説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】汎用性の高いサスペンション取付け部を備え、軽量で、且つ転舵時の引きずり抵抗を軽減することのできるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ側回転部材を回転駆動するモータ部Aと、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部Bと、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとが車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置されたインホイールモータ駆動装置において、前記減速部Bのハウジング22bの外面に、サスペンション取付けブラケットを固定し、このサスペンション取付けブラケットを介してサスペンションのアームを取付けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪に駆動機構を構成する電動モータを組み込んだインホイールモータ駆動装置、特にサスペンション取付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置101は、例えば、特開2009−219271号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
このインホイールモータ駆動装置101は、図23に示すように、車体に取り付けられるハウジング102の内部に駆動力を発生させるモータ部103と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部104と、モータ部103の回転を減速して車輪ハブ軸受部104に伝達する減速部105とを直列に備える。
【0004】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101を車体に取付けるサスペンション機構は、下記の2種類に大別される。
【0005】
その一つは、例えば、特開平5−116545号公報(特許文献2)に記載されているような、駆動ユニットの外周に嵌まり、且つサスペンションアーム取付け部を有する、従来のエンジン車と類似形状のナックル(ハブキャリア)を介して車体に取付ける方法である。
【0006】
他の一つは、特許第3440082号公報(特許文献3)に記載されている、モータ部のハウジングにサスペンションアームを直接固定する方法である。この駆動ユニットは、モータ部と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部と、機械式ブレーキとからなる。そして、車体へのサスペンションアーム取付け部は、別体のアタッチメントとしてモータ部のハウジングに固定できるようにして、モータ部の形状や特性に関わらず、駆動ユニットを搭載できるようにして、汎用性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−219271号公報
【特許文献2】特開平5−116545号公報
【特許文献3】特許第3440082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構成の取付け方法のうち、前者の方法は、モータ部の外径が、エンジン車の車軸に比べ大幅に大きいため、ナックルが大型化し、ホイール内側の限られた空間内にサスペンション取付け部を収めることが困難である。従って、ナックル形状がホイールの外側に逃げる形状になったり、駆動ユニットよりも車幅方向の内側に配置されることになったりする。このナックル形状の大型化とサスペンション配置の制約により、バネ下荷重が増加するという問題と共に、キングピン軸がタイヤ設置面に対して車幅方向内側にオフセットするため、転舵時の引きずり抵抗になるという問題がある。
【0009】
また、後者のように、モータ部のハウジンにサスペンションアームを直接固定する方法の場合、モータ部とホイール(タイヤ)取付け部との間には、減速部が位置するため、キングピン軸とタイヤ接地面とが離れてしまい、転舵時の引きずり抵抗や、タイヤの上下・前後振動によりモータ部に負荷されるモーメントが増大するため、取付け部の肉厚を大きくして必要強度を確保する必要があり、重量削減が困難であった。
【0010】
そこで、この発明は、汎用性の高いサスペンション取付け部を備え、軽量で、且つ転舵時の引きずり抵抗を軽減することのできるインホイールモータ駆動装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明は、モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとが車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置されたインホイールモータ駆動装置において、前記減速部のハウジングの外面に、サスペンション取付けブラケットを固定し、このサスペンション取付けブラケットにサスペンション機構のアームを取付けることを特徴とするものである。
【0012】
前記サスペンション取付けブラケットには、ブレーキキャリパ取付け部を設けることができる。
【0013】
また、前記サスペンション取付けブラケットの一つをナックルアーム形状とし、ステアリングタイロッドの取付けを行うこともできる。
【0014】
前記サスペンション取付けブラケットは、減速部のハウジングの外面に対して複数の面で当接する形状とし、サスペンション取付けブラケットの固定ボルトのみで入力荷重を受けずに、前記サスペンション取付けブラケットによっても入力荷重を受け持つようにすることが好ましい。
【0015】
前記車輪ハブは、荷重センサ付きのハブベアリングを使用することができる。
【0016】
前記減速部は、遊星歯車式減速機又はサイクロイド減速機を使用することができる。
【0017】
前記サスペンション機構は、ダブルウィッシュボーン形式、ストラット形式、トーションビーム形式、トレーリングアーム形式等を使用することができる。
【0018】
前記モータ部と減速部のハウジングは、非鉄製とし、前記サスペンション取付けブラケットを鋼鉄製にすることにより、全体の軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係るインホイールモータ駆動装置は、以上のように、サスペンション機構のアームを、減速部のハウジングの外面に、サスペンション取付けブラケットを介して固定するようにしている。
【0020】
したがって、タイヤ接地面に近い位置にサスペンションアームピボット(キングピン軸)を配置することができるので、転舵時の引きずり抵抗やタイヤからの負荷モーメントを低減することができる。この負荷モーメントの低減により、駆動ユニットの軽量化・小型化を図ることができる。
【0021】
また、サスペンション取付けブラケットを別体にすることにより、強度部材、ハウジング部材など、それぞれに最適な材料の選定が可能になる。材料だけでなく、部品形状の最適化や自由度の向上も図ることができる。
【0022】
例えば、体積の大きなモータ部のハウジングや減速部のハウジングをアルミ合金等の軽量材とし、サスペンションを取付けるブラケットだけを高強度の鋼材にすることができる。
【0023】
また、ブラケット形状を変更することにより、ブレーキキャリパやステアリング用タイロッドを取付けることができる。このため、ブラケットの形状変更のみで、フロントホイール用・リヤホイール用など車両や用途に合わせてカスタマイズでき、駆動ユニットの共通化を図れ、汎用性が高い駆動ユニットを提供することができる。
【0024】
また、ブラケットを着脱可能にすることにより、サスペンションの組み付け等で作業性を高めることができる。
【0025】
また、ブラケット形状を工夫することにより、サスペンション(タイヤ)からの入力負荷をブラケット自体で受けるようにすることもでき、サスペンション取付け部の強度を補うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図2】図1のモータ部の拡大図である。
【図3】図1の減速部の拡大図である。
【図4】図1の車輪ハブ軸受部の拡大図である。
【図5】図1のV−V線の断面図である。
【図6】図1の偏心部周辺の拡大図である。
【図7】図1の回転ポンプを軸方向から見た図である。
【図8】図1のインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車の概略平面図である。
【図9】図8を後方から見た概略背面図である。
【図10】減速部のハウジングを車輪ハブ軸受部側から見た正面図である。
【図11】減速部のハウジングを車輪ハブ軸受部側から見た斜視図である。
【図12】減速部のハウジングをモータ部側から見た斜視図である。
【図13】サスペンション取付けブラケットの一例を示す斜視図である。
【図14】図13のサスペンション取付けブラケットを減速部のハウジングに取付けた状態をモータ部側から見た斜視図である。
【図15】図13のサスペンション取付けブラケットを減速部のハウジングに取付けた状態を車輪ハブ軸受部側から見た正面図である。
【図16】図13のサスペンション取付けブラケットを減速部のハウジングに取付けてサスペンションを取付けた状態を示す斜視図である。
【図17】サスペンション取付けブラケットの他の例を示す斜視図である。
【図18】サスペンション取付けブラケットの他の例を示す斜視図である。
【図19】図18のサスペンション取付けブラケットを減速部のハウジングに取付けた状態をモータ部側から見た斜視図である。
【図20】サスペンション取付けブラケットの別な例を減速部のハウジングに取付けた状態をモータ部側から見た斜視図である。
【図21】サスペンション取付けブラケットの別な例を減速部のハウジングに取付けた状態をモータ部側から見た斜視図である。
【図22】前輪駆動ユニットの実施形態を示す側面図である。
【図23】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
まず、図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を駆動輪14に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備え、図9に示すようにシャーシ12のホイールハウス12a内に取り付けられる。
【0029】
モータ部Aは、図2に示すように、ハウジング22aに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ側回転部材25とを備えるラジアルギャップモータである。ロータ24は、フランジ形状のロータ部24aと円筒形状の中空部24bとを有し、転がり軸受36a、36bによってハウジング22aに対して回転自在に支持されている。
【0030】
モータ側回転部材25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bにかけて配置され、減速部B内に偏心部25a、25bを有する。このモータ側回転部材25は、一端がロータ24と嵌合すると共に、減速部B内で転がり軸受36cによって支持される。さらに、2つの偏心部25a、25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180度位相を変えて設けられている。
【0031】
減速部Bは、図3に示すように、偏心部25a、25bに回転自在に保持される公転部材としての曲線板26a、26bと、ハウジング22b上の固定位置に保持され、曲線板26a、26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、曲線板26a、26bの自転運動を車輪側回転部材28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a、25bに隣接する位置にカウンタウェイト29とを備える。また、減速部Bには、減速部Bに潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。
【0032】
車輪側回転部材28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。また、軸部28bは車輪ハブ32に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪14に伝達する。車輪側回転部材28のフランジ部28aとモータ側回転部材25とは、転がり軸受36cによって回転自在に支持されている。
【0033】
曲線板26a、26bは、図5に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30aを有する。貫通孔30aは、曲線板26a、26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a、26bの中心に設けられており、偏心部25a、25bに嵌合する。
【0034】
曲線板26a、26bは、転がり軸受41によって偏心部25a、25bに対して回転自在に支持されている。図5に示すように、この転がり軸受41は、偏心部25a、25bの外径面に嵌合し、その外径面に内側軌道面42aを有する内輪部材42と、曲線板26aの貫通孔30bの内径面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aおよび外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、隣接する円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。
【0035】
外ピン27は、モータ側回転部材25の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。曲線板26a、26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a、26bに自転運動を生じさせる。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの外周面に当接する位置に針状ころ軸受27aを有する。
【0036】
カウンタウェイト29は、円板状で、中心から外れた位置にモータ側回転部材25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a、26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心部25a、25bに隣接する位置に偏心部と180度位相を変えて配置される。
【0037】
ここで、図6に示すように、2枚の曲線板26a、26b間の中心点をGとすると、図6の中心点Gの右側について、中心点Gと曲線板26aの中心との距離をL、曲線板26a、転がり軸受41、および偏心部25aの質量の和をm1、曲線板26aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト29との距離をL、カウンタウェイト29の質量をm2、カウンタウェイト29の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L×m1×ε1=L×m2×ε2を満たす関係となっている。また、図6の中心点Gの左側の曲線板26bとカウンタウェイト29との間にも同様の関係が成立する。
【0038】
運動変換機構は、車輪側回転部材28に保持された複数の内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が車輪側回転部材28に固定されている。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受31aが設けられている。
【0039】
一方、貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。
【0040】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給するものであって、潤滑油路25cと、潤滑油給油口25dと、潤滑油排出口25eと、潤滑油貯留部25fと、回転ポンプ51と、循環油路25gとを備える。
【0041】
潤滑油路25cは、モータ側回転部材25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、潤滑油給油口25dは、潤滑油路25cからモータ側回転部材25の外径面に向かって延びている。なお、この実施形態において、潤滑油給油口25dは、偏心部25a、25bに設けられている。
【0042】
また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部の少なくとも1箇所には、減速部B内部の潤滑油を排出する潤滑油排出口25eが設けられている。また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部には、潤滑油貯留部25fが設けられている。
【0043】
潤滑油貯留部25fの潤滑油は、回転ポンプ51で吸い上げて循環油路25gを経由して潤滑油路25cに強制的に還流させている。
【0044】
ここで、回転ポンプ51は、図7に示すように、車輪側回転部材28の回転を利用して回転するインナーロータ52と、インナーロータ52の回転に伴って従動回転するアウターロータ53と、ポンプ室54と、吸入口55と、循環油路25gに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。
【0045】
インナーロータ52は、外径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分52aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分52bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。このインナーロータ52は、内ピン31(車輪側回転部材28)と一体回転する。
【0046】
アウターロータ53は、内径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分53aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分53bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。このアウターロータ53は、ハウジング22に回転自在に支持されている。
【0047】
インナーロータ52は、回転中心c1を中心として回転する。一方、アウターロータ53は、インナーロータの回転中心c1と異なる回転中心c2を中心として回転する。また、インナーロータ52の歯数をnとすると、アウターロータ53の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=5としている。
【0048】
インナーロータ52とアウターロータ53との間の空間には、複数のポンプ室54が設けられている。そして、インナーロータ52が車輪側回転部材28の回転を利用して回転すると、アウターロータ53は従動回転する。このとき、インナーロータ52およびアウターロータ53はそれぞれ異なる回転中心c1、c2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55から流入した潤滑油が吐出口56から循環油路25gに圧送される。
【0049】
車輪ハブ軸受部Cは、図4に示すように、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を減速部Bのハウジング22bに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを備える。車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって駆動輪14が固定連結される。また、車輪側回転部材28の軸部28bの外径面にはスプラインおよび雄ねじが形成されている。また、車輪ハブ32の中空部32aの内径面にはスプライン穴が形成されている。そして、車輪ハブ32の内径面に車輪側回転部材28を螺合し、先端をナット32dでとめることによって、両者を締結している。また、駆動輪14のホイールと車輪ハブ32のフランジ部32bとの間には、ブレーキディスク15が取り付けられている。
【0050】
車輪ハブ軸受33は、車輪ハブ32の中空部32aの車両アウター側の外径面に一体形成されたアウター側軌道面と車輪ハブ32の中空部32aの車両インナー側の外径面に嵌合された外面にインナー側軌道面を有する内輪33bとからなる内方部材33aと、この内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に配置される複列の玉33cと、内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に対向するアウター側軌道面とインナー側軌道面を内周面に有する外方部材33dと、隣接する玉33cの間隔を保持する保持器33eと、車輪ハブ軸受33の軸方向両端部を密封する密封部材33f、33gとを備える複列アンギュラ玉軸受である。
【0051】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dは、減速部Bのハウジング22bに対して締結ボルト71によって固定される。
【0052】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dには、外径部にフランジ部33hが設けられ、減速部B側に円筒部33iが設けられている。
【0053】
この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図8に示すように、シャーシ12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、左右の後輪14それぞれに駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを備える。後輪14は、図9に示すように、シャーシ12のホイールハウス12aの内部に収容され、サスペンション12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0054】
この発明では、サスペンション12bの端部を、減速部Bのハウジング22bに、サスペンション取付けブラケット60を介して取付けている。
【0055】
減速部Bのハウジング22bには、図10に示すように、サスペンション取付けブラケット60を固定するためのボルト穴61a、61b、61cが設けられ、サスペンション取付けブラケット60を減速部Bのハウジング22bにボルトオンし、サスペンション取付けブラケット60を介してサスペンション81、82、83の端部を減速部Bのハウジング22bに取り付けている。
【0056】
減速部Bのハウジング22bは、図10に示すように、モータ出力軸aと同軸の入出力軸をもつ減速部Bの減速機構を収める略円筒形状部22cと、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部25fとからなる。略円筒形状部22cの上方両側面には、平面部22d、22eを設けている。ハウジング22bの上方の平面部22d、22eと、潤滑油貯留部25fの下端面には、サスペンション取付けブラケット60を固定するためのボルト穴61a、61b、61cを設けている。
【0057】
図11は、減速部Bのハウジング22bを、車輪ハブ軸受部Cの取付け面側から見た斜視図であり、図12は、モータ部Aの取付け面側から見た斜視図である。
【0058】
図13に示すサスペンション取付けブラケット60は、サスペンション12bのアッパーアーム81を取付けるアッパーアームブラケット60aと、トーコントロールロッド82を取付けるトーコントロールロッドブラケット60bを示している。
【0059】
図14は、アッパーアームブラケット60aと、トーコントロールロッドブラケット60bを、減速部Bのハウジング22bの略円筒形状部22cの上方の平面部22d、22eに取付けた状態を示している。
【0060】
また、図15は、車輪ハブ軸受部Cの取付け面側から見た図であり、ブレーキディスク15を破線で示し、潤滑油貯留部25fの下端面に、ロアアームブラケット60cを取付けた状態を示している。符号86は、減速部Bのハウジング22bに設けたブレーキキャリパ取付け部である。
【0061】
図16は、アッパーアームブラケット60aにサスペンション12bを構成するアッパーアーム81を取付け、トーコントロールロッドブラケット60bにトーコントロールロッド82を取付け、ロアアームブラケット60cにロアアーム83を取付けた状態を示している。
【0062】
ロアアーム83とアッパーアーム81の間の空間には、路面からの入力振動を減衰するショックアブソーバ84が配置される。ショックアブソーバ84の下端はロアアーム83に、上端はシャーシ12に固定されている。
【0063】
また、減速部Bのハウジング22bには、ブレーキ取付け部86を設けて、図16に示すように、ブレーキキャリパ85を固定する。
【0064】
ブレーキディスク15は、車輪ハブ軸受部Cを介してホイール14と一体回転可能に固定されている。
【0065】
次に、図17は、ナックルアーム形状のブラケット60dを示しており、このブラケット60dを、トーコントロールロッドブラケット60bの代わりに減速部Bのハウジング22bに取付けることにより、前輪駆動ユニットを構成することができる。この前輪駆動ユニットの例を図22に示す。
【0066】
このように、サスペンション取付けブラケット60の形状を変更するだけで、フロントホイール用・リヤホイール用の駆動ユニットを共通化することができる。
【0067】
次に、図18は、サスペンション取付けブラケット60に、ブレーキ取付け部60fを設けたブラケット60eの例であり、図19は、ブラケット60eの取付け状態を示している。
【0068】
このようなブレーキ取付け部60fを設けたブラケット60eを使用すると、ブレーキの形状に合わせてブラケット60eを変更すれば、駆動ユニットの共通化が可能となる。
【0069】
次に、図20と図21の実施形態は、サスペンション取付けブラケット60を減速部Bのハウジング22bにボルトオンした場合に、サスペンション12b、即ちタイヤからの入力荷重がボルトだけにかからないように、サスペンション取付けブラケット60の座に、減速部Bのハウジング22bの平面部22d、22eの2面に当接する荷重受け部60gを設けた例である。図20は、荷重受け部60gをサスペンション取付けブラケット60の座の前後の面に設け、軸方向の荷重を受けるようにした例であり、図21は、荷重受け部60gをサスペンション取付けブラケット60の座の上下の面に設け、垂直方向の荷重を受けるようにした例である。なお、図20及び図21において矢印は荷重方向を示している。
【0070】
また、減速部Bのハウジング22bのサスペンション取付け部を平面部22d、22eを持つ円筒形状とし、サスペンション取付けブラケット60を有底筒状に形成し、平面部22d、22eを嵌めるようにして、荷重を受けるようにしてもよい。
【0071】
次に、モータ部Aのハウジング22a、減速部Bのハウジング22b、サスペンション取付けブラケット60の材質は、特に限定されず、用途・形状に合わせて最適なものを選ぶことができる。
【0072】
例えば、モータ部Aのハウジング22a、減速部Bのハウジング22bは、アルミ合金、樹脂材料(繊維強化タイプを含む)等の軽量材料とし、サスペンション取付けブラケット60を鋼材料にすることにより、軽量化を図ることができる。
【0073】
また、補強、打ち傷・腐食防止など性質を向上させるために、熱処理や表面処理を施してもよい。例としては、クロメート処理、アルマイト処理等がある。
【0074】
以上の実施形態では、サスペンション取付けブラケット60を減速部Bのハウジング22bにボルトによって固定するようにしたが、溶接によって固定するようにしてもよい。
【0075】
また、前記サスペンション12bの形式としては、ダブルウィッシュボーン形式、ストラット形式、トーションビーム形式、トレーリングアーム形式等、特に形式は限定されない。
前記車輪ハブは、荷重センサ付きのハブベアリングを使用することができる。
【0076】
また、上記の実施形態において、曲線板26a、26bを支持する軸受として円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0077】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置21のコンパクト化の観点からは、転がり軸受41には円筒ころ軸受が好適である。
【0078】
また、上記の各実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばハウジングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0079】
また、上記の各実施形態においては、減速部Bにサイクロイド減速機構を採用したインホイールモータ駆動装置21の例を示したが、これに限ることなく、任意の減速機構を採用することができる。例えば、遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構等が該当する。
【0080】
さらに、図8に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
【0081】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
A モータ部
B 減速部
C 車輪ハブ軸受部
11 電気自動車
12 シャーシ
12a ホイールハウジング
12b サスペンション
13 前輪
14 後輪
15 ディスクブレーキ
22a モータ部Aのハウジング
22b 減速部Bのハウジング
22c 略円筒形状部
22d、22e 平面部
25f 潤滑油貯留部
60 サスペンション取付けブラケット
60a アッパーアームブラケット
60b トーコントロールロッドブラケット
60c ロアアームブラケット
81 アッパーアーム
82 トーコントロールロッド
83 ロアアーム
84 ショックアブソーバ
85 ブレーキキャリパ
24 ロータ
24a ロータ部
24b 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとが車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置されたインホイールモータ駆動装置において、前記減速部のハウジングの外面に、サスペンション取付けブラケットを固定し、このサスペンション取付けブラケットにサスペンション機構のアームを取付けることを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記サスペンション取付けブラケットに、ブレーキキャリパ取付け部を設けたことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記サスペンション取付けブラケットの一つをナックルアーム形状として、ステアリングタイロッドを取付けたことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記サスペンション取付けブラケットを、減速部のハウジングの外面に対して複数の面で当接する形状とし、前記サスペンション取付けブラケットによって入力荷重を受け持つようにした請求項1〜3のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記車輪ハブが、荷重センサ付きのハブベアリングである請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記減速部が、遊星歯車式減速機である請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記減速部が、サイクロイド減速機である請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記サスペンション機構が、ダブルウィッシュボーン形式である請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記サスペンション機構が、ストラット形式である請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記サスペンション機構が、トーションビーム形式である請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記サスペンション機構が、トレーリングアーム形式である請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項12】
前記モータ部と減速部のハウジングを非鉄製とし、前記サスペンション取付けブラケットを鋼鉄製にしたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−240765(P2011−240765A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112977(P2010−112977)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】