説明

ケースの製造方法、及びケース

【課題】各織物25の幅を大きくしなくても、ファンケース1の強度低下を抑えつつ、軸長の長いファンケース1を製造すること。
【解決手段】(N+2)種類の組み合わせの複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に順次巻付けることにより、軸方向の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目Jを有しかつファンケース1の最終形状と同形状の成形体1Fを成形すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維とエポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂との複合材料からなるケースを製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新素材に関する研究開発の活発化に伴い、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料(FRP)が軽量で高強度を有する素材として注目されており、航空機エンジンのファンケースの構成材料に複合材料を適用する研究開発がなされている。そして、複合材料からなるファンケースを製造する方法の先行技術として特許文献1に示すものがあり、先行技術に係るケースの製造方法の内容は、次のようになる。
【0003】
即ち、外周側にファンケースの最終形状に対応する形状の成形面を有したマンドレルを用い、マンドレルを軸心周りに回転させつつ、ファンケースの軸長に対応する幅を有した織物をマンドレルへ供給することにより、織物をマンドレルの成形面側に巻付けて、ファンケースの最終形状と同形状の成形体を成形する。そして、成形体を加熱することにより、成形体に予め含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、複合材料からなるファンケースを製造することができる。なお、ファンケースの製造後に、ファンケースをマンドレルから取り外しておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0098337号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、製造対象であるファンケースの軸長が増加すると、それに伴い、マンドレルが大型化するのみならず、1つの織物の幅も大きくなる。そのため、織物を製作する織り機も大型化して、大規模な設備投資が必要になり、ファンケースの製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のケースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料からなる筒状のケースを製造する方法において、外周側に前記ケースの最終形状に対応する形状の成形面を有したマンドレルを用い、前記マンドレルを軸心周りに回転させつつ、強化繊維(強化繊維の繊維帯)からなりかつ総幅が前記ケースの軸長に対応する複数の織物を前記マンドレルへ供給することにより、前記複数の織物の継ぎ目を形成しつつ、前記複数の織物を前記マンドレルの成形面側に巻付ける初回織物巻付工程と、前記初回織物巻付工程の終了後に、前記マンドレルを軸心周りに回転させつつ、強化繊維からなりかつ総幅が前記ケースの軸長に対応しかつ巻付け済みの前記複数の織物と異なる組み合わせの別の複数の織物を前記マンドレルへ供給することにより、前記別の複数の織物の継ぎ目を巻付け済の前記複数の織物の継ぎ目の位置とずらしながら形成しつつ、前記別の複数の織物を前記マンドレルの成形面側に巻付ける織物巻付工程(換言すれば、以後織物巻付工程)と、前記織物巻付工程の終了後に、前記織物巻付工程をN回繰り返すことにより、軸方向の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目を有しかつ前記ケースの最終形状と同形状の成形体を成形する繰り返し工程と、前記繰り返し工程の終了後に、前記成形体を加熱することにより、前記成形体に予め含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程と、を具備したことを要旨とする。
【0008】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、前記ケースとは、航空機エンジンのファンケースだけでなく、複合材料からなる種々の筒状のケースを含む意である。また、前記ケースの軸長に対応する総幅とは、前記複数の織物の幅の総和であって、前記ケースと同じ軸長の前記成形体を成形するための総幅のことをいい、Nは、1以上の整数である。
【0009】
本発明の特徴によると、前述のように、(N+2)種類の組み合わせの前記複数の織物を前記マンドレルの成形面側に順次巻付けることにより、軸方向の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目を有しかつ前記ケースの最終形状と同形状の前記成形体を成形することができる。これにより、各織物の幅を大きくしなくても、前記ケースの強度低下を抑えつつ、軸長の長い前記ケースを製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各織物の幅を大きくしなくても、前記ケースの強度低下を抑えつつ、軸長の長い前記ケースを製造できるため、前記ケースの軸長の増加に伴って織り機を大型化する必要がなくなり、設備投資を最小限に抑えて、前記ケースの製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るケースの製造方法における初回織物巻付工程を説明する模式的な斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るケースの製造方法における織物巻付工程を説明する模式的な斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るケースの製造方法における繰り返し工程の終了後における成形体を示す模式的な斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るケースの製造方法におけるロービング工程を説明する模式的な斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係るケースの製造方法の実施に用いられるマンドレル回転装置、織物供給装置、及びロービング供給装置を説明する模式的な斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係るケースの製造方法におけるマンドレル及びマンドレル回転装置を説明する模式的な断面図である。
【図7】航空機エンジンの模式的な断面図である。
【図8】本発明の実施形態の変形例に係るファンケースの部分断面図である。
【図9】衝撃試験の内容を示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について図1から図7を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向、「L」は、左方向、「R」は、右方向をそれぞれ指してある。
【0013】
まず、本発明の実施形態に係るケースの製造方法の製造対象であるファンケースについて簡単に説明する。
【0014】
図7に示すように、本発明の実施形態に係るケースの製造方法の製造対象である筒状のファンケース1は、航空機エンジン3に用いられ、航空機エンジン3における複数のファンブレード5を覆うものである。また、ファンケース1は、炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維とエポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂との複合材料からなるものであって、軸方向(ファンケース1の軸方向)に沿って外径が大きく変化するようになっている。
【0015】
続いて、本発明の実施形態に係るケースの製造方法の実施に用いられる装置等について説明する。
【0016】
図6に示すように、本発明の実施形態に係るマンドレル7は、筒状のマンドレル本体9、及びマンドレル本体9の端部に着脱可能に設けられたエンド型11を備えている。また、マンドレル7は、外周側に、ファンケース1の最終形状に対応する成形面Sを有している。
【0017】
図5及び図6に示すように、適宜位置には、マンドレル7を回転させるマンドレル回転装置13が配設されており、マンドレル回転装置13の具体的な構成は、次のようになる。
【0018】
即ち、適宜位置には、一対の側板15が左右に対向して設けられており、一対の側板15には、左右方向へ延びた回転軸17が回転可能に設けられており、この回転軸17は、マンドレル7を一体的にセット可能である。また、左寄り側板15には、回転軸17を軸心周りに回転させる回転モータ19が設けられており、この回転モータ19の出力軸には、主動ギア21が一体的に設けられてあって、回転軸17の左端部(一端部)には、この主動ギア21に噛合可能な従動ギア23が一体的に設けられている。ここで、例えば一対の側板15の上側部分を上下方向へ開閉可能又は切離可能にしたり、一対の側板15にその他適宜の構成を付加したりすることによって、回転軸17は一対の側板15に対して着脱できるようになっている。
【0019】
マンドレル回転装置13の前方には、複数(本発明の実施形態にあっては、2つ)の織物25をマンドレル7へ供給する織物供給装置27が設けられており、この織物供給装置27の具体的な構成は、次のようになる。
【0020】
即ち、マンドレル回転装置13の前方左部には、第1フロントフレーム29が配設されており、この第1フロントフレーム29の上部には、一対の第1ボビン支持部材31が左右に対向して設けられており、右寄りの第1ボビン支持部材31は、左右方向へ位置調節可能になっている。また、一対の第1ボビン支持部材31の間には、織物25を巻いたボビン33が回転自在に支持されている。ここで、例えば一対の第1ボビン支持部材31の上側部分を上下方向へ開閉可能又は切離可能にしたり、一対の第1ボビン支持部材31にその他適宜の構成を付加したりすることによって、ボビン33は一対の第1ボビン支持部材31に対して着脱できるようになっている。
【0021】
マンドレル回転装置13の前方右部には、第2フロントフレーム35が配設されており、この第2フロントフレーム35の上部には、一対の第2ボビン支持部材37が左右に対向して設けられており、左寄りの第2ボビン支持部材37は、左右方向へ位置調節可能になっている。また、一対の第2ボビン支持部材37の間には、織物25を巻いたボビン33が回転自在に支持されている。ここで、例えば一対の第2ボビン支持部材37の上側部分を上下方向へ開閉可能又は切離可能にしたり、一対の第2ボビン支持部材37にその他適宜の構成を付加したりすることによって、ボビン33は一対の第2ボビン支持部材37に対して着脱できるようになっている。
【0022】
ここで 、複数の織物25は、炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維(強化繊維の繊維帯)からなるノンクリンプ構造であって、複数の織物25の総幅は、ファンケース1の軸長に対応する幅を有している。なお、織物25の形態は、ノンクリンプ構造に限られるものでなく、平織り構造、綾織り構造等であっても構わない。
【0023】
マンドレル回転装置13の後方には、炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維のロービング(繊維束)47をマンドレル7へ供給するロービング供給装置41が設けられており、このロービング供給装置41の具体的な構成は、次のようになる。
【0024】
即ち、マンドレル回転装置13の後方には、リアフレーム43が配設されており、このリアフレーム43の上部には、左右方向へ延びた一対のガイドレール45が設けられている。また、一対のガイドレール45には、ロービング39の供給位置を可変する供給ヘッド47が左右方向へ移動可能に設けられており、この供給ヘッド47は、左右移動モータ等の左右移動アクチュエータ(図示省略)の駆動によって左右方向へ移動するものである。
【0025】
続いて、本発明の実施形態に係るケースの製造方法について説明する。
【0026】
本発明の実施形態に係るケースの製造方法は、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料からなる筒状のファンケース1を製造する方法であって、初回織物巻付工程、織物巻付工程(換言すれば、以後織物巻付工程)、繰り返し工程、ロービング工程、及び加熱工程を具備している。そして、各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0027】
初回織物巻付工程
図1に示すように、外周側にファンケース1の最終形状に対応する形状の成形面Sを有したマンドレル7を用い、回転モータ19の駆動によりマンドレル7を軸心周りに回転軸17と一体的に回転させつつ、マンドレル7の回転に連動して複数のボビン33を回転させて、複数の織物25をマンドレル7へ供給する。これにより、複数の織物25の継ぎ目Jを形成しつつ、複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に巻付けることができる。ここで、初回織物巻付工程においてマンドレル7の成形面S側に巻付ける複数の織物25には、予めエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸されている。また、複数の織物25の継ぎ目Jは、複数の織物25の端部がオーバラップしてもしなくても構わない。
【0028】
なお、複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に同時に巻付ける代わりに、複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に個別に巻付けても構わなく、複数の織物25の巻層数は、単数又は複数を問わない。
【0029】
織物巻付工程
初回織物巻付工程の終了後に、図2に示すように、複数のボビン33を一対の第1ボビン支持部材31及び一対の第2ボビン支持部材37からそれぞれ離脱させる。次に、巻付済みの複数の織物25と異なる組み合わせの別の複数の織物25を巻いた別の複数のボビン33を一対の第1ボビン支持部材31及び一対の第2ボビン支持部材37に装着する。そして、回転モータ19の駆動によりマンドレル7を軸心周りに回転軸17と一体的に回転させつつ、マンドレル7の回転に連動して別の複数のボビン33を回転させて、異なる組み合わせの別の複数の織物25をマンドレル7へ供給する。これにより、別の複数の織物25の継ぎ目Jを巻付け済の複数の織物25の継ぎ目Jの位置とずらしながら形成しつつ、別の複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に同時に巻付けることができる。ここで、織物巻付工程においてマンドレル7の成形面S側に巻付ける複数の織物25には、予めエポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸されている。
【0030】
なお、別の複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に同時に巻付ける代わりに、複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に個別に巻付けても構わなく、別の複数の織物25の巻層数は、単数又は複数を問わない。
【0031】
繰り返し工程
織物巻付工程の終了後に、織物巻付工程をN回繰り返すことにより、図3に示すように、ファンケース1の最終形状と同形状の成形体を成形することができる。ここで、成形体1Fは、軸方向(成形体の軸方向)の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目Jを有している。
【0032】
ロービング工程
初回織物巻付工程の開始前、初回織物巻付工程の開始後であって織物巻付工程の開始前、繰り返し工程の途中、又は繰り返し工程の後に、図4に示すように、回転モータ19の駆動によりマンドレル7を軸心周りに回転軸17と一体的に回転させつつ、左右移動アクチュエータの駆動により供給ヘッド47を左右方向させて、強化繊維のロービング39をマンドレル7の軸方向(左右方向)へ移動させながらマンドレル7へ供給する。これにより、ロービング39をマンドレル7の成形面S側に螺旋状に巻付けることができる。ここで、ロービング工程においてマンドレル7の成形面S側に巻付けるロービング39には、予めエポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸されている。
【0033】
なお、ロービング39の巻層数は、単数又は複数を問わない。
【0034】
加熱工程
繰り返し工程及びロービング工程の終了後に、回転軸17を一対の側板15から離脱させて、マンドレル7を回転軸17から取り外す。次に、マンドレル7を成形体1Fと共に加熱炉(図示省略)の所定位置にセットする。そして、加熱炉のヒータ(図示省略)によって成形体1Fを熱硬化性樹脂の所定の硬化温度まで加熱する。これにより、成形体に予め含浸させた熱硬化型樹脂を硬化させることができる。
【0035】
以上により、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料からなるファンケース1を製造することができる。そして、ファンケース1の製造後に、マンドレル本体9からエンド型11を離脱させて、ファンケース1をマンドレル本体9から取り外しておく。ここで、ファンケース1の全ての層の中で、ファンケース1におけるファンブレード5との対向領域1aに複数の織物25の継ぎ目Jが存在する層の割合は、66%以下(好ましくは、21%以下)になっている。
【0036】
なお、前述のように、マンドレル7の成形面S側に巻付ける複数の織物25及びロービング39に予め熱硬化性樹脂が含浸させる代わりに、繰り返し工程及びロービング工程の終了後であって加熱工程の開始前に、溶融状態の熱硬化性樹脂を注入によって成形体1Fに含浸させる含浸工程を具備するようにしても構わない。
【0037】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
前述のように、(N+2)種類の組み合わせの複数の織物25をマンドレル7の成形面S側に順次巻付けることにより、軸方向の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目Jを有しかつファンケース1の最終形状と同形状の成形体1Fを成形することができる。これにより、各織物25の幅を大きくしなくても、ファンケース1の強度低下を抑えつつ、軸長の長いファンケース1を製造することができる。
【0039】
従って、本発明の実施形態によれば、ファンケース1の軸長の増加に伴って織り機を大型化する必要がなくなり、設備投資を最小限に抑えて、ファンケース1の製造コストの低減を図ることができる。特に、ファンケース1の全ての層の中で対向領域1aに複数の織物25の継ぎ目Jが存在する層の割合が66%以下になっているため、ファンケース1の強度低下を十分に抑えて、高い耐衝撃性を発揮させることができる(後述の実施例参照)。
【0040】
本発明の実施形態の変形例について図8を参照して説明する。
【0041】
図8に示すように、本発明の実施形態の変形例に係るファンケース49は、本発明の実施形態に係るケースの製造方法によって製造されたファンケース1と同じものであるが、別の方面からファンケース49を特定している。
【0042】
即ち、ファンケース49は、ファンケース1と同様に、炭素繊維,アラミド繊維,又はガラス繊維等の強化繊維とエポキシ樹脂,フェノール樹脂,又はポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂との複合材料からなるものであって、軸方向(ファンケース49の軸方向)に沿って外径が大きく変化するようになっている。そして、ファンケース49は、強化繊維からなりかつ総幅が同じであってかつ組み合わせの異なる(N+2)種類の複数の織物25(図1及び図2参照)を用いて構成されている。また、ファンケース49は、織物25を含む(N+2)種類の織物層51、及びロービング39(図4参照)含む複数のロービング層53を備えており、(N+2)種類の織物層51は、軸方向の位置の異なる(N+2)種類の繋ぎ目Jを有している。なお、各織物層51は、単層構造又は複層構造のいずれであっても構わない。
【0043】
従って、ファンケース1Aが(N+2)種類の織物層51を備えており、(N+2)種類の織物層51が軸方向の位置の異なる(N+2)種類の繋ぎ目Jを有しているため、各織物25の幅を大きくしなくても、ファンケース49の強度低下を抑えつつ、軸長の長いファンケース49を製造することができる。よって、本発明の実施形態の変形例によれば、本発明の実施形態の効果と同様の効果を奏するものである。
【0044】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、適宜の変更を行うことにより、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0045】
図9に示すように、ファンケース1を模擬した試験品55の全て層の中で、ファンケース1の対向領域1a(図7参照)の相当領域に複数の織物25の継ぎ目J(図3参照)が存在する層の割合を変化させつつ、試験品55の周囲をクランプ57によって固定して、鋼製の弾丸59を試験品55の対向領域1aに打ち込むことにより、試験品55について衝撃試験を行う。そして、試験品55に衝突する前における弾丸59の運動エネルギー(Ein=(1/2)m(Vin)2)、試験品55に衝突した後における弾丸59の運動エネルギー(Eout=(1/2)m(Vout)2)、及び試験品55への衝突による吸収エネルギー(Eab=Ein−Eout)を算出する。ここで、弾丸59の質量:m、試験品55に衝突する前における弾丸59の速度:Vin、試験品55に衝突した後における弾丸59の速度:Voutである。なお、複数の織物25の継ぎ目Jない比較品(図示省略)についても、同様の衝撃試験を行った。
【0046】
そして、前述の衝撃試験の結果によると、試験品55の全て層の中で相当領域に複数の織物25の継ぎ目Jが存在する層の割合が21%の場合において、試験品55への衝突による吸収エネルギーは、比較品への衝突による吸収エネルギーの96%になることが確認された。また、試験品55の全て層の中で相当領域に複数の織物25の継ぎ目Jが存在する層の割合を66%まで増加させた場合においても、試験品55への衝突による吸収エネルギーは、比較品への衝突による吸収エネルギーの84%を確保できることが確認された。よって、試験品55の全ての層の中で相当領域に複数の織物25の継ぎ目Jが存在する層の割合が66%以下であれば、高い耐衝撃性を確保できることが判明した。
【符号の説明】
【0047】
J 継ぎ目
S 成形面
1 ファンケース
1F 成形体
1a 対向領域
3 航空機エンジン
5 ファンブレード
7 マンドレル
9 マンドレル本体
11 エンド型
13 マンドレル回転装置
15 側板
17 回転軸
19 回転モータ
21 主動ギア
23 従動ギア
25 織物
27 織物供給装置
29 第1フロントフレーム
31 第1ボビン支持部材
33 ボビン
35 第2フロントフレーム
37 第2ボビン支持部材
39 ロービング
41 ロービング供給装置
43 リアフレーム
47 供給ヘッド
49 ファンケース
51 織物層
53 ロービング層
55 試験品
57 クランプ
59 弾丸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料からなる筒状のケースを製造する方法において、
外周側に前記ケースの最終形状に対応する形状の成形面を有したマンドレルを用い、前記マンドレルを軸心周りに回転させつつ、強化繊維からなりかつ総幅が前記ケースの軸長に対応する複数の織物を前記マンドレルへ供給することにより、前記複数の織物の継ぎ目を形成しつつ、前記複数の織物を前記マンドレルの成形面側に巻付ける初回織物巻付工程と、
前記初回織物巻付工程の終了後に、前記マンドレルを軸心周りに回転させつつ、強化繊維からなりかつ総幅が前記ケースの軸長に対応しかつ巻付け済みの前記複数の織物と異なる組み合わせの別の複数の織物を前記マンドレルへ供給することにより、前記別の複数の織物の継ぎ目を巻付け済の前記複数の織物の継ぎ目の位置とずらしながら形成しつつ、前記別の複数の織物を前記マンドレルの成形面側に巻付ける織物巻付工程と、
前記織物巻付工程の終了後に、前記織物巻付工程をN回繰り返すことにより、軸方向の位置が異なる(N+2)種類の継ぎ目を有しかつ前記ケースの最終形状と同形状の成形体を成形する繰り返し工程と、
前記繰り返し工程の終了後に、前記成形体を加熱することにより、前記成形体に予め含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程と、を具備したことを特徴とするケースの製造方法。
【請求項2】
前記初回織物巻付工程の開始前、前記初回織物巻付工程の終了後であって前記織物巻付工程の開始前、前記繰り返し工程の途中、又は前記繰り返し工程の終了後に、前記マンドレルを軸心周りに回転させつつ、強化繊維のロービングを前記マンドレルの軸方向へ前記マンドレルに対して相対的に移動させながら前記マンドレルへ供給することにより、前記ロービングを前記マンドレルの成形面側に螺旋状に巻付けるロービング巻付工程と、を具備したことを特徴とする請求項1に記載のケースの製造方法。
【請求項3】
前記マンドレルの成形面側に巻付ける前記織物には、予め熱硬化性樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項1に記載のケースの製造方法。
【請求項4】
前記マンドレルの成形面側に巻付ける前記織物及び前記ロービングには、予め熱硬化性樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項2に記載のケースの製造方法。
【請求項5】
前記繰り返し工程の終了後であって前記加熱工程の開始前に、溶融状態の熱硬化性樹脂を注入によって前記成形体内に含浸させる含浸工程と、を具備したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケースの製造方法。
【請求項6】
前記織物は、ノンクリンプ構造であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載のケースの製造方法。
【請求項7】
前記ケースは、航空機エンジンのファンケースであることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれかの請求項に記載のケースの製造方法。
【請求項8】
前記ファンケースの全ての層の中で、前記ファンケースにおける前記航空機エンジンのファンブレードとの対向領域に前記複数の織物の前記継ぎ目が存在する層の割合は、66%以下になっていることを特徴とする請求項7に記載のケースの製造方法。
【請求項9】
強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料からなる筒状のケースにおいて、
強化繊維からなりかつ総幅が同じであってかつ組み合わせの異なる(N+2)種類の複数の織物を用いて構成され、前記織物を含む(N+2)種類の織物層を備えてあって、前記(N+2)種類の織物層は軸方向の位置の異なる(N+2)種類の繋ぎ目を有していることを特徴とするケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−98523(P2011−98523A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255303(P2009−255303)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、財団法人日本航空機エンジン協会委託研究「平成20年度エネルギー使用合理化技術開発等(次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開発)作業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】