説明

がんを処置するためのHAMLET及びHDAC阻害剤の治療的組み合わせ物

HAMLET若しくはその生物学的に活性な修飾物又はこれらのいずれかの生物学的に活性な断片である構成要素(i)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である構成要素(ii)の組み合わせ。この組み合わせは、例えば増殖性疾患、例えば腫瘍を産生する疾患の処置に相乗効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増殖性疾患、例えばがんのような腫瘍を発生させる疾患の処置に特に有効であることが見出された生物学的に活性な構成要素の組み合わせ物に関する。
【背景技術】
【0002】
HAMLET(Human α−lactalbumin made lethal to tumour cells)は、腫瘍細胞の細胞死を誘導する分子複合体である。実際にこの効果は、腫瘍細胞及び一部の未熟細胞に選択的であり、そして健康な分化した細胞は、HAMLETに反応して細胞死を受けることはない。この選択性は、HAMLETが腫瘍細胞に独特な標的に到達するが、抵抗性細胞には到達しないことを意味している。
【0003】
類似の活性を有するこの複合体の生物学的に活性な変異体又は誘導体は、例えば、国際特許出願第PCT/IB03/01293号に記載されている。
【0004】
HAMLETの細胞標的は、共焦点顕微鏡法及び細胞下分画法(subcellular fractionation)を組み合わせることによって調べられている[Hakanssonら、1999 Exp Cell Res.246、451−60]。HAMLETは細胞表面に結合し、そして細胞質に入り、ここでミトコンドリアと相互作用し、そしてミトコンドリアを活性化する。最終的に、このタンパク質は細胞核に入り、ここに蓄積する。
【0005】
本発明者らは耐性細胞及び感受性細胞が、同様の効率でその細胞表面にHAMLETを結合することを見出し、これは際立った事象ではないことを示唆している。対照的に核での蓄積は、瀕死の細胞にしか生じておらず、この段階が感受性細胞と抵抗性細胞とを区別していることを示唆している。共焦点顕微鏡法によれば、この核での蓄積は不可逆的なようであり、核分画においてHAMLETを結合しそしてHAMLETを保持する核標的の存在を示唆している。
【0006】
本発明者らは、HAMLETの核内分布をより精密に試験し、そしてこのタンパク質が、核小体に対応する領域に選択的に局在化することを見出し、これはHAMLETが、クロマチン構造の調節に関与する分子と相互作用することを意味していると結論付けた。
【0007】
さらなる研究の結果として、HAMLETの核標的が同定された。驚くべきことに、ヒストンテールの存在とは無関係の様式で、HAMLETは特異的なヒストンタンパク質と相互作用することが見出された(WO2003/098223を参照のこと)。従って、この相互作用は、細胞を死の経路に不可逆的に閉じ込める事象であり得るようである。HAMLETは、抗腫瘍分野においてこの作用様式を有する点で独特なようである。
【0008】
しかし、その作用機構、及び特にクロマチン摂動(chromatine perturbation)の機構については何もわかっておらず、そして細胞生存能に対する効果もわかっていない。
【0009】
ヒストンアセチラーゼ(HAT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、それぞれヒストンテールのリジン残基のアセチル化及び脱アセチル化を調節する。ヒストンアセチル化の増大は、負荷電塩基との静電相互作用を減弱させ、ヒストンとDNAとの相互作用を減少させ、そして転写因子が標的遺伝子に接近できるようにする。
【0010】
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、がん抑制遺伝子を含む複数の遺伝子の転写を抑制するので、多発性がんに関与している。
【0011】
HDACは、ヒトのがんを処置する酵素的阻害剤の開発のための分子標的として浮上してきた。HDACは一般に、腫瘍で過剰発現され、そしてp21WAF1及びP27KIP1のような抗腫瘍遺伝子の転写を遮断することにより、腫瘍細胞が長く生きることを促進している。多くのHDAC阻害剤が、種々のヒト悪性腫瘍に対するその活性により、インビボ及びインビトロで現在使用されている。
【0012】
例えば、HDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)及びスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、インビボ及びインビトロの両方で、それぞれ乳癌及び前立腺癌に対して活性を有することが示されており、また最近デプシペプチドも、早期の第一相/第二相試験において、T細胞リンパ腫の処置中に臨床活性を有することが示された。
【0013】
さらに、HDAC阻害剤は、がん治療において他の抗腫瘍薬と併用して使用されており、様々な程度で成功を収めている。例えば化学療法剤とともに使用されるとき、併用効果は、相乗的から拮抗的、すなわち毒性を増大するまでに変動する。
【0014】
HDAC阻害剤を、脱メチル化剤、核内受容体リガンド、シグナル伝達阻害剤及びHsp90アンタゴニスト並びにプロテアソーム阻害剤と併用したときの、増強効果又は相乗効果が注目された(Drummondら、前出)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
HDAC阻害剤が他の処置を促進する相互作用は、完全には理解されていない。しかし、公知の治療薬のいずれか、例えばHAMLETとは完全に異なる作用様式を有する分子を扱うとき、特に両方の薬剤が同じ標的に、すなわちヒストンに、たとえヒストン分子内の異なる部位であっても、直接相互作用するようである場合には、どのようにHDAC阻害剤との併用治療が作用するかは予測不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
しかし、HAMLETはHDAC阻害剤ではないにもかかわらず、HDAC阻害剤と一緒に使用すると、HAMLET誘導性の細胞死を相乗的な様式で増強し、新しい併用治療アプローチをもたらすことが本発明者らによって見出された。
【0017】
本発明によれば、HAMLET若しくはその生物学的に活性な修飾物又はこれらのいずれかの生物学的に活性な断片である構成要素(i)、及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である構成要素(ii)の組み合わせ物が提供される。
【0018】
本明細書で使用される用語「HAMLET」は、α−ラクトアルブミン(これは、ヒト起源であってもヒト起源ではなくてもよい)の生物学的に活性な複合体をいい、これは例えばEP−A−0776214に記載されるように、陰イオン交換クロマトグラフィーとゲルクロマトグラフィーを組み合わせることによってpH4.6で沈殿している乳汁のカゼイン画分から単離するか、又はWO99/26979に記載されるように、C18:1脂肪酸として特徴付けられるヒト乳汁カゼイン由来の補因子の存在下でα−ラクトアルブミンをイオン交換クロマトグラフィーに付すのいずれかによって得られ得る。
【0019】
生物学的に活性な複合体を形成するために、α−ラクトアルブミンは一般に、コンホメーション変化またはフォールディング変化及び脂質補因子の存在の両方を必要とする。このコンホメーション変化は、α−ラクトアルブミンからカルシウムイオンを除去することによって適切に誘起される。好ましい実施態様において、これは機能的なカルシウム結合部位を有さないα−ラクトアルブミンの変異体を使用することで、適切に促進される。
【0020】
このような変異体を含む生物学的に活性な複合体は、本明細書で使用される用語HAMLETの「修飾物」に包含される。しかし、一旦形成されれば、機能的なカルシウム結合部位及び/又はカルシウムが存在しても、この複合体の安定性にも生物学的活性にも影響を及ぼさないことが本発明者らによって見出された。生物学的に活性な複合体は、活性を損なうことなくカルシウムに対する親和性を保持することが見出された。従って、本発明の複合体は、カルシウムイオンをさらに含み得るものである。
【0021】
従って特に本発明は、生物学的に活性な複合体を使用するものであり、これはアポフォールディング状態のα−ラクトアルブミン若しくはα−ラクトアルブミンの変異体、又はこれらのいずれか一方の断片、及びこの複合体を生物学的に活性な形態で安定化する補因子を含むものであり、但し、α−ラクトアルブミン又はその変異体のすべての断片は、αドメインとβドメインとの間の界面を形成するα−ラクトアルブミンの領域に対応する領域を含むものとする。
【0022】
好適には、この補因子は、シスC18:1:9若しくはC18:1:11脂肪酸であるか、又は類似の立体配置を有する異なる脂肪酸である。
【0023】
特に都合の良い実施態様において、本発明で使用される生物学的に活性な複合体は、以下
(i)シスC18:1:9若しくはC18:1:11脂肪酸又は類似の立体配置を有する異なる脂肪酸;及び
(ii)カルシウムイオンが除去されているα−ラクトアルブミン、又はカルシウムイオンが遊離しているか若しくは機能的なカルシウム結合部位を有さないα−ラクトアルブミンの変異体;又はこれらのいずれか一方の断片を含むものであり、但しすべての断片はαドメインとβドメインとの間の界面を形成するα−ラクトアルブミンの領域に対応する領域を含むものとする。
【0024】
本明細書で使用される表現「変異体」は、基礎となるタンパク質(好適には、ヒト又はウシのα−ラクトアルブミン)に相同であるが、由来している塩基配列とは、配列内の1つ又はそれ以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換される点が異なるポリペプチド又はタンパク質をいう。アミノ酸が、概して類似の性質を有する異なるアミノ酸で置換される場合、アミノ酸置換は「保存的」とされ得る。非保存的置換とは、アミノ酸が、異なるタイプのアミノ酸で置換される場合である。大まかに言って、非保存的置換がより少ないと、ポリペプチドの生物学的活性を変化させずにすむことが可能である。好適には変異体は、少なくとも60%同一であり、好ましくは少なくとも70%同一であり、なおより好ましくは80%若しくは85%同一であり、そして特に好ましくは90%、95%若しくは98%又はそれ以上の同一性である。
【0025】
この場合の同一性は、例えばBLASTプログラム又はLipman−Pearsonのアルゴリズムを、Ktuple:2、gap penalty:4、Gap Length Penalty:12という標準的なPAMスコアリングマトリックスとともに用いて判定され得る(Lipman,D.J.及びPearson,W.R.、Rapid and Sensitive Protein Similarity Searches、Science、1985、第227巻、1435−1441)。
【0026】
用語「その断片」は、完全なα−ラクトアルブミンアミノ酸配列を含む複合体と類似の活性を有する複合体を形成することになる、所定のアミノ酸配列の任意の部分をいう。断片は、全長タンパク質のうちの2以上の部分が互いに結合されたものを含み得る。部分は好適には、基礎となる配列から少なくとも5つ及び好ましくは少なくとも10の連続したアミノ酸を含むものである。
【0027】
好適な断片は、欠失変異体であり、好適には少なくとも20のアミノ酸長、及びより好ましくは少なくとも100のアミノ酸長を含むものである。この断片は、タンパク質由来の小さな領域又はこれらの組み合わせを含むものである。
【0028】
αドメインとβドメインとの間の界面を形成する領域は、ヒトα−ラクトアルブミンにおいては、この構造中のアミノ酸34〜38及び82〜86で画成される。従って好適な断片は、これらの領域、及び好ましくはネイティブタンパク質のアミノ酸34〜86の全体の領域を含むものである。
【0029】
特に好ましい実施態様において、生物学的に活性な複合体は、カルシウムに対する親和性が減少するか、又はもはや機能的ではないようにカルシウム結合部位が修飾されているα−ラクトアルブミンの変異体を含むものである。
【0030】
ウシα−ラクトアルブミンにおいて、カルシウム結合部位は、残基K79、D82、D84、D87及びD88によって配位されることが見出された。従って、例えば1つ又はそれ以上の酸性残基を除去することによるこの部位の修飾物又は非ウシα−ラクトアルブミンでのその等価物は、この部位のカルシウム親和性を減少し得るか、又は機能を完全に排除し得ることになり、そしてこのタイプの突然変異体は、本発明の好ましい側面である。
【0031】
ウシα−ラクトアルブミンのCa2+結合部位は、310へリックス及びα−へリックスからなり、短いターン領域が2つのへリックスを隔てている(Acharya K.R.ら(1991)J Mol Biol 221、571−581)。これは、2つのジスルフィド架橋が側面に位置しており、分子のこの部分を相当に固定している。Ca2+を配位する7つの酸素基のうち5つは、Asp82、87及び88の側鎖のカルボキシレート、又はLys79及びAsp84のカルボニル酸素基によって与えられる。2つの水分子が、残りの2つの酸素基を供給する(Acharya K.R.ら、(1991)J Mol Biol 221、571−581)。
【0032】
87番目のアスパラギン酸からアラニンへの部位特異的突然変異誘発(D87A)は、カルシウム結合部位を強力に不活性化することが以前に示されており(Anderson P.J.ら、(1997)Biochemistry 36、11648−11654)、そしてこの突然変異体タンパク質は、アポコンホメーションをとった。
【0033】
従って特定の実施態様において、ウシα−ラクトアルブミンタンパク質配列内のアミノ酸87番目のアスパラギン酸残基は、非酸性残基で、特に非極性側鎖又は非荷電の極性側鎖に突然変異される。
【0034】
非極性側鎖残基としては、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン又はシステインが挙げられる。特に好ましい例はアラニンである。
【0035】
非荷電の極性側鎖残基としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン又はチロシンが挙げられる。
【0036】
突然変異体タンパク質の構造のひずみを最小限にするために、D87はまた、アスパラギン(N)で置き換えられており(Permyakov S.E.ら、(2001)Proteins Eng 14、785−789)、これは、カルボキシレート基の補償されていない(non−compensated)負電荷を欠失するが、同じ側鎖体積及び幾何構造を有している。この突然変異体タンパク質(D87N)は、低い親和性でしかカルシウムを結合しないことが示された(K−Ca2×105-1)(Permyakov S.E.ら、(2001)Proteins Eng 14、785−789)。このような突然変異体は、本発明のさらに好ましい実施態様において、生物学的に活性な複合体の要素を形成している。
【0037】
従って、本発明の複合体で使用するのに特に好ましい変異体は、α−ラクトアルブミンのD87A変異体及びD87N変異体、又はこの突然変異を含む断片である。
【0038】
分子のこの領域は、ウシとヒトとのタンパク質間で異なっており、3つの塩基性アミノ酸のうちの1つ(R70)が、ウシα−ラクトアルブミンではS70に変化しており、従って配位している側鎖が1つ脱離している。従って、ウシα−ラクトアルブミンが本発明の複合体に使用される場合、すなわちS70R突然変異体が使用される場合が好ましいものであり得る。
【0039】
Ca2+結合部位は、いろいろな種由来のα−ラクトアルブミンにおいて、100%保存されており(Acharya K.R.ら、(1991)J Mol Biol 221、571−581)、タンパク質にとってこの機能が重要であることを明らかにしている。これには、5つの異なるアミノ酸及び2つの水分子が配位している。D87の側鎖カルボキシレートは、D88と一緒になって最初にカルシウムイオンを陽イオン結合領域にドッキングさせ、そして構造を安定化させる分子内水素結合を形成する(Anderson P.J.ら、(1997)Biochemistry 36、11648−11654)。D87又はD88のいずれかが欠失すると、Ca2+結合が弱まり、そして部分的にアンフォールディングな状態で分子を安定化することが示されている(Anderson P.J.ら、(1997)Biochemistry 36、11648−11654)。
【0040】
さらに、ウシα−ラクトアルブミンのカルシウム結合部位に2つの異なる点突然変異を有する突然変異体タンパク質が使用され得る。例えば、87番目のアスパラギン酸がアラニンで置換されると(D87A)、カルシウム結合が完全に消失し、そしてタンパク質の三次構造が崩壊することが見出されている。アスパラギンによるアスパラギン酸の置換、すなわちタンパク質(D87N)は、なおカルシウムを結合するが、親和性がより低く、そして三次構造の消失を示すが、D87A突然変異体ほど顕著ではない(Permyakov S.E.ら、(2001)Proteins Eng 14、785−789)。この突然変異体タンパク質は、両方のアミノ酸が同じ平均体積125Å3を有するため充填体積が最小限の変化しか示さず、そしてアスパラギンなどのカルボキシレート側鎖によりタンパク質がカルシウムを配位するのを可能にするが、効率はより悪い(Permyakov S.E.ら、(2001)Proteins Eng 14、785−789)。両方の突然変異体タンパク質は、生理的温度でアポ−コンホメーションで安定であるが、このコンホメーション変化にもかかわらず、これらは生物学的に不活性であった。この結果は、アポ−コンホメーションへのコンホメーション変化だけでは生物学的活性を誘導するのに十分ではないことを示している。
【0041】
α−ラクトアルブミンの構造は当該分野で公知であり、そして本明細書で言及される残基の正確なアミノ酸番号付けは、例えばAndersonら、前出及びPermyakovら、前出に示される構造を参照することにより同定され得る。
【0042】
しかし特に好ましい実施態様において、組み合わせの構成要素(i)は、ヒト乳汁から得られ得るHAMLETである。
【0043】
構成要素(ii)に関して、公知のHDAC阻害剤の6つの主要なクラスが存在しており、そしてこれらは、以下に要約され得る:
A.低分子量(例えば、150未満の分子量)のHDAC阻害性カルボン酸又はその薬学的に受容可能な塩若しくは薬学的に受容可能なエステル、例えば酪酸塩(例えば、酪酸ナトリウム)、バルプロ酸又はその薬学的に受容可能な塩若しくは薬学的に受容可能なエステル、フェニル酪酸又はその薬学的に受容可能な塩若しくは薬学的に受容可能なエステル(例えば、フェニル酪酸ナトリウム又は酪酸ピバリルオキシメチル(AN9))。
【0044】
B.ヒドロキサム酸、例えば以下の構造(i)のスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)
【化1】

【0045】
以下の構造(ii)のNVP−LAQ−824
【化2】

【0046】
以下の構造(iii)のm−カルボキシ桂皮酸ビスヒドロキサム酸(CBHA)
【化3】

【0047】
以下の構造(iv)のスベリン酸ビスヒドロキサム酸(SBHA)
【化4】

【0048】
以下の構造(v)のJNJ16241199
【化5】

【0049】
以下の構造(vi)のプロキサミド(Proxamide)
【化6】

【0050】
以下の構造(vii)のスクリプタイド(Scriptaid)
【化7】

【0051】
以下の構造(viii)のオキサムフラチン(Oxamflatin)
【化8】

【0052】
以下の構造(ix)のトリコスタチンA(TSA)
【化9】

【0053】
以下の構造(x)のツバシン(Tubacin)
【化10】

【0054】
以下の構造(xi)の6−(3−クロロフェニルウレイド)カプロン酸ヒドロキサム酸(3−Cl−UCHA)
【化11】

及び以下の構造(xiii)のA−161906
【化12】

【0055】
C.ベンズアミド、例えば以下の構造(xiv)のMS−275
【化13】

又は以下の構造(xv)のN−アセチルジナリン(CI−994)
【化14】

【0056】
D.エポキシケトン、例えば以下の構造(xvi)の2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシデカン酸(AOE)
【化15】

又は以下の構造(xvii)のトラポキシン(Trapoxin)(TPX)
【化16】

【0057】
E.環状ペプチド、例えばアピシジン(Apicidin)若しくはデプシペプチド;又は
F.ハイブリッド分子、例えば環状ヒドロキサム酸含有ペプチド(CHAP31)若しくはCHAP50。
【0058】
構成要素(ii)は、好適には上記の群A〜Eに入る1つ又はそれ以上の阻害剤を含むものである。
【0059】
特に、本発明の組み合わせ物は、構成要素(ii)のようなHDAC阻害性ヒドロキサム酸を含み、そしてこれは、好適にはSAHA又はTSAから選択される。
【0060】
本発明の組み合わせ物の構成要素は、好適には薬学的に受容可能なキャリア又は賦形剤をさらに含む薬学的組成物の形態で与えられる。
【0061】
これらは、単一製剤に一緒に組み合わせることもできるが、好ましくは、構成要素(i)及び構成要素(ii)が別々に投与できるように包装され、例えば逐次的に、構成要素(ii)が前処置として使用され、そして構成要素(i)がその次に投与される。
【0062】
このように、個々の構成要素の投与様式は異なり得る。例えば、構成要素(i)は一般に、腫瘍部位に直接適用される必要があり、従って好適にはこれを容易にする方法で製剤化される。例えば構成要素(i)は、処置されている腫瘍の位置に応じて局所組成物、注入、坐剤又は吸入若しくは吹入用組成物の形態であり得る。
【0063】
構成要素(ii)は、全身的に活性であり得るものであり、従ってより広範な経路、例えば経口又は非経口、及び構成要素(i)に関する使用についての上記の経路を用いて投与され得る。
【0064】
構成要素(i)及び構成要素(ii)を互いに混合する場合、これらは構成要素(i)に関する上記の方法による投与用に適切に製剤化してもよい。
【0065】
従って、意図される投与様式如何により、組成物は、経口使用(例えば、錠剤、ロゼンジ剤、硬カプセル剤若しくは軟カプセル剤、水性懸濁剤若しくは油性懸濁剤、エマルジョン剤、分散性散剤若しくは顆粒剤、シロップ剤又はエリキシル剤として)、局所使用(例えば、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤又は水性若しくは油性の液剤若しくは懸濁剤として)、吸入による投与(例えば、微粉化散剤又は液体エアゾール剤として)、吹入による投与(例えば、微粉化散剤として)又は非経口投与(例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与若しくは筋肉内投薬のための滅菌水性液剤若しくは滅菌油性液剤、又は直腸投薬のための坐剤として)に適する形態であり得る。
【0066】
好適な薬学的に受容可能なキャリア又は賦形剤は、当該分野でよく理解されている。これらは、薬学的に受容可能な固体又は液体の賦形剤を含む。
【0067】
特に好ましい実施態様において、組成物は、局所使用に好適な形態、例えばクリーム剤、軟膏剤、ゲル剤又は水性若しくは油性の液剤若しくは懸濁剤としての薬学的組成物である。これらは、薬学的に受容可能な一般に知られたキャリア、増量剤及び/又は添加剤(expedient)を含み得る。
【0068】
局所液剤又はクリーム剤は、好適には、賦形剤又はクリーム基剤と一緒のタンパク質複合体用の乳化剤を含んでいる。
【0069】
活性化合物の日用量は変動するものであり、そして通常の実際の臨床に従って、処置されている患者、疾患状態の性質などに左右される。原則として、各投与につき構成要素(i)は用量当たり2〜200mg使用される。
【0070】
構成要素(ii)は、好適には標準的な治療量で投与される。例えば、体重1kg当たり0.5mg〜75mgの範囲の日用量を投与する。
【0071】
本発明によればさらに、増殖性疾患、例えば腫瘍及び特にがんの処置における使用のため、並びに前腫瘍状態、例えばウイルスによる形質転換を通じて引き起こされ得る疾患状態の処置において使用するための上記のような組み合わせを提供する。
【0072】
上記のような組み合わせは、腫瘍又は他の増殖性疾患、例えばがん、及び乳頭腫及びウイルス感染、例えばHPV、特に子宮頸がんに関連したHPV型(HPV16及び18)の感染の結果として形質転換されている細胞の処置に特に好適である。
【0073】
特にこの組み合わせは、悪性の粘膜腫瘍又はがん、例えば膀胱がん、メラノーマ、器官のがん、特に脳腫瘍、及び血管新生の阻害が望ましいあらゆる他の疾患状態、例えばがんの処置に使用され得るものである。
【0074】
好適には、この組み合わせ物は、構成要素(ii)が第一に投与され、そして構成要素(i)がその次、例えば構成要素(ii)の投与後1時間と24時間との間、好適にはおよそ2〜12時間後に投与される逐次処置に使用される。この場合、構成要素(ii)は、上記のように全身投与され得るし、そして構成要素(i)は、その後腫瘍部位に投与され得る。
【0075】
しかし、この組み合わせ物のそれら構成要素は、共投与(coadministered)、特に単一製剤で腫瘍部位に共投与してもよい。
【0076】
本発明のさらなる側面は、腫瘍若しくは他の増殖性疾患、例えばがん、又は前腫瘍疾患状態を処置する方法を提供するものであり、この方法は、上記の組み合わせ物をこの処置を必要とする患者に投与することを含む。特に、組み合わせ物の構成要素(ii)は、前処置として投与され、そして構成要素(i)は、その次に投与される。
【0077】
本発明者らは、ヒストンアセチル化が、HAMLETの結合に影響を及ぼすか否か、そしてクロマチンとのHAMLETの相互作用が、アセチル化によって修飾されるか否かを見出す研究を行った。
【0078】
HDAC阻害剤であるTSA及びSAHAを用いて、アセチル化クロマチンを有する細胞は、HAMLETにより感受性であるが、これは、ヒストン尾部とのHAMLETの相互作用に起因していないことが見出された。しかしこの研究過程の間に、HDAC阻害剤がHAMLETの効果を有意に促進することがさらに注目された。細胞死反応の顕著な増大が注目された。
【0079】
特に、HDAC阻害剤であるTSA及びSAHAで前処理された細胞は、HAMLETにはるかに感受性であることが見出された。この前処理は、断片化DNAを示す細胞の増大を引き起こしている。
【0080】
一般にHDAC阻害剤に長期曝露された後に得られたこの効果は、HDAC阻害剤の投与後短時間で(2時間)HAMLETを投与したときでさえも観察され、これはHAMLETの機構がタンパク質(p21WAF1及びp27KIP1)新合成とは独立しているということを示し得るものである。しかし細胞感受性の増大は、HAMLETでの処理の前にHDAC阻害剤を長期使用した後でさえも持続した。
【0081】
これは、HAMLETが、がん細胞のDNA断片化の強力な誘発物質であり、これは、HDAC阻害剤により予想されるレベルよりも高いレベルまで増強され得ることを示している。
【0082】
クロマチンは、一定の構造修飾を受けており、そしてこの動的プロセスは、遺伝子発現の制御に不可欠である。真核生物系において、この転写プロセスは、主に標的DNAへの転写因子の接近によって厳重に制御されている。ヌクレオソームは、146bpのDNA及びヒストン八量体を形成する2つの四量体、H2A、H2B、H3及びH4によって形成されるクロマチンの基本的な構造要素である。
【0083】
ヒストンの翻訳後修飾は、「ヒストンコード(code)」を形成するリン酸化、メチル化、アセチル化、ユビキチン化及びSUMO化(sumoylation)を通じてクロマチン構造に影響を及ぼしている{Drummond、2005 Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.45:495−528}。
【0084】
特に、ヒストンアセチル化は、転写因子にクロマチンを開放することが示されており、一方脱アセチル化クロマチンは、コンパクトになっていて遺伝子転写が減少している。
【0085】
HAMLETは、ヒストン及びDNAからのヌクレオソームの集合にインビトロで影響を及ぼすため、ヒストンに対するHAMLETの親和性が確認された。さらにHAMLETは、前もって作られたヌクレオソームと相互作用し、そして高濃度のHAMLETは、クロマチンを崩壊させた。HAMLETのこのインビボ効果は、クロマチンアセチル化の状態にある程度依存していることが見出された。
【0086】
しかし、HAMLET自体はクロマチンのアセチル化を減少させることが示されているが、アセチル化を増大させるHDAC阻害剤と組み合わせて使用するとき、HAMLETに応答した強力に増強された細胞死を生じた。ヒストンテールは、HAMLETへの結合に関与しておらず、これは、テールを欠失する突然変異体ヒストンを用いて確認された。
【0087】
HAMLET及びHDAC阻害剤は、ヒストンアセチル化に関して反対の効果を有することが実施された研究から明らかであり、従って細胞死効果の増強は驚くべきことである。HAMLETは、HAT/HDAC系を介して作用せず、そしてHAMLETがアセチル化を変化させる機構は、HDAC阻害剤とは異なっている可能性があるようである。
【0088】
これは、これらの分子間の標的が異なっていることに関連し得る。HDACは、ヒストンテールと相互作用するが、HAMLETは、ヒストンテールが存在しなくてもまたヒストンに結合することが示された。
【0089】
HAMLETは、アセチル化が生じるヒストンテールと相互作用せずにクロマチンアセチル化を修飾する物質の最初の例のようである。アセチル化の減少は、HAMLETとヌクレオソームとの間の極めてタイトな集合体の形成と矛盾がない。これらの大きな集合体において、HAT/HDACがヒストンテールを利用できる可能性は減少し得る。従ってアセチル化の減少は、特異的な酵素経路での特異的な干渉よりもむしろ接近能が疑われ得る。
【0090】
アセチル化に起因して開いたクロマチンを有する細胞は、HAMLETの効果を受けやすく、一方閉じた脱アセチル化クロマチンを有する細胞は、観察された相乗作用を導くこれらの作用に対してより抵抗性である。
【0091】
HAMLETに応答した細胞死に関するHDAC阻害剤の効果を調べるために、一連の実験を行った。この場合、HDAC阻害剤を最初に適用し、そしてクロマチンアセチル化が増大した。コントロール実験は、タンパク質アセチル化が3時間以内に増大したことを示した。一実験において、短い前処理間隔を用いて、転写並びにp21WAF1及びP27KIP1のようなタンパク質の新合成を通じたHDAC阻害剤の非特異的効果を排除した。HDAC阻害剤は、ヒストンに加えていくつかのタンパク質のアセチル化を刺激するので、これは重要であった。
【0092】
その後、HAMLETに応答したDNA断片化は、ヒストンアセチル化レベルに相関し、これはヒストンがアセチル化されると、クロマチンへのHAMLETの接近能が増大することを示唆している。
【0093】
両方の異なるHDAC阻害剤を用いて、DNA断片化に対する顕著な効果が観察された。興味深いことに、これらの阻害剤で細胞を前処理した後に、DNA断片化が劇的に増大しそしてより迅速に生じ、そしてHAMLETに対する反応は、スタウロスポリン又はエトポシドのようなアポトーシス促進剤に曝露された細胞のDNA断片化よりも迅速であった。
【0094】
添付の図面を参照して実施例で本発明を特に説明する:
図1は、Jurkat細胞におけるヒストンアセチル化に対するHAMLETの効果を示している。
A.ヒストンH4のアセチル化を、細胞数測定及びNU−PAGEの両方によって追跡した。この実験において、Jurkat細胞を、TSAなし(CTL及びHAM)又はTSA 100ng/mlとともに(TSA及びTSA+HAM)2時間インキュベートし、次いで1時間の間にいくつかの条件で培地にHAMLET 12μMを添加した(HAM及びTSA+HAM)。B.ヒストンH4のアセチル化を、NU−PAGE分析によって追跡した。Jurkat細胞(ライン1)を、TSA 100ng/ml(ライン2)、エトポシド20μM(ライン3)、HAMLET 3μM(ライン4)、6μM(ライン5)及び12μM(ライン6)の存在下で1時間処理した。
【0095】
図2は、HAMLET誘導性の迅速なDNA断片化が、HDAC阻害剤によって増強されることを示している。DNA断片化を、フローサイトメトリーの両方によって追跡した。この実験において、Jurkat細胞を、TSAなし(CTL及びHAM)又はTSA 100ng/ml(TSA及びTSA+HAM)又はSAHA 2.5μM(SAHA及びSAHA+HAM)とともに2時間インキュベートし、次いで1時間の間にいくつかの条件で培地にHAMLET 12μMを添加した(HAM、TSA+HAM及びSAHA+HAM)。PI染色後(材料及び方法を参照のこと)、サブG1集団を定量し、そして集団全体のパーセントとして示した。
【0096】
図3は、HAMLETの増強された活性が、ヒストンアセチル化に相関することを示している。この実験において、Jurkat細胞を、TSAなし(CTL)又はTSA 50ng/ml若しくは100ng/mlとともに(TSA50、TSA100)2時間インキュベートし、次いで1時間の間にいくつかの条件で培地にHAMLET 12μMを添加した(黒色ヒストグラム)。次いで、異なる条件でのヒストンH4のアセチル化を、細胞数測定により定量し、そして集団の幾何平均として示した(ヒストグラム、左のスケール)。HAMLETで処理された集団のDNA断片化を、サブG1の定量化を用いて分析し、そして集団全体のパーセントとして示した(直線、右のスケール)。
【0097】
図4は、テールのないヒストン及びDNAの混合物に対するHAMLETの効果を示している。HAMLETを、放射能標識された146bpのDNA断片及びテールのないヒストンの混合物に添加した。HAMLETが存在しないと、ヌクレオソームは形成されない(レーン1)。最初のHAMLETの添加により、ヌクレオソームの集合が生じた(レーン2)。146bpの断片へのヌクレオソームの集合は、ただ1つのヌクレオソーム種を生じ、Nと命名した。より高濃度のHAMLETでは、より多くのヌクレオソームが形成され、そしてHAMLETがこれらと会合して、ゲル中に第二のバンドを形成した。HAMLETはまた、ウェル中に見られる非特異的なヒストン−DNA集合体を溶解した。
【0098】
図5は、HDAC阻害剤が、HAMLET誘導性のDNA断片化を増強することを示している。DNA含量を、フローサイトメトリーによって追跡した。この実験において、材料及び方法の節に記載されるように、Jurkat細胞を、TSA 100ng/mlとともに又はTSAなしで3時間又は18時間最初に前処理し、次いでHAMLETにより3時間処理した。サブG1集団を定量し、そしてパーセントで示した。
【0099】
図6は、HDAC阻害剤が、HAMLET誘発性の細胞死を増強することを示している。A.この実験において、Jurkat細胞を、種々の濃度のTSA、50ng/ml、100ng/ml若しくは200ng/mlとともに、又はTSAなしで最初に3時間前処理し、次いで漸増濃度のHAMLETにより3時間処理した。サブG1集団を定量し、そして集団全体のパーセントで示した。B.Jurkat細胞を、種々の濃度のTSA、50ng/ml、100ng/ml若しくは200ng/mlとともに、又はTSAなしで最初に3時間前処理し、次いで漸増濃度のHAMLETにより3時間処理した。ATPレベルを、材料及び方法の節に記載されるように定量した。未処理集団と比較した結果を得た。C.Jurkat細胞を、TSA 100ng/mlとともに又はTSAなしで最初に3時間又は18時間前処理し、次いでHAMLETにより3時間処理した。生存能を、Vi−Cell XR装置を用いたトリパンブルー排除法によって評価した。
【0100】
図7は、HAMLET及びTSAの両方で処理した細胞において、アセチル化及び細胞死が増大したことを示している。A.これらの実験において、Jurkat細胞を、TSA 100ng/mlとともに又はTSAなしで最初に3時間又は一晩(ON)前処理し、次いでHAMLETにより3時間処理した。A.アセチル化レベルを、ヒストグラムプロットにより細胞集団全体についてフローサイトメトリーによって定量化した。B.ヒストンH4のDNA含量及びアセチル化を、フローサイトメトリーによって追跡した。結果を、Y軸がDNA含量であり、そしてX軸がヒストンアセチル化の密度プロットにより追跡した。
【0101】
図8は、HAMLET及びTSAの両方で処理した細胞において、アセチル化及び細胞死が増大したことを示している。A.Jurkat細胞を、種々の濃度のTSA、50ng/ml、100ng/ml若しくは200ng/mlとともに、又はTSAなしで最初に3時間前処理し、次いでHAMLETにより3時間処理した。結果を、種々の「インタクトな」集団対未処理の「インタクトな」集団の平均の倍増(fold of increase)で示す(*はp<0.001)。B.この実験において、Jurkat細胞を、HAMLETとともに又はHAMLETなしで最初に3時間前処理し、次いで100ng/mlとともに又はHAMLETなしで3時間処理した(*はp<0.001)。
【0102】
図9は、HAMLET及びTSAの両方で処理されたアセチル化細胞の形態を示している。GFPタグ化ヒストンH4 HeLa細胞を、未処理(A)、又はHAMLETで処理(B)、又はTSA 100ng/mlで処理(C)、又はTSAで前処理及びHAMLETで処理(D)した。最初の欄は、光透過率を表し、第二の欄は、ヒストンH4のアセチル化を表し、そして第三の欄は、細胞におけるヒストンH4の発現を表している。E.それぞれ、核サイズの定量化(μm2)、ヒストンH4発現レベル及びアセチルヒストンH4発現レベル。アセチルH4及びヒストンH4の強度に関して、結果を、コントロール集団の倍増で示す。すべての結果を、各実験につき少なくとも30個の細胞の計数後に表す。
【実施例】
【0103】
実施例1
ヒストンアセチル化に対するHAMLETの効果
材料及び方法
試薬−HDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)及びスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、Upstate(Dundee、UK)又はAlexis(Lausen、Switzerland)により提供され、そしてそれぞれ100ng/ml及び2.5μMの濃度で用いた。ATPモニタリング試薬(AMR)を、ViaLightTM HSキットの形態でCambrex(Wokingham、U.K.)から購入し、そして製造業者のガイドラインに従って再構成した。
【0104】
α−ラクトアルブミンの精製及びHAMLETへの転換−HAMLETは、C18:1脂肪酸補因子によって安定化されるヒトα−ラクトアルブミンのフォールディング変異体である。この研究において、ネイティブのα−ラクトアルブミンを、以前に記載されるように、ヒト乳汁から精製し、そしてオレイン酸馴化イオン交換マトリックス上でHAMLETに転換した(Svenssonら、2000)。
【0105】
細胞培養−Jurkat(European Cell Culture Collection、番号88042803)を、記載通りに培養した(Hakanssonら、1995)。
【0106】
ヒストン−ネイティブのフォールドしたヒストンを、アヒル赤血球核から得た(Simon及びFelsenfeld、1979)。ネイティブ又はテールのないDrosophila melanogasterヒストンを、E.coliで発現させ、精製し、そして八量体に集合させた(Hamicheら、2001)。ヒストンのフォールド及び機能の完全性を、DNAへのヌクレオソーム集合によって確認した(データは示さず)。
【0107】
DNA−ウニ5S RNA遺伝子を含む256bp断片(Simpson及びStafford、1983)を、プラスミドpLV405−10のEcoR1又はNci1消化からゲル精製した(Simpsonら、1985)。このDNAを、[γ−32P]ATPで末端標識した(Amersham Pharmacia biotech、UK)。
【0108】
細胞数測定による細胞周期分析−細胞を採取し、PBSで洗浄し、次いで4℃で少なくとも2時間、75%冷エタノールの懸濁液に固定した。次いでこのサンプルを遠心分離し、PBSで洗浄し、そして室温で10分間、0.25% triton X−100で処理した。細胞を再び洗浄し、PBS中の2.5μg/ml PI及び250μg/ml Rnase Aに再懸濁し、そして測定前に4℃で一晩インキュベートした。細胞の蛍光を、Facscaliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson、San Jose、CA)を用いて測定した。単一の細胞集団を、それらの蛍光強度値FL2−A及びFL2−Wに基づいて決定した。
【0109】
細胞数測定によるアセチルヒストンH4及び細胞周期分析−細胞を採取し、PBSで洗浄し、次いで4℃で少なくとも2時間、75%冷エタノールの懸濁液に固定した。次いでこのサンプルを遠心分離し、PBSで洗浄し、そして室温で10分間、0.25% triton X−100で処理した。PBS 3mlの添加及び遠心分離後、PBS中のブタ血清1%(DAKO、Solna、Sweden)中で少なくとも30分間細胞をインキュベートした。PBS 3mlの添加及び遠心分離後、1% BSAを含み1/500希釈されたヒトアセチルヒストンH4に対するウサギポリクローナル抗体(Upstate)の存在下、室温で3時間細胞をインキュベートした。次いで細胞を洗浄し、そして1% BSAを含むPBS中1/20希釈されたFITC接合ブタ抗ウサギ抗体(DAKO、Solna、Sweden)とともに2時間インキュベートした。細胞を再び洗浄し、PBS中の2.5μg/ml PI及び250μg/ml Rnase Aに再懸濁し、そして測定前に4℃で一晩インキュベートした。ヒストン抗体が存在しないコントロールを、上記と同様に調製した。細胞の蛍光を、Facscaliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson、San Jose、CA)を用いて測定した。単一の細胞集団を、それらの蛍光強度値FL2−A及びFL2−Wに基づいて決定した。次いで、各細胞からの赤色発光及び緑色発光を分離し、そしてサイトメーター(cytometer)の標準的な光学を用いて定量化した。
【0110】
共焦点顕微鏡法によるアセチルヒストンH4−Hela細胞を、Lab−Tek Chamberスライドで増殖させた。細胞をPBSで2回洗浄し、次いでPBSホルムアルデヒド4%中で10分間固定した。次いでこのサンプルを遠心分離し、PBSで洗浄し、そして室温で2分間、0.1% triton X−100で処理した。洗浄後、PBS中のブタ血清1%(DAKO、Solna、Sweden)中で少なくとも30分間細胞をインキュベートした。次いで、1% BSAを含み1/500希釈されたヒトアセチルヒストンH4に対するウサギポリクローナル抗体(Upstate)の存在下、室温で3時間細胞をインキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、そして1% BSAを含むPBS中1/200希釈されたAlexa633接合ヤギ抗ウサギ抗体(Invitrogen)とともに2時間インキュベートした。63×対物レンズを用いてLSM 510 META共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)で評価する前に、細胞をPBS中で3×5分間洗浄した。各クロマチンパターンの頻度を、各実験において最低30個の細胞を計数した後に、染色したコントロール細胞の倍数で示した。
【0111】
免疫ブロット−JURKAT細胞を、氷冷PBS中で2回洗浄し、そしてプロテアーゼ阻害剤を補充した溶解緩衝液[20mM Tris−Cl(pH 7.5)、100mM NaCl、5mM MgCl2、0.5% Nonidet P−40](Roche Applied Science)中で溶解した。4℃で30分間連続して撹拌した後、4℃で15分間、12,000gで遠心分離する前に、溶解物をH2SO4(0.4N)に1時間供した。タンパク質抽出物50μgを、SDS−PAGE上で分離し、そしてポリフッ化ビニリデン膜(Immobilon−P、Millipore)上に電気的に移した。この膜を、4℃で一晩、抗アセチルヒストンH4(1/2000)(Upstate)とともにインキュベートした。次いで、セイヨウワサビペルオキシダーゼ接合ヤギ抗ウサギ抗体(1:10,000)(Dako A/S Denmark)を、室温で1時間適用した。免疫反応性のバンドを、高感度(enhanced)化学発光(ECL、Amersham)によって明らかにした。
【0112】
DNA断片化−高分子量のDNA断片を、記載される通りに(Zhivotovsky 1993 207 163)フィールド・インバージョンゲル電気泳動(FIGE)によって検出した。手短に言えば、細胞(2×106)を、プロテイナーゼKによって処理された低融点アガロースゲルに埋め込んだ。サンプルを、12℃で0.5 3 TBE(45mM Tris、1.25mM EDTA、45mMホウ酸、pH 8.0)中1%アガロースゲルにおいて180Vでの電気泳動に供し、24時間で0.8秒から30秒に変化するランピング速度で、3:1のフォワード対リバース比を用いた。高分子断片化DNAバンドの定量化を、imageJソフトウェアを用いて行った。
【0113】
ヒストンアセチル化に対するHAMLETの効果
Jurkat細胞のクロマチンアセチル化レベルを、アセチル化ヒストンH4に特異的な抗体を用いて、フローサイトメトリーにより定量した(図1)。アセチル化を増大させるために、細胞を、HDAC阻害剤であるTSAで処理した(図1C、図1Eライン3)。最大効果が2時間後に見られた。アセチル化の増大を、TSA処理細胞由来の核抽出物をウエスタンブロット分析することによって確認した。
【0114】
Jurkat細胞に対して低濃度のHAMLETは、培地コントロールと比較して、ヒストンH4アセチル化の減少を引き起こした(図1B、図E ライン2)(図1A、図1Eライン1)。このアセチル化の減少を、ウエスタンブロット分析によって確認した。
【0115】
結果は、HAMLETが低濃度でアセチル化阻害剤として作用し得るものであるか、又はHAMLETがJurkat細胞においてアセチル化が低い細胞のみ残してアセチル化クロマチンを有する細胞を殺傷し得ることが示唆された。
【0116】
H4アセチル化に対するHAMLET及びTSAの組み合わせ効果が示された(図1D、図1Eライン4)(図1C、図1Eライン3)。HAMLETによるアセチル化の減少は、HAMLETだけで処理した後よりもTSAで前処理した細胞の方が大きかった。
【0117】
実施例2
HDAC阻害剤は、HAMLETに応答してDNA断片化を増大する。
【0118】
DNA断片化に対するHAMLETの効果を、未処理細胞とアセチル化を増大するTSAで前処理された細胞との間で比較した。サブG0/G1 DNA断片化を、実施例1に記載の方法論を用いてフローサイトメトリーによって定量化した。
【0119】
HAMLETが、1時間後にJurkat細胞のDNA断片化を誘導することが示されたが(図4A)、TSA処理は、DNA断片化を刺激しなかった。しかし、TSA前処理は、HAMLETへの感受性を増大し、そしてHAMLET誘導性のDNA断片化を増強した。
【0120】
細胞のHAMLETへの感受性は、TSA濃度に直接関連しており、HDAC阻害剤が、HAMLETにより誘発される腫瘍細胞死を増大することを示唆している(図2)。
【0121】
HDAC阻害剤の効果を、TSAとSAHA、すなわち別のHDAC阻害剤とを比較することによってさらに調べた。Jurkat細胞を、TSA(100ng/ml)又はSAHA(2.5μM)で2時間前処理し、そしてHAMLETに1時間曝露し、そしてサブG0/G1 DNA断片化を、フローサイトメトリーによって定量した(図3B)。HAMLETに応答したDNA断片化は、SAHAによって増強されたが(図3D)、この物質自体は、DNA断片化を引き起こさなかった(図3C)。
【0122】
さらに、コンフルエントではないA459細胞を、一晩TSA 100ng/mlとともに又はTSAなしで処理した。次いでHAMLETを、30μMで1時間添加した。上記のように、DNA断片化を両方ともフローサイトメトリーによって追跡した。PI染色後(材料及び方法を参照のこと)、サブG1集団を定量し、そして集団全体のパーセントとして示した。
【0123】
先と同様に、TSAへ長く曝露すると、細胞死を有意に増大することが明らかになった(データは示さず)。
【0124】
実施例3
HAMLETは、ヒストンコアと相互作用する。
ヒストンは、20アミノ酸のヒストンテールを通じて多くの効果を発揮し、このテールは、他のヒストンドメインよりも接近しやすく、そして種々の刺激によって修飾され得る。HAMLETの結合を、野生型ヒストンと、ヒストンテールを欠失する突然変異体との間で比較した。
【0125】
ヒストン−ネイティブのフォールドしたヒストンを、アヒル赤血球核から得た。ネイティブ又はテールのないDrosophila melanogasterヒストンを、E.coliで発現させ、精製し、そして八量体に集合させた。ヒストンのフォールド及び機能の完全性を、DNAへのヌクレオソーム集合によって確認した。
【0126】
DNA−ウニ5S RNA遺伝子を含む256bp断片(Simpson及びStafford、1983)を、プラスミドpLV405−10のEcoR1又はNci1消化からゲル精製した(Simpsonら、1985)。このDNAを、[γ−32P]ATPで末端標識した(Amersham Pharmacia Biotech、UK)。
【0127】
クロマチン集合−ヌクレオソームを生成させるために、ヒストン八量体(組換え又は細胞から精製)を、「ソルトジャンプ(salt jump)」方法に従って、線状DNA上に集合させた(Stein、1979)。32P標識された256bpの断片及びキャリアDNA(超らせんプラスミドDNA、最終DNA濃度は200μg/ml)を、2M NaCl、10mM Tris−HCl(pH7.5)中でヒストンと混合した(ヒストン:DNAの質量比0.4〜0.6)。この混合物を、37℃で10分間インキュベートし、0.5M NaClに希釈し、同じ温度で30分間インキュベートし、そして10mM Tris−HCl(pH7.5)及び1mM EDTAに対して4℃で2時間透析した。ゲルのSYBRグリーン染色を伴う実験のために、このキャリアプラスミドDNAを、非放射性の256bp DNA断片で置換した。クロマチンを4℃で保管した。
【0128】
実施例4
HDAC阻害剤は、HAMLET誘発性の細胞死を増強する。
HDAC阻害剤が、腫瘍細胞の生存能に対するHAMLETの効果に影響を及ぼし得るか否かを調べるために、Jurkat細胞を、HDAC阻害剤であるTSAで3時間又は18時間前処理し、次いでHAMLETに曝露した(図5)。この組み合わせ処理に対する細胞反応を、TSA単独(3時間又は18時間)及びHAMLET(3時間)に対する反応と比較した。培地の細胞を、コントロールとして使用した。細胞反応を、フローサイトメトリーによって定量し、そしてサブG1集団を、クロマチン断片化及び細胞死の基準として使用した(図5及び6A)。同時に、細胞生存能を、ATPレベル(図6B)及びトリパンブルー排除法(図6C)によって評価した。
【0129】
HDAC阻害剤への短期間の曝露(TSA、3時間)は、コントロールと比較して検出可能なDNA断片化の変化を引き起こさなかったが(3.66%対2.80%)、TSAへの18時間の曝露は、予想されたサブG1集団の増大を引き起こした(26.13対2.80)。TSA単独及びHAMLET単独の両方に関して、サブG1集団の増大は、細胞生存能の減少を伴った(図6B及び図6C)。HAMLET濃度を漸増すると、細胞のATPレベルの減少が誘導された(9.2%対41.17%対85.71%は、HAMLETでの曝露から3時間後にそれぞれ0.1mg/ml、0.2mg/ml及び0.3mg/mlに減少した)(図6B)。トリパンブルー排除法により、生存能の減少は、コントロールと比較して、HAMLETでの処理から3時間後に19.7%であった。TSA処理後の生存能の減少は、曝露から18時間後にのみ検出することができ、コントロールと比較して、24.9%の減少であった(図6C)。
【0130】
TSAでの前処理は、HAMLETに応答して細胞死を増強した(図5、図6)。サブG1集団は、TSA処理細胞(3時間)の7.68%からTSA+HAMLET処理細胞の14.58%まで増大した。サブG1の蓄積は、TSAでの18時間の曝露によってさらに増強された(TSA+HAMLETでの51.43%対TSA処理での26.13%対HAMLETでの14.58%)。この効果は、TSAを50ng/mlから200ng/mlへと増大することによって示されるように、濃度依存的であった(図6A)。サブG1集団の増大は、TSA前処理の時間又は用量を増大して曝露したJurkat細胞の生存能の漸増に相関した(図6B及び図6C)。HAMLETでの処理前に漸増濃度のTSAで前処理すると、HAMLET単独又はTSA単独により細胞中で観察されたATPレベルの減少を増強した(TSA 50ng/ml、100ng/ml及び200ng/mlでの3時間の前処理、その後のHAMLETでの処理(0.2mg/ml)は、コントロール細胞と比較して、それぞれATPレベルを54.38%、63.03%及び70.61%に減少させ、一方HAMLET単独での処理は41.17%であった。)(図6B)。トリパンブルー排除法によって、生存能の減少は、TSAでの前処理時間を増大し、その後HAMLETで3時間処理した後に増強された。(コントロールと比較して、TSAで3時間の前処理及びHAMLETでの処理後は36%、そしてTSAで18時間の前処理及びHAMLETでの処理後は51.7%であり、HAMLET単独では19.7%、TSA単独で18時間では24.9%であった。)
結果は、HDAC阻害剤が、腫瘍細胞に対するHAMLETの致死性を増大することを示した。
【0131】
実施例5
ヒストンH4アセチル化に対する効果
HDACの阻害は、アセチル化ヒストンの蓄積を引き起こす。Jurkat細胞のアセチルヒストンH4レベルを、特異的抗体での染色後にフローサイトメトリーによって定量した。クロマチンレベルの変化を可視化するために、細胞をヨウ化プロピジウムで対比染色した。結果を、密度プロット図で示し、Y軸は、4つの細胞集団(サブ1、G1、S及びG2)間のDNA含量を表し、そしてX軸は、ヒストンH4のアセチル化の程度を表した。4つの細胞集団(サブ1、G1、S及びG2)は、Y軸上で区別することができた。
【0132】
TSAは、時間依存的なヒストンアセチル化の増大を引き起こした(図7)。Jurkat細胞を、TSAに3時間又は18時間曝露し、そしてアセチル化の増大を、上記のように定量した。対照的に、HAMLET単独は、アセチル化の程度を変化させなかったが、TSAと組み合わせると有意な増大が観察された。アセチル化の増大は、TSA単独に曝露した後よりもTSA及びHAMLETに曝露した細胞でより迅速かつ高かった。
【0133】
種々の細胞集団のアセチル化の分析により、HAMLETはヒストンH4のアセチル化の増大を誘発すること、そしてヒストンH4のアセチル化は、細胞に対して行われた処理とは無関係の静止しているすなわち「インタクトな」集団と比較して、すべてのサブG1集団において常に重要性が低いことが明らかになった(図7)。さらに、細胞集団全体を「インタクトな細胞」に対して比較することにより、結果は、サブG1集団の蓄積が、集団全体のアセチル化の平均に干渉し得ることを示した(図7)。
【0134】
次いで、サブG1集団を分析から除くことにより、ヒストンH4のアセチル化の増大が、TSA単独で処理されたものと比較して、TSA及びHAMLETの両方で処理した静止している「インタクトな」細胞集団に見られた(図8A)。TSAでの処理から3時間後、HAMLETは、ヒストンアセチル化の2倍の増大を誘導した。HAMLET及びTSAによって誘導された3時間後のこのアセチル化程度は、TSAでの一晩の曝露によって誘導されたアセチル化程度よりも高かった(図8A)。さらに、TSAの存在下でのHAMLETは、TSAへの一晩の曝露の後でさえもクロマチンのアセチル化をなお促進することができた(図8A)。別のHDAC阻害剤であるSAHAをHAMLET処理と組み合わせると、類似の結果が見出された(データは示さず)。興味深いことに、HAMLETを含まない漸増濃度のTSAに細胞をさらすことによっても、アセチル化の割合は、なおコントロールの2倍の増大を有するJURKAT細胞の割合と同じであった。HAMLETを添加すると、TSA用量依存的なヒストンH4のアセチル化の増大が見られ、アセチル化は、コントロールの2.7倍から4.3倍へと増大した(図8A)。
【0135】
これらの結果は、高濃度のHAMLETをHDAC阻害剤と組み合わせると、細胞のアセチル化の増大を促進することを示した。
【0136】
次いで、HAMLETで処理する前に、Jurkatリンパ球をHDAC阻害剤で前処理することがどれくらい重要かを分析した。次にHDAC阻害剤が、HAMLETの前後で、どちらが使用できるかを比較した。第一の実験において、細胞を、HDAC阻害剤で前処理し、そしてHAMLETで処理した。上記のように、アセチル化の増強は、組み合わせた方法で見出された(図8A)。次に、細胞を最初にHAMLETで処理し、次いでTSAを添加した。興味深いことに、アセチル化のレベルは今度は減少し(図8B)、これは、アセチルヒストンH4のアセチル化増強のためには、細胞がHDAC阻害剤によって逐次的に前処理され、そしてHAMLETで処理されなければならないことが示された。
【0137】
これらの結果により、リンパ球のアセチル化に関して相乗的な効果を得るためには処理の順序が極めて重要であることが示された。
【0138】
実施例6
HAMLETは、TSA誘導性のクロマチン修飾に影響を及ぼす。
ヒストンH4のアセチル化に対するHAMLET及びTSAの効果を、GFPタグ化ヒストンH4を発現する付着性のHeLa細胞の共焦点顕微鏡法によってさらに調べた。コントロール細胞は、H4−GFP染色によって示されるようにいくつかの核小体を有する核を示した。コントロール細胞のヒストンH4のアセチル化レベルは、極めて弱かった(図9A)。HAMLET処理細胞は、異なる形状を内部に有し(arbor)、核サイズは著しく減少し、そしてGFP染色の強度は増大した。興味深いことに、HAMLETは、上皮細胞においてヒストンH4のアセチル化の増大を誘導した(図9B及びE)。TSA処理細胞は、核サイズ及びGFP染色のわずかな増大を示し、そして予想されるように、ヒストンH4のアセチル化の染色が増大することを示した(図9C及びE)。たとえアセチル化の増大が、これらの細胞においてこの時点でHAMLETとTSAとの間で同じであっても、2つの異なる条件での核の形状は、完全に逆の種類の反応を示した(図9B及びC及びE)。さらに、細胞をTSAで前処理し、そしてHAMLETで処理すると、HAMLET様反応が見出され、核サイズは減少し、そしてGFP染色は増大した。この条件において、アセチル化のレベルは、組み合わせ処理で相乗的に増強され(図9D及びE)、上皮細胞型に対して、サイトメトリー分析によってJurkatリンパ球で見出された相乗効果が確認された。
【0139】
これらの結果は、HAMLETをHDAC阻害剤と組み合わせることはまた、上皮細胞のアセチル化の増大を促進することを示した。さらに、核の形状を見ることにより、HAMLET誘導性のアセチル化の増大は、HDAC阻害剤反応に相関しないが、むしろ収縮して変形した核のストレスに相関していると結論付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】Jurkat細胞におけるヒストンアセチル化に対するHAMLETの効果を示している。
【図2】HAMLET誘導性の迅速なDNA断片化が、HDAC阻害剤によって増強されることを示している。
【図3】HAMLETの増強された活性が、ヒストンアセチル化に相関することを示している。
【図4】尾部のないヒストン及びDNAの混合物に対するHAMLETの効果を示している。
【図5】HDAC阻害剤が、HAMLET誘導性のDNA断片化を増強することを示している。
【図6】HDAC阻害剤が、HAMLET誘導性の細胞死を増強することを示している。
【図7】HAMLET及びTSAの両方で処理した細胞において、アセチル化及び細胞死が増大したことを示している。
【図8】HAMLET及びTSAの両方で処理した細胞において、アセチル化及び細胞死が増大したことを示している。
【図9】HAMLET及びTSAの両方で処理されたアセチル化細胞の形態を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HAMLET若しくはその生物学的に活性な修飾物又はこれらのいずれかの生物学的に活性な断片である構成要素(i)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である構成要素(ii)の組み合わせ物。
【請求項2】
構成要素(i)がHAMLETである、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
構成要素(ii)が、低分子量のHDAC阻害性カルボン酸、HDAC阻害性ヒドロキサム酸、HDAC阻害性ベンズアミド及びHDAC阻害性エポキシケトン、並びにHDAC阻害性環状ペプチド若しくはハイブリッド、又はこれらのいずれかの混合物である、請求項1又は2に記載の組み合わせ物。
【請求項4】
構成要素(ii)が、トリコスタチンA(TSA)又はスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)から選択される、請求項3に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
構成要素(i)及び構成要素(ii)が別々に投与され得るように包装される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
構成要素(i)及び(ii)が一緒に混合される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
腫瘍又は他の増殖性疾患又は前腫瘍状態の処置に使用するための請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
構成要素(ii)が第一に投与され、そして構成要素(i)がその次に投与される逐次的な処置に使用するために、構成要素(i)及び構成要素(ii)が別々に投与され得るように包装される、請求項7に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
構成要素(i)が、構成要素(ii)の投与後1時間から24時間の間に投与される、請求項8に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
構成要素(i)及び構成要素(ii)が共投与される処置に使用するための請求項7に記載の組み合わせ物。
【請求項11】
構成要素(i)及び構成要素(ii)が、単一製剤で腫瘍部位に共投与される、請求項10に記載の組み合わせ物。
【請求項12】
構成要素(i)が腫瘍部位に投与され、そして構成要素(ii)が全身投与される、請求項10に記載の組み合わせ物。
【請求項13】
腫瘍又は他の増殖性疾患又は前腫瘍状態を処置する方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組み合わせ物をこの処置を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項14】
増殖性疾患が腫瘍である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組み合わせ物の構成要素(ii)が前処置として投与され、そして構成要素(i)がその次に投与される、請求項13又は14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−507914(P2009−507914A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530645(P2008−530645)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002535
【国際公開番号】WO2007/031853
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(507364447)ニーア・ハムレット・ファルマ・アー・ベー (3)
【Fターム(参考)】