説明

3次元免震装置

【課題】上下方向の振動を滑らかにして免震効果を高めることを可能にするとともに、水平力の伝達メカニズムを明確にすることを可能にした3次元免震装置を提供する。
【解決手段】上部構造体5と下部構造体2の間に介設して、上部構造体5の水平方向T1と上下方向T2の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置Aを、下部構造体2上に設置されて水平方向T1の振動を吸収する水平免震装置11と、水平免震装置11上に設置され、上下方向T2に延設された側壁部12bを備える架台12と、架台12上に設置されて上下方向T2の振動を吸収する第1上下免震装置13と、第1上下免震装置13と上部構造体5の間に介設された介設部材14と、介設部材14の水平方向T1両側端部と架台12の側壁部12bの間に介設されて上下方向T2の振動を吸収する第2上下免震装置15とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向及び上下方向の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高層建物などにおいては、建物と基礎の間など、上部構造体と下部構造体の間に免震装置を介設し、地震時に、上部構造体の固有周期を例えば地震動の卓越周期帯域から長周期側にずらし、応答加速度を小さくして揺れを抑えるようにしている。
【0003】
そして、この種の免震装置には、高減衰ゴムなどのゴム材と鋼板(弾性体と補剛体)を上下方向に交互に積層してなる積層ゴム型免震装置(積層ゴム体、水平免震装置)が多用されている。この積層ゴム型免震装置では、鉛直荷重に対してゴム材及び鋼板によって高ばね化され、水平荷重に対しては、ゴム材が水平方向に変形するように低ばね化されている。このため、地震時にゴム材が水平方向に変形することによって振動エネルギー(地震エネルギー)を吸収し、免震効果が発揮される。
【0004】
一方、上記従来の積層ゴム型免震装置では、水平方向の優れた免震効果が得られる反面、上下方向にはほとんど免震効果が発揮されない。
【0005】
これに対し、上部構造体の水平方向及び上下方向(鉛直方向)の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置が提案、実用化されている(例えば、特許文献1参照)。そして、3次元免震装置1には、例えば図2に示すように、下部構造体2と鉄骨架台3の間に介設された空気ばね(上下免震装置)4と、鉄骨架台3と上部構造体5の間に介設された積層ゴム型免震装置6と、下部構造体2と鉄骨架台3に繋げて設けられたせん断力伝達装置7を備えて構成したものがある。また、せん断力伝達装置7には、例えば図3に示すように、ロッド8とブッシュ9を係合させ、ロッド8とブッシュ9が摺動することによる摩擦で水平力を伝達させるスライド機構10が設けられている。
【0006】
そして、上記のように構成した3次元免震装置1においては、上部構造体5の水平方向T1の振動(水平変位)が積層ゴム型免震装置6によって吸収され、上下方向T2の振動(上下変位)が空気ばね4によって吸収されて、上部構造体5の水平方向T1及び上下方向T2の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−291918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の3次元免震装置1においては、空気ばね4が水平力Fに抵抗しないため、スライド機構10を設け、ロッド8とブッシュ9が摺動して生じる摩擦で水平力F(F´)を積層ゴム型免震装置6に伝達させるようにしているが、このスライド機構10は、上部構造体5からの曲げモーメントとせん断力を同時に受け、ロッド8とブッシュ9がこじれた状態で摺動する。このため、上下方向T2の振動が滑らかに伝達されず、複雑な応力状態になる(水平力F(F´)の伝達メカニズムが複雑になる)という問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、上下方向の振動を滑らかにして免震効果を高めることを可能にするとともに、水平力の伝達メカニズムを明確にすることを可能にした3次元免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の3次元免震装置は、上部構造体と下部構造体の間に介設して、前記上部構造体の水平方向と上下方向の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置であって、前記下部構造体上に設置されて水平方向の振動を吸収する水平免震装置と、前記水平免震装置上に設置され、上下方向に延設された側壁部を備える架台と、前記架台上に設置されて上下方向の振動を吸収する第1上下免震装置と、前記第1上下免震装置と前記上部構造体の間に介設された介設部材と、前記介設部材の水平方向両側端部と前記架台の側壁部の間に介設されて上下方向の振動を吸収する第2上下免震装置とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の3次元免震装置においては、前記水平免震装置及び/又は前記第2上下免震装置が積層ゴム体であることが望ましい。
【0013】
さらに、本発明の3次元免震装置においては、前記第1上下免震装置が空気ばねであることがより望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の3次元免震装置においては、下部構造体上に設置された積層ゴム型免震装置などの水平免震装置の上に、架台を介して空気ばねなどの第1上下免震装置を設置して構成されているため、空気ばねの上に積層ゴム型免震装置を設けて構成した従来の3次元免震装置と比較し、水平免震装置で水平方向の振動を吸収し、上部構造体に加えて架台や第1上下免震装置に作用する水平力を大幅に低減することが可能になる。
【0015】
また、上部構造体の上下方向の振動を空気ばねなどの第1上下免震装置で吸収することが可能になる。これとともに、介設部材の両側端部と架台の側壁部の間に、積層方向を水平方向に向けて設置した積層ゴム型免震装置などの第2上下免震装置によっても上部構造体の上下方向の振動を吸収することが可能になる。
【0016】
さらに、上部構造体と第1上下免震装置の間に介設された介設部材の両側端部と架台の側壁部との間に第2上下免震装置が設けられていることによって、従来の3次元免震装置のようにスライド機構を設けることなく、空気ばねなどの第1上下免震装置に作用するせん断力を第2上下免震装置の軸力で(介設部材と第2上下免震装置と架台(側壁部)で)処理することが可能になる。
【0017】
よって、本発明の3次元免震装置においては、ロッドとブッシュが摺動して生じる摩擦で水平力を伝達させる従来のスライド機構が不要になり、上下方向の振動を滑らかにして免震効果を高めることが可能になる。また、従来のスライド機構を備えた3次元免震装置と比較し、水平力の伝達メカニズムを明確にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る3次元免震装置を示す図である。
【図2】従来の3次元免震装置を示す図である。
【図3】従来の3次元免震装置のスライド機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る3次元免震装置について説明する。本実施形態は、上部構造体と下部構造体の間に介設して、上部構造体の水平方向と上下方向の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置に関するものである。
【0020】
本実施形態の3次元免震装置Aは、図1に示すように、水平免震装置11と架台12と第1上下免震装置13と介設部材14と第2上下免震装置15を備えて構成されている。
【0021】
水平免震装置11は、ゴム材と鋼板を交互に積層して形成した積層ゴム型免震装置であり、積層方向を上下方向T2に向け、下端を下部構造体2に繋げて、下部構造体2上に設置されている。
【0022】
架台12は、例えば鉄骨を用いて形成されるとともに、水平方向T1に延設された基台部12aと上下方向T2に延設された側壁部12bを備えて断面コ字状に形成され、基台部12aを水平免震装置11の上端に繋げて、水平免震装置11上に設置されている。
【0023】
第1上下免震装置13は、空気ばねであり、軸線方向(伸縮方向)を上下方向T2に向け、下端を架台12の基台部12aに繋げて、架台12上に設置されている。
【0024】
介設部材14は、例えば鉄骨であり、水平方向T1に延設されるとともに、第1上下免震装置13の上端と上部構造体5に繋げて、第1上下免震装置13と上部構造体5の間に介設されている。
【0025】
第2上下免震装置15は、ゴム材と鋼板を交互に積層して形成した積層ゴム型免震装置であり、積層方向を水平方向T1に向け、積層方向両端をそれぞれ、介設部材14の水平方向T1側端部と架台12の側壁部12bに繋げて、介設部材14の両側端部と架台12の側壁部12bの間に介設されている。
【0026】
そして、上記構成からなる本実施形態の3次元免震装置Aにおいては、地震時に、水平免震装置11が水平方向T1に変形することによって振動エネルギー(地震エネルギー)が吸収され、水平方向T1の免震効果が発揮される。
【0027】
また、このとき、積層ゴム型免震装置の水平免震装置11の上に、架台12を介して空気ばねの第1上下免震装置13を設置して構成されているため、空気ばね4の上に積層ゴム型免震装置6を設けて構成した従来の3次元免震装置1と比較し、水平免震装置11で水平方向T1の振動を吸収することで、上部構造体5に加えて架台12や第1上下免震装置13に作用する水平力F´が地震力(水平力)Fの例えば1/4程度になり、大幅に低減する。
【0028】
また、上部構造体5の上下方向T2の振動は、空気ばねの第1上下免震装置13が伸縮することによって吸収され、この第1上下免震装置13で上下方向T2の免震効果が発揮される。さらに、本実施形態の3次元免震装置Aにおいては、介設部材14の両側端部と架台12の側壁部12bの間に、積層方向を水平方向T1に向けて設置した積層ゴム型免震装置の第2上下免震装置15が設けられているため、この第2上下免震装置15が上下方向T2に変形することによっても振動エネルギーが吸収され、さらなる上下方向T2の免震効果が発揮される。
【0029】
また、このように介設部材14の側端部と架台12の側壁部12bの間に第2上下免震装置15が設けられていることによって、地震時に空気ばねの第1上下免震装置13に作用するせん断力が第2上下免震装置15の軸力で(介設部材14と第2上下免震装置15と架台12の側壁部12bで)処理される。
【0030】
したがって、本実施形態の3次元免震装置Aにおいては、下部構造体2上に設置された積層ゴム型免震装置の水平免震装置11の上に、架台12を介して空気ばねの第1上下免震装置13を設置して構成されているため、空気ばね4の上に積層ゴム型免震装置6を設けて構成した従来の3次元免震装置1と比較し、水平免震装置11で水平方向T1の振動を吸収し、上部構造体5に加えて架台12や第1上下免震装置13に作用する水平力F(F´)を大幅に低減することが可能になる。
【0031】
また、上部構造体5の上下方向T2の振動を空気ばねの第1上下免震装置13で吸収することが可能になる。これとともに、介設部材14の両側端部と架台12の側壁部12bの間に設置した積層ゴム型免震装置の第2上下免震装置15によっても上部構造体5の上下方向T2の振動を吸収することが可能になる。
【0032】
さらに、上部構造体5と第1上下免震装置13の間に介設された介設部材14の両側端部と架台12の側壁部12bとの間に第2上下免震装置15が設けられていることによって、従来の3次元免震装置1のようにスライド機構10を設けることなく、空気ばねの第1上下免震装置13に作用するせん断力を第2上下免震装置15の軸力で(介設部材14と第2上下免震装置15と架台12(側壁部12b)で)処理することが可能になる。
【0033】
よって、本実施形態の3次元免震装置Aにおいては、ロッド8とブッシュ9が摺動して生じる摩擦で水平力Fを伝達させるスライド機構10が不要になり、上下方向T2の振動を滑らかにして免震効果を高めることが可能になる。また、従来のスライド機構10を備えた3次元免震装置1と比較し、水平力Fの伝達メカニズムを明確にすることが可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る3次元免震装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、水平免震装置11と第2上下免震装置15が積層ゴム型免震装置であるものとして説明を行ったが、本発明にかかる水平免震装置及び/又は第2上下免震装置は、水平方向T1あるいは上下方向T2の振動を吸収でき、第1上下免震装置13に作用するせん断力を処理することが可能であれば、例えば粘性ダンパー、粘弾性ダンパーなどを積層ゴム型免震装置と組み合わせたものや、すべり支承、リニアレールなどの他の免震装置であってもよい。また、第1上下免震装置13が空気ばねであるものとしたが、この第1上下免震装置13においても、上下方向T2の振動を吸収することが可能であれば、例えばコイルばねなど、他の免震装置であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 従来の3次元免震装置
2 下部構造体
3 鉄骨架台
4 空気ばね
5 上部構造体
6 積層ゴム型免震装置
7 せん断力伝達装置
8 ロッド
9 ブッシュ
10 スライド機構
11 水平免震装置(積層ゴム型免震装置)
12 架台
12a 基台部
12b 側壁部
13 第1上下免震装置(空気ばね)
14 介設部材
15 第2上下免震装置(積層ゴム型免震装置)
A 3次元免震装置
F 水平力(地震力)
F´ 水平力
T1 水平方向
T2 上下方向(鉛直方向)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体の間に介設して、前記上部構造体の水平方向と上下方向の双方の振動に対してそれぞれ免震効果を発揮する3次元免震装置であって、
前記下部構造体上に設置されて水平方向の振動を吸収する水平免震装置と、
前記水平免震装置上に設置され、上下方向に延設された側壁部を備える架台と、
前記架台上に設置されて上下方向の振動を吸収する第1上下免震装置と、
前記第1上下免震装置と前記上部構造体の間に介設された介設部材と、
前記介設部材の水平方向両側端部と前記架台の側壁部の間に介設されて上下方向の振動を吸収する第2上下免震装置とを備えて構成されていることを特徴とする3次元免震装置。
【請求項2】
請求項1記載の3次元免震装置において、
前記水平免震装置及び/又は前記第2上下免震装置が積層ゴム体であることを特徴とする3次元免震装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の3次元免震装置において、
前記第1上下免震装置が空気ばねであることを特徴とする3次元免震装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−42016(P2012−42016A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185329(P2010−185329)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【Fターム(参考)】