説明

LiNbO3結晶薄膜成膜方法

【課題】LiNbO3結晶の分極方向を容易に制御できるようにする。
【解決手段】まず、サファイアA面基板の上にアモルファス状態のLiNbO3膜を成膜する(ステップS1)。LiNbO3膜の成膜には、電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いたスパッタ法を用いることができる。次に、成膜したLiNbO3膜を加熱して結晶化させ、a軸配向のLiNbO3結晶薄膜を形成する(ステップS2)。この際、320℃以上の温度で加熱することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiNbO3結晶薄膜成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LiNbO3結晶は、電気光学効果や非線形光学効果などを使った機能光デバイスヘと応用されている。このようなデバイスには普通、LiNbO3単結晶基板が用いられる。その一方で、サファイア単結晶基板上にLiNbO3結晶薄膜を成膜し、バルク単結晶の代わりに用いることも可能である。LiNbO3結晶薄膜において良質な結晶を得られるのであれば、LiNbO3結晶とサファイア単結晶基板との間の屈折率差が十分に大きいため、LiNbO3結晶薄膜内に伝播光が強く閉じ込められる。この効果により、例えば波長変換素子においては、狭いLiNbO3光導波路に光を集中させることができるため、波長変換効率を飛躍的に高めることが可能となる。また、電気光学効果を利用したデバイスにおいては、低印加電圧でもLiNbO3光導波路内に実効的な高電界を形成できるため、素子の低電圧駆動、高集積化が可能となる。
【0003】
LiNbO3結晶薄膜は様々な方法により成膜できるが、そのほとんどがランダム配向またはc軸配向のものである。ただし、ランダム配向の薄膜はデバイス作製に不向きである。
【0004】
LiNbO3結晶薄膜の有力な成膜方法として、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマスパッタ法(以下「ECRスパッタ法」)がある。ECRプラズマはガス分子の励起効率が高いので、反応性ガスとして酸素ガスを導入した場合には、高濃度の酸素ラジカルが生成される。その結果、酸素原子層を完成するのに十分な数の酸素原子が成長表面へ供給される。さらに、基板へのプラズマ照射に伴い、基板表面の原子の拡散が促進される。これらの特徴を合わせ持つECRスパッタ法においては、基板表面が原子レベルで平坦であれば、基板表面の原子配列によらず、LiNbO3結晶がc軸配向する。つまり、図5に示すように、基板101としてサファイアC面、A面基板のどちらを使用しても、c軸方向に優先配向したLiNbO3結晶薄膜102が得られる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0005】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【非特許文献1】H.Akazawa and M.Shimada,J.Vac.Sci.Techol.A54(2004)234.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LiNbO3結晶の電気光学効果などを利用するにあたって、LiNbO3結晶の分極方向を制御するには、分極軸の方向、すなわちc軸方向に電界を印加する必要がある。
しかし、従来のECRスパッタ法を用いてサファイア基板101上に成膜されたLiNbO3結晶薄膜102については、サファイア基板101に電気伝導性がなく電極として使用できないため、薄膜表面に垂直なc軸方向に電界を印加することができない。その結果、LiNbO3結晶の分極方向を容易に制御できず、LiNbO3結晶を用いたデバイス作成が困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、LiNbO3結晶の分極方向を容易に制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、サファイアA面基板の上にアモルファス状態のLiNbO3膜を成膜する第1の工程と、前記LiNbO3膜を加熱して結晶化させ、a軸配向のLiNbO3結晶薄膜を形成する第2の工程とを備えることを特徴とする。
ここで、第1の工程は、電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いたスパッタ法によりLiNbO3膜を成膜するができる。
また、第2の工程は、320℃以上の温度で加熱するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、サファイアA面基板上にアモルファス状態のLiNbO3膜を成膜し、このLiNbO3膜を加熱して結晶化させる。これにより、固相エピタキシーが進行し、基板表面の原子配列を反映したa軸配向のLiNbO3結晶薄膜が形成される。このa軸配向のLiNbO3結晶薄膜において、c軸はa軸に直交し、LiNbO3結晶薄膜の表面に対して平行になる。したがって、例えばLiNbO3結晶薄膜を両側から挟むようにサファイアA面基板上に電極を形成することにより、LiNbO3結晶薄膜のc軸方向に電界を印加することができる。このように、LiNbO3結晶の分極方向を容易に制御できるようになり、LiNbO3結晶を用いて様々なデバイス作成が可能となる。
【0010】
また、ECRスパッタ法を用いることにより、緻密なLiNbO3が得られ、固相エピタキシーが起きやすくなる。
また、320℃以上の温度で加熱することにより、LiNbO3が十分に結晶化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係るLiNbO3結晶薄膜成膜方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施の形態では、図1に示すようなサファイアA面基板1の上に、a軸配向のLiNbO3結晶薄膜2を成膜する。
【0012】
まず、サファイアA面基板1の上にアモルファス状態のLiNbO3膜を成膜する(図2の工程S1)。ここでは、LiNbO3をターゲットとして備えたECRプラズマスパッタ装置(以下「ECRスパッタ装置」)を用いる。ECRスパッタ装置を用いることにより、緻密なLiNbO3膜を形成ことができる。この際、基板温度を例えば250℃以下という低温にすることにより、LiNbO3膜がアモルファス状態になる。
【0013】
なお、成膜時の酸素分圧を変えると、LiNbO3膜の組成が変化する。LiとNbとOとの組成比を1:1:3にするためには、最適な酸素分圧を選択しなければならない。しかし、最適な酸素分圧はマイクロ波のパワー、ターゲットヘ投入するRFパワー、装置の排気速度などにより決まるため、個々の装置によって異なる。一例を挙げると、マイクロ波のパワーが500W、ターゲットヘ投入するRFパワーを500W、排気速度が毎秒1000リットルの条件下では、酸素分圧を10-2Paとすることができる。
【0014】
次に、サファイアA面基板1の上に成膜したアモルファスLiNbO3膜を320℃以上の温度で加熱する(図2の工程S2)。これにより、アモルファスLiNbO3膜において、固相エピタキシーが進行する。サファイアA面基板1の基板表面の原子配列と最もよい格子整合をするのはLiNbO3結晶のA面であり、この方向に配向した結晶が成長する。その結果、a軸配向のLiNbO3結晶薄膜2が形成される。
このように、加熱だけで結晶化を行うことにより、c軸配向の原因であるプラズマ照射の影響がLiNbO3結晶に及ばないようにすることができる。
なお、ECRスパッタ装置により得られた緻密なLiNbO3膜には、固相エピタキシーを起こしやすくする効果がある。
【0015】
a軸配向のLiNbO3結晶の方位は、図1に示すように、薄膜表面の法線方向にa軸が一致し、薄膜表面に対して平行にm軸とc軸とが直交して存在する。したがって、例えばLiNbO3結晶薄膜2を両側から挟むようにサファイアA面基板1の上に電極を形成することにより、LiNbO3結晶薄膜2のc軸方向に電界を印加することができる。このように、LiNbO3結晶の分極方向を容易に制御できるようになり、LiNbO3結晶を用いて様々なデバイス作成が可能となる。
【0016】
次に、上述したLiNbO3結晶薄膜成膜方法に関して行った実験結果について説明する。
まず、サファイアA面基板1の上に基板温度250℃、酸素分圧5×10-3Paの条件下、ECRスパッタ法でアモルファスLiNbO3膜を成膜し、その後に600℃で加熱処理した。このようにして作製された試料のX線回折スペクトルを図3に示す。
サファイアA面基板(Al23)1からの<1120>、<2240>回折ピーク以外にLiNbO3結晶薄膜2からの<1120>、<2240>回折ピークだけが観測され、LiNbO3がa軸配向していることが分かる。よって、この成膜条件でサファイアA面基板1の上にa軸配向のLiNbO3結晶薄膜2を形成できることが示された。
【0017】
アモルファスLiNbO3膜成膜後の加熱温度(アニール温度)に対するLiNbO3の<1120>ピーク強度の関係を図4に示す。加熱時間(アニール時間)は3時間であった。
<1120>ピーク強度は320℃以上で飽和しており、結晶化がほぼ完了していることが分かる。450℃以上の温度で加熱した場合には、10分程度の加熱時間で飽和に達したが、320℃という低温の場合には、十分長い加熱時間が必要であった。300℃以下では結晶化が不十分であった。
320℃という低温において進む結晶化は、まさに固相エピタキシー機構によるものであることは明らかである。実際に、断面TEM写真により、サファイアA面基板1の基板表面から伸びる柱状結晶のドメインが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、例えば光通信や光エレクトロニクス分野で用いられる波長変換素子、電気光学変調器、光電界センサ、SHGレーザーなどの基幹材料であるLiNbO3結晶薄膜の成膜に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る方法により成膜されたLiNbO3結晶薄膜を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施の形態に係る方法により成膜されたLiNbO3結晶薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【図4】アモルファスLiNbO3膜成膜後の加熱温度に対するLiNbO3の<1120>ピーク強度の関係を示す図である。
【図5】従来の方法により成膜されたLiNbO3結晶薄膜を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1…サファイアA面基板、2…LiNbO3結晶薄膜。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイアA面基板の上にアモルファス状態のLiNbO3膜を成膜する第1の工程と、
前記LiNbO3膜を加熱して結晶化させ、a軸配向のLiNbO3結晶薄膜を形成する第2の工程と
を備えることを特徴とするLiNbO3結晶薄膜成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載のLiNbO3結晶薄膜成膜方法において、
前記第1の工程は、電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いたスパッタ法により前記LiNbO3膜を成膜することを特徴とするLiNbO3結晶薄膜成膜方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のLiNbO3結晶薄膜成膜方法において、
前記第2の工程は、320℃以上の温度で加熱することを特徴とするLiNbO3結晶薄膜成膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−219339(P2006−219339A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34347(P2005−34347)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】