説明

RFe2O4薄膜及びその製造方法

【課題】 Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、基板上にRFe24薄膜を形成する気相成膜方法であって、前記プラズマが、5435cpsより少ないO活性種の発光強度を有し、Fe活性種の発光強度に対するO活性種の発光強度が、O活性種の発光強度/Fe活性種の発光強度<2
である気相成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば,RFe24薄膜製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、RFe24薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFe2O4(R=Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y)は、三角格子を構成するFe2+とFe3+がフラストレーションを緩和して電荷整列構造を形成することで自発分極を発現する新規な強誘電体(電子強誘電体)として注目されている。この物質は磁性元素を有しており、磁性強誘電体として磁気誘電効果を示すことが知られている。また、電場の印可によってその抵抗が大きく変化し、その変化が可逆であるためメモリー素子としての応用も期待されている。
ここで、一番興味深い現象は、Siよりも3桁も大きい高い光吸収を示すことである。今までの太陽電池と異なり、電子相関効果によって「電気分極」を持つ形に電子配列(電気分極を形成する電子の集団分布)が形成されており、これにより、0.3eVから1.5eVという太陽光に適合する光子に応答する。このような特徴により、太陽電池への応用に関して大きな期待が寄せられ、太陽電池の実現に向けて薄膜化が期待されている。
しかしながら、このRFe2O4(R=Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y)材料系ではFe2+が負電荷、Fe3+が正電荷として振る舞うが、Fe2+とFe3+を同数存在させるために、1000℃以上の温度域で、かつ酸素分圧を厳密に制御した還元雰囲気下で作製する必要がある。例えばYbFe2O4の場合、バルクにおいて酸素分圧が : 1.22x10-9~3.69x10-6 Torr の範囲でかつ1200℃以上の温度でのみ形成することが報告されている(非特許文献1)。このため、RFe2O4結晶は、単結晶、多結晶体についての報告例はあるものの、太陽電池の実現に向けて必要となる薄膜についての報告はなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】N.Kimizuka et.al, Handbook of the Phys. AndChem. of Rare Earth, 13, chapter90, (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この微量酸素雰囲気では、酸化物薄膜の形成は非常に困難であるため、活性酸素源を利用する必要がある。活性酸素源はプラズマ中に存在し、酸素の場合、原子状酸素活性種は比較的活性な酸化源として知られている。しかしながら、原子状酸素活性種を酸化源として用いた場合、活性であるために過剰の酸化が促進され、RFe2O4結晶の形成が困難になる。
【0005】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、原子状酸素活性種を酸化源として用いた場合であっても、過剰な酸化が生ずることないRFe24薄膜とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によれば、Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、基板上にRFe24薄膜を形成する気相成膜方法であって、前記プラズマが、5435cpsより少ない酸素活性種の発光強度を有し、鉄活性種の発光強度に対する酸素活性種の発光強度が、酸素活性種の発光強度/鉄活性種の発光強度<2である気相成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明の発明者らは、RFe24薄膜を製造するには、酸素分圧のみならず活性酸素源をも制御する必要があると考え、鋭意研究を行った。その結果、薄膜原料供給源と基板との間に発生するプラズマが、O活性種の発光強度が5435cpsより少なく、かつ、Fe活性種に対するO活性種の発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2である場合にRFe24薄膜が形成されることを見出し、この発明の完成に到った。この発明の気相成膜方法によれば、活性酸素源の制御を容易に行うことができるので、RFe24薄膜を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】レーザーのエネルギー密度を変化させたときのFe活性種に対するO活性種の発光強度比(O活性種/Fe活性種)を示す図である。
【図2】レーザーのエネルギー密度が0.25J/cm2のときに形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。
【図3】レーザーのエネルギー密度が0.27J/cm2又は0.38J/cm2で形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。
【図4】図4は、レーザーのレンズ位置を変化させた場合における基板近傍のプラズマ中Fe活性種(発光波長:324nm)、Yb活性種(発光波長:556nm)、O活性種(発光波長:777nm)の強度変化を示す図である。
【図5】レーザーのレンズ位置を835mm、840mm、845mm、850mmにしたときに形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。
【図6】レーザーのレンズ位置を825mmにしたときに形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。
【図7】レーザーのレンズ位置と各活性種の発光強度を示す図である。
【図8】レーザーのレンズ位置を815mm、825mm、835mm、855mmにしたときに形成された薄膜のX線回折の解析結果を示す図である。
【図9】酸素分圧を変化させたときの、Fe活性種に対するO活性種の発光強度比(O活性種/Fe活性種発光強度比)の酸素分圧依存性を示す図である。
【図10】酸素分圧を変化させたときの、O活性種強度の酸素分圧依存性を示す図である。
【図11】1×10-6Torr,2×10-6Torr,3×10-6Torr,4×10-6Torr,5×10-6Torrの各酸素分圧で形成された薄膜のX線回折の解析結果を示す図である。
【図12】RFe24の結晶構造の模式図である。
【図13】プラズマ発光分析方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の気相成膜方法は、Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、基板上にRFe24薄膜を形成する気相成膜方法であって、前記プラズマが、5435cpsより少ないO活性種の発光強度を有し、Fe活性種の発光強度に対するO活性種の発光強度が、O活性種の発光強度/Fe活性種の発光強度<2である。
ここで、薄膜原料供給源は、O活性種及びFe活性種、R活性種の原材料(例えば、分子、原子、イオン)を供給するものであればよく、例えば、ターゲット、蒸発源、ガスノズルがこれに該当する。これらの供給源を組み合わせたものであってもよく、例えば、Fe活性種、R活性種の原材料をターゲット、O活性種の原材料をガスノズルで供給してもよい。
また、前記気相成膜方法は、レーザーアブレーション法であり、前記薄膜原料供給源にレーザーを照射することにより前記プラズマを発生させてもよい。
また、プラズマは、基板に薄膜を形成するときに基板上に発生するプラズマであればよい。例えば、上記のパルス・レーザーアブレーションにより基板近傍に生じるプラズマであってもよい。
また、この発明の気相成膜方法は、基板上にRFe24(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)薄膜を生成する気相成膜方法が、Fe及びO,Rを含む薄膜原料供給源と基板との間にプラズマを発生させるステップと、前記ステップで発生させたプラズマを発光分析によって観察するステップとを備え、前記ステップで観察されたプラズマの発光は、O活性種の発光強度が5435cpsより少なく、かつ、Fe活性種に対するO活性種発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2である。
ここで、プラズマを発生させる工程は、基板に薄膜を形成するときに副次的にプラズマが発生する工程であってもよい。例えば、パルス・レーザーアブレーションであってもよい。また、スパッタリング、プラズマアシスト蒸着、プラズマCVDなどのプラズマ薄膜成長法であってもよい。
さらに、発光分析は、各活性種からの発光ピークの大きさを検出するとよい。例えば、発光O活性種は、777nm、Fe活性種は、324nmの波長の発光ピークを検出する。
また、この発明の気相成膜方法の実施形態において、前記薄膜原料供給源と前記基板との間の酸素分圧が4×10-6Torr以下である。例えば、前記薄膜原料供給源と前記基板とを成膜室に配置し、前記成膜室にO(酸素)を供給するガス供給源を設け、前記成膜室の酸素分圧を調整してもよい。
また、前記薄膜原料供給源と前記基板との間にO(酸素)を供給することにより、前記プラズマの発光を調整してもよい。
また、この発明のRFe24薄膜は、Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、前記プラズマが、5435cpsより少ないO活性種の発光強度を有し、Fe活性種の発光強度に対するO活性種の発光強度が、O活性種の発光強度/Fe活性種の発光強度<2である気相成膜方法で基板上に形成される。
また、この発明のRFe24薄膜の実施形態において、前記薄膜原料供給源と前記基板との間の酸素分圧が4×10-6Torr以下である気相成膜方法で製造される。
【0010】
次に、この発明の実施形態に用いるプラズマ発光分析方法について、図面を用いて説明する。ここでは、プラズマを発生させる方法として、レーザーアブリケーションを例に説明する。
図13は、レーザーアブリケーションを用いてRFe24薄膜を生成する場合のプラズマ発光分析方法を説明するための概念図である。図13では、Fe及びO,Yを含むセラミックからなるターゲット1と基板2とが所定の距離を設けて配置され、ターゲット1と基板2とのあいだの空間に酸素を供給するガス供給源8が配置されている。ターゲット1及び基板2は成膜室(図示せず)の内に配置され、この成膜室にガス供給源8がガス(例えば、酸素)を供給するように、ガス供給源8の配管が成膜室に接続されている(図示せず)。また、ターゲット1に対してレーザー光を発するレーザー源6と、基板2の表面近傍の光を検出する分光器4とが配置され、分光器4には、分光器4で分光された光を検出する検出器5が設けられている。
まず、ターゲット1にレーザー源6から発せられたパルスレーザーが集光器7を介して照射され、これにより、ターゲット1と基板2との間にプルーム3(プラズマ)が発生する。このプルーム3は、ガス供給源8から供給された酸素及びターゲット1に含まれるFe及びO,Rの原子活性種で形成され、これらの原子活性種が発光する。
次に、このプルーム3の発光を、分光器4及び検出器5を用いて、分析する。この実施形態では、発光を分光器4で分光し、分光された光について、その波長及び強度を検出器5で検出する。これにより、各原子活性種に対応する波長のピークの大きさを検出し、各原子活性種の発光強度を測定する。以上の測定により、Fe活性種及びO活性種の発光強度、これらの発光強度比を得ることができる。
以下、このプラズマ発光分析方法を用いて行った実験について説明する。
【0011】
(実験例1)
試料(薄膜)の作成には、レーザーアブレーション法を用いた。作成の条件は、基板温度:900℃、酸素分圧:2.0x10-10Torrとした。ターゲットには、Yb3Fe512相及びFe23相が主成分のセラミックスを用いた。このターゲットは、Yb:Fe=1:2となるように、Yb23及びFe23を混合して焼結することにより得た。また、基板には、YSZ(111)を用いた。
これらの条件で、ターゲットにレーザーを照射したときに発生するプルーム(基板上かつ基板近傍のプラズマ空間)を発光分光分析により調べた。Yb(555nm)、Fe(373nm)、O(777nm)の発光ピークを指標として原子活性種の存在比を調べた。
【0012】
(レーザーのエネルギー密度と各活性種の発光強度との関係)
プラズマ空間の発光分光分析により観察できる各活性種の発光強度は、ターゲットに照射されるレーザーのエネルギー密度によって変化させることができる。そこで、レーザーのエネルギー密度を変化させて薄膜を形成し、レーザーのエネルギー密度を変化させた際の薄膜形成時における各活性種の発光強度を調べた。図1に、その結果を示す。また、図2及び図3に得られた薄膜に対するX線回折の解析結果を示す。図1は、レーザーのエネルギー密度を変化させたときのFe活性種に対するO活性種の発光強度比(O活性種/Fe活性種)を示した図である。図2は、レーザーのエネルギー密度が0.25J/cm2のときに形成された薄膜についてX線回折の解析を行った結果を示す図である。図3は、レーザーのエネルギー密度が0.27J/cm2又は0.38J/cm2で形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。ここで、図2において、YSZは基板からの回折を意味する。また、丸印は、YbFeO3層からの回折を示している。さらに、図3において、YSZは基板からの回折を意味する。また、図3における丸印は、FeOx又はYb2O3層からの回折を示している。
【0013】
図1に示すように、レーザーのエネルギー密度が0.225、0.25J/cm2の場合、酸素活性種は観察されなかった。また、図2に示すように、O活性種発光強度がゼロの場合(酸素の活性種の発光が認められない場合)、RFe2O4(R=Yb)は成長せず、Yb2O3相のみが結晶化していた。図1及び図2の結果から、RFe2O4(R=Yb)薄膜を得るためには、酸素活性種の発光が必要であることがわかった。
図3に示すように、レーザーのエネルギー密度が0.27J/cm2の場合、RFe2O4(R=Yb)の単層が形成されていた。一方、レーザーのエネルギー密度が0.38J/cm2 の場合(つまり、O活性種発光強度/Fe活性種発光強度=1.2)は、RFe2O4(R=Yb)の成長が認められるものの、Y2O3やFeOxなどの異相が認められた。この実験では、O活性種発光強度/Fe活性種発光強度を2以上にした場合には、RFe2O4(R=Yb)の成長は確認できなかった。また、この実験から、RFe2O4(R=Yb)薄膜を得るためには、酸素活性種の発光は2000 cps以下であることが必要であることがわかった。
【0014】
(レーザーのレンズ位置と各活性種の発光強度との関係)
次に、レーザーのレンズ位置を変化させて、薄膜を形成し、その薄膜形成時における基板近傍におけるプラズマ中Fe活性種(発光波長:324nm)、Yb活性種(発光波長:556nm)、O活性種(発光波長:777nm)の発光強度の変化を調べた。また、得られた薄膜について、X線回折による解析を行った。図4及び図5にこの結果を示す。
図4は、レーザーのレンズ位置を変化させた場合における基板近傍のプラズマ中Fe活性種(発光波長:324nm)、Yb活性種(発光波長:556nm)、O活性種(発光波長:777nm)の強度変化を示す図である。図5及び図6は、レーザーのレンズ位置を変化させてプラズマ中で試料(薄膜)の成長を行ったときの試料に関するX線回折の解析結果を示す図である。図5は、レーザーのレンズ位置を835mm、840mm、845mm、850mmにしたときに形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図であり、図6は、レーザーのレンズ位置を825mmにしたときに形成された薄膜についてのX線回折の解析結果を示す図である。なお、図5において、mmを単位とする数字は、レンズ位置を示し、cpsを単位とする数字は、発光強度を示す。また、図5において、YbFe2O4層からの回折には回折面を記載し、丸印は、FeOX又はYb2O3層からの回折を示す。さらに、図6において、丸印はFeOX層からの回折を示す。
【0015】
図4に示すように、いずれの強度もレーザーのレンズ位置830mm近傍のフォーカルポジション(就航位置)で最大となり、さらにレーザーのレンズ位置を大きくしても発光強度は減少する。
また、図5に示すように、レーザーのレンズ位置が850mmの場合は、RFe2O4(R=Yb)の単層が形成されており、845, 840mmまでは同様に単層が得られた。一方、レーザーのレンズ位置が835mm (O活性種発光強度/Fe活性種発光強度=1.2)の場合、RFe2O4(R=Yb)の成長は認められるものの、Y2O3やFeOxなどの異相が認められた。レンズ位置を移動させO活性種発光強度/Fe活性種発光強度=2にした場合、RFe2O4(R=Yb)の成長は確認できなかった。
さらに、図4に示すように、レーザーレンズ位置を830mmまで移動させるとO活性種発光強度は4000cpsまで増加し、また、図6に示すように、YbFe2O4薄膜は成長しなかった。
この実験では、レーザーのレンズ位置が815、825、830mmにおいては、Yb2O3層が形成し、YbFe2O4層からの回折を得ることはできなかった。このときの酸素活性種(発光波長:777nm)の発光強度は図4に示したように4010cps以上であり、これが、YbFe2O4層が形成しない条件の下限であった。また、このときのO活性種発光強度/Fe活性種発光強度は2であった。O活性種発光強度/Fe活性種発光強度>2では、RFe2O4(R=Yb)の成長は確認することができなかった。
【0016】
(実験例2)
次に、実験例1と別のターゲットを用いて、試料(薄膜)を作成した。この試料(薄膜)の作成にも、レーザーアブレーション法を用いた。作成の条件は、基板温度:900℃、酸素分圧:2.0x10-10Torrとした。ターゲットには、実験例1と同様に、Yb3Fe512相及びFe23相が主成分のセラミックスを用いた(実験例1と同じ条件で作成した別のターゲットを用いた。)。また、基板には、YSZ(111)を用い、上記の条件以外は実験1と同じ条件を用いた。これらの条件で、基板上(近傍)のプラズマ空間を発光分光分析により調べた。その結果を図7、図8に示す。
図7は、レーザーの集光レンズ位置と各活性種の発光強度を示す図である。図8は、図7のレンズ位置で形成された薄膜のX線回折の解析による結果を示す図であり、レーザーのレンズ位置を815mm、825mm、835mm、855mmにしたときに形成された薄膜についてX線回折による解析結果を示す図である。なお、図8において、数字は、YbFe2O4層からの回折における回折面を意味し、丸印は、FeOX又はYb2O3層からの回折を示す。また、図8において、mmを単位とする数字は、レンズ位置を示し、図右上の数字は酸素活性種による発光強度の値を示す。
【0017】
図7に示すように、この実験の場合、酸素活性種の発光強度がゼロの場合(レンズ位置855mm)でもRFe2O4(R=Yb)の成長を確認することができた。(図7の中の白抜き丸点は酸素の発光が認められなかった(0cps)。)
また、図8に示すように、レーザーのレンズ位置が815、825mmの場合、Yb2O3層が形成され、YbFe2O4層からの回折を得ることはできなかった。このときの酸素活性種(発光波長:777nm)の発光強度は8635cps以上あり、これが、YbFe2O4層が形成しない条件の下限であった。図8の右下に示されるレーザーのレンズ位置が855mmの場合、異相は確認されず、酸素活性種の発光強度がゼロの集光レンズ位置場合でもRFe2O4(R=Yb)が成長できることが示された。
さらに、レーザーのレンズ位置が835mm(O活性種発光強度/Fe活性種発光強度=1)の場合、RFe2O4(R=Yb)の成長は確認できたものの、すでに異相の存在が認められた。この場合も、4−1同様O活性種発光強度/Fe活性種発光強度>2では、RFe2O4(R=Yb)の成長は確認することができなかった。
【0018】
以上に示したように、プラズマ薄膜成長法において、RFe2O4(R=Yb)を成長させた場合、プラズマ空間の発光分光分析により観察されるO活性種(発光波長:777nm)の発光強度が5435 cpsより少なく、かつFe活性種(発光波長:324nm)、O活性種(発光波長:777nm)の発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2の場合の成膜条件においてRFe2O4(R=Yb)の薄膜成長が確認された。
【0019】
(実験例3)
(酸素の導入とレーザーエネルギーとの関係)
上記の実験では、酸素量を極力へらすためにチャンバー内の酸素分圧を2X10-10torr程度に保って行った。しかしながら、上記の実験から、この圧力では、薄膜成長中に基板からFe原子が再蒸発してRFe2O4(R=Yb)のRとFeの金属組成比R/Feが量論組成の1/2より大きくなる(Feが減少する)ことが判明した。そこで、Fe原子の再蒸発を抑制する目的で酸素を導入する実験を行った。
これまでの実験で、RFe2O4(R=Yb)が成長するためには、プラズマ空間の発光分光分析によって観察されるO活性種(発光波長:777nm)の発光強度が5435 cpsより少なく、かつFe活性種(発光波長:324nm)、O活性種(発光波長:777nm)の発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2であることが必要であることがわかっているため、酸素を導入しても上記の条件を満たすレーザーエネルギーを探索する実験を行った(チャンバー圧力と薄膜成長との依存性について調べた。)。
この実験は、レーザーアブレーション法を用い、条件は、基板温度:900℃、レーザーエネルギー密度:0.27J/cm2とし、酸素分圧を変化させた。ターゲットには、実験例1と同様に、Yb3Fe512相及びFe23相が主成分のセラミックスを用いた(実験例1と同じ条件で作成しているが、実験例1及び2とは別のターゲットを用いた。)。また、基板も実験例1と同様に、YSZ(111)を用いた。これら条件で、基板上(近傍)のプラズマ空間を発光分光分析により調べた。
その結果を図9、図10に示す。また形成された薄膜について、X線回折による解析結果を図11に示す。図9は、酸素分圧を変化させたときの、Fe活性種に対するO活性種の発光強度比(O活性種/Fe活性種発光強度比)の酸素分圧依存性を示す図である。図10は、図9と同様に酸素分圧を変化させたときの、O活性種強度の酸素分圧依存性を示す図である。図11は、酸素分圧を変化させたときに各酸素分圧で形成された薄膜に関するX線回折の解析結果を示す図であり、1×10-6Torr,2×10-6Torr,3×10-6Torr,4×10-6Torr,5×10-6Torrの各酸素分圧で形成された薄膜のX線回折の解析結果を示している。なお、図11について、YbFe2O4層からの回折には回折面を記載し、丸印は、Yb2O3層からの回折を示す。
【0020】
図9に示すように、レーザーエネルギー密度0.27J/cm2では、チャンバー内の酸素分圧を2X10-10Torr〜1X10-4Torrまで上記の条件を満たすことがわかった。いずれの酸素分圧においてもO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2であった。
また、図10に示すように、いずれの酸素分圧においてもO活性種発光強度は500cps以下で、プラズマ空間の発光分光分析によって観察されるO活性種(発光波長:777nm)の発光強度が5435 cpsより少ないという条件を満たしていた。また、酸素を導入しても、プラズマ空間の発光分光分析によって観察されるO活性種(発光波長:777nm)の発光強度が5435 cpsより少ないことがわかった。また、Fe活性種(発光波長:324nm)及びO活性種(発光波長:777nm)の発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2という条件を満たしていた。このように広い酸素分圧条件下で上記の条件を満たすことがわかったが、YbFe2O4層が形成する酸素分圧条件は限られていた。
さらに、図11に示すように、YbFe2O4層単層は2x10-6torr以下の真空度で成長させた場合に得られた。また、5x10-6torr以上ではYbFe2O4層の形成を確認することができなかった。
先に述べたように、これらはすべてプラズマ空間の発光分光分析によって観察されるO活性種(発光波長:777nm)の発光強度が5435 cpsより少なく、かつFe活性種(発光波長:324nm)、O活性種(発光波長:777nm)の発光強度比がO活性種発光強度/Fe活性種発光強度<2という条件を満たしている。このため、酸素分圧に関しては別の条件が必要であると推測できる。この別の条件について、バルクについて1.22x10-9〜3.69x10-6 Torr(酸素分圧。Yb の場合)をであることが必要であると報告されているから、薄膜の形成においても、この条件を満たす必要があるものと考えられる。
【符号の説明】
【0021】
1 ターゲット(薄膜材料供給源)
2 基板
3 プルーム(プラズマ)
4 分光器
5 検出器
6 レーザー源
7 集光器(レンズ)
8 ガス供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、基板上にRFe24薄膜を形成する気相成膜方法であって、
前記プラズマが、5435cpsより少ないO活性種の発光強度を有し、
Fe活性種の発光強度に対するO活性種の発光強度が、O活性種の発光強度/Fe活性種の発光強度<2
である気相成膜方法。
【請求項2】
前記気相成膜方法は、レーザーアブレーション法であり、
前記薄膜原料供給源にレーザーを照射することにより前記プラズマを発生させる請求項1に記載の気相成膜方法。
【請求項3】
Fe及びR,O(Rは、Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Yのうち少なくとも1つ以上である)を含む薄膜原料供給源と基板との間に、プラズマを発生させ、
前記プラズマが、5435cpsより少ないO活性種の発光強度を有し、
Fe活性種の発光強度に対するO活性種の発光強度が、O活性種の発光強度/Fe活性種の発光強度<2
である気相成膜方法で基板上に形成されたRFe24薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−58044(P2011−58044A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208653(P2009−208653)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月8日 社団法人 応用物理学会発行の「2009年(平成21年)秋季 第70回応用物理学会学術講演会 講演予稿集No.2」に発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】