説明

F級増幅回路及びこれを用いた送信装置

【課題】基本波周波数の異なる複数の入力信号が入力する場合でも、各基本周波数に応じた高周波処理が行えるようにする。
【解決手段】 基本角周波数の異なる複数の信号をF級増幅し、該基本角周波数の信号成分及び、その高調波の信号成分を含んだ信号を出力するF級増幅器と、F級増幅器の後段に設けられて、当該F級増幅器に寄生する寄生回路のインピーダンスを取り込んで回路設定されることにより、信号の直流成分及び偶数次高調波の信号成分に対しては短絡状態とし、奇数次高調波の信号成分に対しては開放状態となる高調波処理部と、高調波処理部の後段に設けられて、高調波の信号成分に対しては短絡状態にする短絡部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本波周波数の異なる複数の入力信号を増幅するF級増幅回路及びこれを用いた送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体基地局においては、マイクロ波を電力増幅して送信する場合がある。このマイクロ波の電力増幅に用いられる電力増幅器の種別としては、増幅素子への直流ゲートバイアスの違いにより、A級増幅器・AB級増幅器などが知られている。しかし、このAB級増幅器を用いたAB級増幅回路では大きな電力が消費されるので、実用上及び省エネルギーの観点から改善が望まれている。電力変換効率が高い増幅回路としては、F級増幅器・逆F級増幅器などが知られている。
【0003】
F級増幅回路での消費電力を削減するためには、偶数次高調波の信号に対して短絡状態となり、奇数次高調波の信号に対して開放状態となるようにインピーダンス整合を行うことが必要である。以下、このようなインピーダンス整合をF級のインピーダンス条件を満たすという。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1は、基本角周波数ωの成分及びその高調波成分の出力トランジスタと、負荷回路の入力ノードと出力ノードとの間に介設された第1のリアクタンス二端子回路と,出力ノードと接地端子との間に介設された第2リアクタンス二端子回路とを備えたF級増幅回路を開示している。この第1のリアクタンス二端子回路は,角周波数3ω,5ω,〜,(2m+1)ωにおいて開放になり,且つ,2ω,4ω,〜,2nωにおいて短絡になる。なお、nは1以上の自然数であり,mは,nが1である場合には1,nが2以上である場合にはn又はn−1のうちの一方である。また、第2リアクタンス二端子回路は,角周波数2ω,4ω,〜,2nωにおいて短絡になる。これにより、消費電力の削減を図っている。
【0005】
ところが、特許文献1にかかるF級増幅回路では、増幅器である出力トランジスタの出力端子に寄生シャント容量や寄生直列インダクタンスが存在しない理想的な回路を仮定している。しかし、現実の増幅器では、出力端子に寄生シャント容量(以下、単に寄生容量と記載する)や寄生直列インダクタンス(以下、単に寄生インダクタンスと記載する)が存在するため、高調波の信号成分に位相のずれが生じて、十分に消費電力を削減できない問題があった。
【0006】
これに対し、特許文献2は、増幅器であるトランジスタの後段に、n段(n=1、2、3、…)の梯子型回路を有する高調波処理回路を設け、この高調波処理回路の後段に、それぞれの共振周波数が互いに異なる2n+1個の共振器を有する共振回路部を設けた増幅回路を開示している。そして、2n+1個の共振器の共振周波数を、高調波処理回路の出力部を短絡した場合にトランジスタのドレイン出力部および接地面との間に形成されるn+1個の極およびn個の零点の周波数にそれぞれ一致させる。2n+1個の共振器のうち、2n個の共振器の共振周波数を、2次から2n+1次の高調波の周波数にそれぞれ一致させる。これにより、寄生容量や寄生インダクタンスを有するトランジスタを用いた場合でも、F級のインピーダンス条件を満たすようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−117200号公報
【特許文献2】特開2011−055152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に開示された高周波処理技術は、単一の周波数の信号のみを対象としているため、複数の周波数(マルチバンド)の信号に対してはF級のインピーダンス条件を満たすことができない問題があった。例えば、近年の移動体通信に求められるLTE・IMT−2000などが混在した通信規格や各国により異なる周波数帯に対して利用できるようにするためには、複数の周波数の信号に対してもF級のインピーダンス条件を満たす高周波処理が必要となる。
【0009】
従って、単一の周波数に対してのみ高周波処理を行う特許文献1、特許文献2にかかる構成では、かかる要求に応えることができない。
【0010】
そこで、本発明の主目的は、基本波周波数の異なる複数の入力信号が入力する場合でも、各基本周波数に応じた高周波処理が行えるF級増幅回路及びこれを用いた送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、F級増幅回路にかかる発明は、基本角周波数の異なる複数の信号をF級増幅し、該基本角周波数の信号成分及び、その高調波の信号成分を含んだ信号を出力するF級増幅器と、F級増幅器の後段に設けられて、当該F級増幅器に寄生する寄生回路におけるインピーダンスを取り込んで回路設定されることにより、信号の直流成分及び偶数次高調波の信号成分に対しては短絡状態とし、奇数次高調波の信号成分に対しては開放状態となる高調波処理部と、高調波処理部の後段に設けられて、高調波の信号成分に対しては短絡状態にする短絡部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、送信装置にかかる発明は、上記F級増幅回路と、F級増幅回路からの信号を出力するアンテナ部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基本波周波数の異なる複数の入力信号が入力する場合でも、それらの高調波の信号成分に対して高調波処理を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる送信装置のブロック図である。
【図2】第1の実施形態にかかるF級負荷回路のブロック図である。
【図3】第1の実施形態にかかるF級負荷回路の具体的回路例を示した図である。
【図4】第1の実施形態にかかるF級増幅器の寄生回路と高調波処理部とを取り出して図示したF級負荷回路の具体回路例を示す図である。
【図5】図4に示すF級負荷回路のインピーダンスの周波数特性を示す図である。
【図6】第1の実施形態にかかる高調波処理部をLC梯子で形成し,終端部を各高調波に対応するλ/4開放線路で形成した際の回路図である。
【図7】図6に示すF級負荷回路のインピーダンスの周波数特性を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態にかかる短絡部をCRLH短絡線路により形成した場合のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
次に、本発明の実施の形態を、図を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる送信装置2のブロック図である。
【0016】
送信装置2は、信号発生器11a〜11nを備える信号発生回路11、整合器12a〜12nを備える整合回路12、スイッチ13a〜13nを備えるスイッチ回路13、制御回路14、F級増幅器15、F級負荷回路20、アンテナ17a〜17nを備えるアンテナ部17を含んでいる。なお、nは2以上の正の整数であって、この送信装置2が高周波処理する周波数の数に対応している。そして、F級増幅器15とF級負荷回路20によりF級増幅回路10が形成されている。
【0017】
信号発生器11a〜11nは、周波数がそれぞれf,f,…,fの信号を発生して出力する。以下、この周波数を基本周波数といい、この基本周波数に対応する角周波数を基本角周波数という。このような基本周波数として、LTE(Long Term Evolution)規格の携帯電話に使用される周波数では、欧州での使用周波数帯に用いられる791〜821MHz、日本での使用周波数帯に用いられる2.11GH〜2.17GHzの周波数等が例示できる。
【0018】
整合器12a〜12nは、信号発生回路11から出力される基本周波数の異なる入力信号の数に対応して設けられて、その入力信号に対応したインピーダンス整合を行う。
【0019】
スイッチ13a〜13nは、整合器12a〜12nから出力される基本周波数の異なる信号の数に対応して設けられて、後述する制御回路14からの選択信号に基づき動作する。
【0020】
制御回路14は、周波数情報に基づき基本周波数の異なる複数の信号のうちの1つの信号を選択するように選択信号をスイッチ回路13に出力する。この選択信号は、複数のスイッチ13a〜13nのうちの1つのスイッチをONさせ、他のスイッチをOFFさせる信号である。なお、周波数情報は、予め設定された周波数情報、または外部から指示された情報である。予め設定された周波数情報としては、この本発明にかかる送信装置が送信する環境下における基本周波数が、送信装置の設置時に登録されているような場合の登録情報が例示できる。また、外部から指示された情報としては、上位の制御装置から、送信する基本周波数が指示されるような場合が例示できる。これにより、スイッチ回路13は、選択信号で指示された整合器12a〜12nからの信号を選択して出力する。
【0021】
なお、本発明は、複数の基本周波数の入力信号に対してF級のインピーダンス条件を満たすF級増幅回路及びこれを用いた送信装置を提供することであるので、スイッチ回路や制御回路等のF級増幅回路の前段に設けられる回路により制限を受けないことをあえて付言する。
【0022】
F級増幅器15は、入力信号をF級増幅して出力する。このF級増幅器15としてHEMT(High Electron Mobility Transistor)等の電界効果トランジスタ(FET)やHBT(Heterojunction Bipolar Transistor)等が例示できる。このとき、F級増幅器15から出力される信号には、基本周波数の信号成分と、その高調波の信号成分が含まれる。
【0023】
F級負荷回路20は、F級増幅器15からの信号の基本周波数に応じて、このF級増幅器15における寄生成分も含めたインピーダンス等の整合処理(高調波処理)を行う。即ち、F級負荷回路20のインピーダンスとF級増幅器15の寄生ドレイン・ソース間シャント容量、寄生ドレイン直列インダクタを含めたインピーダンスとの合成インピーダンスにより、少なくとも入力信号の2次、3次高調波の信号成分に対して、F級のインピーダンス条件が満たされるように構成されている。
【0024】
なお、F級増幅回路10において、偶数次高調波に対しては短絡状態となり、奇数次高調波に対しては開放状態となる条件は、先に定義したF級のインピーダンス条件である。
【0025】
アンテナ17a〜17nは、各基本周波数に対応して設けられている。従って、例えば基本周波数fの信号はアンテナ17aから出力され、基本周波数fの信号はアンテナ17bから出力される。
【0026】
次に、F級増幅回路10の詳細な構成を、図2を参照して説明する。図2は、F級負荷回路20のブロック図である。なお、図2においては、F級増幅器15の等価回路及びアンテナ部17の等価回路も合わせて図示している。
【0027】
F級増幅器15の等価回路は、等価出力電流源15aと、F級増幅器15のドレイン出力端子とソース端子間に発生するドレイン・ソース間の寄生容量15b、ドレイン出力端子に発生する寄生インダクタ15cを含んでいる。そして、この寄生容量15bと寄生インダクタ15cとにより、寄生回路15dが構成されている。
【0028】
F級負荷回路20は、F級増幅器15の出力端子に接続される高調波処理部21、高調波処理部21の出力端子にシャント接続される短絡部22A、基本周波数の入力信号に対してインピーダンス整合を行う基本波整合部23を備えている。
【0029】
F級増幅器15からの信号には、基本周波数の信号成分と、その高調波の信号成分とが含まれる。また、寄生回路15dにより、ドレイン出力端子ノードにおける信号には位相にずれが生じる。このとき、多数存在する高調波の信号成分のドレイン出力端子における位相は、寄生回路によりずれてしまう。
【0030】
従って、等価出力電流源15aからアンテナ(負荷)17側をみた際の高調波のインピーダンス条件を開放状態や短絡状態に設定する高調波処理部21においては、これら寄生回路の存在を考慮してF級のインピーダンス条件を満たすように回路を形成する必要がある。以下、アンテナ17を適宜負荷17と記載する。
【0031】
図3は、F級負荷回路20の具体回路構成例を示した図である。なお、図3においては、F級増幅器15の等価回路及びアンテナ部17の等価回路も合わせて図示されている。F級負荷回路20は、2つの基本周波数の信号及びその高調波の信号成分が入力して、これらに対して高調波処理が行われる。
【0032】
高調波処理部21は、それぞれインダクタンスがL,L,Lの第1のインダクタ21a,第2インダクタ21b,第3インダクタ21cを備えると共に、それぞれ容量がC,Cの第1のキャパシタ21d、第2キャパシタ21eを備える。
【0033】
従って、F級増幅器15における寄生容量15b及び寄生インダクタ15cにより形成される寄生回路15dと、高調波処理部21の第1の〜第3インダクタ21a〜21c、第1の,第2キャパシタ21d,21eとにより、3段のLC梯子型回路が形成されている。
【0034】
また、短絡部22Aは、2つの基本周波数の信号の2次及び3次高調波の信号成分に対するλ/4長のオープンスタブ(開放線路)22a〜22dを備えている。なお、λは基本周波数の信号の波長である。従って、2つの基本周波数の信号に対して、λ1、λ2のように2つの波長が定義される。そして、例えば、波長λ1の信号の2次高調波の信号成分に対してはオープンスタブ22aが短絡端として機能し、3次高調波の信号成分に対してはオープンスタブ22bが短絡端として機能する。同様に、波長λ2の信号の2次高調波の信号成分に対してはオープンスタブ22cが短絡端として機能し、3次高調波の信号成分に対してはオープンスタブ22dが短絡端として機能する。
【0035】
基本波整合部23は、2つの基本周波数の信号に対応して設けられた整合器23a,23bを備えている。各整合器23a,23bは、基本周波数の信号がLC共振するように形成されたLC並列回路であり、それぞれ一方の信号のみを出力させる。これにより基本波整合部23の各整合器23a,23bには、2種類の基本周波数の信号が入力するが、それぞれの整合器23a,23bを通過できるのは一方の基本周波数の信号のみである。このため、各整合器23a,23bからは、当該整合器23a,23bの回路定数(共振常数)に対応した基本周波数の信号のみが出力される。このことから、基本波整合部23は、2ポート出力を形成している。このように2ポートとすることで、図1に示すように送信装置のアンテナ部17が2つのアンテナを備えて、基本周波数の異なる2つの信号を選択的に出力する場合に利用できる。
【0036】
そして、図3においては、説明を簡単にするために、基本波整合部23が入力信号の基本周波数に対応したLC共振回路のみで構成されて、各入力周波数に対応する効率最適負荷インピーダンスに相当する負荷17(17a,17b)が用いられている。この負荷17は通常50Ω程度の値に設定されていることが多い。このため、必要に応じて伝送線路や集中定数素子等が基本波整合部23に付加されることにより、インピーダンス整合が行なわれる。
【0037】
以下、全ての周波数に対して高調波処理部21が短絡状態にある理想的な場合(図4に示す構成)を起点として本発明にかかるインピーダンス整合の原理(高調波処理の原理)を説明する。
【0038】
図4は、F級増幅器15の寄生回路15dと、高調波処理部21とを取り出し、高調波処理部21の出力端子を短絡した理想的な場合を示した図である。図4において、2つの入力信号の基本周波数をω、ω(ω<ω)とする。F級増幅器15は、2つの異なる基本周波数ω、ωの信号を増幅して出力する。その際に、出力される信号には高調波の信号成分も含まれる。
【0039】
このとき、2次の高調波の周波数2ω,2ωと、3次の高調波の周波数3ω,3ωとには、2ω<3ω<2ω<3ω1の関係が成り立つとする。このとき、入力アドミタンスYFin(s)は、式1で与えられる。


【0040】
ここで、jは複素数であり、sをs=jωと定義する。また、Lは合成インダクタンスL=L+Lである。
【0041】
一方、図4は、純リアクタンス1端子対回路網と見ることができる。純リアクタンス1端子対回路網のアドミタンス特性は、式2により示すことができる。


【0042】
このように同一回路のアドミタンスは、式1と式2との2通りの表現が可能である。式2において、Ω、Ω、Ωは、アドミタンス関数の分子が零になる角周波数であり、インピーダンス関数の極を表す角周波数を示している。同様に式2において、Ω、Ωは、アドミタンス関数の分母が零になる角周波数であり、インピーダンス関数が零点となる角周波数を示している。なお、式2において、M=a/bである。また、a、a、a、a、b、b、bは、図4に示す回路のアドミタンスを有利関数表記した際の各次数の係数である。
【0043】
そこで、式2により等価出力電流源15aから負荷側を見込んだ各高調波の信号成分に対するインピーダンスを零又は無限大(極)に設定する。即ち、アドミタンスを無限大(インピーダンスの零に対応)、又は零(インピーダンスの極に対応)に設定して、F級のインピーダンス条件を設定する。また、F級動作と無関係の極は、F級増幅器15の寄生回路15dにより発生させる。
【0044】
これにより、F級増幅器15の寄生回路15dを取り込んだ状態で、等価出力電流源15aから負荷側を見た周波数特性は、複数の基本波周波数の信号に対してF級動作するようになる。
【0045】
例えば、ω、ωを基本波角周波数とし、式2において、Ω=2ω、Ω=2ωを零点とする。また、Ω=3ω、Ω=3ωを極とする。このとき、Ωは、F級増幅器15における寄生回路15dに対する擬似共振角周波数となる。
【0046】
上述したように基本周波数及び、高調波処理する次数の高調波を設定することにより、式3〜式5に示すように回路パラメータが設定できる。


【0047】


【0048】


【0049】
次に、F級動作の以下のモデルの下で行った検証シミュレーション結果について説明する。モデルとして、2つの入力信号の基本周波数をf=ω/2π=0.8GHz,f=ω/2π=2.14GHzとし、寄生容量をCds=0.262pF、寄生インダクタンスをL=0.013nHとする。
【0050】
このとき、L+L=3.5nHと設定した場合、Ω/2π=1.23GHz(Ω/2π<2ω/2π=1.6GHz)となる。また、C=0.63pF、L=6.11nH、C=4.32pF、L=2.91nHとなり、現実的に入手可能な容量及びインダクタンスの値が得られる。
【0051】
図5は、図4に示す純リアクタンス1端子対回路網における各容量Cds,C、C、及び、各インダクタンスL,L,L,Lを、上述した値に設定した際のインピーダンスの周波数特性を示している。図5の横軸は、周波数を示し、縦軸はインピーダンスを示している。
【0052】
同図において、周波数2f,2fは、基本周波数f,fの2次高調波の周波数であり、周波数3f,3fは、3次高調波の周波数である。図5からわかるように、等価出力電流源15a側からみたインピーダンスは、偶数次高調波の周波数2f、2fの信号成分に対して短絡となり、奇数次高調波の周波数3f,3fの信号成分に対して開放となっている。即ち、基本周波数の異なる2つの入力信号に対して、F級のインピーダンス条件が満されている。
【0053】
このように、全ての周波数に対して高調波処理部21が短絡状態にある理想的な場合に、基本周波数の異なる2つの入力信号に対して、F級のインピーダンス条件を満す容量C、C、L、Lを設定することができる。
【0054】
しかしながら、現実には、図4に示したように高調波処理部21の出力端子は接地されていない。即ち、現実には、図4に示す理想的な状態は実現されない。そこで、図6に示すように、短絡部22Aを設けて、使用する周波数又はその近傍の周波数で短絡状態となるように調整する。図6に示す短絡部22Aでは、各高調波の信号成分に対するλ/4オープンスタブ22a〜22dを用いて、特定の周波数(ここでは偶数次高調波の周波数2f、2fの信号成分)に対して短絡状態を実現する。なお、図6は高調波処理部21をLC梯子で形成し、終端部を各高調波に対応するλ/4開放線路で形成した際の回路図である。
【0055】
このようにして高調波に対するF級のインピーダンス条件を満たした後に、F級増幅器15の最適負荷インピーダンスとなるように、基本波整合部23を機能させている。
【0056】
図7は、図6に示す負荷17の値を50Ωとした時のF級負荷回路20におけるインピーダンスの周波数特性である。偶数次、奇数次の各高調波の周波数(2f,3f,2f,3f)以外の周波数において、式2からずれた振る舞いも見られるが、偶数次高調波の信号に対しては短絡状態となり、奇数次高調波の信号に対しては開放状態となっている。
【0057】
以上説明したように、基本周波数の異なる複数の入力信号に対してもF級のインピーダンス条件を満たした高調波処理が行えるようになる。従って、それぞれ異なる基本周波数の信号に対しても、消費電力の抑制が効率良く行えるF級増幅回路及び送信装置が提供できるようになる。
【0058】
また、1つのF級増幅回路で、基本周波数の異なる複数の信号に対してF級のインピーダンス条件を満たす高調波処理が行えるので、このF級増幅回路を搭載する際の搭載面積が小さくなる。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては、同一符号を用いて説明を適宜省略する。
【0059】
第1の実施形態においては、短絡部を各高調波の信号の波長λの1/4の長さに設定されたオープンスタブ22a〜22dにより構成した。これに対し、本実施形態においては、全て又は一部の高調波の信号成分に対して短絡状態となるように、LC並列共振回路又はCRLH(Composite Right and Left Hand)短絡線路回路により構成した。
【0060】
図8は、CRLH短絡線路により形成された短絡部22Bのブロック図である。短絡部22Bは、同一のインダクタンスを有するインダクタンスLの第1、第2インダクタ27a,27b及び、容量Cの第1〜第3キャパシタ26a〜26cを備える。また、所定の動作を行なうために電気長、及び、特性インピーダンスが調整された第1、第2伝送線路25a,25bを備える。
【0061】
第1伝送線路と第2伝送線路との間には、第1キャパシタ〜第3キャパシタが直列接続されている。また、第1インダクタは第1キャパシタと第2キャパシタとの接続点と接地点との間をシャント接続し、第2インダクタは第2キャパシタと第3キャパシタとの接続点と接地点との間をシャント接続している。第2伝送線路25bの終端は、接地されている。
【0062】
このように短絡部22BをCRLH短絡線路を用いて形成し、複数の高調波の信号に対して短絡条件を満たすように各要素の値を設定する。但し、例えば、2ω・2ω・3ω・3ωの4つの角周波数を持つ高調波の信号成分に対してF級のインピーダンス条件を満たすようにする場合には、2対のCRLH開放線路を設ける必要がある。これにより複数の高調波の信号成分に対してF級のインピーダンス条件を満たすことが可能になる。
【0063】
なお、上述した各実施形態においては、整合器23a,23bをLC並列共振回路で構成し、2つの基本波周波数の信号を周波数毎に分離した。そして、負荷17a,17bをそれぞれの基本波周波数ごとに設けることで、2ポート出力構成とした。しかし、信号を送信するアンテナ部17が2つの基本波周波数に対応している場合には、基本波整合部23で2つの基本波周波数の信号に対応させてインピーダンス整合が行なえる。従って、このような場合には、ポートは1ポート出力とすることができる。
【0064】
また、上記各実施形態においては、基本周波数の異なる2つの入力信号を考え、その2次、3次高調波に対する高調波処理を例に説明したが、本発明は、かかる数に限定されない。
【0065】
但し、F級増幅器の寄生回路のインピーダンスを考慮したF級のインピーダンス条件を設定する際には、極と零点との周波数が交互に現れることを条件として、連分数展開によりLC梯子型の素子値を設定する。
【0066】
なお、用いる入力信号の高調波の周波数がこの条件を満たさない場合には、適当な周波数を定め、極と零点の周波数が交互に現れるようにインピーダンスに極又は零点を追加する。即ち、シャント容量や直列インダクタンスを追加することで、追加した極又は零点に対応することが可能になる。
【0067】
さらに、上記の実施形態では、高調波処理部を、LC梯子を用いた集中定数回路により構成したが、ステップ型のマイクロストリップ伝送路やコプレーナ伝送路といった分布定数回路に変換することもできる。
【0068】
また、集中定数素子の自己共振周波数を超える周波数帯についても、本発明にかかるF級増幅回路が適用し得る。
【符号の説明】
【0069】
2 送信装置
11 信号発生回路
11a〜11n 信号発生器
12 整合回路
12a〜12n 整合器
13 スイッチ回路
13a〜13n スイッチ
14 制御回路
15a 等価出力電流源
15b 寄生容量
15c 寄生インダクタ
15d 寄生回路
17 アンテナ部
17a〜17n アンテナ(負荷)
21 高調波処理部
21a 第1のインダクタ
21b 第2インダクタ
21c 第3インダクタ
21d 第1のキャパシタ
21e 第2キャパシタ
22a〜22d オープンスタブ(開放線路)
22A,22B 短絡部
23 基本波整合部
23a,23b 整合器
25a,25b 第2伝送線路
27a,27b 第2インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号をF級増幅して出力するF級増幅回路であって、
基本角周波数の異なる複数の信号をF級増幅し、該基本角周波数の信号成分及び、その高調波の信号成分を含んだ信号を出力するF級増幅器と、
前記F級増幅器の後段に設けられて、当該F級増幅器に寄生する寄生回路のインピーダンスを取り込んで回路設定されることにより、前記信号の直流成分及び偶数次高調波の信号成分に対しては短絡状態とし、奇数次高調波の信号成分に対しては開放状態となる高調波処理部と、
前記高調波処理部の後段に設けられて、高調波の信号成分に対しては短絡状態にする短絡部と、を備えることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のF級増幅回路であって、
前記短絡部の後段に設けられて、基本角周波数の信号成分のインピーダンス整合を行う基本波整合部と、
該基本波整合部の出力端子と接地端子を接続する負荷と、を備えることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のF級増幅回路であって、
前記寄生回路は、前記F級増幅器の寄生ドレイン・ソース間のシャント容量と、寄生ドレイン直列インダクタンスと、を含むことを特徴とするF級増幅回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記基本波整合部は、単一線路で形成され、又は、角基本周波数毎に少なくとも2つに分岐した多線路で構成されることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記高調波処理部は、LC梯子型回路により形成されていることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記高調波処理部は、ステップを有するマイクロストリップ伝送路、又は、コプレーナ伝送路で形成されていることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記短絡部は、高調波の波長をλとしたときに、λ/4の長さを有する先端開放線路を並列接続して形成されていることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記短絡部は、LC直列共振回路を並列接続した回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のF級増幅回路であって、
前記短絡部は、CRLH短絡線路回路を並列接続して形成されていることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のF級増幅回路と、
前記F級増幅回路からの信号を出力するアンテナ部と、を備えることを特徴とする送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55405(P2013−55405A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190611(P2011−190611)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】