説明

1芯双方向光通信モジュール及び1芯双方向光通信コネクタ

【課題】従来の光コネクタハウジングの構造を大きく変更することがなく、また、小型化をすることが可能な1芯双方向光通信モジュール及び1芯双方向光通信コネクタを提供する。
【解決手段】1芯双方向光通信モジュール1は、発光素子及び受光素子を並列配置してなる光トランシーバ回路部21を備えるとともに、光ファイバの挿抜方向が光トランシーバ回路部21に対し略垂直となる構造に光路変更部品25を形成してなる。また、1芯双方向光通信コネクタ2は、1芯双方向光通信モジュール1と、この光トランシーバ回路部21に対し光ファイバの光軸が略垂直となるよう1芯双方向光通信モジュール1を収容する光コネクタハウジング3とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1本の光ファイバで双方向の光通信を行うための1芯双方向光通信モジュールと、この1芯双方向光通信モジュールを備える1芯双方向光通信コネクタ(光コネクタ)とに関する。
【背景技術】
【0002】
2本の光ファイバに発光素子と受光素子とを光学的に接続してなる構造の光通信コネクタは広く知られている。また、1本の光ファイバに対し発光素子及び受光素子を光学的に接続してなる構造の1芯双方向光通信コネクタも広く知られている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
下記特許文献1に開示された1芯双方向光通信コネクタは、略Y字状の光導波路と、この光導波路の分かれた一方に設けられる光波長フィルタとを有している。光波長フィルタは、発光波長を透過し受光波長を遮断するものが用いられている。
【0004】
下記特許文献1に開示された1芯双方向光通信コネクタは、このコネクタの以前に用いられていた2芯用の光通信コネクタの光コネクタハウジングと同様の構造となる光コネクタハウジングを備えて構成されている。すなわち、光ファイバの挿抜方向が発光素子及び受光素子の並び方向に対して直交するような構造の光コネクタハウジングを備えて構成されている(構造が従来と基本的に変わらない光コネクタハウジングを備えて構成されている)。
【0005】
下記特許文献2、3には、第一の光信号を透過し第二の光信号を反射する光フィルタを備えてなる1芯双方向光通信モジュールについての技術が開示されている。
【0006】
先ず、下記特許文献2に開示された1芯双方向光通信モジュールについて説明すると、このモジュールは、発光素子と受光素子とが直交するように配置されている。発光素子と受光素子との直交位置には、上記光フィルタが配置されている。光フィルタは、専用の部品によって所定空間の上記位置に配置されている。
【0007】
下記特許文献2に開示された1芯双方向光通信モジュールにあっては、発光素子と受光素子とが直交配置されていることから、回路部分(デバイス)を含めたモジュールのサイズが大きくなってしまうという問題点を有している(これにより、大型の1芯双方向光通信コネクタになってしまう)。また、発光素子と受光素子とが直交配置されていることから、上記従来構造の光コネクタハウジングに対して組み付けをすることができないという問題点を有している。この他、光フィルタを所定空間の所定位置に配置していることから、専用の部品を必要とするのは勿論のこと、この専用の部品に対する組み付けスペースも確保する必要があり、上記同様にモジュールのサイズが大きくなってしまうという問題点を有している。所定空間の所定位置に光フィルタを配置するためには、高精度な位置調整を必要とすることから、製作難度が高くなるという問題点も有している。
【0008】
次に、下記特許文献3に開示された1芯双方向光通信モジュールについて説明すると、このモジュールは、光ファイバの挿抜方向が発光素子及び受光素子の並び方向に対して平行となる構造を有している(光ファイバの光軸に対して発光素子及び受光素子の各光軸が直交するような構造を有している)。また、下記特許文献3に開示された1芯双方向光通信モジュールは、樹脂製の光路変更部品(光学部材)を備えて構成されている。光路変更部品には、上記光フィルタが接着剤によって固定されている。
【0009】
下記特許文献3に開示された1芯双方向光通信モジュールにあっては、上記従来構造の光コネクタハウジングに対して組み付けをすることができないという問題点を有している。また、光路変更部品に対して光フィルタを接着固定していることから、材料の熱膨張係数の違いによって光フィルタが破損してしまうという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−138966号公報
【特許文献2】特表2008−512694号公報
【特許文献3】特開2008−225339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、従来の光コネクタハウジングの構造を大きく変更することがなく、また、小型化をすることが可能な1芯双方向光通信モジュール及び1芯双方向光通信コネクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の1芯双方向光通信モジュールは、発光素子及び受光素子の2種類の光素子と、第一の光信号を透過し第二の光信号を反射する光フィルタと、前記光素子及び光ファイバ間に介在して前記第一の光信号及び前記第二の光信号を透過する樹脂製の光路変更部品と、を備える1芯双方向光通信モジュールにおいて、前記光素子を並列配置してなる光トランシーバ回路部を備えるとともに、前記光ファイバの光軸が前記光トランシーバ回路部に対し略垂直となる構造に前記光路変更部品を形成し、さらに、前記光フィルタ及び前記光路変更部品で前記第二の光信号の光路を2回90°曲げするように前記光路変更部品を形成し且つ前記光フィルタを配置することを特徴としている。
【0013】
このような特徴を有する本発明によれば、光ファイバの挿抜方向が発光素子及び受光素子の並び方向に対して直交するような構造の光コネクタハウジングに組み付けることが可能になる(これに関しては発明を実施するための形態の欄で詳細に説明する)。また、本発明によれば、光路変更部品によって第二の光信号の光路を2回90°曲げする(光路を折りたたむ)ことにより、光路変更部品の光路部分を小型化することが可能になる。さらに、本発明によれば、第二の光信号の光路を2回90°曲げすることにより、発光素子及び受光素子を回路基板の同一面に近接して実装することが可能になる。これにより小型化を図ることが可能になる。
【0014】
請求項2記載の本発明の1芯双方向光通信モジュールは、請求項1に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、前記光路変更部品の側部を切り欠いて光フィルタ搭載部を形成するとともに、該光フィルタ搭載部との間に前記光フィルタを挟み込んで該光フィルタの位置を固定する光フィルタ固定部品を備えることを特徴としている。
【0015】
このような特徴を有する本発明によれば、光路変更部品に直接光フィルタを搭載する構造であることから、光フィルタ搭載時の位置調整工程を簡易化することが可能になる。また、本発明によれば、光路変更部品の側部を切り欠いて光フィルタ搭載部を形成することから(光路変更部品を突出させずに光フィルタ搭載部を形成することから)、モジュールサイズの小型化を図ることが可能になる。さらに、本発明によれば、光フィルタ搭載部と光フィルタ固定部品との間に光フィルタを挟み込むことから、温度変化時の光フィルタと光路変更部品との熱膨張係数の違いによる応力を逃がし、光フィルタの破損や剥離を防止することが可能になる。
【0016】
請求項3記載の本発明の1芯双方向光通信モジュールは、請求項1又は請求項2に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、前記光ファイバ端末のフェルールを案内するスリーブを前記光路変更部品に一体形成することを特徴としている。
【0017】
このような特徴を有する本発明によれば、光ファイバ端末のフェルールの位置合わせを光路変更部品のスリーブによって行えるようになることから、1芯双方向光通信モジュールの組み付け先となる光コネクタハウジングの構造を簡素化することが可能になる。
【0018】
請求項4記載の本発明の1芯双方向光通信モジュールは、請求項1ないし請求項3いずれか記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、前記光路変更部品に、該光路変更部品と前記光トランシーバ回路部とを固定した状態における前記光素子の存在する空間に対して連通するような貫通孔を形成し、該貫通孔を介して前記空間に保護樹脂を注入することを特徴としている。
【0019】
このような特徴を有する本発明によれば、貫通孔に例えばディスペンサニードルを挿入して光素子の存在する空間に保護樹脂を注入し、そして、この注入した保護樹脂を硬化させると、光トランシーバ回路部における各種部品やボンディングワイヤは、保護樹脂によって空間に晒されることなく覆われる。貫通孔を形成し保護樹脂を注入することにより、光トランシーバ回路部における各種部品やボンディングワイヤ等を保護することが可能になる。
【0020】
請求項5記載の本発明の1芯双方向光通信モジュールは、請求項4に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、前記貫通孔を塞ぐ部品を備えることを特徴としている。
【0021】
このような特徴を有する本発明によれば、光素子の存在する空間に保護樹脂を注入した後に貫通孔を塞ぐことが可能になる。貫通孔を塞ぐことにより、異物混入を避けることが可能になる。尚、貫通孔を塞ぐ部品の一例としては、後述する光学面保護部品28(実施例6参照)が相当するものとする。
【0022】
上記課題を解決するためになされた請求項6記載の本発明の1芯双方向光通信コネクタは、請求項1ないし請求項5いずれか記載の1芯双方向光通信モジュールと、該1芯双方向光通信モジュールの光トランシーバ回路部に対し光ファイバの光軸が略垂直となるよう前記1芯双方向光通信モジュールを収容する光コネクタハウジングと、を備えることを特徴としている。
【0023】
このような特徴を有する本発明によれば、従来の光コネクタハウジングの構造を大きく変更することがなく、また、小型となる1芯双方向光通信コネクタにすることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載された本発明によれば、1芯双方向光通信モジュールの組み付け先となる光コネクタハウジングの構造を、従来の光コネクタハウジングの構造と比べて大きく変更する必要のないものにできるという効果を奏する。また、本発明によれば、モジュールを小型化することができるという効果を奏する。
【0025】
請求項2に記載された本発明によれば、光路変更部品の構造により、光フィルタ搭載時の位置調整工程を簡易化することや、モジュールサイズの小型化を図ることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、光路変更部品の光フィルタ搭載部と光フィルタ固定部品との間に光フィルタを挟み込むことから、温度変化時の光フィルタと光路変更部品との熱膨張係数の違いによる応力を逃がすことができ、結果、光フィルタの破損や剥離を防止することができるという効果を奏する。
【0026】
請求項3に記載された本発明によれば、光路変更部品にスリーブを一体に形成することにより、1芯双方向光通信モジュールの組み付け先となる光コネクタハウジングの構造を簡素化することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、光結合状態を良好にすることができるという効果を奏する。
【0027】
請求項4に記載された本発明によれば、貫通孔を介して光素子の存在する空間に保護樹脂を注入し、これにより光トランシーバ回路部における各種部品やボンディングワイヤ等を空間に晒すことなく保護樹脂によって覆い、結果、保護することができるという効果を奏する。本発明によれば、湿度の影響や使用時の振動による部品の劣化・脱落、ボンディングワイヤの剥がれ等を防ぐことができるという効果を奏する。この他、本発明によれば、光路変更部品と光トランシーバ回路部とを固定した状態で光素子の存在する空間に保護樹脂を注入することから、保護樹脂を空間内に溜めることができ、結果、光素子を覆う保護樹脂の表面を平面にすることができるという効果を奏する。これにより、保護樹脂を加味した光学設計を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0028】
請求項5に記載された本発明によれば、貫通孔を介しての異物混入を防止することができるという効果を奏する。
【0029】
請求項6に記載された本発明によれば、従来の光コネクタハウジングの構造を大きく変更することがなく、また、小型となる1芯双方向光通信コネクタを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の1芯双方向光通信モジュール及び1芯双方向光通信コネクタを示す斜視図である。
【図2】1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。
【図3】光トランシーバ回路部及び光学部の斜視図である。
【図4】1芯双方向光通信モジュールの分解斜視図である。
【図5】図4とは異なる角度から見た場合の1芯双方向光通信モジュールの分解斜視図である。
【図6】光路変更部品の斜視図である。
【図7】光フィルタを搭載した状態が見える光学部の断面図である。
【図8】送信(λ1)及び受信(λ2)の光経路を示すモジュール断面図である。
【図9】送信(λ1)の光経路を示すモジュール断面図である。
【図10】受信(λ2)の光経路を示すモジュール断面図である。
【図11】他の例となる送信(λ1)及び受信(λ2)の光経路を示すモジュール断面図である。
【図12】他の例(45゜プリズム面の位置にミラーを形成)となる1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。
【図13】他の例(リジッド基板の光トランシーバ回路部)となる1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。
【図14】他の例(フレキシブル−リジッド基板の光トランシーバ回路部)となる1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。
【図15】他の例となる1芯双方向光通信モジュールに係る図であり、光路変更部品と光トランシーバ回路部の斜視図である。
【図16】図15の状態から光路変更部品と光トランシーバ回路部とを固定するとともに、保護樹脂を注入した状態を示す斜視図である。
【図17】図16の状態から光フィルタ、光フィルタ固定部品、及び光学面保護部品を固定する直前の状態を示す斜視図である。
【図18】図17の状態から1芯双方向光通信モジュールの組み立てが完了した状態を示す斜視図である。
【図19】図17の状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1芯双方向光通信モジュールは、発光素子及び受光素子を並列配置してなる光トランシーバ回路部を備えるとともに、光ファイバの光軸が光トランシーバ回路部に対し略垂直となる構造に光路変更部品を形成してなる。言い換えれば、光ファイバの挿抜方向が光トランシーバ回路部に対し略垂直となる構造に光路変更部品を形成してなる。
【0032】
また、1芯双方向光通信コネクタは、上記1芯双方向光通信モジュールと、この光トランシーバ回路部に対し光ファイバの光軸が略垂直となるよう上記1芯双方向光通信モジュールを収容する光コネクタハウジングとを備えてなる。
【実施例1】
【0033】
以下、図面を参照しながら第1実施例を説明する。図1は本発明の1芯双方向光通信モジュール及び1芯双方向光通信コネクタを示す図である。また、図2は1芯双方向光通信モジュールの斜視図、図3は光トランシーバ回路部及び光学部の斜視図、図4及び図5は1芯双方向光通信モジュールの分解斜視図、図6は光路変更部品の斜視図、図7は光フィルタを搭載した状態が見える光学部の断面図、図8〜図10は光経路を示すモジュール断面図である。
【0034】
図1において、引用符号1は本発明の1芯双方向光通信モジュールを示している。また、引用符号2は本発明の1芯双方向光通信コネクタを示している。この1芯双方向光通信コネクタ2は、絶縁性を有する合成樹脂製の光コネクタハウジング3と、図示しないシールドケースとを備えており、光コネクタハウジング3に1芯双方向光通信モジュール1が装着されるようになっている。
【0035】
光コネクタハウジング3は、この前側に相手側光通信コネクタ(光コネクタ)を嵌合させるためのコネクタ嵌合部4を有している。また、光コネクタハウジング3は、この後側に1芯双方向光通信モジュール1を装着するための装着部5を有している。光コネクタハウジング3は、従来の2芯の光コネクタハウジングと基本的に同じ構造で形成されている。
【0036】
1芯双方向光通信モジュール1は、光コネクタハウジング3に対し矢印方向から装着されるようになっている。以下、1芯双方向光通信モジュール1について説明する。
【0037】
図2ないし図5において、1芯双方向光通信モジュール1は、光トランシーバ回路部21と光学部22とを備えて構成されている。光トランシーバ回路部21は、回路部本体23と、この回路部本体23からのびる複数のリードフレーム24とを備えて構成されている。一方、光学部22は、光路変更部品25と、光フィルタ26と、光フィルタ固定部品27と、光学面保護部品28とを備えて構成されている。
【0038】
回路部本体23は、硬く柔軟性のない絶縁体基材からなる回路基板29と、発光素子30及び受光素子31と、これら光素子を駆動する駆動回路32とを有している。発光素子30及び受光素子31は、近接した状態で回路基板29の同一面に面実装されている。受信光及び送信光は、回路基板29に対して垂直に入出射するようになっている。送信/受信光は、2波長(λ1/λ2)が用いられるようになっており(通信相手側の光通信モジュールは送信/受信=λ2/λ1)、これに対応するような発光素子30及び受光素子31が本実施例では使用されている。
【0039】
本実施例において、発光素子30は、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)[発光波長λ1=850nm、λ2=780nm]が用いられている。また、受光素子31は、Si−PINフォトダイオードが用いられている(一例であるものとする)。複数のリードフレーム24は、1芯双方向光通信コネクタ2の実装先となる図示しない回路基板に差し込まれ、所定の回路に半田付けされるようになっている。
【0040】
ここで矢印Pを上下方向、矢印Qを前後方向、矢印Rを左右方向と定義する(図4及び図5参照)。
【0041】
光路変更部品25は、透明樹脂製[エポキシ、シクロオレフィン、PMMA、PCなど]の成形部品であって、部品本体33と、この部品本体33の前端に一体成形されるスリーブ34とを有している。光路変更部品25は、送信側の光学部分(発光素子30からの送信光を光ファイバに結合する部分)と、受信側の光学部分(光ファイバからの受信光を受光素子31に結合する部分)と、スリーブ34とが一体に形成されたものとなっている(スリーブ34を一体化することが好ましいが、別体、すなわちスリーブ34の機能を光コネクタハウジング3に持たせても良いものとする)。
【0042】
部品本体33は、この後端が光トランシーバ回路部21の回路部本体23に対し固定されるように形成されている。具体的には(特に限定するものでないが)、後端に凸部35aが形成されている。また、回路部本体23には、凹部35bが形成されている。例えば、接触し合う面に接着剤を塗布した状態で後端と回路部本体23とを嵌合させると、これらの固定が完了するようになっている。
【0043】
部品本体33の左右両側部には、光フィルタ搭載部36と、プリズム37とが形成されている。光フィルタ搭載部36及びプリズム37は、上記左右両側部をそれぞれ切り欠くようにして形成されている。部品本体33は、これを上方から見た場合、略Z字状となる形状に形成されている(上記切り欠きによって略Z字状となる形状に形成されている)。光フィルタ搭載部36は、光フィルタ26を45゜の傾きで搭載することができるように形成されている。このような光フィルタ搭載部36には、くり貫き部38が形成されている(図6、図7参照)。くり貫き部38は、光フィルタ26の中心部分に対応する光フィルタ搭載部36の斜面をくり貫くようにして形成されている。
【0044】
光路変更部品25は、くり貫き部38の前後にレンズ39、40を有している。レンズ39、40は、それぞれ凸レンズ形状に形成されている。レンズ39はスリーブ34内に突出するように、また、レンズ40は部品本体33の後端から突出するように配置形成されている。レンズ39、40は、本実施例において、光ファイバ41(図8参照)及び受光素子31の位置に合わせて配置形成されている。
【0045】
プリズム37は、光信号を90゜曲げする部分として形成されている。プリズム37で90゜曲げされた光信号は、更に光フィルタ26で反射され90゜曲げられる。プリズム37における引用符号42は、45゜プリズム面を示している。45゜プリズム面42は、45゜の傾斜となる反射面であって、外気(空気)と接するように形成されている(他の例は実施例3で説明する)。このようなプリズム37の位置に合わせるように、部品本体33の後端にはレンズ43が突出形成されている。レンズ43は、凸レンズ形状であって、発光素子30に対向するように配置形成されている。
【0046】
スリーブ34は、筒状となる部分として形成されている。スリーブ34は、図8に示す如く、光ファイバ41端末のフェルール44を案内することができるように形成されている。スリーブ34によりフェルール44を案内すると、光ファイバ41の端面はレンズ39から所定の距離があくようになっている。本実施例において、光ファイバ41はPCS(Polymer Clad Silica)[コア径φ200μm、クラッド径φ230μm]が用いられている(一例であるものとする)。
【0047】
光フィルタ26は、第一の光信号を透過し第二の光信号を反射するものであって、本実施例では受信光を透過し送信光を反射するようになっている。光フィルタ26は、誘電体多層膜フィルタ[基材:BK7]が用いられている。
【0048】
図2〜図5、及び図7において、光フィルタ固定部品27は、光路変更部品25の光フィルタ搭載部36との間に光フィルタ26を挟み込んで、この光フィルタ26の位置を固定することができるように形成されている。光フィルタ固定部品27は、部品本体33の側部の切り欠き部分に差し込まれ、そして、接着、溶着、圧入のいずれかにより固定されるようになっている(光フィルタ26は接着や溶着がなされないものとする)。このような光フィルタ固定部品27には、光フィルタ26を挟み込むための凹部45と、くり貫き部46とが形成されている。くり貫き部46は、光フィルタ26の中心部分に対応する凹部45の斜面をくり貫くようにして形成されている。
【0049】
図2ないし図5において、光学面保護部品28は、光路変更部品25の45゜プリズム面42の保護と汚れ防止のために備えられている。光学面保護部品28は、部品本体33の側部の切り欠き部分に対して差し込まれ、そして、接着、溶着、圧入のいずれかにより固定されるようになっている。光学面保護部品28には、くり貫き部47が形成されている。くり貫き部47は、光信号が透過/反射するプリズム37の中心部分に対応する部分をくり貫くようにして形成されている。くり貫き部47は、45゜プリズム面42を傷付けないような形状に形成されている。
【0050】
上記構成及び構造において、光路変更部品25の光フィルタ搭載部36に光フィルタ26を被せるようにして搭載し、この後に光フィルタ搭載部36と光フィルタ固定部品27とにより光フィルタ26を挟み込むと、図7に示す如くの状態に形成される。光フィルタ26は、接着等でない単なる挟み込みにより固定される。
【0051】
尚、光フィルタ26を従来同様に接着剤で固定した場合、次のような不具合が生じてしまうという虞がある。すなわち、熱膨張係数が小さいガラス(BK7など)やセラミックスでできた光フィルタ26と、熱膨張係数が大きな透明樹脂(エポキシ、シクロオレフィン、PMMA、PCなど)でできた光路変更部品25の光フィルタ搭載部36とを、仮に接着固定した場合、温度変化時に熱膨張係数差(約100倍異なる)による応力で光フィルタ26が破壊されたり、光フィルタ26が光フィルタ搭載部36から剥離したりする不具合が生じてしまうという虞がある。本発明では、光フィルタ26を接着せずに挟み込み、これによって固定をしていることから、温度変化時の応力を逃がすことができる。本発明では、光フィルタ26の剥離による特性劣化や光フィルタ26の破壊を防ぐことができる。
【0052】
光路変更部品25の45゜プリズム面42を保護するように光学面保護部品28を光路変更部品25に固定すると、図3に示す如くの状態に形成され、これにより光学部22が形成される。この後、光学部22を光トランシーバ回路部21の回路部本体23に固定すると、図2に示す如く1芯双方向光通信モジュール1の組み立てが完了する。
【0053】
次に、1芯双方向光通信モジュール1の光経路、具体的には送信側の光経路と、受信側の光経路とについてそれぞれ説明する。送信側の光経路については図8及び図9を参照し、受信側の光経路については図8及び図10を参照するものとする。
【0054】
図8及び図9において、発光素子30からの出射光、すなわち送信光は、この発光素子30の直上に配置されたレンズ43により平行光化された後、プリズム37に入射し、そして、45゜の傾斜を有する45゜プリズム面42によって全反射され、光路が上方に90゜曲げられる。この後、送信光は45゜の傾きで配置された光フィルタ26により反射され、更に90゜曲げられて光ファイバ41に面したレンズ39により集光される。そして、光ファイバ41に結合する(光フィルタ26は、送信光(波長λ1)を反射し、受信光(波長λ2)を透過する特性を持つものとする。尚、光ファイバ41の端面(近端、遠端)で反射した送信光(波長λ1)の戻り光は、光フィルタ26によって反射され、受光素子31には入らないようになっている。従って、モジュール自身の送信光を受信するような「混信(クロストーク)」を防止することができる)。
【0055】
図8及び図10において、光ファイバ41からの出射光、すなわち受信光は、光ファイバ41に面したレンズ39により平行光化された後に、45゜の傾きで配置された光フィルタ26を透過する。そして、受光素子31の直上に配置されたレンズ40により集光され、受光素子31に結合する。
【0056】
以上、図1ないし図10を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、光ファイバ41の挿抜方向が発光素子30及び受光素子31の並び方向に対して直交するような構造の光コネクタハウジング3に1芯双方向光通信モジュール1を組み付けることができる。従って、従来の光コネクタハウジング構造と比べて大きく変更する必要のないものにすることができる。
【0057】
また、本発明によれば、光路変更部品25によって送信光(波長λ1)の光路を2回90°曲げする(光路を折りたたむ)ことから、光路変更部品25の光路部分を小型化することができ、結果、1芯双方向光通信モジュール1や1芯双方向光通信コネクタ2の小型化を図ることができる。
【0058】
さらに、本発明によれば、送信光(波長λ1)の光路を2回90°曲げすることから、発光素子30及び受光素子31を回路基板29の同一面に近接して実装することができる。従って、1芯双方向光通信モジュール1や1芯双方向光通信コネクタ2の小型化を図ることができる。
【0059】
さらに、本発明によれば、光路変更部品25に直接光フィルタ26を搭載する構造であることから、光フィルタ搭載時の位置調整工程を従来と比べて簡易化することができる。
【0060】
さらに、本発明によれば、光路変更部品25の側部を切り欠いて光フィルタ搭載部36を形成することから、モジュールサイズの小型化を図ることができる。従って、1芯双方向光通信モジュール1や1芯双方向光通信コネクタ2の小型化を図ることができる。
【0061】
さらに、本発明によれば、光フィルタ搭載部36と光フィルタ固定部品27との間に光フィルタ26を挟み込むことから、温度変化時の光フィルタ26と光路変更部品25との熱膨張係数の違いによる応力を逃がし、光フィルタ26の破損や剥離を防止することができる。
【実施例2】
【0062】
以下、図面を参照しながら第2実施例を説明する。図11は送信(λ1)及び受信(λ2)の光経路を示すモジュール断面図である。尚、上記第1実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0063】
図11において、第2実施例では発光素子30及び受光素子31の配置を第1実施例と逆にしている(位置を入れ替えている)。発光素子30からの送信光は、光フィルタ26を透過した後に光ファイバ41に結合する。一方、光ファイバ41からの受信光は、光フィルタ26により反射されて90゜曲げられ、この後に45゜プリズム面42によって更に90゜曲げられる。そして、受光素子31に結合する(尚、光フィルタ26は、送信光(波長λ1)を透過し、受信光(波長λ2)を反射する特性を持つものとする)。第2実施例は第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例3】
【0064】
以下、図面を参照しながら第3実施例を説明する。図12は1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。尚、上記第1実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0065】
図12において、第3実施例の1芯双方向光通信モジュール51は、第1実施例で備えられていた光学面保護部品28(図2参照)を用いずに45゜プリズム面42の位置にミラー52を形成したものである。ミラー52は、「無電解メッキ」や「誘電体多層膜の蒸着」によって形成されている。第3実施例は、光学面保護部品28を不要にするための例であり、この他には光フィルタ26を搭載して、この反射により90゜曲げをするようにしても良いものとする。
【実施例4】
【0066】
以下、図面を参照しながら第4実施例を説明する。図13は本発明の1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。尚、上記第1実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0067】
図13において、第4実施例の1芯双方向光通信モジュール61は、第1実施例で備えられていた光トランシーバ回路部21(図2参照)に替えて、FR−4やFR−5などの図示のリジッド基板62を含む光トランシーバ回路部63にしたものである。
【実施例5】
【0068】
以下、図面を参照しながら第5実施例を説明する。図14は本発明の1芯双方向光通信モジュールの斜視図である。尚、上記第1実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0069】
図14において、第5実施例の1芯双方向光通信モジュール71は、第1実施例で備えられていた光トランシーバ回路部21(図2参照)に替えて、図示のフレキシブル−リジッド基板72を含む光トランシーバ回路部73にしたものである。
【実施例6】
【0070】
以下、図面を参照しながら第6実施例を説明する。図15ないし図19は他の例となる1芯双方向光通信モジュールに係る図である。尚、上記第1実施例及び第4実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0071】
図18において、第6実施例の1芯双方向光通信モジュール81は、リジッド基板62を含む光トランシーバ回路部63と、貫通孔82を付加してなる光学部22とを備えて構成されている。リジッド基板62には、発光素子30及び受光素子31(図19参照)が実装されている。発光素子30及び受光素子31は、図19に示すようにボンディングワイヤ83によって接続されている。
【0072】
光学部22は、貫通孔82を有する光路変更部品25と、光フィルタ26(図17参照)と、光フィルタ固定部品27と、光学面保護部品28とを備えて構成されている。光路変更部品25における貫通孔82は、図15に示すようにプリズム37から部品本体33の後端にかけて真っ直ぐな穴となるように貫通形成されている。貫通孔82は、送信光又は受信光の90゜曲げに影響を来さない位置に配置形成されている。貫通孔82は、図19に示すように、光路変更部品25と光トランシーバ回路部63とを固定した状態における発光素子30及び受光素子31の存在する空間84に対して連通するように形成されている。空間84は、本実施例において、部品本体33の後端が枠状になることにより形成されている。貫通孔82は、この貫通孔82に例えばディスペンサニードルを挿入して空間84に液状の保護樹脂(硬化させた状態は図19の保護樹脂85を参照)を注入することができる大きさに形成されている。
【0073】
上記構成及び構造において、1芯双方向光通信モジュール81の組み立てに関しては、先ず、図15及び図16に示すように光路変更部品25を光トランシーバ回路部63に接着等の所定の方法で固定をする。次に、図16に示すように光トランシーバ回路部63に固定された光路変更部品25の貫通孔82を介して保護樹脂を注入する。保護樹脂は、本実施例において、透明且つ柔軟(ゲル状の)なシリコーン樹脂を用いるものとする。保護樹脂は、図19に示すように発光素子30及び受光素子31などが完全に埋まる程度に空間84に注入され、この後に硬化して保護樹脂85となる。硬化した保護樹脂85は、この表面が平面86になる(平面86になることにより、保護樹脂85を加味した光学設計を容易に行うことができるという利点を有する)。発光素子30及び受光素子31などは、保護樹脂85によって覆われ保護される。
【0074】
図17及び図19において、光路変更部品25のフィルタ搭載部36に対し光フィルタ26を被せるようにして搭載し、この後にフィルタ搭載部36と光フィルタ固定部品27とで光フィルタ26を挟み込むように固定をすると、また、光路変更部品25のプリズム37に光学面保護部品28を固定すると(この時貫通孔82は光学面保護部品28によって覆われる)、図18に示すように1芯双方向光通信モジュール81の組み立てが完了する。
【0075】
本発明によれば、発光素子30及び受光素子31などを保護樹脂85によって保護していることから、湿度の影響や使用時の振動による部品の劣化・脱落、ボンディングワイヤの剥がれ等を防ぐことができるという効果を奏する。
【0076】
尚、保護樹脂85でこの表面を平面86にしない場合、例えば高粘度の保護樹脂を用いてポッティングする一般的な方法であれば、樹脂の表面張力によって光素子上の保護樹脂表面が不確定に斜めになり(略ドーム状の丸みのある形状になり)、光学特性に影響を来す可能性が十分にあるが、本発明においてはこのようなことはない。
【0077】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
1、51、61、71、81…1芯双方向光通信モジュール
2…1芯双方向光通信コネクタ
3…光コネクタハウジング
4…コネクタ嵌合部
5…装着部
21…光トランシーバ回路部
22…光学部
23…回路部本体
24…リードフレーム
25…光路変更部品
26…光フィルタ
27…光フィルタ固定部品
28…光学面保護部品
29…回路基板
30…発光素子
31…受光素子
32…駆動回路
33…部品本体
34…スリーブ
35a…凸部
35b…凹部
36…光フィルタ搭載部
37…プリズム
38、46、47…くり貫き部
39、40、43…レンズ
41…光ファイバ
42…45゜プリズム面
44…フェルール
45…凹部
52…ミラー
62…リジッド基板
63…光トランシーバ回路部
72…フレキシブル−リジッド基板
73…光トランシーバ回路部
82…貫通孔
83…ボンディングワイヤ
84…空間
85…保護樹脂
86…平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子及び受光素子の2種類の光素子と、第一の光信号を透過し第二の光信号を反射する光フィルタと、前記光素子及び光ファイバ間に介在して前記第一の光信号及び前記第二の光信号を透過する樹脂製の光路変更部品と、を備える1芯双方向光通信モジュールにおいて、
前記光素子を並列配置してなる光トランシーバ回路部を備えるとともに、前記光ファイバの光軸が前記光トランシーバ回路部に対し略垂直となる構造に前記光路変更部品を形成し、さらに、前記光フィルタ及び前記光路変更部品で前記第二の光信号の光路を2回90°曲げするように前記光路変更部品を形成し且つ前記光フィルタを配置する
ことを特徴とする1芯双方向光通信モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、
前記光路変更部品の側部を切り欠いて光フィルタ搭載部を形成するとともに、該光フィルタ搭載部との間に前記光フィルタを挟み込んで該光フィルタの位置を固定する光フィルタ固定部品を備える
ことを特徴とする1芯双方向光通信モジュール。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、
前記光ファイバ端末のフェルールを案内するスリーブを前記光路変更部品に一体形成する
ことを特徴とする1芯双方向光通信モジュール。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれか記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、
前記光路変更部品に、該光路変更部品と前記光トランシーバ回路部とを固定した状態における前記光素子の存在する空間に対して連通するような貫通孔を形成し、該貫通孔を介して前記空間に保護樹脂を注入する
ことを特徴とする1芯双方向光通信モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の1芯双方向光通信モジュールにおいて、
前記貫通孔を塞ぐ部品を備える
ことを特徴とする1芯双方向光通信モジュール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5いずれか記載の1芯双方向光通信モジュールと、該1芯双方向光通信モジュールの光トランシーバ回路部に対し光ファイバの光軸が略垂直となるよう前記1芯双方向光通信モジュールを収容する光コネクタハウジングと、を備える
ことを特徴とする1芯双方向光通信コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−224513(P2010−224513A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181173(P2009−181173)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】