説明

シートベルトアンカーのロック装置

【課題】車両の衝突時等に想定しうる様々な方向の外力が作用した場合でも簡易な構造で確実にロックできるシートベルトアンカーのロック装置を提供する。
【解決手段】シートベルトアンカー10に、回動により開閉自由なエンジンカバー6を挟んで前端部8aを連結したアーム部材8と、前記アーム部材8の後端部に車幅方向両側に突出して設けられる突出部18と、前記エンジンカバー6の後方に位置する高強度車体部材4に固定され、前記アーム部材8後端部の両側にそれぞれ間隙を有し、かつ、前記突出部18の両端より車幅方向内側に位置する一対の側壁26を有したフック部材20と、前記フック部材20の一対の側壁26に、常時は、前記エンジンカバー6の開閉動作を許容するように前記突出部18と非係合状態であり、前記シートベルトアンカー10が過大な外力を受けて前記高強度車体部材4に対し車両前方に相対移動したときに、前記アーム部材8後端部から両側に突出する突出部18に、それぞれ係合するように形成された係合溝26aと、を備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時等にシートベルトアンカーをロックして乗員を守るためのロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンが車室の座席下方に位置するキャブオーバー型車両では、シートベルトアンカーを車室後部の高強度部材に直接結合させたいが、座席位置の関係から、比較的強度の小さいエンジンカバーとの連結を介して、高強度部材側にロックされるようにロック機構を設ける必要があり、また、常時はエンジンカバーの開閉を許容し、車両の衝突時等のみロックする構成が要求される。
【0003】
特許文献1には、上記シートベルトアンカーのロック装置として、板状のフック部材がループ部材のループ内に係合する構成が開示されている。しかしながら特許文献1に開示の構成では、直進に近い車両前方(上方成分を含む)のみの移動に対しては係合するが、衝突等の形態ないし、乗員の反応によって、車幅方向に大きく傾斜して外力が作用することがあり、このような場合にはフック部材がループ部材と係合せず、あるいは一旦係合してもまた外れてしまい、ロック機能が十分に得られないことがあった。
【特許文献1】実開平6−1038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の衝突時等に想定しうる様々な方向の外力が作用した場合でも簡易な構造で確実にロックできるシートベルトアンカーのロック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、シートベルトアンカーに、回動により開閉自由なエンジンカバーを挟んで前端部を連結したアーム部材と、前記アーム部材の後端部に車幅方向両側に突出して設けられる突出部と、前記エンジンカバーの後方に位置する高強度車体部材に固定され、前記アーム部材後端部の両側にそれぞれ間隙を有し、かつ、前記突出部の両端より車幅方向内側に位置する一対の側壁を有したフック部材と、前記フック部材の一対の側壁に、常時は、前記エンジンカバーの開閉動作を許容するように前記突出部と非係合状態であり、前記シートベルトアンカーが過大な外力を受けて前記高強度車体部材に対し車両前方に相対移動したときに、前記アーム部材後端部から両側に突出する突出部に、それぞれ係合するように形成された係合溝と、を備えて構成した。
【発明の効果】
【0006】
かかる構成によれば、車両の衝突等にともない、シートベルトアンカーに、車幅方向成分を含んで斜め前方に過大な外力が加わった場合、まず、エンジンカバーが変形ないし破壊され、アーム部材の前端部が後方の高強度部材に対し、外力を受けた方向に相対移動する。
そして、突出部のアーム部材後端部から左(右)へ突出した部分と、左(右)の係合溝と、が係合し、その後、瞬時に、ロッドのアーム部材後端部から右(左)へ突出した部分と、右(左)の係合溝と、が係合する。
【0007】
これにより、シートベルトアンカーが車幅方向の荷重を受ける衝突等であっても、衝突等の後瞬時に、ロッドと左右の係合溝とが確実に係合され、アーム部材とフック部材とが強固にロックされ、以て、シートベルトアンカーを高強度部材に確実にロックできるので、乗員をシートベルトで保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態はキャブオーバー型トラックのキャブに適用した形態であり、図1には、本実施形態の縦断面図を示す。図1おいて、車室1の背部のリアクロスメンバー2には、ボルト3とナット3aとにより、フロアパネル4が固定されている。フロアパネル4には、エンジン(図示せず)を点検できるように、エンジンカバー6が、その車両前後方向後端部に設けられたヒンジ7を中心として矢印Aに示すように回動自由に取り付けられている。リアクロスメンバー2およびフロアパネル4は、夫々、補強材のレインフォース2a,4aを含んで構成され、エンジンカバー6に比べて高強度である。
【0009】
そして、エンジンカバー6の下面には、車両前後方向に延びたアーム部材8のフランジ部(前端部)8aが固定されている。アーム部材8は、板材を加工して形成され、該板材の肉厚が車幅方向となるように取り付けられると共に、フランジ部(前端部)8aは、エンジンカバー6と平行となるように前記板材を屈曲することで容易に形成される。
また、エンジンカバー6の該フランジ部8aが取り付けられた箇所に対向する上面には、シートベルト9と連結したシートベルトアンカー10が、エンジンカバー6とフランジ部8aとに一体に固定されている。なお、該一体固定では、車両上方から、シートベルトアンカー10と、エンジンカバー6と、フランジ部8a(ボルト孔8c)と、を貫通させて、ボルト12をナット14に対して締結しているが、該締結に代えて溶接で固定してもよい。
【0010】
アーム部材8の自由端となる後端部からは、丸棒状のロッド18が略T字状に車幅方向両側に突出し、突出部を構成している。ここで、アーム部材8の後端部を車幅方向両側に貫通して設けた孔8bにロッド18を貫通させ、該孔8b周縁部で溶接によりアーム部材8とロッド18とを結合することにより、アーム部材8後端部の車幅方向両側に等長ずつ突出させればよい。ロッド18は、鍛造または鋳造によって形成することで、十分な強度を得ることができる。
【0011】
図2は、フック部材20の斜視図を示し、図3には、アーム部材8とフック部材20とがロックされた状態の斜視図を示す。
フック部材20は、図2に示すように、車幅方向に対向して該対向間隔が車両後方へ向けて末広がるように配置された一対の平板状の側壁26と、一対の側壁26の前端縁相互を連結する平板状の前端壁24と、を有している。そして、前端壁24および側壁26夫々の上端縁は、例えば溶接によりフロアパネル4下面(レインフォース4a)に固定され、以てフック部材20は高強度のフロアパネル4に固定されている。
【0012】
また、一対の側壁26間には、アーム部材8後端部の両側にそれぞれ間隙が形成されている。なお、フック部材20は、フロアパネル4に固定する構成に代えて、可能であればリアクロスメンバー2に固定する構成としてもよい。
一対の側壁26には、これらの下端縁後方部分の一部を切り欠いて、ロッド18を受け入れて係合させる鉤状の係合溝26aが、夫々同一形状,位置に設けられている。
【0013】
また、前端壁24の下端縁の一部は略半円状に切り欠かれ、これにより、アーム部材8後端部付近のロッド18より車両前方部分を通すガイド孔24aが形成されている。
なお、ロッド18は、車両衝突時等にのみ係合溝26aと係合するものであり、常時(車両衝突時等以外)は係合溝26aの車両後方に位置し、係合溝26aと係合していない。そして、エンジン点検のため、エンジンカバー6を、ヒンジ7を中心として回動させると、ロッド18は、係合溝26aと係合しないよう、ヒンジ7を中心として係合溝26aより外方の軌跡を移動する。
【0014】
次に、本実施形態の作用を説明する。
まず、基本的な作用を説明すると、車両の衝突等により、シートベルトアンカー10(シートベルトアンカー10の取付け点)に車両前方向(上方向を含む)の一定以上の過大な引張荷重Bが入力されると、まず、エンジンカバー6が変形し、車室1後方のリアクロスメンバー2(高強度部材)に対して車両前方へ相対移動する。
【0015】
これにより、エンジンカバー6からアーム部材8に荷重が伝達され、自由端であるアーム部材8の後端部は、矢印Cに示すように車両前方に移動する。そして、アーム部材8後端部のロッド18とフック部材20の係合溝26aとが係合し、アーム部材8とフック部材20とはロック状態となり、以て、シートベルトアンカー10に入力された荷重Bは、アーム部材8からフック部材20を介して、フロアパネル4およびリアクロスメンバー2へと伝達される。
【0016】
以下、本実施形態の作用を、車両の衝突等によってシートベルトアンカー10に対し、車幅方向荷重が入力されない(シートベルトアンカー10に入力される荷重が車幅方向成分を含まない)場合と、入力される(シートベルトアンカー10に入力される荷重が車幅方向成分を含む)場合と、に分けて詳述する。なお、荷重が車幅方向成分を含む場合、荷重の方向は、おおよそ図4(a)に示す角度範囲αおよび図4(b)に示す角度範囲βに納まることを想定している。
【0017】
まず、シートベルトアンカー10に対し、車両前方向の過大な荷重は入力されるものの、車幅方向荷重が入力されない場合は、ロッド18のアーム部材8後端部から左へ突出した部分と、左の係合溝26aと、が係合すると同時に、ロッド18のアーム部材8後端部から右へ突出した部分と、右の係合溝26aと、が係合する。これにより、アーム部材8とフック部材20とはロック状態となる。
【0018】
一方、図5(a)に示す車両衝突等の前の状態から、シートベルトアンカー10に対し、車両前方向の過大な荷重のほか右方向の車幅方向荷重が入力された場合は、まず、図5(b)に示すように、ロッド18のアーム部材8後端部から左へ突出した部分(左突出部18a)と、左の係合溝26aとが係合する。
該係合により、アーム部材8には、左突出部18aの被係合部位を通って略車両上下方向に延びる軸まわりに、アーム部材8の姿勢を矯正する方向のモーメントMが作用する。これにより、左突出部18aの係合後、瞬時に、図5(c)に示すように、ロッド18のアーム部材8後端部から右へ突出した部分(右突出部18b)と、右の係合溝26aと、が係合し、アーム部材8の姿勢が、前記車幅方向荷重が入力されない場合におけるロック状態の姿勢と同じ安定した姿勢に矯正される。
【0019】
なお、上記説明では、シートベルトアンカー10に対して右方向の車幅方向荷重が入力された場合について説明したが、左方向の車幅方向荷重が入力された場合は、上記説明と左右関係を逆転させて考えればよい。
ここで、シートベルトアンカー10に対する荷重入力開始から、アーム部材8とフック部材20とのロック完了まで、アーム部材8後端部付近のロッド18より車両前方部分が、ガイド孔24aに案内されるため、アーム部材8の車幅方向への移動範囲が規制されることから、ロッド18を左右の係合溝26aと確実に係合させることができる。
【0020】
そして、該係合完了後も、上記と同様のガイド孔24aの案内作用によって、ロッド18の両端部が一対の側壁26より車幅方向外方へ突出する状態が維持されることで、該係合が解除されにくい。
また、ロッド18をフック部材20の2点(左の係合溝26aおよび右の係合溝26a)でロックするため、ロッド18のせん断面の断面係数が、従来の1点でロックする場合の2倍になり、安定状態で強いロック力をシートベルトアンカー10からリアクロスメンバー2へ伝えることができる。
【0021】
このようにして、シートベルトアンカー10に対して車幅方向荷重が入力された場合であっても、車両衝突等の後瞬時に、ロッド18と左右の係合溝26aとを確実に係合でき、アーム部材8とフック部材20とが強固にロックされる。以て、シートベルトアンカー10を、高強度のリアクロスメンバー2に確実にロックできるので、車両衝突時等に乗員を十分に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の縦断面図
【図2】本実施形態のフック部材の斜視図
【図3】本実施形態のフック部材とアーム部材とをロックさせた状態の斜視図
【図4】本実施形態のシートベルトアンカーへの入力荷重が車幅方向成分を含む場合における荷重方向の角度範囲の説明図
【図5】本実施形態のアーム部材とフック部材との係合過程を車両上方から見た図
【符号の説明】
【0023】
2 リアクロスメンバー(高強度車体部材)
4 フロアパネル(高強度車体部材)
6 エンジンカバー
8 アーム部材
8a フランジ部(アーム部材前端部)
8b 孔
10 シートベルトアンカー
12 ボルト
18 ロッド(突出部)
18a 左突出部
18b 右突出部
20 フック部材
24 前端壁
24a ガイド孔
26 側壁
26a 係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトアンカーに、回動により開閉自由なエンジンカバーを挟んで前端部を連結したアーム部材と、
前記アーム部材の後端部に車幅方向両側に突出して設けられる突出部と、
前記エンジンカバーの後方に位置する高強度車体部材に固定され、前記アーム部材後端部の両側にそれぞれ間隙を有し、かつ、前記突出部の両端より車幅方向内側に位置する一対の側壁を有したフック部材と、
前記フック部材の一対の側壁に、常時は、前記エンジンカバーの開閉動作を許容するように前記突出部と非係合状態であり、前記シートベルトアンカーが過大な外力を受けて前記高強度車体部材に対し車両前方に相対移動したときに、前記アーム部材後端部から両側に突出する突出部に、それぞれ係合するように形成された係合溝と、
を備えて構成したことを特徴とするシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項2】
前記フック部材は、前記一対の側壁の前端相互を連結する前端壁を有し、該前端壁に前記アーム部材後端部の突出部より前方部分を通しつつ該アーム部材の移動範囲を規制するガイド孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記アーム部材後端部に形成した孔に貫通し溶接によって固定した丸棒状のロッドで形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項4】
前記アーム部材は、板材を加工して形成され、該板材の肉厚が車幅方向となるように取り付けられると共に、前端部が前記板材を屈曲して形成されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項5】
前記高強度車体部材は、車室の背部に車幅方向に伸びるクロスメンバーまたは、該クロスメンバーに連結されたフロアパネルであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項6】
前記シートベルトアンカーと前記アーム部材前端部は、エンジンカバーを貫通するボルトによって締結されていることを特徴とする請求項1〜請求項5に記載のシートベルトアンカーのロック装置。
【請求項7】
前記シートベルトアンカーと前記アーム部材前端部は、エンジンカバーに溶接で固定されていることを特徴とする請求項1〜請求項5に記載のシートベルトアンカーのロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−176409(P2007−176409A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379078(P2005−379078)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)
【Fターム(参考)】