説明

Nrf2活性化剤

【課題】Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる化合物及び組成物の提供。
【解決手段】ブナハリタケ由来の化合物を含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物が提供される。具体的に例示すると次の化合物が挙げられる。4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン、5−ヒドロキシ−3,4,5−トリメチル−5−H−フラン−2−オン、酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル、(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブナハリタケ由来の天然化合物を含んでなる、Nrf2活性化剤およびNrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスが老化を促進させるという考えは、1956年にDenham HarmanによってThe Free Radical Theory of Agingとして提唱されたもので、高齢化社会を迎えた近年再認識されている(Harman D., J., Gerontol. 11, 298-300 (1956))。この説は、酸素呼吸を行う中で発生した生体内の活性酸素種(Reactive Oxygen Species(ROS))による組織細胞障害が老化を引き起こすというものである。近年、ROSの発生系とその消去系の研究が進展し、ROSが細胞障害ばかりでなく、細胞内情報伝達も含めた細胞機能の制御に関連しており、その制御機能の破綻が老化を促進するという研究が進んでいる。
【0003】
ROSとは不対電子を配したフリーラジカルを持つ酸素のことである。生体内で発生するROSとしては、スーパーオキシド(O)、ハイドロキシラジカル(HO)、ハイドロゲンペルオキシド(H)、やパーオキシナイトライト(ONOO)などが挙げられる(Shimosawa T., Nippon Rinsho. 2005 Jun;63(6):994-9.)。ROSは、生理的にはミトコンドリアなどの細胞内小器官や、細胞膜、細胞質などで産生され、酸化ストレスとしてタンパク質、脂質、核酸などを酸化修飾する。その結果、例えば、タンパク質は酸化修飾されることにより、変性や酵素の不活性化を引き起こし、核酸の酸化はDNAの翻訳障害や分解を引き起こす。これらの酸化修飾された生体構成成分の蓄積が細胞組織での障害を引き起こし、ひいては老化、発ガン等の数々の疾病の促進に繋がる。従って、酸化ストレスからの防御能を高めることは、これらの疾病の予防や進行の遅延に有効である(Ferrari CK et al., Biomed Pharmacother. 2003 Jul-Aug;57(5-6):251-60 吉川敏一ら 先端医学社刊 「抗酸化物質のすべて」(1998))。
【0004】
また、近年、環境汚染物質などの本来生体にない様々な化合物(生体異物)が増加し、人体に影響を与えるようになってきた。これらの生体異物は通常、体内に吸収されると、生体異物代謝系酵素群による代謝(解毒)を受けて排出される。しかし、その代謝活性が悪くなると、生体異物(特に、人体に影響を及ぼすもの)が人体に蓄積され、親電子性物質への代謝や肝機能の低下等が引き起こされ、ひいては発ガン、呼吸器疾患、肝機能障害等の数々な疾患に繋がる。(Panuganti SD et al., J Pharmacol Exp Ther. 2006 Jul;318(1):26-34. Epub 2006 Mar 28. Miller JA et al., Cancer Res. 1970 Mar;30(3):559-76 Kohle C et al., Biochem Pharmacol. 2006 Sep 28;72(7):795-805. Epub 2006 Apr 29)。従って、生体異物の解毒能を高めることは、これらの疾病の予防や進行の遅延に有効である。
【0005】
近年、第二相酵素と呼ばれる一連のタンパク質群が、生体の酸化ストレスからの防御や生体異物の解毒を連携して担っていることが明らかとなってきた。第二相酵素としては、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素1(NQO1)、グルタミルシステインリガーゼ(GCL)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO1)、チオレドキシン還元酵素1(TXNRD1)等が知られている。例えば、GSTは生体内でグルタチオンと生体異物化合物との複合体の生成を触媒し、親電子性化学物質に対する防御に働く。また、NQO1はキノンの2電子還元反応に関与し、キノンの1電子還元に伴って生ずる酸化障害を回避することができる。さらに、TXNRD1はチオレドキシンの酸化型から還元型への転換を司る酵素であり、還元型チオレドキシンはチオール基を介してROS消去や細胞内レドックス制御に関わる。(吉川敏一ら 先端医学社刊 「抗酸化物質のすべて」(1998)、井上正康ら 医薬ジャーナル社刊 「レドックス制御と抗酸化治療戦略」)。これら第二相酵素の遺伝子のプロモーターには、抗酸化応答配列(Antioxidant responsive element(ARE))と呼ばれる共通の配列が存在し、転写因子NF-E2 related factor 2(Nrf2)によってその発現が誘導されることが解明されつつある(Nguyen T et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol. 43:233-60 (2003)、Itoh K et al., Free Radic Biol Med. 2004 May 15;36(10):1208-13)。
【0006】
Nrf2は、非ストレス条件下ではKeap1−Nrf2複合体として細胞質に局在し、そこに親電子性物質、活性酸素、重金属などの活性化物質が作用すると核内へ移行し、small mafとヘテロ二量体を形成してAREに結合し、第二相酵素の発現を誘導する(Itoh K et al., Seikagaku. 2006 Feb;78(2):79-92)。
【0007】
実際、Nrf2を欠損したマウス個体や細胞では酸化ストレスや発がん物質への耐性が低くなることが報告されている(Ramos-Gomez M et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Mar 13;98(6):3410-5, Ishii T et al., J Biol Chem. 2000 May 26;275(21):16023-9)。
【0008】
このように、転写因子Nrf2を活性化し、Nrf2によって制御されている第二相酵素群の活性を高めることにより、酸化ストレスに対する防御機能を高めて酸化ストレスに起因する各種疾患を治療することができ、また生体異物解毒系を亢進し生体異物が引き起こす発ガンなどのリスクを減らすことができる。従って、転写因子Nrf2を活性化することができ、かつ生体にとって安全性の高い医薬品または食品の開発が強く望まれている。
【0009】
Nrf2の活性化物質としては、アブラナ科の野菜に多く含まれるイソチオシアネート系化合物(中でも特にスルフォラファン)が有名である(Zhang Y et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Mar 15;89(6):2399-403)。他のNrf2の活性化物質としては、15−デオキシ−D12,14−プロスタグランジンJ2(15dPGJ2)(Itoh T et al., Mol Cell Biol. 2004 Jan;24(1):36-45)、ホップに含まれるキサントフモール(Dietz BM et al., Chem Res Toxicol. 2005 Aug;18(8):1296-305)、ショウガに含まれるショウガオール類縁化合物(特開2006−188444号公報)、茶に含まれるエピガロカテキンガレート(Chen C et al., Arch Pharm Res. 2000 Dec;23(6):605-12)などが知られている。
【0010】
ところで、ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii) は、9―11月上旬にブナやミズナラの倒木に群生する白色腐朽菌である。本キノコは、傘の直径は3〜10cm、半円形で白色、後に黄色味を帯び、裏面は白く針状で、表面同様、後に黄色味を帯び、肉は白くて軟らかく吸水性があり、独特の香気と呈味を持つことが知られ、食用として珍重されている。主に、東北地方で食されており、別名カミハリタケとも称されている。人工栽培方法としては、これまでに特開2006−6164号公報や特開2004−350589号公報等で報告されている。ブナハリタケの持つ生理作用としてこれまでに、糖尿病の予防・改善作用(特許文献1)、抗腫瘍作用(特許文献2)、脳機能改善作用(特許文献3)、血圧降下作用(特許文献4)、血栓溶解作用(特許文献5)などが報告されている。しかしながら、ブナハリタケがNrf2活性化作用を有すること、ひいては第二相酵素群を誘導し、酸化ストレスからの防御系や生体異物の解毒系を亢進させることについてはこれまで報告されていない。また、これまでに、(E)−2−デセン−二酸(化合物6)のロイヤルゼリーの成分としての知見(特開昭48−8723号公報)、2−フェニル−5,6−ジヒドロ−γ−ピロン(化合物10)のキノコフレーバーとしての知見(特許第2948870号公報)、2−(2−ホルミルピロール−1−イル)−4−メチル吉草酸(化合物11)のタバコ葉成分としての知見(特開昭51−123899号公報)が報告されているが、これらの化合物がNrf2活性化能を有することは報告されていない。
【特許文献1】特開2002−187851号公報
【特許文献2】特開2002−187850号公報
【特許文献3】特開2002−080390号公報
【特許文献4】特開2002−029995号公報
【特許文献5】特開2006−131550号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明者は、ブナハリタケ酢酸エチル画分から精製された化合物がNrf2活性化作用を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0012】
本発明は、Nrf2の活性化に有用な新規化合物およびNrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物の提供を目的とする。
【0013】
本発明によれば、式(I)で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物(以下、「本発明による新規化合物」という)が提供される:
【化1】

[上記式中、
は、酸素原子またはC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、またはC1−4アルキル基、C1−4アシル基、カルボキシル基、およびC1−4アルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子またはカルボキシルC1−6アルキル基を表し、
- -は、単結合または二重結合を表し、
但し、Rが酸素原子である場合は- - -は二重結合であり、RがC1−6アルキル基である場合は- - -は単結合である。]。
【0014】
本発明によれば、前記式(I)、あるいは下記式(II)、式(III)、式(IV)、式(V)、式(VI)、式(VIa)、または式(VII)で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物(以下、「本発明によるNrf2活性化化合物」という)を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物が提供される。
【0015】
式(II)の化合物:
【化2】

[上記式中、
101は、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、R102は、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基;C1−6アルキルカルボニル基;C1−4アルキル基、C1−4アシル基、カルボキシル基、およびC1−4アルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基;またはフェニル基を表し、R103は、水素原子、水酸基、またはC1−6アルキル基を表し、R104は、水素原子、水酸基、またはC1−6アルキル基を表し、
- - -は、単結合または二重結合を表す。]。
【0016】
式(III)の化合物:
【化3】

[上記式中、
105は、C1−6アルキル基を表し、R106は、カルボキシルC1−6アルキル基を表す。]。
【0017】
式(IV)の化合物:
【化4】

[上記式中、
mは、3から9の整数を表す。]。
【0018】
式(V)の化合物:
【化5】

[上記式中、
107は、1以上の水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基を表す。]。
【0019】
式(VI)の化合物:
【化6】

[上記式中、
Hetは、異種の環員原子として1つの酸素原子を有する5〜6員の飽和または不飽和複素環式基を表す。]。
式(VIa)の化合物:
【化7】

[上記式中、
W、X、Y、Zのうち、いずれか1つが酸素原子を表し、それ以外が−CH−、>CH−、−CH=、>C=、−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−を表す(但し、Wが酸素原子である場合は、X、Y、およびZが、−CH−または>CH−であり、Zが酸素原子である場合は、W、X、およびYが、−CH−または>CH−であり、Xが酸素原子である場合は、Wが−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−であり、YおよびZが−CH=、>C=、−CH−、または>CH−であり、Yが酸素原子である場合は、Zが−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−であり、WおよびXが−CH=、>C=、−CH−、または>CH−である)。]。
【0020】
式(VII)の化合物:
【化8】

[上記式中、
108は、C1−6アルキル基を表す。]
【0021】
本発明によれば、ブナハリタケ子実体の抽出物(以下、「本発明による抽出物」という)を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物が提供される(以下、これらの組成物を併せて「本発明による組成物」ということがある)。
【0022】
本発明によれば、本発明によるNrf2活性化化合物の製造方法であって、本発明による抽出物を精製し、得られた画分についてNrf2活性化能を測定する工程を含んでなる、方法が提供される。
【0023】
本発明による新規化合物、Nrf2活性化化合物、および抽出物は、古来より食してきたブナハリタケから得られるものである。従って、本発明による新規化合物、Nrf2活性化化合物、および抽出物は、安全性が高いNrf2活性化剤として用いることができる点で有利である。
【発明の具体的な説明】
【0024】
新規化合物
本願明細書において、基または基の一部としての「アルキル」、「アルコキシ」、および「アシル」という語は、基が直鎖または分枝鎖のアルキル基、アルコキシ基、およびアシル基を意味する。
1−6アルキルは、好ましくは、C1−4アルキルである。C1−4アルキルは、好ましくは、C1−2アルキルである。
1−4アルコキシは、好ましくは、C1−2アルコキシである。
1−4アシルは、好ましくは、C1−2アシルである。
1−6アルキルの例としては、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、i−ブチル、s‐ブチル、t‐ブチル、n‐ペンチル、n‐ヘキシルが挙げられる。
1−4アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n‐プロポキシ、i−プロポキシ、n‐ブトキシ、i−ブトキシ、s‐ブトキシ、t−ブトキシが挙げられる。
1−4アシルの例としては、ホルミル、アセチル、プロピオニリル、ブチリル、イソブチリルが挙げられる。
本明細書において「により置換されていてもよいアルキル」とは、アルキル上の1またはそれ以上の水素原子が1またはそれ以上の置換基(同一または異なっていてもよい)により置換されたアルキルおよび非置換アルキルを意味する。置換基の最大数はアルキル上の置換可能な水素原子の数に依存して決定できることは当業者に明らかであろう。これらはアルキル以外の置換基を有する基についても同様である。
本発明による新規化合物は、前記式(I)で表される。
【0025】
式(I)において、Rは、好ましくは、酸素原子またはエチル基である。
【0026】
式(I)において、Rは、好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0027】
式(I)において、Rは、好ましくは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいエチル基、またはメチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基である。
【0028】
式(I)において、Rは、好ましくは、水素原子またはカルボキシルメチル基である。
【0029】
本発明による新規化合物の好ましい態様としては、Rが、酸素原子またはエチル基であり、Rが、水素原子またはメチル基であり、Rが、水素原子、水酸基で置換されていてもよいエチル基、またはメチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基であり、Rが、水素原子またはカルボキシルメチル基である、式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0030】
本発明において、式(I)で表される化合物の好適な例としては、4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン(化合物2)、酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル(化合物4)、および(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸(化合物5)が挙げられる。
【0031】
本発明による新規化合物は、公知の方法に従って、エゾハリタケ科ブナハリタケ属に属するブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)子実体から抽出し、精製することにより製造することができる。
【0032】
Nrf2活性化化合物
本発明によるNrf2活性化化合物は、前記式(II)で表すことができる。
【0033】
式(II)において、R101は、好ましくは、水素原子またはメチル基である。さらに好ましくは、R101は、水素原子である。
【0034】
式(II)において、R102は、好ましくは、メチル基、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、メチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基、またはフェニル基である。さらに好ましくは、R102は、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、またはフェニル基である。さらにより好ましくは、R102は、フェニル基である。
【0035】
式(II)において、R103は、好ましくは、水素原子、水酸基、またはメチル基である。さらに好ましくは、R103は水素原子である。
【0036】
式(II)において、R104は、好ましくは、水素原子、水酸基、またはメチル基である。さらに好ましくは、R104は水素原子である。
【0037】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、R101が、水素原子またはメチル基であり、R102が、メチル基、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、メチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基、またはフェニル基であり、R103が、水素原子、水酸基、またはメチル基であり、R104が、水素原子、水酸基、またはメチル基である、式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
本発明によるNrf2活性化化合物のさらに好ましい態様としては、R101が、水素原子またはメチル基であり、R102が、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、またはフェニル基であり、R103が、水素原子であり、R104が、水素原子である、式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
本発明によるNrf2活性化化合物のさらにより好ましい態様としては、R101は、水素原子であり、R102は、フェニル基であり、R103は、水素原子であり、R104は、水素原子である、式(II)で表される化合物(化合物9)が挙げられる。
【0040】
本発明において、式(II)で表される化合物の好適な例としては、4−アセチル−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン(化合物1)、4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン(化合物2)、5−ヒドロキシ−3,4,5−トリメチル−5−H−フラン−2−オン(化合物3)、酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル(化合物4)、ジヒドロ−4−フェニル−2(3H)−フラノン(化合物9)が挙げられる。
【0041】
本発明によるNrf2活性化化合物は、前記式(III)で表すことができる。
【0042】
式(III)において、R105は、好ましくは、エチル基である。
【0043】
式(III)において、R106は、好ましくは、カルボキシルメチル基である。
【0044】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、R105が、エチル基であり、R106が、カルボキシルメチル基である、式(III)で表される化合物(化合物5)が挙げられる。
【0045】
本発明において、式(III)で表される化合物の好適な例としては、(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸(化合物5)が挙げられる。
【0046】
本発明によるNrf2活性化化合物は、前記式(IV)で表すことができる。
【0047】
式(IV)において、mは、好ましくは、5から7の整数である。さらに好ましくは、mは6である。
【0048】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、mが6である、式(IV)で表される化合物(化合物6)が挙げられる。
【0049】
本発明において、式(IV)で表される化合物の好適な例としては、(E)−2−デセン−二酸(化合物6)が挙げられる。
【0050】
本発明によるNrf2活性化化合物は、式(V)で表すことができる。
【0051】
式(V)において、R107は、好ましくは、1以上の水酸基で置換されていてもよいペンチル基であり、より好ましくは、1または2個の水酸基により置換されたペンチル基である。
【0052】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、R107が、1以上の水酸基で置換されていてもよいペンチル基である、式(V)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
本発明において、式(V)で表される化合物の好適な例としては、1−フェニル−ペンタン―1,3−ジオール(化合物7)が挙げられる。
【0054】
本発明によるNrf2活性化化合物は、前記式(VI)で表すことができる。
【0055】
式(VI)の化合物は、好ましくは、前記式(VIa)で表すことができる。
【0056】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、Wが酸素原子であり、X、Y、およびZが−CH−または>CH−である式(VIa)で表される化合物、およびZが酸素原子であり、W、X、およびYが−CH−または>CH−である式(VIa)で表される化合物が挙げられる。
【0057】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、また、Xが酸素原子であり、Wが−CH=CH−または>C=CH−であり、YおよびZが−CH=または>C=である式(VIa)で表される化合物、およびYが酸素原子であり、Zが−CH=CH−または>C=CH−であり、WおよびXが−CH=または>C=である式(VIa)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、また、Xが酸素原子であり、Wが−CH−CH−または>CH−CH−であり、YおよびZが−CH=または>C=である式(VIa)で表される化合物、Xが酸素原子であり、Wが−CH=CH−または>C=CH−であり、YおよびZが−CH−または>CH−である式(VIa)で表される化合物、Yが酸素原子であり、Zが−CH−CH−または>CH−CH−であり、WおよびXが−CH=または>C=である式(VIa)で表される化合物、およびYが酸素原子であり、Zが−CH=CH−または>C=CH−であり、WおよびXが−CH−または>CH−である式(VIa)で表される化合物が挙げられる。
【0059】
本発明において、式(VI)で表される化合物の好適な例としては、2−フェニル−ピラン−4−オン(化合物8)、ジヒドロ−4−フェニル−2(3H)−フラノン(化合物9)、および2−フェニル−5,6−ジヒドロ−γ−ピロン(化合物10)が挙げられる。
【0060】
本発明によるNrf2活性化化合物は、前記式(VII)で表すことができる。
【0061】
式(VII)において、R108は、好ましくは、分岐鎖のC1−6アルキル基であり、より好ましくは分岐鎖のブチル基である。
【0062】
本発明によるNrf2活性化化合物の好ましい態様としては、R108が、分岐鎖のC1−6アルキル基である、式(VII)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
本発明において、式(VII)で表される化合物の好適な例としては、2−(2−ホルミルピロール−1−イル)−4−メチル吉草酸(化合物11)が挙げられる。
【0064】
本発明においては、式(I)で表される新規化合物もNrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いることができる。
【0065】
式(I)〜(VII)の化合物は、薬学上許容される塩とすることができ、例えば、酸付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;クエン酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、サリチル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、カルボキシル基を有する化合物は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の金属との塩、リジン等のアミノ酸との塩とすることもできる。
【0066】
式(I)〜(VII)のいずれかで表される化合物およびその塩は、薬学上許容される溶媒和物とすることができ、例えば、水和物、アルコール和物(例えば、メタノール和物、エタノール和物)、エーテル和物が挙げられる。
【0067】
本発明によるNrf2活性化化合物は、市販されているものを入手することができる。
【0068】
本発明によるNrf2活性化化合物は、公知の方法に従って製造することもできる。
【0069】
例えば、化合物1は、特開昭51−041350号公報、Forzato C et al., Tetrahedron Asymmetry (2005), 16(18), 3011-3023、Piskov V. B., Zhurnal Obshchei Khimii (1960), 30 1390-5に従って製造することができる。
【0070】
化合物3は、Fabian W M et al., Eur. J. Org. Chem. (2001), 2 303-309、Scheffold R at al., Helv. Chim. Acta (1967) 50(3) 798-807に従って製造することができる。
【0071】
化合物6は、Noda N et al., Lipids (2005), 40(8), 833-838、Fujisawa T et al., Chem. Lett. (1982), (2) 219-20に従って製造することができる。
【0072】
化合物7は、Bartoli G et al., Eur. J. Org. Chem. (2001), 24 4679-4684、Emerson W S et al., J. Org. Chem. (1945), 10 464-9に従って製造することができる。
【0073】
化合物8は、Groundwater P W et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, (1997), (2), 163-169、Koreeda M et al., Tetrahedron Lett. (1980), 21(13), 1197-200に従って製造することができる。
【0074】
化合物9は、特開2004−269490号公報、Bolm C et al., Synlett (2004), (9), 1619-1621、Pharm I et al., Archiv der Pharmazie (Weinheim, Germany) (1993), 326(12), 941-5に従って製造することができる。
【0075】
化合物10は、特許2948870号公報、Centro N C et al., Gazzetta Chimica Italiana (1966), 96(8-9), 1073-83に従って製造することができる。
【0076】
化合物11は、Abell A D et al., Tetrahedron Letters (1992), 33(39), 5831-2、特開昭51−123899号公報に従って製造することができる。
【0077】
本発明において有効成分として用いられる化合物は、ブナハリタケ子実体から精製された化合物を使用することができる。各種キノコ類について、QR活性誘導能を評価したところ、ブナハリタケは高いQR活性誘導能を有した。また、ブナハリタケは食用キノコであり、人工栽培が可能である。従って、本発明においては、ブナハリタケ子実体を利用するものである。
【0078】
ブナハリタケ子実体から精製された化合物としては、ブナハリタケ子実体由来であってNfr2活性化作用を有する化合物であればどのようなものでもよいが、好ましくは、式(II)〜(VII)のいずれかで表される化合物である。本発明においては、有効成分としてブナハリタケ子実体をそのまま使用することもできるし、ブナハリタケ子実体抽出物を使用することもできる。
【0079】
本発明において使用されるブナハリタケ子実体は、ヒダナシタケ目(Aphyllophorales)エゾハリタケ科(Climacodontaceae)に属するブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)の子実体である。
【0080】
ブナハリタケ子実体としては、自然界に自生する天然の子実体、人工栽培された子実体が挙げられるが、成分含量等が生息地域や気候等により影響されないため品質が安定している点、周年安定的に収穫することができる点で人工栽培されたブナハリタケ子実体が好ましい。
【0081】
人工栽培方法としては、菌床栽培、原木栽培等が挙げられるが、成分含量等の品質が安定したブナハリタケを安価かつ周年安定的に収穫することができる点で菌床栽培が好ましい。
【0082】
ここで、「菌床栽培」とは、原木を用いることなく、保水体と栄養源からなる素材に種菌を接種し、温度、湿度、照度などを制御した環境下で栽培する方法を意味し、具体的な菌床栽培方法としては、特開2003−024046号公報に記載されている方法などが挙げられるがこれらの方法に限定されない。
【0083】
ブナハリタケ子実体をそのまま有効成分として使用する場合は、ブナハリタケ子実体をそのまま使用してもよいし、ブナハリタケ子実体を風乾、熱風乾燥または凍結乾燥後に粉砕した粉砕物を使用してもよい。また該粉砕物を常法により顆粒化、カプセル化、錠剤化したもの、ペーストなどを使用してもよい。また、このように粉砕した粉砕物の懸濁液または懸濁物であっても、Nrf2活性化作用を有している限り使用することができる。
【0084】
本発明において有効成分として用いられるブナハリタケ子実体抽出物は、公知の方法に従って抽出し、調製することができる。
【0085】
ブナハリタケ子実体抽出物は、ブナハリタケ子実体をそのまま抽出操作に供することができるが、乾燥工程を経てから抽出操作に供することもできる。例えば凍結乾燥したブナハリタケ子実体を粉砕した後、抽出操作に供することにより、調製することができる。抽出操作は、例えば、溶媒中にブナハリタケ子実体を懸濁し、そのまま攪拌もしくは、超音波処理、磨砕、フレンチプレス等により菌体を破砕して行うことができる。これら抽出操作によって得られた粗抽出物は、必要に応じて、遠心分離、濾過等の固液分離操作を単独又は複数組み合わせて固形物を除去することができる。得られた液はさらに、エタノール等に対する溶解度の差による分離や酢酸エチル等を用いた液液分配によって分離することもできる。得られたブナハリタケ子実体抽出物(液体)をさらに処理したもの、例えば、濃縮物、凍結乾燥物、部分精製物などの液体または固体形態として使用してもよい。
【0086】
抽出において使用可能な溶媒としては、0℃〜100℃の水、適当な緩衝液、適当な有機溶媒(例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類)、または適当な有機溶媒と水との混合液(例えばエタノール水)等が挙げられるが、好ましくは熱水、より好ましくは100℃の熱水である。抽出時間は、特に制限されるものではないが、5分間以上、好ましくは30分間程度である。次いで遠心分離またはろ過することによってブナハリタケ子実体の抽出液を得ることができる。抽出液量は、特に制限されるものではないが、コスト面、抽出効率面等からして乾燥キノコ重量に対して10倍量程度の水を用いることが好ましい。抽出溶媒として、エタノールなどの溶媒を適宜添加することもできるが、コスト面や製造現場での扱いやすさの点で、水のみで抽出したほうが望ましい。
【0087】
子実体は生のまま抽出してもよいが、乾燥させて保存可能とした子実体から抽出した方が、品質の優れた抽出液もしくは抽出物が得られる点で好ましい。また、乾燥させた子実体を粉砕した後、抽出する方が抽出率が向上するので好ましい。
【0088】
乾燥方法としては、熱風乾燥方法、風乾、スプレードライ、真空(もしくは減圧)乾燥、凍結乾燥方法等公知の乾燥方法であれば特に制限されるものではないが、Nrf2活性化作用の低下を抑制する点で凍結乾燥法が好ましい。
【0089】
本発明の好ましい態様によれば、凍結乾燥ブナハリタケ粉砕物を、100℃の熱水中に懸濁し、攪拌しながら抽出を行い、濾過にて固液分離し、エタノール溶液に対する溶解度の差によって分離した後、さらに酢酸エチルで分配することによりブナハリタケ子実体抽出物を得ることができる。
【0090】
抽出物に存在するNrf2活性化能を有する物質をさらに精製してもよく、この場合、公知の分離、精製法を適当に組み合わせて行うことができる。
【0091】
活性物質のさらなる精製のために使用できる方法として、例えば、液液分配および有機溶媒沈澱のような溶解性を利用する方法、ゲルろ過のような分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーのような電荷の差を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーのような疎水性の差を利用する方法、再結晶処理方法、再沈殿処理方法、冷却により生じた析出物を回収する処理方法、酸塩基分配、密度勾配を利用した分離方法、蒸気圧に基づく分離方法等が挙げられる。また、抽出、精製後の濃縮についても、公知の方法であればどのような方法でもよく、減圧加熱濃縮などを具体的に例示することができる。さらに抽出、精製後の乾燥についても、公知の方法であればどのような方法でもよく、風乾法、加熱乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法などを具体的に例示することができる。
【0092】
製造方法
本発明による製造方法は、好ましくは、Nrf2活性化化合物を製造する方法であって、下記工程:
(a)抽出溶媒を用いてブナハリタケ子実体を抽出する工程;
(b)工程(a)により得られた抽出物を分画する工程;
(c)工程(b)により得られた画分について、Nrf2活性化能を測定する工程;および
(d)Nrf2活性化能を有すると判定された画分を精製する工程
を含んでなる方法である。
【0093】
工程(c)において、例えば、QR活性、AREプロモーター活性、各種第二相酵素の発現等を測定することにより、得られた画分がNrf2活性化能を有するか否か判定することができる(後記実施例5〜7を参照)。ここで、例えば、QR活性の上昇、AREプロモーター活性の増加、各種第二相酵素の発現の増加が確認された場合に、得られた画分Nrf2活性化能を有する、すなわち本発明によるNrf2活性化化合物を含む画分である、と判定することができる。
【0094】
工程(d)において、精製は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、得られた画分を濃縮、結晶化することによって本発明によるNrf2活性化化合物を得ることができる。
【0095】
用途
転写因子Nrf2は、生体の酸化ストレスに対する防御能や生体異物の解毒と深く関連していることが知られている。具体的には、転写因子Nrf2は、第二相酵素群に対し、プロモーター中のAREに結合することで該遺伝子の発現を誘導することが知られており、このNrf2活性化にともなう一連の第二相酵素群の発現増加が、酸化ストレスからの防御や生体異物の解毒を亢進することが知られている。
【0096】
Nrf2は、酸化ストレス状態になると、酸化ストレスに応答して細胞質より核に移行し、AREに結合し、酸化ストレス防御や抗酸化に有効に働く第二相酵素の発現を誘導することにより酸化ストレス防御系を亢進する。酸化ストレス防御系が亢進されると酸化ストレス状態が改善され、酸化ストレスに起因する各種疾患が改善されることが期待される。例えば、加齢に伴う慢性疾患の一つである加齢性黄斑変性症は、老化に伴って発症し、老齢者で失明を引き起こす代表的な疾患である。この疾患の原因としては網膜色素上皮細胞に対する光酸化ストレスが示唆されており、脂質およびタンパク質の酸化産物の蓄積が危険因子として知られている。光酸化ストレスを網膜色素上皮細胞に与えると、細胞内の過酸化脂質量が増大して細胞は死滅するが、第二相酵素の誘導能をもつスルフォラファンやビス(2−ヒドロキシベンジリデン)アセトンはこれを抑制することが示されている(Gao X et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jul 13;101(28):10446-51)。また、グルタチオン量の低下などによって引き起こされる、生体の酸化ストレスに対する防御能の低下は、血中においてROSを増加させ、高血圧を引き起すことがある。ROSの一種であるペルオキシナイトライトは強い炎症惹起物質でもあり、その生成は動脈硬化巣の形成にも繋がる可能性が指摘されている。しかしながら、脳卒中易発高血圧自然発症ラット(SHRsp)において、グルコラファニン(スルフォラファンの代謝前駆体)を多量に含むブロッコリースプラウトを投与することによって、血圧上昇の抑制、血管内皮機能の改善が可能であることが示されている(Wu L et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 May 4;101(18):7094-9)。このことは、グルタチオン量の増加および第二相酵素の誘導が高血圧の改善に有効であることが示されている。
【0097】
Nrf2はまた、酸化ストレス防御系に加えて、解毒系も亢進する。薬剤や環境化学物質などの生体にとって異物となる物質が代謝される生体異物代謝系(解毒系)は、転写因子AhR、CARなどによって制御される第一相酵素群と、Nrf2によって制御される第二相酵素群から構成されている。生体異物は第一相酵素群によってオキソ中間体に変換された後、第二相酵素群によってより水溶性の高い誘導体に変化されて体外へ排出される(Rushmore TH et al., Curr Drug Metab. 2002 Oct;3(5):481-90)。この際、第一相酵素反応後のオキソ中間体は非常に強い毒性物質である場合が多い。例えば、発ガン性物質として知られるベンゾピレンは、CYP1A1などの第一相酵素群により代謝された後、ベンゾピレンジオールエポキシドとなり、次いでGSTなどの第二相酵素群によってグルタチオンやグルクロン酸抱合され、体外に排出される。この際、中間体であるベンゾピレンジオールエポキシドはDNAに結合しDNAの複製過程に障害を引き起こしてガン化の原因になると言われている(Motohashi H et al., Trends Mol Med. 2004 Nov;10(11):549-57)。このことから、第二相酵素群の活性を高め、有害な中間体をより早く代謝して体外へ排出することができれば、発ガンを抑制することができると考えられる。また、ディーゼルエンジンが排気する粒子状汚染物質で生体異物の一種であるDEP(diesel exhaust particles)は、呼吸器疾患などの症状を引き起こすことが知られているが、Nrf2活性化によって誘導されるGST、NQO1、HO1は、DEPによる酸化ストレスやDEP中のキノンの毒性に対する防御を担っていることが報告されている(Li N et al., J Immunol. 2004 Sep 1;173(5):3467-81)。このことから、環境汚染物質等によって引き起こされる各種疾患の予防、改善に、Nrf2活性化物質が有効であると考えられている。
【0098】
上記以外にも、Nrf2の活性化物質が、酸化ストレスまたは生体異物により引き起こされる疾患、例えば、炎症(Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 May 4;101(18):7094-9)、発ガン(Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Mar 15;89(6):2399-403 Carcinogenesis. 2000 Dec;21(12):2287-91 Fahey Jwet al., Food Chem Toxicol. 1999 Sep-Oct;37(9-10):973-9)、皮膚障害(J Clin Invest. 2004 Jan;113(1):65-73)、ピロリ菌防御(Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 May 28;99(11):7610-5)、神経変性疾患(Curr Drug Targets CNS Neurol Disord. 2005 Jun;4(3):267-81)、環境化学物質解毒(Toxicol Sci. 2006 Mar;90(1):111-9. Epub 2005 Dec 13)、肝機能障害(Toxicol Sci. 2006 Mar;90(1):111-9. Epub 2005 Dec 13)、自己免疫疾患(Am J Pathol. 2006 Jun;168(6):1960-74)、糖尿病(Transplant Proc. 2006 Jan-Feb;38(1):282-3)等の症状を改善することがこれまでに報告されている。
【0099】
実施例によれば、本発明において有効成分として用いられるブナハリタケ酢酸エチル画分は、第二相酵素であるNQO1の発現増加により上昇することが知られているキノン還元酵素(QR)の活性(実施例5)、AREプロモーター活性(実施例6)、各種第二相酵素の遺伝子発現(実施例7)をそれぞれ増加させた。また、本発明によるブナハリタケ酢酸エチル画分は、活性酸素による細胞死滅を抑制した(実施例8)。さらに、本発明によるブナハリタケ酢酸エチル画分が経口投与されたマウスの肝臓および小腸上皮において、第二相酵素群の発現(実施例9)、肝臓におけるQR活性(実施例10)が増加した。これらの結果から、ブナハリタケ酢酸エチル画分が、転写因子Nrf2を活性化する機能を有することが示された。
【0100】
実施例によれば、また、本発明において有効成分として用いられるブナハリタケ抽出物から単離、精製された化合物1〜11が、QR活性を増加させた(実施例5)。これらの結果から、化合物1〜11が、転写因子Nrf2を活性化する機能を有することが示された。
【0101】
従って、本発明による有効成分、すなわち、本発明によるNrf2活性化化合物および本発明による抽出物は、転写因子Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いることができる。
【0102】
本願明細書において、「Nrf2の活性化が治療に有効である疾患」としては、酸化ストレスにより引き起こされる疾患および生体異物により引き起こされる疾患が挙げられる。
【0103】
本願明細書において、「酸化ストレス」とは生体内において発生したROSなどが有する酸化損傷力が、生体内の抗酸化システムが有する抗酸化ポテンシャルを上回った状態を意味する。「酸化ストレスにより引き起こされる疾患」としては、加齢に伴う慢性疾患(例えば、加齢性黄斑変性症等)、動脈硬化、高血圧、糖尿病、発ガン、肝機能障害、潰瘍、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病等)、自己免疫疾患、シミ、シワ、眼疾患、呼吸器疾患(例えば、気管支炎等)、喘息、炎症(例えば、胃炎、肝炎、皮膚炎等)、脳梗塞、心筋梗塞等が挙げられる。
【0104】
本願明細書において、「生体異物」とは本来生体には存在しない物質を意味し、特に生体にとって有害な化合物を意味する。「生体異物により引き起こされる疾患」としては呼吸器疾患(例えば、気管支炎等)、肝機能障害、発ガン、自己免疫疾患等が挙げられる。
【0105】
本願明細書において、「治療」とは、予防および改善を含む意味で用いられるものとする。
【0106】
本願明細書において、「疾患」とは、状態を含む意味で用いられるものとする。
【0107】
本願明細書において、「疾患の治療」は、疾患または状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制などを含む意味で使用される。
【0108】
本発明によれば、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を含んでなる、Nrf2活性化剤が提供される。
【0109】
本発明によれば、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を含んでなる、酸化ストレス防御剤、抗酸化剤、および生体異物の解毒剤が提供される。
【0110】
本発明によれば、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療剤の製造のための、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物の使用が提供される。
【0111】
本発明によれば、また、Nrf2活性化剤の製造のための、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物の使用が提供される。
【0112】
本発明によれば、また、酸化ストレス防御剤、抗酸化剤、または生体異物の解毒剤の製造のための、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物の使用が提供される。
【0113】
本発明によれば、治療上の有効量の本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療方法が提供される。
【0114】
本発明によれば、また、有効量の本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、Nrf2の活性化方法が提供される。
【0115】
本発明によれば、また、有効量の本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、酸化ストレス防御方法、抗酸化方法、および生体異物の解毒方法が提供される。
【0116】
医薬組成物および食品
本発明による組成物および用剤を医薬として用いる場合には、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を有効成分として用い、薬学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合することにより製造できる。
【0117】
有効成分としては、例えば子実体の粉砕物(例えば、粉末)、懸濁液、抽出物、またはその抽出物をさらに精製したものでもよく、あるいは有効成分を含む混合物でもよいし、または実質的に単一になるまで精製された物でもよい。
【0118】
本発明による組成物および用剤は、経口または非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、溶液剤、丸剤、軟質または硬質カプセル剤、シロップ剤、ペースト剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)、点眼剤等が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学的に許容される担体(例えば、賦形剤、添加剤)とともに製剤化することができる。薬学的に許容される賦形剤や添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤、崩壊剤、pH調整剤、湿潤剤、滑沢剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0119】
製剤は、例えば下記のようにして製造できる。
【0120】
経口剤は、有効成分として、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0121】
注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0122】
製剤化に当たっては、本発明による有効成分以外の1種以上の有効成分を更に配合してもよい。また本発明による有効成分の投与に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。
【0123】
本発明による組成物および用剤は、医薬品への適用のみならず、食品への適用も意図されている。従って、本発明による組成物および用剤の食品への適用に当たっては、後述するような食品に関する記述を参照することができる。
【0124】
本発明による食品は、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物を有効量含有した食品である。ここで「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に、後述するような範囲で有効成分が摂取されるような含有量をいう。本発明による食品には、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物をそのままあるいは上記のような組成物の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物をそのまま、食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状のもの、一般の食品へ添加したものであってもよい。本発明による食品は、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物と、アブラナ科植物、ホップ、ショウガ、茶等のNrf2活性化が報告されている食品、ワイン、茶、ハーブ等の抗酸化活性が報告されている食品、コーヒー、瓜類、ハーブティー等の利尿効果が高い食品とを組み合わせて使用してもよい。本発明において「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が摂取可能なものであればその形態に特に制限はない。
【0125】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0126】
上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。
【0127】
また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であってもよい。
【0128】
本発明による食品は、Nrf2活性化機能、Nrf2の活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能を期待する消費者に適した食品、すなわち、特定保健用食品、として提供することができる。ここでいう「特定保健用食品」とは、Nrf2活性化、Nrf2の活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0129】
本発明によれば、本発明によるNrf2活性化化合物またはブナハリタケ抽出物を有効量含んでなる食品であって、Nrf2活性化機能、Nrf2の活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能が表示された食品が提供される。ここで、上記の各種機能は、食品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに表示することができる。
【0130】
本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物の添加・配合の対象である日常摂取する飲食品としては、例えば、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類(アルコール性飲料)、コーヒー、紅茶、茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、クッキー、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類や、クラッカー、チップス等のスナック類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、つけもの、酢づけ、アルコールづけ、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、スープ、シチュー等の各種総菜などを例示することができるが、これらに特に制限されない。
【0131】
本発明のより好ましい態様によれば、添加・配合の対象である食品としては、野菜搾汁液と混合した飲料、茶系飲料が挙げられる。
【0132】
本発明において提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当業界に公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0133】
本発明による組成物の有効成分である、本発明によるNrf2活性化化合物または本発明による抽出物は、人類が食品として長年摂取してきたブナハリタケに含まれるものであることから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に応じて適宜決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、成人1人当たり、乾燥子実体換算で約100mg〜約20g/kg体重/日、好ましくは1g〜5g/kg体重/日の範囲で投与することができる。本発明による有効成分と組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり0.1〜100g、好ましくは1〜10g程度の摂取量となるよう本発明による有効成分を食品に配合することができる。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0135】
実施例1:菌床栽培法を用いたブナハリタケ子実体乾燥粉末の調製
ブナオガクズ380g、乾燥ビール粕37.5g、乾燥おから37.5g、水道水545gを混合した計1000gを、1.2kg用PP(ポリプロピレン)製袋に詰めて培地を作製した。さらにこの袋にフィルターをはさんだポリプロピレン製キャップをして121℃、50分加圧滅菌し、滅菌後の培地を冷却した後、特許生物寄託センターにFERM BP−6697として寄託されているブナハリタケの種菌を接種し、暗所にて温度23〜25℃、湿度60〜80%の条件で40日間前培養を行い、次に中培養工程へ移行した。中培養工程では、温度13〜15℃、湿度80〜95%、照度200ルックスの条件下で、30日間培養するとブナハリタケ原基が形成された。袋内に直径約3cm程度の原基が認められる部分の袋部の1箇所を切り取り、次いで後培養工程へ移行した。後培養工程では、温度13〜15℃、湿度80〜95%、照度200ルックスの条件下で、17日間培養すると1株のブナハリタケ子実体へと成長した。得られたブナハリタケ子実体は232.5gで、栽培に要した総日数は87日であった。
【0136】
上記菌床栽培にて得られたブナハリタケ子実体3kgを、収穫後直ちに4℃にて最長1週間まで冷蔵保存しておき、熱風乾燥機にて65℃で6時間乾燥処理を行い、ブナハリタケ子実体乾燥品0.3kgを得た。ブナハリタケ子実体乾燥品を、粉砕機を用いて粉砕し、ブナハリタケ子実体乾燥粉末とした。
【0137】
実施例2:ブナハリタケ子実体乾燥粉末熱水抽出物を出発物質とした粗抽出プロセス
実施例1の方法を用いて調製した530gのブナハリタケ子実体乾燥粉末を10倍量の精製水を用いて30分間熱水抽出し、ろ紙にてろ過したものをロータリーエバポレーター中で減圧濃縮し、ブナハリタケ子実体乾燥粉末の熱水抽出物208gを得た。この抽出物に10倍量の80%エタノール溶液を加え攪拌した後、5000rpm、10分間遠心分離を行い、上清を回収し、エバポレーター中で減圧濃縮した。この抽出物を5倍量の精製水に再溶解し、続いて酢酸エチルで3回液液分配を行い、その後濃縮した。さらに抽出物を80%メタノール溶液に再溶解し、ヘキサンで3回液液分配を行った後、80%メタノール層を減圧濃縮して6.0gの乾燥物を得た。
【0138】
実施例3:活性化合物の単離
実施例2で得られた乾燥物をクロロホルム:メタノール=50:1溶液に再溶解しシリカゲル(ワコーゲル:和光純薬社製)を充填したカラムに付し、クロロホルムに対するメタノール含量を、クロロホルム:メタノール=50:1、20:1、1:1、メタノール100%と順次増やして溶出した。このうち、クロロホルム:メタノール=50:1の混合溶液で溶出されてきた画分を集めて減圧濃縮し、クロロホルム:メタノール=40:1溶液に再溶解し、シリカゲルを充填したカラムに再度付した。クロロホルム:メタノール=40:1溶液をシリカゲル容量の5倍量カラムに添加し、溶出されてきた画分を5mlずつ回収した。各画分を薄層クロマトグラフィーにて展開し、リンモリブテン酸(シグマ社製)にて呈色させ、その結果によって6画分(F1〜F6)に大別した。
【0139】
上記6画分についてQRアッセイを行い、その中で最も強い活性を示した画分F2を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりさらに精製した。まず、下記溶出条件(1)で粗精製し、化合物1,2については(2),(3)、化合物3については(4)、化合物4,5については(5),(6)、化合物6については(5)、化合物7については(7),(8)、化合物8については(7)、化合物9,10については(9)、化合物11については(10),(11)で引き続き精製した。
(1)カラム:YMC−Pack C−18(10×250mm、YMC社製)、流速:1.5ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)35−100%
(2)カラム:CAPCELL PAK AQ C−18(10×250mm、資生堂社製)、流速:4.7ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器,示差屈折検出器(共に島津製作所社製)、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)メタノール、溶出条件:B)5%一定
(3)カラム:TSK gel Amide−80(4.6×250mm、東ソー社製)、流速:1.0ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器,示差屈折検出器、溶媒:A)アセトニトリル、溶出条件:A)100%一定
(4)カラム:CAPCELL PAK AQ C−18(10×250mm)、流速:3.0ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)10%一定
(5)カラム:CAPCELL PAK AQ C−18(10×250mm)、流速:4.7ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器,示差屈折検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)20%一定
(6)カラム:CAPCELL PAK AQ C−18(4.6×250mm)、流速:1.0ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器,示差屈折検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)10%一定
(7)カラム:Discovery HS PEG(10×250mm、SUPELCO社製)、流速:2.0ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器,示差屈折検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)10%一定
(8)カラム:Xterra phenyl(4.6×250mm、Waters社製)、流速:1.0ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.1%ギ酸 B)メタノール、溶出条件:B)18%一定
(9)カラム:CAPCELL PAK AQ C−18(4.6×250mm)、流速:1.5ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.2%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)18%一定
(10)カラム:CAPCELL PAK MG C−18(4.6×250mm)、流速:1.2ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.2%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)45%一定
(11)カラム:CAPCELL PAK MG C−18(4.6×250mm)、流速:1.2ml/分、温度:40℃、検出:ダイオードアレイ検出器、溶媒:A)0.2%ギ酸 B)アセトニトリル、溶出条件:B)30%一定
【0140】
実施例4:単離した化合物の構造決定
単離した化合物の各種スペクトルデータは以下の通りである。
【0141】
化学式1:4−アセチル−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン
【化9】

1H-NMR(CD3OD,400 MHz):δ4.52(1H, t, J=9.0),4.20(1H, t, J=9.0),3.27(1H, q, J=9.3),2.85(1H, dq),2.22(3H, s),1.29(3H, d, J=6.7)
13C-NMR(CD3OD,100 MHz):δ206.8,180.7,68.0,56.3,38.0,29.4,15.1
ESI-MS:m/z 142.9[M+H]+
[α]20D = -28.7(c 0.035, CH3OH)
【0142】
化合物2:4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン
【化10】

1H-NMR(CD3OD,400 MHz):δ4.33(1H, t, J=8.6),3.96(1H, t, J=8.9),3.77(1H, m),2.59(1H, dq),2.26-2.17(1H, m),1.30(3H, d, J=7.6),1.17(1H, d, J=6.5)
13C-NMR(CD3OD,100 MHz):δ182.9,69.7,69.3,51.3,38.4,21.5,16.6
ESI-MS:m/z 145.0[M+H]+
[α]20D = 15.9(c 0.013, CH3OH)
【0143】
化合物3:5−ヒドロキシ−3,4,5−トリメチル−5−H−フラン−2−オン
【化11】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ1.97(3H, s),1.79(3H, s),1.62(3H, s)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ172.3,158.8,124.3,105.6,23.4,10.5,8.4
ESI-MS:m/z 142.9[M+H]+
【0144】
化合物4:酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル
【化12】

1H-NMR(CD3OD,400 MHz):δ4.54-4.51(1H, m),4.28(1H, m),4.08(1H, m),2.99-2.97(1H, m),2.50-2.49(1H, m),2.02(3H, s),1.39(3H, d, J=5.9),1.18(3H, d, J=6.7)
13C-NMR(CD3OD,100 MHz):δ181.7,172.4,79.4,63.6,45.3,36.8,20.6,20.3,10.3
ESI-MS:m/z 186.9[M+H]+
[α]20D = -3.7(c 0.013, CH3OH)
【0145】
化合物5:(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸
【化13】

1H-NMR(CD3OD,400 MHz):δ4.35-4.32(1H, m),3.91-3.88(1H, m),2.54-2.38(2H, m),2.14-2.02(2H, m),1.66-1.40(4H, m),0.90(3H, t, J=7.5)
13C-NMR(CD3OD,100 MHz):δ175.7,81.1,76.7,42.3,32.8,32.2,29.6,10.4
ESI-MS:m/z 156.8[M-H]-
[α]20D = 2.3(c 0.021, CH3OH)
【0146】
化合物6:(E)−2−デセン−二酸
【化14】

1H-NMR(CD3OD,400 MHz):δ6.97-6.89(1H, m),5.79(1H, d, J=15.6),2.29-2.19(4H, m),1.62-1.58(2H, m),1.49-1.46(2H, m),1.38-1.34(4H, m)
13C-NMR(CD3OD,100 MHz):δ178.2,170.9,151.3,123.3,35.5,33.5,30.5,30.4,29.6,26.5
ESI-MS:m/z 198.9[M-H]-
【0147】
化合物7:1−フェニル−ペンタン―1,3−ジオール
【化15】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ7.39-7.26(5H, m),4.95(1H, dd, J=8.8, 4.4),3.90-3.89(1H, m),1.84-1.80(2H, m),1.62-1.51(2H, m),0.94(3H, t, J=7.4)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ144.5,128.5, 125.7,127.6,75.5,74.1,44.9,30.9,9.6
ESI-MS:m/z 203.1[M+Na]+
【0148】
化合物8:2−フェニル−ピラン−4−オン
【化16】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ7.82(1H, d, J=6.4),7.73(2H, dd),7.50-7.43(3H, m),6.77(1H, d, J=2.4),6.36(1H, dd, J=2.5, 6.1)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ179.2,164.0, 154.8,131.5,131.2,129.1,125.8,117.1,112.4
ESI-MS:m/z 173.0[M+H]+
【0149】
化合物9:ジヒドロ−4−フェニル−2(3H)−フラノン
【化17】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ7.39(2H, dd, J=7.0, 7.1),7.31(1H, dd, J=7.0, 7.0),7.24(2H, d, J=7.1),4.68(1H, dd, J=8.0, 9.2),4.28(1H, dd, J=8.0, 8.9),3.80(1H, m),2.94(1H, dd, J=8.3, 17.5),2.69(1H, dd, J=9.1, 17.5)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ176.4,139.4, 129.1,127.7,126.7,74.0,41.1,35.7
ESI-MS:m/z 163.0[M+H]+
【0150】
化合物10:2−フェニル−5,6−ジヒドロ−γ−ピロン
【化18】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ7.74(2H, d, J=7.8),7.48(1H, dd, J=7.7, 7.7),7.42(2H, dd, J=7.7, 7.8),6.03(1H, s),4.67(2H, t, J=6.6),2.67(2H, t, J=6.6)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ192.7,170.6, 132.7,131.7,128.7,126.5,102.5,68.2,36.0
ESI-MS:m/z 175.0[M+H]+
【0151】
化合物11:2−(2−ホルミルピロール−1−イル)−4−メチル吉草酸
【化19】

1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ9.48(1H, s),7.17(1H, m),6.99(1H, m),6.32(1H, m),5.98(1H, m),2.00(2H, m),1.41(1H, m),0.92(3H, d, J=7.2),0.90(3H, d, J=7.6)
13C-NMR(CDCl3,100 MHz):δ180.0,175.1, 131.7,130.0,126.0,110.7,57.8,40.8,24.8,22.9,21.4
EI-MS:m/z 209 [M]+
【0152】
実施例5:キノン還元酵素活性試験
キノン還元酵素(QR)活性は、Nrf2活性化によるNQO1の発現増加によって上昇することが知られている(Proc Natl Acad Sci U S A. 101 10446-51 (2004))。そこで、実施例2で調製したブナハリタケ酢酸エチル画分(以下、「ブナハリタケ酢酸エチル画分」という。)が、Nrf2活性化能を有するか否かについて、QR活性を指標として測定を行った。
【0153】
QR活性の測定は、Prochaska HJ et al., Anal Biochem. 1988 Mar;169(2):328-36に記載の方法に従って実施した。
【0154】
マウス肝ガン細胞Hepa1c1c7細胞(大日本住友製薬より入手)を96穴マイクロプレートに、7×10cells/wellで播種し、10%牛胎仔血清(Hyclone社製)とペニシリン−ストレプトマイシン(それぞれ100単位/ml、100μg/ml、シグマ社製)とを含有するα−MEM培地(インビトロジェン社製)を50μl加えて、37℃でかつ5%CO条件下で1晩培養した。次いで、この培養培地を、実施例2で調製したブナハリタケ酢酸エチル画分と実施例3で単離された化合物1〜11がそれぞれ100μg/mlの濃度となるように調製した培地に交換し、さらに48時間培養した。その後、0.08%ジギトニン、および、2mM EDTA溶液を用いて各ウェルの細胞を破砕し、マイクロプレートリーダーを用いて、メナディオン−ホルマザン系による610nmの吸光度を測定した。
【0155】
QR誘導活性は、無添加の細胞の活性を1とする相対活性として算出した(n=3、平均値±標準偏差)。ポジティブコントロールとしては、Nrf2の活性化物質であるスルフォラファン(3μM)(シグマ社製)を使用した。また、t検定を用いて有意差を判定した(*p<0.05、**p<0.01)。
【0156】
その結果、ブナハリタケ酢酸エチル画分および化合物1〜11の添加によるQR活性の上昇が認められた(図1)。特に、化合物9が最も高いQR活性化能を示した。
【0157】
実施例6:AREレポーターアッセイ系におけるNrf2活性化能評価
Nrf2は、AREに結合し、第二相酵素の発現を誘導することが知られている(Itoh K et al., Seikagaku. 2006 Feb;78(2):79-92)。そこで、ブナハリタケ酢酸エチル画分が、Nrf2活性化能を有するか否かについて、AREプロモーター活性を指標として測定を行った。
【0158】
AREプロモーター活性の測定は、AREレポーターアッセイ系を用いて実施した。
【0159】
レポータープラスミドpGL3−mARE3は、Nrf2が結合するとされるマウスNQO1由来ARE(antioxidant response element)を3回繰り返した二本鎖オリゴDNAを作製し、これを、ホタルルシフェラーゼレポーターベクターpGL3-promoter vector(プロメガ社より入手可能)のMluI−NheI部位に挿入することによって構築した。
【0160】
AREを含む二本鎖オリゴDNAは
5'-TCGACGCGTAGAGTCACAGTGAGTCGGCAAAATTAGAGTCACAGTGAGTCGGCAAAATTAGAGTCACAGTGAGTCGGCAAAATTGCTAGCTAG-3’(配列番号:1)、および
5'-CTAGCTAGCAATTTTGCCGACTCACTGTGACTCTAATTTTGCCGACTCACTGTGACTCTAATTTTGCCGACTCACTGTGACTCTACGCGTCGA-3'(配列番号:2)
の2本の一本鎖オリゴDNAを化学合成し、アニーリングさせて調製した。また、目的のプラスミドであることは塩基配列解析により確認した。
【0161】
次に、12穴マイクロプレートに4×10cells/wellのマウス・マクロファージ系細胞RAW264.7(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより入手)を播種し、10%牛胎仔血清、およびペニシリン-ストレプトマイシン(それぞれ100単位/ml、100μg/ml)を含有するRPMI1640培地(シグマ社製)0.8mlを加えて、37℃でかつ5%CO条件下で1晩培養した。この細胞に1.0μgのpGL3−mARE3と0.01μgの補正用ウミシイタケ由来ルシフェラーゼレポーターベクターphRL−TK(プロメガ社)をSuperFect Transfection試薬(キアゲン社製)を用いてトランスフェクションした。3時間トランスフェクションした後、培地を新しいものに交換し、ここにブナハリタケ酢酸エチル画分(100、200μg/ml)と、ポジティブコントロールとしてスルフォラファン(8μM)を添加して24時間培養した後、細胞を回収した。デュアルルシフェランス・レポーター・アッセイ・システム(Dual-Luciferase reporter assay system)(プロメガ社製)を用いて細胞破砕した後、ホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を、ルミノメーター(ARVO Light Luminescence Counter、パーキンエルマー社製)により測定した。
【0162】
ホタルルシフェラーゼ活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性で除した値を相対ルシフェラーゼ活性とした(n=3、平均値±標準偏差)。
【0163】
その結果、ブナハリタケ酢酸エチル画分の添加により、濃度依存的にAREプロモーター活性が増加されることが確認された(図2)。従って、実施例5で確認されたブナハリタケ酢酸エチル画分が有するQR活性誘導能はNrf2活性化を介して起きていることが示唆された。
【0164】
実施例7:Nrf2によって制御される各種遺伝子の発現量解析
Hepa1c1c7細胞を96穴マイクロプレートに、7×10cells/wellで播種し、10%牛胎仔血清とペニシリン−ストレプトマイシン(それぞれ100単位/ml、100μg/ml)とを含有するα−MEM培地を50μl加えて、37℃でかつ5%CO条件下で1晩培養した。次いで、この培養培地を、実施例2で調製した酢酸エチル画分がそれぞれ50、100、200μg/mlの濃度となるように調製した培地と、ポジティブコントロールとしてスルフォラファン(3μM)を含んだ培地にそれぞれ交換し、さらに12時間培養した。
【0165】
その後、TRIzol(インビトロジェン社製)を用いてtotal RNAを調製し、RNeasy Mini(キアゲン社製)およびRNase-Free DNase Set(キアゲン社製)を用いて精製した。さらに、精製された5μgのtotal RNAからThermo Script RT-PCRシステム(インビトロジェン社製)を用いてcDNAを合成し、SYBR(R) Premix Ex TaqTM reagent(タカラバイオ社製)およびライトサイクラー(ロシュ社製)を使用して、各種第二相酵素遺伝子のmRNA発現量を定量した。
【0166】
各遺伝子の発現量はGAPDHの発現量で補正し、相対発現量を算出した(n=2、平均値±標準偏差)。
【0167】
なお、遺伝子発現解析に使用したDNAプライマーは、
グルタチオンS−トランスフェラーゼmu1(Glutathione S-transferase mu1(GSTM1))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5’-TGCCCGAAAGCACCACCTGGAT-3’(配列番号:3)、および
5’-ACCATGGCCTCTTGCCCAGGAA-3’(配列番号:4)、
NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NAD(P)H:quinone oxidoreductase (NQO1))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5’-ACAGCATTGGCCACACTCCACCA-3’(配列番号:5)、および
5’-TGATGGCCCACAGAGAGGCCAAA-3’(配列番号:6)、
グルタメートシステインリガーゼ触媒サブユニット(Glutamate cysteine ligase catalytic subunit(GCLC))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5'-TCTGCAAAGGCGGCAACGCTGT-3' (配列番号:7)、および
5'-GCATCGGGTGTCCACATCAACTTCC-3' (配列番号:8)、
グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5'-TCTGCCGATGCCCCCATGTTTG-3' (配列番号:13)
5'-TGGGTGGCAGTGATGGCATGGA-3' (配列番号:14)
であり、全てインビトロジェン社で合成した。GSTM1やNQO1は解毒に関する酵素であり、GCLCは抗酸化物質のグルタチオンの合成を司る酵素である。
【0168】
その結果、実施例5においてQR活性誘導能を示したブナハリタケ酢酸エチル画分について、Nrf2によって制御される各種遺伝子の発現量変動を調べたところ、Nrf2によって発現増加することが知られる標的遺伝子GSTM1、NQO1、GCLCの発現を、ポジティブコントロールとして使用したスルフォラファンと同様に増加させた(図3)。従って、ブナハリタケ酢酸エチル画分は、Nrf2を活性化し、それにより第二相酵素と呼ばれる一連の遺伝子群の発現を増加させて抗酸化や解毒系を亢進させることが明らかとなった。
【0169】
実施例8:過酸化水素による細胞死の抑制作用
96穴マイクロプレートにおいて2.5×10cells/wellのRAW264.7細胞を、各サンプル、10%牛胎仔血清、およびペニシリン−ストレプトマイシン(それぞれ100単位/ml、100μg/ml)を含有する100μlのRPMI1640培地を加えて、37℃でかつ5%CO条件下、1晩培養した。ここで、各サンプルは、実施例2で調製した酢酸エチル画分を使用し、濃度が25、50、100μg/mlとなるよう添加した、また、ポジディブコントロールとしてスルフォラファン(3μM)を使用した。ここに過酸化水素(和光純薬社製)を最終濃度が0.2,0.4,0.8mMとなるように添加してさらに2時間培養した。その後、Cell Counting Kit-8(同仁化学社製)を用いて450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し細胞生存率を測定した。細胞生存率は、各サンプルについて過酸化水素無添加を100%として算出した(n=3、平均値±標準偏差)。
【0170】
その結果、ブナハリタケ酢酸エチル画分は、スルフォラファンと同様に過酸化水素、すなわち活性酸素による細胞の死滅を抑制することが確認された(図4)。
【0171】
実施例9:経口強制投与によるマウス肝臓および小腸上皮の遺伝子発現量変化
C57BL/6NCr1Cr1jマウス雄性7週齢(チャールス・リバー社より入手、n=7−8)をAIN−76A(エトキシキン不含、リサーチダイエット社製)食で1週間飼育し馴化した。その後、ブナハリタケ酢酸エチル画分を30mg/匹/日、または15mg/匹/日で3日間、経口強制投与した。同様に対照群として精製水を、ポジティブコントロール群としてスルフォラファン(1mg/匹/日)をマウスに投与した。
【0172】
最終投与24時間後にエーテル麻酔下で肝臓と小腸上皮を回収し、直ちに液体窒素で凍結し、使用時まで−80℃で保存した。各臓器のRNAは、実施例7と同様の方法で精製し、cDNAを合成した後、各遺伝子のmRNA発現量を定量した。
【0173】
各遺伝子の発現量はGAPDHの発現量で補正し、相対発現量を算出した(n=3、平均値±標準偏差)。なお、肝臓ではGSTM1、NQO1、GCLC、Cyp1A1、およびCyp1A2を、小腸上皮ではGSTM1、NQO1、およびGCLC遺伝子に対して測定を行った。また、遺伝子発現量解析に使用したDNAプライマーは実施例7と同じ物に加え、以下のものをインビトロジェン社で合成して用いた。
【0174】
シトクロムP450 1A1(Cytochrome P450 1A1(Cyp1A1))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5'-TGGGGCTTGCCCTTCATTGGTC-3' (配列番号9)、および
5'-TCTGGCCGGCCCTTGAAGTCAT-3' (配列番号10)
を使用した。
【0175】
また、シトクロムP450 1A2(Cytochrome P450 1A2(Cyp1A2))のセンスおよびアンチセンスプライマーとして
5'-TCGGCCATCGACAAGACCCAGA-3' (配列番号11)、および
5'-TGTTCACAGGTCCCGGGCTTCA-3' (配列番号12)
を使用した。
【0176】
また、スティール検定を用いて有意差を判定した(*p<0.05、**p<0.01)。
【0177】
その結果を表1に示す。
【表1】

【0178】
これにより、ブナハリタケ酢酸エチル画分を投与した群では、第二相酵素として代表的なGSTM1、NQO1、およびGCLCの有意な発現増加が認められた。GSTM1やNQO1は解毒に関する酵素であり、GCLCは抗酸化物質のグルタチオンの合成を司る酵素である。このため、ブナハリタケ酢酸エチル画分により解毒作用と抗酸化作用が亢進されたものと考えられる。一方、ブナハリタケ酢酸エチル画分を投与した群では、発がん物質の活性化に関与する第一相酵素として代表的なCyp1A1やCyp1A2の発現増大は認められなかった。このことから、ブナハリタケ酢酸エチル画分は、解毒系の代謝において、第二相酵素群の発現を選択的に増加させることも明らかとなった。このことから、ブナハリタケ酢酸エチル画分は、経口で摂取した場合においても体内のNrf2を活性化し、第二相酵素と呼ばれる一連の遺伝子群の発現を増加させることが示された。なお、各サンプル投与期間中における体重変化、摂餌量、解剖時の肝臓重量において有意な差は認められなかった(データ示さず)。
【0179】
実施例10:経口強制投与によるマウス肝臓のQR活性評価
実施例9と同様の条件で各サンプルを投与したマウスから肝臓を回収した。肝臓100mg程度に10倍量のバッファー(10mM Tris−HCl、0.5mM EDTA、0.25M スクロース、pH8.8)を加えホモジェナイザー(日立製作所製)で破砕した。10000×g、20分、4℃で遠心分離し、上清を回収後、タンパク質濃度をブラッドフォード法にて測定した。各サンプルのタンパク質濃度が5mg/mlとなる様に上記バッファーで希釈した後、マイクロプレートリーダーを用いて、メナディオン−ホルマザン系による610nmの吸光度を測定してQR活性を評価した。
【0180】
QR活性は、対照群を1とする相対活性として算出した(n=3、平均値±標準偏差)。なお、実験方法は、Hans J et al., J Biol Chem. 1986 Jan 25;261(3):1372-8に記載の方法に従って実施した。また、スティール検定を用いて有意差を判定した(*p<0.05、**p<0.01)。
【0181】
その結果、ブナハリタケ酢酸エチル画分を投与した群では、QRの酵素活性の投与量依存的な増加が有意に認められた(図5)。このことから、ブナハリタケ酢酸エチル画分は経口で摂取した場合においても体内のNrf2を活性化し、Nrf2によって制御される遺伝子の発現量を増加させ、これに伴う酵素活性を上昇させることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】実施例5における、QR活性に対する本発明によるNrf2活性化化合物およびブナハリタケ酢酸エチル画分の影響を示した図である。
【図2】実施例6における、プロモーター活性に対するブナハリタケ酢酸エチル画分の影響を示した図である。
【図3】実施例7における、Nrf2によって制御されている遺伝子(GSTM1、NQO1、GCLC)の発現量に対するブナハリタケ酢酸エチル画分の影響を示した図である。
【図4】実施例8における、Hによって誘導される細胞死に対するブナハリタケ酢酸エチル画分の影響を示した図である。
【図5】実施例10における、ブナハリタケ酢酸エチル画分を投与したマウスの肝臓におけるQR活性を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[上記式中、
は、酸素原子またはC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、またはC1−4アルキル基、C1−4アシル基、カルボキシル基、およびC1−4アルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基を表し、Rは、水素原子またはカルボキシルC1−6アルキル基を表し、
- - -は、単結合または二重結合を表し、
但し、Rが酸素原子である場合は- - -は二重結合であり、RがC1−6アルキル基である場合は- - -は単結合である。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物。
【請求項2】
が、酸素原子またはエチル基であり、Rが、水素原子またはメチル基であり、Rが、水素原子、水酸基で置換されていてもよいエチル基、またはメチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基であり、Rが、水素原子またはカルボキシルメチル基である、請求項1に記載の化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物。
【請求項3】
式(I)の化合物が、
4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン、
酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル、および
(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物。
【請求項4】
エゾハリタケ科ブナハリタケ属に属するブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)子実体由来である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物。
【請求項5】
式(II):
【化2】

[上記式中、
101は、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、R102は、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基;C1−6アルキルカルボニル基;C1−4アルキル基、C1−4アシル基、カルボキシル基、およびC1−4アルコキシカルボニル基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいC1−6アルキルカルボニルオキシC1−6アルキル基;またはフェニル基を表し、R103は、水素原子、水酸基、またはC1−6アルキル基を表し、R104は、水素原子、水酸基、またはC1−6アルキル基を表し、
- - -は、単結合または二重結合を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項6】
101が、水素原子またはメチル基であり、R102が、メチル基、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、メチル基で置換されていてもよいアセチルオキシメチル基、またはフェニル基であり、R103が、水素原子、水酸基、またはメチル基であり、R104が、水素原子、水酸基、またはメチル基である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
101が、水素原子またはメチル基であり、R102が、水酸基で置換されていてもよいエチル基、メチルカルボニル基、またはフェニル基であり、R103が、水素原子であり、R104が、水素原子である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
101が、水素原子であり、R102が、フェニル基であり、R103が、水素原子であり、R104が、水素原子である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
式(III):
【化3】

[上記式中、
105は、C1−6アルキル基を表し、R106は、カルボキシルC1−6アルキル基を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項10】
105が、エチル基であり、R106が、カルボキシルメチル基である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
式(IV):
【化4】

[上記式中、
mは、3から9の整数を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項12】
mが6である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
式(V):
【化5】

[上記式中、
107は、1以上の水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項14】
107が、1以上の水酸基で置換されていてもよいペンチル基である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
式(VI):
【化6】

[上記式中、
Hetは、異種の環員原子として1つの酸素原子を有する5〜6員の飽和または不飽和複素環式基を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項16】
式(VI)の化合物が、式(VIa):
【化7】

[上記式中、
W、X、Y、Zのうち、いずれか1つが酸素原子を表し、それ以外が−CH−、>CH−、−CH=、>C=、−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−を表す(但し、Wが酸素原子である場合は、X、Y、およびZが、−CH−または>CH−であり、Zが酸素原子である場合は、W、X、およびYが、−CH−または>CH−であり、Xが酸素原子である場合は、Wが−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−であり、YおよびZが−CH=、>C=、−CH−、または>CH−であり、Yが酸素原子である場合は、Zが−CH−CH−、>CH−CH−、−CH=CH−、または>C=CH−であり、WおよびXが−CH=、>C=、−CH−、または>CH−である)。]で表される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
式(VII):
【化8】

[上記式中、
108は、C1−6アルキル基を表す。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項18】
108が、分岐鎖のC1−6アルキル基である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1または2に記載の式(I)の化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項20】
有効成分が、
4−アセチル−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン、
4−(1−ヒドロキシ−エチル)−3−メチル−ジヒドロ−フラン−2−オン、
5−ヒドロキシ−3,4,5−トリメチル−5−H−フラン−2−オン、
酢酸1−(4−メチル−5−オキソ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−エチルエステル、
(5−エチル−テトラヒドロ−フラン−2−イル)−酢酸、
(E)−2−デセン−二酸、
1−フェニル−ペンタン―1,3−ジオール、
2−フェニル−ピラン−4−オン、
ジヒドロ−4−フェニル−2(3H)−フラノン、
2−フェニル−5,6−ジヒドロ−γ−ピロン、および
2−(2−ホルミルピロール−1−イル)−4−メチル吉草酸
からなる群から選択される、請求項5〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
有効成分が、ブナハリタケ子実体由来である、請求項5〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
ブナハリタケ子実体の抽出物を含んでなる、Nrf2の活性化が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項23】
ブナハリタケ子実体が、乾燥粉砕物であることを特徴とする、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
ブナハリタケ子実体の抽出物が、ブナハリタケ子実体を水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物であることを特徴とする、請求項22または23に記載の組成物。
【請求項25】
水性溶媒で抽出した後、酢酸エチルで分配することを特徴とする、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
Nrf2の活性化が治療に有効である疾患が、酸化ストレスにより引き起こされる疾患である、請求項5〜25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
酸化ストレスにより引き起こされる疾患が、加齢に伴う慢性疾患、動脈硬化、高血圧、糖尿病、発ガン、肝機能障害、潰瘍、神経変性疾患、自己免疫疾患、シミ、シワ、眼疾患、呼吸器疾患、喘息、炎症、脳梗塞、および心筋梗塞からなる群から選択されるである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
Nrf2の活性化が治療に有効である疾患が、生体異物により引き起こされる疾患である、請求項5〜25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
生体異物により引き起こされる疾患が、呼吸器疾患、肝機能障害、発ガン、および自己免疫疾患からなる群から選択されるである、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
請求項5〜21のいずれか一項に記載の化合物若しくはその薬学上許容される塩またはそれらの溶媒和物の製造方法であって、請求項22〜25のいずれか一項に記載のブナハリタケ子実体の抽出物を精製し、得られた画分についてNrf2活性化能を測定する工程を含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−208038(P2008−208038A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43783(P2007−43783)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】