説明

Cu合金スパッタリングターゲットおよび半導体装置のCu配線膜の製造方法

【課題】 ガラス基板やSi系膜との密着性に優れ、SiとCuとにおける高い拡散バリア性を有し、尚且つ水素プラズマ雰囲気に曝されても膜の膨れや膜剥がれが発生し難い、下地膜等を得るためのCu合金スパッタリングターゲットおよび半導体装置のCu配線膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットである。また、本発明は、Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットをスパッタリングして下地膜を形成し、次いで該下地膜上にCu系配線膜をスパッタリングにより形成する半導体装置のCu配線膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面表示装置に用いられる密着性やバリア性を有する配線膜等を形成するために使用されるCu合金スパッタリングターゲットおよび半導体装置のCu配線膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、平面表示装置に使用される薄膜トランジスタ(以下、TFTと略す)等の半導体装置においては、電子回路の高集積化や表示装置の大型化による応答速度の高速化の進展に伴い、配線膜の低電気抵抗化が求められている。現在、低抵抗の配線膜としては、主にAl系の材料(純AlやAlを主成分とした合金)が用いられており、更なる低抵抗化が要求されているため、Cu系の材料(純CuやCuを主成分とした合金)の採用が検討されている。
【0003】
TFT等の半導体電子部品において、配線膜はガラス基板やSi系膜上に形成される。しかし、純CuやCu合金を配線膜として適用しようとすると、ガラス基板との密着性が確保できないという問題、あるいはSi系膜に対しては、Cuとの相互拡散により、TFTの特性が悪化するといった問題が確認されている。
これらの問題を解決するために、例えば下地膜として、酸化Cu下地膜あるいは酸化Cu合金下地膜を形成して、密着性を改善したり相互拡散を防止したりすることが種々提案されている。
また、これらの下地膜を形成する手法としては、酸素を含む雰囲気でスパッタリングする方法や酸素を含むターゲットを用いてスパッタリングする方法が提案されており、本発明者もCuと、Cuよりも酸化物標準生成自由エネルギーが小さい元素と、酸素とから成るスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングする方法を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−77530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1で具体的に提示したCuとMo、Mn、B、Ti、Zr、Niと酸素からなるスパッタリングターゲットを用いて形成した下地膜についての評価を進めてきた。その結果、ガラス基板との密着性の問題は解決されるものの、たとえばTFT形成プロセス中に水素プラズマ雰囲気に曝された際に、膜に膨れが発生したり、膜剥がれが発生したりするという新たな問題に直面した。また、配線膜中のCuとSiの相互拡散については、拡散バリア性をさらに高める必要があることを確認した。
本発明の目的は、ガラス基板やSi系膜との密着性に優れ、SiとCuとにおける高い拡散バリア性を有し、尚且つ水素プラズマ雰囲気に曝されても膜の膨れや膜剥がれが発生し難い下地膜等を得るためのCu合金スパッタリングターゲットおよび半導体装置のCu配線膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットである。
また、本発明は、Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットをスパッタリングして下地膜を形成し、次いで該下地膜上にCu系配線膜をスパッタリングにより形成する半導体装置のCu配線膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCu合金スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングにより得られたCu配線膜は、酸素含有によりガラス基板やSi系膜との良好な密着性を有するとともに、SiとCuとの相互拡散を防止する拡散バリア性を有する。また、TFT形成プロセス中に水素プラズマ雰囲気に曝されても膜に膨れや膜剥がれが発生しない、水素プラズマ耐性を兼ね備えたCu配線膜となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の重要な特徴は、生成膜のガラス基板やSi系膜に対する密着性、SiとCuとの拡散バリア性、水素プラズマ耐性を兼ね備えるために、スパッタリングターゲットのマトリックスのCuに特定量のCe酸化物を添加した点にある。以下に本発明を詳しく説明する。
【0009】
本発明のCu合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングにより得られたCu配線膜は、Ce酸化物の添加により拡散バリア性を著しく向上できる。この理由は明確ではないが、Siとの界面にCe酸化物が濃化した層が形成されることから、このCe酸化物層が拡散バリア性に寄与していると考えられる。
【0010】
本発明のCu合金スパッタリングターゲット中に含まれるCe酸化物の添加量の下限値は、25質量%とする。これは、Ce酸化物の添加量が25質量%未満では、得られる下地膜の拡散バリア性を十分に確保できないからである。
一方、Ce酸化物の添加量の上限値は、53質量%とする。これは、Ce酸化物の添加量が多くなるにつれて、得られる下地膜の拡散バリア性が向上するものの、スパッタリングターゲット中に絶縁体であるCe酸化物を、53質量%を越えて含有した場合には、スパッタリング中に異常放電が発生し、安定してスパッタリングできなくなるからである。
また、TFT形成における配線加工は、基板全面に下地膜およびCu配線膜を形成し、その後フォトレジストを塗布して、エッチング液を用いたエッチングにより行う。下地膜に53質量%を超えてCe酸化物を含む場合は、エッチング液によるエッチングがされ難くなりエッチング残渣が発生し、配線加工が困難になるといった問題がある。本発明は、エッチング残渣の発生を抑制しエッチング性を向上させるために、Ce酸化物の添加量の上限を53質量%以下とする。好ましくは、50質量%以下である。
【0011】
本発明で添加するCe酸化物としては、CeOおよびCeの2種類があり、原料の入手しやすさ、および酸化物の安定性の点からCeOを用いることが好ましい。スパッタリングターゲット中のCe酸化物の存在形態は、X線回折分析により特定することができる。
【0012】
上述したように、下地膜は、ガラス基板やSi系膜上に形成される場合がある。ガラス基板やSi系膜上に下地膜が形成される場合には、水素プラズマ雰囲気に曝される工程があり、これにより膜に膨れや剥離が発生することがある。下地膜にCu酸化物(CuOまたはCuO)を含んでいる場合には、原子径の小さい水素原子は、積層した純Cu膜を透過して下地膜まで到達してCu酸化物を還元して水を生成してしまい、その結果、膜に膨れや剥離が発生すると考えられる。このため、本発明のCu合金スパッタリングターゲットは、不純物として含有する可能性のあるCu酸化物を0.01質量%未満に抑えることが好ましい。
【0013】
また、本発明のCu合金スパッタリングターゲットは、CuとCe酸化物が主たる構成成分であり、場合によっては不可避的に含まれる不純物も含み得る。不可避的な不純物はできるだけ含有量が少ないことが望まれ、本発明の作用を損なわない範囲で、酸素以外のガス成分である窒素、あるいは炭素、Ce以外の遷移金属等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の窒素は150質量ppm以下、炭素は350質量ppm以下とすることが好ましい。
【0014】
スパッタリングターゲットの製造方法については種々あり、一般的にスパッタリングターゲットに要求される高純度、均一組織、高密度を達成できるものであればよい。特に、組織の均一性の点から粉末冶金法が適しており、例えば、Cu粉末とCe酸化物粉末を混合した混合粉末を熱間静水圧プレス(HIP)やホットプレスにより焼結する方法が適用できる。なお、スパッタリングターゲットとして安定して使用可能な相対密度95%以上を得るためには、焼結温度はCu、Ce酸化物が溶融しない範囲であれば高い程よく500〜1000℃、焼結時の加圧圧力は20MPa以上、焼結時間は0.5〜10時間にすることが望ましい。
【0015】
本発明において、上述したCu合金スパッタリングターゲットでスパッタリングして下地膜を形成し、次いで該下地膜上にCu系配線膜をスパッタリングにより形成することでCu配線膜が得られる。すなわち、本発明におけるCu配線膜は下地膜およびその上に形成されたCu系配線膜の2層から構成されるが、必要に応じて基板と下地膜との間に例えばSi下地膜などの他の下地膜を設けて3層で構成してもよい。下地膜上に形成するCu系配線膜としては、純Cuのみではなく、種々のCu合金が適用できる。低抵抗である純CuをCu系配線膜とする場合は、Cu合金に比べてCuの拡散性が高く拡散バリア性がもっとも要求される。従い本発明のCu合金スパッタリングターゲットの適用による拡散バリア性の高い下地膜の形成はこの場合に特に有効に作用する。
【実施例】
【0016】
純度99.9%、粒度分布(d50)が100μmのCu粉末および大気中で加熱処理を施し酸素導入したCu粉末を準備した。各Cu粉末の酸素含有量を表1に示す。
次に、表1に示すCu粉末と、添加元素粉末として粒度分布(d50)が20μmのCeO粉末および粒度分布(d50)が2μmのY粉末を準備し、Cu粉末と添加元素粉末を表2に示す割合で混合して、軟鋼製の加圧容器に充填した。その後、温度950℃、圧力120MPa、1時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)による加圧焼結を施してCu合金焼結体を作製した。次に、得られた焼結体を機械加工して、直径164mm×厚さ5mmのスパッタリングターゲットを得た。
また、各スパッタリングターゲットにおける金属元素の定量分析をICP発光分析、および酸素の定量を非分散型赤外線吸収法により行った。また、酸化物の存在形態はX線回折分析により測定した。その後、前記の定量値とX線回折分析で得られた回折ピークからスパッタリングターゲット中における金属元素および酸化物量を決定した。結果を表3に示す。尚、表3中の「無し」とは、X線回折分析で回折ピークが得られていないことを指す。
【0017】
次に、スパッタ装置(キャノンアネルバ株式会社製、型式番号:C−3010)を用いて、ガラス基板(コーニング社製 製品番号:1737)上にSi系下地膜として膜厚50nmのSi膜を形成した。その後、試料No.1〜No.10の各スパッタリングターゲットを使用して、膜厚50nmの下地膜を上記Si膜上にスパッタリング成膜し、その下地膜上にCu系配線膜として膜厚200nmの純Cu膜を形成し、積層膜を得た。このときのスパッタ放電の条件は、圧力0.5Paのアルゴンガス雰囲気下で、投入電力は1000Wとした。
また、下地膜中の酸素の存在形態を確認するために、試料No.1〜No.10の各スパッタリングターゲットを用いて、ガラス基板上に下地膜のみを200nmの厚さで形成した。そして、X線回折分析により、下地膜中の元素および酸素の存在形態を確認した。結果を表4に示す。
【0018】
(1)密着性評価
密着性の評価は、JIS K 5400に準じて行った。密着性試験として、上記で得た積層膜に2mm間隔で碁盤目に切り目を入れてマス目を作製した後、積層膜表面にテープを貼り、引き剥がしたときにガラス基板上に残ったマス目を面積率で評価した。
その結果、試料No.1〜No.11何れのスパッタリングターゲットを用いて下地膜を形成した場合においても、全てのマス目で積層膜が残り、ガラス基板に対して良好な密着性を有していることを確認した。
(2)水素プラズマ耐性評価
上記で得られた積層膜を、TFT製造工程におけるチャンネル形成の後工程に行なわれる水素プラズマ処理を想定して水素プラズマ処理を施し、処理後の積層膜表面を25mm×25mmの範囲で走査型電子顕微鏡により観察し、膨れまたは膜剥がれの有無を観察し、膨れまたは膜剥がれが観察されたものを×、観察されなかったものを○とした。結果を表5に示す。
(3)Si拡散バリア性の評価
上記で得られた積層膜に関して以下の評価を行った。Si膜上に形成した積層膜を0.1Pa以下に減圧した真空雰囲気で加熱温度を250℃として、それぞれ1時間の加熱処理を施した。次に、加熱処理した基板のガラス基板側から、ガラス基板を通してSi膜の反射率を測定した。この反射率の測定値をそれぞれ加熱前後で比較し、Si膜の反射率が5%以上減少していればSi拡散が発生したものと判定し×、反射率が5%未満変化していなければ○とした。結果を表5に示す。
(4)エッチング性評価
Si膜上に、上記で得られた試料No.1〜No.6のスパッタリングターゲットを用いて下地膜を形成した。次に、この下地膜上に、フォトレジストを塗布して乾燥させ、エッチング液を用いてエッチングにより配線パターンを形成した。配線間にエッチングされずに残ったエッチング残渣を走査型電子顕微鏡により観察し、エッチング残渣の有無でエッチング性の評価を行った。配線間にエッチングされずに残ったエッチング残渣を10μm×15μmの範囲で走査型電子顕微鏡により観察し、エッチング残渣が占める面積率を測定した。結果を表5に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
表4および表5から、Ce酸化物を本発明の範囲で添加した試料No.1〜No.4のスパッタリングターゲットで得られたCu配線膜は、水素プラズマ処理後においても膜に膨れや剥離が発生せず、水素プラズマ耐性を有し、さらに配線パターンを潰さないほどにエッチング残渣も少ないことからエッチング性も優れていることが確認できた。
一方、Ce酸化物以外にCu酸化物を含む比較例の試料No.8、No.9は、水素プラズマ処理後において膜に膨れや剥離が発生したことを確認した。また、Ce酸化物を本発明の範囲より多く含む試料No.5、No.6は、配線パターンを潰すほどにエッチング残渣が多く、エッチング性に劣ることを確認した。また、Yを添加した試料No.10では水素プラズマ耐性は良好であるが、拡散バリア性を有していないことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなることを特徴とするCu合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Ce酸化物を25〜53質量%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットをスパッタリングして下地膜を形成し、次いで該下地膜上にCu系配線膜をスパッタリングにより形成することを特徴とする半導体装置のCu配線膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−140704(P2012−140704A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269975(P2011−269975)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】