な排気速度により決まるため、パネル12がプロセスガスまで凝縮してしまうと、これら各処理チャンバー内の圧力が不安定になってしまうからである。また、パネル12が水分だけでなくプロセスガスも吸着してしまうと、パネル12へのガスの凝縮量が短時間に多くなるので、パネル12の再生動作を頻繁に行わなければならず、生産性低下の原因となる。プロセスガスとしては窒素やアルゴンが使用されることが多く、これを凝縮させないためには、パネル12の冷却温度を50K以上とすることが好ましい。従って、パネル12を130K〜50Kの範囲で温度コントロールすることがポイントである。
【0041】
尚、パネル12の表面(凝縮面)がロードロックチャンバー5とプリヒートチャンバー2の付近に位置することは、上記水分子の除去という観点から意義がある。即ち、セパレーションチャンバー1内で残留する水分子は、ロードロックチャンバー5を経由して大気側から進入したものか、プリヒートチャンバー2でのプリヒートの際に基板9から放出されてプリヒートチャンバー2からセパレーションチャンバー1に進入したものかであることが多い。その他のチャンバーから水分子が進入することは少ない。従って、ロードロックチャンバー5とプリヒートチャンバー2の付近にパネル12の表面が位置する構成は、パネル12の表面を大きくして熱効率を悪くすることなく必要な場所においてのみ不純ガスを凝縮するものとして意義がある。
【0042】
次に、本実施形態の高温リフロースパッタリング装置の全体の動きについて説明する。
外部カセット62に収容された基板9は、オートローダ7によってロードロックチャンバー5内のロック内カセット51に搬入される。ロック内カセット51に搬入された基板9は、セパレーションチャンバー1に設けられた搬送ロボット11により、まずプリヒートチャンバー2に搬入される。プリヒートチャンバー2内に搬入された基板9は、不図示のヒートステージに載置され、所定の温度に加熱される。これによって基板9は予備加熱され、基板9中の吸蔵ガスが放出される。次に、基板9は前処理エッチングチャンバー3に搬送され、基板9の表面の自然酸化膜又は保護膜がエッチングされる。その後、基板9は下地膜作成チャンバー8に搬入され、下地膜としてチタン薄膜が薄く作成される。
そして、基板9はスパッタチャンバー4に搬入される。そして、スパッタチャンバー4内で上述した二段階成膜により高温リフロースパッタリングが行われ、基板9の表面のホールは金属材料が十分埋め込まれた状態で成膜が完了し、ホールの平坦化が成される。
その後、基板9はスパッタチャンバー4から搬出され、必要に応じて反射防止膜の作成や冷却等の処理がされた後、搬送ロボット11によりロードロックチャンバー5内のロック内カセット51に収容される。その後、ロック内カセット51に所定数の処理済みの基板9が収容されると、オートローダ7が動作し、処理済みの基板9を外部カセット62に搬出する。
【0043】
次に、請求項6の発明に対応した実施形態について説明する。
上述した実施形態の装置では、スパッタチャンバー4は一つであり、このスパッタチャンバー4内で第一の工程と第二の工程とが連続して行われた。しかしながら、スパッタチャンバーを二つ設け、一方のスパッタチャンバーで第一の工程を行い、他方のスパッタチャンバーで第二の工程を行うようにすることができる。請求項6の発明はこの構成である。
具体的には、図1に示すスパッタチャンバー(以下、第一スパッタチャンバー)4の外に処理チャンバーの一つを別のスパッタチャンバー(以下、第二スパッタチャンバー)とする。第一スパッタチャンバーでは、上述したような距離変更機構46は不要であり、基板ホルダーはTS距離が前述した長い距離になるよう構成される。そして、第二スパッタチャンバーでは、基板ホルダーはTS距離が前述した短い距離になるよう構成される。
【0044】
また、第一スパッタチャンバーでは、基板9を加熱するヒータは特に必要とされないが、第二スパッタチャンバーでは、前述した実施形態におけるものと同様のヒータが設けられ、静電吸着機構49や昇圧用ガス導入系495も同様に設けられる。
この実施形態では、同様に前処理エッチング及びプリヒートを行った後、基板9は第一スパッタチャンバーに搬入される。そして、第一スパッタチャンバーで第一の工程でベース薄膜を作成した後、基板9は第二スパッタチャンバーに搬入され、第二の工程が行われる。即ち、金属材料の薄膜をさらに堆積させてリフローさせ、ホール内に金属材料を埋め込む。この際、第一の工程の後、基板9が大気に取り出されることなく連続して第二の工程が行われる。従って、ベース薄膜の表面が酸化されたり表面に異物が付着したりして第二の工程でリフロー薄膜の流動性が低下する問題がなく、この点で好適である。
この実施形態のメリットは、第一の工程と第二の工程とが別のスパッタチャンバーで行われるので、タクトタイムを短くできる点である。従って、前述した実施形態で各処理チャンバーのうちスパッタチャンバー内での処理が最も時間を要している場合、この実施形態による生産性の向上が望める。但し、スパッタチャンバーが二つになるので、装置のコストとしては高くなる。逆に言うと、前述した実施形態は、装置のコストの点では有利である。
【実施例】
【0045】
次に、上記実施形態における実施例について、二段階成膜を中心にして説明する。
まず、第一第二の工程に共通した条件は、以下の通りである。
・基板;直径200mmのシリコンウェーハ
・ホール;開口直径0.3μm,深さ1μm,アスペクト比3
・ターゲット;直径300mmのアルミニウム製
【0046】
また、第一の工程としては、以下の条件が挙げられる。
・成膜圧力;1mTorr
・放電用ガス;アルゴン
・ガス流量;20cc/分
・ターゲットへの印加電圧;−500V
・ターゲットへの投入電力;18kW
・TS距離;90mm
・成膜温度;100〜150℃
上記条件によると、成膜速度10000オングストローム毎分程度でベース薄膜の作成ができ、18秒程度スパッタリングを継続して3000オングストローム程度の厚さでベース薄膜を作成する。
【0047】
また、第二の工程としては、以下の条件が挙げられる。
・成膜圧力;1mTorr
・放電用ガス;アルゴン
・ガス流量;20cc/分
・ターゲットへの印加電圧;−300V
・ターゲットへの投入電力;3kW
・TS距離;60mm
・成膜温度;400℃
上記条件で第二の工程を行うと、120秒程度の処理時間でホール内にアルミニウムを埋め込むことができ、ボイドの発生は観察されない。
【0048】
上述した構成及び動作に係る実施形態及び実施例において、距離変更機構46は基板ホルダー44を移動させてTS距離を変更しているが、ターゲット42を移動させるように構成してもよい。また、移動の方向は垂直方向に限られるものでない。基板9とターゲット42が垂直な姿勢で向かい合う場合、移動の方向は水平方向になる。
また、高温リフロースパッタリングにおいては、スパッタリングを終了してから基板9を加熱して薄膜をリフローさせる場合がある。上述した実施形態及び実施例においても、第二の工程の終了後に基板9の加熱工程のみを行ってホール内に金属材料を埋め込むようにしてもよい。尚、上記実施例ではターゲット42はアルミニウム製であったが、銅製のターゲット42を使用して銅薄膜を作成する場合も同様に実施できる。また、アルミや銅の合金よりなるターゲットや他の金属材料のターゲットを使用する場合でも、同様に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本願発明の実施の形態である高温リフロースパッタリング装置の構成を示す正面概略図である。
【図2】図1に示す高温リフロースパッタリング装置におけるスパッタチャンバーの正面断面概略図である。
【図3】二段階成膜を行わずに成膜温度を下げた場合の問題点を示した図である。
【図4】二段階成膜を行った場合の成膜状況を示す図である。
【図5】TS距離を変化させたときの概略図である。
【図6】従来の高温リフロースパッタリング装置の概略構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 セパレーションチャンバー
11 搬送機構としての搬送ロボット
2 プリヒートチャンバー
3 前処理エッチングチャンバー
4 スパッタチャンバー
41 排気系
42 ターゲット
43 スパッタ電源
44 基板ホルダー
441 ヒータ
45 放電用ガス導入系
46 距離変更機構
48 磁石機構
49 静電吸着機構
495 昇圧用ガス導入系
5 ロードロックチャンバー
6 ゲートバルブ
7 オートローダ
9 基板
90 ホール
91 リフロー薄膜
92 ボイド
93 ベース薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細なホールが形成された基板の表面にスパッタリングによって金属材料の薄膜を形成し、ヒータにより基板を加熱して薄膜をリフローさせてホールに金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリング装置であって、
排気系を備えたスパッタチャンバーと、スパッタチャンバー内に設けられたターゲットと、ターゲットをスパッタするためのスパッタ電源と、スパッタによって放出されたターゲットの材料が到達する位置に基板を保持するための基板ホルダーと、基板ホルダー内に設けられた前記ヒータと、基板を基板ホルダーに静電吸着させる静電吸着機構と、静電吸着機構を制御する制御部とを備えており、
制御部は、ホールの側面及び底面に前記金属材料の薄膜を作成する第一の工程においては、静電吸着機構を動作させずに基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率が悪い状態とし、第一の工程の後、前記金属材料の薄膜をさらに堆積させてリフローさせることでホールに金属材料を埋め込む第二の工程においては、静電吸着機構を動作させて基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率を向上させる制御を行うものであることを特徴とする高温リフロースパッタリング装置。
【請求項2】
前記ヒータを制御する制御部が設けられており、この制御部は、前記第一の工程において、基板の温度が摂氏100度以上150度以下の範囲の温度になるよう前記ヒータを制御するものであることを特徴とする請求項1記載の高温リフロースパッタリング装置。
【請求項3】
中央に設けられたセパレーションチャンバーと、セパレーションチャンバーの周囲に気密に接続されたロードロックチャンバー及び複数の処理チャンバーとを備えており、
ロードロックチャンバーは大気側との間で基板の出し入れが行われる際に基板が一時的に滞留するチャンバーであって、複数の処理チャンバーのうちの一つは前記スパッタチャンバーであり、また、セパレーションチャンバー内には、チャンバー間で基板を搬送する搬送機構が設けられており、
さらに、セパレーションチャンバーは、表面がセパレーションチャンバーの内部空間に露出するようにして設けられたパネルと、パネルを130K〜50Kに冷却してセパレーションチャンバー内の不純ガスをパネルの表面に凝縮させる冷凍機とを有していることを特徴とする請求項1又は2記載の高温リフロースパッタリング装置。
【請求項4】
微細なホールが形成された基板の表面に、金属製のターゲットをスパッタすることで金属材料の薄膜を形成し、基板を加熱して薄膜をリフローさせてホールに金属材料を埋め込む高温リフロースパッタリング方法であって、
前記加熱は、基板を保持する基板ホルダー内に設けられたヒータにより行われる方法であり、
前記ホールの側面及び底面に前記金属材料の薄膜を作成する第一の工程と、第一の工程の後、前記金属材料の薄膜をさらに堆積させてリフローさせることで前記ホールに金属材料を埋め込む第二の工程とを有しており、
前記基板ホルダーには、基板を静電吸着する静電吸着機構が設けられていて、前記第一の工程では、静電吸着機構を動作させずに基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率が悪い状態とし、前記第二の工程においては、静電吸着機構を動作させて基板と基板ホルダーとの間の熱伝達効率を向上させることを特徴とする高温リフロースパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−36285(P2007−36285A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271253(P2006−271253)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【分割の表示】特願平10−115630の分割
【原出願日】平成10年4月24日(1998.4.24)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】