説明

高解像度対応超音波センサ

【課題】超音波受信センサとしてダイヤフラムを利用していながら、コンパクトかつ高解像度の超音波センサを提供すること。
【解決手段】1個の圧電素子からなる超音波送信センサと光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサから成る超音波センサ要素であって、反射波によるダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素を、同一平面上にマトリクス状に配置して構成された超音波センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波送信センサとその反射波受信センサを、同一モジュールに備えているコンパクトな超音波センサ要素及びそれらを用いた高解像度対応の超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水中または高温の液体ナトリウム中に存在する対象物を測定するための超音波センサ装置は知られている(例えば、特許文献1及び2)。これら従来の超音波センサ装置の一例として特許文献2に記載された装置の全体構成を図2に示す。図2から容易に理解されるように、従来の超音波センサでは、超音波送信センサは圧電素子で構成され、超音波受信センサはマトリクス状に配列された複数個のダイヤフラムとそれぞれのダイヤフラム毎に設けられた光ファイバとから構成されている。反射波によって発生されるダイヤフラムの振動がそれぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されるレーザ光によって読み取られ、画像処理されることによって、対象物の形状、破壊等の状態がモニタ画面に表示される。ダイヤフラムを利用した超音波受信センサの構造については、上述の特許文献1により詳細に開示されている。
【特許文献1】特開平7−306188
【特許文献2】特開2005−175919
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、従来の超音波センサでは、圧電素子から成る超音波送信センサと、ダイヤフラムを利用した超音波受信センサが、別個のモジュールとして構成されている。ところで、センサの解像度を上げるためには、当然送受信センサ素子単体を小型化して、より多くの素子を緻密に配列する必要があることは容易に理解されるところである。従って、より一層高解像度の超音波センサが必要となった場合、従来技術をそのまま利用したのでは、複雑で非常に大きな装置構成になってしまうという欠点があった。
【0004】
従って、本発明の目的は、超音波受信センサとしてダイヤフラムを利用していながら、コンパクトかつ高解像度の超音波センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの観点にかかる超音波センサ要素は、1個の圧電素子からなる超音波送信センサと、その周囲に配列された、光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサから成る超音波センサ要素であって、反射波によるダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成されている。ここでは、光ダイヤフラム構造を持つ複数個の反射波受信センサを、圧電素子からなる超音波送信センサの周囲に、受信センサと一体に配置しているので、コンパクトで高解像度の超音波センサ要素が得られる。
【0006】
また、本発明の他の観点に係る超音波センサは、1個の圧電素子からなる超音波送信センサと、その周囲に配列された、光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサから成る超音波センサ要素であって、反射波によるダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素を、同一平面上にマトリクス状に配置して構成されている。ここでも、同様の理由で、コンパクトで高解像度の超音波センサが得られる。
【0007】
本発明のさらに他の観点に係る超音波センサは、複数個の圧電素子からなる超音波送信センサと、それらの超音波送信センサのそれぞれの周囲に配列された、それぞれが光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサとから成る超音波センサ要素であって、前記複数個の圧電素子から同時に送信された超音波の反射波による前記全てのダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成されている。ここでも、同様の理由で、コンパクトで高解像度の超音波センサ要素が得られる。
【0008】
本発明のさらに他の観点に係る超音波センサは、複数個の圧電素子からなる超音波送信センサと、それらの超音波送信センサのそれぞれの周囲に配列された、それぞれが光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサとから成る超音波センサ要素であって、前記複数個の圧電素子から同時に送信された超音波の反射波による前記全てのダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素を、同一平面上にマトリクス状に配置して構成された超音波センサ。ここでも、同様の理由で、コンパクトで高解像度の超音波センサが得られる。
【0009】
高速増殖炉の冷却材である高温ナトリウム中の測定においては、高解像度を得るためにナトリウム(Na)に対する濡れ特性を改善する必要がある。この場合には、上述の超音波センサまたは超音波センサ要素において使用されるダイヤフラムの両面を金(Au)で被膜することが望ましい。ダイヤフラムの両面を金(Au)によって被膜することにより、一方の面ではナトリウムに対する濡れ特性が改善され、他方の面では光ファイバから与えられる光の反射率が向上させられる。
【発明の効果】
【0010】
前述したように、本発明では、光ダイヤフラム構造を持つ複数個の反射波受信センサを、圧電素子からなる超音波送信センサの周囲に、受信センサと一体に配置しているので、コンパクトで高解像度の超音波センサ要素及びそれを用いた超音波センサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の理解を早めるために、最初に本発明の超音波センサを用いた超音波測定装置の一例について、図1を参照しながら説明し、その後、本発明に係る超音波センサ要素及びそれを用いた超音波センサの構成について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の超音波センサを用いた超音波測定装置の一例を示している。図1において、10が超音波センサであり、12はそこに組み込まれている圧電素子で構成された送信センサ、そして14はダイヤフラムを有する受信センサである。この超音波センサの詳細構造については、後述する。送信センサ12から水中に存在する対象物16の形状を測定するときには、ステージコントローラ30からの制御信号によってXYステージ18を縦横の方向に移動させながら、超音波を送信センサ12から測定対象物16へ照射するとともに、同対象物16から反射してくる反射波を受信センサ14の底面に設けられたダイヤフラム(図3及び図4参照)により受信し、反射波によるダイヤフラムの振動を耐熱ファイバすなわち光ファイバ20から与えられるレーザ光により非接触で検出する。詳細には、超音波受信光学系50のレーザ光発信器から光スィッチ及び耐熱ファイバ20に与えれるレーザ光を耐熱ファイバ20の先端部からダイヤフラムへ入射させ、ここで反射された対象物の情報を含んだレーザ光を、先ほどの耐熱ファイバー20を介して、超音波受信光学系50へ与える。そしてこの超音波受信光学系50において、レーザ光とダイヤフラムで反射したレーザ光とのドップラー時系列信号からダイヤフラムの時系列振動を得て、得られたダイヤフラムの時系列振動を超音波データ収集装置60において合成処理し、その結果得られた対象物の画像をモニタ(図示せず)に表示する。
【0013】
次に、図3乃至図6を参照し、本発明に係る超音波センサ要素及びそれらをマトリクス状に組み立てることによって得られる超音波センサについて説明する。各図を通して同一の符合は、同一または機能的に類似の部品を意味する。図3は、1個の送信センサ12を有する超音波センサ要素の一例を示す断面図である。また、図4は、3×3個の合計9個の送信センサ12を有する本発明の超音波センサ要素の他の例を示す断面図である。図3に示された超音波センサ10おいては、1個の送信センサ12の周囲に、5×5(25)個の受信センサ11が2次元アレイ状に配列されている。また、図4に示された超音波センサ10おいては、3×3(9)個の送信センサ12が2次元アレイ状に配列され、それぞれの送信センサの周囲に、16×16(256)個の受信センサ14が2次元アレイ状に配列されている。図4の超音波センサの外観図を図5に示す。
【0014】
図3及び図4のそれぞれに示された超音波センサ10を構成する送信センサ12と受信センサ14の構造を、それぞれ図5(a)及び図5(b)に示す。図5(a)に示されるように、送信センサ12は、円筒形の圧電素子15の上面と底面にそれぞれ円形の電極18及び19を設けた構造をしている。また、図5(b)に示されるように、受信センサ14は、1枚のステンレス板17に設けられた孔の一方の面側に耐熱センサすなわち光ファイバ20の先端が差し込まれ、他方の面側に孔を塞ぐようにして円形の極薄のステンレス板であるダイヤフラム11が取り付けられている構造になっている。
【実施例1】
【0015】
次に、図7を参照して、本発明の好適な一実施例について説明する。図7は、本発明の一実施例に係る超音波センサの詳細構成を示す断面図を示している。図7のセンサは、図6に示された外観を持つものであり、図7の断面図は、図6のA−A’線に沿って切られた断面に対応している。この図からダイヤフラム11、送信センサ12及び受信センサ14の配置構造が明確に理解される。ここで使用された送信センサの構造は、図5(a)に示されるような一般的な構造を有する。なお、ここで使用した受信センサは、次のようにして作製した。厚さ2mm程度のステンレスの板に直径0.5mmの穴を縦横16×16(256)個開けた。穴の開けられたステンレス板の片面に20μmの厚さのステンレス膜を高温の接着剤で貼り付けた。このステンレス膜の貼り付けは、低温拡散接合で行っても良い。このようにして、直径0.5mm、厚さ20μmのダイヤフラムを256個作製した。その後、先にステンレス板に開けられている直径0.5mmの穴に、直径0.17mmのグラスファイバを取り付けた。ファイバの先端には、あらかじめ直径0.5mmの穴に固定できるソケットを付けて置いた。
【実施例2】
【0016】
本発明の超音波センサに関し、高温ナトリウム中での性能を見るために、図3に示されたものと同一型の超音波センサ(送信1チャンネル、受信5チャンネル)を作製した。作製した超音波センサに対し、水中、耐熱性、Na中試験を実施した。常温センサ信号(PZT(コンポジット)、振動子径φ1mm)と耐熱センサ(ニオブ酸鉛、振動子径φ2mm)信号の常温での耐熱光ダイヤフラムによる超音波受信強度分布を比較した結果、画像化に必要な常温センサ信号強度の50%以上が耐熱センサでも確認できた。そこで、作製した超音波センサをスキャニングさせることで10000チャンネルの受信点を模擬し、水中画像化試験を行った。常温センサで送信・耐熱センサで受信した場合、0.2mmスリットが確認できた。送受信とも耐熱センサを利用した場合、0.5mmスリットが確認できた、酎熱センサでの解像率の低下は、超音波受信波形の残響が多いことが考えられる。200℃のNa中でも画像化に必要な信号が得られたことから、高温ナトリウム中の健全性が確認できた。
【0017】
本願の特許請求の範囲や明細書においては、「超音波送信センサと、その周囲に配列された‐‐‐超音波受信センサ」との表現を用いているが、ここで「その周囲に配列された」とは、必ずしも送信センサを取り囲むように受信センサが2次元的に配置される状態に限らず、送信センサの両側に受信センサが一次元的に配置される状態を含む意味に解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の超音波センサを用いた超音波測定装置の一例を示すブロック図である。
【図2】従来の超音波測定装置の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の超音波センサ要素の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の超音波センサ要素の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明に係る超音波センサの外観図である。
【図6】本発明で使用される超音波送信センサの単一構造と超音波受信センサの単一構造を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る超音波センサの詳細構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
10 超音波センサ
11 ダイヤフラム
12 送信センサ
14 受信センサ
20 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の圧電素子からなる超音波送信センサと、その周囲に配列された、光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサから成る超音波センサ要素であって、反射波によるダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素。
【請求項2】
1個の圧電素子からなる超音波送信センサと、その周囲に配列された、光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサから成る超音波センサ要素であって、反射波によるダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素を、同一平面上にマトリクス状に配置して構成された超音波センサ。
【請求項3】
複数個の圧電素子からなる超音波送信センサと、それらの超音波送信センサのそれぞれの周囲に配列された、それぞれが光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサとから成る超音波センサ要素であって、前記複数個の圧電素子から同時に送信された超音波の反射波による前記全てのダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素。
【請求項4】
複数個の圧電素子からなる超音波送信センサと、それらの超音波送信センサのそれぞれの周囲に配列された、それぞれが光ダイヤフラム構造を持つN(N>1の整数)個の、測定対象物からの反射波受信センサとから成る超音波センサ要素であって、前記複数個の圧電素子から同時に送信された超音波の反射波による前記全てのダイヤフラムの振動を、それぞれのダイヤフラムに対応して設けられた光ファイバを介して伝送されたレーザ光によって検知するように構成された超音波センサ要素を、同一平面上にマトリクス状に配置して構成された超音波センサ。
【請求項5】
請求項1または3に記載の超音波センサ要素において、前記ダイヤフラムの両面が金(Au)で被膜されていることを特徴とする超音波センサ要素。
【請求項6】
請求項2または4に記載の超音波センサにおいて、前記ダイヤフラムの両面が金(Au)で被膜されていることを特徴とする超音波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210395(P2009−210395A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53239(P2008−53239)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月7日 社団法人 日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2007年秋の大会 予稿集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「文部科学省平成18年度電源開発促進対策特別会計委託事業に係る研究の成果に係る出願」
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】