説明

エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】 耐湿信頼性、高温保管性に優れた半導体装置を与える半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、及び(E)金属化合物添着活性炭を必須成分として含み、前記(E)金属化合物添着活性炭が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及び好ましくは、前記(E)金属化合物添着活性炭の金属添着量が0.2重量%以上、1重量%以下である半導体封止用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及び半導体装置に関するものである。例えば、高い耐湿信頼性や高温保管性が求められる車載用等屋外使用機器に使用される半導体装置に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体装置は、耐熱性・耐湿信頼性に優れたエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤、溶融シリカ、結晶シリカ等の無機充填材を配合したエポキシ樹脂組成物を用いて封止されている。ところが近年、集積回路の高集積化に伴い半導体素子が大型化し、かつ半導体装置はTSOP、TQFP、BGA等の表面実装型に変わってきており、半田をリフローする際の熱応力は従来よりも厳しくなっている。表面実装型半導体装置では、実装時の熱応力により半導体装置のクラック、半導体素子やその他の構成部材とエポキシ樹脂組成物の硬化物との界面での剥離と言った問題が生じ易く、耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物が強く求められてきた。そのため、これら表面実装型半導体装置に使用されるエポキシ樹脂組成物として、従来のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂に加え、より強靱性が得られるビフェニル型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂や低吸湿性のジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の低分子量で官能基の少ないエポキシ樹脂が使用されるようになってきた。
【0003】
一方、半導体装置は自動車等屋外使用機器においても多数搭載されるようになってきており、屋内機器で用いられた場合より一層厳しい環境に耐える信頼性を要求される様になっている。高温又は多湿下ではエポキシ樹脂組成物に含まれる塩素イオン等のイオン性不純物が動きやすくなる影響により半導体回路の腐食が進み易く、従来の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、車載用途での必須要求項目である耐湿信頼性及び150℃程度の高温雰囲気下でも半導体装置がその機能を維持できる保存信頼性(以下、高温保管性という)に難点があった。これら耐湿信頼性や高温保管性の不良原因となるエポキシ樹脂組成物に含まれるイオン性不純物を捕捉するために、Bi系無機化合物を含んだイオン捕捉剤を配合する提案がなされているが(例えば、特許文献1参照。)、Bi系無機化合物の添加量が多い場合には耐湿信頼性や高温保管性の両立が必ずしも充分でなかった。また、他のイオン捕捉剤として、ハイドロタルサイト類化合物を用いて陰イオン性不純物を捕捉する提案もなされているが(例えば、特許文献2、3参照。)、これを配合したエポキシ樹脂組成物は高温保管性の向上は認められるものの、ハイドロタルサイト類化合物がイオン性不純物を十分に捕捉することができないため、十分な耐湿信頼性向上の効果が得られなかった。
【特許文献1】特開平11−240937号公報(第2〜11頁)
【特許文献2】特開平09−157497号公報(第2〜6頁)
【特許文献3】特開平09−169830号公報(第2〜6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐湿信頼性、高温保管性に優れた半導体装置を与える半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いた半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
[1] (A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、及び(E)金属化合物添着活性炭を必須成分として含み、前記(E)金属化合物添着活性炭が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[2] 前記(E)金属化合物添着活性炭の金属添着量が0.2重量%以上、1重量%以下である第[1]項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[3] 第[1]又は[2]項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止すると、耐半田性等の必要特性を損なうことなく、従来技術では両立が困難であった耐湿信頼性と高温保管性が共に優れている半導体装置を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、及び(E)金属化合物添着活性炭を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより、耐湿信頼性、高温保管性が共に優れた半導体装置が得られるものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明に用いる(A)エポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、及びポリマー全般を指し、特に限定するものではないが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0009】
本発明に用いる(B)フェノール樹脂としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、及びポリマー全般を指し、特に限定するものではないが、例えば、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
配合量としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数との当量比で0.9以上、1.2以下が好ましい。
【0010】
本発明に用いる(C)硬化促進剤としては、エポキシ基とフェノール性水酸基との硬化反応を促進させるものであればよく、一般に封止材料に使用されているものを広く使用することができる。例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、2−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート塩等が挙げられるが、これらに限定するものではない。硬化促進剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0011】
本発明に用いる無機充填材(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ、多孔質シリカ、2次凝集シリカ又は多孔質シリカを粉砕したシリカ、アルミナ、窒化珪素等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。特に溶融シリカ、結晶シリカが好ましい。又、無機充填材の形状としては、破砕状でも球状でもかまわないが、流動特性、機械強度及び熱的特性のバランスの点から球状溶融シリカが好ましい。更に、カップリング剤等で予め表面処理をしたものを用いても差し支えない。
無機充填材の配合量としては、成形性と信頼性のバランスから、全エポキシ樹脂組成物中に70重量%以上、95重量%以下が好ましい。
【0012】
本発明に用いられる(E)金属化合物添着活性炭は、多孔質性の活性炭内部に金属化合物を添着させたもので、無機イオン、水、低分子有機化合物を吸着することができるため、イオン捕捉剤として作用するものである。活性炭は吸着性能を有していれば特に限定しないが、例えば植物系、石油系、石炭系のものが挙げられる。添着する金属化合物はエポキシ樹脂から生じるイオン性不純物と結合し水に難溶性の塩を生じる金属元素を含むものが望ましい。このような例としては、エポキシ樹脂から加水分解により生じる塩素イオンと水に難溶性の塩を生じる銀の無機塩、ビスマス系無機化合物等が挙げられる。活性炭は極めて大きな活性表面を持つため、表面にエポキシ樹脂組成物の硬化物中のイオン性不純物を吸着することができる。さらに活性炭に添着している金属化合物とイオン性不純物とが水に難溶性の塩を形成することで、金属化合物添着活性炭の内部にイオン性不純物を再放出しないように固定することができるので、金属化合物添着活性炭は耐湿信頼性、高温保管性の向上に寄与することができるものと推察される。
本発明の(E)金属化合物添着活性炭の金属添着量としては、特に限定するものではないが、耐半田性と耐湿信頼性、高温保管性とのバランスの観点から、0.2重量%以上、1重量%以下であることが好ましい。
本発明の(E)金属化合物添着活性炭の配合量としては、全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下が好ましく、0.05重量%以上、4重量%以下がより好ましい。上記下限値を下回ると、イオン捕捉効果が小さく耐湿信頼性の向上効果が不充分となる恐れがある。上記上限値を越えると、吸湿率が大きくなり、耐半田クラック性が低下する恐れがある。耐湿信頼性、高温保管性を維持できる範囲であれば金属化合物添着活性炭以外のイオン捕捉剤を併用しても良い。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(E)成分の他、必要に応じてシランカップリング剤等のカップリング剤、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼン等の難燃剤、シリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤、等の種々の添加剤を適宜配合しても差し支えない。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(E)成分、及びその他の添加剤等を、ミキサー等を用いて充分に均一に常温混合した後、更に熱ロール又はニーダー等で溶融混練し、冷却後粉砕して得られる。これらのエポキシ樹脂組成物は、電気部品あるいは電子部品であるトランジスタ、集積回路等の被覆、絶縁、封止等に適用することができる。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子等の電子部品を封止し、半導体装置を製造するには、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の成形方法で成形硬化すればよい。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は重量部とする。
なお、実施例、及び比較例で用いたエポキシ樹脂、フェノール樹脂の略号及び構造、イオン捕捉剤の内容を以下にまとめて示す。
エポキシ樹脂(E−1):オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN1020、軟化点55℃、エポキシ当量196)
エポキシ樹脂(E−2):ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−4000、エポキシ当量190、融点105℃)
フェノール樹脂(H−1):フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト(株)製、PR−HF−3軟化点80℃、水酸基当量104
フェノール樹脂(H−2):フェノールアラルキル型フェノール樹脂(三井化学(株)製、XLC−4L、水酸基当量168、軟化点62℃)
イオン捕捉剤(IC−1):金属化合物添着活性炭:銀添着炭、粒度100mesh、銀添着量0.5重量%。(クラレケミカル(株)製、クラレコールT−S)
イオン捕捉剤(IC−2):BiO1.0(OH)0.7(NO30.3 (東亞合成(株)製、IXE−500)
イオン捕捉剤(IC−3):ハイドロタルサイト系化合物(協和化学工業(株)製、DHT−4H)
【0017】
実施例1
エポキシ樹脂(E−1) 12.76重量部
フェノール樹脂(H−1) 6.69重量部
トリフェニルホスフィン(以下、TPPという) 0.40重量部
溶融球状シリカ(平均粒径26.5μm) 65.00重量部
イオン捕捉剤(IC−1) 3.50重量部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、エポキシシランという)
0.20重量部
カーボンブラック 0.30重量部
カルナバワックス 0.40重量部
水酸化アルミニウム(平均粒径4.3μm) 10.00重量部
を常温でミキサーを用いて混合し、70〜100℃でロール混練し、冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0018】
吸湿率:低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒で、直径50mm、厚さ3mmの円盤状試験片を成形した。ポストキュアとして175℃で8時間処理した。試験片の吸湿処理前の重量と、85℃、相対湿度85%の環境下で168時間処理した後の重量を測定し、試験片の吸湿率を百分率で示した。単位は重量%。
【0019】
耐半田性:低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒で、80pQFP(厚さ2.0mm、チップサイズ6.0mm×6.0mm)を成形した。ポストキュアとして175℃で8時間加熱処理したパッケージ6個を、85℃、相対湿度60%の環境下で168時間加湿処理した後、IRリフロー処理(220℃)を行った。処理後の内部の剥離又はクラックの有無を超音波探傷装置で観察し、不良パッケージの個数を数えた。不良パッケージの個数がn個であるとき、n/6と表示する。
【0020】
高温保管特性:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力6.9MPa、硬化時間120秒で、16pDIP(チップサイズ3.0mm×3.5mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間加熱処理した後、高温保管試験(185℃、1000時間)を行い、配線間の電気抵抗値が初期値に対し20%増加したパッケージを不良と判定した。15個のパッケージ中の不良個数を示す。
【0021】
耐湿信頼性:低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒で、16pDIP(チップサイズ3.0mm×3.5mm)を成形し、ポストキュアとして175℃で8時間加熱処理した後、プレッシャークッカー試験(125℃、圧力2.2×105Pa、500時間)を行い、回路のオープン不良を測定した。15個のパッケージ中の不良個数を示す。
【0022】
実施例2〜6、比較例1〜6
表1、表2に従って配合し、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得、実施例1と同様にして評価した。結果を表1、表2に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる半導体装置は、耐湿信頼性、高温保管性が共に優れたものとなる。従って、信頼性が要求される半導体装置用、とりわけ車載用等屋外使用機器に使用される半導体装置用として好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、及び(E)金属化合物添着活性炭を必須成分として含み、前記(E)金属化合物添着活性炭が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)金属化合物添着活性炭の金属添着量が0.2重量%以上、1重量%以下である請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2006−206749(P2006−206749A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21018(P2005−21018)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】