説明

アクセル装置およびこれを用いた車両追突防止システム

【課題】機械の操作者が事故の危険に気付かずにアクセル操作を続けた場合でも、その事故を未然に回避することのできるアクセル装置およびこれを用いた車両追突防止システムが要求されている。
【解決手段】アクセル装置1は、アクセルペダル3と、スロットルレバー5にアクセルペダル3を接続するアクセルワイヤ6とを備えて成る装置であって、アクセルワイヤ6は、一端部7Aがアクセルペダル3に接続される駆動側部材7と、一端部8Aがスロットルレバー5に接続される従動側部材8とから構成され、駆動側部材7の他端部7Bと従動側部材8の他端部8Bとはクラッチ機構10を介して断続自在に連結され、クラッチ機構10を切断するための断続用スイッチ13が配備されている。このアクセル装置1は、例えば車両Bの追突防止システムAに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両、建設機械、土木機械、工具製作、ポンプ、コンベア装置、洗浄機械類その他の機械に適用されるアクセル装置、およびこれを用いた車両追突防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、被処理物(ワーク)に対して制御部材を加減速したり近接したり押し引きしたり、あるいは上げ下げしたりする動作を行なう機械類には、それらの動作を調整するアクセル装置が使用されている。かかるアクセル装置は、ペダル、レバーまたは摘みなどのアクセル操作部材と、エンジン、モータ、蒸気機関など原動機の出力を調整するためのスロットルレバーや可変抵抗などの出力調整機構とアクセル操作部材とを接続するワイヤ、リンク、複数組ギヤなどの機械的接続部材とから構成されている。このようなアクセル装置では、操作者がアクセル操作部材を操作することにより機械的接続部材を介して出力調整機構を作動させ、これによって原動機の出力を調整するようになっている。
【0003】
一方で、現代の車社会では、一般道路、高速道路を問わず渋滞が頻発し、追突事故が多発している。追突事故の大半はドライバーの不注意によるものであり、安全な車間距離が保たれていないことがその原因である。そこで、下記の特許文献1に記載された車両追突防止装置が提案されている。この車両追突防止装置は、音波発信機、音波受信機、プロセッサ、および報知機から構成されている。プロセッサは、音波発信機から発信された音波が前方走行車両に跳ね返って音波受信機に受信されるまでの時間から車間距離を計算し、車間距離が狭まると、報知機を通じてドライバーに危険が迫っていることを警告するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−288852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した従来の車両追突防止装置は追突事故などの危険を検知して報知出力を行なうことから有用なものであるが、運転者が例えば居眠りや疾病などにより報知出力に全く気付かなかったり気付くのが遅すぎたりする場合がある。このように折角の報知出力が役立たないのでは、重大な事故につながるおそれが高くなる。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、機械の操作者が事故の危険に気付かずにアクセル操作を続けた場合でも、その事故を未然に回避することのできるアクセル装置およびこれを用いた車両追突防止システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るアクセル装置は、アクセル操作部材と、原動機出力調整機構に前記アクセル操作部材を接続する機械的接続部材と、を備えて成る装置において、機械的接続部材を、一端部がアクセル操作部材に接続される駆動側部材と、一端部が原動機出力調整機構に接続される従動側部材とから構成し、駆動側部材の他端部と従動側部材の他端部とをクラッチ機構を介して断続自在に連結し、クラッチ機構を切断するための断続用スイッチを備えているものである。前記の「機械的接続部材」は原動機出力調整機構とアクセル操作部材とを機械的に接続するものを意味しており、「電気的に接続する部材」を含まない趣旨である。
【0008】
また、本発明に係る車両追突防止システムは前記のアクセル装置を用いたシステムであって、原動機が車両のエンジンであり、アクセル操作部材がアクセルペダルであり、更に、前方走行車両との車間距離を計測する測距機構と、測距機構により計測された車間距離が、予め設定されている所定車間距離を下回ったとき、断続用スイッチを作動させてクラッチ機構を切断させる第1制御装置とを備えているものである。
【0009】
そして、前記の車両追突防止システムにおいて、ブレーキペダルと、ブレーキペダルの踏み込みによりブレーキ油を送り出すマスタシリンダと、車輪の回転を制動する油圧ブレーキ機構と、マスタシリンダと油圧ブレーキ機構とを接続してブレーキ油を流す主油圧回路と、主油圧回路に配備された第1流路開閉弁と、主油圧回路に圧力を供給する圧力供給機構と、第1流路開閉弁よりも油圧ブレーキ機構寄り位置の主油圧回路と圧力供給機構とを接続して圧力供給機構からの圧力を主油圧回路にもたらす圧力合流路と、圧力合流路に配備された第2流路開閉弁とを備えて成り、第1制御装置によりクラッチ機構が切断されたときに、第1流路開閉弁を閉じるとともに第2流路開閉弁を開いて圧力供給機構からの圧力を油圧ブレーキ機構に供給する第2制御装置と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアクセル装置によれば、原動機出力調整機構とアクセル操作部材とをつなぐ機械的接続部材に、この機械的接続部材を断続するクラッチ機構が介在しているので、重大な事故の危険を例えば操作者以外の人が気付いたり、あるいはセンサにより自動検知されたりしたときに、気付いた人または自動制御手段が断続用スイッチを入にすることによって、原動機出力調整機構とアクセル操作部材との連結を切断することができる。これにより、原動機出力を高める方向にアクセル操作部材を操作し続けても、その操作は原動機出力調整機構に伝わらないから、原動機の出力は減衰していく。その結果、各種機械の重大な事故を未然に防ぐことができる。
【0011】
また、本発明に係る車両追突防止システムにおいて、第1制御装置は、測距機構により計測された車間距離が、予め設定されている所定車間距離を下回ったとき、断続用スイッチを作動させてクラッチ機構を切断するので、運転者が居眠りなどによって前方走行車両への追突の危険に気付かずアクセルペダルを踏み続けていたとしても、エンジンの出力を自動的に低下させて、前方走行車両との車間距離を大きくすることができ、追突の危険を未然に回避することができる。
【0012】
そして、油圧ブレーキの主油圧回路、第1流路開閉弁、圧力供給機構、第1流路開閉弁、圧力合流路、第1流路開閉弁、および第2制御装置を備える車両追突防止システムでは、クラッチ機構が切断されたときに、第2制御装置が第1流路開閉弁を閉じるとともに第2流路開閉弁を開いて圧力供給機構からの圧力を油圧ブレーキ機構に供給する。これにより、油圧ブレーキ機構を作動させて自動的に車輪にブレーキを効かすことができる。その結果、運転者が居眠りなどによって前方走行車両への追突の危険に気付かずアクセルペダルを踏み続けていたとしても、より迅速かつ確実に前方走行車両への追突を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るアクセル装置およびこれを用いた車両追突防止システムの概略構成図である。
【図2】前記アクセル装置の試作品を写真で表した図である。
【図3】前記アクセル装置のクラッチ機構を示す平面図である。
【図4】自動ブレーキ装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。図1は本発明の一実施形態に係るアクセル装置およびこれを用いた車両追突防止システムの概略構成図、図2は前記アクセル装置の試作品を写真で表した図、図3は前記アクセル装置のクラッチ機構を示す平面図である。
「実施形態1」
各図において、この実施形態1に係るアクセル装置1は、例えば車両Bの追突を防止する車両追突防止システムAに適用される場合を示している。アクセル装置1は、アクセルペダル3(アクセル操作部材の例)と、エンジン64(原動機の例)の出力を制御するためのスロットル開度を調整するように枢支軸4回りに揺動するスロットルレバー5(原動機出力調整機構の例)にアクセルペダル3を接続するアクセルワイヤ6(機械的接続部材の例)と、アクセルワイヤ6の途中に配備されたクラッチ機構10と、クラッチ機構10を切断または接続するための断続用スイッチ13と、クラッチ機構10の駆動源である直流電源26とを備えて構成されている。
【0015】
前記のアクセルワイヤ6は、一端部7Aがアクセルペダル3の軸受部材9に接続される駆動側部材7と、一端部8Aがスロットルレバー5に接続される従動側部材8とに分割して構成されている。駆動側部材7の他端部7Bはクラッチ機構10の駆動ドライブ盤11に接続され、従動側部材8の他端部8Bはクラッチ機構10の従動ドライブ盤12に接続されている。これにより、駆動側部材7と従動側部材8とがクラッチ機構10を介して断続自在に連結される。
【0016】
このクラッチ機構10は例えば電磁クラッチを用いており、例えば24Vの直流電源26で駆動する。前記のクラッチ機構10は、特に図3に示すように、正面視で凹字状に形成された軸受台14を備えており、この軸受台14に枢支軸15が架け渡されている。そして、枢支軸15に、駆動ドライブ盤11と従動ドライブ盤12が互いに独立で回動自在に軸支されている。駆動ドライブ盤11は、駆動側部材7を巻いたり繰り出したりする巻取り盤16Aと、巻取り盤16Aと一体のバネ受盤16Bとから構成されている。従動ドライブ盤12は、従動側部材8を巻いたり繰り出したりする巻取り盤21Aと、巻取り盤21Aと一体のディスク盤21Bと、同じく巻取り盤21Aと一体のバネ受盤21Cとから構成されている。また、電磁コイル(図示省略)を内蔵して樹脂で固めたコイルユニット17が駆動ドライブ盤11のバネ受盤16Bの周囲に回動自在に装着されている。コイルユニット17はバネ受盤16Bに対し回動自在であるが軸受台14に対しては位置固定されている。
【0017】
巻取り盤16Aの外周面には、駆動側部材7を収容する外周溝16Cが形成されるとともに、駆動側部材7の他端部7Bを留める係止片24が固設されている。駆動側部材7は係止片24の穴24Aを通されて留められる。バネ受盤16Bの外周面には、一端が軸受台14に係止され他端がバネ受盤16Bの外周面に係止されるコイルバネ18が装着される。コイルバネ18により、駆動側部材7の他端部7Bはアクセルペダル3から離す方向(図3中の矢印J方向)に常時バネ付勢されている。また、巻取り盤21Aの外周面には、従動側部材8を収容する外周溝21Dが形成されるとともに、従動側部材8の他端部8Bを留める係止片25が固設されている。従動側部材8は係止片25の穴25Aを通されて留められる。バネ受盤21Cの外周面には、一端が軸受台14に係止され他端が巻取り盤21Aの側面に係止されるコイルバネ23が装着される。コイルバネ23により、従動側部材8の他端部8Bはスロットルレバー5から離す方向(図3中の矢印K方向)に常時バネ付勢されている。また、図3中の符号で、20は直流電源26と接続されていてコイルユニット17の電磁コイルに電源供給を行なう電源コード、22は従動ドライブ盤12のディスク盤21Cに設けられた円盤リング状の離接面、19はディスク盤21Cの離接面22と対面するように巻取り盤16Aに形成されていてコイルユニット17への通電時に離接面22に磁着するとともに通電停止時には離接面22から離間する離接面である。
上記のように構成されたアクセル装置1は例えば車両Bに適用され得る。
【0018】
「実施形態2」
この実施形態2に係る車両追突防止システムAは、図1〜図4に示すように、前記のアクセル装置1を用いたシステムである。
前記した車両Bは、例えばシャーシに配備されたエンジン64(原動機)と、車輪39と、枢支軸2回りに揺動自在に軸支されたアクセルペダル3と、走行速度を検出する速度検出器61と、車両前面の左右中央部に設置されて前方走行車両63にミリ波62Aを発射するレーダー波発信受信機62(測距機構の例)と、エンジン64の出力その他の運転制御を行なう制御装置60と、ダッシュボードなどに配備されて種々の計測値や警告、指示内容を表示する表示部65と、ブレーキペダル31と、ブレーキペダル31とつながるピストンロッド33が連結された油圧ピストン36を内蔵するマスタシリンダ32と、油圧を増大させるホイールシリンダ37と、車輪39の回転を制動する油圧ブレーキ機構38とを備えている。ブレーキペダル31の所定の踏み込み位置には復旧用スイッチ67が配置されている。また、アクセルペダル3の所定の戻り位置にはアクセル検知用スイッチ68が配置されている。マスタシリンダ32と油圧ブレーキ機構37との間にはブレーキ油を流す油配管34および油配管35が介設され、油配管34と油配管35との間にブロック部材40が介設されている。前記のレーダー波発信受信機62は、前方走行車両63に当って反射したミリ波を受信し前方走行車両63との車間距離を計測するようになっており、例えば前方100m程度までの物体(車両)を感知できる能力を持っている。マスタシリンダ32はブレーキペダル31の踏み込みによりブレーキ油を送り出すようになっている。
【0019】
そして、制御装置60は中央演算処理ユニットCPUを中心として構成されていて、運転制御プログラムデータや演算途中データなどを格納するメモリMを備えている。そして、中央演算処理ユニットCPUのデータ入力側には、スロットルレバー5の駆動装置、速度検出器61、レーダー波発信受信機62、油圧センサ53がデータ通信可能に接続されている。一方、中央演算処理ユニットCPUのデータ出力側には、第1流路開閉弁45、第2流路開閉弁48、断続用スイッチ13、スロットルレバー5の駆動装置がデータ通信可能に接続されている。中央演算処理ユニットCPUは、スロットルレバー5の駆動装置に対し運転制御指令データを送信して運転を制御する。
【0020】
また、メモリMには、レーダー波発信受信機62の検出データを制御装置60に取り込み開始するときの所定車速データ(例えば時速60km)と、レーダー波発信受信機62により検出できる所定車間距離データ(感知可能距離であり、例えば100m)が予め格納されている。但し、別の制御態様として、或る車速データと、それに対応する許容車間距離(停止可能距離)との関係を表わす関係データを、メモリMに予め格納して用いることもできる。この関係データは時速の数値と許容車間距離のメートル数を同じ値にしたものでもよく、例えば時速60kmのときの許容車間距離を60mとし、時速100kmのときの許容車間距離を100mとする。
上記したような車速データと所定車間距離データの設定は、各車両がその最高積載量で予知される最高速度で走行した場合に、その車両が何メートルで停止できるか、またブレーキペダル3を踏んだ時のブレーキ油の圧力等を路上テストでデータ採取して得ることができる。但し、これらの採取データはあくまで目安であり、道路の状況、雨または風、路面硬度等によっても異なる。
【0021】
また、図4に示すように、自動ブレーキ装置30は、ブロック部材40を中心として構成されている。ブロック部材40内には、油入口部40Aと油出口部40Bとを貫通する主油圧回路41が形成されている。主油圧回路41の油入口部40Aにはマスタシリンダ32からの油配管34が連結され、主油圧回路41の油出口部40Bにはホイールシリンダ37への油配管35が連結されている。主油圧回路41は、油入口部40A近傍で二股流路として分かれたのち再度合流している。主油圧回路41の二股流路の一方には、例えば電磁弁である第1流路開閉弁45が配備され、二股流路の他方に逆止弁46が配備されている。逆止弁46は油入口部40Aから油出口部40Bへ向かう方向に油の流れを許容する一方、油出口部40Bから油入口部40Aへ戻る油の流れは阻止するようになっている。また、主油圧回路41の二股流路と並列に、バイパス路42が形成され、バイパス路42に手動開閉弁47が配備されている。この手動開閉弁47はブロック部材40の外部から人手によって開閉されるようになっている。
【0022】
主油圧回路41における二股流路の合流位置41Aよりも油出口部40B寄り位置に、先端に油圧センサ53を備える導圧路50が主油圧回路41から分岐して形成されている。そして、主油圧回路41における導圧路50の分岐位置よりも油出口部40B寄り位置には、圧力合流路43が主油圧回路41から分岐して形成されている。この圧力合流路43の先端部には、主油圧回路41にブレーキ油を送り出して圧力を供給する油圧自己保持装置(圧力供給機構の例)51が連結されている。油圧自己保持装置51は、内部構造を図示しないが、シリンダと、シリンダ内に収容されて油圧を受けるピストンと、このピストンを押すバネとを備えている。圧力合流路43には第2流路開閉弁48が配備されている。更に、第2流路開閉弁48を迂回するように、主油圧回路41における圧力合流路43の分岐位置41Bよりも油出口部40B寄り位置と、第2流路開閉弁48と油圧自己保持装置51の間の圧力合流路43とを連結する蓄圧回路44が形成されている。この蓄圧回路44には、圧力合流路43へ向かう方向の油の流れを許容する一方、圧力合流路43から主油圧回路41へ戻る油の流れを阻止する逆止弁49が配備されている。
【0023】
上記のように構成された車両追突防止システムAの作用について説明する。
車両追突防止システムAは、油圧式ブレーキまたは及びエアー式ブレーキを装着した車両の追突防止および車間距離保持を図る補助システムである。すなわち、この車両追突防止システムAは、(1)ミリ波レーダーによる車間計測、(2)エンジンパワーダウンによる車速の減速、(3)自動ブレーキ装置30の作動によるブレーキという各機能を備えている。
【0024】
この車両追突防止システムAでは、通常運転時に、自動ブレーキ装置30のバイパス路42の手動開閉弁47は閉じられている。そして、通常運転時のブレーキ操作によりブレーキペダル31側のマスタシリンダ32から出力された油圧は、主油圧回路41の第1流路開閉弁45と逆止弁46を通ってホイールシリンダ37側に伝わるようになっている。そして、速度検出器61が自車の走行速度を検出し制御装置60に出力している。
【0025】
そこで、車速が所定速度(例えば時速60km)に達すると、レーダー波発信受信機62が前方走行車両63との車間距離を検出し制御装置60に出力する体勢に入る。そして、車両が設定時速60km以上であり、前方走行車両63との車間距離が所定車間距離(100m)以内に近づくと、レーダー波発信受信機62から制御装置60に検出信号が送信される。そして、検出車間距離が100mを下回ったとき、制御装置60は断続用スイッチ13に切断指令信号を出力して、アクセル装置1のクラッチ機構10への通電を停止し連結を切断させる(本発明に言う第1制御装置の機能の一例)。その結果、この車両追突防止システムAによれば、運転者が居眠りなどによって前方走行車両63への追突の危険に気付かずにアクセルペダル3を踏み続けていても、エンジン64の出力を自動的に低下させて、前方走行車両63との車間距離を大きくすることができ、追突の危険を未然に回避することができる。
【0026】
また、クラッチ機構10が切れると、アクセルペダル3の戻しスプリングの力が半減してアクセルペダル3の踏み具合が軽く感じられるから、運転者は踏み具合の変化に気づきやすく、例えば居眠りしている場合は瞬時に目覚めさせることができる。また、クラッチ機構10の切断と同時に、ストップランプと表示部65の停止掲示板を点灯させる。尚、排気ブレーキ付き車両の場合は、クラッチ機構10の切断と同時に排気ブレーキを効かせるようにしてもよい。
【0027】
あるいは、前記とは別の制御を行なうことも可能である。すなわち、制御装置60は、メモリM内に予め格納されている走行速度・許容車間距離の関係データを参照して、そのときの検出走行速度(例えば時速60km)からその速度での許容車間距離(例えば60m)を算出し表示部65などに表示させる。そして、制御装置60は、算出された許容車間距離を検出車間距離が下回っているか否かを判定する。検出車間距離(例えば50m)が許容車間距離(60m)を下回っていれば、制御装置60は断続用スイッチ13に切断指令信号を出力して、アクセル装置1のクラッチ機構10への通電を停止して連結を切断させる(第1制御装置の機能の別例)。これにより、エンジン64の出力が低下していく。
【0028】
そして、制御装置60は、クラッチ機構10の切断と同時または微少時間後に、自動ブレーキ装置30の第1流路開閉弁45を閉じるとともに第2流路開閉弁48を開く。これにより、油圧自己保持装置51に貯められていた油圧またはエアー圧が主油圧回路41内に送り込まれる。この時、第1流路開閉弁45は閉じられているので、油圧自己保持装置51からの油圧またはエアー圧はホイールシリンダ37にもたらされ、油圧ブレーキ機構38を作動させて車輪39のブレーキを効かす(本発明に言う第2制御装置の機能)。
尚、逆止弁49は、主油圧回路41からの通常ブレーキ時のブレーキ油を蓄圧回路44を経て圧力合流路43へ流入させ油圧自己保持装置51内に蓄圧するため弁であり、油圧自己保持装置51内に蓄圧された油圧を主油圧回路41へ戻す動作はしない。このとき、逆止弁46はマスタシリンダ32側からの油圧をホイールシリンダ37側に一方的にもたらすための弁であり、マスタシリンダ32側への油の流れは遮断している。
【0029】
その後、運転者がアクセルペダル3をいったん離してアクセル検知用スイッチ68がアクセルを緩めたことを検知するか、またはブレーキペダル31を踏んで復旧用スイッチ67がブレーキ操作を検知すると、制御装置60は、断続用スイッチ13に接続指令信号を出力して、アクセル装置1のクラッチ機構10に通電しクラッチ接続をさせる。同時に、制御装置60は自動ブレーキ装置30の第1流路開閉弁45を開くとともに第2流路開閉弁48を閉じる。これにより、通常の運転制御に復旧して通常運転を行なえるようになる。
尚、自動ブレーキ装置30よるブレーキ作動後に、運転者がアクセルペダル3またはブレーキペダル31のどちらも操作しなかった場合は、そのまま自動ブレーキ装置30よるブレーキが利き続ける。一方で、前方走行車両63への接近に運転者が気付かずアクセルペダル3を踏み続けたままであっても、前記のようにクラッチ機構10の切断が続くため、車両は次第に減速し最後は停止する。
【0030】
上記したように、車両追突防止システムAによれば、クラッチ機構10の切断後に、更に自動ブレーキ装置30が自動的にブレーキをかけるから、より迅速かつ確実に前方走行車両63への追突の危険を回避することができる。この場合、30のブレーキにより生じた慣性力は運転者に伝わるから、例え居眠りをしていても直ちに覚醒させることができる。
【0031】
尚、ここでは手動開閉弁47について説明する。運転者が気付かないバルブ第1流路開閉弁45の故障緊急事態に、運転者は通常通りにブレーキ操作をして車両を停止させる。このとき、逆止弁46とバルブ第1流路開閉弁45の破損の為、ブレーキ操作を止めても、ホイールシリンダ37側と第1流路開閉弁45、逆止弁46、第2流路開閉弁48で仕切られた主油圧回路41の仕切り空間内に残圧が残り、油圧ブレーキ機構38が作動したままになる。そこで、装置外から人が手動開閉弁47を開けて、残力を前記した仕切り空間内からマスタシリンダ32側に戻す。このような手動開閉弁47の開放操作により、主油圧回路41はマスタシリンダ32側とホイールシリンダ37側とで常時開通状態となり、通常のブレーキ操作には支障をきたすことはない。但し、手動開閉弁47が開いたままでは、自動ブレーキ装置30に緊急事態対応動作をさせることはできない。
【0032】
そして、第1流路開閉弁45が故障したことの認識は、ブレーキ操作の数秒後に、制御装置60が表示部65への表示か、パトライトまたはハザードライトを点灯させて行なう。制御装置60は圧力スイッチ53による主油圧回路41の仕切り回路内の圧力が所定圧力以上となったときに故障認識を行う。但し、ブレーキ操作中はランプ点灯をしない。ブレーキ操作が終わった後にランプ点灯が始まるので、運転者は第1流路開閉弁45の故障に気付くこととなる。
【0033】
更に、逆止弁46について説明する。主油圧回路41が、第1流路開閉弁45を配備した流路だけであると、電磁弁である第1流路開閉弁45が通電または錆つき等により主油圧回路41を塞いだ場合、ブレーキペダル31を踏んでもブレーキが作動しなくなり、重大事故につながる恐れがある。これを回避するために、逆止弁46を有する二股流路が形成されている。これにより、ブレーキペダル31を操作した場合に、マスタシリンダ32側のブレーキ油またはエアーは少なくとも逆止弁46を通ってホイールシリンダ37側に流れ得る。
【0034】
尚、上記の実施形態では、クラッチ機構10の取付け位置をアクセルワイヤ6の任意の途中位置にしているが、本発明はそれに限定されるものでなく、例えばアクセルペダルの枢支部分、キャブレターレバーの揺動部分または噴射ポンプの弁開度調整部分など、任意の位置に取り付けることが可能である。また、本発明に用いるクラッチ機構は、上記したような電磁駆動式のものに限らず、例えばエアー駆動式のものでも構わない。
また、上記では本発明を適用する原動機出力調整機構としてスロットルレバー5を例示したが、上記のスロットルレバー5に替えて、燃料噴射式エンジンの燃料噴射調整用ロッド66を原動機出力調整機構として適用することも可能である。これによっても異常時にクラッチ機構10を切ってエンジン出力を低下させることができる。
【0035】
更に、本発明のアクセル装置は、スロットルにアクセルペダルが機械的に直結されていない電子制御スロットルシステム(いわゆるドライブ・バイ・ワイヤ・システム)に適用することも可能である。かかる電子制御スロットルシステムは、アクセルペダルと、アクセルペダルの踏み込み量を検出するセンサ部を有するアクセルセンサユニットと、前記センサ部からの電気信号を受けてスロットルの制御量を演算し指令信号として出力するエンジンコントロールユニット(ECU)と、ECUからのスロットル制御指令信号を受けて駆動する駆動モータと、駆動モータの駆動により作動するスロットルとを備える簡素な構成であり、電気的信号のやりとりによって細かく正確な制御を行なえるというメリットを有している。そして、前記のアクセルセンサユニットは、アクセルペダルからのアクセルワイヤが接続されている作動部と、作動部の作動量を検出しアクセル操作量の電気信号に変換して出力するセンサ部とから成っている。従って、このアクセルセンサユニットにおける作動部のワイヤ接続部位または作動部の被検出部位を、本発明の原動機出力調整機構として利用することができる。また、アクセルワイヤと作動部との間、または作動部におけるワイヤ接続部位と被検出部位との間に、クラッチ機構を配備し、これらの間を機械的に断続するようにしても構わない。このように構成することで、電子制御スロットルシステムに好適となるアクセル装置を得ることができ、更にはこのアクセル装置を用いた優れた車両追突防止システムを提供することができる。
【0036】
そして、上記では、圧力供給機構として油圧自己保持装置51を用いたが、これに替えて、例えば外部からの駆動力により油圧を発生させる油圧シリンダおよびピストン(いずれも図示せず)を備えた油圧発生装置52(図4参照)を圧力供給機構として用いることも可能である。
更に、エアーブレーキまたは空気油圧複合式ブレーキを有する車両では、油圧自己保持装置51(または油圧発生装置52)、ならびに、逆止弁49および蓄圧回路44は必要でない。このような車両の場合、元々保有しているメインブレーキ用のエアータンク54(図4中の2点鎖線で示す)そのものを、本発明の圧力供給機構として用いることが可能である。すなわち、エアータンク54から圧力を取り出してホイールシリンダ37に供給することができる。
最終的には、本発明に係るアクセル装置を、トランスミッションとエンジンとを繋ぐ元来のメインクラッチに配備することにより、上記のような非常事態にメインクラッチを断続させることも可能である。但し、オートマチックミッション車の場合はメインクラッチを切るようにする必要はない。
そして、上記ではアクセル装置1を車両Bに適用した例を示したが、本発明のアクセル装置は、車両以外に、建設機械、土木機械、工具製作、ポンプ、コンベア装置、洗浄機械類、その他の機械に適用され得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
A 車両追突防止システム
B 車両
1 アクセル装置
3 アクセルペダル(アクセル操作部材)
5 スロットルレバー(原動機出力調整機構)
6 アクセルワイヤ(機械的接続部材)
7 駆動側部材
7A 一端部
7B 他端部
8 従動側部材
8A 一端部
8B 他端部
10 クラッチ機構
13 断続用スイッチ
30 自動ブレーキ装置
31 ブレーキペダル
32 マスタシリンダ
38 油圧ブレーキ機構
39 車輪
40 ブロック部材
41 主油圧回路
43 圧力合流路
45 第1流路開閉弁
48 第2流路開閉弁
51 油圧自己保持装置(圧力供給機構)
52 油圧発生装置(圧力供給機構)
54 エアータンク(圧力供給機構)
60 制御装置(第1制御装置、第2制御装置)
62 レーダー波発受信機(測距機構)
63 前方走行車両
64 エンジン(原動機)
66 燃料噴射調整用ロッド(原動機出力調整機構)
CPU 中央演算処理装置
M メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作部材と、原動機出力調整機構に前記アクセル操作部材を接続する機械的接続部材と、を備えて成るアクセル装置において、
機械的接続部材を、一端部がアクセル操作部材に接続される駆動側部材と、一端部が原動機出力調整機構に接続される従動側部材とから構成し、駆動側部材の他端部と従動側部材の他端部とをクラッチ機構を介して断続自在に連結し、クラッチ機構を切断するための断続用スイッチを備えていることを特徴とするアクセル装置。
【請求項2】
原動機が車両のエンジンであり、アクセル操作部材がアクセルペダルであり、更に、前方走行車両との車間距離を計測する測距機構と、測距機構により計測された車間距離が、予め設定されている所定車間距離を下回ったとき、断続用スイッチを作動させてクラッチ機構を切断させる第1制御装置と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載のアクセル装置を用いた車両追突防止システム。
【請求項3】
ブレーキペダルと、ブレーキペダルの踏み込みによりブレーキ油を送り出すマスタシリンダと、車輪の回転を制動する油圧ブレーキ機構と、マスタシリンダと油圧ブレーキ機構とを接続してブレーキ油を流す主油圧回路と、主油圧回路に配備された第1流路開閉弁と、主油圧回路に圧力を供給する圧力供給機構と、第1流路開閉弁よりも油圧ブレーキ機構寄り位置の主油圧回路と圧力供給機構とを接続して圧力供給機構からの圧力を主油圧回路にもたらす圧力合流路と、圧力合流路に配備された第2流路開閉弁とを備えて成り、第1制御装置によりクラッチ機構が切断されたときに、第1流路開閉弁を閉じるとともに第2流路開閉弁を開いて圧力供給機構からの圧力を油圧ブレーキ機構に供給する第2制御装置と、を備えていることを特徴とする請求項2に記載の車両追突防止システム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184010(P2011−184010A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54351(P2010−54351)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パトライト
【出願人】(594016160)
【Fターム(参考)】