説明

ギヤボックス

【課題】ギヤボックス本体内の圧力上昇を防止して、ギヤボックスからのグリースの流出を防止し、ギヤの摩耗や焼付き等を防止して、長期間に亘って安定して使用することができるギヤボックスを提供する。
【解決手段】ギヤボックス23は、駆動軸21に固定された主動ベベルギヤ34と、主動ベベルギヤ34と噛合し出力軸38に固定された従動ベベルギヤ37と、主動ベベルギヤ34及び従動ベベルギヤ37を収容するボックス本体30と、主動ベベルギヤ34を回転自在に支持する第1転がり軸受33と、出力軸38の両端を回転自在に支持する第2及び第3転がり軸受35、36と、を備える。第1転がり軸受33は、シール無しの開放型軸受である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤボックスに関し、より詳細には、刈払機や芝刈り機等、使用時に上下方向に配置される出力軸に動力を伝達するギヤボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
刈払機は、一般に、パイプ状の操作杆内部に配設された駆動軸と、先端部に切刃が設けられた出力軸と、駆動軸と出力軸との間に配置されるベベルギヤと、を備え、駆動軸から伝達された動力によって切刃を回転駆動する(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の刈払機では、ベベルギヤを収容するギヤボックス内に封入されたグリースによってベベルギヤを支持するすべり軸受を潤滑する刈払機の軸受構造が知られている。
【0003】
また、図6に示す刈払機100のギヤボックス116では、高速回転を可能とするため、駆動軸106と共に回転する主動ベベルギヤ108、及び従動ベベルギヤ111が取り付けられる出力軸112を転がり軸受107、109、110で回転自在に支持する軸受構造が知られている。
【0004】
この刈払機100のボックス本体102は、操作杆103が嵌合する第1筒部104と、第1筒部104と一体に形成された第2筒部105とからなる。操作杆103内に配置された駆動軸106は、第1筒部104に設けられた第1転がり軸受107によって回転自在に支持されており、先端には主動ベベルギヤ108が固定されている。第2筒部105に設けられた第2及び第3転がり軸受109,110は、従動ベベルギヤ111が固定された出力軸112を上下方向に配置して回動自在に支持する。従動ベベルギヤ111は、主動ベベルギヤ108と噛合し、ボックス本体102内に封入されたグリースGによって潤滑される。第1転がり軸受107には、両側接触ゴムシール又は金属シールド板付き密封玉軸受が使用され、また、第3転がり軸受110には、両側接触ゴムシール付き密封玉軸受が使用されている。出力軸112の先端には、切刃114が取付具115によって固定される。
【特許文献1】特開2005−24009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図6に示すような刈払機100では、ボックス本体102内に、通常、ボックス本体102の空間容量の70〜100%のグリースGが封入されており、また、比較的振動が大きい図示しない2サイクルガソリンエンジン等が駆動源として主に使用され、9000min−1程度の高速で回転する。このため、主動ベベルギヤ108及び従動ベベルギヤ111には、高速回転と共に振動が作用して摩擦熱が発生し、ボックス本体102内の圧力が上昇する。
【0006】
このため、ボックス本体102内の圧力が上昇すると、グリースGが第3転がり軸受110内部に浸入し、第3転がり軸受110を含むボックス本体102内がグリースGでいっぱいになると、グリースGがボックス本体102から一度に流出する現象が発生するという問題があった。また、グリースGの攪拌による発熱でグリースGが軟化するため、グリースGは第3転がり軸受110内に浸入して外部へ流出しやすくなる。グリースGの流出は、主動ベベルギヤ108及び従動ベベルギヤ111の潤滑不良の原因となってギヤに摩耗が生じたり、極端な場合は焼付き等が発生する虞があった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ギヤボックス本体
内の圧力上昇を防止して、ギヤボックスからのグリースの流出を防止し、ギヤの摩耗や焼付き等を防止して、長期間に亘って安定して使用することができるギヤボックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 駆動源に接続される駆動軸によって回転される主動ギヤと、該主動ギヤと噛合する従動ギヤと、前記主動ギヤ及び前記従動ギヤとを収容するボックス本体と、該ボックス本体に対して前記主動ギヤを支持する第1転がり軸受と、前記ボックス本体に対して前記従動ギヤで回転する出力軸の両端を支持する第2及び第3転がり軸受と、を備えるギヤボックスであって、
前記第1転がり軸受は、シール無しの開放型軸受であることを特徴とするギヤボックス。
(2) 前記第1転がり軸受は、少なくとも3つの転動体を備え、隣接する該転動体間にはエア抜き用の空間が設けられることを特徴とする(1)に記載のギヤボックス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のギヤボックスによれば、ボックス本体に対して主動ギヤを支持する第1転がり軸受は、シール無しの開放型軸受であるので、ボックス本体内で発熱が発生した場合であってもボックス本体内の圧力上昇が防止され、ギヤボックスからのグリースの流出を抑え、ギヤの摩耗や焼付き等を防止して、長期間に亘って安定して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るギヤボックスを刈払機に適用した一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の刈払機10は、パイプ状の操作杆20の内部に配置された駆動軸21(図2参照。)が、操作杆20の端部に配設された駆動源である2サイクルガソリンエンジン22によって駆動されて回転する。駆動軸21の回転は、ギヤボックス23を介して切刃24に伝達される。操作杆20には操作杆20と直交するように操作ハンドル25が配設され、また、切刃24の近傍には保護カバー26が固定されて、切刃24との不用意な接触による怪我を防止している。
【0012】
図2に示すように、ギヤボックス23を構成するボックス本体30は、略有底円筒状の第2筒部32と、第2筒部32の側面に斜め上方へ連続して一体に形成される第1筒部31と、からなる。第1筒部31には、内部に駆動軸21が回転自在に配設された操作杆20が嵌合する。また、駆動軸21に固定された主動ベベルギヤ(主動ギヤ)34は、外輪33aが第1筒部31に内嵌する第1転がり軸受33により回転自在に支持されている。
【0013】
第2筒部32には、上部に第2転がり軸受35の外輪35aが、下部に第3転がり軸受36の外輪36aが内嵌されており、出力軸38の両端が第2転がり軸受35及び第3転がり軸受36によって第2筒部32に回転自在に支持されている。出力軸38には、第2転がり軸受35と第3転がり軸受36の間に配置されて、主動ベベルギヤ34と噛合する従動ベベルギヤ(従動ギヤ)37が固定されている。第3転がり軸受36から下方に突出する出力軸38の一端には、取付具41、42に挟持された切刃24がボルト43によって固定されている。
【0014】
ボックス本体30と第1、第2、及び第3転がり軸受33,35,36とによって囲まれる空間容積S内には、潤滑剤であるグリースが封入される。ここで、第3転がり軸受36は、両側接触ゴムシール付き密封玉軸受を使用する一方、第1及び第2転がり軸受33、35は、シール無しの開放型軸受を使用することから、第1及び第2転がり軸受33、35は、ベベルギヤ34,37を潤滑するグリースによって潤滑される。
【0015】
刈払機10は、2サイクルガソリンエンジン22を始動して駆動軸21を回転させると、該回転が、主動ベベルギヤ34及び従動ベベルギヤ37を介して出力軸38に伝達されて切刃24を回転する。この際、ボックス本体30の空間容積S内に封入されているグリースは、主動ベベルギヤ34、従動ベベルギヤ37、第1、第2、及び第3転がり軸受33,35,36を潤滑する。
【0016】
また、主動ベベルギヤ34、従動ベベルギヤ37の発熱やグリースの攪拌等によってギヤボックス本体30内で発熱が発生し、ギヤボックス本体30内の圧力が上昇しようとするが、開放型の第1転がり軸受33から操作杆20を介して外部にエアが抜かれることで、ギヤボックス本体30内の圧力上昇が防止される。これにより、従来のようなギヤボックス本体30内の圧力上昇によって、グリースが外部に一度に流出するような現象を防止することができる。
【0017】
また、図2に示すように、第1転がり軸受33の転動体33cの数を少なくとも3つとして極力少なくすることで、エアが通過できる断面積、即ち、転動体33cの最大断面位置において、外輪33aと内輪33bとの間の断面積から転動体33cと保持器33dの断面積を引いたスペースを大きくすることができる。
【0018】
従って、本実施形態のギヤボックス23によれば、ボックス本体30に対して主動ベベルギヤ34を支持する第1転がり軸受33は、シール無しの開放型軸受としたので、ギヤボックス本体30内で発熱が発生した場合であってもギヤボックス本体30内の圧力上昇が防止され、ギヤボックス本体30からのグリースの流出を抑え、グリースがベベルギヤ34,37に十分に供給できてベベルギヤ34,37の摩耗や焼付き等を防止して、長期間に亘って安定して使用することができる。
【0019】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
上記実施形態では、第1転がり軸受は深溝玉軸受としたが、これに限定されるものでなく、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受のいずれであってもよい。
例えば、上記実施形態において、本発明のギヤボックスは刈払機に適用されたものとして説明したが、これに限定されるものではなく、芝刈り機、電動工具、コンクリートドリル等、出力軸が縦方向に配置されるギヤボックスに適用することができ、同様の効果を奏する。
また、本発明の主動及び従動ギヤは、本実施形態の主動及び従動ベベルギヤに限定されず、他のギヤ構成であってもよい。さらに、第2転がり軸受35は、両側ゴムシール付密封玉軸受であってもよい。
【0020】
(評価試験)
本発明の効果を確認するため、上記実施形態と同様の効果が得られる、図4に示すようなギヤボックス23´が組み込まれた刈払機を用いて評価試験を行った。なお、このギヤボックス23´は、第1転がり軸受を開放型軸受としてギヤボックス内のエアを抜く代わりに、ギヤボックス本体30の上部に直径1mmの穴50を設けてエア抜きを可能とした。このため、第1転がり軸受107は、従来と同じく両側接触ゴムシール付軸受とし、その他の構成は、上記実施形態のものと同一とする。
【0021】
なお、第3転がり軸受36は、外径32mm、内径12mm、幅10mmで、空気穴のない接触ゴムシールが両面に装着されたシール付き密封玉軸受であり、軸受内部には、リチウム石鹸を増ちょう剤とした鉱油系グリース(昭和シェル石油(株)製シェルアルバニ
ヤグリースS2)を約0.35g封入した。
【0022】
評価試験は、この図4に示すギヤボックス50が組み込まれた刈払機(実施例)と、図6に示す従来のギヤボックスが組み込まれた刈払機(比較例)とを用いて行なわれた。
【0023】
また、実施例及び比較例ともに、図5に示すように、刈払機10を山形鋼93及びエキスパンドメタル94で製作されたケージ95内にナイロン製紐96で固定し、2サイクルガソリンエンジン22で切刃24を連続回転させた。いずれの試験も、雰囲気温度は室温であり、切刃24を回転数8000min−1で最大30時間連続回転させた後、ギヤボックスから漏れ出したグリースの重量を測定すると共に、グリースの着色の有無を目視して評価した。
【0024】
ギヤボックスのギヤ潤滑には、デュプレツクスEP No.2(協同油脂(株)製)を
用い、実施例1では、ギヤボックスの静的空間容積に対して100%(13.5g)を、比較例1では、空間容積比で約80%(10.8g)を、比較例2では、空間容積比で約50%(6.8g)をギヤボックスに封入した。試験結果を比較例の試験結果と共に表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、実施例1では、30時間の試験後におけるグリース漏れが無く、また、グリースの変色も認められなかった。一方、比較例1,2の試験では、グリース充填量が実施例1より少ないにも拘わらず、運転時間12時間及び15時間において、4g以上のグリース漏れ量があり、またグリースの変色も認められた。従って、ギヤボックス内のエアを抜くことで、グリース漏れが無く、グリースの長寿命化が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のギヤボックスを適用した刈払機の全体斜視図である。
【図2】図1における一実施形態のギヤボックスの縦断面図である。
【図3】図2における第1転がり軸受の断面図である。
【図4】本発明の効果を確認するための試験用ギヤボックスの縦断面図である。
【図5】刈払機の試験装置の概略構成図である。
【図6】従来のギヤボックスを有する刈払機の縦断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 刈払機
21 駆動軸
22 2サイクルガソリンエンジン(駆動源)
23 ギヤボックス
30 ボックス本体
31 第1筒部
32 第2筒部
33 第1転がり軸受
34 主動ベベルギヤ
35 第2転がり軸受
36 第3転がり軸受
37 従動ベベルギヤ
38 出力軸
S 空間容積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続される駆動軸によって回転される主動ギヤと、該主動ギヤと噛合する従動ギヤと、前記主動ギヤ及び前記従動ギヤとを収容するボックス本体と、該ボックス本体に対して前記主動ギヤを支持する第1転がり軸受と、前記ボックス本体に対して前記従動ギヤで回転する出力軸の両端を支持する第2及び第3転がり軸受と、を備えるギヤボックスであって、
前記第1転がり軸受は、シール無しの開放型軸受であることを特徴とするギヤボックス。
【請求項2】
前記第1転がり軸受は、少なくとも3つの転動体を備え、隣接する該転動体間にはエア抜き用の空間が設けられることを特徴とする請求項1に記載のギヤボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−190693(P2008−190693A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28284(P2007−28284)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】