説明

III−V化合物半導体層を形成する方法

【課題】本発明によれば、Ga(III族)とヒ素、窒素(V族)とを含むIII−V化合物半導体結晶中の水素濃度を低減可能であり、再成長界面におけるパイルアップも低減可能な、III−V化合物半導体層を形成する方法が提供される。
【解決手段】AsHを含む雰囲気中で基板31の温度を第1の温度T1に上昇した後に、AsHを用いて結晶成長する際の供給量5〜15sccmに比べて十分に小さいAsHを流しながら、第1の温度T1で基板31をサーマルクリーニングを行う。この熱処理の後に、AsHの供給を停止し、金属ヒ素を供給する。MBE装置13で金属Asを用いて、第1〜第3のIII−V化合物半導体層33、35、37を基板31に成長する。第1のIII−V化合物半導体層33はGaAsであり、第2のIII−V化合物半導体層35はGaInNAsであり、第3のIII−V化合物半導体層37はGaAsである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V化合物半導体層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、GaInNAsを分子線エピタキシ(MBE)法で成長することが記載されている。この成長において、固体ヒ素がAsソースとして使用された。また、AsHを用いたガスソースMBEによるGaInNAs成長では、1×1018cm−3レベルの水素がGaInNAsに取り込まれていた。ガスソースMBEではAsH流量は5〜15sccmである。
【非特許文献1】J. Cryst. Growth, 227-228 (2001), p521-526
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
AsHを用いたガスソースMBE成長によるGaInNAsには、水素が取り込まれる。これに比べて、固体Asソースを用いた固体ソースMBE成長によるGaInNAsでは、水素濃度はSIMSの検出限界未満である。ところが、固体Asソースを用いたMBEでは、発明者らの知見によれば、III−V化合物半導体の構成元素と異なる不純物が再成長界面にパイルアップしている。
【0004】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、III族としてGaとV族としてヒ素および窒素を含むIII−V化合物半導体結晶中の水素濃度を低減可能であると共に、再成長界面におけるパイルアップも低減可能な、III−V化合物半導体層を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、分子線エピタキシ法でIII−V化合物半導体層を形成する方法である。この方法は、(a)V族としてヒ素を含むIII−V化合物半導体からなる表面を有する基板を分子線エピタキシ装置に配置した後に、AsHを含む雰囲気中で前記基板の温度を第1の温度に上昇する工程と、(b)AsHを含む雰囲気中において、前記第1の温度で前記基板を熱処理する工程と、(c)前記熱処理の後に、AsHの供給を停止する工程と、(d)前記分子線エピタキシ装置で金属Asを用いて、第1のIII−V化合物半導体層を第2の温度で成長する工程と、(e)前記分子線エピタキシ装置で金属Asを用いて、第2のIII−V化合物半導体層を第3の温度で成長する工程とを備え、前記第1および第2のIII−V化合物半導体層の一方は、III族としてGaとV族としてヒ素を含む第1の半導体から成り、前記第1および第2のIII−V化合物半導体層の他方は、III族としてGaとV族としてヒ素および窒素を含む第2の半導体から成る。
【0006】
この発明によれば、AsHを含む雰囲気中で基板の温度を第1の温度に上昇するので、V族としてヒ素を含むIII−V化合物半導体の表面からのヒ素抜けを低減できる。また、AsHを含む雰囲気中において基板の熱処理を行って成長前にサーマルクリーニングを行うので、基板表面のコンタミネーションを除去できる。さらに、第1および第2のIII−V化合物半導体層を分子線エピタキシ装置で金属Asを用いて成長するので、膜中の水素と窒素との結合に起因する品質の低下が抑制される。
【0007】
本発明に係る方法では、AsHの供給を停止する前記工程では、前記第1の温度よりも低い第4の温度に温度を下げた後に、AsHの供給の停止が行われ、AsHの供給を停止する前記工程では、金属Asの供給を開始すると共に、金属Asの供給の後に前記第4の温度よりも高い前記第2の温度に温度を上げることが好ましい。本発明によれば、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できる。
【0008】
本発明に係る方法では、前記基板を熱処理する前記工程では、AsHに加えて金属Asを供給しており、AsHの供給を停止する前記工程では、金属Asが供給されていることが好ましい。
【0009】
この発明によれば、熱処理の後に、AsHの供給を停止する際に金属ヒ素によりヒ素雰囲気が維持されるので、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できる。
【0010】
本発明に係る方法では、前記第2の半導体は、III族としてGaおよびInとV族としてヒ素および窒素を含んでいることが好ましい。この方法によれば、III族としてGaおよびInとV族としてヒ素および窒素を含む半導体において、水素と窒素との結合による光学特性の低下を抑制できる。
【0011】
本発明に係る方法では、前記第2の半導体は、GaInNAs、GaInNAsSb、GaNAsおよびGaNAsSbのいずれかを含むことができる。また、本発明に係る方法では、前記第1の半導体は、GaAs、GaNAsおよびGaInNAsのいずれかを含むことができる。ただし、第1の半導体は、第2の半導体のバンドギャプエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有する。
【0012】
本発明に係る方法では、前記第2の半導体は、半導体光素子の量子井戸構造の井戸層のために用いられることができる。本発明によれば、単層膜からなる活性層だけでなく、単一量子井戸構造および多重量子井戸構造の活性層においても、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できると共に、非発光中心の生成を抑制できる。
【0013】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、III−V化合物半導体層を形成する方法が提供され、この方法によれば、III族としてGaとV族としてヒ素および窒素を含むIII−V化合物半導体結晶中の水素濃度を低減可能であると共に、再成長界面におけるパイルアップも低減可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII−V化合物半導体層を形成する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0016】
図1は、半導体膜を製造するための結晶成長装置の一例を示す図面である。図2は、本実施の形態に係るIII−V化合物半導体層を形成する方法の主要な工程を示す模式図である。結晶成長装置としては、図1に示されるような分子線エピタキシ(MBE)装置13を用いる。詳細に説明すると、MBE装置13は、チャンバ13aと、基板Wを保持するホルダ13bと、ソース13cと、RHEEDといったモニタ装置13dと、真空ポンプが接続された排気口13eとを含む。ソース13cには、熱処理用のAsH源17、V族原料源19、21、III族原料源23、25、その他のソース27、29を含む。V族原料源19は、金属ヒ素を供給するるバルブクラッカーセルを有する。V族原料源21は窒素を供給するラジカルガンを有すIII族原料源23はガリウム(Ga)を供給し、III族原料源25はインジウム(In)を供給する。その他のソース27、29は、例えばn型ドーパント、p型ドーパント、或いは他の原料源のための使用される。
【0017】
図2を参照しながら、III−V化合物半導体層を形成する方法の主要な工程を説明する。まず、V族としてヒ素を含むIII−V化合物半導体からなる表面を有する基板をMBE装置13に配置する。ホルダ13b上には、基板31が配置されている。本実施例では、基板31としてn型GaAs基板を用いるが、これ以外に、p型GaAs基板、ノンドープGaAs基板等も使用できる。しかしながら、基板31はこれに限定されること無く、V族としてヒ素を含むIII−V化合物半導体からなる表面を有するように半導体基板上に一または複数のIII−V化合物半導体層を成長して形成されたエピタキシャル基板を基板として使用できる。次いで、図2(a)に示されるように、AsHを含む雰囲気中で基板31の温度を第1の温度T1へ向けて上昇する。AsHを含む雰囲気中で基板31の温度を上昇するので、III−V化合物半導体表面からのヒ素抜けを低減できる。図2(b)に示されるように、AsHを含む雰囲気中において、第1の温度T1で基板31を熱処理する。RHEEDといった表面観察装置を用いて回折パターンを観察したとき、2×4倍の回折パターンが観測されれば、自然酸化膜が除去されている。AsHを含む雰囲気中において基板31の熱処理により成長前にサーマルクリーニングを行うので、基板表面のコンタミネーションを除去できる。故に、基板表面における酸素、炭素等の不純物のパイルアップが減少する。第1の温度T1は、例えば摂氏580度であり、また、この温度範囲は、摂氏550度〜摂氏620度以下であることができる。例えば1sccm程度のAsHの供給量により、サーマルクリーニングを行うことができる。この供給量は、AsHを用いて結晶成長する際の供給量(ガスソースMBEにおける供給量)、例えば5〜15sccmに比べて十分に小さい。また、この熱処理は結晶成長が行われないので、成長中の水素の取り込みもない。さらに、この熱処理中に生成された活性水素は、結晶成長が開始されるまでに十分に排気されるようにできる。
【0018】
この熱処理の後に、AsHの供給を停止する。図2(c)に示されるように、この停止と共に、金属ヒ素を供給する。AsHの供給を停止した後に十分な期間を取って、雰囲気の切り替わり(例えば活性水素の除去)を確実にする。これにより、チャンバ内に残留する水素の量が低減される。
【0019】
次いで、MBE装置13で金属Asを用いて、第1のIII−V化合物半導体層33を基板31に第2の温度T2で成長する。第1のIII−V化合物半導体層33は、III族としてGaとV族としてヒ素を含む第1の半導体から成り、例えばGaAs等である。本実施例では、金属ヒ素の供給に加えてガリウムを供給して、GaAsを成長する。第2の温度T2は、例えば摂氏580度であり、また、この温度範囲は、摂氏500度〜摂氏600度以下であることができる。必要な場合には、成長中に基板温度を第2の温度T2から、引き続く成長のための第3の温度T3に徐々に変化させることができる。これは成長中断して温度変更する場合には不純物が界面にパイルアップする可能性があるためである。
【0020】
続いて、MBE装置13で金属Asを用いて、第2のIII−V化合物半導体層35を第3の温度で成長する。第2のIII−V化合物半導体層35は、III族としてGaとV族としてヒ素および窒素を含む第2の半導体から成り、例えばGaInNAs等である。本実施例では、金属ヒ素に加えてガリウム、インジウム、窒素を供給して、GaInNAsを成長する。第3の温度T3は、例えば摂氏450度であり、また、この温度範囲は、摂氏350度〜摂氏480度以下であることができる。
【0021】
この後に、MBE装置13で金属Asを用いて、第3のIII−V化合物半導体層37を基板31に成長する。この成長は、例えば温度T5で行われることができる。第3のIII−V化合物半導体層37は、III族としてGaとV族としてヒ素を含む第3の半導体から成り、例えばGaAs等である。本実施例では、金属ヒ素の供給に加えてガリウムを供給して、GaAsを成長する。成長温度T5は、例えば摂氏580度であり、また、この温度範囲は、摂氏500度〜摂氏600度以下であることができる。必要な場合には、成長中に基板温度を第3の温度T3から成長温度T5に徐々に変化させることができる。これは成長中断して温度変更する場合には不純物がパイルアップする可能性があるためである。
【0022】
第1〜第3のIII−V化合物半導体層33、35、37をMBE装置13で金属Asを用いて成長するので、第2のIII−V化合物半導体層35中の窒素と水素との結合に起因する品質の低下が抑制される。
【0023】
第1および第3の半導体は、例えばGaAs、GaNAsおよびGaInNAsのいずれかを含むことができる。ただし、第1および第3の半導体は、第2の半導体のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有する。好ましくは、第2のIII−V化合物半導体層35の第2の半導体は、III族としてGaおよびInとV族としてヒ素および窒素を含んでいる。III族としてGaおよびInとV族としてヒ素および窒素を含む半導体において、水素と窒素との結合による非発光中心の生成を抑制できる。また、第2の半導体は、例えばGaInNAs、GaInNAsSb、GaNAsおよびGaNAsSbのいずれかを含むことができる。
【0024】
この熱処理の後に、AsHの供給を停止する工程では、第1の温度T1よりも低い第4の温度T4に基板温度を下げた後に、AsHの供給を停止することが好ましい。また、この工程で、金属Asの供給を開始すると共に、この後に第3の温度T3よりも高い第2の温度T2に基板温度を上げることが好ましい。AsHを十分排気してから昇温することによりバックグラウンドのH濃度を下げることができる。AsHおよびAsを供給しない期間を設けることによって真空度に基づきAsHが十分排気されていることを昇温前に確認することができるので、Asを供給しない時間を設けることが好適である。
この方法によれば、AsHからを金属Asへの切り替えを、熱処理温度および成長温度よりも低い温度で行うので、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できる。第4の温度T4は、例えば摂氏200度であり、また、この温度範囲は、摂氏100度〜摂氏450度以下であることができる。
【0025】
或いは、熱処理工程では、AsHに加えて金属Asを供給することができる。AsHの分解によって生成された活性水素の働きにより、サーマルクリーニングが行われる。また、AsHの供給を停止する工程では、AsHに加えて金属Asを供給していることが好ましい。熱処理の後に、AsHの供給を停止する際に金属ヒ素によりヒ素雰囲気が維持されるので、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できる。また、金属ヒ素の供給により、ヒ素供給源の切り替えをために温度の昇降を行わなくても良い。
【0026】
(実施例)
GaAs基板をMBE成長室に導入し、1sccmの供給量でAsHを流しながら、基板温度を摂氏580度まで昇温した。この温度で20分間保持してサーマルクリーニングを行った。チャンバの真空度は1×10−5Torr(1Torr=133.3Paで換算される)であった。RHEEDで回折パターンを観察したところ、自然酸化膜が除去されて2×4倍の回折パターンが観測された。基板温度を摂氏200度に下げた後に、AsHの供給を停止すると共に、金属As原料のバルブを開いた。金属ヒ素のフラックス強度は2×10−5Torrに設定した。このAsフラックスを供給しながら、基板温度を摂氏580度に昇温した。
【0027】
温度が十分に安定した後に、Asフラックスに加えて、Gaシャッタを開いてガリウムフラックスを供給して、GaAsバッファの成長を開始した。0.5μmのGaAsバッファ層を成長した。この成長を行いながら基板温度を毎秒一度(1deg/秒)の割合で摂氏450度に降温した。温度が十分に安定した後に、InセルのシャッタおよびおよびNラジカルガンのシャッタを開けて、InフラックスおよびNフラックスを供給して7nmのGaInNAs層を成長した。InセルのシャッタおよびおよびNラジカルガンのシャッタを閉じ、さらに、0.1μmのGaAsキャップ層を成長してエピタキシャル基板Aを作製した。この成長を行いながら、この成長を行いながら基板温度を毎秒一度(1deg/秒)の割合で摂氏580度に昇温した。
【0028】
この実験とは別の実験において、チャンバの真空度は2×10−5Torrになるように金属ヒ素にみを供給して、摂氏580度の基板温度で20分間保持してサーマルクリーニングを行った。RHEED回折パターンを観察したところ、自然酸化膜が除去されて2×4倍の回折パターンが観測された。この後に、同様にして、0.5μmのGaAsバッファ層、7nmのGaInNAs層、および0.1μmのGaAsキャップ層を成長してエピタキシャル基板Rを作製した。
【0029】
Arレーザ励起によるフォトルミネッセンス(PL)スペクトルの測定を行ったところ、エピタキシャル基板A(AsHクリーニング)のPLスペクトル強度は、エピタキシャル基板R(金属Asクリーニング)のPLスペクトル強度の6倍であった。また、SIMS分析により、エピタキシャル膜−基板の界面における不純物元素を調査した。界面にパイルアップした主要な不純物濃度の結果を示す。
【0030】
エピタキシャル基板R エピタキシャル基板A
酸素(O):2.39×1019 4.80×1017
炭素(C):9.18×1018 2.61×1018
硫黄(S):8.24×1016 2.30×1016
単位atoms/ccである。
AsHクリーニングのエピタキシャル基板Aにおける不純物パイルアップが、金属Asクリーニングのエピタキシャル基板Rに比べて減少している。
【0031】
金属As雰囲気のクリーニングに比べてAsH雰囲気のクリーニングでは、AsHの熱分解で生成する活性水素により、基板表面のクリーニングが促進され、炭素および酸素等の不純物が低減され、パイルアップが減少する。
【0032】
したがって、エピタキシャル積層−基板の界面にパイルアップした不純物が非発光再結合中心を生成して、PLスペクトル強度を低下させている。一方、活性水素は、エピタキシャル成長中、特にNラジカルが存在するGaInNAs成長中に、結晶に取り込まれてGaInNAs活性層の光学特性を低下させている。
【0033】
高温でAsH流量を0にすると、基板表面からAsが抜けて表面あれが発生する。ヒ素抜けを避けるために、上記実施例のように、結晶成長に先立って一旦温度を下げて、AsHの供給を金属Asの供給に切り替える必要がある。或いは、AsHおよび金属Asの両方を流してサーマルクリーニングをした後に、AsHの供給を停止してもよい。チャンバ中に残留したAsHから活性水素が結晶中に混入するのを避けるためには、AsH供給の停止の後に、十分な時間を排気のために与えてから結晶成長を開始することが特に好ましい。
【0034】
また、AsHによる表面クリーニングのための処理室とは別の真空チャンバにおいて成長を行ってもよい。AsHによる表面クリーニングは活性水素によるクリーニング効果が大きい。Hプラズマによるクリーニングも同様の効果が得られるけれども、プラズマによる処理では、基板表面へのプラズマダメージ(例えば、基板表面が水素でパッシベーションされる)が悪影響を与える可能性があるので、プラズマ条件を設定することが容易ではない。また、プラズマの制御は装置の状態に依存するので、プラズマの状態が不安定になることもある。したがって、プロセスの安定性、再現性、装置の維持管理の点から、AsHガスによる処理が優れている。
【0035】
引き続く説明から理解されるように、第2の半導体は、半導体光素子の量子井戸構造の井戸層のための用いられることができる。単層膜からなる活性層だけでなく、単一量子井戸構造および多重量子井戸構造の活性層においても、ヒ素抜けによる半導体表面の荒れを低減できると共に、非発光中心の生成を抑制できる。
【0036】
図3は、半導体発光素子を作製する方法における主要な工程を示す工程フローである。工程S101において、SiドープのGaAs基板を準備する。引き続く結晶成長には、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いる。Ga原料ガスとしてはTEGaを用いる。Al原料ガスとしては、TMAl(トリメチルアルミニウム)を用いた。In原料ガスとしては、TMInを用いる。As原料ガスとしてはTBAsを用いる。N原料ガスとしては、DMHyを用いる。必要な場合は、厚さ200nmのn型のGaAsバッファ層をGaAs基板上に成長する。工程S103において、GaAsバッファ層上に、厚さ1.5μmのn型のAlGaAsクラッド層を成長する。ここまでの工程により生産物をエピタキシャル基板W1として参照する。
【0037】
工程S105において、エピタキシャル基板1のAlGaAsクラッド層上に活性層を成長させる。具体的には、既に説明した熱処理を行った後に、MBE装置を用いて活性層を成長する。工程S105−1において、エピタキシャル基板W1をMBE装置に導入した後に、AsHを供給しながら、基板温度を熱処理温度まで上昇させる。工程S105−2では、AsH雰囲気中で熱処理を行って、エピタキシャル基板W1の表面をクリーニングする。工程S105−3では、AsHの供給から金属ヒ素の供給へ変更する。工程S105−4において、ガリウムおよび金属ヒ素を供給しながら厚さ140nmのアンドープのGaAsガイド層を成長し、工程S105−5において、ガリウム、インジウム、窒素および金属ヒ素を供給しながら厚さ7nmのアンドープのGaInNAs井戸層を成長し、工程S105−6において、金属ヒ素を供給しながら厚さ8nmのアンドープのGaAs障壁層を成長し、工程S105−7において、ガリウム、インジウム、窒素および金属ヒ素を供給しながら厚さ7nmのアンドープのGaInNAs井戸層を成長し、工程S105−8において、金属ヒ素を供給しながら厚さ140nmのアンドープのGaAsガイド層を成長する。これにより、活性層が形成される。ここまでの工程により生産物をエピタキシャル基板W2として参照する。
【0038】
有機金属気相成長炉を用いて、工程S107において、エピタキシャル基板W2の活性層上に、厚さ1.5μmのp型のAlGaAsクラッド層を成長する。工程S109において、AlGaAsクラッド層上に、p型のGaAsコンタクト層を成長する。
【0039】
必要な場合には、工程S111において、有機金属気相成長炉内においてターシャルブチルアルシンを供給した状態で20分間のアニールを行う。アニール温度は摂氏650度である。
【0040】
工程113においてアノードおよびカソードを形成する。このようにして発光ダイオードおよび半導体レーザを作製することができる。
【0041】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。また、本実施の形態では、半導体レーザといった半導体光素子を例示的に説明しているけれども、HEMTのような電子デバイスに適用することもできる。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、半導体膜を製造するための結晶成長装置の一例を示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係るIII−V化合物半導体層を形成する方法の主要な工程を示す模式図である。
【図3】図3は、半導体発光素子を作製する方法における主要な工程を示す工程フローである。
【符号の説明】
【0043】
13…分子線エピタキシ(MBE)装置、13a…チャンバ、13b…ホルダ、13c…ソース、13d…モニタ装置、13e…排気口、17…熱処理用のAsH源、19、21…V族原料源、23、25…III族原料源、27、29…その他のソース、31…基板、33…第1のIII−V化合物半導体層、35…第2のIII−V化合物半導体層、37…第3のIII−V化合物半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子線エピタキシ法でIII−V化合物半導体層を形成する方法であって、
V族としてヒ素を含むIII−V化合物半導体からなる表面を有する基板を分子線エピタキシ装置に配置した後に、AsHを含む雰囲気中で前記基板の温度を第1の温度に上昇する工程と、
AsHを含む雰囲気中において、前記第1の温度で前記基板を熱処理する工程と、
前記熱処理の後に、AsHの供給を停止する工程と、
前記分子線エピタキシ装置で金属Asを用いて、第1のIII−V化合物半導体層を第2の温度で成長する工程と、
前記分子線エピタキシ装置で金属Asを用いて、第2のIII−V化合物半導体層を第3の温度で成長する工程と
を備え、
前記第1および第2のIII−V化合物半導体層の一方は、III族としてGaとV族としてヒ素を含む第1の半導体から成り、
前記第1および第2のIII−V化合物半導体層の他方は、III族としてGaとV族としてヒ素および窒素を含む第2の半導体から成る、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
AsHの供給を停止する前記工程では、前記第1の温度よりも低い第4の温度に温度を下げた後に、AsHの供給の停止が行われ、
AsHの供給を停止する前記工程では、金属Asの供給を開始すると共に、金属Asの供給の後に前記第4の温度よりも高い前記第2の温度に温度を上げる、ことを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記基板を熱処理する前記工程では、AsHに加えて金属Asを供給しており、AsHの供給を停止する前記工程では、金属Asが供給されている、ことを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項4】
前記第2の半導体は、GaInNAs、GaInNAsSb、GaNAsおよびGaNAsSbのいずれかを含む、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された方法。
【請求項5】
前記第1の半導体は、GaAs、GaNAsおよびGaInNAsのいずれかを含む、ことを特徴とする請求項4に記載された方法。
【請求項6】
前記第2の半導体は、半導体光素子の量子井戸構造の井戸層のために用いられる、ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載された方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−38253(P2009−38253A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202151(P2007−202151)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】