エピタキシャルSi膜の製造方法およびプラズマ処理装置
【課題】 十分な成膜速度と膜の均一性の双方を満たし、低温でのエピタキシャル成長を実現する、新たな大気圧プラズマCVD法による無転位のエピタキシャルSi膜の製造方法を提供する。
【解決手段】大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法において、前記電極として、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体を使用し、この孔を通じて、前記電極と基板との間に導入する。また、前記電極の表面は、厚み20nm以上のSi膜で被覆し、前記電極上に、前記Si膜を介して放熱板を配置し、前記電極と前記基板との間の距離を、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲とする。
【解決手段】大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法において、前記電極として、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体を使用し、この孔を通じて、前記電極と基板との間に導入する。また、前記電極の表面は、厚み20nm以上のSi膜で被覆し、前記電極上に、前記Si膜を介して放熱板を配置し、前記電極と前記基板との間の距離を、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧CVDによるエピタキシャルSi膜の製造方法ならびにプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業において、機能性薄膜を高速、均質に形成することが要求されている。特に、電子情報産業においては、SiO2、SiN:H、a−Si:H、SiC:H、poly−Si、epi−Si、金属薄膜等、多種多様な薄膜が必要とされており、非常に優れた均質性、均一性を満たし、且つ、高い生産性、すなわち低コスト性を兼ね備えていることが必須とされている。しかしながら、低圧プラズマCVD(chemical vapor deposition)、低圧スパッタリング等の従来の成膜法では、低圧雰囲気を形成するために、真空容器が必須であり、また、基板のサイズの巨大化とともに、成膜装置における電極や真空容器も巨大化するため、均質化、低コスト化、高スループット化が困難となっている。
【0003】
そこで、低圧下ではなく、大気圧下で処理を行う大気圧プラズマ(大気圧グロー放電)を用いた成膜法(大気圧プラズマCVD法)への注目が高まっている。この方法は、従来の低圧プラズマCVDと比較して、真空容器が不要であり、また、原料ガスの導入量を格段に上昇させることが可能であるため、成膜速度の高速化を実現できる。さらに、大気圧プラズマは非常に局在して発生するため、プラズマ発生領域内のみに均一且つ均質な膜を形成できれば、例えば、基板や電極を基板面内で走査することによって、大面積に均一且つ均質な薄膜の形成も期待できる。
【0004】
しかしながら、このような大気圧プラズマCVD法についても、次のような問題がある。
【0005】
第1に、電極の熱損傷の問題があげられる。大気圧プラズマCVD法は、従来の低圧プラズマCVD法と比較して、非常に大量の原料ガスを分解活性化するが、その反面、プラズマを維持するために大きな電力を電極に投入する必要がある。このため、投入された大きな電力によって電極自身が熱損傷するおそれがある。一般的な電極として、例えば、メッシュや針状の金属電極が知られているが、これらは、非常に簡便な電極であるものの、前述の投入される電力により、高温に熱せられた金属から熱電子や2次電子等が大量に発生し、プラズマがアーク放電に移行し易く、それによって電極が損傷を受けやすいという欠点を有する。このため、現在では、MgO、Al2O3、SiO2等の誘電体で被覆した電極を用いるのが一般的であるが、依然として大電力を投入した際には、電極自体が加熱されるため、強制的に冷却する、もしくは電極の熱容量を非常に大きくする必要がある。
【0006】
第2に、成膜速度の問題があげられる。大気圧プラズマを安定に発生させるには、荷電粒子の平均自由行程の短さから、高周波電力を用いた場合、電極間距離は数mm程度となる。このため、狭い空間に発生しているプラズマ中へ、原料ガスを効率良く輸送する手法が不可欠となる。これまで、大気圧プラズマを真空容器内の一部分に発生させ、前記真空容器内に一様にガスを供給することで成膜を行った例があるが、この手法では、プラズマ中への原料ガス補給がプラズマ外からの拡散現象のみによって行われるため、成膜速度が非常に遅いという欠点がある。
【0007】
このような局所的に発生するプラズマ中にガスを効率的に供給する方法として、例えば、以下の2種類の方法がある。第1の方法は、図27の断面図に示すように、基板34と平板電極32および石英ガラス38との間に、基板34の面方向に平行な流路(平行流路)を形成し、ガスを導入する上流とガスが排出される下流との圧力差によって、強制的なガス流(同図において矢印A)を発生させ、この基板34と平板電極32との間における流路内にプラズマ15を発生させることで、成膜速度を向上する方法である。第2の方法は、図28の断面図に示すように、円筒状の電極41(以下、「回転電極」という)と、基板支持部材43上の基板44との間にプラズマ15を発生させ、回転電極41を高速に回転させることにより、電極41表面と気体との摩擦力および粘性を利用して、プラズマ中に原料ガスを供給する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、第1の方法は、小面積基板への適用は容易であるが、大面積基板に適用するには、高い精度で非常に大きな矩形平行流路を形成する必要があり、例えば、材料の強度、工作精度等の問題が生じる。また、第2の方法の場合、容器内に一旦ため込まれた反応ガスを、電極の回転によってプラズマ中へガスを導入するため、成膜された膜の純度は、成膜容器の清浄度に大きく左右され、過度の清浄度をチャンバー全体に要求することとなる。また、プラズマを発生させるための電極基板間距離は、わずか数mm以下の空間しか必要としないにもかかわらず、回転電極全体を覆うための大きな真空容器が必要となる。さらに、電極の曲率に応じて基板電極間距離が変化するため、プラズマの発生条件(例えば、反応ガス濃度、投入電力等)により、例えば、プラズマ発生領域が変化したり、ギャップに依存してプラズマ密度の分布が生じたりするため、成膜結果とプラズマ発生条件との相関を単純に議論することが困難である。
【0009】
第3に、成膜された膜の均一性の問題がある。これは、前記第1および第2の方法の双方に共通した問題である。前述の平行流路を用いた成膜法、および、回転電極を用いた成膜法は、それぞれ基板の面方向に平行な流れを利用して原料ガスの供給を行っている。このようなガスの供給方法の場合、一様な成膜を実現するには、基板の面方向において一様なガスの流れ(層流)が必須と考えられる。しかしながら、前記両者の方法は、回転電極や平行流路の一部分に局在したプラズマであるため、例えば、プラズマ領域の直前までガスが均一な流れであったとしても、プラズマ境界部では著しいエネルギー変化が生じるため、均一な層流を保持することが困難である。さらに、プラズマ内での流れが整っていたとしても、基板の面方向に平行に流れるガスを利用している以上、プラズマ中での原料ガスの分解反応による各種ラジカルの生成時間等に依存して、膜厚や膜質のムラが流れ方向に沿って現れる。具体的には、第1の方法では、上流側と下流側とでガスの圧力が異なってしまい、また、第2の方法では、例えば、図28に示すように、ガスがプラズマ領域に流れる(矢印B)だけでなく、逆流(矢印B’)も生じてしまうため、位置によって不均一になる。
【0010】
また、第2の方法で作製されたSiエピタキシャル膜は、僅か3〜4×10cm2の領域に形成できるのみであり、また、原料ガスがプラズマ中に侵入する最上流部では、分解が不十分なSiHxが基板に付着するため、アモルファスSiもしくは多結晶Siが、ガスの流れ方向に沿って幅1〜5mm程度の領域に形成されるという問題がある。このように結晶性の乱れた領域が形成されることにより、基板走査成膜によるSiウェハ全面へのSiエピタキシャル成長が阻害される。さらに、この成膜法においては、著しい膜厚むらが発生し、結晶性の乱れた部分においては、局所的に1.1μm/min程度の成膜速度が得られるものの、全体を平均した成膜速度は250nm/minとなってしまう。また、以上のようなプラズマ上流側界面における結晶性の乱れ以外にも、下流部界面において微粒子が生成され、基板上に付着するという問題もある。これらは、前述の回転電極および基板表面に平行な方向へのガス供給に特有の問題であると考えられる。
【0011】
このような平行方向からのガス供給による問題を解決するために、基板の面方向ではなく、基板の法線方向から原料ガスを供給する方法が開示されている。例えば、図29(a)の断面図に示すように、複数の貫通口511を有する電極51を基板43と対向するように配置し、貫通口511を通じてガス(矢印B)を流すことによって、基板43表面に到達する原料ガスの到達時間を均一にすることが可能となり、且つ、プラズマに原料ガスが侵入する界面を基板から離すことが可能となる。
【特許文献1】特許第3480448号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、電極に大きな貫通口(例えば、直径1mm程度)を設けた場合、図29(a)に示すように、貫通口511を通過したガスは、矢印B’の方向に進むこと、および、貫通口の真下とそれ以外の位置とではプラズマ密度が異なるため、図29(b)に示すように、貫通口511のパターンがそのまま転写された状態でSi膜52の成膜が行われてしまう。これは、高周波を用いた大気圧プラズマの場合、プラズマ生成を担う荷電粒子の振幅が非常に小さく、電極の貫通口を大きくすると、貫通口部分のプラズマ密度が著しく低下し、極端な場合は、プラズマが消滅してしまうためである。このため、プラズマに影響を与えない開口径とするには、任意のプラズマ生成条件における電子の振幅や平均自由行程に匹敵する、非常に小さな開口とする必要がある(例えば、数μm〜数百μm)。しかしながら、この様な微小の開口を厚さ数mmの金属板に設けることは非常に困難であり、可能であったとしても経済的に見合った方法ではない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、十分な成膜速度と膜の均一性の双方を満たし、低温でのエピタキシャル成長を実現する、新たな大気圧プラズマCVD法によるエピタキシャルSi膜の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のエピタキシャルSi膜の製造方法は、大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法であって、前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、前記電極における前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、前記多孔質体である電極の孔を通じて、ガスを、前記電極と基板との間に導入することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の製造方法を実施する本発明の装置は、電極と、基板の支持部材(以下、「サセプタ」ともいう)とが対向して配置され、前記電極と前記支持部材上の基板との間にプラズマを発生させて、前記基板表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、前記電極における前記処理支持部材との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、前記ガスが、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と前記支持部材上の基板との間に導入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法およびプラズマ処理装置によれば、低温条件下(例えば、600℃以下)であっても、均一性に優れたエピタキシャルSi膜を高速に製造方法することができる。特に、本発明によれば、電極として、所定の平均孔径および厚みである多孔質体を使用することにより、プラズマ内において、原料ガスをランダムな方向へ供給できることが特徴の1つである。すなわち、従来は、全体として均一な処理を行うために、原料ガスについて「一様な層流」を作り出すことが重要視されていた。これに対して、本発明は、一様な層流ではなく「ランダムなガス流」を作り出し、原料ガスを拡散させている。つまり、この拡散によって、全体として均一なガス供給を図り、結果的に、均一なプラズマ処理を可能とした。なお、このような性質から、本発明おける電極は、以下、「拡散電極」ともいう。そして、このような所定の性質を有する多孔質体を電極とすることに伴って生じる問題を、例えば、放熱板の併用や、Si膜での被覆等により解消し、結果として、低温条件下、十分な成膜速度での均一なエピタキシャルSi膜の成膜を実現した。さらに、このように低温での優れたエピタキシャル膜の形成を可能にしたことから、例えば、この製造方法を、Siウェハの製造のみならず、デバイス製造の中間工程に組み入れることによって、デバイスのさらなる改変にもエピタキシャル成長を利用可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における電極は、多孔質体であり、且つ、炭素および炭化ケイ素の少なくとも一方からなる。前記炭素としては、例えば、ガラス状カーボンやグラファイト等があげられる。なお、電極の材料は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記電極の厚みは、10mm未満であり、より好ましくは1〜5mmであり、特に好ましくは2〜3mmである。
【0018】
前記電極の平均孔径は、5〜30μmであり、好ましくは5〜25μmであり、より好ましくは7〜18μmである。なお、平均孔径は、例えば、ボロメーターによって測定できる。また、前記電極の気孔率は、例えば、10〜50%であり、好ましくは10〜40%であり、より好ましくは25〜35%である。このような平均孔径の多孔質体は、例えば、前述の物質からなり、平均孔径が、例えば、30〜156μmである粒子を焼成することによって製造できる。この焼成温度は、特に制限されず、物質の種類によって適宜決定できるが、通常、900℃(例えば、炭素)〜2400℃(例えば、SiC)である。
【0019】
前記拡散電極のプラズマ暴露側における表面平面度は、プラズマの均一性を保証するため、例えば、0.1mm以下にすることが好ましく、より好ましくは0.05mm以下であり、特に好ましくは0.01mm以下である。
【0020】
本発明において、前記電極の表面は、Si膜で被覆されている。なお、電極表面は、少なくともプラズマに暴露される表面がSi膜で覆われていることが好ましい。Si膜の厚みは、20nm以上であり、好ましくは20〜1000nmであり、より好ましくは20〜500nmである。このように20nm以上のSi膜で被覆することによって、電極表面からの炭素系不純物の放出を低減し、成膜したSi膜のキャリアライフタイムの劣化を防止することができる。なお、電極の被覆は、電極の製造に使用する前述のような粒子を、予めSi膜でコーティングすることにより行ってもよいし、焼成により電極を製造してから、さらにその表面をSi膜でコーティングしてもよい。Si膜でのコーティング方法は、特に制限されず、従来公知の方法が使用できるが、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0021】
電極コーティングは、例えば、電子グレード(純度99.9999%以上)のSiH4ガスとHeとH2との混合気体を用いたプラズマCVDにより行うことができる。この際、サセプタの温度(即ち基板温度)をエピタキシャル成長が実施される基板温度以上に設定することが好ましい。SiH4は、400℃程度から熱分解が開始するため、プラズマに接触する拡散電極表面、ならびに、400℃以上(TDSの測定によりCO等が有意に発生する領域)の高温になる拡散電極内の粒子表面に、20nm以上のSi膜を効率よくコーティングできる。なお、400℃の基板温度でエピタキシャル成長を行う場合には、例えば、プラズマに暴露される拡散電極の最表面のみが、20nm以上のSi膜で覆われていればよい。他の方法としては、サセプタからの輻射熱によって拡散電極(多孔質体)表面の温度を上昇させておき、後述するようなガス供給室から、SiH4とキャリアガスとの混合ガス供給することによっても可能である。なお、この方法においては、拡散電極全体の微粒子表面にSiを形成するか、拡散電極内部の温度が、プラズマによるエピタキシャル成膜の条件と同様であることが好ましい。
【0022】
本発明において、前記電極は、前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介してさらに放熱板が配置されている。このように放熱板を配置することによって、発生する電極の熱を吸熱し、放熱することができる。
【0023】
放熱板の形状は、特に制限されないが、電極の熱を吸熱し、それを放熱する機能を妨げない程度で、ガスを透過させる形状であることが好ましい。具体例としては、例えば、厚み方向に貫通孔を有することが好ましく、その直径は、例えば、0.2〜5mm程度、好ましくは1〜5mm程度であり、その個数は、放熱板の単位面積(mm2)あたり、1〜7個であることが好ましい。放熱板の大きさは、例えば、使用する電極の大きさに応じて適宜決定できる。また、その厚みは、放熱板の材質によって定まる比熱や熱伝導率によって適宜決定できるが、例えば、10〜50mmである。
【0024】
前記放熱板の材料は、特に制限されないが、熱伝導性に優れ、金属系不純物を発生しない材料が好ましく、特に非金属性材料が好ましい。具体例としては、焼結グラファイト、ボロンナイトライド(BN)、アルミナ、Si、冷却された非磁性金属等があげられる。冷却された非磁性金属とは、例えば、水冷や、強制空冷された、非磁性金属製放熱板を意味し、前記非磁性金属としては、従来公知の金属が使用できる。また、いずれの材料を用いた場合においても水冷可能なヒートシンクと併用すれば、よりクリーンで高効率な冷却も可能である。これらの材料は、一種類でもよいし二種類以上を併用してもよい。
【0025】
前記電極は、その単位体積当たりの不純物放出量が、2.52×10-4Torrl/sec・cc未満であることが好ましく、より好ましくは、1×10-5Torrl/sec・cc未満である。
【0026】
電極の不純物放出量は、例えば、予め、電極を1000℃以上で加熱して、電極から炭素等を含むガス成分を除去する脱ガス処理等、従来公知の方法によって低減できる。しかしながら、本発明においては、エピタキシャルSi膜の成膜に先立って、以下に示す脱ガス工程を含むことが好ましい。すなわち、前記非処理基板の温度を、エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の設定温度よりも高い温度に設定し、プラズマ生起ガスを、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と基板との間に導入し、前記電極と基板との間にプラズマを発生させる工程である。これによって、不純物放出量が低減された電極を調製できる。
【0027】
本発明において、成膜時における基板の温度は、例えば、850℃以下であり、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは300〜600℃、特に好ましくは500〜600℃である。一方、前記脱ガス工程における電極部材の温度は、前記成膜時の温度よりも高い温度であればよいが、成膜時の温度よりもプラス200℃程度に設定することが好ましく、例えば、600〜1050℃である。基板の温度の制御は、通常、後述するような基板の支持部材に内蔵されたヒーターによって行われるため、基板の温度とは、支持部材に取り付けられた熱電対により測定される温度ということもできる。なお、放射温度計による基板表面温度と前記熱電対による表示温度の差は、ほとんど認められなかった。
【0028】
前記電極と基板との間の距離は、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、好ましくは、0.4〜1.2mm、より好ましくは0.4〜1mmである。
【0029】
また、前記電極における前記基板との対向面を、前記基板における前記電極との対向面よりも大きく設定することが好ましい。これによって、成膜される膜の厚みムラをより一層抑えることができる(例えば、5%以内)。具体的には、電極の対向面の面積を、前記基板の対抗面の面積に対して、1.1〜4倍に設定することが好ましく、より好ましくは1.21〜2.25倍である。また、基板の直径が100mmの場合、全面に均一性に優れたエピタキシャルSi膜を成膜するには、例えば、電極の直径を105〜140mmに設定することが好ましい。
【0030】
本発明において大気圧とは、通常、200〜1140mmHgである。また、電極に投入する電力の周波数は、特に制限されないが、通常、10〜300MHzであり、好ましくは13.56〜200MHzの範囲であり、より好ましくは13.56〜150MHzである。
【0031】
通常、プラズマ処理による成膜は、まず、大気圧下で、前記電極と基板との間にプラズマを生起するガスを導入し、且つ、電極に電力を投入することによって、電極と基板との間にプラズマを発生させ、続いて、発生したプラズマ中に、原料ガス(反応性ガス)を導入することによって行われる。
【0032】
プラズマ生起するガスとしては、例えば、He、Ar、H2およびその混合物等が使用でき、He、もしくは、HeとH2との混合ガスが広く使用されている。前記原料ガスとしては、例えば、SiH4、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Cl、Si2H6や、これらとH2の混合ガス、これらとH2およびCl2との混合ガス等があげられ、一種類でもよいし二種類以上を併用してもよい。プラズマ中に原料ガスを導入する際には、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが好ましく、前記キャリアガスとしては、例えば、He、Ar等が使用できる。混合ガスにおけるキャリアガスと原料ガスとの割合(vol%)は、特に制限されないが、例えば、10000:1〜10:1の範囲であり、好ましくは1000:1〜500:2.5の範囲である。
【0033】
導入するガスの総流量(単位時間あたりの量)は、特に制限されないが、例えば、10 l/min〜200 l/minの範囲であり、好ましくは25 l/min〜100 l/minの範囲である。
【0034】
本発明の製造方法において使用できる基板は、何ら制限されない。特に本発明によれば、低温条件下での処理が可能であることから、例えば、結晶核が核付け処理されたガラス基板、Siウェハ、金属基板、セラミック基板、SOI基板等の従来公知の結晶成長が可能な基板の他に、例えば、ソース電極やドレイン電極等が実装されたFETデバイス基板をも基板として使用することができる。
【0035】
つぎに、本発明の製造方法について、これを実施する本発明のプラズマ処理装置とあわせて説明する。
【0036】
図1に、本発明のプラズマ処理装置の一例を示す。このプラズマ処理装置100は、拡散電極11、厚み方向に貫通口121を有する放熱板12およびガス導入口16を有するガス供給室18と、基板14の支持部材13とを備える。ガス供給室18は、上部17と底部(凹部)11とからなり、前記底部11が拡散電極11であり、拡散電極11上には放熱体12が配置されおり、上部17における放熱板12の露出表面よりも上側(同図において左上)にはガス導入口16が設けられている。そして、支持部材(いわゆるサセプタ)13は、ヒーターを備え、ガス供給室18の底部である拡散電極11と対向するように配置されている。なお、支持部材13表面と拡散電極11表面との距離は、支持部材13上に配置する基板14表面と拡散電極11表面との距離が、0.25mm〜2.5mmの範囲となるように設定されている。
【0037】
まず、プラズマ生起ガスを、ガス導入口16からガス供給部18内部に導入するとともに(同図において矢印A)、外部の電源(図示せず)を稼動させて電極11への電力の投与を開始することによって、電極11と基板14との間でプラズマ15を発生させる。続いて、原料ガスを含む混合ガスを、同様にしてガス供給部18に導入する。この混合ガスは、放熱板12を通過し、さらに、電極11の孔をランダムに拡散しながら透過して、電極11と基板14との間で発生したプラズマ15中に導入される(同図において矢印B)。そして、基板14表面がプラズマ処理され、エピタキシャルSi膜が成膜される。プラズマ処理の温度は、例えば、支持部材13のヒーターにより、基板11の温度として調整することができる。
【0038】
前記ガス供給部内の圧力は、ほぼ外部の圧力に等しく、通常、0.0001MPa〜0.05MPaだけ加圧された状態であり、好ましくは0.001MPa〜0.01MPaだけ加圧された状態である。また、これらの構成は、通常、チャンバー(成膜チャンバー)内に配置されており、ガス供給室からプラズマ内に導入されたガスは、最終的に、成膜チャンバーに設けられたガス排出口より、真空ポンプにより強制的に外部に排出される。また、成膜チャンバーの到達真空度は、通常、10-6Torr〜10-8Torrであり、成膜中のチャンバー内圧力は、条件により、例えば、200〜800Torrとなるよう、ポンプの排気速度の調整によって設定できる。また、成膜プラズマ中での重合反応によるSixHyなどの高次生成物が、電解研磨されたステンレス製のチャンバー壁面へ付着することを防止するため、例えば、電熱線のヒーターにより、チャンバー壁面を常時約130℃に加熱することが好ましい。なお、チャンバー壁面の温度は、例えば、前記壁面の構成部材によって変化しうる。
【0039】
このようなプラズマ処理装置を使用した本発明の製造方法によれば、低温・大気圧条件下で、成膜速度200nm/min以上を実現し、且つ、均一なエピタキシャルSi膜を形成できる。
【0040】
プラズマ処理の際には、成膜される膜の厚みの均一性をより一層向上できることから、例えば、図2の斜視図に示すように、基板14を加熱機構が搭載された回転ホルダー20上に配置して、基板14をその面方向に回転させることが好ましい。なお、図2において、図1と同一箇所には同一符号を付している。同図におけるプラズマ製造装置は、基板14を、接地された回転ホルダー上に配置し、ガス供給部18へ高周波電力を供給することによって、両電極間にグロー放電が発生してプラズマが生じる形態である。なお、両電極間の距離を一定に保ったまま、例えば、基板を電極面に対して平行に揺動させることによっても、同じ効果が得られる。
【0041】
なお、本発明における電極は、ガスを透過させる電極が、前述の多孔質体であればよく、それ以外は何ら制限されない。したがって、プラズマを発生させるための電極形態は、従来公知のその他の形態をとってもよく、例えば、基板の下方にさらに電極を備える2極放電形でもよい。また、基板と電極との位置関係が天地逆転してもよい。この場合、例えば、底面に放熱板を有する電極に対して、その上方に基板を配置し、前記放熱板の下方から上に向かってガスを供給し、前記放熱板および前記電極を透過したガスを、前記電極とその上方の前記基板との間に発生したプラズマ中に導入することもできる。
【0042】
また、プラズマ内で生成された高次生成物やSi微粒子等を成膜チャンバー内へ飛散させないため、さらに排気口を設置したプラズマ処理装置でもよい。図26に、その一例を示す。なお、同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。同図に示すプラズマ処理装置は、上部17と拡散電極(凹部)11とからなるガス供給部の側面の周囲を飛散防止部材60で覆い、飛散防止部材60に排気口61を設けた形態である。排気ポンプ等により排気口61から強制的な排気(矢印C方向)を行うことによって、例えば、プラズマ内で生成された高次生成物やSi微粒子等を排除できる。
【実施例1】
【0043】
1.多孔質体(多孔質カーボン)の作製
平均孔径約70μmのアモルファスカーボン粒子を1000℃で焼成することによって、気孔率30%、平均孔径5〜10μmの孔が分散した状態の多孔質体を調製し、これを実施例における拡散電極として使用した。この多孔質体の電子顕微鏡写真を図3に示し、また、その特性を下記表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
2. 電極の条件
(2−a)電極の厚み
前述と同様の材料を用いて、厚み10mmと3mmの二種類の拡散電極を作製した(プラズマ生成直径84mm)。そして、これらの拡散電極を用いて、下記表2の条件(150MHzの高周波電源を使用)で、プラズマを生起させ、前記基板上に成膜を行った。そして、形成された膜の一部に有機高分子のマスクを施し、マスクされていない膜部分をKOHによりエッチングし、除去した。エッチングにより形成された膜段差を、触針式表面粗さ計により測定した。なお、基板は、石英ガラス(110×130mm、厚み0.7mm)、150nmの酸化膜付きSi基板(直径100mm、全体厚み0.525mm)を使用し、プラズマ処理装置の壁部および上部の部材は、SUSとした。
【0046】
【表2】
【0047】
拡散電極を用いて得られた基板上の膜の膜厚分布を図4および図5に示す。図4は、厚さ10mmの拡散電極、図5は、厚さ3mmの拡散電極をそれぞれ使用した結果であり、両図(a)は、それぞれ成膜後の外観を示す写真であり、両図(b)は、膜厚分布のグラフである。両図に示すように、それぞれ膜厚に大きなムラが見られた。そこで、膜厚の不均一の原因を検討するため、成膜後に、使用した厚み10mmの拡散電極を厚み方向(ガスの透過方向)に切断し、その断面を観察した。この結果を図6に示す。その結果、図4における膜厚の薄い箇所と対応するように、図6の電極中に白色の帯状領域が存在していることがわかる。このような白色を示す主成分は,EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)分析から、Siであることがわかった。また、電極内部でのガスの流れ方向に着目した場合、白色の帯状領域の出現開始点は、円形電極の径方向中心ほど奥まで侵入していることが分かった。また、成膜に使用した後の厚み3mmの拡散電極外観を図7に示す。同図(a)は、ガスが供給される側の電極表面、同図(b)は、プラズマが発生する側の電極表面をそれぞれ示す写真である。その結果、図5における膜厚の薄い箇所と対応するように、図7の電極において、ガス供給側からプラズマ発生側にかけて、Siの付着が著しいことがわかる。
【0048】
以上の結果から、基板上でSi膜が膜厚分布を示す原因は、基板ヒーターを600℃に加熱し、1KWの電力を投入してプラズマを発生させたことにより、拡散電極が著しく加熱され、電極中で、原料SiH4が熱分解により消費されたためと推定できる。特に、図6に示すように、電極の径中心付近では、周囲に熱を放出する空間が無いため、著しく温度が上昇し、ガスの流れ方向に5mm程度侵入した位置からプラズマ側電極表面にかけて、400℃以上に昇温されていたと推定される。また、白色の帯状領域の幅が3mmであることから、原料SiH4が、この区間で全て消費されていることがわかった。また、図7に示す電極(厚み3mm)は、電極内部全域にわたって、Siが付着していると考えられる。
【0049】
したがって、多孔質カーボンは熱伝導率(20℃ 1.9W/mK、100℃ 2.25W/mK、800℃ 2.8W/mK)が悪く、熱容量が小さいため、加熱されやすい特性を持ち、大気圧プラズマCVDによるSiのエピタキシャル成長を行うに際には、電極として単独で使用することは困難であり、熱を吸収・放散する部材を組み合わせる必要があることが分かった。なお、図6に示すように、電極内部5mmの位置で既に400℃の高温になっていることから、厚み10mmの電極に対して放熱部材を組み合わせても、効率的な冷却作用は期待できない。このため、10mm以上の厚みの多孔質カーボンは適切でなく、電極に熱が蓄積し、SiH4が分解されるような高温になる前に、放熱部材に電極の熱を移動させるためには、600℃の基板温度時において、5mm以下の厚みが特に好ましいことがわかった。
【0050】
(2−b) 放熱部材の併用
前述と同様の材料を用いて、厚み3mmの拡散電極(多孔質カーボン)を作製し、これと放熱部材とを組み合わせて、成膜特性を調べた。
【0051】
使用した放熱部材の形状を、図8および図9に示す。図8の部材は、φ3mmの穴が、6mmの中心間隔で最密に並んだ構造であり、図9の部材は、中心にφ3mmの穴が一つ開いた構造である。これらの部材の材質は、それぞれSUSとし、厚みは、両者とも30mmとした。なお、BNや焼結グラファイトについてもSUSと同等の効果が得られることは確認済みである。そして、前述の図1に示すように、この放熱部材を、前記拡散電極上に配置して、下記表3の条件で成膜を行った。なお、電極と基板との間の距離は、0.6mmおよび1.2mmの二通りとした。
【0052】
【表3】
【0053】
まず、図9の放熱部材を併用して得られた基板上の膜の膜厚分布を図10に示す。同図において、横軸は、放熱部材に設けられた穴中心の真下から、膜の測定部位までの距離を示し、縦軸は、厚みを示す。同図に示すように、放熱部材が1つの穴を有するのみであり、この穴からガスが供給された場合、膜厚プロファイルは、近似的に正規分布で表記できるような分布を持ち、電極基板間の距離(成膜ギャップ)が狭いほど最大膜厚が厚く、半値幅の狭い膜厚の分布となる傾向にあることが分かった。さらに、電極基板間の距離が1.2mmの場合は、0.6mmの場合に比べて、約3倍近い5分もの成膜時間を要したにもかかわらず、110nm程度しか成膜できなかった。電極基板間が0.6mmの場合の結果が、成膜時間1.5分で2500nmであったことから、成膜速度は約75倍も変動していた。このことから、電極基板間の距離が、成膜速度を決定する重要な因子になっていることが分かった。なお、このギャップ依存性については後述する。
【0054】
さらに、図8に示す複数の穴が開いた放熱部材を用いた成膜に関し、その膜厚分布の結果を図11に示す。同図の上図は、得られた膜の外観写真であり、下図は、膜厚分布を示すグラフである。同図より、基板面内の成膜ギャップの不均一性に依存したプラズマ密度の若干の差異に影響されて、最大と最小で100nm程度の膜厚ムラが生じているものの、ほぼ直径70mmの領域で膜厚が均一であった。特に、プラズマ密度が等しい限定された領域においては、中心膜厚1μmに対して50nm程度の膜厚むらに抑えられていることが分かった。また、放熱部材を設置しなかった、前述の膜厚分布(図5)と比較して、格段に成膜速度が上昇し、基板面内全域で有効な成膜が行われたことが分かる。これは、多孔質カーボンのみでなく、放熱部材を組み合わせなければ、有効な成膜が実施できない事を示しており、放熱部材の必要性が証明されたといえる。また、平行流路や回転電極を用いた場合には、成膜速度むらが最大と平均とで4倍もの値を示したのと比べても、大きな改善であることが分かる。このことから、基板への原料ガスの到達時間を均一化することで、膜厚を均一化することが可能であるということが示された。
【0055】
つぎに、図10より求めた膜厚の正規分布関数に基づいて、図9に示す放熱部材を用いて成膜した膜の膜厚プロファイルをコンボリューションし、図8に示す多数穴の放熱部材を用いた際に、どの様な膜厚分布が理想的に得られるかを計算した。その結果を図12に示す。同図は、一次元方向に、穴の中心間隔が6mmのピッチで開いている場合のみを考えているが、今回採用したφ3mm、6mmピッチの開口を開けることで、基板中央部付近では、ほぼ膜厚むらのない、すなわち、放熱部材の開口ピッチの影響を受けない膜厚プロファイルを得られることが分かる。また、同図から、電極外周部付近では、約10〜15mmの幅で電極内側に膜厚分布を呈することが予想され、例えば、φ100mmのSiウェハ全面に±5%以内の膜ムラでエピタキシャルSi膜を形成しようと考えた場合、電極の直径を130mmに設定することが好ましいと示唆される。
【0056】
(2−c)電極基板間の距離(成膜ギャップ)に対する依存性
成膜ギャップを変動させた以外は、前記(2−b)と同様に、図8に示す多数のガス供給孔を備えた放熱部材を併用した例と同様の条件で、基板上への成膜を行った。この結果を図13に示す。同図に示すように、成膜速度は、ギャップに対して指数関数的に減少し、その特徴的な減衰距離は0.18mmであることがわかった。このように、ギャップに対して非常に急激な減衰を示す原因は、電極からの粘性流の減衰と拡散による影響が考えられる。
【0057】
ここで、He中のSiH4の拡散について考える。He中のSiH4の拡散係数は、諸説あるが、室温下において20cm2/sec程度と見積もられる。今回使用した拡散電極の面積は86.5cm2であり、気孔率は30%であるので、実質の開口面積は26.0cm2と推定される。He流量が75slmであることから、吹き出し平均流速は約0.48m/secとなる。この流れが約0.18mm進行するための時間は、375μs必要となり、この時間内における、He中のSiH4の拡散長は、約0.8mmとなる。実験より求められた減衰距離と計算により求められた拡散長とを比較すると、今回得られた値は拡散長に比較して1/4となり、原料の移送が拡散に支配されているとは考えにくい。一方、粘性流の減衰を考えた場合、原料ガスはヘリウムと共に拡散電極を介して基板表面へ供給されるが、この様な基板表面へ向かうガス流が存在する一方、基板表面で熱せられた原料ガスの一部は、対流の影響により電極表面へ向かって逆流するおそれがある。電極表面からの噴出速度0.48m/secは、比較的低速であるため、基板表面でガスが加熱されることで生じる対流による逆流の影響を大きく受けると考えられる。そのため、この逆流が電極表面からの流れに対して抵抗力を生じさせ、電極表面からの粘性流が基板表面へ到達することを阻害してしまうこととなる。
【0058】
この様な粘性流と拡散による物質の移動の影響が含まれる領域と、拡散のみによる物質の移動が支配的になる領域との成膜特性の違いを調べるため、電極基板間距離を0.25mmと1mmの二通りとし、これに対してキャリアガスであるHeのガス流量を変化させることで、その成膜特性を調べた。なお,いずれの条件においても、SiH4および水素の流量は50sccmと一定としている。その結果を図14に示す。同図より、電極基板間距離を1mmに設定した場合、図より判断し難いが、成膜速度100nm/min付近でキャリアガス流量の増加に対し、緩やかに減少する傾向が見られた。一方、電極基板間距離を0.25mmに設定した場合、He流量の増加に伴って、成膜速度が著しく減少する傾向が見られた。この両者の電極基板間距離において観察された、He流量の増加による成膜速度の減少は、流量の増加によりSiH4のプラズマ中での滞在時間が短くなり、成膜種として基板表面へ到達する前にプラズマ外に排出されてしまうこと、および、He流量の増加によるガス中のSiH4濃度の低下により、電極表面と基板表面間の濃度勾配が低下したことが原因と考えられる。いずれのギャップにおいても、今回のプラズマ生成条件では、キャリアガス流量のみを増加させることで成膜速度が低下する事が明らかとなった。このことから、今回のプラズマ生成条件においては、キャリアガス流量を、低く設定することが好ましいことが分かった。ただし、成膜速度は、他のプラズマ生成条件(例えば、投入電力等)によっても調整可能であり、本発明において、キャリアガス流量がエピウェハの成長速度に対する決定的な因子には成らないといえる。
【0059】
3.電極起因の不純物とその対策法
本発明における拡散電極を使用する際に、エピタキシャル成長の阻害不純物となりうる、水分および炭素、酸素、電極に付着したSiに着目した。
【0060】
(3−a)水分
電極を構成する多孔質カーボンは、粒径70μm程度の粒子を焼成することで形成されているため、比表面積が非常に大きく、多量の水分子を内部に吸着することができる。電極内部の吸着水分子は、エピタキシャル膜の成膜時に、カーボン表面より脱離するとともに、600℃程度に加熱されたSiウェハ表面を容易に酸化し得る。さらに、大気圧プラズマにより水分子が活性化されるため、より大きな速度で酸化が進行するおそれがある。この様なSiウェハ表面の酸化膜は、低温エピタキシャル成長を阻害するのみならず、水に由来する酸素がエピタキシャルSi膜に混入することにより、OSFや酸素ドナーを生じさせるおそれがある。一般的に水分子は、他の気体分子に比較して、脱離の活性化エネルギーが極めて大きいため、脱ガスさせる事が最も難しい分子の一つである。
【0061】
そこで、まず、多孔質カーボンからの各分子の脱離スペクトルをTDSにより測定した。測定試料は、厚み5mm、10mm×10mmの多孔質カーボンであり、焼成後、数ヶ月間大気に暴露したものを使用した。TDS測定は、30℃/minの昇温速度で、室温から1000℃まで加熱し、各温度における分子の脱離量を測定した。TDSの測定結果を図15に示す。着目した成分は、質量数/電荷比で、2、12、16、18、19、28、32、44である.同図において、最もガス放出の著しい成分は、質量数/電荷比18の水であり、他の成分と比較して40倍以上あり、続いて、質量数/電荷比16の酸素またはCH4が脱離していることが分かる。また、いずれの成分も、100〜200℃の領域で脱離のピークを迎えており、特に、H2O、O、O2に関しては、一旦このピーク温度を通過すると、試料温度の上昇と共に脱離量が減少していく傾向が観察された。なお、600℃以上の温度では、脱離ガスの主成分は、水素および窒素もしくはCOになることが明らかになった。チャンバー内の全圧は、今回の測定において約6×10-7Torrまで悪化した。TDSの測定チャンバーは、実効排気速度210l/secのターボ分子ポンプにより排気されているため、一旦大気暴露された多孔質カーボンの単位体積あたりのガス放出量は、最大2.52×10-4Torrl/sec・ccと見積もられる。しかし、脱離のピーク温度以上に加熱することで、1000℃においても2×10-6Torrl/sec・cc程度のガス放出量に抑えることが可能であることが分かった。
【0062】
そこで、一旦放出されたガスが、多孔質カーボンへ、どの程度再吸着するかを確認するため、一旦1000℃まで加熱した試料を、そのままTDS容器内に保存しておき、試料温度が室温に戻った時点で、再度1000℃まで加熱した。その際に得られたTDSスペクトルを図16に示す。その結果、前述の図15で観察された100〜200℃における放出ガスのピークは、一切存在せず、放出ガスの主成分が、水素もしくはCO(m/e=28)になっていることが分かった。さらに、400℃近辺から、12、28、44のイオン電流値が、温度上昇と共に徐々に上昇してきており、加熱脱ガスした後も、Cを含むガス成分が放出されることが分かった。さらに、一旦1000℃まで加熱し、再度室温まで冷却した多孔質カーボンのガス放出量は、9×10-8Torrl/sec・cc以下にまで低下することが明らかになった。ここで、原料ガスおよびキャリアガスの不純物濃度は1ppb以下であるため、初期の不純物濃度を無視し、4inch Siウェハ全面にプラズマを生起させ、且つ、ガス供給を行うために作製した直径105mm、厚さ3mmの電極の体積、および雰囲気圧力が大気圧であることを考慮すると、成膜雰囲気は、2.6ppb程度の不純物濃度になることが分かる。この値は、従来の回転電極を用いた低温エピタキシャル成長における成膜雰囲気中の不純物濃度40ppbを大きく下回っており、比表面積の大きな多孔質カーボンを用いても、十分な脱ガスを行うことで、エピタキシャル成長に適用する事が可能である事を示している。
【0063】
ここで、4inch Siウェハ全面を覆うために作製した電極のサイズは、前述のように、厚みが3mm、直径が105mmあるため、TDSで用いた小さな試料と異なり、そのようなサイズの電極を1000℃以上で昇温脱ガス処理することは事実上困難である。しかしながら、本発明者らは、大気暴露された多孔質カーボン電極から、高効率で脱ガスを行うプロセスとして、次のような工程を独自に開発した。まず、エピタキシャル成長を行う際の基板温度を600℃と設定し、成膜前、脱ガスのために、基板温度をそれより高い温度(例えば、800℃)に加熱するとともに、約1mmの電極基板間距離にて、20SLMで超高純度He(不純物濃度1ppb以下)を拡散電極よりフローし、1.5kW以上の電力を投入することで、大気圧プラズマを電極基板間に20分間発生させた。これによって、電極は、基板からの輻射および伝熱だけでなく、プラズマによる熱および1.5kWの高周波電力によるジュール熱により、複合的に加熱され、電極温度は、放射温度計により800℃近傍まで加熱される事が明らかとなった。また、大気圧という利点を生かし、電極内部に含有されている水分を、ヘリウムの粘性流により積極的に排出することで、真空中での分子流による脱ガスと比較して、非常に高効率な水分除去が可能となった。
【0064】
(3−b)炭素
本発明における電極は、その構成材料が炭素であるため、Si膜中への炭素の混入が懸念される。一般的に、CZ−Si結晶中には、1016atoms/ccの炭素が固溶されていると報告されていることから、これ以下の濃度に抑えることが望ましい。なお、CZ−Si結晶中の炭素は、結晶育成中に高温のグラファイト部材から放出されるCOが混入することが原因である。
【0065】
前述のTDSの測定結果から、一旦脱ガスした後の多孔質カーボンが再度高温に加熱され、電極温度が400〜600℃に達した時点で炭素系化合物、特にCOが顕著に脱離することが明らかになっている。本発明においては、成膜時の電極温度の上昇を放熱部材により抑える他に、さらに、脱ガスした拡散電極に対して、20nm以上の厚さのSi膜を各カーボン微粒子表面に犠牲成膜し、前記拡散電極を構成するカーボン表面からの炭素系化合物の放出を抑えることを可能とした。特に、先のTDSによる分析から、CO等が顕著に発生する温度領域が400℃以上であり、SiH4の熱分解の開始温度も400℃であることが明らかである。そこで、犠牲成膜では、拡散電極をエピタキシャルSi製造時と同条件の状態にし、原料ガスを通過させることで、COが生成される温度条件に達した各カーボン微粒子表面にSi膜が形成される現象を利用している。
【0066】
電極の脱ガスと犠牲成膜処理を行った前後でSi膜を形成し、形成されたSi膜のIRスペクトルを測定した。なお、脱ガスおよび犠牲成膜の処理以外は、前述の「2.(C)」と同様の条件でSi膜の形成を行った。なお、電極と基板との距離は、1000μmとした。
【0067】
この結果を図17に示す。同図(a)は、電極を処理する前に形成したSi膜のIR透過スペクトルであり、同図(b)は、電極を処理した後に形成したSi膜のIR透過スペクトルである。同図から明らかなように、電極の処理前に形成されたSi膜には、Si酸化膜の形成を示す1200cm-1のピークおよびSiCの形成を示す850cm-1のピークが確認された。一方、電極の処理後に形成されたSi膜には、いずれのピークも確認されなかった。なお、同図(b)において、1100cm-1近傍に若干のピークが観察されるが、これは450cm-1のSiO2ピークが同時に観察されなかった事から、Siウェハ中に含まれる格子間酸素に起因すると考えられ、酸化膜の形成による物ではないことがわかった。以上の結果から、電極の処理によって、酸素や炭素の混入を防止できることが明らかとなった。
【0068】
(3−c)電極付着Si
プラズマCVD法において、電極表面に過剰に付着した成膜材料が、プラズマパラメータおよび成膜特性を著しく乱すことがよく知られている。特に、エピタキシャルSi膜の形成プロセスにおいては、電極表面に過剰に付着したSiが、成膜プロセスの途中で剥離脱落して、基板表面に付着し、ウェハ表面で微粒子状の異物として作用するため、これがエピタキシャル成長を阻害する一因となる。そこで、過度に電極表面に付着したSiを、クリーニングするプロセスが求められる。本発明においては、平均孔径が5〜10μmの拡散電極を用いているため、電極への過剰なSiの付着は、ウェハ表面のSi微粒子汚染を進行するのみならず、拡散電極のガスを透過する孔を塞いでしまい、基板表面への原料ガス供給を妨げるおそれがある。一般的に、低圧プラズマCVDにおいては、電極のクリーニングのため、フッ素系のガスを用いてプラズマを発生させ、電極表面に付着したSiをSiFx状のガス分子として除去する手法が取られている。しかしながら、これらフッ素系のプラズマは、Siをエッチングするだけでなく、炭素そのものを強く浸食する働きを有する。また、フッ素や塩素といったハロゲン系の元素は、チャンバーや電極構成部材に非常に大きな吸着エネルギーで吸着するため、プラズマクリーニングの後、これらのハロゲン元素を除去するために多大な労力が必要となる。さらに、拡散電極を用いた成膜では、除去すべき過剰付着Siは、電極表面のみならず、電極内部の孔にも存在するおそれがある。したがって、本発明の製造方法においては、以下のようなクリーニング法を適用することが好ましい。
【0069】
すなわち、薬液を用いたクリーニング法である。前記薬液として、Siに対して浸食作用を示すが、カーボンに対してはほとんど浸食作用のないHNO3(98wt%)(電子工業グレード)とHF(50wt%)(電子工業グレード)の混合溶液(1:3)を使用し、拡散電極を前記薬液中に約1時間浸漬することでケミカルクリーニングを実施できる。クリーニング後の電極は、例えば、超純水中への浸漬により十分にリンスした後、前述の脱ガスプロセスを行い、再度成膜に使用することができる。なお、超純水でのリンス後、十分に乾燥させた拡散電極をTDS測定した結果、クリーニングの実施による電極内部からのフッ素放出量は、ほぼ測定限界以下であることが確認された。
【0070】
前記クリーニングが、電極内部のガス透過孔に付着したSiに対しても有効に作用している事を確認するため、クリーニング前とクリーニング後の電極の断面を観察した。この結果を、図18に示す。同図(a)は、クリーニング前の電極の断面写真であり、同図(b)は、クリーニング後の電極の断面写真である。クリーニングには、前述の図6で示した電極を3×3cm2の大きさに切り取ったものを試料として用いた。クリーニング後の試料を、さらに、1.5×1.5cm2の大きさに切り出し、その断面を観察した。その結果、図18(b)に示すように、電極内部に形成されたSiの白色帯がクリーニングによって除去されていることが確認でき、電極の形状自体はほぼ変化していないことが分かった。なお、このように再生した拡散電極を用いて再度脱ガス処理および犠牲成膜処理を行った後、600℃の基板温度にて2〜5μmの厚みのSiエピタキシャル膜を、25枚以上の4インチ基板上に形成できることを確認した。
【実施例2】
【0071】
本発明の拡散電極を用いて、4インチエピタキシャルSiウェハの低温形成を試みた。なお、拡散電極は、前記実施例1(3−a)と同様、厚み3mm、直径105mmとし、前述の脱ガス処理および犠牲成膜処理を行ったものを使用した。また、放熱板は、前記図8の放熱板と同様の形態(φ3mmの穴が、6mmの中心間隔で最密に並んだ構造)であり、直径は、前記拡散電極に対応させて90mm、厚み30mmのSUS製とした。
【0072】
従来の平行流路を用いた大気圧プラズマCVDによるエピタキシャル成長では、SiH4に対するH2の流量比を10以上に上昇させると、表面粗さが悪化し、成膜されるSi膜が多結晶化する傾向が見られ、逆に、H2を全く加えなかった場合には、成膜速度が低下すると共に、表面粗さが悪化することが明らかとなっている。この結果から、エピタキシャル成長に最適なSiH4とH2との流量比は、1:1である。そこで、本発明の拡散電極を用いて、SiH4とH2の流量比を1:1に固定し、成膜を行った。成膜に用いたチャンバーの真空度は、5×10-7Torrであり、その他の実験条件は下記表4の通りである。大気圧プラズマCVDにおいて、エピタキシャル成長が実現されるためには、ある基板温度に対して、最適なプラズマ投入電力が存在することが分かっている。このため、下記表4に示した基板温度および投入電力は、平行流路の実験で75cm2の電極を用いた際に、全面でエピタキシャル成長が確認された条件に基づいて設定した。
【0073】
【表4】
【0074】
電極基板間距離は、前述のように、小さくするほど、成膜速度を格段に上昇できることがわかっている。しかしながら、回転電極や平行流路を用いた場合、プラズマに原料ガスが侵入した直後の領域に生じる成膜現象は、成膜速度は非常に速いけれども、形成されるSi膜の膜質は、多結晶SiやアモルファスSiからなり、この領域を通過した後、下流側のプラズマ領域全域においてエピタキシャル成長が観察されている。このことは、原料ガスがSiエピタキシャル成長に寄与する成膜種として活性化されるためには、SiH4分子が、ある一定の時間以上プラズマ中に滞在する必要がある事を連想させる。このことから、本発明における拡散電極においても、電極基板間距離が250μmm未満の場合には、作製される膜が多結晶化し表面が荒れる傾向が見られた。したがって、最適な電極基板間距離として250μm以上を確保する事が必要と言える。本実施例においては、成膜中の熱膨張による電極基板間距離の変動を抑え、さらに、エピタキシャルウェハ製造時の実用的な成膜速度となる約200nm/minの成膜速度を目標として、電極基板間距離を600μmに設定した。この固定された電極基板間距離の下、成膜条件を最適化し、基板温度600℃として、4インチエピタキシャルSiウェハを作製した。
【0075】
(a)外観
図19に、作製したエピタキシャルSiウェハの蛍光灯下での観察像(同図(a))、および、簡易型表面異物検査装置による照明(ハロゲンランプ)下でのウェハ観察像(同図(b))をそれぞれに示す。なお、異物検査装置による観察像に大きな白濁した箇所が見られるが、これは、ウェハ搬送時に用いる搬送治具が、ウェハ表面に接触したためにできたものであり、成膜現象とは本質的に無関係である。異物検査装置によれば、例えば、粒径300nm以上のパーティクルを検出可能であり、さらに、ウェハ表面にRMS0.2nm以上のマイクロラフネスが存在する場合には、ウェハ表面の曇りとして観察することが可能である。しかしながら、本実施例において作製したエピタキシャルSiウェハの表面には、照明下でも、異物検査装置により一切のヘイズ等は観察されず、その外観はアズレシーブドのウェハとほぼ同等であった。また、従来の平行流路や回転電極を用いた成膜時に見られるプラズマ界面における白濁も、拡散電極により形成したウェハ上には、全く存在しないことが明らかとなった。
【0076】
(b)REDによる結晶性の評価
次に、作製したエピタキシャルSiウェハの結晶性をREDにより観察した。この結果を図20に示す。同図の結果より、RED像は、Si(001)に由来するストリーク像を示し、ストリークパターンに菊池線が重畳していることが分かる。また、各々が4cm離れた任意の4点を、ウェハ表面よりサンプリングし、同様にRED観察を行ったところ、いずれも図20と同様の結果が得られた。このことから、ウェハ全面にわたって、良質なエピタキシャルSi層が形成されている事が明らかとなった。
【0077】
(c)XTEMによるエピタキシャルSi膜の観察
前述のREDでは、エピタキシャルSi膜内に存在する転位等の欠陥を評価できないため、さらに、作製したエピタキシャルSiウェハから、各々が1cm離れた任意の3点をサンプリングし、XTEM観察を行った。XTEM観察により得られた明視野像を図21に示す。同図の結果より、透過試料の厚さ等や弾性変形に依存した干渉縞以外には、エピタキシャルSi膜中に、欠陥や界面に起因する明瞭なコントラストの強弱は現れていない。このことから、ウェハ全面で、基板温度600℃においても、欠陥を含まないエピタキシャルSi層の形成が、約200nm/min以上の成長速度で可能であることがわかる。ここで、基板とエピタキシャル層の区別は非常に困難であるが、図中のエピタキシャル層の厚さを示す指標は、成膜後の基板の質量増分から算出された平均膜厚を参考にして記入している。
【0078】
(d)エピタキシャルSi膜の表面マイクロラフネス
次に、得られたエピタキシャルSi膜表面のマイクロラフネスを評価するため、AFMによる観察を行った。その結果を図22に示す。同図の結果より、作製されたエピタキシャルSi膜の表面マイクロラフネスは、5μm×5μmの観察視野において、PV=0.4〜1nm以下であり、現在用いられているSiウェハ表面のマイクロラフネスに匹敵する、極めて平坦な表面が形成されていることがわかった。
【0079】
(e)エピタキシャル層中の不純物
作製したエピタキシャルSi膜中の不純物を、SIMSにより測定した。着目した元素は、電極の構成部材であるC、脱ガス後の拡散電極のTDS測定において顕著に観察されたm/e=28の候補であるN、さらに水に起因するOである。SIMSにより測定されたエピタキシャルSi層中の不純物のデプスプロファイルを、図23のグラフに示す。一次イオンには、Cs+を10kVの加速電圧で用いた。同図より、エピタキシャルSi膜中には6×1016atoms/ccの酸素、8×1015atoms/ccの炭素、5×1014atoms/ccの窒素が含有されていることが分かった。なお、本測定に用いたSIMSの検出限界は、Cが7×1015atoms/cm3、Oが5×1016atoms/cm3、Nが5×1014atoms/cm3である。ここで、同図には、表面より1.1μmの深さで、基板に用いたSiの濃度プロファイルが現れており、CおよびNに関しては、用いた基板と同程度の濃度であり、O濃度に関しては、用いたSi基板の1/20まで低減されていることが分かった。特に着目すべき点は、チャンバーの背圧が5×10-7Torrであり、超高真空という背圧に達していないにも拘わらず、600℃にてエピタキシャル層が形成され、さらにはエピタキシャルSi層中に含有される酸素濃度が低く、エピタキシャルSi層と基板界面付近でのC、N、Oの濃度の上昇が見られなかったことである。このことから、5×10-7Torr程度の高真空中でウェハ表面を終端しているH2が脱離する温度(320〜420℃)以上に基板を加熱しても、拡散電極により常に超高純度のガスをウェハ表面へ直接供給することで、チャンバー内に残留する不純物の基板表面への付着を防止できることが明らかになった。
【0080】
このように、拡散電極を用いた大気圧プラズマCVDを実施することにより、低温エピタキシャル成長に必要なチャンバー背圧が低減されるため、装置構成そのものを簡便・廉価にし、エピタキシャルSiウェハ製造プロセスのさらなる低コスト化が実現可能となる。
【0081】
また、金属元素に関して、TREX(全反射蛍光X線)を用いて表面濃度を測定した。作製したエピタキシャルSiウェハ表面には、30点の測定点中4点で、SUS由来成分であるFeが1012atoms/cm2、Crが1011atoms/cm2、Niが1010atoms/cm2のオーダーで検出された。これは、成膜チャンバーの構成部材自体がSUSであること、さらには、拡散電極の放熱部材にSUSを用いたこと等に起因すると考えられ、多孔質カーボンに起因した汚染では無いと考えられる。
【0082】
TREXにより、チャンバーから取り出したウェハ上には、若干の金属汚染が観察された。しかしながら、TREXでは、ウェハ最上面の金属汚染を測定するのみであり、成膜中の拡散電極に由来した金属汚染を診断することは困難である。そこで、SIMSにより、膜中の金属元素に関して詳細に調べた。着目した金属は、Fe、Ni、Cr等のSUS由来の元素(チャンバー構成部材)、および、Al、Cu(電力導入配線およびチャンバー内部品の部材)である。なお、SIMSの結果より、約1.2μmの厚みでエピタキシャル成長していることが分かった。金属不純物の深さ方向プロファイルを図24に示す。図24に示すように、いずれの金属成分も、ほぼ測定機の検出下限のレベルであった。これは、エピタキシャルSi層中の金属濃度が、エピタキシャル成長に用いたSi基板中の金属濃度と同レベルであることから明らかである。つまり、この結果から、本発明の拡散電極を用いた成膜中には、著しい金属汚染は生じないものと考えることができる。
【0083】
さらに、基板中にドープされたボロン(B)が、エピタキシャルSi層中にどの程度拡散しているかをSIMSにより調べた。この結果を図25に示す。ここで、市販のエピタキシャルウェハは、ハイドープSi基板上にロードープエピタキシャルSi層を積層させた構造が頻繁に用いられる。このため、成膜中の基板温度が高ければ、当然ハイドープされた基板側から、エピタキシャルSi層中へ、ドーパント元素が激しく拡散し、また、比較的低温であっても、成膜速度が非常に遅ければ、所定の膜厚を得るのに多大な時間を費やすこととなり、やはり、基板からのエピタキシャル層中への拡散が顕著になる。この様な背景から、従来技術を用いた場合、界面付近のドーパントプロファイルを著しくだれさせてしまう問題点がある。図25に示すように、本成膜法で作製した場合、B濃度は、基板との界面近傍で急峻な立ち上がりを見せており、基板中のB濃度5×1018atoms/ccから5×1015atoms/ccにまでボロン濃度が低下する遷移層幅は、測定限界(Ar+エッチングによるだれで決まる)の70nm以下であることが分かった。一般的に、900℃の熱CVDで成膜された実用レベルのエピタキシャルSiウェハでは、ボロン濃度が3桁変化する遷移幅が100nm程度と報告されており、本成膜法により得られた値は、この値を下回っていることから、低温エピタキシャル成長の実現が裏付けられたといえる。これは、ウェハ表面での大気圧プラズマの生成により基板温度が上昇してエピタキシャル成長が生じたのではなく、真に、低基板温度でのエピタキシャル成長が実現できたことを示している。以上の結果から、大気圧プラズマCVDにより実用的な成膜速度にて低温エピタキシャル成長が行われたことを実証できた。
【0084】
また、以上の結果から、金属汚染フリーのエピタキシャルSi層を形成するためには、例えば、(1)放熱部材として、非金属系の熱伝導の良好な材料を使用する、(2)温度上昇する成膜部付近には金属部材を使用しない、(3)チャンバー壁面から発生する金属パーティクルがウェハ表面に付着しない様に、石英カバー等を成膜部およびウェハの通過経路に設ける、(4)大気圧プロセスという特長を生かし、ガスの流れを積極的に制御することで、ウェハ表面へ塵埃が付着しない様にする、(5)プロセス雰囲気中へのガス導入・排気に際しては、急激な圧力変動を極力避ける、ということも望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
このように、本発明によれば、低温条件下(例えば、600℃以下)であっても、均一性に優れたエピタキシャルSi膜を高速に製造方法することができる。このように低温での優れたエピタキシャル膜の形成を可能にしたことから、例えば、Siウェハの製造のみならず、デバイス製造の中間工程に組み入れて、デバイスのさらなる改変にエピタキシャル成長を利用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明のプラズマ処理装置のその他の例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施例における多孔質体の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4(a)は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真であり、図4(b)は、前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真であり、図5(b)は、前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の前記実施例において成膜処理に使用した後の電極の断面を示す写真である。
【図7】図7は、本発明の前記実施例において成膜処理に使用した後の電極表面の写真であり、同図(a)は、ガスが供給される側の電極表面、同図(b)は、プラズマが発生する側の電極表面をそれぞれ示す。
【図8】図8は、本発明の他の実施例において使用した放熱部材の形状を示す図面である。
【図9】図9は、本発明の他の実施例において使用した放熱部材の形状を示す図面である。
【図10】図10は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真および前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明の他の実施例において、予想されるSi膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明の他の実施例における、電極基板間の距離と成膜速度との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明の他の実施例における、He流量と成膜速度との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明の他の実施例において成膜処理に使用した電極に関するTDSの結果を示すグラフである。
【図16】図16は、前記実施例において成膜処理に使用した電極に関するTDSの結果を示すグラフである。
【図17】図17は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜のIR吸収スペクトルを示すスペクトグラムであり、同図(a)は、脱ガス未処理の電極を使用して形成したSi膜の結果であり、同図(b)は、脱ガス処理済みの電極を使用して形成したSi膜の結果である。
【図18】図18は、本発明の他の実施例において、成膜処理に使用した電極の断面写真であり、同図(a)は、クリーニング処理前の結果であり、同図(b)は、クリーニング処理後の結果である。
【図19】図19は、本発明の他の実施例で成膜したSiウェハの外観写真であって、同図(a)は、蛍光灯下での結果であり、同図(b)は、ハロゲンランプ下での結果である。
【図20】図20は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのRED像である。
【図21】図21は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのXTEM観察による明視野像である。
【図22】図22は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのAFM像である。
【図23】図23は、本発明の前記実施例におけるSiウェハに関する、不純物濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図24】図24は、本発明の前記実施例のSi膜における、金属不純物の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図25】図25は、本発明の前記実施例のSi膜における、ボロン濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図26】図26は、本発明のプラズマ処理装置のさらにその他の例を示す断面図である。
【図27】図27は、従来のプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【図28】図28は、従来のプラズマ処理装置のその他の例を示す断面図である
【図29】図29は、従来のプラズマ処理装置のその他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
11 電極
12 放熱板
13 支持部材
14 基板
15 プラズマ
16 ガス供給口
17 上部
18 ガス供給室
20 回転ホルダー
100 プラズマ処理装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧CVDによるエピタキシャルSi膜の製造方法ならびにプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業において、機能性薄膜を高速、均質に形成することが要求されている。特に、電子情報産業においては、SiO2、SiN:H、a−Si:H、SiC:H、poly−Si、epi−Si、金属薄膜等、多種多様な薄膜が必要とされており、非常に優れた均質性、均一性を満たし、且つ、高い生産性、すなわち低コスト性を兼ね備えていることが必須とされている。しかしながら、低圧プラズマCVD(chemical vapor deposition)、低圧スパッタリング等の従来の成膜法では、低圧雰囲気を形成するために、真空容器が必須であり、また、基板のサイズの巨大化とともに、成膜装置における電極や真空容器も巨大化するため、均質化、低コスト化、高スループット化が困難となっている。
【0003】
そこで、低圧下ではなく、大気圧下で処理を行う大気圧プラズマ(大気圧グロー放電)を用いた成膜法(大気圧プラズマCVD法)への注目が高まっている。この方法は、従来の低圧プラズマCVDと比較して、真空容器が不要であり、また、原料ガスの導入量を格段に上昇させることが可能であるため、成膜速度の高速化を実現できる。さらに、大気圧プラズマは非常に局在して発生するため、プラズマ発生領域内のみに均一且つ均質な膜を形成できれば、例えば、基板や電極を基板面内で走査することによって、大面積に均一且つ均質な薄膜の形成も期待できる。
【0004】
しかしながら、このような大気圧プラズマCVD法についても、次のような問題がある。
【0005】
第1に、電極の熱損傷の問題があげられる。大気圧プラズマCVD法は、従来の低圧プラズマCVD法と比較して、非常に大量の原料ガスを分解活性化するが、その反面、プラズマを維持するために大きな電力を電極に投入する必要がある。このため、投入された大きな電力によって電極自身が熱損傷するおそれがある。一般的な電極として、例えば、メッシュや針状の金属電極が知られているが、これらは、非常に簡便な電極であるものの、前述の投入される電力により、高温に熱せられた金属から熱電子や2次電子等が大量に発生し、プラズマがアーク放電に移行し易く、それによって電極が損傷を受けやすいという欠点を有する。このため、現在では、MgO、Al2O3、SiO2等の誘電体で被覆した電極を用いるのが一般的であるが、依然として大電力を投入した際には、電極自体が加熱されるため、強制的に冷却する、もしくは電極の熱容量を非常に大きくする必要がある。
【0006】
第2に、成膜速度の問題があげられる。大気圧プラズマを安定に発生させるには、荷電粒子の平均自由行程の短さから、高周波電力を用いた場合、電極間距離は数mm程度となる。このため、狭い空間に発生しているプラズマ中へ、原料ガスを効率良く輸送する手法が不可欠となる。これまで、大気圧プラズマを真空容器内の一部分に発生させ、前記真空容器内に一様にガスを供給することで成膜を行った例があるが、この手法では、プラズマ中への原料ガス補給がプラズマ外からの拡散現象のみによって行われるため、成膜速度が非常に遅いという欠点がある。
【0007】
このような局所的に発生するプラズマ中にガスを効率的に供給する方法として、例えば、以下の2種類の方法がある。第1の方法は、図27の断面図に示すように、基板34と平板電極32および石英ガラス38との間に、基板34の面方向に平行な流路(平行流路)を形成し、ガスを導入する上流とガスが排出される下流との圧力差によって、強制的なガス流(同図において矢印A)を発生させ、この基板34と平板電極32との間における流路内にプラズマ15を発生させることで、成膜速度を向上する方法である。第2の方法は、図28の断面図に示すように、円筒状の電極41(以下、「回転電極」という)と、基板支持部材43上の基板44との間にプラズマ15を発生させ、回転電極41を高速に回転させることにより、電極41表面と気体との摩擦力および粘性を利用して、プラズマ中に原料ガスを供給する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、第1の方法は、小面積基板への適用は容易であるが、大面積基板に適用するには、高い精度で非常に大きな矩形平行流路を形成する必要があり、例えば、材料の強度、工作精度等の問題が生じる。また、第2の方法の場合、容器内に一旦ため込まれた反応ガスを、電極の回転によってプラズマ中へガスを導入するため、成膜された膜の純度は、成膜容器の清浄度に大きく左右され、過度の清浄度をチャンバー全体に要求することとなる。また、プラズマを発生させるための電極基板間距離は、わずか数mm以下の空間しか必要としないにもかかわらず、回転電極全体を覆うための大きな真空容器が必要となる。さらに、電極の曲率に応じて基板電極間距離が変化するため、プラズマの発生条件(例えば、反応ガス濃度、投入電力等)により、例えば、プラズマ発生領域が変化したり、ギャップに依存してプラズマ密度の分布が生じたりするため、成膜結果とプラズマ発生条件との相関を単純に議論することが困難である。
【0009】
第3に、成膜された膜の均一性の問題がある。これは、前記第1および第2の方法の双方に共通した問題である。前述の平行流路を用いた成膜法、および、回転電極を用いた成膜法は、それぞれ基板の面方向に平行な流れを利用して原料ガスの供給を行っている。このようなガスの供給方法の場合、一様な成膜を実現するには、基板の面方向において一様なガスの流れ(層流)が必須と考えられる。しかしながら、前記両者の方法は、回転電極や平行流路の一部分に局在したプラズマであるため、例えば、プラズマ領域の直前までガスが均一な流れであったとしても、プラズマ境界部では著しいエネルギー変化が生じるため、均一な層流を保持することが困難である。さらに、プラズマ内での流れが整っていたとしても、基板の面方向に平行に流れるガスを利用している以上、プラズマ中での原料ガスの分解反応による各種ラジカルの生成時間等に依存して、膜厚や膜質のムラが流れ方向に沿って現れる。具体的には、第1の方法では、上流側と下流側とでガスの圧力が異なってしまい、また、第2の方法では、例えば、図28に示すように、ガスがプラズマ領域に流れる(矢印B)だけでなく、逆流(矢印B’)も生じてしまうため、位置によって不均一になる。
【0010】
また、第2の方法で作製されたSiエピタキシャル膜は、僅か3〜4×10cm2の領域に形成できるのみであり、また、原料ガスがプラズマ中に侵入する最上流部では、分解が不十分なSiHxが基板に付着するため、アモルファスSiもしくは多結晶Siが、ガスの流れ方向に沿って幅1〜5mm程度の領域に形成されるという問題がある。このように結晶性の乱れた領域が形成されることにより、基板走査成膜によるSiウェハ全面へのSiエピタキシャル成長が阻害される。さらに、この成膜法においては、著しい膜厚むらが発生し、結晶性の乱れた部分においては、局所的に1.1μm/min程度の成膜速度が得られるものの、全体を平均した成膜速度は250nm/minとなってしまう。また、以上のようなプラズマ上流側界面における結晶性の乱れ以外にも、下流部界面において微粒子が生成され、基板上に付着するという問題もある。これらは、前述の回転電極および基板表面に平行な方向へのガス供給に特有の問題であると考えられる。
【0011】
このような平行方向からのガス供給による問題を解決するために、基板の面方向ではなく、基板の法線方向から原料ガスを供給する方法が開示されている。例えば、図29(a)の断面図に示すように、複数の貫通口511を有する電極51を基板43と対向するように配置し、貫通口511を通じてガス(矢印B)を流すことによって、基板43表面に到達する原料ガスの到達時間を均一にすることが可能となり、且つ、プラズマに原料ガスが侵入する界面を基板から離すことが可能となる。
【特許文献1】特許第3480448号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、電極に大きな貫通口(例えば、直径1mm程度)を設けた場合、図29(a)に示すように、貫通口511を通過したガスは、矢印B’の方向に進むこと、および、貫通口の真下とそれ以外の位置とではプラズマ密度が異なるため、図29(b)に示すように、貫通口511のパターンがそのまま転写された状態でSi膜52の成膜が行われてしまう。これは、高周波を用いた大気圧プラズマの場合、プラズマ生成を担う荷電粒子の振幅が非常に小さく、電極の貫通口を大きくすると、貫通口部分のプラズマ密度が著しく低下し、極端な場合は、プラズマが消滅してしまうためである。このため、プラズマに影響を与えない開口径とするには、任意のプラズマ生成条件における電子の振幅や平均自由行程に匹敵する、非常に小さな開口とする必要がある(例えば、数μm〜数百μm)。しかしながら、この様な微小の開口を厚さ数mmの金属板に設けることは非常に困難であり、可能であったとしても経済的に見合った方法ではない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、十分な成膜速度と膜の均一性の双方を満たし、低温でのエピタキシャル成長を実現する、新たな大気圧プラズマCVD法によるエピタキシャルSi膜の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のエピタキシャルSi膜の製造方法は、大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法であって、前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、前記電極における前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、前記多孔質体である電極の孔を通じて、ガスを、前記電極と基板との間に導入することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の製造方法を実施する本発明の装置は、電極と、基板の支持部材(以下、「サセプタ」ともいう)とが対向して配置され、前記電極と前記支持部材上の基板との間にプラズマを発生させて、前記基板表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、前記電極における前記処理支持部材との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、前記ガスが、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と前記支持部材上の基板との間に導入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法およびプラズマ処理装置によれば、低温条件下(例えば、600℃以下)であっても、均一性に優れたエピタキシャルSi膜を高速に製造方法することができる。特に、本発明によれば、電極として、所定の平均孔径および厚みである多孔質体を使用することにより、プラズマ内において、原料ガスをランダムな方向へ供給できることが特徴の1つである。すなわち、従来は、全体として均一な処理を行うために、原料ガスについて「一様な層流」を作り出すことが重要視されていた。これに対して、本発明は、一様な層流ではなく「ランダムなガス流」を作り出し、原料ガスを拡散させている。つまり、この拡散によって、全体として均一なガス供給を図り、結果的に、均一なプラズマ処理を可能とした。なお、このような性質から、本発明おける電極は、以下、「拡散電極」ともいう。そして、このような所定の性質を有する多孔質体を電極とすることに伴って生じる問題を、例えば、放熱板の併用や、Si膜での被覆等により解消し、結果として、低温条件下、十分な成膜速度での均一なエピタキシャルSi膜の成膜を実現した。さらに、このように低温での優れたエピタキシャル膜の形成を可能にしたことから、例えば、この製造方法を、Siウェハの製造のみならず、デバイス製造の中間工程に組み入れることによって、デバイスのさらなる改変にもエピタキシャル成長を利用可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における電極は、多孔質体であり、且つ、炭素および炭化ケイ素の少なくとも一方からなる。前記炭素としては、例えば、ガラス状カーボンやグラファイト等があげられる。なお、電極の材料は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記電極の厚みは、10mm未満であり、より好ましくは1〜5mmであり、特に好ましくは2〜3mmである。
【0018】
前記電極の平均孔径は、5〜30μmであり、好ましくは5〜25μmであり、より好ましくは7〜18μmである。なお、平均孔径は、例えば、ボロメーターによって測定できる。また、前記電極の気孔率は、例えば、10〜50%であり、好ましくは10〜40%であり、より好ましくは25〜35%である。このような平均孔径の多孔質体は、例えば、前述の物質からなり、平均孔径が、例えば、30〜156μmである粒子を焼成することによって製造できる。この焼成温度は、特に制限されず、物質の種類によって適宜決定できるが、通常、900℃(例えば、炭素)〜2400℃(例えば、SiC)である。
【0019】
前記拡散電極のプラズマ暴露側における表面平面度は、プラズマの均一性を保証するため、例えば、0.1mm以下にすることが好ましく、より好ましくは0.05mm以下であり、特に好ましくは0.01mm以下である。
【0020】
本発明において、前記電極の表面は、Si膜で被覆されている。なお、電極表面は、少なくともプラズマに暴露される表面がSi膜で覆われていることが好ましい。Si膜の厚みは、20nm以上であり、好ましくは20〜1000nmであり、より好ましくは20〜500nmである。このように20nm以上のSi膜で被覆することによって、電極表面からの炭素系不純物の放出を低減し、成膜したSi膜のキャリアライフタイムの劣化を防止することができる。なお、電極の被覆は、電極の製造に使用する前述のような粒子を、予めSi膜でコーティングすることにより行ってもよいし、焼成により電極を製造してから、さらにその表面をSi膜でコーティングしてもよい。Si膜でのコーティング方法は、特に制限されず、従来公知の方法が使用できるが、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0021】
電極コーティングは、例えば、電子グレード(純度99.9999%以上)のSiH4ガスとHeとH2との混合気体を用いたプラズマCVDにより行うことができる。この際、サセプタの温度(即ち基板温度)をエピタキシャル成長が実施される基板温度以上に設定することが好ましい。SiH4は、400℃程度から熱分解が開始するため、プラズマに接触する拡散電極表面、ならびに、400℃以上(TDSの測定によりCO等が有意に発生する領域)の高温になる拡散電極内の粒子表面に、20nm以上のSi膜を効率よくコーティングできる。なお、400℃の基板温度でエピタキシャル成長を行う場合には、例えば、プラズマに暴露される拡散電極の最表面のみが、20nm以上のSi膜で覆われていればよい。他の方法としては、サセプタからの輻射熱によって拡散電極(多孔質体)表面の温度を上昇させておき、後述するようなガス供給室から、SiH4とキャリアガスとの混合ガス供給することによっても可能である。なお、この方法においては、拡散電極全体の微粒子表面にSiを形成するか、拡散電極内部の温度が、プラズマによるエピタキシャル成膜の条件と同様であることが好ましい。
【0022】
本発明において、前記電極は、前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介してさらに放熱板が配置されている。このように放熱板を配置することによって、発生する電極の熱を吸熱し、放熱することができる。
【0023】
放熱板の形状は、特に制限されないが、電極の熱を吸熱し、それを放熱する機能を妨げない程度で、ガスを透過させる形状であることが好ましい。具体例としては、例えば、厚み方向に貫通孔を有することが好ましく、その直径は、例えば、0.2〜5mm程度、好ましくは1〜5mm程度であり、その個数は、放熱板の単位面積(mm2)あたり、1〜7個であることが好ましい。放熱板の大きさは、例えば、使用する電極の大きさに応じて適宜決定できる。また、その厚みは、放熱板の材質によって定まる比熱や熱伝導率によって適宜決定できるが、例えば、10〜50mmである。
【0024】
前記放熱板の材料は、特に制限されないが、熱伝導性に優れ、金属系不純物を発生しない材料が好ましく、特に非金属性材料が好ましい。具体例としては、焼結グラファイト、ボロンナイトライド(BN)、アルミナ、Si、冷却された非磁性金属等があげられる。冷却された非磁性金属とは、例えば、水冷や、強制空冷された、非磁性金属製放熱板を意味し、前記非磁性金属としては、従来公知の金属が使用できる。また、いずれの材料を用いた場合においても水冷可能なヒートシンクと併用すれば、よりクリーンで高効率な冷却も可能である。これらの材料は、一種類でもよいし二種類以上を併用してもよい。
【0025】
前記電極は、その単位体積当たりの不純物放出量が、2.52×10-4Torrl/sec・cc未満であることが好ましく、より好ましくは、1×10-5Torrl/sec・cc未満である。
【0026】
電極の不純物放出量は、例えば、予め、電極を1000℃以上で加熱して、電極から炭素等を含むガス成分を除去する脱ガス処理等、従来公知の方法によって低減できる。しかしながら、本発明においては、エピタキシャルSi膜の成膜に先立って、以下に示す脱ガス工程を含むことが好ましい。すなわち、前記非処理基板の温度を、エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の設定温度よりも高い温度に設定し、プラズマ生起ガスを、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と基板との間に導入し、前記電極と基板との間にプラズマを発生させる工程である。これによって、不純物放出量が低減された電極を調製できる。
【0027】
本発明において、成膜時における基板の温度は、例えば、850℃以下であり、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは300〜600℃、特に好ましくは500〜600℃である。一方、前記脱ガス工程における電極部材の温度は、前記成膜時の温度よりも高い温度であればよいが、成膜時の温度よりもプラス200℃程度に設定することが好ましく、例えば、600〜1050℃である。基板の温度の制御は、通常、後述するような基板の支持部材に内蔵されたヒーターによって行われるため、基板の温度とは、支持部材に取り付けられた熱電対により測定される温度ということもできる。なお、放射温度計による基板表面温度と前記熱電対による表示温度の差は、ほとんど認められなかった。
【0028】
前記電極と基板との間の距離は、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、好ましくは、0.4〜1.2mm、より好ましくは0.4〜1mmである。
【0029】
また、前記電極における前記基板との対向面を、前記基板における前記電極との対向面よりも大きく設定することが好ましい。これによって、成膜される膜の厚みムラをより一層抑えることができる(例えば、5%以内)。具体的には、電極の対向面の面積を、前記基板の対抗面の面積に対して、1.1〜4倍に設定することが好ましく、より好ましくは1.21〜2.25倍である。また、基板の直径が100mmの場合、全面に均一性に優れたエピタキシャルSi膜を成膜するには、例えば、電極の直径を105〜140mmに設定することが好ましい。
【0030】
本発明において大気圧とは、通常、200〜1140mmHgである。また、電極に投入する電力の周波数は、特に制限されないが、通常、10〜300MHzであり、好ましくは13.56〜200MHzの範囲であり、より好ましくは13.56〜150MHzである。
【0031】
通常、プラズマ処理による成膜は、まず、大気圧下で、前記電極と基板との間にプラズマを生起するガスを導入し、且つ、電極に電力を投入することによって、電極と基板との間にプラズマを発生させ、続いて、発生したプラズマ中に、原料ガス(反応性ガス)を導入することによって行われる。
【0032】
プラズマ生起するガスとしては、例えば、He、Ar、H2およびその混合物等が使用でき、He、もしくは、HeとH2との混合ガスが広く使用されている。前記原料ガスとしては、例えば、SiH4、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Cl、Si2H6や、これらとH2の混合ガス、これらとH2およびCl2との混合ガス等があげられ、一種類でもよいし二種類以上を併用してもよい。プラズマ中に原料ガスを導入する際には、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが好ましく、前記キャリアガスとしては、例えば、He、Ar等が使用できる。混合ガスにおけるキャリアガスと原料ガスとの割合(vol%)は、特に制限されないが、例えば、10000:1〜10:1の範囲であり、好ましくは1000:1〜500:2.5の範囲である。
【0033】
導入するガスの総流量(単位時間あたりの量)は、特に制限されないが、例えば、10 l/min〜200 l/minの範囲であり、好ましくは25 l/min〜100 l/minの範囲である。
【0034】
本発明の製造方法において使用できる基板は、何ら制限されない。特に本発明によれば、低温条件下での処理が可能であることから、例えば、結晶核が核付け処理されたガラス基板、Siウェハ、金属基板、セラミック基板、SOI基板等の従来公知の結晶成長が可能な基板の他に、例えば、ソース電極やドレイン電極等が実装されたFETデバイス基板をも基板として使用することができる。
【0035】
つぎに、本発明の製造方法について、これを実施する本発明のプラズマ処理装置とあわせて説明する。
【0036】
図1に、本発明のプラズマ処理装置の一例を示す。このプラズマ処理装置100は、拡散電極11、厚み方向に貫通口121を有する放熱板12およびガス導入口16を有するガス供給室18と、基板14の支持部材13とを備える。ガス供給室18は、上部17と底部(凹部)11とからなり、前記底部11が拡散電極11であり、拡散電極11上には放熱体12が配置されおり、上部17における放熱板12の露出表面よりも上側(同図において左上)にはガス導入口16が設けられている。そして、支持部材(いわゆるサセプタ)13は、ヒーターを備え、ガス供給室18の底部である拡散電極11と対向するように配置されている。なお、支持部材13表面と拡散電極11表面との距離は、支持部材13上に配置する基板14表面と拡散電極11表面との距離が、0.25mm〜2.5mmの範囲となるように設定されている。
【0037】
まず、プラズマ生起ガスを、ガス導入口16からガス供給部18内部に導入するとともに(同図において矢印A)、外部の電源(図示せず)を稼動させて電極11への電力の投与を開始することによって、電極11と基板14との間でプラズマ15を発生させる。続いて、原料ガスを含む混合ガスを、同様にしてガス供給部18に導入する。この混合ガスは、放熱板12を通過し、さらに、電極11の孔をランダムに拡散しながら透過して、電極11と基板14との間で発生したプラズマ15中に導入される(同図において矢印B)。そして、基板14表面がプラズマ処理され、エピタキシャルSi膜が成膜される。プラズマ処理の温度は、例えば、支持部材13のヒーターにより、基板11の温度として調整することができる。
【0038】
前記ガス供給部内の圧力は、ほぼ外部の圧力に等しく、通常、0.0001MPa〜0.05MPaだけ加圧された状態であり、好ましくは0.001MPa〜0.01MPaだけ加圧された状態である。また、これらの構成は、通常、チャンバー(成膜チャンバー)内に配置されており、ガス供給室からプラズマ内に導入されたガスは、最終的に、成膜チャンバーに設けられたガス排出口より、真空ポンプにより強制的に外部に排出される。また、成膜チャンバーの到達真空度は、通常、10-6Torr〜10-8Torrであり、成膜中のチャンバー内圧力は、条件により、例えば、200〜800Torrとなるよう、ポンプの排気速度の調整によって設定できる。また、成膜プラズマ中での重合反応によるSixHyなどの高次生成物が、電解研磨されたステンレス製のチャンバー壁面へ付着することを防止するため、例えば、電熱線のヒーターにより、チャンバー壁面を常時約130℃に加熱することが好ましい。なお、チャンバー壁面の温度は、例えば、前記壁面の構成部材によって変化しうる。
【0039】
このようなプラズマ処理装置を使用した本発明の製造方法によれば、低温・大気圧条件下で、成膜速度200nm/min以上を実現し、且つ、均一なエピタキシャルSi膜を形成できる。
【0040】
プラズマ処理の際には、成膜される膜の厚みの均一性をより一層向上できることから、例えば、図2の斜視図に示すように、基板14を加熱機構が搭載された回転ホルダー20上に配置して、基板14をその面方向に回転させることが好ましい。なお、図2において、図1と同一箇所には同一符号を付している。同図におけるプラズマ製造装置は、基板14を、接地された回転ホルダー上に配置し、ガス供給部18へ高周波電力を供給することによって、両電極間にグロー放電が発生してプラズマが生じる形態である。なお、両電極間の距離を一定に保ったまま、例えば、基板を電極面に対して平行に揺動させることによっても、同じ効果が得られる。
【0041】
なお、本発明における電極は、ガスを透過させる電極が、前述の多孔質体であればよく、それ以外は何ら制限されない。したがって、プラズマを発生させるための電極形態は、従来公知のその他の形態をとってもよく、例えば、基板の下方にさらに電極を備える2極放電形でもよい。また、基板と電極との位置関係が天地逆転してもよい。この場合、例えば、底面に放熱板を有する電極に対して、その上方に基板を配置し、前記放熱板の下方から上に向かってガスを供給し、前記放熱板および前記電極を透過したガスを、前記電極とその上方の前記基板との間に発生したプラズマ中に導入することもできる。
【0042】
また、プラズマ内で生成された高次生成物やSi微粒子等を成膜チャンバー内へ飛散させないため、さらに排気口を設置したプラズマ処理装置でもよい。図26に、その一例を示す。なお、同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。同図に示すプラズマ処理装置は、上部17と拡散電極(凹部)11とからなるガス供給部の側面の周囲を飛散防止部材60で覆い、飛散防止部材60に排気口61を設けた形態である。排気ポンプ等により排気口61から強制的な排気(矢印C方向)を行うことによって、例えば、プラズマ内で生成された高次生成物やSi微粒子等を排除できる。
【実施例1】
【0043】
1.多孔質体(多孔質カーボン)の作製
平均孔径約70μmのアモルファスカーボン粒子を1000℃で焼成することによって、気孔率30%、平均孔径5〜10μmの孔が分散した状態の多孔質体を調製し、これを実施例における拡散電極として使用した。この多孔質体の電子顕微鏡写真を図3に示し、また、その特性を下記表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
2. 電極の条件
(2−a)電極の厚み
前述と同様の材料を用いて、厚み10mmと3mmの二種類の拡散電極を作製した(プラズマ生成直径84mm)。そして、これらの拡散電極を用いて、下記表2の条件(150MHzの高周波電源を使用)で、プラズマを生起させ、前記基板上に成膜を行った。そして、形成された膜の一部に有機高分子のマスクを施し、マスクされていない膜部分をKOHによりエッチングし、除去した。エッチングにより形成された膜段差を、触針式表面粗さ計により測定した。なお、基板は、石英ガラス(110×130mm、厚み0.7mm)、150nmの酸化膜付きSi基板(直径100mm、全体厚み0.525mm)を使用し、プラズマ処理装置の壁部および上部の部材は、SUSとした。
【0046】
【表2】
【0047】
拡散電極を用いて得られた基板上の膜の膜厚分布を図4および図5に示す。図4は、厚さ10mmの拡散電極、図5は、厚さ3mmの拡散電極をそれぞれ使用した結果であり、両図(a)は、それぞれ成膜後の外観を示す写真であり、両図(b)は、膜厚分布のグラフである。両図に示すように、それぞれ膜厚に大きなムラが見られた。そこで、膜厚の不均一の原因を検討するため、成膜後に、使用した厚み10mmの拡散電極を厚み方向(ガスの透過方向)に切断し、その断面を観察した。この結果を図6に示す。その結果、図4における膜厚の薄い箇所と対応するように、図6の電極中に白色の帯状領域が存在していることがわかる。このような白色を示す主成分は,EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)分析から、Siであることがわかった。また、電極内部でのガスの流れ方向に着目した場合、白色の帯状領域の出現開始点は、円形電極の径方向中心ほど奥まで侵入していることが分かった。また、成膜に使用した後の厚み3mmの拡散電極外観を図7に示す。同図(a)は、ガスが供給される側の電極表面、同図(b)は、プラズマが発生する側の電極表面をそれぞれ示す写真である。その結果、図5における膜厚の薄い箇所と対応するように、図7の電極において、ガス供給側からプラズマ発生側にかけて、Siの付着が著しいことがわかる。
【0048】
以上の結果から、基板上でSi膜が膜厚分布を示す原因は、基板ヒーターを600℃に加熱し、1KWの電力を投入してプラズマを発生させたことにより、拡散電極が著しく加熱され、電極中で、原料SiH4が熱分解により消費されたためと推定できる。特に、図6に示すように、電極の径中心付近では、周囲に熱を放出する空間が無いため、著しく温度が上昇し、ガスの流れ方向に5mm程度侵入した位置からプラズマ側電極表面にかけて、400℃以上に昇温されていたと推定される。また、白色の帯状領域の幅が3mmであることから、原料SiH4が、この区間で全て消費されていることがわかった。また、図7に示す電極(厚み3mm)は、電極内部全域にわたって、Siが付着していると考えられる。
【0049】
したがって、多孔質カーボンは熱伝導率(20℃ 1.9W/mK、100℃ 2.25W/mK、800℃ 2.8W/mK)が悪く、熱容量が小さいため、加熱されやすい特性を持ち、大気圧プラズマCVDによるSiのエピタキシャル成長を行うに際には、電極として単独で使用することは困難であり、熱を吸収・放散する部材を組み合わせる必要があることが分かった。なお、図6に示すように、電極内部5mmの位置で既に400℃の高温になっていることから、厚み10mmの電極に対して放熱部材を組み合わせても、効率的な冷却作用は期待できない。このため、10mm以上の厚みの多孔質カーボンは適切でなく、電極に熱が蓄積し、SiH4が分解されるような高温になる前に、放熱部材に電極の熱を移動させるためには、600℃の基板温度時において、5mm以下の厚みが特に好ましいことがわかった。
【0050】
(2−b) 放熱部材の併用
前述と同様の材料を用いて、厚み3mmの拡散電極(多孔質カーボン)を作製し、これと放熱部材とを組み合わせて、成膜特性を調べた。
【0051】
使用した放熱部材の形状を、図8および図9に示す。図8の部材は、φ3mmの穴が、6mmの中心間隔で最密に並んだ構造であり、図9の部材は、中心にφ3mmの穴が一つ開いた構造である。これらの部材の材質は、それぞれSUSとし、厚みは、両者とも30mmとした。なお、BNや焼結グラファイトについてもSUSと同等の効果が得られることは確認済みである。そして、前述の図1に示すように、この放熱部材を、前記拡散電極上に配置して、下記表3の条件で成膜を行った。なお、電極と基板との間の距離は、0.6mmおよび1.2mmの二通りとした。
【0052】
【表3】
【0053】
まず、図9の放熱部材を併用して得られた基板上の膜の膜厚分布を図10に示す。同図において、横軸は、放熱部材に設けられた穴中心の真下から、膜の測定部位までの距離を示し、縦軸は、厚みを示す。同図に示すように、放熱部材が1つの穴を有するのみであり、この穴からガスが供給された場合、膜厚プロファイルは、近似的に正規分布で表記できるような分布を持ち、電極基板間の距離(成膜ギャップ)が狭いほど最大膜厚が厚く、半値幅の狭い膜厚の分布となる傾向にあることが分かった。さらに、電極基板間の距離が1.2mmの場合は、0.6mmの場合に比べて、約3倍近い5分もの成膜時間を要したにもかかわらず、110nm程度しか成膜できなかった。電極基板間が0.6mmの場合の結果が、成膜時間1.5分で2500nmであったことから、成膜速度は約75倍も変動していた。このことから、電極基板間の距離が、成膜速度を決定する重要な因子になっていることが分かった。なお、このギャップ依存性については後述する。
【0054】
さらに、図8に示す複数の穴が開いた放熱部材を用いた成膜に関し、その膜厚分布の結果を図11に示す。同図の上図は、得られた膜の外観写真であり、下図は、膜厚分布を示すグラフである。同図より、基板面内の成膜ギャップの不均一性に依存したプラズマ密度の若干の差異に影響されて、最大と最小で100nm程度の膜厚ムラが生じているものの、ほぼ直径70mmの領域で膜厚が均一であった。特に、プラズマ密度が等しい限定された領域においては、中心膜厚1μmに対して50nm程度の膜厚むらに抑えられていることが分かった。また、放熱部材を設置しなかった、前述の膜厚分布(図5)と比較して、格段に成膜速度が上昇し、基板面内全域で有効な成膜が行われたことが分かる。これは、多孔質カーボンのみでなく、放熱部材を組み合わせなければ、有効な成膜が実施できない事を示しており、放熱部材の必要性が証明されたといえる。また、平行流路や回転電極を用いた場合には、成膜速度むらが最大と平均とで4倍もの値を示したのと比べても、大きな改善であることが分かる。このことから、基板への原料ガスの到達時間を均一化することで、膜厚を均一化することが可能であるということが示された。
【0055】
つぎに、図10より求めた膜厚の正規分布関数に基づいて、図9に示す放熱部材を用いて成膜した膜の膜厚プロファイルをコンボリューションし、図8に示す多数穴の放熱部材を用いた際に、どの様な膜厚分布が理想的に得られるかを計算した。その結果を図12に示す。同図は、一次元方向に、穴の中心間隔が6mmのピッチで開いている場合のみを考えているが、今回採用したφ3mm、6mmピッチの開口を開けることで、基板中央部付近では、ほぼ膜厚むらのない、すなわち、放熱部材の開口ピッチの影響を受けない膜厚プロファイルを得られることが分かる。また、同図から、電極外周部付近では、約10〜15mmの幅で電極内側に膜厚分布を呈することが予想され、例えば、φ100mmのSiウェハ全面に±5%以内の膜ムラでエピタキシャルSi膜を形成しようと考えた場合、電極の直径を130mmに設定することが好ましいと示唆される。
【0056】
(2−c)電極基板間の距離(成膜ギャップ)に対する依存性
成膜ギャップを変動させた以外は、前記(2−b)と同様に、図8に示す多数のガス供給孔を備えた放熱部材を併用した例と同様の条件で、基板上への成膜を行った。この結果を図13に示す。同図に示すように、成膜速度は、ギャップに対して指数関数的に減少し、その特徴的な減衰距離は0.18mmであることがわかった。このように、ギャップに対して非常に急激な減衰を示す原因は、電極からの粘性流の減衰と拡散による影響が考えられる。
【0057】
ここで、He中のSiH4の拡散について考える。He中のSiH4の拡散係数は、諸説あるが、室温下において20cm2/sec程度と見積もられる。今回使用した拡散電極の面積は86.5cm2であり、気孔率は30%であるので、実質の開口面積は26.0cm2と推定される。He流量が75slmであることから、吹き出し平均流速は約0.48m/secとなる。この流れが約0.18mm進行するための時間は、375μs必要となり、この時間内における、He中のSiH4の拡散長は、約0.8mmとなる。実験より求められた減衰距離と計算により求められた拡散長とを比較すると、今回得られた値は拡散長に比較して1/4となり、原料の移送が拡散に支配されているとは考えにくい。一方、粘性流の減衰を考えた場合、原料ガスはヘリウムと共に拡散電極を介して基板表面へ供給されるが、この様な基板表面へ向かうガス流が存在する一方、基板表面で熱せられた原料ガスの一部は、対流の影響により電極表面へ向かって逆流するおそれがある。電極表面からの噴出速度0.48m/secは、比較的低速であるため、基板表面でガスが加熱されることで生じる対流による逆流の影響を大きく受けると考えられる。そのため、この逆流が電極表面からの流れに対して抵抗力を生じさせ、電極表面からの粘性流が基板表面へ到達することを阻害してしまうこととなる。
【0058】
この様な粘性流と拡散による物質の移動の影響が含まれる領域と、拡散のみによる物質の移動が支配的になる領域との成膜特性の違いを調べるため、電極基板間距離を0.25mmと1mmの二通りとし、これに対してキャリアガスであるHeのガス流量を変化させることで、その成膜特性を調べた。なお,いずれの条件においても、SiH4および水素の流量は50sccmと一定としている。その結果を図14に示す。同図より、電極基板間距離を1mmに設定した場合、図より判断し難いが、成膜速度100nm/min付近でキャリアガス流量の増加に対し、緩やかに減少する傾向が見られた。一方、電極基板間距離を0.25mmに設定した場合、He流量の増加に伴って、成膜速度が著しく減少する傾向が見られた。この両者の電極基板間距離において観察された、He流量の増加による成膜速度の減少は、流量の増加によりSiH4のプラズマ中での滞在時間が短くなり、成膜種として基板表面へ到達する前にプラズマ外に排出されてしまうこと、および、He流量の増加によるガス中のSiH4濃度の低下により、電極表面と基板表面間の濃度勾配が低下したことが原因と考えられる。いずれのギャップにおいても、今回のプラズマ生成条件では、キャリアガス流量のみを増加させることで成膜速度が低下する事が明らかとなった。このことから、今回のプラズマ生成条件においては、キャリアガス流量を、低く設定することが好ましいことが分かった。ただし、成膜速度は、他のプラズマ生成条件(例えば、投入電力等)によっても調整可能であり、本発明において、キャリアガス流量がエピウェハの成長速度に対する決定的な因子には成らないといえる。
【0059】
3.電極起因の不純物とその対策法
本発明における拡散電極を使用する際に、エピタキシャル成長の阻害不純物となりうる、水分および炭素、酸素、電極に付着したSiに着目した。
【0060】
(3−a)水分
電極を構成する多孔質カーボンは、粒径70μm程度の粒子を焼成することで形成されているため、比表面積が非常に大きく、多量の水分子を内部に吸着することができる。電極内部の吸着水分子は、エピタキシャル膜の成膜時に、カーボン表面より脱離するとともに、600℃程度に加熱されたSiウェハ表面を容易に酸化し得る。さらに、大気圧プラズマにより水分子が活性化されるため、より大きな速度で酸化が進行するおそれがある。この様なSiウェハ表面の酸化膜は、低温エピタキシャル成長を阻害するのみならず、水に由来する酸素がエピタキシャルSi膜に混入することにより、OSFや酸素ドナーを生じさせるおそれがある。一般的に水分子は、他の気体分子に比較して、脱離の活性化エネルギーが極めて大きいため、脱ガスさせる事が最も難しい分子の一つである。
【0061】
そこで、まず、多孔質カーボンからの各分子の脱離スペクトルをTDSにより測定した。測定試料は、厚み5mm、10mm×10mmの多孔質カーボンであり、焼成後、数ヶ月間大気に暴露したものを使用した。TDS測定は、30℃/minの昇温速度で、室温から1000℃まで加熱し、各温度における分子の脱離量を測定した。TDSの測定結果を図15に示す。着目した成分は、質量数/電荷比で、2、12、16、18、19、28、32、44である.同図において、最もガス放出の著しい成分は、質量数/電荷比18の水であり、他の成分と比較して40倍以上あり、続いて、質量数/電荷比16の酸素またはCH4が脱離していることが分かる。また、いずれの成分も、100〜200℃の領域で脱離のピークを迎えており、特に、H2O、O、O2に関しては、一旦このピーク温度を通過すると、試料温度の上昇と共に脱離量が減少していく傾向が観察された。なお、600℃以上の温度では、脱離ガスの主成分は、水素および窒素もしくはCOになることが明らかになった。チャンバー内の全圧は、今回の測定において約6×10-7Torrまで悪化した。TDSの測定チャンバーは、実効排気速度210l/secのターボ分子ポンプにより排気されているため、一旦大気暴露された多孔質カーボンの単位体積あたりのガス放出量は、最大2.52×10-4Torrl/sec・ccと見積もられる。しかし、脱離のピーク温度以上に加熱することで、1000℃においても2×10-6Torrl/sec・cc程度のガス放出量に抑えることが可能であることが分かった。
【0062】
そこで、一旦放出されたガスが、多孔質カーボンへ、どの程度再吸着するかを確認するため、一旦1000℃まで加熱した試料を、そのままTDS容器内に保存しておき、試料温度が室温に戻った時点で、再度1000℃まで加熱した。その際に得られたTDSスペクトルを図16に示す。その結果、前述の図15で観察された100〜200℃における放出ガスのピークは、一切存在せず、放出ガスの主成分が、水素もしくはCO(m/e=28)になっていることが分かった。さらに、400℃近辺から、12、28、44のイオン電流値が、温度上昇と共に徐々に上昇してきており、加熱脱ガスした後も、Cを含むガス成分が放出されることが分かった。さらに、一旦1000℃まで加熱し、再度室温まで冷却した多孔質カーボンのガス放出量は、9×10-8Torrl/sec・cc以下にまで低下することが明らかになった。ここで、原料ガスおよびキャリアガスの不純物濃度は1ppb以下であるため、初期の不純物濃度を無視し、4inch Siウェハ全面にプラズマを生起させ、且つ、ガス供給を行うために作製した直径105mm、厚さ3mmの電極の体積、および雰囲気圧力が大気圧であることを考慮すると、成膜雰囲気は、2.6ppb程度の不純物濃度になることが分かる。この値は、従来の回転電極を用いた低温エピタキシャル成長における成膜雰囲気中の不純物濃度40ppbを大きく下回っており、比表面積の大きな多孔質カーボンを用いても、十分な脱ガスを行うことで、エピタキシャル成長に適用する事が可能である事を示している。
【0063】
ここで、4inch Siウェハ全面を覆うために作製した電極のサイズは、前述のように、厚みが3mm、直径が105mmあるため、TDSで用いた小さな試料と異なり、そのようなサイズの電極を1000℃以上で昇温脱ガス処理することは事実上困難である。しかしながら、本発明者らは、大気暴露された多孔質カーボン電極から、高効率で脱ガスを行うプロセスとして、次のような工程を独自に開発した。まず、エピタキシャル成長を行う際の基板温度を600℃と設定し、成膜前、脱ガスのために、基板温度をそれより高い温度(例えば、800℃)に加熱するとともに、約1mmの電極基板間距離にて、20SLMで超高純度He(不純物濃度1ppb以下)を拡散電極よりフローし、1.5kW以上の電力を投入することで、大気圧プラズマを電極基板間に20分間発生させた。これによって、電極は、基板からの輻射および伝熱だけでなく、プラズマによる熱および1.5kWの高周波電力によるジュール熱により、複合的に加熱され、電極温度は、放射温度計により800℃近傍まで加熱される事が明らかとなった。また、大気圧という利点を生かし、電極内部に含有されている水分を、ヘリウムの粘性流により積極的に排出することで、真空中での分子流による脱ガスと比較して、非常に高効率な水分除去が可能となった。
【0064】
(3−b)炭素
本発明における電極は、その構成材料が炭素であるため、Si膜中への炭素の混入が懸念される。一般的に、CZ−Si結晶中には、1016atoms/ccの炭素が固溶されていると報告されていることから、これ以下の濃度に抑えることが望ましい。なお、CZ−Si結晶中の炭素は、結晶育成中に高温のグラファイト部材から放出されるCOが混入することが原因である。
【0065】
前述のTDSの測定結果から、一旦脱ガスした後の多孔質カーボンが再度高温に加熱され、電極温度が400〜600℃に達した時点で炭素系化合物、特にCOが顕著に脱離することが明らかになっている。本発明においては、成膜時の電極温度の上昇を放熱部材により抑える他に、さらに、脱ガスした拡散電極に対して、20nm以上の厚さのSi膜を各カーボン微粒子表面に犠牲成膜し、前記拡散電極を構成するカーボン表面からの炭素系化合物の放出を抑えることを可能とした。特に、先のTDSによる分析から、CO等が顕著に発生する温度領域が400℃以上であり、SiH4の熱分解の開始温度も400℃であることが明らかである。そこで、犠牲成膜では、拡散電極をエピタキシャルSi製造時と同条件の状態にし、原料ガスを通過させることで、COが生成される温度条件に達した各カーボン微粒子表面にSi膜が形成される現象を利用している。
【0066】
電極の脱ガスと犠牲成膜処理を行った前後でSi膜を形成し、形成されたSi膜のIRスペクトルを測定した。なお、脱ガスおよび犠牲成膜の処理以外は、前述の「2.(C)」と同様の条件でSi膜の形成を行った。なお、電極と基板との距離は、1000μmとした。
【0067】
この結果を図17に示す。同図(a)は、電極を処理する前に形成したSi膜のIR透過スペクトルであり、同図(b)は、電極を処理した後に形成したSi膜のIR透過スペクトルである。同図から明らかなように、電極の処理前に形成されたSi膜には、Si酸化膜の形成を示す1200cm-1のピークおよびSiCの形成を示す850cm-1のピークが確認された。一方、電極の処理後に形成されたSi膜には、いずれのピークも確認されなかった。なお、同図(b)において、1100cm-1近傍に若干のピークが観察されるが、これは450cm-1のSiO2ピークが同時に観察されなかった事から、Siウェハ中に含まれる格子間酸素に起因すると考えられ、酸化膜の形成による物ではないことがわかった。以上の結果から、電極の処理によって、酸素や炭素の混入を防止できることが明らかとなった。
【0068】
(3−c)電極付着Si
プラズマCVD法において、電極表面に過剰に付着した成膜材料が、プラズマパラメータおよび成膜特性を著しく乱すことがよく知られている。特に、エピタキシャルSi膜の形成プロセスにおいては、電極表面に過剰に付着したSiが、成膜プロセスの途中で剥離脱落して、基板表面に付着し、ウェハ表面で微粒子状の異物として作用するため、これがエピタキシャル成長を阻害する一因となる。そこで、過度に電極表面に付着したSiを、クリーニングするプロセスが求められる。本発明においては、平均孔径が5〜10μmの拡散電極を用いているため、電極への過剰なSiの付着は、ウェハ表面のSi微粒子汚染を進行するのみならず、拡散電極のガスを透過する孔を塞いでしまい、基板表面への原料ガス供給を妨げるおそれがある。一般的に、低圧プラズマCVDにおいては、電極のクリーニングのため、フッ素系のガスを用いてプラズマを発生させ、電極表面に付着したSiをSiFx状のガス分子として除去する手法が取られている。しかしながら、これらフッ素系のプラズマは、Siをエッチングするだけでなく、炭素そのものを強く浸食する働きを有する。また、フッ素や塩素といったハロゲン系の元素は、チャンバーや電極構成部材に非常に大きな吸着エネルギーで吸着するため、プラズマクリーニングの後、これらのハロゲン元素を除去するために多大な労力が必要となる。さらに、拡散電極を用いた成膜では、除去すべき過剰付着Siは、電極表面のみならず、電極内部の孔にも存在するおそれがある。したがって、本発明の製造方法においては、以下のようなクリーニング法を適用することが好ましい。
【0069】
すなわち、薬液を用いたクリーニング法である。前記薬液として、Siに対して浸食作用を示すが、カーボンに対してはほとんど浸食作用のないHNO3(98wt%)(電子工業グレード)とHF(50wt%)(電子工業グレード)の混合溶液(1:3)を使用し、拡散電極を前記薬液中に約1時間浸漬することでケミカルクリーニングを実施できる。クリーニング後の電極は、例えば、超純水中への浸漬により十分にリンスした後、前述の脱ガスプロセスを行い、再度成膜に使用することができる。なお、超純水でのリンス後、十分に乾燥させた拡散電極をTDS測定した結果、クリーニングの実施による電極内部からのフッ素放出量は、ほぼ測定限界以下であることが確認された。
【0070】
前記クリーニングが、電極内部のガス透過孔に付着したSiに対しても有効に作用している事を確認するため、クリーニング前とクリーニング後の電極の断面を観察した。この結果を、図18に示す。同図(a)は、クリーニング前の電極の断面写真であり、同図(b)は、クリーニング後の電極の断面写真である。クリーニングには、前述の図6で示した電極を3×3cm2の大きさに切り取ったものを試料として用いた。クリーニング後の試料を、さらに、1.5×1.5cm2の大きさに切り出し、その断面を観察した。その結果、図18(b)に示すように、電極内部に形成されたSiの白色帯がクリーニングによって除去されていることが確認でき、電極の形状自体はほぼ変化していないことが分かった。なお、このように再生した拡散電極を用いて再度脱ガス処理および犠牲成膜処理を行った後、600℃の基板温度にて2〜5μmの厚みのSiエピタキシャル膜を、25枚以上の4インチ基板上に形成できることを確認した。
【実施例2】
【0071】
本発明の拡散電極を用いて、4インチエピタキシャルSiウェハの低温形成を試みた。なお、拡散電極は、前記実施例1(3−a)と同様、厚み3mm、直径105mmとし、前述の脱ガス処理および犠牲成膜処理を行ったものを使用した。また、放熱板は、前記図8の放熱板と同様の形態(φ3mmの穴が、6mmの中心間隔で最密に並んだ構造)であり、直径は、前記拡散電極に対応させて90mm、厚み30mmのSUS製とした。
【0072】
従来の平行流路を用いた大気圧プラズマCVDによるエピタキシャル成長では、SiH4に対するH2の流量比を10以上に上昇させると、表面粗さが悪化し、成膜されるSi膜が多結晶化する傾向が見られ、逆に、H2を全く加えなかった場合には、成膜速度が低下すると共に、表面粗さが悪化することが明らかとなっている。この結果から、エピタキシャル成長に最適なSiH4とH2との流量比は、1:1である。そこで、本発明の拡散電極を用いて、SiH4とH2の流量比を1:1に固定し、成膜を行った。成膜に用いたチャンバーの真空度は、5×10-7Torrであり、その他の実験条件は下記表4の通りである。大気圧プラズマCVDにおいて、エピタキシャル成長が実現されるためには、ある基板温度に対して、最適なプラズマ投入電力が存在することが分かっている。このため、下記表4に示した基板温度および投入電力は、平行流路の実験で75cm2の電極を用いた際に、全面でエピタキシャル成長が確認された条件に基づいて設定した。
【0073】
【表4】
【0074】
電極基板間距離は、前述のように、小さくするほど、成膜速度を格段に上昇できることがわかっている。しかしながら、回転電極や平行流路を用いた場合、プラズマに原料ガスが侵入した直後の領域に生じる成膜現象は、成膜速度は非常に速いけれども、形成されるSi膜の膜質は、多結晶SiやアモルファスSiからなり、この領域を通過した後、下流側のプラズマ領域全域においてエピタキシャル成長が観察されている。このことは、原料ガスがSiエピタキシャル成長に寄与する成膜種として活性化されるためには、SiH4分子が、ある一定の時間以上プラズマ中に滞在する必要がある事を連想させる。このことから、本発明における拡散電極においても、電極基板間距離が250μmm未満の場合には、作製される膜が多結晶化し表面が荒れる傾向が見られた。したがって、最適な電極基板間距離として250μm以上を確保する事が必要と言える。本実施例においては、成膜中の熱膨張による電極基板間距離の変動を抑え、さらに、エピタキシャルウェハ製造時の実用的な成膜速度となる約200nm/minの成膜速度を目標として、電極基板間距離を600μmに設定した。この固定された電極基板間距離の下、成膜条件を最適化し、基板温度600℃として、4インチエピタキシャルSiウェハを作製した。
【0075】
(a)外観
図19に、作製したエピタキシャルSiウェハの蛍光灯下での観察像(同図(a))、および、簡易型表面異物検査装置による照明(ハロゲンランプ)下でのウェハ観察像(同図(b))をそれぞれに示す。なお、異物検査装置による観察像に大きな白濁した箇所が見られるが、これは、ウェハ搬送時に用いる搬送治具が、ウェハ表面に接触したためにできたものであり、成膜現象とは本質的に無関係である。異物検査装置によれば、例えば、粒径300nm以上のパーティクルを検出可能であり、さらに、ウェハ表面にRMS0.2nm以上のマイクロラフネスが存在する場合には、ウェハ表面の曇りとして観察することが可能である。しかしながら、本実施例において作製したエピタキシャルSiウェハの表面には、照明下でも、異物検査装置により一切のヘイズ等は観察されず、その外観はアズレシーブドのウェハとほぼ同等であった。また、従来の平行流路や回転電極を用いた成膜時に見られるプラズマ界面における白濁も、拡散電極により形成したウェハ上には、全く存在しないことが明らかとなった。
【0076】
(b)REDによる結晶性の評価
次に、作製したエピタキシャルSiウェハの結晶性をREDにより観察した。この結果を図20に示す。同図の結果より、RED像は、Si(001)に由来するストリーク像を示し、ストリークパターンに菊池線が重畳していることが分かる。また、各々が4cm離れた任意の4点を、ウェハ表面よりサンプリングし、同様にRED観察を行ったところ、いずれも図20と同様の結果が得られた。このことから、ウェハ全面にわたって、良質なエピタキシャルSi層が形成されている事が明らかとなった。
【0077】
(c)XTEMによるエピタキシャルSi膜の観察
前述のREDでは、エピタキシャルSi膜内に存在する転位等の欠陥を評価できないため、さらに、作製したエピタキシャルSiウェハから、各々が1cm離れた任意の3点をサンプリングし、XTEM観察を行った。XTEM観察により得られた明視野像を図21に示す。同図の結果より、透過試料の厚さ等や弾性変形に依存した干渉縞以外には、エピタキシャルSi膜中に、欠陥や界面に起因する明瞭なコントラストの強弱は現れていない。このことから、ウェハ全面で、基板温度600℃においても、欠陥を含まないエピタキシャルSi層の形成が、約200nm/min以上の成長速度で可能であることがわかる。ここで、基板とエピタキシャル層の区別は非常に困難であるが、図中のエピタキシャル層の厚さを示す指標は、成膜後の基板の質量増分から算出された平均膜厚を参考にして記入している。
【0078】
(d)エピタキシャルSi膜の表面マイクロラフネス
次に、得られたエピタキシャルSi膜表面のマイクロラフネスを評価するため、AFMによる観察を行った。その結果を図22に示す。同図の結果より、作製されたエピタキシャルSi膜の表面マイクロラフネスは、5μm×5μmの観察視野において、PV=0.4〜1nm以下であり、現在用いられているSiウェハ表面のマイクロラフネスに匹敵する、極めて平坦な表面が形成されていることがわかった。
【0079】
(e)エピタキシャル層中の不純物
作製したエピタキシャルSi膜中の不純物を、SIMSにより測定した。着目した元素は、電極の構成部材であるC、脱ガス後の拡散電極のTDS測定において顕著に観察されたm/e=28の候補であるN、さらに水に起因するOである。SIMSにより測定されたエピタキシャルSi層中の不純物のデプスプロファイルを、図23のグラフに示す。一次イオンには、Cs+を10kVの加速電圧で用いた。同図より、エピタキシャルSi膜中には6×1016atoms/ccの酸素、8×1015atoms/ccの炭素、5×1014atoms/ccの窒素が含有されていることが分かった。なお、本測定に用いたSIMSの検出限界は、Cが7×1015atoms/cm3、Oが5×1016atoms/cm3、Nが5×1014atoms/cm3である。ここで、同図には、表面より1.1μmの深さで、基板に用いたSiの濃度プロファイルが現れており、CおよびNに関しては、用いた基板と同程度の濃度であり、O濃度に関しては、用いたSi基板の1/20まで低減されていることが分かった。特に着目すべき点は、チャンバーの背圧が5×10-7Torrであり、超高真空という背圧に達していないにも拘わらず、600℃にてエピタキシャル層が形成され、さらにはエピタキシャルSi層中に含有される酸素濃度が低く、エピタキシャルSi層と基板界面付近でのC、N、Oの濃度の上昇が見られなかったことである。このことから、5×10-7Torr程度の高真空中でウェハ表面を終端しているH2が脱離する温度(320〜420℃)以上に基板を加熱しても、拡散電極により常に超高純度のガスをウェハ表面へ直接供給することで、チャンバー内に残留する不純物の基板表面への付着を防止できることが明らかになった。
【0080】
このように、拡散電極を用いた大気圧プラズマCVDを実施することにより、低温エピタキシャル成長に必要なチャンバー背圧が低減されるため、装置構成そのものを簡便・廉価にし、エピタキシャルSiウェハ製造プロセスのさらなる低コスト化が実現可能となる。
【0081】
また、金属元素に関して、TREX(全反射蛍光X線)を用いて表面濃度を測定した。作製したエピタキシャルSiウェハ表面には、30点の測定点中4点で、SUS由来成分であるFeが1012atoms/cm2、Crが1011atoms/cm2、Niが1010atoms/cm2のオーダーで検出された。これは、成膜チャンバーの構成部材自体がSUSであること、さらには、拡散電極の放熱部材にSUSを用いたこと等に起因すると考えられ、多孔質カーボンに起因した汚染では無いと考えられる。
【0082】
TREXにより、チャンバーから取り出したウェハ上には、若干の金属汚染が観察された。しかしながら、TREXでは、ウェハ最上面の金属汚染を測定するのみであり、成膜中の拡散電極に由来した金属汚染を診断することは困難である。そこで、SIMSにより、膜中の金属元素に関して詳細に調べた。着目した金属は、Fe、Ni、Cr等のSUS由来の元素(チャンバー構成部材)、および、Al、Cu(電力導入配線およびチャンバー内部品の部材)である。なお、SIMSの結果より、約1.2μmの厚みでエピタキシャル成長していることが分かった。金属不純物の深さ方向プロファイルを図24に示す。図24に示すように、いずれの金属成分も、ほぼ測定機の検出下限のレベルであった。これは、エピタキシャルSi層中の金属濃度が、エピタキシャル成長に用いたSi基板中の金属濃度と同レベルであることから明らかである。つまり、この結果から、本発明の拡散電極を用いた成膜中には、著しい金属汚染は生じないものと考えることができる。
【0083】
さらに、基板中にドープされたボロン(B)が、エピタキシャルSi層中にどの程度拡散しているかをSIMSにより調べた。この結果を図25に示す。ここで、市販のエピタキシャルウェハは、ハイドープSi基板上にロードープエピタキシャルSi層を積層させた構造が頻繁に用いられる。このため、成膜中の基板温度が高ければ、当然ハイドープされた基板側から、エピタキシャルSi層中へ、ドーパント元素が激しく拡散し、また、比較的低温であっても、成膜速度が非常に遅ければ、所定の膜厚を得るのに多大な時間を費やすこととなり、やはり、基板からのエピタキシャル層中への拡散が顕著になる。この様な背景から、従来技術を用いた場合、界面付近のドーパントプロファイルを著しくだれさせてしまう問題点がある。図25に示すように、本成膜法で作製した場合、B濃度は、基板との界面近傍で急峻な立ち上がりを見せており、基板中のB濃度5×1018atoms/ccから5×1015atoms/ccにまでボロン濃度が低下する遷移層幅は、測定限界(Ar+エッチングによるだれで決まる)の70nm以下であることが分かった。一般的に、900℃の熱CVDで成膜された実用レベルのエピタキシャルSiウェハでは、ボロン濃度が3桁変化する遷移幅が100nm程度と報告されており、本成膜法により得られた値は、この値を下回っていることから、低温エピタキシャル成長の実現が裏付けられたといえる。これは、ウェハ表面での大気圧プラズマの生成により基板温度が上昇してエピタキシャル成長が生じたのではなく、真に、低基板温度でのエピタキシャル成長が実現できたことを示している。以上の結果から、大気圧プラズマCVDにより実用的な成膜速度にて低温エピタキシャル成長が行われたことを実証できた。
【0084】
また、以上の結果から、金属汚染フリーのエピタキシャルSi層を形成するためには、例えば、(1)放熱部材として、非金属系の熱伝導の良好な材料を使用する、(2)温度上昇する成膜部付近には金属部材を使用しない、(3)チャンバー壁面から発生する金属パーティクルがウェハ表面に付着しない様に、石英カバー等を成膜部およびウェハの通過経路に設ける、(4)大気圧プロセスという特長を生かし、ガスの流れを積極的に制御することで、ウェハ表面へ塵埃が付着しない様にする、(5)プロセス雰囲気中へのガス導入・排気に際しては、急激な圧力変動を極力避ける、ということも望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
このように、本発明によれば、低温条件下(例えば、600℃以下)であっても、均一性に優れたエピタキシャルSi膜を高速に製造方法することができる。このように低温での優れたエピタキシャル膜の形成を可能にしたことから、例えば、Siウェハの製造のみならず、デバイス製造の中間工程に組み入れて、デバイスのさらなる改変にエピタキシャル成長を利用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明のプラズマ処理装置のその他の例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の実施例における多孔質体の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4(a)は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真であり、図4(b)は、前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真であり、図5(b)は、前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の前記実施例において成膜処理に使用した後の電極の断面を示す写真である。
【図7】図7は、本発明の前記実施例において成膜処理に使用した後の電極表面の写真であり、同図(a)は、ガスが供給される側の電極表面、同図(b)は、プラズマが発生する側の電極表面をそれぞれ示す。
【図8】図8は、本発明の他の実施例において使用した放熱部材の形状を示す図面である。
【図9】図9は、本発明の他の実施例において使用した放熱部材の形状を示す図面である。
【図10】図10は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜の外観写真および前記Si膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明の他の実施例において、予想されるSi膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明の他の実施例における、電極基板間の距離と成膜速度との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明の他の実施例における、He流量と成膜速度との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明の他の実施例において成膜処理に使用した電極に関するTDSの結果を示すグラフである。
【図16】図16は、前記実施例において成膜処理に使用した電極に関するTDSの結果を示すグラフである。
【図17】図17は、本発明の他の実施例において成膜したSi膜のIR吸収スペクトルを示すスペクトグラムであり、同図(a)は、脱ガス未処理の電極を使用して形成したSi膜の結果であり、同図(b)は、脱ガス処理済みの電極を使用して形成したSi膜の結果である。
【図18】図18は、本発明の他の実施例において、成膜処理に使用した電極の断面写真であり、同図(a)は、クリーニング処理前の結果であり、同図(b)は、クリーニング処理後の結果である。
【図19】図19は、本発明の他の実施例で成膜したSiウェハの外観写真であって、同図(a)は、蛍光灯下での結果であり、同図(b)は、ハロゲンランプ下での結果である。
【図20】図20は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのRED像である。
【図21】図21は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのXTEM観察による明視野像である。
【図22】図22は、本発明の前記実施例におけるSiウェハのAFM像である。
【図23】図23は、本発明の前記実施例におけるSiウェハに関する、不純物濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図24】図24は、本発明の前記実施例のSi膜における、金属不純物の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図25】図25は、本発明の前記実施例のSi膜における、ボロン濃度の深さ方向プロファイルを示すグラフである。
【図26】図26は、本発明のプラズマ処理装置のさらにその他の例を示す断面図である。
【図27】図27は、従来のプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【図28】図28は、従来のプラズマ処理装置のその他の例を示す断面図である
【図29】図29は、従来のプラズマ処理装置のその他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
11 電極
12 放熱板
13 支持部材
14 基板
15 プラズマ
16 ガス供給口
17 上部
18 ガス供給室
20 回転ホルダー
100 プラズマ処理装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法であって、
前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、
前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、
前記電極における前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、
前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、
前記多孔質体である電極の孔を通じて、ガスを、前記電極と基板との間に導入することを特徴とするエピタキシャルSi膜の製造方法。
【請求項2】
前記電極の単位体積(cm3)あたりの不純物放出量が、2.52×10-4Torrl/sec・cc未満である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、エピタキシャルSi膜の成膜に先立って、前記電極からガス成分を除去する脱ガス工程を含み、
前記脱ガス工程が、前記基板の温度を、エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の温度よりも高い温度に設定し、プラズマ生起ガスを、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と基板との間に導入し、前記電極と基板との間にプラズマを発生させる工程である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の温度が、850℃以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱ガス工程における基板の温度が、600〜1050℃の範囲である、請求項3または4記載の製造方法。
【請求項6】
前記電極における前記基板との対向面を、前記基板における前記電極との対向面よりも大きく設定する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基板を、その面方向において回転もしくは揺動させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
導入するガスが、原料ガスとキャリアガスの混合ガスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料ガスが、SiH4、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3ClおよびSi2H6、これらとH2との混合ガス、ならびに、これらとH2およびCl2との混合ガスからなる群から選択された少なくとも一つのガスである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記キャリアガスが、He、ArおよびH2からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項8または9記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合ガスにおけるキャリアガスと原料ガスとの割合が、10,000:1〜10:1の範囲である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記脱ガス工程におけるプラズマ生起ガスが、He、ArおよびH2からなる群から選択された少なくとも一つを含む、請求項3記載の製造方法。
【請求項13】
前記放熱板が、焼結グラファイト、ボロンナイトライド、アルミナ、Si、冷却された非磁性金属、窒化アルミおよびガラス状カーボンからなる群から選択された少なくとも一つの材料から形成された放熱板である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記電極に投入する電力の周波数が、10〜300MHzである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
電極と、基板の支持部材とが対向して配置され、前記電極と前記支持部材上の基板との間にプラズマを発生させて、前記基板表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、
前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、
前記電極における前記処理支持部材との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、
前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、
前記ガスが、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と前記支持部材上の基板との間に導入されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記支持部材が、ヒーターを備える、請求項15記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
ガス供給室を有し、前記ガス供給室の底部が前記電極であり、前記電極上に前記放熱板が配置され、前記ガス供給室の壁部であって前記放熱板の露出表面よりも上部にガス導入口が設けられている、請求項15または16記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
大気圧下、電極と基板との間にプラズマを発生させ、前記基板表面に、エピタキシャルSi膜を成膜するエピタキシャルSi膜の製造方法であって、
前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、
前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、
前記電極における前記基板との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、
前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、
前記多孔質体である電極の孔を通じて、ガスを、前記電極と基板との間に導入することを特徴とするエピタキシャルSi膜の製造方法。
【請求項2】
前記電極の単位体積(cm3)あたりの不純物放出量が、2.52×10-4Torrl/sec・cc未満である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、エピタキシャルSi膜の成膜に先立って、前記電極からガス成分を除去する脱ガス工程を含み、
前記脱ガス工程が、前記基板の温度を、エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の温度よりも高い温度に設定し、プラズマ生起ガスを、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と基板との間に導入し、前記電極と基板との間にプラズマを発生させる工程である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
エピタキシャルSi膜の成膜時における基板の温度が、850℃以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱ガス工程における基板の温度が、600〜1050℃の範囲である、請求項3または4記載の製造方法。
【請求項6】
前記電極における前記基板との対向面を、前記基板における前記電極との対向面よりも大きく設定する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基板を、その面方向において回転もしくは揺動させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
導入するガスが、原料ガスとキャリアガスの混合ガスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料ガスが、SiH4、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3ClおよびSi2H6、これらとH2との混合ガス、ならびに、これらとH2およびCl2との混合ガスからなる群から選択された少なくとも一つのガスである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記キャリアガスが、He、ArおよびH2からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項8または9記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合ガスにおけるキャリアガスと原料ガスとの割合が、10,000:1〜10:1の範囲である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記脱ガス工程におけるプラズマ生起ガスが、He、ArおよびH2からなる群から選択された少なくとも一つを含む、請求項3記載の製造方法。
【請求項13】
前記放熱板が、焼結グラファイト、ボロンナイトライド、アルミナ、Si、冷却された非磁性金属、窒化アルミおよびガラス状カーボンからなる群から選択された少なくとも一つの材料から形成された放熱板である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記電極に投入する電力の周波数が、10〜300MHzである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
電極と、基板の支持部材とが対向して配置され、前記電極と前記支持部材上の基板との間にプラズマを発生させて、前記基板表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
前記電極が、平均孔径5〜30μm、厚み10mm未満の、炭化ケイ素および炭素の少なくとも一方からなる多孔質体であり、
前記電極表面が、厚み20nm以上のSi膜で被覆されており、
前記電極における前記処理支持部材との対向面とは反対の表面上に、前記Si膜を介して放熱板が配置されており、
前記電極と前記基板との間の距離が、前記電極に投入する電力の周波数が10〜300MHzの場合、0.25mm〜2.5mmの範囲であり、
前記ガスが、前記多孔質体である電極の孔を通じて、前記電極と前記支持部材上の基板との間に導入されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記支持部材が、ヒーターを備える、請求項15記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
ガス供給室を有し、前記ガス供給室の底部が前記電極であり、前記電極上に前記放熱板が配置され、前記ガス供給室の壁部であって前記放熱板の露出表面よりも上部にガス導入口が設けられている、請求項15または16記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
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【図18】
【図19】
【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2007−129009(P2007−129009A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319273(P2005−319273)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
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