説明

p型有機薄膜トランジスタ、p型有機薄膜トランジスタの製造方法、および、塗布溶液

【課題】電荷注入効率の高いp型有機薄膜トランジスタ、および、金属酸化物を電荷注入層として用いても、金属酸化物が溶解することで電極剥離を起こすことのないp型有機薄膜トランジスタの製造方法、ならびに、この製造方法に用いる塗布溶液を提供する。
【解決手段】p型有機薄膜トランジスタ10Aは、絶縁基板11上に設けられたゲート電極12と、ゲート電極12を被覆して設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられたソース電極14aおよびドレイン電極14bと、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に設けられた金属酸化物層15と、ゲート絶縁層13上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bとの間に設けられたp型有機半導体層16と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、および、その製造方法、ならびに、その製造方法に用いる塗布溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在半導体の主流はSi系であるが、フレキシブル化、軽量化等の視点から有機半導体を用いたトランジスタ(有機TFT)の研究が盛んになっている。一般に、有機半導体を用いる場合、溶液を用いた塗布成膜が可能となり、各種印刷法を使った大面積プロセスを適用することができ、大幅な低コスト化が可能となる。また、低温作製プロセスであるため、プラスチック等のフレキシブル基板を利用できるといった利点も挙げられる。
【0003】
有機TFTの応用分野は広く、有機ELディスプレイ、液晶、電子ペーパー等の表示デバイスをアクティブ駆動させる駆動素子として用いられ、また、RFIDタグやセンサー等への応用も検討されている。しかしながら現状の有機TFTは、移動度、動作電圧、駆動安定性において実用的なレベルに到達していない。そのため、有機半導体のみならず、素子構成、作製プロセス等、様々な角度からの改良が急務となっている。
【0004】
中でも有機半導体とソース電極界面の接触抵抗の問題は大きく、いかに効率良くソースから有機半導体層へ電荷注入できるかによってトランジスタ特性が大きく変化する。有機半導体とソース電極との接触抵抗は以下の2つの状態によって変化する。1つは、有機半導体と、ソース電極となる金属との物理的な接触状態であり、もう1つは、有機半導体のHOMO(最高占有軌道)準位と、ソース電極となる金属の仕事関数とのエネルギー的な差で表される、電荷注入障壁の大きさである。
【0005】
金属表面では有機半導体の結晶成長が阻害されやすいため、前記界面付近では結晶粒界ができやすい。この結晶粒界はソース電極と有機半導体との間の接触抵抗を増加させる。これを解決するため、ソース電極表面をチオール等の自己組織化単分子膜で表面処理し、界面付近における有機半導体の結晶成長を改善し結晶粒界を低減することで、有機半導体とソース電極との物理的な接触状態が改善され、電荷注入効率が向上することが分かっている(非特許文献1参照)。
【0006】
また、p型有機半導体のHOMO準位は、概ね5.0〜5.5eV程度であることから、仕事関数が深い白金(仕事関数:5.4eV)をソース電極として用いることで電荷注入障壁が低減され、電荷注入効率が向上することも分かっている(非特許文献2参照)。さらに、仕事関数がより深い酸化モリブデン(仕事関数:5.6eV)等の金属酸化物を電荷注入層として補助的に用い、積層構造のソース電極とすることで電荷注入障壁が低滅され、トランジスタ特性が改善されることも分かっている(非特許文献3参照)。
【0007】
特に、酸化モリブデン等の金属酸化物を電荷注入層として用いる手法は、金属酸化物が白金等の金属よりも深い仕事関数を有することから、電荷注入効率がより大きく改善されるため、非常に有効な手法である。このように金属酸化物の電荷注入層を用いる場合、図10に示すように、絶縁基板101上に、ゲート電極102、ゲート絶縁層(ゲート絶縁膜)103、ソース・ドレイン電極104、金属酸化物層105、p型有機半導体層106が形成された有機TFT100において、電荷注入層となる金属酸化物層105は、ソース・ドレイン電極104となる金属層104とゲート絶縁層103との中間に設けられ、ソース・ドレイン電極104をゲート絶縁層103上に固定する密着層としても機能する(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS, VOL. 22, NO. 12, DECEMBER 2001
【非特許文献2】APPLIED PHYSICS LETTERS 87, 193508 (2005)
【非特許文献3】APPLIED PHYSICS LETTERS 92, 013301 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の有機TFTおよびその製造方法では、以下に示す問題がある。
通常、有機TFTをディスプレイ用駆動回路に用いる場合、有機TFTが高精細な画素内に配置されるため、フォトリソプロセスによって非常に微細なパターニングが行なわれる。しかし、図10に示される構造のように金属酸化物を電荷注入層として用いた場合、金属酸化物が現像液やエッチング液に溶解し、電極剥離が起こってしまうため、ソース・ドレイン電極のパターニング工程で行なうフォトリソプロセスに対応できないという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電荷注入効率の高いp型有機薄膜トランジスタ、および、金属酸化物を電荷注入層として用いても、金属酸化物が溶解することで電極剥離を起こすことのないp型有機薄膜トランジスタの製造方法、ならびに、この製造方法に用いる塗布溶液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究した結果、あらかじめソース・ドレイン電極をフォトリソグラフィによりパターニングし、その基板上に金属酸化物が溶解した溶液を塗布し、ソース・ドレイン電極上に電荷注入層となる金属酸化物層を形成する手法を見出すことで本発明を成すに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るp型有機薄膜トランジスタは、絶縁基板上に設けられたゲート電極と、前記ゲート電極を被覆して設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極およびドレイン電極の表面に設けられた金属酸化物層と、前記ゲート絶縁層上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間に設けられたp型有機半導体層と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれるp型有機薄膜トランジスタにおいて、p型有機半導体層とソース・ドレイン電極界面に金属酸化物層が設けられているため、電荷注入障壁が低減され、電荷注入効率が向上する。
【0014】
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタは、絶縁基板上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極およびドレイン電極の表面に設けられた金属酸化物層と、前記絶縁基板上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間、および、前記金属酸化物層上に設けられたp型有機半導体層と、前記p型有機半導体層上に設けられたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に設けられたゲート電極と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、トップゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれるp型有機薄膜トランジスタにおいて、p型有機半導体層とソース・ドレイン電極界面に金属酸化物層が設けられているため、電荷注入障壁が低減され、電荷注入効率が向上する。
【0016】
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタは、前記金属酸化物層が、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、レニウム酸化物のうちの少なくとも一種からなることを特徴とする。
【0017】
これらの金属酸化物を用いることで、ソース電極から有機半導体層への電荷注入障壁が低減される。また、入手が容易であり、経済性が向上する。
【0018】
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁基板上にゲート電極を設けるゲート電極形成工程と、前記ゲート電極を被覆してゲート絶縁層を設けるゲート絶縁層形成工程と、前記ゲート絶縁層上にソース電極およびドレイン電極を設けるソース・ドレイン電極形成工程と、前記ソース電極およびドレイン電極の表面に金属酸化物層を設ける金属酸化物層形成工程と、前記ゲート絶縁層上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間に、p型有機半導体層を設けるp型有機半導体層形成工程と、を含み、前記ゲート絶縁層の表面エネルギーが40mN/m以下であり、前記金属酸化物層形成工程は、金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することにより、前記金属酸化物層を形成することを特徴とする。
【0019】
このような製造方法によれば、ゲート絶縁層の表面エネルギーが40mN/m(=mJ/m)以下であるため、金属酸化物層形成工程において、塗布溶液を塗布した後に、塗布溶液がゲート絶縁層の表面に残存せず、ソース電極の表面およびドレイン電極の表面にのみ、金属酸化物層が形成される。
【0020】
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁基板上にソース電極およびドレイン電極を設けるソース・ドレイン電極形成工程と、前記ソース電極およびドレイン電極の表面に金属酸化物層を設ける金属酸化物層形成工程と、前記絶縁基板上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間、および、前記金属酸化物層上にp型有機半導体層を設けるp型有機半導体層形成工程と、前記p型有機半導体層上にゲート絶縁層を設けるゲート絶縁層形成工程と、前記ゲート絶縁層上にゲート電極を設けるゲート電極形成工程と、を含み、前記絶縁基板の表面エネルギーが40mN/m以下であり、前記金属酸化物層形成工程は、金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することにより、前記金属酸化物層を形成することを特徴とする。
【0021】
このような製造方法によれば、絶縁基板の表面エネルギーが40mN/m以下であるため、金属酸化物層形成工程において、塗布溶液を塗布した後に、塗布溶液が絶縁基板の表面に残存せず、ソース電極の表面およびドレイン電極の表面にのみ、金属酸化物層が形成される。
【0022】
本発明に係る塗布溶液は、前記記載の金属酸化物層形成工程で用いる塗布溶液であって、溶媒に金属酸化物を溶解したものであることを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、溶媒に金属酸化物が溶解されていることで、前記金属酸化物層形成工程において金属酸化物層を形成するのに用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタは、効率的な電荷注入により、低電圧でより多くの電流を流すことができる。また、高精細な画素内に配置することもでき、ディスプレイ用駆動回路等に用いることもできる。
本発明に係るp型有機薄膜トランジスタの製造方法は、高密度に集積化されたp型有機薄膜トランジスタにおいても、電荷注入層となる金属酸化物層をソース電極の表面およびドレイン電極の表面にのみ、容易かつ高品質に設けることが可能である。したがって、効率的な電荷注入により、低電圧でより多くの電流を流すことができるp型有機薄膜トランジスタを提供することができる。
本発明に係る塗布溶液は、これを用いることで容易かつ簡便に金属酸化物層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るp型有機薄膜トランジスタの第1の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係るp型有機薄膜トランジスタの第2の形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る第1の形態のp型有機薄膜トランジスタの製造方法の工程を示す模式図である。
【図4】本発明に係る第2の形態のp型有機薄膜トランジスタの製造方法の工程を示す模式図である。
【図5】実施例における、電荷注入層が形成された素子と、電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を示すグラフである。
【図6】実施例における、電荷注入層が形成された素子と、電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を示すグラフである。
【図7】実施例における、各素子の閾値電圧と電荷注入層の成膜時に用いた酸化モリブデン溶液の濃度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例における、電荷注入層が形成された素子と、電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を示すグラフである。
【図9】実施例における、電荷注入層が形成された素子と、電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を示すグラフである。
【図10】従来のp型有機薄膜トランジスタの形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については、同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0027】
≪p型有機薄膜トランジスタ≫
まず、p型有機薄膜トランジスタ(以下、適宜、有機TFTという)について、図1、2を参照して説明する。
<第1実施形態>
本発明に係る有機TFTの第1の実施形態は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれる有機TFTに関するものである。
【0028】
図1に示すように、有機TFT10Aは、絶縁基板11上に設けられたゲート電極12と、ゲート電極12を被覆して設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられたソース電極14aおよびドレイン電極14b(以下、適宜、ソース・ドレイン電極14という)と、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に設けられた金属酸化物層15と、ゲート絶縁層13上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bとの間に設けられたp型有機半導体層(以下、適宜、半導体層という)16と、を備える。
以下、各構成について説明する。
【0029】
[絶縁基板]
絶縁基板11は、有機TFT10Aの土台となるものである。
絶縁基板11の材料としては、例えば、石英、シリコン等のガラス基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリカーボネート等の公知のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、表面が絶縁性処理されていれば、金属フォイル等も基板として用いることができる。
【0030】
[ゲート電極]
ゲート電極12は、絶縁基板11上に積層されて設けられる。図1に示すように、ゲート電極12は、ここでは絶縁基板11の中央に設けられているが、絶縁基板11全体に積層させてもよい。すなわち、ゲート電極12は、絶縁基板11上の少なくとも一部に設けられる。
【0031】
ゲート電極12の材料としては、例えば、Al、Cr、Au、In、Mo、低抵抗シリコン、酸化インジウム、酸化スズ、ITO(酸化インジウムスズ)、MoW、Al/Cr(左から順に積層)のような導電性金属や、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の多様な導電性ポリマーを用いることができる。ただし、絶縁基板11との密着性、ゲート電極12上に形成されるゲート絶縁層13の平坦性、パターン化のための加工性、および後続工程時に使われる化学物質に対する耐性等を考慮して適切な物質を選択する必要がある。
【0032】
[ゲート絶縁層]
ゲート絶縁層13は、ゲート電極12上に積層されて設けられる。なお、ゲート絶縁層13はゲート電極12上に設けるが、図1に示すように、ゲート電極12が絶縁基板11の中央に設けられている場合には、露出した絶縁基板11上にもゲート絶縁層13を設ける。有機TFT10Aにおけるゲート絶縁層13は、後記するように、所定の表面エネルギーを有している。
ゲート絶縁層13の材料としては、例えば、SiO、Ti、SiN、SiON、A1等の絶縁性の金属酸化物の他、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、サイトップ(登録商標)、テフロン(登録商標)等の絶縁性高分子を用いることができる。また、シランカップリング剤や長差アルキルを有するリン酸系の自己組織化単分子膜もゲート絶縁層の材料として用いることができる。
【0033】
[ソース電極およびドレイン電極]
ソース・ドレイン電極14は、これら電極間に所定の間隔を空けて、ゲート絶縁層13上に積層されて設けられる。
ソース・ドレイン電極14の材料としては、例えば、金、銀、ニッケル等の金属コロイド粒子を分散させた溶液もしくは銀等の金属粒子を導電材料として用いたペーストが挙げられる。また、後記するように、スパッタ法や蒸着法を用いる場合には、アルミニウム、モリブデン、クロム、チタン、タンタル、ニッケル、銅、銀、金、白金、パラジウム等の金属材料や、ITO等の透明導電膜材料を用いることができる。
【0034】
[金属酸化物層]
金属酸化物層15は、電荷注入層として設けられるものであり、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に設けられる。なお、図中、紙面上の左右の両端は有機TFT10Aの断面として、金属酸化物層15の図示を省略している。
【0035】
金属酸化物としては、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、レニウム酸化物、および、これらの混合物を用いることができる。
モリブデン酸化物としては、例えばMoO、バナジウム酸化物としては、例えばV、タングステン酸化物としては、例えばWO、レニウム酸化物としては、例えばReが挙げられる。
【0036】
ただし、これらの物質の酸化数は僅かに減少していてもよい。金属酸化物を用いると、後記する製造工程において、金属酸化物の酸化数が全体で僅かに減少する。これにより、酸素が外れた部位に電子が結合して電子の授受が行われ、より電荷注入効率が高くなる。
なお、金属酸化物層15には、有機化合物、高分子化合物等を含むことができる。また、金属酸化物層15の膜厚は、特に限定されないが10nm以下であることが好ましい。
【0037】
ここで、電荷注入層として導電性高分子を溶液に溶解させて用いるものもあるが、導電性高分子溶液は粘度が高いため、後記する製造工程において、ゲート絶縁層13上に残りやすく、これによりソース・ドレイン電極14間がリークしてしまい、良好なトランジスタ特性が得られなくなる。トランジスタの微細化(高精細化)が進むと、導電性高分子溶液がソース・ドレイン電極14間を跨いでゲート絶縁層13上に残る確率が高くなり、ディスプレイ駆動回路に用いた場合、歩留まり低下を引きこす。この問題は、特にソース電極14aとドレイン電極14bの間が10μm以下になると、顕著になる。
【0038】
[p型有機半導体層]
半導体層16は、ゲート絶縁層13上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bの間、すなわち、ゲート絶縁層13上のソース・ドレイン電極14が形成されていない部位に積層されて設けられる。なお、図1に示すように、半導体層16は、金属酸化物層15が形成されたソース電極14aおよびドレイン電極14bの上部の一部にまで設けられていてもよく、さらに図示しないが、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの上部全体にまで設けられていてもよい。
【0039】
本発明を構成する電荷注入層は、金属酸化物層15であることから、仕事関数が大きくp型有機半導体の接触抵抗を低減することに適しているため、本発明の有機TFT10Aは、有機半導体層として、p型有機半導体を用いることに適している。
【0040】
半導体層16の材料としては、例えば、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)や、ペンタセン、ナフタセン、チフェンオリゴマー、ペリレン、α−セキシフェニル、および、その誘導体や、ナフタレン、アントラセン、ルブレン、および、その誘導体や、コロネン、および、その誘導体や、金属含有フタロシアニン、金属非含有のフタロシアニン、および、その誘導体等の低分子半導体を用いることができる。あるいは、poly(2,5-bis(3-alkylthiophene-2-yl)thieno[3,2-b]thiophene)(PBTTT)や、チオフェンやフルオレンをベースとした、ポリアルキルチオフェン、ポリアルキルフルオレン、および、その誘導体等の高分子半導体を用いることができる。
【0041】
また、半導体層16の膜厚については特に制限はないが、得られるトランジスタ特性は、半導体層16の膜厚に大きく左右される場合が多い。その最適膜厚は、有機半導体の材料により異なるが、一般に数nmから100nmの範囲が好ましい。
【0042】
以上説明した有機TFT10Aにおいて、有機TFT10Aを駆動する際には、ゲート電極12に負電位(マイナス電位)、ソース電極14aに接地電位(0V、グランド)、ドレイン電極14bに負電位を印加する。これにより、ソース電極14aから半導体層16へ電荷が注入される。そして、本発明では、半導体層16とソース・ドレイン電極14の界面に金属酸化物層15が設けられているため、ソース電極14aから半導体層16へ、効率的に電荷が注入される。
【0043】
<第2実施形態>
本発明に係る有機TFTの第2の実施形態は、トップゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれる有機TFTに関するものである。
【0044】
図2に示すように、有機TFT10Bは、絶縁基板11上に設けられたソース電極14aおよびドレイン電極14bと、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に設けられた金属酸化物層15と、前記絶縁基板11上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bとの間、および、金属酸化物層15上に設けられたp型有機半導体層16と、p型有機半導体層16上に設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられたゲート電極12と、を備える。
以下、各構成について説明する。
【0045】
なお、絶縁基板11、ソース電極14a、ドレイン電極14b、半導体層16、金属酸化物層15等を構成する材料等については、前記第1実施形態における絶縁基板11、ソース電極14a、ドレイン電極14b、半導体層16、金属酸化物層15等と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0046】
[絶縁基板]
絶縁基板11は、有機TFT10Bの土台となるものである。有機TFT10Bにおける絶縁基板11は、後記するように、所定の表面エネルギーを有している。
【0047】
[ソース電極およびドレイン電極]
ソース・ドレイン電極14は、これら電極間に所定の間隔を空けて、絶縁基板11上に積層されて設けられる。
【0048】
[金属酸化物層]
金属酸化物層15は、電荷注入層として設けられるものであり、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に設けられる。なお、図中、紙面上の左右の両端は有機TFT10Bの断面として、金属酸化物層15の図示を省略している。
【0049】
[p型有機半導体層]
半導体層16は、絶縁基板11上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bの間、および、金属酸化物層15上に設けられる。すなわち、絶縁基板11上のソース・ドレイン電極14が形成されていない部位、および、ソース・ドレイン電極14に被覆された金属酸化物層15上に積層されて設けられる。
【0050】
[ゲート絶縁層]
ゲート絶縁層13は、半導体層16上に積層されて設けられる。
【0051】
[ゲート電極]
ゲート電極12は、ゲート絶縁層13上に積層されて設けられる。図2に示すように、ゲート電極12は、ここではゲート絶縁層13の中央に設けられているが、ゲート絶縁層13全体に積層させてもよい。すなわち、ゲート電極12は、ゲート絶縁層13上の少なくとも一部に設けられる。
【0052】
以上説明した有機TFT10Bにおいて、有機TFT10Bを駆動する際には、ゲート電極12に負電位(マイナス電位)、ソース電極14aに接地電位(0V、グランド)、ドレイン電極14bに負電位を印加する。これにより、ソース電極14aから半導体層16へ電荷が注入される。そして、本発明では、半導体層16とソース・ドレイン電極14の界面に金属酸化物層15が設けられているため、ソース電極14aから半導体層16へ、効率的に電荷が注入される。
【0053】
≪p型有機薄膜トランジスタの製造方法≫
次に、p型有機薄膜トランジスタの製造方法について、図3、4を参照して説明する。
<第1の製造方法>
図3(a)〜(e)に示すように、本発明に係る有機TFTの第1の製造方法は、前記第1実施形態に係る有機TFT10Aの製造方法であり、ゲート電極形成工程(図3(a))と、ゲート絶縁層形成工程(図3(b))と、ソース・ドレイン電極形成工程(図3(c))と、金属酸化物層形成工程(図3(d))と、p型有機半導体層形成工程(以下、適宜、半導体層形成工程という)(図3(e))と、を含む。
以下、各工程について説明する。
【0054】
[ゲート電極形成工程]
図3(a)に示すように、ゲート電極形成工程は、絶縁基板11上にゲート電極12を設ける工程である。
ゲート電極12は、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法、印刷法等の周知の成膜方法により形成することができる。
【0055】
[ゲート絶縁層形成工程]
図3(b)に示すように、ゲート絶縁層形成工程は、ゲート電極12を被覆してゲート絶縁層13を設ける工程である。すなわち、ゲート絶縁層13はゲート電極12上に設けるが、図3に示すように、ゲート電極12が絶縁基板11の中央に設けられている場合には、露出した絶縁基板11上にもゲート絶縁層13を設ける。
ゲート絶縁層13は、ゲート絶縁層13の材料を用いて、スピンコート法、スパッタ法、CVD法、印刷法等の周知の成膜方法により形成することができる。
【0056】
ここで、後記するように、有機TFT10Aの製造においては、金属酸化物層形成工程で溶媒に金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することによって、ソース・ドレイン電極14の表面にのみ金属酸化物層15を形成する。そのため、塗布した溶液がゲート絶縁層13の表面に残らないようにする必要があることから、ゲート絶縁層13の表面エネルギーを40mN/m以下とする。表面エネルギーを40mN/m以下とすることで、ゲート絶縁層13の表面に撥液性が付与され、塗布した溶液をはじき、ゲート絶縁層13上に塗布溶液が残存しない。
また、ゲート絶縁層13の表面エネルギーを40mN/m以下とすることで、ソース・ドレイン電極14の表面エネルギーよりも小さくなり、塗布された溶液がソース・ドレイン電極14上にのみ自己組織的に残り、金属酸化物層15のパターニングプロセスを省略することができる。
なお、ゲート絶縁層13は、表面に撥液性が付与されればよいが、基板作成プロセスで用いられる一般的な有機溶媒や水に対して、表面エネルギーが40mN/m以下であれば問題なく撥液性が付与されることから、本発明では、表面エネルギーを40mN/m以下とすることとした。
【0057】
このような表面エネルギーとするには、ゲート絶縁層13の材料として、例えばフッ素系の高分子材料等、表面エネルギーが40mN/m以下の材料を用いればよい。
あるいは、表面エネルギーが大きなゲート絶縁層13を用いる場合、表面処理を施すことにより、表面エネルギーを40mN/m以下にする。具体的には、ゲート絶縁層13が露出しているチャネル領域を、アルキル基やフッ素化アルキル基を有するシランカップリング剤やHMDS(ヘキサメチルジシラザン)で表面処理することにより、表面に自己組織化単分子膜を形成して表面エネルギーを40mN/m以下とする。また、長差アルキル基を有するリン酸系の自己組織化単分子膜も用いることができる。なお、表面エネルギーの大きな絶縁膜の上に表面エネルギーの小さな絶縁膜、すなわち、表面エネルギーが40mN/m以下の絶縁膜を積層させた構造を用いることもできる。なお、表面エネルギーの下限値は特に限定されるものではなく、低いほうが好ましいが、ゲート絶縁層13が接触するゲート電極12、ソース・ドレイン電極14や絶縁基板11との密着性がある程度必要であるため、10mN/m以上とすればよい。また、表面エネルギーは、例えばZismanプロット法やOwens-Wendt法により測定することができる。
【0058】
[ソース・ドレイン電極形成工程]
図3(c)に示すように、ソース・ドレイン電極形成工程は、ゲート絶縁層13上にソース電極14aおよびドレイン電極14bを設ける工程である。
ソース・ドレイン電極14は、例えば、フォトリソグラフィ法やディスペンサ法の他、スクリーン印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、反転オフセット印刷法等の印刷法により形成することができる。
【0059】
例えば、まず、金属や合金、透明導電膜材料を、全面にスパッタ法や蒸着法等によって成膜した後、レジスト材料を用い、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法で所望のレジストパターンを形成する。その後、酸等のエッチング液でエッチングすることにより所望のパターンを形成することができる。また、金属や合金、透明導電膜材料を、マスクを用いてスパッタ法や蒸着法で直接所望のパターンを形成することもできる。
【0060】
[金属酸化物層形成工程]
図3(d)に示すように、金属酸化物層形成工程は、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に金属酸化物層15を設ける工程である。
金属酸化物層15の形成は、金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布する工程と、塗布溶液をソース・ドレイン電極14上に残す工程からなる。
金属酸化物層15の形成について、スピンコート法を用いた場合について具体的に説明する。まず、ソース・ドレイン電極14がパターンニングされた基板(ソース・ドレイン電極14が形成された段階のもの)上、すなわち、ゲート絶縁層13上、および、ソース・ドレイン電極14上に溶液を塗布する。そして、ゲート絶縁層13の表面エネルギーが40mN/m以下であるため、溶液を塗布した後、この基板を回転させることで、塗布した溶液をソース・ドレイン電極14上にのみ残存させることができる。なお、より効率的にソース・ドレイン電極14上にのみ溶液を残存させる観点から、前記基板の回転速度は1000〜4000rpmが好ましい。
【0061】
また、スピンコート法以外の溶液の塗布方法として、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷等の各種印刷法、キャスティング法等の塗布法を用いることができる。これらの方法では、ゲート絶縁層13の表面エネルギーが40mN/m以下であるため、溶液を塗布した後、塗布後にゲート絶縁層13の表面をブローするだけで余分な溶液を吹き飛ばすことができる。これにより、電荷注入層である金属酸化物層15を、ソース・ドレイン電極14上にのみ形成することができる。なお、塗布溶液については後記する。
【0062】
このようにして金属酸化物を塗布成膜した後、ホットプレート上でアニール処理することで、溶媒を乾燥させ、ソース・ドレイン電極14上に金属酸化物層15を形成することができる。
【0063】
[p型有機半導体層形成工程]
図3(e)に示すように、半導体層形成工程は、ゲート絶縁層13上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bとの間に、半導体層16を設ける工程である。なお、図3に示すように、半導体層16は、金属酸化物層15が形成されたソース電極14aおよびドレイン電極14bの上部の一部にまで設けられていてもよく、さらに図示しないが、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの上部全体にまで設けられていてもよい。
半導体層16の形成方法は、低分子系有機半導体の場合には、真空蒸着法等が一般的であり、高分子系有機半導体の場合には、スピンコート法、印刷法およびインクジェット法等が一般的であるが、低分子系有機半導体においても高分子系有機半導体と同様の作成方法を用いることができる材料もある。
【0064】
<第2の製造方法>
図4(a)〜(e)に示すように、本発明に係る有機TFTの製造方法の第2の製造方法は、前記第2実施形態に係る有機TFT10Bの製造方法であり、ソース・ドレイン電極形成工程(図4(a))と、金属酸化物層形成工程(図4(b))と、p型有機半導体層形成工程(以下、適宜、半導体層形成工程という)(図4(c))と、ゲート絶縁層形成工程(図4(d))と、ゲート電極形成工程(図4(e))と、を含む。
以下、各工程について説明する。
【0065】
[ソース、ドレイン電極形成工程]
図4(a)に示すように、ソース・ドレイン電極形成工程は、絶縁基板11上にソース電極14aおよびドレイン電極14bを設ける工程である。
ここで、後記するように、本発明の有機TFT10Bの製造においては、金属酸化物層形成工程で溶媒に金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することによって、ソース・ドレイン電極14の表面にのみ金属酸化物層15を形成する。そのため、塗布した溶液が絶縁基板11の表面に残らないようにする必要があることから、絶縁基板11の表面エネルギーを40mN/m以下とする。表面エネルギーを40mN/m以下とすることで、絶縁基板11の表面に撥液性が付与され、塗布した溶液をはじき、絶縁基板11上に塗布溶液が残存しない。
また、絶縁基板11の表面エネルギーを40mN/m以下とすることで、ソース・ドレイン電極14の表面エネルギーよりも小さくなり、塗布された溶液がソース・ドレイン電極14上にのみ自己組織的に残り、金属酸化物層15のパターニングプロセスを省略することができる。
なお、絶縁基板11は、表面に撥液性が付与されればよいが、基板作成プロセスで用いられる一般的な有機溶媒や水に対して、表面エネルギーが40mN/m以下であれば問題なく撥液性が付与されることから、本発明では、表面エネルギーを40mN/m以下とすることとした。
【0066】
このような表面エネルギーとするには、絶縁基板11の材料として、例えばフッ素系の高分子材料等、表面エネルギーが40mN/m以下の材料を用いればよい。
あるいは、表面エネルギーが大きな絶縁基板11を用いる場合、表面処理を施すことにより、表面エネルギーを40mN/m以下にする。具体的には、絶縁基板11が露出しているチャネル領域を、アルキル基やフッ素化アルキル基を有するシランカップリング剤やHMDS(ヘキサメチルジシラザン)で表面処理することにより、表面に自己組織化単分子膜を形成して表面エネルギーを40mN/m以下とする。あるいは、表面エネルギーの小さな絶縁材料による表面コーティング処理、フッ素化プラズマ処理等を用いることでも表面エネルギーを40mN/m以下にすることができる。なお、表面エネルギーの下限値は特に限定されるものではなく、低いほうが好ましいが、絶縁基板11が接触するソース・ドレイン電極14との密着性がある程度必要であるため、10mN/m以上とすればよい。また、表面エネルギーは、例えばZismanプロット法やOwens-Wendt法により測定することができる。
その他、ソース・ドレイン電極14の形成方法は、前記第1の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0067】
[金属酸化物層形成工程]
図4(b)に示すように、金属酸化物層形成工程は、ソース電極14aおよびドレイン電極14bの表面に金属酸化物層15を設ける工程である。金属酸化物層15の形成方法は、ソース・ドレイン電極14がパターンニングされた基板(ソース・ドレイン電極14が形成された段階のもの)上、すなわち、絶縁基板11上、および、ソース・ドレイン電極14上に溶液を塗布すること以外は、前記第1の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0068】
[p型有機半導体層形成工程]
図4(c)に示すように、半導体層形成工程は、絶縁基板11上、かつ金属酸化物層15が形成されたソース電極14aとドレイン電極14bの間、および、金属酸化物層15上に半導体層16を設ける工程である。半導体層16の形成方法は、前記第1の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0069】
[ゲート絶縁層形成工程]
図4(d)に示すように、ゲート絶縁層形成工程は、半導体層16上にゲート絶縁層13を設ける工程である。ゲート絶縁層13の形成方法は、前記第1の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0070】
[ゲート電極形成工程]
図4(e)に示すように、ゲート電極形成工程は、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を設ける工程である。ゲート電極12の形成方法は、前記第1の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0071】
≪塗布溶液≫
次に、塗布溶液について説明する。
本発明に係る塗布溶液は、金属酸化物層形成工程(図3(d)、図4(b))で用いる塗布溶液であって、溶媒に金属酸化物を溶解したものである。
【0072】
溶媒としては、純水もしくはエタノール等のアルコール、もしくはトルエン、ジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
金属酸化物としては、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、レニウム酸化物、および、これらの混合物を用いることができる。モリブデン酸化物としては、例えばMoO、バナジウム酸化物としては、例えばV、タングステン酸化物としては、例えばWO、レニウム酸化物としては、例えばReが挙げられる。
【0073】
塗布溶液における金属酸化物の濃度は特に限定されないが、0.01〜0.05質量%であることが好ましい。この濃度範囲であれば、電荷注入障壁がより低減されるため、電荷注入効率がより高くなる。また、この塗布溶液は有機化合物、高分子化合物等を含むことができる。
【0074】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更は可能である。
【0075】
例えば、本発明の有機TFTは、必要に応じて封止層、遮光層等を設けることができる。
また、製造方法においても、各工程に悪影響を与えない範囲において、各工程の前後あるいは各工程の間に他の工程を含めてもよい。他の工程とは、例えば、絶縁基板を洗浄する洗浄工程や、ごみ等の不要物を除去する不要物除去工程等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
次に本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここでは、本発明に属さない構成についても適宜取り上げて、対比説明することとする。なお、本発明においては、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれる有機TFT10Aと、トップゲート・ボトムコンタクト構造と呼ばれる有機TFT10Bとは、その効果において差異はないため、本実施例では、代表して有機TFT10Aについて実験を行った。
【0077】
[第1実施例]
第1の実施例として、「J. AM. CHEM. SOC. VOL. 129, NO. 8, 2007 2224-2225」に記載の低分子半導体DNTTを用いて、図1に示す構造の有機TFTを以下の手順で作製した。
【0078】
(実施例1)
まず絶縁基板としてガラス基板を用い、この基板上にゲート電極となるAlを真空蒸着法で30nmの膜厚になるよう成膜した。
次に、ゲート絶縁層材料としてテフロンAF1600(三井・デュポンフルオロケミカル製)(表面エネルギー:15.7mN/m)をスピンコート法により成膜した後、90℃で30分、120℃で2時間の順に、ホットプレート上でベークし、膜厚150nmのゲート絶縁層を形成した。
【0079】
次に、ゲート絶縁層まで形成した基板の全面にAuを30nmの膜厚となるよう真空蒸着法で成膜した。そして、その基板上にレジストを塗布し、ソース・ドレイン電極のパターンを露光後、現像液でレジストを剥離した。その基板をAuのエッチング溶液に浸漬させソース・ドレイン電極のパターンにエッチングし、残っているレジストをアセトンに浸漬させ剥離した。次にイソプロピルアルコールで洗浄した後、窒素ブローでイソプロピルアルコールを乾燥させ、ソース・ドレイン電極が形成された基板を作製した。
【0080】
次に、三酸化モリブデン(高純度化学)を純水に分散させ、80℃に加熱した状態で3時間攪拌し、電荷注入層となる金属酸化物の塗布溶液の濃度を0.001質量%に調整した。ソース・ドレイン電極まで形成した前記基板をスピンコーター(ミカサ製:1H−D7)にセットし、この基板上に前記酸化モリブデン水溶液を、0.2μmのフィルターを通して滴下した後、基板を2000rpmの回転数で30秒間回転させた。この基板をホットプレートに移し、120℃の温度で30分ベークすることで、電荷注入層となる金属酸化物層を形成した。そして、電荷注入層まで成膜した基板上に低分子半導体DNTTを膜厚50nmとなるよう真空蒸着して半導体層を形成した。
【0081】
(実施例2)
実施例1に準じた作製方法において、金属酸化物の濃度のみを変更し、三酸化モリブデン(高純度化学)が0.005質量%となる塗布溶液を用いて電荷注入層を形成した有機TFTを作製した。
【0082】
(実施例3)
実施例1に準じた作製方法において、金属酸化物の濃度のみを変更し、三酸化モリブデン(高純度化学)が0.01質量%となる塗布溶液を用いて電荷注入層を形成した有機TFTを作製とした。
【0083】
(実施例4)
実施例1に準じた作製方法において、金属酸化物の濃度のみを変更し、三酸化モリブデン(高純度化学)が0.05質量%となる塗布溶液を用いて電荷注入層を形成した有機TFTを作製した。
【0084】
(実施例5)
実施例1に準じた作製方法において、金属酸化物の濃度のみを変更し、三酸化モリブデン(高純度化学)が0.1質量%となる塗布溶液を用いて電荷注入層を形成した有機TFTを作製した。
【0085】
(比較例1)
電荷注入層の効果を確認するため、実施例1と同様の素子構造において、電荷注入層を形成しないだけで他の作製プロセスは同一となる有機TFTを作製した。
【0086】
前記実施例3の電荷注入層が形成された素子と、前記比較例1の電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を図5、図6に示す。
図5に示されるように、電流値が10−5Aを超えるゲート電圧は、比較例1の素子が−20V程度であるのに対して、実施例3の素子では−15V程度であり、約5Vの低電圧化が達成されている。
ここで、トランジスタの動作電圧の指標となる閾値電圧は、図6にあるドレイン電流の1/2乗を取ったグラフの傾きから算出でき、傾きを取った直線を外挿した時に、横軸(ゲート電圧)と交わる点で与えられる。この方法で求められた閾値電圧は、比較例1の素子で−6.8V、電荷注入層が導入された実施例3の素子では−5.1Vであった。電荷注入層の効果により、実施例3の素子の閾値電圧が約半分にまで低電圧化されている。以上の結果からも分かるように、低分子半導体を用いた図1に示される有機TFTにおいて、酸化モリブデン溶液を用いた電荷注入層が効果的に機能していることが分かる。
【0087】
また、実施例1〜5、比較例1の有機TFTについて、各素子の閾値電圧と電荷注入層の成膜時に用いた酸化モリブデン溶液の濃度との関係を図7に示す。図7に示されるように、酸化モリブデン溶液の濃度が上昇するにつれて閾値電圧は低下し、0.01質量%以上で十分な特性改善効果が得られることが分かる。また、最適の溶液濃度を見積もると、0.01〜0.05質量%である。
【0088】
[第2実施例]
第2の実施例として、「JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 101, 054517 (2007) 054517-1-054517-5」に記載の高分子半導体PB16TTTを用いて、図1に示す構造の有機TFTを以下の手順で作製した。
【0089】
(実施例6)
実施例3と同様の作製方法で電荷注入層まで成膜した基板上に、トルエン溶液に0.3質量%の濃度で溶解させた高分子半導体PB16TTTをスピンコート法により成膜した後、150℃で30分、ホットプレート上でベークし、膜厚30nmの高分子半導体層を形成した。
【0090】
(比較例2)
電荷注入層の効果を確認するため、実施例6と同様の素子構造において、電荷注入層を形成しないだけで他の作製プロセスは同一となる有機TFTを作製した。
【0091】
実施例6の電荷注入層が形成された素子と、比較例2の電荷注入層が形成されていない素子のトランジスタ特性を図8、図9に示す。
図8に示されるように、電流値が10−7Aを超えるゲート電圧は、比較例2の素子が−16V程度であるのに対して、実施例6の素子では−4V程度であり、約12Vの低電圧化が達成されている。
また、図9から求めた閾値電圧は、比較例2の素子で−1.7V、電荷注入層が導入された実施例6の素子では−1.5Vであった。電荷注入層の効果により、実施例6の素子の閾値電圧が低電圧化されている。この結果からも分かるように高分子半導体を用いた有機TFTにおいても、酸化モリブデン溶液を用いた電荷注入層が効果的に機能していることが分かる。
【0092】
以上のように、本発明に係る有機TFTの製造方法によれば、ソース・ドレイン電極の表面、すなわち、半導体層とソース・ドレイン電極の界面に金属酸化物層を形成することができ、これにより、従来にはない形態である本発明の有機TFTを作製することができる。そしてこの有機TFTは、金属酸化物層が電荷注入層としての効果を十分に発揮し、電荷注入効率に優れるものである。
【符号の説明】
【0093】
10A、10B p型有機薄膜トランジスタ(有機TFT)
11 絶縁基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
14 ソース・ドレイン電極
14a ソース電極
14b ドレイン電極
15 金属酸化物層(電荷注入層)
16 p型有機半導体層(半導体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極を被覆して設けられたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の表面に設けられた金属酸化物層と、
前記ゲート絶縁層上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間に設けられたp型有機半導体層と、を備えたことを特徴とするp型有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
絶縁基板上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の表面に設けられた金属酸化物層と、
前記絶縁基板上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間、および、前記金属酸化物層上に設けられたp型有機半導体層と、
前記p型有機半導体層上に設けられたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上に設けられたゲート電極と、を備えたことを特徴とするp型有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記金属酸化物層が、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、レニウム酸化物のうちの少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のp型有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
絶縁基板上にゲート電極を設けるゲート電極形成工程と、
前記ゲート電極を被覆してゲート絶縁層を設けるゲート絶縁層形成工程と、
前記ゲート絶縁層上にソース電極およびドレイン電極を設けるソース・ドレイン電極形成工程と、
前記ソース電極およびドレイン電極の表面に金属酸化物層を設ける金属酸化物層形成工程と、
前記ゲート絶縁層上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間に、p型有機半導体層を設けるp型有機半導体層形成工程と、を含み、
前記ゲート絶縁層の表面エネルギーが40mN/m以下であり、
前記金属酸化物層形成工程は、金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することにより、前記金属酸化物層を形成することを特徴とするp型有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
絶縁基板上にソース電極およびドレイン電極を設けるソース・ドレイン電極形成工程と、
前記ソース電極およびドレイン電極の表面に金属酸化物層を設ける金属酸化物層形成工程と、
前記絶縁基板上、かつ前記金属酸化物層が形成されたソース電極とドレイン電極との間、および、前記金属酸化物層上にp型有機半導体層を設けるp型有機半導体層形成工程と、
前記p型有機半導体層上にゲート絶縁層を設けるゲート絶縁層形成工程と、
前記ゲート絶縁層上にゲート電極を設けるゲート電極形成工程と、を含み、
前記絶縁基板の表面エネルギーが40mN/m以下であり、
前記金属酸化物層形成工程は、金属酸化物を溶解した塗布溶液を塗布することにより、前記金属酸化物層を形成することを特徴とするp型有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の金属酸化物層形成工程で用いる塗布溶液であって、溶媒に金属酸化物を溶解したものであることを特徴とする塗布溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−165778(P2011−165778A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24978(P2010−24978)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】