説明

GaN結晶の成長方法

【課題】融液に原料以外の不純物を添加することなく、また、結晶成長装置を大型化することなく、転位密度が低く結晶性が高いGaN結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】本GaN結晶の成長方法は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aを含む基板を準備する工程と、基板10の主面10mにGa融液3への窒素の溶解5がされた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程と、を備える。また、基板10を準備する工程の後、GaN結晶20を成長させる工程の前に、基板10の主面10mをエッチングする工程を、さらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの各種半導体デバイスの基板として好ましく用いられる転位密度が低いGaN結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN結晶は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの各種半導体デバイスの基板を形成するための材料として非常に有用なものである。ここで、各種半導体デバイスの特性を向上させるために、転位密度が低く結晶性のよいGaN結晶基板が必要とされている。
【0003】
ここで、Gaを含む融液を用いる液相法は、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法などの気相法に比べて、転位密度の低いGaN結晶の成長が可能であると期待されている。
【0004】
たとえば、再公表WO99/34037号公報(以下、特許文献1という)は、1000K〜2800K(好ましくは1600K〜2800K)の高温および2000気圧〜45000気圧(好ましくは10000気圧〜45000気圧)の高圧の雰囲気下で、Ga融液中に窒素ガスを溶解させて、GaN結晶を成長させる方法を開示する。
【0005】
しかし、特許文献1の結晶成長方法においては、2000気圧(202.6MPa)〜45000気圧(4.56GPa)、好ましくは10000気圧(1.01GPa)〜45000気圧(4.56GPa)もの高圧を必要とする。このような高圧を得るためには、結晶成長容器に単純に圧縮窒素ガスを供給するだけでは足りず、さらに加圧装置が必要となる。また、このような高圧に耐える耐圧容器が必要となる。このため、大掛かりな装置が必要となる問題点がある。
【0006】
このため、金属Gaを含む融液を用いる液相法において、結晶成長の際の雰囲気圧力を低減する方法が提案されている。たとえば、H. Yamane, 他4名,“Preparation of GaN Single Crystals Using a Na Flux”,Chemistry of Materials,(1997),Vol.9,pp.413-416(以下、非特許文献1という)は、Naをフラックスとして用いたGaN結晶成長方法を開示する。この方法は、フラックスとしてのアジ化ナトリウム(NaN3)と金属Gaとを原料として、ステンレス製の反応容器(容器内寸法;内径=7.5mm、長さ=100mm)に窒素雰囲気で封入し、その反応容器を600〜800℃の温度で24〜100時間保持することにより、GaN結晶を成長させるものである。
【0007】
非特許文献1の結晶成長方法においては、結晶成長の際の雰囲気圧力が高々100kgf/cm2程度であるため、特許文献1の結晶成長方法に比べて、結晶成長装置を簡便にすることができる。しかし、非特許文献1の結晶成長方法には、結晶成長に用いられる融液中に金属Naが含まれているため、成長するGaN結晶にNaが不純物として取り込まれるという問題がある。
【特許文献1】再公表WO99/34037号公報
【非特許文献1】H. Yamane, 他4名,“Preparation of GaN Single Crystals Usinga Na Flux”,Chemistry of Materials,(1997),Vol.9,pp.413-416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Gaを含む融液を用いる液相法において、上記問題点を解決し、融液に原料(ガリウムおよび窒素)以外の不純物を添加することなく、また、結晶成長装置を大型化することなく、転位密度が低く結晶性が高いGaN結晶の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一主面を有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1)種結晶を含む基板を準備する工程と、基板の主面に、Ga融液に窒素を溶解させた溶液を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面上にGaN結晶を成長させる工程と、を備えるGaN結晶の成長方法である。
【0010】
本発明にかかるGaN結晶の成長方法において、基板を準備する工程の後、GaN結晶を成長させる工程の前に、基板の主面をエッチングする工程を、さらに備えることができる。ここで、基板の主面をエッチングする工程は、基板の主面に、Ga融液に窒素を溶解させた溶液を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および1気圧以上500気圧未満の雰囲気圧力下で行なうことができる。
【0011】
また、本発明にかかるGaN結晶の成長方法において、基板はGaxAlyIn1-x-yN種結晶が主結晶領域と主結晶領域に対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域とを含むことができる。また、基板は、主結晶領域の主面に比べて極性反転結晶領域の主面が10μm以上の深さで凹ませることができる。
【0012】
また、本発明にかかるGaN結晶の成長方法の基板を準備する工程において、基板を複数準備し、1つ以上の基板を収容した結晶成長容器を複数準備し、結晶成長室内に複数の結晶成長容器を水平方向および垂直方向の少なくともいずれかの方向に並べて配置することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Ga融液を用いる液相法において、上記問題点を解決し、融液に原料(ガリウムおよび窒素)以外の不純物を添加することなく、また、結晶成長装置を大型化することなく、転位密度が低く結晶性が高いGaN結晶の成長方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施形態1)
図1を参照して、本発明にかかるGaN結晶の成長方法の一実施形態は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1、以下同じ)種結晶10aを含む基板10を準備する工程と、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧(50.7MPa)以上2000気圧未満(202.6MPa)の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程と、を備える。
【0015】
まず、図1(a)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aを含む基板10を準備する工程を備える。かかる基板10を準備することにより、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの主面10m上に転位密度が低く結晶性の高い大型のGaN結晶を容易に成長させることができる。
【0016】
ここで、基板10は、主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aを含んでいれば足り、基礎基板10b上にGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが形成されているテンプレート基板であってもよく、基板全体がGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aで形成されているGaxAlyIn1-x-yN種結晶自立基板であってもよい。基板10がテンプレート基板の場合、基礎基板10bとしては、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aとの格子不整合が小さいサファイア基板、SiC基板、GaAs基板などが好ましく用いられる。基板10において、基礎基板10b上にGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aを形成する方法は、特に制限はなく、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法などの気相法、融液法などの液相法が挙げられる。
【0017】
また、転位密度が低く結晶性の高いGaN結晶を成長させる観点から、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aにおいて、Gaの組成比は大きいほど好ましく、たとえば、0.5<x≦1であることが好ましく、0.75<x≦1であることが好ましい。
【0018】
次に、図1(b)参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程と、を備える。
【0019】
Ga融液を用いた従来の液相法によるGaN結晶の成長においては、1000K(727℃)〜2800K(2527℃)の高温および2000気圧(202.6MPa)〜45000気圧(4.56GPa)の高圧を必要としていた。これに対して、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの主面10mにGa融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させることにより、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧(50.7MPa)以上2000気圧(202.6MPa)未満の雰囲気圧力下であっても、GaN結晶を成長させることが可能になった。ここで、Ga融液3への窒素の溶解5は、特に制限はないが、溶解させる窒素量を制御するのが容易な観点から、Ga融液3に窒素含有ガスを接触させることにより行うことが好ましい。また、雰囲気圧力は、Ga融液3に窒素含有ガスを溶解させること(Ga融液への窒素の溶解5)により得られるものである。
【0020】
融液を形成するGaは、特に制限はないが、GaN結晶への不純物の混入を低減する観点から、高純度のGaが好ましく、たとえば、純度99.99質量%以上のGaが好ましく、純度99.9999質量%以上のGaがより好ましい。また、窒素含有ガスとしては、特に制限はなく、窒素(N2)ガス、アンモニア(NH3)ガスなどが使用可能であるが、GaN結晶への不純物の混入を低減する観点から、高純度の窒素ガスが好ましく、たとえば、純度99.99質量%以上の窒素ガスが好ましく、純度99.9999質量%以上の窒素ガスがより好ましい。
【0021】
雰囲気温度が、800℃より小さいと結晶の成長が遅く実用的なサイズの結晶を得るのに莫大な時間が必要となり、1500℃より大きいと結晶の成長よりも分解が進みやすく実用的なサイズの結晶が得られなくなる。また、雰囲気圧力が、500気圧より小さいと結晶の成長が遅く実用的なサイズの結晶を得るのに莫大な時間が必要となり、2000気圧以上であると結晶成長装置に特別な加圧機構が必要となり結晶成長のためのコストが高くなる。
【0022】
(実施形態2)
図2を参照して、本発明にかかるGaN結晶の成長方法の他の実施形態は、実施形態1において、基板を準備する工程(図2(a))の後、GaN結晶を成長させる工程(図2(c))の前に、基板10の主面10mをエッチングする工程(図2(b))をさらに備える。
【0023】
基板10の主面10mをエッチングすることにより、基板を準備する際に基板に発生した加工変質層または基板の準備後に発生した表面酸化層などが除去されるため、基板の主面上に転位密度が極めて低く結晶性が極めて高いGaN結晶を成長させることができる。
【0024】
ここで、基板10の主面10mをエッチングする方法は、特に制限はないが、エッチング後にその表面を大気に触れさせず直接結晶成長工程に移行できる方法、たとえばGa融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を用いてエッチングする方法が好ましい。なぜなら、前もって基板10の主面10mをエッチングしても、Ga溶液成長に用いる準備段階で、その主面10mには必ず表面酸化層が形成されまた汚れなどが付着し、その主面上に結晶成長を行うと欠陥が発生するからである。
【0025】
まず、図2(a)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1)種結晶10aを含む基板を準備する工程を備える。かかる工程は、実施形態1で説明したとおりである。
【0026】
次に、図2(b)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mをエッチングする工程を備える。エッチング前の基板10の表面層10eには、基板を準備する際に基板に発生した加工変質層または基板の準備後に発生した表面酸化層または基板に付着した汚れなどが含まれているため、エッチングによりかかる表面層10eが除去された主面10mが得られる。
【0027】
ここで、基板10の主面10mをエッチングする工程は、特に制限はないが、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および1気圧(0.1MPa)以上500気圧(50.7MPa)未満の雰囲気圧力下で行なうことが好ましい。ここで、Ga融液3への窒素の溶解5は、特に制限はないが、溶解させる窒素量を制御するのが容易な観点から、Ga融液3に窒素含有ガスを接触させることにより行うことが好ましい。また、雰囲気圧力は、Ga融液3に窒素含有ガスを溶解させること(Ga融液への窒素の溶解5)により得られるものである。ここで、雰囲気温度が、800℃より小さいと主面のエッチング速度(主面がエッチングされる速度を意味する。以下同じ。)が小さくエッチング工程に長時間が必要となり、1500℃より大きいと主面のエッチング速度が大きくなりすぎてエッチング工程の制御が困難となる。また、雰囲気圧力が、1気圧より小さいと主面のエッチング速度が大きくなりすぎてエッチング工程の制御が困難となり、500気圧より大きいと主面のエッチング速度が小さくエッチング工程に長時間が必要となる。
【0028】
次に、図2(c)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程を備える。かかる工程は実施形態1で説明したとおりであるが、本実施形態においては、基板のエッチング後の主面10m上にGaN結晶を成長させるため、実施形態1で得られるGaN結晶に比べて、転位密度がより低く結晶性がより高いGaN結晶が得られる。
【0029】
(実施形態3)
図3を参照して、本発明にかかるGaN結晶の成長方法のさらに他の実施形態は、実施形態1または実施形態2において、基板10は、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが主結晶領域10kと主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含む。かかる基板10は、実施形態1または実施形態2の基板に比べて、主結晶領域の転位密度がより低減されているため、かかる基板10の主結晶領域10kの主面10km上に転位密度がより低く結晶性がより高いGaN結晶20を成長させることができる。
【0030】
まず、図3(a)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1)種結晶10aを含む基板10を準備する工程を備える。本実施形態において準備される基板10は、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが主結晶領域10kと主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含む。かかる基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aにおいて、極性反転結晶領域10hは、特に制限はないが、主面10mから見て、たとえばストライプ状またはドット状に形成されている。また、主面10mから見て、極性反転結晶領域10hの幅はたとえば5μm〜200μmであり、極性反転結晶領域10hのピッチはたとえば50μm〜2000μmである。
【0031】
本実施形態において準備される基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの成長方法は、特に制限はないが、特開2003−183100号公報に記載されているようにファセットを形成し維持しながら結晶成長させるファセット成長法が挙げられる。こうして得られるGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aは、転位密度が低い主結晶領域10kと、主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転しておりかつ主結晶領域10kに比べて転位密度が高い極性反転結晶領域10hを含む。
【0032】
次に、図3(b)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mをエッチングする工程を備える。基板10の主面10mをエッチングする工程は、実施形態2の場合と同様にして行われる。本実施形態においては、かかるエッチング工程により、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの極性反転結晶領域10hの主面10hmは主結晶領域10kの主面10kmとほぼ同じ速度でエッチングされる。
【0033】
次に、図3(c)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程を備える。かかる工程においては、実施形態2で説明したように、基板のエッチング後の主面10m上にGaN結晶20を成長させるため、実施形態1で得られるGaN結晶に比べて、転位密度がより低く結晶性がより高いGaN結晶が得られる。
【0034】
さらに、本実施形態の基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aは、転位密度の低い主結晶領域10kと主結晶領域10kに比べて[0001]方向の極性が反転し転位密度が高い極性反転結晶領域10hとを含む。このため、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの主面10m上にGaN結晶20を成長させると、基板10の主結晶領域10k上にその極性と低転位密度を引き継いでGaN結晶の主結晶領域20kが成長し、基板10の極性反転結晶領域10h上にその極性と高転位密度を引き継いで、主結晶領域20kに比べて[0001]方向の極性が反転しかつ転位密度が高い極性反転結晶領域20hが成長する。
【0035】
このように本実施形態のGaN結晶の成長方法においては、基板10の主結晶領域10kの主面10km上にGaN結晶20の転位密度の低い主結晶領域20kを成長させることができる。
【0036】
(実施形態4)
図4を参照して、本発明にかかるGaN結晶の成長方法のさらに他の実施形態は、実施形態1または実施形態2において、基板10は、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが主結晶領域10kと主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含み、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが10μm以上の深さDで凹んでいる。
【0037】
かかる基板10は、実施形態3において準備される基板に比べて、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが10μm以上の深さDで凹んでいるため、極性反転結晶領域10hの主面10hm上にGaN結晶の極性反転結晶領域は成長せず、主結晶領域10kの主面10km上に成長した主結晶領域20kが接合結晶領域20cで接合し一体化したGaN結晶20が得られる。このGaN結晶20は、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの主結晶領域10kの極性を受け継ぎ、接合結晶領域20cを除き転位密度が低く結晶性が高い。
【0038】
まず、図4(a)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、一主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1)種結晶10aを含む基板10を準備する工程を備える。本実施形態において準備される基板10は、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが主結晶領域10kと主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含む。これらの点については、本実施形態において準備される基板10は、実施形態3において準備される基板と同様である。
【0039】
さらに、本実施形態において準備される基板10は、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが10μm以上の深さDで凹んでおり、この点において、実施形態3において準備される基板と異なる。ここで、主結晶領域10kの主面10kmに対する極性反転結晶領域10hの主面10hmの凹み10vの深さDは、次の主面10mのエッチング工程後においても極性反転結晶領域10hの主面10hmの凹み10wが損なわれない観点から、10μm以上が必要であり、15μm以上が好ましい。エッチングの方法および条件によっては、主結晶領域10kの主面10kmのエッチング速度が、極性反転結晶領域10hの主面10hmのエッチング速度に比べて大きい場合もあるからである。
【0040】
また、本実施形態において準備される基板10は、実施形態3において準備される基板10の主面10mを、塩素含有ガス(たとえば、HClガス、Cl2ガスなど)を用いて気相エッチングする方法、熱燐酸などの強酸または溶融KOHもしくは溶融NaOHなどの強塩基を用いて液相エッチングする方法などが挙げられる。かかるエッチング方法および条件によれば、極性反転結晶領域10hの主面10hmのエッチング速度(主面がエッチングされる速度)が主結晶領域10kの主面10hmのエッチング速度に比べて大きいため、主結晶領域10kの主面10kmに対して極性反転結晶領域10hの主面10hmを凹ませることができる。
【0041】
次に、図4(b)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mをエッチングする工程を備える。基板10の主面10mをエッチングする工程は、実施形態2の場合と同様にして行われる。本実施形態においては、かかるエッチング工程により、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの極性反転結晶領域10hの主面10hmは主結晶領域10kの主面10kmとほぼ同じ速度でエッチングされる。このため、エッチング後の基板10においても、主結晶領域10kの主面10kmに対して極性反転結晶領域10hの主面10hmが凹んでいる。
【0042】
次に、図4(c)を参照して、本実施形態のGaN結晶の成長方法は、基板10の主面10mに、Ga融液3に窒素を溶解(Ga融液への窒素の溶解5)させた溶液7を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、主面10m上にGaN結晶20を成長させる工程を備える。かかる工程においては、実施形態2で説明したように、基板のエッチング後の主面10m上にGaN結晶を成長させるため、実施形態1で得られるGaN結晶に比べて、転位密度がより小さく結晶性がより高いGaN結晶が得られる。
【0043】
さらに、本実施形態の基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aは、転位密度の低い主結晶領域10kと主結晶領域10kに比べて[0001]方向の極性が反転し転位密度が高い極性反転結晶領域10hとを含み、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが凹んでいる。このため、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの凹凸を有する主面10m上にGaN結晶20を成長させると、極性反転結晶領域10hの主面10hm上にGaN結晶の極性反転結晶領域は成長せず、主結晶領域10kの主面10km上に成長した主結晶領域20kが成長する。複数の主結晶領域20kが1以上の接合結晶領域20cで接合し一体化したGaN結晶20が形成される。こうして得られたGaN結晶20は、基板10のGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aの主結晶領域10kの極性を受け継ぎ、接合結晶領域20cを除き転位密度が低く結晶性が高い。
【0044】
(実施形態5)
図1〜図8を参照して、本発明にかかるGaN結晶の成長方法のさらに他の実施形態は、実施形態1〜実施形態4における基板を準備する工程において、基板10を複数準備し、1つ以上の基板10を収容した結晶成長容器1,1A,1Bを複数準備し、結晶成長室110内に複数の結晶成長容器1,1A,1Bを水平方向および垂直方向の少なくともいずれかの方向に並べて配置する。
【0045】
本実施形態によれば、図8を参照して、複数の基板10のそれぞれの基板10上にGaN結晶20を成長させることにより、複数のGaN結晶20を一度に成長させることが可能となり、転位密度が低く結晶性が高い大型のGaN結晶を大量に効率よく成長させることができる。また、複数の基板10の主面10mを一度にエッチングし、エッチングされた複数の基板10のそれぞれの基板10上にGaN結晶20を成長させることにより、複数のGaN結晶20を一度に成長させることが可能となり、転位密度が極めて低く結晶性が極めて高い大型のGaN結晶を大量に効率よく成長させることができる。
【0046】
図5および図6を参照して、本実施形態において用いられる結晶成長容器1,1A,1Bは、GaN結晶の成長に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はなく、たとえば、カーボン(C)製、熱分解窒化ホウ素(pBN)製、またはアルミナ(Al23)製の坩堝などが用いられる。また、1つ以上の基板10が収容された結晶成長容器1A,1Bであれば足り、図5に示す1つの基板10が収容された結晶成長容器1Aであっても、図6に示す複数の基板10が収容された結晶成長容器1Bであってもよい。
【0047】
ここで、図6において、結晶成長容器1Bに収容される複数の基板10の配置には、特に制限はないが、所定領域内にできるだけ多くの基板10を配置する観点から、複数の基板10を、基板10の主面10mに平行な方向に並べて配置することが好ましい。かかる観点から、複数の基板10を、基板の主面10mに平行な面上で、稠密になるように並べて配置することがより好ましく、最稠密になるように並べて配置することがさらに好ましい。複数の基板が同一半径を有する円板状である場合は、図6に示すように平面的に六方稠密となるように基板10を並べて配置することが好ましい。
【0048】
ここで、基板10は、実施形態1または実施形態2に示すように、主面10mを有するGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aを含んでいれば足り、基礎基板10b上にGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが形成されているテンプレート基板であってもよく、基板全体がGaxAlyIn1-x-yN種結晶10aで形成されているGaxAlyIn1-x-yN種結晶自立基板であってもよい。また、基板10は、実施形態3に示すように、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが、転位密度の低い主結晶領域10kと主結晶領域10kに比べて[0001]方向の極性が反転し転位密度が高い極性反転結晶領域10hとを含んでいてもよい。さらに、基板10は、実施形態4に示すように、GaxAlyIn1-x-yN種結晶10aが主結晶領域10kと主結晶領域10kに対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含み、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが10μm以上の深さDで凹んでいてもよい。
【0049】
図7および図8を参照して、本実施形態において、1つ以上の基板が収容された結晶成長容器1,1A,1Bは、結晶成長室110内に水平方向および垂直方向の少なくともいずれかの方向に並べて配置されていれば足り、図7または図8の最上段に示すように水平方向に並べて配置されていてもよく、図8の最上段以外の段に示すように垂直方向に並べて配置されていてもよい。
【0050】
結晶成長容器1A,1Bの水平方向への並べ方については、特に制限はないが、所定領域内にできるだけ多くの結晶成長容器を配置する観点から、水平面上で、稠密になるように並べて配置することが好ましく、最稠密になるように並べて配置することがより好ましい。複数の結晶成長容器が同一半径を有する円柱状容器である場合は、図7に示すような平面的に六方稠密となるように結晶成長容器を並べて配置することが好ましい。また、結晶成長容器1は、窒素含有ガスが結晶成長容器1内に供給されるように配置されていれば足りる。また、結晶成長容器1A,1Bの垂直方向への並べ方については、特に制限がないが、所定領域内にできるだけ多くの結晶成長容器を配置する観点から、垂直方向に稠密になるように並べて配置することが好ましい。
【0051】
なお、結晶成長室110には、窒素含有ガスを室内に供給するためのガス供給口110eが設けられている。また、結晶成長室110の外部には、結晶成長室110内を加熱するためのヒータ120が配設されている。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
1.基板の準備
図1(a)を参照して、基板10として、直径2インチ(5.08cm)のサファイア基板(基礎基板10b)の(0001)主面上にMOCVD法により厚さ3μmのGaN種結晶(GaxAlyIn1-x-yN種結晶10a)を成長させたGaNテンプレート基板を準備した。このGaNテンプレート基板のGaN種結晶の転位密度は、CL(カソードルミネッセンス)法により測定したところ、1×109cm-2であった。
【0053】
2.GaN結晶の成長
図1(b)を参照して、結晶成長室(図示せず)内に配置された内径6cm×高さ5cmのカーボン製の坩堝(結晶成長容器1)内に、上記GaNテンプレート基板(基板10)および純度99.9999質量%の金属Gaを85g配置した。
【0054】
次に、結晶成長室内に純度99.999質量%の窒素ガスを供給して、坩堝(結晶成長容器1)を、室温(25℃)に保持して2時間かけて大気圧から1950気圧(197.5MPa)まで加圧した後、さらに1950気圧に保持して3時間かけて室温から1100℃に加熱した。このとき、坩堝内に配置された金属Gaが融解してGa融液3となり、Ga融液3への窒素の溶解5により得られた溶液7が基板10の主面10mに接触している。次いで、1950気圧および1100℃の窒素雰囲気下で坩堝を10時間保持した。
【0055】
GaNテンプレート基板(基板10)の主面10m上に厚さ5μmのGaN結晶20が成長していた。ここで、GaN結晶の厚さは、基板上に成長した結晶の結晶成長方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察して測定した。また、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は780arcsecであった。また、GaN結晶の転位密度は、CL法により測定したところ、2×108cm-2であり、基板のGaN種結晶の転位密度に比べて低くなっていた。
【0056】
(実施例2)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、実施例1と同様のGaNテンプレート基板(基板10)を準備した。
【0057】
2.基板の主面のエッチング
図2(b)を参照して、結晶成長室(図示せず)内に配置された内径6cm×高さ5cmのカーボン製の坩堝(結晶成長容器1)内に、上記GaNテンプレート基板(基板10)および純度99.9999質量%の金属Gaを85g配置した。
【0058】
次に、結晶成長室内に純度99.999質量%の窒素ガスを供給して、坩堝(結晶成長容器1)を、30気圧(3.04MPa)に保持して3時間かけて室温(25℃)から1100℃まで加熱した。このとき、坩堝内に配置された金属Gaが融解してGa融液3となり、Ga融液3への窒素の溶解5により得られた溶液7が基板10の主面10mに接触している。しかし、この条件においては、Ga融液への窒素の溶解が少ないため、GaN結晶を成長させることなく、GaNテンプレート基板のGaN種結晶の主面10mがエッチングされる。
【0059】
3.GaN結晶の成長
次に、図2(b)を参照して、結晶成長室(図示せず)内に純度99.999質量%の窒素ガスを供給して、坩堝(結晶成長容器1)を、1100℃に保持して2時間かけて30気圧(3.04MPa)から1950気圧(197.5MPa)まで加圧した。次いで、1950気圧および1100℃の窒素雰囲気下で坩堝を10時間保持した。
【0060】
このとき、基板の主面10mに接触しているGa融液への窒素の溶解が大きくなり、GaN結晶が成長した。GaN結晶の厚さは5μmであり、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は360arcsecであり、高い結晶性を有していた。また、GaN結晶の転位密度は、7×106cm-2であり、基板のGaN種結晶および実施例1のGaN結晶の転位密度に比べて、低くなっていた。
【0061】
本実施例において、実施例1に比べて、X線回折ピークの半値幅および転位密度が小さく、すなわち転位密度が低く結晶性が高くなったのは、基板の主面のエッチングにより、基板の主面における加工変質層および/または表面酸化層、および/または基板の主面に付着した汚れが除去され良好な結晶成長がされたためと考えられる。
【0062】
(実施例3)
1.基板の準備
図3(a)を参照して、基板10として、特開2003−183100号公報に記載されたファセット成長法により成長させた直径2インチ(5.08cm)のGaN自立基板を準備した。このGaN自立基板は、主結晶領域10kと主結晶領域に対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含み、主結晶領域10kの転位密度は1×105cm-2であり、極性反転結晶領域10hの転位密度は5×107cm-2であった。
【0063】
2.基板の主面のエッチング
図3(b)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0064】
3.GaN結晶の成長
図3(c)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであり、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は100arcsecであり、非常に高い結晶性を有していた。また、GaN結晶20の主結晶領域20k(基板10の主結晶領域10kの主面10km上に成長した結晶領域)の転位密度は、1×105cm-2であり、基板10の主結晶領域10kの転位密度とほぼ同じであった。また、GaN結晶20の極性反転結晶領域20h(基板10の極性反転結晶領域10hの主面10hm上に成長した結晶領域)の転位密度は、5×107cm-2であり、基板10の極性反転結晶領域10hの転位密度と同等であった。なお、GaN結晶20の主面に1NのKOH水溶液を接触させたところ、GaN結晶20の極性反転結晶領域20hの主面がエッチングされた。
【0065】
(実施例4)
1.基板の準備
図4(a)を参照して、基板10として、特開2003−183100号公報に記載されたファセット成長法により成長させた直径2インチ(5.08cm)のGaN自立基板を準備した。このGaN自立基板は、主結晶領域10kと主結晶領域に対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域10hとを含み、主結晶領域10kの主面10kmに比べて極性反転結晶領域10hの主面10hmが10μmの深さDで凹んでいる。かかる凹みは、GaN自立基板の主面10mを800℃に加熱しながら、25体積%の塩化水素ガスを含む窒素ガス雰囲気中で、約2時間保持することにより形成した。主結晶領域10kの転位密度は1×105cm-2であり、極性反転結晶領域10hの転位密度は5×107cm-2であった。
【0066】
2.基板の主面のエッチング
図4(b)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0067】
3.GaN結晶の成長
図4(c)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであり、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は100arcsecであり、非常高い結晶性を有していた。また、GaN結晶20の主結晶領域20k(基板10の主結晶領域10kの主面10km上に成長した結晶領域)の転位密度は、1×105cm-2であり、基板10の主結晶領域10kの転位密度とほぼ同じであった。また、GaN結晶20の複数の主結晶領域20kが接合する接合結晶領域20c(基板10の極性反転結晶領域10hの主面10hm上に位置する)の転位密度は、2×106cm-2であり、GaN結晶20の主結晶領域20kの転位密度に比べて大きかったものの、基板10の極性反転結晶領域10hの転位密度に比べて小さかった。また、GaN結晶20の主面に1NのKOH水溶液を接触させたところ、GaN結晶20の主面は全くエッチングされず、本実施例のGaN結晶には極性反転結晶領域が形成されていないことがわかった。
【0068】
(実施例5)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、基板10として、(1−100)主面を有する直径2インチ(5.08cm)のGaN自立基板を準備した。このGaN自立基板の転位密度は2×107cm-2であった。
【0069】
2.基板の主面のエッチング
図2(b)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0070】
3.GaN結晶の成長
図2(c)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであり、GaN結晶の主面は、X線回折法により測定したところ、(1−100)面であった。また、GaN結晶の(1−100)面に関するX線回折ピークの半値幅は520arcsecであり、高い結晶性を有していた。また、GaN結晶の転位密度は、2×107cm-2であり、GaN自立基板の転位密度と同じであった。
【0071】
(実施例6)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、基板10として、直径2インチ(5.08cm)のサファイア基板(基礎基板10b)の(0001)主面上にMOCVD法により厚さ3μmのGa0.8In0.2N種結晶(GaxAlyIn1-x-yN種結晶10a)を成長させたGa0.8In0.2Nテンプレート基板を準備した。ここで、テンプレート基板のGa0.8In0.2N種結晶の転位密度は、8×109cm-2であった。
【0072】
2.基板の主面のエッチング
図2(b)を参照して、実施例2と同様にして、Ga0.8In0.2Nテンプレート基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0073】
3.GaN結晶の成長
図2(c)を参照して、実施例2と同様にして、Ga0.8In0.2Nテンプレート基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであった。また、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は540arcsecであった。また、GaN結晶の転位密度は、7×106cm-2であり、Ga0.8In0.2Nテンプレート基板の転位密度に比べて低くなっていた。
【0074】
(実施例7)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、基板10として、直径2インチ(5.08cm)のサファイア基板(基礎基板10b)の(0001)主面上にMOCVD法により厚さ3μmのGa0.8Al0.2N種結晶(GaxAlyIn1-x-yN種結晶10a)を成長させたGa0.8Al0.2Nテンプレート基板を準備した。ここで、テンプレート基板のGa0.8Al0.2N種結晶の転位密度は、8×109cm-2であった。
【0075】
2.基板の主面のエッチング
図2(b)を参照して、実施例2と同様にして、Ga0.8Al0.2Nテンプレート基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0076】
3.GaN結晶の成長
図2(c)を参照して、実施例2と同様にして、Ga0.8Al0.2Nテンプレート基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであった。また、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は420arcsecであった。また、GaN結晶の転位密度は、5×106cm-2であり、Ga0.8Al0.2Nテンプレート基板の転位密度に比べて低くなっていた。
【0077】
(実施例8)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、基板10として、特開2000−22212号公報に記載されたGaAs基板上に厚く成長させたGaN結晶から切り出された直径2インチ(5.08cm)のGaN自立基板を準備した。ここで、GaN自立基板の転位密度は5×106cm-2であり、主面10mのJIS B0601に規定される算術平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、100nm以上であった。また、このGaN自立基板は、その断面をSEM観察およびCL観察したところ、表面から深さ2μmまでの表面層のCL発光強度が弱かった。この表面から深さ2μmまでの表面層は、GaN結晶から切り出す際にGaN自立基板の表面層に形成された加工変質層である。かかる加工変質層を除去するために、基板の主面のエッチングを行なった。
【0078】
2.基板の主面のエッチング
図2(b)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10mのエッチングを行なった。
【0079】
3.GaN結晶の成長
図2(c)を参照して、実施例2と同様にして、GaN自立基板の主面10m上にGaN結晶20を成長させた。GaN結晶の厚さは5μmであった。また、GaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は420arcsecであった。また、GaN結晶の転位密度は3×106cm-2であり、GaN自立基板の転位密度に比べて低く良好であった。また、GaN結晶の主面の算術平均粗さRaは10nm以下であり、GaN自立基板とその主面上に成長したGaN結晶との界面にはCL発光強度の弱い表面層は観察されなかった。すなわち、GaN結晶の成長前にGaN自立基板の主面をエッチングすることにより、加工変質層が除去されたことがわかる。
【0080】
4.発光デバイスの作製
図9を参照して、GaN自立基板(基板10)上に厚さ5μmのGaN結晶20を成長させたGaN結晶基板30のGaN結晶20側の主面上に、MOCVD法を用いて、LED構造55を形成して発光デバイスたるLED(発光ダイオード)を作製した。ここで、LED構造55を形成する複数のIII族窒化物結晶層を成長させるために、III族原料としては、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)および/またはトリメチルアルミニウム(TMA)を用い、窒素原料としてはアンモニアを用い、n型ドーパント原料としてはモノシランを用い、p型ドーパント原料としてはビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(CP2Mg)を用いた。
【0081】
具体的には、GaN結晶基板30のGaN結晶20側の主面上に、MOCVD法により、LED構造55を形成する複数のIII族窒化物結晶層として、厚さ2μmのn型GaN層51、厚さ88nmのMQW(多重量子井戸)発光層52(1層毎に交互に配置された7層の厚さ10nmのIn0.01Ga0.99N障壁層52bと6層の厚さ3nmのIn0.14Ga0.86N井戸層52wを有する)、厚さ20nmのp型Al0.18Ga0.82N電子ブロック層53および厚さ50nmのp型GaNコンタクト層54を、順次成長させた。
【0082】
p型GaNコンタクト層54上に、真空蒸着法により、p側電極56としてNi(5nm)/Au(10nm)からなる縦幅400μm×横幅400μm×厚さ15nmの半透明オーミック電極を形成した。また、GaN結晶基板30のGaN自立基板(基板10)側の主面上に、n側電極57として、真空蒸着法により、Ti(20nm)/Al(300nm)からなる縦幅400μm×横幅400μm×厚さ320nmのオーミック電極を形成した。次いで、縦幅500μm×横幅500μmにチップ化してLEDを完成させた。
【0083】
こうして得られたLEDは、発光波長は420nmであり、20mAの電流を印加したときの発光強度は4mW〜5mWであった。
【0084】
(参考例1)
なお、実施例8と比較するために、以下の方法で典型的なLEDを作製して、その発光波長および発光強度を測定した。
【0085】
1.基板の準備
図2(a)を参照して、基板10として、特開2000−22212号公報に記載されたGaAs基板上に厚く成長させたGaN結晶から切り出された直径2インチ(5.08cm)のGaN自立基板を準備した。ここで、GaN自立基板の転位密度は5×106cm-2であり、主面10mのJIS B0601に規定される算術平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、100nm以上であった。また、このGaN自立基板は、その断面をSEM観察およびCL観察したところ、表面から深さ2μmまでの表面層のCL発光強度が弱かった。この表面から深さ2μmまでの表面層は、GaN結晶から切り出す際にGaN自立基板の表面層に形成された加工変質層である。かかる加工変質層を除去するために、基板の主面の研磨を行なった。
【0086】
2.基板の主面の研磨
GaN自立基板(基板10)の主面10mを、平均粒径0.1μmのダイヤモンド砥粒を用いて研磨した後、さらに、平均粒径0.02μmのコロイダルシリカ砥粒を用いて微細研磨した。研磨後のGaN自立基板の主面において、その算術平均粗さRaは10nm以下であり、CL発光強度の弱い表面層は観察されなかった。すなわち、GaN自立基板の主面を研磨することにより、加工変質層が除去されたことがわかる。
【0087】
3.発光デバイスの作製
図10を参照して、GaN自立基板(基板10)の一方の主面上に、実施例8と同様にして、MOCVD法により、LED構造55を形成する複数のIII族窒化物結晶層として、厚さ2μmのn型GaN層51、厚さ88nmのMQW(多重量子井戸)発光層52(1層毎に交互に配置された7層の厚さ10nmのIn0.01Ga0.99N障壁層52bと6層の厚さ3nmのIn0.14Ga0.86N井戸層52wを有する)、厚さ20nmのp型Al0.18Ga0.82N電子ブロック層53および厚さ50nmのp型GaNコンタクト層54を、順次成長させた。さらに、p型GaNコンタクト層54上に、真空蒸着法により、p側電極56としてNi(5nm)/Au(10nm)からなる縦幅400μm×横幅400μm×厚さ15nmの半透明オーミック電極を形成した。また、GaN自立基板(基板10)の他方の主面上に、n側電極57として、真空蒸着法により、Ti(20nm)/Al(300nm)からなる縦幅400μm×横幅400μm×厚さ320nmのオーミック電極を形成した。次いで、縦幅500μm×横幅500μmにチップ化してLEDを完成させた。
【0088】
こうして得られたLEDは、発光波長は420nmであり、20mAの電流を印加したときの発光強度は4mW〜5mWであり、実施例8のLEDと同等の特性を有していた。
【0089】
実施例8と参考例1とを対比すると明らかなように、発光デバイスを作製する際に、基板の主面における加工変質層の除去を、基板の主面の研磨に替えて基板の主面のエッチングおよび結晶成長により行っても、同等の発光波長および発光強度を有する発光デバイスが得られることがわかった。すなわち、発光デバイスの製造において、基板の主面の加工変質層の除去を、基板の主面のエッチングおよび結晶成長を行うことにより、ランニングコストの高い基板の主面の研磨工程を省略することができた。
【0090】
(実施例9)
1.基板の準備
図2(a)を参照して、実施例1と同様のGaNテンプレート基板(基板10)を1110枚準備した。図5を参照して、内径6cm×高さ5cmのカーボン製の坩堝A(結晶成長容器1A)内に、1枚の上記GaNテンプレート基板(基板10)と純度99.9999質量%の金属Gaとを85g配置した。金属Gaおよび1枚のGaNテンプレート基板を収容した坩堝A(結晶成長容器1A)を37個準備した。また、図6を参照して、内径45cm×高さ5cmのカーボン製の坩堝B(結晶成長容器1B)内に、37枚の上記GaNテンプレート基板(基板10)を図6に示すように平面的に六方稠密になるように並べて配置し、また純度99.9999質量%の金属Gaを470g配置した。金属Gaおよび37枚のGaNテンプレート基板を収容した坩堝B(結晶成長容器1B)を29個準備した。
【0091】
次に、図8を参照して、結晶成長室110内に、金属Gaおよび37枚のGaNテンプレート基板を収容した坩堝B(結晶成長容器1B)を垂直方向に29個並べて配置した(すなわち、坩堝Bを29段積み重ねた)。最上段の坩堝B上にカーボン製の平板130を配置した。平板130上に、37個の金属Gaおよび1枚のGaNテンプレート基板を収容した坩堝A(結晶成長容器1A)を図7に示すように水平方向に平面的に六方稠密となるように並べて配置した。こうして、29段を構成する29個の坩堝Bと1段を構成する17個の坩堝Aとを結晶成長室110内に配置した。
【0092】
2.基板の主面のエッチング
次に、結晶成長室110内に純度99.999質量%の窒素ガスを供給して、坩堝Aおよび坩堝Bを、30気圧(3.04MPa)に保持して3時間かけて室温(25℃)から1100℃まで加熱した。このとき、坩堝Aおよび坩堝B内に配置された金属Gaが融解してGa融液3となり、Ga融液3への窒素の溶解5により得られた溶液7が基板10の主面10mに接触している。しかし、この条件においては、Ga融液への窒素の溶解が少ないため、GaN結晶を成長させることなく、GaNテンプレート基板のGaN種結晶の主面10mがエッチングされる。
【0093】
3.GaN結晶の成長
次に、図8を参照して、結晶成長室110内に純度99.999質量%の窒素ガスを供給して、坩堝A(結晶成長容器1A)および坩堝B(結晶成長容器1B)を、1100℃に保持して2時間かけて30気圧(3.04MPa)から1950気圧(197.5MPa)まで加圧した。次いで、1950気圧および1100℃の窒素雰囲気下で坩堝Aおよび坩堝Bを10時間保持した。
【0094】
このとき、GaNテンプレート基板(基板10)の主面10mに接触しているGa融液への窒素の溶解が大きくなり、1110枚の全てのGaNテンプレート基板のGaN種結晶10aの主面10m上にGaN結晶が成長した。成長した1110個のGaN結晶の内、最も厚いGaN結晶の厚さは7μmであり、最も薄いGaN結晶の厚さは2μmであった。また、1110個のGaN結晶から抜き取った30個のGaN結晶の(0002)面に関するX線回折ピークの半値幅は、最大が470arcsec、最小が280arcsecであり、高い結晶性を有していた。また、30個のGaN結晶の転位密度は、最大が8×106cm-2、最小が3×106cm-2であり、基板のGaN種結晶および実施例1のGaN結晶の転位密度に比べて、低くなっていた。
【0095】
本実施例において、抜き取ったいずれのGaN結晶についても、実施例1に比べて、X線回折ピークの半値幅および転位密度が小さく、すなわち転位密度が低く結晶性が高くなったのは、基板の主面のエッチングにより、基板の主面における加工変質層および/または表面酸化層、および/または基板の主面に付着した汚れが除去され良好な結晶成長がされたためと考えられる。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明にかかるGaN結晶の成長方法の一実施形態を示す概略断面図である。ここで、(a)は基板を準備する工程を示し、(b)はGaN結晶を成長させる工程を示す。
【図2】本発明にかかるGaN結晶の成長方法の他の実施形態を示す概略断面図である。ここで、(a)は基板を準備する工程を示し、(b)は基板の表面をエッチングする工程を示し、(c)はGaN結晶を成長させる工程を示す。
【図3】本発明にかかるGaN結晶の成長方法のさらに他の実施形態を示す概略断面図である。ここで、(a)は基板を準備する工程を示し、(b)は基板の表面をエッチングする工程を示し、(c)はGaN結晶を成長させる工程を示す。
【図4】本発明にかかるGaN結晶の成長方法のさらに他の実施形態を示す概略断面図である。ここで、(a)は基板を準備する工程を示し、(b)は基板の表面をエッチングする工程を示し、(c)はGaN結晶を成長させる工程を示す。
【図5】本発明にかかるGaN結晶の成長方法において用いられる基板が収容された結晶成長容器の一例を示す概略図である。ここで、(a)は結晶成長容器の概略上面図を示し、(b)は(a)のVB−VBにおける概略断面図を示す。
【図6】本発明にかかるGaN結晶の成長方法において用いられる基板が収容された結晶成長容器の他の例を示す概略図である。ここで、(a)は結晶成長容器の概略上面図を示し、(b)は(a)のVIB−VIBにおける概略断面図を示す。
【図7】本発明にかかるGaN結晶の成長方法において用いられる基板が収容された結晶成長容器の配置の一例を示す概略上面図である。
【図8】本発明にかかるGaN結晶の成長方法において用いられる基板が収容された結晶成長容器の配置の他の例を示す概略上面図である。
【図9】本発明にかかるGaN結晶の成長を用いて作製した発光デバイスの概略断面図である。
【図10】典型的な発光デバイスの概略断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1,1A,1B 結晶成長容器、3 Ga融液、5 Ga融液への窒素の溶解、7 溶液、10 基板、10a GaxAlyIn1-x-yN種結晶、10b 基礎基板、10e エッチングにより除去される表面層、10h,20h 極性反転結晶領域、10k,20k 主結晶領域、10m,10hm,10km 主面、10v,10w 凹み、20 GaN結晶、20c 接合結晶領域、30 GaN結晶基板、51 n型GaN層、52 MQW発光層、52b In0.01Ga0.99N障壁層、52w In0.14Ga0.86N井戸層、53 p型Al0.18Ga0.82N電子ブロック層、54 p型GaNコンタクト層、55 LED構造、56 p側電極、57 n側電極、110 結晶成長室、110e ガス供給口、120 ヒータ、130 平板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を有するGaxAlyIn1-x-yN(0<x、0≦y、x+y≦1)種結晶を含む基板を準備する工程と、
前記基板の前記主面に、Ga融液に窒素を溶解させた溶液を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および500気圧以上2000気圧未満の雰囲気圧力下で、前記主面上にGaN結晶を成長させる工程と、を備えるGaN結晶の成長方法。
【請求項2】
前記基板を準備する工程の後、前記GaN結晶を成長させる工程の前に、前記基板の前記主面をエッチングする工程を、さらに備える請求項1に記載のGaN結晶の成長方法。
【請求項3】
前記基板の前記主面をエッチングする工程は、前記基板の前記主面に、Ga融液に窒素を溶解させた溶液を接触させて、800℃以上1500℃以下の雰囲気温度および1気圧以上500気圧未満の雰囲気圧力下で行なう請求項2に記載のGaN結晶の成長方法。
【請求項4】
前記基板は、前記GaxAlyIn1-x-yN種結晶が主結晶領域と前記主結晶領域に対して[0001]方向の極性が反転した極性反転結晶領域とを含む請求項1から請求項3までのいずれかに記載のGaN結晶の成長方法。
【請求項5】
前記基板は、前記主結晶領域の主面に比べて前記極性反転結晶領域の主面が10μm以上の深さで凹んでいる請求項4に記載のGaN結晶の成長方法。
【請求項6】
前記基板を準備する工程において、前記基板を複数準備し、1つ以上の前記基板を収容した結晶成長容器を複数準備し、結晶成長室内に複数の前記結晶成長容器を水平方向および垂直方向の少なくともいずれかの方向に並べて配置する請求項1から請求項5のいずれかに記載のGaN結晶の成長方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−42976(P2010−42976A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252791(P2008−252791)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】