説明

カーボンロール及びその製造方法

【課題】 軽量性等のカーボンロールの利点を維持しつつ、高い耐摩耗性や耐衝撃性を有し、しかもカーボンロール本体と被覆層との密着性に優れたカーボンロール及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤を含む接着剤層が形成され、該接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛からなるアンダーコート層が被覆され、該アンダーコート層の表面にセラミックス、サーメット又は金属からなる被覆層が設けられていることを特徴とするカーボンロール及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンロール及びその製造方法に関し、詳しくはサーマルクラウンの発生を抑制でき、耐摩耗性、耐衝撃性に優れると共に、カーボンロール本体とセラミックス又はサーメットからなる被覆層との密着性に優れたカーボンロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールは、搬送用、通電用、押さえ用、冷却用等の種々の分野に使用されている。このロールの材質としては、目的に応じて金属、溶融シリカ、カーボン、ゴム等が用いられている。
【0003】
近年、産業機械において、処理の高速化が要求され、印刷やフィルムでも高速化が求められている。これらの高速化には、素材を軽量化することが重要であり、ロールにも軽量化が求められている。
【0004】
ロールを軽量化するためには、一般にカーボンロールが用いられる。カーボンロールは、炭素繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をロール状に巻き付け、硬化させたものである。このカーボンロールは、軽量であるのみならず、高強度、高剛性、高熱伝導率、低熱膨張という優れた特性を有し、また熱容量が低減され、かつ変形が少ないといった利点を有する。
【0005】
しかし、カーボンロールは、変形が少なく形状安定性に優れるものの、柔らかいため傷が付きやすく、耐摩耗性に劣ったものであった。従って、カーボンロール表面を処理することによって、この問題を解決しようとする試みが種々なされている。
【0006】
特許文献1(特開2002−285229号公報)には、耐酸化性炭素質材料又は耐酸化保護層を有する炭素質材料からなる円筒体を、カーボン芯に密着するように挿入した後、該円筒体を該カーボン芯の所定の位置に固定する固定用冶具が、カーボン芯の両端部に嵌挿されてなる搬送用ロールにより、耐摩耗性等を向上させることが記載されている。また、特許文献2(特開平7−309495号公報)には、カーボンロール本体の表面に、メッキ法によって得られ、所望によりフッ素系樹脂で被覆した電鋳パイプを密着させた表面性金属カーボンロールによって、導電性があり、非粘着性に優れたロールが得られるとされている。
【0007】
これら特許文献1及び2に記載されているカーボンロールは、カーボンロール本体に炭素質材料又は金属からなる円筒体又はパイプを嵌挿するものであるが、本体と円筒体又はパイプの間が密接せずに、部分的に空隙が生じるといった問題が生じる。
【0008】
一方、特許文献3(特開平7−268489号公報)及び特許文献4(特開平8−218115公報)には、カーボンロール本体(胴長部)の上に金属層を設け、その上にセラミックス又はサーメットを溶射することにより、耐摩耗性や耐衝撃性等を向上させたカーボンロールの製造方法が記載されている。
【0009】
しかし、特許文献3及び4に記載されているように、セラミックスやサーメットを溶射した場合には、カーボンロール本体との間に金属層を介しても、カーボンロールと被覆層との密着性に劣るものであり、経時においてカーボンロール本体と被覆層との間でスリップや摩擦、あるいは剥離が発生し、ロール形状を維持するのが困難であった。
【0010】
また、特許文献5(特開2001−270015号公報)及び特許文献6(特開2001−240953号公報)には、繊維強化プラスチック基材の表面に、その基材構成成分である樹脂と同種の樹脂及びセラミックス粒子の混合物からなる中間層を介し、トップコートとして炭化物サーメットや酸化物セラミックス又はそのサーメットからなる溶射被覆層を形成してなるプラスチック基複合材料が記載されており、これらのプラスチック基複合材料は、耐摩耗性や絶縁特性等の表面特性を改善すると記載されている。
【0011】
しかし、特許文献4及び5に記載のプラスチック基複合材料では、中間層に用いられる同種の樹脂材料の耐熱性が密着性に大きく影響する。例えばエポキシ樹脂の耐熱性は200℃が限度であるが、プラズマ溶射による酸化セラミックス、例えばアルミナ粒子は少なくとも母材に衝突する瞬間まで溶融している。この温度は2000℃以上になっている。このような状態でトップコートを溶射した場合には、中間層の樹脂がダメージを受けるためにトップコートとの密着性に劣ったものとなる。
【0012】
【特許文献1】特開2002−285229号公報
【特許文献2】特開平7−309495号公報
【特許文献3】特開平7−268489号公報
【特許文献4】特開平8−218115公報
【特許文献5】特開2001−270015号公報
【特許文献6】特開2001−240953号公報
【0013】
このように、要求される諸特性を具備し、しかもカーボンロール本体と被覆層との密着性を向上させたカーボンロール及びその製造方法は得られてない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、軽量性等のカーボンロールの利点を維持しつつ、高い耐摩耗性や耐衝撃性を有し、しかもカーボンロール本体と被覆層との密着性に優れたカーボンロール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、検討の結果、カーボンロール本体の外周面に、粗面形成剤を含む接着剤層を形成した後、該接着剤層と被覆層の間にアルミニウム−亜鉛からなるアンダーコート層を設けることによって、上記課題が解消され、本発明の目的が達成し得ることを知見した。
【0016】
すなわち、本発明に係るカーボンロールは、胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤を含む接着剤層が形成され、該接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛疑合金からなるアンダーコート層が被覆され、該アンダーコート層の表面にセラミックス、サーメット又は金属からなる被覆層が設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、上記アンダーコート層と被覆層の間に、アルミニウム又はアルミニウム−ケイ素からなる補助アンダーコート層が設けられていることが望ましい。
【0018】
また、本発明に係る上記カーボンロールでは、上記接着剤層を構成する接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であることが望ましい。
【0019】
また、本発明に係る上記カーボンロールでは、上記粗面形成剤がセラミックス材であり、その長軸径が5〜200μmであることが望ましい。
【0020】
また、本発明に係る上記カーボンロールでは、上記アンダーコート層の厚みが50〜300μmであることが望ましい。
【0021】
本発明に係る上記カーボンロールでは、上記セラミックスが、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウムから選択され、上記サーメットが、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロムから選択され、上記金属が、アルミニウム、アルミニウム/ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等から選択されることがそれぞれ望ましい。
【0022】
本発明に係るカーボンロールの製造方法は、胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤を含む接着剤を塗布して接着剤層を形成し、該接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛の疑合金を用いたアーク溶射によりアンダーコート層を被覆し、該アンダーコート層の表面に溶射によりセラミックス、サーメット又は金属からなる被覆層を設けることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る製造方法では、上記アンダーコート層を被覆した後、アルミニウム又はアルミニウム−ケイ素を用いたアーク溶射により補助アンダーコート層を被覆することが望ましい。
【0024】
また、本発明に係る上記製造方法では、上記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であることが望ましい。
【0025】
本発明に係る上記製造方法では、上記粗面形成剤がセラミック材であり、その長軸径が5〜200μmであることが望ましい。
【0026】
本発明に係る製造方法では、上記アルミニウム−亜鉛の疑合金を用いたアーク溶射が16〜22Vで行われることが望ましい。
【0027】
本発明に係る上記製造方法では、上記セラミックスが、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウムから選択され、上記溶射がプラズマ溶射であり、上記サーメットが、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロムから選択され、上記溶射がHVOF溶射、HP/HVOF溶射又はHVAF溶射であり、上記金属が、アルミニウム、アルミニウム−ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等から選択され、上記溶射がアーク/プラズマ溶射、コールドスプレー溶射であることがそれぞれ望ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るカーボンロールは、軽量、高強度、高剛性、高熱伝導率等のカーボンロールの利点を維持しており、またセラミックス又はサーメットからなる被覆層を有することから耐摩耗性や耐衝撃性に優れる。しかも、カーボンロール本体と被覆層の間に特定の接着剤層と金属からなるアンダーコート層を有することからカーボンロールと被覆層との密着性が良好であり、これに起因するスリップや摩擦、あるいは剥離の発生が著しく抑制される。また、本発明の製造方法によって、上記カーボンロールが工業的規模で経済性をもって製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
<本発明に係るカーボンロール>
まず、本発明に係るカーボンロールについて説明する。
【0030】
本発明に係るカーボンロールは、胴部がカーボンで形成されたロール(カーボンロール本体)の外周面に、粗面形成剤を含む接着剤層が形成される。
【0031】
本発明において用いられるカーボンロールは、主に軽量化を意図して使用されるものであり、その胴部の材質としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、炭素繊維強化炭素(C/Cコンポジット)等が用いられる。
【0032】
このカーボンロール本体の外周面に形成される接着剤層は、熱硬化性樹脂系接着剤、好ましくはエポキシ樹脂系接着剤により形成される。この接着剤層の厚みは20〜50μm、塗布量は40〜100g/mである。特に、熱硬化性樹脂系接着剤として、カーボンロールの本体であるカーボン素材を固定している熱硬化性樹脂と同一の樹脂を用いると、カーボンロール本体と接着剤層とがほぼ同一の強度が得られる。
【0033】
この接着剤層には、粗面形成剤を含む。粗面形成剤としては、セラミックス材が好ましく、具体的にはアルミナ粒子等が用いられる。粗面形成剤の形状は任意であり、例えば紡錘状、針状、球状、不定形状であり、その長軸径が5〜200μmのものが望ましい。
【0034】
このような粗面形成剤を含む接着剤層、例えばアルミナ粒子を含むエポキシ樹脂系接着剤層は、基材に直接ブラスト処理できない場合に有効である。この接着剤層は、粗面形成剤の存在により、ブラスト処理のように表面が凹凸となりアンカー効果が期待できる。ブラスト処理がカーボン表面を破壊し、減肉し、特性低下を招くのに対し、この接着剤層の存在はこのような欠点を解消することができる。
【0035】
本発明に係るカーボンロールでは、上記接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛疑合金からなるアンダーコート層が形成される。このアンダーコート層の厚さは50〜300μmが適当である。上述したように、熱硬化性樹脂系接着剤の耐熱性は数百℃が限度であるが、被覆層を形成するセラミックス、サーメット又は酸化物は溶射時において、上記耐熱性温度をはるかに超えた温度となっている。このような状態で溶射して被覆層を形成した場合には、接着剤層の樹脂がダメージを受けるために被覆層やカーボンロール本体との密着性の劣ったものとなる。そこで、本発明では、アンダーコート層を設け、接着剤層の樹脂のダメージを緩和するのである。
【0036】
本発明に係るカーボンロールでは、上記アンダーコート層の表面に被覆層が設けられている。被覆層としては、セラミックス、サーメット又は金属で形成され、100〜1000μmの厚みを有することが望ましい。
【0037】
好ましいセラミックスとしては、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。好ましいサーメットとしては、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロム等が挙げられる。好ましい金属としては、アルミニウム、アルミニウム/ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等が挙げられる。
【0038】
本発明に係るカーボンロールでは、上記接着剤層と被覆層との間に、被覆層を形成する際の熱拡散を防止するために、アルミニウム、アルミニウム−ケイ素からなる補助アンダーコート層を設けてもよい。
【0039】
<本発明に係るカーボンロールの製造方法>
次に、本発明のカーボンロールの好ましい製造方法について説明する。
【0040】
本発明の製造方法では、胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤含む接着剤を塗布し、接着剤層を形成する。接着剤としては上記のように熱硬化性接着剤、特にエポキシ樹脂系接着剤が好ましく用いられる。また、粗面形成剤は、アルミナ粒子等のセラミックス材が好ましく、その長軸径が5〜200μmのものが望ましい。
【0041】
接着剤層を形成するための塗布手段は任意であるが、例えば圧縮空気を用いた吹き付け等が挙げられる。
【0042】
この接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛の疑合金を用いたアーク溶射によりアンダーコート層を形成する。このアンダーコート層の厚みは、上記したように、50〜300μmが好ましい。通常、アーク溶射でアルミニウムを溶射する場合には28〜30Vの直流電圧が必要であるが、アルミニウム−亜鉛の疑合金を溶射する場合には、電圧は16〜22Vで、しかも電流は100A以下と低エネルギーで溶射することができる。このため、接着剤層の樹脂に対してダメージを殆ど与えることがない。
【0043】
このアンダーコート層の表面に、セラミックス、サーメット又は金属を溶射し、好ましくは100〜1000μmの被覆層を形成する。なお、この溶射を行う際に、熱入力が大きすぎる場合には、他の低融点金属、例えばアルミニウム、アルミニウム−ケイ素等をさらにアーク溶射でアンダーコート層上に補助アンダーコート層を形成し、熱拡散させてもよい。
【0044】
被覆層を形成するセラミックスとしては、上述のように、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。溶射はプラズマ溶射が好ましく用いられる。
【0045】
被覆層を形成するサーメットとしては、上述のように、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロム等が挙げられる。溶射はHVOF溶射、HP/HVOF溶射又はHVAF溶射が好ましく用いられる。
【0046】
被覆層を形成する金属としては、上述のように、アルミニウム、アルミニウム−ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等が挙げられる。溶射はアーク/プラズマ溶射、コールドスプレー溶射が好ましく用いられる。
【0047】
このように被覆層が形成された本発明に係るカーボンロールは、表面を研削仕上げ、研磨仕上げ及び鏡面仕上げして製品とされる。このカーボンロールは、耐摩耗性や耐衝撃性に優れると共に、接着剤層とカーボンロール本体及び被覆層との密着性が良好である。
【0048】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0049】
直径140mm、長さ2700mmの円筒形カーボンロールを用い、前処理として、これをトリクロルエチレン及びホワイトガソリンで脱脂、純水に浸漬した後、超音波処理し、次いで乾燥した。
【0050】
このカーボンロールに粗面形成剤を含むエポキシ樹脂系接着剤を、高粘度用コンプレッサーで吹き付け、接着剤層を形成した。この接着剤層の厚みは30μm、塗布量は50g/mであった。その後、20℃、10時間自然乾燥した。
【0051】
エポキシ樹脂系接着剤は、エポキシ樹脂等からなる主剤とメチルエチルケトン等からなる硬化剤を4:1の重量比で混合させ、さらに粗面形成剤として酸化セラミックス(アルミナ粒子)組み合わせて調製した。アルミナ粒子の長軸径は150μmである。
【0052】
次に、接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛からなるアンダーコート層をアーク溶射によって被覆した。ここでアルミニウムと亜鉛の体積比を1:1とし、アーク溶射は溶射機器(商品名:M−9000)を用い、電圧20V、電流100A、エアー圧0.42MPaの溶射条件でアーク溶射を行った。このアンダーコート層の厚みは100μmであった。
【0053】
さらに、アンダーコート層の表面に、酸化アルミニウム−酸化ケイ素のアーク溶射を行い、補助アンダーコート層をアーク溶射で被覆した。アーク溶射は溶射機器(商品名:M−9000)を用い、電圧30V、電流100A、エアー圧0.42MPaの溶射条件でアーク溶射を行った。この補助アンダーコート層の厚みは100μmであった。
【0054】
(被覆層の形成)
次に、タングステンカーバイド・10コバルト・4クロムの溶射材を用いてHP/HVOF溶射を行い厚さ70μmの被覆層を形成した。溶射条件は、使用機器(商品名:JP−5000)を用い、燃料酸素52m/時、灯油22リットル/時、粉末供給量98g/分、ガス供給量10.8リットル/分、バレル4インチ、である。
【0055】
その後、被覆層にダイヤモンド研磨を施し、最後にラップして表面をRa=0.03に仕上げを行って、厚さ50μmの試験材を作製した。
【0056】
鋼球を磨耗対象とし、往復磨耗試験機を使用し、2500mm/minの摺動速度、荷重10Nにて1000Mまでの磨耗試験を行った。その結果、磨耗量は、2.5mgであった。
【0057】
(比較例1)
アンダーコート層及びアンダーコート層を用いない以外は、実施例1と同様にして試験材を作製した。実施例1と同様に磨耗試験を行ったところ、磨耗量は実施例1と同様であったが、鋼球が擦れたところの被覆層に膨れが生じた。これはアンダーコート層や補助アンダーコート層を持たないため、接着剤層の熱硬化性樹脂の劣化によって被覆層の密着力が低下したものと推察される。
【0058】
(比較例2)
実施例2で用いたカーボンロールをそのまま試験材とした。実施例1と同様に磨耗試験を行ったところ、磨耗量30mgであった。
【実施例2】
【0059】
実施例1で用いたのと同様のカーボンロールを用い、実施例1と同様にして接着剤層、アンダーコート層及び補助アンダーコート層を形成した。さらに被覆層としてアーク溶射によって厚さ0.7mmのアルミニウムからなる被覆層を形成した。
【0060】
その後、0.5mm厚みに旋盤仕上げを行い、試験材とした。この被覆層を形成したカーボンロールにテープを接着し、この上からベアリング荷重30Nをかけロールを回転させた。30000回転後、この荷重を取り去り、テープを剥離してその表面を観察したところ、何ら損傷はみられなかった。
【0061】
(比較例3)
アンダーコート層及び補助アンダーコート層を用いない以外は、実施例2と同様にして試験材を作製した。実施例2と同様に試験を行ったところ、一部にボイドが発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上述したように、本発明に係るカーボンロールは、軽量性等のカーボンロールが有している利点を維持しつつ、被覆層を設けることにより耐摩耗性、耐衝撃性に優れ、しかもカーボンロール本体と被覆層との密着性が良好なため、剥離等が生ずる危険性が極めて少ない。また、本発明に係る製造方法によって、上記カーボンロールが工業的規模で経済性をもって製造できる。
従って、本発明に係るカーボンロール及びその製造方法は、搬送用、通電用、押さえ用、冷却用等の用途に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤を含む接着剤層が形成され、該接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛疑合金からなるアンダーコート層が被覆され、該アンダーコート層の表面にセラミックス、サーメット又は金属からなる被覆層が設けられていることを特徴とするカーボンロール。
【請求項2】
上記アンダーコート層と被覆層の間に、アルミニウム又はアルミニウム−ケイ素からなる補助アンダーコート層が設けられている請求項1記載のカーボンロール。
【請求項3】
上記接着剤層を構成する接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である請求項1又は2記載のカーボンロール。
【請求項4】
上記粗面形成剤がセラミックス材であり、その長軸径が5〜200μmである請求項1、2又は3記載のカーボンロール。
【請求項5】
上記アンダーコート層の厚みが50〜300μmである請求項1〜4いずれかに記載のカーボンロール。
【請求項6】
上記セラミックスが、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウムから選択される請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンロール。
【請求項7】
上記サーメットが、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロムから選択される請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンロール。
【請求項8】
上記金属が、アルミニウム、アルミニウム−ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等から選択される請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンロール。
【請求項9】
胴部がカーボンで形成されたロール外周面に、粗面形成剤を含む接着剤を塗布して接着剤層を形成し、該接着剤層の表面にアルミニウム−亜鉛の疑合金を用いたアーク溶射によりアンダーコート層を被覆し、該アンダーコート層の表面に溶射によりセラミックス、サーメット又は金属からなる被覆層を設けることを特徴とするカーボンロールの製造方法。
【請求項10】
上記アンダーコート層を被覆した後、アルミニウム又はアルミニウム−ケイ素を用いたアーク溶射により補助アンダーコート層を被覆する請求項9記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項11】
上記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である請求項9又は10記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項12】
上記粗面形成剤がセラミックス材であり、その長軸径が5〜200μmである請求項9、10又は11記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項13】
上記アルミニウム−亜鉛の疑合金を用いたアーク溶射が16〜22Vで行われる請求項9〜12のいずれかに記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項14】
上記セラミックスが、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−酸化チタン、酸化アルミニウム−酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウムから選択され、上記溶射がプラズマ溶射である請求項9〜13のいずれかに記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項15】
上記サーメットが、炭化タングステン/コバルト、炭化タングステン/コバルト−クロム、炭化タングステン/ニッケル−クロム、炭化タングステン/ニッケル、炭化クロム/ニッケル−クロムから選択され、上記溶射がHVOF溶射、HP/HVOF溶射又はHVAF溶射である請求項9〜13のいずれかに記載のカーボンロールの製造方法。
【請求項16】
上記金属が、アルミニウム、アルミニウム−ケイ素、ステンレス、モリブデン、銅、ニッケル系超合金(ハステロイ、インコネル)等から選択され、上記溶射がアーク/プラズマ溶射、コールドスプレー溶射である請求項9〜13のいずれかに記載のカーボンロールの製造方法。

【公開番号】特開2006−150595(P2006−150595A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339947(P2004−339947)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(593029064)日本ユテク株式会社 (3)
【Fターム(参考)】