説明

R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料およびその製造方法

【課題】従来のボンド磁石に比べて高い磁気特性、特に高い角形性を示し、かつ、従来の焼結磁石よりも形状の自由度の高いR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を提供する。
【解決手段】 本発明のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法は、平均粒径20μm未満のR−Fe−B系希土類合金粉末を用意する工程と、前記R−Fe−B系希土類合金粉末を成形して圧粉体を作製する工程と、水素ガス中において前記圧粉体に対し550℃以上650℃未満の温度で熱処理を施し、それによって水素化および不均化反応を起こす工程と、真空または不活性雰囲気中において前記圧粉体に対し550℃以上1000℃未満の温度で熱処理を施し、それによって脱水素および再結合反応を起こす工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDDR法を用いて作製されるR−Fe−B系永久磁石用多孔質磁石材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的なR−Fe−B系希土類磁石(Rは希土類元素、Feは鉄、Bはホウ素)は、三元系正方晶化合物であるR2Fe14B相を主相として含む組織を有し、優れた磁気特性を発揮する。このようなR−Fe−B系希土類磁石は、焼結磁石とボンド磁石に大別される。焼結磁石は、R−Fe−B系磁石合金の微粉末(平均粒径:数μm)をプレス装置で圧縮成形した後、焼結することによって製造される。これに対して、ボンド磁石は、通常R−Fe−B系磁石合金の粉末(粒径:例えば100μm程度)と結合樹脂との混合物(コンパウンド)を圧縮成形したり、射出成形することによって製造される。
【0003】
焼結磁石の場合、比較的粒径の小さい粉末を用いるため、個々の粉末粒子が磁気的異方性を有している。このため、プレス装置で粉末の圧縮成形を行うとき、粉末に対して、配向磁界を印加し、それによって、粉末粒子が磁界の向きに配向した圧粉体を作製する。
【0004】
このようにして得られた圧粉体は、通常1000℃〜1200℃の温度で焼結され、必要に応じて熱処理することにより、永久磁石となる。焼結時の雰囲気としては、希土類元素の酸化を抑制するため、真空雰囲気や不活性雰囲気が主に用いられる。
【0005】
一方、ボンド磁石において、磁気的な異方性を発現するためには、用いる粉末粒子内の硬磁性相の容易磁化軸が一方向に配列していることが必要である。また、実用上必要な保磁力を得るためには、粉末粒子を構成する硬磁性相の結晶粒を単磁区臨界粒径程度まで小さくすることが必要となる。従って、優れた異方性ボンド磁石を作製するためには、これらの条件を両立した希土類合金粉末を得なければならない。
【0006】
異方性ボンド磁石用の希土類合金粉末を製造するため、現在HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)処理法が一般的に採用される。「HDDR」は水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味している。公知のHDDR処理によれば、R−Fe−B系合金のインゴットまたは粉末を、H2ガス雰囲気またはH2ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって上記インゴットまたは粉末に水素を吸蔵させた後、例えばH2圧力が13Pa以下の真空雰囲気、またはH2分圧が13Pa以下の不活性雰囲気になるまで温度500℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却することを特徴としている。
【0007】
上記処理において、典型的には、次のような反応が進行する。すなわち、前記水素吸蔵を起こすための熱処理によって、水素化ならびに再結合反応(双方を合わせて「HD反応」と呼ぶ。反応式の例:Nd2Fe14B+2H2→2NdH2+12Fe+Fe2B)が進行し微細組織が形成される。次いで脱水素処理をおこすための熱処理を行うことにより、脱水素ならびに不均化反応(双方を合わせて「DR反応」と呼ぶ。反応式の例:2NdH2+12Fe+Fe2B→Nd2Fe14B+2H2)が起こり、微細なR2Fe14B結晶相を含む合金が得られる。
【0008】
HDDR処理を施して製造されたR−Fe−B系合金粉末は、大きな保磁力を有し、磁気的な異方性を示している。このような性質を有する理由は、金属組織が実質的に0.1μm〜1μmと非常に微細で、かつ、反応条件や組成を適切に選択することによって、容易磁化軸が一方向にそろった結晶の集合体となるためである。より詳細には、HDDR処理によって得られる極微細結晶の粒径が正方晶R2Fe14B系化合物の単磁区臨界粒径に近いために高い保磁力を発揮する。この正方晶R2Fe14B系化合物の非常に微細な結晶の集合体を「再結晶集合組織」と呼ぶ。HDDR処理を施すことによって、再結合集合組織をもつR−Fe−B系合金粉末を製造する方法は、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0009】
HDDR処理によって作製された磁性粉末(以下、「HDDR粉末」と称する)は、通常、結合樹脂(バインダ)と混合され、混合物(コンパウンド)にされた後、磁界中で圧縮成形や射出成形することによって、異方性ボンド磁石を形成することになる。HDDR粉末は、通常、HDDR処理後に凝集するため、異方性ボンド磁石として用いるために、凝集を解いて粉末として用いられる。例えば、特許文献1では、得られる磁石粉末の粒径の好ましい範囲を、2μm〜500μmとし、実施例1において、平均粒径3.8μmの粉末をHDDR処理して得られた凝集体を乳鉢で解砕して、平均粒径5.8μmとした粉末を得た後、ピスマレイミドトリアジン樹脂と混合して圧縮成形することにより、ボンド磁石を作製している。
【0010】
また、HDDR粉末を配向した後、ホットプレスや熱間静水圧プレス(HIP)などの熱間成形法を用いてバルク化する技術が提案されており、例えば、特許文献3に開示されている。熱間成形法を用いることにより、低温で緻密化することができるため、HDDR粉末が有する再結晶集合組織を保ったままバルク磁石を作製することができる。
【0011】
さらに、HDDR法の特徴を用いたR−Fe−B系永久磁石の製造方法が種々提案されている。例えば、特許文献4では、高周波溶解炉で溶解してできたR−Fe−B系合金を、必要に応じて溶体化処理を行なってから冷却後粉砕し、ジェットミルなどでこれを1〜10μmに粉砕した後、磁界中で成形を行い、その後、1000〜1140℃の高真空中あるいは不活性雰囲気中にて焼結を行なった後、600℃〜1100℃の範囲の水素雰囲気中にて保持し、引き続き高真空中で熱処理を行うことにより、主相が0.01〜1μmに微細化することが開示されている。
【0012】
特許文献5が開示する方法では、まず、均質化処理した合金をジェットミルなどの粉砕機で粉砕して得た10μm未満の微粉体を磁界中で成形し、圧粉体を作製する。その後、圧粉体に対し、水素中で600℃〜1000℃の温度で処理した後、1000℃〜1150℃の温度で処理する。圧粉体に対して行う処理は、HDDR処理に相当するが、DR処理の温度が高い。特許文献5の方法によれば、高温のDR処理により焼結が進行するため、圧粉体がそのまま緻密に焼結される。特許文献5には、高密度の焼結体を形成するため、1000℃以上の温度で焼結を行うことが必要であると記載されている。
【0013】
一方、特許文献6が開示する方法では、まず、水素吸蔵崩壊法により平均粒径50〜500μmに粗粉砕した後、その粗粉砕粉を所定形状に成形(必要に応じて磁界中成形)し、圧粉体を作製する。その後、圧粉体に対して公知のHDDR処理を行い、得られる圧粉体に樹脂含浸または樹脂浸漬を行うことにより、ボンド磁石が製造される。
【0014】
特許文献5、6に開示されている方法では、いずれの場合も、圧粉体に対するHDDR処理を行っている。しかし、特許文献5の方法では、高温焼結による緻密化によって機械的強度を高めるのに対して、特許文献6の方法では、樹脂を用いて機械的強度を高めている。
【特許文献1】特開平1−132106号公報
【特許文献2】特開平2−4901号公報
【特許文献3】特開平4−253304号公報
【特許文献4】特開平4−165012号公報
【特許文献5】特開平6−112027号公報
【特許文献6】特開平9−148163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
R−Fe−B系希土類焼結磁石は、ボンド磁石に比べて優れた磁気特性を得ることができるが、作製可能な形状に制約がある。その理由の一つとして、焼結時における収縮の異方性により、所望の形状を得ることが困難であることが挙げられる。具体的には、配向磁界に平行な方向の収縮率が、配向磁界に垂直な方向の収縮率よりも大きく、その比が2を越える大きな値となる。ここで、「収縮率」は、(「焼結前の寸法」−「焼結後の寸法」)÷「焼結前の寸法」によって規定される。なお、本明細書では、配向磁界に平行な方向を「配向方向」と称し、「配向方向」に垂直な方向を「金型方向」と称することにする。
【0016】
一方、R−Fe−B系ボンド磁石では、磁気特性は焼結磁石より低いものの、焼結磁石で作製困難な形状の磁石を比較的容易に作製することができる。特に異方性磁粉を用いて作製した異方性ボンド磁石は、比較的高い磁気特性が得られるため、モータなどへの応用が期待されている。R−Fe−B系の異方性磁粉は、HDDR法によって得ることができる。HDDR法によって得られた異方性磁粉(HDDR磁粉)の平均粒子径は通常数十μmから〜数百μmの範囲内にあり、結合樹脂と混錬された後、成形される。しかし、HDDR磁粉は成形時に印加される圧力によって割れやすい。その結果、磁気特性が低下し、従来法によって得られるボンド磁石は用いる磁粉の60%程度の(BH)maxしか得られない。
【0017】
さらに、従来のR−Fe−B系異方性ボンド磁石では、減磁曲線(ヒステリシス曲線の第2象限部分)の角型性が悪いという問題もある。これが耐熱性の悪化の一因となっており、R−Fe−B系焼結磁石よりも保磁力HcJを高くしないと、高い耐熱性が得られない。しかし、一方で保磁力HcJを高くすると、着磁特性の悪化を招くため、磁気回路の設計において制約を与えてしまう。
【0018】
特許文献3等に記載されているように、磁界中でHDDR粉末を配向した後、ホットプレスなどの熱間成形法を用いてバルク化する製造方法では、磁石形状が金型形状で決定されるため、焼結磁石で問題となる収縮の異方性の問題は本質的に生じにくい。しかし、熱間成形法は生産性に極めて乏しいため、製造コストの上昇を招き、例えば汎用のモータ用途として利用可能なコストで大量生産するのは困難である。
【0019】
特許文献4の製造方法では、焼結体に対してHDDR処理を施すことにより、主相を微細化する。しかし、HDDR反応ではHD反応やDR反応で体積変化が生じるため、焼結体に対してHDDR処理を行うときに割れが発生しやすく、高い歩留まりで生産できないという問題がある。また、すでに緻密化されたバルク体(焼結体)に対してHDDR処理を行うため、HD反応に必須である水素の拡散経路が限られ、磁石内での組織の不均質性を招いたり、処理に長時間を要したりし、結果的に作製できる磁石の大きさが制約されてしまう。
【0020】
特許文献5には、一般的なR−Fe−B焼結磁石よりも高い磁気特性が得られると記載されているが、一般的な焼結磁石と同様に1000℃以上の高温で焼結が行われるため、収縮の異方性が顕在化する。このため、作製可能な形状に制限が生じる点では、本質的に焼結磁石と同様の問題を有している。さらに、本発明者の検討によれば、DR処理において1000℃以上で焼結を行うと、微細な結晶粒を維持したまま緻密化することが困難であり、むしろ異常粒成長が顕著に起こってしまうため、通常の焼結磁石よりも磁気特性が低下してしまう場合が多い。
【0021】
特許文献6の方法は、従来のR−Fe−B系異方性ボンド磁石の製造方法が有する問題(成形時の磁粉粉砕による磁気特性低下、配向の困難さ)を回避できるという点で注目に値する。しかし、この方法によってHDDR処理後に得られる圧粉体は、崩壊しない程度の強度を有しているのみであり、HDDR処理後のハンドリングが難しい。また、HDDR処理後に結合用樹脂によって機械的強度を高めることが必須である。
【0022】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の主たる目的は、従来のボンド磁石に比べて高い磁気特性、特に高い角形性を示し、かつ、従来の焼結磁石よりも形状の自由度の高いR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法は、平均粒径20μm未満のR−Fe−B系希土類合金粉末(RはYおよびScを含む希土類元素からなる群から選択された少なくとも1種)を用意する工程(A)と、前記R−Fe−B系希土類合金粉末を成形して圧粉体を作製する工程(B)と、水素ガス中において前記圧粉体に対し550℃以上650℃未満の温度で熱処理を施し、それによって水素化および不均化反応を起こす工程(C)と、真空または不活性雰囲気中において前記圧粉体に対し550℃以上1000℃未満の温度で熱処理を施し、それによって脱水素および再結合反応を起こす工程(D)と、を含む。
【0024】
好ましい実施形態において、前記工程(B)は、磁界中で成形を行う工程を含む。
【0025】
好ましい実施形態において、前記R−Fe−B系希土類合金粉末は、10原子%≦R≦30原子%、3原子%≦Q≦15原子%(Rは希土類元素、Qは硼素または硼素と硼素の一部を置換した炭素の総和)の関係を満足する組成を有している。
【0026】
好ましい実施形態において、Fe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属元素をTとした場合、前記工程(C)の開始時において、前記圧粉体中の下記(1)式で示される希土類量R’が、R’≧0原子%となるように希土類元素Rの組成を設定し、かつ、前記工程(A)以後工程(C)開始までの工程の酸素量(O)を制御する。
(1)R’=「Rの原子%」−「Tの原子%」×1/7−「Oの原子%」×2/3
【0027】
好ましい実施形態において、前記R−Fe−B系希土類合金粉末は急冷合金の粉砕粉である。
【0028】
好ましい実施形態において、前記急冷合金がストリップキャスト合金である。
【0029】
好ましい実施形態において、前記工程(C)は、不活性雰囲気または真空中で昇温する工程と、550℃以上650℃未満の温度で水素ガスを導入する工程と、を含む。
【0030】
好ましい実施形態において、前記工程(C)における水素ガスの分圧は、1kPa以上100kPa以下である。
【0031】
本発明のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、上記いずれかに記載された製造方法によって得られたものである。
【0032】
本発明によるR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料の製造方法は、上記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を用意する工程(E)と、湿式処理により、前記R−Fe−B系多孔質材料の細孔内部に前記R−Fe−B系多孔質材料とは異なる材料を導入する工程(F)とを含む。
【0033】
本発明によるR−Fe−B系永久磁石の製造方法は、上記製造方法で得られたR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料を用意する工程と、前記R−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料を更に加熱することによりR−Fe−B系永久磁石を形成する工程とを含む。
【0034】
本発明によるR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料の製造方法は、上記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を用意する工程(E)と、前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の表面および/または細孔内部に、希土類金属、希土類合金、希土類化合物のうち少なくとも1種を導入する工程(F’)とを含む。
【0035】
好ましい実施形態において、前記(F’)工程と同時または前記(F’)工程の後に、前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を加熱する。
【0036】
本発明によるR−Fe−B系永久磁石の製造方法は、上記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料に対して、600℃以上900℃未満の温度で加圧し、前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を真密度の95%以上に高密度化する工程を含む。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、HDDR処理の対象となるR−Fe−B系希土類合金粉末の平均粒径を20μm未満に限定したうえで、そのような粉末の圧粉体を作製した後にHDDR処理を行っている。粉末粒子が相対的に小さいため、HDDR反応の均一性が向上するとともに、HDDR処理後の機械的強度も充分に高くなる。本発明では、HDDR処理後の圧粉体が永久磁石用多孔質材料として充分な強度を持ち、そのままバルク磁石体として利用することが可能になる。このため、HDDR処理後の粉砕・解砕が不要になり、磁石特性を劣化させないため、最終的に従来のボンド磁石よりも優れた磁石特性、特に高い角形性を発揮させることができる。
【0038】
また、HDDR処理によって圧粉体から永久磁石用多孔質材料を形成するときの収縮が等方的であるため、従来の焼結磁石に比べ、形状設計の自由度が向上するという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
従来のHDDR処理は、ボンド磁石用の磁石粉末を製造するために実施されており、比較的大きな平均粒径を有する粉末を処理対象にしていた。これは、平均粒径を低下させると、HDDR処理によって凝集した粉末を解粉し、ばらばらの粉末粒子にすることが困難になるからであった。一方、従来技術について説明したように、圧粉体を形成した後にHDDR処理を行うことも提案されているが、HDDR処理後の圧粉体では、通常の焼結磁石に比べると粒子間の結合強度が低く、そのままではハンドリングさえ困難な脆さを有しており、バルク磁石体としては、到底、使用することができなかった。
【0040】
本発明者は、HDDR処理後の圧粉体の機械的強度を高めるために、特許文献5で採用されていたようなHDDRの処理温度を上昇させるというアプローチを採ることなく、敢えて粉末粒子のサイズを小さくすることにした。その結果、粉末粒子の平均粒径とHDDR処理温度を適切に設定することにより、機械的強度が充分に高い永久磁石用多孔質材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0041】
本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、平均結晶粒径0.01μm以上2μm以下のNd2Fe14B型結晶相の集合組織を有し、少なくとも一部が長径1μm以上20μm以下の細孔を有する多孔質である。本発明の多孔質材料は、その全体が多孔質部分によって占められている必要はない。ここで、「多孔質部分」とは、集合組織と空孔とが混在する部分であり、より詳細には、平均結晶粒径0.01μm以上2μm以下のNd2Fe14B型結晶相の集合組織と、長径1μm以上20μm以下の空孔とが存在する部分である。このような多孔質部分は、多孔質材料全体に対して体積分率で20%以上、好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上の領域を占めていることが好ましい。
【0042】
なお、本明細書における「平均結晶粒径」は、HDDR処理によって得られる集合組織を構成している微細な結晶粒の平均サイズである。2μm以下という平均結晶粒径は、R−Fe−B系焼結磁石の平均結晶粒径(3μm超)よりも小さい。また、本明細書における「長径」とは、前述した「多孔質部分」の細孔を構成する領域の輪郭上における任意の2点を結ぶ直線のうち、最長のものの長さである。多孔質材料全体が多孔質部分によって占められている場合は、多孔質材料の任意の領域、例えば多孔質材料の中央部について細孔の長径を評価すればよい。一方、多孔質材料の一部が非多孔質である場合は、多孔質部分に含まれる領域を選定して細孔の長径を評価すればよい。
【0043】
図1は、後に詳しく説明する実施例における、本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の破断面を示すSEM写真である。図1からわかるように、この多孔質材料内に存在する細孔は、HDDR処理工程で相互に結合した粉末粒子の間に存在する空隙であり、三次元網状に連通している。圧粉体を構成していた個々の粉末粒子は、HDDR処理により、隣接する粉末粒子と結合し、剛性を発揮する三次元構造を形成するとともに、個々の粉末粒子内では、微細なNd2Fe14B型結晶相の集合組織が形成されている。また、細孔に樹脂が充填されておらず、大気と連通した状態にある。
【0044】
本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の密度(磁粉の体積比率)は、従来の圧縮成形によって作製されたR−Fe−B系ボンド磁石の密度と同等かそれ以下、すなわち、3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下であるが、粉末粒子間の隙間が存在した状態でも、粒子どうしが結合し、十分な機械的強度と優れた磁気特性とを発揮する。
【0045】
本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、図2に示すように、R−Fe−B相を有する原料合金を粉砕して平均粒径20μm未満のR−Fe−B系希土類合金粉末を用意する工程S10と、この粉末を圧縮して圧粉体(成形体)を作製する工程S12と、この圧粉体に対してHDDR処理を行う工程S14とを実行することによって製造される。なお、本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、工程S12において磁界を付与し、HDDR処理前の粉末粒子の容易磁化軸を所定方向に配向させておくことにより、HDDR処理で形成する集合組織内の微細なNd2Fe14B型結晶相の容易磁化軸をも磁石全体にわたって所定方向に配向することができる。
【0046】
次に、図3(a)、(b)を参照して、図2の工程S14(HDDR処理)の前後における材料組織の変化を説明する。
【0047】
図3(a)は、工程S12によって得られる圧粉体(成形体)の模式図である。粉末を構成する個々の微粒子が成形により押し固められており、例えば粒子A1と粒子A2とが接触した状態にある。また、圧粉体には空隙Bが存在する。
【0048】
図3(b)は、この圧粉体にHDDR処理(S14)を施した後の材料の模式図である。粒子A1、A2などの粉末粒子は、いずれも、HDDR反応により平均結晶粒径が0.01μm以上2μm以下の微細なNd2Fe14B型結晶相で構成される集合組織を有している。個々の粒子(例えば粒子A1)は、HDDR反応に伴う元素の拡散により、他の粒子(例えば粒子A2)と強固に結合する。図3(b)では、粒子A1、A2の結合部を参照符号「C」で示している。
【0049】
圧粉体の内部に存在した空隙Bは、前述した元素拡散に伴って焼結が進行することにより、図3(b)に示すように小さくなったり、消滅したりする。しかし、HDDR処理によっては完全な緻密化は達成されず、HDDR処理後にも「細孔」として残存する。図3(b)において、細孔の長径は、符号「dpore」で示されている。なお、粉末粒子の平均粒径は、個々の粒子について、細孔に挟まれた部分のサイズdgrainを測定することで評価することができる。焼結の進行具合によっては、図3(b)に示される多孔質部分における粉末粒子の平均粒径を正確に計測することは難しい場合があるが、本発明によれば、多孔質部分の密度は、前述したように3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下の範囲内にあるため、多孔質部分における細孔の長径と材料密度の測定値が上述の範囲に入っているか否かにより、図3(b)の多孔質構造が形成されているか否かを評価することが可能である。なお、後述する異種材料の導入を目的とする場合など、空隙部を積極的に利用する場合には、多孔質部分の密度を6.0g/cm3以下にすることがより好ましく、5.0g/cm3以下にすることがさらに好ましい。本発明では、従来のHDDR磁粉の製造工程で適用される温度より低温でHDDR処理される為、多孔質部分の密度を低くする(細孔を大きくする)ことができ、異種材料の導入に好適に用いられる。
【0050】
なお、図3(b)では、集合組織として、平均結晶粒径が0.01μm以上2μm以下のNd2Fe14B型結晶相のみを描いているが、例えば希土類リッチ相など、別の相を含んでもよい。
【0051】
本発明では、ボンド磁石のように粉末粒子を結合するための樹脂が不要であり、粉末粒子間の空隙が細孔を形成した多孔質の形態で磁石特性を発揮することができる。そのような空隙を有するにもかかわらず、充分な機械的強度が得られる理由は、必ずしも明確にはなっていない。おそらく、圧粉体の形成に使用する粉末粒子が小さいこと、および、HDDR処理中の水素拡散に起因する反応が粒子間の焼結を比較的低い温度で進行させ、粒子間の結合強度向上に寄与していることが理由であると考えられる。
【0052】
従来、圧粉体に対してHDDR処理を施した場合、HDDR処理によって凝集した粉末粒子をばらばらに解砕してからボンド磁石の製造に利用するか、圧粉体に樹脂を含浸して機械的強度を高めていた。その理由は、HDDR処理後における圧粉体の機械的強度が極めて低く、そのままでは、到底、磁石として使用できなかったからである。
【0053】
本発明では、機械的強度の向上により、ハンドリングが容易なだけでなく、より高い寸法精度を得るための機械加工(切削加工や研削加工)を行うことも可能になる。このため、本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、細孔の内部を充填するように樹脂含浸を行う必要がなく、そのまま永久磁石として用いることができる。
【0054】
HDDR処理後における多孔質材料は、大気と連通した多孔質構造(オープンポア構造)を有しているため、孔の内部または表面に異種材料を導入することにより、容易に複合バルク磁石を作製したり、多孔質材料の特性を向上させたりすることができる。
【0055】
得られた多孔質材料をホットプレスなどの方法で熱間加工することにより、多孔質材料の優れた特性を維持しつつ、フルデンスバルク磁石を得ることも可能となる。これら熱間加工は、前述した異種材料を導入した複合材料に適用することにより、例えば硬磁性相と軟磁性相とが静磁気的に結合したコンポジット磁石を得ることができる。
【0056】
本発明によれば、永久磁石用多孔質材料を軟磁性材料の成形体と組み合わせた後、熱間成形を行うことにより、軟磁性のヨークと磁石とが一体化された高性能の複合磁気部品を作製することもできる。
【0057】
[実施形態]
以下、本発明によるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法について、好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0058】
〈出発合金〉
まず、硬磁性相としてR−Fe−B相を有するR−T−Q系合金(出発合金)を用意する。ここで、「R」は、希土類元素であり、Ndおよび/またはPrを50原子%(at%)以上含む。本明細書における希土類元素Rはイットリウム(Y)やスカンジウム(Sc)を含んでもよい。「T」は、Fe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属元素であり、Feを50%以上含む遷移金属元素である。「Q」は、Bまたは、BおよびBの一部をCで置換したものである。
【0059】
このR−T−Q系合金(出発合金)は、Nd2Fe14B型化合物相(以下、「R214Q」と略記する。)を体積比率で50%以上含む。
【0060】
出発合金に含まれる希土類元素Rの大部分は、R214Qを構成しているが、一部は、R23や、その他の相を構成している。希土類元素Rの組成比率は出発合金全体の10原子%以上30原子%以下であることが好ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより好ましい。またRの一部をDyおよび/またはTbとすることで、保磁力の向上を計ることができる。
【0061】
希土類元素Rの組成比率は、後に記載するHD処理開始時の「余剰希土類量R’」が0原子%以上となるように設定されることが好ましく、HD処理開始時のR’が0.1原子%以上となるように設定されることがより好ましく、0.3原子%以上となるように設定されることが更に好ましい。ここで、「余剰希土類量R’」は、以下の式で算出される。
R’=「Rの原子%」−「Tの原子%」×1/7−「Oの原子%」×2/3
【0062】
余剰希土類量R’は、R−T−Q系合金(出発合金)中に含まれる希土類元素Rのうち、R214BおよびR23を構成することなく、R214BおよびR23以外の形態で存在している希土類元素の組成比率を示している。HD処理開始時の余剰希土類量R’が0原子%以上となるように希土類元素Rの組成比率を設定しないと、本発明の方法により、平均結晶粒径が0.01〜2μmの微細結晶を得ることが困難となる。希土類元素Rは後の粉砕工程や成形工程で、雰囲気中に存在する酸素や水分によって酸化されることがある。希土類元素Rの酸化は、余剰希土類量R’の減少を招くことになる。このため、HD処理開始までの工程はできる限り酸素量(O)を抑制した雰囲気で行われるのが好ましいが、雰囲気中の酸素を完全に除去するのは困難であることから、出発合金のRの組成比率は後の工程での酸化によるR’の減少を加味して設定されることが好ましい。
【0063】
R’の上限は、特に制限はないが、耐食性やBrの低下を考慮すると、8原子%以下が好ましく、5原子%以下が更に好ましく、3原子%以下がより好ましく、2.5原子%以下が更に好ましい。R’が8原子%以下であり、かつ、希土類元素Rの組成比率が30原子%を越えないことが好ましい。
【0064】
HD処理開始時の圧粉体中の酸素量(O)は1質量%以下に抑制することが好ましく、0.6質量%以下に抑制することがより好ましい。
【0065】
Qの組成比率は、合金全体の3原子%以上、15原子%以下が好ましく、5原子%以上、8原子%以下がより好ましく、5.5原子%以上7.5原子%以下がさらに好ましい。
【0066】
Tは残余を占める。前述したとおり、Tは、Fe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属元素であり、Feを50%以上含む遷移金属元素である。Tの一部をCoおよび/またはNiとする場合には、NiよりもCoを選定することが望ましい。また、合金全体に対するCoの総量は、コストなどの観点から、20原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがさらに好ましい。Coを全く含有しない場合でも高い磁気特性は得られるが、0.5原子%以上のCoを含有すると、より安定した磁気特性を得ることができる。
【0067】
磁気特性向上などの効果を得るため、Al、Ti、V、Cr、Ga、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Cu、Ag、Bi、Si、Zrなどの元素を適宜添加してもよい。ただし、添加量の増加は、特に飽和磁化の低下を招くため、総量で10原子%以下とすることが好ましい。
【0068】
従来のHDDR磁石粉末の製造方法や、特許文献6に記載されている製造方法では、HDDR処理の対象となる磁石粉末の平均粒子径は30μm以上、典型的には50μm以上である。HDDR処理後に磁石粉末の各粒子が優れた磁気的異方性を示すためには、原料粉末の各粒子の中で容易磁化軸が一方向にそろっている必要がある。このため、粉砕する前の段階にある出発合金は、R214Qの結晶方位が同一方向に揃った領域の平均サイズが粉砕後の粉末粒子の平均粒径よりも大きくなるように作製されていた。
【0069】
その結果、従来のHDDR磁石粉末の製造方法や特許文献6記載の方法では、ブックモールド法や遠心鋳造法などの方法を用いて原料合金を製造し、さらに均質化熱処理などの熱処理を施すことにより、結晶相を成長させていた。
【0070】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、ブックモールド法や遠心鋳造法によってR214Qの結晶粒径を粗大化させた原料合金では、鋳造の初晶であるα−Feを完全除去することが困難であり、原料合金中に残存するα−FeがHDDR処理後の磁気特性に悪い影響を与えることがわかった。
【0071】
本発明の製造方法では、平均粒径20μm未満の粉末を用いるため、原料合金中のR214Qの結晶方位が同一方向に揃った領域のサイズを従来のHDDR磁石粉末の製造方法の場合のように大きくする必要がない。そのため、ストリップキャスト法によって合金溶湯を急冷し、凝固させた合金(ストリップキャスト合金)を用いても、HDDR処理後に高い異方性を得ることができる。また、このような急冷合金を粉砕して粉末化することにより、従来のブックモールド法などによる原料合金(出発合金)に比べて、α−Fe量を低減できるため、HDDR処理後の磁気特性悪化を抑制し、良好な角形性を得ることが可能となる。
【0072】
なお、ストリップキャスト法以外の急冷法(たとえばアトマイズ法)やブックモールド法、遠心鋳造法などによって作製した原料合金を用いても本発明の多孔質材料を作製することが可能である。また、原料合金における組織均質化などを目的として、粉砕前の原料合金に対して熱処理を施してもよい。このような熱処理は、真空または不活性雰囲気において、典型的には1000℃以上の温度で実行され得る。
【0073】
〈原料粉末〉
次に、原料合金(出発合金)を公知の方法で粉砕することにより原料粉末を作製する。本実施形態では、まず、ジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて出発合金を粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度に粗粉砕粉を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、典型的には平均粒径が20μm未満の原料粉末を作製する。
【0074】
十分な機械強度を有する多孔質バルク材料を得るためには、原料粉末の平均粒径を最適化することが有効であるが、合金組成(特に希土類量Rや余剰希土類量R’)やHDDR条件(特にHDDR温度)を調整することも有効である。
【0075】
取扱いの観点から、原料粉末の平均粒径は1μm以上であることが好ましい。平均粒径が1μm未満になると、原料粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まるからである。取り扱いをより容易にするためには、平均粒径を3μm以上に設定することが好ましい。成形体の機械的強度向上という観点から、平均粒径の好ましい上限は9μmであり、更に好ましい上限は8μmである。
【0076】
従来のHDDR磁石粉末の平均粒径は、20μmを超え、通常は50〜500μm程度であった。本発明者らの検討によると、このように大きな平均粒径を有する原料粉末に対してHDDR処理を行った場合、十分な磁気特性(特に高い保磁力や減磁曲線の角型性)が得られなかったり、磁気特性が極端に低くなったりする場合がある。磁気特性劣化の原因は、HDDR処理中(特にHD反応過程)における反応の不均質化に起因するが、粉末粒子のサイズが大きくなるほど、反応は不均質化しやすくなる。HDDRの反応が不均質に進行すると、粉末粒子の内部において組織や結晶粒径の不均質化が生じたり、未反応部分が生じたりし、その結果として磁気特性が劣化することになる。
【0077】
HDDR反応を均一に進行させるには、HDDR反応に要する時間を短縮することが有効であるが、水素圧力を調整するなどして反応速度を高めると、今度は、結晶配向度が低下してしまう。結晶配向度が低下すると、磁石粉末の異方性が低下し、結果的に高い角型性が得られなくなる。
【0078】
本発明では、原料粉末を圧縮して形成した圧粉体に対してHDDR処理を行うが、圧粉体の内部には、水素ガスが移動・拡散可能な隙間が粉末粒子の間に充分な大きさで存在している。また、本発明では、平均粒径が典型的には1μm以上20μm未満の原料粉末を使用しているため、水素が粉末粒子内部まで反応しながら拡散していくことが容易であり、HD反応およびDR反応を短時間で進行させることができる。こうして、HDDR後の組織が均質化されるため、高い磁気特性、特に良好な角形性が得られるとともに、HDDR工程に要する時間を短縮できるという利点が得られる。さらに従来のHDDR磁粉の製造方法では反応が充分進まなかった低温でHDDR処理を行うことができる。
【0079】
〈圧粉体の成形〉
次に、上記の原料粉末を用いて圧粉体を成形する。圧粉体を成形する工程は、10MPa〜200MPaの圧力を印加し、0.5T〜20Tの磁界中(静磁界、パルス磁界など)で行うことが望ましい。磁界中で行うことによって、HDDR処理前の粉末粒子の容易磁化軸を所定方向に配向させておくことにより、HDDR処理で形成する集合組織内の微細なNd2Fe14B型結晶相の容易磁化軸をも磁石全体にわたって所定方向に配向することができる。成形は、公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出したときの圧粉体密度(成形体密度)は、3.5g/cm3〜5.2g/cm3程度である。
【0080】
上記の成形工程は、磁界を印加することなく実行してもよい。磁界配向を行わない場合、最終的には等方性の多孔質材料が得られることになる。しかし、より高い磁気特性を得るためには、磁界配向を行いながら成形工程を実行し、最終的に異方性の多孔質材料を得ることが好ましい。
【0081】
以上の出発合金の粉砕工程および原料粉末の成形工程は、上述の通り、HD処理直前の圧粉体中の余剰希土類量R’が0原子%を下回ってしまわないようにするため、希土類元素の酸化を抑制しながら行うことが好ましい。原料粉末の酸化を抑制するには、各工程および各工程間のハンドリングをできる限り酸素量を抑制した不活性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、R’が所定値以上の市販の粉末を購入し、その後の各工程および各工程間のハンドリングの雰囲気を制御して使用してもよい。
【0082】
また、磁気特性の向上などを目的として、出発合金の粉砕工程の前に、別の合金を混合したものを微粉砕し、微粉砕後に圧粉体を成形してもよい。あるいは、出発合金を微粉砕した後に、別の金属、合金および/または化合物の粉末を混合し、それらの圧粉体を作製してもよい。さらには、別の金属、合金および/または化合物を分散または溶解させた液を圧粉体に含浸させ、その後、溶媒を蒸発させてもよい。これらの方法を適用する場合の合金粉末の組成は、混合粉全体として前述の範囲内に入ることが望ましい。
【0083】
〈HDDR処理〉
次に、上記成形工程によって得られた圧粉体(成形体)に対し、HDDR処理を施す。
【0084】
本実施形態では、成形時に原料粉末の粒子に割れが生じても、その後にHDDR反応を行うため、磁気特性に影響を与えない。
【0085】
HDDR処理の条件は、合金組成や、添加元素の種類・量などによって適宜選定され、従来のHDDR法における処理条件を参考にして決定することができる。本実施形態では、平均粒径1〜20μmの比較的微細な粉末粒子の圧粉体を使用するため、従来のHDDR磁粉の製造方法では反応が充分進まなかった低温でHDDR反応を完了させることができる。
【0086】
HD反応のための昇温工程は、水素分圧1kPa以上500kPa以下の水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガス(ArやHeなど)の混合雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空中のいずれかで行う。昇温工程を不活性ガス雰囲気または真空中で行うと、以下のような効果を得ることができる。
(1)昇温過程での水素吸蔵に伴う圧粉体崩壊の抑制
(2)昇温時の反応速度制御の困難性に起因する磁気特性低下の抑制
(3)昇温により低融点の希土類合金および/または希土類化合物が融解して圧粉体の収縮を進行させ、高い強度の永久磁石用多孔質材料を得ることができる。
【0087】
HD処理は、水素分圧1kPa以上500kPa以下の水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガス(ArやHeなど)の混合雰囲気で、550℃以上650℃未満で行う。HD処理時の水素分圧は1kPa以上200kPa以下がより好ましい。さらに反応速度を制御し、HDDR処理による異方性の低下を抑制するためには10kPa以上100kPa以下がより好ましい。本実施形態では、従来のHDDR磁粉の製造方法では反応が充分進まなかった低温でHDDR反応を完了させることができる。処理温度は600℃以上650℃未満であることがより好ましい。HD処理に要する時間は、5分以上10時間以下であり、典型的には10分以上5時間以下の範囲に設定される。
【0088】
なお、R−T−Q系合金中のTについて、Co量が合金全体の組成に対し、3原子%以下の場合は、昇温および/またはHD処理時の水素分圧を5kPa以上100kPa以下、より好ましくは、10kPa以上50kPa以下とすることで、HDDR処理における異方性の低下を抑制できる。また、HD反応を適正化して高い特性を得るために、HD処理時の水素分圧を段階的に変える等の条件を採用できることは言うまでもない。
【0089】
HD処理のあと、DR処理を行う。HD処理とDR処理は同一の装置内で連続的に行うこともできるが、別々の装置を用いて不連続的に行うこともできる。
【0090】
DR処理は、真空または不活性ガス雰囲気下において550℃以上1000℃未満で行うが、DR処理後の残存水素を低減し、高い磁気特性を得るため、650℃以上1000℃以下で行うことがより好ましい。処理時間は、通常、5分以上10時間以下であり、典型的には10分以上、5時間以下の範囲に設定される。なお、雰囲気を段階的に制御する(例えば水素分圧を段階的に下げたり、減圧圧力を段階的に下げたりする)ことができることは言うまでもない。
【0091】
上述したHD反応前の昇温工程を含むHDDR工程の全般を通じて焼結反応が起こる。このため、圧粉体は長径1μm以上20μm以下の細孔を有する多孔質の焼結材料となる。このときに生じる焼結のメカニズムは、通常のR−Fe−B系焼結磁石を製造するときに行う焼結のメカニズムとは異なるはずであるが、その詳細は現時点では明らかではない。
【0092】
HDDR工程で生じる焼結反応により、圧粉体は収縮率((HDDR処理前の成形体寸法−HDDR処理後の成形体寸法)/HDDR処理前の成形体寸法×100)で2%〜10%程度収縮するが、その収縮の異方性は小さい。本実施形態では、収縮比(磁界方向の収縮率/金型方向の収縮率)が1.1〜1.6程度である。このため、従来の焼結磁石(典型的な収縮比は2以上)では作製が困難であった種々の形状を有する多孔質材料を製造することが可能となる。
【0093】
なお、HDDR処理全体が酸素量を低減した雰囲気で行われるため、前述したHD処理直前の余剰希土類量R’は、DR処理直後のR’とほぼ同等もしくはそれ以上となる。従って、DR処理直後のR’を測定することにより、HD処理直前におけるR’の値が所望の値以上であることを確認することが可能である。ただし、HDDR処理時の雰囲気に含まれる極微量の酸素や水分により、多孔質材料の表層が酸化されて黒変していることがあるため、DR処理直後のR’は、酸化した表層を取り除いた後に測定することが好ましい。
【0094】
本実施形態では、成形工程後に圧粉体(成形体)に対してHDDR処理を施すため、HDDR処理後には粉末成形を行わない。このため、成形のための加圧によって磁粉が粉砕されるようなことがHDDR処理後に生じず、HDDR粉末を圧縮するボンド磁石に比べて高い磁気特性を得ることができる。こうして、本実施形態によれば、減磁曲線の角型性が向上するため、着磁性と耐熱性とを両立させることが可能になる。
【0095】
さらに、本実施形態によれば、従来のHDDR粉末を用いて製造される異方性ボンド磁石が有する配向や残磁の問題も解消され、ラジアル異方性や極異方性を付与することもできる。また、熱間成形法が本質的に有する生産性が低いという問題もない。
【0096】
また本実施形態によれば、HDDR反応を進行させながら圧粉体の密度を向上させてゆくため、HD反応やDR反応による体積変化に起因する多孔質材料の割れなどの問題を回避することもできる。さらに、圧粉体の表面および内部でほぼ同時にHDDR反応が進行していくため、大型の多孔質材料を容易に作製することができる。
【0097】
<多孔質材料の加熱圧縮処理>
上記の方法によって得られた多孔質材料は、そのままの状態でバルク永久磁石として利用することができるが、さらにホットプレス法などの加熱圧縮処理を用いることによって、緻密化を行い、フルデンス磁石を得ることもできる。以下に加熱圧縮処理によるフルデンス化について、具体的な実施形態の一例を示す。多孔質材料に対する加熱圧縮は、公知の加熱圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS(spark plasma sintering)、HIP、熱間圧延などの加熱圧縮処理を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられ得る。本実施形態では以下の手順でホットプレスを行う。
【0098】
本実施形態では、図4に示す構成を有するホットプレス装置を用いる。この装置は、中央に開口部を有する金型(ダイ)27と、多孔質材料を加圧するための上パンチ28aおよび下パンチ28bと、これらのパンチ28a、28bを昇降する駆動部30a、30bとを備えている。
【0099】
上述した方法によって作製した多孔質材料(図4では参照符号「10」を付している)を、図4に示す金型27に装填する。このとき、磁界方向(配向方向)とプレス方向とが一致するように装填を行うことが好ましい。金型27およびパンチ28a、28bは、使用する雰囲気ガス中で加熱温度および印加圧力に耐えうる材料から形成される。このような材料としては、カーボンやタングステンカーバイドなどの超硬合金が好ましい。なお、多孔質材料10の外形寸法は金型27の開口部寸法よりも小さく設定しておくことにより、異方性を高められる。次に、多孔質材料10を装填した金型27をホットプレス装置にセットする。ホットプレス装置は、不活性ガス雰囲気または10-1Torr以上 の真空に制御することが可能なチャンバ26を備えていることが好ましい。チャンバ26内には、例えば抵抗加熱によるカーボンヒーターなどの加熱装置と、試料を加圧して圧縮するためのシリンダーとが備え付けられている。
【0100】
チャンバ26内を真空または不活性ガス雰囲気で満たした後、加熱装置により金型27を加熱し、金型27に装填された多孔質材料10の温度を600℃〜900℃に高める。このとき、0.1〜3.0ton/cm2の圧力Pで多孔質材料10を加圧する。永久磁石用多孔質材料10に対する加圧は、金型27の温度が設定レベルに到達してから開始することが好ましい。加圧しながら600〜900℃の温度で10分以上保持した後、冷却する。加熱圧縮によりフルデンス化され得られた磁石が大気と接触して酸化しない程度の低い温度(100℃以下程度)まで冷却が進んだ後、本実施形態の磁石をチャンバから取り出す。こうして、上記の多孔質材料から本実施形態のR−Fe−B系磁石を得ることができる。
【0101】
こうして得られた磁石の密度は真密度の95%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織において、個々の結晶粒の最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。この点において、本実施形態の磁石は、たとえば特開平02−39503号公報などに記載の従来の熱間塑性加工による異方性バルク磁石と大きく異なっている。このような磁石の結晶組織においては、最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2を超えた扁平な結晶粒が支配的である。
【0102】
なお、このような加熱圧縮処理は本実施形態に用いた多孔質材料だけでなく、後述する、細孔内に異種材料を導入した多孔質材料にも同様に適用することができる。
【0103】
<多孔質材料への異種材料の導入>
前述した方法によって得られるR−Fe−B系多孔質材料の細孔は内部まで大気と連通しており、その孔の内部に異種材料を導入することができる。導入の方法としては、乾式処理や湿式処理が用いられる。また、異種材料の例としては、希土類金属、希土類合金および/または希土類化合物、鉄やその合金などが挙げられる。以下にそれらの具体的な実施形態の一例を示す。
【0104】
(1) 湿式処理による異種材料の導入
R−Fe−B系多孔質材料に施す湿式処理は、電解めっき処理、無電解めっき処理、化成処理、アルコール還元法、金属カルボニル分解法、ゾルゲル法などの方法を用いて行うことができる。このような方法によれば、化学反応により、細孔内部の多孔質材料表面に被膜や微粒子の層を形成することができる。また、有機溶媒に微粒子を分散させたコロイド溶液を用意し、R−Fe−B系多孔質材料の孔部に含浸させる方法を用いても、本発明における湿式処理を行うことができる。この場合は、多孔質材料の細孔中に導入したコロイド溶液の有機溶媒を蒸発させることにより、コロイド溶液中に分散していた微粒子の層で細孔を被覆することが可能である。これらの方法により湿式処理を行うとき、化学反応を促進したり、微粒子を多孔質材料の内部にまで確実に含浸させるため、付加的に加熱処理や超音波の印加を行ってもよい。
【0105】
以下、コロイド溶液を用いて行う湿式処理を詳細に説明する。
【0106】
コロイド溶液中に分散させる微粒子は、例えばプラズマCVD法などの気相法、ゾルゲル法などの液相法などの公知の方法によって作製され得る。液相法を採用して微粒子を作製する場合、その溶媒は、コロイド溶液の溶媒と同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0107】
微粒子の平均粒子径は100nm以下であることが好ましい。平均粒径が100nmを超えて大きくなりすぎると、R−Fe−B系多孔質材料の内部までコロイド溶液を浸透させることが困難になるからである。微粒子の粒径の下限は、コロイド溶液が安定であるかぎり、特に限定されない。一般に、微粒子の粒径が5nm未満になると、コロイド溶液の安定性が低下することが多いため、微粒子の粒径は5nm以上であることが好ましい。
【0108】
微粒子を分散させる溶媒は、微粒子の粒径、化学的性質などによって適宜選定されるが、R−Fe−B系多孔質材料の耐食性が高くないため、非水系の溶媒を用いることが好ましい。微粒子の凝集を防ぐために、界面活性剤などの分散剤をコロイド溶液に含有させても良い。
【0109】
コロイド溶液中における微粒子の濃度は、微粒子の粒径、化学的性質、溶媒や分散剤の種類などによって適宜選定されるが、例えば1質量%から50質量%程度までの範囲内に設定される。
【0110】
このようなコロイド溶液に希土類多孔質材料を浸漬すると、毛細管現象により、希土類多孔質材料の内部の細孔までコロイド溶液が浸透する。なお、多孔質材料内部へのコロイド溶液の浸透(含浸)をより確実に行うためには、多孔質材料内部の細孔に存在していた空気を除去することが有用であるため、含浸処理は一旦減圧または真空雰囲気とした後、常圧に復圧、または加圧して行うことが有効である。
【0111】
含浸処理を行う前の多孔質材料は、研削加工などの加工屑が多孔質材料の表面における細孔を塞いでいる可能性があり、確実な含浸が妨げられる場合がある。このため、含浸の前に、超音波洗浄などにより、多孔質材料の表面を清浄化しておくことが好ましい。
【0112】
多孔質材料に含浸処理を行なった後、コロイド溶液中の溶媒を蒸発させる。溶媒の蒸発は、溶媒の種類によって異なり、室温大気中で十分に蒸発する場合もあるが、必要に応じて加熱および/または減圧を行うことにより、蒸発を促進させることが好ましい。
【0113】
湿式処理によって導入される材料は、細孔の全体を埋めている必要はなく、細孔表面上に存在していればよいが、少なくとも細孔表面を被覆していることが好ましい。なお、これらの一連の作業、特に乾燥作業は、表面積が大きい多孔質材料の酸化を避けるため、可能な限りアルゴンなどの不活性ガス雰囲気(または、可能であれば真空中)で行うことが好ましい。
【0114】
また、R−Fe−B系多孔質材料とは異なる材料として、アクリルやウレタンなどの樹脂を用い、該樹脂を含浸後、加熱などの方法で樹脂を硬化させることにより、永久磁石用多孔質材料としての耐環境性を向上することができる。
【0115】
湿式処理によって、R−Fe−B系多孔質材料とは異なる材料が細孔内部に導入されたR−Fe−B系多孔質材料に対しては、特性の改善などを目的としてさらに加熱処理を実施しても良い。加熱処理の温度は、加熱の目的に応じて適宜設定される。ただし、加熱温度が1000℃以上になると、R−Fe−B系多孔質材料中の集合組織が粗大化し、磁気特性の低下を招くため、加熱温度は1000℃未満とすることが好ましい。加熱雰囲気は、R−Fe−B系多孔質材料の酸化や窒化による磁気特性の低下を抑制するという観点から、真空中やArなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0116】
なお、R−Fe−B系多孔質材料と、それと異なる材料の組み合わせによっては、R−Fe−B系多孔質材料が固有保磁力(HcJ)を有さない場合があり、その場合は、本工程や加熱圧縮処理により、400kA/m以上の固有保磁力(HcJ)を発現し得る永久磁石材料を作製することができる。
【0117】
HD処理とDR処理とを必ずしも連続して実行する必要はない。さらに、HD処理後の圧粉体に対して、異種材料として金属、合金および/または化合物を上記と同様の方法で導入し、その後に、DR処理を行っても構わない。この場合、HD処理後の圧粉体は粒子同士の拡散接合が進展しており、HD処理前の圧粉体よりもハンドリング性が向上しているため、容易に金属、合金および/または化合物を導入することができる。
【0118】
また、湿式処理後における多孔質材料(複合バルク材料)に対して、前述した加熱圧縮処理を適用すると、真密度の95%以上に緻密化した複合バルク磁石を得ることができる。
【0119】
以上、湿式処理によって異種材料を導入する方法について述べたが、異種材料として希土類元素を導入する場合には、以下に説明する方法を好適に採用できる。
【0120】
(2)希土類元素の導入
R−Fe−B系多孔質材料の表面および/または細孔内部に導入する希土類金属、希土類合金、希土類化合物は、少なくとも1種類の希土類元素を含んでいれば特段限定されることはない。本発明の効果を有効に発揮させるためには、Nd、Pr、Dy、Tbのうち少なくとも1種またはそれ以上を含むことが望ましい。
【0121】
希土類金属、希土類合金、希土類化合物のうちの少なくとも1種をR−Fe−B系多孔質材料の表面および/または細孔内部に導入する方法には、種々の方法があり、本発明では特に特定の方法に限定されない。使用可能な導入方法は、乾式処理と湿式処理に大別される。以下、それぞれの方法について具体的に記載する。
【0122】
(A)乾式処理
乾式処理としては、公知のスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティングなどの物理蒸着法を用いることができる。また、希土類金属、希土類合金、希土類化合物(水素化物など)の少なくとも一種の粉末をR−Fe−B系多孔質材料と混合し、加熱することにより、希土類元素をR−Fe−B系多孔質材料中に拡散させてもよい。また、PCT/JP2007/53892号に記載されているように、希土類含有物から希土類元素を気化・蒸着させつつ、R−Fe−B系多孔質材料中に拡散する方法(蒸着拡散法)を用いても良い。
【0123】
乾式処理時における多孔質材料の温度は、室温でもよいし、加熱によって昇温されていてもよい。ただし、温度が1000℃以上になると、R−Fe−B系多孔質材料中の集合組織が粗大化し、磁気特性の低下を招くため、乾式処理中における多孔質材料の温度は1000℃未満に設定することが好ましい。乾式処理時の温度および時間を適切に調整することにより、集合組織の粗大化を抑制することができる。このような熱処理の条件によっては多孔質材料の緻密化が進行し得るが、集合組織の粗大化を抑制するように熱処理を行うと、多孔質材料には細孔が残存する。このため、充分にフルデンス化するためには、多孔質材料を加圧しながら熱処理することが必要になる。
【0124】
乾式処理時の雰囲気は、適用するプロセスによって適宜選定される。雰囲気中に酸素や窒素が存在すると、処理中の酸化や窒化によって磁気特性劣化を招来する可能性があるため、真空や不活性雰囲気(アルゴンなど)中で処理することが好ましい。
【0125】
(B)湿式処理
湿式処理としても、前述した公知の方法を適宜用いて行うことができる。特に、有機溶媒に微粒子を分散させた液(以下、「処理液」と称する。)を用意し、R−Fe−B系多孔質材料の孔部に含浸させる方法を好適に採用できる。この場合は、多孔質材料の細孔中に導入したコロイド溶液の有機溶媒を蒸発させることにより、処理液中に分散していた微粒子の層で細孔を被覆することが可能である。これらの方法により湿式処理を行うとき、化学反応を促進したり、微粒子を多孔質材料の内部にまで確実に含浸させるため、付加的に加熱処理や超音波の印加を行ってもよい。
【0126】
処理液中に分散させる微粒子は、例えばプラズマCVD法などの気相法、ゾルゲル法などの液相法などの公知の方法によって作製される。液相法を採用して微粒子を作製する場合、その溶媒(分散媒)は、処理液の溶媒と同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0127】
処理液中に分散させる微粒子は、希土類の酸化物、フッ化物、酸フッ化物の少なくとも1種を含むことが好ましい。特に、フッ化物や酸フッ化物を用いると、後述する加熱処理などによって、多孔質材料を構成する結晶粒の粒界に希土類元素を効率的に拡散させることができ、本発明の効果が大きい。
【0128】
微粒子の平均粒子径は1μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μmを超えて大きくなりすぎると、処理液への微粒子の分散が困難になったり、R−Fe−B系多孔質材料の内部まで処理液を浸透させることが困難になるからである。平均粒子径は、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm(100nm)以下がさらに好ましい。微粒子の粒径の下限は、処理液が安定であるかぎり、特に限定されない。一般に、微粒子の粒径が1nm未満になると、処理液の安定性が低下することが多いため、微粒子の粒径は1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。
【0129】
微粒子を分散させる溶媒(分散媒)は、微粒子の粒径、化学的性質などによって適宜選定されるが、R−Fe−B系多孔質材料の耐食性が高くないため、非水系の溶媒を用いることが好ましい。微粒子の凝集を防ぐために、界面活性剤などの分散剤を処理液に含有させたり、あらかじめ微粒子を表面処理しても良い。
【0130】
処理液中における微粒子の濃度は、微粒子の粒径、化学的性質、溶媒や分散剤の種類などによって適宜選定されるが、例えば1質量%から50質量%程度までの範囲内に設定される。
【0131】
このような処理液に希土類多孔質材料を浸漬すると、毛細管現象により、希土類多孔質材料の内部の細孔まで処理液が浸透する。なお、多孔質材料内部への処理液の浸透(含浸)をより確実に行うためには、多孔質材料内部の細孔に存在していた空気を除去することが有用であるため、含浸処理は一時的に減圧または真空雰囲気とした後、常圧または加圧して行うことが有効である。
【0132】
含浸処理を行う前の多孔質材料は、研削加工などの加工屑が多孔質材料の表面における細孔を塞いでいる可能性があり、確実な含浸が妨げられる場合がある。このため、含浸の前に、超音波洗浄などにより、多孔質材料の表面を清浄化しておくことが好ましい。
【0133】
多孔質材料に含浸処理を行なった後、処理液中の溶媒(分散媒)を蒸発させる。溶媒の蒸発は、溶媒の種類によって異なり、室温大気中で十分に蒸発する場合もあるが、必要に応じて加熱および/または減圧を行うことにより、蒸発を促進させることが好ましい。
【0134】
湿式処理によって導入される材料は、細孔の全体を埋めている必要はなく、細孔表面上に存在していればよいが、少なくとも細孔表面を被覆していることが好ましい。
【0135】
上記の方法によって、表面および/または細孔内部に希土類元素が導入されたR−Fe−B系多孔質材料に対して、特性の改善、特に保磁力の向上を目的として、さらに加熱処理を実施しても良い。加熱処理の温度は、加熱の目的に応じて適宜設定される。ただし、加熱温度が1000℃以上になると、R−Fe−B系多孔質材料中の集合組織が粗大化し、磁気特性の低下を招くため、加熱温度は1000℃未満とすることが好ましい。加熱雰囲気は、R−Fe−B系多孔質材料の酸化や窒化による磁気特性の低下を抑制するという観点から、真空中やArなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0136】
なお、R−Fe−B系多孔質材料と、希土類金属、希土類合金、および/または希土類化合物の組み合わせによっては、上記の処理のみでは、R−Fe−B系多孔質材料が固有保磁力(HcJ)を有さない場合があり、その場合は、本工程や後述する加熱圧縮処理によって、高い固有保磁力(HcJ)を発現しうる永久磁石材料とすることもできる。
【0137】
以上、乾式処理や湿式処理による希土類元素の導入は、HD処理とDR処理を必ずしも連続して実行する必要はない。さらに、HD処理後の圧粉体に対して、希土類元素を上記と同様の方法で導入し、その後に、DR処理を行っても構わない。この場合、HD処理後の圧粉体は粒子同士の拡散接合が進展しており、HD処理前の圧粉体よりもハンドリング性が向上しているため、容易に金属、合金および/または化合物を導入することができる。
【0138】
また、希土類導入処理後における多孔質材料(複合バルク材料)に対して、前述した加熱圧縮処理を適用すると、真密度の95%以上に緻密化した複合バルク磁石を得ることができる。
【0139】
最終的には、本発明の効果の一つである、高い固有保磁力を発現するための着磁工程を行うが、着磁工程を行なうタイミングは、湿式処理の後であることが好ましい。加熱圧縮処理を行う場合は、その処理の後に行うことが好ましい。
【0140】
なお、上述の方法によって得られた永久磁石用多孔質材料やフルデンス磁石、コンポジット磁石などを粉砕し、粉末化した後、ボンド磁石などの原料粉末として利用することも可能である。
【0141】
<多孔質材料を用いた複合部品>
本発明によって得られた多孔質材料を用いることで、種々の複合部品を作成することができる。応用例の一つとして、多孔質材料と粉末状態の軟磁性材料粉末または軟磁性材料粉末の仮成形体とを熱間プレス成形(加熱圧縮)することによって、希土類磁石成形体と軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された成形部品を得る方法について、具体的な実施形態を示す。
【0142】
本実施形態では、上述の方法により、図5(a)に示す形状の多孔質材料12a’、12b’を用意する一方で、別途、軟磁性材料粉末(例えば、鉄粉末などの軟磁性金属粉末)をプレス成形することにより、図5(b)に示す軟磁性材料粉末の仮成形体22’を作製する。この工程は、公知のプレス成形方法で行うことができる。好ましい圧力は、300MPa以上1GPa以下である。このとき、軟磁性材料粉末の仮成形体22’の密度(かさ密度)は、真密度の約70%以上約90%以下の範囲にあることが好ましく、約75%以上約80%以下がさらに好ましい。圧力が上記の範囲よりも低いと、熱間プレスによる一体化工程における変形量(収縮量)が過大となり、磁石部品および軟磁性部品の相対位置にずれが生じるので、高い寸法精度で磁気回路部品を成形するのが困難となることがある。一方、圧力が上記の範囲よりも高いと、後の一体化工程において十分な接合強度が得られないおそれがある。また、成形温度は、約15℃以上約40℃以下であることが好ましく、特に加熱や冷却をする必要は無い。雰囲気は、希土類磁石粉末の酸化を防止するために、不活性ガス(希ガスおよび窒素を含む)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0143】
なお、本発明の製造方法によれば、一体化工程における変形量(体積変化率)は30%以下となり、高い寸法精度で磁気回路部品を製造することができる。 上述のように、複数の多孔質材料12a’、12b’と軟磁性材料粉末の仮成形体22’を準備した後、図5(c)に示すように、多孔質材料12a’、12b’と軟磁性材料粉末の仮成形体22’とを金型内でセットし、熱間プレス成形する。この熱間プレスにより、多孔質材料12a’、12b’は圧縮され、密度の向上した磁石成形体12a,12bに変化する。こうして、図6に示す、複数の磁石成形体12a、12bと軟磁性材料粉末の成形体22とが一体化された回転子(磁気回路部品)100を得る。
【0144】
上記の熱間プレス成形における好ましい圧力は、20MPa以上500MPa以下である。圧力が上記の範囲よりも低いと、磁石部品と軟磁性材料粉末の成形体との接合強度が十分に得られないおそれがある。圧力が上記の範囲よりも高いと、熱間プレス工程でプレス装置自体が変形してしまうおそれがあり、これを防止するために大型の装置を必要とするなど、製造コストの増大を招くことがある。成形温度は、400℃以上1000℃未満であることが好ましく、600℃以上900℃以下であることがより好ましく、700℃以上800℃以下であることが最も好ましい。成形温度が400℃よりも低いと、磁石成形体および軟磁性材料粉末の成形体が十分に緻密化されないことがある。また、成形温度が1000℃以上になると、結晶粒が粗大化し、多孔質材料が有している磁気特性をかえって低下させるおそれがある。また、上記温度および圧力に保持する時間(以下、「成形時間」という。)は、10秒以上1時間以下であることが好ましく、生産性の観点から1分以上10分以下の短時間であることがさらに好ましい。もちろん、成形時間は、成形温度および成形圧力との関係で適宜設定されるものであるが、成形時間が10秒よりも短いと成形体を十分に緻密化できないおそれがあり、また1時間よりも長いと、結晶粒の粗大化によって磁気特性が低下するおそれがある。また、熱間プレス工程は、多孔質材料の酸化を防止するために、不活性ガス(希ガスおよび窒素を含む)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0145】
このようにして得られる回転子100における磁石成形体12a、12bの密度は真密度の約95%以上であり、軟磁性材料粉末の成形体22の密度は真密度の約95%以上である。 ここでは、多孔質材料12a’、12b’と別に、軟磁性材料粉末の仮成形体22’を予め成形し、これを熱間プレス形成することによって一体化する例を説明したが、軟磁性材料粉末の仮成形体22’を予め形成することなく、多孔質材料12a’、12b’と粉末状態のままの軟磁性材料粉末とを熱間プレス成形することによって、一体化することも出来る。但し、高い寸法精度の磁気回路部品を得るためには、上述したように、軟磁性部品の仮成形体および多孔質材料を予め作製してから、これらを一体化するというプロセスが好ましい。
【実施例】
【0146】
[実施例1]
以下の表1に示す組成の合金(狙い組成:Nd15.9FebalCo1.06.2Al0.5Cu0.1Ga0.1(原子%))を用意し、上述した実施形態の製造方法により、希土類永久磁石用多孔質材料を作製した。表1における数値の単位は質量%である。以下、本実施例の作製方法を説明する。
【0147】
【表1】

【0148】
まず、表1の組成を有する急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、平均粒径4.3μmの微粉末を得た。なお、「平均粒径」は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec社製、HEROS/RODOS)における50%体積中心粒径(D50)である。
【0149】
この微粉末をプレス装置の金型に充填し、1.5テスラ(T)の磁界中において、磁界と垂直方向に20MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と単重に基づいて計算すると、3.95g/cm3であった。
【0150】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で600℃まで加熱し、その後、雰囲気をH2分圧33kPa+Ar分圧67kPaの混合ガス流気(合計で大気圧)に切り替えた後、600℃を4時間保時して水素化・不均化反応を行った。その後、700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保時し、脱水素・再結合処理を行った。次に、大気圧Ar流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。
【0151】
こうして得られたサンプルの寸法を測定し、加熱処理前の寸法と比較した。磁界方向の収縮率および金型方向の収縮率を計算し、収縮比を求めると、1.31であった。ここで、収縮率(%)は、(加熱処理前寸法−加熱処理後寸法)÷加熱処理前寸法×100で表され、収縮比は、(磁界方向の収縮率/金型方向の収縮率)で表される。
【0152】
また、DR処理直後におけるサンプル中の酸素量を測定した結果は0.62質量%であり、表1のNd、Fe、Coから求めた余剰希土類量R’は2.82原子%であった。
【0153】
サンプルの磁界印加方向に対して垂直な面をX線回折装置で評価した。その結果、Nd2Fe14B相を有し、容易磁化軸方向が磁界方向に配向していることを確認した。また、サンプルの破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図7は、サンプルの破断面を示すSEM写真である。図7が図1と異なる主要な点は、その倍率にある。なお、図7には、相互に結合した粉末粒子Aと、粉末粒子Aの間に位置する空隙B(長径1μm以上20μm以下の細孔)とが示されている。粉末粒子Aは、その内部に平均結晶粒径0.01μm以上2μm以下のNd2Fe14B型結晶相の集合組織を有している。図7における粉末粒子Aは、図3(b)に模式的に示されている粉末粒子A1、A2に相当し、図7における空隙Bは、図3(b)における空隙Bに相当している。また、図7におけるCの領域は、図3(b)における粒子の結合部Cに相当している。
【0154】
図7から明らかなように、実施例の材料は1μm〜20μmの孔が分散した多孔質構造を有している。このような多孔質構造は、平均粒径20μm未満の粉末粒子が焼結することによって形成されたものであるが、通常の焼結磁石とは異なり、緻密化されておらず、密度が低い。このような構造は、HDDR処理の温度を通常の焼結温度(1100℃程度)よりも充分に低い温度で実施することによって得られる。もし仮に高温(1000〜1150℃)でDR処理を行うと、焼結体の密度は向上し、多孔質材料を得ることはできなくなる。また、そのような高温でDR処理を行うと、異常なレベルに粒成長が進行し、磁石特性が大きく劣化する可能性が高い。
【0155】
本実施例のサンプルでは、通常の焼結磁石とは異なり、焼結過程でHDDR処理が進行するため、各粉末粒子の内部で0.01μm〜2μmの微細な結晶相からなる集合組織が形成される。
【0156】
また、図7の粉末粒子を構成する集合組織は、領域aのように、比較的角張った微細結晶で構成される領域と、領域a’のように比較的丸みを帯びた微細結晶で構成される2種類の態様が観察される。特許文献1に記載されるような、従来のHDDR磁粉の態様と比較すると、領域a’のような比較的丸みを帯びた微細結晶は、従来のHDDR磁粉において、HDDR処理後に粉砕を行わない場合の個々の粒子表面の態様と一致する。一方、領域aのように比較的角張った微細結晶で構成される領域は、従来のHDDR磁粉において、HDDR処理後に粉末を粉砕した場合の個々の粒子の破断面の態様と一致する。これらの点を踏まえると、図7の領域aはHDDR処理によって結合された個々の粉末粒子の、HDDR処理後の破断面(すなわち粉末粒子の内部)の形態であり、領域a’は、圧粉体を構成していた個々の粉末粒子のHDDR処理後の粒子表面の形態であるということがわかる。試料の破断面において、このようなa、a’の2つの微細結晶の形態を有する態様は、本発明の製法、すなわち、微粉末の圧粉体にしたものをHDDR処理することによって得られる永久磁石用多孔質材料の特徴の一つである。
【0157】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で研削し、寸法10×11×12mmの角柱に加工した。
【0158】
なお、研磨加工によるサンプルの割れ、欠けは観察されなかった。
【0159】
サンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算すると、4.56g/cm3であった。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表2に示す。
【0160】
【表2】

【0161】
表2において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、HkはBr×0.9となる外部磁界Hの値であり、Hk/HcJが高いほど、減磁曲線の角型性に優れている。通常のHDDR磁粉を用いて作製される異方性ボンド磁石のHk/HcJは、0.6以下となるが、表2に示すように、本発明で得られるサンプルは、Hk/HcJが0.69であり、角型性に優れていることを確認した。
【0162】
[実施例2]
アルゴン雰囲気中において実施例1の多孔質材料を乳鉢で粉砕し、分級することにより、粒径75〜300μmの粉末を作製した。この粉末を円筒型のホルダに投入し、800kA/mの磁界中で配向しながらパラフィンで固定した。得られたサンプルを4.8MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性を振動試料型磁束計(VSM:装置名VSM5(東英工業社製))で測定した。なお、反磁界補正は行っていない。測定結果を表3に示す。
【0163】
【表3】

【0164】
表中のJmaxおよびBrは、サンプルの真密度が7.60g/cm3であるとして計算によって求めた。なお、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の測定値を、VSM測定における鏡像効果を考慮して補正した値である。このように、多孔質材料を粉砕することによって得られる磁石粉末も優れた磁気特性を発揮する。このような磁石粉末はボンド磁石に好適に用いられる。
【0165】
上記の各実施例に関する測定・観察結果からわかるように、本発明の永久磁石用多孔質材料は、減磁曲線の角型性に優れる。また、加熱処理時における収縮の異方性が1.31と小さい(通常の焼結磁石は2以上になる)。また、機械加工が十分に可能な強度を有しており、そのまま樹脂含浸を行うことなくバルク磁石体として使用することが可能である。さらに、多孔質材料を粉砕し、粉末化しても、保磁力HcJの低下が少なく、ボンド磁石用の磁粉としても利用できる。
【0166】
[実施例3]
本実施例では、図4に示すホットプレス装置を用いて実施例1の多孔質材料を高密度化し、フルデンス磁石を作製した。具体的には、実施例1の多孔質材料を用意し、その多孔質材料を研削加工した後、カーボン製のダイス内にセットした。このダイスをホットプレス装置内にセットし、真空中において700℃の条件下、50MPaの圧力で圧縮した。
【0167】
ホットプレス後におけるフルデンス磁石の密度は7.58g/cm3であった。このフルデンス磁石の磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表4に示す。なお、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。
【0168】
【表4】

【0169】
以上の結果から、本発明の製造方法を用いることで、減磁曲線の角型性に優れ、且つ加熱処理時における収縮の異方性が1.31と小さい(通常の焼結磁石は2以上になる)多孔質材料が得られた。また、この多孔質材料は機械加工が十分可能な強度を有していた。また、焼結磁石に比べて一桁以上微細な結晶粒をもつため、薄物に加工した際の表面劣化による磁気特性の低下が少ない。さらに、ホットプレス、熱間圧延等の加熱圧縮により高密度化が容易に可能である。
【0170】
このように本発明による多孔質材料を加熱圧縮して高密度化すれば、従来技術と比較して、以下に示す有利な効果を得ることができる。
【0171】
(1)平均粒径20μm以下の原料粉末を用いるため、従来のHDDR磁粉を用いた場合に比べ、磁粉同士の接触面積が増えることで、相対的に低い圧粉体密度でも取り回し可能となり、仮成形時のプレス圧を低減でき、工業的量産性に優れている。また、圧粉体の密度を抑えることで、圧粉体の密度を上昇させると共に生じる配向の乱れを抑えることができる。
【0172】
(2)HDDR処理を行う前の磁粉は低保磁力であるので、これを磁界中で成形して圧粉体を作製すると、圧粉体の脱磁が容易である。また、圧粉体はHDDR処理により完全に消磁状態になるため、取り扱いが容易な状態で加熱圧縮(熱間加工)を行うことができる。
【0173】
(3)HDDR反応後に得られる多孔質材料は機械加工が可能な程度の強度を有しているため、従来のHDDR磁粉を用いたフルデンス磁石で必要とした加熱圧縮時の金型(ダイス)への投入を必ずしも必要としない。また、多孔質材料の段階で、すでに配向させたものを得ることができるため、加熱圧縮直前に金型内で磁界配向させたり、熱間塑性加工を行なったりして異方化させる必要がない等の理由で、工業的量産性に優れていると共に、磁気特性、設計自由度のより高い磁石が得られる。
【0174】
(4)本発明で使用する多孔質材料は、従来のHDDR磁粉に比べて良好な角型性を示すため、フルデンス化のために加熱圧縮を行った後も良好な角型性を維持できる。
【0175】
(5)加熱圧縮の工程において、熱間塑性加工による異方化を適応した場合も、従来磁粉を用いるよりも、高い異方性を有する磁石が高生産性で得られる。
【0176】
[実施例4]
まず、実施例1について説明した方法と同一の方法により、多孔質材料12a’および12b’を得た。本実施例では、図8(a)〜(d)に示すように、これらの多孔質材料12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とに対して「熱間プレス成形」を実施する。
【0177】
図8(a)に示す熱間プレス装置は、所定の形状のキャビティを形成することができる孔を有するダイ32と、ダイ32の孔内を移動することが可能な下パンチ42a、42bと、センターシャフト42cと、これらを支持するとともに必要に応じて上下に移動可能な下ラム52と、ダイ32の孔内を移動することが可能な上パンチ44a、44bと、これらを支持するとともに必要に応じて上下に移動可能な上ラム54とを有している。下パンチ42aおよび上パンチ44aは、多孔質材料12a’12b’を加圧するためのもので、下パンチ42bおよび上パンチ44bは、鉄芯仮成形体22’を加圧するためのものである。このように、多孔質材料12a’12b’と、鉄芯仮成形体22’とに対して、独立に加圧できるプレス装置(「多軸プレス装置」と呼ばれることもある。)を用いることによって、各仮成形体に適した加圧プロセスを行い、圧縮初期に大きい、仮成形体間の圧縮変形量の違いを吸収することができるので好ましい。また、図では省略しているが、熱間プレス装置は、加熱装置を備えており、下ラム52、ダイ32および上下パンチ42a、42b、44a、44bおよびセンターシャフト42cは所定の温度に加熱される。
【0178】
まず、図8(a)に示すように、多孔質材料12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とをダイ32の所定の位置に組み立てる。このとき、多孔質材料12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’は、図5(c)に示すように組み立てられ、鉄芯仮成形体の孔22a’内をセンターシャフト42cが貫通する。
【0179】
次に、図8(b)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動し、組み立てられた多孔質材料12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とをダイ32内に形成されるキャビティ内に挿入する。その後、キャビティの温度を例えば約800℃に維持する。
【0180】
次に、図8(c)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動することによって、多孔質材料12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とを加圧する。圧力は2ton/cm2で、5分間加圧する。
【0181】
次に、図8(d)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動することによって、磁石部品12a、12bと鉄芯(軟磁性部品)22とが一体化された回転子100をダイ32から取り出す。
【0182】
この後、室温まで冷却することによって、回転子100が得られる。この後、焼結工程を行う必要はない。
【0183】
上述の製造方法で試作した磁石部品12a、12bの密度は例えば7.4g/cm3で、真密度(7.6g/cm3)の97.4%であり通常の焼結磁石の密度と同等であった。また、鉄芯22の密度は7.7g/cm3で、真密度(7.8g/cm3)の98.7%であった。
【0184】
試作した回転子は、例えば33000回転でも破壊が起こらず、十分な接合強度を有していた。せん断試験によって測定した磁石部品12a、12bと鉄芯22との接合強度は57MPaであった。また、表面磁束密度は0.42Tを得ることができた。
【0185】
なお、さらに量産性を向上するために、以下のようなプロセスにすることもできる。
【0186】
まず、図8(a)に示した組み立て工程を熱間プレス装置とは別に用意したダイおよびパンチのセット内で行い、結晶成長が起こらない程度の温度(例えば600℃程度)まで予備的に加熱する。所定の温度に到達した後、当該セットを熱間プレス装置に移動し、そこで高周波誘導加熱もしくは通電加熱により、短時間で最適な温度(例えば800℃)まで昇温し、引き続き短時間一体化プレスを行う。また、上記のダイおよびパンチのセットを複数個準備し、上記の予備的な加熱工程から一体化プレス工程までを減圧あるいは不活性ガス雰囲気中で、例えばプッシャー炉方式を用いて複数の処理を連続的に行うことにより、さらに効率的な生産が可能である。
【0187】
[実施例5]
まず、実施例1の多孔質材料と同一の多孔質材料を用意する。次に、この多孔質材料を外周刃切断機および研削加工機により7mm×7mm×5mmのサイズに加工した。この加工による多孔質材料の割れ、欠けは観察されなかった。多孔質材料に対する超音波洗浄を行った後、ナノ粒子分散コロイド溶液に多孔質材料を浸漬した。このコロイド溶液は、Coナノ粒子を分散させたコロイド溶液であり、Co粒子の平均粒径:約10μm、溶媒:テトラデカン、固形分濃度60質量%であった。ナノ粒子分散コロイド溶液はガラス製容器内に入れられ、多孔質材料を浸漬させた状態で真空デシケータ内に挿入し、減圧下に置いた。処理中の雰囲気圧力は約130Paに調整した。
【0188】
減圧により多孔質材料及びナノ粒子分散コロイド溶液内では気泡が発生した。気泡の発生が止んだ後、大気圧に一旦戻した。その後、真空乾燥機内に多孔質材料を挿入し、約130Paの雰囲気圧力下で200℃に加熱し、溶媒を蒸発させ、乾燥を行った。こうして、本発明による複合バルク材料のサンプルを得た。
【0189】
上記の方法により得られた複合バルク材料をホットプレス装置内にセットし、真空中において700℃の条件下、50MPaの圧力で圧縮した。ホットプレス後におけるフルデンス複合バルク磁石の密度は7.73g/cm3であった。
【0190】
本実施例のサンプルについて、3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表5に示す。
【0191】
【表5】

【0192】
本実施例では、ナノ粒子分散コロイド溶液に多孔質材料の全体を浸漬したが、毛細管現象を利用して溶液を多孔質材料の内部に浸透させることができるため、多孔質材料の一部のみをナノ粒子分散コロイド溶液に浸漬させてもよい。
【0193】
まず、上記の実施例1における方法と同一の方法により、多孔質材料を作製した。ここでは、参考例として、多孔質材料に含浸処理を行うことなく、そのまま熱間成形法にてフルデンス化した磁石を作製し、特性を評価した。具体的には、上記の方法により得られた多孔質材料をホットプレス装置内にセットし、真空中において700℃の条件下、50MPaの圧力で圧縮した。ホットプレス後におけるフルデンス磁石の密度は7.58g/cm3であった。得られたフルデンス磁石に対して、3.2MA/m以上のパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製)で測定した。結果を以下の表6に示す。
【0194】
【表6】

【0195】
以上の結果からわかるように、本発明の方法を用いて作製された複合バルク磁石(コンポジット磁石)では、多孔質材料に含浸処理を行うことなく、そのまま熱間成形法にてフルデンス化した参考例の磁石に比べて残留磁束密度Brが向上した。また、実施例では容易磁化方向の減磁曲線に変曲点が見られず、複合バルク磁石が硬磁性相(Nd2Fe14B型化合物)及び軟磁性相(金属ナノ粒子)が混在するコンポジット磁石として動作することを確認した。
【0196】
[実施例6]
まず、実施例1の多孔質材料と同一の多孔質材料を用意する。次に、この多孔質材料を外周刃切断機および研削加工機により20mm×20mm×20mmのサイズに加工した。この加工による多孔質材料の割れ、欠けは観察されなかった。多孔質材料に対する超音波洗浄を行った後、DyF3微粒子分散液に多孔質材料を浸漬した。これは、粒径0.05〜0.5μmのDyF3微粒子をドデカンに分散させた液である。DyF3微粒子分散液はガラス製容器内に入れられ、多孔質材料を浸漬させた状態で真空デシケータ内に挿入し、減圧下に置いた。処理中の雰囲気圧力は約130Paに調整した。
【0197】
減圧により多孔質材料及びDyF3微粒子分散液内では気泡が発生した。気泡の発生が止んだ後、大気圧に一旦戻した。その後、真空乾燥機内に多孔質材料を挿入し、約130Paの雰囲気圧力下で200℃に加熱し、溶媒を蒸発させ、乾燥を行った。こうして、本発明による複合バルク材料のサンプルを得た。
【0198】
上記の方法により得られた複合バルク材料をホットプレス装置内にセットし、真空中において700℃の条件下、50MPaの圧力で圧縮した。ホットプレス後におけるフルデンス複合バルク磁石の密度は7.55g/cm3であった。
【0199】
その後、得られたフルデンス複合バルク磁石を800℃で3時間加熱した後、冷却を行った。
【0200】
本実施例のサンプルについて、3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表7に示す。
【0201】
【表7】

【0202】
本実施例では、DyF3微粒子分散液に多孔質材料の全体を浸漬したが、毛細管現象を利用して溶液を多孔質材料の内部に浸透させることができるため、多孔質材料の一部のみをDyF3微粒子分散液に浸漬させてもよい。
【0203】
以上の結果からわかるように、本発明の方法を用いて作製された複合バルク磁石では、多孔質材料に含浸処理を行うことなく、そのまま熱間成形法にてフルデンス化した参考例の磁石に比べて固有保磁力HcJが向上した。
【0204】
[実施例7]
以下の表8に示す狙い組成の急冷凝固合金B〜Fをストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を実施例1と同様の方法を用いて、粗粉砕および微粉砕、磁界中での成形を行い、密度4.18〜4.22g/cm3の圧粉体を作製した。なお、微粉末の平均粒径は、表8に示すとおりである(測定方法は実施例1と同じで、50%中心粒径(D50)を平均粒径とする)。
【0205】
【表8】

【0206】
次に、圧粉体に対して、前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で表8に示すHD温度まで加熱し、その後、雰囲気をH2分圧33kPa+Ar分圧67kPaの混合ガス流気(合計で大気圧)に切り替えた後、表8に示すHD温度・時間で保持して水素化・不均化反応を行った。その後、700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保持し、脱水素、再結合反応を行った。次に、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。得られた個々のサンプルの破断面を観察した結果、図1と同様の態様を有する微細結晶の集合組織と細孔で構成されていることを確認した。
【0207】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で加工し、加工後のサンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算した。結果を表9に示す。なお、加工による多孔質材料の割れなどは見られないことから、サンプルは十分な機械強度を有していることを確認した。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表9に示す。なお、表9において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、Hkは、実施例1と同様、Br×0.9となる外部磁界Hの値である。
【0208】
【表9】

【0209】
本検討の結果から、いずれのR−Fe−Q合金組成においても、本発明の効果である、優れた角形性を有した多孔質材料が得られることを確認するとともに、Feの一部をCoやNiで置換しても同様の効果が得られることを確認した。
【0210】
[実施例8]
以下の表10に示す狙い組成の急冷凝固合金G〜Lをストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を実施例1と同様の方法を用いて、粗粉砕および微粉砕、磁界中での成形を行い、密度3.96〜3.98g/cm3の圧粉体を作製した。なお、微粉末の平均粒径は、表10に示すとおりである(測定方法は実施例1と同じで、50%中心粒径(D50)を平均粒径とする)。
【0211】
【表10】

【0212】
次に、圧粉体に対して、前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で600℃まで加熱し、その後、雰囲気をH2分圧33kPa+Ar分圧67kPaの混合ガス流気(合計で大気圧)に切り替えた後、600℃で4時間保持して水素化・不均化反応を行った。その後700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保持し、脱水素、再結合反応を行った。次に、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。得られた個々のサンプルの破断面を観察した結果、図1と同様の態様を有する微細結晶の集合組織と細孔で構成されていることを確認した。
【0213】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で加工し、加工後のサンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算した。結果を表11に示す。なお、加工による多孔質材料の割れなどは見られないことから、サンプルは十分な機械強度を有していることを確認した。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表11に示す。なお、表11において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、Hkは、実施例1と同様、Br×0.9となる外部磁界Hの値である。
【0214】
【表11】

【0215】
本検討の結果から、いずれのR−Fe−Q合金組成に種々の元素を添加しても本発明の効果である、優れた角形性を有した多孔質材料が得られることを確認した。
【0216】
[実施例9]
以下の表12に示す狙い組成の急冷凝固合金M〜Pをストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を実施例1と同様の方法を用いて、粗粉砕および微粉砕、磁界中での成形を行い、密度3.96g/cm3の圧粉体を作製した。なお、微粉末の平均粒径は、表12に示すとおりである(測定方法は実施例1と同じで、50%中心粒径(D50)を平均粒径とする)。
【0217】
【表12】

【0218】
次に、圧粉体に対して、前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で600℃まで加熱し、その後、雰囲気をH2分圧33kPa+Ar分圧67kPaの混合ガス流気(合計で大気圧)に切り替えた後、600℃で4時間保持して水素化・不均化反応を行った。その後、700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保持し、脱水素、再結合反応を行った。次に、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。得られた個々のサンプルの破断面を観察した結果、図1と同様の態様を有する微細結晶の集合組織と細孔で構成されていることを確認した。
【0219】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で加工し、加工後のサンプルの成分をICP発光分光分析装置(装置名:ICPV-1017 株式会社島津製作所製))で、ならびに酸素量をガス分析装置(装置名:EGMA−620W 株式会社堀場製作所製))で評価した結果、ならびに、本結果から算出した余剰希土類量R’の値を表13に示す。なお、余剰希土類量の算出に当たっては、表13に示す元素以外の不純物は全てFeとして計算を行った。
【0220】
【表13】

【0221】
加工後のサンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算した。結果を表14に示す。なお、加工による多孔質材料の割れなどは見られないことから、サンプルは十分な機械強度を有していることを確認した。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表14に示す。なお、表14において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、Hkは、実施例1と同様、Br×0.9となる外部磁界Hの値である。
【0222】
【表14】

【0223】
本検討の結果から、種々のR量を有する各組成に対しても、本発明の効果である、優れた角形性を有した多孔質材料が得られることを確認した。また、余剰希土類量R’を1原子%以上とすることにより、比較的高い保磁力HcJが得られることを確認した。
【0224】
[実施例10]
以下の表15に示す狙い組成の合金NおよびQを作製した。なお、合金Nは実施例9における合金Nと同一のものである。一方、合金Qは合金Nと同一の狙い組成の合金を高周波溶解法によって溶解した後、水冷鋳型に鋳込んで作製したインゴットをAr雰囲気1000℃×8時間で均質化熱処理したものである。いずれの合金も実施例1と同様の方法を用いて、粗粉砕および微粉砕、磁界中での成形を行い、密度3.96g/cm3の圧粉体を作製した。なお、微粉末の平均粒径は、表15に示すとおりである(測定方法は実施例1と同じで、50%中心粒径(D50)を平均粒径とする)。
【0225】
【表15】

【0226】
次に、圧粉体に対して、前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で600℃まで加熱し、その後、雰囲気をH2分圧33kPa+Ar分圧67kPaの混合ガス流気(合計で大気圧)に切り替えた後、600℃で4時間保持して水素化・不均化反応を行った。その後、700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保持し、脱水素、再結合反応を行った。次に、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。得られた個々のサンプルの破断面を観察した結果、図1と同様の態様を有する微細結晶の集合組織と細孔で構成されていることを確認した。
【0227】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で加工し、加工後のサンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算した。結果を表16に示す。なお、加工による多孔質材料の割れなどは見られないことから、サンプルは十分な機械強度を有していることを確認した。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表16に示す。なお、表16において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、Hkは、実施例1と同様、Br×0.9となる外部磁界Hの値である。
【0228】
【表16】

【0229】
本検討の結果から、種々の原料作製方法に対しても、本発明の効果である、優れた角形性を有した多孔質材料が得られることを確認した。また、α−Fe相が生成しにくい急冷法としてストリップキャスト法を適用することにより、比較的高いHk/HcJが得られることを確認した。
【0230】
[実施例11]
実施例9で用いた合金P(表17に再掲する)を用いて以下の実験を行った。実施例1と同様の方法を用いて、粗粉砕および微粉砕を行った。なお、微粉末の平均粒径は、表17に示すとおりである(測定方法は実施例1と同じで、50%中心粒径(D50)を平均粒径とする)。
【0231】
【表17】

【0232】
次に、表18に示すとおり、無磁界中もしくは磁界中での成形を行い、密度3.96g/cm3の圧粉体を作製した。次に、圧粉体に対して、種々のHDDR処理を行った。具体的には、表18に示す昇温雰囲気で600℃まで加熱し、その後、表18に示す雰囲気に切り替えた後、600℃で4時間保持して水素化・不均化反応を行った。その後700℃に昇温し、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で4時間保持し、脱水素、再結合反応を行った。次に、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却し、実施例のサンプルを得た。
【0233】
【表18】

【0234】
得られた個々のサンプルの破断面を観察した結果、図1と同様の態様を有する微細結晶の集合組織と細孔で構成されていることを確認した。
【0235】
次に、サンプルの表面を表面研削盤で加工し、加工後のサンプルの寸法および単重からサンプルの密度を計算した。結果を表19に示す。なお、加工による多孔質材料の割れなどは見られないことから、サンプルは十分な機械強度を有していることを確認した。研削加工を行ったサンプルを3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表19に示す。なお、表19において、Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に2テスラ(T)まで外部磁界Hを印加したときのサンプルの磁化J(T)の最大測定値である。また、Hkは、実施例1と同様、Br×0.9となる外部磁界Hの値である。
【0236】
【表19】

【0237】
本検討の結果から、種々の処理方法に対しても、本発明の態様を有する多孔質材料が得られることを確認した。
【0238】
[実施例12]
実施例1と同様の方法によって作製した、多孔質材料を外周刃切断機および研削加工機により、7mm×7mm×5mmのサイズに加工した。この加工による多孔質材料の割れ、欠けは観察されなかった。多孔質材料に対する超音波洗浄を行った後、ナノ粒子分散コロイド溶液に多孔質材料を浸漬した。このコロイド溶液は、表面が酸化されたFeナノ粒子を分散させたコロイド溶液であり、Fe粒子の平均粒径:約7nm、溶媒:ドデカン、固形分濃度1.5体積%であった。ナノ粒子分散溶液は、ガラス製容器内に入れられ、多孔質材料を浸漬させた状態で真空デシケータ内に挿入し、減圧下に置いた。処理中の雰囲気圧力は約130kPaに調整した。
【0239】
減圧により多孔質材料及びナノ粒子分散コロイド溶液内では気泡が発生した。気泡の発生が止んだ後、大気圧に一旦戻した。その後、真空乾燥機内に多孔質材料を挿入し、約130Paの雰囲気圧力下で200℃に加熱し、溶媒を蒸発させ、乾燥を行った。こうして、本発明による複合バルク材料のサンプルを得た。
【0240】
以上の結果から、高磁化が期待できる軟磁性Feナノ粒子と硬磁性材料である多孔質材料の複合バルク体が作製できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明の製造方法で得られるR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料は、ボンド磁石に比べて高い磁気特性、特に優れた角型性を示し、かつ、従来の焼結磁石よりも形状設計の自由度が高いため、従来のボンド磁石や焼結磁石が用いられてきた種々の用途に好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】本発明による永久磁石用多孔質材料の実施例における破断面を示すSEM写真である。
【図2】本発明の永久磁石用多孔質材料を製造する方法を示すフローチャートである。
【図3】(a)は、図2のフローチャートに示す工程S12で得られる圧粉体(成形体)の模式図であり、(b)は、圧粉体にHDDR処理(S14)を施した後の材料の模式図である。
【図4】多孔質磁石に対する加熱圧縮するための装置の構成例を示す図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明による実施形態の回転子100の製造方法を説明するための模式図である。
【図6】本発明による実施形態の製造方法によって製造される回転子100の構造を示す模式図である。
【図7】本発明による永久磁石用多孔質材料の実施例における破断面を示す他のSEM写真である。
【図8】(a)〜(d)は、本発明による実施形態の回転子100の製造方法における熱間プレス形成工程を説明するための模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0243】
12a’、12b’ R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料
12a、12b 磁石成形体(磁石部品)
22’ 軟磁性材料粉末の仮成形体(鉄芯仮成形体)
22 軟磁性材料粉末の成形体(軟磁性部品、鉄心)
26 チャンバ
27 金型
28a 上部パンチ
28b 下部パンチ
32 ダイ
42a、42b 下パンチ
42c センターシャフト
44a、44b 上パンチ
52 下ラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径20μm未満のR−Fe−B系希土類合金粉末(RはYおよびScを含む希土類元素からなる群から選択された少なくとも1種)を用意する工程(A)と、
前記R−Fe−B系希土類合金粉末を成形して圧粉体を作製する工程(B)と、
水素ガス中において前記圧粉体に対し550℃以上650℃未満の温度で熱処理を施し、それによって水素化および不均化反応を起こす工程(C)と、
真空または不活性雰囲気中において前記圧粉体に対し550℃以上1000℃未満の温度で熱処理を施し、それによって脱水素および再結合反応を起こす工程(D)と、を含むR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)は、磁界中で成形を行う工程を含む請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項3】
前記R−Fe−B系希土類合金粉末は、10原子%≦R≦30原子%、3原子%≦Q≦15原子%(Rは希土類元素、Qは硼素または硼素と硼素の一部を置換した炭素の総和)の関係を満足する組成を有している、請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項4】
Fe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属元素をTとした場合において、
前記工程(C)の開始時において、前記圧粉体中の下記(1)式で示される希土類量R’が、R’≧0原子%となるように希土類元素Rの組成を設定し、かつ、前記工程(A)以後工程(C)開始までの工程の酸素量(O)を制御する請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
(1)R’=「Rの原子%」−「Tの原子%」×1/7−「Oの原子%」×2/3
【請求項5】
前記R−Fe−B系希土類合金粉末は急冷合金の粉砕粉である、請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項6】
前記急冷合金がストリップキャスト合金である請求項5に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(C)は、不活性雰囲気または真空中で昇温する工程と、550℃以上650℃未満の温度で水素ガスを導入する工程と、を含む請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(C)における水素ガスの分圧は、1kPa以上100kPa以下である請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載された製造方法によって得られたR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料。
【請求項10】
請求項9に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を用意する工程(E)と、
湿式処理により、前記R−Fe−B系多孔質材料の細孔内部に前記R−Fe−B系多孔質材料とは異なる材料を導入する工程(F)と、
を含むR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法で得られたR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料を用意する工程と、
前記R−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料を更に加熱することによりR−Fe−B系永久磁石を形成する工程と、
を含むR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を用意する工程(E)と、
前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料の表面および/または細孔内部に、希土類金属、希土類合金、希土類化合物のうち少なくとも1種を導入する工程(F’)と、
を含むR−Fe−B系永久磁石用複合バルク材料の製造方法。
【請求項13】
前記(F’)工程と同時または前記(F’)工程の後に、前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を加熱する、請求項12に記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
【請求項14】
請求項9に記載のR−Fe−B系永久磁石用多孔質材料に対して、600℃以上900℃未満の温度で加圧し、前記R−Fe−B系永久磁石用多孔質材料を真密度の95%以上に高密度化する工程を含むR−Fe−B系永久磁石の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−123968(P2009−123968A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297183(P2007−297183)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】