説明

ESD保護素子

【課題】ESD耐量及びノイズ耐性を向上させたESD保護素子を提供する。
【解決手段】本発明によるESD保護素子は、NPNバイポーラトランジスタTr1と、一端がパッド10に接続されたトリガ素子20とを具備する。NPNバイポーラトランジスタTr1は、第1ベース拡散層204と、パッド10に接続されたコレクタ拡散層4と、第1ベース拡散層204上に形成され、第1配線L1を介してトリガ素子20の他端に接続されたトリガタップ1と、第1ベース拡散層204上に形成され、第1配線L1と異なる第2配線L2を介してGNDに共通接続されたエミッタ拡散層2及び第2ベース拡散層3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気放電(ESD:Electrostatic Discharge)から内部回路を保護するためのESD保護素子に関し、特にNPNバイポーラトランジスタを用いたESD保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で使用され半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)に対して信頼性の向上が要求されている。例えば、車載カーナビ用や医療用の液晶モニタ用のドライバ回路のように、故障が発生することで人命に影響を及ぼす製品に利用されるICに対しては、特に高い信頼性が要求される。このような、製品の高信頼性を実現するためには、外部からの過電圧(静電気放電)に対して強くする必要がある。すなわち、ESD耐量の高いICが求められている。
【0003】
LSI(Large Scale Itegration)のESD耐性を高めるため、LSIチップの内部回路と外部(入出力パッド)との間にESDに対する保護素子(ESD保護素子)が設けられる。ESD保護素子は、静電気放電(ESD)によって発生するサージ電流の経路を変更し、LSIの内部回路が破壊されることを防止する。
【0004】
一般に、ESD保護素子として、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)、NPNバイポーラトランジスタ、サイリスタが用いられている。例えば、NPNバイポーラトランジスタを利用したESD保護素子が、“ESD Protection Considerations In Advanced High−Voltage Technologies for Automotive”(非特許文献1参照)や、IEEE JOURNAL OF SOLID−STATE CIRCUITS, VOL.40, NO.8,P.1751 AUGUST 2005(非特許文献2参照)に記載されている。
【0005】
NPNバイポーラトランジスタを利用したESD保護素子では、ESDによる高電圧によってNPNバイポーラトランジスタのベース電位が引き上げられることで、バイポーラ動作を開始し、サージ電流がNPNバイポーラトランジスタを介して流れる。これによりパッドに接続された内部回路にサージ電流が流れ込むのを防ぐことができる。通常、ベース電位が上昇することによって発生するジャンクションブレークダウンがトリガとなってバイポーラ動作が始まる。しかし、ジャンクションブレークダウンが局所的に発生する場合、当該箇所に電流が集中するため、ベース幅方向(W方向)に対してサージ電流の電流密度にバラツキが生じ、ESD耐量が低下してしまう。
【0006】
このため、バイポーラ動作のトリガをNPNバイポーラトランジスタ自身のブレークダウンではなく、外部に配置したトリガ素子によって行なうことで、上述のようなESD耐量の低下を改善することができる。例えば、米国特許5850095にトリガ素子を備えたNPNバイポーラトランジスタによるESD保護素子が記載されている(特許文献1参照)。
【0007】
図1は、特許文献1に記載のESD保護素子の断面構造を示す図である。図2は、特許文献1に記載のESD保護素子の等価回路を示す図である。
【0008】
図1及び図2を参照して、特許文献1に記載のESD保護素子の構造及び動作を説明する。図1を参照して、特許文献1に記載のESD保護素子は、Z軸方向下層からP型基板101(P−sub)、N型埋め込み層102(NBL)が形成され、そのZ軸方向上層にN型ウェル103が形成される。N型ウェル103上にはベース領域として機能するP型ウェル104が形成される。P型ウェル104上にはベース端子B10として機能する高濃度P型拡散層105(以下、P+ベース拡散層105と称す)と、エミッタ端子E10として機能する高濃度N型拡散層106(以下、N+エミッタ拡散層106と称す)とが設けられている。又、N型埋め込み層102上には、コレクタ端子C10として機能する高濃度N型拡散層107(以下、N+コレクタ拡散層107と称す)が設けられている。
【0009】
P+ベース拡散層105はトリガ素子(ダイオード200)を介してパッド100に接続されるとともに、抵抗素子300(R10)を介して接地される。N+エミッタ拡散層106は接地される。N+コレクタ拡散層107はパッド100に接続される。パッド100は、図示しない内部回路に接続されている。トリガ素子は、アノードがP+ベース拡散層105に接続され、カソードがパッド100及びN+コレクタ拡散層107に接続されたダイオード200である。このような構造により、従来技術によるESD保護素子は、図2に示す等価回路で表される。
【0010】
図2を参照して、ESDによってパッド100に印加された電圧が、ダイオード200の降伏電圧を超えると、ベース端子B10からGND方向に電流が流れる。このとき、ベース端子B10とGND間に設けられた抵抗素子300によって、ベース端子B10の電圧(ベース電位)は上昇し、ESDによるサージ電流がコレクタ端子C10とエミッタ端子E10との間に流れ始める。すなわち、トリガ素子によるトリガによってバイポーラ動作が開始され、内部回路にサージ電流が流れることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許5850095
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“ESD Protection Considerations In Advanced High−Voltage Technologies for Automotive”, EOS/ESD SYMPOSIUM 2006, P.54
【非特許文献2】IEEE JOURNAL OF SOLID−STATE CIRCUITS, VOL.40, NO.8, P. 1751 AUGUST 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図1を参照して、ESD保護素子のノイズ耐性について説明する。コレクタ(N+拡散層107)とベース(P型ウェル104)との間に、寄生のジャンクション容量(Ccb)があるため、ベース電位は、エミッタ電位よりもR10×Ccbで決まる時間遅れる。このとき、瞬間的にベース電位がエミッタ電位より高い電位になり、P型ウェル104(ベース領域)とN+エミッタ拡散層106との間で構成されるPNダイオードが導通する。すなわち、小さなノイズでもESD保護素子は動作し、パッドとGND間にサージ電流を流してしまう。特許文献1に記載のESD保護素子は、ベース電位を引き上げるために外付けの抵抗素子300を利用している。この抵抗素子300のため、ESD保護素子のノイズ耐性は低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下に、[発明を実施するための形態]で使用される番号・符号を括弧付きで用いて、[課題を解決するための手段]を説明する。この番号・符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであるが、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0015】
本発明によるESD保護素子は、NPNバイポーラトランジスタ(Tr1)と、一端がパッド(10)に接続されたトリガ素子(20)とを具備する。NPNバイポーラトランジスタ(Tr1)は、第1ベース拡散層(204)と、パッド(10)に接続されたコレクタ拡散層(4)と、第1ベース拡散層(204)上に形成され、第1配線(L1)を介してトリガ素子(20)の他端に接続されたトリガタップ(1)と、第1ベース拡散層(204)上に形成され、第1配線(L1)と異なる第2配線(L2)を介して電源(GND)に共通接続されたエミッタ拡散層(2)及び第2ベース拡散層(3)とを備える。
【0016】
本発明によるESD保護素子は、コレクタ同士が接続された第1NPNバイポーラトランジスタ(Tr11)及び第2NPNバイポーラトランジスタ(Tr12)と、トリガ素子(30)とを具備する。第1NPNバイポーラトランジスタ(Tr11)は、第1ベース拡散層(314)、第1トリガタップ(11)、第1エミッタ拡散層(21)、及び第2ベース拡散層(31)を備える。第1トリガタップ(11)は、第1ベース拡散層(314)上に形成され、第1配線(L11)を介してトリガ素子(30)の一端に接続される。第1エミッタ拡散層(21)及び第2ベース拡散層(31)は、第1ベース拡散層(314)上に形成され、第1配線(L1)と異なる第2配線(L2)を介してパッド(10)に共通接続される。第2NPNバイポーラトランジスタ(Tr12)は、第3ベース拡散層(324)、第2トリガタップ(12)、第2エミッタ拡散層(22)、及び第4ベース拡散層(32)を備える。第2トリガタップ(12)は、第3ベース拡散層(324)上に形成され、第3配線(L12)を介してトリガ素子(30)の他端に接続される。第2エミッタ拡散層(22)及び第4ベース拡散層(32)は、第3ベース拡散層(324)上に形成され、第3配線(L12)と異なる第4配線(L22)を介してパッド(10)に共通接続される。
【0017】
以上のような構成により、本発明によるESD保護素子は、トリガ素子におけるブレークダウンをトリガとしてバイポーラ動作を開始し、ESDによるサージ電流を電源(GND)に流すことができる。又、トリガ素子を介して電源に流れるトリガ電流は、ベース領域を形成するベース拡散層による抵抗成分を流れる。この抵抗成分による電圧降下によって、バイポーラトランジスタのベース電位が引き上げられ、バイポーラ動作を開始する。本発明では、第1ベース拡散層(204)が、第2ベース拡散層(3)とエミッタ拡散層(2)を介して電源(GND)に共通接続され、且つベース拡散層による抵抗値は従来の外付け抵抗よりも小さく設定され得る。このため、エミッタ拡散層(2)と第2ベース拡散層(204)との電位差を従来よりも小さくし、ESD保護素子のノイズ耐性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるESD保護素子によれば、ESD耐量のみならずノイズ耐性も向上することができる。
【0019】
又、ESD保護素子を構成する素子数及び配線量を減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、従来技術によるESD保護素子の構造を示す断面図である。
【図2】図2は、従来技術によるESD保護素子の等価回路を示す図である。
【図3】図3は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における等価回路の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における構造の一例を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明に係るトリガ素子の第1の実施の形態における構成の一例を示す回路図である。
【図6】図6は、本発明に係るトリガ素子の第1の実施の形態における構成の他の一例を示す回路図である。
【図7】図7は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における等価回路の他の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における構造の他の一例を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における等価回路の一例を示す図である。
【図10】図10は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における構造の一例を示す断面図である。
【図11】図11は、本発明に係るトリガ素子の第2の実施の形態における構成の一例を示す回路図である。
【図12】図12は、本発明に係るトリガ素子の第2の実施の形態における構成の他の一例を示す回路図である。
【図13】図13は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における等価回路の他の一例を示す図である。
【図14】図14は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における構造の他の一例を示す断面図である。
【図15】図15は、本発明によるESD保護素子の第3の実施の形態における等価回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明によるESD保護素子の実施の形態を説明する。本実施の形態では、図示しない内部回路に対するESD破壊を防止するためのNPNバイポーラトランジスタを利用したESD保護素子について説明する。
【0022】
1.第1の実施の形態
図3から図6を参照して、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における構成及び動作を説明する。図3は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における等価回路を示す図である。図4は、本発明によるESD保護素子の第1の実施の形態における構造を示す断面図である。
【0023】
図3を参照して、第1の実施の形態におけるESD保護素子は、NPNバイポーラトランジスタTr1、トリガ素子20、NPNバイポーラトランジスタTr1のベース拡散層によって形成された抵抗R1を備える。NPNバイポーラトランジスタTr1のコレクタ端子C1はパッド10に接続され、ベース(ベース領域X1)はトリガ素子20及び抵抗R1に接続され、エミッタ端子E1は、電源(GND)に接続される。ベース(ベース領域X1)とトリガ素子20の一端とは、トリガタップT1及び配線L1を介して接続される。トリガ素子20の他端は、パッド10及びコレクタ端子C1に接続される。抵抗R1は、ベース領域X1とベース端子B1との間に形成され、ベース端子B1及び配線L2を介して電源(ここではGND)に接続される。
【0024】
図3に示す破線で囲まれた領域A1は、NPNバイポーラトランジスタTr1を形成する領域において、配線層よりも下層の下地層に形成される領域を示す。以下、図4を参照して領域A1に形成されるNPNバイポーラトランジスタTr1及び抵抗R1の構成の詳細を説明する。
【0025】
図4を参照して、第1の実施の形態におけるESD保護素子は、Z軸方向下層から順にP型基板201(P−sub)、高濃度N型拡散層202(N+拡散層202)が形成され、そのN+拡散層202上に高濃度N型拡散層205、206(N+拡散層205、206)、及び低濃度N型拡散層203(N−拡散層203)が形成される。N−拡散層203は、N+拡散層205とN+拡散層206との間に形成され、そのZ軸方向上層にベース領域として機能する低濃度P型拡散層204(以下、P−ベース拡散層204と称す)が形成される。
【0026】
P−ベース拡散層204上には、高濃度P型拡散層1(以下、トリガタップ拡散層1と称す)、高濃度N型拡散層2(以下、N+エミッタ拡散層2と称す)、高濃度P型拡散層3(以下、P+ベース拡散層3と称す)が形成される。トリガタップ拡散層1は、配線L1を介してトリガ素子20の一端に接続され、トリガ素子20とP−ベース拡散層204とを電気的に接続するトリガタップT1として機能する。N+エミッタ拡散層2は、配線L1と異なる配線L2を介して電源(ここではGND)に接続され、エミッタ端子E1として機能する。P+ベース拡散層3は、配線L2を介して電源(ここではGND)に接続され、ベース端子B1として機能する。配線L1と配線L2とは、配線層において電気的に分離した異なる配線である。又、N+拡散層205上には、パッド10及びトリガ素子20の一端に接続され、コレクタ端子C1として機能する高濃度N型拡散層4(以下、N+コレクタ拡散層4と称す)が形成される。更に、N+コレクタ拡散層206上には、高濃度N型拡散層207が設けられている。N+コレクタ拡散層4、トリガタップ拡散層1、N+エミッタ拡散層2、P+ベース拡散層3、高濃度N型拡散層207のそれぞれの間は、素子分離領域208(例えば酸化絶縁膜)によって分離されている。
【0027】
N+エミッタ拡散層2は、X軸方向に対しトリガタップ拡散層1とP+ベース拡散層3との間に形成されることが好ましい。ここで、P−ベース拡散層204において、N+エミッタ拡散層2の直下の領域をベース領域X1とする。トリガタップ拡散層1とP+ベース拡散層3との間にN+エミッタ拡散層2を設けた場合、トリガタップT1から電源(GND)に流れるトリガ電流は、ベース領域X1とベース端子B1との間を流れる。P−ベース拡散層204において、ベース端子B1とベース領域X1との間の領域は抵抗R1として機能し、トリガ電流によってベース領域X1の電圧(ベース電位)を引き上げる。
【0028】
トリガ素子20は、従来技術と同様にダイオードやトランジスタ(MOSトランジスタやNPNバイポーラトランジスタ)が好適に利用され得る。例えば、図5を参照して、任意の数のダイオードD20を直列に接続した回路素子をトリガ素子20として利用できる。この場合、ダイオードD20のアノードはトリガタップT1に接続され、カソードはパッド10及びコレクタ端子C1に接続される。ダイオードD20の降伏電圧以上の電圧がパッド10に印加されると、トリガ電流がベース領域X1及び抵抗R1を介して電源(GND)に流れる。あるいは、図6を参照して、トランジスタTr20をトリガ素子20として利用できる。例えば、NPNバイポーラトランジスタを利用する場合、ベース及びエミッタがトリガタップT1に接続され、コレクタをパッド10及びコレクタ端子C1に接続する。所定の値以上の電圧がパッド10から印加されると、トランジスタTr20はブレークダウンし、トリガ電流がベース領域X1及び抵抗R1を介して電源(GND)に流れる。
【0029】
次に、第1の実施の形態におけるESD保護素子の動作の詳細を説明する。
【0030】
パッド10に所定の電圧以上の(プラスの)ESD電圧が印加されると、パッド10とトリガタップT1との間に接続されたトリガ素子20(例えばダイオードD20)がブレークダウンする。これにより、トリガ電流がトリガタップT1からベース領域X1を介して電源(GND)に流れる。トリガ電流は、抵抗R1において電圧降下を起こし、ベース領域X1の電位(ベース電位)を引き上げる。
【0031】
ベース電位が上昇することにより、エミッタ端子E1とベース領域X1との間のPN接合の電位が順方向となり、エミッタ端子E1から電子電流がベース領域X1側に流れだす。この電子電流は、拡散によりコレクタ端子C1に到達しコレクタ電流となる。このとき、コレクタ端子C1とベース領域X1との間(N−拡散層203とP−ベース拡散層204との間)には、高い電界が存在する空乏層が形成される。この領域では、流れ出した電子電流がインパクトイオン化を起こし、ベース電流が発生する。このベース電流によりエミッタ端子E1とベース領域X1との間が順方向バイアスされ、NPNバイポーラトランジスタTr1はオン状態となり、スナップバック動作に入る。これにより、ESDによるサージ電流(ESD電流)がパッド10からコレクタ端子C1及びエミッタ端子E1を介して電源(GND)に流れ出す。NPNバイポーラトランジスタTr1に電流が流れ始めるとベース電位が下がり定電圧となるためトリガ素子20を介したトリガ電流は流れなくなる。
【0032】
以上のように、本実施の形態におけるESD保護素子は、ESDによる高電圧がパッドに印加されると、トリガ素子20のブレークダウンによってバイポーラ動作が始動し、パッド10から入力されたサージ電流を電源(GND)に流す。これにより、内部回路をESDから保護することができる。
【0033】
本発明によるESD保護素子によれば、従来と同様にトリガ素子が、バイポーラ動作のトリガとして機能する。このため、ベース幅方向(Y軸方向)における電流密度のバラツキに起因したESD耐量の低下を回避することができる。
【0034】
又、本発明では、ベース領域となるP−ベース拡散層204上に、電源(GND)に接続されるベース端子B1と、トリガ素子20に接続されるトリガタップT1とが別々に設けられる。トリガタップT1からP−ベース拡散層204に流れ込むトリガ電流は、ベース端子B1を介してGNDに流れる。このとき、エミッタ端子E1(ベース領域X1)をトリガタップT1とベース端子B1の間に形成することで、ベース領域X1とベース端子B1との間におけるP−ベース拡散層204が、ベース電位を引き上げるための抵抗R1として機能する。このため、ベース領域X1とベース端子B1との間の距離やP−ベース拡散層204の不純物濃度を適切な値に設定することで、抵抗R1の大きさを任意に設定できる。すなわち、ノイズ耐性を考慮した大きさの抵抗R1をベース拡散層によって実現できる。
【0035】
P−ベース拡散層204は、ベース端子B1によってエミッタ端子(N+エミッタ拡散層2)と共通の電源(GND)に接続され、且つ抵抗R1の抵抗値は従来の外付け抵抗よりも小さく設定され得る。このため、エミッタ端子E1とベース領域X1との電位差を従来よりも小さくし、ESD保護素子のノイズ耐性を向上させることができる。又、本発明では、外付けの抵抗を用いていないため、ESD保護素子に用いる素子数や配線量を減じることができる。
【0036】
次に、図7及び図8を参照して、第1の実施の形態におけるESD保護素子の変形例を説明する。
【0037】
図4には示していないが、トリガタップT1とベース領域X1との間には、P−ベース拡散層204による抵抗が形成される。すなわち、図7に示す等価回路のように、トリガタップT1とベース領域X1との間にP−ベース拡散層204による抵抗R2が形成される。トリガ電流が流れる際、抵抗R2による電圧降下分だけトリガタップT1の電位が上昇してしまう。このため、抵抗R1にトリガ電流を流すためには、抵抗R2が存在しない場合よりも高い電圧がパッド10に印加されなければならない。
【0038】
低いESD電圧によってESD保護素子が動作するためには、抵抗R2を小さくする必要がある。例えば、図8に示すように、トリガタップT1とベース領域X1との間におけるベース拡散層(P型高濃度拡散層209)の不純物濃度を、周辺のP−ベース拡散層204よりも高くすることで、抵抗R2の抵抗値を小さくすることができる。例えば、P型高濃度拡散層209は、P−ベース拡散層204に不純物を更にドープして形成することができる。あるいは、トリガタップT1とベース領域X1との間の距離を短くしたり、トリガタップ拡散層1とN+エミッタ拡散層2との対向する部分の面積を広げることで抵抗R2の抵抗値を小さくすることができる。
【0039】
ESD保護素子は、高耐圧素子であるため、パッド10に印加される電圧がNPNバイポーラトランジスタTr1の耐圧(NP接合部の順方向降下電圧Vf)の数倍〜十倍程度高くなったとしても内部素子に対するダメージが増加する恐れはない。しかし、バイポーラ動作のトリガとなるESD電圧を低くしたい場合がある。このような場合、上述のように抵抗R2の抵抗値を小さく設定することで、ESD保護素子の動作電圧を低くすることができる。
【0040】
2.第2の実施の形態
図9から図14を参照して、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における構成及び動作を説明する。第1の実施の形態では、パッドにプラスの高電圧が印加された場合に、サージ電流を電源(GND)に流して内部回路を保護するESD保護素子を説明した。第2の実施の形態では、パッドにプラスの電圧のみならずマイナスの高電圧が印加され場合にもサージ電流を電源(GND)に流して内部回路を保護するESD保護回路について説明する。図9は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における等価回路を示す図である。図10は、本発明によるESD保護素子の第2の実施の形態における構造を示す断面図である。
【0041】
図9を参照して、第2の実施の形態におけるESD保護素子は、パッド10に接続されるNPNバイポーラトランジスタTr1、電源(GND)に接続されるNPNバイポーラトランジスタTr2、及びトリガ素子30を具備する。
【0042】
NPNバイポーラトランジスタTr11のエミッタ端子E11はパッド10に接続され、ベース(ベース領域X11)はトリガ素子30及び抵抗R11に接続され、コレクタ端子C11は、NPNバイポーラトランジスタTr12のコレクタ端子C12に接続される。NPNバイポーラトランジスタTr11のベース(ベース領域X11)とトリガ素子30の一端とは、トリガタップT11及び配線L11を介して接続される。抵抗R11は、ベース領域X11とベース端子B11との間に形成され、ベース端子B11及び配線L21を介してパッド10に接続される。
【0043】
NPNバイポーラトランジスタTr12のエミッタ端子E12は電源(GND)に接続され、ベース(ベース領域X12)はトリガ素子30及び抵抗R12に接続され、コレクタ端子C12は、NPNバイポーラトランジスタTr11のコレクタ端子C11に接続される。NPNバイポーラトランジスタTr12のベース(ベース領域X12)とトリガ素子30の他端とは、トリガタップT12及び配線L12を介して接続される。抵抗R12は、ベース領域X12とベース端子B12との間に形成され、ベース端子B12及び配線L22を介して電源(GND)に接続される。
【0044】
図9に示す破線で囲まれた領域A2は、NPNバイポーラトランジスタTr11、Tr12を形成する領域において、配線層よりも下層の下地層に形成される領域を示す。以下、図10を参照して領域A2に形成されるNPNバイポーラトランジスタTr11、Tr12及び抵抗R11、R12の構成の詳細を説明する。
【0045】
図10を参照して、第2の実施の形態におけるESD保護素子は、Z軸方向下層から順にP型基板301(P−sub)、高濃度N型拡散層302(N+拡散層302)が形成され、そのN+拡散層302上に高濃度N型拡散層305、316、326(N+拡散層305、316、326)、及び低濃度N型拡散層313、323(N−拡散層313、323)が形成される。N−拡散層313は、N+拡散層305とN+拡散層316との間に形成され、そのZ軸方向上層にベース領域として機能する低濃度P型拡散層314(以下、P−ベース拡散層314と称す)が形成される。N−拡散層323は、N+拡散層305とN+拡散層326との間に形成され、そのZ軸方向上層にベース領域として機能する低濃度P型拡散層324(以下、P−ベース拡散層324と称す)が形成される。
【0046】
P−ベース拡散層314上には、高濃度P型拡散層11(以下、トリガタップ拡散層11と称す)、高濃度N型拡散層21(以下、N+エミッタ拡散層21と称す)、高濃度P型拡散層31(以下、P+ベース拡散層31と称す)が形成される。トリガタップ拡散層11は、配線L11を介してトリガ素子30の一端に接続され、トリガ素子30とP−ベース拡散層314とを電気的に接続するトリガタップT11として機能する。N+エミッタ拡散層21は、配線L11と異なる配線L21を介してパッド10に接続され、エミッタ端子E11として機能する。P+ベース拡散層31は、配線L21を介してパッド10に接続され、ベース端子B11として機能する。配線L11と配線L21とは、配線層において電気的に分離した異なる配線である。又、N+拡散層316上には、N+拡散層326に接続されるコレクタ端子C11として機能する高濃度N型拡散層41(以下、N+コレクタ拡散層41と称す)が形成される。更に、N+コレクタ拡散層305上には、高濃度N型拡散43が設けられている。
【0047】
N+エミッタ拡散層21は、X軸方向に対しトリガタップ拡散層11とP+ベース拡散層31との間に形成されることが好ましい。ここで、P−ベース拡散層314において、N+エミッタ拡散層21の直下の領域をベース領域X11とする。トリガタップ拡散層11とP+ベース拡散層31との間にN+エミッタ拡散層21を設けた場合、トリガタップT11からパッド10に流れるトリガ電流は、ベース領域X11とベース端子B11との間を流れる。この場合、P−ベース拡散層314において、ベース端子B11とベース領域X11との間の領域は抵抗R11として機能し、電源(GND)からパッド10へ流れるトリガ電流によってベース領域X11の電圧(ベース電位)を引き上げる。
【0048】
P−ベース拡散層324上には、高濃度P型拡散層12(以下、トリガタップ拡散層12と称す)、高濃度N型拡散層22(以下、N+エミッタ拡散層22と称す)、高濃度P型拡散層32(以下、P+ベース拡散層32と称す)が形成される。トリガタップ拡散層12は、配線L12を介してトリガ素子30の一端に接続され、トリガ素子30とP−ベース拡散層324とを電気的に接続するトリガタップT12として機能する。N+エミッタ拡散層22は、配線L12と異なる配線L22を介して電源(ここではGND)に接続され、エミッタ端子E12として機能する。P+ベース拡散層32は、配線L22を介して電源(ここではGND)に接続され、ベース端子B12として機能する。又、N+拡散層326上には、N+拡散層316に接続されるコレクタ端子C12として機能する高濃度N型拡散層42(以下、N+コレクタ拡散層42と称す)が形成される。
【0049】
N+エミッタ拡散層22は、X軸方向に対しトリガタップ拡散層12とP+ベース拡散層32との間に形成されることが好ましい。ここで、P−ベース拡散層324において、N+エミッタ拡散層22の直下の領域をベース領域X12とする。トリガタップ拡散層12とP+ベース拡散層32との間にN+エミッタ拡散層22を設けた場合、トリガタップT12から電源(GND)に流れるトリガ電流は、ベース領域X12とベース端子B12との間を流れる。P−ベース拡散層324において、ベース端子B12とベース領域X12との間の領域は抵抗R12として機能し、パッド10から電源(GND)へ流れるトリガ電流によってベース領域X12の電圧(ベース電位)を引き上げる。
【0050】
尚、N+コレクタ拡散層41、トリガタップ拡散層11、N+エミッタ拡散層21、P+ベース拡散層31、高濃度N型拡散43、P+ベース拡散層32、N+エミッタ拡散層22、トリガタップ拡散層12、N+コレクタ拡散層42のそれぞれの間は、素子分離領域308(例えば酸化絶縁膜)によって分離されている。
【0051】
トリガ素子30は、従来技術と同様にダイオードやトランジスタ(MOSトランジスタやNPNバイポーラトランジスタ)が好適に利用され得る。例えば、図11を参照して、任意の数のダイオードD31、D32を直列に接続した回路素子をトリガ素子20として利用できる。この場合、ダイオードD31、D32のカソード同士が接続され、ダイオードD31のアノードはトリガタップT11に接続され、ダイオードD32のアノードはトリガタップT12に接続される。ダイオードD31の降伏電圧以上のプラスの電圧がパッド10に印加されると、トリガ電流がパッド10からベース領域X12及び抵抗R12を介して電源(GND)に流れる。これにより、ベース領域X12の電圧が上昇し、NPNトランジスタTr12が動作してパッド10から電源(GND)にサージ電流が流れ始める。あるいは、ダイオードD32の降伏電圧以上のマイナスの電圧がパッド10に印加されると、トリガ電流が電源(GND)からベース領域X11及び抵抗R11を介してパッド10に流れる。これにより、ベース領域X11の電圧が上昇し、NPNトランジスタTr11が動作して電源(GND)からパッド10にサージ電流が流れ始める。
【0052】
更に、図12を参照して、トリガ素子20としてトランジスタTr31、Tr32を利用できる。例えば、トリガ素子30は、コレクタ同士が接続されたトランジスタTr31、Tr32を備える。トランジスタTr31のベース及びエミッタはトリガタップT11に接続され、トランジスタTr32のベース及びエミッタはトリガタップT12に接続される。パッド10にプラスの電圧が印加されると、トランジスタTr31はダイオードとして機能し、トランジスタTr32のコレクタ電圧は上昇する。この際、所定の値以上のプラスの電圧がパッド10に印加されると、トランジスタTr32はブレークダウンし、トリガ電流がベース領域X1及び抵抗R1を介して電源(GND)に流れる。あるいは、パッド10にマイナスの電圧が印加されると、トランジスタTr32はダイオードとして機能し、トランジスタTr31のコレクタ電圧は上昇する。この際、所定の値以上のマイナスの電圧がパッド10に印加されると、トランジスタTr31はブレークダウンし、トリガ電流がベース領域X1及び抵抗R1を介してパッド10に流れる。
【0053】
次に、第2の実施の形態におけるESD保護素子の動作の詳細を説明する。
【0054】
パッド10に所定の電圧以上のプラスのESD電圧が印加されると、トリガ素子30(例えばダイオードD32)がブレークダウンする。これにより、トリガ電流がトリガタップT12からベース領域X12を介して電源(GND)に流れる。トリガ電流は、抵抗R12において電圧降下を起こし、ベース領域X12の電位(ベース電位)を引き上げる。この際、NPNトランジスタTr11は、ベース−コレクタ間に形成されたダイオードが順方向となるため、順方向ダイオードとして機能する。
【0055】
ベース電位が上昇することにより、エミッタ端子E12とベース領域X12との間のPN接合の電位が順方向となり、エミッタ端子E12から電子電流がベース領域X12側に流れだす。この電子電流は、拡散によりコレクタ端子C12に到達しコレクタ電流となる。このとき、コレクタ端子C12とベース領域X12との間(N−拡散層313とP−ベース拡散層314との間)には、高い電界が存在する空乏層が形成される。この領域では、流れ出した電子電流がインパクトイオン化を起こし、ベース電流が発生する。このベース電流によりエミッタ端子E12とベース領域X12との間が順方向バイアスされ、NPNバイポーラトランジスタTr12はオン状態となり、スナップバック動作に入る。これにより、ESDによるサージ電流(ESD電流)がパッド10からコレクタ端子C12及びエミッタ端子E12を介して電源(GND)に流れ出す。NPNバイポーラトランジスタTr12に電流が流れ始めるとベース電位が下がり定電圧となるためトリガ素子30を介したトリガ電流は流れなくなる。
【0056】
以上のように、本実施の形態におけるESD保護素子は、ESDによるプラスの高電圧がパッドに印加されると、トリガ素子30のブレークダウンによってバイポーラ動作が始動し、パッド10から入力されたサージ電流を電源(GND)に流す。これにより、内部回路をESDから保護することができる。
【0057】
パッド10に所定の電圧以上のマイナスのESD電圧が印加されると、トリガ素子30(例えばダイオードD31)がブレークダウンする。これにより、トリガ電流がトリガタップT11からベース領域X11を介してパッド10に流れる。トリガ電流は、抵抗R11において電圧降下を起こし、ベース領域X11の電位(ベース電位)を引き上げる。この際、NPNトランジスタTr12は、ベース−コレクタ間に形成されたダイオードが順方向となるため、順方向ダイオードとして機能する。
【0058】
ベース電位が上昇することにより、エミッタ端子E11とベース領域X11との間のPN接合の電位が順方向となり、エミッタ端子E11から電子電流がベース領域X11側に流れだす。この電子電流は、拡散によりコレクタ端子C11に到達しコレクタ電流となる。このとき、コレクタ端子C11とベース領域X11との間(N−拡散層323とP−ベース拡散層324との間)には、高い電界が存在する空乏層が形成される。この領域では、流れ出した電子電流がインパクトイオン化を起こし、ベース電流が発生する。このベース電流によりエミッタ端子E11とベース領域X11との間が順方向バイアスされ、NPNバイポーラトランジスタTr11はオン状態となり、スナップバック動作に入る。これにより、ESDによるサージ電流(ESD電流)が電源(GND)からコレクタ端子C11及びエミッタ端子E11を介してパッド10に流れ出す。NPNバイポーラトランジスタTr11に電流が流れ始めるとベース電位が下がり定電圧となるためトリガ素子30を介したトリガ電流は流れなくなる。
【0059】
以上のように、本実施の形態におけるESD保護素子は、ESDによるマイナスの高電圧がパッドに印加されると、トリガ素子30のブレークダウンによってバイポーラ動作が始動し、パッド10と電源(GND)との間にサージ電流を流す。これにより、内部回路をESDから保護することができる。
【0060】
第2の実施の形態におけるESD保護素子によれば、従来と同様にトリガ素子が、バイポーラ動作のトリガとして機能する。このため、ベース幅方向(Y軸方向)における電流密度のバラツキに起因したESD耐量の低下を回避することができる。
【0061】
又、第2の実施の形態におけるESD保護素子では、第1の実施の形態と同様に、ベース領域となるP−ベース拡散層314、324上に、パッド10又は電源(GND)に接続されるベース端子B11、B12と、トリガ素子30に接続されるトリガタップT11、12とが別々に設けられる。エミッタ端子E11(ベース領域X11)をトリガタップT11とベース端子B11の間に形成することで、ベース領域X11とベース端子B11との間におけるP−ベース拡散層314が、ベース電位を引き上げるための抵抗R11として機能する。同様に、エミッタ端子E12(ベース領域X12)をトリガタップT12とベース端子B12の間に形成することで、ベース領域X12とベース端子B12との間におけるP−ベース拡散層324が、ベース電位を引き上げるための抵抗R12として機能する。このため、ベース領域X11(X12)とベース端子B11(B12)との間の距離やP−ベース拡散層314(324)の不純物濃度を適切な値に設定することで、抵抗R11(R12)の大きさを任意に設定できる。すなわち、ノイズ耐性を考慮した大きさの抵抗R11、R12をベース拡散層によって実現できる。
【0062】
P−ベース拡散層314(324)は、ベース端子B11(B12)によってエミッタ端子(N+エミッタ拡散層21(22))と共通のパッド10(電源(GND))に接続され、且つ抵抗R11(R12)の抵抗値を従来の外付け抵抗よりも小さく設定することができる。このため、エミッタ端子E11(E12)とベース領域X11(X12)との電位差を従来よりも小さくし、ESD保護素子のノイズ耐性を向上させることができる。又、本発明では、外付けの抵抗を用いていないため、ESD保護素子に用いる素子数や配線量を減じることができる。
【0063】
次に、図13及び図14を参照して、第2の実施の形態におけるESD保護素子の変形例を説明する。
【0064】
図9には示していないが、トリガタップT11とベース領域X11との間には、P−ベース拡散層314による抵抗が形成される。同様に、トリガタップT12とベース領域X12との間には、P−ベース拡散層324による抵抗が形成される。すなわち、図13に示す等価回路のように、トリガタップT11とベース領域X11との間にP−ベース拡散層314による抵抗R21が形成され、トリガタップT12とベース領域X12との間にP−ベース拡散層324による抵抗R22が形成される。電源(GND)からトリガ電流が流れる際、抵抗R21による電圧降下分だけトリガタップT11の電位が上昇してしまう。このため、抵抗R11にトリガ電流を流すためには、抵抗R21が存在しない場合よりも低い電圧がパッド10に印加されなければならない。同様に、パッド10からトリガ電流が流れる際、抵抗R22による電圧降下分だけトリガタップT12の電位が上昇してしまう。このため、抵抗R12にトリガ電流を流すためには、抵抗R22が存在しない場合よりも高い電圧がパッド10に印加されなければならない。
【0065】
高いマイナスのESD電圧、又は低いプラスのESD電圧によってESD保護素子が動作するためには、抵抗R21、R22を小さくする必要がある。例えば、図14に示すように、トリガタップT11とベース領域X11との間におけるベース拡散層(P型高濃度拡散層319)の不純物濃度を、周辺のP−ベース拡散層314よりも高くすることで、抵抗R21の抵抗値を小さくすることができる。同様に、トリガタップT12とベース領域X12との間におけるベース拡散層(P型高濃度拡散層329)の不純物濃度を、周辺のP−ベース拡散層324よりも高くすることで、抵抗R22の抵抗値を小さくすることができる。あるいは、トリガタップT11(T12)とベース領域X11(X12)との間の距離を短くしたり、トリガタップ拡散層11(12)とN+エミッタ拡散層21(22)との対向する部分の面積を広げることで抵抗R21(R22)の抵抗値を小さくすることができる。
【0066】
本実施の形態におけるESD保護素子によれば、バイポーラ動作のトリガとなるESD電圧を小さくしたい場合、抵抗R21、22の抵抗値を小さく設定することで、ESD保護素子の動作電圧を小さくすることができる。
【0067】
3.第3の実施の形態
図15を参照して、本発明によるESD保護素子の第3の実施の形態における構成及び動作を説明する。図15は、本発明によるESD保護素子の第3の実施の形態における等価回路を示す図である。図15を参照して第3の実施の形態におけるESD保護素子は、第2の実施の形態におけるESD保護素子にダイオードD1、D2を追加した構成である。NPNバイポーラトランジスタTr11、12、抵抗R11、R12、R21、22の内部構造は、図14に示す第2の実施の形態の変形例と同じであるので説明は省略する。
【0068】
図15を参照して、パッド10にプラスのESD電圧が印加されると、トリガ素子30におけるブレークダウンによって、トリガ電流がパッド10、抵抗R11、抵抗R21、トリガ素子30、抵抗R22、抵抗R12、電源(GND)の順に流れる。トリガ電流が大きくなると、抵抗R21の電圧降下によってトリガタップT11の電圧が大きくなり、トリガタップT11(トリガタップ拡散層11)とエミッタ端子E11(N+エミッタ拡散層21)との間で形成されるダイオードの順方向降下電圧Vfを超える。これにより、トリガ電流の電流経路が、パッド10、ダイオードD1、トリガ素子30、抵抗素子R22、抵抗R12、電源(GND)となる。すなわち、トリガ電流が大きくなるとトリガ電流が抵抗R11、21の代わりにダイオードD1に流れるようになる。
【0069】
トリガ電流が抵抗R11、R21に流れた場合、電圧降下の影響でトリガ電流の大きさが制限されてしまう。この場合、ベース領域X12の電位の上昇量が小さくなり、バイポーラ動作するための時間が増大したり、サージ電流をGNDに流すために必要なESD電圧が大きくなる恐れがある。本実施の形態では、トリガ電流が増大した場合、トリガ電流が抵抗R11、R21を介さずに流れるため、抵抗R12に流れるトリガ電流の電流量を大きくすることができる。このため、プラスのESD電圧が小さくても、NPNバイポーラトランジスタTr12が動作するために必要なトリガ電流を抵抗R12に流すことができる。
【0070】
パッド10にマイナスのESD電圧が印加された場合も同様にトリガ電流が増大すると、トリガ電流は抵抗R12、R22に流れず、ダイオードD2を流れるようになる。これにより、マイナスのESD電圧が小さくても、NPNバイポーラトランジスタTr11が動作するために必要なトリガ電流を抵抗R11に流すことができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。第1から第4の実施の形態は、技術的矛盾がない範囲内で組み合せることが可能である。例えば、電源は接地電位と異なる他の電位に設定しても構わない。
【符号の説明】
【0072】
1、11、12:P+ベース拡散層
L1、L2、L11、L12、L21、L22:金属配線
2、21、22:N+エミッタ拡散層
4、41、42:N+コレクタ拡散層
R1、R2、R11、R12、R21、R22:抵抗
B1、B11、B12:ベース端子
C1、C11、C12:コレクタ端子
E1、E11、E12:エミッタ端子
T1、T11、T12:トリガタップ
10:パッド
20、30:トリガ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NPNバイポーラトランジスタを用いたESD(Electrostatic Discharge)保護素子において、
一端がパッドに接続されたトリガ素子を具備し、
前記NPNバイポーラトランジスタは、
第1ベース拡散層と、
前記パッドに接続されたコレクタ拡散層と、
前記第1ベース拡散層上に形成され、第1配線を介して前記トリガ素子の他端に接続されたトリガタップと、
前記第1ベース拡散層上に形成され、前記第1配線と異なる第2配線を介して電源に共通接続されたエミッタ拡散層及び第2ベース拡散層と、
を備える
ESD保護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のESD保護素子において、
前記エミッタ拡散層は、トリガタップと前記第2ベース拡散層との間に形成される
ESD保護素子。
【請求項3】
請求項2に記載のESD保護素子において、
前記トリガタップと前記エミッタ拡散層との間における前記第1ベース拡散層の不純物濃度は、前記第2ベース拡散層と前記エミッタ拡散層との間における前記第1ベース拡散層の不純物濃度よりも高い
ESD保護素子。
【請求項4】
コレクタ同士が接続された第1NPNバイポーラトランジスタ及び第2NPNバイポーラトランジスタと、トリガ素子とを具備し、
前記第1NPNバイポーラトランジスタは、
第1ベース拡散層と、
前記第1ベース拡散層上に形成され、第1配線を介して前記トリガ素子の一端に接続された第1トリガタップと、
前記第1ベース拡散層上に形成され、前記第1配線と異なる第2配線を介して前記パッドに共通接続された第1エミッタ拡散層及び第2ベース拡散層と、
を備え、
前記第2NPNバイポーラトランジスタは、
第3ベース拡散層と、
前記第3ベース拡散層上に形成され、第3配線を介して前記トリガ素子の他端に接続された第2トリガタップと、
前記第3ベース拡散層上に形成され、前記第3配線と異なる第4配線を介して電源に共通接続された第2エミッタ拡散層及び第4ベース拡散層と、
を備える
ESD保護素子。
【請求項5】
請求項4に記載のESD保護素子において、
前記第1エミッタ拡散層は、第1トリガタップと前記第2ベース拡散層との間に形成され、
前記第2エミッタ拡散層は、第2トリガタップと前記第4ベース拡散層との間に形成される
ESD保護素子。
【請求項6】
請求項5に記載のESD保護素子において、
前記第1トリガタップと前記第1エミッタ拡散層との間における前記第1ベース拡散層の不純物濃度は、前記第2ベース拡散層と前記第1エミッタ拡散層との間における前記第1ベース拡散層の不純物濃度よりも高く、
前記第2トリガタップと前記第2エミッタ拡散層との間における前記第3ベース拡散層の不純物濃度は、前記第4ベース拡散層と前記第2エミッタ拡散層との間における前記第3ベース拡散層の不純物濃度よりも高い
ESD保護素子。
【請求項7】
請求項6に記載のESD保護素子において、
前記パッドと、前記トリガ素子の一端との間に接続された第1ダイオードと、
前記電源と、前記トリガ素子の他端との間に接続された第2ダイオードと、
を更に具備する
ESD保護素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のESD保護素子において、
前記トリガ素子は、1つ以上のダイオードを備える
ESD保護素子。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載のESD保護素子において、
前記トリガ素子は、ドレイン及びソースがNPNバイポーラトランジスタとパッドの間に接続されたトランジスタを備える
ESD保護素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−18685(P2011−18685A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160722(P2009−160722)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】