説明

FRP筒体およびその製造方法

【課題】
フィラメントワインディングにより製造されたプロペラシャフト用FRP筒体において、補強層部と本体筒部の間のテーパー形状の部分へのボイドを発生防止し、設計どおりの捩り強度を発現する層構成とその製法を提供する。
【解決手段】
構成要素(A)周方向巻層からなる少なくとも一箇所のテーパー部を有する部分補強部、構成要素(B)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部、を含み、最表層に、構成要素(C)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部、を有するFRP筒体であって、少なくとも構成要素(A)のテーパー部の外周上では、構成要素(C)中の材料のバンド幅Lと隣り合うバンドとの幅方向の重なりPの関係が、L/P=1.5〜4.0であることを特徴とするFRP筒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP筒体およびその製造方法に関し、特に、端部に他部材が結合されるFRP筒体、例えばプロペラシャフト等に用いて好適なFRP筒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、各種産業分野でFRP(繊維強化プラスチック)筒体が使われてきつつある。
たとえば近年、燃費の向上や環境保全といった観点から自動車の軽量化が強く望まれているが、それを達成する一手段としてプロペラシャフトのFRP化が検討され、一部で既に採用されるに至っている。その際、使用する強化繊維にも種々あり、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が検討されているが、この中で特に、強度、弾性率の面からプロペラシャフトの筒体を炭素繊維を強化繊維とするCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製筒体が有力とされ、主にフィラメントワインディング法によって形成される。
【0003】
自動車のプロペラシャフトは、軸方向の弾性率とともに、エンジンから発生する大きなトルクを伝達する必要があることから、100〜400kgf・m程度の捩り強度を必要とする。また高速回転時時に共振を起こさないよう、危険回転数が5000〜15000rpm程度であることも要求される。これまでのCFRP製プロペラシャフト、特にその本体筒部は、特許文献1等に記載されているように、必要なトルクを伝達し、高い共振周波数を得るためのヘリカル層の積層角度とその積層構成、シャフトのサイズ(内径、外径、肉厚)、使用する強化繊維の種類、繊維の含有率等をパラメータとして設計されている。
【0004】
端部に金属製継手等を圧入接合して使用されるプロペラシャフト用FRP筒体は通常図1に示すように例えば樹脂含浸強化繊維をマンドレル14上に巻いていくフィラメントワインディング法によって形成され、FRP製本体筒12を形成する部分が主として強化繊維の螺旋巻き層(例えば、筒軸方向に対して強化繊維を5°〜60°の角度で配列した層。尚、角度表示は請求項部分も含め筒軸方向に対する絶対値で表すものとする。)を含むFRP層に長尺のフィラメントワインディングにおいて所定長さへの切断部13(所定長さのプロペラシャフト用FRP筒体とするための切断部)におけるFRP製本体筒12の端部内周面側に周方向巻き補強層(図1における補強層部A、B、C)と最表層に筒軸方向全長に渡って延在する周方向巻き表面保護層が形成される。
【特許文献1】特開平2−236014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィラメントワインディングによる製造されたプロペラシャフト用FRP筒体において、補強層部と本体筒部の間のテーパー形状の部分にボイドが発生することにより、設計どおりの捩り強度が発現しないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に対し、以下のボイド発生メカニズムを仮定し検討したところ、本発明にいたったものである。
【0007】
補強層部と本体筒部の間は図2に示すようにテーパー形状25になっているため、螺旋巻層26終了後、最表層に樹脂含浸強化繊維やフィルム、布のようなテープ状の材料で周方向巻表面保護部27を形成する場合、テーパー形状部25及びその周辺で表面保護部材料束24が不安定な状態になり滑り落ちる傾向にある。特に図2に示すように表面保護部材料束の幅23と巻き付けピッチが同じであれば時間の経過と共に図3に示すように表面保護部材料束34が滑り落ちてスキマ35が発生する。スキマが発生すると図4に示すように螺旋巻層強化繊維がこのスキマに侵入し45、スキマも徐々に拡がると共にこの部分の螺旋巻層断面にボイド46が多く形成される。
【0008】
上記メカニズムのボイド発生を防止するために、本発明に係るFRP筒体は、次の構成を有するものである。すなわち、構成要素(A)周方向巻層からなる少なくとも一箇所のテーパー部を有する部分補強部、構成要素(B)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部、を含み、最表層に、構成要素(C)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部、を有するFRP筒体であって、少なくとも構成要素(A)のテーパー部の外周上では、構成要素(C)中の材料のバンド幅Lと隣り合うバンドとの幅方向の重なりPの関係が、L/P=1.5〜4.0であることを特徴とする。ここで、構成要素(A)の部分補強部は、金属製部品の圧入やその他周方向に部分的に補強が必要な個所に設けられるために周方向巻き層であることが必要である。また補強部と非補強部の間に段差があると補強部と非補強部の境界で大きな空隙(ボイド)が発生しやすく、金属製部品を圧入する際、接着不良により補強部が陥没破壊しやすくなるため、補強部の端には非補強部へと厚みが徐々に減るように少なくとも一箇所のテーパー部を有することが必要である。
【0009】
また、構成要素(A)の部分補強部が、少なくとも一方の筒軸方向端部に設けられ、厚さが一定の最端部と軸方向内部に向かって厚さが減少する5〜45°の角度を有したテーパー部からなる部分補強部とすることが好ましい。これは、筒軸方向最端部には金属製部品が圧入されるためで厚さが一定の補強部となっていることが好ましいからである。またテーパー部の角度は、小さすぎるとテーパー部が長くなりすぎ重量増につながり、大きすぎると補強部と非補強部の境界で大きな空隙(ボイド)が発生しやすく、金属製部品を圧入する際、接着不良により補強部が陥没破壊しやすくなるため、かかる観点から5〜45°の角度を有することが好ましい。
【0010】
構成要素(B)本体筒部は、螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する事が必要である。これはエンジンの回転トルクを伝えたり、危険回転数や曲げ剛性を確保するためであり本目的のためには、螺旋巻き層である必要がある。
【0011】
このようにエンジンの回転トルクと危険回転数、曲げ剛性を効率的に設計するために構成要素(B)の螺旋巻きの角度は筒軸方向に対し5°〜60°であることが好ましい。また、金属製部品の圧入やその他周方向に部分的に補強のため、構成要素(A)の周方向巻き角度は筒軸方向に対し75°〜90°であることが好ましい。
【0012】
また、FRP円筒体に外部から衝撃が負荷された時、性能低下を防ぐため、構成要素(C)の表面保護部が必要であり、テーパー部で滑り落ちず且つ螺旋巻層内のボイドを絞り出す効果を得るため、構成要素(C)の周方向巻き角度が筒軸方向に対し75°〜90°であることが好ましく、衝撃負荷による性能低下を十分に防ぎ、多量の重量増につながらないため、構成要素(C)表面保護部の厚さが、0.1〜3.0mmであることが好ましい。なお、本明細書中では角度は、0°〜90°の間の絶対値で表すものとする。(例えば、5°〜60°は、5°〜60°または−5°〜−60°を表すものと定義する)
また、少なくとも構成要素(A)のテーパー部の外周上では、構成要素(C)中の材料のバンド幅Lと隣り合うバンドとの幅方向の重なりPの関係が、L/P=1.5〜4.0である必要がある。このような構成とすることでテーパー部で表面保護部材料束54が順次重なるように表面保護部が形成されるので、表面保護部材料束54の軸方向への滑り移動が抑制され安定して配置される、もしくは表面保護部材料束54が軸方向に滑り移動してもスキマ発生を防止することができ、表面保護部を十分に確保することができる。これにより、螺旋巻層56に発生する局部的なボイド発生を低減するとともに、異物がスキマに当たることによる螺旋巻層56の損傷を防ぎ、チューブ性能の低下を防止することができる。
【0013】
また、上記FRP筒体においては、構成要素(A)、構成要素(B)はマトリックス樹脂とそれぞれ独立して、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の強化繊維を含み、構成要素(C)を構成している材料が、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるか、または、ポリプロピレンフィルム、ナイロン製のタフタ、およびテトロン製のタフタからなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるものが好ましく、構成要素(C)を構成している材料のバンド幅Lが5〜50mmであることが好ましい。マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、変性エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。耐熱性、強度、成形性の観点から、エポキシ樹脂が好ましい。強化繊維としては、高強度・高弾性率繊維であれば、上記のものに限られないが、特に軽量化、危険回転数確保の観点から、炭素繊維が好ましく用いられる。また、構成要素(C)としては、強化繊維束に限らず、細幅の材料や、フィルムやシート状の材料を細幅にスリットしたものも好ましく用いられる。このような細幅の材料としては、テーパー部での滑り落ち防止の観点から、幅が上述の範囲であることが好ましい。これら選定された材料で得られるFRP筒体は十分な強度を有すると共に外部からの衝撃に対し十分な表面保護層となることができ、衝撃によるチューブ性能の低下を防止することができる。
【0014】
また、上記FRP筒体においては構成要素(A)を最内層に配置していることが好ましい。このようにすれば、セレーション形状を備えた金属性継手をFRP筒体内径部に圧入接合する場合、螺旋巻層の本体筒部を傷つけることがないので、本体筒部の著しい性能低下を防止することができる。
【0015】
また、上記のような本発明に係るFRP筒体は構成要素(A)が、少なくとも一端に設けられており、金属製部品が圧入接合されている軸状部品で、さらに金属製部品が金属製継手であるプロペラシャフトに好適のものである。
【0016】
この構成により、ボイド発生を低減するとともに、異物がスキマに当たることによる螺旋巻層の損傷を防ぎ、外部からの衝撃に対し十分な表面保護層が形成されているので、性能/機能を十分に確保したプロペラシャフトを提供することが出来る。
【0017】
本発明に係るFRP筒体の製造方法は、回転するマンドレル上に樹脂を含浸した強化繊維束を巻回する際、工程(a)少なくとも一箇所のテーパー部を有する周方向巻層からなる部分補強部を巻回、工程(b)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部を巻回、および、工程(c)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部を巻回、の工程を有するFRP筒体の製造方法であって、工程(c)の表面保護部の巻回時、少なくとも工程(a)で巻回したテーパー部の外周上では、材料のバンド幅Lと巻回時の送りピッチPの関係を、L/P=1.5〜4.0として巻回することが必要である。
【0018】
上記製造方法においては工程(b)の螺旋巻き角度を5°〜60°、工程(a)の周方向巻き角度を75°〜90°、工程(c)の周方向巻き角度を75°〜90°とし、工程(c)表面保護部の厚さを、0.1〜3.0mmとなるように巻回数を設定するとともに、工程(a)でテーパー角度が5〜45°となるように巻回することが好ましい。
【0019】
また、工程(c)では樹脂含浸強化繊維束以外に、フィルムやタフタのようなテープ状材料を巻回してもよい。
【0020】
この構成においてはテーパー部で表面保護部材料束54が順次重なるように表面保護部が形成されるので、表面保護部材料束54の軸方向への滑り移動が抑制され安定して配置される、もしくは表面保護部材料束54が軸方向に滑り移動してもスキマ発生を防止することができ、表面保護部を十分に確保することができる。
【0021】
これにより、螺旋巻層56に発生する局部的なボイド発生を低減するとともに、異物がスキマに当たることによる螺旋巻層56の損傷を防ぎ、チューブ性能の低下を防止することが可能となり、FRP筒体成形において品質を向上させることができる。
本発明に係るFRP筒体の製造方法は、工程(a)、工程(b)において、巻回する強化繊維がそれぞれ独立して、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んで製造され、工程(c)において、巻回する材料が、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるか、または、ポリプロピレンフィルム、ナイロン製のタフタ、およびテトロン製のタフタからなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂から製造されることを特徴とする方法からなる。
【0022】
上記製造方法においては、工程(c)で、幅が5〜50mmの材料を巻回することが好ましい。
【0023】
これら選定された材料で成形されたFRP筒体は十分な強度を有すると共に外部からの衝撃に対し十分な表面保護層を得ることができ、衝撃によるチューブ性能の低下を防止することができる。
【0024】
また、上記のような本発明に係るFRP筒体製造方法においては工程(a)で補強された端部に金属製部品を圧入接合する軸状部品の方法で、さらに金属製部品が金属製継手であるプロペラシャフトの製造方法に好適のものである。
【0025】
この構成において、ボイド発生を低減するとともに、異物がスキマに当たることによる螺旋巻層の損傷を防ぎ、外部からの衝撃に対し十分な表面保護層が形成されているので、性能/機能を十分に確保したプロペラシャフトの製造方法を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るFRP筒体およびその製造方法によれば、最表層にテープ状材料で周方向巻層からなる表面保護部を形成する場合、少なくともテーパー部の外周上で表面保護部材料束が十分に重なり合いながら巻回する構造としたので、テーパー形状部及びその周辺で表面保護部材料束が滑り落ちることによるスキマ発生等形状の不安定化を防止することができ、テーパー部における螺旋巻層に発生するボイドの原因となる空気を混入させない品質を向上したFRP製筒体を提供することが可能となる。
【0027】
また、スキマ発生を防止することで、異物がスキマに当たることによる螺旋巻層の損傷を防ぎ、ボイドを低減することでチューブの捩り強度低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明に係るFRP筒体およびその製造方法の望ましい実施形態を、主として車両用のプロペラシャフトに本発明を適用した場合について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図5は本発明の一実施態様に係るFRP筒体を示しており、図1に示したようなフィラメントワインディング法によりFRP筒体を製造するに際し、本発明を適用したもので、特にFRP製プロペラシャフトを製造する場合を示したものである。図5において、図1に示したようなフィラメントワインディング法によりマンドレル14上にFRP製の筒状体を形成していく際に、プロペラシャフトとして製造すべき所定長を有するFRP筒体を切断部13で切断するようにしたものである。FRP筒体は構成要素(A)周方向巻層からなる少なくとも一箇所のテーパー部を有する部分補強部、構成要素(B)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部、を含み、最表層に、構成要素(C)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部、を有するFRP筒体に成形される。この構成要素(A)のテーパー部を含む筒軸方向に前後100mmの範囲では、構成要素(C)中の材料のバンド幅Lと隣り合うバンドとの幅方向の重なりPの関係が、L/P=1.5〜4.0である。
【0030】
テーパー部およびその前後100mm範囲で表面保護部材料束が十分に重なり合いながら巻回された補強部を備えたFRP筒体の端部に、図6および図7に示すように、金属製継手が圧入され、図8に示すようなプロペラシャフトとされる。(なお、図6〜8では表面保護層は、薄いため図中への記載はからは割愛している)
図6は周方向巻き部分補強部62がFRP筒体最内層に配置された場合で、図7は周方向巻き部分補強部72が螺旋巻層の間に配置された場合であり、要求仕様に応じてどちらの形態でもよい。
【0031】
FRP筒体の材料として、本実施態様では、強化繊維として炭素繊維を、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用している。なお強化繊維としてアラミド繊維、ガラス繊維等の高強度、高弾性と言われる他の繊維を採用したり、マトリックス樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用することもできる。また構成要素(C)は強化繊維の他にポリプロピレンフィルム、ナイロン製のタフタ、およびテトロン製のタフタのようなテープ状の材料を採用することもできる。
【0032】
FRP筒体は通常、図1に示したように1本のマンドレル14に2〜10本の複数本をフィラメントワインディング法によって巻き付けていき、同時に成形する。樹脂含浸繊維をマンドレル14に巻き付けて筒体に成形した後に、繊維に含浸された樹脂を熱硬化させ、その後マンドレルを抜き取り、所定の長さに切断部13で切断することによって所定長さのFRP筒体に作製される。
【0033】
上記構成要素(C)表面保護部の厚さが、0.1〜3.0mmとなるように巻回数を設定することが好ましく、また、構成要素(A)のテーパー角度が5〜45°となるように巻回することが好ましい。
【実施例】
【0034】
次に、上記実施形態の項で説明した本発明の構成要件を満足するFRP筒体における効果を確認するためにスキマ発生観察、衝撃負荷後捩り試験評価を実施した。以下にこれらについて詳細に説明する。
【0035】
試験評価に使用したプロペラシャフト用FRP筒体はフィラメントワインディング法により製造した。繊維として炭素繊維束(東レ(株)“トレカ”T700、24000フィラメント、強度4900MPa、弾性率230GPa、破断伸度2.1%)、樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた。また、製造に使用したマンドレルは、外径(すなわち、FRP筒体の内径)がφ74mm、全長2000mmのものを用い、FRP筒体2本(製品長900mm)を1本のマンドレルから取るようにした。
【0036】
まず、エポキシ樹脂を含浸させたロービング(炭素繊維を複数本引き揃えた束)を、マンドレル上でFRP筒体の補強部に相当する端部位置に(図1に示したA、B、Cの位置)に周方向巻補強層として連続で成形した後、マンドレル面長部全体に渡ってFRP本体筒に相当する螺旋巻き層を連続で成形する。この時、螺旋巻きの巻角度を±15°とし、積層数を4層として成形した。
【0037】
さらに最表層に周方向巻き表面保護部を連続で巻回するがこの時、巻き付け時のロービングの幅が40mmであったが、テーパー部及びその前後50mmの範囲のみ成形時の周方向巻きの送りピッチを20mmとしてダブルラップ成形とした。
【0038】
次に、所定の温度条件にて加熱炉でエポキシ樹脂の硬化を行い、その後、マンドレルから成形品を脱芯した。脱芯後、所定のプロペラシャフト用FRP筒体2本を得るために、切断部で切断した。
【0039】
このようにして得られたFRP筒体のテーパー部およびその周辺で最表層の周方向巻き表面保護部にスキマは確認されなかった。
【0040】
また、テーパー部およびその周辺部を軸方向に切断して断面観察を実施したが螺旋巻き層にボイドと呼ばれる空隙は発生していなかった。
【0041】
図6に示したように、上記製造で得られたプロペラシャフト用FRP筒体の端部にヨークと呼ばれるプロペラシャフト用の金属製継手61を圧入した。ヨーク接合部の外周面にはセレーション加工が施されており、所望の回転伝達トルクを確保するための歯形状、長さ、歯数が設定されている。本実施例でのセレーション歯長は40mm、セレーション外径は74.3mmであった。
(比較例)
従来の製造方法で得られたプロペラシャフト用FRP筒体には図3に示したようにテーパー部およびその周辺で最表層の周方向巻き表面保護部にスキマ35は確認され、また図4に示したように螺旋巻き層がスキマに侵入45してくるとともに、螺旋巻き層断面にボイド46と呼ばれる空隙が確認された。
【0042】
このプロペラシャフト用FRP筒体にヨーク61を圧入して、トルク負荷試験およびテーパー部周辺に小石による飛び石衝撃を負荷させた後のトルク負荷試験を実施したところ、トルク負荷試験では約1000Nmで、飛び石衝撃後のトルク負荷試験では約750Nmというかなり低い値でテーパー部周辺を起点に破壊するサンプルがあった。
【0043】
ところが上記本発明に係る製造方法で得られたプロペラシャフト用FRP筒体にヨーク61を圧入して、トルク負荷試験およびテーパー部周辺に小石による飛び石衝撃を負荷させた後のトルク負荷試験を実施したところいずれも設計値通り約4000Nmで破壊した。
【0044】
以上の結果から、最表層に周方向巻き表面保護部を連続で巻回する際、テーパー部を含む筒軸方向前後100mmの範囲では、材料束の幅Lと巻回時の送りピッチPの関係を、L/P=1.5〜4.0と設定し、隣同士の材料束の重なり代を確実に確保することでスキマの発生やボイドの発生を防止し、その結果、捩り強度、衝撃負荷後の捩り強度といった性能が低下しないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るFRP筒体およびその製造方法は、とくにFRP製プロペラシャフトに好適なものであるが、プロペラシャフトに限らず、テーパー部を有するあらゆるFRP筒体に適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】マンドレル上でのFRP筒体の成形の様子を示す概略断面図である。
【図2】従来の成形方法における、表面保護部材料束の幅Lと成形時送りピッチの関係を示した断面図。
【図3】従来の成形方法において、表面保護部にスキマが発生した状態を示す断面図。
【図4】従来の成形方法において、スキマに螺旋巻層が侵入し、螺旋巻層内にボイドが発生した状態を示す断面図
【図5】本発明の一実施態様に係るFRP筒体の成形時におけるFRP筒体のテーパー およびその周辺部の断面図である。
【図6】FRP筒体の端部に金属製継手を圧入したプロペラシャフトで周方向巻き部分補強部をFRP筒体の最内層に配置した時の端部断面図である。
【図7】FRP筒体の端部に金属製継手を圧入したプロペラシャフトで周方向巻き部分補強部をFRP筒体の螺旋巻層の間に配置した時の端部断面図である。
【図8】本発明におけるFRP筒体を使用した時のプロペラシャフトの全体図である。
【符号の説明】
【0047】
11、25、36、55 :補強部から本体筒へのテーパー
12 :FRP本体筒
13、21、31、41、51 :所定長に切断するための切断部
14 :マンドレル
22、32、42、52、62、72:周方向巻き部分補強部
23、33、43、53 :表面保護部材料束の幅
24、34、54 :表面保護部材料束
26、37、47、56、63、73:螺旋巻層
27、38、48、57 :表面保護部
35 :表面保護部材料束間に発生するスキマ
45 :スキマに侵入した螺旋巻強化繊維
46 :ボイド
61 :金属製継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素(A)周方向巻層からなる少なくとも一箇所のテーパー部を有する部分補強部、構成要素(B)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部、を含み、最表層に、構成要素(C)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部、を有するFRP筒体であって、少なくとも構成要素(A)のテーパー部の外周上では、構成要素(C)中の材料のバンド幅Lと隣り合うバンドとの幅方向の重なりPの関係が、L/P=1.5〜4.0であることを特徴とするFRP筒体。
【請求項2】
構成要素(A)の部分補強部が、少なくとも一方の筒軸方向端部に設けられ、厚さが一定の最端部と軸方向内部に向かって厚さが減少するテーパー部からなる部分補強部である請求項1に記載のFRP筒体。
【請求項3】
構成要素(B)の螺旋巻きの角度が筒軸方向に対し5°〜60°、構成要素(A)周方向巻き角度が筒軸方向に対し75°〜90°、構成要素(C)の周方向巻き角度が筒軸方向に対し75°〜90°である請求項1または2のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項4】
構成要素(C)表面保護部の厚さが、0.1〜3.0mmである請求項1〜3のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項5】
構成要素(A)のテーパー角度が5〜45°である請求項1〜4のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項6】
構成要素(A)、構成要素(B)が、マトリックス樹脂とそれぞれ独立して、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の強化繊維を含み、構成要素(C)を構成している材料が、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるか、または、ポリプロピレンフィルム、ナイロン製のタフタ、およびテトロン製のタフタからなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるものである請求項1〜5のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項7】
構成要素(C)を構成している材料のバンド幅Lが5〜50mmである請求項1〜6のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項8】
構成要素(A)を最内層に配置してなる請求項1〜7のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項9】
請求項1〜8に記載のFRP筒体において、構成要素(A)が、少なくとも一端に設けられており、金属製部品が圧入接合されている軸状部品。
【請求項10】
請求項9に記載の軸状部品において、金属製部品が金属製継手であるプロペラシャフト。
【請求項11】
回転するマンドレル上に樹脂を含浸した強化繊維束を巻回する際、工程(a)少なくとも一箇所のテーパー部を有する周方向巻層からなる部分補強部を巻回、工程(b)螺旋巻層を含み筒軸方向に全長に渡って延在する本体筒部を巻回、および、工程(c)周方向巻層からなる筒軸方向に全長に渡って延在する表面保護部を巻回、の工程を有するFRP筒体の製造方法であって、工程(c)の表面保護部の巻回時、少なくとも工程(a)で巻回したテーパー部の外周上では、材料のバンド幅Lと巻回時の送りピッチPの関係を、L/P=1.5〜4.0として巻回することを特徴とするFRP筒体の製造方法。
【請求項12】
工程(b)の螺旋巻き角度を5°〜60°、工程(a)の周方向巻き角度を75°〜90°、工程(c)の周方向巻き角度を75°〜90°とする請求項11に記載のFRP筒体の製造方法。
【請求項13】
工程(c)表面保護部の厚さを、0.1〜3.0mmとなるように巻回数を設定する請求項11〜12のいずれかに記載のFRP筒体の製造方法。
【請求項14】
工程(a)でテーパー角度が5〜45°となるように巻回する請求項11〜13のいずれかに記載のFRP筒体の製造方法。
【請求項15】
工程(a)、工程(b)において、巻回する強化繊維がそれぞれ独立して、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んで製造され、工程(c)において、巻回する材料が、炭素繊維、ガラス繊維、およびポリアラミド繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂からなるか、または、ポリプロピレンフィルム、ナイロン製のタフタ、およびテトロン製のタフタからなる群より選ばれる少なくとも1種とマトリックス樹脂から製造される請求項11〜14のいずれかに記載のFRP筒体の製造方法。
【請求項16】
工程(c)で、幅が5〜50mmの材料を巻回する請求項11〜15のいずれかに記載のFRP筒体の製造方法。
【請求項17】
請求項11〜16に記載のFRP筒体の製造方法において、工程(a)で補強された端部に金属製部品を圧入接合する軸状部品の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の軸状部品の製造方法において、金属製部品が金属製継手であるプロペラシャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−175788(P2006−175788A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373071(P2004−373071)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】